JP2014184720A - 芳香族ポリカーボネート樹脂成形体 - Google Patents

芳香族ポリカーボネート樹脂成形体 Download PDF

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Abstract

【課題】耐薬品性、機械的特性等に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂成形体をグレージング用枠部材に用いることにより、従来行っていたハードコート処理を行うことなく、プライマーを介したウレタン接着化を可能とし、耐久信頼性のある窓枠部材を提供する。
【解決手段】樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出率10〜100cm/s、かつ、以下に定義される面進行係数40〜200cm/s・cmの条件で射出成形してなる芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
面進行係数:上記射出率を、樹脂組成物が射出される金型キャビティの厚みで除した値
【選択図】図1

Description

本発明は、グレージング用窓枠部材の成形材料として好適な、耐薬品性、機械的特性等に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂成形体に関する。
本発明はまた、この芳香族ポリカーボネート樹脂成形体よりなる枠部材を有するパネル及びパネル設置構造と、このパネル設置構造を備える車輌に関する。
近年、自動車分野等において、軽量化の目的で、ガラス代替の樹脂窓(グレージング)についての検討が種々なされている。
グレージングは、通常、透明窓部(本発明に係るパネル本体)と、その周縁部の窓枠(本発明に係る枠部材)から構成され、一般に、窓枠も含め、射出成形による一体成形で製造されている。
図1は、自動車のパノラマルーフに用いられるグレージング用パネルを示す図であり、(a)図は背面(裏面ないしは後面、自動車に取り付けた際に車室側となる面)図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は、このグレージングの自動車ルーフへの取り付け構造を示す部分断面図である。
このパネル1は、パネル本体2とパネル本体2の後面の周縁部に設けられた枠部材3とで構成され、このパネル1を自動車ルーフに取り付ける際には、(c)図のように、車体フレーム4に対して枠部材3をウレタン系等の接着剤5で接着すると共に、パネル1と車体フレーム4との隙間にゴム製のシール部材(ウェザーストリップ)6を嵌め込んで固定する。
従来、このようなグレージング用窓枠部材(図1における枠部材3)の成形材料としては、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂の複合樹脂に無機充填材を配合した樹脂組成物が用いられている(例えば特許文献1)。
しかしながら、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂の複合樹脂では、耐薬品性が悪いために、枠部材をウレタン系接着剤で車体フレームに接着する際に、枠部材が、その接着剤塗布面に塗布するプライマーに侵されて、高い接着性ないし密着性及びその耐久信頼性を得ることができないという問題がある。このため、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂系の枠部材では、ハードコートを施す(硬質被膜を形成する)ことでプライマーによる劣化を防止することが行われているが、この場合には、枠部材に対するハードコート処理が必要となり、生産効率、製造コストの面で不利である。さらに、層構成が増えることにより、湿熱環境下や耐候性試験下での長期耐久性や信頼性の低下が懸念される。
なお、ポリカーボネート樹脂の耐薬品性を向上させるために、ポリエチレン系樹脂を配合することは知られているが、ポリエチレン系樹脂は、ポリカーボネート樹脂との相溶性が悪く、ポリエチレン系樹脂の分散状態によっては、目的とする耐薬品性が得られなかったり、ポリエチレン系樹脂の配合で流動性や滞留熱安定性、機械的特性を損なうという特性上の問題や、白化などの外観上の不具合を生じるという問題がある。
特許文献2には、透明窓層と、透明窓層の周囲に積層された窓枠とを有する多色成形樹脂窓部材であって、透明窓層と窓枠との密着力が特定範囲であることにより、衝撃が加わった際に、透明窓層が脆性破壊しない、安全性に優れた多色成形樹脂窓部材が提案されている。特許文献2には、その窓枠の構成材料として、ポリカーボネート樹脂、ABS系樹脂、AS系樹脂、及びポリエチレン系樹脂とタルクが配合されたポリカーボネート樹脂組成物が例示されている。しかし、特許文献2では、このポリカーボネート樹脂組成物の成形方法として、射出圧縮成形法が採用されているため、組成物中のポリエチレン系樹脂が成形体内で配向しにくい。このため、本発明におけるようなポリエチレン系樹脂のドメインを成形体の表層部に形成し得ないため、ポリエチレン系樹脂による十分な耐薬品性を発揮し得ないという問題がある。即ち、特許文献2には、耐薬品性の改善という課題がないため、成形体の表層部にポリエチレン系樹脂のドメインを形成するという技術思想が存在しない。
特開2003−320548号公報 特開2011−20441号公報
本発明は上記従来の問題点を解決し、耐薬品性、機械的特性等に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂成形体をグレージング用枠部材として用いることにより、ハードコート処理を施すことなく、プライマーを介したウレタン接着で、耐久信頼性の高いパネル設置構造を実現し得る技術を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)と、好ましくは芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)と、ポリオレフィン系樹脂(C)とを含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、所定の条件で射出成形してなる芳香族ポリカーボネート樹脂成形体が、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1] 樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、以下に定義される射出率10〜100cm/s、かつ、以下に定義される面進行係数40〜200cm/s・cmの条件で射出成形してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
射出率:射出成形機の吐出ノズルから金型キャビティに射出される単位時間当りの樹脂
組成物容量
面進行係数:上記射出率を、樹脂組成物が射出される金型キャビティの厚みで除した値
[2] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[3] 前記成形体の表面から深さ30μmの範囲の表層部に、ポリオレフィン系樹脂(C)により形成されたドメインが分散して存在し、該表層部の、前記射出成形時の樹脂組成物の流動方向に沿う断面における該ドメインの面積が10〜100μmであり、かつ、面積/長軸径の比が0.5〜5μmであることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[4] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)1〜15質量%を含有してなることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[5] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)1〜15質量%の合計100質量部に対し、無機充填材(D)30質量部以下を含有してなることを特徴とする、[4]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[6] ポリオレフィン系樹脂(C)が、密度0.85〜0.90g/cmであり、かつ、190℃におけるメルトフローレイト(MFR)が1〜20g/10minのポリエチレン系樹脂であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[7] ポリオレフィン系樹脂(C)が、オリゴマー成分を0.01〜2質量%含有することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[8] ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)が、ブタジエン成分を含有し、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)と芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)との合計中のブタジエン成分の含有量が5〜50質量%であることを特徴とする、[2]〜[7]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[9] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の、280℃、2.16kg荷重におけるメルトボリュームレイト(MVR)が10cm/10min以上であることを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[10] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の無機充填材(D)の含有量が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)の合計100質量部に対し、1〜30質量部であることを特徴とする、[5]〜[9]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
[11] 前面及び後面を有するパネル本体と、該パネル本体の後面の周縁部に設けられた枠部材とを備え、該枠部材を介してパネル支持体に支持されるパネルにおいて、該パネル本体が芳香族ポリカーボネート樹脂を主成分樹脂とし、該枠部材が[1]〜[10]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体よりなることを特徴とするパネル。
[12] 前記パネル本体と前記枠部材が、多色成形により積層一体化されてなることを特徴とする、[11]に記載のパネル。
[13] 前記パネル本体の前面と、該パネル本体の後面のうちの前記パネル支持体と接着される部分以外の領域との一方又は双方に、硬質被膜が形成されていることを特徴とする、[11]又は[12]に記載のパネル。
[14] 車輌の窓部材に用いられることを特徴とする、[11]〜[13]のいずれかに記載のパネル。
[15] [11]〜[14]のいずれかに記載のパネルを、プライマー層及びウレタン系接着剤層を介してパネル支持体に支持してなることを特徴とするパネル設置構造。
[16] 前記パネル支持体が金属材料よりなることを特徴とする、[15]に記載のパネル設置構造。
[17] [16]に記載のパネル設置構造を備えることを特徴とする車輌。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、耐薬品性、機械的特性等に優れる。このため、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体よりなるグレージング用窓枠部材であれば、従来行っていたハードコート処理を行うことなく、プライマーを介したウレタン接着が可能となり、接着性及び密着性並びにその耐久信頼性に優れた窓枠部材を、良好な生産効率のもとに安価に提供することができる。
自動車のパノラマルーフに用いられているグレージング用パネルを示す図であり、(a)図は背面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は、このグレージングの自動車ルーフへの取り付け構造を示す部分断面図である。 本発明のパネルの実施の形態の別の例を示すパネル端部の断面図である。 成形収縮率の測定用試験片としての成形品の形状を示す図であり、(a)図は正面図、(b)図は側面図である。 耐薬品性の評価試験方法を示す模式図であり、(a)図は試験片に撓みを負荷した状態を示す側面図、(b)図は同平面図、(c)図は同底面部である。 ウレタン剪断試験方法を示す模式図であり、(a),(b)図は試験片の斜視図、(c),(d)図はこれらを接着した剪断試験片の断面図である。 実施例における2色成形品の反り及び表層部SEM観察用のパネルを示す図であり、(a)図は背面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は、充填領域を示す模式図である。 (a)図は実施例10のISO多目的試験片の表層部断面のSEM写真であり、(b)図は実施例11のISO多目的試験片の表層部断面のSEM写真であり、(c)図は実施例12のISO多目的試験片の表層部断面のSEM写真である。 (a)図は実施例13の枠部材のI部の表層部断面のSEM写真であり、(b)図は同II部の表層部断面のSEM写真である。 比較例4のウレタン剥離試験及びウレタン剪断試験用試験片としての成形品の形状を示す図であり、(a)図は正面図、(b)図は側面図である。
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
以下において、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の表面から深さ30μmの範囲の表層部を、単に「成形体の表層部」又は「表層部」と称し、この表層部の射出成形時の樹脂組成物の流動方向に沿う断面の表面から深さ30μmの範囲を「表層部断面」と称す。また、この表層部に形成されたポリオレフィン系樹脂(C)のドメインの、表層部断面における面積を「ドメインの面積」と称し、表層部断面におけるドメインの長軸、長軸径を、「ドメインの長軸」、「ドメインの長軸径」と称し、表層部断面におけるドメインの短軸、短軸径を、「ドメインの短軸」、「ドメインの短軸径」と称す。
なお、本発明において、ドメインの長軸径とは、ドメインの最長径をいい、短軸径とは、前記長軸径と垂直に交わる方向の径のうちの最短径をいう。
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
まず、本発明において、射出成形に供する、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(以下、「本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」と称す場合がある。)について説明する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、樹脂成分として、更に芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)を含有していてもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)(以下「(A)成分」と称す場合がある。)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)(以下「(B−1)成分」と称す場合がある。)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)(以下「(B−2)成分」と称す場合がある。)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)(以下「(C)成分」と称す場合がある。)1〜15質量%の合計100質量部(ただし、(A)成分と(B−1)成分と(B−2)成分と(C)成分の合計で100質量%とする。)に対し、無機充填材(D)0〜30質量部を含有してなる。
[芳香族ポリカーボネート樹脂(A)]
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とは、原料として、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを使用し、又は、これらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物を使用して得られる直鎖又は分岐の熱可塑性重合体又は共重合体である。
上記の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が挙げられる。
また、上記以外の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
上記の中では、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]が好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物は2種類以上を併用してもよい。
前記のカーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が挙げられ、その具体例としては、ホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。これらのカーボネート前駆体は2種類以上を併用してもよい。
また、本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した、分岐芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類の他、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。これらの中では、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。多官能性芳香族化合物は、前記の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、通常0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜2モル%である。
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などが挙げられる。本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法に制限はないが、工業的には界面重合法又は溶融エステル交換法が有利である。
本発明に使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)として、機械的強度と流動性(成形加工性容易性)の観点から、通常10,000〜50,000、好ましくは12,000〜40,000であり、更に好ましくは14,000〜30,000であり、特に好ましくは18,000〜27,000である。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
ここで、粘度平均分子量(Mv)とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を使用し、温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10−40.83の式から算出される値を意味する。ここで極限粘度([η])とは各溶液濃度(C)(g/dl)での比粘度(ηsp)を測定し、下記式により算出した値である。
Figure 2014184720
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度は、通常1,000ppm以下であり、中でも700ppm以下、更には400ppm以下、特に300ppm以下であることが好ましい。またその下限は、10ppm以上、中でも20ppm以上、更には30ppm以上、特に40ppm以上であることが好ましい。末端水酸基濃度を10ppm以上とすることで、分子量の低下が抑制でき、樹脂組成物の機械的特性がより向上する傾向にある。また末端基水酸基濃度を1,000ppm以下にすることで、樹脂組成物の耐熱性、滞留熱安定性が、より向上する傾向にあるので好ましい。
なお、末端水酸基濃度は、芳香族ポリカーボネート樹脂質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものであり、測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88215(1965)に記載の方法)である。
また、本発明に使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、成形品外観の向上や流動性の向上を図るため、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。この芳香族ポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量(Mv)は、通常1,500〜9,500、好ましくは2,000〜9,000である。芳香族ポリカーボネートオリゴマーの使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、通常30質量%以下であることが、耐衝撃性、滞留熱安定性及び耐湿熱性低下を抑制しやすい傾向にあり好ましい。
更に、本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂として、バージン樹脂だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、所謂マテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防などの車輌透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板などの建築部材が挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂の使用割合は、バージン樹脂に対し、通常80質量%以下、好ましくは50質量%以下である。
[ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)]
本発明で使用するゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)は、ゴム質重合体の存在下に少なくとも芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを重合し、必要であれば、更に、上記の各単量体と共重合可能な他の単量体を重合してなる共重合体である。この(B−1)成分においては、上記の2種以上の単量体が全てゴム成分とグラフト重合しグラフト共重合体を形成している必要はない。また、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)の製造方法としては、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などの公知の方法が挙げられる。
(B−1)成分中のゴム質重合体成分は、ゴム質を示す重合体であれば、特に限定されない。その例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、性能とコストとのバランスの点から、ジエン系ゴム又はアクリル系ゴムが好ましい。
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ブタジエン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体などが挙げられる。(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ブタジエン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体、又は、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの割合は、ゴム質量の30質量%以下であることが好ましい。
一方、アクリル系ゴムとしては、例えばアクリル酸アルキルゴムが挙げられ、アルキル基の炭素数は通常1〜8である。アクリル酸アルキルゴムの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルゴムには、架橋性のエチレン性不飽和単量体(架橋剤)が使用されていてもよい。架橋剤としては、例えば、アルキレンジオール、ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。更に、アクリル系ゴムとしては、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
これらのゴム質重合体のうち、本発明においては、特に、低温環境下における耐衝撃性の維持に優れることから、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ブタジエン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル共重合体などのブタジエン系ゴムが好ましい。
(B−1)成分中の芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、メチル−α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ジフェニルスチレン、ビニルキシレン等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中ではスチレン又はα−メチルスチレンが好ましい。
(B−1)成分中のシアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトンニトリル、ケイ皮酸ニトリル等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中ではアクリロニトリル又はメタクリロニトリルが好ましい。
(B−1)成分は、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体を共に重合してもよい。ここで使用する他の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル等のα,β−不飽和酸グリシジルエステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系化合物などの1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物が好ましい。
(B−1)成分における前記の各成分の割合は次の通りである。すなわち、ゴム質重合体成分は、通常31〜65質量%、好ましくは31〜55質量%、芳香族ビニル成分は、通常25〜60質量%、好ましくは30〜60質量%、シアン化ビニル成分は、通常5〜25質量%、好ましくは5〜20質量%、これらと共重合可能な他の単量体成分は、通常0〜30質量%、好ましくは0〜25質量%である。また、芳香族ビニル成分及びシアン化ビニル成分の合計質量に対するシアン化ビニル成分の質量割合は、通常10〜45質量%、好ましくは15〜40質量%である。
(B−1)成分の具体例としては、スチレン、ブタジエン及びアクリロニトリルからなるABS樹脂;当該ABS樹脂のスチレンの一部又は大部分をα−メチルスチレン又はマレイミドに置き換えた耐熱ABS樹脂;ブタジエンをエチレン−プロピレン系ゴムやポリブチルアクリレートに置き換えた(耐熱)AES樹脂や(耐熱)AAS樹脂;ブタジエンをシリコーンゴムやシリコーン/アクリル複合ゴムに置き換えた(耐熱)ABS系樹脂などが挙げられる。これらの中ではABS樹脂が好ましい。
(B−1)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
[芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)]
本発明で使用する芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)は、ゴム質重合体の非存在下に少なくとも芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを重合し、必要であれば、更に、上記の各単量体と共重合可能な他の単量体を重合してなる共重合体である。その代表例はスチレン及びアクリロニトリルからなるAS樹脂である。
(B−2)成分中の、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、これら共重合可能な他の単量体としては、例えば、前記の(B−1)成分で使用される単量体成分が挙げられる。
(B−2)成分における前記の各成分の割合は次の通りである。すなわち、芳香族ビニル成分は、通常45〜90質量%、好ましくは45〜80質量%、シアン化ビニル成分は、通常5〜50質量%、好ましくは10〜45質量%、他の単量体成分は、通常0〜30質量%、好ましくは0〜25質量%である。また、芳香族ビニル成分及びシアン化ビニル成分の合計質量に対するシアン化ビニル成分の質量割合は、通常10〜45質量%、好ましくは15〜40質量%である。
(B−2)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
[ポリオレフィン系樹脂(C)]
ポリオレフィン系樹脂(C)としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−塩化ビニル共重合等が挙げられる。
これらのポリオレフィン系樹脂のうち、特に高い耐薬品性を付与することができることから、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、及びポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂が好ましく、中でも、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂が好ましい。
以下に、ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリエチレン系樹脂について説明する。
ポリエチレン系樹脂とは、エチレンと、エチレンと共重合可能なモノマーとの共重合体であり、この共重合可能なモノマーとしては特に制限はないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン等のα−オレフィン、酢酸ビニル、イソプレン、ブタジエン或いはアクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸類、或いはこれらのエステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸或いはその酸無水物等の1種又は2種以上が挙げられ、これらは主鎖に共重合されていてもよく、また、グラフト重合可能なものはグラフト重合せしめてもよい。
これらのポリエチレン系樹脂は通常の方法で製造することができる。
なかでも好ましいポリエチレン系樹脂としては、エチレンと炭素数3〜10、好ましくは炭素数4〜8のα−オレフィンの1種又は2種以上との共重合体であり、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等が挙げられ、特に共重合成分が主鎖に導入された線状ポリエチレン系樹脂が好ましい。
このようなポリエチレン系樹脂中のエチレンの含有量は、少な過ぎると融点の低下によるハンドリングの悪化やコストアップが問題となり、多過ぎると結晶化による成形収縮で白化現象が起こる。従って、ポリエチレン系樹脂中のエチレンの含有量は90〜40モル%、特に85〜50モル%であることが好ましい。
本発明で用いるポリエチレン系樹脂は、上述のようなポリエチレン系樹脂であって、密度が0.85〜0.90g/cmの低密度のポリエチレン系樹脂が好ましい。このポリエチレン系樹脂の密度が0.90g/cmを超えると、ドメインのボイドによる白化現象、層状剥離、ポリエチレン系樹脂の分散不良に起因する耐薬品性の低下の問題がある。密度0.90g/cm以下の低密度のポリエチレン系樹脂を用いることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に対する流動性、分散性が良好なものとなり、また結晶性が低減され、成形時の収縮率が芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の収縮率と近いものとなり、ボイドの形成が抑えられる傾向にある。また、上記のような低密度ポリエチレン系樹脂を用いることにより、成形体表層部のポリエチレン系樹脂ドメインの面積が10〜100μm、面積/長軸径の比が0.5〜5μmとなりやすく、また、ポリエチレン系樹脂のドメインが均一で、かつ層状に分散しやすくなるため、成形体の層状剥離が防止され、更には、良好な耐薬品性が得られやすい傾向となる。
しかし、ポリエチレン系樹脂の密度が0.85g/cmよりも小さいと物性の低下が起こる場合があるので、密度0.85g/cm以上のポリエチレン系樹脂を用いることが好ましい。ポリエチレン系樹脂の密度は、特に0.86〜0.90g/cm、とりわけ0.87〜0.89g/cmであることが好ましい。
なお、本発明において、ポリエチレン系樹脂の密度はISO 1183 D法に準拠して測定した値である。
以下に、本発明で用いる密度0.85〜0.90g/cmのポリエチレン系樹脂を単に「低密度ポリエチレン」と称す。
また、本発明で用いるポリエチレン系樹脂は質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜3.0であることが好ましい。分子量分布(Mw/Mn)が3.0よりも大きいと耐衝撃性が低下するなどの問題が発生する場合があり、1.0より小さいと成形性が劣る場合がある。ポリエチレン系樹脂のより好ましい分子量分布(Mw/Mn)は1.3〜2.5、さらに好ましくは1.5〜2.0である。
ここで、ポリエチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、試料を135℃のo−ジクロロベンゼン(0.5g/L ジブチルヒドロキシトルエン添加)で溶解させた後、孔径2μmの金属フィルターで濾過後、下記条件のSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)により測定される。
<SEC条件>
装置:Waters社製 GPCV2000(1)
検出器:RI(装置内蔵)
移動相:特級試薬ODCB(o−ジクロロベンゼン)
流速:1.0mL/分
注入:0.1質量%×515.5μL
カラム:TSKgel GMH6−HT(7.8mmI.D.×30cmL×4)
カラム温度:135℃
較正試料:単分散PST(ポリスチレン)
較正法:PE(ポリエチレン)換算(汎用較正曲線法)
較正曲線近似式:3次式
試料は単分散PSTを用いて作成した較正曲線を汎用較正曲線の概念を用いてPE換算に変換した。用いた係数はKpst=l.38×10−4,αpst=0.70,Kpe=4.77×10−4,αpe=0.70である。
さらに、本発明で用いるポリエチレン系樹脂の分子量分布は、よりシャープであることが好ましく、分子量分布の半値幅は0.5〜1.0、特に0.6〜0.8であることが好ましい。
ポリエチレン系樹脂の分子量分布の半値幅が上記上限よりも大きいと、組成が不均一になりやすいため、後述のドメインの形態にムラが生じやすくなり、安定した耐薬品性を発揮できなくなったり、界面剥離(芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のマトリックスとポリオレフィン系樹脂(C)のドメインとの間の剥離)や白化などの外観不良を起こしやすくなったりする。
分子量分布の半値幅は、小さい程好ましいが、分子量分布の半値幅の小さいポリエチレン系樹脂は高価であるため、通常その下限は0.5程度である。
また、本発明で用いるポリエチレン系樹脂の結晶化度は5〜25%、特に10〜20%であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂の結晶化度が上記下限よりも小さいと、耐薬品性の改善効果を十分に発揮し得ず、上記上限よりも大きいと、収縮が大きくなるため、白化や界面剥離などの外観不良を生じやすくなる。
なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して得られる本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体中において、成形体中のポリエチレン系樹脂の結晶化度は、用いるポリエチレン系樹脂の結晶化度より低い状態であることが好ましく、射出成形により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の表層部に存在するポリエチレン系樹脂の結晶化度が、原料として用いるポリエチレン系樹脂の結晶化度の50〜80%、特に55〜75%の割合に減少していることが好ましい。換言すれば、射出成形により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の表層部に存在するポリエチレン系樹脂の結晶化度が、原料のポリエチレン系樹脂の結晶化度に対して、20〜50%、特に25〜45%低減していることが好ましい(以下、ポリエチレン系樹脂の結晶化度が射出成形後に減少する割合を「結晶化度減少率」と称す。)。これは以下の理由による。
本発明においては、ポリエチレン系樹脂が後述のようなドメインの形態をとることによって耐薬品性が高められる。
本発明においては、後述の射出率と面進行係数を満たす条件で射出成形を行うことにより、射出成形過程で受ける剪断力により、特に成形体の表層部のポリエチレン系樹脂のドメインが引き延ばされて樹脂組成物の流動方向に配向するときに、その結晶化度が下がると考えられる。即ち、射出成形の後に、ポリエチレン系樹脂の結晶化度が射出成形前よりも小さくなるということは、射出成形過程でポリエチレン系樹脂のドメインが引き延ばされて耐薬品性の改善に有効なドメインを形成することを意味する。このため、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の少なくとも表層部におけるポリエチレン系樹脂の結晶化度は、射出成形により、上記の割合で減少することが好ましい。
通常、耐薬品性を向上させるためには結晶化度は高い方が好ましいと考えられているが、本発明においては、驚くべきことに、後述の射出率と面進行係数を満たす条件で射出成形を行い、成形体、好ましくは成形体表層部のポリエチレン系樹脂の結晶化度をある程度減少させ、さらに、特定のドメイン分散状態を形成させることにより、耐薬品性をより向上させることが可能となる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の表層部におけるポリエチレン系樹脂の結晶化度減少率が上記下限よりも小さいと、射出成形過程でポリエチレン系樹脂のドメインが十分に引き延ばされた耐薬品性の改善に有効なドメインが形成されず、上記上限より大きいと、逆に結晶化度が低すぎて、安定した耐薬品性が得られない場合がある。
このようにして得られる芳香族ポリカーボネート樹脂成形体のポリエチレン系樹脂の結晶化度は、7〜16%であることが好ましく、9〜14%であることがさらに好ましい。このような結晶化度を有するポリエチレン系樹脂のドメインを成形体、好ましくは成形体表層部に形成させることにより、より高い耐薬品性を達成することが可能となる。
なお、ポリエチレン系樹脂の結晶化度は、DSC(示差走査熱量計)による融解熱量の測定結果から常法に従って算出することができる。また、成形体中のポリエチレン系樹脂の結晶化度を測定する場合は、凍結粉砕した成形体を、ジクロロメタンに溶解(室温×2時間)し、不溶物を吸引濾過(3μmのPTFEフィルター)により回収し、回収した不溶物に対して行ったDSC融解熱量の測定結果から、求めることができる。なお、融解熱量からの結晶化度の計算にあたっては、不溶物中のポリエチレン系樹脂以外の成分の質量を考慮して行う。
また、本発明で用いるポリエチレン系樹脂の、190℃におけるメルトフローレイト(MFR)は、1〜20g/10min、特に、1〜10g/10minであることが好ましく、1.3〜8g/10minであることがより好ましい。ポリエチレン系樹脂のMFRが上記範囲よりも小さいと分散性が乏しく、大きなドメインを形成しやすく、本発明の好ましいドメイン面積、面積/長軸径比となり難くなるため白化や層状剥離が生じやすくなり、上記範囲よりも大きいとマトリックスを構成する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、必要に応じて配合される芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)との流れ性の差が大きくなるため、ドメインが大きく引き伸ばされ過ぎた構造をとることから真珠光沢による外観不良や物性の低下が生じやすくなる。
特に、MFRが1〜5g/10minのポリエチレン系樹脂を用いて、ポリエチレン系樹脂のドメイン構造を、後述の如く、短軸径0.5〜5μm、平均アスペクト比(長軸径/短軸径)2〜200、さらにドメインの面積10〜100μmで、かつ、面積/長軸径比が0.5〜5となるように制御することで、大きなドメインの形成とその層状剥離を抑制し、さらには芳香族ポリカーボネート樹脂(A)のマトリックスとポリエチレン系樹脂との間の剥離によるボイドの形成を抑えることで、優れた耐衝撃性向上効果を得、更に、微細な層状分散形態とすることで耐薬品性を向上させることができる。
なお、ここでMFRとは、ISO 1133に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nで測定した値である。
本発明で用いるポリエチレン系樹脂は、上述の好適MFRを満たすために、過酸化物により増粘処理されたものであっても良い。この増粘処理に用いる過酸化物としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタールなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、混練温度と混練時間おける過酸化物の反応性を考慮して、最適な過酸化物を選択することが好ましい。
過酸化物による増粘処理とは、上述のような過酸化物をポリエチレン系樹脂に加熱混練してMFRを低減する処理であり、これによりMFRが上記好適範囲を外れるポリエチレン系樹脂を増粘させて、MFRを好適範囲に調整することができる。
この増粘処理に用いる過酸化物量は、多過ぎると過剰な架橋反応が進行し、樹脂が硬化して分散性が悪化し、少な過ぎると十分な増粘効果が得られないことから、増粘処理に用いる過酸化物量は、ポリエチレン系樹脂に対して50〜2,000ppm(質量基準)、特に100〜1,000ppmであることが好ましい。
また、増粘処理における加熱混練時の温度は150〜250℃、特に170〜230℃であることが好ましい。この温度が高過ぎると樹脂が熱劣化することで物性の低下を招き、低過ぎると混練時の負荷が大きくなり、十分に反応が進行せず架橋反応の効果が認められない。
増粘処理は具体的には、ポリエチレン系樹脂と所定量の過酸化物とを二軸混練機、一軸混練機、ブラベンダー等の混練機に投入して所定の温度で溶融混練押し出しすることにより行われる。
また、ポリオレフィン系樹脂(C)は、オリゴマー成分を含有することが好ましい。このオリゴマー成分は、ポリオレフィン系樹脂(C)の重合過程において、触媒種、触媒量、重合温度、重合時間、重合圧力等の製造条件を適宜調整することによって、所望の量含有させることができる。また、重合後の造粒段階において、酸化防止剤や熱安定剤等の添加剤を配合する際に、同時にオリゴマー成分を配合することにより、ポリオレフィン系樹脂に所望の量含有させることも可能である。
オリゴマー成分の含有量は、ポリオレフィン系樹脂(C)中の0.01〜2質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜1質量%、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%である。オリゴマー成分含有量が上記下限よりも少ないと、ポリオレフィン系樹脂(C)の分散性が乏しく、大きなドメインを形成しやすくなるため、本発明の好ましい分散状態を達成しにくく白化や層状剥離が生じやすくなったり、耐薬品性向上効果が十分発揮できない場合がある。また、上記上限を超えると、オリゴマー成分が成形品の表層に選択的に配向してしまうため、表層剥離が生じやすくなり、外観不良が生じたり、物性の低下を引き起こす可能性がある。
なお、ポリオレフィン系樹脂(C)中のオリゴマー成分とは、23℃で1時間クロロホルム抽出を行った際に抽出される成分をいう。
上述した低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
[樹脂成分]
本発明においては、前述の(A)成分、(B−1)成分、(B−2)成分及び(C)成分を、(A)成分45〜88質量%、(B−1)成分2〜40質量%、(B−2)成分0〜35質量%、及び(C)成分1〜15質量%の割合で、合計で100質量%となるように用いることが好ましい(以下、(B−1)成分と(B−2)成分とを「(B)成分」と称し、また、(A)成分と、(B−1)成分と(B−2)成分と(C)成分との合計を「本発明の樹脂成分」と称す場合がある。)。
本発明の樹脂成分において、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂が45質量%未満であると、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性等の機械的特性や耐熱性等を得ることができず、88質量%を超えると相対的に他の成分の割合が少なくなって、耐薬品性、流動性などが低下する傾向にある。
本発明の樹脂成分中の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の割合は、より好ましくは48〜84質量%、更に好ましくは50〜80質量%である。
本発明の樹脂成分において、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)及び芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)に含まれるシアン化ビニル成分は、耐薬品性の向上に機能し、また、ゴム質重合体成分は耐衝撃性の向上に機能し、芳香族ビニル成分は流動性、その他の性能バランスの向上に機能する。
また、(B)成分は、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂(C)を引っ張る機能を有することから、(B)成分が芳香族ポリカーボネート樹脂(A)中に微分散することで、低密度ポリエチレン等の(C)成分のドメインを微分散させ、(C)成分の均一微分散により耐薬品性の向上効果を有効に発揮させる効果を奏する。また、(B)成分の内のシアン化ビニル成分は、(B)成分と芳香族ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性の向上に機能し、(B)成分を微分散させて上記の通り(C)成分を微分散させる効果を奏する。
なお、(B−1)成分中のブタジエン成分等のゴム質重合体成分は、耐衝撃性の向上に有効ではあるが、その含有量が多過ぎても耐衝撃性の向上効果は頭打ちとなり、むしろ滞留熱安定性や流動性が低下するという問題がある。
従って、本発明の樹脂成分中には、(B−1)成分と(B−2)成分とがバランスよく含有され、かつ、(B−1)成分と(B−2)成分との合計におけるブタジエン成分等のゴム質重合体成分が滞留熱安定性や流動性を損なうことなく、十分な耐衝撃性を得ることができる量に制御されていることが好ましい。
このような観点から、本発明の樹脂成分中の(B−1)成分の割合は好ましくは2〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは5〜25質量%、(B−2)成分の割合は好ましくは0〜35質量%、より好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは5〜30質量%で、(B−1)成分と(B−2)成分との合計、即ち(B)成分の割合が10〜50質量%、特に15〜45質量%であることが好ましい。この範囲よりも(B)成分が多いと弾性率、熱変形温度、滞留熱安定性が低下する傾向にあり、少ないと(B)成分による流動性の向上効果が損なわれる傾向にある。
また、(B)成分中のブタジエン成分等のゴム質重合体成分の割合は、5〜50質量%、特に7〜40質量%、とりわけ10〜30質量%であることが好ましい。(B)成分中のブタジエン成分等のゴム質重合体成分の割合が上記下限よりも少ないと、靭性、伸び、耐衝撃性が低下し、上記上限よりも多いと流動性向上効果や滞留熱安定性が損なわれる傾向にある。
さらに、(B)成分中のシアン化ビニル成分の割合は、10〜40質量%、特に12〜30質量%、とりわけ15〜25質量%であることが好ましい。(B)成分中のシアン化ビニル成分の割合が上記下限よりも少ないと、(B)成分と芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の相溶性向上効果が低下するために(B)成分が微分散しにくくなり、その結果として(C)成分が微分散しにくくなり、耐薬品性向上効果が損なわれる恐れがある。また、(B)成分の微分散効果は一定以上の割合で向上効果のほどは薄れるため、シアン化ビニル成分の割合が上記上限を超えると、滞留熱安定性や耐衝撃性の低下につながりやすくなる。
ここで、(B−1)及び(B−2)成分中に含有される其々の成分の割合は、IR分析により得られたIRスペクトルの吸光度比から特定することができる。分析にあたっては、(B−1)及び(B−2)成分中に含有される各成分の特性吸収波長を選択し、各成分比率が既知のサンプルを用いて作成した検量線を使用する。
また、ポリカーボネート樹脂組成物中から特定する場合は、ポリカーボネート樹脂組成物をメタノール分解することにより単離された(B−1)及び(B−2)成分について、上記と同様のIR分析を行うことにより特定することができる。なお、メタノール分解にあたっては、加熱により(B−1)、(B−2)成分が変質しない条件を適宜選択して行う必要がある。
低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂(C)は、耐薬品性の向上効果を奏し、本発明の樹脂成分中のポリオレフィン系樹脂(C)の割合は、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは3〜10質量%である。
本発明の樹脂成分中のポリオレフィン系樹脂(C)の割合が1質量%未満では、ポリオレフィン系樹脂(C)による耐薬品性の向上効果を十分に得ることができず、15質量%を超えると、相対的に他の成分の含有量が低減して、機械的特性、滞留熱安定性、熱変形温度が損なわれる恐れがあり、更に、マトリックス樹脂との界面剥離部分が多くなることから、剥離などの外観不良や耐薬品性の向上効果が損なわれる恐れがある。
[無機充填材(D)]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、無機充填材(D)を配合することができる。無機充填材(D)の配合により、弾性率の制御や成形時の収縮を抑制し、特に多色成形体とした場合には、反りの調整や寸法精度の向上を図ることができる。
また、ポリオレフィン系樹脂(C)のドメイン形状を壊してドメインの微分散向上に機能する。
無機充填材(D)としては、ガラスファイバー(チョップドストランド)、ミルドガラスファイバー(ガラス短繊維)、ガラスフレーク、ガラスビーズ等のガラス系フィラー;炭素繊維、炭素短繊維、カーボンナノチューブ、黒鉛などの炭素系フィラー;チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム等のウィスカー;ワラストナイト、タルク、マイカ、カオリナイト、ゾノトライト、セピオライト、アタバルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイトなどの珪酸塩化合物;シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等が挙げられ、好ましくは、ガラスファイバー、ミルドガラスファイバー、ワラストナイト、タルク、マイカ等であり、この中でも外観の向上を図る上で、ワラストナイト、タルクが好ましく、剛性、滞留熱安定性の点からガラスファイバーが好ましい。これらの無機充填材(D)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
無機充填材(D)の形状としては、繊維状、針状、板状、球状が好ましく、成形収縮率や線膨張の低減を考慮した場合、繊維状、針状、板状の無機充填材がより好ましい。
無機充填材のサイズとしては、短軸径0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.1〜20μmである。無機充填材の短軸径が10nmより小さいとポリオレフィン系樹脂(C)のドメイン形状を十分に壊すことができず、成形品に真珠光沢が残ってしまう場合がある。また、100μmより大きいと無機充填材間の距離が大きくなり、ポリオレフィン系樹脂(C)のドメインが微分散し難くなるため、無機充填材間において真珠光沢が残ってしまう場合がある。後述の如く、特に、無機充填材の短軸径は、ポリオレフィン系樹脂(C)のドメインの短軸径と同等であることが真珠光沢を効率的に消失させる上で好ましい。
なお、ここで、無機充填材の短軸径とは、無機充填材を2枚の平行な板で挟んだ場合、その平行板の間隔が最も狭くなる部分の長さであり、無機充填材が繊維状であれば、繊維径に該当し、板状であれば板厚に該当し、球状であればその直径に該当する。
無機充填材の短軸径(平均短軸径)は、得られた射出成形品の射出方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察し、任意に選択した50個の無機充填材の短軸径の測定値の数平均値として求めることもできるが、例えば、製品として供給される繊維状無機充填材の製品規格としての平均繊維径を短軸径とすることもできる。板状、球状の無機充填材についても同様である。
なお、無機充填材のアスペクト比(=長軸径/短軸径。長軸径とは、無機充填材を2枚の平行な板で挟んだ場合、その平行板の間隔が最も広くなる部分の長さであり、無機充填材が繊維状であれば、繊維長さに該当し、板状であれば板面の長径に該当し、球状であればその直径に該当する。)については特に制限はないが、2〜500であることが好ましい。無機充填材のアスペクト比が大き過ぎると無機充填材の配向方向とそれに直交する方向に対する成形収縮の差が大きくなりすぎることから歪みを生じやすくなり、小さ過ぎると線膨張の抑制効果が十分でない。
なお、アスペクト比についても、短軸径と同様に、SEM観察により無機充填材の短軸径と長軸径を測定し、個々の無機充填材についてアスペクト比を算出し、その数平均値として求めることもできるが、製品として供給される無機充填材の製品規格としてのアスペクト比を採用することもできる。
無機充填材(D)の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対して0〜30質量部、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは1〜28質量部、更に好ましくは2〜25質量部、特に好ましくは3〜20質量部である。無機充填材(D)を含有させることにより、成形収縮率の最適化がしやすい傾向となり、寸法精度を十分に高めることが可能となる。さらに、多色成形品とした場合には、反り量を調整しやすい傾向となる。一方、無機充填材(D)の含有量が上記上限を超えると、成形性の悪化、脆化などの問題が生じる場合がある。
[その他の樹脂]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、上記の本発明の樹脂成分以外の他の樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂や、ポリスチレン等の1種又は2種以上を含有することができ、これらの他の樹脂を含むことにより、それぞれ次のような効果が奏される。
ポリエチレンテレフタレート:耐薬品性の向上
ポリブチレンテレフタレート:耐薬品性の向上、流動性の改善
ポリスチレン:流動性の改善
以下、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が含有していてもよいポリエステル樹脂について説明する。
本発明に用いられるポリエステル樹脂としては、従来公知の任意のポリエステル樹脂を使用できるが、中でも芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。ここで芳香族ポリエステル樹脂とは、芳香環を重合体の連鎖単位に有するポリエステル樹脂を示し、例えば、芳香族ジカルボン酸成分と、ジオール(及び/又はそのエステルやハロゲン化物)成分とを主成分とし、これらを重縮合して得られる重合体又は共重合体である。
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2'−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3'−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4'−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4'−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等が挙げられる。
これら芳香族ジカルボン酸成分は、1種又は任意の割合で2種以上を併用してもよく、これら芳香族ジカルボン酸の中では、テレフタル酸が好ましい。尚、本発明の効果を損なわない範囲で、これら芳香族ジカルボン酸と共に、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸を併用してもよい。
ジオール成分としては、脂肪族グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール類、脂環式ジオール類、芳香族ジオール類等が挙げられる。脂肪族グリコール類としては、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等の炭素数2〜20のものが挙げられ、中でも炭素数2〜12、特に炭素数2〜10の脂肪族グリコール類が好ましい。
ポリオキシアルキレングリコール類としては、アルキレン基の炭素数が2〜4で、複数のオキシアルキレン単位を有するグリコール類、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、トリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
脂環式ジオール類としては、例えば1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、水素化ビスフェノールA等が挙げられる。また芳香族ジオール類としては、2,2−ビス−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、キシリレングリコール等が挙げられる。
その他のジオール成分としては上述したジオール類のエステルや、ハロゲン化物、例えばテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなど)付加物などのハロゲン化ジオール類が挙げられる。これらのジオール成分は、1種又は任意の割合で2種以上を併用してもよい。また少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール類、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いてもよい。
本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリアルキレンテレフタレートが好ましい。ここで、ポリアルキレンテレフタレートとは、アルキレンテレフタレート構成単位を含む樹脂をいい、アルキレンテレフタレート構成単位と他の構成単位との共重合体であってもよい。
本発明に用いるポリアルキレンテレフタレートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ(シクロヘキサン−1,4−ジメチレン−テレフタレート)、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
また、本発明に用いるポリアルキレンテレフタレートとして、上記の他、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレート共重合体や、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物が挙げられる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものも用いることができる。
アルキレンテレフタレートコポリエステルとしては、2種以上のジオール成分とテレフタル酸からなるコポリエステルや、ジオール成分とテレフタル酸、及びテレフタル酸以外のジカルボン酸からなるコポリエステルが挙げられる。ジオール成分を2種以上用いる場合には、上述したジオール成分から適宜選択して決定すればよいが、主構成単位であるアルキレンテレフタレートに共重合されるモノマー単位を、25質量%以内とすることで、耐熱性が良好となるので好ましい。
例えば、エチレングリコール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート)や、1,4−ブタンジオール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート)等の、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とする、アルキレンテレフタレートコポリエステルの他に、1,4−ブタンジオール/イソフタル酸/デカンジカルボン酸共重合体等が挙げられ、中でも、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレートコポリエステルが好ましい。
本発明に用いるポリエステル樹脂としては、アルキレンテレフタレートのコポリエステルを用いる場合には、上述のイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートや、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートなどが好ましく、特にこれらの内、耐熱性の観点から、イソフタル酸成分が25質量%以内のものが好ましい。
<ポリエチレンテレフタレート>
ポリエステル樹脂としては、特にポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。ここで、ポリエチレンテレフタレートとは、全構成繰り返し単位に対するテレフタル酸及びエチレングリコールからなるオキシエチレンオキシテレフタロイル単位(以下「ET単位」と称す場合がある。)の比率(以下「ET比率」と称す場合がある。)が好ましくは90当量%以上であるポリエチレンテレフタレート樹脂であり、本発明におけるポリエチレンテレフタレートはET単位以外の構成繰り返し単位を10当量%未満の範囲で含んでいてもよい。本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルとエチレングリコールとを主たる原料として製造されるが、他の酸成分及び/又は他のグリコール成分を併せて原料として用いてもよい。
テレフタル酸以外の酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸及びこれらの構造異性体、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体、p−ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸等のオキシ酸又はその誘導体が挙げられる。
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
上記の様なテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとを含む原料は、エステル化触媒又はエステル交換触媒の存在下におけるエステル化反応又はエステル交換反応により、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレーテ及び/又はそのオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下に溶融重縮合を行ってポリマーとされる。
エステル化触媒は、テレフタル酸がエステル化反応の自己触媒となるため特に使用する必要はない。また、エステル化反応は、エステル化触媒と後述する重縮合触媒の共存下に実施することも可能であり、また、少量の無機酸等の存在下に実施することができる。エステル交換触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、亜鉛、マンガン等の金属化合物が好ましく使用されるが、中でも得られるポリエチレンテレフタレートの外観上、マンガン化合物が特に好ましい。
重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、錫化合物等の反応系に可溶な化合物が単独又は組み合わせて使用される。重縮合触媒としては、色調及び透明性等の観点から二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。これらの重縮合触媒には重合中の分解反応を抑制するために安定剤を併用してもよく、安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸等のリン化合物の1種又は2種以上が好ましい。
上記の触媒の使用割合は、全重合原料中、触媒中の金属の質量として、通常1〜2000ppm、好ましくは3〜500ppmの範囲とされ、安定剤の使用割合は、全重合原料中、安定剤中のリン原子の質量として、通常10〜1,000ppm、好ましくは20〜200ppmの範囲とされる。触媒及び安定剤の供給は、原料スラリー調製時の他、エステル化反応又はエステル交換反応の任意の段階において行うことができる。更に、重縮合反応工程の初期に供給することもできる。
本発明に用いるポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、適宜選択して決定すればよいが、通常0.5〜2dl/g、中でも0.6〜1.5dl/g、特には0.7〜1.0dl/gであることが好ましい。固有粘度を0.5dl/g以上、特には0.7dl/g以上とすることで、本発明の樹脂組成物における機械的特性や、滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性が向上する傾向にあり好ましい。逆に固有粘度を2dl/g以下、特には1.0dl/g以下とすることで樹脂組成物の流動性が向上する傾向にあり好ましい。
本発明において、ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、フェノール/テトラクロルエタン(質量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
本発明に用いるポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基の濃度は、通常1〜60μeq/gであり、中でも3〜50μeq/g、更には5〜40μeq/gであることが好ましい。末端カルボキシル基濃度を60μeq/g以下とすることで、樹脂組成物の機械的特性が向上する傾向にあり、逆に末端カルボキシル基濃度を1μeq/g以上とすることで、樹脂組成物の耐熱性、滞留熱安定性や色相が向上する傾向にあり、好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより求めることができる。
本発明で用いるポリエチレンテレフタレートは、上述のようなポリエチレンテレフタレートに重縮合触媒の失活処理を施したものであることが好ましい。
即ち、芳香族ポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を複合化して得られる樹脂組成物は熱安定性が悪く、成形工程においてシリンダー内で高温に保持されることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とでエステル交換反応を起こし、反応による分解ガスの発生で泡、シルバーと称される成形品の外観不良の原因となる;芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量低下により芳香族ポリカーボネート樹脂本来の耐衝撃性、耐熱変形性等が損なわれる;更には、高温下での滞留により芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度変化が生じることにより射出成形時の成形安定性が損なわれ、成形品のショートショットやバリが発生する;といった問題が起こる上に、溶融張力の低下の問題もある。
この滞留熱劣化の問題は、ポリエチレンテレフタレートの製造工程で使用され、製品として提供されるポリエチレンテレフタレート中に含有される重縮合触媒に起因するものであり、従って、ポリエチレンテレフタレートとして、この重縮合触媒を失活させたポリエチレンテレフタレートを用いることにより、滞留熱劣化を抑制することができる。
ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒の失活処理方法としては、特に制限はなく、用いた重縮合触媒に応じて従来公知の失活処理を施すことができる。この失活処理方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
重縮合触媒の失活処理方法1:ゲルマニウム触媒の熱水(蒸気)処理
ポリエチレンテレフタレートを熱水(蒸気)処理してポリエチレンテレフタレート中のゲルマニウム触媒を失活させる。
重縮合触媒の失活処理方法2:チタニウム触媒へのリン化合物添加
ポリエチレンテレフタレートにリン化合物を添加して、ポリエチレンテレフタレート中のチタニウム触媒を失活させる。
上記ポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒の失活処理方法は、本発明で採用し得る失活処理の一例であって、本発明に係る失活処理は何ら上記の方法に限定されるものではない。
<ポリブチレンテレフタレート>
ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレートを用いてもよい。ここで、ポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸単位及び1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有する樹脂をいう。本発明では、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジオール成分の50モル%以上が1,4−ブタンジオール単位であるポリブチレンテレフタレートを用いるのが好ましい。全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98モル%以上である。全ジオール単位中の1,4−ブタンジオール単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98モル%以上である。テレフタル酸単位又は1,4−ブタンジオール単位が上記範囲であると、結晶化速度が適切な範囲であるので、成形性が良好となる。
上記した通り、ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸については特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;などを挙げることができる。これらのジカルボン酸単位は、ジカルボン酸、又は、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料として用いることで、ポリマー骨格に導入できる。
上記した通り、ポリブチレンテレフタレートは、1,4−ブタンジオール以外のジオール単位を含んでいてもよい。1,4−ブタンジオール以外のジオールについては特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール;等を挙げることができる。
ポリブチレンテレフタレートは、更に、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能化合物;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能化合物;などから誘導される単位を含んでいてもよい。
本発明に用いるポリブチレンテレフタレートの固有粘度については特に制限はないが、機械的性質の観点から下限値が、成形加工性の観点から上限値が決定されてもよい。ポリブチレンテレフタレートの固有粘度は、0.70〜3.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.80〜1.5dl/g、特に好ましくは0.80〜1.2dl/gである。固有粘度が、前記範囲であると、良好な機械的性質を発揮できるとともに、良好な成形加工性が得られる。なお、上記固有粘度の値は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(質量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した値である。
本発明では、固有粘度の異なる2種以上のポリブチレンテレフタレートを併用してもよい。
本発明に用いるポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度は、120eq/ton以下であることが好ましく、更に好ましくは2〜80eq/ton、特に好ましくは5〜60eq/tonである。末端カルボキシル基濃度が120eq/ton以下であると、耐加水分解性及び流動性が良好になり、また2eq/ton以上であるのが、生産性の観点から好ましい。末端カルボキシル基濃度は、ポリブチレンテレフタレートをベンジルアルコールに溶解し、0.1N(mol/L)の水酸化ナトリウムの水溶液にて滴定して求めることができ、上記値は、10g当たりのカルボキシル基当量である。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物がポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂を含有する場合、その含有量は、前述の本発明の樹脂成分100質量部に対して20質量部以下、例えば1〜15質量部とすることが好ましい。
ポリエステル樹脂の含有割合が上記下限値以上であることにより、ポリエステル樹脂を配合することによる耐薬品性の向上効果を十分に得ることができ、上記上限値以下であることにより、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)等の本来の特性が損なわれることなく良好な耐衝撃性や熱安定性等の物性を得ることができる。
[その他の添加剤]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の本発明の樹脂成分、その他の樹脂、及び無機充填材(D)の他、通常のポリカーボネート樹脂組成物に含有される他の種々の添加剤を含有していてもよい。
含有し得る各種添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。以下、本発明に係る樹脂組成物に好適な添加剤の一例について具体的に説明する。
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3'',5,5’,5''−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a''−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
上記の中では、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社より、「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
酸化防止剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常0.001〜1質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部である。酸化防止剤の含有量が0.001質量部未満の場合は抗酸化剤としての効果が不十分であり、1質量部を超える場合は効果が頭打ちとなり経済的ではない。
<熱安定剤>
熱安定剤としては、分子中の少なくとも1つのエステルが、フェノール及び/又は炭素数1〜25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化された亜リン酸エステル化合物、亜リン酸及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイトから選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
亜リン酸エステル化合物の具体例としては、トリオクチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジノリルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジラウリルフェニルホスファイト、ジイソデシルフェニルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)フェニルホスファイト、ジイソオクチルフェニルホスファイオト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、(フェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(4−メチルフェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(2,6−ジメチルフェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(4−tert−ブチルフェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)(1,3−プロパンジオール)ホスファイト、(フェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(4−メチルフェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(2,6−ジメチルフェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(4−tert−ブチルフェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)(1,2−エタンジオール)ホスファイト、(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)(1,4−ブタンジオール)ホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(3−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジメチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジメチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,3,6−トリメチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(3−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ビフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジナフチルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
また、有機リン酸エステル金属塩化合物もまた熱安定剤として使用できる。具体的にはジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物等が挙げられる。
本発明では、ホスフィン化合物もまた熱安定剤として使用できる。ホスフィン化合物は特に限定されるものではなく、ホスフィンの全ての有機誘導体及びその塩を含むものであり、各種ホスフィン化合物、ホスフィンオキサイド、ハロゲンイオン等とのホスホニウム塩、ジホスフィン等が挙げられる。特に、脂肪族又は芳香族ホスフィン化合物を好適に使用できる。1級、2級及び3級のいずれのホスフィン化合物も使用できるが、特に3級ホスフィン化合物が好ましく、より好ましくは3級芳香族ホスフィン化合物が挙げられる。
3級ホスフィン化合物は、一般式RP(式中、Rは置換基を有していてもよい脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、3個のRは同一であっても互いに異なっていてもよい。)で表される。Rとしてはフェニル基が好ましい。Rの置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。
3級芳香族ホスフィン化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリス−p−メトキシフェニルホスフィン等が挙げられ、より具体的にはトリフェニルホスフィンの使用が好ましいが、他のホスフィン化合物を併用してもよい。
さらには、ホスフェート化合物やホスホネート化合物を熱安定剤として使用することもできる。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソオクチルホスフェート、ジノニルホスフェート、ジイソノニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジトリデシルホスフェート、ジメチルフェニルホスフェート、1,3−フェニレン−ビス(ジキシレニル)ホスフェートなどが挙げられる。
熱安定剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常0.001〜1質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部である。熱安定剤の含有量が0.001質量部未満の場合は熱安定剤としての効果が不十分であり、1質量部を超える場合は耐加水分解性が悪化する場合がある。
<離型剤>
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中では、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。数平均分子量は、好ましくは200〜5,000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
離型剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。離型剤の含有量が0.001質量部未満の場合は離型性の効果が十分でない場合があり、2質量部を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などの問題がある。
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物が挙げられる。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール][メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
上記の中では、好ましくは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]である。
紫外線吸収剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常0.01〜3質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。紫外線吸収剤の含有量が0.01質量部未満の場合は耐候性の改良効果が不十分の場合があり、3質量部を超える場合はモールドデボジット等の問題が生じる場合がある。
<着色剤>
着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、酸化チタン、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、熱安定性の点から、カーボンブラック、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。これらの着色剤は、樹脂組成物中の分散性を向上させるために、マスターバッチ化して用いることが好ましい。
着色剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。染顔料の含有量が5質量部を超える場合は耐衝撃性が十分でない場合がある。
<難燃剤>
難燃剤としては、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム等の有機金属塩系難燃剤、ポリオルガノシロキサン系難燃剤などが挙げられるが、リン酸エステル系難燃剤が特に好ましい。
リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、トリフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
難燃剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常1〜30質量部、好ましくは3〜25質量部、更に好ましくは5〜20質量部である。難燃剤の含有量が1質量部未満の場合は難燃性が十分でない場合があり、30質量部を超える場合は耐熱性が低下する場合がある。
<滴下防止剤>
滴下防止剤としては、例えば、ポリフルオロエチレン等のフッ素化ポリオレフィンが挙げられ、特にフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好ましい。これは、重合体中に容易に分散し、且つ、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示す。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。ポリテトラフルオロエチレンは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル社より、「テフロン(登録商標)6J」又は「テフロン(登録商標)30J」として、ダイキン工業社より「ポリフロン(商品名)」として市販されている。
滴下防止剤の含有量は、本発明の樹脂成分100質量部に対し、通常0.02〜4質量部、好ましくは0.03〜3質量部である。滴下防止剤の含有量が5質量部を超える場合は成形品外観の低下が生じる場合がある。
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造するための混練条件等については、用いる(A)、(B)、(C)成分の物性や配合割合、用いる無機充填材(D)の種類や配合割合、その他の添加剤の有無等により異なり、一概に言えないが、例えば、以下のような条件を採用することができる。
本発明の樹脂成分、必要に応じて用いられる無機充填材(D)や他の樹脂や添加剤等を配合し、ブレンドした組成物を、シリンダー温度200〜300℃、スクリュー回転数80〜400rpmで混練する。無機充填材(D)を添加する場合の添加方法としては、樹脂成分と無機充填材(D)を混練機へ一括供給により混練してもよいが、ガラスファイバーやワラストナイト等の繊維状ないし針状無機充填材(D)の場合、強いニーディリングによって無機充填材が折れ、充填材としての性能低下を招くことがある。また、タルク、ワラストナイト、マイカ等の無機鉱物系の無機充填材は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と加熱下で接触する時間が長くなることで、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を分解劣化させる。
本発明では、このような芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分解劣化を抑制するために、本発明の樹脂成分と無機充填材(D)との溶融混練時間は短い方が好ましい。
そのため、無機充填材(D)は、サイドフィード法を用いて、予め溶融混練過程を経た樹脂成分に対して、混練途中から添加し、その後軽いニーディングゾーンを経て、ストランドとして押し出す手法が好ましい。押し出されたストランドは冷却し、切断してペレット化する。特に、無機充填材(D)として、ガラス繊維やワラストナイトを用いる場合は、混練による折損を抑制するために、サイドフィード法を用いることが好ましい。
混練の際にはスクリュー回転数と吐出量をバランスさせ、ダイスにおける樹脂圧を1〜50MPa程度として、樹脂圧力を一定にかけながら押し出すことで、効果的に剪断応力がかかり、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)中における(C)成分のドメインと、必要に応じて配合される無機充填材(D)の分散性が向上する。シリンダー内に樹脂が充填されない状態で混練しても十分な剪断応力がかからず、(C)成分は大きなドメインを形成しやすくなり、また無機充填材(D)は均一分散されないために物性のばらつきや外観不良が生じやすくなる。
[ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からポリカーボネート樹脂成形品を製造する成形法としては、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、多色射出成形法、多色射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、断熱金型を用いた成形法、高速加熱冷却金型を用いた成形法、インサート成形法、IMC(インモールドコーティング)成形法等を挙げることができる。このうち、特に射出成形法が好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、他の熱可塑性樹脂組成物と多色複合成形して複合成形品とすることもできる。
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の物性]
<MVR>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、280℃、2.16kg荷重におけるメルトボリュームレイト(MVR)が5cm/10min以上であることが好ましい。MVRが5cm/10min未満では流動性が不足し、成形性が劣る傾向がある。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のMVRは、より好ましくは8〜100cm/10min、更に好ましくは10〜75cm/10minである。MVRが過度に高いと耐衝撃性が低下し、窓枠として要求される機能が果たせなくなったり、滞留熱安定性が低下し、成形時の劣化による物性低下が生じる恐れがある。
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のMVRは、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
<耐高速面衝撃性>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られた厚み3mmの成形品について行った、23℃、射ち抜き速度10m/secにおける高速面衝撃試験のパンクチャー点における吸収エネルギーが7J以上、特に15J以上であることが好ましい。
この吸収エネルギー値が7J未満では、後述のグレージング用窓枠部材等として要求される耐高速面衝撃性を満足し得ない場合がある。この吸収エネルギー値は大きい程、耐高速面衝撃性に優れ、好ましいが、通常、窓枠部材としてその上限は70J程度である。
なお、上記成形品の吸収エネルギー値は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
[芳香族ポリカーボネート樹脂成形体]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、上述の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、以下に定義される射出率10〜100cm/s、かつ、以下に定義される面進行係数40〜200cm/s・cmの条件で射出成形してなることを特徴とする。
射出率:射出成形機の吐出ノズルから金型キャビティに射出される単位時間当りの樹脂
組成物容量
面進行係数:上記射出率を、樹脂組成物が射出される金型キャビティの厚みで除した値
ここで、金型キャビティの厚みとは、樹脂組成物が射出されるときの金型キャビティの厚みであり、例えば、射出圧縮成形の場合のように、樹脂組成物を射出後、樹脂が充填されている最中に型締めを行う場合は、金型内で充填樹脂が流動している際の、樹脂流動部分における金型キャビティ厚みをさす。
上記の射出率及び面進行係数は、後述する耐薬品性の改善に効果的な(C)成分のドメインを形成するための条件であり、射出率は、10〜100cm/s、好ましくは12〜80cm/s、より好ましくは15〜70cm/sである。
芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の耐薬品性を高めるためには、(C)成分のドメインのサイズがある程度大きく、かつ表層部に層状に多数分散している(ドメインの長軸が長い)ことが、薬品の浸入を抑制して良好な耐薬品性を得るために好ましいが、射出率が上記下限よりも小さいと、射出成形過程において、(C)成分のドメインに剪断がかからずに微分散してしまうために、ドメインのサイズ(面積)が小さくなり、かつ、長軸が短くなる。即ち、ドメインが短く小さいものになるため、十分な耐薬品性の向上効果が得られない。射出率が上記上限よりも大きいと、金型キャビティへの樹脂組成物の充填時の剪断力が大きすぎる結果、(C)成分のドメインが引き千切られるために、ドメインのサイズ(面積)が小さくなり、かつ、長軸も短くなるため層状に分散せず、耐薬品性に対して効果を発揮し得なくなる。
また、面進行係数は、40〜200cm/s・cm、好ましくは40〜180cm/s・cm、より好ましくは45〜170cm/s・cmである。
面進行係数が上記下限よりも小さいと、射出成形過程において、(C)成分のドメインに剪断がかからずに微分散してしまうために、形成されるドメインのサイズ(面積)が小さくなり、かつ、長軸が短くなる。即ち、ドメインが短く小さいものになるため、十分な耐薬品性の向上効果が得られないことに加えて、湯ジワなどの外観不良が発生してしまう危険性が高い。面進行係数が上記上限よりも大きいと、金型キャビティへの樹脂組成物の充填時の剪断力が大きすぎる結果、(C)成分のドメインが引き千切られるために、ドメインサイズ(面積)が小さくなり、かつ、長軸も短くなるため層状に分散せず、耐薬品性に対して効果を発揮し得なくなることに加えて、ジェッティング(樹脂の流れ模様)などの外観不良が発生してしまう危険性が高い。
なお、金型キャビティの形状は、成形体の形状に対応し、従って、成形体が板状ではなく、段差や凹凸が存在する場合や、板状であっても、部位によって厚みが異なる場合は、金型キャビティの厚みは、部位により異なるものとなる。本発明においては、得られる成形体の耐薬品性が要求される箇所における金型キャビティの厚み(射出圧縮成形の場合のように、樹脂組成物の射出後、樹脂が充填されている最中に型締めを行う場合は、金型内で充填樹脂が流動している際の樹脂流動部分における金型キャビティ厚み)により求められる面進行係数が上記範囲を満たすように条件設定すればよく、例えば、耐薬品性が要求されない箇所における金型キャビティの厚みが厚く、面進行係数が上記範囲外であっても問題ない。
本発明においては、成形体中の耐薬品性が要求される箇所の少なくとも一部が、射出率10〜100cm/s、かつ、面進行係数40〜200cm/s・cmの条件で射出成形されていればよく、好ましくは、成形体中の耐薬品性が要求される箇所の面積の50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上が、射出率10〜100cm/s、かつ、面進行係数40〜200cm/s・cmの条件で射出成形されていればよい。
本発明において、射出成形時の条件として、射出率と面進行係数を所定範囲とする理由は、以下の通りである。
一般的に、射出条件としては、射出速度を規定することが多いが、射出速度は、平板や短冊などの定形形状の場合を除き、成形体内(即ち、金型キャビティ内)での形状の影響を受けるため、射出速度では、射出成形時に樹脂組成物が成形体内(即ち、金型キャビティ内)で受ける剪断力を評価し得ない。
シリンダーの移動速度(成形機の射出速度)であっても、成形機のシリンダー径によって充填される樹脂組成物の容量が変わり、このため金型キャビティ内の樹脂組成物の進行速度も異なる結果、やはり、剪断力を評価し得ない。
従って、本発明では、これらの影響を除くためのパラメーターとして射出率を採用する。
また、同じ射出率で金型キャビティ内に充填しても、金型キャビティの厚みによって、メルトフロント(金型キャビティ内で流動している樹脂組成物の先端部)の進行速度は異なることとなる。このメルトフロントの進行速度が異なると、表層部での剪断のかかり方が異なってくるため、(C)成分のドメインの配向状態が異なるものとなる。
このため、このメルトフロントの進行速度に起因する剪断力の程度を評価するためのパラメーターとして、本発明では、上記の射出率に加えて、面進行係数を規定する。
前掲の特許文献2には、射出速度のみ記載されており、本発明で規定する射出率及び面進行係数は不明であるが、少なくとも面進行係数については、40cm/s・cmを下回り、耐薬品性に有効なドメインを形成するに十分な剪断力を得ることはできない
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、前述の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を上記の射出率及び面進行係数を満たす条件で射出成形してなるものであるが、ここで射出成形法とは、一般的な射出成形法の他、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、多色射出成形法、多色射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法等の各種の射出成形法を包含する広義の射出成形法である。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、他の熱可塑性樹脂組成物との多色複合成形による複合成形体であってもよい。
[(C)成分のドメイン形状]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体において、(C)成分による耐薬品性の向上効果を有効に得るためには、成形体中の少なくとも表層部において、(C)成分が微細かつ層状に分散していることが重要である。
芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の耐薬品性の向上効果の面で、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、その表面から深さ30μmの範囲の表層部において、(C)成分、好ましくは、前述のポリエチレン系樹脂により形成されるドメインが以下のような寸法条件を満たすことが好ましい。
なお、この芳香族ポリカーボネート樹脂成形体の表層部とは、成形体の用途において耐薬品性が要求される表面における表層部であって、成形体の全表面である必要はない。通常、板状の成形体であれば、その一方又は双方、好ましくは双方の板面の表層部をさす。
<短軸径>
ドメインの短軸径は、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは1〜4μm、更に好ましくは1.2〜3μmである。
ドメインの短軸径が上記下限よりも小さいと、ドメイン層が薄くなりすぎて耐薬品性に対して十分な効果を発揮しなかったり、界面剥離が生じやすくなったりする。ドメインの短軸径が上記上限よりも大きいと、ドメインが層状に分散せずに耐薬品性に対して十分な効果を発揮し得ず、また、白化などの外観不良が生じる場合がある。なお、ドメインの短軸径とは、後述の長軸径と垂直に交わる方向の径のうちの最短径をいう。
<面積>
ドメインの面積は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜90μm、更に好ましくは30〜80μmである。
ドメインの面積が上記下限よりも小さいと、ドメインが層状に分散しても細かすぎて耐薬品性に対して十分な効果を発揮しない場合がある。ドメインの面積が上記上限よりも大きいと、ドメインが肥大化しすぎて層状に分散しなくなるため、耐薬品性に対して十分な効果を発揮しなかったり、長い一つの層状分散となり界面剥離などの外観不良や、層状剥離などの不具合を生じやすくなる。
<面積/長軸径比>
ドメインの面積/長軸径比は、好ましくは、0.5〜5μm、より好ましくは1〜4μm、更に好ましくは1.2〜3μmである。
ドメインの面積/長軸径比が上記下限よりも小さいと、ドメインは層状となるものの、非常に短軸径の小さい細い層となり、耐薬品性に対して十分な効果を発揮しなかったり、界面剥離などの外観不良や、層状剥離などの不具合を起こすおそれがある。ドメインの面積/長軸径比が上記上限よりも大きいと、ドメインが層状となりにくく耐薬品性に対して十分な効果を発揮し得ず、また白化などの外観不良が生じる場合がある。なお、ドメインの長軸径とは、ドメインの最長径をいう。
<アスペクト比>
ドメインのアスペクト比(長軸径/短軸径比)は、好ましくは1〜100、より好ましくは3〜60、さらに好ましくは5〜40である。
ドメインのアスペクト比が上記下限より小さいと可視光を散乱しうる大きなボイドが形成されやすくなることから白化の原因や、耐薬品性向上効果を損なうことに繋がりやすく、上記上限より大きいと流動方向に配向したポリエチレンドメインにより強い真珠光沢が生じやすくなる。
また、(C)成分のドメインと無機充填材(D)の両者の短軸径に大きな差異がないことが真珠光沢の消失に効果的であり、短軸径比(無機充填材(D)の短軸径/ドメインの短軸径)は0.1〜100、特に1〜25、とりわけ1〜15であることが好ましい。
なお、このドメインの短軸径、長軸径、アスペクト比及び面積は、以下のようにして測定、算出された値である。
即ち、成形体の流動方向の切断面をSEMで観察し、表面から深さ30μmの範囲の表層部におけるこの切断面から、得られたSEM観察写真を二値化し、画像解析ソフトで測定することができる。短軸径、長軸径、アスペクト比、面積は、画像解析ソフトによって抽出した700個以上のドメインの平均値として算出する。
また、本発明において、上述のように、(C)成分のドメインが微細かつ層状に分散している、成形体中のポリエチレン系樹脂ドメインの配向層の厚みは、成形体表面から30μm以上であることが好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以上がさらに好ましく、1mm以上であることが特に好ましい。配向層の厚みの上限は、好ましくは1.8mm、より好ましくは1.5mm、さらに好ましくは1.2mmである。通常、表面から2mm程度の深さまでは、配向しない場合が多い。配向層の厚みを上記範囲とすることにより、耐薬品性がより向上しやすい傾向にあり好ましい。
本発明においては、前述の射出率と面進行係数を満たす条件で、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形することにより、上記のような耐薬品性の向上に有効な形状ないし寸法のドメインを形成することができるが、より詳細な成形条件は、用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、(B)成分及びポリオレフィン系樹脂(C)の物性、その配合割合、用いる無機充填材(D)の種類及びその含有量、その他の添加剤の有無等により異なるため、例えば、以下のような調整を行うことが好ましい。
即ち、前述の好適条件で製造した本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、事前に80〜120℃で3〜20時間、例えば100℃で5時間乾燥を行う。より低い温度で乾燥を行う場合にはさらに乾燥時間を長くする。射出成形の条件としては、シリンダー温度を230〜340℃として、金型の温度調節を40〜120℃の条件下において、前述の射出率及び面進行係数を満たすように射出成形を行う。また、多くの無機充填材(D)は樹脂の劣化を促進するため、成形時には射出成形機のシリンダー内における滞留時間を短くする、もしくはシリンダー温度を成形に問題がない範囲で低めに設定することが好ましい。シリンダー内での計量時は、気泡の巻き込み等を抑えるため、背圧を1〜20MPaかけて40〜150rpmの回転数で計量を行う事が望ましい。射出速度の条件は目的とする成形品の形状に大きく依存するため、金型形状にあわせて段階的に射出速度を制御する。射出速度を高速で射出した場合、剪断発熱により樹脂の劣化や低分子量成分の気化により、シルバー等の成形不良が発生する恐れがある。
本発明では、このような成形条件を採用した上で、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の配合毎に、成形品サンプルについてドメイン形状を調べ、更に成形条件を微調整することにより、目的とするドメイン形状を実現することができる。即ち、ドメインの面積/長軸径比が小さ過ぎる場合は剪断応力が強くかかり過ぎている、又はポリエチレン系樹脂の流動性が高すぎる場合と、微分散しすぎてドメインのサイズが小さくなっている場合がある。前者の場合は、射出率を小さくし面進行係数を小さくする、樹脂温を下げるなどすればよい。後者の場合は、射出率を大きくし面進行係数を大きくすることで、ドメインの集合を図るなどすればよい。また、ドメインの面積/長軸径比が大き過ぎる場合は剪断応力が弱くなりすぎている、又はポリエチレン系樹脂の流動性が低すぎるので、射出率を大きくし面進行係数を大きくする、樹脂温を上げるなどすればよい。また、ドメインのアスペクト比が小さ過ぎる場合は剪断応力が弱くなりすぎている、又は固化前にドメインの緩和が起こっているので、射出率を大きくし面進行係数を大きくする、金型温度を低めに設定する、樹脂温を上げるなどすればよい。また、ドメインのアスペクト比が大き過ぎる場合は、剪断応力が強くかかり過ぎている、又は引き伸ばされたドメインが緩和する前に急冷されているので、射出率を小さくし面進行係数を小さくする、金型温度を高めに設定する、樹脂温を下げるなどすればよい。
[パネル]
本発明のパネルは、前面及び後面を有するパネル本体と、該パネル本体の後面の周縁部に設けられた枠部材とを備え、該枠部材を介してパネル支持体に支持されるパネルであって、該パネル本体が芳香族ポリカーボネート樹脂を主成分樹脂とし、該枠部材が本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体よりなることを特徴とする。
本発明のパネルは、一般的には、図1(a)〜(c)に示す構造とされている。
[パネル本体]
パネル本体1の構成材料は、透明樹脂であれば、従来公知の任意のものから適宜選択することが出来る。ここで、透明とは、JIS K7105に準拠して測定された表面の平滑な厚み3mmの板状成形品における全光線透過率として、通常5%以上、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、Haze値が通常10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下であることを意味する。染料又は顔料を含有する透明な樹脂においては、かかる染料又は顔料の使用割合は、樹脂100質量部に対し、通常0.001〜2質量部、好ましくは0.005〜1質量部、更に好ましくは0.005〜0.5質量部である。
上記のような透明樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙られる。本発明においては、これらのうち、耐衝撃性や耐熱性の面から、芳香族ポリカーボネート樹脂を主構成樹脂とするものを用いる。なお、主構成樹脂とするとは、芳香族ポリカーボネート樹脂の割合が通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に80〜100質量%であることを意味する。
芳香族ポリカーボネート樹脂を主構成樹脂とする場合に併用する樹脂は、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、その形態は、透明性を維持する形態であればアロイでも共重合体でもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる(A)成分として例示したものを用いることができる。ただし、パネル本体を構成する芳香族ポリカーボネート樹脂と、枠部材を形成する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に含まれる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とは同一であってもよく、異なるものであってもよい。
パネル本体の構成材料には、染料又は顔料以外に、従来公知の任意の添加剤を添加することが出来、その例としては、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滴下防止剤などが挙げられる。これらの添加剤としては、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に配合し得るその他の添加剤として例示したものを用いることができ、その配合量についても同様である。
[寸法・形状等]
本発明のパネルにおいて、枠部材及びパネル本体の寸法や形状は、その用途に応じて適宜設計される。
一般的にはパネル本体の厚さは2〜10mm程度であり、好ましくは3〜8mm、枠部材の厚みは0.5〜5mm程度であり、好ましくは1〜4mmである。また、パネル本体の厚さと枠部材の厚さとの比は0.75〜5.0、特に1.5〜4.0程度が好ましい。
通常、この枠部材の外縁部は、パネル本体の外縁部よりも該パネル本体の板央側に後退している。このように、枠部材の外縁部がパネル本体の外縁部よりもパネル本体の板央側に後退していると、枠部材の成形時に樹脂の裏回りが防止される傾向にある。ただし、この後退幅が大きすぎると意匠性、耐溶剤性が損なわれるため、枠部材のパネル本体の外縁部からの後退幅(図1及び後述の図2のd)は0.1〜10mm程度、特に0.5〜5mm、とりわけ0.5〜2mmであることが好ましい。
パネル本体は平板状であってもよく、図1に示すように枠部材形成面と反対側の面側が凸となるように湾曲していてもよい。
また、パネルは通常略長方形状であるが、何ら略長方形状に限定されない。
例えば、パネルが略長方形状である場合、その寸法には特に制限はなく、その用途に応じて適宜選択して決定されるが、通常、自動車の窓材用途として用いられる場合には、そのパネル本体の枠部材の内側の面積は400cm〜2m程度、枠部材の幅は30〜200mm程度である。中でも、パネル本体の枠部材の内側の面積は800cm〜1m、枠部材の幅は30〜150mmであることが好ましい。
パネル本体が略長方形状であって、かつ前面側に凸となるように湾曲している場合、前面の最凸部の湾曲高さも、その用途に応じて適宜選択して決定すればよいが、通常、パネル本体の長辺長さ方向(長手方向)のRが5,000R〜20,000R、特に10,000R〜20,000R程度、短辺長さ方向(短手方向)のRが1,000R〜15,000R、特に5,000R〜10,000R程度となるような値であることが好ましい。
なお、パネル本体の後面と枠部材との境界部(接合面)には凹凸部を形成し、凹凸状の嵌合構造でパネル本体と枠部材との結合強度を大きくしてもよい。また、枠部材には、他部品を取り付けるための取付形状を突設してもよい。
また、枠部材は、その幅方向(パネルの外縁部から内側(パネル本体の板央側))において、厚みがほぼ同一の、断面長方形状のものに限定されず、内側(パネル本体2の板央側)へ向けて厚みが連続的に或いは段階的に小さくなるものであってもよい。
このようなものとしては、図2に示す断面台形状の枠部材3Aが設けられたパネル1Aが挙げられる。
このように枠部材3Aの厚みをパネル本体2の板央側へ向けて薄くすることにより、パネル本体2と枠部材3Aとを射出成形により一体成形するに当たり、特に、パネル本体2を先に射出成形し、次いで、枠部材3Aを射出成形する際、枠部材3Aの収縮応力が緩和され、パネル本体2の歪みが防止されやすくなる。この収縮応力の緩和効果を良好なものとするために、図2に示すような枠部材3Aを有するパネル1Aにあっては、枠部材3Aの厚みtと枠部材3Aの全幅Lと厚みが小さくなる部分の幅Lとは次の関係にあることが望ましい。
/t≧1.75
1>L/L≧0.25
[パネルの製造方法]
本発明のパネルは、例えば、次のような方法で製造される。
(1) パネル本体及び枠部材を多色射出成形で一体成形する。
(2) パネル本体及び枠部材のうちのいずれか一方を予め射出成形により成形したものを用いてインサート射出成形で一体成形する。
特に、一体成形されたパネルの反りや、一体成形時に透明窓部材へ枠部材の溶融樹脂が混流することを防止する点において、一体成形時は枠部材を後に射出成形する方法により、積層一体化することが好ましい。
上記いずれの方法にあっても、枠部材の射出成形に当っては、前述の射出率と面進行係数を満たす条件で射出成形が行われる。
[硬質被膜]
本発明においては、パネル本体の傷つきや劣化を主に防止するため、保護膜としてのハードコート(硬質被膜)が設けられてもよい。かかる硬質被膜は、枠部材と反対側のパネル本体の前面側と、パネル本体の後面のうちの枠部材の内側領域のうちの一方、又は双方に形成されるが、少なくとも、パネル本体の前面に形成されることが好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、耐薬品性に優れるため、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体よりなる枠部材には、プライマーによる樹脂劣化を防止するための硬質被膜を施す必要性が低減される。
そのため、本発明においては、パネル本体の前面と、該パネル本体の後面のうちの前記パネル支持体と接着される部分以外の領域との一方又は双方に、硬質被膜が形成されていることが好ましい。また、パネル本体の前面と、該パネル本体の後面のうちの前記枠部材と接していない領域との一方又は双方に、硬質被膜が形成されていることも、好ましい態様の一つとして挙げられる。このような態様の場合は、枠部材に対する硬質被膜処理が不要となり、生産効率、製造コストの面で有利となり、さらに、層構成が増えることによる、湿熱環境下や耐候性試験下での長期耐久性や信頼性の低下も抑制できる。
硬質被膜の厚さはパネル本体の厚さの1/100以下が好ましく、通常は1〜50μm特に5〜20μmが好ましい。硬質被膜の厚さが薄すぎる場合、耐候性や耐擦傷性の面でパネル本体の保護層としての機能を損なう場合がある。また、厚さが厚すぎる場合は、パネル本体との線膨張差によって経年破断に至る可能性が高くなる傾向にある。
硬質被膜は、単層でもよいが、保護機能ないし耐候性を高めるために少なくとも2層以上の多層構造としてもよい。当該多層構造においては、最外層の硬度を最大に設定するのが好ましい。多層構造を有する硬質被膜としては、例えば、熱線遮蔽、紫外線吸収、サーモクロミック、フォトクロミック、エレクトロクロミックの各機能性層やプライマー層、着色加飾層などのうち、少なくとも一つ以上の機能を備えていることが好ましい。
硬質被膜の構成材料は透明樹脂が好適である。かかる透明樹脂としては、ハードコート剤として知られている公知の材料を適宜使用することが出来、例えば、シリコーン系、アクリル系、シラザン系、ウレタン系などの種々のハードコート剤を使用することが出来る。これらの中では、接着性や耐候性を向上させるために、ハードコート剤を塗布する前にプライマー層を設ける2コートタイプのハードコートが好ましい。コーティング方法としては、スプレーコート、ディップコート、フローコート、スピンコート、バーコート等が挙げられる。また、フィルムインサートによる方法、転写フィルムに好適な機能性膜を塗布して転写する方法なども採用し得る。
また、硬質被膜としては、特開2011−121304号公報に記載の表面保護層も有効である。
上記の硬質被膜の最外層に、各種機能(熱線遮蔽、紫外線吸収、サーモクロミック、フォトクロミック、エレクトロクロミックの各機能)を持つ機能性膜が形成されてもよい。
また、パネル本体の表面と上記の硬質被膜との間に透明樹脂層が設けられてもよい。
また、本発明のパネルをバックドアパネルとして用いる場合、後方ガラスの曇り止めや曇り除去の機能が必要となるため、パネル本体の枠部材形成面側に、導電膜や防曇膜を形成することが好ましい。導電膜にはその外表面側にさらにハードコート機能としての硬質被膜を設けても良いが、防曇膜はパネル本体に付設される被膜の最外層であることが好ましい。
[パネル設置構造]
本発明のパネル設置構造は、図1(c)に示す如く、本発明のパネルをプライマー層及びウレタン系接着剤層を介して車体フレーム等のパネル支持体に支持してなることを特徴とする。なお、プライマー層は、パネル支持体とウレタン系接着剤層との間、ウレタン系接着剤層と枠部材との間の両方に設けられることが好ましい。即ち、プライマーは、パネル支持体の接着面と枠部材の接着面の双方に塗布されることが好ましい。
[プライマー]
本発明においては、後述のウレタン系接着剤の性能が十分に発揮されるよう、枠部材の表面に対して、プライマー層を介してウレタン系接着剤層が設けられることが好ましい。
即ち、本発明のパネルは、枠部材とウレタン系接着剤層との間にプライマー層を有することにより、パネル支持体と強固に接着される。即ち、枠部材とウレタン系接着剤層とはプライマー層を介して貼り付けられていることが好ましい。
かかるプライマーとしては、イソシアネート成分と、溶剤とを含有するプライマー組成物が好適に例示される。
上記イソシアネート成分は、少なくとも2つのイソシアネート基を末端に有する化合物であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、水添(水素添加)MDI、水添TDI、水添XDI、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、芳香族脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートが、接着性に優れる点から好ましい。特に、このトリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートをプライマー全質量に対し6〜24質量%含有するのが好ましく、10〜20質量%含有するのがより好ましい。この範囲であると、粘度が高くなり過ぎず、貯蔵安定性に優れる傾向にある。
上記プライマー組成物に用いられる溶剤としては、上記イソシアネート成分に対して不活性であれば特に限定されず、従来公知の各種の溶剤を用いることができる。
具体的には、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、メチルエチルケトンや酢酸エチルが沸点が低く乾きが速い等の理由から好ましい。
なお、上記溶剤は、充分に乾燥または脱水してから用いることが好ましい。
上記溶剤の含有量は、特に限定されず、イソシアネート成分の種類等によって適宜決定されるが、イソシアネート成分100質量部に対して500〜1,000質量部程度が好ましい。
上記プライマー組成物は、更に、イソシアネートシラン化合物を含有するのが好ましい。上記イソシアネートシラン化合物は、イソシアネート基と加水分解性ケイ素含有基とを有する化合物である。上記イソシアネートシラン化合物は、例えば、イソシアネート基含有化合物と、イソシアネート基と反応し得る官能基と加水分解性ケイ素含有基とを有する化合物とを反応させて得ることができる。上記イソシアネートシラン化合物としては、具体的には、例えば、MDI、TDI等のジイソシアネートと、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン等のシランカップリング剤とを反応させて得られる化合物等が好適に挙げられる。
また、イソシアネート基含有化合物と、フェニル基またはその誘導体が窒素原子に直接結合したイミノ基を有するシランカップリング剤とを反応させて得られるイソシアネートシラン化合物も好適に用いられる。ここで、上記イソシアネート基含有化合物は、脂肪族または脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。また、上記イソシアネート基含有化合物と上記シランカップリング剤とをNCO/NH=3/1〜3/2の反応比で反応させて得ることが好ましい。
上記プライマー組成物中の上記イソシアネートシラン化合物の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
上記プライマー組成物は、更に、リン酸塩を含有するのが好ましい態様の一つである。
リン酸塩としては、特に限定されないが、具体的には、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、トリポリリン酸二水素アルミニウム等が好適に例示される。特に、トリポリリン酸二水素アルミニウムが好適に使用される。
このようなリン酸塩は各種の処理を施されていてもよい。特に、Siおよび/またはZnによって表面処理を施されたリン酸塩、とりわけSiおよび/またはZnによって表面処理を施されたトリポリリン酸二水素アルミニウムは、極めて優れた接着性を確保することができ、より好ましい結果を得ることができる。また、リン酸塩は脱水処理を施されたものであるのが好ましい。
上記プライマー組成物中の上記リン酸塩の含有量は、上記イソシアネート成分100質量部に対して5〜100質量部程度が好ましい。この範囲であれば、リン酸塩を添加することの効果が十分に得られ、かつ、リン酸塩を十分に分散することができ、良好な接着性を得ることができる。これらの特性により優れることから、上記リン酸塩の含有量は、30〜60質量部程度がより好ましい。
上記プライマー組成物は、更に、カーボンブラックを含有するのが好ましい態様の一つである。上記プライマー組成物中のカーボンブラックの含有量は、5〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。この範囲であると、貯蔵安定性やプライマー塗膜の柔軟性に優れる。
上記プライマー組成物は、必要に応じて、硬化触媒を含有することができる。
触媒としては、具体的には、例えば、トリエチレンジアミン、ペンタメチレンジエチレントリアミン、モルフォリン系アミン、トリエチルアミン等のアミン系触媒、ジラウリル酸−ジ−n−オクチルスズ、ジラウリル酸ジブチルスズ、スタナスオクトエート等のスズ系触媒等が挙げられる。
上記プライマー組成物中の硬化触媒の含有量は、特に限定されないが、通常、イソシアネート成分100質量部に対して0.1〜1質量部程度である。
上記プライマー組成物の好ましい態様の一つは、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート6〜24質量%と、カーボンブラック5〜30質量%と、溶剤とを含有するプライマー組成物である。このプライマー組成物は、樹脂に対する接着性に優れる。
さらに、上記プライマー組成物の別の好ましい態様は、イソシアネート成分と、リン酸塩と、溶剤とを含有するプライマー組成物である。このプライマー組成物は、塗装板に対する接着性に優れる。
上記プライマー組成物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、上述した各成分を、ロール、ニーダー、押出し機、万能攪拌機等により混合する方法が挙げられる。
本発明に好適なプライマーの市販品としては、例えば、横浜ゴム社製、塗装面用および樹脂用プライマーM(RC−50E)又はM(RC−50KE)が例示される。
また枠部材及びパネル支持体のいずれの表面においても、プライマー塗工前又はウレタン系接着剤層形成のための接着剤塗工前に表面を洗浄することが好ましく、かかる洗浄にはイソプロパノール等が好適である。
[ウレタン系接着剤]
本発明において、枠部材とパネル支持体との接着には、弾性体としての強度、疲労特性、及び耐熱老化性などに優れるウレタン系接着剤を用いる。ウレタン系接着剤は、湿気硬化型一液性ウレタン接着剤、及び二液性ウレタン接着剤のいずれも使用可能であるが、高強度、低コスト、及び速い硬化速度(固化:セットの速度及び硬化:キュアの速度いずれをも意味する)の点から、湿気硬化型一液性ウレタン接着剤が好ましい。殊に速い硬化速度は、ガラス等に比較すれば軽量な枠部材、又は枠部材とパネル支持体の接着において有利である。即ち、樹脂製の枠部材では、ガラス等に比べて自重による圧着力が弱いため、圧力をかける工程が必要となるが、硬化時間が短いことによりこの工程が短縮され、好ましい。
好適なウレタン系接着剤である湿気硬化型一液性ウレタン接着剤についてさらに説明する。湿気硬化型一液性ウレタン接着剤に用いられるウレタンプレポリマーは、特に限定されず、例えば、ポリオール化合物とイソシアネート基含有化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマーを用いることができる。
上記ウレタンプレポリマーに用いられるポリオール化合物は、炭化水素の複数個の水素をヒドロキシ基で置換したアルコール類である。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドの少なくとも1種を、分子中に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物に付加重合させた生成物が挙げられる。
上記活性水素含有化合物としては、例えば、多価アルコール類、アミン類、アルカノールアミン類、多価フェノール類等が挙げられる。
多価アルコール類としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
アミン類としては、具体的には、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
アルカノールアミン類としては、具体的には、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
多価フェノール類としては、具体的には、例えば、レゾルシン、ビスフェノール類等が挙げられる。
上記ポリオール化合物としては、具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィン系ポリオール;アジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ヒマシ油等のポリエステル系ポリオール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ポリオール化合物は、平均分子量が1,000〜10,000程度であるのが好ましく、2,000〜5,000程度であるのがより好ましい。
上記ウレタンプレポリマーに用いられるイソシアネート基含有化合物としては、通常のポリウレタン樹脂の製造に用いられる種々のものを用いることができる。具体的には、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のTDI;ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等のMDI;テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ノルボルナン骨格を有するジイソシアネート(NBDI)、および、これらの変成品等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのイソシアネート基含有化合物の中でも、TDIおよびMDIが好ましい。これらのポリイソシアネートは汎用であるので、安価かつ入手が容易である。
上記ウレタンプレポリマーの製造時におけるポリオール化合物とイソシアネート基含有化合物とを混合する割合は、ポリオール化合物のヒドロキシ基の数に対するイソシアネート基含有化合物のイソシアネート基の数の比(NCO/OH)が、1.0以上であるのが好ましく、1.5〜2.0であるのがより好ましい。
ウレタン系接着剤は、可塑剤を好適に含有することができる。可塑剤を配合させることにより、得られるウレタン組成物の粘度を調節し、作業性を良好にすることができる。
可塑剤としては、例えば、テトラヒドロフタル酸、アゼライン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸およびこれらのエステル等の誘導体;ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ系、パラフィン系、ナフテン系および芳香族系のプロセスオイル;等が挙げられる。
これらのうち、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤等のエステル系可塑剤が好ましい。
具体的には、フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジオクチル錫ラウレート(DOTL)、ジブチルフタレート(DBP)、ジラウリルフタレート(DLP)、ブチルベンジルフタレート(BBP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジメチルフタレート、ジエチルフタレートが挙げられる。これらのうち、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレートが好ましい。
アジピン酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジオクチルアジぺート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジイソデシルアジぺート、アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステルが挙げられる。これらのうち、ジイソノニルアジペートが好ましい。
その他の可塑剤としては、例えば、セバシン酸ジブチル、コハク酸ジイソデシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル、オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル、トリオクチルフォスフェート、トリス(クロロエチル)フォスフェート、トリス(ジクロロプロピル)フォスフェート、リン酸トリクレジル、トリブチルトリメリテート(TBTM)、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、エポキシステアリン酸アルキル、エポキシ化大豆油;分子量500〜10,000のブチルアクリレート等のアクリルオリゴマーが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
所望により添加する可塑剤のウレタン系接着剤中の含有量は、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、20〜70質量部であるのが好ましく、30〜50質量部であるのがより好ましい。可塑剤の含有量がこの範囲であれば、得られるウレタン系接着剤のチクソ性を損なうことなく、粘度を調節し、作業性を良好にすることができる理由から好ましい。
また、ウレタン系接着剤は、炭酸カルシウムを含有していることが好ましい。炭酸カルシウムを配合させることにより、得られるウレタン系接着剤の粘度を調節して作業性を良好にすることができる。
炭酸カルシウムとしては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム)、コロイダル炭酸カルシウム等が挙げられる。
また、脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル、高級アルコール付加イソシアネート化合物等により表面処理された表面処理炭酸カルシウムも用いることができ、このうち、脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコール付加イソシアネート化合物等で表面処理されたものが特に好ましい。表面処理炭酸カルシウムは、粘度を高くするため形状保持性および作業性に寄与し、また、表面が疎水性であるため貯蔵安定性に寄与する。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
所望により添加する炭酸カルシウムのウレタン系接着剤中の含有量は、上記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、1〜50質量部であるのが好ましく、2〜8質量部であるのがより好ましい。炭酸カルシウムの含有量がこの範囲であれば、得られるウレタン系接着剤の粘度を調節して作業性を良好にすることができる理由から好ましい。
ウレタン系接着剤は、上記成分に加え、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えば、第三級アミン触媒などの硬化触媒、カーボンブラック、および炭酸カルシウム以外の充填材、チクソトロピー性付与剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、分散剤、脱水剤、紫外線吸収剤を含有することができる。
炭酸カルシウム以外の充填材は、各種形状の有機または無機のもの、例えば、シリカ(ホワイトカーボン)、クレー・タルク類、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、生石灰、炭酸塩類(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、胡粉)、アルミナ水和物(例えば、含水水酸化アルミニウム)、ケイソウ土、硫酸バリウム(例えば、沈降性硫酸バリウム)、マイカ、硫酸アルミナ、リトポン、アスベスト、グラファイト、二硫化モリブデン、軽石粉、ガラス粉、ケイ砂、ゼオライト;これらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル、高級アルコール付加イソシアネート化合物などによる表面処理物;ガラスバルーン;樹脂バルーン;等が挙げられる。
チクソトロピー性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル社製)、ディスパロン(楠本化成社製)等が挙げられる。
顔料としては、無機顔料および有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、具体的には、例えば、亜鉛華、酸化チタン、弁柄、酸化クロム、鉄黒、複合酸化物(例えば、チタンエロー系、亜鉛−鉄系ブラウン、チタン・コバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック)などの酸化物;黄鉛、モリブデートオレンジなどのクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;カドミウムエロー、カドミウムレッド、硫化亜鉛などの硫化物;硫酸バリウムなどの硫酸塩;塩酸塩;群青などのケイ酸塩;炭酸カルシウムなどの炭酸塩;マンガンバイオレットなどのリン酸塩;黄色酸化鉄などの水酸化物;カーボンブラックなどの炭素;アルミニウム粉、ブロンズ粉などの金属粉;チタン被覆雲母;等が挙げられる。
有機顔料としては、具体的には、例えば、モノアゾレーキ系(例えば、レーキレッドC、パーマネンレッド2B、ブリリアントカーミン6B)、モノアゾ系(例えば、トルイジンレッド、ナフトールレッド、ファストエローG、ベンズイミダロンボルドー、ベンズイミダゾロンブラウン)、ジスアゾ系(例えば、ジスアゾエロー芳香族ポリカーボネート樹脂成形体、ジスアゾエローHR、ピラゾロンレッド)、縮合アゾ系(例えば、縮合アゾエロー、縮合アゾレッド、縮合アゾブラウン)、金属錯塩アゾ系(例えば、ニッケルアゾエロー)などのアゾ系顔料;銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、臭素化銅フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;塩基性染料レーキ(例えば、ローダミン6レーキ)などの染付顔料;アンスラキノン系(例えば、フラバンスロンエロー、ジアンスラキノリルレッド、インダンスレンブルー)、チオインジゴ系(例えば、チオインジゴボルドー)、ペリノン系(例えば、ペリノンオレンジ)、ペリレン系(例えば、ペリレンスカーレット、ペリレンレッド、ペリレンマルーン)、キナクリドン系(例えば、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンスカーレット)、ジオキサジン系(例えば、ジオキサジンバイオレット)、イソインドリノン系(例えば、イソインドリノンエロー)、キノフタロン系(例えば、キノフタロンエロー)、イソインドリン系(例えば、イソインドリンエロー)、ピロール系(例えば、ピロールレッド)などの縮合多環顔料;銅アゾメチンエローなどの金属錯塩アゾメチン;アニリンブラック;昼光蛍光顔料;等が挙げられる。
染料としては、具体的には、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化クロム、弁柄等が挙げられる。
老化防止剤としては、具体的には、例えば、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N′−ジナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、2,2,4−トリメチル−1,3−ジヒドロキノリン(TMDQ)、N−フェニル−1−ナフチルアミン(PAN)、ヒンダードフェノール系化合物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などのヒンダードフェノール系化合物;亜リン酸トリフェニル:等が挙げられる。
帯電防止剤としては、具体的には、例えば、第四級アンモニウム塩、アミンなどのイオン性化合物;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体などの親水性化合物;等が挙げられる。
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ジエチルビスヒドロキシエチルアミノホスフェート、ネオペンチルブロマイドーポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
接着性付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、各種シランカップリング剤等が挙げられる。
分散剤としては、具体的には、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、リノール酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩;ステアリン酸エチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸ブチル、アジピン酸ジオクチル、ステアリン酸モノグリセライドなどの脂肪酸エステル;等が挙げられる。
脱水剤としては、具体的には、例えば、メチルスアテアロキシポリシロキサン等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤、フォルムアミジン系紫外線吸収剤、トリアジン環系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本発明に好適な湿気硬化型一液性ウレタン接着剤の市販品としては、例えば横浜ゴム社製、ハマタイトWS−222(商品名)が例示される。
ウレタン系接着剤層の厚みは、特に制限はされないが、より良好な接着性及び緩衝性を達成するため、好ましくは2〜10mm、より好ましくは2.5〜9mm、さらに好ましくは3〜8mmの範囲であることが好ましい。なお、かかる厚みは、ウレタン系接着剤の反応完了後における厚みである。ウレタン系接着剤層の厚みが厚すぎる場合には、ウレタン系接着剤層の伸びの絶対量が大きくなり、部材の固定が不十分となったり、経時的な変位(クリープ)が大きくなったりする場合がある。一方、ウレタン系接着剤層の厚みが薄すぎる場合には、ウレタン系接着剤層の耐久性が不十分となりやすく、界面からの剥離を生ずる可能性がある。
ウレタン系接着剤層のより好ましい厚みは、適用されるパネルの大きさ、すなわち最大長さによってその好適範囲は左右される。パネルの最大長さが1mを超える場合にはパネルの最大長さ1m当り、ウレタン系接着剤層の厚さは2〜8mm、特に3〜7mmが好ましい。
ウレタン系接着剤層を形成するためのウレタン系接着剤の塗工は、用いるウレタン系接着剤の塗工方法に準じて行われる。ウレタン系接着剤の塗工後に固化及び硬化を促進するため、接着剤で結合された部材を熱処理してもよい。かかる熱処理としては、誘導加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱、及び熱風の如き熱媒体加熱などが例示される。
[パネル支持体]
本発明のパネルが枠部材を介して支持されるパネル支持体は、好ましくは金属材料よりなる。
本発明のパネルが建築物等の窓部材である場合、そのパネル支持体は、窓部の金属フレームであり、各種鉄鋼材料又は非鉄材料よりなり、例えば鋼材(鋼板)、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金などが例示される。中でも鋼材、アルミニウム合金が好適である。金属フレームの表面は、パネルの枠部材接合面等において、他の材料の被膜を有してもよい。例えば、溶融メッキ、電気メッキ、その他塗装などの被膜が形成されていてもよい。
本発明のパネルが車輌のグレージングである場合、車体フレームがパネル支持体となり、通常鋼材或いはアルミニウム合金よりなる。
[用途]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、耐薬品性、機械的強度等が求められる用途、例えば、車輛用窓部材等のグレージング、ボンネット、ピラー、トランクリッド、キャノピー、スポイラー、トリム等の車輌外装部品、カップホルダー、車載機器のベゼル、インパネ等の車輌内装部品、(携帯)電話、スマートフォン、PDA、(携帯型)DVDプレイヤー、(携帯型)パソコン、(携帯型)ゲーム機、(携帯型)タッチパネル、カメラ等の電気・電子機器の筐体及び部品、プリンターやコピー機等のOA関連部品、照明機器部品、看板、表示板、窓枠、サッシ等の建材部品等に好適に用いられる。
特に、本発明のパネル及びパネル設置構造は、建築物の窓や車輌のグレージング等として有用である。
車輌のグレージングとしては、サイドドア、バックドア、スライドドア、フード、サンルーフ、パノラマルーフなどのルーフなどに適用することができる。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
[使用材料]
以下の実施例及び比較例において、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造に用いた材料は以下の通りである。
<(A)成分>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1):三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロン(登録商標)S−3000FN」(粘度平均分子量:21,000)
芳香族ポリカーボネート樹脂(A−2):三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロン(登録商標)H−4000FN」(粘度平均分子量:14,000)
<(B)成分>
ABS樹脂:テクノポリマー社製「テクノABS DP611」(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン=16/40/44質量%)
AS樹脂:テクノポリマー社製「SANREX 290FF」(アクリロニトリル/スチレン=24/76質量%)
<(C)成分>
低密度ポリエチレン(C−1):エチレン−プロピレン−ヘキセン共重合体(エチレン含有率:50〜55モル%、密度:0.88g/cm、Mw/Mn:1.8、分子量分布の半値幅:0.697、MFR:2.2g/10min、結晶化度:18%、オリゴマー成分含有量:0.22質量%(23℃×1時間クロロホルム抽出))
ポリエチレン樹脂(C−2):日本ポリエチレン社製「ノバテックHD HJ360」(密度:0.95g/cm、Mw/Mn:4.6、分子量分布の半値幅:1.155、MFR:5.5g/10min、オリゴマー成分含有量:0質量%(23℃×1時間クロロホルム抽出で検出されず))
<無機充填材(D)>
タルク:松村産業社製「HICON−TALC R10」(平均粒子径:4.3μm、粒子トップサイズ:20μm、嵩密度:0.76g/ml、粒度:目開き500μm篩上の割合が98質量%、粒子形状:円柱状、平均軸径:1.2mm、平均軸長:1.5mm、バインダー種:水溶性ポリエステル)
ガラスファイバー:日本電気硝子社製「ECS−03T−187」(平均繊維径:13μm、平均長さ3mmのチョップドストランド)
ミルドガラスファイバー:旭ファイバーグラス社製「MF06JB1−20」(平均繊維径:10μm、平均長さ:60μmのミルドガラスファイバー)
ワラストナイト:巴工業社製「NYGLOS4」(平均粒子径:4.5μm、平均長さ50μm、表面処理:アミノシラン)
<他の樹脂>
ポリエチレンテレフタレート(PET):三菱化学社製「ノバペックスGG501H」
<その他の添加剤>
熱安定剤A:ADEKA社製「アデガスタブAO50」(ステアリル−β−(3,5−ジ−tent−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
熱安定剤B:ADEKA社製「アデガスタブAS2112」(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト)
熱安定剤C:城北化学工業社製「JP−518Zn」(有機リン酸エステル金属塩:ジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物)
着色剤:越谷化成工業社製「ロイヤルブラック904G」(カーボンブラック40質量%とポリスチレン60質量%のカーボンブラックマスターバッチ)
[プライマー・ウレタン系接着剤]
以下の実施例及び比較例においてウレタン剥離試験及びウレタン剪断試験で用いたプライマー及びウレタン系接着剤は以下の通りである。
プライマー:横浜ゴム社製「ボディプライマーM(RC−50E)」
ウレタン系接着剤:横浜ゴム社製「ハマタイトWS−222」
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における各種物性や性能の評価方法は以下の通りである。
<MVR>
各樹脂組成物のペレットを100℃で4時間以上乾燥した後、ISO1133に準拠して測定温度280℃、測定荷重2.16kgfで測定した。
<流れ性(Q値)>
各樹脂組成物のペレットを100℃で4時間以上乾燥した後、JIS K7210 付属書Cに記載の方法にて高荷式フローテスターを用いて、280℃、荷重160kgfの条件下で組成物の単位時間あたりの流出量Q値(単位:×10−2cm/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。Q値が高いほど、流動性に優れていることを示す。
<熱変形温度>
各樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製「J220EVP」(型締め力220t)で、以下の条件にてISO多目的試験片(4mm)の成形を行った。
金型:ISO試験片4本取り金型
成形条件:
成形時樹脂温度:280℃
金型温度:80℃
充填時間:2.0秒
射出率:42.87cm/s
面進行係数:107.2cm/s・cm
保圧:射出時のピーク圧力の50%を10秒
冷却時間:20秒
このISO多目的試験片からISO規定の方法で加工し、熱変形温度測定用試験片を作製した。得られた試験片を用い、ISO75−1及びISO75−2に準拠して荷重0.45MPaの条件で熱変形温度(荷重たわみ温度)を測定した。
<衝撃強度>
上記ISO多目的試験片をISO規定の方法で加工し、ノッチ付試験片を作製した。得られた試験片を用いISO179に準拠して、23℃の環境下において、ノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
<曲げ強度・曲げ弾性率>
上記ISO多目的試験片を、ISO規定の方法で加工し、曲げ試験用の試験片を作製した。得られた試験片を用い、ISO178規格に準じて、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
<成形収縮率>
各樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥した後、日本製鋼所社製「J220EVP」(型締め力220t)で、以下の条件にて図3(a),(b)に示す平板状試験片11を成形した。
金型:100mm×100mm×3mm厚さ
成形条件:
成形時樹脂温度:280℃
金型温度:80℃
充填時間:1.5秒
射出率:23.59cm/s
面進行係数:78.62cm/s・cm
保圧:射出時のピーク圧力の50%を10秒
冷却時間:20秒
成形収縮率とは、成形した金型キャビティ寸法から乾燥成形品の寸法を差し引いた値の金型キャビティ寸法に対する百分率(%)であり、以下のようにして求めた。
作製した平板を25℃、湿度50%の恒温恒湿条件下で24時間以上静置した後、平板に印字された70mm角の流動方向に平行方向(MD)の寸法、及び流動方向に垂直方向(TD)の寸法を測定し、金型上の寸法に対する百分率を算出することで、MDとTDそれぞれの成形収縮率とした。
<耐薬品性>
上記のISO規格引張試験片を、成形時の残留歪みを除くために100℃で2時間アニール処理を行った。その後、図4(a),(b),(c)に示す如く、高さ13.1mm又は12.4mmのスペーサー22と直径10mmの支持円柱24a,24bを用いて、固定枠23で、それぞれ0.21%又は0.38%の変形率の撓みを負荷した状態で、試験薬品としてガソリンを試験片21の凸面側(図4(c)のX部)に塗布し、この状態で48時間、23℃、湿度50%の恒温恒湿条件で放置し、その後、試験片の外観を観察し、下記基準により評価した。また、ISO527引張試験により、破断伸びEを測定した。
(外観の評価基準)
A:外観変化なし
C:クラックや割れの発生
別に、ガソリンを塗布しないこと以外は上記と同様の条件で撓みを負荷して同条件に放置した後、ISO527引張試験により破断伸びEを測定した。
この破断伸びEに対する保持率(%)として(E/E×100)を算出した。
ここで、変形率とは、試験片21と、これを支える円柱24a,24bとの接点A,Bとを結ぶ直線距離をL、試験片の厚みをa、たわみ量をδとすると、変形率=6aδ/Lで算出される値である。
たわみ量δは、次式により計算される。
δ=([支持円柱の高さ]+[試験片の厚み]−[スペーサーの高さ])
なお、治具支持点間距離Lは101mm、試験片21の厚みaは4mm、スペーサー22の高さは13.1mmまたは12.4mm、支持円柱24a,24bの高さ(直径)は10mmである。
破断伸びの保持率は5個の試験片について測定し、下記基準で評価した。
(破断伸びの保持率の評価基準)
A:全ての試験片の破断伸びの保持率が80%以上
B:5個のうち、4個の試験片の破断伸びの保持率が80%以上
C:5個のうち、3個の試験片の破断伸びの保持率が80%以上
D:5個のうち、破断伸びの保持率が80%以上の試験片が2個以下
<滞留熱安定性>
各樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥した後、日本製鋼所社製「J220EVP」(型締め力220t)で、以下の条件にて成形を行った。
金型:ISO試験片4本取り金型
成形条件:
成形時樹脂温度:280℃
金型温度:80℃
充填時間:2.0秒
射出率:42.87cm/s
面進行係数:107.2cm/s・cm
保圧:射出時のピーク圧力の50%を10秒
この際、冷却時間を用いて滞留時間を調整し、ペレットがシリンダー内に投入されてから射出成形されるまでの時間を滞留時間として、各滞留時間(5分、10分、20分)にて、得られた成形品へのシルバー発生の有無を目視にて確認し、下記基準で評価した。
(シルバー発生の評価基準)
A:すべての成形品にシルバー発生無し
B:一部の成形品にシルバー発生あり
C:すべての成形品にシルバー発生あり
<高速面衝撃>
島津製作所社製高速衝撃試験機「ハイドロショットHITS-P10」を用い、上記の100mm×100mm×3mm厚さの平板状試験片について、以下の試験条件で高速面衝撃試験を行い、パンクチャー点における吸収エネルギー(単位:J)を測定した。
(試験条件)
ストライカ直径 : 12.8mm(1/2インチ)
試験片サポート : 25.6mm(1インチ)
衝撃速度 : 10m/s
試験温度 : 常温(23℃)
<ウレタン剥離試験>
射出率23.59cm/s、面進行係数78.62cm/s・cmで射出成形して得られた、上記の100mm×100mm×3mm厚さの平板状試験片から25mm幅の短冊状試験片を切り出し、表面をイソプロピルアルコールで脱脂した後、プライマーを塗布し、30分間養生した。その後、ウレタン系接着剤を、短冊状試験片のプライマー塗布面に長手方向に帯状に塗布し、スペーサーを用いてウレタン系接着剤層が10mm幅、5mm厚みとなるように常温(23℃)で1週間硬化処理を行った。
このようにして作製した剥離試験片のウレタン系接着剤層の端部を引き上げて、ウレタン系接着剤層と短冊状試験片との境界にカッターの刃を入れながらウレタン系接着剤層を引き上げて剥離させる剥離試験を行った。ウレタン系接着剤による接着強度が低い場合には、ウレタン系接着剤層と短冊状試験片との界面で剥離するが、この接着強度が高い場合には、ウレタン系接着剤層又は短冊状試験片のいずれか一方が破壊して剥離することとなる。ウレタン系接着剤層部分が破壊して剥離することが好ましいことから、このウレタン剥離性を下記基準で評価した。
(ウレタン剥離性の評価基準)
A:剥離面のうち、ウレタン系接着剤層の破壊面が50%以上
C:剥離面のうち、ウレタン系接着剤層の破壊面が50%未満
<ウレタン剪断試験>
射出率23.59cm/s、面進行係数78.62cm/s・cmで射出成形して得られた、上記の100mm×100mm×3mm厚さの平板状試験片から25mm幅の短冊状試験片(以下、「樹脂試験片」という。)を切り出した。この短冊状試験片と同サイズのスチール製の短冊状試験片(以下、「スチール試験片」という。)を準備した。図5(a)に示すように樹脂試験片31とスチール試験片32の表面をイソプロピルアルコールで脱脂した後、両試験片31,32の接着面にプライマー33を塗布し、30分間養生した。次いで、図5(b)に示すように、樹脂試験片31のプライマー33塗布面にウレタン系接着剤34を長手方向に帯状に塗布した。次いで、図5(c)に示すように、スチール試験片32のプライマー33塗布面を被せ、スペーサー35を用いてウレタン系接着剤34の層が10mm幅、5mm厚みとなるように常温(23℃)で1週間硬化接着処理を行った。
このようにして作製した剪断試験片を、図5(d)に示すように、各々の試験片31,32を相反する方向に引っ張って、試験片31,32が分離するまで剪断試験を行い、以下の基準で評価した。
(ウレタン剪断性の評価基準)
A:ウレタン系接着剤層が破壊する。
C:樹脂試験片が破壊する。
<外観>
上記のISO多目的試験片、および100×100×3mm厚み平板状試験片の外観を目視にて確認し、以下の評価基準で評価した。
(外観評価基準)
A:白化なし
B:白化あり
C:著しい白化あり
<2色成形品の反り>
自動車のパノラマルーフを模擬した図6(a)〜(c)に示す2色成形品を用いて反りの評価を行った。図6(a)〜(c)において、51は試験用サンプルのパネルであり、パネル本体52とその周縁部に設けられた枠部材53とを備える。パネル本体52の外寸は750mm×465mmで、肉厚5mmであり、枠部材53の短辺側幅は97mm、長辺側の一方の幅は75mm、もう一方の幅は90mm、厚さは3.5mmである。枠部材53は、パネル本体52の外縁から3mm内側の位置(即ち、図6(b)におけるd=3mm)に設けられている。なお、パネル本体52は、枠部材53の形成面と反対側の面(前面)が、この前面側に凸となるように湾曲しており、長手方向(長辺側)が10,000R、短手方向(短辺側)が5,000Rの湾曲面となっている。図6(a),(c)において、Gはゲート部を示し、破線はウエルドラインを示す。
パネル本体の成形材料として、芳香族ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロン(登録商標)S−2000UR」(粘度平均分子量:24,000)を用い、枠部材の成形材料として表1,2に示すものを用いて、以下の方法で試験用サンプルのパネルを成形した。
まず、120℃で5時間の予備乾燥されたパネル本体用材料を金型温度90℃で温調されている固定型と第1の可動型との間に形成されるキャビティへ射出成形(射出温度320℃)してパネル本体を成形した。射出速度は50mm/secの単一速度とし、射出保圧切り替え位置は2mmとした。成形はバルブゲート型のホットランナーで行った。ゲート位置は、上記枠部材53の長辺側の幅75mmの中央で、幅方向の中心に相当する部分である。射出圧縮成形を行い、射出前に金型を2mm開き、射出保圧切り替え位置で700tの再型締めを行った。このときの再型締めの保持時間は15秒とした。次いでパネル本体を60秒冷却後、第1の可動型を型開きし、パネル本体を第一の可動型に保持した状態で、金型温度90℃に温調されている第2の可動型を型合わせし、第2の可動型とパネル本体との間に形成されるキャビティに、100℃で5時間の予備乾燥された枠部材用の成形材料を、射出速度40mm/secの単一速度で充填(射出樹脂温度270℃)した。射出保圧切り替え位置は35mmとした。25MPaの保圧を5秒間かけ、枠部材を形成した。成形はバルブゲート型のホットランナーで行った。バルブゲートのゲート点数は6点で、全ゲートを同時に開放し、同時に樹脂の充填を開始させた。60秒の冷却時間後、第2の可動型を型開きし、成形されたパネル本体と枠部材が一体化されたパネルを脱型した。
なお、上記の枠部材部分の射出成形時の6点ゲート平均射出率は26.67cm/s、6点ゲート平均面進行係数は76.21cm/s・cmである。さらに、前述のように6点のバルブゲートを同時に開放し樹脂を充填しているため、それぞれのゲートが担うキャビティによって若干、射出率が異なってくる。このため、図6(c)に示す各ゲートが担う、ウエルドラインの間の充填領域I〜VI部の充填量から、実際の各部の射出率及び面進行係数を算出した結果は以下の通りである。
I部、IV部:射出率:24.67cm/s
面進行係数:70.49cm/s・cm
II部、V部:射出率:22.97cm/s
面進行係数:65.63cm/s・cm
III部、VI部:射出率:32.38cm/s
面進行係数:92.50cm/s・cm
得られた2色成形品のパネルを枠部材側を下にして平面度の出ている定盤の上に置き、中央部の湾曲高さ(2色成形品の全高)を測定し、以下の評価基準にて2色成形品の反りを評価した。
(2色成形品の反り評価基準)
AA:2色成形品と設計値との湾曲高さの差が5mm未満
A:2色成形品と設計値との湾曲高さの差が5mm以上10mm未満
B:2色成形品と設計値との湾曲高さの差が10mm以上20mm未満
[実施例1〜9、比較例1,2]
表1,2に示す各成分を表1,2に示す割合にて、タンブラ−ミキサ−で均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30XCT」)にフィードし、溶融混練した組成物を、水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。なお、ガラスファイバー、ワラストナイトを使用する場合は、サイドフィーダーから押出機にフィードした。得られた樹脂組成物のペレットを用いて、各々前述の評価を行い、結果を表1,2に示した。
Figure 2014184720
Figure 2014184720
表1,2より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐薬品性、機械的特性、流動性、滞留熱安定性に優れ、この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体は、プライマー処理面をウレタン系接着剤により強固に接着することができることが分かる。
これに対して、(C)成分を含まない比較例1では、耐薬品性に劣り、ウレタン接着性に劣る。また、滞留熱安定性も悪い。(C)成分の代りにポリエチレンテレフタレートを配合した比較例2では、耐薬品性の向上効果は少し認められるものの、特に、高歪付加条件下ではその効果が十分ではない。また、ポリエチレンのドメイン形状が微細な層状分散とならず、大きな概円形状、概楕円形状又はアメーバ―形状であると考えられるため、ウレタン接着性に劣る。
[実施例10〜12、比較例3]
実施例1で製造した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製「J180AD−2M」(型締め力180t)で、以下の条件にてISO多目的試験片(4mm)の成形を行った。
金型:ISO試験片4本取り金型
成形条件:
成形時樹脂温度:270℃
金型温度:80℃
充填時間:0.8秒、1.2秒、2.3秒、又は4.3秒
射出率:表3に示す
面進行係数:表3に示す
保圧:射出時のピーク圧力の50%を10秒
冷却時間:20秒
各々のISO多目的試験片の表層部について、以下の方法でSEM観察を行い、低密度ポリエチレン(C−1)により形成されたドメインの形態を調べ、結果を表3に示した。
SEM観察:ISO多目的試験片の中央部分で、樹脂組成物の流動方向に平行な断面から、Leica社製「UC7」を用い、ダイヤモンドナイフで厚さ100nmの超薄切片を切り出した。得られた超薄切片を、15℃環境下で、四酸化オスミウム(OsO)にて30分、四酸化ルテニウム(RuO)で70分染色後、日立ハイテク社製「SU8020」を用い、加速電圧1kVの条件で、表面から深さ30μmの表層部についてSEM観察した。
ドメイン形態の測定:SEM観察写真を二値化し、画像解析ソフト「Image−Pr Plus(ver6.2J)」(Media Cybernetics社)にて、上述の手法で測定した。
図7(a),(b),(c)に実施例10,11,12のISO多目的試験片の表層部のSEM写真を示す。
この写真において、流動方向は右から左方向である。薄い灰色部分が芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックスであり、それより薄い灰色の丸〜楕円状で存在しているのがABS樹脂及び/又はAS樹脂である。そして、黒い線状〜層状に観察される部分がポリエチレンのドメインである。
また、各ISO多目的試験片について、前述の<耐薬品性>の評価を行い、結果を表3に示した。
Figure 2014184720
比較例3は射出率、面進行係数が大きく、成形時に剪断力がかかり過ぎてしまったためにドメインが短く千切れてしまった。ドメインの面積が小さくなってしまったため、耐薬品性が悪くなり、破断伸び保持率が低下した。さらに、変形率0.38%における耐薬品性の評価においては、外観に細かなクラックも発生した。
なお、実施例11で得られたISO多目的試験片について、ドメインを構成する低密度ポリエチレン(C−1)の結晶化度をDSCにより求めたところ、結晶化度は10〜12%であり、成形前の低密度ポリエチレン(C−1)(結晶化度:18%)に比べて、結晶化度が56〜67%に減少していることが確認された。
[実施例13]
実施例1で製造した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを枠部材の成形材料として用い、前述の<2色成形品の反り>の評価で成形したパネルの枠部材の2つの長辺部のうち、幅90mmの部分(I部)と幅75mmの部分(II部)について、それぞれ、実施例10〜12におけると同様に表層部(パネル本体と接する面と反対側の面)のSEM観察を行ってドメイン形態を測定し、結果を表4に示した。
I部の表層部のSEM写真を図8(a)に、II部の表層部のSEM写真を図8(b)に示す。この写真においても、実施例10〜12と同様に、樹脂組成物流動方向に沿って、ポリエチレンのドメインが適度に配向していることがわかる。
また、この枠部材部分について、前述の<ウレタン剥離試験>と<ウレタン剪断試験>を行い、結果を表4に示した。
Figure 2014184720
[比較例4]
実施例1で製造した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを100℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製「J180AD−2M」(型締め力180t)で、以下の条件にて、図9に示す平板状試験片60の成形を行った。
金型:150mm×100mm×10mm厚み
成形条件:
成形時樹脂温度:270℃
金型温度:80℃
充填時間:5.4秒
射出率:表5に示す
面進行係数:表5に示す
保圧:射出時のピーク圧力の50%を10秒
冷却時間:40秒
得られた平板状試験片の中央部について、実施例10と同様の手法で、表層部のSEM観察を行い、ポリエチレンドメイン形態を測定し、結果を表5に示した。また、この平板状試験片について、前述の<ウレタン剥離試験>と<ウレタン剪断試験>を行い、結果を表5に示した。
Figure 2014184720
比較例4は面進行係数が小さく、成形時にドメインに対して剪断力がそれほどかからなかったために、ドメインが十分に引き伸ばされなかった。このため、ドメインは層状に配向せず、ドメイン面積と長軸径の比が大きくなってしまったために、耐薬品性が悪くなり、ウレタン剥離試験において短冊状試験片の表面が剥離して材料破壊してしまった。
実施例10〜14及び比較例3、4の結果から、射出率と面進行係数を調整することにより、成形体の表層部に耐薬品性の向上に有効なポリエチレンドメインを形成することができ、優れた耐薬品性、ウレタン接着性を得ることができることが分かる。
1,1A,51 パネル
2,52 パネル本体
3,3A,53 枠部材
4 車体フレーム
5 接着剤
6 シール部材
11,60 試験片
12 ゲート部位
21 試験片
22 スペーサー
23 固定枠
24a,24b 支持円柱
31 樹脂試験片
32 スチール試験片
33 プライマー
34 ウレタン系接着剤
35 スペーサー
[2] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなることを特徴とする[1]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)1〜15質量%を含有してなることを特徴とする、[1]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)1〜15質量%の合計100質量部に対し、無機充填材(D)30質量部以下を含有してなることを特徴とする、[]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] ポリオレフィン系樹脂(C)が、密度0.85〜0.90g/cmであり、かつ、190℃におけるメルトフローレイト(MFR)が1〜20g/10minのポリエチレン系樹脂であることを特徴とする、[1]〜[]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] ポリオレフィン系樹脂(C)が、オリゴマー成分を0.01〜2質量%含有することを特徴とする、[1]〜[]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)が、ブタジエン成分を含有し、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)と芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)との合計中のブタジエン成分の含有量が5〜50質量%であることを特徴とする、[2]〜[]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の、280℃、2.16kg荷重におけるメルトボリュームレイト(MVR)が10cm/10min以上であることを特徴とする、[1]〜[]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
] 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の無機充填材(D)の含有量が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)の合計100質量部に対し、1〜30質量部であることを特徴とする、[]〜[]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。

Claims (17)

  1. 樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、以下に定義される射出率10〜100cm/s、かつ、以下に定義される面進行係数40〜200cm/s・cmの条件で射出成形してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
    射出率:射出成形機の吐出ノズルから金型キャビティに射出される単位時間当りの樹脂
    組成物容量
    面進行係数:上記射出率を、樹脂組成物が射出される金型キャビティの厚みで除した値
  2. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)を含有してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  3. 前記成形体の表面から深さ30μmの範囲の表層部に、ポリオレフィン系樹脂(C)により形成されたドメインが分散して存在し、該表層部の、前記射出成形時の樹脂組成物の流動方向に沿う断面における該ドメインの面積が10〜100μmであり、かつ、面積/長軸径の比が0.5〜5μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  4. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、樹脂成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)1〜15質量%を含有してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  5. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)45〜88質量%、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)2〜40質量%、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)0〜35質量%及びポリオレフィン系樹脂(C)1〜15質量%の合計100質量部に対し、無機充填材(D)30質量部以下を含有してなることを特徴とする、請求項4に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  6. ポリオレフィン系樹脂(C)が、密度0.85〜0.90g/cmであり、かつ、190℃におけるメルトフローレイト(MFR)が1〜20g/10minのポリエチレン系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  7. ポリオレフィン系樹脂(C)が、オリゴマー成分を0.01〜2質量%含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  8. ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)が、ブタジエン成分を含有し、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)と芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)との合計中のブタジエン成分の含有量が5〜50質量%であることを特徴とする、請求項2〜7のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  9. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の、280℃、2.16kg荷重におけるメルトボリュームレイト(MVR)が10cm/10min以上であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  10. 前記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の無機充填材(D)の含有量が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質重合体/芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−1)、芳香族ビニル/シアン化ビニル系共重合体(B−2)及びポリオレフィン系樹脂(C)の合計100質量部に対し、1〜30質量部であることを特徴とする、請求項5〜9のいずれかに1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体。
  11. 前面及び後面を有するパネル本体と、該パネル本体の後面の周縁部に設けられた枠部材とを備え、該枠部材を介してパネル支持体に支持されるパネルにおいて、該パネル本体が芳香族ポリカーボネート樹脂を主成分樹脂とし、該枠部材が請求項1〜10のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体よりなることを特徴とするパネル。
  12. 前記パネル本体と前記枠部材が、多色成形により積層一体化されてなることを特徴とする、請求項11に記載のパネル。
  13. 前記パネル本体の前面と、該パネル本体の後面のうちの前記パネル支持体と接着される部分以外の領域との一方又は双方に、硬質被膜が形成されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載のパネル。
  14. 車輌の窓部材に用いられることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載のパネル。
  15. 請求項11〜14のいずれか1項に記載のパネルを、プライマー層及びウレタン系接着剤層を介してパネル支持体に支持してなることを特徴とするパネル設置構造。
  16. 前記パネル支持体が金属材料よりなることを特徴とする、請求項15に記載のパネル設置構造。
  17. 請求項16に記載のパネル設置構造を備えることを特徴とする車輌。
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