以下に、本発明の各実施例における駆動回路及び駆動方法を図面と共に説明する。
図1A、図1B及び図1Cは、本発明の一実施例における圧電モータの一例を説明する図である。図1Aは圧電モータの一例の正面図、図1Bは図1Aの一点鎖線A−Aに沿った圧電モータの一部を示す断面図、図1Cは図1Bのギア及び入力チップを拡大して示す断面図である。
圧電モータは10は、図1Aに示すように、回転伝達ギア11と、ギア11の回転軸を中心として120度の角度間隔で配置された三(3)対の座屈型アクチュエータ12を含む。図1Bに示すように、各座屈型アクチュエータ12は、一対の圧電素子121を含む。例えば、各圧電素子121はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)圧電素子で形成されていても良い。各圧電素子121の基端は弾性ジョイント14−1を介してベース13に接続され、各圧電素子121の先端は弾性ジョイント14−2を介して可動リンク15に接続されている。可動リンク15は、ギア11に対して摺動することでギア11と係合する入力チップ(または、フォロワ)15Aを有する。対抗ユニットを構成する一対の座屈型アクチュエータ12の可動リンク15の入力チップ15Aは、対抗接続部16と接続しており、入力チップ15Aの動きは圧電素子121の動きに応じて一(1)並進運動の自由度に制限される。具体的には、入力チップ15Aの動きは、図1B及び図1Cにおいて縦方向の運動に制限される。
後述するように、駆動システム(図示せず)は、ギア11のギア位相を考慮した上で三(3)対の座屈型アクチュエータ12の圧電素子121を駆動する。このため、三(3)対の座屈型アクチュエータ12の各々における入力チップ15Aの動きは、ギア11をその回転軸に沿って回転させる。
図1Cは、ギア11と入力チップ15Aとの間の接触状態を示す。一対の座屈型アクチュエータ12の入力チップ15Aは、対抗接続部16を介して互いに強固に接続されている。入力チップ15Aは、一対の座屈型アクチュエータ12からの出力エネルギが2つの入力チップ15Aを介して伝達され、その結果一対の座屈型アクチュエータ12がプッシュ・プル動作を行うように、対抗接続部16に固定されても良い。この動作は、圧電素子121がオン及びオフの電圧条件でエネルギを伝達可能であるため、圧電素子121からギア11へのエネルギ伝達能力を高める。従って、ギア11は圧電素子121の出力を圧電モータ10のモータ出力に変換する。
ギア11の設計と一対の座屈型アクチュエータ12の配置設計を組み合わせることで、三(3)対の座屈型アクチュエータ12はギア11の波形に対して等しい位相距離に配置できる。三(3)対の座屈型アクチュエータ12は、ギア位相角度の60度の倍数で180度の倍数を除く等間隔で離間された配置を有する。座屈型アクチュエータ12の各対は、隣り合う座屈型アクチュエータ12の対と位相が180度ずれており、対抗ユニットを形成しても良い。
また、座屈型アクチュエータ12の対の並列な配置と入力チップ15A間の強固な接続により、入力チップ15Aの動きは一(1)並進運動の自由度に制限される。この機構は、並列な弾性直動ガイドと類似している。従って、この例では、圧電モータ10は、入力チップ15A用の外部直動ガイドを省略でき、その分だけ重量と大きさを減少させることができる。
例えば直径が2.5mmの球体または円柱を、一対の座屈型アクチュエータ12の出力エネルギをギア11に伝達する入力チップ15Aとして用いることができる。ギア形状は、入力チップ15Aを形成する球体または円柱の中心軌跡が正弦波形状となり、ギア11による力の伝達と入力チップ15Aの動きの両方が円滑となるように設計される。入力チップ15Aを形成する球体または円柱の中心軌跡は、圧電素子と係合する形状を有するギア11の係合部の運動軌跡の一例であり、ギア11に対して正弦波成分を有する。軌跡の高さは、一対の座屈型アクチュエータ12の最大自由変位量ymaxと等しく設定される。波長は、ギア形状の上で連続した形状を維持できるように設計される。これを実現するため、正弦波形状の中心軌跡の最小曲率半径RCminは、入力チップ15Aの半径より大きく設定される。この正弦波形状の中心軌跡は、座屈運動が単極性であると仮定すると、次式(1)で表すことができる。また、正弦波形状の中心軌跡の曲率半径RCは、次式(2)で表すことができ、最小曲率半径RCminで正弦波形状の軌跡の上部と下部の各々から外れるので、最小曲率半径RCminは次式(3)で表すことができる。
上記の式(1)乃至(3)中、yは座屈型アクチュエータ12の出力変位量、xはギア11のギア位置、λは正弦波形状の中心軌跡の波長、h
gearは一般的に座屈型アクチュエータ12の最大自由変位量y
maxと同様に設定されるギア11のギア高さを示す。
また、図1A乃至図1Cに示す座屈型アクチュエータ12の正三角形の配置の場合、波形のピーク数は三(3)の倍数にはできない。
図2は、ギア11のギア形状を説明する図である。図2において、実線はギア形状を示し、一点鎖線は入力チップ15Aの正弦波形状の中心軌跡を示す。
図3は、圧電モータ10の駆動システムの一例を示す図である。図3において、駆動システム20は、制御部21、駆動装置22、及びインダクタLを含む。駆動装置22は、電源電圧を供給する電源30により電荷が供給される複数の駆動回路22−1乃至22−N(Nは1より大きな自然数)を含む。各駆動回路22−i(i=1,...,N)は、対応する座屈型アクチュエータ12を駆動する。駆動システム20は、各圧電素子121のオン及びオフ状態を制御する電圧を切り替える電圧切り替え機能を採用する。駆動システム20は、エネルギ効率のためエネルギを再利用する荷電回復機能も採用する。
図4は、圧電素子121の等価回路図である。上記の如く、圧電素子121は、基本的な機械電気特性を図4の等価回路で表すことのできる容量性アクチュエータの一種である。図4に示す上半分の成分は、容量C1で表される電気的領域の性質を示す。この容量的性質は、電圧及び機械的負荷の両方に関する高次の性質を省略することで簡略化することができる。図4に示す下半分の成分は、インダクタンスL1、容量C1及び抵抗R1を含む機械的領域の性質を示す。インダクタンスL1は質量的性質を示し、容量C2はコンプライアンス的性質を示す。容量C2及びインダクタンスL1の両者によって共振特性を表す。抵抗R1は、エネルギ散逸特性を表す。図4には示されていないが、圧電素子121は、一般的には圧電素子121の外部とで交換される電荷に応じたヒステリシス特性を有するので、準静的な状態遷移においてもエネルギ損失を生じる。ヒステリシス特性は、電圧と機械的負荷の両方に関連して変化する。
圧電素子121の端子間には電圧が印加されて圧電素子121を活性化する。この電圧により、エネルギは圧電素子121の電気的領域と機械的領域の両方に蓄えられる。機械的領域に蓄えられたエネルギは、外部仕事に使用できる。しかし、電気的領域に蓄えられるエネルギは、外部仕事を達成しない。これは、圧電素子121に印加される電圧がオン状態からオフ状態に切り替わると、電気的エネルギが使用されることなく破棄されることを意味する。多くのPZT圧電素子などでは、電気的エネルギの容量が機械的エネルギの容量より大きいので、電気的エネルギの破棄により全体としてのエネルギ効率が大幅に減少する。
駆動回路22−iは、圧電素子121に蓄えられた電気的エネルギをキャパシタに転送すると共に、キャパシタからのエネルギを圧電素子121に転送する構成を有する。オンからオフへの切り替えとオフからオンへの切り替えを2つの圧電素子に対して並行して行う必要がある場合には、圧電素子を交互にキャパシタとして使用することで、エネルギを一方の圧電素子から他方の圧電素子へ直接転送することができる。このような駆動方法により、エネルギ散逸を大幅に減少させることができる。また、このような電荷転送機能を採用する駆動方法は、図3において圧電素子121と電源30との間の充電回路で生じるエネルギ損失を低減することができる。
図5は、2つの圧電素子121に対する駆動回路22−iの動作を説明する模式図である。図5において、駆動回路22−iは、スイッチS1H,S1L,S2H,S2L,S12,S21及びダイオードD12,D21を含む。キャパシタC1P,C2Pは、2つの圧電素子121の容量的性質に対応し、Lは図3に示すインダクタLに対応する。VSは、図3に示す電源30から供給される電源電圧を示す。
ステップST1では、破線の矢印で示すようにキャパシタC1Pが電源電圧Vsにより充電され、キャパシタC2Pに蓄えられた電荷がグランドに排出されるように、スイッチS1H,S2Lが閉成(オン)にされ、残りのスイッチS1L,S2H,S2L,S12,S21は開成(オフ)にされる。ステップST2では、一点鎖線の矢印で示すようにキャパシタC1Pに蓄えられた電荷がスイッチS12、ダイオードD12及びインダクタLを介して転送されるように、スイッチS12が閉成(オン)にされ、残りのスイッチS1H,S1L,S2H,S2L,S21が開成(オフ)にされる。ステップST3では、二点鎖線の矢印で示すようにキャパシタC1Pに残留している電荷がグランドに排出され、電源電圧VSがキャパシタC2Pに供給されてキャパシタC1Pから転送される電荷に加えてキャパシタC2Pをさらに充電するのに必要な量の電荷が補充されるように、スイッチS1L,S2Hが閉成(オン)にされ、残りのスイッチS1H,S2L,S12,S21は開成(オフ)にされる。言うまでもなく、キャパシタC2Pに蓄えられた電荷は、キャパシタC1Pの場合と同様に、インダクタL、ダイオードD21及びスイッチS21を介して転送されても良い。
キャパシタC1PからキャパシタC2Pまでのパスは、インダクタLを介してキャパシタC1P,C2Pを接続する転送パスの一例である。スイッチS1H,S1L,S2H,S2L,S12,S21は、キャパシタC1P,C2P間で電荷を転送するか転送しないかを切り替える切り替え手段の一例である。ダイオードD12,D21は、キャパシタC1P,C2P間の電荷の転送方向を決定する転送方向決定手段の一例である。切り替え手段と転送方向決定手段は、電荷の転送の要否と電荷の転送方向を柔軟に決定可能である。
電源30とキャパシタC1Pとの間でスイッチS1Hを含むパスと、電源30とキャパシタC2Pとの間でスイッチS2Hを含むパスとは、夫々電源30からの電荷をキャパシタC1P,C2Pに供給する供給パスの一例である。供給パスは、キャパシタを確実に充電可能とする。キャパシタC1Pとグランドの間でスイッチS1Lを含むパスと、キャパシタC2Pとグランドの間でスイッチS21を含むパスとは、夫々電荷の転送後に残留している電荷をキャパシタC1P,C2Pからグランドへ排出する排出パスの一例である。排出パスは、キャパシタを確実に放電可能とする。
図6は、駆動システム20の一部の一例を示す回路図である。図6において、駆動回路22−2乃至22−Nの構成は駆動回路22−1の構成と同じであるため、参照符号は駆動回路22−1についてのみ示す。
図6において、駆動回路22−1は、圧電モータ10を形成する座屈型アクチュエータ12のうちの1つを形成する一対(PZT11)の圧電素子121に対して設けられた回路部221−1と、圧電モータ10を形成する座屈型アクチュエータ12のうちの他の1つを形成する一対(PZT21)の圧電素子121に対して設けられた回路部221−2とを含む、回路部分23は、駆動回路22−1乃至22−Nで共有される。この回路部分23は、駆動回路22−1内に含まれていても、或いは、駆動回路22−1の外部に設けられていても良い。
回路部221−1は、一対の圧電素子PZT11に対して、図6に示す如く接続されたドライバDrvh11, Drvl11, Drvf11, Drvb11、スイッチQh11, Ql11, Qtf11, Qtb11及びダイオードDtf11, Drb11を含む。一方、回路部221−2は、一対の圧電素子PZT21に対して、図6に示す如く接続されたドライバDrvh21, Drvl21, Drvf21, Drvb21、スイッチQh21, Ql21, Qtf21, Qtb21及びダイオードDtf21, Drb21を含む。回路部分23は、図6に示す如く接続されたドライバDrv1a, Drv1b, Drv2a, Drv2b、スイッチQ1a, Q1b, Q2a, Q2b及びインダクタLを含む。
ドライバDrvh11, Drvl11, Drvf11, Drvb11, Drvh21, Drvl21, Drvf21, Drvb21, Drv1a, Drv1b, Drv2a, Drv2bは、図3に示すコントローラ21からの信号により制御されて駆動されても良い。スイッチQh11, Ql11, Qtf11, Qtb11, Qh21, Ql21, Qtf21, Qtb21, Q1a, Q1b, Q2a, Q2bは、高効率化のためにIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)で形成されても良い。
この例では、2対の圧電素子212(PZT21及びPZT22)間で蓄えられた電荷を転送するのに1つのインダクタLしか使用しないのは、以下の理由(a1)乃至(a6)による。
(a1)インダクタLの抵抗的性質が低い程、エネルギ転送特性が高い。
(a2)インダクタLの抵抗的性質が低い程、一般的にインダクタLが大型化する。
(a3)切り替えパターンは、圧電素子121の各対に接続されたインダクタLにより制約を受ける。
(a4)圧電モータ10において、一般的に切り替えは一対の座屈型アクチュエータ12間で必要となる。
(a5)全ての座屈型アクチュエータ12に対して1つのインダクタLを時分割で使用できる。
(a6)1つのインダクタLを使用することで、駆動システム20を小型化し、低い抵抗のインダクタを使用可能とする。
例えば、インダクタLは直列接続された558μHのインダクタンスと19.7mΩの抵抗を有する。転送状況に影響を及ぼす容量は、例えば約14μFであり、一対の圧電素子121に起因する。一対の圧電素子121は座屈型アクチュエータ12において並列に接続されており、2対の圧電素子121がインダクタLを介して直列に接続されている。転送パスにおける抵抗は、インダクタLを含めて例えば約86mΩである。LCR特性を考慮すると、対抗ユニットにおける座屈型アクチュエータ12間の電荷の転送は、計算により例えば約280μsecで行われることがわかる。
上記の如く、この例では、圧電モータ10は、ギア11の歯の位相を単位として等間隔に配置された三(3)個の対抗ユニットを形成する六(6)個の座屈型アクチュエータ12を含み、駆動システム20は電荷転送機能を有する駆動装置22を含む。圧電モータ10及び駆動システム20の特徴を考慮すると、図7に示す制御方式を採用しても良い。
図7は、三(3)個の対抗ユニットA1,A2,A3の制御方式、即ち、3相切り替え駆動の一例を説明する図である。
図7の制御方式に示すように、電圧の切り替えは、各対抗ユニットA1,A2,A3の対をなす座屈型アクチュエータ12間で行われる。各正弦波形の線Sn1乃至Sn6は、ギア遷移を示す。縦の小さな矢印は各ギア位相における各対抗ユニットA1,A2,A3の出力(または、駆動)方向を示す。この制御方式によれば、三(3)個の対抗ユニットA1乃至A3は、全ギア位相中に動作不能点を生じることなく、図1Aにおいてギア11を時計方向と反時計方向の両方向に駆動できる。
この場合、圧電素子121の最大動作周波数及び座屈型アクチュエータ12の推定共振周波数を考慮することで、電圧の切り替えの最大周波数を設定することができる。電圧切り替えシーケンスは、各対抗ユニットA1,A2,A3について切り替えサイクル中に六(6)回発生し、三(3)個の対抗ユニットA1乃至A3の各々が二(2)つの電圧切り替えシーケンスを要するので、電圧切り替えシーケンスは、最大電圧切り替え周波数に基づき最大電圧切り替え周波数の1/6の周波数以下で行うことができる。インダクタLの時分割使用により、別々の対抗ユニット間で電圧切り替えシーケンスが重なることを防止できる。電圧切り替えシーケンスは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)に実装可能である。
次に、180度の位相差で駆動される偶数個の圧電素子121の多相駆動について、図8及び図9と共に説明する。図8は、偶数個の圧電素子群を駆動する駆動回路の一例を説明する模式図であり、図9は、図8の駆動回路の動作を説明する図である。各圧電素子は、座屈型アクチュエータ12を形成する一対の圧電素子と等価の特性を表すことができる。
図8は、四(4)個の圧電素子121A,121B,121C,121Dが同じ構成を有する四(4)個の駆動回路22A,22B,22C,22Dにより駆動される場合を示す。例えば、駆動回路22AはスイッチSH,SL,S12,S21及びダイオードD12,D21を含む。パス201は、各駆動回路22A乃至22DのダイオードD12の出力をインダクタLの一端に接続する。パス202は、インダクタLの他端を各駆動回路22A乃至22DのダイオードD21の入力に接続する。パス201,202は、圧電素子121A乃至121DをスイッチS12,S21を介して接続する第1及び第2のパスの一例であり、パス201,202はインダクタLを介して接続されている。第1及び第2のパスは、電荷を交換するべき圧電素子121を柔軟に決定可能とする。
各駆動回路22A乃至22DのスイッチSH,SL,S12,S21は、駆動回路22A,22Cにより駆動される圧電素子121A,121C間で電荷を交換し、駆動回路22B,22Dにより駆動される圧電素子121B,121D間で電荷を交換するように、上記において図5と共に説明したのと同様に制御される。図9において、「V」は圧電素子121が電源電圧VSを供給する電源30と接続されて圧電素子121が充電された状態を示し、「G]は圧電素子121が接地された接地状態を示す。また、「121A」、「121B」、「121C」、「121D」は、駆動回路22A,22B,22C,22Dにより夫々駆動される圧電素子121A,121B,121C,121Dの状態を示す。状態c1及びc5は同じである。従って、状態c1から状態c4へ昇順で繰り返し遷移することで、圧電素子121によりモータを連続的に一方向へ駆動することができる。これとは逆に、状態c4から状態c1へ降順で繰り返し遷移することで、圧電素子121によりモータを連続的に逆方向に駆動することができる。
図9に示す電圧供給シーケンス(または、パターン)の状態c1では、圧電素子121A,121Bは電源30に接続され、圧電素子121C,121Dは接地される。状態c2では、状態c1から圧電素子121Aの電荷を圧電素子121Cに転送する処理の結果、圧電素子121B,121Cは電源30に接続され、圧電素子121A,121Dは接地される。状態c3では、状態c2から圧電素子121Bの電荷を圧電素子121Dに転送する処理の結果、圧電素子121C,121Dは電源30に接続され、圧電素子121A,121Bは接地される。状態c4では、状態c3から圧電素子121Cの電荷を圧電素子121Aに転送する処理の結果、圧電素子121A,121Dが電源30に接続され、圧電素子121B,121Cが接地される。状態c5では、状態c4から圧電素子121Dの電荷を圧電素子121Bに転送する処理の結果、圧電素子121A,121Bは電源30に接続され、圧電素子121C,121Dは接地される。1つの圧電素子から他の圧電処理への電荷の転送は、以下同様に行われる。
次に、180度以外の位相差で駆動される奇数個の圧電素子121の多相駆動について、図10及び図11と共に説明する。図10は、奇数個の圧電素子群を駆動する駆動回路の一例を説明する模式図であり、図11は、図10の駆動回路の動作を説明する図である。各圧電素子は、座屈型アクチュエータ12を形成する一対の圧電素子と等価の特性を表すことができる。
図10は、三(3)個の圧電素子121A,121B,121C及びキャパシタ231が同じ構成を有する四(4)個の駆動回路22A,22B,22C,22Dにより駆動される場合を示す。図10中、図8と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図10において、電源電圧VSを供給する電源30と圧電素子121(121A,121B,121Cのいずれか)との間でスイッチSHを含むパスと、電源30とキャパシタ231との間でスイッチSHを含むパスは、夫々電源30からの電荷を圧電素子121及びキャパシタ231に供給する供給パスの一例である。キャパシタ231は、電荷を蓄える蓄電手段の一例である。蓄電手段は、圧電素子121と同様の容量的性質を有する。蓄電手段は、180度以外の位相差で奇数個の圧電素子121を駆動可能とする。
各駆動回路22A乃至22DのスイッチSH,SL,S12,S21は、上記において図5と共に説明したのと同様に制御されるが、1つの圧電素子から他の圧電素子への電荷の転送は、キャパシタ231を介して行われる。例えば、圧電素子121Aから圧電素子121Bへの電荷の転送は、先ず電荷を駆動回路22Aにより駆動される圧電素子121Aから駆動回路22Dにより制御されるキャパシタ231に転送し、次に電荷をキャパシタ231から駆動回路22Bにより駆動される圧電素子121Bに転送する。図11において、「V」は圧電素子121またはキャパシタ231が電源電圧VSを供給する電源30と接続されて圧電素子121またはキャパシタ231が充電された状態を示し、「G]は圧電素子121またはキャパシタ231が接地された接地状態を示す。また、「121A」、「121B」、「121C」、「231」は、駆動回路22A,22B,22Cにより夫々駆動される圧電素子121A,121B,121Cの状態と駆動回路22Dにより制御されるキャパシタ231の状態を示す。状態c1及びc7は同じである。従って、状態c1から状態c6へ昇順で繰り返し遷移することで、圧電素子121によりモータを連続的に一方向へ駆動することができる。これとは逆に、状態c6から状態c1へ降順で繰り返し遷移することで、圧電素子121によりモータを連続的に逆方向に駆動することができる。
図11に示す電圧供給シーケンス(または、パターン)の状態c1では、圧電素子121A及びキャパシタ231は電源30に接続され、圧電素子121C,121Dは接地される。
状態c2では、状態c1からキャパシタ231の電荷を圧電素子121Bに転送する処理の結果、圧電素子121A,121Bは電源30に接続され、圧電素子121C及びキャパシタ231は接地される。
状態c3では、状態c2から圧電素子121Aの電荷をキャパシタ231に転送する処理の結果、圧電素子121B及びキャパシタ231は電源30に接続され、圧電素子121A,121Cは接地される。
状態c4では、状態c3からキャパシタ231の電荷を圧電素子121Cに転送する処理の結果、圧電素子121B,121Cが電源30に接続され、圧電素子121A及びキャパシタ231が接地される。
状態c5では、状態c4から圧電素子121Bの電荷をキャパシタ231に転送する処理の結果、圧電素子121C及びキャパシタ231は電源30に接続され、圧電素子121A,121Bは接地される。
状態c6では、状態c5からキャパシタ231の電荷を圧電素子121Aに転送する処理の結果、圧電素子121A,121Cは電源30に接続され、圧電素子121B及びキャパシタ231は接地される。
状態c7では、状態c6から圧電素子121Cの電荷をキャパシタ231に転送する処理の結果、圧電素子121A及びキャパシタ231は電源30に接続され、圧電素子121B,121Cは接地される。
1つの圧電素子から他の圧電処理へのキャパシタを介した電荷の転送は、以下同様に行われる。
次に、制御部21の切り替え制御シーケンスを、図12、図13及び図14と共に説明する。図12は、電圧制御を用いる駆動回路の一例を説明する模式図であり、図13は、図12の駆動回路の切り替え方式を説明する図であり、図14は、図12の駆動回路の切り替え状態を説明する図である。
図12中、図5と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図12に示すスイッチS1O,S1IとスイッチS2O,S2Iは、夫々図5に示すスイッチS12とスイッチS21に対応する。
制御部21は、蓄えられた電荷を圧電素子121(PZT1),121(PZT2)間で転送するために、図13に示すように、状態sw1乃至sw9について各駆動回路22−1,22−2のスイッチのオン及びオフ状態を制御する制御信号を発生する。
図14に示すように、状態sw1,sw9では、圧電素子PZT1が電源30(VS)に接続され、圧電素子PZT2がグランドGNDに接続される。また、状態sw7からの遷移後には、圧電素子PZT1にある量の電荷を補充し、圧電素子PZT2からは残留している電荷を排出する。
また、状態sw2,sw4,sw6,sw8では、両方の圧電素子PZT1,PZT2が絶縁状態にある。状態sw3では、圧電素子PZT1に蓄えられた電荷は圧電素子PZT2に転送可能である。状態sw5では、圧電素子PZT1はグランドGNDに接続され、圧電素子PZT2は電源30(VS)に接続され、状態sw3からの遷移後には、圧電素子PZT2にある量の電荷を補充し、圧電素子PZT1からは残留している電荷を排出する。さらに、状態sw7では、圧電素子PZT2に蓄えられた電荷は圧電素子PZT1に転送可能である。
従って、第1の圧電素子PZT1に蓄えられた電荷が第2の圧電素子PZT2に転送された後には、図25と共に後述する制御システム50により制御可能なタイミングで、第2の圧電素子PZT2を少なくとも所定の電位まで追加充電するためにある量の電荷を第2の圧電素子PZT2に補充する。一方、第2の圧電素子PZT2に蓄えられた電荷が第1の圧電素子PZT1に転送された後には、図25と共に後述する制御システム50により制御可能なタイミングで、第1の圧電素子PZT2を少なくとも所定の電位まで追加充電するためにある量の電荷を第1の圧電素子PZT2に補充する。第1及び第2の圧電素子PZT1,PZT2に加えて図10に示すキャパシタ231が設けられている場合には、第1及び第2の圧電素子PZT1,PZT2間の電荷の転送はキャパシタ231を介して行える。
圧電素子PZT1,PZT2間で電荷を転送する際、スイッチの状態を維持する最小時間はLC時定数に応じて決定できる。一方、圧電素子PZT1,PZT2の一方に電荷を補充する際、スイッチの状態を維持する最小時間はRC時定数に応じて決定できる。従って、これらの最小時間は、圧電モータ10の駆動性能などを考慮して設定すれば良い。
圧電素子121の多相駆動において、ある位相を形成する圧電素子間で電荷が転送される状態では、電荷が他の位相を形成する圧電素子間で転送される状態を除く制御シーケンスを任意の時点で行うことができる。例えば、圧電素子の多相駆動において、ある位相の状態sw3,sw7では、他の位相の状態sw3,sw7を除く制御シーケンスを任意の時点で行うことができる。
多相駆動の場合、図13に示す切り替えシーケンスにおいて圧電素子121が絶縁状態である状態sw2,sw4,sw6,sw8を省略しても良い。
図15は、本発明の一実施例における駆動方法の一例を説明する図である。複数の圧電素子を駆動する図15に示す駆動処理は、制御部21の制御下で駆動装置22により行うことができる。
ステップS1において、駆動装置22は制御部21の制御下で第1の電荷転送処理を行い、一方の圧電素子PZT1に蓄えられた電荷を他方の圧電素子PZT2に転送する。ステップS2において、駆動装置22は制御部21の制御下で第2の電荷転送装置を行い、他方の圧電素子PZT2に蓄えられた電荷を一方の圧電素子PZT1に転送する。
言うまでもなく、ステップS1において、一方の圧電素子121Aに蓄えられている電荷を図10のキャパシタ231を介して他方の圧電素子121Bに転送しても良い。この場合、ステップS2において、他方の圧電素子121Bに蓄えられている電荷を図10のキャパシタ231を介してこの他方の圧電素子121B以外の圧電素子121A(または、121C)に転送しても良い。
上記において図15と共に説明した駆動処理によれば、複数の圧電素子212間でエネルギを再利用することができる。
次に、圧電モータ10に関連した駆動機構について、図16及び図17と共に説明する。
図16は、圧電モータ10におけるエネルギの流れと変換の概略を示すブロック図である。図16において、電源30、駆動装置22及び圧電素子121の一部は電気的領域に設けられている。一方、圧電素子121の一部、座屈型機構41、ギア11及び負荷45は、機械的領域に設けられている。座屈型機構41は、三(3)対の座屈型アクチュエータ12を含む。例えば、負荷45は圧電モータ10のギア11により駆動される駆動対象である。
図17A及び図17Bは、夫々機械的領域と電気的領域における仕事サイクルの一例を示す図である。図17Aにおいて、縦軸は力Fを任意単位で示し、横軸は位置xを任意単位で示す。図17Bにおいて、縦軸は電圧Vを任意単位で示し、横軸は電荷Qを任意単位で示す。例えば、座屈型アクチュエータの各圧電素子に圧電素子のブロック力を超える予荷重を印加するなどして十分な許容引張応力を得ることで、機械的サイクル及び電気的サイクルにおけるエネルギ特性が夫々図17A及び図17Bに示すようになる。
上記の式(1)に基づき、圧電素子121の電気機械状態値間の静的関係を次式(4)で表すことができる。ここで、dは座屈型アクチュエータ12の圧電係数及び寸法から得られる値であり、cMは機械的コンプライアンスを示し、cEは圧電素子121の容量を示す。
予荷重を含めた上記式(4)に基づき、座屈型アクチュエータ12の機械的領域と電気的領域における仕事サイクルは、夫々図17A及び図17Bのように表すことができる。機械的及び電気的領域において、○印で囲まれた数字は機械的状態と電気的状態の整合を示す。機械的な仕事サイクルは、圧電素子のブロック力F
blockと同じ予荷重を含むものとする。図17Aの機械的領域においてパス“1”<−>“2”及びパス“3”<−>“4”がゼロ変位過程であるとすると、図17Bにおいてパス“2”<−>“3”及びパス“1”<−>“4”は一定電圧過程である。機械的な仕事サイクルと電気的な仕事サイクルの各サイクルの仕事は等しい。圧電モータ10の出力密度は、座屈型アクチュエータ12の最大仕事サイクルを適用することで最大化することができる。
次に、座屈型アクチュエータ12とそれにより形成される対抗ユニットについて説明する。座屈型アクチュエータ12の基本機構に着目すると、簡略化された機械モデルは図18のように表すことができる。図18は、座屈型アクチュエータ12の低次機械モデルの一例を示す図である。図18において、Lは回転ジョイントの中心間の距離を示し、L+zは駆動時の圧電素子212の長さの変化を考慮した回転ジョイントの中心間の距離を示す。図18に示す座屈型アクチュエータ12のモデルは、次式(5)で表すことができる。ここで、kθは基体フレームに接続された圧電素子212のジョイントの統合回転スチフネス、kSは長手方向に沿った基体フレームのスチフネスkBとジョイントのスチフネスkJを合成した圧電素子212の長手方向に沿った合成スチフネス、kPは圧電素子212の長手方向に沿ったスチフネス、zSは基体フレームとジョイントの合成変位量、zPは圧電素子212の変位量を示す。
上記の式(5)をまとめると、座屈型アクチュエータ12が出力する力F
yは、座屈出力変位量yと圧電素子212の潜在力F
Pから次式(6)のように表すことができる。
座屈型アクチュエータ12の最大自由変位量y
maxは、次式(7)で表すことができ、座屈型アクチュエータ12が外部からの作用を受けることなく圧電素子121の駆動のみで発生可能な最大変位量を示す。
θ<0.1であると仮定すると、次式(8)で表される近似を用いて上記の式(6)を上記の式(5)から求めることができる。
上記の式と圧電モータ10に使用される機械的パラメータを用いることで、力変位特性及び変位出力特性を含む座屈型アクチュエータ12の出力特性を求めることができる。
図19は、計算される座屈型アクチュエータ12の出力特性の一例を示す図である。図19において、縦軸は座屈型アクチュエータ12が出力する力Fy、横軸は座屈出力変位量yを示す。
対抗ユニットは、図20A、図20B及び図20Cに示すように座屈型アクチュエータ12を用いて形成される。図20A、図20B及び図20Cは、対抗接続の一例を示す模式図である。図20A乃至図20Cにおいて、両端の円は基体構造に強固に固定されたサイドブロックを示す。中心の円は、入力チップ15Aを示す。棒状部分は、圧電素子121を示す。中心の円(入力チップ15A)間の矩形部分は、入力チップ15Aを強固に接続する対抗接続部16を示す。
図20Aは、上側の圧電素子121がオンであり、下側の圧電素子121がオフであり、外部負荷が無い場合を示す。図20Cは、上側の圧電素子121がオフであり、下側の圧電素子121がオンであり、外部負荷が無い場合を示す。図20Bは、上側及び下側の圧電素子121が共にオフであり、外部負荷が無い場合を示す。上記の如き圧電素子の条件下での図20A及び図20Cに示す入力チップ位置では、対抗接続部16の長さは入力チップ15A間の相互作用力を相殺するように設定される。このような設定により、対抗ユニットが出力する力と変位特性は、図21に示すように観測される。
図21は、対抗ユニットの出力する力と変位特性の一例を示す図である。図21において、縦軸は座屈型アクチュエータが出力する力Fy、横軸は座屈出力変位量yを示す。
対抗ユニットが出力する力は、最大座屈出力変位量と同じ距離における各座屈力を加算することで計算できる。図21中、細い実線「Fy1 ON」及び「Fy1 OFF」は上側座屈型アクチュエータ12が出力する力の特性を示し、細い破線「Fy2 ON」及び「Fy2 OFF」は下側座屈型アクチュエータ12が出力する力の特性を示す。対抗ユニットを形成する座屈型アクチュエータ12は双極性運動を実現できるので、これは、座屈型アクチュエータ12が負側の最大変位から正側の最大変位まで変位できることを意味する。しかし、対抗ユニットの変位は単極性の範囲に制約されるので、これは、接続された入力チップ15Aが図21中太い実線「+Fy」及び「-Fy」で示すようにゼロから座屈型アクチュエータ12の正側の最大変位まで変位することを意味する。
次に、圧電モータ10の閉ループ制御について説明する。開ループ制御は、電圧の切り替え周波数を駆動システム20への入力として用いることができる。このようなシステム構成は、速度入力モータとみなすことができるが、このようなシステム構成の制御性は低いことが知られている。モータの制御性をさらに向上するためには、入力ルールは以下に説明する擬似トルク制御を用いることができる。
先ず、圧電モータ10のトルク及び力特性を考慮する。図22は、ギア11に単極性駆動ギアを用いた場合に1つの座屈型アクチュエータ12により生成されるモータ力特性を説明する図である。図22中、右下部分のプロットは、座屈型アクチュエータ12の力変位特性を1極性について示し、破線は座屈型アクチュエータ12の圧電素子212(PZT)がオン(最大電圧印加)の場合を示し、実線は座屈型アクチュエータ12の圧電素子212(PZT)がオフ(電圧印加無しまたはゼロ電圧印加)の場合を示す。
図22中、左上部分に示すようにギア11に対して入力チップ15Aの正弦波形状の中心軌跡を用いることで、座屈型アクチュエータが出力する力Fyを図22中の左下部分のプロットに示すギア力Fxに変換する。ギア面の接線角度が各接点における変換比を決定するので、ギア11の歯も図22中左下部分のプロットにおいてxで示すギア位相に関する変換特性において正弦波形状のパターンを有する。座屈型アクチュエータ12の圧電素子212がオンである状態では、座屈型アクチュエータ12は上方向への力Fyを出力する。この座屈型アクチュエータが出力する上方向への力Fyは図22中左上部分に示すようにギア11の歯の1番目の傾斜で左方向へのギア力Fxに変換される。ギア歯の1番目の傾斜に続く2番目の傾斜では、上方向への力Fyは右方向への力Fxに変換される。ギア歯の他の傾斜における力の変換は、1番目の傾斜と2番目の傾斜における変換と同様である。上記の如き座屈型アクチュエータが出力する力Fyのギア力Fxへの変換は、座屈型アクチュエータ12の圧電素子212が連続的にオンであり座屈型アクチュエータ12とギア11に外部作用が無いと、入力チップ15Aはギア歯の上部で安定することを示す。一方、座屈型アクチュエータ12の圧電素子212がオフである状態では、座屈型アクチュエータ12が出力する下方向への力Fyはギア歯の1番目の傾斜で右方向へのギア力Fxに変換され、2番目の傾斜では下方向への力Fyは左方向への力Fxに変換される。この結果、上記の如き座屈型アクチュエータが出力する力Fyのギア力Fxへの変換は、座屈型アクチュエータ12の圧電素子212が連続的にオフであり座屈型アクチュエータ12とギア11に外部作用が無いと、入力チップ15Aはギア歯の下部で安定する。
従って、ギア歯の上部(または、山)で圧電素子212がオン状態からオフ状態に切り替えられた時と、ギア歯の下部(または、谷)で圧電素子212がオフ状態からオン状態に切り替えられた時には、連続的な左方向へのギア力Fxが得られる。同様に、ギア歯の上部で圧電素子212がオフ状態からオン状態に切り替えられた時と、ギア歯の下部で圧電素子212がオン状態からオフ状態に切り替えられた時には、連続的な右方向へのギア力Fxが得られる。
図23は、各種位相切り替えモードにおいて単一の座屈型アクチュエータにより得られるギア力を示す図である。図23の上端部は、図22の左上部分を拡大したものに相当する。
図23に示す第1(最上部)乃至第7(最下部)の曲線は、連続する左方向または右方向へのギア力特性を表す。第4(中央部)の曲線は、各ギア歯の中点で電圧が切り替わる場合のギア力特性を表す。この第4の曲線から、左方向への力と右方向への力が相殺され、各位相長における平均ギア力がゼロになることがわかる。第4の曲線から第1の曲線では、平均ギア力は左方向に向かって切り替え位相の変化に応じて増加する。一方、第4の曲線から第7の曲線では、平均ギア力は右方向に向かって切り替え位相の変化に応じて増加する。切り替え間隔は常にギアピッチの1/2に保持される。
図24は、各種位相切り替えモードにおいて六(6)個の座屈型アクチュエータ12により得られるギア力を示す図である。図24の上端部は、図22の左上部分を拡大したものに相当する。
六(6)個の座屈型アクチュエータ12は、座屈型アクチュエータ数と同じ数の倍数以外のギア周期の倍数の間隔において、等しい位相間隔を有するものとする。図24は、六(6)個の座屈型アクチュエータ12により結果として生成されるギア力Fxの特性を示す。図24に示すように、各座屈型アクチュエータ12の切り替えは、各座屈型アクチュエータ12のギア位相のみを考慮して行われる。この結果、ギア位相に対して、各座屈型アクチュエータ12の位置に対するギア位置をシフトするだけで、各座屈型アクチュエータ12から同じギア力特性を生成可能である。図24中、細い実線は、各座屈型アクチュエータ12のギア力を示す。図24中、太い実線で示す曲線は、結果として生成されるギア力Fxの特性を定義する各ギア位相位置における六(6)個の座屈型アクチュエータ12により生成される平均ギア力を示す。
圧電素子212がギア歯の上部及び下部でのみ切り替えられる場合に相当する図24に示す第1(最上部)の曲線及び第7(最下部)の曲線については、平均ギア力は左方向または右方向に向かって略一定となる。圧電素子212がギア歯の中点でのみ切り替えられる場合に相当する図24に示す第4(中央部)の曲線については、平均ギア力はある程度の力のリップルを含むが、ギアピッチにかかわらず平均の力がゼロである。他の切り替えモードでは、結果として生成される平均の力は、上記において図23と共に説明した単一の座屈型アクチュエータ12の場合と同様に切り替え位相の変化に応じて増加する。
上記の式(1)が入力チップ15Aの中心軌跡を表すとすると、ギア11と入力チップ15Aの接触傾斜dy/dxは次式(9)で表すことができる。
上記の式(1)で表される軌跡を上記の式(6)に代入することで、ギア位置に対して座屈型アクチュエータが出力する力をF
yxとして定義すると、N
b個を単位とする座屈型アクチュエータ12からギア11に伝達される有効エネルギE
Gは、次式(10)で表すことができる。ここで、−1/2≦p<1/2である。
上記の式(10)において、2πpは1つのグループの圧電素子212がオンの状態からこの1つのグループの圧電素子212がオフの状態までのギアピッチλの切り替え位相であり、オン・オフの切り替えとオフ・オンの切り替えの間の位相距離がギアピッチの1/2、即ち、λ/2に設定される。F
Pmaxは、圧電素子212の潜在力F
Pの最大値を示す。有効エネルギE
Gを用いることで、切り替え位相に応じた平均ギア力F
Gmeanを次式(11)で表すことができる。式(11)において、λはギア11のギアピッチを示し、h
gearはギア11のギア高さを示し、Lは回転ジョイントの中心間の距離を示し、k
Sは長手方向に沿った基体フレームのスチフネスk
Bとジョイントのスチフネスk
Jを合成した圧電素子212の長手方向に沿った合成スチフネスを示し、k
Pは圧電素子212の長手方向に沿ったスチフネスを示す。平均ギア力F
Gmeanは、圧電モータ10が目標とする推力の一例である。
上記の式(11)は、切り替え駆動により駆動されるギア11の準静的力特性を表し、−1/4≦p<1/4の範囲内での単調増加特性のため開ループ力制御の可能性をも表す。また、上記の式(11)は、ギア力特性の直感的な理解をもたらす。式(11)の2つ目の等号「=」の後の分数で表される1番目の項は幾何学的性質を表し、2つ目の等号「=」の後の分数で表される2番目の項はコンプライアンス的性質を表す。この結果、座屈型アクチュエータ12の曲げスチフネスk
θと最大自由変位量y
maxは、共に準静的平均ギア力に直接的な影響を及ぼさないことが確認された。
次に、閉ループ制御の圧電モータ10への実装について説明する。図25は、圧電モータ10の速度制御システムの一例を示すブロック図である。図25に示す閉ループ速度制御システム50は、速度制御部(PI)51、スイッチ制御部52及び制御部53を含む。例えば、速度制御部51、スイッチ制御部52及び制御部53のうち少なくとも1つが図3に示す制御部21に含まれていても良い。スイッチ制御部52は、第1の算出部521、第2の算出部522及び位相比較部523を含む。第1及び第2の算出部522,523は、例えば単一の算出部により形成されていても良い。制御部53は、図3に示す駆動装置22を含んでも良く、さらに電圧増幅機能を含んでも良い。各対抗ユニットA1,A2,A3は、一対の座屈型アクチュエータ12を含む。
閉ループ速度制御システム50は、上記の力位相特性に基づくものである。速度制御部51は、圧電モータ10の速度及び圧電モータ10の目標速度から圧電モータ10の推力を算出することで、圧電モータ10の目標推力を示す情報を出力する。圧電モータ10の速度は、ギア11の速度を公知の手段で検出する速度センサ(または、検出器)802から得られる。速度センサ802の構成は、特定の種類に限定されるものではなく、速度センサ802の出力からギア11の速度、そして圧電モータ10の速度を検出可能であれば良い。圧電モータ10の速度は、エンコーダやリゾルバなどの位置センサの一種が測定する位置信号から算出することもできる。速度制御部51は、式(11)中のギア位相pも出力し、目標推力を示す情報とギア位相pは速度制御部51から出力される位相コマンドに含まれていても良い。位相コマンドは、第1及び第2の算出部521,523の各々に出力される。
第1の算出部521は、位相コマンドに含まれる目標推力を示す情報、即ち、この例では平均ギア力FGmeanに基づき、座屈型アクチュエータ12の各圧電素子212のオン及びオフ状態を制御する電圧を切り替える第1の位相の一例である切り替え位相2πpを算出する。
第2の算出部522は、位相コマンドに含まれるギア位相pとギア11の位相角度に基づき、各圧電素子212についてギア11に対する第2の位相を算出する。ギア11の位相角度は、周知の手段でギア11の位相角度を検出する位相センサ(または、検出器)801から得られる。位相センサ801の構成は、特定の種類に限定されるものではなく、位相センサ801の出力からギア11の位相角度を検出可能であれば良い。
位相比較部523は、第1の算出部521から出力される第1の位相と第2の算出部522から出力される第2の位相を比較し、第1及び第2の位相の比較結果を示す、全ての座屈型アクチュエータ12の切り替え条件(または、切り替えモード)を出力する。切り替え条件は、圧電素子212(及び該当する場合はキャパシタ231)の電荷の蓄え及び排出に関連した電圧切り替え、即ち、各スイッチ(例えば、図8及び図10に示す例のスイッチSH,SL,S12,S21)のオン及びオフ状態のタイミングを示す。
制御部53は、位相比較部523から出力される切り替え条件に基づいて、座屈型アクチュエータ12の圧電素子212への入力を、各圧電素子212について制御する。制御部53による電圧切り替えにより、各座屈型アクチュエータ12は力を出力するように駆動され、各座屈力はその後ギア11の各ギア位相の傾斜に応じて変換される。座屈型アクチュエータ12の合成力は、ギア11そして負荷45を駆動し、各座屈型アクチュエータ12について適用する位相位置を変化させる。
図26は、本発明の一実施例における制御方法の一例を説明するフローチャートである。図26に示す、複数の圧電素子と複数の圧電素子の出力をモータ出力に変換するギアを有する圧電モータを制御する制御処理は、閉ループ速度制御システム50により実行しても良い。
ステップS101において、位相センサ801は、ギア11の位相角度を検出する検出処理を行う。ステップS102において、第1の算出部521は、圧電モータ10の目標推力を示す情報に基づいて、圧電素子212のオン及びオフ状態を制御する電圧を切り替える第1の位相を算出する第1の算出処理を実行する。ステップS103において、第2の算出部522は、ギア11の位相角度に基づいて、各圧電素子212についてギア11に対する第2の位相を算出する第2の算出処理を実行する。ステップS104において、位相比較部523は、第1の位相及び第2の位相を比較する比較処理を実行する。ステップS105において、制御部53は、比較処理の結果に基づいて、複数の圧電素子212に対する入力を制御する処理を、各圧電素子212について実行する。
図26と共に説明した制御処理によれば、圧電モータ10の推力を制御することができる。さらに、圧電モータ10の推力を制御することにより、圧電モータ10の制御性が向上する。
図27A乃至図27C及び図28A乃至図28Cは、図25に示す閉ループ速度制御システム50のシミュレーション結果を説明する図である。図27A乃至図27C及び図28A乃至図28Cにおいて、破線は生データを示し、実線はフィルタされたデータを示す。シミュレーションは、座屈型アクチュエータ12の入力チップ15Aのコンプライアンス的性質及び重量と、座屈型アクチュエータ12とギア11との間のインタフェース機構のコンプライアンスと、ギア11の伝達特性及び質量を考慮した。シミュレーションは、各コンプライアンス的性質に粘性摩擦を並行に挿入し、クーロン摩擦をギア11と入力チップ15Aの間に挿入した。
図27A、図27B及び図27Cは、ギア11が慣性負荷のみを駆動し、ギア11から実質的にギア力が出力されない場合のシミュレーション結果を示す。図27Aは、速度対時間特性を示し、図27Bは位相コマンド対時間特性を示し、図27Cはギア力対時間特性を示す。
図27Bの位相コマンド(1/リードか波長)の位相は、図27Aの速度と共に増加し、摩擦特性において発生するエネルギ損失を克服する。両極性について最大平均ギア力条件の近傍で発生する非線形特性は、ゼロ平均力条件に比べて速度応答を遅くする。図27Cのギア力のリップルは、速度と共に増加するが、これは入力チップの質量により発生する慣性力に依存すると推定される。
図28A、図28B及び図28Cは、ギア11が慣性負荷を50Nの一定の強制負荷で駆動し、ギア11からはギア力が出力されて負荷45を駆動する場合のシミュレーション結果を示す。図28Aは、速度対時間特性を示し、図28Bは位相コマンド対時間特性を示し、図28Cはギア力対時間特性を示す。
図28Cのギア力と図28Bの位相コマンドの位相には、共にオフセットが発生する。正速度運動については、図28Aの速度は、速度及び強制負荷の両方のため略飽和する。一方、負速度運動については、再生運動の可能性が観測された。
上記の実施例では、回転型圧電モータが駆動回路により駆動される。しかし、上記の駆動回路及び駆動方法と、上記の制御システムと制御方法は、上記と同様にして例えば線形型圧電モータ(または、アクチュエータ)駆動して制御しても良い。線形型圧電モータの一例は、以下に図29乃至図31と共に説明するものを含んでも良い。
図29は、線形圧電モータの第1の例を示す図である。線形圧電モータは、図29に示すように、改良された正弦波形状のギアを有する線形ギア出力ロッド520に接続された複数の座屈型アクチュエータ5001乃至500Nを含み、座屈型アクチュエータ5001乃至500Nの位相を有する双極性アクチュエータにより駆動される。
座屈型アクチュエータ500iを形成する複数の圧電素子の力に基づく出力ノード514の往復運動は、フォロワ522iを介してギア出力ロッド520の波状溝に垂直な力Fyiを印加する。座屈型アクチュエータ5001乃至500Nとギア出力ロッド520の組み合わせにより、動作時に高いモータ出力効率を得ることができ、その容量的性質により静的保持時のエネルギ消費を低くすることもできる。座屈型アクチュエータ500iからギア出力ロッド520に伝達される力Fxiに含まれる力のリップルまたは非線形性は、他の座屈型アクチュエータの位相制御により相殺可能である。つまり、ゼロの力を伝達するノードと、出力される力が変化する領域とを、強める干渉または弱める干渉を用いる方法により組み合わせることで、有効出力の力を円滑なものとすることができる。また、複数の座屈型アクチュエータ5001乃至500Nを並行して動作させることで、出力される力を増大させると共に、圧電素子、座屈型アクチュエータ500または力伝達部品の一部が故障した場合に、冗長性と故障許容力を提供できる。
図29中、φi(i=2についてのみ示す)は、i番目の座屈型アクチュエータ500iのレイアウト位置を示し、隣接する座屈型アクチュエータ間の距離はφiと同じであり、xは圧電モータのギア位置を示し、yは座屈型アクチュエータ500iの出力変位量を示し、Ψは圧電モータの出力位置を示し、λはフォロワ522iの中心軌跡の1サイクルの長さを示し、Fxはギア力を示す。
図30は、線形圧電モータの第2の例を示す図である。線形圧電モータは、図30に示すように、正弦波形状から変形して得るギアを有する線形ギア出力ロッド520に接続された複数の座屈型アクチュエータ500を含み、複数の座屈型アクチュエータ500の位相を有する双極性アクチュエータにより駆動される。
座屈型アクチュエータを形成する複数の圧電素子の力に基づく出力ノードの方向D1に沿った往復運動は、フォロワを介してギア出力ロッド520の波状溝に垂直な力を印加する。これにより、線形圧電モータまたはギア出力ロッド520が線形ガイド521に案内されて出力方向D3に移動し、モータの変位がセンサ523を用いた周知の手段により検出される。
図31は、線形圧電モータの第2の例における座屈型アクチュエータを一部断面で示す図である。線形圧電モータは、座屈型アクチュエータ500を含む。座屈型アクチュエータ500は、フレーム524と、圧電素子510R,510Lを含む。圧電素子510Rは、第1及び第2の回転ジョイントを介して、フレーム524上のサイドブロック512Rと出力部514との間に接続される。第1の回転ジョイントは、サイドブロック512R上の支持部511により支持された回動可能な部材510Reを含み、第2の回転ジョイントは、出力部514により支持された回転可能な部材510Rcを含む。同様に、圧電素子510Lは、第3及び第4の回転ジョイントを介して、フレーム524上のサイドブロック512Lと出力部514との間に接続される。第3の回転ジョイントは、サイドブロック512L上の支持部511により支持された回動可能な部材510Leを含み、第4の回転ジョイントは、出力部514により支持された回転可能な部材510Lcを含む。図31中、CP1,CP2は圧電素子510Lの接触位置を示し、CP3,CP4は圧電素子510Rの接触位置を示す。
出力部514は、一対の円柱フォロワ522が設けられる開口部を有するフレーム526を含む。六角形状を有するPCS(Preload Compensation Spring)518は、フレーム526の両側に設けられている。各PCSは、支持部(図示ぜず)などに固定されても良い。線形ギア出力ロッド(図示せず)は、出力部514のフレーム526に設けられた開口部を貫通、フォロワ522と係合する。座屈型アクチュエータ500を形成する圧電素子510R,510Lの力に基づく出力部514の方向D1に沿った往復運動は、フォロワ522を介してギア出力ロッドの波状溝に垂直な力を印加する。これにより、線形圧電モータまたはギア出力ロッドが出力方向D3に移動する。
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。