高速液体クロマトグラフィ(HPLC)およびキャピラリ電気泳動(CE)などの化学的分離技術の一目的は、化学種の混合物の種々の成分を、例えば固定相との化学親和性の相違またはゲル中での移動速度の相違にもとづいて分離することにある。分離の結果は、典型的には、分離カラムまたは分離チャネルから異なるタイミングで溶出し、UV吸収度、レーザ誘起の蛍光、または質量分析などの種々の技術によって検出される一連のピークを示すクロマトグラム(HPLC)または電気泳動図(CE)である。分離の品質は、ピークが最も鋭いときに最高であると考えられる。
化学的な選択性が、分離技術の原動力である一方で、分散が、ピークをより幅広くする重要な物理現象である。熱力学の第2法則は、アナライトの狭い帯域に位置する分子が、拡散および対流を通じて空間的に再び分散し、したがってクロマトグラフシステムを通って移動するにつれて初期の鋭いピークが次第に幅広くなることを意味する。分散を理解し、最小化することが、分離の科学者らにとって重要な関心事である。
分析の用途(準備の用途とは対照的に)のための最新の液体クロマトグラフィ分離は、典型的には、1.0〜4.6mmの間の内径および5〜15cmの間の長さのステンレス鋼管において行なわれる。これらの管またはカラムに、1.7〜3.5ミクロンの平均径の多孔質粒子が充てんされる。粒子を所定位置に保持し、流体が充てん床を通って流れるときの充てん床の緩みを防止するために、カラムの両端にフリットが配置される。一般に、多孔質粒子からなる不動の充てん床が、固定相と称され、そこを通って流れる流体が、移動相と称される。内径が0.250mm以下の管が、典型的には、入り口および出口と称されるカラムの両端のねじ山付きのポートを介して取り付けられる。入り口管が、典型的には、カラムの入り口と、カラムの上流に配置される注入弁およびポンプとの間に接続される。ポンプは、典型的には分離の開始から終了まで一定である、所定の流量の移動相の流れをもたらす。LCの一般的な一様態である逆相液体クロマトグラフィ(RP−LC)の場合には、移動相が、典型的には水とアセトニトリルなどの有機溶媒との混合物であり、混合物の組成が一定にされ(無勾配分離)、あるいは線形な方式で変化させられる(勾配分離)。注入バルブが、分離すべき化学種の混合物からなるプラグまたはバンドを移動相へと注入する。このバンドが、移動相とともにカラムへと移動し、カラムにおいてバンドの各成分が分離される。カラムの出口へと接続された出口管が、分離された成分を検出器(例えば、UV検出器または質量分析計)へと運ぶ。
一様な充てん床における分散は、Van Deemterモデルによって表現および計算することができる。ピークまたはバンドは、ある距離Lを移動した後に幅広くなり、その幅は、その空間的分散σL 2または時間的分散σt 2=σL 2/u2によって定量化でき、ここでuは、下記で定義される線速度である。バンドの広がりの一般的な2つの指標は、H=σL 2/L=u2σt 2/Lとして定義されるプレート高さ、およびN=L/Hとして定義されるプレートカウントである。分離の科学者らは、バンドの広がりを最小にすることを追求し、したがってプレート高さHを最小にし、プレートカウントNを最大にすることを追求している。一般的に用いられるVan Deemterモデルは、
を予測し、ここでd
pは、平均粒子径であり、D
molは、アナライト(サンプル)の分子拡散係数であり、uは、移動相の線速度である。線速度そのものは、u=U
s/ε
tとして計算され、ここでU
s=Q/Aは、床における見掛けの速度であり、Qは、移動相の流量であり、Aは、カラムの断面積であり、ε
tは、充てん床の全孔隙率である。粒子が多孔性であるため、全孔隙率は、粒子内孔隙率および粒子間孔隙率(粒子をひとかたまりの球と考えたときの粒子間の体積)の和である。
Van Deemterモデルにおいて、3つの項は、充てん床の非一様性、粒子間の移動相における分散、および多孔質粒子の固定相への質量移動を説明している。モデルは、分散が、移動相におけるアナライトの拡散によって引き起こされるだけでなく、かなりの程度まで、分離媒体の形状によって引き起こされることを示している。1.5dpという項は、床が良好に充てんされていることを仮定している。そのようでない場合、定数が1.5よりも大きくなりうる。分離媒体が、粒子が空間内に無作為に配置されている充てん床とは対照的に、フォトリソグラフィ法を使用して製造された規則的かつ整然とした柱のアレイである場合、定数が大幅に小さくなりうる(例えば、米国特許第6,595,144B1号明細書を参照;「Advantages of perfectly ordered 2D porous pillar arrays over packed bed columns for LC separations: A theoretical analysis」、 P. Gzil, N. Vervoort, G. Baron, G. Desmet、 Analytical Chemistry 2003, 75, 6244−6250も参照)。
説明に役立つ例を提示するために、van Deemter曲線とも称されるvan Deemterモデルによって予測されるプレート高さHが、図1において、以下のパラメータ、すなわちdp=1.7ミクロン、εt=0.7、2.1mmのカラム径、40%の水と60%のアセトニトリルとからなる移動相、Dmol=10−9m2/s(ヘキサノフェノンなどの典型的な小分子化合物の代表的な値)に関して、線速度uに対してプロットされている。最小プレート高さは、u=1.347mm/sまたはQ=4マイクロリットル/分において、Hmin=3.94ミクロンである。van Deemterの式のDmol/u項に起因するuがきわめて小さいときのHの急な立ち上がりは、分散への支配的な貢献が、移動相のアナライトの物理的な拡散によることを示している。線100によって示されるようにある程度大まかにu<0.5mm/sとして定めることができる、図1において参照番号101で示されているこの領域から遠くにとどまることが、分離装置の設計において重要となりうる。通常のHPLCの実施においては、Van Deemterモデルが、カラム全体について1つのプレート高さまたは1つのプレートカウントを得るために使用される。これは、充てん床および線速度がカラムの全体積にわたってほぼ一様である場合に、道理にかなう。しかしながら、モデルは、局所的に充てん床の小部分にも当てはまり、カラムの形状が管とは異なる状況または充てん床において線速度が変化する状況において分散を計算するためにも充分に適切である。
いくつかの用途において、とりわけサンプルの量が限られている場合や、LCカラムを質量分析計(MS)に組み合わせることが望まれる場合に、典型的には75〜300ミクロンの範囲にある小さな内径のカラムを、典型的には12マイクロリットル/分未満の移動相の流量との組み合わせにおいて使用することが好都合である。この規模のクロマトグラフィは、通常はマイクロスケールまたはナノスケールクロマトグラフィと称される。カラムを、高品質のHPCLに必要な寸法の一貫性および表面の仕上げを備えて金属管から製作することが、困難になる可能性がある。典型的には、内径75〜150ミクロンのカラムは、溶融石英で作られ、内径300ミクロンのカラムは、PEEKポリマー(英国LancashireのVictrex PLCから入手可能)などのポリエーテルエーテルケトンで作られる。わずかな量のサンプルで高品質の分離を達成することが可能であるが、配管および流体の接続部に起因するカラムのバンドの余分な広がりを最小限にし、とくにはデッドボリュームをなくすという課題の困難さゆえ、このようなカラムのプロテオミクスなどの特殊な用途への使用は限られている。
マイクロスケールまたはナノスケールクロマトグラフィの分野において、平面状マイクロ流体装置が、近年において、HPLCおよびCEに伝統的に用いられているステンレス鋼、PEEK、または溶融石英の管の代案として、関心を集めてきている。ガラスまたはポリマーに加工されたCEマイクロチップが、より小さな注入プラグの生成、ジュール加熱から生じる熱のより良好な放熱、および複数のパラレルな分離チャネルのただ1つの平面状装置への一体化を可能にする。同様に、HPLCおよび超高速液体クロマトグラフィ(UPLC(TM))の分野においても、マイクロチップは、溶融石英またはPEEKで作られた市販の管状カラムに対していくつかの利点を有する。それらの利点として、トラップチャネルが、分析チャネルと同じ装置に、2つのチャネル間のデッドボリュームを最小限にしつつ一体化され、使用がより容易であり、流体接続部およびそれに係わるデッドボリュームが少なくなり、漏れの恐れが少なくなることが挙げられる。
本発明は、一部には、平面状マイクロ流体化学分離装置における分散、したがって分離の性能または効率の低下を、ヴィア−チャネルの移行の領域における流体の輸送体積を小さくすることによって、低減できるという認識から生まれている。これを、ヴィアの直径を減らすことによって達成でき、いくつかの場合においては、チャネルの入り口、すなわちヴィアとチャネルとがつながる領域を狭くし、あるいはテーパ状にすることによって達成できる。
本発明の一態様は、平面状のマイクロ流体化学分離装置を提供する。装置は、当該装置の平面内に位置する分離チャネルを備える。さらに装置は、分離チャネルに対して垂直に位置する1つ以上のヴィアを備える。ヴィアは、分離チャネルとの流体の連通のために分離チャネルと基板の外表面との間を延びている。ヴィアは、サンプルのバンドが1つ以上のヴィアを通過することによって生じるバンドの広がりを抑制するために、分離チャネルの第1の領域の断面積よりも実質的に小さい断面積を有する。
本発明の別の態様は、サンプルのバンドを保持する移動相流体を基板の第1のヴィアを通ってもたらし、基板によって画定される分離チャネルを通ってサンプルを駆動することで、サンプルのバンドの成分を分離し、その後に基板の第2のヴィアを通って追い出すステップを含む方法に関する。第1および第2のヴィアが、サンプルのバンドが第1および第2のヴィアを通過することによって生じるバンドの広がりを抑制するために、分離チャネルの第1の領域の断面積よりも実質的に小さい断面積を有している。
別の態様において、本発明は、平面状のマイクロ流体化学分離装置を形成する方法に関する。本方法は、第1の基板層に1対のヴィアを形成するステップと、第2の基板層に第1の溝を形成するステップと、第1の溝によって、囲まれた分離チャネルの少なくとも一部分が形成され、ヴィアによって分離チャネルとの流体の連通が可能にされるように、第1の基板層と第2の基板層とを結合させて基板を形成するステップとを含む。ヴィアが、分離チャネルの第1の領域の断面積よりも実質的に小さい断面積を有することで、サンプルのバンドがヴィアを通過することによって生じるバンドの広がりが抑制される。
実装形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。
いくつかの実装形態においては、ヴィアの断面積が、分離チャネルの第1の領域の断面積よりも1.7倍〜9.0倍小さい(例えば、4.0倍小さい)。
特定の実装形態においては、分離チャネルの第1の領域が、0.07平方ミリメートル〜0.20平方ミリメートルの断面積を有する。すなわち、分離チャネルの第1の領域が、直径300ミクロン〜500ミクロンのカラムの断面積に相当する断面積を有することができる。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルが、5cm〜25cmの長さ、例えば10cmを有する。
特定の実装形態においては、分離チャネルが、クロマトグラフ分離を実施するように構成される。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルの第1の領域が、チャネルの全長の90%〜99%を占める。
特定の実装形態においては、分離チャネルが、ビアに向かって先細りとなってヴィアにつながる1つ以上の移行の領域をさらに備える。移行の領域が、チャネルの全長の1%〜10%を占める。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルが、第1の領域とヴィアとの間を延びる第2の領域を有し、第2の領域は、ヴィアとの接合部に向かって狭くなるチャネル幅を有する。
特定の実装形態においては、第2の領域が、ヴィアとの接合部に向かって狭くなるチャネル高さを有する。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルは、第1の領域とヴィアとの間を延びる移行の領域を有する。第2の領域は、ヴィアとの接合部に向かって狭くなるチャネル高さを有する。いくつかの例では、分離チャネルは、第1の領域における第1のチャネル高さから、第1のチャネル高さよりも10%〜50%小さい(例えば、25%小さい)、移行の領域における第2のチャネル高さへと縮小する。
特定の実装形態においては、基板が、分離チャネルに配置された多孔質粒子を含む。
いくつかの実装形態においては、基板が、分離チャネルの少なくとも一部分を画定する第1の基板層と、第1の基板層へと重ねられ、ヴィアを画定する第2の基板層とを備える。
特定の実施形態においては、分離チャネルが、正方形または矩形の断面形状を有する。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルが、丸みを帯びた断面形状を有する。
特定の実装形態においては、分離チャネルが、ヴィアとの接合部に位置して接合部における流体の流れの停滞を抑制する丸みを帯びた角を終端とする。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルがヴィアとつながる移行の領域において先細りとなるように、第1の溝の末端に先細りの領域が形成される。
特定の実装形態においては、第1および第2の基板層が、結合させられたときに、第1および第2の溝が協働して、囲まれた分離チャネルを形成するように、第1の基板層に第2の溝が形成される。
いくつかの実装形態においては、分離チャネルが、ヴィアとつながる移行の領域において先細りとなるように、第2の溝の末端に先細りの領域が形成される。
特定の実装形態においては、分離チャネルが、ヴィアとつながる移行の領域において先細りとなるように、第1および第2の溝の末端に先細りの領域が形成される。
実装形態は、以下の利点のうちの1つ以上をもたらすことができる。
いくつかの実装形態においては、平面状のマイクロ流体化学分離装置のヴィアとチャネルとの間の移行に起因するクロマトグラフ性能の損失を、低減することができる。
特定の実装形態においては、サンプルのバンドの広がりが、ヴィア−チャネルの移行の領域において低減される。
いくつかの実装形態においては、平面状のマイクロ流体分離装置に、従来からの直線分離カラムの性能特性と実質的に同じ性能特性がもたらされる。
他の態様、特徴、および利点は、明細書、図面、および特許請求の範囲にある。
類似の参照番号は、類似の構成要素を指し示している。
本発明は、平面状マイクロ流体分離装置においてヴィア−チャネルの移行の領域の流体の輸送体積を減少させることによって、サンプルのバンドがこれらの領域を通過することによって生じるバンドの広がりを低減することを目的とする。これを、ヴィアの直径を減らすことによって達成でき、いくつかの場合においては、チャネルの入り口、すなわちヴィアとチャネルとがつながる領域を狭くし、あるいはテーパ状にすることによって達成できる。
図2が、第1の基板層201と第2の基板層202とで構成される基板である平面状マイクロ流体化学分離装置200を示している。第1の基板層201は、ポリイミド、セラミック、金属、またはこれらの組み合わせで形成することが可能であり、例えば機械加工、化学エッチング、またはレーザアブレーションによって第1の基板層201に形成できる溝を備える。第2の基板層202も、ポリイミド、セラミック、金属、またはこれらの組み合わせで形成することが可能であり、通常は第1の基板層201と同じ材料である。第2の基板層202は、例えば機械加工(例えば、穿孔)、化学エッチング、またはレーザアブレーションによって第2の基板層202に形成できる1対のヴィア203を備える。
第1の基板層201および第2の基板層202が、ラミネーション、溶接、または拡散接合などによって一体に接続されて、基板を形成する。いくつかの場合には、第1および第2の基板層201、202は、拡散接合によって貼り合わせられるチタニウム層である。第1の基板層201と第2の基板層202とが一体に接続されるとき、第2の基板層202は、溝によって、囲まれた分離チャネル204が形成され、ヴィア203によって分離チャネル204との連通が可能にされるように、第1の基板層201に重ねられる。分離チャネル204に、クロマトグラフィ用の粒子が充てんされ、充てんされた粒子を所定位置に固定するために分離チャネル204の端部にフリットが形成される。分離チャネルの長さは、典型的には5cm〜25cmの間の範囲にあり、例えば10cmである。分離チャネル204は、長さ10cm以上のチャネルを、この例では長さ5.0cmおよび幅2.5cmの小さなサイズの平面状基板に収めるために、2つの60°ターンと、1つの180°ターンとを有している。分離チャネル204の幅および高さは、分離チャネル204の断面積が、典型的には75〜300ミクロンの間の範囲にあるすでに市販されているマイクロスケールまたはナノスケールのカラムの断面積に等しくなるように選択される。この点に関し、分離チャネル204は、67ミクロン〜265ミクロンの幅および67ミクロン〜265ミクロンの深さを有する。
使用時には、入り口管が、平面状マイクロ流体化学分離装置200のヴィア203のうちの第1のヴィアと注入バルブおよびポンプとの間に接続される。ポンプが、移動相の流れを、典型的には分離の始めから終わりまで一定である所定の流量にてもたらす。注入バルブが、移動相へとサンプルのプラグまたはバンドを注入する。このバンドが、移動相と一緒に分離チャネル204へと移動し、分離チャネル204において成分が分離される。分離チャネル204の反対側の端部に位置する他方のヴィア203へと接続された出口管が、分離された成分を検出器(例えば、UV検出器または質量分析計)へと運び、次いで検出器を、検出器からの電気信号の記録およびクロマトグラムの生成を行なうコンピュータデータステーションへと接続することができる。
とりわけ、ヴィア203は、分離チャネルの断面積よりも小さい断面積にて設けられる。例えば、ヴィアが、分離チャネルの断面積よりも1.7〜9倍小さく、例えば4倍小さい断面積を有することができる。この構成は、サンプルのバンドがヴィアを通過することによって生じるバンドの広がりを、低減するのに役に立つことができる。
以下の例が、この種の構成の利点を、チャネルとヴィアとが同じ断面積を有している構成との比較によって示す。図3が、一方のヴィア300と分離チャネル301の長さ5ミリメートルの区間とをモデル化する数値シミュレーションの結果を示している。このモデルにおいては、ヴィア300およびチャネル301の両者が、300ミクロンの管の断面積に等しい断面積を有している。ヴィア300は、300ミクロンの直径および889ミクロンの高さを有している。分離チャネル301は、265ミクロンの幅および高さを有している。時間的分散σt、0 2を特徴とするガウス分布を有するアナライトのピークが、ヴィア300の入り口303に導入される。このピークが、図4の第1のピーク400としても示されている。「ピーク」および「バンド」が、サンプルのプラグを指して互換に使用されていることに注意すべきである。移動相が、アナライトのバンドを計算領域の出口305に向かって運ぶ。バンド302が、ヴィア300から分離チャネル301への移行の後で激しくゆがめられ、大きな尾部304を有することを見て取ることができる。出口305において測定されるピークが、図4に401でプロットされている。このピークは、尾部の明確な証拠を示している。その時間的分散が計算され、σt、1 2と呼ばれる。差σt、1 2−σt、0 2が、計算領域の入り口と出口との間で生じるバンドの広がりの量を表わす。このバンドの広がりは、2つの寄与の合計である。第1の寄与は、真っ直ぐなカラムにおいて生じると考えられる通常のバンドの広がりである。第2の寄与は、ヴィア−チャネルの移行にとくに起因する追加のバンドの広がりである。
第1の寄与は、図3のヴィア300およびチャネル301の長さの合計に等しい長さ5.889mmの直径300ミクロンの円筒管のコンピュータシミュレーションを行なうことによって計算することができる。このシミュレーションにおいて、入り口におけるピークの形状は、400に示した同じガウス曲線であり、出口における形状は、ガウス形である曲線402であり、時間的分散σt、2 2を有する。ピーク401がピーク402よりも幅広いことが明らかである。差σt、2 2−σt、0 2が、図3の流体の経路の全長と同等の長さの直線カラムにおいて生じる通常のバンドの広がりである。これを、実際に、直線管カラムにおいては線速度が一様であるため、Van Deemterの式からσt、2 2−σt、0 2=H.L/u2と分析的に計算することができ、ここでL=5.889mmである。
したがって、入り口のヴィアにおけるヴィア−チャネルの移行にとくに起因する追加のバンドの広がりは、Δσt,inlet 2=(σt、1 2−σt、0 2)−(σt、2 2−σt、0 2)=σt、1 2−σt、2 2と計算される。同様のシミュレーションを、出口のヴィアについても実施し、その場合には、ピークが305に導入され、303から出る。出口のヴィアにおける追加の分散が、入り口のヴィアにおける追加の分散に等しく、すなわち、Δσt,outlet 2=Δσt,inlet 2であることが明らかになった。
これは、装置全体についての有効プレート高さHeffを以下のように計算することを可能にする。上述のパラメータを有する直線カラムは、上述のようにプレート高さH=3.94ミクロンを有すると考えられる。図3に示されるように長さL=10cmの分離チャネルおよび直径300ミクロンの2つのヴィアを有する平面状マイクロ流体装置については、Heff=H+u2(σt,inlet 2+σt,outlet 2)/Lを使用して計算される有効プレート高さが、ヴィアを持たない真っ直ぐな直径300ミクロンの10cmのチャネルにおいては3.94ミクロンであるのに対し、Heff=6.65ミクロンになると考えられ、すなわちヴィア−チャネルの移行のみに起因して直線カラムと比べて69%増加する(「プレート高さの損失」)と考えられる。この例は、追加の分散を予測および定量化するために使用される計算の手順を示している。すべての場合において、表現を分かりやすくするために、追加の分散は、ヴィア−チャネルの移行を持たない直線カラムの基準事例と比較したパーセンテージ損失として表わされる。固定相および移動相を表わすすべてのパラメータは、上述のとおりである。この点に関し、dp=1.7ミクロン、εt=0.7、Dmol=10−9m2/sである。
図5が、図3に示した同じ計算モデルの一連の側面図である。この図は、ヴィア300を通って移動して分離チャネル301に進入するときの種々の時点におけるバンドの形状を示している。t=1.5秒において、バンドは真っ直ぐであって、比較的狭い。t=2.0秒においては、バンドの前部303が分離チャネルの中へと進んでいる一方で、バンドの尾部304は後方に遅れている。この尾部が、t=2.5およびt=3.0秒においてさらに目立つようになる。長さ1mmの図5の線305に沿った線速度が、図6に示されている。ヴィア300から遠ざかると、線速度は、急速にu=1.347mm/sに近づく。ヴィア300の近くでは、uは大幅に小さい。実際、ヴィア300の左下の角においては、局所的な線速度がゼロであり、停滞の点を示す。図1の線速度uに対するプレート高さHの曲線を参照すると、きわめて小さい線速度が、きわめて大きいプレート高さ、したがってきわめて大きな分散に結び付いている。これが、ヴィア300と分離チャネル301との間の移行の領域において追加の分散が見られる理由である。
図7が、本発明による構成をモデル化する数値シミュレーションの結果を示している。図7の例では、分離チャネル701が、図3のように300ミクロンの円筒カラムの断面積と同等の断面積のための265ミクロンの幅および高さを有しているが、ヴィア700が、150ミクロンの直径を有しており、したがって図3のヴィアよりも4倍小さい断面積を有している。流れの経路において流量は一定であるため、ヴィア700における線速度は、4倍大きい5.388mm/sであり、これはvan Deemterモデルによれば5.33ミクロンのプレート高さに相当する。ヴィア700を出て分離チャネル701に進入した後のバンド702のゆがみが、図3のバンド302と比べて少ないことを、見て取ることができる。長さ10cmのチャネルと150ミクロンの2つのヴィアとを有する装置について、全体としてのプレート高さの損失は16.7%であり、300ミクロンのヴィアについての69%という対応する数字よりも大幅に小さい。
典型的な実施形態を上述したが、他の変更形態も可能である。例えば、別の実施形態においては、ヴィアの断面積がチャネルの断面積よりも小さいことに加えて、チャネルの幅がヴィアとつながるときに狭くされる。例えば、ヴィアが、分離チャネルの第1の領域の断面積よりも1.7〜9倍小さく、例えば4倍小さい断面積を有することができ、分離チャネルが、第2の領域において分離チャネルの幅がヴィアの直径と同じになるように狭くなることができる。図8が、そのような構成をモデル化する数値シミュレーションの結果を示している。図8に示したモデルにおいては、ヴィア800が、150ミクロンの直径を有し、分離チャネル801が、150ミクロンへと狭くなっている端部付近の領域802を除き、全長にわたって353ミクロンの幅および200ミクロンの高さを有している。移行は、0.5〜5ミリメートルの距離にわたって生じる。コンピュータシミュレーションが、図8に示されるような2つのヴィアを有する長さ10cmのチャネルにおいて、プレート高さの損失が3.1%であることを示している。バンド803のきわめて小さなゆがみが、この幾何学的設計により、鋭いバンドを維持し、尾部の形成を防止できることを示している。
さらに別の実施形態においては、ヴィアの直径が減らされ、分離チャネルの高さが、ヴィアにつながるときに小さくなる。例えば、分離チャネルを、第1の領域における第1の高さから、第1の高さよりも小さく、10%〜50%、例えば25%である、ヴィアの付近の第2の領域の第2の高さへと、縮小することができる。いくつかの場合には、分離チャネルの幅および高さの両方の縮小を考慮して、分離チャネルを、第1の領域における第1の断面積から、第1の断面積よりも小さく、60%〜70%、例えば68%である、ヴィアの付近の第2の領域の第2の断面積へと、縮小することができる。図9が、そのような構成をモデル化する数値シミュレーションの結果を示している。図9においては、ヴィア900が150ミクロンの直径を有しており、分離チャネル901が、第1の領域904において265ミクロンの幅および高さを有している。ヴィア900の付近の第2の領域902において、分離チャネル902の高さおよび幅が、150ミクロンの高さおよび幅へと直線的に先細りである。プレート高さの損失は、1.7%である。分離チャネルの幅および深さが265ミクロンの区間に進入した後のアナライトのバンド903の形状を見ると、ゆがみはわずかである。
図10においては、ヴィア1000が170ミクロンの直径を有している。第1の領域1004における分離チャネル1001の幅は、350ミクロンであり、第2の領域1002において170ミクロンへと先細りになっている。第1の領域における分離チャネル1001の高さは、200ミクロンであり、第2の領域1002において125ミクロンへと先細りになっている。プレート高さの損失は、1.1%である。図11Aが、図10に示した同じ形状の側面図である。線1003に沿った線速度が、図11Bに示されている。領域1002において分離チャネル1000が狭くなることで、チャネルにおける平均の線速度1.347mm/sよりも大きい線速度が生じている。上述のとおり、これが追加の分散を小さく抑える。追加の分散が最小限であるということは、線速度が0.5mm/sを下回る領域がきわめて小さいという観測結果から納得できる。
図8、図9、および図10は、チャネルに沿った軸上の各位置における分離チャネルの断面が、正方形または矩形である実施形態を説明している。図12Aおよび図14Aは、分離チャネルが丸みを帯びた断面を備えている例を示している。図12Aおよび図12Bを参照すると、第1の領域1204において、分離チャネル1201の断面は、ほぼ半楕円形であり、深さが200ミクロンであり、上面における幅が440ミクロンである。分離チャネル1201は、直径150ミクロンのヴィア1200につながる領域1202において狭くなっている。角1203が、図13Aおよび図13Bに示されるように、この形状において線速度がゼロまたはゼロに近い停滞の点が存在しないように、丸められている。図13Aは、図12Aと同じ形状の側面図である。図13Bは、線1205に沿った線速度のプロットである。角1203においても、線速度が1.0mm/sよりも大きい。
図14Aおよび図14Bを参照すると、図14Bに示される分離チャネル1401の第1の領域1004における断面は、ほぼ楕円形であり、320ミクロンの軸(幅)および280ミクロンの軸(高さ)を有している。分離チャネル1401は、第2の領域1402において、170ミクロンの直径を有するヴィア1400につながるにつれて、幅および高さの両方において先細りになる。プレート高さの損失は、図12Aおよび図14Aの設計においては、それぞれ0.0%および0.7%である。
上述の例に示した形状を生み出すために、さまざまな製造技術を使用することができる。好ましい材料は、チタニウムおよびチタニウム合金である。ヴィアを、機械的な穿孔、放電加工(EDM)による穿孔、またはレーザによる穿孔を使用して、1つ以上の層に形成することができる。チャネルを、機械的な切削、ワイヤEDM、または電気化学マイクロマシニング(EMM)を使用して、1つ以上の別個の物理的な基板層に形成することができる。ヴィアおよびチャネルを含んでいる基板層を積み重ね、位置合わせさせ、拡散接合を使用して接合することで、気密封止された流体チャネルを形成することができる。図7、図8、図9、および図10に示したチャネルなど、正方形または矩形の断面を有するチャネルを、機械的な切削を使用して製造することができる。チャネルの高さに変化がない場合(図7および図8)には、チャネルを形成するために代案として、ワイヤEDMを使用することもできる。図12Aおよび図14Aの丸みを帯びた断面を有するチャネルは、EMMを使用して製造可能である。図12Aの場合には、チャネルをただ1つの層に形成することができる。図14Aの場合には、チャネルの半分を、ヴィアをも含む1つの層に形成でき、他方の半分を第2の層に形成し、2つの層を精密に位置合わせさせることによってほぼ楕円形の断面を実現することができる。
したがって、他の実装形態も、以下の特許請求の範囲に包含される。