JP2014229283A - 設計計算結果補正装置および設計計算結果補正方法 - Google Patents

設計計算結果補正装置および設計計算結果補正方法 Download PDF

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琢也 馬野
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研一 吉岡
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Abstract

【課題】 シミュレーションで得られた計算値に含まれる計算誤差や計算の不確かさを定量評価して計算値を補正する。【解決手段】実施形態による設計計算結果補正装置は、相対誤差Epを演算する計算値・測定値相対誤差演算部112と、入力パラメータ共分散誤差行列WCを演算する入力パラメータ共分散誤差行列演算部114と、目的体系感度係数ベクトルSRを演算する目的体系感度係数ベクトル演算部116と、模擬実験の体系について入力値の単位変化に対する前記物理量の変化量を表す実験体系感度係数ベクトルSEを演算する実験体系感度係数ベクトル演算部115と、入力パラメータ起因物理量不確かさERPを算出する目的体系物理量不確かさ演算部120と、補正後の計算値を算出する目的体系物理量計算値補正部121と、を有する。【選択図】図1

Description

本発明の実施形態は、物理現象をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差を推定、および推定した誤差に基づく計算結果の補正を行う設計計算結果補正装置および設計計算結果補正方法に関する。
工業分野で製作される製品は、実際に使用する前に目的とする性能が発揮できることを確認する必要がある。最もよく用いられる方法は、最終的な製品と殆ど同じものを試作して、その試作品の性能を確かめる方法で、実証試験と呼ばれている。たとえば家電製品でも自動車でも鉄道車両でも試作品を製作して、その性能を確認し品質を保証して最終的な製品として出荷している。
一方、特定の工業分野では、製作する製品の大きさが巨大で、最終的な製品の性能を試作によって確認することが極めて困難である場合がある。また、製作する製品が非常に高価であるか製作数が唯一つあるいは少数であるか、経済的あるいは他のいくつかの理由によって試作品を製作することが合理性をもたない場合もある。
たとえば、実際の原子力発電所や核物質に関係する施設では、これらの発電所や施設を試作することは経済的にも物理的にもほとんど不可能である。理由の一つとして、使用する核物質を自由に用意することができないことがある。
使用済核燃料の貯蔵施設を建設する場合、予め貯蔵する使用済核燃料と同じものを用意しておいて施設の性能を測定することは現実的には不可能である。原子力発電所を建設する際も、予め別の燃料集合体を用意しておいてその核燃料によって炉心の核的性能を確認することは、経済的な面からも成立性がほとんど無い。
そこで、原子力分野では実物を用いた性能の確認ではなく、計算による性能の確認が産業分野の誕生時点から行われてきた。また他の分野、特に高額な製品である航空機やロケット、大型船舶などの設計でも、製品のコストアップを抑え、製作時間を短縮するために設計段階で計算によって最終的な性能を把握することが、ますます一般的になってきている。
予測計算には、一般的にコンピュータを用いる。製品が従う物理理論に基づいて作成された計算機プログラムによってその「製品」の性能を把握する技術は、計算物理、計算実験あるいは計算機シミュレーション(コンピュータシミュレーション)などと呼ばれ、大きく発達した技術分野になっている。
原子力発電所を建設する場合、設計段階において、実際の燃料集合体を用意して原子炉の炉心の核的性能を確認することは不可能であるので、コンピュータシミュレーションで性能を確認する。また原子炉の炉心に装荷する製作する燃料集合体の体数や燃料集合体に含まれる核物質の濃度や分布についてもコンピュータシュミレーションに基づいて決定される。原子力分野ではこのようなコンピュータシュミレーション技術は不可欠である。
コンピュータシュミレーションは、数値計算の積み重ねであって、必ず計算誤差が付きまとう。計算の確からしさを計算精度と呼ぶが、計算精度を把握することは設計の信頼性・安全性の向上、経済性の改善、設計の合理化のために非常に重要である。計算精度を正確に把握することとは、得られた計算値に伴っている計算誤差を正確に把握することと同じ意味である。
次に、計算誤差の種類について説明する。
計算で生じる誤差の要因は幾つかの種類に分けられる。計算手法の誤差、数値計算の誤差および計算に用いる数値(入力値)に起因する誤差である。
計算に用いる物理モデルは、あくまで自然界の物理現象を数学的にモデル化したものであり、自然界がこの物理モデルを尊重するようにして変化するわけではない。加えて、物理モデルをコンピュータで計算できるように近似・変形した場合にも誤差が生じる。これらが計算手法の誤差である。
原子力の核計算において、中性子の運動の基礎方程式は、ボルツマンの輸送方程式によって記述される。ボルツマンの輸送方程式をコンピュータで解く場合、何らかの近似を用いて解くことになる。原子炉の炉心計算では、ボルツマンの輸送方程式を近似した拡散方程式が広く利用されている。この拡散方程式は、ボルツマンの輸送方程式を中性子の運動の角度方向の情報を無視して近似したものである。よって中性子の運動方向が均一には扱えない体系では、拡散方程式による計算では誤差が大きくなるおそれがある。加えて、拡散方程式で使用される拡散係数は、密度の薄い媒質に対して適切な数値を設定することができない場合があり、そのため誤差を生ずる。計算対象の体系が小さい場合、すなわち中性子の洩れの割合が大きい小型の炉心を拡散理論で計算すれば、洩れを過大評価して臨界固有値を過小評価する傾向があり、計算誤差が大きくなる傾向があるといわれている。
このように、計算を行なう際、計算に用いる理論やモデルが適切であるか、計算手法で生じている誤差の検討が必要である。
数値計算の誤差は、コンピュータで計算する過程の四則演算で生じる誤差である。たとえば有限回の演算で得た近似値を用いることによる打切り誤差(Truncation Error)、数値の桁数の制限から数値を近似する際の丸め誤差(Round−off Error)とか、桁数の異なる数値の加減から生ずる桁落ち誤差(Cancellation Error)などがある。ただし、数値計算の誤差は、現在の進歩した数値計算技術とコンピュータのハードウェアの発達によって無視できるレベルになっており、一般に他の誤差と比較して十分小さく、誤差の主たる支配因子ではない。
誤差の要因として一番大きいと考えられるものは、計算に使用する数値に起因する誤差である。計算に用いられる数値は、寸法、体系を構成する物質、その物質の密度などの計算対象に固有な数値と、計算対象それぞれには依存せず、計算に共通に使用される数値がある。たとえば、水の温度と圧力が決まれば水の密度は決まるが、その密度の値は計算体系には依存せず共通に使用される値である。計算に用いられるこれら全ての数値を、以下パラメータと呼ぶことにする。またパラメータによって計算結果に生ずる誤差を、以下パラメータ誤差と呼ぶことにする。
一般的に用いられる物理定数も真の値ではなく、誤差が含まれている。ただし、物理定数の精度は他の数値に比べて遥かに高く、有効数字も6桁を越えるものが多くある。このため、一般的に、物理定数の誤差が原子力施設の設計や建設、燃料集合体のなどの設計、製作で問題となることはないと判断できる。
一方、これまで核計算の中で最も重要と判断されてきたパラメータは「核データライブラリ」に関する数値であり、中性子反応断面積、崩壊定数、収率、遅発中性子割合などがそれにあたる。「核データライブラリ」は、核計算に直接的に関わる数値群で、これら数値の変化が核特性を示す計算値に与える影響が大きい。また、もともと「核データライブラリ」は、全ての値が測定によって正確に確認・決定されたものではなく、理論計算によって定められた数値も含まれる。このため、「核データライブラリ」に含まれる誤差は、他のパラメータ誤差よりも大きいと判断される。したがって、核計算では、「核データライブラリ」のパラメータ誤差が重要視される。
パラメータ誤差のなかで次に重要なものは、原子数密度の誤差である。原子力分野において、運転後の燃料集合体などについては、燃焼計算によって原子数密度を得る。このため、その後の計算で原子数密度を用いるときには、既にこの原子数密度に計算誤差が含まれていると判断される。
次に原子力分野での計算精度を補助的な実験で確認する考え方について説明する。
原子力産業の初めから、核物質の臨界性という原子力に特有の現象を確認するために、実験装置が作られ、利用されてきた。そのひとつが、臨界実験装置である。臨界実験装置は、一般的に、大気圧下、常温(室温)で運転・稼動できるように設計された装置である。
臨界実験装置は小型の原子炉であって、実際の原子炉で使用するウランやプルトニウムなどの核物質を使用して臨界状態を達成する。臨界状態とは中性子に関して外部から補助なしにその体系が独立して定常状態の核反応を維持できる状態を指す。臨界実験装置は、装置が非常に小型であるために熱をほとんど出さない。原子炉のミニチュア版といった装置であり、臨界状態を実現できることから、臨界実験装置と呼ばれている。臨界実験装置を用いた実験は、臨界実験と呼ばれる。
臨界実験は、計算の誤差を減らすために役立てられてきた。物理的に非常に単純化され、簡略化された条件で、体系を組み上げて、同時に精度の高い測定データを取得することが臨界実験の目的である。物理的に非常に単純で簡略化した体系では、形状や組成に関わる計算入力パラメータの誤差を減らすことができ、誤差の少ない測定値は計算値との比較を容易にする。過去から現在に至るまで「計算手法に起因する誤差」と「核データライブラリに起因する誤差」を明らかにすることを目的に、臨界実験によって得られた多くの測定値と計算値が比較されて、その結果、誤差要因が特定され誤差が定量化されてきた。
加えて、臨界実験の測定値を計算値がよく再現できていれば、計算に使った手法、計算に使った主として核データライブラリなどのパラメータの品質が高いと判断される。品質が高いと判断されれば、同じ手法とパラメータの組み合わせで目的とする体系の設計を行っても良いという品質保証・判断基準となってきた。
臨界実験の測定値で一番重要視されるものは、臨界になった条件である。そこで、臨界になった諸条件を、データとして正確に取得する。原子炉物理の言葉では、臨界になった条件を「臨界質量」という言葉で表すことがあり、これは核物質種類、質量のみならず、体系の幾何形状、温度や核物質の組成や質量一式の正確な数値を指す。
次に重要とされるものは、臨界実験装置が臨界になったときの核分裂反応の空間分布である。燃料棒を組み合わせて構成された臨界実験装置では、燃料棒から放出される放射線を測定して、放射線量の比によって核分裂反応の分布を測定することが多い。これは核分裂反応と放出される放射線の量は比例関係にあると考えられるからである。なお、臨界実験装置に、たとえば小型核分裂電離箱などの特別の放射線測定器を挿入して、目的とする位置での放射線の量を測定することも多い。この場合も、測定値の比によって中性子束の分布などが求められる。
目的とする測定値が得られれば、次に臨界実験の体系や実験条件を入力として計算を行なう。計算で求めた値を臨界実験で得られた臨界量と核分裂反応の分布、中性子束の分布などの測定値と比較することで、計算全体の品質が把握できる。すなわち計算値と測定値が測定誤差の範囲や許容できる程度で一致していれば、臨界実験を計算した計算機プログラム(計算手法)と核データライブラリを中心として計算に用いたパラメータが十分な品質を有しているという根拠になる。その後、同じ計算機プログラム(計算手法)と核データライブラリを用いて最終的に目的とする原子炉や原子炉施設の設計の計算に適用できるという判断がなされる。
一方、計算値と測定値に有意な差が認められる場合は、計算手法や核データライブラリの問題点や改良すべき点を特定し、計算値と測定値の一致が改善されるように改良がなされる。このように、臨界実験は、計算機プログラムと核データライブラリの品質の確認や保証、あるいは計算手法や核データライブラリの改良に寄与してきた。
臨界実験で得られた数値(測定値)にも誤差が含まれる。その誤差は、測定誤差と呼ばれる。測定誤差には、それぞれの測定の際に偶然発生する統計誤差(ランダム誤差、統計誤差)と、測定に用いた計測器や手法に伴う誤差(系統誤差)が含まれる。統計誤差は、確率分布に従い、測定の回数を増やせば誤差の割合は減少する性質がある。系統誤差は、測定方法そのものに付随した誤差であるので、測定ごとに常に発生し、系統誤差の割合は測定の回数によって変化することはない。なお、通常測定誤差の割合は、計算誤差の割合よりも小さいと考えられている。
これまで臨界実験で得られたデータを利用する方法として、一般的に次の二つの応用がなされてきた。補正因子(バイアス)法と、断面積アジャストメントである。
補正因子(バイアス)法では、目的とする体系において計算で生じる相対誤差を減らすことを目的としており、その誤差の原因を取り除くことは考察しない。
臨界実験の計算値と測定値を利用して目的とする体系の計算精度を向上させる別の手法として、断面積アジャストメントがある。計算誤差の要因を核データライブラリ(断面積ライブラリ)と考えて、臨界実験での計算値と測定値とが一致するように、核データライブラリの値を調整・修正(アジャストメント)し、その調整を行った核データを用いて、目的とする体系の計算を行ない、計算精度を向上させるという考え方である。
特許文献1には、主に流体の計算に際して、幾何学的な寸法誤差・公差、境界条件など入力値の持つ誤差、数値解析誤差について、計算値に含まれる誤差を、感度係数を用いて評価する手法が開示されている。また、非特許文献1には、目的とする体系に対して最終的な設計値を得る際に、計算値にバイアスを乗じ、計算値を補正する手法が開示されている。この手法では、実験で得られた測定値と計算値との比を組み合わせることで、一般的なバイアスを得る。
特許文献1に記載された手法は、あくまで計算値だけを利用しており、実験で得られる測定値を有効的に利用する手段がない。また、非特許文献2に記載された手法は、数学的手法が記載されているものの、指数関数を利用するため演算が極めて複雑であり各実験に必要な係数を一意的に簡便に計算できない。さらに、基本的問題として計算のアルゴリズムに、なぜ指数関数を用いるべきかの物理学的な理由付けがないので、理論の基盤が十分でなかった。
特許文献2では、この点を解決するために、理論的な裏付けをもった誤差の推定方法に基づく誤差推定装置の発明が開示されている。
さて工業製品に関する実設計において、製品が要求する性能を必ず満たすために裕度をもった設計がなされる。例えば最高速度100km/hの自動車を設計する際には、設計計算で見込まれる誤差が6%であれば信頼度は94%(0.94)と考えられるので、計算上では余裕を見て107km/h(=100÷0.94)の性能が出るように設計される。このように実際の工業製品を製作する際に、設計計算値に裕度や安全係数を加減したり、乗除して設計がなされてきた。
これは建築分野の設計に良く用いられてきた手法で、例えば地震などで要求される建物の強度に対して最低限要求される数値に2を掛けるなどして設計上は2倍の強度を持つように設計されることがある。エレベーターを吊り下げるケーブルについても同様で、エレベーターに乗り込む最大人員あるいは持ち込まれる重量の何倍かに耐えるように設計・製作されている。
原子力分野も同様で、原子力に関する性能で最も注意を払わなければいけない臨界に関係する臨界安全の分野では、中性子の(実効)増倍率が1.0になることが臨界であるため、安全上、燃料集合体などの製品や原子力施設が臨界にならないように、設計計算ではそれらの中性子増倍率kが0.95を下回るように設計される。これらは設計計算で5%の計算誤差があっても最終的に実製品や実施設が臨界状態にはならないようにするための配慮である。
これらの裕度や安全係数は歴史的に、(1)政府や国際的な公的機関が設定する、(2)これまで過去の経験やこれまで長い期間使用されてきた手法で決める、(3)技術者の個人的判断、等によって数値が決められ、計算誤差として加えられるかあるいは乗じられて利用されてきた。
着目する性能に対しての実験で明らかになった計算誤差を設計計算値に何かの形で適用する際にも、これまで過去の経験やこれまで長い期間使用されてきた手法、技術者の個人的判断、によって安全係数と称される値が別に決められ、評価された計算誤差に更に加減されるか乗除されて利用されてきた。
例えば推測統計学では信頼性区間95%という値がよく使われ、判断基準として5%という数値がよく使われている。原子力分野でもしばしば0.95という数値を臨界安全の基準に用いたり、その他の設計に適用している。これは5%という値を無条件に安全係数として臨界での値1.000から差し引いて使用している例である。
確かに、これらの安全係数を用いて設計値としてより安全側の評価をした後工業製品を製作することは、安全を担保するのに重要な考え方である。一方、過大な安全係数は設計余裕度を必要な範囲を越えて大きく見積もりすぎることになるため、経済性の面では必ずしも賢明な方法ではない。例えば100kgの鋼材で組み立てれば強度的に十分成立する構造物をわざわざ150kgの鋼材を用いて製作するのは経済的に不利益を招くので、過度な安全係数の適用は経済的に最適な設計をもたらさない。
たとえば使用済核燃料が臨界にならないよう安全な取扱いを行う際に、核分裂性物質が原子炉の運転によって減少していないという仮定を用いることがある(新燃料仮定)。これは明らかに安全側の評価になるが、多くの場合、過度な仮定であり使用済核燃料を扱う上で経済性を損なっていると判断される。
先に述べたように、(臨界)実験の測定値とその実験を設計コードで計算して得られた値との差として評価できた計算誤差を設計計算の値に利用する際には、(臨界)実験が目的とする実機体系に十分に模擬しているほど得られた計算誤差の価値が高い。別の言葉では得られた計算誤差は目的とする実機体系の計算値への適用性がより高いことは明らかである。
しかしながら、これまで実験体系の類似性の程度に関わらず常に同じ安全係数が用いられることが多かった。よって安全面に十分な大きな配慮をしているとは言えるが、安全係数の扱いに際して工学的に経済面を含めて最適化するような配慮はこれまでなされてこなかった。
通常安全係数は一定の値が用いられ、設計精度の良いものにもそうでないものにも一律に使用されてきた。これは毎回設計精度を確認する必要が無く簡便な方法であるが、余裕度を過度に設定してしまう場合があり、工業製品として経済面を考慮した場合、必ずしも最適な取扱いがなされているとは言えない。
特許文献1および2で開示されている発明は、評価された誤差の推定結果を使用して、もとの設計計算値を補正することを目的としており、目的とする実機体系の性能が特に人間社会活動の安全に直接関わるものでなければこれで完結できる十分な手法である。一方、例えば飛行機の機体の強度計算のように設計の信頼度が人間の社会活動に直接関係するものがある。そのようなものには設計計算値に加えて安全係数というものが適用されてきた。このような安全係数を組み合わせるという観点は特許文献1および2には記述されていないが、これらの提案内容を否定するものではなくて、さらに設計計算値を補足する考え方である。
また、目的とする実機体系がある特定の製品や施設である場合、最終的な精度を保つために計算誤差(不確かさ)について適切な裕度を設定する必要がある。例えば核物質や燃料集合体を保管して未臨界を保持する施設などである。これらの施設では未臨界を保つことが最重要課題である。安全の程度を増加させるためには核物質や燃料集合体の総量を減らせば良いが、それは装置や施設の経済的運用の目的からは逆の方向である。それゆえ経済性と臨界安全の両立の観点から、未臨界の程度の非常に正確な評価が強く求められる。
長年、安全を担保するために安全係数や補正因子等が用いられてきた。あるいは安全を担保するために現実的ではない仮定も用いられてきた。またそれらの値や方法は十分な理論的背景に基づいて決められたものではなく、多くは技術者の経験や判断によって決められることが多かった。
特開2008−217139号公報 特開2011−106970号公報
Tadafumi SANO、他1名、"Generalized Bias Factor Method for Accurate Prediction of Neutronics Characteristics"、Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY、Vol.43, No.12、Page 1465-1470、2006年 Teruhiko KUGO、他2名、"Theoretical Study on New Bias Factor Methods to Effectively Use Critical Experiments for Improvement of Prediction Accuracy of Neutronic Characteristics"、Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY、Vol.44, No.12、Page 1509-1517、2007年
特定の工学分野では目的とする製品や施設について、着目する物理量(性能)の確認に際し、試作品を製作して最終的な性能を確認することが現実的ではない分野がある。巨大な船舶や、航空機、原子力に関する製品や施設がその例である。これらのものは製作する品数が少なく、製作に関わる費用が非常に高いことが特徴である。
すなわち、製品や施設の最終的な性能を確認するために試作を行うことが時間的・経済的な面から合理的ではない。よって現在ではこれらの製品や施設の設計はコンピュータによる計算技術によって支援され性能が確認される。
コンピュータを用いた計算によって設計を行う分野はCAD(Computer Aided Design)あるいは計算実験と呼ばれる分野であり、計算機技術と数値計算技術の進歩によってますます盛んになっている分野である。近年では大型の製品ではなく汎用品の設計に関しても製品を試作する回数を減らすなどのコスト削減のためにコンピュータによる計算シミュレーションが非常に盛んになっている。
コンピュータによる計算が十分な精度で実施されるには以下のいくつかの条件が満たされなくてはならない。
(1)製品や施設の性能を正しく記述できる物理的、化学的な数理計算モデルが得られていること。加えてその物理的、化学的モデルがコンピュータで十分な精度で計算できるように計算機上でモデル化され、計算プログラム(コード)が作られていること。別の表現では十分な精度をもつレベルで物理現象、化学現象が計算機上で表現できていること。
(2)必要な計算速度をもち、計算に必要な十分な記憶容量を有する計算機資源が使用できること。
(3)数値計算上に関係する計算誤差(打ち切り誤差、桁落ち誤差、丸め誤差など)が十分小さいこと。
(4)計算入力に用いることのできる精度の高い入力データ群が得られていること(製品や施設の長さ、重さ、構成材料の成分等、計算に必要な数値が十分高い精度で得られていること)。
一方、計算値と比較するべき模擬実験に関しては、次の条件が必要である。
(5)測定誤差が十分小さいこと。
このように、数値計算に基づくシミュレーションでは特定の設計・計算手法に基づき、特定のパラメータを入力として目的とする製品、施設の着目する物理量を計算して設計値としている。
計算で用いる方程式を、ここではモデル方程式と呼ぶ。設計計算の段階で計算値である設計値に含まれる数値の誤差を定量評価することは、設計精度を確認するために極めて重要な作業である。
設計精度を確認するために、それぞれの工学分野では確認のための実験が実施されてきた。例えば原子力分野では臨界実験が行われてきた。実験において着目する物理量を測定し、設計する際に使用するのと同じ計算手法(計算機プログラム)と物理定数など(物理パラメータ)を用いて計算を行ない、計算値と測定値の差によって設計計算での誤差を推測する。あるいは計算値と測定値の差がある許容限界の範囲ならば、この方法で設計計算を行なっても問題はないという判断がなされてきた。
臨界実験は、従来、理論や計算手法の誤差と、パラメータによる誤差とを定量化することを目的として実施されてきた。ただし、臨界実験で得られる情報について、これまで物理学的・数学的に詳しい検討がなされることは少なく、目的とする体系と比較して重要な特徴が再現されている実験であれば有用であるという判断に基づいて実験がなされてきた。
臨界実験の測定値と計算値とは、補正因子(バイアス)法や断面積アジャストメントに利用されてきた。よって、臨界実験で得られた計算誤差の情報を定量評価して、目的の体系の計算誤差にする手法は提供されていなかった。ここで情報とは、目的とする体系を、特定の設計手法、特定のパラメータで計算したときに得られる数値(設計予想値)に対して、誤差がどの程度含まれるかを確認するための情報である。
そこで、本発明は、目的とする製品や施設などの対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いたシミュレーションにおいて、得られた計算値に含まれる計算誤差や計算の不確かさを定量評価して計算値を補正することによって、安全性を高め、製品や施設のより経済的な運用を可能にすることを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態は、目的とする対象である目的体系の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした計算結果に含まれる誤差をその対象を模擬した模擬実験の結果を用いて推定し、前記誤差に基づき前記計算結果を補正する設計計算結果補正装置において、前記シミュレーションの計算手法およびパラメータ入力を外部から受け入れる入力部と、前記模擬実験についての前記モデルを用いたシミュレーションで得られたある物理量の計算値の当該実験で測定された当該物理量の測定値に対する前記モデルへの入力値に関する相対誤差Eを演算する計算値・測定値相対誤差演算部と、前記計算値・測定値相対誤差演算部が算出した前記相対誤差Eを記憶する計算値・測定値相対誤差記憶部と、前記シミュレーションに用いる前記モデルへの入力値の不確かさの割合の関係を示す入力パラメータ共分散誤差行列WCを演算する入力パラメータ共分散誤差行列演算部と、前記入力パラメータ共分散誤差行列演算部が算出した入力パラメータ共分散誤差行列WCを記憶する入力パラメータ共分散誤差行列記憶部と、前記対象について前記モデルを用いたシミュレーションの結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する前記物理量の変化量を示す目的体系感度係数ベクトルSを演算する目的体系感度係数ベクトル演算部と、前記目的体系感度係数ベクトル演算部が算出した前記目的体系感度係数ベクトルSを記憶する目的体系感度係数ベクトル記憶部と、模擬実験の体系について前記モデルを用いてシミュレーションした結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する前記物理量の変化量を表す実験体系感度係数ベクトルSを演算する実験体系感度係数ベクトル演算部と、前記実験体系感度係数ベクトル演算部が算出した前記実験体系感度係数ベクトルSを記憶する実験体系感度係数ベクトル記憶部と、前記計算値・測定値相対誤差記憶部に記憶された前記相対誤差E、前記入力パラメータ共分散誤差行列記憶部に記憶された前記入力パラメータ共分散誤差行列WC、前記目的体系感度係数ベクトル記憶部に記憶された前記目的体系感度係数ベクトルSおよび前記実験体系感度係数ベクトル記憶部に記憶された前記実験体系感度係数ベクトルSを用いて、前記モデルを用いたシミュレーションの結果得られる前記対象の物理量に含まれる入力パラメータ起因物理量不確かさERPを算出する目的体系物理量不確かさ演算部と、目的体系物理量不確かさERRの値を前記入力パラメータ起因物理量不確かさERPの値として、前記目的体系物理量不確かさERRに基づき前記目的体系に関する物理量の計算結果R0を補正して補正後の計算結果補正値R1を算出する目的体系物理量計算値補正部と、を有することを特徴とする。
また、本発明の実施形態は、目的とする対象である目的体系の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした計算結果に含まれる誤差をその対象を模擬した模擬実験の結果を用いて推定し、前記誤差に基づき前記計算結果を補正する設計計算結果補正方法において、実験体系測定値記憶部が、実験体系データおよび測定値を記憶する準備ステップと、計算手法が選定される計算手法選定ステップと、入力部が計算のパラメータ入力を受け入れる入力ステップと、入力パラメータ共分散誤差行列演算部が、前記シミュレーションの際の入力パラメータの誤差についての入力パラメータ共分散誤差行列WCを算出するWC算出ステップと、入力パラメータ共分散誤差行列記憶部が、前記入力パラメータ共分散誤差行列WCを記憶するWC記憶ステップと、実験体系物理量演算部が、前記模擬実験の体系についてシミュレーションを行い実験体系における物理量を算出する実験体系シミュレーションステップと、実験体系演算値記憶部が、前記実験体系物理量演算部が算出した実験体系における物理量の計算値を記憶する実験体系計算値記憶ステップと、前記実験体系計算値記憶ステップの後に、前記計算値・測定値相対誤差演算部が、前記準備ステップで記憶された測定値と、前記実験体系計算値記憶ステップで記憶されたシミュレーション結果の計算値に基づいて両者の相対誤差Eを算出するE算出ステップと、計算値・測定値相対誤差記憶部が、前記相対誤差Eを記憶するE記憶ステップと、物理量相対誤差判定部が、前記計算値・測定値相対誤差Eの絶対値を規定値と比較して、前記計算値・測定値相対誤差Eの絶対値が規定値を超えていれば前記計算手法選定ステップに戻り、前記計算値・測定値相対誤差Eの絶対値が規前記定値以内であれば次のステップに進むことを許可する判定ステップと、実験体系感度係数ベクトル演算部が、前記模擬実験の体系の感度係数ベクトルである実験体系感度係数ベクトルSを算出するS算出ステップと、実験体系感度係数ベクトル記憶部が、前記実験体系感度係数ベクトルSを記憶するS記憶ステップと、目的体系物理量演算部が、前記目的体系の物理量の計算結果R0を算出するR0算出ステップと、目的体系演算値記憶部が、前記計算結果R0を記憶するR0記憶ステップと、目的体系感度係数ベクトル演算部が、前記目的体系の入力パラメータに対する感度係数ベクトルである目的体系感度係数ベクトルSを算出するS算出ステップと、目的体系感度係数ベクトル記憶部が前記目的体系感度係数ベクトルSを記憶するS記憶ステップと、前記S記憶ステップの後に、目的体系物理量不確かさ演算部が、前記WC算出ステップで算出され前記WC記憶ステップで記憶された前記入力パラメータ共分散誤差行列WCと、前記S算出ステップで算出され前記S記憶ステップで記憶された前記模擬実験の実験体系感度係数ベクトルSと、前記S算出ステップで算出され前記S記憶ステップで記憶された前記目的体系の入力パラメータに対する目的体系感度係数ベクトルSとに基づいて、入力パラメータ起因物理量不確かさERPを算出するERP算出ステップと、前記ERP算出ステップの後に、目的体系物理量計算値補正部が、前記目的体系に関する物理量の計算結果R0を補正して補正後の計算結果補正値R1を算出する補正ステップと、を有することを特徴とする
本発明の実施形態によれば、目的とする製品や施設などの対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いたシミュレーションにおいて、得られた計算値に含まれる計算誤差や計算の不確かさを定量評価して計算値を補正することができる。
第1の実施形態に係る設計計算結果補正装置の演算部の構成を示すブロック図である。 第1の実施形態に係る設計計算結果補正装置の記憶部の構成を示すブロック図である。 第1の実施形態に係る設計計算結果補正装置の構成を示すブロック図である。 第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の手順を示すフロー図である。 第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の準備ステップの手順を示すフロー図である。 第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の判定前処理ステップの手順を示すフロー図である。 第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の判定後処理ステップの手順を示すフロー図である。 第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置の構成を示すブロック図である。 第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置の演算部の構成を示すブロック図である。 第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置の記憶部の構成を示すブロック図である。 第2の実施形態に係る設計計算結果補正方法の手順を示すフロー図である。 第2の実施形態に係る設計計算結果補正方法の判定後処理ステップの手順を示すフロー図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る設計計算結果補正装置および設計計算結果補正方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
[第1の実施形態]
図3は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正装置の構成を示すブロック図である。この設計計算結果補正装置10は、計算機20上に構築することができる。
計算機20は、中央演算処理装置(CPU)100、記憶部140、入力部160および出力部170を備える。CPU100は、演算部110および制御部130を有し、制御部130はその一部として入力制御部131および出力制御部132を有する。これらの各構成要素は、バス30を介して接続されている。
入力制御部131には、キーボードやマウスなどの入力部160が接続されており、これらの周辺装置を制御する。出力制御部132には、液晶ディスプレイなどの出力部170が接続されており、出力部170を制御する。
設計計算結果補正装置10への演算開始の指示など計算機20への入力は、入力部160を介して行われる。途中の計算に必要な入力値、推定された誤差(不確かさ)や、使用済核燃料の反応度計算結果を補正した結果などの必要な情報は、出力部170に表示される。
なお、以下、反応度計算と核特性計算、反応度計算結果と核特性計算結果を同義に用いることがある。
図1は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正装置の演算部の構成を示すブロック図である。
CPU100の演算部110は、実験体系物理量演算部111、計算値・測定値相対誤差演算部112、物理量相対誤差判定部113、入力パラメータ共分散誤差行列演算部114、実験体系感度係数ベクトル演算部115、目的体系感度係数ベクトル演算部116、模擬性評価因子演算部117、目的体系物理量演算部118、補正因子演算部119、目的体系物理量不確かさ演算部120および目的体系物理量計算値補正部121を有する。
図2は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正装置の記憶部の構成を示すブロック図である。記憶部140は、実験体系測定値記憶部141、入力パラメータ共分散誤差行列記憶部142、実験体系演算値記憶部143、目的体系演算値記憶部144、計算値・測定値相対誤差記憶部145、実験体系感度係数ベクトル記憶部146および目的体系感度係数ベクトル記憶部147を有する。
設計計算結果補正装置10は、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に付随する計算誤差をその対象を模擬した実験の結果を用いて定量的に推定し、推定結果を用いて設計計算結果を補正する。
なお、計算手法の説明に関して、目的とする製品として、原子炉で使用する燃料集合体を例にして説明する。この際、反応度ρと中性子増倍率kとの間には、ρ=(k−1)/kの関係があり相互に換算することができ、いずれも臨界状態との対応において核反応の連鎖反応の程度を示しており、この点ではほぼ同様の意味を有している。したがって、反応度を求めることと中性子増倍率kを求めることを同じ意味に用い、多くの場合反応度と表現する場合がある。また、中性子増倍率kが注目する物理量であることから、中性子増倍率kを物理量Rあるいは核特性Rと表現する場合がある。
臨界実験において『良く模擬されている』というのは目的とする製品と臨界実験装置に関する幾何形状のみではなくて断面積の変化が目的とする核特性Rの値(ここでは中性子増倍率)の変化割合に与える効果が類似しているという意味である。
目的とする製品や施設に対する模擬実験(臨界実験)の模擬性については、例えば先のTSUNAMIシステム等で計算して後述する模擬性評価因子(あるいは代表性因子)が 1.0 に十分近い値であればよい。もしくは候補となる模擬実験(臨界実験)が複数個あった場合、模擬性評価因子の絶対値が最大になる模擬実験を選べばよい。
十分模擬性の認められる臨界実験の測定値を利用して燃料の反応度(中性子増倍率)を計算する計算コードと核データライブラリで計算してその計算値を補正する。
実験体系測定値記憶部141は、実施されたそれぞれの実験の条件である各パラメータおよび実験結果である物理量Rを記憶する。
実験体系物理量演算部111は、実施された模擬実験についてモデルを用いてシミュレーションを行い、着目する物理量Rの値を求める。実験体系物理量演算部111が算出した実験体系における物理量Rの計算値は実験体系演算値記憶部143に記憶される。
計算値・測定値相対誤差演算部112は、モデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差を、模擬実験に関する相対誤差Eとして算出する。ここで、相対誤差Eは、次のような意味を持つ。
今、臨界実験などの模擬実験により、着目する物理量Rに対して得られた測定値をRとし、あるモデルを用いてシミュレーション計算を行ったときに得られた計算値をRとする。計算値Rと測定値Rの相対誤差Eは、次の式(1)により算出される。
=(R−R)/R=(R/R)−1 …(1)
この値は、「パラメータによる相対誤差」+「計算手法による相対誤差」−「測定誤差」にほぼ等しい。なお、ここでの測定誤差は相対誤差である。この値から「計算手法による相対誤差」と「測定誤差」を取り除くことは非常に困難であるので「計算手法による相対誤差」および「測定誤差」は、いずれもパラメータによる相対誤差よりも十分小さいと判断できることが望ましい。測定誤差は臨界実験を十分な準備を行って実施した場合には測定の不確かさとして扱うことができる。
一方、計算手法による相対誤差は実施した臨界実験の幾何形状を十分詳細に計算機上で再現し汎用Monte Carloコードを用いた計算などの十分精密な計算手法を利用すればこの値もパラメータによる相対誤差に比べて無視できる程度の値になるため式(1)の値は「パラメータによる相対誤差」と見做してもよい。さらに「計算手法による相対誤差」も「相対測定誤差」も共に十分小さいときは(Eを(Eとしてもよい。十分小さいか否かについては、たとえば、{(R/R)−1}に対して、「相対測定誤差」の二乗あるいは「計算手法による相対誤差」の二乗が、1/100程度の判断値を基準とすればよい。以下、Eを用いた場合で説明する。
計算値・測定値相対誤差演算部112で算出された相対誤差E(E)は、計算値・測定値相対誤差記憶部145に記憶される。
物理量相対誤差判定部113は、計算値・測定値相対誤差記憶部145に記憶された相対誤差Eの絶対値が、予め採用した模擬臨界実験の判断のために与えられた規定値以内にあるか否かを判定し、いずれであるかの判定値を出力する。規定値以内である場合は使用した計算手法(シミュレーション方法)を使用済核燃料の反応度の計算手法として用いても良いとの判断がなされる。
次に、入力パラメータ共分散誤差行列演算部114、実験体系感度係数ベクトル演算部115および目的体系感度係数ベクトル演算部116の説明に先立って、共分散誤差行列および感度係数について説明する。
燃料集合体や核燃料の中に存在する核種の原子数密度は、その燃料を実際に測定して求めるのではなくその燃料を原子炉でどのような条件下で使用してきたかの情報にもとづいて計算によって求める場合がある。その計算を燃焼計算と呼ぶ。この燃焼計算でもそれぞれの核種と中性子との反応を計算する際に核データライブラリのデータを使用する。
この核データライブラリに含まれる誤差によっても各核種について得られた原子数密度に不確かさが生じる。このため、核データライブラリに含まれる誤差と核燃料に含まれる核種の原子数密度の計算値は相関関係があるが、近似的にこれらは互いに独立であるとして扱う。
核データライブラリの誤差をΔσ、核種の原子数密度の誤差をΔNとして、誤差の伝播式を用いれば、次の式(2)のように表現でき、その両辺をRで除すれば式(3)のように表現できる。
Figure 2014229283
…(2)
Figure 2014229283
…(3)
なお、ここで断面積や原子数密度を単に1種類のような表記をしているが、当然ながら使用済核燃料には複数の核種と複数の核反応が存在するので、その数だけ式(2)、式(3)の右辺の項の数が増える。すなわち正確な数学表記では総和記号Σを用いるべきであるが、ここでは表記を簡略化するためにΣの記載を割愛している。
ここで、式(3)の右辺の第一項に現れる次の項(4)は核特性の断面積に関する感度係数と呼ばれるものである。
Figure 2014229283
…(4)
現在の原子力産業で使用されているコンピュータコード類の中で、この感度係数の値を効率的に計算することが可能なコードが何種類か用意されている(ただし微係数を1次のオーダーとして扱うものが主体である。)。したがって、計算機資源を惜しまなければ現在の技術水準で特別な努力を必要とせず、普通に計算できる数値である。
また核データライブラリのうち(エネルギー多群構造で)2種類の断面積の相対誤差の積:(Δσi/σi)・(Δσj/σj)が共分散(誤差)行列として用意されているものがある。よって感度係数(計算)コードと、既に原子力産業分野で用意されている共分散(誤差)行列を用いれば式(3)の右辺の第一項は計算可能である。ただし、共分散(誤差)行列は対角成分を1に規格化している場合が多く相対値として扱われるので、相対値を実際の値に換算する必要があり、その値の基準となる比較対象が必要になる。その比較対象に臨界実験の測定値を使用することが、本実施形態の特徴の一つである。
入力パラメータ共分散誤差行列演算部114は、計算入力パラメータ(核断面積など)の不確かさの割合を示す入力パラメータ共分散誤差行列WCを算出する。ここで、入力パラメータ共分散誤差行列WCは、目的とする体系と実験体系とで使用する同じ構造の入力値の不確かさを表す反応断面積データに起因する誤差行列である。目的とする体系と実験体系で共通に使用するこの入力パラメータ共分散誤差行列WCは、対角成分wciiにそれぞれのパラメータx(i=1,2,…,m)の相対誤差を二乗した値が、また、非対角成分wcijにはパラメータiとパラメータjの間の相対誤差の積が収められている。なお、この入力パラメータ共分散誤差行列WCの各成分の大きさは、互いの大きさの関係が正しければ良く、絶対値は問題ではない。一般に、モデルへの入力値の不確かさの割合を表す共分散誤差行列は、必ずしも明確に定義されない。この場合は、共分散誤差行列を対角行列としてもよい。
入力パラメータ共分散誤差行列演算部114において算出された入力パラメータ共分散誤差行列WCは、入力パラメータ共分散誤差行列記憶部142に格納され、記憶される。
実験体系感度係数ベクトル演算部115は、模擬実験体系についてモデルを用いてシミュレーションした結果について、そのモデルのパラメータx(m=1,2,・・・,M)の入力値の単位変化によって生ずる着目する物理量Rの変化量を表す実験体系感度係数ベクトルSを、次の式(5)により算出する。
Figure 2014229283
…(5)
実験体系感度係数ベクトルはその名の示すようにベクトル量であり、パラメータの数Mがその要素数である。
実験体系感度係数ベクトル演算部115において算出された実験体系感度係数ベクトルSは、実験体系感度係数ベクトル記憶部146に記憶される。
目的体系感度係数ベクトル演算部116は、目的体系についてシミュレーションした結果について、そのモデルのパラメータx(m=1,2,・・・,M)の入力値の単位変化によって生ずる着目する物理量Rの変化量を表す目的体系感度係数ベクトルSを次の式(6)により算出する。
Figure 2014229283
…(6)
目的体系感度係数ベクトル演算部116において算出された目的体系感度係数ベクトルSは、目的体系感度係数ベクトル記憶部147に記憶される。
模擬性評価因子演算部117は、模擬実験が、目的とする製品や施設の設計値について、計算シミュレーション上で、どれだけ類似しているかを示す指標として代表性因子(もしくは模擬性評価因子)RF(Representativity Factor)を算出する。代表性因子(もしくは模擬性評価因子)RFは実験体系感度係数ベクトルS、目的体系感度係数ベクトルS、および入力パラメータ共分散誤差行列WCを用いて、次の式(7)で表される。
RF
=(S WCS)/((S WCS1/2(S WCS1/2
…(7)
入力パラメータ共分散誤差行列WCを介した感度係数ベクトルの大きさを、a=(S WCS1/2、b=(S WCS1/2とすれば、RFは、RF=S WCS/(ab)となる。
RFは、入力パラメータ共分散誤差行列WCを介した感度係数ベクトルSとSのなす角度をθとしたときのcosθに相当するので、RFは、−1以上かつ1以下である。
既に述べたようにこの代表性因子(もしくは模擬性評価因子)RFの絶対値が十分大きい、すなわち、1.0に近い模擬実験(臨界実験)を1ケース選択する。
既に述べたように共分散(誤差)行列の成分は相対値として扱われる場合が多く、相対値を実際の値に換算する必要があり、その値の基準となる比較対象が必要になる。その比較対象に臨界実験の測定値を使用することが、本実施形態の特徴の一つであるが、さらに利用する臨界実験のケース数が1であることが本発明の重要な特徴である。
目的体系物理量演算部118は、目的とする製品や施設について、モデルを用いてシミュレーションを行い、目的体系における物理量R(中性子増倍率など)の値を求める。
補正因子演算部119は、補正因子CFを算出する。補正因子CF(Correction Factor)は以下のように考えられる。
実験体系感度係数ベクトルSを目的体系感度係数ベクトルSの方向に射影した長さは、a・cosθである。この射影した長さの、実験体系感度係数ベクトルSを目的体系感度係数ベクトルSの方向に揃えたときの実験体系感度係数ベクトルSの長さに対する比をとる。この比は、模擬実験体系での誤差の現れ方の補正因子CFと考えられる。
すなわち、補正因子CFは、次の式(8)で表される。
CF=b/(a×cosθ)=b/(a×RF)
=b/(a×(S ・WC・S)/(a×b))
=b/(S ・WC・S) …(8)
一方、b=((S WCS1/2=S WCSであるから、結局、補正因子CFは次の式(9)のような自然な表現となり、このように補正因子CFを定義するのは合理的である。
CF=(S WCS)/(S WCS) …(9)
なお分子は必ず正の値となるので、分母S ・WC・Sの符号で、補正因子CFの符号は決定される。
目的体系物理量不確かさ演算部120は、目的体系物理量演算部118で算出された目的体系の計算値についての入力パラメータに起因する計算誤差(計算の不確かさ)を算出する。すなわち、計算値・測定値相対誤差演算部112で算出された計算値・測定値相対誤差E、補正因子演算部119で算出された補正因子CFにもとづいて、目的体系物理量演算部118で算出された目的体系の計算値についての入力パラメータに起因する計算誤差(計算の不確かさ)である入力パラメータ起因物理量不確かさERPを次の式(10)のように算出する。
ERP=E×CF
=E×(S WCS)/(S WCS) …(10)
目的体系物理量計算値補正部121は、目的体系物理量演算部118で算出された目的体系の物理量Rの設計計算値、すなわち計算結果R0をもとに、これを補正した計算結果補正値R1を算出する。すなわち、目的体系物理量不確かさ演算部120で算出された入力パラメータに起因する計算誤差(計算の不確かさ)である入力パラメータ起因物理量不確かさERPを用いて、目的体系物理量不確かさERRを、ERR=ERPとして、目的体系物理量不確かさERRを用いて次の式(11)によりR0を補正し、補正した計算結果補正値R1を算出する。
R1=R0/(1+ERR) …(11)
図4は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の手順を示すフロー図である。まず、準備ステップとして準備段階の各手順が実施される(ステップS110)。次に、判定前処理ステップとして、判定ステップの前に行われる各手順が実施される(ステップS120)。次に、判定ステップとして、物理量相対誤差判定部113が、計算値・測定値相対誤差演算部112で算出された計算値・測定値相対誤差Eの絶対値を規定値と比較して、実験および解析手法の妥当性を判定する(ステップS130)。
ステップS130で、計算値・測定値相対誤差Eの絶対値が規定値以下となって妥当と判定されれば(ステップS130 YES)、判定後処理ステップに進むことが許可され、判定ステップS130の後に行われる各手順が実施される(ステップS140)。また、ステップS130で、計算値・測定値相対誤差Eの絶対値が規定値を超えて妥当ではないと判定されれば(ステップS130 NO)、判定前処理ステップに戻る。
図5は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の準備ステップの手順を示すフロー図である。まずシミュレーション計算の開始に当たり、判断のための規定値が設定される(ステップS11)。次に、目的とする製品、施設、原子炉の場合は目的とする特定の原子炉などの目的体系が選定される(ステップS12)。加えて模擬実験体系が選定される。最も適切と判断される模擬実験が1種類選定される(ステップS13)。実験体系の測定値は、実験体系測定値記憶部141に記憶される(ステップS14)。
図6は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の判定前処理ステップの手順を示すフロー図である。準備ステップS110の後に、判定前処理ステップS120として以下が実施される。
まず、着目する物理量を計算する手法(シミュレーション方法)が選定され(ステップS21)、計算のためのパラメータ入力の選定と設定が行われる(ステップS22)。なおここでは装置の汎用的な使用を考慮して物理量と記載しているが、原子力分野で燃料集合体を目的体系とする場合は、物理量は具体的には中性子増倍率などを意味する。
次に、入力パラメータ共分散誤差行列演算部114において、中性子反応の反応断面積に関する入力パラメータ共分散誤差行列WCが導出される(ステップS23)。共分散誤差行列は核計算のシミュレーションに用いられる核データライブラリに付属するものがある。計算シミュレーションを実施する際に核データライブラリを選定したときに同時に与えられる場合がある。しかしながら、特定の目的によって共分散誤差行列を使用する計算入力パラメータ核データライブラリとは独立に選定する事も可能であり、適切な方法で入力パラメータ共分散誤差行列WCを定める。導出された入力パラメータ共分散誤差行列WCは、入力パラメータ共分散誤差行列記憶部142に記憶される(ステップS24)。
引き続き実験体系物理量演算部111において模擬実験体系についてのシミュレーション計算が実施される(ステップS25)。実験体系物理量演算部111が算出した実験体系における物理量Rの計算値は、実験体系演算値記憶部143に記憶される(ステップS26)。
ステップS26の後に、計算値・測定値相対誤差演算部112は、モデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差を、各実験に関する相対誤差Eとして算出する(ステップS27)。計算値・測定値相対誤差演算部112で算出された相対誤差Eは、計算値・測定値相対誤差記憶部145に記憶される(ステップS28)。
ステップS28までの判定前処理ステップS120の後に、物理量相対誤差判定部113において、計算値・測定値相対誤差演算部112で算出された相対誤差Eの絶対値を規定値と比較、判定が行われる(ステップS130)。規定値以内ではないと判定された場合(ステップ130 NO)は、ステップS21で選択したシミュレーション方式が適切ではなかったということで、ステップS21に戻り計算手法(シミュレーション方式)の選定が再び行われる。規定値以内と判定された場合(ステップ130 YES)は、シミュレーション方式が適切であったとして次のステップ(ステップS140)に進む。
図7は、第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の判定後処理ステップの手順を示すフロー図である。
選定された計算手法(シミュレーション方法)が妥当と判断された場合(ステップS130 YES)は、実験体系感度係数ベクトル演算部115で、その計算手法に基づく方法で模擬実験体系の計算入力パラメータに関する模擬実験体系の着目物理量の実験体系感度係数ベクトルSが求められる(ステップS41)。実験体系感度係数ベクトル演算部115で算出された実験体系感度係数ベクトルSは、実験体系感度係数ベクトル記憶部146に記憶される(ステップS42)。
また、目的体系物理量演算部118で着目する物理量が計算される(ステップS43)。目的体系演算値記憶部144にこの着目する物理量の計算結果R0が記憶される(ステップS44)。
さらに目的体系感度係数ベクトル演算部116で、その計算手法に基づく方法で模擬実験体系の計算入力パラメータに関する模擬実験体系の着目物理量の目的体系感度係数ベクトルSが求められる(ステップS45)。目的体系感度係数ベクトル演算部116で算出された目的体系感度係数ベクトルSは、目的体系感度係数ベクトル記憶部147に記憶される(ステップS46)。
ここで、ステップS41およびステップS42と、ステップS43およびステップS44と、ステップS45およびステップS46の3つの組は、この順序には限定されない。この3つの組はいずれの順序で行われてもよい。
次に、補正因子演算部119において、ステップS42で実験体系感度係数ベクトル記憶部146に記憶された実験体系感度係数ベクトルS、ステップS44で目的体系感度係数ベクトル記憶部147に記憶された目的体系感度係数ベクトルS、ステップS26で入力パラメータ共分散誤差行列記憶部142に記憶された入力パラメータ共分散誤差行列WC、ステップS28で計算値・測定値相対誤差記憶部145に記憶された実験体系の計算値についての計算入力に関する計算誤差である相対誤差(計算の不確かさ)Eに基づいて前述の式(12)によって、目的体系の計算値についての計算入力パラメータに起因する計算誤差(計算の不確かさ)の補正因子CFが算出される(ステップS47)。
CF=(S WCS)/(S WCS) …(12)
ステップS47の後に、目的体系物理量不確かさ演算部120において入力パラメータ起因物理量不確かさERPが、算出される(ステップS48)。入力パラメータ起因物理量不確かさERPは、前述の式(12)に基づいて、ERP=E×CFにより算出される。
ステップS48の後に、目的体系物理量計算値補正部121で、目的体系演算値記憶部144に記憶された計算結果R0をもとに目的体系の補正された計算結果補正値R1が前述の式(13)により算出される(ステップS49)。
R1=R0/(1+ERR) …(13)
以上のように、本実施形態によれば、目的とする製品や施設などの対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いたシミュレーションにおいて、得られた計算値に含まれる計算誤差や計算の不確かさを定量評価して計算値を補正することができる。この結果、安全性を高め、製品や施設のより経済的な運用が可能となる。
[第2の実施形態]
図8は、第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置の構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。第1の実施形態における演算部110、記憶部140に代えて、第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置10は、それぞれ、演算部210、記憶部240を有する。
図9は、第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置の演算部の構成を示すブロック図である。第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置10の演算部210は、第1の実施形態における演算部110が有した構成要素に加えて、入力パラメータ起因不確かさ推定部211、原子数密度共分散誤差行列演算部212、原子数密度感度係数ベクトル演算部213、原子数密度起因物理量不確かさ演算部214をさらに有する。また、第1の実施形態における演算部110が有した目的体系物理量不確かさ演算部120および目的体系物理量計算結果補正部121に代えて、目的体系物理量不確かさ演算部215および目的体系物理量計算値補正部216を有する。
図10は、第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置の記憶部の構成を示すブロック図である。第2の実施形態に係る設計計算結果補正装置10の記憶部240は、第1の実施形態における記憶部140が有した構成要素に加えて、さらに原子数密度共分散誤差行列記憶部241および原子数密度感度係数ベクトル記憶部242を有する。
入力パラメータ起因不確かさ推定部211は、目的体系物理量演算部118で算出された目的体系の計算値についての入力パラメータに起因する計算誤差(計算の不確かさ)を算出する。すなわち、計算値・測定値相対誤差演算部112で算出された計算値・測定値相対誤差E、補正因子演算部119で算出された補正因子CFにもとづいて、目的体系物理量演算部118で算出された目的体系の計算値についての入力パラメータに起因する計算誤差(計算の不確かさ)である入力パラメータ起因物理量不確かさERPを次の式(14)のように算出する。
ERP=EP×CF
=EP×(S ・WC・S)/(S ・WC・S) …(14)
原子数密度共分散誤差行列演算部212は、目的体系に含まれる核種の原子数密度の不確かさに起因する不確かさを示す原子数密度共分散誤差行列WNを算出する。算出された原子数密度共分散誤差行列WNは、原子数密度共分散誤差行列記憶部241に記憶される。
原子数密度感度係数ベクトル演算部213は、着目する物理量の計算値(設計計算値)の原子数密度に対する原子数密度感度係数ベクトルSNを次の式(15)に基づいて算出する。目的体系感度係数ベクトルSと同様にこの原子数密度感度係数ベクトルSNについても、その各成分はその成分が示す核種の中性子反応種類ごと、エネルギー群別の感度係数を全て合計した値になっている。
Figure 2014229283
…(15)
原子数密度感度係数ベクトル演算部213で算出された原子数密度感度係数ベクトルSNは、原子数密度感度係数ベクトル記憶部242に記憶される。
原子数密度起因物理量不確かさ演算部214は、原子数密度共分散誤差行列演算部212で算出された原子数密度共分散誤差行列WNと、原子数密度感度係数ベクトル演算部213で算出された原子数密度感度係数ベクトルSNに基づいて、次の式(16)により原子数密度起因物理量不確かさERNを算出する。
ERN=±(SNWNSN)1/2 …(16)
ここで±の記号は正または負の一方のみを選ぶことを意味する。すなわち目的体系の着目する物理量を計算した際に原子数密度の不確かさによって生ずる不確かさが正の値であるか、負の値であるかを、過去の知見、たとえば過去の使用済核燃料の破壊検査等の分析によって得られた知見に基づいて、選択決定する。このために、あらかじめいずれの符号を選択すべきかを、評価ごとに入力できるようにしてもよい。
目的体系物理量不確かさ演算部215は、入力パラメータ起因不確かさ推定部211で算出された入力パラメータ起因物理量不確かさERPと、原子数密度起因物理量不確かさ演算部214で算出された原子数密度起因物理量不確かさERNに基づいて、次の式(17)により、目的体系物理量不確かさERRを算出する。
ERR=ERP+ERN …(17)
目的体系物理量計算値補正部216は、目的体系物理量演算部118で算出された目的体系の物理量Rの計算結果R0をもとに、これを補正した計算結果補正値R1を算出する。すなわち、目的体系物理量不確かさ演算部215で算出された目的体系物理量不確かさERRを用いて、次の式(18)により、補正した計算結果補正値R1を算出する。
R1=R0/(1+ERR) …(18)
図11は、第2の実施形態に係る設計計算結果補正方法の手順を示すフロー図である。準備ステップS110、判定前処理ステップS120、判定ステップS130については、第1の実施形態と同様である。判定後処理ステップS240において、第1の実施形態に係る設計計算結果補正方法の手順と異なる部分がある。
図12は、第2の実施形態に係る設計計算結果補正方法の判定後処理ステップの手順を示すフロー図である。ステップS41からステップ48までは、第1の実施形態における流れと同じである。その後の流れを以下に示す。
原子数密度共分散誤差行列演算部212において、原子数密度共分散誤差行列WNが算出される(ステップS51)。原子数密度共分散誤差行列WNは、原子数密度共分散誤差行列記憶部241に記憶される(ステップS52)。
また、原子数密度感度係数ベクトル演算部213において、着目する物理量の計算値(設計計算値)の原子数密度に対する原子数密度感度係数ベクトルSNが算出される(ステップS53)。原子数密度感度係数ベクトル演算部213で算出された原子数密度感度係数ベクトルSNは、原子数密度感度係数ベクトル記憶部242に記憶される(ステップS54)。
ステップS51およびステップS52の組と、ステップS53とステップS54の組は、前後を問わない。ステップS51およびステップS52、ステップS53およびステップS54の後に、原子数密度起因物理量不確かさ演算部214において、原子数密度共分散誤差行列WNおよび原子数密度感度係数ベクトルSNに基づいて、原子数密度起因物理量不確かさERNが算出される(ステップS55)。
ステップS55の後に、目的体系物理量計算値補正部216において、ステップS48において算出された入力パラメータ起因物理量不確かさERPと、ステップS55で算出された原子数密度起因物理量不確かさERNに基づいて、目的体系物理量不確かさERRが算出される(ステップS56)。ステップS56の後に、目的体系物理量計算値補正部216において、目的体系物理量計算値補正部121で、目的体系演算値記憶部144に記憶された計算結果R0をもとに目的体系の補正された計算結果補正値R1が、R1=R0/(1+ERR)により算出される(ステップS57)。
以上のように、本実施形態によれば、さらに、原子数密度の誤差に起因する不確かさを考慮することにより、計算値に含まれる計算誤差や計算の不確かさをさらに詳細に定量評価して計算値を補正することができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。たとえば、実施形態では、原子力分野での製品や施設の場合を示したが、原子力分野に限定されるものではない。すなわち、他の分野でも、シミュレーションした結果(設計予測値)と、対象を模擬した実験の結果を照合できる場合には適用できる。
また実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
たとえば、各実施形態においては、演算し記憶する場合に、演算部と称する各演算機能部分と記憶部と称する記憶装置内の各記憶機能部分とに区分した形で説明している。しかしながら、演算した結果を次のステップで使用する場合は、一々記憶装置に記憶させるようなことはせずCPU内に仮置きしてステップを進めるのが一般的である。従って、記憶装置内にあるとして記載している記憶部が、CPU内の演算部分の一部として一時的に記憶される場合も、本発明の実施形態に含まれる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
10…設計計算結果補正装置、20…計算機、30…バス、100…中央演算処理装置(CPU)、110…演算部、111…実験体系物理量演算部、112…計算値・測定値相対誤差演算部、113…物理量相対誤差判定部、114…入力パラメータ共分散誤差行列演算部、115…実験体系感度係数ベクトル演算部、116…目的体系感度係数ベクトル演算部、117…模擬性評価因子演算部、118…目的体系物理量演算部、119…補正因子演算部、120…目的体系物理量不確かさ演算部、121…目的体系物理量計算値補正部、130…制御部、131…入力制御部、132…出力制御部、140…記憶部、141…実験体系測定値記憶部、142…入力パラメータ共分散誤差行列記憶部、143…実験体系演算値記憶部、144…目的体系演算値記憶部、145…計算値・測定値相対誤差記憶部、146…実験体系感度係数ベクトル記憶部、147…目的体系感度係数ベクトル記憶部、160…入力部、170…出力部、210…演算部、211…入力パラメータ起因不確かさ推定部、212…原子数密度共分散誤差行列演算部、213…原子数密度感度係数ベクトル演算部、214…原子数密度起因物理量不確かさ演算部、215…目的体系物理量不確かさ演算部、216…目的体系物理量計算値補正部、240…記憶部、241…原子数密度共分散誤差行列記憶部、242…原子数密度感度係数ベクトル記憶部

Claims (11)

  1. 目的とする対象である目的体系の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした計算結果に含まれる誤差をその対象を模擬した模擬実験の結果を用いて推定し、前記誤差に基づき前記計算結果を補正する設計計算結果補正装置において、
    前記シミュレーションの計算手法およびパラメータ入力を外部から受け入れる入力部と、
    前記模擬実験についての前記モデルを用いたシミュレーションで得られたある物理量の計算値の当該実験で測定された当該物理量の測定値に対する前記モデルへの入力値に関する相対誤差Epを演算する計算値・測定値相対誤差演算部と、
    前記計算値・測定値相対誤差演算部が算出した前記相対誤差Epを記憶する計算値・測定値相対誤差記憶部と、
    前記シミュレーションに用いる前記モデルへの入力値の不確かさの割合の関係を示す入力パラメータ共分散誤差行列WCを演算する入力パラメータ共分散誤差行列演算部と、
    前記入力パラメータ共分散誤差行列演算部が算出した入力パラメータ共分散誤差行列WCを記憶する入力パラメータ共分散誤差行列記憶部と、
    前記対象について前記モデルを用いたシミュレーションの結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する前記物理量の変化量を示す目的体系感度係数ベクトルSを演算する目的体系感度係数ベクトル演算部と、
    前記目的体系感度係数ベクトル演算部が算出した前記目的体系感度係数ベクトルSを記憶する目的体系感度係数ベクトル記憶部と、
    模擬実験の体系について前記モデルを用いてシミュレーションした結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する前記物理量の変化量を表す実験体系感度係数ベクトルSを演算する実験体系感度係数ベクトル演算部と、
    前記実験体系感度係数ベクトル演算部が算出した前記実験体系感度係数ベクトルSを記憶する実験体系感度係数ベクトル記憶部と、
    前記計算値・測定値相対誤差記憶部に記憶された前記相対誤差E、前記入力パラメータ共分散誤差行列記憶部に記憶された前記入力パラメータ共分散誤差行列WC、前記目的体系感度係数ベクトル記憶部に記憶された前記目的体系感度係数ベクトルSおよび前記実験体系感度係数ベクトル記憶部に記憶された前記実験体系感度係数ベクトルSを用いて、前記モデルを用いたシミュレーションの結果得られる前記対象の物理量に含まれる入力パラメータ起因物理量不確かさERPを算出する目的体系物理量不確かさ演算部と、
    目的体系物理量不確かさERRの値を前記入力パラメータ起因物理量不確かさERPの値として、前記目的体系物理量不確かさERRに基づき前記目的体系に関する物理量の計算結果R0を補正して補正後の計算結果補正値R1を算出する目的体系物理量計算値補正部と、
    を有することを特徴とする設計計算結果補正装置。
  2. 目的体系物理量不確かさ演算部は、次の式
    ERP=E×(S WCS)/(S WCS
    に基づいて前記入力パラメータ起因物理量不確かさERPを算出することを特徴とする請求項1に記載の設計計算結果補正装置。
  3. 前記目的体系は核物理的現象に係る体系であって、
    前記目的体系に含まれる核種の原子数密度の不確かさに起因する不確かさを示す原子数密度共分散誤差行列WNを算出する原子数密度共分散誤差行列演算部と、
    前記原子数密度共分散誤差行列演算部が算出した前記原子数密度共分散誤差行列WNを記憶する原子数密度共分散誤差行列記憶部と、
    前記物理量の計算値の原子数密度に対する原子数密度感度係数ベクトルSNを算出する原子数密度感度係数ベクトル演算部と、
    前記原子数密度感度係数ベクトル演算部が算出した前記原子数密度感度係数ベクトルSNを記憶する原子数密度感度係数ベクトル記憶部と、
    前記原子数密度共分散誤差行列記憶部に記憶された前記原子数密度共分散誤差行列WNと、前記原子数密度感度係数ベクトル記憶部に記憶された前記原子数密度感度係数ベクトルSNに基づいて、原子数密度起因物理量不確かさERNを算出する原子数密度起因物理量不確かさ演算部と、
    をさらに有し、
    前記目的体系物理量不確かさERRにさらに前記原子数密度起因物理量不確かさERNを加算して新たな目的体系物理量不確かさERRとする、
    ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の設計計算結果補正装置。
  4. 前記核物理的現象に係る体系は、原子炉で照射した使用済核燃料を含む体系であって、
    前記原子数密度共分散誤差行列演算部は、前記原子数密度共分散誤差行列WNの算出を、使用済核燃料に含まれる原子数密度をシミュレーションして求める際のシミュレーション計算のモデルや計算手法から経験的に得られている誤差や不確かさ、あるいは照射後試験などの分析結果から得られた知見のうち少なくとも一つに基づいて行うことを特徴とする請求項3に記載の設計計算結果補正装置。
  5. 前記物理量は、前記使用済核燃料の中性子増倍率であって、
    前記使用済核燃料に含まれる元素の原子数密度Nの単位変化によって前記中性子増倍率に生ずる変化割合を示す原子数密度感度係数ベクトルSNを、中性子増倍率Kについての i番目の核種の原子数密度の単位変化量Δi/Niに関する単位変化割合ΔK/Kの比を微分係数としてi番目という指標を表記しないでdRNと書けばエネルギー群をg=1,2,3・・・,Gとして、核種の反応の種類をp=1,2,3・・・,Mとして、対象となる全種類の核種について次の式
    Figure 2014229283
    (ここでS はi番目の核種の反応とエネルギー群個別に求めた感度係数である。)
    により求める原子数密度感度係数ベクトル演算部をさらに有することを特徴とする請求項6に記載の設計計算結果補正装置。
  6. 前記原子数密度起因物理量不確かさ演算部は、前記原子数密度共分散誤差行列WNと、前記原子数密度感度係数ベクトルSNとを用いて、前記原子数密度起因物理量不確かさERNを次の式
    ERN=±(SNWNSN)1/2 (Tは転置を示す。)
    で求めることを特徴とする請求項5に記載の設計計算結果補正装置。
  7. 前記目的体系物理量計算値補正部は、前記目的体系物理量不確かさERRと、前記物理量の計算結果R0とに基づいて、補正後の計算結果補正値R1を、次の式
    R1=R0/(1+ERR)
    によって算出することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の設計計算結果補正装置。
  8. 前記入力パラメータ共分散誤差行列WCが対角行列であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の設計計算結果補正装置。
  9. 前記原子数密度共分散誤差行列WNが対角行列であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の設計計算結果補正装置。
  10. 目的とする対象である目的体系の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした計算結果に含まれる誤差をその対象を模擬した模擬実験の結果を用いて推定し、前記誤差に基づき前記計算結果を補正する設計計算結果補正方法において、
    実験体系測定値記憶部が、実験体系データおよび測定値を記憶する準備ステップと、
    計算手法が選定される計算手法選定ステップと、
    入力部が計算のパラメータ入力を受け入れる入力ステップと、
    入力パラメータ共分散誤差行列演算部が、前記シミュレーションの際の入力パラメータの誤差についての入力パラメータ共分散誤差行列WCを算出するWC算出ステップと、
    入力パラメータ共分散誤差行列記憶部が、前記入力パラメータ共分散誤差行列WCを記憶するWC記憶ステップと、
    実験体系物理量演算部が、前記模擬実験の体系についてシミュレーションを行い実験体系における物理量を算出する実験体系シミュレーションステップと、
    実験体系演算値記憶部が、前記実験体系物理量演算部が算出した実験体系における物理量の計算値を記憶する実験体系計算値記憶ステップと、
    前記実験体系計算値記憶ステップの後に、前記計算値・測定値相対誤差演算部が、前記準備ステップで記憶された測定値と、前記実験体系計算値記憶ステップで記憶されたシミュレーション結果の計算値に基づいて両者の相対誤差Eを算出するE算出ステップと、
    計算値・測定値相対誤差記憶部が、前記相対誤差Eを記憶するE記憶ステップと、
    物理量相対誤差判定部が、前記計算値・測定値相対誤差Eの絶対値を規定値と比較して、前記計算値・測定値相対誤差Eの絶対値が規定値を超えていれば前記計算手法選定ステップに戻り、前記計算値・測定値相対誤差Eの絶対値が規前記定値以内であれば次のステップに進むことを許可する判定ステップと、
    実験体系感度係数ベクトル演算部が、前記模擬実験の体系の感度係数ベクトルである実験体系感度係数ベクトルSを算出するS算出ステップと、
    実験体系感度係数ベクトル記憶部が、前記実験体系感度係数ベクトルSを記憶するS記憶ステップと、
    目的体系物理量演算部が、前記目的体系の物理量の計算結果R0を算出するR0算出ステップと、
    目的体系演算値記憶部が、前記計算結果R0を記憶するR0記憶ステップと、
    目的体系感度係数ベクトル演算部が、前記目的体系の入力パラメータに対する感度係数ベクトルである目的体系感度係数ベクトルSを算出するS算出ステップと、
    目的体系感度係数ベクトル記憶部が前記目的体系感度係数ベクトルSを記憶するS記憶ステップと、
    前記S記憶ステップの後に、目的体系物理量不確かさ演算部が、前記WC算出ステップで算出され前記WC記憶ステップで記憶された前記入力パラメータ共分散誤差行列WCと、前記S算出ステップで算出され前記S記憶ステップで記憶された前記模擬実験の実験体系感度係数ベクトルSと、前記S算出ステップで算出され前記S記憶ステップで記憶された前記目的体系の入力パラメータに対する目的体系感度係数ベクトルSとに基づいて、入力パラメータ起因物理量不確かさERPを算出するERP算出ステップと、
    前記ERP算出ステップの後に、目的体系物理量計算値補正部が、前記目的体系に関する物理量の計算結果R0を補正して補正後の計算結果補正値R1を算出する補正ステップと、
    を有することを特徴とする設計計算結果補正方法。
  11. 前記目的体系は核物理的現象に係る体系であって、
    原子数密度共分散誤差行列演算部が、原子数密度共分散誤差行列WNを算出するWN算出ステップと、
    原子数密度共分散誤差行列記憶部が、前記原子数密度共分散誤差行列WNを記憶するWN記憶ステップと、
    原子数密度感度係数ベクトル演算部が、着目する物理量の計算値の原子数密度に対する原子数密度感度係数ベクトルSNを算出するSN算出ステップと、
    原子数密度感度係数ベクトル記憶部が、前記原子数密度感度係数ベクトルSNを記憶するSN記憶ステップと、
    前記WN記憶ステップおよび前記SN記憶ステップの後に、原子数密度起因物理量不確かさ演算部が、前記原子数密度共分散誤差行列WNおよび前記原子数密度感度係数ベクトルSNに基づいて、原子数密度起因物理量不確かさERNを算出するERN算出ステップと、
    前記ERN算出ステップの後に、目的体系物理量計算値補正部が、前記ERP算出ステップにおいて算出された前記入力パラメータ起因物理量不確かさERPと、前記ERN算出ステップで算出された前記原子数密度起因物理量不確かさERNに基づいて、目的体系物理量不確かさERRを算出するERR算出ステップと、
    をさらに有することを特徴とする請求項10に記載の設計計算結果補正方法。
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