本発明の詳細な記載を行う。本開示の様々な見地(以下、「態様」とも言う。)の中で、膜トランスポーター、薬物代謝酵素、生体異物センサー、細胞ストレス応答経路タンパク質から選択される少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を含む細胞の集団が提供される。本発明の細胞は、少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の発現が実質排除されるように、不活性化された染色体の配列(複数可、以下「群」とも言う。)を含んでもよい。また、薬剤をスクリーニング(選別)するために、またはADME/Toxタンパク質またはタンパク質群の乱された発現を含む細胞において薬剤の効果を評価するために、本発明の細胞を使用する方法も提供される。
(I)ADME/Toxタンパク質(群)の乱された発現を含む細胞
本開示の一態様には、薬物の吸収、分布、代謝、および排泄(ADME)および/または毒物学的〔Tox(トックス)〕プロセスに関与する少なくとも一つのタンパク質の乱された(disrupted、崩壊された)発現を含む細胞が包含される。ここで用いるように、用語「ADME/Tox」は、薬物の吸収、分布、代謝、および排泄および/または毒物学的プロセスに関与するタンパク質(およびそれらの対応する遺伝子)に言及する。ADME/Toxタンパク質には、制限されないが、膜トランスポーター(膜輸送体)、薬物代謝酵素、生体異物センサー、および細胞ストレス応答タンパク質が含まれる。少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現のため、ここに開示した細胞は、薬物の吸収、処分、および/または応答に関して応答を改変され(altered)ていることがある。
ここに開示した細胞において、少なくとも一つのADME/Toxタンパク質は、細胞が、実質機能しない(substantially no functional)タンパク質を生じ(すなわち、細胞はノックアウトと名付けられることができ)、タンパク質の低下したレベルを生じ(すなわち、細胞はノックダウンと名付けられることができ)、タンパク質の増大したレベル、またはタンパク質の修飾バージョンを生じるように、発現を乱される。
好適具体化(好適実施形態)では、少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現は、ADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列の修飾に起因することができる。細胞は、修飾された染色体の配列についてホモ接合、ヘテロ接合、またはヘミ接合であってよい。
ADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、少なくとも一つのヌクレオチドの欠失、少なくとも一つのヌクレオチドの挿入、または少なくとも一つのヌクレオチドの置換によって修飾されうる。若干の実施形態において、興味あるまたは関心のあるADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、関心のあるタンパク質が細胞によって実質的に作成されないように、少なくとも一つの欠失により不活性化することができる。たとえば、関心のあるADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、コーディング領域のすべて、または一部の欠失、コントロール領域のすべて、または一部の欠失、スプライス部位の欠失または崩壊、成熟前(premature)コドンを導入する置換、またはその組合せを、細胞が本質的に機能性でないタンパク質を生じるように含むことができる。
他の実施形態において、関心のあるADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、タンパク質の減少したレベルが形成されるように修飾されうる。たとえば、関心のあるADME/Toxのタンパク質をコードする染色体の配列は、コード領域における欠失、挿入および/または置換、および/または制御領域における欠失、挿入および/または置換を、細胞がタンパク質を減少したレベルで生成するように含みうる。
さらに他の実施形態において、関心のあるADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、タンパク質の改変されたバージョンが生成されるように修飾することができる。たとえば、染色体の配列は、シングルヌクレオチド変化(例は、SNP)を含むように修飾しうる。SNPの位置に応じて、タンパク質の改変されたバージョンは、細胞によって産生されうる。あるいはまた、関心のあるADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、細胞がタンパク質の改変されたバージョンを生成するようにコーディング領域における欠失、挿入、または置換によって修飾されうる。改変された(以降単に「改変」と称す)タンパク質は、改変基質特異性、改変結合相互作用、改変動力学、改変輸送速度、改変指向性、改変細胞局在、改変タンパク質相互作用、改変安定性、などを有することができる。
さらなる実施形態において、関心のあるADME/Toxタンパク質をコードする染色体の配列は、細胞がタンパク質を増加したレベルで生成するように、欠失、挿入、および/または置換を介して修飾されうる。すなわち、タンパク質は過剰発現させることができる。
一実施形態において、細胞は、一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を含むことができる。別の実施形態では、細胞は、二つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を含みうる。さらに別の実施形態では、細胞は、三つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を含んでもよい。さらなる実施形態では、細胞は、四つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を含むことができる。さらに別の実施形態では、細胞は五つ以上のADME/Toxタンパク質の乱された発現を含んでもよい。
別の実施形態において、細胞は、一つのADME/Toxタンパク質の発現が実質的に排除される(すなわち、ノックアウトの)ように一つの不活性化された染色体の配列を含むことができる。さらに別の実施形態では、細胞は、二つのADME/Toxタンパク質の発現が実質的に排除される(すなわち、ノックアウトの)ように二つの不活性化された染色体の配列を含んでもよい。別の実施形態では、細胞は、三つのADME/Toxタンパク質の発現が実質的に排除される(すなわち、ノックアウトの)ように三つの不活性化された染色体の配列を含んでもよい。さらに別の実施形態では、細胞は、四つ以上のADME/Toxタンパク質の発現が実質的に排除される(すなわち、ノックアウトの)ように、四つ以上の不活性化された染色体の配列を含んでもよい。
さらなる実施形態において、細胞は少なくとも一つの膜トランスポーターの乱された発現、および随意に、少なくとも一つの追加のADME/Toxタンパク質の乱された発現を含んでもよい。さらに別の実施形態では、細胞は少なくとも一つの薬物代謝酵素の乱された発現、および随意に、少なくとも一つの追加ADME/Toxタンパク質の乱された発現を含むことができる。代わりの実施形態、実施態様では、細胞は、少なくとも一つの生体異物センサーの乱された発現、および随意に、少なくとも一つの追加ADME/Toxタンパク質の乱された発現を含むことができる。さらに別の実施形態では、細胞は、少なくとも一つの細胞ストレス応答タンパク質の乱された発現、そして、随意に、少なくとも一つの追加ADME/Toxタンパク質の乱された発現を含みうる。
適切な膜トランスポーター、薬物代謝酵素、生体異物センサー、および細胞ストレス応答タンパク質の非制限的な例を、以下に詳述する。
ここで用いる遺伝子名称は、ヒト遺伝子を参照する一方、他の動物、無脊椎動物で、たとえば、C. elegans〔Caenorhabditis elegans(カエノラブディティス・エレガンス)、線虫〕およびD. melanogaster〔Drosophila melanogaste(ドロソフィラ・メラノガスター)、キイロショウジョウバエ〕のようなもの、および哺乳動物で、制限されないが、マウス、ラット、ハムスター、ネコ、イヌおよびサルが含まれるようなものを含むものの中で同定されたこれらのうちの任意のものの近いホモローグが包含されることを理解すべきである。近いホモローグは、配列分析、系統発生解析、機能アッセイ、などによって識別することができる。
(a)トランスポータータンパク質
種々の実施形態において、ADME/Toxタンパク質は膜トランスポーターであってよい。トランスポーターは細胞膜を通過する分子の動きに関与する。薬物吸収および処分に関与するトランスポータータンパク質は、2つの主要なグループ、すなわち、ATP結合カセット(ABC)トランスポータースーパーファミリーおよび溶質キャリヤー(SLC)スーパーファミリーからのメンバーを意味する。知られている少なくとも49の遺伝子を有するABCトランスポーターの七つのサブファミリーが目下のところ存在する。ABCトランスポーターのスーパーファミリーのいくつかのメンバーは、薬物耐性に関与することが知られている(例は、BCRP、MDR1)。比較すると、SLCトランスポーターには、少なくとも362の機能性タンパク質のコーディング遺伝子を有する55のファミリーを含む。ADME/Toxアプリケーションに関してABCおよびSLCトランスポーターファミリーの双方の最も関連性の高いメンバーを以下の表AおよびBにリストする。
(i)ABCトランスポータースーパーファミリー
ABCトランスポータータンパク質は、膜輸送タンパク質の大規模で、重要なスーパーファミリーであり、動物界に遍在する。これらの貫膜タンパク質はATPを加水分解し、そしてしばしば濃度勾配に対して、細胞内および細胞外の膜を通過する分子のトランスロケーション(移行)を含む様々な他の機能に動力供給するためにエネルギーを用いる。〔レビューのために、Higgins(ヒギンズ), C. F.、ABC transporters: from microorganisms to man(ABCトランスポーター:微生物から人間まで)、Annu. Rev. Cell Biol.(アニュアル・レビュー・オブ・セル・バイオロジー)867-113(1992);Dean(ディーン)M.、Human ABC Transporter Superfamily(ヒトABCトランスポータースーパーファミリー)、Bethesda(ベセスダ)(MD、メリーランド州):National Center for Biotechnology Information(ナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジー・インフォメーション)(US、米国);2002年11月18日、www.ncbi.nlm.nih.gov/bookshelf/br.fcgi?book=mono_001にてオンライン利用可能;およびVasiliou(バシリウ)Vら、Human ATP-binding cassette (ABC) transporter family{ヒトATP結合カセット(ABC)トランスポーターファミリー}、Hum Genomics(ヒューマン・ゲノミクス)3、281-290(2009)を参照。〕。ADME/Toxアプリケーションに関連するヒトABCトランスポーター遺伝子の非制限的な例を表Aに挙げる。
ABCトランスポーター遺伝子における遺伝的変動は、ヒト疾患の多種多様な原因または要因となるかもしれない。たとえば、CFTR〔嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)〕タンパク質における変異は、嚢胞性線維症に関与する。加えて、一定のABCトランスポーターの過剰発現は、多剤耐性であるガン細胞系または腫瘍において生じ、明らかに、一定のガン細胞が一定の化学療法剤を追出すことを可能にする。疾患または状態に関連する非制限的な例のABCトランスポーターには、たとえば、タンジール(Tangier)病および家族性ハイポアポタンパク質血症(familial hypoapoproteinemia)に関連するABCA1;Stargardt's disease(シュタルガルト病)、黄色斑眼底(fundus flavimaculatis)、網膜色素変性(retinitis pigmentosum)、錐体杆体(コーンロッド)ジストロフィー、および加齢黄斑変性に関連するABCA4;イベルメクチン感受性およびジゴキシンの取込みに関連するABCB1;免疫不全に関連するABCB2;免疫不全に関連するABCB3;プログレッシブ(進行性)家族性肝内胆汁うっ滞および妊娠の肝内胆汁うっ滞に関連するABCB4;X連鎖鉄芽球症(X-linked sideroblastosis)および貧血に関連するABCB7;プログレッシブ家族性肝内胆汁うっ滞に関連するABCB11;Dubin-Johnson Syndrome(デュビン・ジョンソン症候群)に関連するABCC2;弾力線維性仮性黄色腫(pseudoxanthoma elasticum)に関連するABCC6;嚢胞性線維症、精管、膵炎、および気管支拡張の先天性両側性欠如(congential bilateral absence)に関連するABCC7;幼少期の家族性の永続的な高インスリン性低血糖に関連するABCC8;副腎脳白質ジストロフィーに関連するABCD1;シトステロール血症に連結されるABCG5が含まれる。
ABCトランスポーターのスーパーファミリーは、さらに系統解析およびイントロン構造に基づいてサブファミリーに細分される。
1)ABCAサブファミリー
このサブファミリーには、六つの異なる染色体にわたり散見される七つの遺伝子の第一のサブグループ(ABCA1、ABCA2、ABCA3、ABCA4、ABCA7、ABCA12、ABCA13)および染色体17q24上で一緒にクラスター化された五つの遺伝子の第二のサブグループ(ABCA5、ABCA6、ABCA8、ABCA9、ABCA10)を含め、十二のフルトランスポーターが含まれる。ABCA1およびABCA4(ABCR)は、徹底的に調査され、コレステロール輸送およびHDL生合成の疾患におけるABCA1タンパク質の、および視覚におけるABCA4タンパク質の関与が明らかにされ、それは、それがビタミンA誘導体を杆体視細胞(ロッド光受容体)の外側のセグメントにおいて輸送するからである。模範的なメンバーを以下に詳述する。
ABCA2:全長ヒトABCA2のcDNAおよびその詳細な発現パターンは十分に特徴付けられている。ABCA2は、胎仔および成体の脳、脊髄、卵巣、前立腺および白血球において最高レベルを示した。ABCA2の発現は、肺、腎臓、心臓、肝臓、骨格筋、膵臓、精巣、脾臓、結腸および胎仔肝臓を含め、他の組織において検出されている。ABCA2タンパク質の細胞免疫学的局在性は、ペルオキシソームであるという仮説を立てた小胞に対応する明確な、点状の染色を明らかにした。小胞特異的な抗体を用いたさらなる分析は、レイトエンドソーム(late endolysomes)およびトランスゴルジ(transgolgi)小器官を伴うABCA2の局在を明らかにした。ABCA2タンパク質はABCA1、ABCA3、ABCA、ABCA6、ABCA7を含め、他のAサブファミリータンパク質とほとんどの相同性を共有する。ABCA2配列におけるリポカリンシグネチャーモチーフは、脂質、ステロイドおよび構造的に類似した分子で、エストラムスチンおよびエストラジオールなどのようなものの輸送における機能を示唆する。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCA2でありうる。
2)ABCB(MDR / TAP)サブファミリー
このサブファミリーには、4つのフルトランスポーターおよび7つのハーフトランスポーターが含まれる。ABCB2およびABCB3(TAP)の遺伝子は、ヘテロダイマー(ヘテロ二量体)を形成するハーフトランスポーターであり、それはER中にペプチドを輸送し、次いでそれはクラスIのHLA分子によって抗原として提示される。ABCB9ハーフトランスポーターはリソソームに局在される。ABCB6、ABCB7、ABCB8、およびABCB10、すべてのハーフトランスポーターは、ミトコンドリア内に位置しており、そこでそれらは鉄代謝およびFe / Sタンパク質前駆体の輸送に機能する。模範的なABCBサブファミリーのメンバーを、以下に詳述する。
ABCB1:ABCA1はまた、MDR1またはPGY1として知られ、血液脳関門にて、および肝臓において機能トランスポータータンパク質がコードし、およびガン細胞にMDR表現型を与えることが知られている。ABCB1は染色体7q21.1に対してマップされ、そしてよく特徴付けられたABCトランスポーターであり、化学療法薬への耐性を発達させたガン細胞に対して多剤耐性の表現型を与えることが知られている。トランスポーターは、コルヒチン、エトポシド(VP16)、アドリアマイシン(Adriamycin)、およびビンブラスチン、およびまた脂質、ステロイド、生体異物、およびペプチドなどのような薬物を含め、疎水性基質を移動する。それは血液脳関門での細胞において発現され、拡散による配送に適していない脳内へ化合物を輸送すると考えられる。タンパク質はまた、腎臓、肝臓、腸、および副腎、などのような多くの分泌細胞型において発現され、そこではその正常な機能は、おそらく毒性代謝産物を排出することに関与する。 ABCB1はまた、造血幹細胞で高度に発現され、細胞毒の影響から細胞を保護することができる。ABCB1はまた、樹状細胞の移動にかかわっている。ABCB1発現は、腸、肝臓および腎臓で検出されている。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCB1でありうる。
ABCB4:またMDR3として知られるが、ABCB4タンパク質は肝臓で発現し、そして胆汁酸の分泌に関与する。ABCA4は腸内で発現される。ABCB4タンパク質は一定のリン脂質を、細胞膜を横切って輸送する。多量の胆汁酸は、もしそれらがリン脂質に結合していないならば、潜在的に細胞に有害である。若干のABCB4遺伝子変異は、細胞膜を横切るリン脂質の動きを損ない、胆汁酸に結合するのに利用可能なリン脂質の欠如を導く。遊離胆汁酸の蓄積は肝細胞を損傷し、それは肝疾患の徴候および症状を引き起こす。したがってABCA4は、肝細胞機能での重大な役割を果たすと考えられる。ABCB4遺伝子での変異の別のグループは、プログレッシブ家族性肝内胆汁鬱滞(うっ滞)タイプ3(PFIC3)を引き起こすことが見出された。一定のABCB4遺伝子変異を有する女性は、妊娠中の肝内胆汁うっ滞の条件(ICP)を有する危険性がある。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターは、ABCB4でありうる。
ABCB11:またBSEP(胆汁酸塩排出ポンプ)またはSPGPとして知られるが、ABCB11は肝臓および腎臓において発現する。ABCB11遺伝子での100よりも多い変異はプログレッシブ家族性肝内胆汁うっ滞タイプ2(PFIC2)を引き起こすことが見出された。機能しない(no functional)BSEPタンパク質を有する人々はまた、肝細胞ガンを発症するリスクがより一層高いように見える。ABCB11遺伝子での変異は、BSEPタンパク質が胆汁酸塩を肝臓から効果に輸送することを防ぐ。輸送のこの欠如は、胆汁酸塩を肝細胞中に蓄積させ、肝疾患およびそれに関連する徴候および症状が導かれる。このような良性反復性肝内胆汁うっ滞(BRIC)、妊娠の肝内胆汁うっ滞(ICP)などのような他の疾患は、またABCB11遺伝子に関係する。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターは、ABCB11でありうる。
3)ABCC(CFTR/MRP)サブファミリー
ABCCサブファミリーには、CFTRタンパク質を含め、十二のフルトランスポーターが含まれ、それはすべての外分泌液での役割を果たす塩化物イオンチャネルである。模範的なメンバーを以下に詳述する。
ABCC1:ABCC1は多剤耐性関連タンパク質1(MRP1)をエンコードし、それは多選択性(multispecific、多特異性)アニオントランスポーターに機能する。ABCC1遺伝子は染色体16p13.1にマップされ、そして腫瘍細胞において発現される。ABCC1(MRP1)ポンプは、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、コルヒチン、およびいくつかの他の化合物に対する耐性を、ABCB1のものと同等(comparable、比較用)の効果と共に付与する。しかし、ABCB1と違い、ABCC1は、グルタチオンレダクターゼ(グルタチオン還元酵素)経路によってグルタチオンにコンジュゲートされる薬物を輸送する。マウスにおけるAbcc1遺伝子の混乱は、それらの炎症反応を阻害し、そして抗ガン剤エトポシドに対する過敏性を付与する。ABCC1タンパク質はまた、化学的毒性および酸化ストレスから細胞を保護するのに役立ち、およびシステイニルロイコトリエンに関与する炎症性応答を媒介すると考えられる。証拠はABCC1が腸、肝臓および腎臓で発現されることを示した。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC1でありうる。
ABCC2:またMRP2として知られており、ABCC2は染色体10q24にマップされ、そして肝臓において小管細胞(canalicular cells)に局在する。それは、肝臓から胆汁中への有機アニオンの主要なエクスポーター(輸出体)である。MRP2遺伝子は、TR-ラット、黄疸および有機イオン輸送での欠乏によって特徴付けられるラット系統において変異することが知られる。その遺伝子はまた、ヒトDubin-Johnson syndrome(デュービン・ジョンソン症候群)の患者において変異し、その者は有機イオン輸送の混乱の症状に苦しむ。また、証拠は薬剤耐性においてMRP2過剰発現に関係しているとみる。ABCC2の発現は、腸、肝臓および腎臓においって検出された。別の実施形態において、乱された発現を有するトランスポーターはABCC2でありうる。
ABCC3:またMRP3として知られ、ABCC3は腸、肝臓および腎臓に発現する。ABCC3によってコードされるタンパク質は、小管多選択性有機アニオントランスポーター2である。ABCC2およびABCC3は、薬物および発ガン性物質などのような毒性化合物の除去を媒介し、および基質特異性において大きな重複部分を有する。たとえば、ABCC3タンパク質は、抗ガン剤メトトレキサート(MTX)およびその毒性代謝物7 ヒドロキシメトトレキサートを肝臓からその循環中に輸送することが示され、増加した血しょうレベルおよび尿中排泄が導かれ、そして従ってMTXの毒性の除去および重症度において非常に大きな影響を有する。ABCC3もまたトラベクテジン媒介肝毒性から保護する。加えて、ABCC3は小腸における腸細胞から門脈血へのさまざまなグルクロン酸抱合体の排出輸送に大きな役割を果たす。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC3でありうる。
ABCC4:また、多剤耐性関連タンパク質4(MRP4)または多選択性有機アニオントランスポーターB(MOAT-B)として知られ、ABCC4は、細胞内サイクリックヌクレオチドレベルのレギュレーター(制御因子)として、および核へのcAMP依存性シグナル伝達のメディエーター(媒介物質)としてふるまう。ヒドロクロロチアジド(HCT)およびフロセミドの尿中排泄におけるMRP4の機能的重要性は、遺伝子ノックアウトマウスを用いて調べられた。HCTおよびフロセミドの腎クリアランスは大幅に減少したが、Mrp4ノックアウトマウスにおいて消滅されなかった。したがって、Mrp4は、他の未知のトランスポーターと一緒に、近位尿細管上皮細胞からHCTおよびフロセミドの管腔排出(luminal efflux)を説明する。加えて、脳からのトポテカンの除去が遅れ、しかもその上、脳脊髄液中のトポテカンの濃度がMrp4ノックアウトマウスで大いに高められ、それは、脳血液関門を横切るトポテカンの取込みおよび排出でのABCC4の役割を示す。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC4でありうる。
ABCC5:ABCC5(MRP5)は典型的な有機アニオンポンプであるが、他のABCCタンパク質と比較してN末端貫膜ドメインを有さない。インビトロでの輸送の研究は、cGMP、ヌクレオシド一リン酸類似体、重金属化合物および蛍光色素を含め、多数の化合物のための細胞の輸出ポンプとしてABCC5を識別した。ABCC5トランスフェクトされた細胞はまた、抗ガン剤および抗ウイルス薬に耐性を示す。ABCC5遺伝子は、広く、心臓、脳、骨格筋、腎臓および精巣において最高レベルを伴ってヒト組織中で転写される。さまざまなABCC5転写産物、潜在ドナースプライス部位(cryptic donor splice site)の代替使用により形成されたスプライスバリアント(スプライス変異)が、豊富にヒトの網膜に発現するが、他の多くの組織にも、さまざまなレベルで存在する。ABCC5 mRNAの選択的スプライシングは、ABCC5遺伝子発現の組織依存性調節のためのエレガントなメカニズムを提供することができる。代わりの実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC5でありうる。
ABCC6:またMRP6として知られるが、ABCC6は、膜トランスポーターであり、その欠乏は結合組織疾患を導く。具体的には、弾性線維性仮性黄色腫(PXE)や、皮膚、心臓血管系および眼の弾性線維の石灰化と断片化によって特徴付けられる遺伝病は、ABCC6遺伝子の変異によって引き起こされる。Abcc6(マウス)の発現は、局所鉱化制御システム(local mineralization regulatory system)および石灰化の全身的な調節に関与することが知られているBMP2-Wntシグナル伝達経路と大いに相関し、心筋石灰化におけるAbcc6の作用のための潜在的な経路が示唆される。ABCC6はまた、ステロール輸送に関与し、それはステロールがABCAトランスポーター活性および発現の優先的な調節因子だからである。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC6でありうる。
ABCC7:また、CFTR(膜コンダクタンス制御因子)として知られているが、ABCC7は、クロライドチャネルとして機能し、他の輸送経路の調節をコントロールする。ABCC7もまた、SLC4A7トランスポーターを調節することによって、上皮細胞における重炭酸塩分泌およびサルベージ(再利用)を調節することができる。この遺伝子における変異は、常染色体劣性遺伝疾患の嚢胞性線維症および輸精管の先天性両側性形成不全(congenital bilateral aplasia)と関係する。CFTR遺伝子における千よりも多くの異なる変異が世界的に検出されている。選択的にスプライスされた転写産物変異体(トランスクリプトバリアント)がまた説明されており、その多くはこの遺伝子における変異からの結果である。CFTRの不存在または機能不全は、呼吸器、腸および生殖器系、ならびに他の分泌および再吸収性上皮の上皮表面での異常なイオンおよび液体ホメオスタシス(liquid homeostasis)をもたらす。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC7でありうる。
ABCC8:またSUR1(スルホニル尿素受容体1)として知られており、ABCC8タンパク質は、ATP感受性カリウムチャネル[K(ATP)チャネル]の成分の一つとして、スルホニル尿素を結合し、そしてモジュレーティング(調節性)インスリン分泌に関与するカリウムチャネルを調節する。これらの遺伝子に共通の多型は、耐糖能異常、タイプ2糖尿病、グルコース障害(impaired glucose)からタイプ2糖尿病への素因になりやすい変換(predisposed conversion)、および高インスリン症の常染色体劣性形式に可変的に関係する。ABCC8遺伝子における若干のSNPsはまた、タイプ2糖尿病および高められた血圧レベルに関係する。ABCC8もまた、幼少の家族性の持続的な高インスリン性の低血糖症との関係が実証された。代わりの実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC8でありうる。
ABCC9:またSUR2(スルホニル尿素受容体2)として知られるが、ABCC9タンパク質はまた、心臓の、骨格の、および脈管の、および非脈管の平滑筋におけるATP感受性カリウムチャネルのコンポーネントである。タンパク質の構造は、膵外ATP感受性カリウムチャネルの薬物結合チャネル調節性サブユニットとしての役割を示唆する。最近の知見は、睡眠時間をABCC9遺伝子と関連付ける。この遺伝子の選択的スプライシングは、いくつかの生成物をもたらし、その2つは、2つの端子エクソンの差動的な用法(differential usage)に起因し、およびその1つはエクソンの削除に起因する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC9でありうる。
ABCC10:またMRP7として知られるが、ABCC10タンパク質は、両親媒性の陰イオンを輸送し、そしてドセタキセル、ビンクリスチンおよびパクリタキセルなどのような多種多様な薬剤に耐性を与える。MRP7はまた、抗ガン剤のシタラビン〔Ara(アラ)-C)およびゲムシタビン、および抗ウイルス薬の2’,3’-ジデオキシシチジンおよびPMEAのようなヌクレオシド系薬剤に対する耐性を与えることができる。加えて、ABCC10は自然な生成物の薬剤のための広範な耐性プロファイルを有する。MRP1およびMRP2とは異なり、MRP7媒介薬物輸送はグルタチオンに関係しない。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC10でありうる。
ABCC11:ABCC11は、多剤耐性タンパク質8(MRP8)をエンコードするが、フルオロピリミジンへの、および排出メトトレキサートへの耐性を付与するための能力に基づいて、および胸部腫瘍での発現によって、胸部ガンの薬剤耐性にかかわる。ABCC11発現はエストラジオール(E2)によって負に調節されるが、ABCC11発現は、高発現エストロゲン受容体−α胸部ガン(ER-α陽性胸部ガン)において高い。ABCC11の発現は、タモキシフェン(TAM)の存在下でアップレギュレートされ(上方制御され)、TAM耐性細胞系において過剰発現された。したがって、高発現性ABCC11は、化学療法の組合せに対する低下した感度に貢献しえ、そしてTAMに対して耐性のER陽性胸部ガンにおいて抗ガン療法の選択肢の潜在的な予測ツールでありうる。代わりの実施形態において、乱された発現を有するトランスポーターはABCC11でありうる。
ABCC12:ABCC12は多剤耐性タンパク質9(MRP9)をエンコードする。ABCC11およびABCC12は染色体16q12上でタンデムに複製される。ABCC11およびABCC12遺伝子の転写産物は、肝臓、肺、および腎臓を含め、様々な成体ヒト組織において、およびまた、いくつかの胎仔組織においてそれによって検出された。ABCC12の増加した発現は、胸部ガンと関係する。さらに、ABCC11およびABCC12は、発作性運動誘発性舞踏アテトーゼのための遺伝子(群)をかくまう領域(region harboring gene)にマッピングされ、それで従って二つの遺伝子はこの障害についての位置的候補を表す。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC12でありうる。
ABCC13:ABCC13遺伝子は、組織特異的発現を、胎仔肝臓、骨髄、および結腸において最も高く有する。ABCC13は、骨髄中で発現された一方、成体ヒトの末梢血白血球におけるその発現は非常に低く、そして検出可能なレベルは分化した造血細胞において観察されなかった。ABCC13の発現は細胞分化の間に減少した。これらの結果は、ヒトABCC13の発現が造血と関連することを示唆する。ABCC13の選択的スプライシングは遺伝子の複数の転写産物変異体をもたらす。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCC13でありうる。
4)ABCGサブファミリー
ヒトABCGサブファミリーには、厳密に研究されたABCG遺伝子で、これはショウジョウバエ(Drosophila、ドロソフィラ属)の白色ローカスにあるが、これを含め、N末端でのNBFおよびC末端TMドメインを有する6つの「リバース」のハーフトランスポーターが含まれる。ショウジョウバエでは、ホワイトタンパク質は、眼の細胞において眼の色素細胞(eye pigments)(グアニンおよびトリプトファン)の前駆体を輸送する。哺乳類ABCG1タンパク質は、コレステロール輸送調節に関与する。ABCGサブファミリーはまた、ABCG2(BCRP)、薬剤耐性遺伝子を含み、腸、腎臓、肝臓、脳、脾臓前立腺およびその他の組織において発現される。他のABCGサブファミリーのメンバーには、ABCG3で、これまでのところ唯一、げっ歯類において見出されたもの;ABCG4遺伝子で、主に肝臓において発現されるもの;ABCG5およびABCG8で、腸および肝臓においてステロールのトランスポーターをコードするものが含まれる。模範的なメンバーを以下に詳述する。
ABCG2:ABCG2タンパク質は生体異物輸送ATPアーゼとして機能し、および乳房新生物、細胞腫、メルケル細胞、胆嚢新生物、白血病、黒色腫および他の疾患などのような多くの疾患との関連付けのために試験された。また、ABCG2は、BRCPとして知られ、MHCクラスI分子の構成要素であり、それらはすべての有核細胞上に存在する。BRCP遺伝子は、染色体4q22にマップされ、そしてハーフトランスポーターをコードする。ミトキサントロンに抵抗性ではあるが、ABCB1またはABCC1を過剰発現しない細胞系は、薬物トランスポーターとしてのBRCP遺伝子の識別を導いた。その遺伝子は、アンスラサイクリン系抗ガン剤の耐性を付与し、そして増幅され、または染色体転座において、トポテカン、ミトキサントロン、またはドキソルビシンへの曝露を乗り切る細胞系において関与することが示された。BRCPはまた、ローダミンおよびHoechst(ヘキスト)33462などのような色素を輸送する。その遺伝子はまた、胎盤のトロホブラスト(栄養膜)細胞において、および腸内で発現される。腸でのトランスポーターの抑制は、基質を経口的に利用可能にするのに有用である可能性がある。哺乳動物細胞における薬剤耐性に関与する三つの主要なトランスポーター遺伝子の一つとして、BCRPのありそうな関与を支持する証拠は、これらのABCトランスポーターの抑制または不活化が、薬剤耐性腫瘍の発症を予防するのに有用であり得ることを示す。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはABCG2でありうる。
(ii)SLCトランスポータースーパーファミリー
SLCトランスポータースーパーファミリーには、受動的トランスポーター、シンポーター(共輸送体)およびアンチポーター(対向輸送体)、ならびにミトコンドリアトランスポーターおよび小胞トランスポーター(小胞輸送体)が含まれる。受動的トランスポーターは、単純に濃度勾配を下がるように化合物を移動させ、その一方、能動的トランスポーターは濃度勾配に逆らって分子を輸送するためにエネルギー的に有利な補助基質(co-substrate)(非ATP)を利用する。〔レビューのために、He(ヒー)L.ら、Analysis and update of the human solute carrier (SLC) gene superfamily{ヒトの溶質キャリヤ(SLC)遺伝子スーパーファミリーの分析とアップデート}、Hum Genomics(ヒューマン・ゲノミクス)3、195-206(2009);およびHediger(ヘディガー)MAら、The ABCs of solute carriers: Physiological, pathological and therapeutic implications of human membrane transport proteins(溶質のキャリヤのABCs:ヒト膜輸送タンパク質の生理学的、病理学的および治療的な意味)、Pfleugers Arch(プフリューガー・アチーブ)447、465-468(2004)を参照〕。ADME/Toxのアプリケーションに関連するヒトSLCトランスポーターの非制限的な例を、表Bにリストする。
1)SLC10サブファミリー
SLC10サブファミリーはナトリウム/胆汁コトランスポーターのグループを含む。模範的なメンバーを以下に詳述する。
SLC10A1:またNTCPとして知られるが、SLC10A1は、胆汁酸の腸肝循環に加わるナトリウム/胆汁酸コトランスポーターをコードし、そして肝細胞の基底外側膜に見出される。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC10A1でありうる。
SLC10A2:SLC10A2は、ASBT、IBAT、ISBT、PBAM、NTCP2などのような一般名を有する。SLC10A2トランスポーターは、腸管腔、胆管、および腎臓において頂端細胞による腸の胆汁酸の取り込みのための主要なメカニズムである。胆汁酸は、コレステロール代謝の異化生成物であり、それでこのタンパク質はまた、コレステロールの恒常性のために重要である。この遺伝子における変異は、一次胆汁酸吸収不良(PBAM)を引き起こし、そしてこの遺伝子の変異はまた、たとえば、家族性高トリグリセリド血症(FHTG)などのような肝臓および腸の他の疾患と関係することがある。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC10A2であることができる。
2)SLC15サブファミリー
SLCサブファミリーは、プロトン結合ペプチドトランスポーター(PEPTs)のグループを含み、それらのメンバーは消化管における栄養素取得におけるそれらの役割について最もよく知られている。ペプチドトランスポーターは、多様なペプチド模倣薬に加えて、ジペプチドおよびトリペプチドの細胞取り込みを媒介する完全な形質膜タンパク質である。それらのキャリヤは、小腸、肺、脈絡叢および腎臓の上皮細胞の刷子縁膜において主に発生し、それらの基質の吸収、分布および排泄に寄与する。ペプチドおよびペプチド模倣薬の細胞の取り込みは、駆動力を提供し、そしてトランスロケーションステップの電気発生性を引き起こす、内側に向けて下方への、電気化学的プロトン勾配でのプロトンの共輸送を伴う。模範的なメンバーを以下に詳述する。
SLC15A1:SLC15A1はPEPT1タンパク質をコードし、それは、H+依存性、電気化学的な能動輸送機構による広範囲の中性、酸性、および塩基性のジ-およびトリペプチドおよびペプチド模倣薬物の輸送を可能にすることができる。SLC15A1は、腎臓および肝臓における発現も検出されているが、腸内で主に発現される。たとえば、潰瘍性大腸炎、Crohn's disease(クローン病)、および短腸症候群などのような腸の疾患は、結腸でのPEPT1過剰発現と関係すると考えられている。研究はPEPT1でのHis-57がトランスポーターの触媒機能のために必要な最も重要なヒスチジン残基であることを示した。腸のタンパク質消化は、PEPT1トランスポーターによって腸上皮細胞中に吸収される短鎖ペプチドの多様で膨大な量を生成する。同様に、ジ-あるいはトリペプチドで、アミノセファロスポリンおよびアミノペニシリンのようなもの、選定されたアンジオテンシン変換酵素インヒビター(アンジオテンシン変換酵素抑制物質)、およびアミノ酸共役ヌクレオシド系抗ウイルス剤の似た基本構造を有する様々な薬物は、PEPT1によって輸送される。細胞内への輸送後、小さなペプチドおよびペプチド様構造は、主に門脈血中への配送のための遊離アミノ酸にまで細胞内加水分解を受ける。PEPT1は、栄養的および薬理学的な療法において重要な役割を果たすことが示された。さらなる実施形態において、乱された発現を有するトランスポーターはSLC15A1である。
SLC15A2:SLC15A2は、PEPT2タンパク質や、腸、腎臓、脳、肺、肝臓および乳腺で発現する高親和性H+/ジペプチドトランスポーターをコードする。PEPT2は、PEPT1と比較して、基質認識および輸送のために、類似しているが同一ではない構造上の必要条件を有することが知られる。腸のキャリヤPEPT1は、アイソフォームPEPT2よりもほとんどの基質に対して低い親和性を有する。腎臓におけるPEPT2の生理的役割は、内腔のペプチダーゼ(ペプチド加水分解酵素)によって生成される小さなペプチドを再吸収することである。PDZK1(PDZドメイン含有の1)は直接的にPEPT2と相互作用し、PEPT2輸送活性の機能的調節が発揮される。PDZK1の共発現はPEPT2輸送活性を増強する。研究はPEPT2でのHis-87がトランスポーターの触媒機能のために必要な最も重要なヒスチジン残基であることを示した。さらに、PEPT2は、特に腎臓および脳において、体内のペプチド様薬物のインビボ体内動態および半減時間に及ぼす重要な影響を有する。代わりの実施形態において、乱された発現を有するトランスポーターはSLC15A2である。
3)SLC16サブファミリー
このサブファミリーは、ラクタート(乳酸塩)、ピルベート(ピルビン酸塩)、D,L-3-ヒドロキシブチラート(ヒドロキシ酪酸塩)、アセトアセタート(アセト酢酸塩)、アルファ-オキソイソへキサノアート(オキソイソへキサン酸塩)およびα-オキソイソバレラート(オキソイソ吉草酸塩)、ケトン体、ベータ-ヒドロキシブチラートを含むが、ジカルボン酸およびトリカルボン酸を含まない、モノカルボン酸の多種多様な可逆的輸送を媒介するプロトン連結型トランスポーターのグループを含む。モノカルボン酸は、乳酸の代謝に重要な役割を果たす。乳酸は、脳、心臓、赤色骨格筋および肝臓などのような組織の細胞中に急速に輸送されなければならず、それらはいくつかの条件の下で主要な呼吸燃料になることがある乳酸を容易に酸化する。このファミリーの模範的なメンバーを以下に詳述する。
SLC16A1:またMCT1として知られるが、SLC16A1は普遍的に発現され、赤血球、心筋、および基底外側腸上皮において特に豊富である。最近の研究では、ヒトの腸において短鎖脂肪酸(SCFAs)の管腔取り込みにおけるMCT1の関与を例示する。結腸組織におけるMCT1タンパク質の発現における著しい低下は、正常から悪性までの過渡期に観察された。結腸発ガンの間のMCT1発現における低下は、結腸粘膜内の組織恒常性を維持するプロセスに関連する遺伝子の発現を調節するために必要なブチラートの細胞内利用能を減少させうる。MCT1はまた、血液脳関門および脳実質細胞の細胞膜を横切るモノカルボキシラートの輸送を促進する。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC16A1であることができる。
SLC16A7:SLC16A7はモノカルボキシラートトランスポーター(モノカルボン酸トランスポーター)2(MCT2)をコードし、それは高親和性ピルバートおよびラクタートトランスポーターである。このトランスポーターは、精巣、脾臓、心臓、腎臓、膵臓、骨格筋、脳、および白血球を含む複数のヒト組織においてL-ラクタート、DL-3-ヒドロキシブチラート、3-ヒドロキシブチラート、およびDL-P-ヒドロキシブチラートによって抑制される。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC16A7でありうる。
SLC16A8:SLC16A8はMCT3、プロトン結合モノカルボキシラートトランスポーターをコードする。MCT3は、たとえば、ラクタート、ピルベートや、ロイシン、バリン、イソロイシン由来の分岐鎖オキソ酸、およびケトン体アセトアセタート、ベータヒドロキシブチラートおよびアセタートなどのような多くのモノカルボキシラートの、原形質膜を横切る迅速な輸送を触媒する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC16A8であってよい。
SLC16A3:SLC16A3は、骨格筋、大脳皮質、海馬および小脳において、モノカルボキシラートトランスポーター4(MOT4)をコードする。肥満は、インスリン抵抗性において高乳酸塩血症の一因となるLDHアイソザイムの再配分と関係する筋肉MOT4発現における変化に導く。代わりの実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC16A3であってもよい。
SLC16A4:SLC16A4は、細胞のグルコース代謝に重要な役割を果たすモノカルボキシラートトランスポーター5をコードする。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC16A4であってもよい。
SLC16A5:SLC16A5は、モノカルボキシラートトランスポーター6をコードし、それは様々な薬物を輸送するが、他のMCTアイソフォームの典型的な基質は輸送せず、他のMCTsのものとは異なる基質特異性を示す。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC16A5であってもよい。
4)SLC21/SLCOサブファミリー
このサブファミリーは、胆汁酸、共役ステロイド、甲状腺ホルモン、エイコサノイド、ペプチド、および多くの組織での多数の薬物の膜輸送に関与する有機アニオン輸送性ポリペプチド(OATPs)を含む。このファミリーの模範的なメンバーを以下に詳述する。
SLCO1A2:またOATP1A2として知られるが、SLCO1A2は、エストロゲン代謝産物の細胞取込みを媒介することができるタンパク質をコードする。胸部ガン細胞において、OATP1A2は、隣接する健康な胸部組織におけるものに比べてほぼ10倍高く発現される。PXR(核レセプター、プレグナンX受容体)アゴニストリファンピンはOATP1A2発現を誘導する。PXR応答要素は、ヒトOATP1 A2プロモーターで同定されたものであり、PXR-OATP1A2プロモーター相互作用の特異性が確認された。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO1A2であってもよい。
SLCO1B1:SLCO1B1は、またOATP1B1としても知られ、肝臓および脾臓における有機アニオン輸送性ポリペプチドをコードする。OATP1B1は、胆汁酸、甲状腺ホルモンおよびメトトレキサート、および多くのスタチンを含め、多数の内因性および外因性の物質を輸送することが示された。SLCO1B1における多数の普通の変異体は、スタチン誘発性ミオパチーのリスク増加と強く関係していることが確認された。スタチン療法の有効性および患者が有害作用を経験する可能性は、OATP1B1の変動によって予測することができる。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO1B1であってもよい。
SLCO3A1:SLCO3A1はまたOATP-Dとして知られる。OATP-D mRNAは主に、心臓、精巣、脳、および若干のガン細胞において豊富に存在する。OATP-Dは、特殊な組織および細胞におけるプロスタグランジンの移行で重要な役割を果たす。全ゲノム関連の研究は、注意欠陥多動性障害と関係したSLCO3A1における多型を識別する。OATP-Dスプライスバリアントは、異なった組織分布を見せ、そのうちの若干は、ヒト脳内の細胞外バソプレッシン濃度の調節に関与し、そしてバソプレシンなどのような脳神経ニューロペプチドによって神経伝達の神経調節に影響を及ぼす。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO3A1であってもよい。
SLCO4A1:またOATP-Eとして知られ、SLCO4A1は、もともとヒトの脳から分離されたものだが、そのmRNAは、様々な末梢組織におけて豊富にある。OATP-Eは、3,3’,5-トリヨード-L-チロニン、チロニンを輸送し、そして従って甲状腺ホルモンの代謝に重要な役割を果たす。Slco4a1遺伝子は、ヒト、チンパンジー、イヌ、カウ(ウシ)、マウス、チキン(ニワトリ)、ゼブラフィッシュ、フルーツフライ(ミバエ、ショウジョウバエ)、カ(蚊、モスキート)、およびシノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans、線虫)において保存されている。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO4A1であってもよい。
SLCO1C1:またOATP-Fとして知られ、この遺伝子は有機アニオントランスポーターファミリーのメンバーをコードし、脳組織において、甲状腺ホルモンのナトリウム非依存性の取込みが媒介される。このタンパク質は、甲状腺ホルモンのチロキシン、トリヨードチロニンおよび逆位トライヨードチロニンのために特に高い親和性を有する。このタンパク質をコードする遺伝子における多型は、甲状腺機能亢進症に罹患している受動体(患者)における疲労および抑うつと関係しうる。選択的スプライシングは、複数の転写産物変異体をもたらす。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO1C1であることができる。
SLCO4C1:またOATP-Hとしても知られるが、SLCO41はヒト腎臓固有の有機アニオントランスポーターをコードする。ヒトOATP-Hは、ナトリウム非依存性の様式において強心配糖体(ジゴキシン)、甲状腺ホルモン(トリヨードチロニン)、cAMP、およびメトトレキサートを輸送する。ラット腎臓におけるSLCO4C1の過剰発現は、腎不全の家系では、高血圧、心肥大、および炎症を減少させた。SLCO4C1での若干のSNPsはアフリカ系の女性での子癇前症のリスク増加と顕著に関係する。代わりの実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO4C1であってもよい。
SLCO1B3:SLCO1B3はまたOATP1B3、OATP8、またはLST3としても知られる。 OATP1B3タンパク質は、エストロゲン依存性胸部ガン細胞に対するエストロゲン前駆エストロン-3-サルフェート(エストロン3-硫酸塩)の供給に寄与するトランスポーターの一つである。SLCO1B3多型は、日本腎移植レシピエントにおけるプラズマミコフェノール酸グルクロニドの薬物動態に著しく影響を与える。SLCO1B3遺伝子の挿入変異型(insert-variant)対立遺伝子は、たとえば、血液透析患者におけるジゴキシンのような強心配糖体の濃度対用量比を増加させることがある。若干のSLC01B3変異は、軽度な非抱合型のビリルビン過剰血症の一因になる。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO1B3であってもよい。
SLCO2B1:またOATP-Bとして知られ、SLCO2B1は、ステロイドホルモン共役体(結合体)輸送の調節において機能しうるタンパク質をコードし、そしてたとえば、胎盤、脳および皮膚のようなステロイド産生活性を有する器官で発現される。選択的スプライスされた転写産物変異体は説明されている。OATP-Bは、骨格筋スタチン曝露および毒性のモジュレーターと識別された。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLCO2B1であってもよい。
5)SLC22サブファミリー
このサブファミリーは、2つのサブグループを含み、すなわち、1)有機アニオンのナトリウム依存性の輸送および排出に関与している有機アニオントランスポーター(OATs);および2)OCTトランスポーターであり、それらは、多くの内因性の小さな有機カチオンならびに数々の広範な薬物および環境有害物質の除去のために重要である肝臓、腎臓、腸、および他の器官における多特異性有機カチオントランスポーターである。このファミリーの模範的なメンバーを以下に詳述する。
SLC22A6:またOAT1として知られ、SLC22A6は、有機アニオンで、そのうちの若干は潜在的に有毒であるものの、ナトリウム依存性の輸送および排泄に関与するタンパク質をコードする。コードされたタンパク質は、膜内在性タンパク質であり、そして側底膜に局在することがある。四つの異なるアイソフォームをコードする四つ転写産物変異体は、この遺伝子について見出された。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A6であってもよい。
SLC22A7:またOAT2として知られ、SLC22A7は、膜内在性タンパク質であり、そして腎臓の基底膜に局在していると考えられるタンパク質をコードする。異なるアイソフォームをコードする選択的にスプライスされた転写産物変異体が説明された。ヒトOAT2トランスポーターは、cGMPの高効率の、促進性トランスポーター(facilitative transporter)であり、そして多くの組織においてcGMPのシグナル伝達に関与しうる。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A7であってよい。
SLC22A8:またOAT3として知られ、SLC22A7のように、SLC22A8はまた、腎臓の側底膜での膜内在性タンパク質でもあるタンパク質をコードする。ヒトOAT3トランスポーターは、腎臓におけるエダラボンサルフェートの基底外側の取込みの原因となり、そしてそれはまた、ロスバスタチンの腎取込みの一因である。ロスバスタチンは、低密度リポタンパク質コレステロールを減らすのに非常に有効である。臨床試験は、腎排泄、特に、尿細管分泌が、ロスバスタチンクリアランスの役割を果たしていることを実証した。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A8であってもよい。
SLC22A11:またOAT4として知られ、SLC22A11は、腎臓において、および胎盤において主に見出されるトランスポータータンパク質をコードし、それは潜在的に有害な有機アニオンが胎仔に達することを防止するために作用することができる。ヒトOAT4の遺伝的変異体は、内因性基質の改変された輸送を実証する。いくつかの自然に生じるSNPsは、重要な薬物基質の尿細管再吸収を損なうことがありうるOAT4変異体をもたらす。OAT4は、エストロンサルフェートおよびデヒドロエピアンドロステロンサルフェートの高親和性輸送を媒介する。閉経後の女性に起こる急激な骨量減少は、主としてエストロゲンの純減少による。研究は、OAT4変異体がアニオン性薬物の取込みでの個体間の変動を発生させることがあり、そして従って、骨粗しょう症を含む一定の疾患のためのマーカーとして使用することができることを示した。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A11であってもよい。
SLC22A9:またOAT7として知られるが、SLC22A9は、肝細胞におけるブチラートの代わりに硫酸抱合体(sulfate-conjugates)を輸送する有機アニオントランスポーターをコードする。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A9でありうる。
SLC22A1:またOCT1として知られるが、SLC22A1は、肝臓、腎臓、腸、および他の器官において発現する多特異性有機カチオントランスポーターをコードする。SLC22A1トランスポーターは、多くの内因性の小さな有機カチオン、ならびに薬物および数々の広範な環境有害物質の除去のために重要である。二つの異なるアイソフォームをコードする二つの転写産物変異体は、この遺伝子について見出されたが、唯一のより一層長い変異は機能的トランスポーターをコードする。ヒトOCT1転写産物レベルおよび一塩基多型は、慢性骨髄性白血病におけるイマチニブへの応答と関係する。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A1であってもよい。
SLC22A2:またOCT2として知られるが、この遺伝子は、第6染色体上のクラスター内に位置する三つの類似したカチオントランスポーター遺伝子の一つである。コードされたタンパク質は、十二の推定膜貫通ドメインを含み、およびプラズマ膜内在性タンパク質である。それは主に腎臓で見出され、そこではそれはカチオン再吸収での最初のステップを媒介することができる。若干のSNPsは、クレアチニン産生および分泌に影響を及ぼす可能性があることが確認されている。代わりの実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A2であってもよい。
SLC22A3:SLC22A3はまたOCT3として知られている。OCT3遺伝子(SLC22A3)における一塩基多型(SNPs)の機能的特性が分析された。若干のSNPsは、基質の減少した取込みを示し、そして一定の病気のプロセス、たとえば、高血圧症、アレルギー疾患、および生体アミンなどのような内因性の有機カチオンのクリアランスによる精神神経疾患などのようなものにおいて異なる。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A3であってもよい。
SLC22A4:SLC22A4はまたOCTN1として知られる。コードされたタンパク質は、有機カチオントランスポーターおよび形質膜内在性タンパク質であり、十一の推定膜貫通ドメイン、ならびにヌクレオチド結合部位モチーフを含む。このタンパク質による輸送は、少なくとも部分的にATP依存性である。SLC22A4の一つのSNPはクローン病と関係する。OCTN1は、エルゴチオネインの全身および腸の曝露の維持のために極めて重要な役割を果たし、そして炎症性腸疾患を区別するための可能な診断ツールを提供することができる。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A4であってもよい。
SLC22A5:SLC22A5はまたOCTN2として知られる。コードされたタンパク質は、有機カチオントランスポーターとして、およびナトリウム依存性高親和性カルニチントランスポーターとしての両方として機能するプラズマ膜内在性タンパク質である。コード化されたタンパク質は、カルニチンの活性な細胞取込みに関与する。この遺伝子での変異は、全身原発性カルニチン欠乏症(systemic primary carnitine deficiency)(CDSP)と、ハイポケトティック低血糖症(hypoketotic hypoglycemia)急性代謝代償不全によって人生の早い段階で、およびミオパチー(筋障害)または心筋症によってその後の人生において明らかにされた常染色体劣性遺伝疾患と関係する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC22A5であってもよい。
6)SLC47サブファミリー
SLC47サブファミリーは、尿および胆汁を通じて、内因性および外因性の両方の毒性電解質の排泄に関与するトランスポーターのグループを含む。模範的なメンバーを以下に詳述する。
SLC47A1:またMATE1〔マルチドラッグ・アンド・トキシン・エクストルージョン1(多剤および毒素放出1)〕として知られるが、この遺伝子は第17染色体上のスミス - マゲニス症候群(Smith-Magenis syndrome)領域内に位置する。一実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC47A1であってもよい。
SLC47A2:SLC47A1と同様に、SLC47A2は薬剤耐性の原因である。異なるアイソフォームをコードする選択的スプライスされた転写産物変異体は、この遺伝子について確認された。別の実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはSLC47A2であってもよい。
7)種々のトランスポーター
OSTα-OSTβ:有機溶質トランスポーター(OSTアルファ-OSTベータ)が腸、腎臓、肝臓、精巣および副腎において上皮の側底膜上に発現するヘテロマーのトランスポーターであり、胆汁酸および他のステロイド溶質の流出を促進する。双方のサブユニットは、機能的なトランスポーターの形質膜局在化に必要とされる。さらなる実施形態では、乱された発現を有するトランスポーターはOSTα-OSTβであってもよい。
(b)薬物代謝酵素
他の実施形態では、ADME/Toxタンパク質は、薬物代謝酵素(DME)でありうる。薬物代謝酵素(DMEs)は、生体異物が、尿または胆汁中に排泄されるためにより一層適切な親水性分子に変換されるのを容易にする。薬物代謝は主に酸化、還元、加水分解、または抱合酵素によって媒介され、そして直接に、薬物効果および毒性に影響を与える。薬物代謝酵素は、2つのグループ:第I相酵素および第II相酵素に分けられる。
第I相酵素は、シトクロムP450s(CYPs)およびフラビンモノオキシゲナーゼ(フラビン一酸素原子付加酵素)(FMOs)を含む酸化的な薬物代謝酵素であり、それは、基質分子への酸素原子の導入を触媒し、大抵は水酸化または脱メチル化がもたらされる。ADME/Toxアプリケーションに関連する第I相酵素の非制限的な例を、表Cに提供する。
第II相酵素は、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(グルクロン酸転移酵素)(UGTs)、グルタチオントランスフェラーゼ(GSTs)、スルホトランスフェラーゼ(硫酸基転移酵素)(SULTs)、N-アセチルトランスフェラーゼ(アセチル基転移酵素)(NATs)、およびメチルトランスフェラーゼ(メチル基転移酵素)を含む複合酵素ファミリーであり、それは、生体異物への内因性小分子の接合を触媒し、それは通常、より一層容易に排泄される可溶性化合物の形成をもたらす。〔レビューのために、すなわち、Jancova(ヤンコバ)ら、Phase II metabolizing enzymes(第II相代謝酵素)、Biomed Pap Med Fac Univ Palacky Olomouc Czech Repub(バイオメディカル・ペーパーズ・オブ・ザ・メディカル・ファカルティー・オブ・ザ・ユニバーシティー・パラツキー・オロモウツ・チェコスロヴァキア共和国)154、103-116(2010)を参照〕。ADME/Toxのアプリケーションに関連する第II相酵素の非制限的な例を表Dに提供する。
このように、薬物代謝酵素は、細胞中への生体異物の流入、または代謝性生体内変換の触媒を介した細胞外空間への押出を媒介することによって薬物動態におけるトランスポーターと共に補完的な役割を果たす。以下のセクション(II)で詳述するように、遺伝子改変された細胞で、乱された発現を有するDMEsが含まれ、非発現、過剰発現、または過小発現を有するかどうかを問わないもの、および乱された発現を有するトランスポーターは、インヒビターのスクリーニングを促進し、薬剤の速度パラメータ、および代謝産物毒性評価を定める強力なツールを提供する。
(i)第I相酵素
第I相酵素には、チトクロームP450(CYP)酵素、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)酵素、アルコール/アルデヒド代謝酵素、カルボキシルエステラーゼ(CES)、エポキシドヒドロラーゼ(エポキシド加水分解酵素)(EPHX)、モノアミンオキシダーゼ(モノアミン酸化酵素)(MAO)、およびペルオキシダーゼ(過酸化酵素)が含まれ、それらを以下に詳述する。
1)シトクロムP450酵素
シトクロムP450(CYP)酵素は、ヒトでは57のメンバーが含まれる触媒の多様なグループである。CYPsは、通常、膜結合性であり、そしてミトコンドリア内または小胞体膜(endoplasmic reticular membrane)に局在している。CYPsはオキシゲナーゼ活性を有し、および一般に酸化還元反応を触媒し、基質の酸化および水の還元が含まれる。このグループの酵素には、活性部位内ヘムイオンが含まれ、それは触媒活性に不可欠である。CYPsは、試験されたすべての有機体において見出され、そして遍在的に発現される。それらは肝臓において高レベルで見出され、そこではそれらは薬物および内因性毒性化合物(たとえば、ビリルビン)の代謝において重要な役割を有する。ほとんどのCYPsは、非常に多くの基質を代謝することができ、そしてこれは薬物相互作用におけるそれらの主要な役割を占める。CYPsはまた、ステロイドホルモン合成、コレステロール合成およびビタミンD代謝において機能を有する。模範的なCYPsを以下に詳述する。
CYP1A2:カフェインは、初期N3-脱メチル化を通じて肝臓において主にCYP1A2によって代謝される。CYP1A2はまた、アフラトキシンB1およびアセトアミノフェンの代謝において作用する。CYP1A2は、発ガン性芳香族および複素環アミン類の生体内活性化に関係する。CYP1A2は複素環式アミンのN-ヒドロキシル化およびフェナセチンのO-脱メチル化を触媒する。大きな個体差がこの酵素のレベルにおいて見出され、それは主にオープンリーディングフレーム(ORF)に位置するいくつかの異なる多形遺伝子変異体の分布に起因する。一実施形態では、乱された発現を有するDMEはCYP1A2であるかもしれない。
CYP2A6:CYP2A6は、主要なニコチンC-オキシダーゼを構成している。それは高いクマリン7-ヒドロキシラーゼ(水酸化酵素)活性を示す。それは、抗ガン剤のシクロホスファミドおよびイホスファミドのヒドロキシル化に作用する。それは、アフラトキシンB1の代謝活性化で反応能を有し、そしてそれは低フェナセチンO-脱メチル化活性を有する。別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはCYP2A6でありうる。
CYP2B6:このタンパク質は小胞体に局在し、そしてその発現はフェノバルビタールによって誘導される。CYP2B6は、NADPH依存性電子伝達経路に関与する。その酵素は、たとえば、抗ガン剤シクロホスファミドおよびイホスファミドなどのような若干の生体異物を代謝することが知られる。この遺伝子転写産物バリアントが記載された。さらなる実施形態において、乱された発現を有するDMEはCYP2B6でありうる。
CYP2C8:この酵素は、抗けいれん薬メフェニトイン、ベンゾ(a)ピレン、7-エチオキシクマリン(ethyoxycoumarin)を含め、多くの生体異物を代謝することが知られる。それは、抗ガン剤のパクリタキセル(タキソール)代謝の原因となる主要な酵素である。この遺伝子は染色体10q24上のシトクロムP450遺伝子のクラスター内に位置する。少数の異なるアイソフォームをコードするいくつかの転写産物変異体は、この遺伝子について見出された。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはCYP2C8であってもよい。
CYP2C9:この酵素は、フェニトイン、トルブタミド、イブプロフェンおよびS-ワルファリンを含む、多くの生体異物を代謝することが知られる。CYP2C9は、S-ワルファリン、ジクロフェナク、フェニトイン、トルブタミドおよびロサルタンなどのような薬物の代謝の多種薬物動態変動性の一因となり、この遺伝子がポリモーフィック(多形性)であることを示唆する。この遺伝子は染色体10q24上のシトクロムP450遺伝子のクラスター内に位置する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはCYP2C9であってよい。
CYP2C19:CYP2C19は、抗けいれん薬のメフェニトイン、オメプラゾール、ジアゼパムおよび若干のバルビツール酸塩を含む、多くの生体異物を代謝する。この遺伝子内の多型は、メフェニトインを代謝する変動能力と関係し、不十分なメタボライザー(不全な代謝体、poor metabolizer)および多数のメタボライザー(extensive metabolizer)の表現型として知られる。この遺伝子は染色体10q24上のシトクロムP450遺伝子のクラスター内に位置する。代わりの実施形態では、乱されたは発現を有するDMEはCYP2C19でありうる。
CYP2D6:このタンパク質は、小胞体に局在し、そして一般に定められた薬物の20%ほども多くを代謝することが知られる。その基質には、デブリソキン、アドレナリン(受容体)遮断薬;スパルテインおよびプロパフェノン、両方の抗関節炎(anti-arrythmic)薬;およびアミトリプチリン(amitryptiline)、抗うつ薬が含まれる。この遺伝子は、集団において高度に多型であり;一定の対立遺伝子は、不十分なメタボライザー表現型をもたらし、酵素の基質を代謝する能力の低下によって特徴付けられる。この遺伝子は、染色体22q13.1上の2つのチトクロームP450偽遺伝子の近くに位置する。選択的にスプライスされた転写産物変異体は、異なるアイソフォームをコードし、この遺伝子について見出される。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはCYP2D6でありうる。
CYP2E1:CYP2E1は、アセトアミノフェン肝毒性につながる事象のカスケードを開始させる律速チトクロームP450酵素である。CYP2E1の不存在下に、毒性は高濃度で明らかになるだけであろう。CYP2E1は、アルコールおよび活性酸素種の産生および酸化ストレスを導くことがあるエタノール酸化を行うプライマリP450によって誘導される。この経路の活性化は、反応性酸素を生じる化学物質によって刺激されたアポトーシス細胞死を抑制するが、多価不飽和脂肪酸によって生成された壊死性細胞死を促進する。別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはCYP2E1でありうる。
CYP3A/3A5:CYP3A4は、シトクロムP450ファミリーの中で最も豊富に発現するメンバーであり、そして定められた薬の50%よりも多くの代謝に関与した。CYP3A4は、肝臓および小腸のような薬物動態の鍵となる部位で高度に発現される。しかし、CYP3A4の発現および/または機能の個体間変動は、5-および20倍の間にあると推定された。CYP3A4の発現は、多数の核受容体によって調節される。CYP3A5は、肝外組織で発現された優勢な形態である。さらなる実施形態において、乱された発現を有するDMEはCYP3A/3A5でありうる。
CYP3A7:CYP3A7はCYP3Aファミリーのメンバーである。CYP3A7は、大部分が胎仔形態であり、成体ではまれにしか発現されない。
シトクロムp450オキシドレダクターゼ(酸化還元酵素)(POR):PORは、すべてのCYP酵素のための還元当量を提供するオキシドレダクターゼである。これは、CYPの機能に不可欠であり、そのため、CYP活性の全体的な抑制のために魅力的な標的である。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはPORでありうる。
2)フラビン含有モノオキシゲナーゼ
フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMOs)は、ヘテロ原子、特に、たとえば、アミンの窒素、または様々な生体異物の硫黄およびリンのヘテロ原子などのような求核性原子の酸化を触媒する。チトクロームP450と同様に、FMOsはNADPHおよび酸素を必要とするが、フラビン部分を含む異なる触媒機構を利用する。それらはまた、CYPsと同じ調節機構下にない。FMO3は大部分がヒト肝アイソフォームであるが、FMO1は腎臓において優勢な形態である。
FMO1:FMO1はヒト腎臓における主要なFMOであるが;しかし、それは肝臓において、非常に低いレベルで発現されているに過ぎない。FMO1は、FMO3のものとは異なる基質特異性を有し、その一方、FMO1はN-酸素負荷性(N-oxygenating tertiary)第三級アミンで高効率であるに過ぎない。双方のFMO1およびFMO3は、多数の求核性硫黄含有基質をS-酸素負荷する。一実施形態では、乱された発現を有するDMEはFMO1でありうる。
FMO3:FMO3はヒト肝ミクロソームにおける主要なFMOである。このアイソフォームは、(S)-ニコチンを(S)-ニコチンN-1′酸化物に変換するのにもっぱら関与するのでないとしても、支配的であり、そしてまた、シメチジンのS-酸素負荷に関わる主要な酵素、胃潰瘍を治療するのに一般的に使用される古いH2-拮抗薬である。食餌から由来するアミノトリメチルアミン(TMA)のN-酸化は、FMO3によって触媒され、そしてこの遺伝子の遺伝性多型を有するヒトは、この基質に向けた活性が減少し、トリメチルアミン尿と呼ばれる珍しい魚臭症候群がもたらされる。代わりの実施形態では、乱された発現を有するDMEはFMO3でありうる。
3)アルコール/アルデヒド代謝酵素
アルコールデヒドロゲナーゼ(アルコール脱水素酵素)(ADH):ADHは、第一級および第二級アルコールのアルデヒドおよびケトンへの酸化を、それぞれ触媒する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはADHであってもよい。
アルデヒドオキシダーゼ(アルデヒド酸化酵素)(AOX):AOXは、アルデヒドからカルボン酸を生成する酵素である。それはヒト肝臓において存在し、そしてそれはファムシクロビルを含め、多数の薬物の代謝に関与する。また、この酵素は、多くの一般的に定められた薬物による抑制の対象となり、そしてそのため、有害な薬物-薬物相互作用についての潜在的な供給源である。さらなる実施形態において、乱された発現を有するDMEはAOXでありうる。
アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH):ALDHはまた、アルデヒドのカルボン酸への酸化を触媒する酵素の多型ファミリーである。ALDHの三つの異なるクラスがあり、それらのすべてには、構成型および誘導型が含まれる。ヒト肝臓での最も一般的なアイソフォームはALDH1およびALDH2である。脂肪アルデヒドデヒドロゲナーゼは、Sjogren-Larsson syndrome(シェーグレン-ラルソン症候群)と関係するALDH酵素である。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはALDHでありうる。
アルド-ケトレダクターゼ(アルド・ケト還元酵素)(AKR):また、アルデヒドレダクターゼとして知られ、この酵素は、生体アルデヒドおよび生体異物アルデヒドの還元に関与しており、そして事実上あらゆる組織に存在する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEは、AKRであってもよい。
4)カルボキシルエステラーゼ
哺乳類カルボキシルエステラーゼ(哺乳類カルボキシルエステル分解酵素)(CES)は、そのメンバーが多様な組織に広く分布する多重遺伝子族(多重遺伝子ファミリー)を表す。これらの酵素は、エステルまたはアミド結合を含むほとんどの治療上の薬物の薬物動態学的挙動の主な決定要因である。さらに、多くのプロドラッグは、特にカルボキシルエステラーゼ活性によって開裂時に活性化するように設計される。代わりの実施形態では、乱された発現を有するDMEはCESでありうる。
5)エポキシドヒドロラーゼ
エポキシドヒドロラーゼ(EPHX)は、アレーンおよびアルケン酸化物(エポキシド)を、水の添加を介してジヒドロジオールに変換する。エポキシドは毒物学において重要であり、それは、それらが変異原性および発ガン性について知られているからである。エポキシドの加水分解は、一般的に、いくつかのケース(例は、ベンゾ〔a〕ピレン)では、解毒反応であると考えられているが、エポキシドの代謝物は、さらにより一層変異原性および発ガン性である。ヒトは、エポキシドヒドロラーゼの4つのアイソザイムを発現し、それはミクロソームおよび細胞質の双方の細胞区画に位置する。さらなる実施形態において、乱された発現を有するDMEはEPHXでありうる。
6)モノアミンオキシダーゼ
モノアミンオキシダーゼ(モノアミン酸化酵素)(MAO)は、肝臓、腎臓および脳のミトコンドリア画分に位置するフラビンタンパク質である。それらは、第一、第二、および第三脂肪族アミンの脱アミノ化を触媒する。ヒトのMAO-AおよびMAO-BにおいてはMAOの2つの主要なタイプがある。MAOsは、神経伝達物質の不活性化において重要な役割を果たしており、そして多数の薬物がそれらの活性を抑制するために開発された。MAO-Aインヒビターは、抗うつ薬および抗不安剤として使用されるが、MAO-Bインヒビターは、Alzheimer's disease(アルツハイマー病)およびParkinsons disease(パーキンソン病)を処置するために単独で、または組合せで使用される。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはMAOでありうる。
7)ペルオキシダーゼ
ペルオキシダーゼは、過酸化水素または有機ヒドロペルオキシドの還元を触媒する。多数の哺乳類ペルオキシダーゼが、ミエロペルオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼおよびプロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ(PHSまたはCOX-2)を含め、存在する。過酸化物の還元は、ドナー分子の酸化と一体になり、それは内因性分子または様々な生体異物化合物のいずれでもありうる。生体異物の酸化はしばしば共酸化(cooxidation)と呼ばれ、広く文書化されている。たとえば、芳香族アミンが、PHSによって潜在的に毒性の窒素および酸素中心フリーラジカルに共酸化されることは実証されている。しかしながら、薬物の全体的な生体内変換および毒性におけるペルオキシダーゼ触媒反応の最終的な重要性は、大部分は依然として不明である。さらなる実施形態では、乱された発現を有するDMEはペルオキシダーゼであってもよい。
(ii)第II相酵素
上記に詳述したように、第II相酵素には、グルタチオントランスフェラーゼ、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、N-アセチルトランスフェラーゼ、およびメチルトランスフェラーゼが含まれる。
1)グルタチオンS-トランスフェラーゼ
グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)の細胞質および膜結合形態は、二つの異なる超遺伝子ファミリーによってコードされる。GST酵素は、発ガン性物質、治療上の薬物、環境有害物質および酸化ストレスの生成物を含め、求電子化合物の解毒において、グルタチオンとの抱合によって機能する。現時点で、可溶性細胞質性哺乳類グルタチオンS-トランスフェラーゼの8つの異なるクラスが識別されており、それはすなわち、アルファ、カッパ、ムー、オメガ、ピー(パイ)、シグマ、シータおよびゼータである。ADME/Toxの適用に関連するGSTsの非制限的な例を、以下に詳述する。
GSTA1:この遺伝子はアルファクラスに属するグルタチオンS-トランスフェラーゼをコードする。アルファクラス遺伝子は、第6染色体にマッピングされるクラスターに位置し、肝臓において最も豊富に発現されたグルタチオンS-トランスフェラーゼである。肝臓においてビリルビンおよび一定の抗ガン剤を代謝することに加え、これらの酵素のアルファクラスは、グルタチオンペルオキシダーゼ活性を示し、それによって、反応性酸素種および過酸化の生成物から細胞が保護される。一実施形態では、乱された発現を有するDMEはGSTA1でありうる。
GSTA2:求電子物質および活性酸素種に対する防御適応応答は、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GSTs)を含めて、遺伝子の第II相無害化の誘導によって媒介される。GSTA2遺伝子発現は、Nrf2(NF-E2関連因子-2)を介した酸化ストレスによって誘導される。肝細胞における(一)酸化窒素シンターゼ(酸化窒素合成酵素)は、GSTA2誘導のために必要である。別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはGSTA2でありうる。
GSTA4:内皮細胞におけるグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(transferees)(GSTs)の過剰発現は、たとえば、4-HNEのようなアルデヒドからの酸化的損傷に対して保護する。GSTA4は4-HNEの解毒およびiNOSのアップレギュレーション(誘導型酸化窒素シンターゼ)を通じてアテローム発生に対して重要な防御的な役割を果たしうる。4-HNEは、アポトーシスを誘導し、そしてNF-カッパBの移行をトリガーし、そしてそれゆえに、iNOSのようなNF-カッパBの媒介遺伝子発現をアップレギュレートする。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはGSTA4であってもよい。
GSTM1:GSTM1はグルタチオンS-トランスフェラーゼ多重遺伝子ファミリーのミュー(ムー)サブファミリーのメンバーである。双方のGSTT1(シータサブファミリーのメンバー)およびGSTM1は、候補ガン感受性遺伝子であり、排出可能な親水性代謝産物への発ガン性化合物の結合を調節するそれらの能力のためである。酵素機能の欠如と関係する欠失体は、これらの双方の遺伝子座に存在する。GSTM1またはGSTT1遺伝子のホモ接合型欠失のキャリヤである個体は、代謝的に発ガン性化合物を除去する能力の障害があるかもしれず、したがって、増加したガンリスクがありうる。GSTM1およびGSTT1の関係はガン感受性に影響を及ぼす。ホモ接合GSTM1およびGSTT1欠失キャリヤの頻度は、ほとんどの集団において非常に高い(すなわち、20-50%)。また、GSTM1および、おそらく、GSTT1は、1つよりも多くの部位でのガンの病因に関与することができる。代わりの実施形態では、乱された発現を有するDMEはGSTM1でありうる。
2)UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ
UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)は、ヒドロキシル基、アミノ基およびチオール基にグルクロン酸が付加することを触媒する膜結合酵素である。これらの酵素の基質には、ステロイド、ビリルビン、ホルモン、および多くの薬物などのような内因性分子が含まれ、典型的にそれらが水溶性、排泄可能な代謝産物(β-Dグルクロニド)に変換する。四つのUGTファミリーはこれまでに説明された22の個々の酵素と共にヒトにおいて識別されている(UGT1、UGT2、UGT3およびUGT8)。最も重要な薬物接合性UGTs(drug conjugating UGTs)はUGT1およびUGT2のファミリーに属する。これらの形態の多くは、主要な場所として肝臓に広い組織分布を有する。特に、UGT1A1、1A3、1A4、1A6、1A9、2B7および2B15の酵素が最も重要なヒト肝UGTsであると考えられている。対照的に、UGT1A7、1A8および1A10は、主に消化管において発現される。ADME/Toxのアプリケーションに関連するUGTsの非制限的な例を、以下に詳述する。
UGT1A1:UGT1A1は、ビリルビンのグルクロン酸化(グルクロン酸抱合)の原因となるアイソフォームである。また、単純フェノール、アントラキノン/フラボノン(flavonones)およびC18ステロイドの接合において適度な活性および複合フェノールおよびクマリンの接合において低活性を示す。UGT1A1遺伝子は、少なくとも9つのプロモーターおよび9つの異なるUGT1A1酵素をもたらすために4つの共通のエクソンによりスプライシングすることができる第一のエクソンで構成される(第一エキソン3、11および12は偽遺伝子である)。プロモーターにおける50よりも多くの遺伝的変異および遺伝子のコード領域は、目下、酵素活性を低下することが知られており、体質性非抱合型黄疸〔Crigler-Najjar(クリグラー-ナジャー)またはGilbert's(ギルバートの)症候群〕が導かれる。UGT1 A1は、抗ガン剤、イリノテカン(CPT-11)の骨髄および胃腸の副作用における役割を果たすことが知られている。イリノテカンは主に肝臓で変化せずに、マイナー程度に腎臓で除去される。肝臓では、薬物はCYP3A4によって不活性な代謝産物に、およびSN-38、カルボキシルエステラーゼ酵素によって活性代謝産物に変換することができる。SN-38はさらに、UGT1A1によって、SN-38グルクロニド(グルクロン酸抱合体)(SN-38G)に代謝される。血液中のSN-38高濃度は毒性と関係する。一実施形態では、乱された発現を有するDMEはUGT1A1でありうる。
UGT1A3:カルボン酸の結合に関与する主要なUGTsの一つである。さらなる実施形態において、乱された発現を有するDMEはUGT1A3でありうる。
UGT2B7:UGT2B7は、ステロイドホルモンならびに胆汁酸および生体異物を抱合するUGT2Bファミリーのメンバーである。UGT2Bsは、たとえば、皮膚、胸部、前立腺、脂肪、および腸のような非常に多くのヒト組織で発現され、そしてステロイド代謝および排泄を調節するために仮説として取り上げられる。UGT2B7はオピオイドのグルクロン酸抱合の原因となる主要酵素である。多型は、基質特異性またはUGT2Bファミリーアイソザイムの酵素活性を修飾しうることが識別された。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはUGT2B7であってもよい。
3)スルホトランスフェラーゼ
スルホトランスフェラーゼ(SULT)酵素は、多くのホルモン、神経伝達物質、薬物、および生体異物化合物の硫酸抱合を触媒する。これらの反応は、O-硫酸化が優性スルホン化反応を表すが、適切な分子のO-、N-またはS-アクセプター基によって生じることができる。硫黄ドナーは典型的に、3'-ホスホアデノシン5'-ホスホサルフェート(ホスホ硫酸)(PAPS)である。現在までに、4つのヒトSULTファミリーが少なくとも13の個別のメンバーと共に識別されている。これらの細胞質酵素は、それらの組織分布および基質特異性において異なる。遺伝子構造(エクソンの数および長さ)はファミリー間で類似する。ADME/Toxの適用に関連するSULTsの非制限的な例を、以下に詳述する。
SULT1A1:この酵素は、肝臓においてSULT1酵素の最も高い発現を示す。SULT1A1は、広い基質範囲を有し、そして非常に多くのフェノール化合物の硫酸化に関与する。またそれは、フェノールスルホトランスフェラーゼ(フェノール硫酸転移酵素)および熱安定性フェノールスルホトランスフェラーゼと称された。共通の遺伝的多型〔コーカサス人(白色人種)で25-36%〕はArg213がHisに置き換えられたSULT1A1について知られている。この部位でのHisについてのペイシェント(患者)ホモ接合体は著しく減少した血小板スルホトランスフェラーゼ活性を有する。一実施形態では、乱された発現を有するDMEはSULT1A1でありうる。
SULT1A2:SULT1A2はいくつかの芳香族ヒドロキシルアミン(aromatic hydoxylamines)のスルホン化に関与する。この反応で形成された荷電種(ヒドロキシルアミンの硫酸抱合体)は、化学反応性であり、変異原性である。代わりの実施形態では、乱された発現を有するDMEはSULT1A2でありうる。
SULT1A3:熱不安定性フェノールSULTおよびモノアミンスルホトランスフェラーゼとして予め知られる。それは単環フェノール類に対して高い親和性を示す。SULT1A3は、肝臓を除いて、ほとんどの成体組織で発現される。SULT1A3また、カテコールアミンのスルホン化において役割を果たし、それゆえ、神経伝達物質のレベルを調節するのに役立つ。ドーパミンはしばしばSULT1 A3の活性について選択的プローブとして使用される。さらなる実施形態において、乱された発現を有するDMEはSULT1A3でありうる。
SULT1B1:SULT1 B1の基質特異性は、甲状腺ホルモンおよび1-ナフトールおよび4-ニトロフェノールのような小フェノール化合物に制限される。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはSULT1B1でありうる。
SULT1E1:またエストロゲンスルホトランスフェラーゼと呼ばれる。この酵素は、任意の他のSULTsよりもエストロゲンに高い親和性を有する。SULT1E1は、双方のエストロゲンの代謝において、およびそれらの活性の調節において重要でありうる。この酵素はまた、ヨードチロニン、プレグネノロン、1-ナフトール、ナリンゲニン、ゲニステインおよび4-ヒドロキシタモキシフェンに向けた活性をも示す。代わりの実施形態では、乱された発現を有するDMEはSULT1E1でありうる。
4)N-アセチルトランスフェラーゼ
ヒトゲノムでの二つのアリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(NAT)遺伝子、NAT1およびNAT2がある。これら二つの遺伝子によりコードされる酵素は、アセチルCoAから様々なアリールアミンおよびヒドラジン基質へのアセチル基の転移を触媒する。この酵素は、薬物および他の生体異物を代謝するのに役立ち、および葉酸異化において機能する。異なるアイソフォームをコードする複数の転写産物変異体は、この遺伝子について見出されている。
NAT1:アリールアミンN-アセチル-1(NAT1)は、二分脊椎などのような葉酸代謝を伴う疾患、ならびに非常に多くのヒトガンと関係している。NAT1活性の転写および転写後調節に加え、ヒストンデアセチラーゼインヒビターのトリコスタチンA(TSA)は、後成的調節を通して、ヒトガン細胞におけるNAT1活性を上昇させる。TSAはNAT1近接NATbプロモーターと関係するヒストンのアセチル化を増加させた。これは、アセチル化ヒストンと共にプロモーターに対するSP1、転写因子の漸増を可能にした。NAT1転写は、NATbの近傍で局所クロマチン凝縮によって部分的に抑制され、そのヒストンデアセチラーゼ抑制は、クロマチンコンフォメーションにおける直接変化を介してNAT1発現のアップレギュレーションをもたらす。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはNAT1であってもよい。
NAT2:アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)もまた、発ガン性物質の生体内変換において重要な酵素であり、そして遺伝的多型を示す。N-アセチル化が解毒ステップである、芳香族アミンに関連する膀胱ガンなどのようなガンについては、NAT2アセチル化遅行表現型(slow acetylator phenotype)は、より高い危険にさらされている。複数の研究では、膀胱ガンのリスクが、最も遅いNAT2アセチル化表現型または遺伝子型〔NAT2(*)5〕で特に高いことが示された。これとは対照的に、N-アセチル化は無視でき、そしてO-アセチル化が複素環アミン関連の結腸ガンについてのように活性化ステップ工程であるガンについては、NAT2アセチル化急速表現型(rapid acetylator phenotype)は、より一層高い危険にさらされている。これとは対照的に、NAT1遺伝子型および様々なガンとの間の関連はあまり一貫していない。代わりの実施形態では、乱された発現を有するDMEはNAT2でありうる。
5)メチルトランスフェラーゼ
カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT):COMTは、カテコールアミンの水酸基の一つに、メチルドナー(メチル供与体)としてS-アデノシルメチオニンを用いて、メチル基の付加を触媒する。この酵素は、内因性および生体異物の双方の基質メチル化する。内在性基質の例としては、神経伝達物質のドーパミン、エピネフリンおよびノルエピネフリンが含まれる。別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはCOMTでありうる。
チオプリンS-メチルトランスフェラーゼ(TPMT):TPMTは、たとえば、6-メルカプトプリン、アザチオプリンおよび6-チオグアニンのようなチオプリン抗ガン剤を含めて、チオプリン化合物のメチル化を触媒する。この酵素活性に影響する遺伝的多型は、個体内でのこれらの薬物に対する感受性および毒性の変化と相関する。たとえば、TMPTの低下した活性は、チオプリンヌクレオチドの蓄積を起こし、そして高められた骨髄毒性と相関する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有するDMEはTPMTであってもよい。
(c)生体異物センサー
他の実施形態では、乱された発現を有するADME/Toxタンパク質は、生体異物センサーであることができる。核レセプターは、組織特異的遺伝子発現のモジュレーター(調節因子)として機能する転写因子の最大の既知のファミリーである。核レセプタースーパーファミリーの49の既知のメンバーがある。ホルモン、胆汁酸、脂質、エイコサノイド(eicosonoid)、薬物、または他の生体異物などのようなリガンドが細胞に入り、そしてサイトゾル(細胞質)核レセプター(核内受容体)に結合するとき、受容体が活性化される。一旦活性化されると、次いで、リガンド-核レセプター複合体は、核に移行し、そこではそれがコアクチベーターを補充し、そしてホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成する他の核レセプターに結合する。得られる二量体複合体は、標的遺伝子の調節領域に結合し、そこでそれは転写活性を調節することができる。したがって、核レセプターはまた、生体異物センサーとして働く。また、核レセプタースーパーファミリー内のリガンド活性化転写因子は、たとえば、腸、肝臓、および腎臓などのような器官におけるDMEsおよび薬物トランスポーターの協調的発現に重要である。
核レセプター(例は、AhR、PXR、およびCAR)および細胞特異的因子(例は、HNF4α)は、CYPsの発現および活性ならびに第II相酵素およびトランスポーターの双方を含め、酵素誘導のために必要とされる。たとえば、CYP3A4、肝臓および小腸においてDMEシトクロムP450ファミリーの最も豊富に発現するメンバーは、プレグナンX受容体(PXR)、構成的アンドロスタン受容体(CAR)、グルココルチコイド受容体(GR)、肝細胞核因子4α(HNF4α)、ファルネソイドX受容体(FXR)、およびビタミンD受容体(VDR)を含め、多数の核レセプターによって誘導される。他の核レセプターとしては、制限されないが、肝臓X受容体(LXR)、およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)が含まれる(表E参照)。
AhR:AHR遺伝子によりコードされ、AhRは、3つのすべてのCYP1遺伝子、CYP1A1、CYP1A2およびCYP1B1のアップレギュレーションを含め、数十の遺伝子を制御するリガンド活性化転写因子である。AhRについてのリガンドには、ダイオキシン、PAHs(多環芳香族炭化水素)、ポリハロゲン化芳香族炭化水素、インドールおよびトリプトファン由来の内因性リガンド、特に、アブラナ科植物に見出されるベンゾフラボンが含まれる。AHRは、細胞型または組織特異的な細胞周期制御およびアポトーシスに関与する。ヒトAHR遺伝子における、およびその近くの少なくとも九つの変異が見出されている。一実施形態では、乱された発現を有する生体異物センサーはAhRであってもよい。
PXR:NR1 I2によってエンコードされ、PXRは、疎水性毒素の一般化されたセンサーとして(それらの生理的リガンドと選択的に相互作用する他の核レセプターとは対照的に)機能する。PXRはチトクロームP450 3Aモノオキシゲナーゼ遺伝子および体内からの生体異物の代謝および排泄に関与する他の多数の遺伝子の調節領域においてDNA応答エレメントに対するレチノイン酸受容体(NR2B)とのヘテロ二量体として結合する。PXRはCYP3A遺伝子の発現を誘導することが知られる化学物質のスペクトルによって活性化される。炎症性腸疾患(IBD)は、遺伝因子と環境因子の相互作用、おそらく、管腔の細菌叢の一部に由来する複合形質であり、制御不能な免疫活性化および慢性炎症につながる。PXRの発現は、潰瘍性大腸炎(UC)を伴う患者の結腸において有意に減少したが、クローン病(CD)を伴う患者においては影響を受けない。また、PXRリガンド結合ドメイン(LBD)の三次元構造の解明は、この異常な核レセプターの乱雑なリガンド結合特性のための構造基盤を示唆する。さらなる実施形態では、乱された発現を有する生体異物センサーはPXRであってもよい。
CAR:CARおよびPXRは、同じ核レセプターサブファミリーのメンバーであり(NR1)、それらのリガンド結合ドメイン(LBDs)において約40%のアミノ酸同一性をシェアする。CARは、NR1I3によってコードされ、そして肝臓で最も豊富に発現され、任意の追加されたリガンドの非存在下に細胞ベースのレポーターアッセイにおいて強力な恒常的(構成的)活性を有する。この恒常的活性は、テストステロンの代謝産物のアンドロスタノールおよびアンドロステノールの超生理学的な(superphysiological)濃度によって抑制されることが可能である。これらアンドロスタンは、CARとステロイド受容体コアクチベーター1(SRC-1)との相互作用を抑制し、「非活性化」がオーファン受容体に直接結合することによって媒介されることを示唆される。CARは、初代肝細胞の核において存在しないが、代わりに細胞質に隔離される。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する生体異物センサーはCARであってもよい。
LXR:哺乳類には二つのLXRアイソフォームがあり、LXRa(NR1 H3)およびLXRb(NR1 H2)と称される。LXRaは、主に、肝臓、腸、腎臓、脾臓、および脂肪組織において豊富に発現する一方、LXRbは低いレベルで遍在的に発現する。二つのアイソフォームは、それらのアミノ酸配列のほぼ80%の同一性をシェアする。リガンド結合の後、LXRsは遺伝子転写を調節する。LXRsは、腸のコレステロール吸収を抑制することによってコレステロール過負荷に対して保護するコレステロールセンサーとして動作し、ATP結合カセットトランスポーターABCA1およびABCG1を通して細胞からの高密度リポタンパク質へのコレステロール流出が刺激され、肝臓においてコレステロールの胆汁酸への変換が活性化され、胆汁性コレステロールおよび胆汁酸排泄が活性化される。LXRsの活性化は炎症および自己免疫反応を抑制する。さらに、薬理学的研究および遺伝子操作は、これらの受容体がアテローム発生を抑制することを示す。LX受容体はまた、レニン分泌の調節に関与し、中枢神経系におけるアミロイドベータの形成を抑制し、生殖腺および副腎の双方での生殖腺機能およびステロイド産生を調節し、ケラチノサイト(ケラチン生成細胞)の増殖および分化に影響を与え、そして腫瘍細胞の増殖を抑制する。これらの受容体の発現での、およびそれらのアゴニストのレベルでの変化は、多くの疾患において観察される。LX受容体の複数の役割を考慮すると、それらのアゴニストは、糖尿病、炎症性疾患、アテローム性動脈硬化、アルツハイマー病、および性機能低下を含め、多くの疾患の処置において、将来的に適用することができる。別の代わりの実施形態では、乱された発現を有する生体異物センサーはLXRであってもよい。
(d)のストレス応答経路タンパク質
さらに他の実施形態では、ADME/Toxタンパク質は、細胞ストレス応答経路に関与することができる。細胞ストレス応答経路の例には、熱ショック、低酸素、小胞体(ER)ストレス、DNA損傷、酸化、炎症、金属ストレス、および浸透圧ストレスが含まれる。細胞ストレス応答を調査することは、吸収、代謝およびその処分の過程での薬物および環境化学物質の挙動ならびに毒性についての試験を容易にする。表Fは、細胞ストレス応答経路を、キー転写調節因子、細胞バイオセンサー、およびいくつかの既知の応答性遺伝子ターゲットと一緒にリストで表示する。
(i)熱ショック
高温、重金属、毒素、酸化剤、および細菌およびウイルス感染への曝露によって誘導され、熱ショック応答は、熱ショックタンパク質(Hsps)の増加した発現により特徴付けられる。熱ショックタンパク質は、ストレスの多い条件下で生存を確保するが、ストレスが厳しすぎる場合には、プログラムされた細胞死に至るシグナルが活性化される。 Hspsは、タンパク質の合成、輸送、およびフォールディング(折り畳み)において重要な役割を果たし、それで分子シャペロンと称することが多い。細胞熱ショック応答に関与する模範的な細胞ストレス関連タンパク質を、以下に詳述する。
HSF1:真核細胞では、熱ショック応答は、熱ショック因子(HSF)として知られる転写因子によって媒介される転写活性化を伴う。HSFファミリーのいくつかのメンバーは、脊椎動物(ネズミおよびヒトHSF1、2、および4、ならびにユニークな鳥類HSF3)および植物において見出された。HSF1、HSFプロトタイプ(HSF原型)、およびHSF3は、熱により誘導されるHsp発現に関与する。ストレス無負荷の細胞では、HSF1はDNA結合活性をもたない単量体の形態において細胞質および核の両方に存在する。細胞がストレスを受けるとき、HSF1はホモ三量体化し(homotrimerizes)、DNA結合活性を取得し、細胞質から核へ移行し、過剰リン酸化され、および転写的に適確性になる。一旦活性化したら、HSF1は、熱ショックエレメント(HSE)で、熱ショック応答性遺伝中に位置する特定のDNA認識配列に温度上昇の数分内に結合する。一実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はHSF1であってもよい。
HSP70:HSF1のストレス活性化のメカニズムはツーフォールド(二つ折り)でありうる。まず、ストレスは、タンパク質アンフォールディング(タンパク質展開)を誘導し、それは非天然タンパク質の蓄積をもたらす。非天然タンパク質は、HSF1活性の共通の近位誘導因子(プロキシマルインデューサ)であり、そしてストレスを受けた細胞内でhsp遺伝子発現を高めると思われる。第二に、Hsp、おそらくHsp70は、ストレスの非存在下での非アクティブ状態にHSF1を保持することにおいて、および/またはストレスの多い事象に続いて、その因子をこの状態に戻すことにおいて、その役割を果たすことができ、そこではHsp70は、HSF1活性化のリプレッサーとして機能することができる。
誘導性Hsp70の発現は、ストレスおよびアポトーシスを誘導する刺激の非常に多くのタイプに曝された哺乳動物細胞の残存を高めることが示された。Hsp70のメンバーは多くの悪性のヒト腫瘍で豊富に発現される。HSP70ファミリーのメンバーのような分子シャペロンは、熱ショック応答の自動調節において重要でありえ、それらは、新生タンパク質の中間の折り畳み状態を安定化させることにより、タンパク質の折り畳みを容易にするからであり、このようにしてそれらが、不可逆的な、非特異的凝集に導かれうる不適切な相互作用に関与することから防止される。また、Hsp70は、虚血傷害から心筋を保護するのに貢献することが示された。Hsp70の心保護的な活性のための基礎は、虚血性ストレス中にタンパク質の凝集を防止する能力に関連しているらしい。さらなる実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はHsp70でありうる。
HSP 27:Hsp27は、小さな熱ショックタンパク質(sHsps)のファミリーのメンバーである。それらの共通の形質は、保存されたα-クリスタリンドメインであり、それは最も著名なファミリーのメンバーで、アイレンズ(眼水晶体)タンパク質α-クリスタリンを指す。機能的には、sHspsは、ATP-非依存(ATP-独立)シャペロンであり、それらは、ストレス誘発展開の際、それらの凝集を防止するために部分的に折り畳まれた標的タンパク質の多数と相互作用する。目下、sHspsが、展開されたタンパク質の保管庫として働き、それがHsp70およびHsp100タンパク質のような他の大きなシャペロンの存在下でリフォールディングされうることが保たれる。sHspsは、それらの展開クライアントを伴う可溶性複合体を形成することができるだけでなく、時々、タンパク質展開が細胞内で大規模な場合は特に、それらは集合体に隔離されると考えられる。Hsp27のために特異的な追加機能には、アポトーシスの抑制(プロカスパーゼ-9の活性化を阻止し、ミトコンドリア外膜と相互作用して、チトクロームc/Apaf-1の活性化を妨げる)、細胞骨格構造の保護、およびプロテアソームの活性化(すなわち、ユビキチン化タンパク質に、および26Sプロテアソームに結合すること)が含まれる。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はHsp27でありうる。
(ii)低酸素ストレス
酸素ホメオスタシス制御は、全体の生物のレベルならびに単一の細胞のレベルで起こる。酸素の細胞内レベルは、多くの代謝過程におけるO2の必要性、および一定レベルを超えたO2の高い毒性の間のバランスのためタイトな(厳しい)制限内に維持されなければならない。細胞レベルで、減少したO2テンション(低酸素)は、分子状酸素を必要としない代替代謝経路の活性化につながる。好気的代謝から嫌気的解糖への切り替えは、解糖酵素の誘導およびグルコーストランスポーターの発現によって媒介される。加えて、細胞死または残存に関与する様々なストレスタンパク質の発現はアップレギュレートされる。さらに、組織および全体レベルで起こるさらなる適応は、O2の配送における増加を導く。それらには、赤血球生成の誘導(赤血球の生産)、血管新生(新しい血管形成)、および過換気が含まれる。様々なアップレギュレートされたタンパク質のうちには、エリスロポエチン(EPO)、赤血球の成熟を誘導する主要な増殖因子、および血管内皮増殖因子(VEGF)、血管新生(脈管形成)および血管透過性の主要なメディエーターがある。これらの、および他のタンパク質の低酸素依存性調節は、転写レベルで起こり、そして低酸素誘導性転写因子(HIF-1)によって媒介される。HIF-1結合のためのコンセンサスDNA配列は、低い酸素分圧によってアップレギュレートされた多くの遺伝子にとって一般的である。細胞の低酸素ストレス応答に関与する模範的な細胞ストレス関連タンパク質を、以下に詳述する。
HIF-1α:低酸素誘導性因子-1(HIF1)は、細胞および全体の酸素ホメオスタシスのキーとなる重要な調節因子として機能する転写活性化因子である。HIF-1は減少した酸素利用能に応じてだけでなく、酸化窒素、種々の増殖因子、またはプロリルおよびアスパラギニルヒドロキシラーゼの直接インヒビターのような他の刺激剤によってでも誘導される。したがって、障害性酸化、炎症、エネルギー不足、または強力な増殖などのようなストレスの広い範囲によって引き出される重大な転写因子であると考えられる。HIF-1はまた、ガンの進行において、ならびに心血管疾患において重要な役割を果たす。
HIF-1は、αおよびβサブユニットから構成されるヘテロダイマーである。HIF-1活性の調節は、主にサブユニット(HIF-1α)に関し、そしてタンパク質安定化、翻訳後修飾(プロリンおよびアスパラギニルヒドロキシル化)、核移行(核転座)、二量体化、転写活性化、および他のタンパク質との相互作用などのような複数のレベルで生じた。また、mRNA発現および双方のサブユニットの選択的スプライシングでの変化が観察された。しかし、正常酸素圧条件下では、HIF-1αおよびHIF-1βが構成的に転写され、そして翻訳されるとき、HIF-1活性の抑止は主に構成的なHIF-1α分解からもたらされる。
HIF-1αタンパク質のC末端部分は、正常酸素圧条件下ではHIF-1αの分解に関与する酸素依存性分解ドメイン(ODD)が含まれる。正常酸素圧条件下で、HIF-1αの半減期は10分未満であり、そしてタンパク質はほとんど検出することができない。HIF-1活性化、またはHIF-1α安定化は、分子状酸素の欠乏によって誘導される。
したがって、様々なレポーターシステムと共にHIF-1αノックインを含む細胞は、細胞を、低酸素ストレスを誘導することができる刺激に接触させたとき、変化したHIF-1α安定化、翻訳後修飾、核移行、二量体化、転写活性化、および他のタンパク質との相互作用を検出することが可能でありうる。様々なレポーターシステムと共にHIF-1αノックインを含む細胞は、薬物の概略を細胞の酸素恒常性に対するその効果について描くのに用いることができる。一つの代わりの実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はHIF-1αでありうる。
ピルベートデヒドロゲナーゼキナーゼ(ピルビン酸脱水素酵素)1(PDK1):PDK1はリン酸化を介してピルベートデヒドロゲナーゼキナーゼを抑制するミトコンドリア酵素である。呼吸鎖タンパク質の不活性化は酸素欠乏に対する重要な細胞応答である。グルコースの代謝に重要なチェックポイントは、ピルベートで発生し、それはPDK1によってラクテート(乳酸塩)にか、またはアセチルCoAにかのどちらかにも変換することができる。PDK1遺伝子はHIF-1α依存的様式において低酸素状態の間に誘導され、それゆえ、ミトコンドリアから離れるピルベートの入れ換えが導かれ、そして入れ替わりに、TCAサイクルの活性が低減される。このメカニズムは、細胞内の酸素濃度を維持するために細胞によって使用される。さらなる実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はPDK1であってもよい。
グルコーストランスポーター1(GLUT1):低酸素下では、細胞は、嫌気的解糖を、糖分解酵素の発現および活性をアップレギュレートし、そして膜レベルでのグルコース輸送を増加させることによって劇的に増加させる。膜でのグルコース輸送は、主にGLUT-1、促進性のNa+非依存性トランスポーターファミリーのメンバーによって達成される。GLUT-1は、多様な組織および細胞タイプに見出され、そして酸化的リン酸化の減少にもかかわらず、低酸素下で適切なエネルギー供給を提供するために機能する。GLUT1 mRNAおよびトランスポーター発現は、低酸素ストレスに応答して細胞において急速、かつ、著しくアップレギュレートされる。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はGLUT1であってもよい。
血管内皮増殖因子(VEGF):細胞レベルでは、低酸素は、いくつかの脈管形成遺伝子、最も注目に値するものには、血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を誘導する。複数の因子によりVEGFの発現に影響を与えることができるが、低酸素の間にVEGFの発現は、直接的に転写因子HIF-1によって制御される。別の代わりの実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はVEGFとすることができる。
(iii)ER(小胞体)ストレス
真核細胞では、小胞体(ER)は、分泌、形質膜、または分泌小器官(secretory organelles)に予定された(destined)タンパク質のフォールディングおよび加工のための細胞小器官である。これらのタンパク質は、それらが正確な折り畳み構造を取得するために修飾され、そしてオリゴマー化されるER内腔中に移行される。これらの細胞における効率的なタンパク質の折り畳み、および分泌プロセスに対する高い需要は、通常、タンパク質の成熟プロセスの間に生成されるミスフォールドしたタンパク質の大量の存在によって惹起されるストレスの一定の供給源を構成する。これらの折り畳みサブプロダクトは、ER関連分解(ERAD)を通して排除され、そこでミスフォールドしたタンパク質は、細胞質ゾルに移行し、そしてプロテアソームによって分解される。
ERストレスはまた、タンパク質の成熟、一定の変異体タンパク質の発現、低下したシャペロン機能、異常なERカルシウム含量レドックス代謝、変更された輸送、および多くの他のものにおいて、撹乱と関係したタンパク質恒常性を変える条件によってトリガーされる。小胞体(ER)ストレスは、分泌細胞およびガン、神経変性、糖尿病および炎症を含む多くの疾患のホールマーク(特徴的な)特色である。小胞体ストレスへの初期応答として、細胞は、展開タンパク質ロードを減少させ、そして恒常性を回復させるために、展開したタンパク質応答(UPR)を活性化する。これを達成することができず、または修復処理が圧倒される場合、プログラム細胞死(アポトーシス)が開始される。
UPRは、ER膜に位置する三つの異なるストレスセンサー:IRE1α(イノシトール要求性貫膜キナーゼ/エンドヌクレアーゼ)、ATF6(活性化転写因子6)、およびPERK(PKR様ERキナーゼ)を通じて機能する。これらのセンサーを通して、UPRは、ER中へのタンパク質エントリー、折り畳み、グリコシル化、ERAD、タンパク質クオリティーコントロール(品質維持)、レドックス代謝、オートファジー(自食)、脂質生合成、および小胞輸送に関与する遺伝子を調節する。小胞体ストレス応答は、少なくとも3つのコンポーネント:(1)BiP/GRP78、GRP94などのようなERシャペロンおよび折り畳み酵素の転写誘導、およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(ジスルフィド異性化酵素)、(2)小胞体にタンパク質のさらなる負荷を防ぐために翻訳減衰、および(3)ERからミスフォールドタンパク質を取り除くためにER-関連分解(ERAD)が含まれる。細胞の小胞体ストレス応答に関与する模範的細胞ストレス関連タンパク質を、以下に詳述する。
BiP/Grp78:ERシャペロンBiPは、UPRの発症の指標として広く用いられた。ATF6およびその本質的なコアクチベーターYY1、構成的に発現した多機能転写因子は、小胞体ストレス条件下でだけBiP/Grp78プロモーターを活性化する。BiPは、PERKおよびIRE1活性化を、それらをそれらの単量体の不活性状態に保つことによって抑え、そしてBiPの解離は、小胞体ストレス間にIRE1およびPERK活性化と相関する。ATF6は、ストレスを受けていない細胞でのBIPとの複合体中に存在し、および小胞体ストレスにより解離する。小胞体ストレス間のBiP結合の損失は、ATF6の活性に対する抑制を軽減し、ATF6がゴルジ体にまで輸送されることを可能にする。BiPの過剰発現は、ATF6の活性化を減衰させる。したがって、これは自己調節的モデルであり、それによってERシャペロンがそれら自体の発現を制御する。さらなる実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はBiP/Grp78であってもよい。
PERK:PERKはER-ストレス誘発翻訳減衰を媒介するER膜貫通eIF2αプロテインキナーゼである。eIF2αは翻訳開始因子である。活性化PERKは、eIF2αをリン酸化し、ERへのタンパク質翻訳が抑制され、およびミスフォールドタンパク質の過負荷を減少させることによってERストレスが緩和される。PERKはまた、ERストレスの標的遺伝子CHOP/GADD153を活性化する転写因子ATF4の選択的な翻訳を促進することにより、転写誘導に寄与する。PERKノックアウトは、ERストレス誘導性アポトーシスに対してより一層感受性である細胞系を作成し、そしてそのようなシステムは、ERストレスを誘導する化合物をスクリーニングするために使用することができる。別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はPERKであってもよい。
IRE1:転写誘導はIRE1によって媒介される。IRE1は、細胞質タンパク質キナーゼおよびエンドリボヌクレアーゼドメインを伴うER膜貫通タンパク質である。IRE1活性の調節についてはほとんど知られていない。ERストレスによるIRE1活性化のメカニズムは、その管腔ドメインに対するBiPの結合に関与すると考えられる。これは、単量体の状態にそれを保つことによりIRE1シグナル伝達を抑制する。ERストレスはその後、BiPの解離を引き起こし、IRE1のオリゴマー化および活性化が可能にされる。転写因子XBP1はIRE1スプライシングの哺乳類標的として同定された。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はIRE1であってもよい。
ATF4およびATF6:ATF4(活性化転写因子4)は、アミノ酸およびレドックス代謝において機能するUPR遺伝子を、chop/gadd153およびgadd34を含めてアップレギュレートする転写因子である。小胞体ストレス下のとき、活性化したPERKは、翻訳開始(トランスレーションイニシエーター)因子eIF2αをリン酸化し、そして抑制し、タンパク質の合成およびERでのミスフォールドタンパク質の過負荷が減少する。eIF2αのリン酸化はATF4の発現を可能にする。第二UPR経路は、ATF6αおよびATF6、その細胞質ドメインがbZIP転写因子をコードするII型ER膜貫通タンパク質によって開始される。ERストレス誘導の際、ATF6は、ゴルジ体で処理され、その細胞質ドメインを解放し、とりわけERでのERADおよび折り畳みに関連する多くのUPR遺伝子を制御する転写活性化因子として働く。ATF6は、BiPおよびGRP94などのようなERストレスの標的遺伝子のプロモーターにおいてERストレス応答要素(ERSE)に結合する。ATF6は、CCAATボックス結合因子NF-Y/CBFの存在下においてだけERSEに結合する。代わりの実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はATF4またはATF6でありうる。
XBP1:第三のUPR経路はXBP1を伴う。ERストレスを受けている細胞では、IRE1αは自己リン酸化され、そのエンドリボヌクレアーゼドメインの活性化につながる。この活性は、XBP1をコードするmRNAのスプライシングを媒介し、それは、折り畳みおよびタンパク質の品質維持に関与する多くの本質的UPR遺伝子をアップレギュレートし、そしてER/ゴルジ生合成を調節する転写因子である。スプライスされたXBP1(XBP1s)は、タンパク質の折り畳み、ER、ERADへのタンパク質のエントリー、およびタンパク質の品質維持に関与するUPR関連遺伝子の広いスペクトルのアップレギュレーションを制御する。他のXBP-1調節遺伝子は、細胞分化、シグナル伝達、およびDNA損傷経路、輸送経路、転写制御ネットワーク、脂質およびイオン組成のモジュレーター(修飾物質)、および空胞機能に関連する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はXBP1であってもよい。
(iv)DNA損傷
遺伝的安定性には、細胞が分裂する前に、ゲノムによって維持された任意の損傷が修復されている必要がある。DNA損傷の検出に起因するチェックポイント信号は、細胞の修復システムのための時間が作用するのを可能にするために細胞周期を止め、代替成果としてアポトーシスを伴う。遺伝子増幅、移行(転座)、逆位および削除などのような染色体異常は、しばしば腫瘍細胞で見られ、核型不安定性が腫瘍形成に関与していることが示唆される。これらの染色体の欠陥の発生に共通するのは、DNA鎖切断(DNA鎖ブレーク)の形成および再結合である。DNAでの二重鎖切断(DSBs)は、電離放射線によって引き起こされる特に危険な病変であり、そして二つの主要な修復経路によって修復され、すなわち、非相同末端結合(NHEJ)および相同組換え(HR)である。DNA傷害剤、ウイルス組み込みまたは組み換えなどのような正常な細胞の事象によって生産された切断の解決の忠実度は、野生型ゲノムが復元されるかどうかを決定する。このため、DNA鎖切断を修復するプロセスが厳しく規制されることが重要である。細胞のDNA損傷ストレス応答に関与する模範的な細胞ストレス関連タンパク質を、以下に詳述する。
p53:TP53は、p53腫瘍抑止タンパク質、p53をコードする。p53は、細胞周期、DNA修復に影響を与える多官能分子であり、そして転写を調節し、および異常な組換え、および他のタンパク質との直接的相互作用によるアポトーシスを抑制する。これらの機能は、p53が変異原性環境の存在下でゲノム安定性の維持に寄与することができることを可能にする。DNA損傷に続いて、p53は、G1細胞周期停止およびG2停止を果たし、損傷したDNAの複製を防止するために、p21Waflタンパク質の発現をアップレギュレートする。p53はまた、結合し、そしてヌクレオチド切除修復因子XPBおよびXPDのDNA修復活性を調節し、修復機構に直接的に影響を及ぼす。これらの細胞周期停止およびDNA修復機能が野生型ゲノム状態への復元に失敗した場合、p53はまた、アポトーシスを介して損傷した細胞の除去を指示することができる。
すべてのガンのほぼ50%はTP53での変異を有する。変異p53の主な機能の一つは、RAD51をアップレギュレートすることである。細胞周期制御の損失に加えて、野生型p53の機能の欠如はまた染色体異常に関する。遺伝子増幅は、p53機能の不存在下で上昇する。相同組換えは、不活化したp53によりヒト線維芽細胞において増加する。p53はまた直接的に組換えに影響を及ぼしうる。p53のC末端塩基性ドメインは、DNA一本鎖アニーリングおよび鎖移転活性、組換えの間に発生する事象の両方を指示することができる。別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はp53であることができる。
ATMおよびATR:細胞周期チェックポイントは、別の開始前の細胞事象の完了を確実にするために、細胞周期移行の順序およびタイミングを支配する調節経路である。哺乳類のDNA損傷応答におけるチェックポイント経路の重要な調節因子は、ATM(毛細血管拡張性運動失調、変異)およびATR(ATMおよびRad3関連)プロテインキナーゼである。これらのタンパク質の両方は、ホスファチジルイノシトール3 - キナーゼドメインを含むC末端触媒モチーフによって特徴付けられるセリン-スレオニンキナーゼの構造的にユニークなファミリーに属する。ATMは、電離放射線(IR)への曝露によって生じることがあるDNA二本鎖切断(DSBs)に対する応答の一次(プライマリー)メディエーターである。ATRは、一方では、DSB応答においてバックアップの役割だけを果たすが、UV損傷およびDNA複製におけるストール(行き詰まり)に対する主要応答を指示する。
一旦活性化すると、ATMおよびATRは、DNA修復/チェックポイント標的の重複セットをリン酸化する。ATMのために、これらには、ゲノム損傷に対する細胞周期反応の主要なレギュレーターであることと一致して、Gadd45、p53、複製タンパク質A、Chk2、NBS1、BRCA1、およびc-AbIが含まれる。ATRのための標的には、p53およびCHK1が含まれる。これらのリン酸化事象の一つの重要な効果は、細胞周期チェックポイントの制御である。DNA傷害の性質に応じ、ATMおよびATRの両方がG1/S、G2/MおよびS期チェックポイントを誘導することができる。そうすることによって、それらはDNAの複製または細胞分裂発生前に細胞がDNA損傷を正確に修復していることを確実にする。
ATRの場合、下流の基質をリン酸化する能力は、関連タンパク質(ATRIP)を必要とする。ATMは、遍在的に発現されるが、異なる細胞および組織型において異質なレベルである。ATMの画分はまた、細胞質内にも存在する。しかし、ATMは大部分は、培養したヒト細胞の核内に存在し、DNA損傷に対する細胞応答におけるATMの提案された役割と一致する。
胸腺では、p53は、IR(電離放射線)の後に核ATMによって直接リン酸化され、p21Waf1/Cip1の転写活性化および結果として起こる細胞周期停止が導かれる。ATMの不存在下には、この経路が乱され、そしてこの欠陥は、おそらく、AT(毛細血管拡張性運動失調)、常染色体劣性遺伝疾患を有する患者において見られるIRに対する免疫不全および異常な細胞応答をもたらす。神経、免疫および生殖系の遺伝的不安定性および異常はまた、ATの複雑な臨床的特色の一つであり、それにはまた、リンパ系腫瘍および極端な放射線感受性に対する素因が含まれる。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はATMまたはATRであってもよい。
RAD51:Rad51は、もともと酵母において説明され、DNA鎖移行および組換えを触媒するエシェリキア・コリ(Escherichia coli、大腸菌)RecAタンパク質に密接に関連する。酵母Rad51の変異体は、二本鎖切断を修復するのに失敗し、自発的な、および放射線誘発された染色体の損失を見せ、および有糸分裂および減数分裂の組換えの両方において欠陥を提供する。さらに、酵母Rad51は、組換え中間体への二本鎖切断の変換のために必要と考えられ、および酵母の減数分裂における組換えの推定細胞増殖巣に局在する。酵母Rad51のヒトホモログ(ヒト相同体)は、酵母タンパク質と83%の配列相同性を共有し、そしてRecAと共通の中央のDNA結合ドメインを共有する。ヒトRad51(hRad51)は、核に局在化し、酵母Rad51によって形成されるものと構造的に類似した核タンパク質フィラメントを形成し、これらのフィラメントにおいてDNAをアンダーワインドし(下方に巻き)、DNA依存性ATPアーゼ活性を有し、およびATP依存相同対合および鎖移転反応を促進する。両方のタンパク質は、姉妹染色分体交換(SCE)を媒介し、それは、無傷の姉妹染色分体との組換えによって自発的なDNA損傷のポスト複製修復(post-replicational repair)を反映する。
RAD51は、多くの腫瘍において過剰発現される。野生型p53タンパク質は、RAD51の転写発現を抑制することにおいて、およびRAD51タンパク質活性をダウンレギュレートすることにおいての両方で重要な役割を果たす。RAD51の高レベルは、ゲノムを不安定化することによって腫瘍進行に関与する。高められたRAD51もまた、ガン遺伝子の活性化および腫瘍抑圧因子の不活性化に従うより一層急速な細胞分裂間のDNA複製の利益を与えることができる。さらなる実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はRAD51であることができる。
GADD45:GADD45(増殖停止およびDNA損傷-45)遺伝子は、増殖停止およびDNA損傷-45タンパク質、BRCA1の既知の転写標的をコードする。GADD45はストレスの多い増殖停止条件およびDNA損傷薬剤による処置後にATR-依存的様式においてVprによってアップレギュレートされる。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、MTK1/MEKK4キナーゼを介してp38/JNK経路の活性化を媒介することによって環境ストレスに応答する。この遺伝子のDNA損傷誘導転写は、p53依存性および非依存性メカニズムの両方によって媒介される。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はGADD45であってもよい。
(v)酸化ストレス
反応性酸素種(ROS)は、好気的呼吸および正常な代謝過程の間に生成され、そしてそれらはまた、環境要因の広い範囲の代謝の副産物でもある。反応性酸素(活性酸素)(ROS)および窒素種の高レベル(RNS)の生産は、一般に酸化ストレスとして導かれる条件である。高レベルのROSは細胞に有害であり、それらは、細胞内の分子と容易に反応し、細胞傷害および死が引き起こされるからである。酸化ストレスはまた、遺伝的不安定性をもたらす反応性酸素種の不平衡生成を通した発ガンにおいて役割を果たしうる。
酸化ストレスに応答した細胞保護抗酸化酵素の誘導は、細胞の酸化還元の恒常性の維持のために重要である。細胞は、ROSレベルを最小にするために、並行して、または順次に働く様々な防御機構を備える。これらの防御には、ROS代謝および生体異物の生体内変化に関与する酵素が含まれる。これらの酵素の誘導は、主に転写レベルで調節される。これらの酵素の例には、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、チオレドキシン、およびヘムオキシゲナーゼならびに第二相酵素で、グルタチオンS-トランスフェラーゼなどのようなものが含まれる。酵素的防御に加えて、細胞はまた、グルタチオン、メタロチオネイン、およびROSおよび金属イオンをスカベンジする(回収する)フェリチンのような分子を備える。細胞の酸化ストレス応答に関与する模範的な細胞ストレス関連タンパク質を、以下に詳述する。
Nrf2:酸化ストレスに対する細胞の防御における主要なメカニズムは、Nrf2-ARE(核因子E2関連因子2-抗酸化応答エレメント)シグナル伝達経路の活性化であり、それは、遺伝子の発現を制御し、そのタンパク質生成物は反応性オキシダント(反応性酸化体)の解毒および除去に関与する。ARE活性の強力な誘導物質には、H2O2、酸化還元サイクリングを受けるか、または反応性もしくは求電子中間体への代謝により変換される化学物質、およびジエチルマレアート(ジエチルマレイン酸塩)、イソチオシアナート(イソチオシアン酸塩)、およびジチオチオン(dithiothiones)などのようなスルフヒドリル基と反応する化合物が含まれる。
Nrf2は転写因子であり、AREによって媒介される誘導可能な、および構成的な遺伝子発現の両方を制御することにより、細胞の酸化還元状態を調節する。Nrf2の遺伝的混乱は、いくつかの重要な抗酸化酵素の基本的なおよび誘導可能な発現の両方のレベルを減少させる。重要な酵素の若干には:グルタマート-システインリガーゼ触媒サブユニット(Gclc)、グルタマートシステインリガーゼ修飾サブユニット(Gclm)、グルタチオンペルオキシダーゼ2(Gpx2)、およびヘムオキシゲナーゼ1(Hmoxl)が含まれる。
Nrf2-ARE経路の活性化は、グルタマートおよびH2O2誘発性細胞死からの保護を提供する。Nrf2媒介性応答は、発ガン、急性化学毒性、酸化ストレス、喘息、急性炎症、敗血性ショック、およびたとえば、アルツハイマー病およびパーキンソン病などのような神経変性疾患に対する感受性を変化させる。Nrf2のシグナル伝達を活性化する天然および合成化学誘導物質を用いた研究は、疾患の多くの動物モデルにおいて防御効果を示した。逆に、Nrf2破壊マウスでの研究は、それらがこれらの病気の多くに対し増加した感受性を見せることを示す。したがって、Nrf2-AREシグナル伝達の活性化は、幅広い防御反応を構成し、Nrf2およびその相互作用パートナーが化学予防のための重要な標的になる。別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はNrf2でありうる。
HMOX1:HMOX1は〔ヘムオキシゲナーゼ(デサイクリング)1〕は、酵素ヘムオキシゲナーゼ1(HMOX1)をコードするヒト遺伝子である。ヘムオキシゲナーゼは、ヘム異化においてビリベルジンを形成するためにヘムを開裂する。ヘムオキシゲナーゼ活性は、その基質ヘムによって、および様々な非ヘム物質によって誘発される。ヘムオキシゲナーゼには、2つのアイソザイム、誘導性ヘムオキシゲナーゼ-1(HMOX1)および構成的ヘムオキシゲナーゼ-2(HMOX2)がある。HMOX1は様々な固形腫瘍において高度に発現し、および急速な腫瘍増殖において重要な役割を有する。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はHMOX1であってもよい。
PRDX1:PRDX1(ペルオキシレドキシン1)遺伝子は、抗酸化酵素のペルオキシレドキシンファミリーのメンバーをコードし、それらは過酸化水素およびアルキルヒドロペルオキシドを減らす。コードされたタンパク質PRDX1は、レドックス調節における細胞での抗酸化保護の役割を果たし、増殖効果を有することがあり、ガン発症または進行において役割を果たしうる。PRDX1は、H2O2の細胞内濃度を調節することによって、増殖因子および腫瘍壊死因子-アルファのシグナル伝達カスケードに参加することができる。まだ別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はPRDX1であってもよい。
GSTA2:GSTA2(グルタチオンS-トランスフェラーゼA2)はGSTA2遺伝子によってコードされる主要な解毒酵素である。酸化ストレスへの応答は、そのプロモーターにおけるAREによって媒介される転写レベルで調節される。グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)超遺伝子ファミリーは、哺乳動物組織の細胞質ゾルおよび膜において広く発現されるアイソザイムをコードする遺伝子ファミリーを含む。GSTは、還元グルタチオン(GSH)と、多種多様な求電子試薬および種々の化合物で、たとえば、発ガン性物質、治療上の薬物、環境毒素、および酸化ストレスに起因する酸化DNAまたは脂質のようなものとの接合を触媒する。
これらの酵素をコードする遺伝子は、高度に多型であることが知られている。これらの遺伝的変異は、発ガン性物質および毒素に対する個体の感受性を変え、および若干の薬物の毒性および有効性に影響を与えることができる。現時点で、可溶性の細胞質性哺乳類グルタチオンS-トランスフェラーゼの8つ異なるクラスが同定されている:アルファ、カッパ、ムー、オメガ、ピー、シグマ、シータおよびゼータである。GSTA2遺伝子は、アルファクラスに属するグルタチオンS-トランスフェラーゼ(tranferase)をコードする。6番染色体にマッピングされたクラスター内のアルファクラス遺伝子は、肝臓において最も豊富に発現するグルタチオンS-トランスフェラーゼである。肝臓中でのビリルビンおよび一定の抗ガン剤を代謝することに加えて、これらの酵素のアルファクラスは、グルタチオンペルオキシダーゼ活性を見せ、それによって、反応性酸素種および過酸化の生成物から細胞を保護する。さらなる実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はGSTA2であってもよい。
Keap1:Keap1(Kelch様ECH関連タンパク質1)は、細胞においてNrf2の蓄積に影響を与える。Nrf2は、タンパク質分解を受ける非常に不安定なタンパク質であることが見出されており、約15分の半減期を伴う。非ストレス細胞では、Nrf2タンパク質レベルは低い。Keaplは、構成的様式においてNrf2ユビキチン化を促進するものと考えられる。Keap1との相互作用により、Nrf2は、ユビキチン化および分解のために直接的にターゲットにされる。ストレス信号があるとき、Keap1-Nrf2の関連付けが乱され、Keap1核細胞質間シューティング(輸送)またはNrf2移行のどちらを通しても、Nrf2は、安定化され、そして核においてその転写活性をもたらされる。
Keap1は、その一次構造内に非常に多くの数のCys残基を有し、そのことにより、それはその活性の抑制的調節(inhibitory modulation)が行えることを可能にされ、そして従ってチオール反応性化学種によってNrf2活性化が導かれる。多数の反応性Cys残基には、Keap1においてNrf2との相互作用の調節に重要な推定部位が位置257、273、288、および297のものが含まれる。さらに別の実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はKeap1でありうる。
p66Shc:p66Shc〔SHC(SRCホモロジー2ドメイン含有)変換タンパク質1〕遺伝子は、マイトジェンおよびアポトーシス応答におけるシグナル伝達のためのアダプターのファミリーに属するタンパク質をコードする。通常、p66Shcは、EGFおよびインスリンを含む様々な細胞外シグナルによってリン酸化(活性化)されるチロシンである。しかし、p66Shcのセリンリン酸化は、チロシンリン酸化に伴ってか、または独立してかのいずれかの酸化的ストレスの後に発生することができる。p66Shcセリンリン酸化は、フォークヘッド転写因子のメンバーの不活性化にリンクされており、増加した細胞内酸化レベルおよびアポトーシスに対する増加した感受性がもたらされる。ノックアウトp66Shcは、フォークヘッド転写因子の適度に高められた活性、および細胞レベルでのより一層良好に装備された抗酸化防御を可能にする。また、p66Shcプロモーターのメチル化は、その発現調節において重要な潜在的重要性を有し、それは個体間で長命の変化に寄与しうる。遺伝的変異またはp66Shcノックアウトは、酸化的ストレスに対する感受性が改変された細胞系を作成することができ、それは酸化ストレスを誘発する化合物のスクリーニングに用いることができる。一実施形態では、乱された発現を有する細胞ストレスタンパク質はp66Shcであってもよい。
(vi)炎症
炎症は、組織損傷を制限し、および治癒反応を開始するために行われる、生物による防御反応である。核因子カッパB(NFκB)は炎症反応を調節する重要な転写因子である。ほとんどの細胞において、NFκBは、IκBである、抑制的センサーとの相互作用によって細胞質において潜伏状態に保持される。炎症反応を促進する(Proinflammatory)シグナルは、IκB/NFκB複合体を不安定にし、そしてそれが著しく多くの数の標的遺伝子の発現をトリガーする核へのNFκBの移行を可能にする。遺伝子標的には、炎症性遺伝子(例は、COX2、iNOS)、接着分子(ICAM、VCAM)、サイトカイン(IL-1、IL-6、TNFα)、ケモカイン(IL-8、MCP-1)および他のストレス応答遺伝子が含まれる。炎症はまた、多くの薬物代謝酵素をダウンレギュレートする(下方調節する)ことが知られる。
(e)ADME/Tox遺伝子での一塩基多型
薬物反応は、薬物代謝酵素、薬物トランスポーター、薬物標的および調節因子を含むいくつかの異なる構成要素の相互作用が関与する複雑な現象である。薬物反応は、個人間で大きく異なることがあり、そして遺伝的変異は、薬物の吸収、分布、代謝およびその標的との相互作用を決定するのに重要な役割を果たす。一塩基多型(SNPs)は、ヒトの遺伝的変異の最も一般的な形態である。SNPsは、コード領域または非コード領域でありえ、若干のSNPsが、遺伝子の発現レベル、時間的または領域的な発現特異性、またはそのタンパク質レベルでの機能獲得または機能喪失を変化させうる。しかし、若干のSNPsは、一般的にはSNPsの臨床的重要性にもかかわらず、機能的には意義をもたない。
薬物トランスポーター、薬物代謝酵素、調節核レセプターおよびストレス応答経路のための遺伝子はすべて、SNPsを有するが、それらは様々な頻度であってもよい。遺伝的変動は、種々の薬物に対して異なる基質特異性を付与することができ、薬物の吸収および分布に影響を及ぼしえ、大きな母集団における薬物の有効性を変化させる可能性を有する。これらのSNPsの多くは、臨床的意義がありうる。
ここに開示したトランスポーター、薬物代謝酵素、核レセプター、およびストレス応答経路内での識別されたSNPsの多数は、それらを有意義な方法でリストするためにそれを非現実的にする。しかし、どのようにして、個々のSNPを選択し、そして適切な細胞系においてモデル化することができるのかの一例として、表Gには、ヒトCYPsにおいて識別したSNPsを、それらの相対的頻度および既知の機能的効果を含めて示す。たとえば、一実施形態では、選定したSNPは、適切な肝細胞系において作成することができるCYP2D6*10でありうる。
(f)レポータータンパク質(群)の随意発現
特定の実施形態において、少なくとも一つADME/Toxタンパク質の乱された発現を有する細胞は、少なくとも一つのレポータータンパク質の発現を含んでよい。したがって、細胞はまた、少なくとも一つのレポータータンパク質を発現するように操作することができる。別の言い方をすれば、細胞は、レポータータンパク質の発現(群)に関して 「ノックイン」と呼ぶことができ、ならびに少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を有する。
適切なレポータータンパク質には、制限はなく、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼおよびその変形(変異)体、エピトープタグ(例は、HA、FLAG、6xHis等のようなもの)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ベータ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質(MBP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cloramphenicol acetyltransferase)(CAT)、およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)が含まれる。適切な蛍光タンパク質の非制限的な例としては、緑色蛍光タンパク質〔例は、GFP、GFP-2、tag(タグ)GFP、turbo(ターボ)GFP、EGFP、エメラルド、アザミグリーン(Azami Green)、モノマーアザミグリーン、CopGFP、AceGFP、ZsGreen1〕、黄色蛍光タンパク質(例は、YFP、EYFP、シトリン、ビーナス、YPet、PhiYFP、ZsYellow1)、青色蛍光タンパク質(例は、EBFP、EBFP2、アズライト、mKalama1、GFPuv、サファイア、T-サファイア)、シアン蛍光タンパク質(例は、ECFP、セルリアン、CyPet、AmCyan1、ミドリイシシアン)、赤色蛍光タンパク質(mKate、mKate2、mPlum、DsRedモノマー、mCherry、mRFP1、DsRedエクスプレス、DsRed2、DsRedモノマー、HcRedタンデム、HcRed1、AsRed2、eqFP611、mRasberry、mStrawberry、Jred)、およびオレンジ色蛍光タンパク質(mOrange、mKO、Kusabiraオレンジ、モノマーKusabiraオレンジ、mTangerine、tdTomato)が含まれる。好適レポータータンパク質には、GFPおよび他の蛍光タンパク質およびルシフェラーゼが含まれる。
いくつかの実施形態では、レポータータンパク質は、染色体に組み込まれた核酸配列から発現させることができる。レポータータンパク質をコードする核酸は、よく知られた手順を用いて細胞のゲノム中にランダムに組み込むことができる。あるいはまた、レポータータンパク質をコードする核酸は、セクション(II)(a)に記載するターゲティング(標的化)エンドヌクレアーゼ技術を用いて細胞のゲノムにおける対象の場所に組み込むことができる。レポータータンパク質をコードする染色体に組み込まれた核酸配列は、操作可能に転写制御要素に連結することができ、これは、細胞に対して内因性であるか、またはそれは操作可能に外因性の転写制御要素(たとえば、構成的ウイルスプロモーター、などのようなもの)に連結することができる。
他の実施形態では、レポータータンパク質は染色体外の核酸配列から発現され得る。たとえば、レポータータンパク質をコードする核酸は、染色体外に残るベクター内にあるかもしれない。適切なベクターは、細胞にそのようなベクターを導入するための手段として、この技術でよく知られている。
(g)細胞タイプ
上に詳述したように、少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を含む細胞の種類は変動させることができ、変えられる。概して、細胞は哺乳動物細胞である。好適な細胞はヒト細胞である。若干の例において、細胞は、初代細胞、培養細胞、幹細胞、または不死化細胞系でありうる。それらの細胞は、多種の細胞種類、例は、腸細胞、肝細胞、腎細胞、神経細胞、筋肉細胞、肺細胞、頸部細胞、骨細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、TまたはB細胞、マクロファージ、上皮細胞など種々のものであってもよい。あるいはまた、細胞は幹細胞であってもよい。好適な幹細胞には、前駆細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、誘導多能性幹細胞、多分化能幹細胞、オリゴポテント(oligopotent)幹細胞、および単能性幹細胞が含まれる。
細胞が哺乳動物細胞系細胞であるとき、細胞系は、任意の樹立細胞株またはまだ記載されていない一次細胞株でありうる。一次細胞株の場合には、これらの細胞は、細胞培養で伝播し、分裂し続ける能力を増強するように改変されうる。これは、細胞老化を調節することが知られているターゲティング経路、たとえば、p16、p53、pRb、等を含むことができる。哺乳動物細胞株の広範なリストについては、この技術での通常の技量の者は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログ〔ATCC(R)(商法)マナッサス(Mamassas)、VA(米国バージニア州)〕を指すことができる。
模範的な細胞はヒト細胞またはヒト化細胞である。特に、模範的なヒト細胞は、腸細胞もしくは腸細胞株、肝細胞または肝細胞株細胞、腎臓細胞または腎臓細胞株細胞、皮膚細胞または皮膚細胞株でありうる。
一実施形態では、腸細胞は、Caco-2、C2BBe1、COLO-205、COLO-320DM、COLO-60H、COLO-94H、CX-1、CX-2、HRT-18、HT-29、HUTU-80、LOVO、LS-174T、LS-513、SW-1116、SW-403、SW-480、SW-707、SW-948、T84、WiDr、IEC-18、IEC-6、およびその派生体細胞から選定されるヒト細胞でありうる。模範的なヒト腸細胞は、C2BBe1細胞などのようなCaco-2細胞株細胞またはその派生体でありうる。
別の実施形態では、肝細胞はHepaRG、HEP-G2、Hep-G2-C3A、Hep3B、SK-HEP-1、Chang-Liver、PLC-PRF-5、THLE-2、Huh7、HLE、Fa2N-4、HC-04、およびその派生体細胞から選ばれるヒト細胞であってもよい。模範的な肝細胞はHepaRG細胞株細胞またはその派生体であってもよい。HepaRG細胞の利点は、たとえば、多くの第I相薬物代謝酵素が発現されることである。たとえば、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1およびCYP3A4は、HepaRG細胞において発現される。
さらに別の実施形態では、腎臓細胞はciPTEC、293(HEK-293)、HK-2、およびこの誘導体細胞から選定されるヒト細胞であってもよい。模範的な腎臓細胞はciPTEC細胞またはその誘導体でありうる。
好ましい実施形態において、細胞は広く、腸、肝臓、腎臓、および脳などのような薬物の吸収、配置および/または代謝を研究するために使用されるタイプのものである。模範的な実施形態では、細胞はCaco-2細胞またはその誘導体であってもよい。別の模範的な実施形態においては、細胞は、HepaRG細胞またはその誘導体であることができる。さらに別の模範的な実施形態において、細胞はciPTEC細胞またはその誘導体であってもよい。
(h)好適実施形態
好ましい一実施形態では、細胞はBCRPの乱された発現(ABCG2によってコード化された)を含むヒト細胞株であってもよい。別の好ましい実施態様において、細胞はMDR1の乱された発現(ABC1によってコード化)を含むヒト細胞株でありうる。さらに別の好ましい実施態様において、細胞は、BCRPおよびMDR1の両方の乱された発現を含むヒト細胞株であってもよい。模範的な実施形態においては、上記に詳述した細胞は、BCRPおよび/またはMDR1の発現が実質的に除去(即ち、ノックアウト)されるように、BCRPおよび/またはMDR1をコードする不活化染色体配列を含む。好ましい細胞株のそれぞれは、さらに少なくとも一つのレポータータンパク質の 「ノックイン」発現を含むことができる。
(II)ADME/Toxタンパク質(群)の乱された発現を有する細胞を調製するための方法
本開示の別の態様は、少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の乱された発現を有する細胞を調製するための方法を提供する。発現は、ADME/Toxタンパク質をコードする染色体配列を修飾または編集することによって乱されうる。あるいはまた、タンパク質の発現は、RNAメッセージの翻訳を防止するか、またはRNAメッセージの分解を媒介することによって破壊されてもよい。目的のタンパク質の発現を乱すための適切な手段は、ターゲティングエンドヌクレアーゼ(標的化ポリヌクレオチド内部加水分解酵素)、RNA干渉、および相同組換え技術を使用したゲノム編集を含む。
大抵、この方法は、ADME/Toxタンパク質のうちの少なくとも一つの発現を修飾する少なくとも一つの薬剤を細胞中に導入することを含む。発現が乱される細胞は、変動することができ、変えられる。適した細胞は、セクション(I)(f)において上記に詳述する。
(a)ターゲッティグエンドヌクレアーゼ媒介ゲノム編集
いくつかの実施形態では、ADME/Toxタンパク質の発現は、ターゲティングエンドヌクレアーゼによって媒介されるように標的ゲノム編集を介したDNAのレベルで乱されうる。ターゲティングエンドヌクレアーゼは、特定の二本鎖染色体DNA配列を認識し、それを結合し、そして染色体配列中の標的開裂部位での二本鎖切断を導入するエンティティ(実体)である。ここで用いるように、「ゲノム編集」または「染色体編集」は、タンパク質生産が行われず、低下したレベルのタンパク質生産が行われ、またはタンパク質生産の改変バージョンが行われるように、ゲノムまたは染色体配列の修飾または編集が参照される。編集された染色体配列は、少なくとも一つのヌクレオチドの欠失、少なくとも一つのヌクレオチドの挿入、または少なくとも一つのヌクレオチドの置換を含むことができる。
概して、標的ゲノム編集のための方法は、細胞に、少なくとも一つのターゲティングエンドヌクレアーゼまたはターゲティングエンドヌクレアーゼをコードする核酸を導入することを含み、それは、染色体配列において標的配列を認識し、そして染色体配列において部位を開裂させることができ、および、随意に、(i)少なくとも一つのドナーポリヌクレオチドが、統合のための配列を含み、その配列は、それらが開裂部位の両側で同一な実質的配列をシェアする上流配列および下流配列によって側面を接し、そこでは、ターゲティングエンドヌクレアーゼは染色体配列に二本鎖切断を導入し、そして二本鎖切断は、(i)非相同末端結合性修復プロセスによって、不活化変異が染色体配列中に導入されるように、または(ii)相同性指向修復プロセスによって、ドナーポリヌクレオチドにおける配列が染色体配列中に統合されるように、修復される。この方法はさらに、ターゲティングエンドヌクレアーゼが染色体配列において標的部位で二本鎖切断を導入するように細胞を培養することを含む。二本鎖切断の修復の際に、編集された染色体配列は、少なくともヌクレオチドの欠失、少なくとも一つのヌクレオチドの挿入、少なくとも一つのヌクレオチドの置換またはそれらの組合せを含む。
ここに開示する方法において使用されるターゲティングエンドヌクレアーゼのタイプは、変動することができ、変えられる。ターゲティングエンドヌクレアーゼは、自然に発生するタンパク質または工学的なタンパク質であってもよい。一実施形態において、ターゲティングエンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼであってもよい。メガヌクレアーゼは、大きな認識部位によって特徴付けられるエンドデオキシリボヌクレアーゼであり、すなわち、その認識部位は概して、約12塩基対から約40塩基対までの範囲に及ぶ。この必要条件の結果として、認識部位は概して、任意の所定ゲノム中に一回だけ発生する。メガヌクレアーゼのうちで、ホーミングエンドヌクレアーゼのLAGLIDADGファミリーは、ゲノムおよびゲノム工学の研究のための貴重なツールとなった。メガヌクレアーゼは、この技術での熟練者によく知られた技術を用いて、それらの認識配列を修飾することによって、特定の染色体配列をターゲットとすることができる。
別の実施形態では、ターゲティングエンドヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼでありうる。TALEsは、新たなDNA標的を結合するように容易に設計することができる植物病原体のキサントモナスからの転写因子である。TALEsまたはその切断型バージョンは、Foklのようなエンドヌクレアーゼの触媒ドメインに、TALEヌクレアーゼまたはTALENsと称するターゲティングエンドヌクレアーゼを作成するために連結することができる。
さらに別の実施形態において、ターゲティングエンドヌクレアーゼは、部位特異的ヌクレアーゼでありうる。特に、部位特異的ヌクレアーゼは、その認識配列がゲノムにめったに発生しない「レアカッター」エンドヌクレアーゼであることができる。好ましくは、部位特異的ヌクレアーゼの認識配列は、ゲノム中に一回だけ発生する。代わりのさらなる実施形態において、ターゲティングヌクレアーゼは、人工標的DNA二本鎖切断誘発剤であってもよい。
(i)ジンクフィンガーヌクレアーゼ媒介ゲノム編集
好ましい実施形態では、ターゲティングエンドヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ジンクフィンガー核酸分解酵素)(ZFN)であってもよい。典型的には、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、DNA結合ドメイン(すなわち、ジンクフィンガー)および開裂ドメイン(すなわち、ヌクレアーゼ)を含み、その双方を以下に記載する。
ジンクフィンガー結合ドメイン。ジンクフィンガー結合ドメインは、選ばれた任意の核酸配列を認識し、それに結合するように設計することができる。たとえば、Beerli(ビアーリ)ら、(2002)Nat. Biotechnol.(ネイチャー・バイオテクノロジー)、20:135-141;Pabo(パボ)ら、(2001)Ann. Rev. Biochem.(アニュアル・レビュー・オブ・バイオケミストリー)、70:313-340;Isalan(イサラン)ら、(2001)Nat. Biotechnol. 19:656-660;Segal(シーガル)ら、(2001)Curr. Opin. Biotechnol.(カレント・オピニオン・イン・バイオテクノロジー)12:632-637;Choo(チュウ)ら、(2000)Curr. Opin. Struct. Biol.(カレント・オピニオン・イン・ストラクチュラル・バイオロジー)10:411-416;Zhang(チャン)ら、(2000)J. Biol. Chem.(ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー)275(43):33850-33860;Doyon(ドヨン)ら、(2008)Nat. Biotechnol. 26:702-708;およびSantiago(サンティアゴ)ら、(2008)Proc. Natl. Acad. Sci. USA(プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーテス・オブ・アメリカ)105:5809-5814を参照。工学的ジンクフィンガー結合ドメインは、自然に発生するジンクフィンガータンパク質と比較して、新規な結合特異性を有しうる。工学的方法には、制限はないが、合理的設計および選択の様々な種類が含まれる。合理的設計には、ダブレット、トリプレット、および/またはクワドラプレット(四つ)のヌクレオチド配列および個々のジンクフィンガーのアミノ酸配列を含むデータベースを使用し、そこでは、各ダブレット、トリプレットまたはクワドラプレットのヌクレオチド配列は、特定のトリプレットまたはクワドラプレットの配列を結合するジンクフィンガーの一つまたはそれよりも多く(一以上)のアミノ酸配列と関係する。たとえば、米国特許第6453242号および第6534261号を参照するが、それらの開示を、ここに参照することによりその全体を組み込む。一例として、米国特許第6453242号に記載されたアルゴリズムは、ジンクフィンガー結合ドメインを設計し予め選定した配列を標的とするために使用することができる。非縮退(nondegenerate)識別コードテーブルを使用する合理的設計などのような代替方法はまた、ジンクフィンガー結合ドメインを設計し、特定の配列を標的とするために使用することができる〔Sera(セラ)ら、(2002)Biochemistry(バイオケミストリー)41 :7074-7081〕。 DNA配列の潜在的な標的部位を特定し、ジンクフィンガー結合ドメインを設計するための公に利用可能なウェブベースのツールは、それぞれ、http://www.zincfingertools.orgおよびhttp://bindr.gdcb.iastate.edu/ZiFiT/で見出しうる〔Mandell(マンデル)ら(2006)Nuc. Acid Res.(ヌクレイック・アシッズ・リサーチ)34:W516-W523;Sander(サンダー)ら(2007)Nuc. Acid Res.、35:W599-W605)。
ジンクフィンガー結合ドメインは、約3個のヌクレオチドから約21個のヌクレオチドの長さで、または好ましくは約9から約18までのヌクレオチドの長さに及ぶ範囲のDNA配列を認識し、および結合するように設計しうる。概して、ここに開示するジンクフィンガーヌクレアーゼのジンクフィンガー結合ドメインには、少なくとも3つのジンクフィンガー認識領域(すなわち、ジンクフィンガー)が含まれる。一実施形態において、ジンクフィンガー結合ドメインには、4つのジンクフィンガー認識領域を含むことができる。別の実施形態では、ジンクフィンガー結合ドメインは、5つのジンクフィンガー認識領域を含むことができる。さらに別の実施形態では、ジンクフィンガー結合ドメインは、6つのジンクフィンガー認識領域を含むことができる。ジンクフィンガー結合ドメインは、任意の適切な標的DNA配列に結合するように設計されうる。たとえば、米国特許第6607882号;第6534261号および第6453242号を参照し、その開示は、その全体をここで参照することにより組み込む。
ジンクフィンガー認識領域を選択する例示的な方法は、ファージディスプレイおよびツーハイブリッドシステムを含むことができ、そして米国特許第5789538号、第5925523号、第6007988号、第6013453号、第6410248号、第6140466号、第6200759号、および第6242568号、ならびに国際公開WO98/37186号;WO98/53057号、WO00/27878号;WO01/88197号および英国特許GB 2338237号明細書に開示され、それらのそれぞれを、その全体において参照することにより組み込む。また、ジンクフィンガー結合ドメインのための結合特異性の増強は、たとえば、WO02/077227号に記載され、その開示を、参照することによりここに組み込む。
ジンクフィンガー結合ドメインおよび融合タンパク質(およびそれをコードするポリヌクレオチド)の設計および構築ための方法は、この技術において熟練した者に既知であり、米国特許出願公開第20050064474号および第20060188987号明細書に詳細に記載され、それぞれを、その全体においてここに参照することにより組み込む。ジンクフィンガー認識領域および/またはマルチフィンガードジンクフィンガータンパク質は、適切なリンカー配列、たとえば、長さが5個以上のアミノ酸のリンカーを含め、互いに結合することができる。米国特許第6479626号、第6903185号、および第7153949号明細書を参照し、それらの開示は、長さが6以上のアミノ酸のリンカー配列の非制限的な例として、その全体においてここに参照することにより組み込む。ここに記載のジンクフィンガー結合ドメインには、タンパク質の個々のジンクフィンガーの間の適切なリンカーの組合せを含むことができる。
いくつかの実施形態では、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、さらに、核局在シグナルまたは配列(NLS)を含むことができる。NLSは、染色体において標的配列での二本鎖切断を導入するために核内へのジンクフィンガーヌクレアーゼタンパク質をターゲティングするのを容易にするアミノ酸配列である。核局在化シグナルはこの技術で知られている。たとえば、Makkerh(マーカー)ら、(1996)Current Biology(カレント・バイオロジー)6:1025-1027を参照。
開裂ドメイン。ジンクフィンガーヌクレアーゼはまた、開裂ドメインを含む。ジンクフィンガーヌクレアーゼドメインの開裂ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。エンドヌクレアーゼは、それから開裂ドメインが誘導されえ、その非制限的な例としては、制限はないが、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼが含まれる。たとえば、2002-2003カタログ、New England Biolabs(ニュー・イングランド・バイオラブズ社)、Beverly(ビバリー)、Mass.(マサチューセッツ州);およびBelfort(ベルフォート)ら、(1997)Nucleic Acids Res.(ヌクレイック・アシッズ・リサーチ)25:3379-3388またはwww.neb.com. を参照。DNAを切断する追加する酵素が知られている(例は、S1ヌクレアーゼ;マングビーンヌクレアーゼ;膵臓DNアーゼI;ミクロコッカスヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ)。Linn(リン)ら、(編)Nucleases(ヌクレアーゼズ)、Cold Spring Harbor Laboratory Press(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス)、1993も参照。これらの酵素のうちの1つ以上(またはその機能的フラグメント)は、開裂ドメインのソースとして使用することができる。
開裂ドメインはまた、その酵素または部分から誘導することができ、上述したように、開裂活性のための二量体化を必要とする。2つのジンクフィンガーヌクレアーゼは、開裂のために必要とされえ、各ヌクレアーゼは活性酵素ダイマーのモノマーを含むからである。あるいはまた、単一ジンクフィンガーヌクレアーゼは、活性酵素ダイマー(活性酵素二量体)を作成するために、両方のモノマーを含むことができる。ここで用いるように、「活性酵素ダイマー」は、核酸分子を開裂させることが可能な酵素ダイマーである。2つの開裂モノマーは、同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的フラグメント)に由来してよく、または各モノマーは、異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的フラグメント)から由来してよい。
2つの開裂モノマーを、活性酵素ダイマーを形成するために用いるとき、2つのジンクフィンガーヌクレアーゼの認識部位は、好適には、2つのジンクフィンガーヌクレアーゼのそれぞれの認識部位への結合が、互いに空間的定位(spatial orientation)において開裂モノマーを配置し、それによって、開裂モノマーが、活性酵素ダイマーを形成することを、例は、二量体化によって可能にする。結果として、認識部位の近縁(near edges)は、約5から約18個までのヌクレオチドにより分けることができる。例として、近縁は、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18個のヌクレオチドによって分けることができる。しかしながら、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対が、2つの認識部位の間に介在してもよい(例は、約2から約50個までのヌクレオチド対、またはそれよりも多い)ことが理解されるであろう。たとえば、ここに詳細に記載するもののような、ジンクフィンガーヌクレアーゼの認識部位の近縁は、6個のヌクレオチドによって分けることができる。概して、開裂の部位は認識部位間にある。
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は、多くの種に存在し、そしてDNA(認識部位で)に配列特異的に結合し、および結合部位で、またはその近くでDNAを開裂することが可能である。一定の制限酵素(例は、タイプIIS)は、認識部位から取り出された部位でDNAを開裂し、そして分離可能な結合および切断ドメインを有する。たとえば、タイプIIS酵素Foklは、DNAの二本鎖開裂を、一方の鎖上のその認識部位から9個のヌクレオチドにて、および他方でその認識部位から13個のヌクレオチドにて触媒する。たとえば、米国特許第5356802号、第5436150号および第5487994号明細書;ならびにLi(リー)ら(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4275-4279;Liら(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2764-2768;Kim(キム)ら(1994a)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:883-887;Kimら(1994b)J. Biol. Chem. 269:31, 978-31, 982を参照。このように、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、少なくとも一つのタイプIIS制限酵素および1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインからの開裂ドメインを含むことができ、それは操作されるか、またはされなくてもよい。模範的なタイプIIS制限酵素は、たとえば、国際公開WO07/014275号に記載され、その開示を、その全体においてここに参照することにより組み込む。追加的な制限酵素はまた、分離可能な結合および開裂メインを含み、これらもまた、本開示により考慮される。たとえば、Roberts(ロバーツ)ら(2003)Nucleic Acids Res. 31:418-420参照。
模範的なタイプIIS制限酵素は、その開裂ドメインが結合ドメインから分離可能であり、FokIである。この特定の酵素は、ダイマーとして活性である〔Bitinaite(バイティナイト)ら(1998)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:10, 570-10, 575〕。したがって、本開示の目的として、ジンクフィンガーヌクレアーゼで使用するFokl酵素の一部分が開裂モノマーと考えられる。それゆえ、FokI開裂ドメインを用いる標的二本鎖開裂のために、2つのジンクフィンガーヌクレアーゼは、各々がFokI開裂モノマーを含み、活性酵素ダイマーを再構成するために使用することができる。あるいはまた、ジンクフィンガー結合ドメイン含有単一ポリペプチド分子およびFokI開裂モノマーを用いうる。
一定の実施形態において、開裂ドメインは、たとえば、米国特許出願公開第20050064474号、第20060188987号および第20080131962号明細書で、これらの各々が、その全体においてここに参照することにより組み込まれるものに説明されるように、ホモ二量体化を最小にするか、または防止する1以上の工学的開裂モノマーを含むことができる。非制限的な例として、FokIの位置446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537、および538でのアミノ酸残基は、Fokl開裂ハーフドメインの二量体化に影響を与えるためのすべての標的である。偏性(絶対)ヘテロダイマーを形成するFokIの模範的な人工開裂モノマーには、ペア(組)が含まれ、そこでは、第一の開裂モノマーは、FokIのアミノ酸残基位置490および538での変異を含み、および第二の開裂モノマーはアミノ酸残基位置486および499での変異を含む。
したがって、一実施形態では、アミノ酸位置490での変異は、Glu(E)をLys(K)に置き換え;アミノ酸残基538での変異は、Iso(I)をLys(K)に置き換え;アミノ酸残基486での変異は、Gln(Q)をGlu(E)に置き換え;および位置499での変異は、Iso(I)をLys(K)に置き換える。具体的には、人口開裂モノマーは、「E490K:I538K」と称する人工開裂モノマーを生産するために、1つの開裂モノマーにおいて位置490でEからKに、および538で IからKに変異させることによって、および「Q486E:I499L」と称する人工開裂モノマー生産するために別の開裂モノマーにおいて位置486で QからEに、および499でIからLに変異させることによって調製することができる。上述したように設計された開裂モノマーは、偏性ヘテロ変異体であり、そこでは、異常な開裂が最小化または廃止される。人工開裂モノマーは、たとえば、米国特許出願公開第20050064474号明細書に記載されているように、野生型開裂モノマーの部位特異的突然変異誘発(FokI)により、適切な方法を用いて調製することができる。
(ii)随意ドナーポリヌクレオチド
標的ゲノム編集のための方法には、さらに染色体配列に統合される配列を含む少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドが細胞に導入されることを含むことができる。たとえば、染色体配列(また興味ある配列とも呼ばれる)に統合される配列は、少なくとも1つのヌクレオチド置換を含みうる。ドナーポリヌクレオチドは、興味ある配列、ならびに組込みの部位の上流の配列と実質同じ配列、および組込みの部位の下流の配列と実質同じ配列を含む。このようにして、ドナーヌクレオチド内で、興味ある配列は、上流および下流の配列に隣接され、そこでは、上流および下流の配列が、染色体での組込みの部位のいずれかの側で類似する配列を共有する。
典型的には、ドナーのポリヌクレオチドはDNAである。 DNAは一本鎖または二本鎖であってもよい。ドナーポリヌクレオチドは、DNAプラスミド、バクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ウイルスベクター、DNAの線形部分、PCRフラグメント(断片)、ネイキッド(裸)の核酸、またはリポソームまたはポロクサマーなどのようなデリバリービークルと複合体を形成した核酸であってよい。
ドナーポリヌクレオチドにおける上流および下流の配列は、興味ある染色体配列とドナーポリヌクレオチドとの間の組換えを促進するように選定される。上流の配列は、ここで用いるように、統合の標的部位の上流の染色体配列との配列類似性を共有する核酸配列を指す。同様に、下流の配列は、統合の標的部位の下流の染色体配列と配列類似性を共有する核酸配列を指す。ドナーポリヌクレオチドにおける上流および下流の配列は、標的染色体配列と、約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、または94%の配列同一性を共有することができる。他の実施形態において、ドナーポリヌクレオチドの上流および下流の配列は、標的染色体配列と、約95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を共有することができる。模範的な実施形態では、ドナーポリヌクレオチドの上流および下流の配列は、標的染色体配列と約99%または100%の配列同一性を共有することができる。
上流または下流の配列は、約20bpから約2500 bpまでを含むことができる。一実施形態では、上流または下流の配列は、およそ20、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、100 1、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、または2500 bpを含みうる。好ましい上流または下流の配列は、約200bp乃至約2000 bp、約600bp乃至約1000bp、またはより一層具体的には約700bp乃至約1000bpを含んでもよい。
いくつかの実施形態では、ドナーポリヌクレオチドはさらに、マーカーを含むことができる。このようなマーカーは、それが標的化した統合についてスクリーニングすることを容易にする。適切なマーカーの非制限的な例としては、制限部位、蛍光タンパク質、または選択マーカーが含まれる。
この技術において熟練した者は、よく知られた標準的な組換え技術を用いて、ここに記載したようにドナーポリヌクレオチドを構築することができるであろう〔たとえば、Sambrook(サムブルック)ら、2001年およびAusubel(オースベル)ら、1996を参照〕。
(iii)細胞へのデリバリー
ターゲティングエンドヌクレアーゼは、標的エンドヌクレアーゼをコードする核酸として細胞に導入することができる。核酸はDNAまたはRNAでありうる。ターゲティングエンドヌクレアーゼがmRNAによってエンコードされる実施形態では、mRNAは5′キャッピングされ、および/または3′ポリアデニル化されうる。ターゲティングエンドヌクレアーゼがDNAによってエンコードされる実施形態において、DNAは、線状または環状であることができる。DNAは、ベクターの一部分であってもよく、ここで、エンコーディングDNAは適切なプロモーターに作動可能に連結しうる。この技術での熟練者は、適したベクター、プロモーター、他の制御要素、および関心のある細胞にベクターを導入する手段に精通している。
この方法は、ターゲティングエンドヌクレアーゼまたはターゲティングエンドヌクレアーゼをコードする核酸、および随意に、ドナーポリヌクレオチドを細胞へ導入することを含む。細胞に望ましい分子を導入する適切な方法には、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ソノポレーション、バイオリスティクス(遺伝子銃)、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、カチオン性トランスフェクション、リポソームトランスフェクション、デンドリマートランスフェクション、熱ショックトランスフェクション、ヌクレオフェクション、マグネトフェクション、リポフェクション、インペールフェクション、オプティカル(光)トランスフェクション、独自薬剤で強化した核酸の取込み、およびリポソーム、イムノリポソーム、ビロソーム、または人工ビリオンを介したデリバリーが含まれる。
ターゲティングエンドヌクレアーゼおよびドナーポリヌクレオチドをコードする核酸の両方が細胞に導入される実施形態では、ドナーポリヌクレオチドの、ジンクフィンガーヌクレアーゼをコードする核酸に対する比は、約1:10から約10:1までに及ぶことができる。様々な実施形態では、ドナーポリヌクレオチドの、ジンクフィンガーヌクレアーゼをコードする核酸に対する比は、約1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1: 3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、または10:1であってもよい。一実施形態では、この比は約1:1でありうる。
ターゲティングエンドヌクレアーゼをコードする一よりも多くの核酸および随意に、一よりも多くのドナーポリヌクレオチドが細胞に導入される実施形態において、核酸は、同時にまたは順次に導入することができる。たとえば、ターゲティングエンドヌクレアーゼをコードする核酸は、各々別個の認識配列について特異的であり、ならびに随意のドナーポリヌクレオチドは、同時に導入することができる。あるいはまた、ターゲティングエンドヌクレアーゼをコードする各核酸、ならびに随意のドナーポリヌクレオチドを順次導入してもよい。
(iv)細胞の培養
ターゲティングエンドヌクレアーゼで染色体配列を編集する方法はさらに、ターゲティングエンドヌクレアーゼの発現、必要に応じて、標的部位での切断、およびターゲティングエンドヌクレアーゼによって誘導される二本鎖切断の修復を可能にするために、細胞を培養することを含む。細胞は、たとえば、Santiago(サンティアゴ)ら、(2008)PNAS 105:5809-5814;Moehle(モエール)ら、(2007)PNAS 104:3055-3060;Urnov(アーノフ)ら、(2005)Nature(ネーチャー)435:646-651;およびLombardo(ロンバルド)ら、(2007)Nat. Biotechnology(ネーチャー・バイオテクノロジー)25:1298-1306に記載されたように、標準的な細胞培養技術を用いて培養することができる。この技術での熟練した者は、細胞を培養するための方法がこの技術において知られており、そして細胞のタイプに応じて変化させることができることを認識する。ルーチンの最適化は、すべての場合において、特定の細胞タイプのための最高の技術を決定するために使用することができる。
細胞が、ターゲティングエンドヌクレアーゼを含むが、ドナーポリヌクレオチドを含まない実施形態において、ターゲティングエンドヌクレアーゼは、興味ある染色体配列において標的配列を認識し、結合し、そして開裂する。ターゲティングエンドヌクレアーゼによって導入される二本鎖切断は、変異性(エラーが発生しやすい)非相同末端結合DNA修復プロセスによって修復される。結果的に、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失または挿入は、染色体配列において導入することができる。欠失または挿入の結果として、染色体配列は、機能的トランスポーターが形成されないよう不活性化されてよい。
細胞がターゲティングエンドヌクレアーゼならびにドナーポリヌクレオチドを含む実施形態において、ターゲティングエンドヌクレアーゼは、染色体の標的配列を認識し、結合し、そして開裂させる。ターゲティングエンドヌクレアーゼによって染色体配列に導入された二本鎖切断は、ドナーポリヌクレオチドでの配列が染色体配列の一部分を交換することができるように、ドナーポリヌクレオチドでの相同組換えを介して修復される。ドナーポリヌクレオチドは、物理的に統合されてもよく、または代替的に、ドナーポリヌクレオチドは、切断修復のためのテンプレート(鋳型)として使用することができ、染色体配列のその部分における配列情報によるドナーヌクレオチド配列における配列情報の交換がもたらされる。そのように、内因性染色体配列の一部分はドナーヌクレオチドの配列に変換することができる。変化したヌクレオチド(群)は、開裂の部位に、またはその近くにある。代わりに、変化したヌクレオチド(群)は、交換した配列のどこにでもありうる。しかし、交換の結果として、染色体配列は、ADME/Tox関連タンパク質の修飾バージョンが作成されうるか、または、代わりに発現のレベルが変えられうるように修飾される。
(b)RNA干渉
他の実施形態では、少なくとも一つADME/Toxタンパク質の発現を、RNA干渉技術を用いて破壊することができる。すなわち、発現は、標的mRNAまたは転写産物の発現を抑制するRNA干渉(RNAi)薬剤を導入することによって乱されうる。RNAi薬剤は、標的mRNAまたは転写産物の開裂および劣化を導くことができる。あるいはまた、RNAi薬剤は、タンパク質への標的mRNAの翻訳を妨げるか、または破壊することができる。
例として、RNAi薬剤は短い干渉RNA(siRNA)であることができる。概して、siRNAには、長さが約15から約29ヌクレオチドまでに及ぶ二本鎖RNA分子が含まれる。siRNAは、長さが16-18、17-19、21-23、24-27、または27-29ヌクレオチドでありうる。好ましい実施形態では、siRNAは長さが約21ヌクレオチドであってよい。siRNAは、随意に、一または二つの一本鎖オーバーハング、例は、一方または両方の端部に3′オーバーハングを含むことができる。siRNAは、互いにハイブリダイズする2つのRNA分子から形成することができ、またはあるいは、低分子ヘアピン型RNA(short hairpin RNA)(shRNA)から生成することができる(下記参照)。いくつかの実施形態では、siRNAの二本鎖は、ミスマッチまたはバルジが、2つの配列の間に形成される二本鎖において存在しないように、完全に相補的であることができる。他の実施形態では、siRNAの二本の鎖は、一またはそれよりも多くのミスマッチおよび/またはバルジが、2つの配列の間に形成される二本鎖において存在することができるように、実質相補的であってもよい。一定の実施形態では、siRNAの5′末端の一方または両方は、リン酸基を有していてもよいが、その一方、他の実施形態では、5′末端の一方または両方はリン酸基を欠くことができる。他の実施形態では、siRNAの3′末端の一方または両方は、ヒドロキシル基を有していてよいが、その一方、他の実施形態では、5′末端の一方または両方は、ヒドロキシル基を欠いていてもよい。
siRNAの一つの鎖は、「アンチセンス鎖」または「ガイド鎖(guide strand)」と呼ばれ、標的転写産物とハイブリダイズする部分を含む。好ましい実施形態では、siRNAのアンチセンス鎖は、標的転写物の領域と完全に相補的であってもよく、すなわち、それは、長さが約15および約29個のヌクレオチド、好ましくは長さが少なくとも16個のヌクレオチド、より好ましくは長さが約18-20個のヌクレオチドの間の標的領域上に単一ミスマッチまたはバルジを伴うことなく標的転写産物にハイブリダイズする。他の実施形態において、アンチセンス鎖は、標的領域に実質的に相補的であることができ、すなわち、1つまたはそれよりも多くのミスマッチおよび/またはバルジが、アンチセンス鎖および標的転写産物によって形成される二本鎖において存在しうる。典型的には、siRNAは、標的転写産物のエクソン配列を標的にする。この技術に熟練した者は、標的転写産物のためにsiRNAを設計するプログラム、アルゴリズム、および/または商業サービスに精通している。模範的な例は、ロゼッタsiRNAデザインアルゴリズム〔Rosetta Inpharmatics, North Seattle, WA(ロゼッタ・インファルマティクス、ノースシアトル、ワシントン州)〕およびMISSION(R)〔ミッション(商標)〕siRNA〔Sigma-Aldrich, St. Louis, MO(シグマ-アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)〕である。siRNAは、酵素的に、この技術に熟練した者によく知られている方法を用いてインビトロにおいて合成することができる。あるいはまた、siRNAは、この技術でよく知られるオリゴヌクレオチド合成技術を用いて化学的に合成することができる。
他の実施形態では、RNAi薬剤は、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)であることができる。概して、shRNAは、十分に長い二本鎖構造を形成してRNA干渉を媒介する(上述の)ためにハイブリダイズするか、またはハイブリダイズ可能な少なくとも2つの相補的な部分、および二重鎖を形成するshRNAの領域が接続されるループを形成する少なくとも1つの一本鎖部分が含まれるRNA分子である。構造はまた、二重の部分であるステムを有する、ステムループ構造と呼ぶことができる。いくつかの実施形態では、構造の二重の部分は、ミスマッチまたはバルジがshRNAの二重鎖領域内に存在しないように完全に相補的であってもよい。他の実施形態では、構造の二重の部分は、一つ以上のミスマッチおよび/またはバルジがshRNAの二重の部分に存在することができるように、実質的に相補的でありうる。構造のループは、長さが約1から約20個のヌクレオチドまで、好ましくは長さが約4から約10個のおよそのヌクレオチド、およびより好ましくは長さが約6から約9個のヌクレオチドでありうる。ループは、標的転写産物に相補的な領域の5′または3′末端のいずれか(すなわち、shRNAのアンチセンス部分)に位置することができる。
shRNAは、さらに、5′または3′末端上にオーバーハング(突出部)を含むことができる。随意のオーバーハングは、長さが約1から約20個のヌクレオチドまで、およびより好ましくは長さが約2約〜15個のヌクレオチドでよい。いくつかの実施形態では、オーバーハングは、1以上のU残基、例は、約1および約5のU残基の間で含むことができる。他の実施形態ではそうでないかもしれないが、いくつかの実施形態では、shRNAの5′末端はリン酸基を有することができる。他の実施形態では、shRNAの3′末端は、ヒドロキシル基を有していてもよいが、他の実施形態ではそうでないかもしれない。概して、shRNAsは、保存された細胞のRNAi機構によってsiRNAに加工される。したがって、shRNAは、siRNAの前駆体であり、およびshRNAの一部分(すなわち、shRNAのアンチセンスの部分)の相補的な標的転写産物の発現を同様に抑制するのが可能である。この技術で熟練した者(当業者)は、shRNAの設計および合成のための利用可能な供給源(上記に詳述する)に精通している。模範的な例は、MISSION(R)shRNAs(Sigma-Aldrich)である。
さらに他の実施形態では、RNAi薬剤は、RNAi発現ベクターであることができる。典型的には、RNAiの発現ベクターは、siRNAsまたはshRNAsのようなRNAi薬剤の細胞内(インビボ)合成のために使用することができる。一実施形態では、2つの別々の相補的なsiRNA鎖は、2つのプロモーターを含む単一のベクターを用いて転写することができ、それらのそれぞれは単一のsiRNA鎖の転写を指示する(すなわち、転写が起こりうるように、各プロモーターは、siRNAのためのテンプレートに操作可能に連結される)。2つのプロモーターは同じ向きにあることができ、その場合に、それぞれは相補的なsiRNA鎖のいずれかのテンプレートに動作可能に連結される。あるいはまた、2つのプロモーターは、そのプロモーターの転写が2つの相補的siRNA鎖の合成をもたらすように、反対向きになり、単一のテンプレートに隣接することができる。別の実施形態において、RNAi発現ベクターは、転写産物がshRNAを形成するように、2つの相補的領域を含む単一のRNA分子の転写を駆動するプロモーターを含むことができる。
当業者は、1よりも多くの転写単位の転写を介してインビボで生産することが、siRNAおよびshRNAの薬剤のために好ましいことを理解するであろう。一般的に言えば、一つ以上のsiRNAまたはshRNAの転写単位のインビボ発現を指示するために利用されるプロモーターは、RNAポリメラーゼIII(Pol III)のためのプロモーターであることができる。U6またはH1プロモーターのような、特定のPol IIIプロモーターは、転写領域内のシス作用性調節エレメントを必要とせず、そしてそれゆえ、一定の実施形態において好適である。他の実施形態では、Pol IIのためのプロモーターは、一つ以上のsiRNAまたはshRNAの転写単位の発現を駆動するために使用することができる。いくつかの実施形態では、組織特異的、細胞特異的、または誘導性Pol IIプロモーターを使用することができる。
siRNAまたはshRNAを合成するためのテンプレートを提供する構築物は、標準的な組換えDNA法を用いて生産され、そして真核細胞における発現に適した多種多様な異なるベクターのいずれかに挿入することができる。ガイダンスは、Current Protocols in Molecular Biology(分子生物学におけるカレントプロトコール)〔Ausubelら、John Wiley & Sons(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ)、New York(ニューヨーク)、2003〕、またはMolecular Cloning: A Laboratory manual(分子クローニング:ラボラトリー・マニュアル){Sambrook アンドRussell(ラッセル)、Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 3rd edition(コールド・スプリング・ハーバー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、第3版)、2001}〕で見出される。当業者はまた、ベクターが、追加の調節配列(例は、終結配列、翻訳調節配列、等)、ならびに選択可能マーカー配列を含んでもよいことを認める。DNAプラスミドは、pBR322、PUC、などに基づくものなどを含め、この技術で知られる。多くの発現ベクターは、既に適切なプロモーターまたはプロモーターを含んでいるので、プロモーター(群)に関して適切な位置で興味あるRNAi薬剤がコードされる核酸配列を挿入しさえすれば十分でありうる。ウイルスベクターはまた、RNAi薬剤の細胞内発現を提供するために使用することができる。適切なウイルスベクターには、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどが含まれる。好ましい実施形態では、RNAi発現ベクターは、shRNAレンチウイルスに基づくベクターまたはMISSION(R) TRC shRNAsプロダクト(Sigma-Aldrich)で提供されるようなレンチウイルス粒子である。
RNAi薬剤またはRNAi発現ベクターは、当業者によく知られる方法を用いて細胞内に導入することができる。ガイダンスはたとえば、Ausubelら、前掲またはSambrook & Russell、前掲で見出される。いくつかの実施形態では、RNAi発現ベクター、例は、ウイルスベクターは、例えば、細胞ストレス関連タンパク質の発現が後続の細胞世代にわたって乱されるように、細胞のゲノムに安定に組み込まれてもよい。
(c)相同組換え
他の実施形態では、相同組換え技術は、ゲノムDNAのレベルでのADME/Toxタンパク質/遺伝子の発現を破壊するために使用することができる。したがって、これらの技術は、機能的なバイオマーカーが作られえないように、核酸配列を欠失させ、核酸配列の一部を欠失させ、または核酸配列の点突然変異を導入するために使用することができる。一実施形態では、核酸配列は、Capecchi(カペッキ)〔Cell(セル)22:4779-488、1980)およびSmithies(スミティーズ)(Proc Natl Acad Sci USA 91:3612-3615、1994)の技術を用いて相同組換えによって標的化することができる。他の実施形態において、核酸配列は、Cre-/oxP部位特異的組換えシステム、Flp-FRT部位特異的組換えシステム、またはそれらの変形を用いて標的化することができる。そのような組換えシステムは商業的に入手可能であり、追加的なガイダンスはAusubelら、前掲に見出すことができる。
(d)乱された発現の測定
発現を乱すための上述の方法は、概して標的遺伝子(群)の発現が変えられたか(すなわち、減少したか、または増加した)、またはそれがない、そしてその結果として、遺伝子によってコードされるタンパク質の活性が変えられたか(すなわち、減少したか、または増加した)、またはそれがないように導かれる。この技術で既知の多種多様な方法には、mRNAレベル、タンパク質レベル、または酵素活性を測定するために使用することができる。RNA検出方法の非制限的な例は、逆転写酵素PCR、逆転写酵素定量PCR、核酸マイクロアレイ、ハイブリダイゼーションに基づく方法、分枝DNA検出技術、ノーザンブロッティング、およびヌクレアーゼ保護アッセイが含まれる。タンパク質検出方法の非制限的な例には、ウエスタンブロッティング、ELISAアッセイ、およびその他の免疫アッセイが含まれる。これらの検出アッセイにおいて使用されるプローブの特異性に応じて、各々の標的化されたADME/Toxタンパク質は単独で検出しえ、またはすべての標的化されたADME/Toxタンパク質は同時に検出しうる。しかし、特異性にかかわらず、発現のレベルにおける減少は、少なくとも一つのADME/Toxタンパク質の破壊された発現を含む細胞におけるレベル(mRNAおよび/またはタンパク質のもの)を、ADME/Toxタンパク質の発現が破壊されていない細胞でのそれらと比較することによって決定することができる。
いくつかの実施形態では、ADME/Tox遺伝子のDNA配列は、発現が実質的に排除されるように修飾することができる。たとえば、DNA配列の若干またはすべては、機能的な生成物が作られないように欠失され(または変えられ)うる。そのような細胞は、ノックアウト細胞と呼ぶことができる。他の実施形態では、ADME/Toxタンパク質の発現は、低下されたレベルのmRNAおよび/またはタンパク質が作られるように破壊することができる。そのような細胞はノックダウン細胞と称することができる。たとえば、標的化されたADME/Tox遺伝子のmRNAおよび/またはタンパク質のレベルは、発現が乱されていない細胞のものと比較して、少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%によって低減することができる。さらに他の実施形態では、ADME/Tox遺伝子のDNA配列は、修飾されたタンパク質産物が作られるように改変されてもよい(例は、SNPを介して)。修飾されたタンパク質産物は、改変された基質特異性、改変された結合特性、変えられた安定性、変えられた動態、などを有することができる。
(III)細胞において薬剤の効果を評価するための方法
またここでは、薬剤の効果を評価するための方法を提供し、そこでは、方法は少なくとも1つの膜トランスポーター、薬物代謝酵素、生体異物センサー、細胞ストレス応答経路タンパク質、またはそれらの組合せの破壊された発現を有する細胞を、薬剤と接触させることを含む。この方法はさらに、選択されたパラメーターを、比較用(comparable)野生型細胞を同じ薬剤と接触することから得られた結果と比較することを含む。
薬剤の同一性は、ADME/Toxタンパク質の同一性に応じて異なることができ、異なるであろう。たとえば、薬剤は、製薬上活性な成分、治療剤、化学療法剤、抗生物質、抗微生物剤、鎮痛剤、抗炎症剤、小分子、生物工学製品(biologic)、食品添加物、農薬、除草剤、毒素、工業化学物質(化成物)、または環境化学物質でありうる。
また、測定されるパラメーターは、ADME/Toxタンパク質の同一性に応じて変動する。たとえば、薬剤の流出比は、腸トランスポーターについて測定することができる。測定に適切なパラメーターの非制限的な例には、透過性、流出比、酵素活性、酵素反応速度論、基質結合性、転写活性、タンパク質移行、酸化還元シグナリング、などが含まれる。
概して、薬剤の効果(群)は、候補薬剤の吸収、分布、代謝、排泄、および/または毒性学の関連内で評価することができる。たとえば、MDR1、BCRP、MRP1、およびMRP2のいずれか1つ以上のノックアウトのような遺伝子改変は、疾患用、潜在的な治療上の化合物の初期の同定用、およびリード最適化用の細胞株の細胞モデルにおいて候補薬物のADMEプロファイルを特徴付けるために使用することができる。
たとえば、薬物候補は、多剤耐性に関して評価することができ、それは、構造的および/または機能的に無関係でありうる薬物の広い範囲に対する耐性を発達させる細胞の能力に言及する。「多剤耐性」はまた、薬物の間の交差耐性を包含する。上記で詳述したように、いくつかのトランスポーターは、多剤耐性の発達に関与し、それは薬物が細胞外に輸送されるときに発生する。たとえば、化学療法剤に対する一定の腫瘍の多剤耐性は、ABCトランスポータータンパク質に関与する。そのような輸送は、たとえば、MDR1a、MDR1b、BCRP、MRP1、またはMRP2、またはそのホモログ(同族体)を含む、任意の1以上のABCトランスポーターによって媒介されてよい。それゆえ、遺伝子修飾で、ABCトランスポータータンパク質のノックアウトのようなものは、たとえば、ここに記載したように、流出ABCトランスポータータンパク質またはそのホモログ(群)の活性を低減し、膜を通して薬物の配送を促進し、そうでなければ薬物を排除するために使用することができる。具体的には、流出インヒビターは、血液脳関門を通して、または血液精巣関門を通して薬物の輸送を助けるために使用することができる。
さらに別の態様は、潜在的な遺伝子治療戦略の治療効率を評価するための方法を包含する。すなわち、ADME/Toxタンパク質をコードする染色体配列は、ADME/Tox遺伝子の変異に関連する障害または症状が軽減または除去されるように修飾することができる。特に、この方法には、変化したタンパク質産物が生産されるようにADME/Toxタンパク質をコードする染色体配列が編集されることを含む。遺伝的に修飾された細胞は、様々な試験条件および細胞への曝露によってテストされ、および/または分子の応答が測定され、そして同じ試験条件に曝露した野生型細胞のものに比べられうる。結果的に、ADME/Tox遺伝子治療のレジーム(養生法)の治療上の可能性を評価することができる。
定義
別段の定めがない限り、ここで使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術の熟練者によって普通に理解される意味を有する。次の参考文献は、本発明で使用する用語の多くの一般的な定義を、熟練の者に提供する:Singleton(シングルトン)ら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(微生物・分子生物学辞典)(第2版、1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(科学技術のケンブリッジ辞書)〔Walker(ウォーカー)編、1988〕;The Glossary of Genetics(遺伝学用語集)、第5版、R. Rieger(リーガー)ら(編)、Springer Verlag(シュプリンガー・フェアラーク社)(1991);およびHale & Marham(ヘイル&マラーム)、The Harper Collins Dictionary of Biology(生物学のハーパーコリンズ辞典)(1991)。ここで使用するように、以下の用語は、特に断らない限り、それらに与えられる意味を有する。
本開示の要素またはその好ましい実施形態(群)を導入するとき、冠詞 「ある(a)」、「ある(an)」「その(the)」および「前記」は、1つまたはそれよりも多くの要素が存在することを表す意味に意図される。「含む」 、「包含する」および「有する」という用語は、包括的であることを意図し、そしてリストした要素以外の追加要素が存在しうることを意味する。
用語「乱された発現」は、興味ある遺伝子/タンパク質の変化した発現に言及する。たとえば、遺伝子産物の発現は、通常の(非破壊)状況に対して除去し、低減し、または増加させることができる。あるいはまた、発現される遺伝子産物は、通常の(非破壊)遺伝子産物に対して変え、または修飾することができる。
ここで使用するように、用語「内因性」は細胞に対して自然な染色体配列に言及する。
用語「編集」、「ゲノム編集」、または「染色体編集」は、それによって特定の染色体配列が変えられるプロセスに言及する。編集された染色体配列は、少なくとも1つのヌクレオチド挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、および/または少なくとも1つのヌクレオチドの置換を含むことができる。
ここで用いる「遺伝子」は、遺伝子産物をコードするDNA領域(エクソンおよびイントロンを含む)、ならびに遺伝子産物の産生を調節するすべてのDNA領域で、そのような調節配列がコーディングおよび/または転写配列に隣接するか否かを問わないものに言及する。したがって、遺伝子は、必ずしも制限されないが、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列で、リボソーム結合部位および内部リボソーム侵入部位のようなもの、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター(絶縁要素)、境界要素、複製起点、マトリックス付着部位、および遺伝子座調節領域が含まれる。
ここで使用するように、用語「不活化配列」、「不活性化された染色体配列」または「不活性化されたゲノム配列」は、コードされた生産物が実質的に排除されるように、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、および/または少なくとも1つのヌクレオチドの置換により修飾されたゲノムまたは染色体配列に言及する。
用語「核酸」および「ポリヌクレオチド」は、線形または環形のコンフォメーションで、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーに言及する。本開示の目的のために、これらの用語は、ポリマーの長さに対して制限されるものとして解釈されるべきではない。用語は、自然のヌクレオチドの既知の類似体、ならびに塩基、糖および/またはリン酸部分(例は、ホスホロチオエート骨格)において修飾されたヌクレオチドを包含することができる。概して、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対特異性を有し;すなわち、Aの類似体はTと塩基対合する。
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーに言及するために互換的に使用される。
ここで用いる用語「標的部位」または「標的配列」は、編集される染色体配列の一部分を規定する核酸配列に言及し、およびそれに対し、もし結合のための十分な条件が存在するとすれば、ターゲティングエンドヌクレアーゼが認識され、結合するために設計される。
用語「上流」および「下流」は、定位置に関して核酸配列における位置に言及する。上流は、位置に対し5′(すなわち、鎖の5′末端近く)である領域を指し、および下流は位置に対し3′(すなわち、鎖の3′末端近く)である領域を指す。
核酸およびアミノ酸配列同一性を決定するための方法は、この技術で知られる。典型的には、そのような技術には、遺伝子についてのmRNAのヌクレオチド配列を決定すること、および/またはそれによりコードされるアミノ酸配列を決定すること、およびこれらの配列を第二のヌクレオチドまたはアミノ酸配列に対して比較することが含まれる。ゲノム配列はまた、この様式で決定され、そして比較することができる。概して、同一性は、それぞれ、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸対応に言及する。2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、それらの同一性パーセントを決定することによって比較することができる。二つの配列の同一性パーセントは、核酸またはアミノ酸配列か否かを問わず、より一層短い配列の長さによって割られ、そして100によって乗算され、2つの配列決定された配列間の正確な一致の数である。核酸配列の近似アラインメント(配列比較)は、Smith(スミス)およびWaterman(ウォーターマン)、Advances in Applied Mathematics(アドバンシーズ・イン・アプライド・マスマティックス)2:482-489(1981)の局所的相同性アルゴリズムによって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff(デイホフ)、Atlas of Protein Sequences and Structure(アトラス・オブ・プロテイン・シーケンシージ・アンド・ストラクチャー)M. O. Dayhoff編、補遺5、3:353-358、National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USA(ナショナル・バイオメディカル・リサーチ・ファウンデーション)、ワシントンD.C.、米国)によって開発されたスコアリングマトリックスを使用して、アミノ酸配列に適用し、およびGribskov(グリバコフ)、Nucl. Acids Res. 14(6):6745-6763(1986)によって正規化することができる。配列の同一性パーセントを決定するためにこのアルゴリズムの例示的なインプリメンテーション(手段)は、「BestFit(ベストフィット)」ユーティリティアプリケーションにおけるGenetics Computer Group(ジェネティクス・コンピューター・グループ)〔Madison(マディソン)、Wis.(ウィスコンシン州)〕によって提供される。配列間の同一性または類似性パーセントを算出するための他の適切なプログラムは、概してこの技術で知られ、たとえば、別のアライメントプログラムは、デフォルトのパラメーターで使用されるBLASTである。たとえば、BLASTNおよびBLASTPは、次のデフォルトのパラメーターを使用して用いることができる:遺伝コード=標準;フィルタ=なし;鎖=両方;カットオフ=60;予測=10;マトリクス=BLOSUM62;デスクリプション=50シーケンス;ソート・バイ=ハイスコア;データベース=非冗長、GenBank(ジェンバンク)+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS変換+スイスプロテイン+Spupdate+PIRである。これらのプログラムの詳細は、GenBankのウェブサイト上で見出すことができる。ここに記載の配列に対して、配列同一性の所望度の範囲は、約80%から100%までおよびそれらの間の任意の整数値である。典型的に、配列間の同一性パーセントは、少なくとも、好ましくは70%-75%、好ましくは80-82%、より好ましくは85-90%、さらにより好ましくは92%、さらにより好ましくは95%、および最も好ましくは98%の配列同一性である。
本発明の範囲から離れることなく、様々な変化が上記の細胞、キット、および方法において行うことができるので、上記の説明および以下に与える実施例において含まれるすべての事項は、例示的であり、そして制限する意味でないとして解釈されるべきことが意図されている。
例:以下の例は、本発明の一定の態様を例示する。
例1:C2BBe1細胞におけるBCRPトランスポーターノックアウトおよび検証
野生型BCRP遺伝子は、C2BBe1細胞において、安定な細胞株を生成するためにジンクフィンガーヌクレアーゼ技術を用いてノックアウトした。細胞を選別し、そして単一細胞をクローン化した。細胞を望ましい変異について分析し、および陽性クローンをさらなる増殖および分析のために選定した。定量的PCRを、細胞のmRNA発現を評価するために使用し、そして野生型細胞と比較した。これらのクローンから調製した全細胞溶解物を、BCRPタンパク質発現レベルの分析のために免疫ブロットに供した。BCRPノックアウト細胞は、大幅に低減したmRNAおよびタンパク質発現を示した。シングルBCRPノックアウト細胞クローンを、いくつかの既知のトランスポーター選択的基質(例は、エストロン3-サルフェート、ジゴキシンおよびCDCFDA)を使用して、流出活性の機能解析のために選定した。
双方の野生型細胞(親C2BBe1細胞)およびBCRPノックアウト細胞を、Caco-2細胞を用いて以前に開発した腸の流出トランスポーターアッセイのための標準プロトコルに従って、24ウェルトランスウェルプレート上に播種し、そして21日間培養した。頂端から基底(AからBへ)および基底から頂端(BからAへ)の両方向における試験化合物の透過性を、2時間インキュベーション後測定し、そして流出値を算出した。結果を図1に示す。既知のBCRP基質、エストロン3-サルフェートの流出比は、親細胞と比較して、ノックアウト細胞において大きく減少したが、その一方で、二つの他の基質の流出比は影響を受けなかった。ジゴキシンは、既知のMDR1基質であるが、一方で、CDCFDAはMRP2トランスポーターに選択的である。二つの追加の化合物は、コントロールとして使用したが、アテノロールおよびメトプロロールは、これらのトランスポーターのいずれかの基質ではないことが知られている。
例2:C2BBe1細胞におけるシングルおよびダブル流出トランスポーターノックアウト
BCRPおよびMDR1トランスポーター遺伝子を個別にノックアウトし、そしてMDR1/BCRPダブルノックアウトもまた、ジンクフィンガーヌクレアーゼ技術を使用してC2BBe1細胞において生成した。細胞を分析し、そして上述したように増殖させ、次いで標準トランスウェルアッセイにおいて機能的活性について試験した。二つの基質は、-エストロン3-サルフェートをBCRPのための選択的基質として、およびジゴキシンをMDR1のための選択的基質として利用した。メトプロロールをコントロールとして用いた。図2に示すように、4つの細胞株を、親細胞株を含めて評価した。エストロン3-サルフェートにより、高い流出率を、親株において、およびMDR1ノックアウトにおいて見出されたが、その一方で、BCRPシングルノックアウトおよびMDR1/BCRPダブルノックアウトの双方において流出が抑制された。ジゴキシンについて、流出比は、親細胞株およびBCRP一単位のノックアウト細胞において高かったが、MDR1ノックアウトおよびMDR1/BCRPダブルノックアウトの双方において、予期したように抑制された。