JP2014200177A - 優れた低温感受性を示す新規納豆菌および二次発酵が顕著に抑制された納豆 - Google Patents
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Abstract
Description
さらに、近年、納豆にはプロバイオティック作用、抗菌作用、機能性成分等による各種健康増進効果があることが報告されており、益々需要が期待されている食品である。
また、従来の納豆では、発酵後に低温での十分な熟成を行わない場合、保管流通時に低温を維持したとしても二次発酵が起こってしまう問題がある。当該熟成には数日間を要するため、生産上の律速要因となっている。
なお、当該製造納豆の風味及び糸引き性は、極めて良好であった。
[請求項1]に係る発明は、以下(1)〜(3)に示す菌学的性質を有することを特徴とする、Bacillus subtilisに属する納豆菌に関するものである。(1):以下(1-1)に記載の発酵性に係る性質。(1-1):煮大豆又は蒸煮大豆に植菌し豆の品温を37〜53℃のいずれかの温度に維持した際に好適に発酵して、風味及び糸引きが良好な納豆を製造できる性質。(2):以下(2-1)に記載の低温生育抑制性に係る性質。(2-1):10%(w/v)フィトンペプトンを含有する3〜4%(w/v)のいずれかの濃度の寒天培地(pH7.0)に植菌し、気相温度20℃で48時間培養した際のコロニーの最大幅を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を植菌して培養したコロニーの最大幅が2〜4mmである場合に、当該納豆菌を植菌して培養したコロニーの最大幅が1mm以下である性質。(3):16SrDNAを構成する塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列である、又は、配列番号1に記載の塩基配列と99%以上の同一性を示す塩基配列である性質。
[請求項2]に係る発明は、さらに、以下(2-2)に記載の低温発酵抑制性に係る性質を有する、請求項1に記載の納豆菌に関するものである。(2-2):当該納豆菌を用いて納豆を製造して、当該納豆を気相温度15℃で96時間静置した後、当該納豆30gを2.5L容器内に20℃常圧にて30分間静置して、当該容器内に揮発したアンモニア濃度を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が80〜120ppmである場合に、当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が60ppm以下である性質。
[請求項3]に係る発明は、前記(2-2)に記載の性質における当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が、10ppm以下である、請求項2に記載の納豆菌に関するものである。
[請求項4]に係る発明は、さらに、以下(2-3)に記載の低温発酵抑制性に係る性質を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の納豆菌に関するものである。(2-3):当該納豆菌を用いて納豆を製造して、当該納豆を気相温度15℃で48時間静置した際の品温を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆の最大品温が17.5〜19.5℃である場合に、当該納豆菌を用いて製造した納豆の最大品温が17℃以下である性質。
[請求項5]に係る発明は、前記(2-3)に記載の性質における当該納豆菌を用いて製造した納豆の最大品温が、15.5℃以下である、請求項4に記載の納豆菌に関するものである。
[請求項6]に係る発明は、さらに、以下(1-2)に記載の生育性に係る性質を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の納豆菌に関するものである。(1-2):LB液体培地に植菌し液相温度37℃にて24時間振盪培養して得られた培養液を分光光度計にて波長660nmを測定する試験において、;当該納豆菌を植菌して得た培養液の測定値が、K-2菌株(NITE BP-1577)を植菌して得た培養液の測定値と±20%の範囲内にある性質。
[請求項7]に係る発明は、Bacillus subtilis T-058株(NITE BP-1576)である納豆菌に関するものである。
[請求項8]に係る発明は、請求項7に記載のT-058株に由来する納豆菌、前記T-058株を突然変異させて作出した納豆菌、又は、前記T-058株に遺伝子導入し形質転換して作出した納豆菌であって、請求項1〜7のいずれかに記載の上記(1)〜(3)に示す菌学的性質を有する納豆菌に関するものである。
[請求項9]に係る発明は、納豆を製造するにあたり、蒸煮大豆又は煮大豆に請求項1〜8のいずれかに記載の納豆菌を植菌して発酵を行うことを特徴とする、納豆の製造方法に関するものである。
[請求項10]に係る発明は、請求項9に記載の方法により製造された納豆に関するものである。
[請求項11]に係る発明は、以下(A)及び(B)に示す性質を有することを特徴とする、請求項10に記載の納豆に関するものである。(A):気相温度15℃で96時間静置した後、当該納豆30gを2.5L容器内に20℃常圧にて30分間静置して、当該容器内に揮発したアンモニア濃度を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が80〜120ppmである場合に、当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が60ppm以下である性質。(B):気相温度15℃で48時間静置した際の品温を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆の最大品温が17.5〜19.5℃である場合に、当該納豆の最大品温が17℃以下である性質。
また、本発明の納豆菌を用いて製造した納豆は、風味及び糸引き性が極めて良好なものとなる。
本発明は、優れた低温感受性を示す新規納豆菌に関する。また、本発明は保管流通時での二次発酵が顕著に抑制された納豆に関する。
本発明の新規納豆菌は、優れた低温感受性を示す納豆菌である。ここで納豆菌とは、枯草菌バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)の変種(B. subtilis var.natto、B. subtilis (natto))に分類される細菌である。分類体系によっては、枯草菌の近縁種バチルス・ナットウ(B. natto)として分類される場合もある。
本発明の納豆菌は、16SrRNA遺伝子である16SrDNAを構成する塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列と99%以上, 好ましくは99.5%以上, より好ましくは99.8%以上の同一性を示す塩基配列をゲノム中に有する納豆菌である。最も好ましくは配列番号1に記載の塩基配列と完全一致する16SrDNAの塩基配列をゲノム中に有する納豆菌である。
当該新規納豆菌の栄養細胞は、大きさ2〜3μm程度の桿菌であり運動性を有する。また、グラム染色性を有する。胞子形成能を有し、胞子の形状は楕円形である。胞子の大きさは1.12〜1.28μm程度である。
当該新規納豆菌の寒天平板培地上でのコロニーの形状は環状である。当該コロニーは、表面に皺があり、光沢が無く、色調が不透明〜乳白色であり、中央部の隆起がない特徴を有する。
当該新規納豆菌を液体培地で培養すると、培養後の培地表面に菌膜が形成される。また、培養液は混濁する。
当該新規納豆菌は、グルコース, シュクロースに対する資化性を有する。一方、ラクトース, アラビノースに対する資化性を有さない。
当該新規納豆菌は、好気性細菌であり、ビオチン要求性を示し、最少培地での生育が可能である。また、プロテアーゼ活性を有する。また、クエン酸塩を利用して生育が可能である。
当該新規納豆菌は、通常の納豆菌の生育温度帯である37〜40℃付近で好適な生育能を有し、通常の納豆菌と同等の増殖速度により増殖する。
当該新規納豆菌の生育能は、培養液のO.D.660の測定結果を指標として判定することができる。具体的には、液体培地(例えばLB液体培地)に植菌し液相温度37℃にて24時間振盪培養して得られた培養液を分光光度計にて波長660nmを測定する試験を行った場合において、;その測定値が、K-2菌株(NITE BP-1577)を同様にして植菌して得た培養液の測定値の±20%の範囲内、好ましくは±15%の範囲内、±10%の範囲内にあるか、;を指標として生育能を判定することができる。
本発明の新規納豆菌は、優れた低温感受性を有する納豆菌である。ここで、低温感受性とは、納豆発酵温度帯(37〜53℃)のいずれかの温度での発酵能は通常の納豆菌と同等であるが、低温温度帯(常温以下)での生育能及び発酵能が著しく低く抑制されている性質を指す。ここで、低温温度帯とは、納豆の発酵温度帯から見て低温である常温以下の温度帯を指す。具体的には25℃以下、好ましくは24℃以下、より好ましくは23℃以下、さらに好ましくは22℃以下、特に好ましくは21℃以下、さらに特に好ましくは20℃以下を指す。また、当該温度帯の下限温度としては、例えば3℃以上を挙げることができる。
当該低温感受性菌が示す低温温度帯での生育抑制度合いは、当該納豆菌を所定の寒天培地に植菌し低温で所定時間培養した際のコロニーの最大幅を指標にして判定することができる。
具体的には、10%(w/v)フィトンペプトンを含有する3〜4%(w/v)のいずれかの濃度の寒天培地(pH7.0)に植菌し、気相温度20℃で48時間培養した際のコロニーの最大幅を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を植菌して培養したコロニーの最大幅が2〜4mm、好ましくは2〜3mmである場合に、;当該納豆菌を植菌して培養したコロニーの最大幅が1mm以下、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.1mm以下、最も好ましくは0mm(目視ではコロニーが確認できない大きさ)であるか、;を指標として判定することができる。
また、ここで「%(w/v)」とは、容量100mLに対する含有質量(g)を%で表した値である。
また、コロニーの最大幅とは、コロニー乳白色部分の最大幅の値を指す。
また、ここでK-2株とは、公知の低温感受性菌である(特許文献1 参照)。本発明の低温感受性菌との比較実験を担保するため、本願出願人は当該菌株を独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託申請した。当該菌株は、受託番号 NITE BP-1577としてBacillus subtilis K-2の名称で2013年3月19日付で国際寄託が認められている。
当該低温感受性菌が示す低温温度帯での発酵抑制度合いは、当該納豆菌を用いて製造した納豆を低温に維持した際の品温変化(発生した発酵熱)を指標として判定することができる。
具体的には、当該納豆菌を用いて納豆を製造して当該納豆を気相温度15℃で48時間静置した際の品温を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆の最大品温が17.5〜19.5℃、好ましくは18〜19℃である場合に、;当該納豆菌を用いて製造した納豆の最大品温が17℃以下(最大発酵熱2℃以下)、好ましくは16.5℃以下(最大発酵熱1.5℃以下)、より好ましくは16℃以下(最大発酵熱1℃以下)、さらに好ましくは15.7℃以下(最大発酵熱0.7℃以下)、特に好ましくは15.5℃以下(最大発酵熱0.5℃以下)、さらに特に好ましくは15.4℃以下(最大発酵熱0.4℃以下)であるか、;を指標として判定することができる。
具体的には、当該納豆菌を用いて納豆を製造して、当該納豆を気相温度15℃で96時間静置した後、当該納豆30gを2.5L容器内に20℃常圧にて30分間静置して、当該容器内に揮発したアンモニア濃度を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が80〜120ppm、好ましくは90〜110ppmである場合に、;当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が60ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは20ppm以下、さらに特に好ましくは10ppm以下であるか、;を指標として判定することができる。
本発明の低温感受性納豆菌を選抜する方法としては、例えば後述する実施例1に記載の方法を挙げることができるが、次の手順に従った方法を採用することができる。
当該選抜方法としては、まず、(1) 親株に対して変異処理を行うことが好ましい。ここで、変異処理としては、例えばニトロソグアニジン(NTG)処理、エチルメタンスルホン酸(EMS)処理、紫外線処理などを採用することができる。また、親株としては、如何なる納豆菌も採用することができる。例えば、一般的な市販菌である宮城野菌、高橋菌、成瀬菌等を用いることができるが、特定の性質を有する突然変異株, 遺伝子組み換え株などの各種菌株を利用することもできる。なお、後述する実施例で例示した21541株は、通常の温度感受性を有する菌株であり、出願人が自社開発した菌株である。
(3) 上記(2)の選抜により菌株の数が絞られた後、実際に納豆を製造し、納豆の品質により選抜することが必要である。なお、必要に応じて上記(2)の選抜を再度行って、良好な性質を有する低温感受性菌を絞り込むことが可能である。
(4) (3)で製造した納豆について、二次発酵抑制性を評価して、さらに良好な菌株を選抜することが可能である。
本発明では、上記低温感受性納豆菌を用いて納豆を製造することによって、保管流通時での二次発酵が顕著に抑制された納豆を製造することが可能となる。
ここで、納豆の製造方法としては、納豆菌として上記低温感受性納豆菌を用いることを除いては、常法に従って納豆を製造することができる。
本発明の納豆の製造方法では、通常の納豆の製造に用いることができる如何なる原料をも用いることができる。例えば、丸大豆、半割大豆、割砕大豆(引き割り納豆の原料)、脱脂大豆などを使用できる。特に高品質の納豆製造時に使用される中粒や大粒のものが好適である。これらの大豆は、生のまま用いることもできるが、乾燥処理を行ったもの(乾燥品)を用いることが一般的である。
ここで、蒸煮大豆の具体的な調製手順としては、大豆を水中に6〜24時間程度浸漬した後、水切りして、100〜135℃の蒸気で10〜30分の蒸煮処理する方法を採用することができる。また、0.12〜0.22Mpaの高圧条件にて、加圧蒸煮する方法を採用することもできる。
また、煮大豆の具体的な調製手順としては、大豆を水中に6〜24時間程度浸漬した後、90〜100℃の湯で20〜50分間煮込む方法を採用することができる。
納豆菌の接種に用いる際の納豆菌の状態としては、即座に増殖発酵可能な栄養増殖状態のものを用いることも可能であるが、胞子状態のものを用いることが通常であり好適である。胞子状態の納豆菌は、安定保存が可能で取扱いが容易だからである。また、胞子状態の納豆菌は、熱い煮豆等への接種の際にも死滅しないため、豆の雑菌汚染を防げる点で利点がある。また、胞子状態の納豆菌は、熱によるヒートショックにより、大豆への接種後速やかに発芽させることが可能となる。
ここで納豆菌液としては、(i) 市販の納豆菌胞子液の他、各種納豆菌の胞子形成培養液を用いることができる。また、(ii) グルタミン酸やグルコースを主原料とした合成培地, 大豆煮汁, 豆乳, 酵母エキスなどを含む液体培地にて納豆菌を培養した培養液も用いることができる。また、(iii) 納豆菌の固体培養物、例えば大豆(大豆粉や脱脂加工大豆も含む)に、納豆菌を植菌し培養したもの(納豆そのもの)から納豆菌を集菌し、溶液に懸濁して用いることができる。また、当該固形培養物の粉砕物等をそのまま溶液に懸濁して、用いることも可能である。
また、数リットル体積容の容器等にて発酵を行うことも可能であるが、表面積に対する体積の値が大きくなると、中央部の豆に温度変化が伝わりにくくなることを考慮すると、大きめの容器を用いることは望ましくない。
また、容器の形状として、当該容器を用いて直接、喫食のための掻き混ぜ(攪拌)ができるような形状のものが好適である。
また、発酵後は、蓋やシーリングによる封を行うことができる態様のものが好適である。
納豆の発酵は、豆の品温を実質的に37〜53℃(好ましくは40〜50℃)である通常の納豆発酵温度帯に維持することで行うことが可能である。
また、本発明においては、室温を30〜50℃(好ましくは35〜45℃)の温度帯に維持することによって、発酵中の豆の品温を上記温度帯に維持することが可能となる。発酵熱によって豆の品温が上昇し、上記温度帯に維持されるためである。
豆の品温を、当該発酵温度帯に維持する所定時間(発酵時間)としては、特に制限はないが、12〜24時間、好ましくは16〜20時間を挙げることができる。
当該温度帯で発酵が進行することによって、納豆らしい風味の付与、柔らかい納豆らしい食感の付与、菌膜形成により白みがかった色調の付与、糸引き性の付与(ネバの付与)などが促進される。
本発明においては、通常の納豆の製法では必須である熟成工程を行わない場合であっても、二次発酵が顕著に抑制された納豆を製造することができる。従って、本発明における納豆の製造においては、上記加熱処理温度帯での維持が終了した納豆の品温が5℃以下になった時点で、製造が完了したとみなすことができる。
なお、熟成工程を行う場合、3℃以上10℃未満、好ましくは3℃以上8℃未満、より好ましくは3℃以上6℃未満の低温になるようにして6時間〜3日間、好ましくは8時間〜2日間程度の熟成を行うことが好適である。
・二次発酵抑制性
二次発酵とは、製造した納豆中に生存する納豆菌栄養細胞の活動により保管流通時に二次的に発酵する現象を指し、納豆の品質を大きく劣化させる要因となる。具体的には、アンモニアや納豆臭の原因物質の過剰生成、糸引き成分及び風味成分の分解、などを引き起こす反応をいう。
本発明において製造した納豆は、低温感受性菌の温度特性により二次発酵が顕著に抑制された性質の納豆となる。即ち、保管流通時の品質劣化が顕著に防止された納豆となる。特に、常温における二次発酵が著しく抑制されたものとなる。
なお、ここで、‘保管流通時’とは、製造業者が製造後の商品(納豆)を保管・貯蔵する時、メーカーや流通業者が商品(納豆)を運搬や配達する時、販売業者によって商品(納豆)として保管・陳列されている時、消費者が購入した商品(納豆)を自宅に保管している時、等の商品が物流している時の全体を意味する。
具体的には、当該納豆を気相温度15℃で48時間静置した際の品温を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆の最大品温が17.5〜19.5℃、好ましくは18〜19℃である場合に、;当該納豆の最大品温が17℃以下(最大発酵熱2℃以下)、好ましくは16.5℃以下(最大発酵熱1.5℃以下)、より好ましくは16℃以下(最大発酵熱1℃以下)、さらに好ましくは15.7℃以下(最大発酵熱0.7℃以下)、特に好ましくは15.5℃以下(最大発酵熱0.5℃以下)、さらに特に好ましくは15.4℃以下(最大発酵熱0.4℃以下)であるか、;を指標として判定することができる。
具体的には、当該納豆菌を用いて納豆を製造して、当該納豆を気相温度15℃で96時間静置した後、当該納豆30gを2.5L容器内に20℃常圧にて30分間静置して、当該容器内に揮発したアンモニア濃度を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が80〜120ppm、好ましくは90〜110ppmである場合に、;当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が60ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは20ppm以下、さらに特に好ましくは10ppm以下であるか、;を指標として判定することができる。
当該製造納豆は、納豆らしい良好な風味が付与され、納豆らしい柔らかい食感が付与され、且つ十分な糸引き性(ネバ)を有する納豆となる。
以下に示す組成の培地を調製した。なお、特に記載のない限り、121℃で15分オートクレーブ滅菌を行った。また、寒天培地(プレート)の寒天濃度は1.5%(w/v)とした。
酵母エキス(ミーストP2G, アサヒフード アンド ヘルスケア(株)): 20g/L
NaCl: 5g/L
pH: 7.1
Tryptone: 10g/L
Yeast Extract: 5g/L
NaCl: 5g/L
pH: 7.0
フィトンペプトン (BBL Phytone Peptone, 211906, BD) : 100g/L
イオン交換水: 900g/L
pH: 7.0
(なお、フィトンペプトン培地については、寒天濃度を3%(w/v)とし、121℃で60分のオートクレーブ滅菌を行った。)
顕著な低温感受性を有し且つ高品質の納豆製造が可能な納豆菌を選抜した。本実施例における選抜経過を示す結果を表1に示した。
納豆菌‘21541株’をLB液体培地(試験管)5mLに植菌し37℃, 150rpmで前培養した。得られた前培養液1mLをLB液体培地(坂口フラスコ)100mLに植菌し、37℃, 150rpmで定常期まで培養した。当該培養液20mLをLB液体培地(坂口フラスコ)80mLに植え次ぎ、同条件にて対数増殖期まで培養した。
得られた培養液は遠心分離により集菌し、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7)で洗浄した。約107 cfu/mLの濃度の洗浄菌体に、終濃度160μg/mLとなるようにN-メチルN'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(ニトロソグアニジン:NTG)を添加し、60分間振盪して変異処理を行った。この時の生存率は1.1%であった。
NTG変異処理した菌をLB寒天培地に塗抹培養(37℃一晩)し、生じたコロニー(21,571株)をフィトンペプトン寒天培地2枚にレプリカした。レプリカは1コロニー当たり3点行った。
レプリカした2枚の寒天培地のうち、一方の寒天培地は37℃(高温条件)で一晩培養した。他方、もう1枚の寒天培地については20℃(低温)で48時間培養した。
そして、37℃培養において親株である‘21541株’と同等の生育を示し、20℃培養において生育しない又は著しく生育の悪い279株を選抜した。なお、当該選抜は、レプリカ3点において一致するもののみを選抜した。
ここで、選択した低温感受性菌は、再びフィトンペプトン寒天培地にストリークし37℃一晩培養した。生じたコロニーの中から単一コロニーを選択し、LB寒天培地にレプリカした。当該レプリカしたLB寒天培地は、以降の実験におけるマスタープレートとした。
上記279株の胞子液を添加して納豆の製造が可能かを確認した。乾燥大豆を水に16時間浸漬し、水切りした後、1.65kg/cm2で30分間加圧蒸煮した。蒸煮した大豆100gに1,000倍希釈した納豆菌液(蒸煮大豆1gあたり納豆菌胞子数5×103個になる量)を添加し、軽く均一化した。その後、50gずつをPSP製納豆容器に入れて蓋をし、プログラムインキュベーター内に静置し、43℃ 8時間、45℃ 3.5時間、46℃ 5.5時間、15℃ 1時間の温度条件にて静置した。静置した後、発酵により納豆が製造されているかを確認した。
その結果、低温感受性を有し且つ実際に納豆生産が可能であることが可能な83株を選抜した。
上記選抜した83株の納豆菌液を用いて納豆を製造し、製造した納豆の品質を評価した。納豆の製造は上記(3)に記載の方法と同様にして行った。
その結果、いずれの菌株を用いた場合でも、納豆の菌膜形成能、糸引き性(ネバ)、風味については、親株である‘21541株’を用いた場合と差異はなかった。一方、納豆の硬度については、菌株間で差異が見られた。
そこで、親株である‘21541株’を用いた場合の納豆と同等またはそれ以上に柔らかい納豆を製造可能な菌株であることを指標として選抜し、41株を選抜した。
上記選抜した41株の納豆菌液を用いて納豆を製造し、製造した納豆の二次発酵抑制能を評価した。
上記(4)に記載の方法と同様にして製造した納豆(PSP製トレー容器内の納豆50g)を気相温度4℃に設定した恒温室内に静置し、品温が5℃に達した後、15トレー(3列×5段)を密接して積んだ状態にしてダンボールケースに入れた。その後、気相温度を15℃に設定された恒温室内で48時間静置し、中央の納豆の品温を経時的に測定した。当該試験では、気相温度と当該品温の温度差が2℃以下の場合には、発酵熱の発生が抑制されていると判定でき、二次発酵が抑制されていると判定することができる。
その結果、48時間保存中の最高品温が17℃以下(設定温度との温度差が2℃以下)であった14株(T-030, T-032, T-057, T-058, T-060, T-063, T-072, T-079, T-080, T-087, T-096, T-101, T-108, T-124)を選抜した。
上記選抜した14株について総合的な評価を行い、優れた納豆生産性を有し且つ顕著な低温感受性(二次発酵抑制能)を有する3株(T-072, T-058, T-101)を選抜した。これらの中でも特にT-058株の性質が優れていた。
上記選抜した優れた低温感受性納豆菌である3菌株について、低温生育抑制性の程度を評価する試験を行った。
表2に記載した各納豆菌を培養した寒天培地上のコロニーから、滅菌爪楊枝の先端で菌をピッキングし、10%(w/v)フィトンペプトンを含有する3%(w/v)寒天培地(pH7.0)の3〜4ヶ所にレプリカ(植菌)した。当該プレートを気相温度20℃のインキュベータ内に静置し、48時間培養した後のコロニー形成の有無を観察し、コロニー乳白色部分の最大幅を測定した。結果を表2に示した。また、一部の納豆菌については、コロニーを上面視にて撮影した写真像図を図1に示した。
その結果、10%(w/v)フィトンペプトン含有寒天培地上にて20℃(低温)で48時間培養したところ、上記選抜したT-072, T-058, T-101のいずれの菌株についてもコロニーが形成されなかった(図1(A),(B) 参照)。即ち、コロニーの大きさは0mmであった。
一方、比較として公知の低温感受性の納豆菌であるK-2株(NITE BP-1577)について試験したところ、やや小さめのコロニーが形成された。当該K-2株のコロニー(菌体が増殖した白色部分)の最大幅を測定したところ、2〜3mmであった(図1(B)参照)。
また、対照として通常の温度感受性の納豆菌(21541株、宮城野菌、成瀬菌、OUV23481株)について試験したところ、いずれの菌も大きなコロニーを形成した。これらのコロニー(菌体が増殖した乳白色部分)の最大幅を測定したところ、7〜9mmという大きさであった(図1(A),(B) 参照)。
上記選抜した優れた低温感受性納豆菌を用いて納豆を製造し、当該納豆を低温保管した際の品温を測定することにより二次発酵抑制性を評価した。
表3に記載の納豆菌の納豆菌液を植菌して実施例1(3)に記載の方法と同様にして納豆を製造した。当該製造した納豆(PSP製トレー容器内の納豆45g)を気相温度4℃に設定した恒温室内に静置し、品温が5℃に達した後、15トレー(3列×5段)を密接して積んだ状態にしてダンボールケースに入れた。その後、気相温度を15℃(低温)に設定された恒温室内で48時間静置し、中央の納豆の品温を経時的に測定した。結果を表3, 図2, 3に示した。
なお当該試験では、気相温度と当該品温の温度差が2℃以内の場合には、発酵熱の発生が抑制されていると判定でき、二次発酵が抑制されていると判定することができる。
その結果、上記選抜株を用いて製造した納豆では、48時間保存中の最大発酵熱は1.2℃以下であり、二次発酵が顕著に抑制されていることが示された。特に、T-058, T-072株を用いた場合、最大発酵熱が0.4℃以下であり二次発酵がほぼ完璧に抑制されていることが示された。
一方、公知の低温感受性の納豆菌であるK-2株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆では、最大発酵熱は3.5℃であり、二次発酵が起こっていることが確認された。また、通常の温度感受性の納豆菌(21541株、宮城野菌)を用いて製造した納豆では、最大発酵熱は3.8〜8.1℃であり、活発に二次発酵が起こっていることが確認された。
上記選抜した優れた低温感受性納豆菌を用いて納豆を製造し、当該納豆を低温保管した際に発生する揮発アンモニア濃度を測定することにより二次発酵抑制性を評価した。
表4に記載の納豆菌の納豆菌液を植菌して実施例1(3)に記載の方法と同様にして納豆を製造した。当該製造した納豆(PSP製トレー容器内の納豆45g)を気相温度4℃に設定した恒温室内に静置し、品温が5℃に達した後、15トレー(3列×5段)を密接して積んだ状態にしてダンボールケースに入れた。その後、気相温度を15℃(低温)に設定された恒温室内で96時間静置した。
その結果、上記選抜株を用いて製造した納豆は、15℃96時間保管した後であっても、アンモニア発生量が大幅に少なくなることが示された。具体的には、上記測定条件にて検出された揮発アンモニア濃度は60ppm以下であった。特に、T-058, T-072株を用いた場合、揮発アンモニアが全く検出されなかったことから、二次発酵がほぼ完璧に抑制されていることが示された。
一方、公知の低温感受性の納豆菌であるK-2株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆では、上記測定条件にて100ppmの揮発アンモニアが検出され、二次発酵が起こっていることが確認された。また、通常の温度感受性の納豆菌(21541株、宮城野菌、OUV23481株)を用いて製造した納豆からの揮発アンモニア濃度は125〜130ppmであり、活発に二次発酵が起こっていることが確認された。
上記選抜した優れた低温感受性納豆菌である3菌株について、発酵温度帯での生育性を評価する試験を行った。
表5に記載した各納豆菌を培養した寒天培地上のコロニーから、滅菌爪楊枝の先端で菌をピッキングし、LB液体培地(試験管)5mLに植菌し37℃, 150rpmで前培養した。
培養懸濁液を分光光度計にて波長660nmを測定し、LB液体培地でO.D.660の値が0.19になるように調整した後、37℃, 150rpmで24時間培養した。
得られた培養懸濁液のO.D.660の値を分光光度計にて測定した。結果を表5に示した。
その結果、公知の低温感受性の納豆菌であるK-2株(NITE BP-1577)や、通常の温度感受性の納豆菌(21541株、宮城野菌、OUV23481株)の培養懸濁液のO.D.660の値は、1.95〜2.10であった。この時、上記選抜株(T-072株, T-058株, T-101株)の培養懸濁液のO.D.660の値は、2〜2.04であり、K-2株や通常菌の値とほぼ同じ値を示した。
上記選抜したT-072株, T-058株, T-101株の菌学的性質を特定したところ、次の通りであった。
顕微鏡下において栄養細胞の微視的観察を行ったところ、次のような形態であった。
<栄養細胞>
形状 : 稈菌
大きさ : 2〜3μm
運動性 : 有
胞子形成能 : 有
グラム染色性 : 有
<胞子>
形状 : 楕円形
大きさ : 1.12〜1.28μm
LB寒天平板培地において37℃で培養後のコロニーの形態を観察したところ、次のような形態であった。
<寒天平板培養>
形状 : 環状
表面 : 皺がある
隆起状態: 隆起なし
色調 : 不透明、乳白色
光沢 : 無
周辺部 : ひだ状
<液体培養>
表面の生育: 菌膜形成
混濁 : 有
各種生理学的性質を調べたところ次のような性質であった。なお、以下の結果において、「+」は資化性あり、「−」は資化性なし、を示す。
<生理学的性質>
クエン酸塩の利用 : +
酸素の要求性 : +
プロテアーゼ活性 : +
最少培地での生育 : +
ビオチン要求性 : +
<炭素源の資化性>
グルコース : +
ラクトース : −
アラビノース : −
シュクロース : +
各温度における生育性及び発酵性を調べた。
<温度特性>
好適発酵温度帯 : 37〜53℃
20℃以下での生育及び発酵能 : 無(顕著な低温感受性)
LB液体培地にて振盪培養した後、回収した菌体からのDNA抽出を行い、16SrDNA領域のユニバーサルプライマーセットを用いてPCRを行った。その後、PCR産物をダイレクトシーケンスして、16SrDNAの塩基配列を決定した。
その結果、決定した3菌株からの16SrDNAを構成する塩基配列は、完全に一致する配列(配列番号1)であった。また、GenBank/DDBJ/EMBLのデーターベースに対するBLASTサーチを行ったところ、Bacillus subtilisの16SrDNA領域と100%一致することが示された。
そこで、本願出願人は、T-058株を、2013年3月19日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に国際寄託申請した(受託番号:NITE BP-1576)。
NITE BP−1577
Claims (11)
- 以下(1)〜(3)に示す菌学的性質を有することを特徴とする、Bacillus subtilisに属する納豆菌。
(1):以下(1-1)に記載の発酵性に係る性質。
(1-1):煮大豆又は蒸煮大豆に植菌し豆の品温を37〜53℃のいずれかの温度に維持した際に好適に発酵して、風味及び糸引きが良好な納豆を製造できる性質。
(2):以下(2-1)に記載の低温生育抑制性に係る性質。
(2-1):10%(w/v)フィトンペプトンを含有する3〜4%(w/v)のいずれかの濃度の寒天培地(pH7.0)に植菌し、気相温度20℃で48時間培養した際のコロニーの最大幅を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を植菌して培養したコロニーの最大幅が2〜4mmである場合に、当該納豆菌を植菌して培養したコロニーの最大幅が1mm以下である性質。
(3):16SrDNAを構成する塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列である、又は、配列番号1に記載の塩基配列と99%以上の同一性を示す塩基配列である性質。 - さらに、以下(2-2)に記載の低温発酵抑制性に係る性質を有する、請求項1に記載の納豆菌。
(2-2):当該納豆菌を用いて納豆を製造して、当該納豆を気相温度15℃で96時間静置した後、当該納豆30gを2.5L容器内に20℃常圧にて30分間静置して、当該容器内に揮発したアンモニア濃度を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が80〜120ppmである場合に、当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が60ppm以下である性質。 - 前記(2-2)に記載の性質における当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が、10ppm以下である、請求項2に記載の納豆菌。
- さらに、以下(2-3)に記載の低温発酵抑制性に係る性質を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の納豆菌。
(2-3):当該納豆菌を用いて納豆を製造して、当該納豆を気相温度15℃で48時間静置した際の品温を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆の最大品温が17.5〜19.5℃である場合に、当該納豆菌を用いて製造した納豆の最大品温が17℃以下である性質。 - 前記(2-3)に記載の性質における当該納豆菌を用いて製造した納豆の最大品温が、15.5℃以下である、請求項4に記載の納豆菌。
- さらに、以下(1-2)に記載の生育性に係る性質を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の納豆菌。
(1-2):LB液体培地に植菌し液相温度37℃にて24時間振盪培養して得られた培養液を分光光度計にて波長660nmを測定する試験において、;当該納豆菌を植菌して得た培養液の測定値が、K-2菌株(NITE BP-1577)を植菌して得た培養液の測定値と±20%の範囲内にある性質。 - Bacillus subtilis T-058株(NITE BP-1576)である納豆菌。
- 請求項7に記載のT-058株に由来する納豆菌、前記T-058株を突然変異させて作出した納豆菌、又は、前記T-058株に遺伝子導入し形質転換して作出した納豆菌であって、請求項1〜7のいずれかに記載の上記(1)〜(3)に示す菌学的性質を有する納豆菌。
- 納豆を製造するにあたり、蒸煮大豆又は煮大豆に請求項1〜8のいずれかに記載の納豆菌を植菌して発酵を行うことを特徴とする、納豆の製造方法。
- 請求項9に記載の方法により製造された納豆。
- 以下(A)及び(B)に示す性質を有することを特徴とする、請求項10に記載の納豆。
(A):気相温度15℃で96時間静置した後、当該納豆30gを2.5L容器内に20℃常圧にて30分間静置して、当該容器内に揮発したアンモニア濃度を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が80〜120ppmである場合に、当該納豆菌を用いて製造した納豆30gからの揮発アンモニア濃度が60ppm以下である性質。
(B):気相温度15℃で48時間静置した際の品温を測定する試験において、;K-2菌株(NITE BP-1577)を用いて製造した納豆の最大品温が17.5〜19.5℃である場合に、当該納豆の最大品温が17℃以下である性質。
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