本発明の実施形態について説明する前に、特許文献1に記載される、深部温度を求めるための演算式について、簡単に説明する。
図23(A)〜図23(C)は、特許文献1(特開2006−308538号公報)の図5に記載される体温計の例を説明するための図である。図23(A)では、特許文献1の図7の内容を、そのまま記載している。図23(B)および図23(C)は、特許文献1の図7に記載される例の動作を説明するために、今回、新規に追加した補助的な図である。
図23(A)に示されるように、体温計本体3は、人体2上に設けられている。体温計本体3は、第1温度測定部3Aと第2温度測定部3Bを備えている。第1温度測定部3Aは、人体2の体表面2Aに接触する接触面300Aを有している断熱材37と、熱流束調整手段として、断熱材37と外気との間に設けられた第1の断熱材としての断熱材38Aとを備えている。また、温度測定部3Bは、温度測定部3Aの接触位置から距離Lだけ離れた位置における体表面2Aに接触する接触面300Bを有している断熱材37と、熱流束調整手段として、断熱材37と外気との間に第2の断熱材としての断熱材38Bを備えている。すなわち、断熱材37は、第1温度測定部3Aと第2温度測定部3Bとで共通しており、共通の熱抵抗値を有している。
第1温度測定部3Aは、体表面2Aの温度を第1の基準温度として測定する第1基準温度測定部としての体表面センサー31Aと、断熱材37と断熱材38Aとの界面301Aの温度を第1の参照温度として測定する第1参照温度測定部としての中間センサー32Aとを備えている。
また、温度測定部3Bは、体表面2Aの温度を第2の基準温度として測定する第2基準温度測定部としての体表面センサー31Bと、断熱材37と断熱材38Bとの界面301Bの温度を第2の参照温度として測定する第2の参照温度測定部としての中間センサー32Bとを備えている。断熱材38の材料は、断熱材37の材料とは異なっている。したがって、第1温度測定部3Aと第2温度測定部3Bとの間の熱抵抗値を異なり、各温度測定部には、異なる熱流束が生じることになる。
図23(B)では、図23(A)に示される体温計本体の構造を簡略化して示している。図23(C)では、図23(B)に示される第1温度測定部3Aおよび2温度測定部3Bにおける、熱抵抗と熱流束とが記載されている。
図23(C)に示されるように、人体2の表層部の熱抵抗はRsであり、また、各温度測定部3A,3Bと人体2との接触箇所には、接触抵抗Rtが存在する。(Rs+Rt)の値は不明である。また、共通の断熱材37の熱抵抗はRu0(既知)である。また、第1温度測定部3Aの大気側に設けられる断熱材38Aの熱抵抗は(Ru1+RV)である。なお、RVは大気に近い表層部の熱抵抗である。また、第1温度測定部3Bの大気側に設けられる断熱材38Bの熱抵抗は(Ru2+RV)である。
また、図23(C)では、体表面センサー31A,31Bによって測定された温度をTb1,Tb3とし、中間センサー32A,32Bによって測定された温度をTb2,Tb4とする。
図23(C)の左側に太線の矢印で示されるように、第1温度測定部3Aには、人体2の深部から、断熱材37と断熱材38Aとが接触する界面301Aに向かう熱流束が生じる。この熱流束は、人体2の深部(温度Tcore)から体表面2Aに向かう熱流束Q(s+t)と、体表面2Aから界面301Aに向かう熱流束Qu1と、に分けることができる。また、第2温度測定部3Bにおいても、人体2の深部から、断熱材37と断熱材38Aとが接触する界面301Aに向かう熱流束が生じ、この熱流束は、人体2の深部(温度Tcore)から体表面2Aに向かう熱流束Q(s+t)と、体表面2Aから界面301Aに向かう熱流束Qu2と、に分けることができる。
熱流束は、2点の温度の差を、2点間の熱抵抗値で除算して求めることができる。よって、熱流束Q(s+t)は、下記の式(A)で示され、熱流束Qu1は、下記の式(B)で示され、熱流束Qu2は、下記の式(C)で示される。
Q(s+t)=(Tcore−Tb1)/(Rs+Rt)・・・(A)
Qu1=(Tb1−Tb2)/Ru0・・・(B)
Qu2=(Tb3−Tb4)/Ru0・・・(C)
ここで、人体2における熱流束と、温度測定部3A,3Bにおける熱流束とは等しい。よって、Q(s+t)=Qu1が成立し、同様に、Q(s+t)=Qu2が成立する。
したがって、式(A)ならびに式(B)から、下記(D)式が得られ、式(A)と式(C)から、下記の式(E)が得られる。
Tcore={(Rs+Rt)/Ru0}・(Tb1―Tb2)+Tb1・・・(D)
Tcore={(Rs+Rt)/Ru0}・(Tb3―Tb4)+Tb3・・・(E)
図24は、熱流束が定常状態であるときの体温計の接触部モデルと、深部温度の算出式を示す図である。この図24の上側に示される図は、特許文献1の図4の内容を、ほぼそのまま記載した図である。図24の上側の図に示されるように、2つの異なる熱流束(Q(s+t)とQu1、Q(s+t)とQu2)は、傾きが異なる直線で示される。各熱流束において、人体2における熱流束と、温度測定部3A,3Bにおける熱流束とは等しいという条件より、上述のとおり、深部温度Tcoreの算出式である(D)式と(E)式とが得られる。
式(D)と式(E)に基づいて、{(Rs+Rt)/Ru0}の項を除去することができる。この結果、深部温度Tcoreの算出式である、下記の式(F)が得られる。
この式(F)によれば、人体2における熱抵抗値に関係なく、人体2の深部温度Tcoreを精度よく求めることができる。
図25は、図23に示した従来例において、熱収支による測定誤差が生じる様子を示している。なお、図25では、説明の便宜上、各体表面センサー31A〜32Bの測定温度を、T1〜T4と表記している。
図25において、人体2と環境(ここでは大気)7との間、あるいは、温度測定部3A,3Bと環境7との間に生じる熱収支(熱の授受)が、太線の破線の矢印で示されている。上述のとおり、人体2の深部から温度測定部3A,3Bに向かう熱流束が生じるが、実際の温度測定に際して、熱流束の一部は、例えば、温度測定部3A,3Bから環境(大気)7に逃げ、また、例えば、環境(大気)7から温度測定部3A,3Bに熱が流入する。先に説明した、特許文献1に記載される技術では、熱収支が生じない、理想的な熱流束を前提としているため、この点で、わずかながら測定誤差が生じるのは否めない。
図25の下側に示される式(F)では、従来例における深部温度Tcoreを、真の深部温度Tcと、熱収支による誤差成分ΔTcとに分けて記載してある。つまり、特許文献1に記載される測定方法では、測定された深部温度Tcoreには、熱収支に伴う測定誤差が、わずかながら存在することになる。この熱収支に伴う誤差成分を、例えば、補正演算等によって除去することができれば、深部温度の測定精度を、さらに向上させることができる。
(第1実施形態)本実施形態の構成例は、図4に示されている。図4に示される本実施形態の温度測定装置は、従来とは異なる、新規な熱流の系のモデルに基づいて、環境温度が異なるという条件の下で、複数回の温度測定を実行し、新規な演算式によって、被測定体の深部温度を算出する。また、図4に示される本実施形態の温度測定装置では、2つの温度測定部を設け、各温度測定部を並列に動作させ、1回の温度測定で得られる温度データの数を増やし、これによって、深部温度を得るまでに要する時間を短縮している。
このように、図4に示される本実施形態の温度測定装置では、従来とは根本的に異なる熱流の系のモデルに基づく、新規な深部温度の測定方法が採用されており、かつ、温度測定部の構成としては、2つの基材を使用するという、工夫された構成が採用されている。このような本実施形態の温度測定装置の特徴点を説明するためには、まず、本実施形態で採用される熱流の系のモデル、深部温度の算出方法、一つの基材に設けられる2つの測定点の態様等などの基礎的な事項についての説明が必要である。
よって、図4に示される本実施形態の温度測定装置の説明に入る前に、まず、図1および図2を用いて、従来例における熱流の系のモデルと新規な熱流の系のモデルとの差異を説明し、次に、図3を用いて、一つの基材を用いて温度測定を行う場合を例にとって、深部温度の演算式の概要や、一つの基材に設定される2つの測定点の態様等について説明する。その後、図4に示される本実施形態の温度測定装置の構成や動作について説明することとする。
図1(A)および図1(B)は、特許文献1に示される従来例において、熱収支に起因する誤差成分が生じる理由を説明するための図である。図1(A)は、従来例の温度測定部における、6点の温度(T1,T2,Tt1、T2,T4,Tt2)および熱抵抗の状態を示している。図1(B)は、図1(A)に示される温度測定部における、環境温度(第5温度)Toutと深部温度Tcと間の、熱抵抗と熱流束の状態を示している。
従来例では、並列に配置された2つの温度測定部を使用して、2つの熱流の系を形成している。また、環境温度(第5温度)Toutは一定であり、また、基材37の上面に設けられた第1断熱材38Aおよび第2断熱材38Bによって、温度測定部は、環境(大気)から、熱的に遮断されている。また、環境(大気)における熱伝達係数(気体中の熱の移動度に比例する定数)はnである。また、被測定体の表層部の熱抵抗をRbとし、基材37の熱抵抗をR1とし、第1断熱材38Aの熱抵抗をR2とし、第2断熱材38Bの熱抵抗をR3としている。
従来例では、環境温度(第5温度)Toutが一定であるという前提の下で、断熱材38Aと断熱材38Bとを異ならせることによって、異なる2つの熱流束を形成している。つまり、従来例では、熱流束Qb1と、熱流束Q11と、熱流束Q12との間に、Qb1=Q11=Q12という関係が成立し、また、熱流束Qb2と、熱流束Q21と、熱流束Q22との間に、Qb2=Q21=Q22という関係が成立することを前提としている。
しかし、温度測定部の小型化が促進されると、第1の系の3点の温度(T1,T2,Tt1)ならびに第2の系における3点の温度(T2,T4,Tt2)は、環境温度(第5温度)Toutの影響を受けるようになる。よって、Qb1=Q11=Q12、ならびに、Qb2=Q21=Q22であるという前提が成立しなくなる。この場合には、従来例の算出式である式(F)の左辺は、Tc+ΔTcとなり、熱収支の差分に相当する測定誤差ΔTcが生じる。
つまり、特許文献1に記載される温度計では、温度測定部を、表層部に設けられた断熱材によって環境(大気)から遮断した構成となっており、したがって、熱流束は温度測定部の頂部にて終端し、環境(大気)との間の熱収支はほとんどなく、無視できるという設計思想の下で設計されている。しかし、温度計の小型化を、さらに促進した場合には、例えば、温度測定部の側面と環境(大気)との間での熱収支が顕在化し、熱収支の差分に対応する測定誤差を無視できなくなる。
図2(A)および図2(B)は、本発明で採用される熱流の系のモデルによれば、熱収支に起因する誤差成分が生じない理由を説明するための図である。図2(A)は、本発明で採用される熱流の系のモデルにおける温度と熱抵抗の状態を示している。図2(B)は、図2(A)に示される温度測定部における、環境温度(第5温度)Tout1,Tout2と、深部温度Tcと間の、熱抵抗と熱流束の状態を示している。
例えば、2回の温度測定(温度情報の取得)を実行する場合を考える。各温度測定では、第5温度(環境温度)Toutの値を異ならせる(Tout1≠Tout2)。環境温度(第5温度)を異にして、2回の温度測定を実行したとき、第1測定では、始端を被測定体の深部4とし、終端を環境(大気等)とする第1の熱流束の系が構成されることになる。また、第2測定では、始端を被測定体の深部とし、終端を環境(大気等)とする第2の熱流束の系が構成される。第5温度(環境温度)Tout(Tout1,Tout2)は、各系で異なることから、各系の熱流束は互いに異なる熱流束である。
また、環境(大気)7における熱伝達係数(気体中の熱の移動度に比例する定数)はnである。第1温度はTb1(あるいはT1),Tb2(あるいはT3)である。また、第2温度はTp1(あるいはT2),Tp2(あるいはT4)である。被測定体6の表層部5における熱抵抗はRbであり、基材40の熱抵抗はR1である。また、図2(B)に示されるように、第1の系においては、熱流束Qb1と、熱流束Q11と、熱流束Qa1が生じている。第2の系においては、熱流束Qb2と、熱流束Q21と、熱流束Qa2が生じている。
これらの2つの熱流束の系では、熱流束の終端が、温度の変動が許容されている環境7であることから、従来例において問題となる熱収支の差分という概念が生じない。つまり、その熱収支も含めて、環境温度Tout(Tout1,Tout2)が一義的に定まる(適宜、変動する)というだけである。
このような熱流の系のモデルでは、基材における任意の2点の温度は、環境温度Toutをパラメーター(変数)として含む式によって表すことができ、そして、深部温度Tcと環境温度Toutとが一致するとき、被測定体6と環境7との間、あるいは、基材40と環境7との間での熱収支(熱の授受)はゼロとなる。この点に着目して、深部温度Tcの算出の際に、Tout=Tcという条件を設定することによって、熱収支に起因する測定誤差ΔTcをゼロとすることができる。
次に、図3を用いて、本発明で採用される温度測定部の基本的な構成、ならびに、深部温度の演算式の概要について説明する。
図3(A)〜図3(C)は、本発明で採用される温度測定部の基本的な構成、ならびに、深部温度の演算式の概要について説明するための図である。図3(A)では、一つの温度測定部43のみが設けられている。
まず、図3(A)を参照する。温度測定部43は、基材40と、基材40の第1測定点p1における温度を、第1温度Tbとして測定する第1温度センサー50と、基材40の、第1測定点p1とは異なる第2測定点p2における温度を第2温度Tpとして測定する第2温度センサー52と、基材40の周囲の環境(ここでは大気)7の温度を第5温度(環境温度)として取得する環境温度取得部53と、を有している。
基材40は、被測定体6に接触する接触面である第1面SR1と、第1面SR1に対向する面であって、環境側の面(つまり、基材40の上面)である第2面SR2と、を有する。基材40の第1面SR1は、被測定体6の表層部5の表面に接触した状態となっている。
基材40の第2面SR2は、例えば、第1面SR1に対して平行な面である。また、基材40は、熱を伝達する熱媒体である。基材40としては、例えば、所定の熱伝導率(あるいは熱抵抗)をもつ材料(例えばシリコンゴム)を使用することができる。基材40の材料としては、例えば、シリコンゴムを使用することができる。被測定体6は、人体であってもよく、また、炉や配管等の無機的な構造物であってもよい。
また、第1温度センサー50、第2温度センサー52ならびに第5温度センサー(環境温度センサー)54としては、例えば、温度値を抵抗値に変換するタイプの温度センサーを使用することができ、また、温度値を電圧値に変換するタイプの温度センサー等を使用することができる。なお、温度値を抵抗値に変換するタイプの温度センサーとしては、チップサーミスターや、サーミスターパターンがプリントされたフレキシブル基板、白金測温抵抗体等を採用することができる。また、温度値を電圧値に変換するタイプの温度センサーとしては、熱電対素子や、PN接合素子、ダイオード等を採用することができる。
被測定体6の深部4の深部温度はTcであり、この深部温度Tcが測定対象となる温度である。図3(A)の例では、破線の矢印で示されるように、被測定体6の深部4から環境7に向かう熱流(熱流束)Qaが生じている。
環境7は、例えば、大気等の熱媒体であり、周囲媒体あるいは環境媒体と言い換えることができる。基材40の周囲の媒体に、大気の構成成分ではないガス成分が含まれるような場合であっても、その媒体は環境(周囲媒体、環境媒体)7ということができる。また、その媒体は、気体に限定されるものではない。
また、第1測定点p1および第2測定点p2は、基材40の外表面上、または基材40の内部に設けることができる。つまり、第1測定点p1および第2測定点p2は、基材40の外表面上、または基材40の内部に位置する任意の2点である。
また、第1温度センサー50および第2温度センサー52は、第5温度Toutの値が異なるという条件の下で、第1温度および第2温度を複数回(ここでは3回とする)、測定する。
第1測定点p1の温度Tp(すなわち第1温度)ならびに第2測定点p2の温度Tb(すなわち第2温度)は、共に、熱源としての深部温度Tcの影響を受けて変動し、かつ、熱流の終端である環境7の温度Tout(すなわち第5温度)の影響を受けて変動する。
例えば、第1温度Tp=TPAとしたとき、第2温度Tb=aTPA+bと表すことができる。aは1次関数の傾き(第1の傾き)であり、bは、切片(第1の切片)である。また、第1の切片bは、環境温度(第5温度)Toutによって線形に変化する。すなわち、b=cTout+dと表すことができる。cは1次関数の傾き(第2の傾き)であり、dは、切片(第2の切片)である。
3回の測定によって得られた第1温度(Tb1〜Tb3)および第2温度(Tp1〜Tp3)、ならびに3回の測定に対応する異なる値の第5温度(Tout1〜Tout3)に基づいて、第1面SR1から離れた、被測定体6の深部4における深部温度Tcを、深部温度の演算式である第1算出式(式(1))による演算によって求めるkとができる。つまり、Tc=d/(1−a−c)となる。
第1算出式(式(1))は、深部温度Tcと環境温度Toutとが等しいときは、熱収支はゼロとなるという点に着目して導出される(詳しい導出過程については後述する)。3回の測定によって得られた温度データから、定数a,c,dを決定し、式(1)に代入することによって、深部温度Tcが求まる。これが本実施形態で採用される深部温度Tcの算出方法の原理である。
従来例では、環境温度が一定であるという条件の下で、2つの温度測定部における断熱材の種類を異ならせて、2つの異なる熱流束を生成していたが、本態様では、環境温度が異なる、少なくとも2つの系において熱流束を生じさせる。
従来例における熱流のモデルでは、2つの温度測定系における環境温度Toutは同じ値(つまり一定)となっている。よって、各系における深部温度Tcと環境温度Tout間に生じる熱流が一定であり、従来例は、このことを前提条件としている。被測定体から環境に向かう、例えば鉛直方向の熱流が一定であるということは、その鉛直方向の熱流の一部が、例えば基材の側面を経由して環境に逃げるといった熱収支が生じないことを前提として成立する。
しかし、温度測定装置の小型化が促進され、基材のサイズが小さくなると、被測定体と環境との間の熱収支(例えば、基材の側面からの熱の逃げ等)が顕在化する。この場合、深部温度Tcと環境温度Tout間に生じる熱流が一定であるという前提が満足されなくなる。
これに対して、図3に示される例では、複数の熱流の系において、各熱流の一端は、温度変動が許容されている環境であり、例えば、第1の系では、環境温度はTout1(任意の温度)であり、第2の系では環境温度はTout2(Tout1とは異なる任意の温度)である。よって、複数の熱流の系の間で、環境温度(Tout)と深部温度(Tc)との間で生じる熱流が一定でなければならない、という、従来例のような制約が生じない。つまり、各系の熱流束には、熱収支による熱の移動が本来的に含まれており、環境温度Tout(任意の温度)と被測定体の深部温度Tcとの間で、その熱収支の成分も含むような熱流が生じるだけである。
そして、このような熱流の系では、基材における任意の2点(第1測定点と第2測定点)の温度は、環境温度(Tout)を変数(パラメーター)として含む式によって表すことができる。
また、深部温度Tcと環境温度Toutとが等しいときは、熱収支はゼロとなる。よって、例えば、深部温度Tcの演算を行う際に、深部温度Tcと環境温度Toutとが等しいという条件を与えることによって、熱収支による測定誤差をゼロとすることができ、上述した第1算出式(式(1))が得られる。
また、第1測定点p1(第1温度センサー50の位置)、ならびに、第2測定点p2(第2温度センサー52の位置)に関しては、種々のバリエーションが考えられる。ここで、図3(B)を参照する。
第1測定点p1および第2測定点p2は、基材40の表面上や側面上、すなわち基材40の外表面上に位置することができ、また、基材40の内部に位置することもできる。また、いずれか一方が、基材40の表面上や側面上に位置し、いずれか他方が、基材40の内部に位置することもできる。なお、第1測定点p1と第2測定点p2を種々、変化させて、深部温度を測定した結果については、図15〜図20を用いて後述する。
本実施形態では、第1測定点p1は、被測定体6側の測定点とし、第2測定点p2は、環境(大気)7側の測定点とする。
図3(B)に示すように、基材40の接触面SR1に垂直な垂線の方向における、第1面(接触面)SR1からの距離を考え、第1測定点p1の距離をLAとし、第2測定点p2の距離をLBとする。基材40の高さ(第1面SR1から第2面SR2までの距離)をLCとする。
距離LAおよび距離LBについては、0≦LA,LB≦LCが成立し、かつ、LA≦LBが成立する。つまり、第1測定点p1および第2測定点p2の、基材40の第1面SR1からの距離LA,LBは、0以上であり、基材40の高さ(頂部における高さ)はLC以内である。また、第1測定点p1の、基材40の第1面SR1からの距離LAと、第2測定点p2の、基材40の第1面からの距離LBとを比較した場合、LA<LBであってもよく、また、LA=LBであってもよい。
また、LA<LBのときは、第1測定点p1の方が、第2測定点p2よりも被測定体6の近くに位置している。LA=LBのときは、第1測定点p1と第2測定点p2とは、横一線の位置にあり、距離に関しては優劣がない。但し、第1測定点p1と第2測定点p2とは、空間において同じ位置ではなく、必ず異なる位置にある。なお、LA=LBの場合でも、深部温度Tcを正確に測定可能である点に関しては、図18を用いて後述する。
図3(C)の例では、点x1と点x2は、横一線の位置にある。しかし、点x1から、基材40の側面までの最小距離はL1であり、一方、点x2から、基材40の側面までの最小距離はL2であり、L1<L2である。点x1の方が、環境(大気)との熱交換が容易であり、よって、点x1が、環境側の測定点である第2測定点p2となり、点x2が、被測定側の測定点である第1測定点p1となる。
このように、第1測定点p1と第2測定点p2は、基材40の外表面上、あるいは、基材40の内部に設けられる任意の2点でよく、その2点のうちの、いずれを第1測定点p1とするかは、被測定体との距離や、環境との間の熱交換の容易性とを基準として判断することができる。また、これらの基準によっても、いずれを第1測定点とするかを決定できないときは、いずれか一方を任意に選択して第1測定点とすればよい。
次に、本実施形態の温度測定装置の構成例について説明する。図4(A)〜図4(C)は、本実施形態の温度測定装置の要部の構成例と、温度の測定例と、深部温度の算出の手順とを示す図である。図4において、図3と共通する部分には、共通の参照符号を付してある。但し、図4の例では、2つの基材を使用することから、共通の構成要素には、a,bの添え字を付して、構成要素を区別できるようにしている。
図3を用いて説明したように、深部温度Tcを演算によって求めることは、基材が1個しかない場合でも可能であるが、その場合には、3つの定数a,b,cの値を決めるためには、3元連立方程式が必要であり、そのためには、環境温度Toutを、3回変化させる必要がある。例えば、後述する図6に示される温度測定方法を採用したとき、一つの環境温度における温度測定には例えば1分が必要であり、環境温度を3回変化させると、合計で3分が必要となる。
これに対して、本実施形態では、2個の基材を使用することから、一つの環境温度の下で行われる温度測定において得られる温度データの数が、基材が1個しかない場合に比べて2倍になる。よって、環境温度を異にする温度測定の回数を減らすことが可能となる。例えば、図6に示される温度測定方法を採用したとき、環境温度は、2回変化させればよい。一つの環境温度の下での温度測定に要する時間を1分としたとき、合計で2分あれば、深部温度の演算に必要な、複数の温度データを取得することができる。よって、本実施形態によれば、深部温度を正確に測定できるという効果に加えて、深部温度の測定に要する時間を短縮できるという効果が得られる。
図4(A)には、温度測定装置の要部が示されている。なお、全体構成は図12を用いて後述する。図4(A)に示される温度測定装置(要部のみ)は、温度測定部43と、環境7の温度を第5温度として取得する環境温度取得部53と、を有している。環境温度取得部53は、環境温度センサー(第5温度センサー)54を有することができる。
また、温度測定部43は、第1温度測定部43aと、第2温度測定部43bとを有している。第1温度測定部43aは、被測定体6に接触する接触面としての第1面SR1aを有する、熱媒体としての第1基材40aと、第1基材40aの第1測定点p1における温度を第1温度として測定する第1温度センサー50aと、第1基材40aの、第1測定点p1とは異なる第2測定点p2における温度を第2温度として測定する第2温度センサー52aと、熱流制御部61aと、有している。
また、第2温度測定部43bは、被測定体6に接触する接触面としての第1面SR1bを有する、熱媒体としての第2基材40bと、第2基材40bの第3測定点p3における温度を第3温度として測定する第3温度センサー50bと、第2基材40bの、第3測定点p3とは異なる第4測定点p24における温度を第4温度として測定する第4温度センサー52bと、熱流制御部61bと、有している。
図4(A)の例では、熱流制御部61aと熱流制御部61bを設けているが、これに限定されるものではない。熱流制御部61は、第1基材40a上のみに設けてもよく、第2基材40b上にのみ設けてもよく、第1基材40a上ならびに第2基材40b上に設けてもよい。熱流制御部61の態様としては、図4(A)に示される例の他、図5(A)〜図5(C)に示されるバリエーションが考えられる(これらについては後述する)。
つまり、熱流制御部61は、第1基材40aおよび第2基材40bの少なくとも一方の、第1面SR1(SR1a,SR1b)に対向する第2面SR2(SR2a,SR2b)上に設けられる。そして、熱流制御部61は、被測定体6の深部4と、第1基材40aおよび第2基材40bの周囲の環境7との間に生じる熱流の熱流束(Qa,Qbの少なくとも一方)を制御して、第1基材40aにおける第1温度と第2温度との間の温度差と、基材40bにおける第3温度と第4温度との間の温度差を、異ならせるという働きをする。なお、図4(A)に示されるように、環境温度がTout1であるとき、第1温度はTb1であり、第2温度はTp1であり、第3温度はTb2であり、第4温度はTp4である。
熱流制御部61(61a,61b)は、例えば、熱を伝達する熱媒体であり、熱流制御部61と環境7との間では熱交換が行われる。図4(A)の例では、第1基材40aならびに第2基材40bの厚みが2mmであり、第1熱流制御部61aならびに第2熱流制御部61bの厚みは、基材と同等の2mmであり、厚みが薄いことから、各基材40a,40bは、環境7との間での熱交換が可能である。
この結果、熱流制御部61(61a,61b)が設けられた場合でも、第1基材40aにおける第1測定点の温度および第2測定点の温度は、第5温度(測定された環境7の温度Tout)に対応して変化するという条件が満足される。同様に、第2基材40bにおける第3測定点の温度、第4測定点の温度は、第5温度(測定された環境7の温度Tout)に対応して変化するという条件が満足される。
従来例における熱流調整部は、断熱材で構成され、熱流調整部と環境(大気)との間での熱交換量は極めて小さく、したがって、従来例では、各基材の上面は、熱流調整部によって、環境(大気)から遮断されている。この点で、本実施形態の熱流制御部は、従来例における熱流調整部とは、完全に区別される構成要素である。
また、図4(A)の例では、第1基材40aおよび第2基材40bは共に材料α(例えばポリエチレンゴム等の発泡ゴム)で構成され、第1熱流制御部61aは、材料αとは異なる材料β(例えばシリコンゴム)で構成され、第2熱流制御部61bは、材料α,βとは異なる材料γ(例えば合成ゴム)で構成される。但し、この例は一例であり、この例に限定されるものではない。
第1基材40aと第2基材40bは、同じ材料(図4(a)の例では材料α)で構成され、同一の形状(例えば円柱形状)を有し、また、同一の大きさを有している(例えば、円柱の底面積と高さが同じ)。
また、第1測定点p1および第2測定点p2は、第1基材40aの外表面上、または第1基材40aの内部に位置する。また、第3測定点p3は、第2基材40bの外表面上、または第2基材の内部であって、第1基材40aにおける第1測定点p1に対応する地点に位置し、第4測定点p4は、第2基材40bの外表面上、または第2基材40bの内部であって、第1基材40aにおける第2測定点p2に対応する地点に位置する。
つまり、第2基材40bにおける第3温度センサー50bと第4温度センサー52bとの位置関係は、第1基材40aにおける第1温度センサー50aと第2温度センサー52aとの位置関係と同じである。
「同じ位置関係」とは、例えば、以下のような関係をいう。第3測定点P3は、第2基材40bにおける、第1測定点P1に対応する地点に位置している。ここで、第1基材40aにおける、第1測定点P1と第1面SR1aとの間の距離を第1距離とし、第1測定点P1と第1基材40bの側面までの最短距離を第2距離とし、第2基材40bにおける、第3測定点P3と第1面SR1bとの間の距離を第3距離とし、第3測定点P3と第2基材40bの側面までの最短距離を第4距離としたとき、第1距離と第3距離は同じであり、かつ第2距離は第4距離と同じである。
また、第4測定点P4は、第2基材40bにおける、第2測定点P2に対応する地点に位置している。ここで、第1基材40aにおける、第2測定点P2と第1面SR1aとの間の距離を第5距離とし、第2測定点P2と第1基材40aの側面までの最短距離を第6距離とし、第2基材40bにおける、第4測定点P4と第1面SR1bとの間の距離を第7距離とし、第4測定点P4と第2基材40bの側面までの最短距離を第8距離としたとき、第5距離と第7距離は同じであり、かつ第6距離は第8距離と同じである。
例えば、図4(A)の下側に示されるように、第1測定点p1と、第1基材40aの第1面SR1aとの間の距離(第1距離)はLDであり、第1測定点p1と、第1基材40aの側面との間の最短距離(第2距離)はL4である。第3測定点p3と、第2基材40bの第1面SR1bとの間の距離(第3距離)はLDであり、第3測定点p3と、第2基材40bの側面との間の最短距離(第4距離)はL4である。上述のとおり、第1距離(=LD)と第3距離(=LD)は同じであり、かつ第2距離は第4距離と同じである。
また、第2測定点p2と、第2基材40bの第1面SR1bとの間の距離(第5距離)はLEであり、第2測定点p2と、第1基材40aの側面との間の最短距離(第6距離)はL3である。また、第4測定点p4と、第2基材40bの第1面SR1bとの間の距離(第7距離)はLEであり、第4測定点p4と、第2基材40bの側面との間の最短距離(第8距離)はL3である。上述のとおり、第5距離(=LE)と第7距離(=LE)は同じであり、かつ第6距離(=L3)は第8距離(=L3)と同じである。
このように、第1基材40aと第2基材40bは、材質、形状、大きさにおいて差がなく、各基材における2点の測定点の位置関係にも差がないことから、第1基材40aにおける第1温度と第2温度との温度差の値と、第2基材40bにおける第3温度と第4温度との温度差の値との相違は、熱流制御部61による熱流制御のみによって生じる。
図4(A)ならびに図4(B)に示される例では、被測定体6の深部4と環境7との間に生じる熱流の一端は、温度変動が許容されている環境7であり、従来例のように、環境温度が一定という制限はない。
そして、このような熱流の系のモデルでは、各基材における任意の2点(第1測定点p1と第2測定点p2、第3測定点p3と第4測定点p4)の温度(第1温度と第2温度、第3温度と第4温度)は、環境温度Toutの変動に対応して線形に変化する。この点に着目して、環境温度Toutを変数として含む、複数の1次関数を導くことができる。
すなわち、図4(A)に示される第1測定では、環境温度Tout=Tout1であり、第2温度Tp2=TPAとしたとき、第1温度Tb1と、第2温度TPAおよび環境温度Tout1との間には、第1関係式(Tb1=aTPA+cTout1+d)が成立する。また、また、第4温度Tp2=TPBとしたとき、第2温度Tb2と、第4温度TPBおよび環境温度Tout1との間には、第2関係式(Tb2=aTPB+cTout1+d)が成立する。a,c,dは定数である。
また、図4(B)に示される第2測定では、環境温度Tout=Tout2であり、第2温度Tp3=TPCとしたとき、第1温度Tb3と、第2温度TPCおよび環境温度Tout1との間には、第3関係式(Tb3=aTPC+cTout2+d)が成立する。また、第4温度Tp4をTPDとしたとき、第3温度Tb4と、第4温度TPDおよび環境温度Tout2との間には、第4関係式(Tb4=aTPD+cTout2+d)が成立する。
また、深部温度Tcと環境温度Toutとが等しいときは、被測定体6と環境7との間、あるいは、各基材40a,40bと環境7との間の熱収支(熱の授受)はゼロとなる。よって、例えば、深部温度Tcの演算を行う際に、深部温度Tcと環境温度Toutとが等しいという条件を与えることによって、熱収支による測定誤差ΔTcをゼロとすることができる。
このような測定原理によって、温度測定装置の小型化を促進しつつ、熱収支による測定誤差を抑制して高精度な深部温度を測定することが可能となる。また、図4(A)の例では、2つの基材40a,40bをもつ構成を採用しているため、異なる環境温度の下で実行される複数回の温度測定の回数を減らすことができる。よって、深部温度を求めるのに要する時間を短縮することができる。
被測定体6の深部4における深部温度Tcは、例えば、図4(C)の手順によって求めることができる。すなわち、第1関係式〜第4関係式のうちのいずれか3つからなる3元連立方程式を解くことによって、定数a,定数b,定数cを求める(ステップS1)。次に、式(1)で表される第1算出式(=d/1−a−c)によって、熱収支の影響のない深部温度Tcを求める(ステップS2)。
図5(A)〜図5(C)は、熱流制御部のバリエーションを示す図である。なお、図5に示される例では、環境温度ToutはTout1に設定されている。
図5(A)の例では、第1熱流制御部61aおよび第2熱流制御部61bは、第1基材40aおよび第2基材40bの構成材料である材料αによって構成されている。但し、第2熱流制御部61bの厚みは、第1熱流制御部61aの厚みよりも薄く設定されている。よって、同じ環境温度Tout1の下で、異なる熱流束を生じさせることができる。
図5(B)の例では、第1熱流制御部61aのみが設けられている。第1熱流制御部61aは、第1基材40aおよび第2基材40bの構成材料である材料αによって構成されている。第2基材40b上には、第2熱流制御部は設けられない。よって、同じ環境温度Tout1の下で、異なる熱流束を生じさせることができる。なお、第2熱流制御部61bのみを設ける構成としても、同様の効果が得られる。
図5(C)の例では、第1熱流制御部61aのみが設けられている。第1熱流制御部61aは、第1基材40aおよび第2基材40bの構成材料である材料αとは異なる材料βによって構成されている。第2基材40b上には、第2熱流制御部は設けられない。よって、同じ環境温度Tout1の下で、異なる熱流束を生じさせることができる。なお、第2熱流制御部61bのみを設ける構成としても、同様の効果が得られる。なお、以上の例では一例であり、これらの例に限定されるものではない。
次に、図6〜図8を用いて、「第5温度(環境温度Tout)の値が異なるという条件の下で、第1温度、第2温度、第3温度および第4温度を複数回、測定する」ことを担保するための測定方法の例について説明する。
図6(A)および図6(B)は、温度測定方法の一例、ならびに、その温度測定方法を実施するための温度測定装置の構成の一例を示す図である。
図6(A)に示される温度測定装置は、温度測定部43と、環境温度取得部53と、演算部74および測定タイミング制御部75を含む制御部73と、を含む。
図6(A)の例では、環境温度取得部53は、無線通信部CBを有している。よって、外部の空調器57から、無線通信によって環境温度(第5温度)の情報を取得することができる。また、環境温度取得部53は、環境温度センサー(第5温度センサー)54によって、自ら環境温度(第5温度)を測定することができる。
なお、空調器57は、大気温度センサー55と、無線通信部CAと、を有している。また、制御部73は、演算部74と、測定タイミング制御部75と、を有している。測定タイミング制御部75は、タイミング制御信号ST1を出力し、このタイミング制御信号ST1によって、第1温度センサー50a、第2温度センサー52a、第3温度センサー50bならびに第4温度センサー52bによる、第1温度、第2温度、第3温度ならびに第4温度の測定タイミングと、環境温度取得部53による、第5温度Toutの取得タイミングとを制御する。
図6(B)に示されるように、第1温度および第2温度の測定ならびに環境温度の情報の取得のために、例えば、第1測定期間と第2測定期間が設けられる(測定期間の数は、さらに増やすこともできる)。
制御部73は、各測定期間毎に、複数回の温度測定あるいは温度情報の取得を実行し、得られたデータに基づいて、第1算出式(式(1))による演算を実行して、深部温度Tcを求める。
「第5温度(環境温度Tout)の値を異ならせる」ための方法としては、空調器等を利用する積極方法と、時間軸上での環境温度のゆらぎ(微小な変動)に着目して、測定タイミングを調整するという消極的な方法とがあるが、図6の例では、後者の消極的な方法が採用されている。
環境温度Toutは、微視的にみれば、時間の経過と共に、常に変動しているとみることができる。この環境温度Toutの揺らぎを利用すれば、空調器等を用いなくても、「異なる環境温度の下で、複数回の温度測定を実行する」という条件を満足させることができる。図6の例によれば、深部温度Tcの演算に必要な、複数の温度データを、比較的容易に得ることができる。
ここで、図6(B)を参照する。図6(B)のステップ10では、第1測定用の第1時間帯(第1測定期間)ならびに第2測定用の第2時間帯(第2測定期間)を、ある程度の長さをもつ時間帯(例えば1分)とし、一つの時間帯において、複数回の温度測定を実行する。ここでは、20秒間隔で、3回の測定を実行する。4つのセンサー(第1温度センサー〜第4温度センサー)が、3回の測定をすることによって、合計12個の温度データが得られる。同様に、環境温度取得部53が3回の温度データ(第5温度データ)の取得(測定を含む)を行って、3つの環境温度データが得られる。そして、各回の測定結果の平均演算(単純な加算平均でもよく、重み付け平均でもよい)によって、一つの時間帯毎に、第1温度、第2温度、第3温度および第4温度を決定する。
なお、「平均演算」という用語は広義に解釈するものとし、例えば複雑な演算式を利用する場合も含むものとする。
次に、ステップS20において、得られた4組のデータのうちの、いずれか3組みの温度データに基づいて、定数a,c,dを算出する。次に、ステップS3において、第1算出式(式(1))に基づいて、深部温度Tcを測定する。
基材を一個しか使用しない例(先に示した図3の例)では、環境温度Toutを3回、変化させる必要があったが、本実施形態では、基材を2個使用し、4つの温度センサーが並行的に動作して温度を測定するため、図3の例に比べて、2倍のデータを一度に得ることができる。よって、環境温度は2回、変化させればよいことになる。よって、深部温度Tcを求めるのに要する時間を短縮することができる。
図7(A)および図7(B)は、温度測定方法の他の例、ならびに、その温度測定方法を実施するための温度測定装置の構成の他の例を示す図である。図7(A)に示される温度測定装置には、複数回の温度測定を実行するタイミングを決めるための、タイミング制御情報を入力するタイミング制御情報入力部83が設けられている。制御部73は、タイミング制御情報入力部83から、タイミング制御情報(ここでは、測定指示トリガーTGとする)が入力される毎に、例えば、第1温度センサー50、第2温度センサー52ならびに第5温度センサー(環境温度センサー)54に、温度測定を実行させる。
図7の例では、「第5温度(環境温度Tout)の値を異ならせる」ことは、ユーザー自身の行為によって担保される。
例えば、ユーザーは、第1回目の測定を行うとき、温度測定装置の外に設けられる外部の空調器57の温度を第1の温度に設定し、設定から所定の時間が経過すると、タイミング制御情報入力部を経由して、タイミング制御情報としての測定指示トリガーTG)を入力する。上述したように、制御部73は、タイミング制御情報入力部83からタイミング制御情報が入力される毎に、例えば、第1温度センサー50、第2温度センサー52ならびに第5温度センサー(環境温度センサー)54に温度測定を実行させる。測定タイミングは、測定タイミング制御部75によって制御される。
温度測定は、例えば、タイミング制御情報(測定指示トリガーTG)の入力毎に1回行うことができ、また、タイミング制御情報の入力毎に複数回の温度測定を実行して、得られた測定値を平均する等して、測定値を求めてもよい。以降、ユーザーは、空調器57の温度を第2の温度に設定した後、タイミング制御情報を入力し、次に、空調器57の温度を第3の温度に設定した後、タイミング制御情報を入力する。例えば、ユーザーは、2回のタイミング制御情報を入力する。
2回分の温度情報が取得されると、演算部74は、取得された温度情報に基づく、深部温度Tcを求めるための演算(算出式に基づく演算)を自動的に実行し、この結果、深部温度Tcが求められる。求められた深部温度Tcは、例えば、ユーザーに報知(表示、音声による通知等を含む)される。図7の例では、ユーザー自身が、各測定毎の環境温度を異ならせることから、温度測定装置自体が、環境温度を管理する負担が生じない。
測定手順は、図7(B)のステップS4〜ステップS6のとおりである。なお、以上の例は一例である。
図8(A)および図8(B)は、温度測定方法の他の例、ならびに、その温度測定方法を実施するための温度測定装置の構成の他の例を示す図である。図8の例では、温度測定部が、環境温度(第5温度)Toutを変化させることができる環境温度調整部CDを有している。制御部73は、そして、1回の温度測定が終了する毎に、環境温度調整部CDによって環境温度(第5温度)Toutを変化させる。
環境温度調整部CDは、環境温度(第5温度)Toutを変化させる機能をもつ。図8(A)の例では、環境温度調整部CDとして、例えば、温度測定装置の外に設けられる外部の空調器57の設定温度を、遠隔制御によって調整する機能をもつ調整器CC1を使用することができる。調整器CC1の動作は、測定タイミング制御部75からの制御信号ST2によって制御される。
また、図8(B)の例では、環境温度調整部CDとして、例えば、温度測定装置の内部に設けられた、気流生成部(例えば、気流の温度を変化させる機能を有する)CC2を使用する。気流生成部CC2は、ファン(扇風機)や、気流を噴射する微小ノズル等によって構成することができる。気流生成部CC2の動作は、測定タイミング制御部75からの制御信号ST3によって制御される。
環境温度調整部CDを利用することによって、測定毎に、環境温度Toutを確実に異ならせることができる。また、環境温度Toutを正確な温度に設定することができる。また、例えば、第1測定時の環境温度Tout1と第2測定時の環境温度Tout2との差を、大きく設定することもできる。なお、以上の例は一例である。
次に、第1算出式(図3(A)に示される式(1))を用いた深部温度Tcの演算について、図9〜図11を用いて、具体的に説明する。以下の説明では、先に図3を用いて説明した、基材40を一つ使用する例(基本構成の例)における温度測定について説明する。なお、以下の説明は、使用する基材が2個の例(図4、図5の本実施形態)についても、同様に適用することが可能である。
図9(A)〜図9(C)は、環境温度が一定であるという条件下における、第1温度と第2温度との間の関係、ならびに、その関係を深部温度の算出式に適用した場合の結果を示す図である。
図9(A)において、基材40、第1温度センサー50および第2温度センサー52は、温度測定部43を構成する。基材40は、第1面(接触面)SR1と第2面(基材40の上面)SR2とを有している。この温度測定部43は、被測定体6(例えば人体)6に、例えば、貼り付けられている。第1温度センサー50によって測定される第1温度はTbと表記されている。また、第2温度センサー52によって測定される第2温度はTpと表記されている。
図9(B)は、第2温度Tpと第1温度Tbとの関係を示す図である。図9(B)において、横軸はTpであり、縦軸は、第2温度Tpおよび第1温度Tbの温度Tである。環境温度(第5温度Tout)が一定である状態で、第1温度Tpが線形に変化すると、第2温度Tbも線形に変化する。つまり、第1温度Tbは、第2温度Tpに対して線形性を有する。
図9(B)に示されるように、第1温度Tbは、第2温度Tpを変数とする1次関数によって表される。つまり、下記の式(2)が成立する。
ここで、aは第1の傾きであり、bは第1の切片(または第1のオフセット値)であり、いずれも定数である。TpがT
PAであるとき、Tb=aT
PA+bとなり、また、TpがT
PBであるとき、Tb=aT
PB+bとなる。
図9(C)は、2回の温度測定によって得られた温度データT1〜T4を、先に説明した深部温度の算出式に適用した場合の結果を示す図である。時刻t1における温度測定によって、第1温度T1と第2温度T2が得られたとする。また、時刻t2における温度測定によって、第1温度T3と第2温度T4が得られたとする。T1〜T4は、下記式(3)によって表される。
ここで、式(3)の各値を、式(4)に代入する。式(4)は、深部温度Tcoreを求めるための算出式であるが、先に説明したように、熱収支による誤差ΔTcが含まれている。
この結果、式(5)が得られる。
次に、図9を参照して、環境温度Toutを変化させた場合における、第1温度Tbと、第2温度Tpとの関係について考察する。図10(A)〜図10(D)は、環境温度を変化させた場合における、第1温度と第2温度との間の関係、ならびに、その関係を深部温度の算出式に適用した場合の結果を示す図である。
図9(A)に示すように、変動する環境温度(第5温度)Toutは、環境温度取得部53に含まれる第5温度センサー(環境温度センサー)54によって測定される。先に説明したように、第2温度TpをTPAとしたとき、Tb=aTPA+bと表すことができる。定数bは、第1切片(第1オフセット値)であり、この第1切片bは、環境温度(第5温度)Toutに対する線形性を有する。
つまり、図9(B)に示すように、Toutが変動すると、第1切片bの値は、環境温度(第5温度)Toutにしたがって、線形に変化する。したがって、下記の式(6)の関係が成立する。
ここで、c,dは共に定数である。cは、第2の傾きであり、dは、第2の切片である。環境温度(第5温度)ToutがTout1であるとき、第1の切片bは、b1(=cTout1+d)となり、環境温度(第5温度)ToutがTout2であるとき、第1の切片bは、b2(=cTout2+d)となる。
図9(C)は、Tout1における、第2温度Tpと第1温度Tb(=Tb1)との関係、ならびに、Tout2における、第2温度Tpと第1温度Tb(=Tb2)との関係を示している。Toutが、Tout1からTout2に変化したとき、1次関数の傾き(第1の傾きa)には変化がないが、第1の切片bの値が、b1からb2に変化することから、TpとTbとの関係を示す1次関数は、b1とb2の差分の分だけ、平行にシフトされる。
このように、第1温度Tbは第2温度Tpだけでなく、環境温度(第5温度)Toutに対しても線形の関係を示す。上記式(6)を、上記式(3)に示されるTb=aTp+bという式に代入すると、下記の式(7)が得られる。
この式(7)が、第2温度Tpと、第5温度Toutを変数として含み、かつ、複数の定数a,b,cを含む関数である。この関数によって、第1温度Tbと、第2温度Tpおよび第5温度Toutとが関係付けされる。
また、上記の式(6)を、式(5)に代入すると、式(8)が得られる。
ここで、熱の移動が温度差によって起こることから、熱収支による誤差ΔTcは、環境温度(第5温度)Toutと深部体温Tcの値が等しくなる場合には生じない。よって、式(8)において、Tout=ΔTcとし、ΔTc=0とする。すると、式(8)は、式(1)のように変形される。
この式(1)が、熱収支による誤差を含まない深部温度Tcを示している。但し、式(1)を解くためには、複数の定数a,c,dの各値を定める必要がある。複数の定数a,c,dは、上記の式(7)で表される関数によって、相互に関連付けられている。3つの定数の値を求めるためには、3元の連立方程式を解けばよい。よって、時間を異にして、少なくとも3回の温度測定を実行する。
ここで、第1回目の測定時に、第1温度としてのTb1、第2温度としてのTp1、第5温度としてのTout1が得られ、第2回目の測定時に、第1温度としてのTb2、第2温度としてのTp2、第5温度としてのTout2が得られ、第3回目の測定時に、第1温度としてのTb3、第2温度としてのTp3、第5温度としてのTout3が得られたとする。
これらの9個の測定データは、以下の行列式によって表現することができる。
よって、逆行列を含む以下の行列式によって、複数の定数a,c,dを求めることができる。
複数の定数a,c,dの各値が決定されると、各値を、式(1)に代入する。これによって、深部温度Tcが得られる。
図11(A)〜図11(D)は、第1実施形態における、深部温度の測定方法を示す図である。図7(A)に示すように、5点の温度、すなわち、第1温度Tba、第2温度Tpa、第3温度Tbp、第4温度Tpb、ならびに、第5温度Toutを、少なくとも2回測定する。これによって、10個の温度データ(Tout1,Tb1,Tp1,Tb2,Tp2、Tout2,Tb3,Tp3,Tb4,Tp4)が得られる。これらの10個の温度データに基づいて、図11(B)に示される、4つの行列式9a〜9dが得られる。
定数a,c,dは、図11(C)に示される、逆行列を含む4つの行列式10a〜10dのいずれかによって求めることができる。そして、図11(D)に示される式(1)によって、深部温度Tcを算出することができる。
次に、温度測定装置の全体構成について説明する。図12(A)〜図12(C)は、温度測定装置の全体構成の例を示す図である。
図12(A)の例では、第1温度センサー50aおよび第2温度センサー52aは、第1基材40aの内部に埋め込まれている。また、第3温度センサー50bおよび第4温度センサー52bは、第2基材40bの内部に埋め込まれている。また、熱流制御部61aが、第1基材40a上に設けられている。第2基材40b上には、熱流制御部は設けられない。つまり、図12(A)の例では、第1温度測定部43a、第2温度測定部43bの構造として、図5(B)や図5(C)に示される構造が採用されている。
また、断熱材20a上に、環境温度取得部53としての第5温度センサー(環境温度センサー)54が設けられている。第1温度センサー50a、第2温度センサー52a、第3温度センサー50bおよび第4温度センサー52b、第1基材40a、第2基材40b、第1熱流制御部61a、断熱材20a、環境温度取得部53としての第5温度センサー(環境温度センサー)54は、第1ユニット100を構成する。
また、断熱材20b上には、第2ユニット200が設けられる。第2ユニット200は、制御部73および演算部74を含む。なお、演算部74は、機能ブロックとして、定数算出部や深部温度算出部を含むことができる。また、第2ユニット200には、図示はしないが、演算結果を報知する報知部(例えば表示部)を設けることもできる。
また、図12(A)の温度測定装置は、第1基材40aならびに第2基材40bにおける第1面(接触面)SR1a,SR1bを、被測定体6の表面に貼付するための貼付構造10を有している。貼付構造10は、例えば、粘着テープにより構成することができる。粘着テープは、剥離紙8と、支持層(粘着層)9とを有することができる。
貼付構造10によって、第1ユニット100を、被測定体6の表面に貼付することができる。したがって、温度測定装置の操作性ならびに携帯性が向上する。また、例えば、温度測定装置を、幼児や乳幼児などの体温の計測のために使用する場合、幼児等は、頻繁に体を動かすことから、温度測定装置と体表面との接触を、所定時間、良好に保持することが困難である。しかし、このような場合でも、貼付構造10を用いて、温度測定装置の全体を、被測定体6の表面に貼付可能であることから、幼児や乳幼児が体を動かしたとしても、体表面と温度測定装置との接触状況を良好に維持できる。よって、正確かつ安定した温度測定な可能である。
図12(B)の例では、環境温度取得部53は、大気温度センサー55から環境温度の情報を受け取る。大気温度センサー55としては、例えば、環境の温度を制御する空調器に設けられている温度センサーを使用することができる(図6〜図8を参照)。
図12(C)の例では、第1ユニット100と、第2ユニット200とを分離した、別体の構成が採用されている。第1ユニット100は、アンテナAN1と、第1無線通信部CAを含み、第2ユニット200は、アンテナAN2と、第2無線通信部CBを含む。
第1温度の情報、第2温度の情報、第3温度の情報、第4温度の情報および第5温度(Tout)の情報は、第1無線通信部CAから第2無線通信部CBに送信される。第2ユニット200に設けられている演算部74は、第2無線通信部CBによって受信された、第1温度の情報、第2温度の情報、第3温度の情報、第4温度の情報および第5温度(Tout)の情報に基づいて演算を実行して、被測定体6の深部4における深部温度Tcを求める。
図12C)の構成によれば、第1ユニット100(例えば温度測定装置の本体)の構成部品の数を、最小限に抑制することができ、第1ユニット100の軽量化が実現される。したがって、例えば、被測定体6としての被検者の体表面に、第1ユニット100を長時間、接触させた場合であっても、被検者に大きな負担を与えることがない。よって、例えば、長時間にわたって、連続的に温度をモニタリングすることが可能となる。
また、第1ユニット100と第2ユニット200との間で、無線通信による温度データの送受信を行うことができることから、第2ユニット200を、第1ユニット100からある程度、離して設置することが可能となる。また、無線通信を利用することから、通信用の配線が不要である。よって、第1ユニットの取扱い性が向上する。また、第1ユニット100を、第2ユニット200から完全に分離することができることから、第1ユニット100の軽量化を、より促進することができる。
図13(A)および図13(B)は、無線通信を利用した温度測定装置の使用例を説明するための図である。図13(A)では、被測定体6としての幼児の胸部の体表面6Aに、第1ユニット100が装着(貼付)されている。また、第2ユニット200は、被測定体6としての幼児を抱いた保護者(温度測定装置のユーザー)MAの左手首に装着されている。ここでは、第2ユニット200は、表示部としても機能するものとする。
図13(B)に示されるように、第1ユニット100は、第1温度センサー50aと、第2温度センサー52aと、第3温度センサー50bと、第4温度センサー52bと、環境温度取得部53としての第5温度センサー(環境温度センサー)54と、A/D変換部56と、無線通信部CAと、アンテナAN1とを有している。また、第2ユニット200は、無線通信部CBと、制御部73と、演算部74と、表示部77と、操作部79と、記憶部81とを有している。演算部74は、制御部73に含まれている。操作部79は、図7(A)に示されるタイミング制御情報入力部83を兼ねることができる。
演算部74には、上述した複数の定数a,c,dを算出するための算出式や、深部体温Tcを算出するための算出式が記憶されている。また、記憶部81には、受信された第1温度Tb、第2温度Tp、環境温度Toutが記憶され、また、算出された複数の定数a,c,dの値も記憶され、また、求められた深部体温Tcも記憶される。
また、記憶部81は、複数の被測定体(ここでは被検者)に関する温度情報を記憶可能に構成されている。したがって、深部体温Tc等のデータを、被検体である幼児毎に記憶することができる。なお、記憶部81には、温度情報以外にも、例えば、被測定体6(ここでは被検者である幼児)の氏名、年齢、測定日時などの測定情報を記憶させてもよい。この場合、これらの測定情報は、保護者(温度測定装置のユーザー)MAが、操作部79を操作して入力することができる。
温度測定装置は、例えば、以下のように動作する。保護者MAが、第2ユニット200の操作部79を操作することによって、第2ユニット200の電源がオンされる。すると、無線通信部CBから電波を送信する。この電波による電磁誘導によって、アンテナAN1に起電力を発生させ、この起電力によって、第1ユニット100内の電源(電池)をチャージする。すると、第1ユニット100が起動し、第1温度センサー50aと、第2温度センサー52aと、第3温度センサー50bと、第4温度センサー52bと、環境温度取得部53としての第5温度センサー(環境温度センサー)54が起動する。そして、第1ユニット100は、第2ユニット200に向けて、スタンバイ信号を送信する。
次に、第1ユニット100内の制御部73は、スタンバイ信号を受信すると、温度測定開始信号の送信を無線通信部CBに指示する。第1ユニット100は、温度測定開始信号を受信すると、第1温度センサー50aと、第2温度センサー52aと、第3温度センサー50bと、第4温度センサー52bと、環境温度取得部53としての第5温度センサー(環境温度センサー)54は、温度測定を開始する。なお、第1温度Tbと、第2温度Tpの測定は、被検者6の深部から体表面6Aまでの伝熱が定常状態(平衡状態)となっている状態で行うのが好ましい。よって、温度測定開始信号の受信タイミングから、平衡状態が実現されるのに必要な時間が経過したタイミングで、温度測定を開始するのが好ましい。
測定された温度情報(第1温度Tba、第2温度Tpa、第3温度Tbb、第4温度Tpb、第5温度Tout)は、A/D変換部56でアナログ信号からデジタル信号に変換され、無線通信部CAによって、第2ユニット200に送信される。温度測定は、複数回実行され、例えば、測定毎に、測定データが送信される。各測定の実行間隔は、環境(大気等)の状況や傾向等を考慮して、適宜、調整することができる。
第2ユニット200内の演算部74は、所定間隔で送られてくる、一組の温度データを記憶部81に一旦、格納する。そして、必要な温度データがすべて得られると、上述した手順で、所定の演算を実行して、被検者(幼児)6の深部温度Tcを測定する。測定された深部温度Tcは、例えば、表示部77に表示される。
図14は、第1実施形態における、深部温度の測定手順を示す図である。まず、温度データが取得される(ステップS100)。温度データには、(Tb1,Tp1,Tout1)、(Tb2,Tp2,Tout1)、(Tb3,Tp3,Tout2)、(Tb4,Tp4,Tout2)の4組みの温度データが含まれる。
次に、行列式10a〜10dのいずれか一つを用いて、複数の定数a,c,dが、算出される(ステップS200)。次に、先に説明した第1算出式(式(1))を用いて、深部温度Tcを演算する(ステップS300)。
(深部温度の測定結果の例)
次に、一例として、深部温度Tcの算出例について、図15〜図20を参照して説明する。以下に示す算出例は、図3に示した、1個の基材を用いる例(基本構成を採用した例)に基づいて得られたものである。つまり、1個の基材40に、第1温度センサー50と第2温度センサー52を設け、環境温度Toutを3回、変化させて(Tout1,Tout2,Tout3)、温度測定を実行し、上述の式(1)によって深部温度Tcを求めている。
なお、基材を2個、使用する例(図4)は、同一構成の2個の基材を並列に配置して、1回の測定で得られる温度データの数を増やしているだけであり、測定原理自体は、基材を1個しか使用しない例(図3の例)とまったく同じである。したがって、図3の例において得られる効果が、図4の本実施形態の例においても、同様に得られることは明らかである。
(図15の例)
図15は、深部温度の算出結果の一例を示す図である。図15では、被測定体6として人体を想定しており、深部4の温度Tcを37℃に設定している。この実験では、表層部5に相当する構造体の材料として、ポリ塩化ビニール(PVC)を使用している。ポリ塩化ビニールの熱伝導率は、0.144283である。
この表層部5に相当するPVC構造体(直方体)の厚みは20mmに設定している。また、このPVC構造体の上面の中央に、シリコンゴムで構成され、かつ、円柱形状を有する基材40を設けている。シリコンゴムの熱伝導率は、0.05である。
また、基材40の断面は円形状であり、その円の直径は20mmである。また、基材40の高さは2mmである。第1温度センサー50と第2温度センサー52は、基材40の底面(つまり接触面)SR1に垂直な垂線L1上にある2点(第1測定点と第2測定点)の位置に設けられている。第1温度センサー50と第2温度センサー52との距離は2mmである。つまり、第1測定点は、基材40の底面(接触面)SR1上に設定されており、第2測定点は、基材40の上面SR2上に設定されている。
また、図15の例において、環境(大気)7における熱伝達係数(大気の熱の移動度に比例する定数)は、0.01W/m2・Kに設定されている。環境温度(第5温度)Tout、第1温度Tbならびに第2温度Tpは、n回測定される。本例では、3回の温度測定を実行する。よって、nは、1,2,3のいずれかである。
Tout1は、23℃であり、Tout2は30℃であり、Tout3は35℃である。Tb1は、29.2884℃であり、Tb2は、33.1442℃であり、Tb3は、35.8983℃である。Tp1は、27.4605℃であり、Tp2は、32.2303℃であり、Tb3は、35.6327℃である。
測定(算出)された深部温度は、36.99986℃であり、実際の深部温度Tc(=37℃)と比較して、わずかの誤差しか含まない。つまり、小型化された基材40を用いて、極めて高精度に深部温度を測定できることがわかった。
(図16の例)
図16は、深部温度の算出結果の他の例を示す図である。図16の例における測定環境や測定条件は、基本的には、図15の例と同じである。但し、図16の例では、第1温度センサー50および第2温度センサー52が、基材40の側面上、かつ、垂線L2上に設けられている。第1温度センサー50および第2温度センサー52との距離は、2mmである。
Tout1は、23℃であり、Tout2は30℃であり、Tout3は35℃である。Tb1は、28.7516℃であり、Tb2は、32.8758℃であり、Tb3は、35.8217℃である。Tp1は、26.2482℃であり、Tp2は、31.6241℃であり、Tb3は、35.464℃である。
測定(算出)された深部温度は、37.00000℃であり、実際の深部温度Tc(=37℃)と比較して、誤差は認められなかった。つまり、小型化された基材40を用いて、極めて高精度に深部温度を測定できることがわかった。
(図17の例)
図17は、深部温度の算出結果の他の例を示す図である。図17の例における測定環境や測定条件は、基本的には、前掲の例と同じである。但し、図17の例では、第1温度センサー50は、基材40の接触面SR1の中心付近に設けられ、また、第2温度センサー52は、基材40の側面上に設けられている。
Tout1は、23℃であり、Tout2は30℃であり、Tout3は35℃である。Tb1は、29.2884℃であり、Tb2は、33.1442℃であり、Tb3は、35.8983℃である。Tp1は、26.2482℃であり、Tp2は、31.6241℃であり、Tb3は、35.464℃である。
測定(算出)された深部温度は、37.00000℃であり、実際の深部温度Tc(=37℃)と比較して、誤差は認められなかった。つまり、小型化された基材40を用いて、極めて高精度に深部温度を測定できることがわかった。
(図18の例)
図18は、深部温度の算出結果の他の例を示す図である。図18の例における測定環境や測定条件は、基本的には、前掲の例と同じである。但し、図18の例では、第1温度センサー50は、基材40の上面SR2上に設けられている。第2温度センサー52は、基材40の側面上に設けられている。第2温度センサー52は、第1温度センサー50を通り、かつ、接触面SR2に平行な直線L3上に設けられている。つまり、第1温度センサー50と第2温度センサー52は、横一線の位置にある。
Tout1は、23℃であり、Tout2は30℃であり、Tout3は35℃である。Tb1は、28.7516℃であり、Tb2は、32.8758℃であり、Tb3は、35.8217℃である。Tp1は、26.2482℃であり、Tp2は、31.6241℃であり、Tb3は、35.464℃である。
測定(算出)された深部温度は、37.00000℃であり、実際の深部温度Tc(=37℃)と比較して、誤差は認められなかった。つまり、小型化された基材40を用いて、極めて高精度に深部温度を測定できることがわかった。
以上の実験結果から、第1温度センサー50および第2温度センサー52の相対位置関係は、特に問題とならないことがわかる。つまり、第1温度センサー50および第2温度センサー52が、熱源(被測定体の深部)を通る鉛直線上にあってもよく、また、第1温度センサー50および第2温度センサー52が、横一線の位置にあってもよい。
すなわち、第1温度センサー50が設けられる第1測定点および第2温度センサー52が設けられる第2測定点は、基材40の外表面(上記の例でいえば、底面である瀬接触面SR1、上面SR2ならびに側面のいずれか)上、または、基材40の内部に位置する2点であればよい。但し、行列式を使用した深部温度の算出を行うためには、少なくとも、環境温度(第5温度)Tout1,Tout2,Tout3のいずれかに対応する一組のTbとTpが同じ値ではない(Tb≠Tp)という条件を満足する必要がある。すなわち、3組の第1温度Tbと第2温度Tpのうち、少なくとも1組のTbとTpに温度差が生じていることが必要である。よって、この条件を満足するように、第1ユニット100を設計する。
次に、基材40の内部における温度分布と測定結果との関係について考察する。図19(A)および図19(B)は、基材の内部における温度分布と測定結果との関係の一例を示す図である。図19(A)に示されるデータ例は、図15に示したデータ例と同じである。図19(B)は、Tout1(=23℃)における、基材40の垂線方向の温度分布を示す図である。図19(B)では、横軸が、接触面SR1を基準とした、垂線L1方向の距離であり、縦軸が、基材40の温度である。図19(B)に示されるように、基材40の温度は、熱源(被測定体6の深部4)から離れるにつれて、直線状に低下する。
図19(A)のデータ例は、図19(B)に示すような、基材40の熱分布の下で深部温度を算出した結果であり、先に説明したように、極めて高精度な測定結果が得られている。
図20(A)および図20(B)は、基材の内部における温度分布と測定結果との関係の他の例を示す図である。図20(A)の例における測定環境や測定条件は、基本的には、図19(A)の例と同じである。但し、図20(A)の例では、基材40の高さを20mmとし、図19(A)の例における基材40の高さ(2mm)の10倍としている。このように、基材40の高さを高くすると、円柱の側面の面積が増加することから、円柱状の基材40の側面からの放熱が増加する。そして、その側面からの放熱の量は、熱源(被測定体6の深部4)からの距離に対応して変化する。
図20(B)は、Tout1(=23℃)における、基材40の垂線方向の温度分布を示す図である。図20(B)では、横軸が、接触面SR1を基準とした、垂線L1方向の距離であり、縦軸が、基材40の温度である。図20(B)に示されるように、基材40の温度は、熱源(被測定体6の深部4)から離れるにつれて低下するが、温度分布を示す特性線は直線とはならず、曲線となる。先に説明したように、基材40の高さを高くすると、円柱の側面の面積が増加し、円柱状の基材40の側面からの放熱が増加し、そして、その側面からの放熱の量は、熱源(被測定体6の深部4)からの距離に対応して変化するからである。
図20(A)のデータ例は、図20(B)に示すような、基材40の熱分布の下で深部温度を算出した結果である。Tout1は、23℃であり、Tout2は30℃であり、Tout3は35℃である。Tb1は、29.62274℃であり、Tb2は、33.31137℃であり、Tb3は、35.94611℃である。Tp1は、23.29526℃であり、Tp2は、30.14763℃であり、Tb3は、35.04218℃である。測定(算出)された深部温度は、37.00000℃であり、実際の深部温度Tc(=37℃)と比較して、誤差は認められなかった。つまり、基材40の内部の温度分布が、曲線で表される場合であっても、本実施形態の温度測定方法を使用すれば、極めて高精度に深部温度を測定できることがわかった。したがって、基材40の高さに制約はなく、また、接触面の面積と基材40の高さの比に関する制限もない。よって、かなり自由に、第1ユニット100を構成することができる。
(第2の実施形態)本実施形態においても、深部温度Tcを、Tc=d/(1―a−c)という第1算出式(式(1))に基づいて求める。この点は、第1実施形態と同じである。但し、第1実施形態では、得られた4つの連立方程式のうちの3つを使用しているのに対して、本実施形態では、4つの連立方程式の全部を利用する。本実施形態の方が、利用する温度データの数が多い。よって、例えば、2つの値の平均ととる、といった演算を適宜、実施することによって、深部温度の算出の精度を高めることができる。定数a,c,dは、例えば、以下の方法によって求めることができる。
(第1の1次関数)
第1温度は、第2温度を変数とし、第1の傾きと、第1の切片を有する第1の1次関数によって表すことができる。すなわち、第1温度={(第1の傾き)・(第2温度)+第1の切片)}が成立する。
(第2の1次関数)
第1の切片は、第5温度を変数とし、第2の傾きと、第2の切片とを有する第2の1次関数によって表すことができる。すなわち、第1の切片={(第2の傾き)・(第5温度)+第2の切片)}が成立する。
(第3の1次関数)
第3温度は、第4温度を変数とし、第3の傾きと、第3の切片を有する第3の1次関数によって表すことができる。すなわち、第3温度={(第3の傾き)・(第4温度)+第3の切片)}が成立する。
(第4の1次関数)
第3の切片は、第5温度を変数とし、第4の傾きと、第4の切片とを有する第4の1次関数によって表すことができる。すなわち、第4の切片={(第4の傾き)・(第5温度)+第4の切片)}が成立する。
本実施形態では、第1測定と第2測定を実行する。第1測定では、環境温度Tout1の下で、第1温度Tb1,第2温度Tp1,第3温度Tb2,第4温度Tp2を測定する。ここで、第5温度がTout1のときの(すなわち、第1測定時の)、第1の傾きおよび第3の傾きを定数a1とし、第1の切片および第3の切片を定数b1とすると、下記の式(10a)が得られる。
第2測定では、環境温度Tout2の下で、第1温度Tb3,第2温度Tp3,第3温度Tb4,第4温度Tp4を測定する。ここで、第5温度がTout2のときの(すなわち、第2測定時の)、第1の傾きおよび第3の傾きを定数a2とし、第1の切片および第3の切片を定数b2とすると、下記の式(10b)が得られる。
また、上述の第2の1次関数ならびに第4の1次関数に示すように、定数b1および定数b2は共に、定数c,定数dならびに、測定時の第5温度(Tout1またはTout2)を用いて表すことができる。よって、下記の式(10c)が成立する。
式(10a)と式(10b)は、異なる環境温度(Tout1,Tout2)の下で得られる1次関数であることから、本実施形態では、1次関数に含まれる定数(傾きaと切片b)は、区別して表現している。つまり、式(10a)に含まれる定数は、a1とb1である。式(10b)に含まれる定数は、a2とb2である。
式(10a)から、定数a1と定数b1を求めることができ、また、式(10b)から、定数a2と定数b2を求めることができる。ここで、定数a1と定数a2は、理想的には一致することから、定数a1または定数a2のいずれかを、定数aと定めることができ、また、定数a1と定数a2とを平均して得られる定数a3を、定数aとすることができる。但し、平均をとることによって、定数aの精度が向上するため、平均演算によって得られた定数a3を定数aとするのが好ましい。
また、式(10c)から、定数cと定数dを求めることができる。求められたa,c,dの値を、深部温度の算出式に代入することによって、深部温度Tcを求めることができる。定数a,c,dの算出手順をまとめると、図21(A)〜図21(C)のようになる。
図21(A)〜図21(C)は、第2の実施形態における、定数a,c,dの算出の手順を示す図である。図21(A)に示すように、第5温度(環境温度Tout)がTout1のときの、第1温度Tb1、第2温度Tp1、第3温度Tb2、前記第4温度Tp2を測定する(第1測定)。
また、図21(B)に示すように、第5温度(環境温度Tout)がTout2のときの、第1温度Tb3、第2温度Tp3、第3温度Tb4、第4温度Tp4を測定する(第2測定)。
図21(C)の左上に示すように、第5温度がTout1のときの、第1温度Tb1と、第2温度Tp1とを関連付ける1次関数に含まれる定数をa1,b1とし、また、第5温度がTout1のときの、第3温度Tb2と、第4温度Tp2とを関連付ける1次関数に含まれる定数をa1,b1とする。
また、第5温度がTout2のときの、第1温度Tb3と、第2温度Tp3とを関連付ける1次関数に含まれる定数、ならびに、第5温度がTout2のときの、第3温度Tb3と、第4温度Tp4とを関連付ける1次関数に含まれる定数をa2,b2とする。
また、図21(C)の右側に示すように、定数b1と、第5温度Tout1とを関係付ける1次関数に含まれる定数、ならびに、定数b2と、第5温度Tout2とを関係付ける1次関数に含まれる定数を、c,dとする。
演算部74(図12参照)は、定数a1,b1を、以下の式(10a)に基づいて算出し、前記定数a2,b2を、以下の式(10b)に基づいて算出し、前記定数c,dを、以下の式(10c)に基づいて算出する。
また、定数a1、定数a2、あるいは定数a1と定数a2とを平均して得られる定数a3(単純平均でもよく、重み付け平均でもよい)のいずれか1つを定数aとする。上述のとおり、平均をとることによって、定数aの精度が向上するため、平均演算によって得られた定数a3を定数aとするのが好ましい。これで、定数a,c,dが得られたことになる。深部温度Tcは、Tc=d/(1−a―c)によって求めることができる。
図22は、第2の実施形態における、深部温度の算出の手順を示す図である。温度測定ステップS401とS402は、並列的に実行される。定数演算ステップS402とS403も、並列的に実行される。ステップ404では、定数a,c,dが算出される。ステップS405では、深部温度Tcが算出される。
以上説明したように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、より高精度な深部温度の測定が可能となる。また、温度測定部の小型化と、高精度な測定とを両立することができる。
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。