JP2014190480A - 一方向クラッチ、および記録装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】クラッチ構造が大きくなることを抑制しつつ伝達可能な動力を大きくすることが可能な一方向クラッチ、およびこの一方向クラッチを備えた記録装置を提供する。
【解決手段】動力により回転する太陽歯車63と、太陽歯車と噛み合う遊星歯車64と、太陽歯車から伝達される動力によって回転可能に設けられ、太陽歯車が第1の向きに回転する場合に遊星歯車と係合状態となることにより太陽歯車の動力が伝達される一方、太陽歯車が第1の向きとは逆の第2の向きに回転する場合に遊星歯車と非係合状態となることにより太陽歯車の動力が非伝達となるアウター部材65と、を備え、遊星歯車が4つ以上設けられている。
【選択図】図3
【解決手段】動力により回転する太陽歯車63と、太陽歯車と噛み合う遊星歯車64と、太陽歯車から伝達される動力によって回転可能に設けられ、太陽歯車が第1の向きに回転する場合に遊星歯車と係合状態となることにより太陽歯車の動力が伝達される一方、太陽歯車が第1の向きとは逆の第2の向きに回転する場合に遊星歯車と非係合状態となることにより太陽歯車の動力が非伝達となるアウター部材65と、を備え、遊星歯車が4つ以上設けられている。
【選択図】図3
Description
本発明は、遊星歯車機構を使用した一方向クラッチと、この一方向クラッチを備えた記録装置に関する。
従来から、例えば液体を噴射する液体噴射ヘッドを記録ヘッドとして備え、その記録ヘッドから用紙などの記録媒体に対して、例えば液体を噴射して画像等を印刷することによって記録する記録部を備えた記録装置が実用化されている。この種の記録装置では、記録部において駆動源の動力によって駆動される搬送部を備え、この搬送部によって記録ヘッドに対して一方向へ搬送される記録媒体に対して、記録ヘッドから液体を噴射するなどして画像等が記録される。
さらに、記録装置では、記録媒体を一方向へ搬送する場合に駆動源の動力を伝達する一方向クラッチを備えた動力伝達部が設けられ、記録媒体が一方向とは反対方向に搬送されないようにしている。そして、この一方向クラッチの一つのクラッチ構造として、遊星歯車機構を使用したクラッチ構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
すなわち、太陽歯車の外周に沿って均等に配置された3個の遊星歯車が、一方向への回転(正回転)時には、太陽歯車に対して相対回転可能に設けられたアウター部材に構成された突起部と係合することにより遊星歯車をロックさせる。このため、太陽歯車とアウター部材が一緒に回転する。一方、一方向とは逆方向への回転(逆回転)時には、遊星歯車がアウター部材内において突起部から離れるように移動して突起部と係合しないことにより遊星歯車が自由に回転する。このため、太陽歯車が回転してもアウター部材は回転しない。このような遊星歯車機構である。
ところで、このような遊星歯車機構を使用した一方向クラッチでは、太陽歯車の外側(外周)に遊星歯車を配置するため、太陽歯車および遊星歯車のピッチ円直径は、太陽歯車を回転させるための入力歯車のピッチ円直径より通常小さくなる。この結果、太陽歯車や遊星歯車の歯面にかかる押圧力は入力歯車の押圧力より大きくなるため、歯車(歯)の破壊を招く虞がある。そこで、歯車の破壊防止のためには、歯幅を増やしたり、歯車のモジュール(ピッチ円直径÷歯数)を大きくして歯を厚くしたりする方法がある。しかしながら、この方法では、クラッチ構造が大きくなるために一方向クラッチが大きくなるという課題がある。
また遊星歯車は、太陽歯車の周囲に同様な隙間を空けて均等に3個が配置されているが、水平方向を軸線方向とする回転軸を中心に太陽歯車が回転する場合、それぞれの遊星歯車は重力が作用するために重力方向に変位する。この結果、遊星歯車は太陽歯車とアウター部材との間で1個のみがロックされた状態が起こり得る。従って、ロックされた1個の遊星歯車で動力を伝達しなければならない場合が発生し、伝達可能な動力が太陽歯車または遊星歯車の1つの歯の強度に応じた値に制限されてしまうという課題がある。
なお、こうした実情は、クラッチ構造として遊星歯車機構を使用した一方向クラッチ、およびこの一方向クラッチを有する記録装置においては、概ね共通するものとなっていた。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、クラッチ構造が大きくなることを抑制しつつ伝達可能な動力を大きくすることが可能な一方向クラッチ、およびこの一方向クラッチを備えた記録装置を提供することを主な目的とする。
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する一方向クラッチは、動力により回転する太陽歯車と、前記太陽歯車と噛み合う遊星歯車と、前記太陽歯車から伝達される動力によって回転可能に設けられ、前記太陽歯車が第1の向きに回転する場合に前記遊星歯車と係合状態となることにより前記太陽歯車の動力が伝達される一方、前記太陽歯車が前記第1の向きとは逆の第2の向きに回転する場合に前記遊星歯車と非係合状態となることにより前記太陽歯車の動力が非伝達となるアウター部材と、を備え、前記遊星歯車が4つ以上設けられている。
上記課題を解決する一方向クラッチは、動力により回転する太陽歯車と、前記太陽歯車と噛み合う遊星歯車と、前記太陽歯車から伝達される動力によって回転可能に設けられ、前記太陽歯車が第1の向きに回転する場合に前記遊星歯車と係合状態となることにより前記太陽歯車の動力が伝達される一方、前記太陽歯車が前記第1の向きとは逆の第2の向きに回転する場合に前記遊星歯車と非係合状態となることにより前記太陽歯車の動力が非伝達となるアウター部材と、を備え、前記遊星歯車が4つ以上設けられている。
この構成によれば、第1の向きに回転する太陽歯車において回転方向が重力方向側に向く歯と噛み合う遊星歯車が、アウター部材と係合することによって、太陽歯車の動力がアウター部材に伝達される場合、アウター部材に係合する遊星歯車の個数が複数になる確率が高くなる。従って、複数の遊星歯車を介して太陽歯車の動力をアウター部材へ伝達することができるので、伝達可能な動力を大きくすることが可能となる。
上記一方向クラッチにおいて、前記遊星歯車は奇数個設けられていることが好ましい。
この構成によれば、遊星歯車を太陽歯車の周囲に沿って移動させるように遊星歯車に対して重力が作用する状態において、作用する重力が遊星歯車を太陽歯車の周囲に沿う方向へ移動させる力として作用しない中立点に位置する遊星歯車の個数は、偶数個の場合最多で2つとなるのに対して、奇数個の場合最多で1つとなる。従って、遊星歯車が奇数個の場合、太陽歯車の動力をアウター部材へ伝達することが可能な遊星歯車の数の減少を抑制することができる。
この構成によれば、遊星歯車を太陽歯車の周囲に沿って移動させるように遊星歯車に対して重力が作用する状態において、作用する重力が遊星歯車を太陽歯車の周囲に沿う方向へ移動させる力として作用しない中立点に位置する遊星歯車の個数は、偶数個の場合最多で2つとなるのに対して、奇数個の場合最多で1つとなる。従って、遊星歯車が奇数個の場合、太陽歯車の動力をアウター部材へ伝達することが可能な遊星歯車の数の減少を抑制することができる。
上記一方向クラッチにおいて、前記遊星歯車は5つ設けられていることが好ましい。
この構成によれば、一方向クラッチが備える遊星歯車の個数を、太陽歯車の動力がアウター部材に伝達される際にアウター部材に係合する遊星歯車の個数を確実に複数個(2つ)にすることが可能な最少の個数にすることができる。従って、クラッチ構造を大きくすることなく伝達可能な動力を大きくすることが可能な一方向クラッチが得られる。
この構成によれば、一方向クラッチが備える遊星歯車の個数を、太陽歯車の動力がアウター部材に伝達される際にアウター部材に係合する遊星歯車の個数を確実に複数個(2つ)にすることが可能な最少の個数にすることができる。従って、クラッチ構造を大きくすることなく伝達可能な動力を大きくすることが可能な一方向クラッチが得られる。
上記課題を解決する記録装置は、動力によって駆動され、記録媒体に対して記録を行う記録部と、駆動源の動力を、上記構成の一方向クラッチを用いて前記記録部に伝達する動力伝達部と、を備える。
この構成によれば、動力伝達部によって伝達される大きな動力によって記録部を駆動することができるので、記録部において安定した記録媒体への記録動作を行うことができる。また、大きくならないように抑制された一方向クラッチによって動力伝達部が大きくならずに済むので、例えば薄型化が可能な記録装置が得られる。
上記記録装置においては、前記記録部は、前記記録媒体を一方向へ搬送する搬送部を有し、前記動力伝達部は、前記駆動源の動力を前記一方向クラッチを用いて前記搬送部へ伝達することが好ましい。
この構成によれば、搬送部に伝達される大きな動力によって記録媒体を一方向へ搬送することができるので、記録媒体が安定して搬送される記録装置が得られる。
以下、記録ヘッドの一例である流体を噴射する流体噴射ヘッドを備え、記録媒体の一例である用紙に流体の一例であるインクを噴射して文字や図形などを含む画像を印刷(記録)する記録装置の一例としての流体噴射装置の一実施形態について、図を参照して説明する。
図1に示すように、流体噴射装置11は、略箱形状を有する筐体で構成される装置本体12と、この装置本体12の図1では右面となる前面に設けられてユーザーの入力操作に用いられる操作パネル13と、を備えている。操作パネル13は、その反重力方向側となる上部を回動軸として装置本体12の前面に対して装置本体12から離れるように前方に回動可能に構成されている。
装置本体12には、用紙Pを複数枚収容可能な給送カセット14が、操作パネル13の下側位置において、着脱可能(挿抜可能)な状態で装着されている。この給送カセット14に積層状態で収容された複数枚の用紙Pは、装置本体12内に備えられたピックアップローラー15により、積層された最上位の用紙Pから順番に一枚ずつ給送カセット14から送り出される。
この給送カセット14の前面には、下部を回動軸として回動可能なカバー16が設けられ、カバー16と操作パネル13とが共に回動して開いた状態で排出口が露出する。この露出した排出口を介して、装置本体12内に設けられた媒体受け部材である略四角板状のスタッカー23が、図中二点鎖線で示すように引き出し可能とされる。また、装置本体12内には、給送カセット14から送り出された用紙Pを一方向へ搬送する搬送部21と、この搬送部21によって搬送された用紙Pに対して印刷を行う記録部20と、が備えられている。
搬送部21は、駆動源から伝達される動力により一方向へ回転駆動される搬送駆動ローラー31と、分離ローラー32と、搬送従動ローラー33とを備えている。分離ローラー32は、搬送駆動ローラー31と接するとともに給送カセット14から送り出される用紙Pに対して分離を行い、確実に最上位の用紙Pのみを搬送する。そして搬送駆動ローラー31と搬送従動ローラー33との間で挟持された最上位の用紙Pは記録部20へ搬送される。
記録部20は、キャリッジ18と、記録ヘッド17と、記録ヘッド17と対向する支持台37と、を備えている。キャリッジ18は、装置本体12内において、搬送される用紙Pの搬送方向Yと交差する図1では紙面と直交する方向となる走査方向Xに延びるように架設されたガイド軸19に案内され、走査方向Xに沿って往復移動可能に設けられている。記録ヘッド17は、搬送される用紙Pにインク滴を噴射する複数のノズルを有し、キャリッジ18の下部に取り付けられている。
そして、記録ヘッド17と対峙しつつ搬送方向Yへ搬送される用紙Pに対して、キャリッジ18が不図示の駆動源の動力によってガイド軸19に案内されつつ走査方向Xに往復動する過程でキャリッジ18に取り付けられた記録ヘッド17からインク滴が噴射されることによって、記録部20において用紙Pに画像が印刷される。このとき、支持台37は、用紙Pを支持し、用紙Pと記録ヘッド17との距離を規定する。
また、記録部20においては、用紙Pの搬送方向Yにおける支持台37の上流側に、用紙Pを搬送方向Yおよび搬送方向Yと逆方向の双方向へ給送可能な媒体給送部25が備えられている。媒体給送部25は、同じく不図示の駆動源から伝達される動力により回転駆動される給送駆動ローラー35と、この給送駆動ローラー35に圧接して従動回転する給送従動ローラー36とを備える。
さらに、用紙Pの搬送方向Yにおける支持台37の下流側に、用紙Pを搬送方向Yおよび搬送方向Yと逆方向の双方向へ搬送可能な送り部28を備える。送り部28は、同じく不図示の駆動源から伝達される動力により回転駆動される第1ローラー38と、第1ローラー38に接して従動回転する第2ローラー39とを備えている。そして、印刷されて記録済みとなった用紙Pは、送り部28において第1ローラー38と第2ローラー39とに挟持された状態で、搬送部21側へ戻されたり、記録部20から送り出されて排出口から装置本体12の前面側に引き出されたスタッカー23へ排出されたりする。
また、本実施形態では、図1では左側となる装置本体12の後側には、用紙Pを手差しで挿入可能な挿入口24を塞ぐ開閉式のカバー22が設けられ、このカバー22を開けた状態で露出する挿入口24から手差しによって用紙Pを搬送部21へ挿入可能とされている。すなわち、挿入口24には、搬送部21においてける搬送駆動ローラー31との間で媒体搬送路を形成する上カバー41と下カバー42とが備えられている。下カバー42は挿入される用紙Pによって押し下げられ、搬送部21の媒体搬送路が挿入口24と連通する。
従って、挿入口24に手差し挿入された用紙Pは、図1において太い二点鎖線で示すように、搬送部21の媒体搬送路に進入し、その先端が搬送駆動ローラー31と搬送従動ローラー33との間に挿入される。この状態で駆動源から伝達される動力によって搬送駆動ローラー31が駆動されることで、用紙Pは記録部20へ搬送される。つまり、給送カセット14からの給送と、挿入口24からの手差しによる給送とにおいて、搬送駆動ローラー31は同じ一方向に回転することによって、用紙Pを記録部20へ搬送する。
さらに、本実施形態では、記録部20においてその片面が印刷された用紙Pが、媒体給送部25における給送駆動ローラー35(第1ローラー38)の逆転によって図1において破線矢印で示すように搬送方向Yとは逆方向に戻される。このとき、搬送駆動ローラー31は同じ一方向に回転することによって、戻された用紙Pを従動ローラー34との間で挟持して搬送部21の媒体搬送路に送り込むとともに、搬送部21によって記録部20へ再送する。この再送によって用紙Pは表裏が反転された状態となる。従って、搬送駆動ローラー31は所謂反転ローラーとして機能する。
そこで、流体噴射装置11では、記録部20(媒体給送部25)において給送駆動ローラー35が駆動源から伝達される動力によって逆転しても、搬送駆動ローラー31は図中実線矢印で示すように常に一方向へ回転する構成を有している。すなわち、流体噴射装置11は、駆動源の動力のうち搬送部21に対して搬送駆動ローラー31を定められた方向に回転させる動力のみを伝達する一方向クラッチを備えた動力伝達部50を備えている。
次に、図2を参照して、動力伝達部50について説明する。なお、図2は、流体噴射装置11において、装置本体12を構成する筐体やキャリッジ18などの動力伝達部50の説明に必要のない構成要素が適宜取り外された状態で図示されている。
図2に示すように、動力伝達部50は複数の歯車からなる輪列によって構成され、流体噴射装置11の装置本体12を支持する支持フレーム45において走査方向Xの側端部に設けられたフレーム側壁部45Aに取り付けられている。そして、複数の歯車のうち、媒体給送部25における給送駆動ローラー35の回動軸端に取り付けられた給送駆動歯車55と、不図示の送り部28における第1ローラー38の回動軸端に取り付けられた送り駆動歯車58とが、一つの伝達歯車52を介して連結されている。したがって、少なくとも給送駆動歯車55と送り駆動歯車58とは、不図示の駆動源から伝達される動力により共に同じ方向に正逆回転する。なお、給送駆動ローラー35の回動軸端には、給送駆動ローラー35の回転量や回転速度を検出するためのエンコーダー56が取り付けられている。
一方、搬送部21における搬送駆動ローラー31の回動軸端に取り付けられた搬送駆動歯車51は、給送駆動歯車55との間に互いに噛み合うように配設された複数の伝達歯車によって給送駆動歯車55の回動が伝達される。このとき、複数の伝達歯車のうちの一つは、給送駆動歯車55が、用紙Pを搬送方向Yへ搬送する際の回転方向へ正回転する場合に、駆動源の動力を搬送駆動歯車51に伝達して搬送駆動ローラー31を正回転方向の一方向へのみ回転させる一方向クラッチ60とされている。
従って、一方向クラッチ60と給送駆動歯車55との間で動力を伝達する複数の伝達歯車53は、それぞれ正逆双方向へ回転するのに対して、一方向クラッチ60と搬送駆動歯車51との間で動力を伝達する複数の伝達歯車54は、正逆のうちいずれか一方向へのみ回転する。そして、図2に示すように、動力伝達部50が複数の歯車によって構成されることからも判るように、流体噴射装置11の薄型化などに起因して支持フレーム45において輪列を構成可能な領域が制限されるため、一方向クラッチ60は、その大きさ(外形)は出来るだけ小さいことが好ましい。またその厚さも出来るだけ薄いことが好ましい。
ところで、本実施形態において、例えば挿入口24から給送された用紙Pが記録部20への搬送途中で搬送不可状態(ジャム状態)となった場合などでは、図1において白抜き矢印で示すように用紙Pは挿入口24から引き抜かれることになる。このような場合は、搬送部21において搬送駆動ローラー31と搬送従動ローラー33との間に挟持された用紙Pが、その引き抜きに伴って、搬送駆動ローラー31に対して一方向とは逆方向に大きなトルクを加えることになる。
すると、搬送駆動ローラー31に加わった逆方向への大きなトルクは、動力伝達部50において伝達歯車54を介して一方向クラッチ60の動力の出力側に対して加わった状態となる。この状態は、一方向クラッチ60において相対的に動力の入力側に大きなトルクが加わった状態と略等しくなる。このとき、本実施形態の一方向クラッチ60は、その構造が大きくなることを抑制しつつ伝達可能な動力(トルク)を大きくするクラッチ構造を有し、このように大きなトルクが加わっても一方向クラッチ60の機能が損なわれることが抑制可能とされている。
次に、図3を参照して、本実施形態の一方向クラッチ60の構造を説明する。
図3に示すように、一方向クラッチ60は、給送駆動歯車55の回動が伝達歯車53を介して伝達されることによって軸KJを回転軸として回転可能な動力入力側となる入力歯車61と、同じく軸KJを回転軸として回転可能な動力出力側となる出力歯車62と、を備えている。そして、入力歯車61の正逆いずれか一方の回転を出力歯車62に伝達するクラッチ構造として遊星歯車機構を備えている。
図3に示すように、一方向クラッチ60は、給送駆動歯車55の回動が伝達歯車53を介して伝達されることによって軸KJを回転軸として回転可能な動力入力側となる入力歯車61と、同じく軸KJを回転軸として回転可能な動力出力側となる出力歯車62と、を備えている。そして、入力歯車61の正逆いずれか一方の回転を出力歯車62に伝達するクラッチ構造として遊星歯車機構を備えている。
遊星歯車機構は、入力歯車61に連結されて軸KJを回転軸として入力歯車61と一緒に回動する太陽歯車63と、この太陽歯車63と噛み合って回転する遊星歯車64と、出力歯車62が外周に設けられ太陽歯車63と同じ軸KJを回転軸として回転可能なアウター部材65と、を備えている。そして、本実施形態では、遊星歯車64は5個設けられるとともに、軸KJは軸線方向が走査方向Xに沿う略水平な方向とされている。従って、この軸KJと直交する太陽歯車63の回転面および太陽歯車63に噛み合う遊星歯車64の回転面は、凡そ鉛直方向に沿う面となり、遊星歯車64は重力を受けて重力方向Gへ落下可能つまり変位可能とされている。
なお、本実施形態では、説明を容易にするため、軸KJを中心とする回転方向のうち、図3において紙面表側から見て実線矢印で示す時計方向への回転を正回転CWとし、破線矢印で示す反時計方向への回転を逆回転CCWとする。そして、一方向クラッチ60において、太陽歯車63が第1の向きへの回転として正回転CWする場合に入力歯車61の動力がアウター部材65(出力歯車62)に伝達されるものとして説明する。
アウター部材65には、遊星歯車64を収容可能な空間領域を有する収容部66が、太陽歯車63の周囲において仕切部位68を挟んで同様の間隔を隔てて5つ設けられている。すなわち、各収容部66は、遊星歯車64の外径Duと、図3において二点鎖線の円弧で示すように太陽歯車63の外周を公転する際の遊星歯車64の公転方向における隙間Sとを加算した長さを有する空間領域で形成されている。なお、隣り合う収容部66間に形成される仕切部位68の幅Hは、太陽歯車63の外周を公転する際の遊星歯車64の公転軌跡の長さから、遊星歯車64の外径Duと隙間Sとを差し引いた残りの長さの5分の1となる。
各収容部66には、その空間領域内に向かって突出する突起部67が、太陽歯車63の正回転CW方向側の壁部66aに形成されている。また、各収容部66において、遊星歯車64は、太陽歯車63との噛み合いが維持された状態で、太陽歯車63の外周に沿って、壁部66aと、太陽歯車63の逆回転CCW方向側に形成された壁部66bと、の間を移動可能である。
そして、遊星歯車64が壁部66a側へ移動した状態において、太陽歯車63が第1の向きへの回転として正回転CWした場合、遊星歯車64は突起部67と係合状態となる。この結果、遊星歯車64は回転が規制されたロック状態となり、太陽歯車63の動力がアウター部材65に伝達されるので、出力歯車62は入力歯車61と一緒に回転する。一方、遊星歯車64が壁部66b側へ移動した状態において、太陽歯車63が第1の向きとは逆の第2の向きの回転として逆回転CCWした場合、遊星歯車64は突起部67と非係合状態となる。この結果、遊星歯車64は自由に回転する空転状態となり、アウター部材65つまり出力歯車62には入力歯車61の回転が伝達されない。もとより、突起部67は遊星歯車64の歯間に進入可能な形状で形成されるとともに、隙間Sは突起部67の突出量よりも大きく形成されている。
さて、本実施形態の一方向クラッチ60は、太陽歯車63に噛み合う各遊星歯車64に対して重力が作用し、この重力の作用によって太陽歯車63の周囲(外周)に沿って重力方向G側へ変位(落下)する。この結果、図3に示すように、各遊星歯車64のうち、太陽歯車63において重力方向G側へ回転する歯つまり軸KJを通る鉛直線Zよりも右側の歯と噛み合う遊星歯車64a,64bは、壁部66aに近づく方向に変位した状態となる。一方、鉛直線Zよりも左側の歯と噛み合う遊星歯車64c,64d,64eは、突起部67から離れる壁部66bに近づく方向に変位した状態となる。
遊星歯車64がこのような図3に示す状態となった一方向クラッチ60において、太陽歯車63(入力歯車61)が正回転CWしたとき、太陽歯車63によって回転(逆回転CCW)させられる各遊星歯車64のうち、2つの遊星歯車64a,64bは、ほぼ同時に突起部67と係合してその回転(逆回転CCW)が規制されたロック状態となる。一方、遊星歯車64c,64d,64eは太陽歯車63によって回転(逆回転CCW)させられることによって突起部67側に近づく方向へ移動しようとするが、作用する重力によって突起部67から離れるように戻され、壁部66bに摺接しながら自由に回転する。従って、遊星歯車64a,64bがロック状態となって太陽歯車63とアウター部材65とが一緒に回転を開始した時点において、自由に回転していた遊星歯車64c,64d,64eは突起部67とは係合しない。
もとより、遊星歯車64が図3に示す状態となった一方向クラッチ60において、太陽歯車63(入力歯車61)が逆回転CCWしたとき、太陽歯車63によって回転(正回転CW)させられる各遊星歯車64は、突起部67から離れるように回転(正回転CW)する。このとき、遊星歯車64a,64bについては重力によって突起部67側に近づく方向への力が作用するものの、遊星歯車64a,64bは、突起部67を支点として正回転CWすることによって重力に抗して突起部67から離れる方向へ移動するため、突起部67との係合が解除される。従って、各収容部66において、遊星歯車64は突起部67と係合することなく空転する。
なお、太陽歯車63に噛み合う5つの遊星歯車64は太陽歯車63の周囲に略等間隔に配置されるので、重力方向G側へ移動してアウター部材65へ動力を伝達することが可能な遊星歯車64の個数は、アウター部材65(収容部66)の回転位置の変化に伴って規則的に変化する。従って、太陽歯車63の動力をアウター部材65へ伝達することが可能な遊星歯車64の個数が安定する。
次に、本実施形態のクラッチ構造を有する一方向クラッチ60の作用を説明する。
図3に示すように、本実施形態の一方向クラッチ60は、少なくとも2つの遊星歯車64が安定してロック状態となって太陽歯車63の正回転CWをアウター部材65に伝達することによって、入力歯車61の動力(トルク)に対して出力歯車62に伝達可能な動力(トルク)の割合を大きくするように作用する。
図3に示すように、本実施形態の一方向クラッチ60は、少なくとも2つの遊星歯車64が安定してロック状態となって太陽歯車63の正回転CWをアウター部材65に伝達することによって、入力歯車61の動力(トルク)に対して出力歯車62に伝達可能な動力(トルク)の割合を大きくするように作用する。
具体的に説明すると、太陽歯車63と遊星歯車64はアウター部材65(出力歯車62)内に設けられるので、太陽歯車63のピッチ円直径Ptと遊星歯車64のピッチ円直径Puの2倍との加算値が出力歯車の外径D2よりも小さい。また、入力歯車61に加わる動力よりも出力歯車62に伝達される動力は小さくなることから、通常、入力歯車61の外径D1(詳しくはピッチ円直径IPCD)は、出力歯車62の外径D2よりも大きい。
本実施形態では、遊星歯車機構の構成領域、つまりクラッチ構造が大きくならないように、遊星歯車64のピッチ円直径Puを小さくすること、および遊星歯車64の歯(歯形)の強度や太陽歯車63との円滑な噛み合いを確保すること、などの条件から、遊星歯車64の歯数を9枚、モジュールを0.4としている。そして、遊星歯車64の個数が5つであることから、太陽歯車63と噛み合う遊星歯車64が太陽歯車63の周囲において互いに同様の間隔を隔てて位置するように、太陽歯車63の歯数を、5の倍数とするとともに、各収容部66において遊星歯車64と安定した噛み合いが得られるように20枚としている。
ちなみに、本実施形態の太陽歯車63のピッチ円直径Ptは8ミリメートルとされ、従って遊星歯車64のピッチ円直径Puは3.6ミリメートルとされている。また、入力歯車61のピッチ円直径IPCDは22.8ミリメートルとされている。従って、歯車の強度に関わらず伝達トルクが同じであるとした場合、太陽歯車63に負荷される押圧力の、入力歯車61に負荷される押圧力に対する押圧力比Tcは、Tc(=IPCD÷Pt)=22.8÷8=2.85となる。ここで、各歯車において押圧力に耐える歯の強度が同じであると仮定すると、入力歯車61の動力(トルク)に対する太陽歯車63が伝達可能な動力(トルク)の割合は、入力歯車61に加わる動力(トルク)の2.85分の1(約35%)と小さくなる。
そこで、本実施形態の5つの遊星歯車64が設けられた一方向クラッチ60では、少なくとも2つの遊星歯車64がロック状態となって太陽歯車63と噛み合うことにより、2つの歯車(歯)によって動力がアウター部材65に伝達される。この結果、押圧力は2つの歯車(歯面)が分担して受けるため、太陽歯車63に負荷される実際の押圧力比Tcは、Tc=2.85÷2=1.425となる。従って、太陽歯車63が伝達可能な動力(トルク)は、入力歯車61に加わる動力(トルク)の1.425分の1(約70%)となり、入力歯車61の動力(トルク)に対する割合を略2倍まで大きくすることができる。
また、本実施形態の一方向クラッチ60は、遊星歯車64を5つとすることで、他の遊星歯車64の個数に比べてクラッチ構造を大きくすることなく伝達可能な動力を大きくするように作用する。
以下、図4(a),(b)〜図9を参照して、遊星歯車64を5つ設けた一方向クラッチ60の作用について説明する。なお、以降の説明では、この5つの遊星歯車64の作用に対する理解を容易にするため、まず比較例として遊星歯車64の個数が3つの従来のクラッチ構造を説明する。その後、遊星歯車64の個数が4つ、5つ、6つのクラッチ構造をそれぞれ説明する。なお、参照する各図において、上記実施形態と同じ構成要素については同符号を付し、それらの説明を適宜省略する。
まず、図4(a)に示すように、遊星歯車64を3つとした従来のクラッチ構造の場合、軸KJを通る鉛直線Zよりも右側において、正回転CWする太陽歯車63における重力方向G側へ回転する歯と2つの遊星歯車64a,64bが噛み合う場合、この2つの遊星歯車64a,64bが突起部67と係合してロック状態となる。すなわち、最大で2つの遊星歯車64がロック状態となるロック歯車として機能する。この2つのロック歯車によって、アウター部材65が太陽歯車63の正回転CWと一緒に正回転CWする。
一方、図4(b)に示すように、一つの遊星歯車64cの中心Cuが軸KJを通る鉛直線Z上に位置した場合、この遊星歯車64cは重力が作用しても太陽歯車63の周囲に沿って変位(移動)することが抑制された状態、すなわち中立点に位置した状態となる。もとより、ここでは図示しないが、中立点は、太陽歯車63に対して上側の上中立点と下側の下中立点の2つが存在する。この結果、中立点(ここでは上中立点)に位置する遊星歯車64cは、突起部67と係合してロック状態になる確率は低く、このため、軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する1つの遊星歯車64aのみがロック歯車として機能する。従って、図4(a),(b)から判るように、遊星歯車64が3つの場合は、一つの遊星歯車64のみがロック歯車となる確率が高く、従って伝達可能なトルク(動力)を大きくすることは困難である。
なお、遊星歯車64が3つの場合は、太陽歯車63の歯数を、太陽歯車63の周囲において各遊星歯車64が互いに同様の間隔を隔てて位置するように3の倍数とするとともに、一方向クラッチ60において予め設定されたトルクを伝達可能とする所定のピッチ円直径Ptが得られる18枚が採用される。
次に、図5(a)に示すように、遊星歯車64を4つとしたクラッチ構造の場合、正回転CWする太陽歯車63の重力方向G側へ回転する歯と噛み合う遊星歯車64、つまり図5(a)において軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する2つの遊星歯車64a,64bが収容部66において突起部67と係合してロック状態となる。このように、通常は2つの遊星歯車64がロック状態となるロック歯車として機能し、太陽歯車63の正回転CWと一緒にアウター部材65を正回転CWさせる。
一方、図5(b)に示すように、2つの遊星歯車64b,64dの各中心Cuが、軸KJを通る鉛直線Z上に位置した場合、この遊星歯車64cは重力が作用しても太陽歯車63の周囲に沿って変位(移動)することが抑制された状態、すなわち中立点に位置した状態となる。ここでは、遊星歯車64dが上中立点に位置し、遊星歯車64bが下中立点に位置した状態となる。この結果、中立点に位置する遊星歯車64b,64dは、収容部66において突起部67と係合してロック状態になる確率は低く、したがって軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する1つの遊星歯車64aのみがロック歯車として機能する。ただし、2つの遊星歯車64がこのように中立点に位置する状態は稀であり、従って多くの場合は2つの遊星歯車64がロック状態となる。
なお、遊星歯車64が4つの場合は、太陽歯車63の歯数を、太陽歯車63の周囲において互いに同様の間隔を隔てて位置するように4の倍数とするとともに、太陽歯車63の押圧力比Tcが大きくなって太陽歯車63の伝達可能なトルクが減少しないように、従来の太陽歯車63の歯数18枚より多くする。同時に、クラッチ構造が大きくなることを抑制するために、遊星歯車64が4つの場合の太陽歯車63の歯数は、従来の太陽歯車63の歯数18枚に最も近い20枚としている。
次に、図6(a)に示すように、遊星歯車64を5つとしたクラッチ構造の場合、正回転CWする太陽歯車63の重力方向G側へ回転する歯と噛み合う遊星歯車64、つまり図6(a)において軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する3つの遊星歯車64a,64b,64cが収容部66において突起部67と係合してロック状態となる。すなわち、最大で3つの遊星歯車64がロック歯車として機能し、太陽歯車63の正回転CWと一緒にアウター部材65を正回転CWさせる。
一方、図6(b)に示すように、1つの遊星歯車64eの中心Cuが、軸KJを通る鉛直線Z上に位置した場合、この遊星歯車64eは重力が作用しても太陽歯車63の周囲に沿って変位(移動)することが抑制された状態、すなわち中立点に位置した状態となる。もとより、ここでは図示しないが、中立点は、太陽歯車63に対して上側の上中立点と下側の下中立点の2つが存在する。この結果、中立点(ここでは上中立点)に位置する遊星歯車64eは、収容部66において突起部67と係合してロック状態になる確率は低く、したがって、軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する2つの遊星歯車64a,64bがロック歯車として機能する。すなわち、図3に示した状態と同様、少なくとも2つの遊星歯車64がロック歯車として機能する。
なお、遊星歯車64が5つの場合は、太陽歯車63の歯数を、太陽歯車63の周囲において互いに同様の間隔を隔てて位置するように5の倍数とするとともに、太陽歯車63の押圧力比Tcが大きくなって太陽歯車63の伝達可能なトルクが減少しないように、従来の太陽歯車63の歯数18枚より多くする。同時に、クラッチ構造が大きくなることを抑制するために、遊星歯車64が5つの場合の太陽歯車63の歯数は、従来の太陽歯車63の歯数18枚に最も近い20枚としている。
さらに、図7に示すように、遊星歯車64を6つとしたクラッチ構造の場合は、正回転CWする太陽歯車63の重力方向G側へ回転する歯と噛み合う遊星歯車64、つまり図7において軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する3つの遊星歯車64a,64b,64cが突起部67と係合してロック状態となる。すなわち、通常は3つの遊星歯車64がロック状態となるロック歯車として機能し、太陽歯車63の正回転CWと一緒にアウター部材65を正回転CWさせる。
このとき、図7に示すように、太陽歯車63の外周において、図6などに示すような隣り合う収容部66間を仕切る仕切部位68を形成することが困難となる。このため、隣り合う収容部66間において、遊星歯車64同士が干渉することによってロック歯車として機能できない場合が起こり得る。従って、遊星歯車64の個数が6つ以上の場合は、ピッチ円直径Ptを大きくすることによって収容部66間に仕切部位68を形成することが可能な20枚が最少の太陽歯車63の歯数となる。このため、遊星歯車64の個数が6つの場合、太陽歯車63の歯数は、太陽歯車63の周囲において遊星歯車64が互いに同様の間隔を隔てて位置するように20以上の6の倍数とされるとともに、クラッチ構造が大きくなることを抑制するために、従来の太陽歯車63の歯数18枚に最も近い24枚に設定される。
なお、ここでは図示による説明は省略するが、遊星歯車64が6つ(偶数)の場合は、4つの場合と同様に、2つの遊星歯車64の各中心Cuが軸KJを通る鉛直線Z上に位置したとき、各遊星歯車64は、重力が作用しても太陽歯車63の周囲に沿って移動することが抑制された状態、すなわち中立点に位置した状態となる。この結果、中立点に位置する2つの遊星歯車64は、収容部66において突起部67と係合してロック状態になる確率は低く、したがって、軸KJを通る鉛直線Zよりも右側に位置する2つの遊星歯車64がロック状態となる。すなわち、最少で2つの遊星歯車がロック歯車として機能する。
次に、図8を参照して、異なる個数の遊星歯車64のクラッチ構造を有する一方向クラッチ60について、その大きさと伝達可能トルクについて説明する。なお、ここでは、前述するように、遊星歯車64の歯数が9枚でピッチ円直径Puが一定であるものとしている。
図8に示すように、一方向クラッチ60の大きさを表す入力歯車61の外径D1に比例する入力歯車61のピッチ円直径IPCDは、太陽歯車63の歯数に応じて大きくなる。また、太陽歯車63が伝達可能なトルクを表す入力歯車61に対する太陽歯車63の押圧力比Tcは、太陽歯車63のピッチ円直径Ptと相関する太陽歯車63の歯数の増加に伴って小さくなる。つまり、伝達可能なトルクは大きくなる。さらに、押圧力比Tcは、ロック状態になる遊星歯車64の個数、つまりロック歯車数に依存する。
ここで、図8に示す押圧力比Tcにおいては、遊星歯車64が3個の場合はロック歯車数を1つとし、遊星歯車64が4個と5個の場合はロック歯車数を2つとしている。また、遊星歯車64が6個と7個の場合はロック歯車数を3つ、さらに、遊星歯車64が8個と9個の場合はロック歯車数を4つとしている。なぜなら、遊星歯車64が偶数個の場合において、図5(b)において説明したように、2つの遊星歯車64が中立点に位置する状態は稀であって、多くの場合は半分の遊星歯車64がロック状態になるからである。また、遊星歯車64が奇数個の場合は、図6(b)において説明したように、1つの遊星歯車64が中立点に位置する場合において、少なくとも残りのうちの半分の遊星歯車64がロック状態になるからである。
従って、遊星歯車64が4個および5個の場合は、図8において符号S1で示すように太陽歯車63の歯数が上述した20枚に設定され、このときの押圧力比Tcは前述するようにTc=1.425である。従って、符号SJで示した従来の太陽歯車63の歯数が18枚で遊星歯車が3個の場合の押圧力比Tcの約半分の値まで低下させることができる。また、このとき、太陽歯車63の歯数は、遊星歯車3個の場合の太陽歯車63の歯数18枚に対して2枚のみの増加で済むので、太陽歯車63のピッチ円直径Ptの増加が抑制される。この結果、クラッチ構造が大きくなることが抑制され、ピッチ円直径IPCDは遊星歯車3個の場合の値よりも僅かに大きくなる程度で済む。
これに比べて、遊星歯車64が6個の場合、図8において符号S2で示すように、太陽歯車63の歯数は、仕切部位68の形成が可能な枚数が20枚以上となり、従って6の倍数となる最少の24枚に設定される。このため、ロック歯車の増加によって押圧力比Tcは小さくなる一方、太陽歯車63の歯数は、遊星歯車3個の場合の太陽歯車63の歯数18枚に対して6枚増加する。この結果、クラッチ構造が大きくなることについては抑制するものの、入力歯車61のピッチ円直径IPCDは、遊星歯車5個の場合の値よりも大きくなる。
同じく、遊星歯車64が7個の場合、図8において符号S3で示すように、太陽歯車63の歯数は、仕切部位68の形成が可能な枚数が24枚以上となり、従って7の倍数となる最少の28枚に設定される。このため、ロック歯車の増加によって押圧力比Tcは小さくなる一方、遊星歯車3個の場合の太陽歯車63の歯数18枚に対して10枚増加する。この結果、クラッチ構造が大きくなることについては抑制するものの、入力歯車61のピッチ円直径IPCDは、遊星歯車5個および6個の場合の値よりも大きくなる。
同様に、遊星歯車64が8個の場合は、太陽歯車63の歯数は、仕切部位68を形成可能な枚数が28枚以上となり、従って8の倍数となる最少の32枚に設定される。また、遊星歯車64が9個の場合は、太陽歯車63の歯数は、仕切部位68を形成可能な枚数が33枚以上となり、従って9の倍数となる最少の36枚に設定される。このため、ロック歯車の増加によってそれぞれ押圧力比Tcは小さくなる一方、遊星歯車3個の場合の太陽歯車63の歯数18枚に対してそれぞれ大幅に枚数が増加する。この結果、クラッチ構造が大きくなることについては抑制するものの、入力歯車61のピッチ円直径IPCDは、遊星歯車5個、6個、7個の場合の値よりも大きくなる。
この結果、図9に示すように、上述した説明内容に基づいて、遊星歯車64の個数に応じたクラッチ構造を有する一方向クラッチ60の特性を比較するテーブルが作成される。すなわち、テーブルにおいて○印で示すように、遊星歯車64の個数が4つ以上であれば、伝達可能な動力を大きくすることが可能である。なお、遊星歯車64の個数が4つの場合は、テーブルでは○(△)印で示される。これは、遊星歯車64の個数が3つの場合と同じく最多ロック歯車の個数は2つであるが、前述するように、2つの遊星歯車64が図5(b)に示す中立点に位置する状態が稀に存在するからである。また、遊星歯車64の個数が6つ以上の場合は、押圧力を分担するロック歯車の数が多くなることによって、伝達トルクを更に大きくすることがさらに可能である一方、テーブルにおいて△印で示すように、太陽歯車63の歯数増加に伴ってクラッチ構造が大きくなることによって一方向クラッチ60が大きくなる。
従って、図9のテーブルから判るように、遊星歯車64が5つ設けられたクラッチ構造を有する一方向クラッチ60は、最少ロック歯車の個数が2つとなることによって伝達トルクを高い確率で大きくする。同時に、遊星歯車64が4つ以上の他の個数設けられたクラッチ構造に比べて、太陽歯車63の歯数増加を抑制するのでクラッチ構造が大きくならずに済む。
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第1の向きとしての正回転CW方向に回転する太陽歯車63において回転方向が重力方向G側に向く歯と噛み合う遊星歯車64が、アウター部材65と係合することによって、太陽歯車63の動力がアウター部材65に伝達される場合、アウター部材65に係合する遊星歯車64の個数が複数になる確率が高くなる。従って、クラッチ構造が大きくなることを抑制しつつ複数の遊星歯車64を介して太陽歯車63の動力をアウター部材65へ伝達することができるので、伝達可能な動力を大きくすることが可能となる。
(1)第1の向きとしての正回転CW方向に回転する太陽歯車63において回転方向が重力方向G側に向く歯と噛み合う遊星歯車64が、アウター部材65と係合することによって、太陽歯車63の動力がアウター部材65に伝達される場合、アウター部材65に係合する遊星歯車64の個数が複数になる確率が高くなる。従って、クラッチ構造が大きくなることを抑制しつつ複数の遊星歯車64を介して太陽歯車63の動力をアウター部材65へ伝達することができるので、伝達可能な動力を大きくすることが可能となる。
(2)遊星歯車64を太陽歯車63の周囲に沿って移動させるように遊星歯車64に対して重力が作用する状態において、作用する重力が遊星歯車64を太陽歯車63の周囲に沿う方向へ移動させる力として作用しない中立点に位置する遊星歯車64の個数は、偶数個の場合最多で2つとなるのに対して、奇数個の場合最多で1つとなる。従って、遊星歯車64が奇数個の場合、太陽歯車63の動力をアウター部材65へ伝達することが可能な遊星歯車64の数の減少を抑制することができる。
(3)一方向クラッチ60が備える遊星歯車64の個数を、5つとすることによって、太陽歯車63の動力がアウター部材65に伝達される際にアウター部材65に係合する遊星歯車64の個数を確実に複数個(2つ)にすることが可能な最少の個数にすることができる。従って、クラッチ構造を大きくすることなく伝達可能な動力を大きくすることが可能な一方向クラッチが得られる。
(4)搬送部21に伝達される大きな動力によって用紙Pを一方向へ搬送することができるので、用紙Pが安定して搬送される流体噴射装置11が得られる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、動力伝達部50は、駆動源の動力を、一方向クラッチ60を用いて記録部20に伝達するようにしてもよい。例えば、流体噴射装置11において用紙Pの反転機構を有しない場合、記録部20において、媒体給送部25が用紙Pを搬送方向Yの一方向へ搬送する構成とされる場合がある。このような場合は、記録部20を構成する媒体給送部25に対して、駆動源から一方向クラッチ60を用いて動力を伝達する構成にすればよい。
この変形例によれば、次の効果が得られる。
(5)伝達される大きな動力によって記録部20(媒体給送部25)を駆動することができるので、記録部20において安定した用紙Pへの記録動作を行うことができる。また、大きくならないように抑制された一方向クラッチ60によって動力伝達部50が大きくならずに済むので、例えば薄型化が可能な流体噴射装置11が得られる。
(5)伝達される大きな動力によって記録部20(媒体給送部25)を駆動することができるので、記録部20において安定した用紙Pへの記録動作を行うことができる。また、大きくならないように抑制された一方向クラッチ60によって動力伝達部50が大きくならずに済むので、例えば薄型化が可能な流体噴射装置11が得られる。
・上記実施形態の一方向クラッチ60においては、遊星歯車64は、必ずしも5つの奇数個設けられていなくてもよい。例えば6つなどの偶数個であってもよい。偶数個の場合は、中立点に位置する遊星歯車64の個数が、奇数個の場合の1つより多い2つになるが、このように2つの遊星歯車64が中立点に位置する確率は低いと考えられることから、ロック歯車として機能する遊星歯車64の個数を複数とすることができる。従って、上記実施形態における効果(1)と同様な効果を奏する。
・上記実施形態の一方向クラッチ60において、設けられる遊星歯車64の個数は必ずしも5つでなく4つ以上設けられていればよい。この構成によれば、図9に示すように、従来採用されている遊星歯車64の個数が3つの場合に比べて、一方向クラッチ60において伝達可能な伝達トルクを大きくすることが可能である。従って、上記実施形態における効果(1)と同様な効果を奏する。
・上記実施形態および上記変形例の一方向クラッチ60において、遊星歯車64は、太陽歯車63の周囲において、必ずしも互いに同様の間隔を隔てて設けられていなくてもよい。例えば、上記実施形態において、太陽歯車63の歯数を5の倍数の20枚ではなく、19枚や21枚としてもよい。こうすることによって、太陽歯車63の周囲に位置する遊星歯車64は、5箇所の隣り合う遊星歯車64間に存在する太陽歯車63の歯数が、他の箇所に比べて一箇所一枚多くなるか一枚少なくなるので、この一箇所だけ遊星歯車64間の間隔が異なる。もとより、このように一箇所だけ遊星歯車64間の間隔が異なっても、他の遊星歯車64間は同様の間隔を隔てているので、上記実施形態における効果(1)〜(5)と同様の効果を得ることが期待できる。換言すれば、上記実施形態における効果(1)〜(5)と同様の効果を得ることが可能な範囲であれば、互の遊星歯車64間の間隔を異ならせても差し支えない。
・上記実施形態において、記録媒体は用紙Pに限るものでなく、金属板、樹脂板、布などを材料とする板状部材であってもよい。すなわち、記録部20において流体による印刷(記録)が可能な部材であれば、記録媒体の一つとして採用できる。また、記録媒体は必ずしも搬送部材によって搬送されなくてもよい。
・上記実施形態において、記録装置は、インク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体、流体として流して噴射できる固体を含む)を噴射したり吐出したりして記録を行う流体噴射装置であってもよい。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射して記録を行う液状体噴射装置であってもよい。また、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体(粉粒体)を例とする固体を噴射する粉粒体噴射装置(例えばトナージェット式液体噴射装置)であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。なお、本明細書において「流体」とは、気体のみからなる流体を含まない概念であり、流体には、例えば液体(無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)等を含む)、液状体、流状体、粉粒体(粒体、粉体を含む)などが含まれる。
・上記実施形態において、記録装置は流体噴射装置に限らない。例えば、キャリッジ18に流体噴射ヘッド17以外の記録ヘッドが備えられた装置であってもよい。例えば、キャリッジ18に記録ヘッドの一例としてのサーマルヘッドを備え、記録媒体の一例としての感熱紙に対して記録を行う記録装置であってもよい。あるいは、記録ヘッドとして紫外線やレーザーなどの光を感光体へ照射するヘッドを備えた装置であってもよい。
11…流体噴射装置(記録装置の一例)、20…記録部、21…搬送部、50…動力伝達部、60…一方向クラッチ、63…太陽歯車、64,64a,64b,64c,64d,64e…遊星歯車、65…アウター部材。
Claims (5)
- 動力により回転する太陽歯車と、
前記太陽歯車と噛み合う遊星歯車と、
前記太陽歯車から伝達される動力によって回転可能に設けられ、前記太陽歯車が第1の向きに回転する場合に前記遊星歯車と係合状態となることにより前記太陽歯車の動力が伝達される一方、前記太陽歯車が前記第1の向きとは逆の第2の向きに回転する場合に前記遊星歯車と非係合状態となることにより前記太陽歯車の動力が非伝達となるアウター部材と、
を備え、
前記遊星歯車が4つ以上設けられていることを特徴とする一方向クラッチ。 - 前記遊星歯車は奇数個設けられていることを特徴とする請求項1に記載の一方向クラッチ。
- 前記遊星歯車は5つ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の一方向クラッチ。
- 動力によって駆動され、記録媒体に対して記録を行う記録部と、
駆動源の動力を、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の一方向クラッチを用いて前記記録部に伝達する動力伝達部と、
を備えることを特徴とする記録装置。 - 前記記録部は、前記記録媒体を一方向へ搬送する搬送部を有し、
前記動力伝達部は、前記駆動源の動力を前記一方向クラッチを用いて前記搬送部へ伝達することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
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2013
- 2013-03-28 JP JP2013068157A patent/JP2014190480A/ja active Pending
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