図1は、本発明が適用されるハイブリッド式ショベルを示す側面図である。
ハイブリッド式ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にバケット6が取り付けられている。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、アタッチメントの1例である掘削アタッチメントを構成し、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
図2は、本発明の実施形態によるハイブリッド式ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは太実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は細実線でそれぞれ示されている。
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続されている。変速機13の出力軸には、油圧ポンプとしてメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。
コントロールバルブ17は、ハイブリッド式ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9は、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。
電動発電機12には、電動発電機制御部としてのインバータ18を介して、蓄電器としてのキャパシタを含む蓄電系120が接続される。また、蓄電系120には、電動発電機制御部としてのインバータ20を介して電動作業要素としての旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。旋回用電動機21と、インバータ20と、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回変速機24とで負荷駆動系が構成される。
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを含む。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
なお、本実施形態では、アタッチメントの姿勢を検出するための姿勢検出部がショベルに取り付けられている。具体的には、ブーム4の角度を検出するためのブーム角度センサ7Bがブーム4の支持軸に取り付けられ、アーム5の角度を検出するためのアーム角度センサ7Aがアーム5の支持軸に取り付けられている。また、バケット6の角度を検出するためのバケット角度センサ(図示せず。)がバケット6の支持軸に取り付けられていてもよい。姿勢検出部としてのアーム角度センサ7A、ブーム角度センサ7Bはそれぞれ、検出したアーム角度θA、ブーム角度θBをコントローラ30に供給する。
図3は蓄電系120の構成を示すブロック図である。蓄電系120は、蓄電器としてのキャパシタ19と、昇降圧コンバータ100と、DCバス110とを含む。第2の蓄電器としてのDCバス110は、第1の蓄電器としてのキャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。キャパシタ19には、キャパシタ電圧値を検出するためのキャパシタ電圧検出部112と、キャパシタ電流値を検出するためのキャパシタ電流検出部113が設けられている。キャパシタ電圧検出部112とキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電圧値とキャパシタ電流値は、コントローラ30に供給される。
昇降圧コンバータ100は、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス電圧値が一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える制御を行う。DCバス110は、インバータ18及び20と昇降圧コンバータ100との間に配設されており、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を行う。
図2に戻り、コントローラ30は、ハイブリッド式ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される装置である。
コントローラ30は、圧力センサ29から供給される信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。圧力センサ29から供給される信号は、旋回機構2を旋回させるために操作装置26を操作した場合の操作量を表す信号に相当する。
コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)を行うとともに、昇降圧制御部としての昇降圧コンバータ100を駆動制御することによるキャパシタ19の充放電制御を行う。コントローラ30は、キャパシタ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、及び旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御を行い、これによりキャパシタ19の充放電制御を行う。
この昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧検出部111によって検出されるDCバス電圧値、キャパシタ電圧検出部112によって検出されるキャパシタ電圧値、及びキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電流値に基づいて行われる。
以上のような構成において、アシストモータである電動発電機12が発電した電力は、インバータ18を介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。また、旋回用電動機21が回生運転して生成した回生電力は、インバータ20を介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。
旋回用電動機21の回転速度(角速度ω)は回転速度検出部としてのレゾルバ22により検出される。また、アーム5の角度(アーム角度θA)はアーム5の支持軸に設けられたロータリエンコーダ等のアーム角度センサ7Aにより検出され、ブーム4の角度(ブーム角度θB)はブーム4の支持軸に設けられたロータリエンコーダ等のブーム角度センサ7Bにより検出される。コントローラ30は、旋回用電動機21の角速度ω、アーム角度θA、及びブーム角度θBに基づいて推定旋回回生電力(エネルギ)を演算で求める。なお、バケット角度センサが存在する場合、コントローラ30は、バケット角度を追加的に考慮してもよい。そして、コントローラ30は、演算で求めた推定旋回回生電力に基づいて、SOCの回生見込み目標値を演算により求める。コントローラ30は、キャパシタ19のSOCを、求めた回生見込み目標値に近づけるようにハイブリッド式ショベルの各部を制御する。なお、推定旋回回生電力(エネルギ)及び回生見込み目標値の演算の詳細については後述する。
図4は、蓄電系120の回路図である。昇降圧コンバータ100は、リアクトル101、昇圧用IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)102A、降圧用IGBT102B、キャパシタ19を接続するための電源接続端子104、インバータ18、20を接続するための出力端子106、及び、一対の出力端子106に並列に挿入される平滑用のコンデンサ107を備える。昇降圧コンバータ100の出力端子106とインバータ18、20との間は、DCバス110によって接続される。
リアクトル101の一端は昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bの中間点に接続され、他端は電源接続端子104に接続される。リアクトル101は、昇圧用IGBT102Aのオン/オフに伴って生じる誘導起電力をDCバス110に供給するために設けられている。
昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)をゲート部に組み込んだバイポーラトランジスタで構成され、大電力の高速スイッチングが可能な半導体素子である。昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bは、コントローラ30により、ゲート端子にPWM電圧が印加されることによって駆動される。昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bには、整流素子であるダイオード102a及び102bが並列接続される。
キャパシタ19は、昇降圧コンバータ100を介してDCバス110との間で電力の授受が行えるように、充放電可能な蓄電器であればよい。なお、図4には、蓄電器としてキャパシタ19を示すが、キャパシタ19の代わりに、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池、リチウムイオンキャパシタ、又は、電力の授受が可能なその他の形態の電源が蓄電器として用いられてもよい。
電源接続端子104及び出力端子106は、キャパシタ19及びインバータ18、20が接続可能な端子であればよい。一対の電源接続端子104の間には、キャパシタ電圧を検出するキャパシタ電圧検出部112が接続される。一対の出力端子106の間には、DCバス電圧を検出するDCバス電圧検出部111が接続される。
キャパシタ電圧検出部112は、キャパシタ19の電圧値(vbat_det)を検出する。DCバス電圧検出部111は、DCバス110の電圧(以下、DCバス電圧:vdc_det)を検出する。平滑用のコンデンサ107は、出力端子106の正極端子と負極端子との間に挿入され、DCバス電圧を平滑化するための蓄電素子である。この平滑用のコンデンサ107によって、DCバス110の電圧は予め定められた電圧に維持されている。キャパシタ 電流検出部113は、キャパシタ19に流れる電流の値を検出する検出手段であり、電流検出用の抵抗器を含む。すなわち、キャパシタ電流検出部113は、キャパシタ19に流れる電流値(ibat_det)を検出する。
昇降圧コンバータ100において、DCバス110を昇圧する際には、昇圧用IGBT102Aのゲート端子にPWM電圧が印加され、降圧用IGBT102Bに並列に接続されたダイオード102bを介して、昇圧用IGBT102Aのオン/オフに伴ってリアクトル101に発生する誘導起電力がDCバス110に供給される。これにより、DCバス110が昇圧される。
DCバス110を降圧する際には、降圧用IGBT102Bのゲート端子にPWM電圧が印加され、降圧用IGBT102Bを介して供給される回生電力がDCバス110からキャパシタ19に供給される。これにより、DCバス110に蓄積された電力がキャパシタ19に充電され、DCバス110が降圧される。
なお、実際には、コントローラ30と昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bとの間には、昇圧用IGBT102A及び降圧用IGBT102Bを駆動するPWM信号を生成する駆動部が存在するが、図4では省略する。このような駆動部は、電子回路又は演算処理装置のいずれでも実現することができる。
上述のような構成のハイブリッド式ショベルにおいて、キャパシタ19の充電率(SOC)を常に高い状態に維持することで、蓄電器からの電力で電気負荷をエネルギ効率の良い状態で駆動することができる。
従来のハイブリッド式ショベルでは、電気負荷等から大きな回生電力が発生して蓄電器に供給されても蓄電器が過充電とならないように、蓄電器の目標SOCを小さく設定していた。すなわち、不意の発電や回生により大きな電力が蓄電器に供給されても、それを吸収してもまだSOCが100%とはならないように、余裕をもって目標SOCを例えば70%に設定していた。これにより、蓄電器のSOCは常に70%以下となるように制御され、蓄電器の出力電圧はSOCが70%以下に対応する低い電圧であった。
ここで、蓄電器の目標SOCを従来よりも高い値とすれば、蓄電器の出力電圧も高くなり、電気負荷を効率的に駆動することができる。すなわち、蓄電器の出力電圧を高くして従来よりも高い電圧で電気負荷を駆動することで、電気負荷を従来よりも効率的に駆動することができる。
また、蓄電器を小型化して蓄電系にかかる費用を削減するために蓄電容量の小さな蓄電器を用いる場合、蓄電器の目標SOCを高く設定することで、なるべく多くの電力を蓄電器に保持することができる。例えば、蓄電器としてキャパシタを用いた場合には、小型のキャパシタを用いるとともに目標SOCを高く設定することで、従来の蓄電量を減少することなくキャパシタを小さくすることができる。
ここで、ハイブリッド式ショベルの駆動システムにおける駆動部の通常時の運転状況や蓄電器の充電量及び充電率(SOC)を考慮すると、蓄電器のSOCを90%以下としておけば、通常の使用において問題無いことがわかった。したがって、蓄電器の目標SOCを90%に設定することで、電気負荷を高電圧で効率的に駆動することができるとともに、蓄電器を小型化してコストダウンすることができる。
ただし、蓄電器の目標SOCを90%というように高い値に設定した場合、例えば、蓄電器のSOCが高くなっている状態で大きな回生電力が発生すると、過充電となるおそれがある。そこで、以下に説明する実施形態では、蓄電器(キャパシタ)の充電率(SOC)を可変制御している。すなわち、大きな回生電力が生じると予測される場合は、SOCを予め下げておくことで、回生電力を吸収してもSOCがシステムの上限値を超えないように制御する。
次に、図1のハイブリッド式ショベルにおけるキャパシタ19の充電率(SOC)を制御する方法について説明する。
本実施形態では、上部旋回体3の減速時に旋回用電動機21が発電機として機能し、回生電力(旋回回生電力)を生成して蓄電系120に供給する。
また、本実施形態では、蓄電器としてのキャパシタ19のSOCをなるべく高い領域で使用することで、蓄電量を常に大きくしてキャパシタ19の放電電圧を高い状態に維持しておき、電力の不足を防止しながら、キャパシタ19から高い電圧で放電してエネルギ効率を高めている。この際、大きな旋回回生電力が発生してキャパシタ19に供給されると、SOCが高い状態でさらに大きな電力が充電されるため、キャパシタ19が過電状態となってしまう。
そこで、本実施形態では、旋回回生電力が生成されることを予め予測しておき、そのような時にはキャパシタ19のSOCを下げておくことで、キャパシタ19が過充電状態となることを抑制する。すなわち、旋回回生電力の推定値を演算により求め、推定旋回回生電力(推定旋回回生エネルギ)に基づいてSOCの目標値を決定して変更する。通常はSOCの目標値はシステムの制御条件に基づいて一定の値に設定されているが、本実施形態では、SOCの目標値は、これから生成されると予測される推定旋回回生電力(推定旋回回生エネルギ)に基づいて随時変更されることとなる。
図5はSOCの目標値を設定する処理のフローチャートである。まず、ステップS1において、推定旋回回生電力QAを算出する。
続いて、ステップS2において、推定旋回回生電力QAがゼロより大きいか否かが判定される。すなわち、推定旋回回生電力QAがあるか否かが判定される。推定旋回回生電力QAがゼロである場合、すなわち、旋回が行われず、回生電力が発生しないと推定される場合は、処理はステップS3に進む。ステップS3では、蓄電目標値としてのSOC目標値SOCtgをシステム制御上限値SOCculに設定し、今回の処理を終了させる。システム制御上限値SOCculは、ハイブリッド式ショベルの制御により決まるSOCの上限値であり、SOCの検出値がシステム制御上限値SOCculを超えた場合には、キャパシタ19がオーバーフローしていると判断される。
一方、推定旋回回生電力QAがゼロより大きい場合、すなわち、回生電力が発生すると推定される場合は、処理はステップS4に進む。ステップS4では、算出した推定旋回回生電力QAに基づいて、回生見込み目標値SOCetgを算出する。回生見込み目標値SOCetgは、推定旋回回生電力QAがキャパシタ19に供給されても、キャパシタ19のSOCが上述のシステム制御上限値SOCculより大きくならないようなSOCの値であり、システム制御上限値SOCculより小さな値である。
ステップS4にて回生見込み目標値SOCetgが算出されると、続いて処理はステップS5に進む。ステップS5では、蓄電目標値としてのSOC目標値SOCtgを回生見込み目標値SOCetgに設定し、今回の処理を終了させる。回生見込み目標値SOCetgは推定旋回回生電力QAの値に応じて変化する値であり、SOC目標値SOCtgも推定旋回回生電力QAの値に応じて変化することとなる。
なお、上述のステップS3の処理及びステップS5の処理は、コントローラ30の蓄電目標値制御部301で行なわれる。
次に、上述のステップS1における推定旋回回生電力QAの算出処理について説明する。推定旋回回生電力QAの算出は、コントローラ30の推定回生エネルギ演算部302により行なわれる。推定旋回回生電力QAの算出は回転運動をする物体の運動エネルギを表す以下の式に基づいて行われる。
QA=1/2×J×ω2
ここで、Jは上部旋回体3の慣性モーメントであり、ωは上部旋回体3の旋回運動の角速度である。角速度ωはリゾルバ22が検出した旋回用電動機21の回転速度から求めることができる。
慣性モーメントJは、ブーム4及びアーム5を含むアタッチメントの姿勢に応じて変化する値であり、コントローラ30の慣性モーメント算出部303によって算出される。
具体的には、慣性モーメント算出部303は、姿勢検出部としてのアーム角度センサ7A、ブーム角度センサ7Bが出力するアーム角度θA、ブーム角度θBに基づいて上部旋回体3の慣性モーメントJを算出する。また、姿勢検出部としてのバケット角度センサを備える場合、慣性モーメント算出部303は、アーム角度θA、ブーム角度θBと、バケット角度センサが出力するバケット角度とに基づいて上部旋回体3の慣性モーメントJを算出してもよい。
次に、図5におけるステップS4の処理について説明する。ステップS4の処理は、回生見込み目標値SOCetgを算出する処理である。回生見込み目標値SOCetgは、コントローラ30の蓄電目標値決定部304により行なわれる。図6は回生見込み目標値SOCetgを算出する処理のフローチャートである。まず、ステップS11において、キャパシタ19の充電率(SOC)がシステム制御上限値SOCculとなったときの、キャパシタ19に蓄積されている電力である蓄電仕事量Qmaxを算出する。蓄電仕事量Qmaxは、システム制御上、キャパシタ19に蓄積できる最大電力に相当する。キャパシタを用いた場合、蓄電仕事量Qmaxは、以下の式を用いて算出することができる。
Qmax=1/2×C×V2=1/2×C×(360×√SOCcul)2
ここで、Cはキャパシタ19の静電容量である。
次に、ステップS12において、蓄電仕事量Qmaxから推定旋回回生電力QAを減算することで、キャパシタ19に蓄積しておくことのできる電力の目標値Qを算出する(Q=Qmax−QA)。
そして、ステップS13において、電力の目標値Qから回生見込み目標値SOCetgを求める。回生見込み目標値SOCetgは以下の式により算出することができる。
SOCetg=2×Q/(C×3602)
以上のようにして回生見込み目標値SOCetgを算出したら、図5に示すステップS5において、SOC目標値SOCtgを回生見込み目標値SOCetgに設定する。
ここで、ハイブリッド式ショベルで行なう掘削・積込み作業におけるSOC目標値SOCtgの設定について説明する。図7は掘削・積込み作業においてSOC目標値SOCtgを設定する処理を説明するための図であり、図7の実線で示す推移は、旋回速度W、推定旋回回生電力QA、及びSOC目標値SOCtgの推移を表す。なお、図7における時刻t0〜t4までの作業時においては、推定旋回回生電力QAが見込めるため、蓄電目標値としてのSOC目標値SOCtgに、回生見込み目標値SOCetgが設定される。また、図7の点線で示す推移は、仮に上部旋回体3の慣性モーメントJが掘削・積込み作業中に変化しない場合、すなわち、アタッチメントの姿勢(旋回半径)が変化しない場合における推移を比較対象として表す。
掘削・積込み作業において、上部旋回体3の旋回速度Wは、旋回用電動機21の角速度ωに比例し、掘削・積込み作業においてF7Aに示すように推移する。
また、推定旋回回生電力QAは、上述のように旋回用電動機21の角速度ωを二乗した値に慣性モーメントJを乗じて算出されるため(QA=1/2×J×ω2)、F7Bに示すように推移する。ここで、旋回速度Wがピークとなる時刻以降は、旋回速度が減速動作になるので、旋回回生電力が発生することとなる。なお、旋回速度Wのマイナス方向(負の値)は逆回転を意味するものであるため、推定旋回回生電力QAは旋回速度Wの絶対値で算出する。
ここで、一般的な掘削・積込み作業においては、持ち上げ旋回の場合、ブーム4が上がり且つアーム5が閉じて掘削アタッチメントの旋回半径が小さくなるので、慣性モーメントJも小さくなる。そのため、本実施形態における推定旋回回生電力QA(実線)は、旋回速度W(角速度ω)が同じであれば、アタッチメントの姿勢が変化しないことを前提とする場合(点線)と比較して小さくなる。一方、持ち下げ旋回の場合には、ブーム4が下がり且つアーム5が開いて掘削アタッチメントの旋回半径が大きくなるので、慣性モーメントJも大きくなる。そのため、本実施形態における推定旋回回生電力QA(実線)は、旋回速度W(角速度ω)が同じであれば、アタッチメントの姿勢が変化しないことを前提とする場合(点線)と比較して大きくなる。
そして、回生見込み目標値SOCetgは、推定旋回回生電力QAがキャパシタ19に供給されて充電された場合に、システム制御上で許容されるキャパシタ19の最大充電率(システム制御上限値SOCcul)となるような値に設定される。したがって、回生見込み目標値SOCetgは、システム制御上限値SOCculから推定旋回回生電力QAを減算した値、すなわち、推定旋回回生電力QAを反転してゼロをシステム制御上限値SOCculに合わせたものとなり、F7Cに示すようなパターンとなる。
このように、コントローラ30は、リアルタイムに算出される慣性モーメントJに基づいて推定旋回回生電力QA及び回生見込み目標値SOCetgを算出する。そのため、コントローラ30は、持ち上げ旋回時の慣性モーメントJが比較的小さい状態、持ち下げ旋回時の慣性モーメントJが比較的大きい状態等を適切に推定旋回回生電力QA及び回生見込み目標値SOCetgの算出結果に反映させることができる。その結果、コントローラ30は、点線で示す推移との比較から分かるように、慣性モーメントJを一定値としながら推定旋回回生電力QAを算出する場合に比べ、キャパシタ19の充電率(SOC)をより適切に制御することができる。
ここで、F7Cにおいて、時刻t=t0でのキャパシタ19の蓄電電圧値が、定格電圧に対して100%とした場合について説明する。時刻t0〜t10においては旋回動作が実行されている。このため、演算された推定旋回回生電力QAの増加に応じて、SOC目標値SOCtg(この場合、回生見込み目標値SOCetg)が下げられる。回生見込み目標値SOCetgが下げられるため、システム制御上限値SOCculまで蓄電(充電)されていた電力は、回生見込み目標値SOCetgの低下分だけ放電される。この際に放電される電力はブーム4の上昇や旋回の力行運転に使用することができる。
また、時刻t10〜t2においては旋回速度Wが低減するため、演算された推定旋回回生電力QAも低下する。これに伴い、SOC目標値SOCtg(この場合、回生見込み目標値SOCetg)は上昇する。同時に、旋回用電動機21が制動運転(減速運転)されるため旋回回生電力が発生するが、その旋回回生電力は、回生見込み目標値SOCetgの上昇分だけキャパシタ19に充電され得る。
同様に、時刻t3〜t11においては、回生見込み目標値SOCetgが低下し、回生見込み目標値SOCetgの低下分だけ放電が行なわれる。また、時刻t11〜t4においては、回生見込み目標値SOCetgが上昇し、回生見込み目標値SOCetgの上昇分だけ充電が行なわれる。
なお、点線で示されるように、アタッチメントの姿勢(旋回半径)が変化しないことを前提とする場合の回生見込み目標値SOCetgは、時刻t3〜t4の時間において、システム制御上限値SOCculから僅かしか小さくならない。このような条件において、仮にアタッチメントが伸ばされた状態(旋回半径が大きい状態)になっていると、アタッチメントの姿勢(旋回半径)が前提と異なり、実際の旋回回生電力が推定を上回るため、大きな旋回回生電力がキャパシタ19へ充電されることとなる。この場合、キャパシタ19の充電率(SOC)は、回生見込み目標値SOCetgよりも高くなってしまうばかりでなく、システム制御上限値SOCculをも超えてしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、コントローラ30は、実線で示されるように、回生見込み目標値SOCetgを十分に小さくすることができる。そのため、大きな旋回回生電力がキャパシタ19へ充電された場合であっても、キャパシタ19の充電率(SOC)がシステム制御上限値SOCculを超えてしまうのを防止することができる。
ここで、キャパシタ19の静電容量をC、蓄電電圧(端子間電圧)をVとすると、キャパシタ19に蓄電される蓄電エネルギEは、E=(1/2)CV2で表わされる。したがって、蓄電電圧Vを高くすれば同じエネルギを保持するためのキャパシタ19の容量を小さくできる。例えば、従来は、SOCがシステム制御上限値SOCculを超えないようにするため、回生電力を十分に考慮してSOC目標値SOCtgを決定していた。すなわち、大きな回生電力が発生してもそれを吸収できるように、従来のSOC目標値SOCtgは、充電電圧(V)が定格電圧(Vmax)に対して例えば67%(=V/Vmax:充電電圧比)となるように設定されていた。なお、SOC目標値SOCtgがシステム制御上限値SOCculに設定されると、キャパシタ19は、充電電圧が定格電圧に対して100%(=V/Vmax:充電電圧比)となるように蓄電される。
ところで、E=(1/2)CV2で表わされるようにキャパシタ19に蓄電される充電電圧値Vを√2倍にして高くすると、静電容量を1/2にしても同一の蓄電エネルギEを得ることができる。言い換えれば、充電電圧値Vを√2倍に高くすれば、キャパシタの静電容量を1/2に低減することができる。
具体的には、従来は充電電圧比が67%となるSOCを用いて制御を行なっていたのに対し、充電電圧を√2倍にしたときの充電電圧比である95%とすることで、同じ蓄電エネルギを維持した状態で、キャパシタ19の容量を1/2とすることができる。すなわち、充電電圧比を95%とすることで、充電電圧比を67%とした場合と同じ蓄電エネルギを維持しながら、1/2の静電容量のキャパシタを用いることができる。ここで、充電電圧比が95%の場合には、SOCは電圧Vの二乗の比で表されるため、SOCは約90%となる(SOC=(1/2)CV2/(1/2)CVmax2)。
本実施形態では、回生電力の見込みが無い状態においてSOCが約90%(充電電圧比95%)以上となるように制御することができる。すなわち、従来に比べキャパシタ容量を半分にすることできる。回生電力が見込まれる場合に旋回用電動機21の運動エネルギ(慣性モーメントJ)を考慮しながら回生見込み目標値SOCetgをリアルタイムに算出することで、回生電力の見込みが無い状態においてSOCを高いレベルで制御したとしても、その後の回生運転の際に過充電が発生するのを防止できるためである。具体的には、旋回用電動機21の運動エネルギ(慣性モーメントJ)の変化に応じてSOCの目標値を可変制御するため、回生電力が発生する見込みがある場合には、予めSOCの比率を低減しておくことができるためである。したがって、本実施形態をハイブリッド式ショベルに適用することで、キャパシタ19の選択の自由度が大きくなる。
なお、F7Cからわかるように、本実施形態において求められる回生見込み目標値SOCetgは、回生電力が発生しないと推定されるきには(QA=0)、従来のSOCの目標上限値よりも高いシステム制御上限値SOCculに等しくなる。また、本実施形態において求められる回生見込み目標値SOCetgは、回生電力が発生すると推定されるときには(QA>0)、システム制御上限値SOCculから推定旋回回生電力QAがキャパシタ19に充電された場合に上昇する充電率(SOC)をシステム制御上限値SOCculから減算した値となる。これにより、キャパシタ19の充電率(SOC)をシステム制御上限値SOCculに近い値に維持しながら、回生電力がキャパシタ19に供給されてもキャパシタ19の充電率(SOC)がシステム制御上限値SOCculを超えることが無いように制御することができる。
また、上述の実施形態では、回生見込み目標値SOCetgを算出するために、推定旋回回生電力QAを求めたが、バケット6の代わりにリフティングマグネットをアームの先端に取り付けたリフマグ式ショベルのように、旋回回生以外の回生機能として、リフマグ回生機能を有する場合、或いは、ブーム回生機能を有する場合には、推定旋回回生電力QAに推定リフマグ回生電力、推定ブーム回生電力を合算した推定回生電力を求めることとすればよい。なお、リフティングマグネットからの回生電力は、リフティングマグネットをオフにしたときに流れる逆電流であり、ほぼ一定の電流値である。したがって、推定リフマグ回生電力は、固定値として設定しておくことができる。また、時刻t0からt10においてキャパシタ19の電圧値が蓄電目標値よりも小さい場合には、キャパシタ19への充電が行なわれる。同様に、時刻t3〜t11においても、キャパシタ19の電圧値が蓄電目標値よりも小さい場合には、キャパシタ19への充電が行なわれる。
さらに、回生見込みが無い場合において、蓄電目標値はシステム制御上限値SOCculと等しい値に設定している。しかしながら、回生の見込みが無い場合において、蓄電目標値は、システム制御上限値SOCculから数%余裕を持たせた値に設定してもよい。また、蓄電目標値は、予め定められた範囲で設定してもよい。
また、上述の実施形態では、エンジン11と電動発電機12とを油圧ポンプであるメインポンプ14に接続してメインポンプを駆動する、いわゆるパラレル型のハイブリッド式ショベルに本発明を適用した例について説明した。しかしながら、本発明は、図8に示すようにエンジン11に直接接続される電動発電機12をエンジン11で駆動し、或いは、図9に示すように変速機13を介してエンジン11に接続される電動発電機12をエンジン11で駆動し、電動発電機12が生成した電力を蓄電系120に蓄積してから蓄積した電力のみによりインバータ及びポンプ用電動機400を介してメインポンプ14を駆動する、いわゆるシリーズ型のハイブリッド式ショベルにも適用することもできる。この場合、電動発電機12は、エンジン11によって駆動させることによる発電運転のみを行なう発電機としての機能を備えている。
また、本発明は上述の具体的に開示された実施例に限られず、本発明の範囲を逸脱することなく様々な変形例、改良例がなされ得る。