JP2014183784A - ヒト造血幹細胞を増幅させるための組成物及び方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヒト造血幹細胞を増幅する方法を提供する。
【解決手段】新規な因子(a)IGF1、(b)SDF1、(c)Galectin-1、(d)EGF、(e)CRY61、及び(f)WISP2が造血幹細胞をSCF存在下で維持・増幅できることを見出した。即ち、この新規な因子は、下記(1)及び(2)の因子から成るヒト造血幹細胞を増殖させるための組成物である。(1)幹細胞因子(SCF)、(2)(a)IGF1、(b)SDF1、(c)Galectin-1、(d)EGF、(e)CRY61、及び(f)WISP2から成る群から選択される少なくとも1種の因子
【選択図】なし

Description

この発明は、ヒト造血幹細胞を増幅させるための組成物及び方法に関する。
造血幹細胞を維持、未分化維持、自己複製又は増殖・増幅させる因子は長年にわたり探索されてきた。その結果、現在までに幹細胞因子(以下「SCF(stem cell factor)」という。)、Flt3 ligand、TPO(トロンボポエチン)などの様々な因子やサイトカインを使って造血幹細胞を培養し増幅させる方法が考案されてきた(特許文献1〜6、非特許文献1〜4)。また、骨髄ストローマ細胞とヒト造血幹細胞を共培養することにより、ヒト造血幹細胞を増幅できることが知られており(特許文献1など)、ストローマ細胞に他のサイトカイン等を存在させた培地が提案されている(特許文献1、2、非特許文献2等)。
しかし、造血幹細胞を分化させずに幹細胞のまま増幅させることのできる、いわゆる「自己複製因子」は見つかっていない。更に、造血幹細胞を移植治療に十分な細胞数まで迅速に効率よく体外で増幅させる臨床応用可能な手法の確立には至っていない。
そのため、造血幹細胞を極力幹細胞のまま増幅させることができる因子の発見と、それを用いたヒト造血幹細胞を効率良く安全に増幅する移植治療に実用できる方法の開発が求められている。
特開平10-295369 特開2004-222502 特表2008-514230 特表2009-521929 特開2009-296889 特開2012-165660
Blood Rev. 15, 191-197, 2001 Mol. BioSyst. 6, 1207-1215, 2010 Blood 111, 3415-3423,2008 Oncol. Res. 13, 359-371, 2003
しかし、造血幹細胞を分化させずに幹細胞のまま増幅させることのできる、いわゆる「自己複製因子」は見つかっていない。更に、造血幹細胞を移植治療に十分な細胞数まで迅速に効率よく体外で増幅させる臨床応用可能な手法の確立には至っていない。
そのため、造血幹細胞を極力幹細胞のまま増幅させることができる因子の発見と、それを用いたヒト造血幹細胞を効率良く安全に増幅する移植治療に実用できる方法の開発が求められている。
ヒト骨髄ストローマ細胞からpolyA+mRNAを調製し、DNAマイクロアレイ(Affymetrix GeneChip Microarray)解析を行い、骨髄ストローマ細胞で高発現(又は他の細胞と比較して特異的に高発現)している分泌タンパク質のリストを作成した。リスト中の分泌タンパク質の中から、造血幹細胞を増幅に関与する可能性ある因子を、SCFを含む無血清培地中に添加してヒト臍帯血由来CD34陽性細胞(造血幹細胞)を培養し、生存維持又は増殖させる因子を探索した。その結果、(a) IGF1(insulin like growth factor 1(インスリン様成長因子)、Somatomedin-Cともいう。)、(b) SDF1(stromal cell-derived factor 1、CXCL12(chemokine(C-X-C motif) ligand 12ともいう。)、(c) Galectin-1(LGALS1(lectin, galactoside-binding, soluble, 1)、GBP、GAL1、Galaptin、HPL又はHBLともいう。)、(d) EGF(epidermal growth factor(上皮成長因子))、(e) CRY61(cystein-rich,angiogenic inducer,61、GFBPr4(insulin-like growth factor-binding protein-related protein 4)、IGFBP10(insulin-like growth factor binding protein 10)又はCCN1(CCN family member 1)ともいう。)、及び(f) WISP2(Wnt1 inducible signaling pathway protein 2、IGFBPr7(insulin-like growth factor-binding protein-related protein 7)、CTGFL(connective tissue growth factor-like protein)又はCCN5(CCN family member 5)ともいう。)の6蛋白質因子が造血幹細胞をSCF存在下で維持・増幅させることができることを見出した。
即ち、本発明は、記(1)及び(2)の因子から成るヒト造血幹細胞を増幅させるための組成物である。
(1)幹細胞因子(SCF)
(2)(a) IGF1、(b) SDF1、(c) Galectin-1、(d) EGF、(e) CRY61、及び(f) WISP2から成る群から選択される少なくとも1種の因子
また本発明は、この組成物の存在下でヒト造血幹細胞を培養することから成る増幅したヒト造血幹細胞の製法である。
更に本発明は、この組成物を含む、無血清又はヒト血清から成るヒト造血幹細胞培養用の培地である。
本発明の組成物により造血幹細胞を体外で増幅することができるので、少量の骨髄細胞(または臍帯血や動員された末梢血)由来の造血幹細胞、あるいは人工的に作成した少量の造血幹細胞などから移植治療に必要な造血幹細胞を調製できるようになる。即ち、他家移植のみならず自家移植が可能となり、少量の造血幹細胞採取で移植に必要な幹細胞数が確保でき、拒絶反応問題が解決できる。他家移植においても、細胞数が少なく移植治療できなかった臍帯血や人工的に作成した造血幹細胞からでも、またドナーにリスクを与えない少量の骨髄採取からでも、成人の移植治療に必要な数の造血幹細胞の調達が可能となる。また、遺伝子治療に必要な造血幹細胞を容易に入手可能となり、リスクを伴う遺伝子導入法を使わずとも可能となり、また、遺伝子導入した造血幹細胞を増幅することにも利用できることで、遅れている遺伝子治療の実用化と普及が期待できる。
本発明のヒト造血幹細胞を増殖させるための組成物は、(1)幹細胞因子(SCF)、及び
(2)(a) IGF1、(b) SDF1、(c) Galectin-1、(d) EGF、(e) CRY61、及び(f) WISP2から成る群から選択される少なくとも1種の因子から成る。これらa〜fの因子を組合わせて使用してもよく、またこれら以外のヒト造血幹細胞を増殖させることのできる因子と組み合わせて使用してもよい。
本発明の組成物を構成する因子である幹細胞因子(SCF)は、造血幹細胞の細胞死を抑制し、単独でもある程度生存させ維持も可能であり、他の因子と共に自己複製あるいは増幅させる因子である(非特許文献1)。
ヒトSCFは、転写の違い(Alternative transcripts)により2つのアイソフォーム(isoform)があり、配列番号1及び2で表されるアミノ酸配列を有する。
本発明の組成物を構成する因子であるIGF1(insulin like growth factor 1(インスリン様成長因子)、Somatomedin-Cともいう。)は、インスリンと構造も機能も類似しており、様々な組織の増殖・発生に作用する古くから知られた増殖因子である(Amaldez, F.I. et al., Hematol. Oncol. Clin. North Am. 26, 527, 2012)。しかし、過去に造血幹細胞に対する作用は報告がない。しかし、IGF1は、SCF存在下で造血幹細胞の増幅を促進することを見出した(実施例1)。
ヒトIGF1は4つのアイソフォームがあり、配列番号3〜6で表されるアミノ酸配列を有する。
ヒトIGF1は、各種データベースにNM_000618、NM_001111283、NM_001111284、NM_001111285の4種のバリアントcDNA配列など多数登録されており、NP_000609、NP_001104753、NP_001104754、NP_001104755の4種のバリアントのアミノ酸配列を始め多数登録されており、ゲノム遺伝子配列、人工合成遺伝子も登録されている。他に、マウス、ラット、チンパンジー等の遺伝子も多数登録されており、本発明においては、下等生物遺伝子や人工合成遺伝子も含めてIGF1としての特異的生理活性を持つ蛋白質はいずれも利用することができる。
本発明の組成物を構成する因子であるSDF1(stromal cell-derived factor 1、CXCL12(chemokine(C-X-C motif) ligand 12ともいう。)は、骨髄ストローマ細胞で産生される代表的分泌蛋白質であり、造血幹細胞を抹消血へ動員したり、骨髄へホーミングするケモカインである(Nervi, B. et al., J. Cell. Biochem. 99, 690, 2006)。過去に、SDF1が造血幹細胞の増幅に関与するとの報告はない。しかし、SDF1はSCF存在下で造血幹細胞をより効果的に増幅させることができることを見出した(実施例1)。
ヒトSDF1は、4つのアイソフォームがあり、配列番号7〜10で表されるアミノ酸配列を有する。
ヒトSDF1/CXCL12の4種のアイソフォームがあり、各種データベースにNM_000609、NM_001033886、NM_001178134、NM_199168等の他、多数のcDNA塩基配列が登録されており、P48061、NP_000600、NP_001029058、NP_001171605。NP_954637等のアミノ酸配列、更にはゲノム遺伝子、変異体やスプライスバリアント、人工合成遺伝子も登録されている。また、マウス、ラット、ウシ、チンパンジー、アカゲザル等の遺伝子配列も登録されている。本発明においては、SDF1/CXCL12としての特異的生理活性がある限り、これらのいずれをも利用することができる。
本発明の組成物を構成する因子であるGalectin-1(LGALS1(lectin, galactoside-binding, soluble, 1)、GBP、GAL1、Galaptin、HPL又はHBLともいう。)は、Galectin-1からGalectin-10からなるGalectinファミリーを構成するβ-galactoside結合蛋白質のメンバーである。細胞間、細胞-マトリックス間相互作用を通して一般に細胞増殖を抑制し、Galectin-1に関してはT細胞の細胞死を誘導しB細胞の分化を誘導する(Rabinovich, G.A.& Vidal, M. Curr. Opin. Hematol. 18, 443, 2011)。また、骨髄の造血幹細胞を含む未熟細胞の増殖を阻害し細胞死を誘導すると報告されている(Vas, V. et al., Stem Cells 23, 279, 2005)。過去の報告に反して、Galectin-1はSCF存在下で精製した造血幹細胞の増幅を促進することを見出した(実施例1)。
ヒトGalectin-1は配列番号11で表されるアミノ酸配列を有する。
ヒトGalectin-1として各種データベースにNM_002305、AB097036、AK312161、BC001693、BC020675、BT006775、CR456511、EU363770、J04456、S44881、X14829、X15256等のcDNA塩基配列が登録されており、ゲノム遺伝子、変異体やスプライスバリアントも登録されている。アミノ酸配列としてP09382、NP_002296等が登録されている。また、マウス、ラット、ウシ、ブタ、イヌ、オランウータン、アカゲザル、チンパンジー等の遺伝子配列も登録されている。Galectin-1としての特異的生理活性がある限り、これらのいずれをも利用することができる。
本発明の組成物を構成する因子であるEGF(epidermal growth factor(上皮成長因子))は、上皮系に限らず間葉系、神経系起源の多様な細胞の細胞増殖・分化を制御する古くから知られた因子である。しかし、過去に、EGFが造血幹細胞の増幅に関与するという報告はなく、逆にストローマ細胞を介して間接的に抑制するとの報告があるのみである(Dooley, D.C. et al., J. Cell Physiol. 165, 386, 1995)。本出願人はEFEMP1(EGF-containg fibulin-like extracellular matrix protein 1)が造血幹細胞の増幅を促進することを見いだし(出願中)、EFEMP1はEGFレセプターに結合して増殖シグナルを伝達することが報告されていることから(Camaj, P. et al., Biol. Chem. 390, 1293, 2009)、EGFも造血幹細胞を増幅させる可能性があると考え、実際にEGFが造血幹細胞の増幅を促進することを見出した(実施例1)。
ヒトEGFは、3つのアイソフォームがあり、配列番号12〜14で表されるアミノ酸配列を有する。
ヒトEGFとして、NM_001178130、NM_001178131、NM_001963他、多数の塩基配列が登録されており、P01133、NP_001171601、NP_001171602、NP_001954等のアミノ酸配列が登録されている。他に、ゲノム遺伝子、変異体やスプライスバリアントも登録されている。また、マウス、ラット、ブタ、ウシ、チンパンジー、アカゲザルその他多種類の動物遺伝子、人工合成遺伝子等も同様に登録されている。本発明においては、EGFとしての特異的生理活性がある限り、これらのいずれをも利用することができる。
本発明の組成物を構成する因子であるCRY61(cystein-rich,angiogenic inducer,61、GFBPr4(insulin-like growth factor-binding protein-related protein 4)、IGFBP10(insulin-like growth factor binding protein 10)又はCCN1(CCN family member 1)ともいう。)は、細胞外マトリックスであるインテグリンへの結合等を通して血管内皮細胞、繊維芽細胞、単球等の細胞間接着や増殖を調節する(Cell. Mol. Life Sci. 68, 3149, 2011)。CYR61の造血幹細胞への関与に関して過去に全く報告がない。しかし、CYR61はSCF存在下(ヘパリン存在下非存在下)で造血幹細胞の増幅を促進することが判明した(実施例1)。
ヒトCYR61は、配列番号15で表されるアミノ酸配列を有する。
ヒトCYR61は、各種データベースにNM_001554、AF003114、AF003594他、多数の塩基配列が登録されており、O00622、NP_001545等のアミノ酸配列が登録されている。他に、ゲノム遺伝子、変異体やスプライスバリアントも登録されている。また、マウス、ラット、ウシ、ブタ、チンパンジー、アカゲザルを始め多数の動物種遺伝子、人工合成遺伝子等も登録されている。本発明においては、CYR61としての特異的生理活性がある限り、これらのいずれをも利用することができる。
本発明の組成物を構成する因子であるWISP2(Wnt1 inducible signaling pathway protein 2、IGFBPr7(insulin-like growth factor-binding protein-related protein 7)、CTGFL(connective tissue growth factor-like protein)又はCCN5(CCN family member 5)ともいう。)は、上記CRY61と構造上類似しており、IGFBPrPファミリーおよびCCNファミリーに属するが、その機能は不明な点が多い(Chen C.C.& Lau, L.F. Int. J. Biochem. Cell. Biol. 41, 771, 2009)。WISP2の造血幹細胞への関与に関して全く報告がない。今回SCF存在下で造血幹細胞の増幅を促進することが分かった(実施例1)。
ヒトWISP2は、配列番号16で表されるアミノ酸配列を有する。
ヒトWISP2は、各種データベースにNM_003881、AF074604、AF083500、AK074695等を始め多数の塩基配列が登録されており、アミノ酸配列としては、O76076、NP_003872等が登録されている。他に、ゲノム遺伝子、変異体やスプライスバリアントも登録されている。更に、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、アカゲザル他の動物種、人工合成遺伝子も同様に登録されている。本発明においては、造血幹細胞に対する増幅活性がある限り、これらのいずれをも利用することができる。
本発明の造血幹細胞を増殖させるためには、本発明の組成物を含む適当な培地、好ましくは無血清培地で造血幹細胞を培養する。
培地は、造血幹細胞の生存や増殖が阻害されない限り特に限定されないが、例えば、StemSpan(Stem Cell technologies)、STEMα(STEM ALPHA)、StemPro-34無血清培地(Gibco Invitrogen)、StemPro MSC無血清培地(Invitorogen)、HSC-CFU培地(Miltenyl Biotech)、S-Clone無血清培地(SF-02、SF-03、CM-B、SF-B)(三光純薬)、HPGM培地(三光純薬)、AIM V培地(Invitorogen)、Marrow MAX骨髄培地(Invitrogen)、KnockOut DMEM/F-12培地(Invtrogen)、Stemline造血幹細胞増殖培地(Sigma)、SYN無血清培地(SYN H、SYN B)(AbCys SA)、SPE IV培地(AbCys SA)、MyeloCult培地(StemCell Technologies)、HPG無血清培地(Lonza)、UltraCULTURE培地(Lonza)、Opti-MEM培地(Gibco Invitrogen他)、MEM培地(Gibco Invitrogen他)、MEMα(Gibco Invitrogen他)、DMEM培地(Gibco Invitrogen他)、IMDM培地(Gibco Invitrogen他)、PRMI1640培地(Gibco Invitrogen他)、Ham F-12培地(Gibco他)、RD培地等を用いることができる。
更に細胞の増幅維持等に効果があるインスリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、2−メルカプトエタノール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、HEPES、モノチオグリセロール、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、各種増殖因子、各種抗生物質、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、等を添加してもよい。
また、細胞外マトリックスであるコラーゲン(タイプI、III、IV、V、VI、VII、VIII等)、フィブロネクチン、バイグリカン、デコリン、ラミニン、等を添加してもよい。
なお、培地に動物由来の血清を添加してもよいが、血清を使う場合はヒト血清が好ましく、移植予定患者の血清を用いることがより好ましい。
本発明の造血幹細胞を増殖させるためには、本発明の組成物を培地に添加し培養するが、骨髄ストローマ細胞など造血幹細胞を支持するフィーダー細胞等と共培養してもよいし、骨髄ストローマ細胞培養上清と共に培養してもよい。また、本発明の組成物を様々な担体を介して又は介さずにシャーレ等培養器(装置)に付着又は共有結合させて培養してもよいし、本発明の組成物の各因子を発現させたフィーダー細胞と共培養してもよい。
培地中のSCFの濃度は、0.1 ng/ml〜1 μg/ml、好ましくは5〜500 ng/ml、より好ましくは10〜200 ng/mlである。
培地中のIGF1、SDF1、Galectin-1、EGF、CRY61及びWISP2の濃度は、それぞれ、通常約0.1 ng/ml〜1 μg/ml、好ましくは5〜500 ng/ml、より好ましくは10〜200 ng/mlである。
造血幹細胞(未分画の造血幹細胞を含む細胞集団又は部分分画でもよい)は、培養用シャーレ、フラスコ、プレート、バッグ等、あるいは自動培養装置に、本発明の組成物やその他の因子や化合物を添加した上記記載の培地、好ましくは無血清培地に浮遊させ、5% CO2、37℃のインキュベーター内で、数日から1ヶ月ほど、好ましくは5日から30日程度、培地交換し容量を増やしながら培養することができる。また、酸素分圧を調整した環境で培養しても良い。
本発明の組成物は、造血幹細胞を増幅しうる他の因子(自己複製因子、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、増幅因子、分化因子、造血因子等)や他の化合物と共に培地に添加することにより、他の因子の増幅能を格段に増加させる効果がある。
このような他の因子は、培養容器に直接固定又は種々のタンパク質(ペプチド)等の担体を介して共有結合又は非共有結合で固定化して、無血清培地又はヒト血清を含む培地で造血幹細胞を体外で増幅することもできる。
このような他の因子は、造血細胞の生存維持、増殖、増幅、自己複製、未分化維持等を少なくとも促進させる活性のある因子である。このような因子として、例えば、Flt3 ligand、NOV、JAG1細胞外ドメイン、Pleiotrophin、Timp3、Oncostatin M、BMP4、IGF2、IL6(interleukin 6)とsIL6R(可溶性IL6レセプター)、IL1、IL2、IL3、IL5、IL7、IL8、IL10、IL11、IL16、IL27(C19orf10)、TPO(thrombopoietin)、Notch ligand(Jaggedファミリー/Deltaファミリー)キメラタンパク質、FGF1(fibroblast growth factor 1)、FGF2、FGF4、FGF8b、Ang1(Angiopoietin 1/Tie2 ligand)、IGF1、 IGFBP2(IGF binding protein 2)、IGFBP3、IGFBP7/IGFBPrP1、TGFβ (transforming growth factor)、 Angpl(Angiopoietin-like protein)ファミリーのAngpl2、Angpl3、Angpl5、Angptl7やMfap4、PRG4(Hemangiopoietin, Lubricin)、VEGFA、VEGF-B、VEGFC、VEGF-D、Wnt2、Wnt3a、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a、Wnt7b、Wnt10b、Wnt16、GM-CSF、CTC、CT-1、PDGF、PrP(prion protein)、Sonic hedgehog、PDGF、RANTES、MIP-1α、LIF等が挙げられる。
また、他の化合物として、造血幹細胞の増幅に効果があるLDLリポタンパク質、プロスタグランジンE1ないしE2、StemRegenin 1(SR1)、5-AzaD(5-aza-2'-deoxycitidine D)、TEPA(銅キレート剤)、2-Cl-C.OXT-A、DOPA(dioleoyl phosphatidic acid)、アミノ酸配列RPKRPTTLNLFPQVPRSQDT(配列番号17)で表されるペプチド、アミノ酸配列HPFFTLHESKGTDVASFVKLILGD(配列番号18)で表されるペプチド、SB431542、Bryostatin 1、Bay K8644、アミノ酸配列RFARKGALRQKNV(配列番号19)で表されるペプチド、Forskolin、Rolipram、Histamine dihydrochloride、アミノ酸配列GRTGRRNAI(配列番号20)で表されるペプチド、SQ22536、アミノ酸配列RQIKIWFQNRRMKWKKSDGGYMDMS(配列番号21)で表されるチロシンリン酸化ペプチド(740Y-P)、PS48、SMI-4a(Pim1/2 kinase inhibitor V)、SAG、 BIX-01294、SB203580、SB239063、CHIR99021、Kenpaullone、SP600125、L-JNKi1、Valproic acid、 Trichostatin等を添加してもよい。
ヒト造血幹細胞は、臍帯血、胎児肝臓、骨髄、胎児骨髄、末梢血、G-CSF等のサイトカインや抗癌剤の投与によって幹細胞を動員した末梢血、末梢血由来の細胞群等から純化することができる。ヒトES細胞、ヒトiPS細胞より造血幹細胞や造血系プロジェニター細胞に誘導された細胞、更にはヒト体細胞から遺伝子操作等で直接作成された造血幹細胞やプロジェニター細胞を用いることもできる。これらから、抗体を用いて免疫学的に染色し、セルソーター、磁気ビーズ等を用いて分離するか、ロゼット形成による細胞分離法や各種自動分離装置等を用いて分離することにより造血幹細胞を濃縮した分画を取得できる。
ヒト造血幹細胞のマーカーとしてはCD34陽性、CD38弱陽性(陰性)、CD133陽性、KDR陽性、CD90(Thy-1)陽性、CD117(c-Kit)陽性等が知られており、細胞分化抗原陰性等と組み合わせて用いることができる。さらに、ヒト骨髄や臍帯血や末梢血由来等の造血幹細胞としてSP(side population)細胞(Hoechst33342陰性細胞)を用いてもよい。
また、造血幹細胞を純化(単離)あるいは濃縮することなく、ヒト骨髄、臍帯血、抹消血等から赤血球等を除いた有核(又は単核)細胞又は幹細胞分画をそのまま培養に用いることもできる。ヒトES細胞やiPS細胞、またヒト体細胞から直接造血幹細胞や造血系プロジェニター細胞に誘導した細胞を純化することなく用いることもできるし、上記方法で純化した造血幹細胞やプロジェニター細胞を用いることもできる。
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
以下の実施例において、全細胞数(即ち、造血幹細胞の培養後に存在する分化した細胞を含む総細胞数)はヘマサイトメーターで測定した。全細胞増幅倍率は、増幅前後の全細胞数の変化(倍率)として表す。ここでは、CD34陽性を造血幹細胞の指標とするが、CD34は幾らか分化系列決定した一部progenitor cells(前駆細胞)にも発現している。CD34陽性細胞割合は、増幅した全細胞を、FITCラベルCD34抗体とPEラベルCD133抗体で反応させ、フローサイトメーター(FACS)(Guava easyCyte5 Flow Cytometer)によって全細胞中のCD34陽性細胞の割合(%)を測定し表示した。CD34陽性細胞増幅率は、培養前のCD34陽性造血幹細胞数に対する増幅したCD34陽性細胞数の比(全細胞増幅倍率×CD34陽性細胞割合)を表す。
ヒト臍帯血CD34陽性細胞(Lonza社製、フローサイトメーター(FACS)解析で純度97%以上であることを確認)を造血幹細胞として用いた。無血清培地(StemCell Technologies社製StemSpan SFEM)に、ヒトSCF(PeproTech)(20 ng/ml)を添加した。これに、ヒトIGF1(ProSpec)、SDF1(ProSpec)、Galectin-1(ProSpec)、EGF(ProSpec)、CYR61(PeproTech)、WISP2(PeproTech)を各100 ng/mlないし200ng/mlの濃度で添加した培地を準備した。
96穴プレート1穴に、上記各培地300μlにCD34陽性細胞を1.5〜3.0×104細胞(5.0〜10×104細胞/ml)を混ぜて、5%CO2、37℃で培養開始した。同じ成分を含む新鮮培地で適時部分交換しながら2週間培養した。
結果を表1に示す。
Figure 2014183784
表1から、SCF存在下で、造血幹細胞は今回新たに見出した何れの因子の添加によっても、全細胞増幅倍率は8.3〜13倍となりSCF単独と比較して1.1〜1.7倍となることが分かる。CD34陽性細胞(造血幹細胞)の割合はSCF単独とほぼ同じであり、結果としてCD34陽性細胞の増幅倍率も3.0〜3.9倍となりSCF単独と比較して1.1〜1.5倍より効率的に増加することが分かる。特に、SCF単独添加の場合に比べた増幅比が1.3以上、特に1.4以上の因子が好ましい。これらの因子を組合わせて使うと更に好ましく、更に既に申請した他の因子と組合わせるとなお良い。

Claims (6)

  1. 下記(1)及び(2)の因子から成るヒト造血幹細胞を増幅させるための組成物。
    (1)幹細胞因子(SCF)
    (2)(a) IGF1、(b) SDF1、(c) Galectin-1、(d) EGF、(e) CRY61、及び(f) WISP2から成る群から選択される少なくとも1種の因子
  2. 前記幹細胞因子(SCF)が配列番号1若しくは2のアミノ酸配列、前記(a) IGF1が配列番号3〜6のいずれかのアミノ酸配列、前記(b) SDF1が配列番号7〜10のいずれかのアミノ酸配列、前記(c) Galectin-1が配列番号11のアミノ酸配列、前記(d) EGFが配列番号12〜14のいずれかのアミノ酸配列、前記(e) CRY61が配列番号15のアミノ酸配列、又は前記(f) WISP2が配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその変異体である請求項1に記載の組成物。
  3. ヒト造血幹細胞を、請求項1又は2に記載の組成物の存在下で培養することから成る増殖したヒト造血幹細胞の製法。
  4. 前記培養が請求項1又は2に記載の組成物及び他の因子や化合物の存在下で行われる請求項3に記載の製法。
  5. 無血清培地、又はヒト血清を含む培地で培養する請求項3又は4に記載の製法。
  6. 請求項1又は2に記載の組成物を含む、無血清又はヒト血清から成るヒト造血幹細胞培養用の培地。
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