JP2014218233A - 船舶用電気推進装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】インバータをコンパクトにしてコストを抑制し、船舶の航行時に生じるエネルギー損失を低減することが可能な船舶用電気推進装置を提供する。
【解決手段】発電機37から電動機39までに2系統の給電電路51,52が設けられている。給電電路51にインバータ38と第1電磁接触器55が設けられており、給電電路52に第2電磁接触器56が設けられている。電気推進装置10は電気推進制御盤35を有しており、インバータ38による電動機39のインバータ制御と、インバータ38を使用せずにエンジン33の回転数制御による周波数制御とが行われる。プロペラ31の回転速度が第2プロペラ速度範囲72(0%〜83%)のときにインバータ制御が行われ、プロペラ31の回転速度が第1プロペラ回転速度71(83%〜100%)になると、周波数制御に切り換えられる。
【選択図】図3

Description

本発明は、船舶のプロペラを電動機によって回転させる船舶用電気推進装置に関する。
船舶に備えられたプロペラを回転駆動させて船舶を推進させる推進装置として、内燃機関に連結された発電機の電力によって駆動する電動機の回転駆動力を得て前記プロペラを回転させる船舶用電気推進装置が知られている。この種の船舶用電気推進装置は、発電機が発電した電力を制御するインバータを備えており、操舵室などから指定された船速となるように、インバータから前記電動機力へ出力される電力の周波数が制御される。これにより、船舶のプロペラが前記操舵室から指示された船速に応じた回転速度に変速される。近年、環境負荷の低減、貨物スペースの増加、船内作業量の低減、航海の安全性向上などの利点を有することに加え、エネルギー効率が徐々に改善されつつあることから、船舶用電気推進装置への関心が高まってきている。この種の船舶用電気推進装置の一例として、特許文献1には、船舶運航時にインバータを運転して船舶推進用の電動機を駆動させ、船舶停止時にインバータの出力先を荷役用電動機に切り換えて荷役用電動機を駆動させる装置が記載されている。
特開2001−251895号公報
ところで、上述した従来の船舶用電気推進装置では、船舶を推進させる電動機を可変速制御するために、四象限運転(正転力行、正転制動、逆転力行、逆転制動)が可能なインバータが必要であり、また、高度な高調波抑制対策が必要である。このようなインバータによって電動機の可変速制御が行われると、インバータにおいて約4〜6%の変換ロスが生じる。船舶用電気推進装置において約4〜6%のエネルギー損失は極めて大きく、省エネルギーの観点からエネルギーが熱として無駄に消費されることは問題である。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インバータをコンパクトにしてコストを抑制することができ、船舶の航行時に生じるエネルギー損失を低減することが可能な船舶用電気推進装置を提供することにある。
(1) 本発明は、船舶のプロペラを電動機によって回転させる船舶用電気推進装置であって、発電機関と、インバータと、第1制御手段と、第2制御手段と、制御切換手段とを備える。発電機関は、内燃機関と発電機とを有し、内燃機関の出力軸に発電機が接続されてなるものである。インバータは、前記発電機関によって発電された交流電力の周波数を所定のプロペラ回転速度に対応する周波数に変換して前記電動機に出力する。第1制御手段は、前記内燃機関の回転速度を予め定められた定速度に制御して前記発電機で発電された前記定速度に応じた一定周波数の交流電力を前記インバータを介して前記電動機に供給する。第2制御手段は、前記内燃機関の回転速度を予め定められた機関速度範囲内で制御して前記発電機で発電された前記機関速度範囲に応じた周波数の交流電力を前記インバータを介さずに前記電動機に供給する。制御切換手段は、前記プロペラの回転速度が予め定められた第1プロペラ速度から第2プロペラ速度までの第1プロペラ速度範囲である場合に前記第2制御手段による制御に切り換え、前記第1プロペラ速度範囲以外の第2プロペラ速度範囲である場合に前記第1制御手段による制御に切り換える。
これにより、前記第1プロペラ速度範囲ではインバータを用いない前記第2制御手段による駆動制御が行われるので、インバータにおける変換ロスの発生を防止して、船舶用推進装置におけるエネルギー損失を低減することができる。
(2) 前記第1プロペラ速度範囲は、前記第1プロペラ回転速度以上の速度範囲であり、前記第2プロペラ速度範囲は、前記プロペラが停止した状態から前記第1プロペラ速度までの速度範囲である。
一般に、船舶は、港湾内において速度が制限されている。したがって、船舶が港湾内を航行しているときに、船舶用電気推進装置は、その定格出力範囲において低い出力領域でプロペラを回転駆動させる。一方、港湾を出て外海(外洋)を航行する場合は、船舶に速度制限は課せられない。そのため、船舶が外港に出た後に、船舶用電気推進装置は、その定格出力範囲において高い出力領域でプロペラを回転駆動させる。タグボートのように港湾内で作業する船舶を除き、多くの船舶は、港湾内で低出力で航行する時間よりも外港で高出力で航行する時間のほうが長い。そのため、船舶の使用状況に鑑みて、本発明の船舶用電気推進装置では、前記第1プロペラ速度範囲を前記第1プロペラ回転速度以上の速度範囲とし、前記第2プロペラ速度範囲を前記プロペラが停止した状態から前記第1プロペラ回転速度までの速度範囲としている。これにより、第1プロペラ速度範囲で長時間にわたってプロペラを回転駆動させても、長時間にわたってインバータによる変換ロスが生じないので、船舶用推進装置におけるエネルギー損失を長時間にわたって低減させることができる。また、インバータは、プロペラ回転が停止した状態から前記第1プロペラ回転速度までの第2プロペラ速度範囲だけ使用されるので、本発明の船舶用電気推進装置で用いられるインバータは、前記1プロペラ速度範囲と前記第2プロペラ速度範囲とを合わせた全速度範囲に対応する容量を必要とせず、前記1プロペラ速度範囲に対応する容量のもので十分である。このように、本発明によれば、エネルギー損失を低減できるだけでなく、インバータの容量が小さくて済むのでインバータのコストを抑えることができる。また、容量が小さくてコンパクトなインバータを用いることができるので、インバータの設置自由度が高くなり、また、船舶用電気推進装置自体を小型化することができる。
(3) 前記第1プロペラ速度範囲は、前記発電機で発電される交流電力の周波数が、前記発電機から前記電動機までの電力供給経路に設けられる電気機器に使用可能な電源周波数の許容範囲内となるように設定されている。日本では、商用電源として50Hzと60Hzの交流電力が提供されている。また、いずれの外国においても、商用電源の周波数は50Hzもしくは60Hz、又は50Hz及び60Hzの併用のいずれかである。そのため、電気機器の電源周波数の許容範囲は50Hzから60Hzとなっている。したがって、本発明の船舶用電気推進装置においても、前記第1プロペラ速度範囲は、50Hzから60Hzの許容範囲で回転駆動可能な範囲に設定されている。
(4) 本発明の船舶用電気推進装置は、前記発電機から前記インバータを経て前記電動機に至る第1電路に設けられ、前記第1電路を開閉する第1開閉器と、前記発電機から前記インバータをバイパスして前記電動機に至る第2電路に設けられ、前記第2電路を開閉する第2開閉器と、を更に備える。この場合、前記制御切換手段は、前記第1制御手段による制御のときに前記第2開閉器をオープンにし、前記第1開閉器をクローズにするものであり、前記第1制御手段による制御から前記第2制御手段による制御に切り換えるときに、前記インバータの出力を所定量だけ増加させた後に前記第1開閉器をオープンにし、その後、前記第2開閉器をクローズにするものである。
これにより、前記制御切換手段による切換時に電動機への出力が一時的に途絶えてプロペラ回転が低下したとしても、切換前にプロペラ回転速度が増加されるため、切換時のプロペラ回転速度の実質的な低下量が抑制されて、円滑な切換制御が可能となる。
本発明によれば、船舶の航行時に生じるエネルギー損失を低減することが可能になる。
本発明の実施形態に係る電気推進装置の概略構成を模式的に示す構成図である。 図1の電気推進装置におけるプロペラ回転数とプロペラ負荷と発電電力の周波数との関係を示すグラフ図である。 図1の電気推進装置の制御部によって実行される前進加速制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。 図1の電気推進装置の制御部によって実行される前進減速制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。 図1の電気推進装置の制御部によって実行される前進加速制御処理の手順の他の一例を示すフローチャートである。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例にすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
まず、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る船舶用電気推進装置10(以下、「電気推進装置」と略称する。)は、船舶の推進機構である固定ピッチプロペラ31(本発明のプロペラの一例、以下「プロペラ31」と略称する。)を電動機39による電駆動力によって回転させて船舶の推進力を発生させるものである。この電気推進装置10は、図1に示されるように、ディーゼルエンジン33(本発明の内燃機関の一例、以下「エンジン33」と略称する。)と、発電機37と、インバータ38と、電動機39と、減速機41と、電気推進装置10の全体の動作を統括的に制御する電気推進制御盤35とを備えている。なお、エンジン33と発電機37とによって本発明の発電機関が実現される。また、電気推進制御盤35が後述する前進加速制御処理を実行することにより、本発明の第1制御手段、第2制御手段、制御切換手段が電気推進制御盤35によって実現される。
ここで、本発明の船舶用電気推進装置は、様々なタイプの船舶に適用可能であり、例えば、コンテナ船やタンカーなどの貨物船、フェリーや客船などの旅客船、タグボートや海洋調査船などのような海上又は海中作業を行う特殊船、漁業に用いられる漁船、潜水船などの船舶に幅広く適用可能である。
エンジン33は、船舶において発電機37に回転駆動力を供給する駆動源として使用されるものであり、例えば、機関出力が数百kW〜数千kWの大型のディーゼルエンジンである。エンジン33には、電子ガバナ34が設けられている。電子ガバナ34は、入力された信号に応じて燃料ラック位置を変更して、エンジン33の燃料噴射ポンプの噴射量を調整する。これにより、エンジン33の回転速度及び出力が変更される。また、エンジン33には、エンジン33の回転速度を検知する速度センサー24が設けられている。速度センサー24によって検知された速度信号は電気推進制御盤35にフィードバックされる。なお、本実施形態では、内燃機関の一例としてエンジン33を例示するが、これに限られず、エンジン33に代えてガスエンジンやガスタービンなどのように、回転駆動力を出力可能な内燃機関であれば様々なタイプの機関が適用可能である。また、速度センサー24は、例えば発電機37の発電周波数から速度を検知するものでもよい。
発電機37は、エンジン33の出力軸48に接続されている。発電機37の入力軸は、エンジン33の出力軸に図示しないカップリング(軸継ぎ手)によって直接に連結されており、エンジン33の出力軸48の回転駆動力がそのままダイレクトに発電機37に伝達される。発電機37は、エンジン33の出力軸48から伝達された回転駆動力を受けて回転し、その回転速度に応じた周波数の交流電力を発電するものである。発電機37は、具体的には、例えば8極3相の同期発電機である。本実施形態では、極数が8極の発電機37に対して、エンジン33の回転速度が750min−1(=第1設定速度N1)から900min−1(=第2設定速度N2)までの機関速度範囲内となるように電気推進制御盤35によって回転制御される。
ここで、一般に、軸回転数Nと周波数fと極数Pとの間には、N=120f/P(min−1)の関係があるため、前記機関速度範囲(750min−1〜900min−1)内でエンジン33の回転速度が制御されることによって、発電機37は、周波数fが50Hzから60Hzの交流電力を発電して出力する。具体的には、エンジン33の回転速度が750min−1のときに発電機37は50Hzの交流電力を発電し、エンジン33の回転速度が900min−1のときに発電機37は60Hzの交流電力を発電する。
発電機37の出力側は、遮断器(CB:Circuit Breaker)54を介して共通の電力母線58に接続されている。そのため、発電機37で発電された交流電力は、遮断器54が閉にされた状態で電力母線58に流れ込む。
電力母線58から電動機39までの間には2系統の給電電路51,52が並列に設けられている。給電電路51,52は、電力母線58と電動機39との間を接続する送配電用の電力ケーブルによって構成されている。給電電路51は、本発明の第1電路の一例であり、発電機37からインバータ38を経て電動機39に至る給電電路である。給電電路51には、給電電路51を開閉する第1電磁接触器55(本発明の第1開閉器の一例)が設けられている。第1電磁接触器55の開閉動作は電気推進制御盤35によって制御される。給電電路52は、本発明の第2電路の一例であり、発電機37からインバータ38をバイパスして電動機39に至る給電電路である。給電電路52には、給電電路52を開閉する第2電磁接触器56(本発明の第2開閉器の一例)が設けられている。第2電磁接触器56の開閉動作は電気推進制御盤35によって制御される。なお、図示されていないが、給電電路51,52には、過電流から回路や機器を保護するために遮断器が設けられている。また、給電電路52には、電動機39の突入電流を抑制するために交流リアクトル(ACL)が設けられている。
第1電磁接触器55や第2電磁接触器56、CB、ACLなどのように給電電路51,52や電力母線58に設けられる電気機器は、商用電源の電源周波数に適合するように設計されている。日本だけでなく外国でも、50Hz及び60Hzの商用電源が提供されている。したがって、一般に、図1の電力母線58や給電電路51,52において使用される電磁接触器や遮断器等の電気機器は、50Hzから60Hzの交流電力で駆動するように標準設計されており、それ以外の周波数(例えば40Hz)の交流電力での駆動は保証されていない。上述したように、本実施形態では、エンジン33の回転速度が750min−1から900min−1までの間でしか制御されないため、発電機37の周波数の変動は50Hzから60Hzとなる。言い換えると、発電機37で発電される交流電力の周波数が電力母線58や給電電路51,52に設けられる第1電磁接触器55、第2電磁接触器56、遮断器などの電気機器に使用可能な電源周波数の許容範囲内(50Hz〜60Hz)となるように、エンジン33の回転速度が750min−1から900min−1までの範囲内で制御される。これにより、電気機器として、汎用性が高く安価なものを用いることができる。
インバータ38は、給電電路51において第1電磁接触器55よりも下流側(二次側)に設けられている。インバータ38は、発電機37によって発電された交流電力の周波数を所定のプロペラ回転速度に対応する周波数に変換して電動機39に出力する。これにより、電動機39が前記周波数に応じた回転速度で回転される。本実施形態では、後述するように、プロペラ31の定格回転速度を100%としたときに、プロペラ31が停止した0%から83%までの第2プロペラ速度範囲72(図2参照)内でプロペラ31を回転させるときにインバータ38が使用される。また、83%から100%までの第1プロペラ速度範囲71(図2参照)内ではインバータ38は使用されない。ここで、プロペラ回転出力83%は、エンジン33の回転速度が750min−1のときにインバータ38によって50Hzの交流電力が電動機39に出力されたときのプロペラ31の回転速度に一致する。また、プロペラ回転出力100%はエンジン33の回転速度が900min−1のときに発電機37から直接に60Hzの交流電力が電動機39に出力されたときのプロペラ31の回転速度に一致する。
電動機39は、入力された所定の周波数の交流電力によって回転駆動するものである。具体的には、電動機39は、6極のかご形の回転子を利用した所謂かご形三相誘導電動機である。電動機39は、給電電路51または給電電路52の何れかの電路を通って給電された交流電力が入力されると、入力された交流電力の周波数に応じた回転速度で回転駆動する。
減速機41は、図示しない伝達ギヤを介して電動機39の出力軸に連結されている。減速機41は、電動機39の回転速度を所定の減速比で減速してプロペラ31のプロペラ軸49に伝達する。減速機41には、プロペラ31の回転速度を検知するための速度センサー25が設けられている。速度センサー25によって検知された速度信号は電気推進制御盤35にフィードバックされる。
電気推進制御盤35は、電気推進装置10を制御して、船舶の船速を制御するものであり、後述の前進加速制御処理、前進減速制御処理、急速逆転制御処理を実行する。電気推進制御盤35は、CPUやROM、RAMなどによって構成されたマイクロコンピュータやメイン制御ボード、PLCなどの制御部を有しており、この制御部によって前記各制御処理が実行される。電気推進制御盤35は、入力された指示信号に応じてエンジン33及びインバータ38を制御する。より詳細には、電気推進制御盤35は、入力された指示信号に応じた機関回転速度となるようにエンジン33を制御するとともに、入力された指示信号に応じたプロペラ回転速度となるようにインバータ38を制御する。具体的には、電気推進制御盤35は、エンジン33に設けられた電子ガバナ34の燃料ラック位置を変更して、実際の回転速度に応じて燃料噴射ポンプの噴射量を調整することにより、エンジン33の回転速度を制御する。ここで、前記指示信号としては、船舶の操舵室又は機関室に備えられた操縦ハンドル15から送られてくるテレグラフ信号(「NEUTRAL」「DEAD SLOW」「SLOW」「HALF」「FULL」などの船速を示す船速信号)が考えられる。前記指示信号は、例えば、操縦ハンドル15に設けられたポテンショメーターからの電気信号として電気推進制御盤35に入力される。なお、電気推進制御盤35による制御の詳細につては後述する。
上述した構成の電気推進装置10においては、例えば、操舵室から船速信号としてプロペラ回転0%〜83%を示す信号が送られてきたときに、電気推進制御盤35は、表1に示されるインバータ制御を行う。具体的には、電気推進制御盤35は、エンジン33の回転速度を750min−1で一定となるように制御する。また、インバータ38の出力の周波数を前記船速信号に応じた周波数となるように0〜50Hzの範囲で制御する。これにより、プロペラ31の回転速度が0%〜83%の間で変速される。一方、操舵室から船速信号としてプロペラ回転83%以上の信号が送られてきたときは、電気推進制御盤35は、表1に示される周波数制御を行う。具体的には、電気推進制御盤35は、インバータ38を用いずに、エンジン33の回転速度を750min−1〜900min−1の範囲内で制御して、発電機37の出力の周波数を前記船速信号に応じた周波数となるように50〜60Hzの範囲で制御する。これにより、プロペラ31の回転速度が83%〜100%の間で変速される。なお、表1は、電気推進装置10において、船速信号、制御状態、エンジン回転数、インバータ出力の周波数、発電機周波数、プロペラ回転数それぞれの対応関係を示すものである。

以下、図3〜図5のフローチャートを参照して、電気推進制御盤35によって実行される前進加速制御処理、前進減速制御処理、急速逆転制御処理の手順の一例について説明する。ここで、図3〜図5におけるS11、S12、…は処理手順(ステップ)の番号を表している。また、図3〜図5において同じ処理手順には同じ処理手順番号を付している。
まず、図3を参照して、前記前進加速制御処理の手順の一例について説明する。図3は、操縦ハンドル15が中立位置から前進へ操作されたときの前進加速制御処理の手順を示すフローチャートである。なお、以下の説明においては、遮断器54は手動で既に閉じられた状態にあるものとする。また、操縦ハンドル15が中立にあるときは第1電磁接触器55及び第2電磁接触器56はいずれも開状態(オープン状態)にあるものとする。
電気推進制御盤35は、操縦ハンドル15が中立位置にあるときに、エンジン33の回転速度を750min−1に維持するように電子ガバナ34を制御する(S11)。以下、このように制御された状態をエンジン33の待機状態という。
ステップS12では、電気推進制御盤35は、操縦ハンドル15が前進低速領域にあるかどうかを判定する。かかる判定は、操縦ハンドル15から入力された前記ポテンショメーターからの信号に基づいて行われる。ここで、前進低速領域とは、プロペラ回転速度の指示信号(船速信号)としてプロペラ31の定格回転速度に対して0%〜83%までの指示信号を前記ポテンショメーターから出力するハンドル操作領域である。つまり、0%〜83%までの第2プロペラ速度範囲72(図2参照)でプロペラ31を回転させるためのハンドル操作領域である。前記待機状態において、操縦ハンドル15が中立位置から前進へ操作されると、ステップS12において、操縦ハンドル15の位置が前記前進低速領域であると判定される。このとき、電気推進制御盤35は、第2電磁接触器56を開状態にしたままで、第1電磁接触器55を開から閉にして、発電機37で発電した一定周波数50Hzの交流電力をインバータ38に供給する(S13)。
その後、電気推進制御盤35は、インバータ38に前記船速信号に応じた制御信号を出力して、電動機39をインバータ制御して電動機39の回転速度を変速する(S14)。続いて、電気推進制御盤35は、前進指令が喪失したかどうかを判定し(S23)、前進指令が喪失していない場合は、ステップS12に戻って、ステップS12以降の処理を行う。
ステップS12において、操縦ハンドル15の位置が前記前進低速領域ではないと判定されると、電気推進制御盤35は、操縦ハンドル15が前進高速領域にあるかどうかを判定する(S15)。ここで、前進高速領域とは、プロペラ回転数の指示信号(船速信号)としてプロペラ31の定格回転速度に対して83%〜100%までの指示信号を前記ポテンショメーターから出力するハンドル操作領域である。つまり、83%〜100%までの第1プロペラ速度範囲71(図2参照)でプロペラ31を回転させるためのハンドル操作領域である。ステップS15において、操縦ハンドル15の位置が前記前進高速領域であると判定されると、電気推進制御盤35は、第2電磁接触器56を開状態にしたままで、第1電磁接触器55を開から閉にして、発電機37で発電した一定周波数50Hzの交流電力をインバータ38に供給する(S16)。その後、電気推進制御盤35は、インバータ38に前記船速信号に応じた制御信号を出力して、電動機39をインバータ制御して電動機39の回転速度を変速する(S17)。具体的には、電気推進制御盤35は、インバータ制御によって増速可能な上限速度であるプロペラ回転速度83%となるようにインバータ38の出力周波数を50Hzまで上昇させる。
次のステップS18では、電気推進制御盤35は、プロペラ回転速度が定格回転速度の83%まで増速されたかどうかを判定する。かかる判定は、速度センサー25からの検知信号に基づいて行われる。ここで、プロペラ回転速度が定格回転速度の83%になったときのインバータ37の出力周波数は50Hzである。ステップS18において、プロペラ回転速度が定格回転速度の83%であると判定されると、電気推進制御盤35は、電動機39に対する駆動制御を、インバータ制御から、発電機37で発電した交流電力を直接に電動機39に供給して電動機39を制御する周波数制御に切り換える。具体的には、ステップS19において、電気推進制御盤35は、インバータ38から電動機39への出力を所定量だけ増加させる。本実施形態では、インバータ38から電動機39に出力される交流電力の周波数が現状の50Hzから52Hzに上昇される。これにより、プロペラ31の回転速度が83%から約87%(=100%×52/62)まで増速する。その後、電気推進制御盤35は、第1電磁接触器55を閉から開にして(S20)、続いて、第2電磁接触器56を開から閉にする(S21)。これにより、インバータ38への電力供給が停止され、その代わりに、発電機37から給電電路52を経て電動機39へ直接に交流電力が供給される。
その後、電気推進制御盤35は、前記船速信号に応じたエンジン回転速度(目標回転速度)となるように電子ガバナ34を制御して、エンジン33の回転速度を750〜900min−1の範囲内で制御する。これにより、発電機37は、エンジン回転速度に応じた周波数の交流電力を発電し、その交流電力がインバータ38を経ずに電動機39に供給される。
なお、ステップS20で第1電磁接触器55が開にされてからステップS21で第2電磁接触器56が閉になるまでの間、電動機39には電力が供給されないためプロペラ回転速度は低下するが、上述したように、ステップS19でプロペラ回転速度を定格回転速度の約87%まで増加させているため、実質的に、プロペラ回転速度が切換時のプロペラ回転速度83%から大幅に低下することはない。そのため、電動機39に対する駆動制御を、前記インバータ制御から前記周波数制御へ円滑に切り換えることができる。
次に、図4を参照して、前記前進減速制御処理の手順の一例について説明する。図4は、操縦ハンドル15が前記前進高速領域から前記前進低速領域まで操作されたときの前進減速制御処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS31において、電気推進制御盤35は、操縦ハンドル15が前記前進高速領域から前進低速領域まで操作されたかどうかを判定する。ステップS31において、操縦ハンドル15が操作されて操縦ハンドル15の位置が前記前進高速領域から前記前進低速領域に移動したと判定されると、電気推進制御盤35は、電子ガバナ34を制御して、エンジン33の回転速度を予め定められた750min−1まで減速させる(S32)。その後、速度センサー24からの検知信号に基づいてエンジン33の回転速度が750min−1になったと判定されると、第2電磁接触器56を閉から開にして給電電路52への電力供給を停止する(S33)。その後、電気推進制御盤35は、第1電磁接触器55を開から閉にして、発電機37で発電した一定周波数50Hzの交流電力をインバータ38に供給し(S34)、そして、上述のステップS14と同様のインバータ制御によって電動機39の回転速度を変速する(S35)。
なお、操縦ハンドル15が前記前進高速領域から中立位置まで操作された場合は、ステップS35におけるインバータ制御によって徐々にインバータ38の出力周波数が低下されて最終的に0Hzにされる。これにより、電動機39の駆動制御が停止して、プロペラ31の回転速度がゼロになる。
このように、本実施形態の電気推進装置10では、プロペラ31の回転速度が定格回転速度の0%〜83%までの速度範囲(第2プロペラ速度範囲72)である場合に前記インバータ制御(S14,S17)が行われ、プロペラ31の回転速度が定格回転速度の83%以上の速度範囲(第1プロペラ速度範囲71)である場合に前記周波数制御(S22)が行われる。このため、例えば港湾内で船舶が航行するときは、速度制限によって定格回転速度の83%以下の低速領域で航行することになるので、低速領域において円滑な制御が可能な前記インバータ制御によってプロペラ31の回転速度が制御される。一方、船舶が外海で航行するときは、定格回転速度の83%以上の高速領域で長時間航行することになるので、インバータ38による変換ロスが生じず、効率のよい航行ができる前記周波数制御によってプロペラ31の回転速度が制御される。これにより、外海航行時のエネルギー効率が向上する。また、プロペラ31の定格回転速度に対応する容量のインバータ38を用意する必要がなく、プロペラ31の定格回転速度の83%に対応する負荷57%(図2参照)の容量の小さくてコンパクトなインバータ38を用いることができる。また、インバータ38の容量が小さくて済むのでインバータ38のコストを抑えることができる。
また、前記インバータ制御から前記周波数制御に切り換える際に、ステップS19においてインバータ出力がアップされて、プロペラ回転速度が所定量だけ増速されている。そのため、ステップS20で第1電磁接触器55が開にされてからステップS21で第2電磁接触器56が閉になるまでの間、電動機39に電力が供給されずにプロペラ回転速度が低下しても、プロペラ回転速度が切換時のプロペラ回転速度83%から大幅に低下することはない。そのため、電動機39に対する駆動制御を、前記インバータ制御から前記周波数制御へ円滑に切り換えることができる。
なお、上述の実施形態では、図3のフローチャートを用いて前進加速制御処理について説明したが、前記前進加速制御処理は、船舶の後進時の加速制御処理にも適用可能である。
また、上述の実施形態では、1台のエンジン33と1台の発電機37によって構成された電気推進装置10を例示したが、これに限定されない。本発明は、複数のエンジン33及び発電機37による発電機関によって発電された交流電力を用いて複数の電動機39を回転駆動させる構成の船舶用電気推進装置にも適用可能である。
また、上述の実施形態では、前記前進加速制御処理において、インバータ制御によってプロペラ回転速度が定格回転速度の83%になった後にインバータ38の出力をアップしてから、第1電磁接触55を開にし、その後に第2電磁接触器56を閉にする例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、インバータ38から出力される交流電力と、発電機37から供給される交流電力との同期をとるための同期投入装置(シンクロ装置とも称される。)を用いた実施例であってもよい。具体的には、図5に示されるように、インバータ制御によってプロペラ回転速度が定格回転速度の83%になったと判定された後に(S18)、第2電磁接触56を閉にして(D21)、給電電路51及び給電電路52双方を接続し、その後、双方の交流電力の周波数及び位相を合わせるための揃速制御を行い(S101)、同期がとれた場合に(S102)、第1電磁接触55を開にする(S20)ようにしてもよい。これにより、前記インバータ制御から前記周波数制御に切り換えるときのプロペラ回転速度の低下が防止され、損失なく円滑な切換が可能となる。
また、上述の実施形態では、プロペラ31の定格回転速度の83%から100%までの第1プロペラ速度範囲71(図2参照)において前記周波数制御を適用する例について説明したが、これに限定されない。例えば、減速機41が変速比(減速比)の異なる第1減速ギヤ及び第2減速ギヤに基づいて変速するものである場合に、定格回転速度の66%から83%の速度範囲を第1減速ギヤを用いて前記周波数制御を行い、定格回転速度の83%から100%の速度範囲を第2減速ギヤを用いて前記周波数制御を行うものであってもよい。この場合、前記インバータ制御は、0%〜66%の速度範囲だけとなるので、インバータ38の容量を更に小さくすることができる。
また、上述の実施形態では、プロペラ31の定格回転速度の0%〜83%である第2プロペラ速度範囲72で前記インバータ制御を行い、83%〜100%である第1プロペラ速度範囲71で前記周波数制御を行う例について説明したが、これに限定されない。例えば、タグボートのように低速領域を中心に使用する船舶の場合は、上述の実施形態とは逆に、プロペラ31の定格回転速度の0%〜83%である第2プロペラ速度範囲72で前記周波数制御を行い、83%〜100%である第1プロペラ速度範囲71で前記インバータ制御を行うようにしてもよい。また、プロペラ31の定格回転速度のうち、例えば、40%〜60%の速度範囲を中心に使用する船舶の場合は、この速度範囲で前記周波数制御を行い、それ以外の速度範囲(0〜40%、60%〜100%)では前記インバータ制御を行うようにしてもよい。
10:電気推進装置
31:固定ピッチプロペラ
33:ディーゼルエンジン
35:電気推進制御盤
37:発電機
38:インバータ
39:電動機
41:減速機

Claims (4)

  1. 船舶のプロペラを電動機によって回転させる船舶用電気推進装置であって、
    内燃機関の出力軸に発電機が接続されてなる発電機関と、
    前記発電機関によって発電された交流電力の周波数を所定のプロペラ回転速度に対応する周波数に変換して前記電動機に出力するインバータと、
    前記内燃機関の回転速度を予め定められた定速度に制御して前記発電機で発電された前記定速度に応じた一定周波数の交流電力を前記インバータを介して前記電動機に供給する第1制御手段と、
    前記内燃機関の回転速度を予め定められた機関速度範囲内で制御して前記発電機で発電された前記機関速度範囲に応じた周波数の交流電力を前記インバータを介さずに前記電動機に供給する第2制御手段と、
    前記プロペラの回転速度が予め定められた第1プロペラ速度から第2プロペラ速度までの第1プロペラ速度範囲である場合に前記第2制御手段による制御に切り換え、前記第1プロペラ速度範囲以外の第2プロペラ速度範囲である場合に前記第1制御手段による制御に切り換える制御切換手段と、を具備する船舶用電気推進装置。
  2. 前記第1プロペラ速度範囲は、前記第1プロペラ回転速度以上の速度範囲であり、
    前記第2プロペラ速度範囲は、前記プロペラが停止した状態から前記第1プロペラ速度までの速度範囲である請求項1に記載の船舶用電気推進装置。
  3. 前記第1プロペラ速度範囲は、前記発電機で発電される交流電力の周波数が、前記発電機から前記電動機までの電力供給経路に設けられる電気機器に使用可能な電源周波数の許容範囲内となるように50Hzから60Hzの間に設定されている請求項2に記載の船舶用電気推進装置。
  4. 前記発電機から前記インバータを経て前記電動機に至る第1電路に設けられ、前記第1電路を開閉する第1開閉器と、
    前記発電機から前記インバータをバイパスして前記電動機に至る第2電路に設けられ、前記第2電路を開閉する第2開閉器と、を更に備え、
    前記制御切換手段は、前記第1制御手段による制御のときに前記第2開閉器をオープンにし、前記第1開閉器をクローズにするものであり、前記第1制御手段による制御から前記第2制御手段による制御に切り換えるときに、前記インバータの出力を所定量だけ増加させた後に前記第1開閉器をオープンにし、その後、前記第2開閉器をクローズにするものである請求項2又は3に記載の船舶用電気推進装置。
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