JP2014168404A - 耐熱性1,3−βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ - Google Patents

耐熱性1,3−βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ Download PDF

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善幸 小山
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完 西本
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Abstract

【課題】向上した耐熱性を有する1,3-ガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの提供。
【解決手段】ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼにおいて、特定のアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸が他のアミノ酸に置換されており、その置換により向上した耐熱性を有する変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐熱性の向上した1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ及びその作製方法に関する。
1,3-βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.211;別名ラクト-N-ビオースホスホリラーゼ、又はガラクト-N-ビオース/ラクト-N-ビオースIホスホリラーゼ)(以下、GLNBPと略称することがある)は、ラクトNビオース(別名ガラクトピラノシルβ1,3N-アセチルグルコサミン)をガラクトース-1-リン酸とN-アセチルグルコサミンに加リン酸分解する活性及びその逆反応触媒活性を有する、ビフィドバクテリウム属菌の菌体内酵素として知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。GLNBPの存在はビフィドバクテリウム属菌の間で広く見出されている(非特許文献2)。GLNBPは、食品用素材や医薬品用素材として利用することができる種々のラクトNビオース誘導体、例えばラクト-N-ビオースI(以下、LNBと略称することがある)やガラクト-N-ビオース(以下、GNBと略称することがある)等の製造に用いられている(例えば、特許文献2)。
しかしビフィドバクテリウム属菌由来の従来のGLNBPの耐熱性は45℃程度までとあまり高くない(非特許文献1)ため、本酵素を用いて反応を行うためには反応温度を低く設定する必要がある。酵素反応時における雑菌汚染の可能性を低下させるためにも、酵素反応はできる限り50℃程度以上、例えば55℃以上の温度で行うことが望ましいが、GLNBPは好熱性菌にその存在が知られておらず、現在まで特性が調べられた従来のGLNBPにおいては耐熱性が高い酵素が存在しない。
特開2005−341883号公報 特開2008−154495号公報
Danielle Derensy-Dron et al., Biotechnol. Appl. Biochem., (1999) 29, p. 3-10 J.-z. Xiao, et al., Appl. Environ. Microbiol., (2010) 76(1), p.54-59
本発明は、従来のGLNBPよりも耐熱性が向上したGLNBPを提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、GLNBPのアミノ酸配列中の特定のアミノ酸残基を置換することによって、耐熱性が向上したGLNBPが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼにおいて、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸が他のアミノ酸に置換されており、その置換により向上した耐熱性を有する変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
この変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼにおいては、前記236番目に位置するシステインが芳香族アミノ酸に置換されていることが好ましく、特に好ましい実施形態ではその芳香族アミノ酸はチロシンである。
この変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼにおいては、前記576番目に位置するアスパラギン酸がアルキル鎖含有アミノ酸に置換されていることも好ましく、特に好ましい実施形態ではそのアルキル鎖含有アミノ酸はバリン又はイソロイシンである。
上記変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(親酵素)は、(i)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるものであり得る。
上記変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌はビフィドバクテリウム・ロンガムである。
[2] 上記[1]の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼをコードする遺伝子。
[3] ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼをコードする遺伝子に対し、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入し、得られた変異遺伝子を組換え発現させ、耐熱性が向上した1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼを取得することを含む、向上した耐熱性を有する1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼを作製する方法。
この方法では、前記遺伝子に対し、前記236番目に位置するシステインの芳香族アミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入することが好ましく、特に好ましい実施形態ではその芳香族アミノ酸はチロシンである。
この方法では、前記遺伝子に対し、前記576番目に位置するアスパラギン酸のアルキル鎖含有アミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入することも好ましく、特に好ましい実施形態ではそのアルキル鎖含有アミノ酸はバリン又はイソロイシンである。
上記方法の一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(親酵素)は、(i)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるものであり得る。
上記方法の一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(親酵素)をコードする遺伝子は、(i)配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子、又は(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の塩基配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であり得る。
上記方法の一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌はビフィドバクテリウム・ロンガムである。
本発明により、耐熱性が向上したGLNBPを取得することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ビフィドバクテリウム属菌由来1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GLNBP)の変異型酵素であり、耐熱性が向上したGLNBPに関する。より具体的には、本発明に係る変異型GLNBPは、ビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPにおいて、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸が他のアミノ酸に置換されていることを特徴とする。本発明に係る変異型GLNBPは、1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼの酵素活性(GLNBP活性)を有している。さらに、本発明に係る変異型GLNBPにおいては、上記アミノ酸置換の導入により、耐熱性が向上している。
本発明に関して、「配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン」とは、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum)JCM1217株由来のGLNBPのアミノ酸配列(配列番号2)中で236番目に位置するシステイン、又は配列番号2の236番目に位置するシステインに相当する他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列中のシステインを意味する。配列番号2の236番目に位置するシステインに相当する、他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列中のシステインは、配列番号2のアミノ酸配列と他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列とをアラインメントした場合に配列番号2の236番目のシステインに対してアラインメントされるシステインとして同定することができる。配列番号2の236番目に位置するシステインに相当する他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列中のシステインは、当該アミノ酸配列中で236番目に位置してもよいが、配列番号2の配列と比較して235番目までにアミノ酸の欠失又は挿入が生じている場合は236番目に位置しないこともありうる。同様に、「配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として576番目に位置するアスパラギン酸」とは、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum)JCM1217株由来のGLNBPのアミノ酸配列(配列番号2)中で576番目に位置するアスパラギン酸、又は配列番号2の576番目に位置するアスパラギン酸に相当する他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列中のアスパラギン酸を意味する。配列番号2の576番目に位置するアスパラギン酸に相当する、他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列中のアスパラギン酸は、配列番号2のアミノ酸配列と他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列とをアラインメントした場合に配列番号2の576番目のアスパラギン酸に対してアラインメントされるアスパラギン酸として同定することができる。配列番号2の576番目に位置するアスパラギン酸に相当する他のビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列中のアスパラギン酸は、当該アミノ酸配列中で576番目に位置してもよいが、配列番号2の配列と比較して576番目までにアミノ酸の欠失又は挿入が生じている場合は576番目に位置しないこともありうる。なお「配列番号1に示す塩基配列を基準として」と記載した場合にも同様に解釈すべきである。
本発明に係る変異型GLNBPでは、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステインは、システイン以外の任意のアミノ酸に置換され得る。この236番目のシステインは、以下に限定するものではないが、芳香族アミノ酸(チロシン又はフェニルアラニン)に置換されることが好ましく、チロシンに置換されることがさらに好ましい。
本発明に係る変異型GLNBPでは、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として576番目に位置するアスパラギン酸は、アスパラギン酸以外の任意のアミノ酸に置換され得る。この576番目のアスパラギン酸は、以下に限定するものではないが、アルキル鎖含有アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン又はアラニン)に置換されることが好ましく、分枝鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、又はイソロイシン)に置換されることがより好ましく、バリン又はイソロイシンに置換されることがさらに好ましい。
本発明においてGLNBPにおけるアミノ酸置換を、置換前のアミノ酸残基(一文字表記)、置換されるアミノ酸残基の配列番号2に示すアミノ酸配列を基準とした位置、及び置換後のアミノ酸残基(一文字表記)で表すことがある。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステインのチロシンへの置換は、C236Yと表記される。同様に配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として576番目に位置するアスパラギン酸のバリンへの置換は、D576Vと表記される。
本発明に係る変異型GLNBPは、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステインの他のアミノ酸配列(好ましくは、芳香族アミノ酸)への置換と、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸(好ましくは、アルキル鎖含有アミノ酸)への置換の、いずれかを有していてもよいし、その両方を有していてもよい。例えば、本発明に係る変異型GLNBPは、アミノ酸変異C236YとD576Vのいずれかを有していてもよいし、C236YとD576Vの両方を有していてもよい。
本発明に係る変異型GLNBPの親酵素となるビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPは、種々のビフィドバクテリウム属菌由来の天然型GLNBPであってよく、特に限定されない。GLNBPは、種々のビフィドバクテリウム属菌、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブエスピー・インファンティス(Bifidobacterium longum subsp. infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブエスピー・アニマリス(Bifidobacterium animalis subsp. animalis)等に存在することが既に報告されている(非特許文献2)。またそれらのビフィドバクテリウム属菌の多数の菌株についてGLNBPのアミノ酸配列がNCBIのデータベース等で報告されている。それらの既知ビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株由来GLNBPのアミノ酸配列全体に対しておよそ80%〜100%のアミノ酸配列同一性を有する。さらに、それらの既知ビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPにおいて、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン、及び576番目に位置するアスパラギン酸は保存されている。
親酵素となるビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPはまた、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン、及び576番目に位置するアスパラギン酸が保存され、かつGLNBP活性を有している限り、種々のビフィドバクテリウム属菌由来の天然型GLNBPに1個以上(例えば1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜10個)のアミノ酸変異が導入されたものでもよい。
親酵素となるビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPは、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むものであってもよいし、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び576番目に位置するアスパラギン酸が保存されている限り配列番号2に示すアミノ酸配列(全体)と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、例えば97%以上又は98%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性(GLNBP活性)を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。
すなわち本発明に係る変異型GLNBPは、上記のような親酵素となるビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPのアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、GLNBP活性を有するタンパク質である。
本発明に係る変異型GLNBPは、親酵素と比較して向上した耐熱性を有する。本発明に係る変異型GLNBPにおける耐熱性の向上は、55℃で30分の処理における失活速度が親酵素と比較して1/3以下、好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/100以下に低下することによって示される。本発明に係る変異型GLNBPにおける耐熱性の向上はまた、30分曝露後の残存活性が非加熱条件下での活性と比較して50%以下になる温度(℃)が親酵素と比較して3℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上上昇することによっても示すことができる。本発明に係る変異型GLNBPは、30分曝露後の残存活性が非加熱条件下での活性と比較して50%以下になる温度(℃)として、好ましくは54℃以上、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは56℃以上、典型的には55℃〜70℃を示す。
さらに本発明に係る変異型GLNBPは、非加熱温度(例えば20℃〜35℃)においても親酵素と同等(95%〜105%)又はそれを超えるレベル(例えば、106%〜200%又はそれ以上)の活性を有することも好ましい。
親酵素GLNBP及び変異型GLNBPの酵素活性の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができ、例えばXiao et al.(非特許文献1)に記載された方法、Nihiraらの方法(T. Nihira, et al., Anal. Biochem., (2007) 371(2), p.259-261)等を利用することができる。本発明では、α-D-ガラクトース1-リン酸の比色定量法であるNihiraらの方法を利用してGLNBP活性を測定することができる。測定方法の詳細については後述の実施例を参照することができる。Nihiraらの方法によるGLNBP活性の測定方法は、簡単に説明すると、反応容器(例えば96穴マイクロプレートウェル)中、ラクト-N-ビオースI(LNB)、リン酸、UDP-グルコース、グルコース1,6-ビスリン酸、チオNAD、MgCl2、ホスホグルコムターゼ、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、UDP-グルコース-ヘキソース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼを含む緩衝液(典型例では、終濃度10 mM LNB、10 mMリン酸、0.25 mM UDP-グルコース、0.025 mMグルコース1,6-ビスリン酸、0.25 mMチオNAD、2.5 mM MgCl2、5 U/mL ホスホグルコムターゼ、5 U/mLグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、0.2 U/mL UDP-グルコース-ヘキソース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼを含む50 mM MOPS緩衝液(pH7.0))に、酵素GLNBP(本発明では、予め加熱処理したもの又は加熱処理していないもの)を適量加えて反応液(例えば200 μL)を調製し、30℃にて所定の時間インキュベートして酵素反応を行い、マイクロプレートリーダー等で波長400 nmの吸光度を連続的に測定し、その増加速度を求めることにより活性を測定する方法である。この測定方法により、予め所定の温度で処理したGLNBPの酵素活性を測定し、非加熱状態(典型的には30℃以下の温度に保った状態;非加熱条件下とも称する)の酵素の活性と比較することで、当該温度に曝露した酵素の残存活性(%)を算出することができる。
変異型GLNBPは、上述の親酵素であるビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GLNBP)をコードする遺伝子に対し、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入し、得られた変異遺伝子を宿主細胞(大腸菌等)に導入し培養等することにより組換え発現させ、宿主細胞によって産生された耐熱性が向上したGLNBPを培養物等から取得することにより、作製することができる。本発明は耐熱性が向上したGLNBPのこのような作製方法も関する。
親酵素であるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子は、例えば、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、又は配列番号2に示すアミノ酸配列(全体)と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、例えば97%以上又は98%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつGLNBP活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であってよい。親酵素であるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子はまた、配列番号2に示すアミノ酸配列において1個以上(例えば1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜10個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつGLNBP活性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
親酵素であるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、例えば97%以上又は98%以上の塩基配列同一性を有し、かつGLNBP活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってよい。
但し親酵素であるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子においては、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン、及び576番目に位置するアスパラギン酸が保存されている。
親酵素であるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子は、GLNBPを有するビフィドバクテリウム属菌から単離することができる。好適な例としては、Bifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株が挙げられるが、これに限定されるものではない。Bifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms)(RIKEN BRC-JCM; 〒305-0074 茨城県つくば市高野台3-1-1)のJCMカタログから入手することができる。あるいはビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子は、例えば、特許文献1にそのGLNBP遺伝子の配列と単離方法が開示されているBifidobacterium bifidum JCM1254株、GenBankデータベースにGLNBP遺伝子の配列が登録されているBifidobacterium longum subsp. longum BBMN68株(アクセッション番号NC_014656のprotein id=YP 004001271.1をコードする遺伝子)、Bifidobacterium longum subsp. longum 1-6B株(アクセッション番号ZP_14370231)、Bifidobacterium longum subsp. infantis 157F(アクセッション番号NC_015052.1のprotein id=YP_004209606をコードする遺伝子)、Bifidobacterium breve ACS-071-V-Sch8b株(アクセッション番号NC_017218.1のprotein id=YP_005583419をコードする遺伝子)、Bifidobacterium bifidum JCM 1254株(アクセッション番号AB181927)等から、常法により単離してもよい。またビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子は、Bifidobacterium pseudolongum、Bifidobacterium animalis subsp. animalis等を含む種々のビフィドバクテリウム属菌から単離することもできる。
ビフィドバクテリウム属菌からのGLNBPをコードする遺伝子の単離は、当業者に周知の任意の遺伝子単離技術を用いて行うことができる。例えば、GLNBPのアミノ酸配列又はGLNBPをコードする塩基配列に基づいてGLNBPをコードする領域全体を増幅することができるように設計したプライマーセットを用いて、そのビフィドバクテリウム属菌由来のトータルRNAから逆転写によって得たcDNAをPCR増幅することにより、GLNBPをコードする遺伝子を単離することができる。あるいは、ビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子の部分断片をプローブとして用いて、ビフィドバクテリウム属菌由来のトータルRNAから逆転写によって得たcDNAからGLNBPをコードする遺伝子を単離することもできる。
また、このようにしてビフィドバクテリウム属菌から単離したGLNBPをコードする遺伝子には、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異以外の塩基変異を、当業者に周知の突然変異導入法を用いて導入してもよい。導入する塩基変異は、アミノ酸置換を引き起こさない同義置換であり得るが、GLNBP活性を喪失させない限りにおいてアミノ酸置換を引き起こす非同義置換であってもよい。突然変異導入法は、ランダム変異導入法であってもよいし、部位特異的変異導入法であってもよい。
以上のようにして得られるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子は、常法により適当なプラスミド等の組換えベクター又は発現ベクター中にクローニングしてもよい。
以上のようにして得られるビフィドバクテリウム属菌由来のGLNBPをコードする遺伝子(GLNBP遺伝子)に対し、当業者に周知の部位特異的変異導入法等により、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入することができる。より具体的には、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステインをコードするコドンが、システイン以外の任意のアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸(チロシン又はフェニルアラニン)、さらに好ましくはチロシンをコードするコドンに改変されるように塩基変異を導入する。例えばチロシンをコードするコドンは、DNA配列であれば5'-TAT-3'又は5'-TAC-3'である。またフェニルアラニンをコードするコドンは、DNA配列であれば5'-TTT-3'又は5'-TTC-3'である。あるいは、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として576番目に位置するアスパラギン酸をコードするコドンを、アスパラギン酸以外の任意のアミノ酸、好ましくはアルキル鎖含有アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン又はアラニン)、より好ましくは分枝鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、又はイソロイシン)、さらに好ましくはバリン又はイソロイシンをコードするコドンに改変されるように塩基変異を導入する。例えばバリンをコードするコドンは、DNA配列であれば5'-GTT-3'、5'-GTC-3'、5'-GTA-3'、又は5'-GTG-3'であり、イソロイシンをコードするコドンは、DNA配列であれば5'-ATT-3'、5'-ATC-3'、又は5'-ATA-3'である。またロイシンをコードするコドンは、DNA配列であれば5'-CTT-3'、5'-CTC-3'、5'-CTA-3'、又は5'-CTG-3'であり、アラニンをコードするコドンは、DNA配列であれば5'-GCT-3'、5'-GCC-3'、5'-GCA-3'、又は5'-GCG-3'である。塩基変異の導入は、当業者に周知の部位特異的変異導入法(例えば、Inverse PCR法、Kunkel法、Transformer法、Non-PCR変異導入法等)により、典型的には、GLNBP遺伝子中の変異導入部位を含む領域に、導入すべき塩基変異を含む配列を有するように設計した変異導入用プライマーを用いたGLNBP遺伝子の核酸増幅に基づいて行うことができる。変異導入用プライマーとしては、後述の実施例に記載したアミノ酸変異C236Y導入用プライマーセット、アミノ酸変異C236F導入用プライマーセット、アミノ酸変異D576V導入用プライマーセット、アミノ酸変異D576A導入用プライマーセット、アミノ酸変異D576I導入用プライマーセット、及びアミノ酸変異D576L導入用プライマーセットを例示することができるが、これらに限定されるものではない。部位特異的変異導入法は、そのような変異導入用プライマーと、市販の各種部位特異的変異導入キットとを用いて実施することもできる。市販の部位特異的変異導入キットとしては、例えば、KOD -plus- Mutagenesis Kit(東洋紡)、TransformerTMSite-Directed Mutagenesis Kit(TaKaRa)、QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
このようにしてGLNBP遺伝子に配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異が導入された変異遺伝子(変異型GLNBP遺伝子)を、常法により、発現ベクター等に組み込んで宿主細胞(例えば、大腸菌)に導入し、組み換え発現させることにより、本発明に係る変異型GLNBPを産生することができる。
さらに、産生された変異型GLNBPについて親酵素と比較して耐熱性が向上していることを確認し、耐熱性が向上したクローンを選抜することが好ましい。耐熱性の向上については、上述した耐熱性の評価方法に従って確認することができる。また産生された変異型GLNBPの酵素活性についても、上記の活性測定方法に従って確認することができる。
得られた変異型GLNBPは、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等)、電気泳動法、限外濾過等の当業者に周知のタンパク質分離精製法により、分離又は精製することができる。
本発明はまた、本発明に係る上記の変異型GLNBPをコードする遺伝子にも関する。本発明に係る変異型GLNBPをコードする遺伝子は、親酵素GLNBPをコードする上記遺伝子に対して配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異が導入された変異遺伝子であって、親酵素と比較して耐熱性が向上している上記の変異型GLNBPをコードする遺伝子であり得る。本発明に係る変異型GLNBPをコードする遺伝子は、例えば、配列番号1に示す塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、例えば97%以上又は98%以上の塩基配列同一性を有し、かつGLNBP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン、及び576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異が導入された塩基配列からなるものである。配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステインの他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異は、配列番号1に示す塩基配列を基準として706番目〜708番目の、システインをコードするコドンを、他のアミノ酸、好ましくは芳香族アミノ酸、より好ましくはチロシンをコードするコドンに改変するものである。一実施形態では、チロシンをコードするコドンへのその塩基変異は、配列番号1に示す塩基配列を基準として707番目のグアニンをアデニンに置換する変異である。また配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異は、配列番号1に示す塩基配列を基準として1726番目〜1728番目の、アスパラギン酸をコードするコドンを、他のアミノ酸、好ましくはアルキル鎖含有アミノ酸、より好ましくは分枝鎖アミノ酸、さらに好ましくはバリン又はイソロイシンをコードするコドンに改変するものである。一実施形態では、バリンをコードするコドンへのその塩基変異は、配列番号1に示す塩基配列を基準として1727番目のアデニンをチミンに置換する変異であり、イソロイシンをコードするコドンへのその塩基変異は、1726番目のグアニン及び1727番目のアデニンをそれぞれアデニン及びチミンに置換する変異である。
本発明に関して、遺伝子とは、DNA又はRNAであってよい。また遺伝子は、タンパク質をコードするORF配列(開始コドンから終止コドンまで)からなるものでもよいし、プロモーター及び/又はターミネーター等の非コード領域をさらに含んでいてもよい。本発明に係る変異型GLNBPをコードする遺伝子は、任意のプラスミド等の組換えベクター又は発現ベクターを始めとする核酸構築物中、好ましくはプロモーターの制御下に、組み込んでもよい。本発明に係る変異型GLNBPをコードする遺伝子を含むそのような核酸構築物は、任意の宿主細胞(例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、ヒト培養細胞等)に、エレクトロポレーション等の当業者に周知の核酸導入法により導入することもできる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms; JCM)より入手したBifidobacterium longum subsp. longum JCM1217株の野生型(天然型)GLNBP遺伝子から、変異型GLNBP発現ライブラリーを作製した。まず、JCM1217株のGLNBP遺伝子(ORFの塩基配列を配列番号1、コードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す)に対し、当業者に公知のエラープローンPCR法により、1 kb当たり2〜5個の変異が導入される反応条件下でランダム変異を導入して、変異型GLNBP遺伝子を含むDNA断片を取得した。ランダム変異が導入された変異型GLNBP遺伝子を含むDNA断片を常法に従って発現ベクターpET28aに組み込み、プラスミドライブラリーを得た。
このプラスミドライブラリーを大腸菌BL21(DE3)に導入した後、100 μg/mLカナマイシンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、1.5%寒天)プレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このようにして得られたクローン群が変異型GLNBP発現ライブラリーである。
続いて、この変異型GLNBP発現ライブラリーからランダムに選択した約5000クローンについて、得られた各コロニーを、V底96穴マイクロプレートを用い、150 μLの0.02 mM IPTG及び100 μg/mLカナマイシンを含むLB培地にそれぞれ植菌し、30℃で18時間、静置培養を行った。培養液をマイクロプレート上で遠心分離し上清を除去した後、菌体にタンパク質抽出試薬BugBuster(登録商標) Master Mix(Novagen社)10 μL及び精製水20 μLを加えて25℃で15分間振とうすることにより、酵素(1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ)を抽出した。
得られた酵素抽出液を120 μLの50 mM MOPS緩衝液(pH 7.0)と混合した後、各100 μLを96連PCRプレートに移し、水浴により55℃で30分の加熱処理を行った。加熱後の酵素活性は、Nihiraらの方法(T. Nihira, et al., Anal. Biochem., (2007) 371(2), p.259-261)に従って30℃において測定した。活性測定値に基づき、変異導入前の野生型GLNBP(親酵素)と比べて有意に高い活性を示した変異株を選抜した。その結果、選択した約5000クローンから、耐熱性が有意に上昇した182クローンの変異株を得ることに成功した。
さらに、耐熱性が有意に上昇した変異株についてGLNBP遺伝子のDNA配列を常法により決定し、野生型GLNBP遺伝子(配列番号1)と比較して変異箇所の同定を行い、GLNBPタンパク質にアミノ酸変異が生じている部位(変異点)を同定した。1つのクローンが複数の変異点を含む場合が多数認められたことから、続いて、各アミノ酸変異の耐熱性に及ぼす効果を調べるため、親酵素と比較して各アミノ酸変異を単独で有する変異酵素(一点変異酵素)を作製した。
一点変異酵素の作製は、親酵素の配列を鋳型としてKOD -plus- Mutagenesis Kit(東洋紡)を用いて使用説明書に記載の方法に準じて行った。変異を導入するためのプライマーとしては、例えば、以下のものを用いた。
・アミノ酸変異C236Y導入用プライマーセット
プライマーC236Y-1 5'-TGGTTTGGTTACGCCTGCACCGTAAGCC-3'(配列番号3)
プライマーC236Y-2 5'-GGCTTACGGTGCAGGCGTAACCAAACCA-3'(配列番号4)
・アミノ酸変異H290R導入用プライマーセット
プライマーH290R-1 5'-GAAGCCGGAGAGGAAGTCGATCCAGTCGCG-3'(配列番号5)
プライマーH290R-2 5'-GTGCACGAAAACGTCAAGCAGCTCGCCGACAT-3'(配列番号6)
・アミノ酸変異G437S導入用プライマーセット
プライマーG437S-1 5'-GCCGCCGAAAGTGAGCTCAACGTGGCG-3'(配列番号7)
プライマーG437S-2 5'-CGCCACGTTGAGCTCACTTTCGGCGGC-3'(配列番号8)
・アミノ酸変異N506S導入用プライマーセット
プライマーN506S-1 5'-CGCCGCTGATGATTACGTCGATATCGCT-3'(配列番号9)
プライマーN506S-2 5'-GCCCGGTCGACACCGCATTCACCGGC-3'(配列番号10)
・アミノ酸変異D576V導入用プライマーセット
プライマーD576V-1 5'-CAGACCCTTTCGGTGGTCAAGTATTTCCCG-3'(配列番号11)
プライマーD576V-2 5'-CGGGAAATACTTGACCACCGAAAGGGTCTG-3'(配列番号12)
具体的には、JCM1217株のGLNBP遺伝子が組み込まれたpET28aベクターを鋳型として、0.3 μMのそれぞれのプライマーセットを含むKOD DNA polymerase -ver.1-反応液を用いてPCRを行った。その後、PCR反応液に制限酵素DpnIを加えて37℃にて1時間インキュベートすることで鋳型DNAを切断し、エタノール沈殿により増幅したプラスミドを回収した。回収したプラスミドを、大腸菌BL21(DE3)にエレクトロポレーション法にて導入した。得られた形質転換体を用い、常法に従って該遺伝子の発現及び組換えタンパク質の生産を行った。具体的には、形質転換体を、500 mL三角フラスコ中100 mLの33 μg/mLカナマイシンを添加したルリア−ベルターニ培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl;LB培地)中、37℃で振とう培養を行うことにより、660 nmでの吸光度が0.6になるまで増殖させた。遺伝子発現は、0.1 mM イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により誘導し、25℃で6時間培養を続けた。4000 x gで5分間の遠心分離により培養物中の湿潤細胞を回収し、それを、500mM NaClを含む50 mM MOPS緩衝液(pH 7.0)中に懸濁した。細胞懸濁物を超音波処理し、さらに10,000 x gで20分間、遠心分離した。こうして得られた上清から、組換えタンパク質をNi-NTAアガロース(キアゲン社製)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、精製酵素標品を得た。
上記のようにして得られた精製酵素を、0.01 mg/mLになるように 50 mM MOPS緩衝液で希釈し、水浴により55℃で30分の加熱処理を行った。加熱後の酵素活性は、Nihiraらの方法に従って30℃において測定した。具体的には、96穴マイクロプレートウェル中で終濃度10 mM LNB、10 mMリン酸、0.25 mM UDP-グルコース、0.025 mM グルコース1,6-ビスリン酸、0.25 mMチオNAD、2.5 mM MgCl2、5 U/mL ホスホグルコムターゼ、5 U/mLグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、0.2 U/mL UDP-グルコース-ヘキソース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼを含む50 mM MOPS緩衝液(pH7.0)にGLNBP酵素抽出液を適量加えて、200 μLの反応液を調製し、マイクロプレートリーダー中で30℃にて反応を行い、波長400 nmの吸光度を連続的に測定し、その増加の傾きを求めることにより酵素活性を測定した。活性測定後、非加熱状態(具体的には30℃以下の温度に保った状態)の酵素について測定された酵素活性を100とした場合の相対値として、各酵素の残存活性を算出した。
その結果、親酵素と比較して高い残存活性を有しており、耐熱性が向上している一点変異酵素が保持するアミノ酸変異としてC236Y、R290H、G437S、N506S及びD576Vが同定された。それらの酵素の耐熱性向上結果を以下の表1に示す。
Figure 2014168404
次いで耐熱性が向上した上記の一点変異酵素を常法により精製し、精製酵素 0.01 mg/mlを50 mM MOPS緩衝液(pH 7.0)に添加して30℃での酵素活性を上述の方法で測定し、同様に測定した親酵素の活性に対する活性比(%)を算出した。また、精製酵素 0.01 mg/mlを50 mM MOPS緩衝液(pH 7.0)に添加して55℃でインキュベートし、7.5分毎の活性を測定し、活性値の対数値をプロットした1次プロットにより失活速度(min-1)を算出した。さらに、親酵素の55℃における失活速度を各酵素の55℃における失活速度で除算することにより酵素活性の安定性向上率(倍)を算出した。得られた結果を表2に示す。なお表中の数値はそれぞれの算出値を有効数字三桁で四捨五入することにより丸めて表している。
Figure 2014168404
表2に示すように、親酵素と比較して、C236Yは酵素の失活速度を顕著に低下させ、D576Vも他の変異点に比べて失活速度を大幅に低下させた。さらにC236Y酵素の比活性は親酵素よりも高かった。したがって配列番号2の236番目に位置するシステイン及び576番目に位置するアスパラギン酸の置換は、本酵素の耐熱性を顕著に向上させることが示された。
そこで、各種ビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPの既知アミノ酸配列を調べたところ、配列番号2の236番目に位置するシステイン及び576番目に位置するアスパラギン酸はビフィドバクテリウム属菌由来GLNBPの間で完全に保存されていることが明らかになった。
[実施例2]
実施例1で得られたC236Y及びD576Vの両方を導入した二点変異酵素C236Y/D576Vを作製した。この二点変異酵素の作製及び調製は、実施例1で取得したC236Y導入GLNBP遺伝子を鋳型とし、上述のプライマーD576V-1及びD576V-2、並びにKOD -plus- Mutagenesis Kit(東洋紡)を用いて、上述の一点変異酵素の作製手順と同様にして行った。
作製したC236Y/D576V酵素、並びに実施例1で作製したC236Y酵素及びD576V酵素について、温度安定性を調べた。具体的には、精製酵素 0.1 mg/mLを50 mM MOPS緩衝液(pH 7.0)に添加して45℃から70℃までの温度に30分間曝露し、15分経過後と30分経過後の酵素活性を上述の方法で測定した。その結果、親酵素は30分後の残存活性が50%以下になる温度は52℃であったのに対し、D576V酵素では58℃、C236Y酵素では62℃、C236Y/D576V酵素では67℃であり、耐熱性の大幅な向上が認められた(表3)。また、C236Y/D576V酵素の30℃における活性は、親酵素の活性の98%であり、ほぼ同程度の活性が維持されることが示された。
Figure 2014168404
[実施例3]
C236に変異を導入することによる熱安定性の向上に関して調べるため、C236W、C236F、及びC236H変異酵素を、上述の一点変異酵素の作製手順と同様に作製した。変異を導入するためのプライマーとしては、以下のものを用いた。
・アミノ酸変異C236W導入用プライマーセット
プライマーC236W-1 5'-TGGTTTGGTTGGGCCTGCACCGTAAGCC-3'(配列番号13)
プライマーC236W-2 5'-GGCTTACGGTGCAGGCCCAACCAAACCA-3'(配列番号14)
・アミノ酸変異C236F導入用プライマーセット
プライマーC236F-1 5'-TGGTTTGGTTTCGCCTGCACCGTAAGCC-3'(配列番号15)
プライマーC236F-2 5'-GGCTTACGGTGCAGGCGAAACCAAACCA-3'(配列番号16)
・アミノ酸変異C236H導入用プライマーセット
プライマーC236H-1 5'-TGGTTTGGTCACGCCTGCACCGTAAGCC-3'(配列番号17)
プライマーC236H-2 5'-GGCTTACGGTGCAGGCGTGACCAAACCA-3'(配列番号18)
具体的な酵素の調製方法は実施例1に記載したものと同様である。
作製した変異酵素の温度安定性を実施例2に記載した方法により測定した。その結果、表4に示すように30分後の残存活性が50%以下になる温度は親酵素で52℃であったのに対し、C236F酵素では55℃と耐熱性の向上が見られた。しかしながら、C236W及びC236Hでは耐熱性の向上が見られなかった。
Figure 2014168404
[実施例4]
D576に変異を導入することによる熱安定性の向上に関して調べるため、D576A、 D576I、及びD576L変異酵素を、上述の一点変異酵素の作製手順と同様に作製した。変異を導入するためのプライマーとしては、以下のものを用いた。
・アミノ酸変異D576A導入用プライマーセット
プライマーD576A-1 5'-CAGACCCTTTCGGTGGCCAAGTATTTCCCG-3'(配列番号19)
プライマーD576A-2 5'-CGGGAAATACTTGGCCACCGAAAGGGTCTG-3'(配列番号20)
・アミノ酸変異D576I導入用プライマーセット
プライマーD576I-1 5'-CAGACCCTTTCGGTGATCAAGTATTTCCCG-3'(配列番号21)
プライマーD576I-2 5'-CGGGAAATACTTGATCACCGAAAGGGTCTG-3'(配列番号22)
・アミノ酸変異D576L導入用プライマーセット
プライマーD576L-1 5'-CAGACCCTTTCGGTGCTCAAGTATTTCCCG-3'(配列番号23)
プライマーD576L-2 5'-CGGGAAATACTTGAGCACCGAAAGGGTCTG-3'(配列番号24)
具体的な酵素の調製方法は実施例1に記載したものと同様である。
作製した変異酵素の温度安定性を実施例2に記載した方法により測定した。その結果、表5に示すように30分後の残存活性が50%以下になる温度は親酵素の52℃に対し、D576A酵素では55℃、D576I酵素では59℃、D576L酵素では57℃と耐熱性の向上が見られた。
Figure 2014168404
本発明の変異型酵素は、より高温で反応可能な耐熱性酵素(GLNBP)として用いることができる。本発明の酵素を用いることにより、酵素反応中の雑菌汚染の問題を回避すべく、ラクト-N-ビオースI(LNB)等の酵素合成反応を比較的高温で行うことが可能になる。
配列番号1:野生型GLNBP遺伝子
配列番号2:野生型GLNBPタンパク質
配列番号3〜24:プライマー

Claims (16)

  1. ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼにおいて、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸が他のアミノ酸に置換されており、その置換により向上した耐熱性を有する変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  2. 前記236番目に位置するシステインが芳香族アミノ酸に置換されている、請求項1に記載の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  3. 芳香族アミノ酸がチロシンである、請求項2に記載の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  4. 前記576番目に位置するアスパラギン酸がアルキル鎖含有アミノ酸に置換されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  5. アルキル鎖含有アミノ酸がバリン又はイソロイシンである、請求項4に記載の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  6. ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼが、(i)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  7. ビフィドバクテリウム属菌がビフィドバクテリウム・ロンガムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載された変異型1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼをコードする遺伝子。
  9. ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼをコードする遺伝子に対し、配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として236番目に位置するシステイン及び/又は576番目に位置するアスパラギン酸の他のアミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入し、得られた変異遺伝子を組換え発現させ、耐熱性が向上した1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼを取得することを含む、向上した耐熱性を有する1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼを作製する方法。
  10. 前記遺伝子に対し、前記236番目に位置するシステインの芳香族アミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入する、請求項9に記載の方法。
  11. 芳香族アミノ酸がチロシンである、請求項10に記載の方法。
  12. 前記遺伝子に対し、前記576番目に位置するアスパラギン酸のアルキル鎖含有アミノ酸への置換を引き起こす塩基変異を導入する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. アルキル鎖含有アミノ酸がバリン又はイソロイシンである、請求項12に記載の方法。
  14. ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼが、(i)配列番号2に示すアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性を有するアミノ酸配列からなるものである、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. ビフィドバクテリウム属菌由来の1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼをコードする遺伝子が、(i)配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子、又は(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の塩基配列同一性を有し、かつ1,3-βガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である、請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
  16. ビフィドバクテリウム属菌がビフィドバクテリウム・ロンガムである、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法。
JP2013041163A 2013-03-01 2013-03-01 耐熱性1,3−βガラクトシル−N−アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ Pending JP2014168404A (ja)

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WO2020040257A1 (ja) * 2018-08-24 2020-02-27 国立大学法人京都大学 改変ホスホリラーゼを利用したラクト-N-ビオースIまたはガラクト-N-ビオースのβグリコシドの酵素合成法

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