JP2014221881A - イミド基含有化合物水溶液、およびイミド基含有化合物水溶液の製造方法 - Google Patents

イミド基含有化合物水溶液、およびイミド基含有化合物水溶液の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物および水性溶媒を含んでなるイミド基含有化合物水溶液、およびそのようなイミド基含有化合物水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液、およびそのようなイミド基含有化合物水溶液の製造方法であって、イミド基含有化合物を赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有することを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、イミド基含有化合物水溶液、およびイミド基含有化合物水溶液の製造方法に関する。
特に、産業廃棄物としてのポリイミド成形品を部分的に加水分解して得られる低温硬化性、溶解性、さらには基材に対する密着性等が良好なイミド基含有化合物を含有するイミド基含有化合物水溶液、およびそのようなイミド基含有化合物水溶液の製造方法に関する。
従来、ポリイミドフィルムに代表されるポリイミド成形品は、優れた耐薬品性を有することから、各種溶剤に不溶であって、かつ、融点が高いことから、ポリスチレン等の熱可塑性プラスチックのように、溶融して再利用することが困難であった。
そのため、ポリイミド成形品等を廃棄処分する場合、高価であるものの、大部分は埋め立て処分されるか、あるいは焼却処分がなされており、リサイクル性や環境特性に乏しいという問題が見られた。
そこで、廃棄すべきポリイミド成形品を化学的に加水分解して、リサイクルする方法が各種提案されている。
例えば、芳香族ポリイミド成形品を、所定濃度のアルカリ共存下、所定温度条件で完全に加水分解して、原材料である芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを得ることが提案されている(特許文献1参照)。
より具体的には、ポリイミド単位に対して、4〜4.8倍のアルカリ共存下、150〜230℃で加水分解して、原材料である芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを得て、さらにそれらのアルカリ水溶液および酸水溶液を活性炭処理した後、相当量の酸およびアルカリを投入して、芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを析出させて、分離回収するポリイミドの処理方法である。
また、所定構造を有するポリイミドを、水またはアルコールの存在下に、高温高圧条件で加水分解して、ポリイミド原料としての低分子量物とする方法が提案されている(特許文献2参照)。
より具体的には、ポリイミドまたは前駆体であるポリアミド酸を、水またはアルコールの存在下に、例えば、250〜350℃、10〜100MPaの超臨界状態で加水分解して、ポリイミド原料としての芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミン等の低分子量物とするポリイミドの分解方法である。
また、ポリイミド等および金属成分を含有する高分子含有固体から、ポリイミド等を分解処理して、金属成分を回収する方法が提案されている(特許文献3参照)。
より具体的には、ポリイミド等の高分子含有固体を、18(MJ/m1/2以上の溶解パラメータを有する溶剤を含有する高分子分解材料に対して、200℃以上の温度で接触させて、高分子含有固体を分解、除去し、残った金属成分(銅)を効率的に回収する方法である。
さらには、多量の塩基性物質を用いて、産業廃棄物としてのポリイミドを、低温常圧条件下に加水分解して、リサイクル原料として、所定のポリイミド原料を回収する方法が提案されている(特許文献4参照)。
より具体的には、ポリイミドに、水酸イオン(OH)生成可能な塩基性物質(アルカリ金属水酸化物等)を、理論分解量の20〜80倍モル添加した後、所定温度(40〜95℃)、常圧条件で加水分解し、さらに、酸性物質で中和して、ピロメリット酸や芳香族アミン等のポリイミド原料を回収する方法である。
特開昭60−81154号公報(特許請求の範囲) 特許第4432175号公報(特許請求の範囲) 特開平2002−256104号公報(特許請求の範囲) 特開平2006−124530号公報(特許請求の範囲)
しかしながら、特許文献1〜4に記載されたポリイミド成形品の再生方法等は、基本的に、完全に加水分解させて、ポリイミド原料や残った金属材料を得ることを目的としていた。
したがって、ポリイミド成形品を部分的に加水分解して、低温硬化可能であって、かつ良好な溶解性や密着性を示す特定構造のイミド基含有化合物、ひいてはその水溶液を得るという意図は全くなかった。
より具体的には、特許文献1は、芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンを析出させて、それらを分離回収するためのポリイミドの処理方法であって、特定構造のイミド基含有化合物やその水溶液を得ることについては、何ら考慮していなかった。
また、特許文献2は、所定温度および所定圧力の超臨界状態で加水分解させて、ポリイミド原料としての芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミン等を得るためのポリイミドの処理方法であって、特定構造のイミド基含有化合物やその水溶液を得ることについては、何ら考慮していなかった。
また、特許文献3は、ポリイミド等の高分子固体を分解、除去し、残った金属成分を効率的に回収するためのポリイミドの処理方法であって、特定構造のイミド基含有化合物やその水溶液を得ることについては、何ら考慮していなかった。
さらには、特許文献4は、ピロメリット酸や芳香族アミン等のポリイミド原料を回収するためのポリイミドの処理方法であって、特定構造のイミド基含有化合物やその水溶液を得ることについては、何ら考慮していなかった。
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、産業廃棄物としてのポリイミド成形品を部分的に加水分解するとともに、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、所定吸収ピークを有する特定構造のイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液とすることにより、上述した問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明によれば、低温硬化可能であって、かつ溶解性や密着性に優れた、特定構造を有するイミド基含有化合物を水性溶媒に溶解してなるイミド基含有化合物水溶液、および、そのようなイミド基含有化合物水溶液の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
本発明によれば、ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液であって、イミド基含有化合物を赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1(波数1375cm-1近傍を含み、必ずしも波数1375cm-1に、明確な吸収ピークが無くても良い。以下同様である。)にイミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1(波数1600cm-1近傍を含み、必ずしも波数1600cm-1に、明確な吸収ピークが無くても良い。以下同様である。)に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1(波数1413cm-1近傍を含み、必ずしも波数1413cm-1に、明確な吸収ピークが無くても良い。以下同様である。)に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有することを特徴とするイミド基含有化合物水溶液が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、ポリイミド成型品の部分的加水分解物として、特定構造(官能基)を有することによって、低温硬化可能であって、かつ、各種基材に対する密着性に優れたイミド基含有化合物と、所定の水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液を構成することができる。
また、かかるイミド基含有化合物水溶液であれば、水性溶媒を飛散させるとともに、所定条件で熱硬化させることによって、所定のポリイミド樹脂を熱重合することができるが、従来のポリイミド樹脂の製造コストと比較して、1/10以下で、同等の耐熱性等を有するポリイミド樹脂が得られることが判明している。したがって、ポリイミド樹脂の原材料として、かかるイミド基含有化合物水溶液を用いた場合、経済的に極めて有利であると言える。
なお、ポリイミド成型品が、部分的に加水分解されて、所定のイミド基含有化合物となっているか否かは、赤外分光チャートにおいて、上述したイミド基に由来した吸収ピークと、アミド基に由来した吸収ピークと、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有することによって確認することができる。
さらに言えば、イミド基含有化合物水溶液において、イミド基含有化合物は、水性溶媒中に、完全に溶解し、透明性に優れた水溶液状態となっていても良いし、あるいは、イミド基含有化合物水溶液中に、一部膨潤状態のイミド基含有化合物が含まれていても良い。
また、本発明のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、水性溶媒が、水およびアルコール化合物、あるいはいずれか一方であることが好ましい。
このように構成することによって、イミド基含有化合物を均一に溶解させることができるとともに、安全性が高く、かつ経済的なイミド基含有化合物水溶液を提供することができる。
また、本発明のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、イミド基含有化合物の赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、イミド基に由来した波数1375cm-1の吸収ピークの高さをS2としたときに、S1/S2の比率を2〜10の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物を含有するイミド基含有化合物水溶液とすることができるとともに、ポリイミド成型品が、部分的に加水分解されたか否かの指標とすることができる。
なお、ポリイミド成型品を構成するポリイミドの種類、すなわち、部分的に加水分解されて得られるイミド基含有化合物の種類によっては、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピーク(基準ピーク)を示さない場合がある。したがって、そのような場合には、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークのかわりに、他の吸収ピークを基準ピークとすることができる。
また、本発明のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、イミド基含有化合物の赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、アミド基に由来した波数1600cm-1の吸収ピークの高さをS3としたときに、S1/S3の比率を2〜20の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することによって、各種基材に対する密着性がさらに優れたイミド基含有化合物を含有するイミド基含有化合物水溶液とすることができるとともに、ポリイミド成型品が、部分的に加水分解されたか否かの指標とすることができる。
また、本発明のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、カルボキシル基に由来した波数1413cm-1の吸収ピークの高さをS4としたときに、S1/S4の比率を8〜30の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することによって、各種基材に対する密着性がさらに優れたイミド基含有化合物を含有するイミド基含有化合物水溶液とすることができるとともに、ポリイミド成型品が、部分的に加水分解されたか否かの指標とすることができる。
また、本発明のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、イミド化反応を促進するための反応促進剤を含有するとともに、当該反応促進剤の含有量を、イミド基含有化合物の全体量に対して、0.05〜5重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することによって、より低温硬化可能であって、かつ、密着性に優れたイミド基含有化合物を含有するイミド基含有化合物水溶液とすることができる。
また、本発明のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、水性溶媒に溶解させる前のイミド基含有化合物が粒状であって、当該粒状のイミド基含有化合物の平均粒径を0.1〜500μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することによって、均一なイミド基含有化合物の水溶液を迅速に得ることができる。
また、本発明の別の態様は、ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含むことを特徴とするイミド基含有化合物水溶液の製造方法である。
(1)ポリイミド成型品を切断し、所定大きさとする準備工程
(2)所定大きさのポリイミド成型品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で加水分解し、粗製イミド基含有化合物とする工程
(3)粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程
(4)イミド基含有化合物を、水性溶媒に溶解させる工程
すなわち、ポリイミド成型品を部分的に加水分解することによって、低温硬化可能であって、かつ溶解性に優れたイミド基含有化合物が得られ、それを水性溶媒に溶解させることにより、イミド基含有化合物水溶液を効率的に得ることができる。
なお、本発明のイミド基含有化合物水溶液の製造方法によれば、産業廃棄物等としてのポリイミド成型品を用いるため、所定のイミド基含有化合物水溶液を極めて安価に製造することができる。したがって、水性溶媒を飛散させるとともに、イミド基含有化合物を熱硬化させることによって、従来の1/10以下の低コストで、耐熱性等に優れたポリイミド樹脂を得ることができ、経済的に極めて有利である。
図1は、本発明(実施例1)のイミド基含有化合物(化合物A)における赤外分光チャートである。 図2は、本発明(実施例1)のイミド基含有化合物(化合物A)の硬化物(ポリイミド樹脂)における赤外分光チャートである。 図3(a)〜(e)は、イミド基含有化合物の用途の態様を説明するために供する図である。 図4は、市販ポリイミド(カプトンH)における赤外分光チャートである。 図5は、本発明(実施例1)のイミド基含有化合物(化合物A)の硬化物(ポリイミド樹脂)における示差熱天秤チャート(TG−DTA曲線)である。 図6は、本発明(実施例2)のイミド基含有化合物(化合物B)における赤外分光チャートである。 図7は、本発明(実施例2)のイミド基含有化合物(化合物B)の熱硬化物(ポリイミド樹脂)における赤外分光チャートである。 図8は、本発明(実施例3)のイミド基含有化合物(化合物C)における赤外分光チャートである。 図9は、本発明(実施例3)のイミド基含有化合物(化合物C)の熱硬化物(ポリイミド樹脂)における赤外分光チャートである。 図10(a)〜(c)は、本発明の実施例4〜6のポリイミドフィルム(熱硬化物)の態様を説明するために供する図である。 図11は、比較例2のイミド基含有化合物(化合物D)における赤外分光チャートである。 図12(a)〜(b)は、本発明の実施例1のイミド基含有化合物(化合物A)を、アルミ箔に塗布する前のアルミ箔の態様と、アルミ箔に塗布し、熱硬化させた状態の態様と、をそれぞれ説明するために供する図である。 図13は、実施例11におけるイミド基含有化合物の硬化物(ポリイミド樹脂)における示差熱天秤チャート(TG−DTA曲線)である。
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1に、その赤外分光チャートを示すように、ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液であって、イミド基含有化合物が、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピーク(ピークA)と、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピーク(ピークB)と、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピーク(ピークC)と、を有することを特徴とするイミド基含有化合物水溶液である。
そして、イミド基含有化合物水溶液に含まれるイミド基含有化合物は、その赤外分光チャートにおいて、波数1500cm-1に、ベンゼン環の炭素に由来した吸収ピーク(ピークD)と、波数1710cm-1に、カルボニル基に由来した吸収ピーク(ピークE)を有しており、化合物の定性分析(特定)を行う際の基準ピークとすることができる。
1.ポリイミド成型品
部分的に加水分解して、所定のイミド基含有化合物とするにあたり、その原材料として、従来産業廃棄物等として処理されていたポリイミド成型品が幅広く対象となる。
したがって、好適なポリイミド成型品として、例えば、ポリイミドフィルム、ポリイミド塗膜、ポリイミド系レジスト、ポリイミド製電気部品筐体、ポリイミド製電子部品材料、ポリイミド製容器、ポリイミド製機械部品、ポリイミド製自動車部品等が挙げられる。
さらには、ポリイミドフィルム表面に金属回路パターンが形成された回路基板やTABテープ等の複合積層体であっても、本発明のイミド基含有化合物を製造する際の原材料としてのポリイミド成型品として使用することができる。
2.部分的加水分解物
また、所定のイミド基含有化合物は、図1に、その赤外分光チャートを示すように、所定構造を有するポリイミド成型品の部分的加水分解物である。
すなわち、一例であるが、所定大きさのポリイミド成型品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で部分的に加水分解して得られるイミド基含有化合物であって、下式(1)で示される所定構造を有するイミド基含有化合物が対象である。
したがって、炭素原子からなる分子内等に、少なくともイミド基、アミド基、およびカルボキシル基、さらにはカルボニル基等を有することによって、低温硬化可能であって、かつ、各種有機溶剤に対する溶解性や密着性に優れたイミド基含有化合物とすることができる。
(式(1)中、記号Xは、アルカリ金属(リチウム/Li、ナトリウム/Na、カリウム/K、ルビジウム/Rb、またはセシウム/Ce)であり、添字nおよびlは、ポリイミド構造の両側に位置するポリアミド酸構造の存在量(モル数)を示す記号であって、通常、0.1〜0.8の範囲内の値であり、添字mは、ポリイミド構造の存在量(モル数)を示す記号であって、通常、0.2〜0.9の範囲内の値である。)
また、イミド基含有化合物の分子末端については、下式(2)で示されるような所定構造を有すると推定されている。
すなわち、記号Aで示されるように、ポリアミド酸構造と、記号Bで示されるように、ポリアミド酸およびアルカリ石鹸構造の混合物と、記号Cで示されるように、アルカリ石鹸構造と、がそれぞれ単独または組み合わせられて、分子末端構造をなしているものと推定されている。
したがって、このような分子末端とすることによって、さらに低温硬化可能であって、かつ、各種有機溶剤に対する溶解性や密着性にさらに優れたイミド基含有化合物とすることができる。
但し、イミド基含有化合物は、炭素原子からなる一分子内に、必ずしもイミド基、アミド基、およびカルボキシル基を同時に含む必要はなく、下式(3)−1で示されるイミド基を有するポイリミドと、下式(3)−2で示されるアミド基を有するポリアミド酸と、および下式(3)−3で示されるカルボキシル基を有するカルボン酸化合物と、の混合物であっても良い。
3.赤外分光チャート
(1)イミド基
また、所定のイミド基含有化合物は、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、図1に示すように、波数1375cm-1あるいはその近傍に、イミド基に由来した吸収ピークを有することを特徴とする。
この理由は、このようにイミド基を分子内に有することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とすることができ、ひいては、熱硬化処理によって高分子量化してポリイミド樹脂となった場合に、所定の耐熱性を発揮できるためである。
なお、図1の赤外分光チャートに示すように、所定のイミド基含有化合物におけるイミド基量(ピーク高さ)は、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるが、図2等に示すように、熱硬化してなるポリイミドの赤外分光チャートのイミド基量(ピーク高さ)を100とした時に、10〜50の範囲とすることが好ましく、15〜45の範囲がより好ましく、20〜40の範囲がさらに好ましいことが判明している。
(2)アミド基
また、所定のイミド基含有化合物は、図1に示すように、波数1600cm-あるいはその近傍に、アミド基に由来した吸収ピークを有することを特徴とする。
この理由は、このようにアミド基を分子内に有することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とすることができるためである。
なお、図1の赤外分光チャートに示すように、所定のイミド基含有化合物は、明確なアミド基に起因した吸収ピーク(波数1600cm-1)を示すものの、図2等に示すように、熱硬化してなるポリイミドでは、かかるアミド基に起因した吸収ピークを有しないことが判明している。
(3)カルボキシル基
また、所定のイミド基含有化合物は、図1に示すように、波数1413cm-1あるいはその近傍に、カルボキシル基に由来した吸収ピークを有することを特徴とする。
この理由は、このようにカルボキシル基を分子内に有することによって、良好な溶解性や密着性を有するイミド基含有化合物とすることができるためである。
なお、図1の赤外分光チャートに示すように、本発明のイミド基含有化合物は、カルボキシル基に起因した吸収ピーク(波数1413cm-1)を有するものの、図2等に示すように、熱硬化してなるポリイミドでは、かかるカルボキシル基に起因した吸収ピークを有しないことが判明している。
(4)カルボニル基
また、所定のイミド基含有化合物は、図1に示すように、波数1710cm-1あるいはその近傍に、カルボニル基に由来した吸収ピークを有することが好ましい。
この理由は、このようにカルボニル基を分子内に有することによって、より良好な溶解性を有するイミド基含有化合物とすることができるためである。
なお、図1の赤外分光チャートに示すように、本発明のイミド基含有化合物におけるカルボニル基量(ピーク高さ)は、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるが、図2等に示すように、熱硬化してなるポリイミドの赤外分光チャートのカルボニル基量(ピーク高さ)を100とした時に、30〜70の範囲とすることが好ましく、35〜60の範囲がより好ましく、40〜50の範囲がさらに好ましいことが判明している。
(5)ベンゼン環に対する比率
(5)−1 S1/S2
また、所定のイミド基含有化合物の赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、イミド基に由来した波数1375cm-1の吸収ピークの高さをS2としたときに、S1/S2の比率を2〜10の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このようにイミド基の存在割合を規定することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とすることができるとともに、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるためである。
したがって、S1/S2の比率を3〜8の範囲内の値とすることがより好ましく、S1/S2の比率を5〜7の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(5)−2 S1/S3
また、所定のイミド基含有化合物の赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、アミド基に由来した波数1600cm-1の吸収ピークの高さをS3としたときに、S1/S3の比率を2〜20の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このようにアミド基の存在割合を規定することによって、所定有機溶剤に対する溶解性や密着性がさらに優れたイミド基含有化合物とすることができるとともに、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるためである。
したがって、S1/S3の比率を5〜15の範囲内の値とすることがより好ましく、S1/S3の比率を7〜12の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(5)−3 S1/S4
また、所定のイミド基含有化合物の赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、カルボキシル基に由来した波数1413cm-1の吸収ピークの高さをS4としたときに、S1/S4の比率を8〜30の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このようにカルボキシル基の存在割合を規定することによって、所定有機溶剤に対する溶解性や密着性がさらに優れたイミド基含有化合物とすることができるとともに、部分的な加水分解の程度を示す指標とすることもできるためである。
したがって、S1/S4の比率を10〜25の範囲内の値とすることがより好ましく、S1/S4の比率を13〜20の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
4.平均重量分子量
また、所定のイミド基含有化合物の平均重量分子量を1,000〜100,000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような平均重量分子量とすることによって、所定の低温硬化性が得られるとともに、有機溶剤に対する良好な溶解性が得られるためである。
したがって、イミド基含有化合物の平均重量分子量を3,000〜60,000の範囲内の値とすることがより好ましく、5,000〜30,000の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるイミド基含有化合物の平均重量分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって、ポリスチレン換算分子量として、測定することができる。
5.反応促進剤
(1)種類
また、所定のイミド基含有化合物水溶液を構成するにあたり、イミド基含有化合物のイミド化反応を促進するための反応促進剤を含有することが好ましい。
この理由は、反応促進剤を含有することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物水溶液とすることができるためである。
そして、反応促進剤の種類としては、イミド化反応を促進し、ポリイミド樹脂となるための化合物であれば該当するが、カリウム元素、ケイ素元素、カルシウム元素、鉄元素、クロム元素等の少なくとも一つからなる金属元素を含有することが好ましい。
なお、ポリイミド成型品を部分的に加水分解する際に、水酸化カリウムや水酸化カルシウム等を用いるとともに、イミド基含有化合物を精製する際に、水酸化カリウム等に由来したカリウム元素やカルシウム元素を所定量残留させ、反応促進剤として所定効果を発揮させることも好ましい。
(2)含有量
また、反応促進剤の含有量を、イミド基含有化合物水溶液に含まれるイミド基含有化合物の全体量に対して、0.05〜5重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように反応促進剤の含有量を制限することによって、より低温硬化可能なイミド基含有化合物とすることができるためである。
したがって、反応促進剤の含有量を、イミド基含有化合物の全体量に対して、0.1〜2重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.2〜0.8重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
6.粒状
また、イミド基含有化合物水溶液に含まれるイミド基含有化合物は、溶解前には粒状であって、その平均粒径を0.1〜500μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように構成することによって、取り扱い性が良好になるとともに、所定の水性溶媒に対する溶解性がさらに優れたイミド基含有化合物とすることができるためである。
したがって、イミド基含有化合物の平均粒径を5〜100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、10〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、イミド基含有化合物の平均粒径は、JIS Z8901に準じて、測定することができる。
7.水性溶媒
(1)種類1
イミド基含有化合物の水性溶媒として、水およびアルコール化合物、あるいはいずれか一方であることが好ましい。
そして、水であれば、揮発性に乏しく、非引火性であって、安全性が極めて高いばかりか、コストが安いことから、より経済的な水性溶媒である。
また、アルコール化合物のうち、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、アリルアルコール、ヘキサドール、プロパルギルアルコール等であれば、イミド基含有化合物の良溶媒であるとともに、沸点が120℃以下と低いことから、飛散させやすいという利点を得ることができる。
(2)種類2
また、イミド基含有化合物水溶液を迅速に作成するとともに、安定なイミド基含有化合物水溶液とするために、水性溶媒の一部として、上述した水やアルコール化合物とともに、所定の有機溶剤を使用することも好ましい。
このような有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルジグライム、メチルトリグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、トルエン、エチルアセテート、ブチルアセテート、セロソルブ、メチルエチルケトン、アニソール等の少なくとも一つが挙げられる。
特に、N−メチル−2−ピロリドンであれば、沸点が約202℃であり、N,N−ジメチルホルムアミドであれば、沸点が約153℃であり、γ−ブチロラクトンであれば、沸点が約204℃であり、それぞれ水の沸点(100℃)よりも相当高い一方、イミド基含有化合物の良溶媒であることから、所定温度で加熱した場合に、先に水が飛散する一方、一時的に残留することから、優れた造膜効果を得ることができるという利点がある。
但し、有機溶剤の使用量としては、イミド基含有化合物水溶液の用途にもよるが、通常、水等の使用量の1/100〜1/2未満の範囲内の値とすることが好ましく、1/50〜1/3の範囲内の値とすることがより好ましく、1/10〜1/4の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(3)配合量
また、水性溶媒の配合量(含有量)に関して、イミド基含有化合物水溶液の全体量に対して、20〜99重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる水性溶媒の配合量を所定範囲に調整することによって、取り扱いが容易になるばかりか、塗布乾燥が容易になって、さらには、他の配合成分、例えば、熱可塑性樹脂成分、熱硬化性樹脂成分、光硬化性樹脂成分、金属材料、セラミック材料等を均一かつ迅速に配合することができるためである。
より具体的には、かかる水性溶媒の配合量が20重量%未満の値になると、イミド基含有化合物の溶解性が不十分となって、取り扱い性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる水性溶媒の配合量が99重量%を超えた値になると、得られるイミド基含有化合物水溶液の粘度性が過度に低下し、所定膜厚でかつ均一なポリイミド膜を形成するのが困難となったり、沈殿物が生じやすくなったりする場合があるためである。
したがって、水性溶媒の配合量を、イミド基含有化合物水溶液の全体量に対して、50〜90重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、60〜80重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
8.界面活性剤
(1)種類
また、イミド基含有化合物水溶液中に、当該水溶液の安定性を向上させたり、イミド基含有化合物の分散性を向上させたり、塗布する基材への濡れ性を向上させたり、さらには、得られた塗膜の表面平滑性を調整するために、所定の界面活性剤を配合することが好ましい。
このような界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等があるが、具体的には、アンモニウム塩系界面活性剤、アミン塩系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。
さらに具体的には、高分子量酸性ポリマーのアルキロールアンモニウム塩、ポリカルボン酸のアルキルアミン塩、酸基を含むブロック共重合体のアルキルアンモニウム塩、多官能ポリマーのアルキロールアンモニウム塩、塩基性の親和性基を有するノニオン性共重合体、コントロール重合のアクリル系重合体、親和性基を有する星型構造変性ポリアルコキシレート、ポリアミノアマイドとポリエステルの塩、極性酸エステルと高分子アルコールの組み合わせ、パーフルオルアルキルエチレンオキシド付加物、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
(2)配合量
また、イミド基含有化合物水溶液中に、界面活性剤を配合する場合、その配合量を、イミド基含有化合物水溶液の全体量に対して、0.01〜10重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる界面活性剤の配合量が、0.01重量%未満の値になると、添加効果が発現しない場合があるためであり、かかる界面活性剤の配合量が、10重量%を超えると、得られるポリイミド樹脂の耐熱性や機械的強度が低下する場合があるためである。
したがって、界面活性剤の種類にもよるが、その配合量を、イミド基含有化合物水溶液の全体量に対して、0.1〜5重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜1重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
9.粘度
また、イミド基含有化合物水溶液の粘度を100〜500,000mPa・sec(測定温度:25℃、以下同様である。)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、イミド基含有化合物水溶液の粘度を所定範囲に制限することによって、取り扱いが容易になるばかりか、塗布性が向上し、さらには、他の配合成分、例えば、熱可塑性樹脂成分、熱硬化性樹脂成分、光硬化性樹脂成分、金属材料、セラミック材料等を均一かつ迅速に配合することができるためである。
したがって、イミド基含有化合物水溶液の粘度を、1000〜100,000mPa・secの範囲内の値とすることがより好ましく、5000〜50,000mPa・secの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
10.疑似架橋防止剤
また、イミド基含有化合物水溶液の特性を損なわない範囲で、各種添加剤を配合することができる。
すなわち、イミド基含有化合物は、所定のカルボキシル基や水酸基を有するとともに、イミド基含有化合物水溶液は、不可避的な金属イオンを含んでいる。
したがって、所定のカルボキシル基や水酸基に由来したものと思料される疑似架橋状態となる場合がある。
そうした場合、疑似架橋状態になった後に添加しても良く、あるいは、疑似架橋状態となる前に、それを防止するために、フィチン酸化合物、ダクロ化合物、あるいはEDTAを添加することが好ましい。
すなわち、分子式C618246で表わされるmyo−イノシトールの6リン酸エステルであるフィチン酸化合物、分子式C765246で表わされるポリフェノール化合物、あるいは、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)は、それぞれ各種金属イオン(例えば、鉄や亜鉛等)を捕捉して、キレート化することが知られている。
よって、疑似架橋防止剤を配合することによって、カルボキシル基や水酸基に由来した疑似架橋の原因となると思われる金属イオンを捕捉してキレート化させ、疑似架橋状態となって粘度測定不可のイミド基含有化合物水溶液を、低粘度(100〜100000mPsec、測定温度20℃)であって、塗布可能であって状態とすることができる。
したがって、疑似架橋防止剤の配合量としては、イミド基含有化合物(疑似架橋状態前)100重量部あたり、0.01〜10重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.05〜5重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.1〜1重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
11.各種添加剤
また、イミド基含有化合物水溶液の特性を損なわない範囲で、各種添加剤を配合することができる。
すなわち、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂(アクリル樹脂を含む)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、炭素樹脂等の少なくとも一種の高分子樹脂やオリゴマー樹脂を配合することが好ましい。
特に、フッ素樹脂を配合することによって、得られるポリイミド樹脂のすべり性や撥水性を向上させることができる。
また、得られるポリイミド樹脂の用途や形態に応じて、染料や顔料等の着色剤、導電性材料、電気絶縁性材料、紫外線吸収剤、放射線吸収剤、架橋剤、粘度調整剤、つや消し剤、軽量化材、繊維等の少なくとも一種を配合することも好ましい。
特に、150度以下の低温熱効果が可能であるため、添加剤として、各種顔料や染料を配合したとしても、それらが熱分解しないことから、従来不可能であった、カラーポリイミド樹脂とすることが可能になった。
12.諸特性
(1)低温硬化性
また、イミド基含有化合物水溶液に含まれるイミド基含有化合物の低温硬化性に関し、200℃以下の温度、より好ましくは、150℃以下の温度、さらに好ましくは、120℃以下の温度条件で熱硬化して、所定のポリイミド樹脂となることが好ましい。
したがって、例えば、図1に示す赤外分光チャートのイミド基含有化合物(化合物A)を、通常、100℃〜200℃、30分の加熱条件で処理した場合に、図2に示す赤外分光チャートで表わされるポリイミド樹脂(イミド化率で70%以上)になることが好ましい。
より具体的には、かかるイミド基含有化合物が、100℃〜150℃、30分の加熱条件で熱硬化するのであれば、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂からなる基材に対しても、所定のポリイミド膜を安定的に形成することができる。
また、150℃超〜200℃、30分の加熱条件で熱硬化するのであれば、金属基材やセラミック基材に対して、所定のポリイミド膜を形成することができるのはもちろんのこと、ポリエステル樹脂等からなる樹脂基材に対しても、所定のポリイミド膜を安定的に形成することができる。
(2)溶解性
また、イミド基含有化合物の溶解性に関して、水あるいはアルコールに対して、十分かつ短時間で溶解することが好ましい。
すなわち、例えば、図1に示す赤外分光チャートのイミド基含有化合物(化合物A)を、固形分濃度が10〜30重量%の範囲、より好ましくは、12〜20重量%になるように、ホモミキサーやプラネタリーミキサー等の撹拌装置を用いて、水あるいはアルコールに溶解させた場合に、60分以内に均一溶液となることが好ましく、30分以内に均一溶液となることがさらに好ましい。
13.用途
本発明のイミド基含有化合物水溶液の用途については、特に制限されるものではないが、例えば、耐熱塗料や電気絶縁材料等が挙げられる。
また、水性溶媒を飛散させるとともに、所定温度で熱硬化させることにより、良好な耐熱性等を有するポリイミドフィルム、耐熱性電気部品筐体、耐熱性電子部品材料、耐熱性回路基板、耐熱性容器、耐熱性機械部品、耐熱性自動車部品等を製造する際の原材料とすることができる。
ここで、イミド基含有化合物水溶液の用途の態様について、図3(a)〜(e)を参照して、より具体的に説明する。
まず、イミド基含有化合物水溶液の代表的用途は、図3(a)に示すように、耐熱性や電気絶縁性等を向上させるための単層のポリイミドフィルム10の原材料であって、本発明のイミド基含有化合物水溶液から、水性溶媒を飛散させるとともに、所定条件で加熱硬化させることによって得ることができる。
また、図3(b)に示すように、他の樹脂フィルム12の耐熱性や電気絶縁性等を向上させるために、ポリイミドフィルム10を積層してなる複合樹脂フィルム13の原材料であることも好ましい。すなわち、ポリエステルフィルムやポリオレフィンフィルム等の樹脂フィルム12の表面に、本発明のイミド基含有化合物水溶液に由来した所定のポリイミド膜10を形成し、耐熱性等を有する複合樹脂フィルム13とすることも好ましい。
また、図3(c)に示すように、図3(b)に示す複合樹脂フィルム13の変形例であるが、他の樹脂フィルム12の両面に、本発明のイミド基含有化合物水溶液に由来したポリイミドフィルム10(10a,10b)を積層してなる複合樹脂フィルム13´とすることも好ましい。
また、図3(d)に示すように、本発明のイミド基含有化合物水溶液に由来したポリイミドフィルム10の片面に、金属層14を形成し、金属複合ポリイミドフィルム16の態様とすることも好ましい。このような金属複合ポリイミドフィルム16であれば、ポリイミドフィルム10と、金属層14との間の接着剤層を省略することができ、金属複合ポリイミドフィルム16の薄膜化に資することができる。
さらに、図3(e)に示すように、本発明のイミド基含有化合物水溶液に由来したポリイミドフィルム10の両面に、第1の金属層14aと、第2の金属層14bと、を形成するとともに、第1の金属層14aと、第2の金属層14bと、を電気的に接続するビアホール14cを形成することによって、両面回路基板20とすることも好ましい。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、ポリイミド成型品を部分的に加水分解した、イミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含むことを特徴とするイミド基含有化合物水溶液の製造方法である。
(1)ポリイミド成型品を切断し、所定大きさとする準備工程
(2)所定大きさのポリイミド成型品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で加水分解し、粗製イミド基含有化合物とする工程
(3)粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程
(4)イミド基含有化合物を、水性溶媒に溶解させる工程
1.工程(1)
工程(1)は、ポリイミド成型品を切断し、所定大きさとする準備工程である。
したがって、ポリイミド成型品を、切削装置、粉砕装置、分級装置等を用いて、産業廃棄物等としてのポリイミド成型品を切断したり、分級したりして、その最大幅や平均粒径を予め調整することが好ましい。
すなわち、より均一かつ迅速に部分的加水分解が可能となるように、カッター、ナイフ、チョッパー、シュレッダー、ボールミル、粉砕装置、ふるい、パンチングメタル、サイクロン等を用いて、産業廃棄物等としてのポリイミド成型品を切断したり、分級したりして、その最大幅や平均粒径を予め調整することが好ましい。
より具体的には、ポリイミド成型品を短冊状に調整する場合、その平均幅を10mm以下、より好ましくは1〜5mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、ポリイミド成型品を粒状に調整する場合、その平均粒径を10mm以下、より好ましくは1〜5mmの範囲内の値としたりすることが好ましい。
そして、さらに最大幅や平均粒径を揃えるべく、ドライアイス等を用いて冷却しながら、パンチングメタルやふるい等を備えた樹脂用粉砕機に投入して粉砕し、小片状あるいは粒状のポリイミド粉砕品とすることが好ましい。
2.工程(2)
次いで、工程(2)は、所定大きさのポリイミド成型品を、少なくとも水および塩基性化合物の存在下に、40〜100℃の温度条件、より好ましくは50〜80℃の温度条件で部分的に加水分解し、粗製イミド基含有化合物とする工程である。
したがって、少なくとも水および塩基性化合物の存在下に、所定温度下、例えば、常圧で、1〜48時間の条件で、ポリイミド成型品を加水分解することが好ましい。
ここで、塩基性化合物としては、水酸化物イオンを発生させる化合物を意味するが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ソーダなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、脂肪酸塩や、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウム、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、有機アミン化合物などが挙げられる。
特に、比較的低温で、かつマイルドに加水分解が生じることから、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いることが好ましい。
なお、上述したように、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおけるイミド基に由来した吸収ピーク、アミド基に由来した吸収ピーク、カルボキシル基に由来した吸収ピーク等の有りなしや、それぞれのピーク高さ、さらには、ベンゼン環に由来した吸収ピークとの相対高さ比等が所定範囲内の数値であることを確認することによって、ポリイミド成型品が、部分的に加水分解されて、所望の粗製イミド基含有化合物が得られているか否かを確認することができる。
3.工程(3)
次いで、工程(3)は、粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程である。
したがって、例えば、酸処理(塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、有機酸処理等)、水洗、アルカリ処理(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム処理等)、水洗、および乾燥の一連工程を1〜10回繰り返して行い、粗製イミド基含有化合物を精製し、不純物が除去されたイミド基含有化合物(粒状)とすることが好ましい。
そして、粗製イミド基含有化合物中に残留する酸成分やアルカリ成分の影響、例えば、耐熱性や金属腐食等への影響を効果的に避けるべく、酸処理に、弱酸であるリン酸を使用することがより好ましく、アルカリ処理として、水酸化カリウムを使用することがより好ましい。
その上、粗製イミド基含有化合物を精製し、乾燥させた後、粒度を揃えるために、ふるいを用いて、イミド基含有化合物を所定粒径ごとに分級することが好ましい。
なお、粗製イミド基含有化合物が十分に精製されたか否かにつき、塩素、硫黄、リン、アルミニウム、マグネシウム等の元素(あるいは元素イオン)が所定量以下であることを、イオンクロマトグラフやX線光電子分光法(XPS)を用いて定量することによって、確認することができる。
より具体的には、例えば、塩素イオンが、100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下であることを、イオンクロマトグラフ元素分析によって定量し、粗製イミド基含有化合物の精製度合いを確認することができる。
4.工程(4)
最後に、工程(4)は、工程(3)で得られたイミド基含有化合物を、水性溶媒に溶解させて、イミド基含有化合物水溶液とする工程である。
より具体的には、プロペラミキサー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、ボールミル、ジェットミル、振動ミル、三本ロール等の公知の撹拌装置の少なくとも一つを用いて、工程(3)で得られたイミド基含有化合物を、基本的に、所定量の水性溶媒に溶解させて、イミド基含有化合物水溶液とすることが好ましい。
但し、比較的短時間で、かつ均一なイミド基含有化合物水溶液とするため、各種の溶解方法があるが、それらについては後述する。
5.溶解方法
(1)溶解方法1
第1段階として、工程(3)で得られたイミド基含有化合物(粒状)を、有機溶剤(例えば、NMP等)に溶解させて、所定濃度のイミド基含有化合物の有機溶剤溶液を作成する。
次いで、第2段階として、作成したイミド基含有化合物の有機溶剤溶液に対し、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、またはノニオン系界面活性剤等を配合し、後工程で、水性溶媒を配合した場合であっても、イミド基含有化合物水溶液が安定するように配慮する。
最後に、第3段階として、水性溶媒を徐々に配合するとともに、公知の撹拌装置を用いて撹拌しながら、全体量に対する水分量が20〜50重量%未満の均一範囲になるように調整する。すなわち、平均粒径が0.01〜0.1μmのイミド基含有化合物を含有してなるディスパージョンタイプの水溶液とする溶解方法である。
(2)溶解方法2
第1段階として、工程(3)で得られたイミド基含有化合物(粒状)を、有機溶剤(例えば、NMP等)に溶解させて、所定濃度のイミド基含有化合物の有機溶剤溶液を作成する。
次いで、第2段階として、溶解方法1と同様に、作成したイミド基含有化合物の有機溶剤溶液に対し、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、またはノニオン系界面活性剤等を配合する。
最後に、第3段階として、水性溶媒を徐々に配合するとともに、公知の撹拌装置を用いて撹拌しながら、全体量に対する水分量が50〜90重量%の均一範囲になるように調整する。すなわち、平均粒径が0.1〜1μmのイミド基含有化合物を含有してなるエマルションタイプの水溶液とする溶解方法である。
(3)溶解方法3
第1段階として、工程(3)で得られたイミド基含有化合物(粒状)のうち、平均粒径が所定値以下、例えば、2〜5μm程度のイミド基含有化合物(粒状)をフルイにより分級する。
次いで、第2段階として、溶解方法1と同様に、分級したイミド基含有化合物に対し、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、またはノニオン系界面活性剤等を配合する。
最後に、第3段階として、水性溶媒を徐々に配合し、公知の撹拌装置を用いて撹拌しながら、全体量に対する水分量が50〜80重量%の均一範囲になるように調整する。すなわち、平均粒径が2〜5μm程度のイミド基含有化合物を含有してなる水分散体とする溶解方法である。
(4)溶解方法4
第1段階として、工程(2)で得られた粗製イミド基含有化合物を洗浄し、濾過し、不純物を除去した粗製イミド基含有化合物を得る。
次いで、第2段階として、粗製イミド基含有化合物を乾燥させることなく、それに対して、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、またはノニオン系界面活性剤等を配合する。
最後に、第3段階として、水性溶媒を徐々に配合するとともに、公知の撹拌装置を用いて撹拌しながら、全体量に対する水分量が50〜80重量%の均一範囲になるように調整する。すなわち、平均粒径が0.1〜1μm程度のイミド基含有化合物を含有してなる水分散体とする溶解方法である。
以下、実施例にもとづき、本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
1.イミド基含有化合物水溶液の製造
(1)工程1
ポリイミド成型品としてのカプトンフィルム(カプトン−100Hが主体であるが、他のカプトンフィルムの混合品、東レ・デュポン(株)製)を、チョッパーを用いて、幅10mm以下の短冊状に切断した。
次いで、ドライアイスを添加して冷却しながら、直径3mmのパンチングメタルを備えた樹脂用粉砕機(型番P−1314、株式会社ホーライ)に投入して、当該パンチングメタルを通過するポリイミド成型品(平均粒径:約3mm)を、部分的に加水分解する対象としてのポリイミド粉砕品とした。
(2)工程2
次いで、撹拌装置付きの1000ml容器内に、得られたポリイミド粉砕品5gと、イオン交換水400gと、塩基性物質として、水酸化カリウム2gと、を収容した。
次いで、容器内の温度を50℃に加温した後、収容物を撹拌しながら、24時間の条件で、加水分解処理を行い、粗製イミド基含有化合物を含む溶液を得た。
(3)工程3
次いで、粗製イミド基含有化合物を含む溶液につき、酸処理(リン酸)、水洗、アルカリ処理、および水洗の一連工程を、5回繰り返して行い、粗製イミド基含有化合物を精製して、粒状のイミド基含有化合物(平均粒径:5μm)とした。
なお、粒状のイミド基含有化合物中に、カリウムが約0.2重量%、Siが約0.02重量%、Caが約0.02重量%、Feが0.005重量%、それぞれ含まれていることを、定量分析によって、確認した。
(4)工程4
次いで、撹拌装置付きの容器内に、粒状のイミド基含有化合物を100g、NMPを400g投入し、均一なイミド基含有化合物の有機溶剤溶液とした。
次いで、得られたイミド基含有化合物の有機溶剤溶液500gに対し、ノニオン系界面活性剤として、パーフルオルアルキルエチレンオキシド付加物1gを配合した。
最後に、水性溶媒(水)を徐々に配合し、ホモミキサーで撹拌しながら、全体量に対する水分量が60%になるように調整し、平均粒径が0.1〜1.0μmの範囲のイミド基含有化合物を含有してなるエマルションタイプの水溶液とした。
2.イミド基含有化合物およびイミド基含有化合物水溶液の評価
(1)FT−IR分析(評価1)
工程3で得られた粒状のイミド基含有化合物を、水/NMPの混合物(重量比:80/20)に、固形分濃度が15重量%となるように溶解させた後、厚さ10μのイミド基含有化合物フィルムを作成し、赤外分光光度計(FT−IR)を用いて、ATR法にて、各種官能基(イミド基、アミド基、カルボキシル基、カルボニル基、ベンゼン環等)の存在を確認した。
なお、図1に、得られたイミド基含有化合物の赤外分光チャートを示し、図2に、イミド基含有化合物の硬化物(150℃、30分の熱硬化条件)、すなわち、ポリイミドの赤外分光チャートを示す。
そして、さらに、図4に、参考のため、市販のポリイミド(カプトンH)における赤外分光チャートを示す。
(2)溶解性(評価2)
撹拌装置(ホモミキサー)を用いて、工程3で得られた粒状のイミド基含有化合物を、固形分濃度が15重量%となるように、水/NMP混合物(重量比:80/20)に溶解させて、下記基準に準じて、イミド基含有化合物の溶解性を評価した。
◎:30分以内に溶解可能である。
○:60分以内に溶解可能である。
△:120分以内に溶解可能である。
×:120分経過しても、溶解不可である。
(3)低温硬化性(評価3)
工程4を経て得られたイミド基含有化合物水溶液を、軟鋼鉄プレート(長さ80mm、幅30mm、厚さ1mm)の上に塗布し、さらに、120℃、30分および150℃、30分の条件で、それぞれ加熱硬化させて、厚さ20μのポリイミド膜を形成し、下記基準に準じて、低温硬化性を評価した。
◎:120℃及び150℃で、それぞれ強固なポリイミド膜が形成可能である。
○:120℃ではポリイミド膜が若干柔らかいが、150℃であれば、強固なポリイミド膜が形成可能である。
△:120℃ではポリイミド膜が柔らかいが、150℃であれば、ほぼ強固なポリイミド膜が形成可能である。
×:120℃、150℃の両方で、硬化が不十分であって、強固なポリイミド膜が形成不可能である。
(4)密着性(評価4)
低温硬化性の評価で得られたポリイミド膜(150℃、30分硬化品)につき、JIS K−5400に準じて、碁盤目試験を行い、下記基準に準じて、密着性を評価した。
◎:はがれ数が0/100碁盤目である。
○:はがれ数が1〜5/100碁盤目である。
△:はがれ数が6〜10/100碁盤目である。
×:はがれ数が11/100碁盤目以上である。
(5)耐熱性(評価5)
低温硬化性の評価で得られたポリイミド膜(150℃、30分硬化品)につき、耐熱性として、示差熱天秤(TG−DTA)を用い、窒素中で、30〜500℃まで加熱(昇温速度10℃/分)し、図5に示すように、示差熱天秤チャート(TG−DTA曲線)を得た。そして、TG−DTA曲線のうち、TG曲線をもとに、以下の基準で、ポリイミド膜の耐熱性評価を行った。
◎:10%重量減少温度が450℃以上である。
○:10%重量減少温度が400℃以上である。
△:10%重量減少温度が350℃以上である。
×:10%重量減少温度が350℃未満である。
[実施例2]
実施例2では、ポリイミド成型品として、カプトンフィルムの種類を、カプトンH(東レ・デュポン(株)製)に変えるとともに、加水分解時間を36時間に変更して、ポリイミド成型品の加水分解の程度を変えて、イミド基含有化合物(化合物B)を含むイミド基含有化合物水溶液を得たほかは、実施例1と同様に、イミド基含有化合物の溶解性等について評価した。
なお、図6に、得られたイミド基含有化合物の赤外分光チャートを示し、図7に、イミド基含有化合物の硬化物(150℃、30分の熱硬化条件)、すなわち、ポリイミドの赤外分光チャートを示す。
[実施例3]
実施例3では、ポリイミド成型品として、カプトンフィルムの種類を、カプトンEN(東レ・デュポン(株)製)に変えるとともに、加水分解時間を12時間に短縮して、ポリイミド成型品の加水分解の程度を変えて、イミド基含有化合物(化合物C)を含むイミド基含有化合物水溶液を得たほかは、実施例1と同様に、イミド基含有化合物の溶解性等について評価した。
なお、図8に、得られたイミド基含有化合物の赤外分光チャートを示し、図9に、イミド基含有化合物の硬化物(150℃、30分の熱硬化条件)、すなわち、ポリイミドの赤外分光チャートを示す。
[実施例4〜6]
実施例4〜6では、精製後のイミド基含有化合物(化合物A)の平均粒径を2μm、5μm、および65μmとしたほかは、それぞれ実施例1と同様にイミド基含有化合物水溶液について評価した。
なお、図10(a)〜(c)に、軟鋼鉄プレート上に形成した、実施例4〜6におけるポリイミド膜の状態をそれぞれ表す写真を示す。
[比較例1]
比較例1では、ポリイミド成型品に対して、水酸化ナトリウムを、理論分解量の約80倍モル量(約66g)を添加した後、80℃、常圧、7日間の条件で加水分解し、さらに、酸性物質で中和して、ピロメリット酸および芳香族アミンに完全に分解したほかは、実施例1と同様に、溶解性、低温硬化性、および密着性をそれぞれ評価した。
[比較例2]
比較例2では、ポリイミド成型品に、水酸化カリウムを、理論分解量の1倍モル(約0.1g)添加した後、30℃、常圧、8時間の条件で加水分解し、さらに、酸性物質で中和するとともに、精製して、部分加水分解をほとんどしていない化合物(化合物D)としたほかは、実施例1と同様に、溶解性、低温硬化性、および密着性をそれぞれ評価した。
なお、図11に、得られたイミド基含有化合物の赤外分光チャートを示す。
[実施例7]
実施例7では、実施例1で得られた精製後のイミド基含有化合物(化合物A)を含むイミド基含有化合物水溶液を、図12(a)に示すアルミ箔上に、バーコーターを用いて塗布した後、150℃、30分の条件で熱硬化させて、図12(b)に示すような厚さ10μmのポリイミドおよび厚さ20μmの金属箔の複合フィルムを形成して、外観評価を行った。
その結果、薄黄色に着色しているものの、透明感に優れたポリイミドがアルミ箔上に強固に形成されていることを確認した。
[実施例8]
実施例8では、実施例1で得られた精製後のイミド基含有化合物(化合物A)を含むイミド基含有化合物水溶液を、ポリエステルフィルム上に、バーコーターを用いて塗布した後、150℃、30分の条件で熱硬化させて、厚さ10μmのポリイミドおよび厚さ50μmのポリエステルフィルムの複合フィルムを形成して、外観評価を行った。
その結果、薄黄色に着色しているものの、透明感に優れたポリイミドがポリエステルフィルム上に強固に形成されていることを確認した。
そして、JIS L 1091 A−1法に準じて、難燃性を評価したところ、同基準をクリアすることを確認した。
[実施例9]
実施例9では、実施例1で得られた精製後のイミド基含有化合物(化合物A)を含むイミド基含有化合物水溶液100重量%に対して、フッ素樹脂(PTFE)を5重量%となるように配合した後、バーコーターを用いて鉄板上に塗布し、さらに、150℃、30分の条件で熱硬化させて、厚さ10μmのポリイミド膜を形成して、感触評価等を行った。
その結果、表面のすべり性が良好で、かつ、撥水性に優れた、均一なポリイミド膜が形成されていることを確認した。
[実施例10]
実施例10では、実施例1で得られた精製後のイミド基含有化合物(化合物A)を含むイミド基含有化合物水溶液100重量%に対して、フッ素樹脂(PTFE)を20重量%となるように配合するとともに、フッ素系界面活性剤を1重量%配合した後、バーコーターを用いて鉄板上に塗布し、さらに、150℃、30分の条件で熱硬化させて、厚さ10μmのポリイミド膜を形成して、感触評価等を行った。
その結果、表面のすべり性がさらに良好で、かつ、撥水性に優れた、均一なポリイミド膜が形成されていることを確認した。
[実施例11]
実施例11では、実施例1の工程3の酸処理において、塩酸を用いたほかは、粗製イミド基含有化合物を精製して、粒状のイミド基含有化合物(平均粒径:5μm)とした。
その結果、図13に示すようなイミド基含有化合物の硬化物(ポリイミド樹脂)における示差熱天秤チャート(TG−DTA曲線)が得られた。
すなわち、酸処理において、塩酸を用いた場合、図5に示す実施例1のポリイミド樹脂(酸処理にリン酸使用)と比較して、耐熱性が若干低いことが確認された。
以上の説明の通り、本発明によれば、産業廃棄物等としてのポリイミド成形品を部分的に加水分解するとともに、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、所定吸収ピークを有する特定構造のイミド基含有化合物を、水性溶媒に溶解させることにより、低温硬化可能であって、かつ密着性等に優れたイミド基含有化合物を含むイミド基含有化合物水溶液、およびそのような製造方法を提供できるようになった。
したがって、本発明によって得られるイミド基含有化合物水溶液は、150℃を超える高温条件において、迅速に熱硬化するのはもちろんのこと、150℃以下の低温条件で加熱処理することによっても、良好な耐熱性や密着性等を有するポリイミド樹脂が得られるようになった。
よって、得られたイミド基含有化合物水溶液を、耐熱性や密着性等に優れたポリイミドフィルムやポリイミド塗料等、さらには、耐熱性電気部品筐体、耐熱性電子部品材料、耐熱性容器、耐熱性機械部品、耐熱性自動車部品等の各種ポリイミド成型品の用途について、それぞれ好適に使用することが期待される。
特に、150℃以下の低温熱硬化が可能であるため、各種顔料や染料を配合したとしても、それらが熱分解しないことから、従来不可能であった、カラーポリイミド樹脂とすることが可能になった。
10:ポリイミド(ポリイミドフィルム、ポリイミド膜)
12:他の樹脂フィルム
13:複合樹脂フィルム
14:金属層
14a:第1の金属層
14b:第2の金属層
14c:ビアホール
16:金属複合ポリイミドフィルム
20:両面回路基板

Claims (8)

  1. ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液であって、
    前記イミド基含有化合物を赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、
    波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、
    波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、
    波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、
    を有することを特徴とするイミド基含有化合物水溶液。
  2. 前記水性溶媒が、水およびアルコール化合物、あるいはいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載のイミド基含有化合物水溶液。
  3. 前記赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1としたときに、前記イミド基に由来した波数1375cm-1の吸収ピークの高さをS2としたときに、S1/S2の比率を2〜10の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載のイミド基含有化合物水溶液。
  4. 前記赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1とし、アミド基に由来した波数1600cm-1の吸収ピークの高さをS3としたときに、S1/S3の比率を2〜20の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のイミド基含有化合物水溶液。
  5. 前記赤外分光チャートにおいて、ベンゼン環に由来した波数1500cm-1における吸収ピークの高さをS1としたときに、前記カルボキシル基に由来した波数1413cm-1の吸収ピークの高さをS4としたときに、S1/S4の比率を8〜30の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のイミド基含有化合物水溶液。
  6. イミド化反応を促進するための反応促進剤を含有するとともに、当該反応促進剤の含有量を、イミド基含有化合物水溶液に含まれるイミド基含有化合物に対して、0.05〜5重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のイミド基含有化合物水溶液。
  7. 前記水性溶媒に溶解させる前のイミド基含有化合物が粒状であって、当該粒状のイミド基含有化合物の平均粒径を0.1〜500μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のイミド基含有化合物。
  8. ポリイミド成型品を部分的に加水分解したイミド基含有化合物と、水性溶媒と、を含んでなるイミド基含有化合物水溶液の製造方法であって、下記工程(1)〜(4)を含むことを特徴とするイミド基含有化合物水溶液の製造方法。
    (1)ポリイミド成型品を切断し、所定大きさとする準備工程
    (2)前記所定大きさのポリイミド成型品を、水および塩基性化合物の存在下に、50〜100℃の温度条件で加水分解させ、粗製イミド基含有化合物とする工程
    (3)前記粗製イミド基含有化合物を精製し、赤外分光測定した場合に得られる赤外分光チャートにおいて、波数1375cm-1に、イミド基に由来した吸収ピークと、波数1600cm-1に、アミド基に由来した吸収ピークと、波数1413cm-1に、カルボキシル基に由来した吸収ピークと、を有するイミド基含有化合物とする工程
    (4)イミド基含有化合物を、水性溶媒に溶解させる工程
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