JP2014152201A - 明度が高い鮮やかな色漆及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】明度が高い鮮やかな色漆及びその製造方法を提供する。
【解決手段】色漆として、生漆又は精製漆に酸を添加することでpHを酸性側に調整し、これに顔料を添加した。生漆又は精製漆の黒色化を抑制し、明度を高めることができるので、これに顔料を添加すると、顔料が本来有している色に近い鮮やかな色の色漆を得ることができる。酸としては硫酸、酢酸、リノレン酸、プロピオン酸及びクエン酸等が挙げられる。酸のpK値(酸解離定数Kの逆数の対数値)は5以下であることが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は明度が高い鮮やかな色漆及びその製造方法に関する。
日本や中国・韓国の漆の木から掻き取って得られる漆液は乳白色で、その一般的組成はウルシオール(カテコール誘導体)が60〜65%、ゴム質が5〜7%、含窒素分が2〜3%、酵素が0.2%、水が25〜30%である。
漆液はウルシオールの中にゴム質の水球が乳化分散することで油中水滴(W/O)型エマルションを形成している。
漆液から夾雑物を除去したものは「生漆」と呼ばれ、更に、ナヤシ(撹拌)、クロメ(加熱)工程を経て茶色がかった透明の精製漆(透漆)に加工される。
精製漆に着色を施すには、黒漆の場合には鉄粉又は水酸化鉄を混ぜて酸化させることになり、黒以外の白、朱、緑、黄等の色漆の場合には顔料を混ぜることになる。また、漆に植物油を添加することで漆膜に光沢を出す手法が広く用いられている。
漆は、酸化酵素であるラッカーゼがウルシオールの水酸基に働き、ウルシオールセミキノンラジカルとなってウルシオールキノンを作り、ウルシオールキノンとウルシオールとが反応して硬化乾燥しながら高分子固体を生成し塗膜を形成する。
なお、上記鉄粉等を混ぜていない場合でも、漆中の水分量、周囲の湿度及び温度が大きい(高い)ほど硬化後の漆膜の色が濃くなることが知られている。
ラッカーゼの硬化乾燥活性が強く発揮されるのは、温度が25〜35℃、相対湿度(RH)が70〜80%の高湿度雰囲気下であるが、この様な条件下であっても漆を完全に乾燥させるまで1日〜数日を要する。
従来、漆の乾燥速度を調節するための手段としてpHを調整する方法が知られている。例えば、乾燥速度を速めるための手段として電解質を添加してpHを調整する方法が知られており(特許文献1の[0008]参照)、乾燥速度を遅らせるための手段として有機酸を加えてpHを酸性側に調整する方法が知られている(特許文献2の[0019]参照)。
特開平11−116896号公報 特開2007−9023号公報
ところが、上記従来技術では以下のような問題があった。
すなわち、上述の通り黒漆以外では透漆に顔料を添加することで所望の色に近づけるべく調節しているが、ベースとなる透漆自体が茶色がかっており、更に時間の経過と共に黒く酸化していくため、顔料が本来有する色よりもくすんだ色の漆膜にならざるを得ないという問題がある。
また、中国等の外国産の漆と比較して透明性が高い日本産の漆を使用すれば、外国産と比較して顔料が本来有する色に少しは近い色漆を得られるが、日本産の漆は高価という問題がある。
また、漆のpHを調整することは、あくまで漆の乾燥速度を調節するための手段として知られているにすぎず、色の調節、特に明度を高めるための手段としては知られていない。特許文献1のように、漆の乾燥速度を速めるべく電解質を添加すると、金属イオンの影響で漆が黒変するため、これに顔料を添加したとしてもくすんだ色になってしまうのは明白である。
本発明はこのような問題に鑑み、明度が高い鮮やかな色漆及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明の色漆は、酸を添加することでpHが酸性側に調整された生漆又は精製漆に顔料を添加したことを特徴とする。
本発明の漆塗装材は上記色漆で形成された漆膜を備えることを特徴とする。
また、本発明の色漆の製造方法は、生漆又は精製漆に酸を添加することでpHを酸性側に調整する工程と、顔料を添加する工程とを含むことを特徴とする。
また、前記酸が、硫酸、酢酸、リノレン酸、プロピオン酸及びクエン酸のうちの少なくとも一種であることを特徴とする。
また、前記酸のpK値(酸解離定数Kの逆数の対数値)が5以下であることを特徴とする。
生漆又は精製漆に酸を添加してpHを酸性側に調整することで、黒色化を抑制し、明度を高めることができる。このようにして得た高い明度を有する生漆及び精製漆に顔料を添加すると、顔料が本来有している色に近い鮮やかな色の色漆を得ることができる。
カテコール酸化物の化学構造推定図 塩基性カテコール酸化物の化学構造推定図 漆膜の着色とpHの関係を示す図 漆膜の明度とpHの関係を示すグラフ L*a*b*表色系の色空間立体イメージ ウルシオールの紫外可視スペクトル比較 酸性漆膜(色漆)を示す図 漆膜(色漆)を示す図 塩基性漆膜(色漆)を示す図 色漆膜の明度とpHの関係を示すグラフ 漆膜の着色と水分量の関係を示す図 漆膜の水分量と明度の関係を示すグラフ 10%硫酸の添加量と着色の関係を示す図 硬化しなかった白漆膜(10%硫酸)を示す図 10%硫酸の添加量と明度の関係を示すグラフ 白色顔料を大量に添加した酸性漆膜を示す図 白色顔料の添加量と明度の関係を示すグラフ 酢酸を添加した漆膜を示す図 酢酸添加量と明度の関係を示すグラフ プロピオン酸を添加した漆膜を示す図 プロピオン酸の添加量と明度の関係を示すグラフ リノレン酸を添加した漆膜を示す図 リノレン酸の添加量と明度の関係を示すグラフ クエン酸を添加した漆膜を示す図 クエン酸の添加量と明度の関係を示すグラフ 硬化しなかった白漆膜(クエン酸)を示す図
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究し、漆は採取直後では乳白色だが、時間経過によって黒く変色していく現象に関して、漆の主成分であるウルシオール(下記[化1]の構造式参照)が関係していると推測した。そこで、まずウルシオールのフェニル基部分と類似するカテコール(下記[化2]の構造式参照)と、ウルシオールの直鎖構造と類似する脂肪酸であるα-エレオステアリン酸とリノレイン酸をモデル物質として着色実験を行った。
Figure 2014152201
Figure 2014152201
具体的には、ウルシオールをエタノールに溶解させた3%ウルシオール溶液、3%カテコール水溶液、脂肪酸をエタノールに溶解させた3%エタノール溶液を調整した。そして、これらをホットスターラーで60℃に加熱し、12時間毎に紫外可視分光光度計を用いて紫外可視スペクトルを測定した。
結果として、ウルシオールとカテコールは吸光度が大きくなり、着色したことが分かった。一方、脂肪酸は吸光度スペクトルにほとんど変化がなく、着色しないことが分かった。以上から、ウルシオールの化学構造中で着色に関係するのはフェニル基部分であると推定した。
[pH調整]
次に、ウルシオールのpH変化が着色に与える影響を調べるべく、1.5%カテコール水溶液100mlに対してpH調整用として3%水酸化ナトリウム水溶液0.5mlを加えて塩基性のウルシオール溶液を調整した。また、1.5%ウルシオール溶液100mlに対して純度99%の酢酸0.5mlを加えて酸性のウルシオール溶液を調製した。
同様に、3%カテコール水溶液100mlに3%水酸化ナトリウム水溶液1mlを加えて塩基性のカテコール水溶液を調整した。また、3%ウルシオール溶液100mlに対して純度99%の酢酸1mlを加えて酸性のカテコール水溶液を調製した。
そして、各試料溶液をホットスターラーで60℃に加熱し、12時間ごとに紫外可視分光光度計を用いて紫外可視スペクトルを測定した。
結果として、pH調整を行っていないウルシオール溶液と比較して、塩基性のウルシオール溶液及びカテコール水溶液では時間経過と共に吸光度が急上昇し、酸性のウルシオール溶液及びカテコール水溶液では吸光度の上昇が抑えられることが分かった。つまり、pH変化がウルシオール及びカテコールの着色に大きな影響を与えており、pHを塩基性にすることで着色がより促進されることが分かった。
なお、塩基性のカテコール水溶液を酸で中和したところ、吸光度の低下が見られたが完全には退色しなかった。
[窒素雰囲気下加熱]
次に、ウルシオール溶液とカテコール水溶液を窒素雰囲気下で加熱してみたが、吸光度にほとんど変化がなかった。空気を供給しながら加熱すると吸光度が時間経過と共に上昇する点を考慮すると、ウルシオールとカテコールの着色には空気の存在が関係しており、特に空気の成分中で反応性が高い酸素が着色に関係する因子だと推察した。
[酸化物のキャラクタリゼーション]
[カテコール酸化物]
カテコール水溶液を加熱し、激しく酸化させると黒色に着色する現象が見られる。この水溶液にはわずかに黒色の沈澱物が含まれている。そこで、この黒色沈殿物を調べるために次の通り実験を行った。
蒸留水を溶媒として3%カテコール水溶液200mlを調製した。カテコール水溶液をセパラブルフラスコに入れ、4つ口セパラブルカバーを取り付けてコンプレッサで空気を供給し、加熱実験を行った。加熱及び撹拌はホットスターラーと温度センサーの制御を用いてカテコール水溶液が90℃になるように設定し、120時間行った。その後、試料溶液に沈澱物として含まれるカテコール酸化物を取るため、遠心分離機(15000rpm,60min)を用いてカテコール酸化物を得た。
カテコール酸化物の化学構造を推定するため、IRおよび1H-NMRを用いて化合物の推定を行った。
IRおよび 1H-NMRのスペクトルから、カテコール酸化物はフェニル基、水酸基、エーテルの構造が含まれていることが判明し、図1に示した化学構造を推定した。この化学構造から推定できることは、カテコールの水酸基に他のカテコールが酸化劣化した構造が置換したということである。特に、推定図ではRとした不明な点が多く、IRで水酸基のピークが強く出ていることからも、Rには水酸基を含む官能基等が多いと考えられる。強い条件で酸化すると酸化分解して環が切れることから、推定した化学構造は妥当である。
なお、カテコールを90℃で加熱し、24時間毎にサンプリングした試料溶液をGC-MSを用いて分析したが、TIC及び各ピークのマススペクトル情報からはカテコールを酸化させる過程での大きな成分変化は見られなかった。
[塩基性下でのカテコール酸化物]
次に、蒸留水を溶媒として3%カテコール水溶液200ml(pH4.46)を調製し、3%水酸化ナトリウム水溶液10mlを加え、試料溶液(pH10.33)とした。
試料溶液をセパラブルフラスコに入れ、4つ口セパラブルカバーを取り付けてコンプレッサで空気を供給し、加熱実験を行った。加熱及び撹拌にはホットスターラーと温度センサーの制御を用いて液温が90℃になるように設定し、120時間行った。
塩基性にpH調製したカテコール水溶液を加熱酸化させた結果、水溶液は黒色化したが、酸性のカテコール酸化物のように黒色沈澱物は見られなかった。そこで、塩基性カテコール酸化物水溶液を塩酸水溶液で中和した後に、凍結乾燥機を用いて塩基性カテコール酸化物の黒色粉末を得た。
塩基性カテコール酸化物の化学構造を調べるため、IR,1H-NMRを用いて化学構造の推定を試みた。
IR, 1H-NMRスペクトルの帰属から、塩基性カテコール酸化物の化学構造推定図を図2に示す。IR, 1H-NMRともにフェニル基、水酸基の存在が示唆されており、特徴的な水酸基のピークが大きいために、カテコールの構造中に水酸基が多く置換したと推測した。
本実験の結果から、カテコールのpHを酸性又は塩基性で酸化させると、化学構造の全く異なる化合物ができることが分かった。また、塩基性条件下でカテコールを酸化させた場合に、より激しい黒色化進行が見られることが分かった。また、酸性のカテコール酸化物は溶媒の蒸留水に不溶であるのに対し、塩基性のカテコール酸化物は蒸留水に溶解することも分かった。
[塗膜の作製]
精製漆3gに対して0.1mlの酸性及び塩基性のpH調整用試薬を加えて撹拌し、これをガラス板に膜厚50μmで塗布し、恒温恒湿槽(20℃、70%RH)で硬化させることで漆膜を得た(図3参照)。
漆膜の外観評価には測色色差計スーパーカラー1000(東京電色)を用いて、漆膜の評価を行った。
酸性のpH調整用試薬としては純度50%及び99%の酢酸水溶液と、1%、5%及び10%の硫酸水溶液を用い、塩基性のpH調整用試薬としては1%、3%、5%及び7%の水酸化ナトリウム水溶液を用いた。
硫酸を加えて作製した漆膜は酢酸を加えた漆膜に比べてさらに着色が抑制されていることがわかった。酢酸に比べて硫酸の着色がより抑制されているのは、単純に硫酸の方が強い酸であることの他に、酢酸が漆膜の硬化中に揮発していることも原因の一つだと思われる。また、塩基性の漆膜では明らかに着色が促進され、黒色化している。
次に、表1に記載した各漆膜の色差計測定値から図4の明度グラフを作製した。
Figure 2014152201
色の数値化ではCIE1976L*a*b*表色系が最も一般的である。L*は明度指数、色相と彩度を表す色度はa*b*で数値化され、クロマチックネス指数と呼ばれている。図5でわかるように、a*は赤方向、-a*は反対側の緑方向を示しており、b*は黄方向を、-b*は青方向を示している。中心に近づくに従ってくすんだ色になり、外側に行くほど色鮮やかになる。また、本研究では、漆膜の比較に明度L*を用いている。
また、色差は、備え付けの白色板を基準にして、それからのずれの大きさ(ΔE*)で表される。色が白色板に近ければこの値は小さくなり、より鮮やかになる。色差の式は以下の通りである。
Figure 2014152201
図4より、塩基性が強まることで明度が低下する傾向にあることが分かる。反対に、酸性が強まることで、急激な明度の上昇が見られることから、酸性の漆膜は通常の漆膜に比べて着色が抑えられていることが分かる。したがって、本実験では漆膜の明度には明確なpH依存性があることがわかった。
なお、酸性側では明度とpHの関係が完全に比例してはいない。これは漆液に含まれる水分が少ないため、pHメーターを用いて正確なpHを測定することができなかったことが原因だと思われる。
[生漆と精製漆の着色比較]
生漆と精製漆の吸光度スペクトルの比較グラフを図6に示す。生漆と精製漆のスペクトルには殆ど差は見られないことから、生漆から精製漆に加工する過程では漆液の着色はほとんど起きないことが分かった。漆液の着色を抑えるには、漆液を採取した段階で酸を加えて酸性にするか、窒素置換状態で保存する方法がより好ましいと考えられる。
以上の実験結果を踏まえて、漆の着色反応に関する有用な知見が得られた。すなわち、生漆又は精製漆に酸を添加してpHを酸性側に調整することで、黒色化を抑制し、明度を高められることが分かった。
本発明はこの知見を応用したものであり、酸を添加してpHを酸性側に調整することで明度を高めた生漆及び精製漆に顔料を添加することで、顔料が本来有している色に近い鮮やかな色の漆及び漆膜を得るというものである。
[顔料入り漆膜(酸性)]
図7に、本発明の色漆の製造方法によって得られた色漆を示す。具体的には、精製漆3gに対して顔料(白(蛤胡粉、酸化チタン)、緑、青、黄、赤)1.5gを加え、さらに10%硫酸水溶液0.1mlを加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した。
顔料は以下の通りである。
白:酸化チタン(ルチル型)、蛤胡粉
緑:青竹
青:アサギ
黄:黄
赤:赤口
表2は色差計測定値である。
Figure 2014152201
[比較例1]
[顔料入り漆膜(pH調整なし)]
比較例として、精製漆3gに対して上記顔料(白、緑、青、黄、赤)1.5gを加え、さらに蒸留水0.1mlを加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図8)。
表3は色差計測定値である。
Figure 2014152201
[比較例2]
[顔料入り漆膜(塩基性)]
比較例として、精製漆3gに対して顔料(白、緑、青、黄、赤)1.5gを加え、さらに7%水酸化ナトリウム水溶液0.1mlを加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図9参照)。
表4は色差計測定値である。
Figure 2014152201
pH調整なしの通常の漆膜は漆液の着色によって発色が悪いが、酸性漆膜は明らかに漆膜の発色が良く鮮やかになっていることがわかる。
また、塩基性塗膜ではすべての色で黒色化が激しいことから、明らかに明度が低下していることがわかる。
なお、蛤胡粉を白色顔料として使用した漆膜は黒色化した。これは、硫酸水溶液と蛤胡粉が化学反応した結果生じた問題だと考えられる。したがって、白色顔料としてはチタンホワイト(酸化チタン)の方が適していることが分かった。
図10はpH調整無し、酸性、塩基性における各色の明度を比較するためグラフである。pH調整を行っていない通常の漆膜に比べ、塩基性の漆膜は明度が低くなることがわかる。酸性の漆膜では大幅な明度の向上が見られることから、酸による漆の着色抑制効果が色漆にも応用可能であることが分かる。
[白色の漆膜]
精製漆3gに対して白色顔料(チタンホワイト)3gと蒸留水(なし、0.1ml、0.3ml、0.5ml)を加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図11参照)。
また、表5に色差計の測定結果、図12に明度と水分量の関係を表すグラフを示した。
Figure 2014152201
水分を加えずに作製した漆膜に比べて、水分量が増加すると明度が低下することがわかった。明度の変化は、酸性の強度だけでなく、水分も何らかの影響を与えると考えられる。
[白色酸性の漆膜(硫酸)]
精製漆3gに対して白色顔料3g、10%硫酸水溶液(0.1ml、0.11ml、0.12ml、0.13ml、0.14ml、0.15ml、0.18ml、0.2ml、0.3ml、0.5ml)を加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図13、図14参照)。
また、表6に色差計の測定結果、図15には明度を示した。
Figure 2014152201
10%硫酸水溶液の添加量の増加に伴い、明度が上昇する傾向が見られた。特に、精製漆3gに対して10%硫酸水溶液0.13ml添加した漆膜が最も明度が高くなることがわかった。また、添加量0.14mlの漆膜は0.13mlより明度が低くなった。
図14に示すように、添加量0.15ml以上の漆膜は硬化しなかったため、明度の測定はできなかった。後述するクエン酸の漆膜作成実験も同様だが、大量に酸を加えた実験で硬化が起こらない現象があったことからも、酸性が強くなりすぎると、好ましくないことが分かった。この理由として、漆液の初期硬化は酵素ラッカーゼの作用によるが、酸性度が強くなり過ぎると酵素活性が低下し、硬化反応が進展しなくなるためだと考えられる。
[白色顔料の添加量変化(硫酸)]
精製漆3gに対して白色顔料(3g、4.5g、6.0g)、10%硫酸水溶液0.13mlを加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図16参照)。
また、表7に色差計の測定結果、図17に明度を示した。
Figure 2014152201
グラフから、白色顔料を多く加えただけでは漆膜は白色化せず、明度は上昇しないことがわかった。
[白色酸性の漆膜(酢酸)]
精製漆3gに対して白色顔料3g、純度99%の酢酸(0.3ml、0.5ml)を加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図18参照)。
また、表8に色差計の測定結果、図19に明度を示した。
Figure 2014152201
通常の漆膜(酢酸添加無し)を基準に明度を比較した。通常の漆膜に酢酸を加えると明度は上昇するが、精製漆に対して大量に加えると相対的に精製漆の割合が減少しすぎるという問題が出てくる。また、酢酸は漆膜が硬化する過程で揮発するため、添加量に注意を要する。
[白色酸性の漆膜(プロピオン酸)]
精製漆3gに対して白色顔料3g、プロピオン酸(0.1ml、0.2ml)を加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図20参照)。
また、表9に色差計の測定結果、図21に明度を示した。
Figure 2014152201
プロピオン酸を加えた漆膜は通常の漆膜に比べて明度は上昇しているが、硫酸に見られるほどの効果はなかった。
[白色酸性の漆膜(リノレン酸)]
精製漆3gに対して白色顔料3g、リノレン酸(0.5ml、1.0ml、1.5ml)を加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図22参照)。
また、表10に色差計の測定結果、図23に明度を示した。
Figure 2014152201
精製漆にリノレン酸を加えると明度が上昇する効果が見られた。リノレン酸を大量に加えなければ効果は出にいという点に注意を要する。
[白色酸性の漆膜(クエン酸)]
精製漆3gに対して白色顔料3g、50%クエン酸水溶液0.1mlを加え、マグネチックスターラーで撹拌した。調製した漆液からバーコーターを用いてガラス板(5×5cm)に膜厚50μmの漆膜を作製した(図24参照)。
また、表11に色差計の測定結果、図25に明度を示した。
Figure 2014152201
精製漆3gに50%クエン酸水溶液0.1mlを加えると、明らかな明度の上昇が見られた。しかし、図26に示したように、50%クエン酸水溶液0.3mlを加えた漆膜では硬化しなかった。これは硫酸添加時と同様の現象である。クエン酸を添加した漆膜は安全性において硫酸と比較して人体には無害であるという利点がある。
[結論]
1)漆の着色は、漆の主成分ウルシオールの酸化に伴う着色が原因である。また、ウルシオール関連化合物カテコールの加熱実験から、ウルシオール構造中のフェニル基部分が着色に関与していることがわかった。
2)酸性、及び塩基性にpH調整したカテコール水溶液を激しく酸化させると黒色酸化物が生じた。IR,1H-NMR等の化合物情報から化合物を推定したところ、酸性条件と塩基性条件では全く異なる化学構造を持つ化合物であることがわかった。
3)本実験では漆の着色に関連する2つの因子を発見した。
第一には空気中の酸素の存在である。窒素置換状態での加熱実験ではウルシオール及びカテコールは着色しなかった。また、生漆の窒素雰囲気保存実験では、窒素雰囲気で漆液を保存することで着色の抑制に成功したが、漆液は硬化しなかった。この事実から、漆の硬化には酸素が必要であることがわかった。
第二はpH依存性である。pH調製を行ったウルシオールの加熱実験及びから、漆の着色には明確なpH依存性が有ることがわかった。漆液をpH調製し、より塩基性にすることで着色が進行し、反対に酸性にすることで着色の抑制効果が見られた。さらに、漆膜作製実験ではpHを酸性に調整した漆膜の明度が、従来の漆膜に比べて明らかに上昇した。これにより、漆の塗料としての問題点である黒色化を抑制することが可能となった。
なお、上述の通り、漆液中に鉄粉等を混ぜていない場合でも、漆液中の水分量が大きいほど、また、乾燥・硬化作業中の湿度及び温度が高いほど硬化後の漆膜の色は濃くなることが知られているが、本実験で示したようなpHを塩基性側に調整する方がより黒色化の程度が大きい。したがって、漆液のpHを酸性側に調整することが最も重要ではあるが、これに加えて、乾燥・硬化作業中の環境条件としてはできるだけ温度及び湿度を低くする方が(例えば20℃,55%RH)、より明度が高い鮮やかな色漆を得られる。
なお、本発明において酸としては上記硫酸、酢酸、リノレン酸、プロピオン酸及びクエン酸が挙げられるが、これらに限定されず、漆のpHを酸性側に調整できるものであればよい。
また、本発明の酸としてはpK値(酸解離定数Kの逆数の対数値)が5以下であることが好ましく、例えばシュウ酸、マレイン酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。このなかでも、pK値がより小さいシュウ酸、マレイン酸及び硫酸が好ましい。
なお、漆を完全に乾燥させるのに1日〜数日を要する点を考慮すると、乾燥工程中に揮発しない酸、つまり不揮発性である硫酸が好ましい。
一方、漆を箸や器などの塗装材に使用する場合には、人体に悪影響を及ぼす可能性が低い酢酸、プロピオン酸、クエン酸を使用するのが好ましい。
漆液は自然の状態でpHが4.5〜5.0である点を考慮し、本発明においてpHを酸性側に調整する際には、pHを4.5より小さい値にするのが好ましい。
また、本発明の色漆は種々の基材に塗布して塗膜を形成することができる。基材としては木材(天然材及び合板)、金属、ガラス、合成樹脂等が挙げられる。
本発明は明度が高い鮮やかな色漆及びその製造方法であり、産業上の利用可能性を有する。

Claims (7)

  1. 酸を添加することでpHが酸性側に調整された生漆又は精製漆に顔料を添加したことを特徴とする色漆。
  2. 前記酸が、硫酸、酢酸、リノレン酸、プロピオン酸及びクエン酸のうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の色漆。
  3. 前記酸のpK値(酸解離定数Kの逆数の対数値)が5以下であることを特徴とする請求項1に記載の色漆。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項の色漆で形成された漆膜を備えることを特徴とする漆塗装材。
  5. 生漆又は精製漆に酸を添加することでpHを酸性側に調整する工程と、顔料を添加する工程とを含むことを特徴とする色漆の製造方法。
  6. 前記酸が、硫酸、酢酸、リノレン酸、プロピオン酸及びクエン酸のうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載の色漆の製造方法。
  7. 前記酸のpK値(酸解離定数Kの逆数の対数値)が5以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載の色漆の製造方法。

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