JP2014128210A - 人工多能性幹細胞から分化した肝細胞を含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を得る方法 - Google Patents

人工多能性幹細胞から分化した肝細胞を含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を得る方法 Download PDF

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Abstract

【課題】人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:以下、iPS細胞と略称する)から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を得る方法を提供する。
【解決手段】iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群を、血清または血清代替物質を含む組成の培地で培養する工程を含む、該細胞群から実質的に肝肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る。
【選択図】なし

Description

本発明は、人工多能性幹細胞から分化誘導した肝細胞を含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を得る方法、並びに該方法により得られた実質的に肝細胞からなる細胞培養物に関する。より詳しくは本発明は、人工多能性幹細胞から分化誘導した肝細胞と未分化の人工多能性幹細胞とを含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法、並びに該方法により得られた実質的に肝細胞からなる細胞培養物に関する。
近年、機能不全や機能障害を起こした細胞、組織、器官の再生や機能の回復を目的とした再生医療において、多能性幹細胞から分化させた細胞を使用する移植療法が注目されている。多能性幹細胞は、自分自身を複製する自己複製能と多分化能を共に有する細胞であり、多能性幹細胞から目的とする細胞を分化誘導し、増幅することは、再生医療において大きな課題である。
多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:以下、iPS細胞と略称することがある)および胚性幹細胞(embryonic stem cells:以下、ES細胞と略称することがある)が知られている。これら細胞は、目的の細胞を分化誘導させて使用する移植療法などにより再生医学への応用が期待されている。
例えば、ヒトiPS細胞やヒトES細胞から肝細胞を分化誘導することができれば肝不全症例に対する移植療法への発展が期待される。肝臓は、主に肝実質細胞である肝細胞と、胆管上皮細胞などの肝非実質細胞などにより構成される。肝臓は、胆汁の分泌、吸収栄養分の濾過と解毒、薬物代謝、糖分の貯蔵と血糖の調節を行う他に、フィブリノーゲン、ヘパリンおよび貧血阻止物質などの生成器官であり生命必須のものである。そのため、機能する肝細胞が極度に減少する肝不全は致命的な病態であり、肝不全の症例では極度の凝固因子の不足による出血傾向、肝性昏睡などの大変重篤な状態となる。肝細胞の移植はこのような病態の根本的な治療法になり得る。
本発明者は、ES細胞から肝細胞を分化誘導し、かつ分化した肝細胞を含む細胞群から実質的に肝細胞からなる細胞培養物を得る方法を提供している(特許文献1および2)。具体的には、肝細胞は解糖系、尿素サイクルなどの一連の酵素群を有するため、それぞれの産物のブドウ糖およびアルギニンを除き、基質のガラクトースおよびオルニチンを添加した培地で生存することに着目し、かかる培地で培養することにより、胚性幹細胞から分化した細胞のうち、肝細胞以外の別の細胞へ分化した細胞を死滅させて、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を得る方法を提供している。
しかし、ヒトES細胞のヒトへの適用に関しては、当該ES細胞が他人由来の胚性幹細胞であることに由来する免疫拒絶や倫理的な問題が存在する。
一方、iPS細胞は、ヒト線維芽細胞などの体細胞から遺伝子組換え技術により誘導される多能性幹細胞であり、自己の細胞から作製可能であるため、免疫拒絶などの問題が少なく、再生医学への応用が期待されている(非特許文献1)。
ヒトiPS細胞から肝細胞を分化誘導する技術は、肝細胞への分化を促進する増殖因子および/または転写因子をそれぞれヒトiPS細胞の培養に添加し、導入する方法などが報告されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
しかしながら、iPS細胞にも、移植すると癌化する虞れがあるという問題がある(非特許文献5)。iPS細胞から分化した肝細胞を含む細胞群には未分化のiPS細胞が混在するため、分化した肝細胞を臨床応用するためには、分化した肝細胞を該細胞群から分別して取得する必要がある。
特許第4759723号公報 特開2005-253374号公報 特開2012-143229号公報
タカハシ(Takahashi K)ら、「Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors」、セル(Cell)、2007年、第131巻、第5号、p.861-872。 トミザワ(Tomizawa M)ら、「肝臓」、2011年、第52巻、(増刊2):A680。 イナムラ(Inamura)ら、「Efficient Generation of Hepatoblasts From Human ES Cells and iPS Cells by Transient Overexpression of Homeobox Gene HEX」、モレキュラー セラピー(Molecular Therapy)、2011年、第19巻、第2号、p.400-407。 トミザワ(Tomizawa M)ら、「Single-step protocol for the differentiation of human-induced pluripotent stem cells into hepatic progenitor-like cells」、バイオメディカル レポーツ(Biomedical Reports)、2013年、第1巻、p.18-22(Published online on Monday, August 13, 2012 as Doi: 10.3892/br.2012.2)。 カニンガム(Cunningham)ら、「Lessons from human teratomas to guide development of safe stem cell therapies」、ネイチャー バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)、2012年、第30巻、p.849-857。 トミザワ(Tomizawa M)ら、「Activin A is essential for feeder-free culture of human induced pluripotent stem cells」、ジャーナル オブ セルラー バイオケミストリー(印刷中)(Journal of Cellular Biochemistry(in press))、(Published online as DOI:10.1002/jcb.24395)。 カキヌマ(Kakinuma S)ら、「Analyses of cell surface molecules on hepatic stem/progenitor cells in mouse fetal liver」、ジャーナル オブ ヘパトロジー(Journal of Hepatology)、2009年、第51巻、第1号、p.127-138。 サンガン(Sangan C B)ら、「Hepatic progenitor cells」、セル アンド ティッシュー リサーチ(Cell and Tissue Research)、2010年、第342巻、第2号、p.131-137。 ヤマダ(Yamada T)ら、「In vitro differentiation of embryonic stem cells into hepatocyte-like cells identified by cellular uptake of indocyanine green」、ステム セルズ(Stem Cells)、2002年、第20巻、第2号、p.146-154。 トミザワ(Tomizawa M)ら、「Hepatocytes deficient in CCAAT/enhancer binding protein alpha (C/EBP alpha) exhibit both hepatocyte and biliary epithelial cell character」、バイオケミカル アンド、バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)、1998年、第249巻、第1号、p.1-5。
本発明の課題は、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を得る方法を提供することにある。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、iPS細胞を死滅させる作用を有するが、肝細胞を維持および増殖することのできる培地を見出した。そして、かかる培地を使用し、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群を該培地で培養することにより、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を分別して得ることができることを見出した。本発明はこの知見を基に完成されたものである。
すなわち、本発明は、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法であって、該細胞群を、血清または血清代替物質を含む、下記表1または表2の組成の培地で培養する工程を含む方法に関する。
本発明はまた、血清または血清代替物質がノックアウト商標 セラム リプレースメント(knockoutTM serum replacement、Invitrogen社製;以下、KSRと略称する)である上記方法に関する。
本発明はさらに、KSRが、最終濃度10%(V/V)となるように添加されたものである上記方法に関する。
本発明はさらにまた、培養する工程が、少なくとも3日間培養する工程である上記方法に関する。
本発明はまた、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群が、iPS細胞から分化誘導した肝前駆細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群である上記方法に関する。
本発明はさらに、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群が、ヒトiPS細胞に転写因子FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαの各遺伝子を3日毎にトランスフェクションし、増殖促進剤の組合せとしてオンコスタチンM、上皮成長因子、レチノイン酸、デキサメタゾン、インシュリンおよびトランスフェリンを含む培地中で分化誘導を行うことにより得られたヒト肝前駆細胞とヒトiPS細胞とを含む細胞群である上記方法に関する。
本発明はさらにまた、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法であって、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群が、ヒトiPS細胞に転写因子FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαの各遺伝子を3日毎にトランスフェクションし、増殖促進剤の組合せとしてオンコスタチンM、上皮成長因子、レチノイン酸、デキサメタゾン、インシュリンおよびトランスフェリンを含む培地中で分化誘導を行い、トランスフェクション後8日目に得られたヒト肝前駆細胞と、ヒトiPS細胞とを含む細胞群を、最終濃度10%(V/V)となるように添加されたKSRを含む上記表1または表2の組成の培地で少なくとも3日間培養する工程を含む方法に関する。
本発明は、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法を提供するものである。
本発明に係る方法で使用する培養培地は、移植すると発癌する可能性のあるヒトiPS細胞を死滅させることができるが、一方、肝細胞はその培養に最適の培地と同等の生存性を示す。そのため、本発明によれば、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群において、iPS細胞を死滅させることができ、それにより実質的に肝細胞からなる細胞培養物を分別して得ることができる。このように、本発明により、iPS細胞から分化した目的の細胞の移植において、移植後に発癌する可能性のあるヒトiPS細胞を排除することができるため、iPS細胞から分化した細胞の再生医療への臨床応用が可能になる。
ヒトiPS細胞(201B7、理研細胞バンク)は、培地を肝細胞選択培地(hepatocyte selection media、以下HSMと略称する)に交換して培養すると、培地を変更1日後(Day1)に細胞数が減少し始め、3日後(Day3)には全て消失したことを示す図である。HSMは、上記表1または表2に示す組成の培地であって、KSRを含む培地を使用した。図中、Dialysis (+)および(-)はそれぞれ、KSRの透析の有無を示す。また、Ins, Dex, Apr (+)および(-)はそれぞれ、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含む培地およびこれらを含まない培地を示す。倍率:40倍、スケールバー:25μm。(実施例1) ヒトiPS細胞は、培地をHSMに交換して培養すると、培地を変更1日後に細胞数が減少し始め、3日後には全て消失したことを示す図である。○実線は、透析しないKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(-)I(+))、×実線は透析しないKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(-)I(-))、○点線は透析したKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含む培地での培養(D(+)I(+))、×点線は透析したKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(+)I(-))の結果を示す。図中、横軸は培地をHSMに変更後の日数(Days after medium change)を示し、縦軸はプレートの孔毎の細胞数(Cell number/well)を示す。(実施例1) ヒトiPS細胞を、培地をHSMに交換して培養すると、形成されるコロニーの縮小が観察されたことを示す図である。パネルA、B、C、およびDはそれぞれ、透析しないKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(-)I(+))、透析しないKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(-)I(-))、透析したKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(+)I(+))、並びに透析したKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(+)I(-))の結果を示す。パネルEは、培地をHSMに変更せずにReproFFで培養した結果を示し、かかる培養ではコロニーの縮小がみられなかった。パネルFは、パネルDの一部を拡大したものであり、矢印および矢頭はそれぞれ、核の凝縮および断片化を示す。倍率:400倍、スケールバー:25μm(A, B, C, D, E)および2.5μm(F)。(実施例1) ヒトiPS細胞は、培地をHSMに交換して培養すると、アポトーシス(apoptosis)を起こしたことを示す図である。パネルA、B、C、およびDはそれぞれ、透析しないKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(-)I(+))、透析しないKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(-)I(-))、透析したKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(+)I(+))、並びに透析したKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(+)I(-))の結果を示す。パネルEは、培地をHSMに変更せずにReproFFで培養した結果を示し、かかる培養ではアポトーシスがみられなかった。パネルFは、パネルDの一部を拡大したものであり、矢頭は核の凝縮を示す。倍率:400倍、スケールバー:25μm(A, B, C, D, E)および2.5μm(F)。(実施例1) ヒトiPS細胞は、維持培地ReproFFでの培養でも、培地をHSMに交換して培養後も、白血球アルカリホスファターゼ陽性であったことを示す図である。パネルA、B、C、およびDはそれぞれ、透析しないKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(-)I(+))、透析しないKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(-)I(-))、透析したKSRとインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンとを含む培地での培養(D(+)I(+))、並びに透析したKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない培地での培養(D(+)I(-))の結果を示す。パネルEは、培地をHSMに変更せずにReproFFで培養した結果を示す。倍率:400倍、スケールバー:25μm。(実施例1) ヒトiPS細胞は、培地をHSMに交換して培養すると、培地を変更1日後(Day1)には細胞が減少し、3日後(Day3)には消滅したことを示す図である。一方、ヒト初代培養肝細胞は、HSMでの培養と専用の肝細胞培養培地(hepatocyte culture medium、以下HCMと略称する)での培養とで差異がみられなかった。HSMは、透析したKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まないHSM(D(+)I(-))を用いた。図中、ヒトiPS細胞は201B7と表示し、ヒト初代培養肝細胞はhepatocytesと表示する。倍率:400倍、スケールバー:25μm。(実施例1) ヒトiPS細胞は、培地をHSMに交換して培養すると、培地を変更1日後(Day1)には細胞が減少し、3日後(Day3)には消滅したことを示す図である。一方、ヒト初代培養肝細胞は、HSMでの培養とHCMでの培養とで差異がみられなかった。HSMは、透析したKSRを含み、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まないHSM(D(+)I(-))を用いた。図中、○は、HSMで培養したヒトiPS細胞、並びに×および□はそれぞれHCMおよびHSMで培養したヒト初代培養肝細胞を示す。横軸は培地をHSMに変更後の日数(Days after medium change)を示し、縦軸はプレートの孔毎の細胞数(Cell number/well)を示す。(実施例1) ヒトiPS細胞はヒト胎児肝およびヒト成人肝に比べて、ガラクトキナーゼ1(galaktokinase 1、 GALK1)、ガラクトキナーゼ2(GALK2)、およびオルニチン トランスカルバミラーゼ(ornithine transcarbamylase、OTC)の発現が著明に低かったこと(n=3)を示す図である。図中、FFは ReproFFで培養したヒトiPS細胞、fetalはヒト胎児肝、およびadultはヒト成人肝を示す。縦軸は内部標準であるリボソームタンパク質L19(RPL19)の発現量に対する各酵素の発現量の比を示す。(実施例2)
本発明は、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法に関する。
本発明に係る方法は、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群を、L-アルギニン、L-チロシン、L-シスチン、およびD-グルコース、並びにピルビン酸を実質的に含まない組成の培地で培養することを特徴とする。L-アルギニンおよびL-チロシンは必須アミノ酸であり、それぞれ肝臓においてL-オルニチンより尿素サイルクル、L-フェニルアラニンよりフェニルアラニンヒドロキシラーゼ複合体によって合成される。また、L-シスチンは、肝臓で特異的にL-システインのスルフヒドリル基が酸化されてジスルフィド結合が形成されて、合成される。エネルギー代謝の過程において、D-グルコースはピルビン酸に分解されるが、肝臓では、D-グルコースだけではなく、D-ガラクトースおよびグリセロールが、肝臓に特異的な代謝酵素によりピルビン酸に分解される。そのため、尿素サイクルや解糖系に関連する酵素を発現していない細胞は、かかる組成の培地で培養すると生存が困難である。
後述する実施例に示すように、iPS細胞は、尿素サイクルに関連する酵素であるオルニチン トランスカルバミラーゼ(ornithine transcarbamylase、OTC)、並びに解糖系に関連するガラクトキナーゼ1(galaktokinase 1、 GALK1)およびガラクトキナーゼ2(GALK2)の発現量が低く、グルコースおよびアルギニンを含まない培地で培養することによりアポトーシスをおこして死滅した。一方、胎児肝および成人肝はいずれもOTC、GALK1、およびGALK2を発現しているので、かかる培地による培養でも生存が確認された。
本明細書において、「物質などを実質的に含まない」とは、物質などが、培地中に全く含まれていないか、または目的の細胞に特異的な代謝酵素の作用の誘導を阻害しない濃度以下で含まれていることを意味する。例えば、通常の分析方法で検出できる濃度以下であるとき、すなわちアミノ酸は1ng/l以下、D-グルコースは10ng/l以下、およびピルビン酸は10ng/l以下であるときは、この意味に含まれる。
さらに上記培地は、好ましくは、血清、血清代替物質、増殖因子、プロテアーゼ阻害剤、および/または還元剤を含んでもよい。増殖因子としては、インスリンやデキサメタゾンのような副腎皮質ホルモン剤などを例示できる。プロテアーゼ阻害剤としてはアプロチニンを例示できる。還元剤としては、メルカプトエタノールを例示できる。
血清は、ウシやブタなどの血清を例示でき、好ましくはウシ胎仔血清(FCS)を例示できる。血清は、培地から除く必要のある上記成分を含有する可能性が高いので、透析を行って低分子物質を除去したものを用いることが好ましい。血清の添加量は5〜20容量/容量(V/V)%、好ましくは5%〜10%(V/V)、より好ましくは5%(V/V)である。
血清代替物質とは、血清の代わりに使用でき、細胞の維持や増殖に血清と同様の効果を奏し得る成分を意味する。本発明に係る方法により得られた細胞培養物の臨床応用を視野に入れると、該細胞培養物の異種タンパク質への曝露がないことが望ましい。そのため、本発明に係る方法では、血清の代わりに、異種タンパク質を含まない血清代替物質を使用することがより好ましい。血清代替物質として、ノックアウト商標 セラム リプレースメント(knockoutTM serum replacement、Invitrogen社製;KSR)を好ましく例示できる。KSRは、多能性幹細胞の維持に血清と同様の効果を奏し得ることが知られており、その成分中には異種タンパク質が含まれていない。その他、血清代替物質として、BD Nu-SerumTM replacement(ベクトンディッキンソン社製)、XerumFreeTM FBS replacement(TNC BIO BV社製, Eindhoven, The Netherlands)、CDM-HD Serum replacement(FiberCell Systmems Inc.製, Frederick, MD)などを例示できる。血清代替物質の添加量は、使用する血清代替物質により異なるが、適宜簡単な繰り返し実験を行うことにより決定できる。KSRを例にとると、その添加量は5%〜20%(V/V)、好ましくは10%〜20%(V/V)、より好ましくは10%(V/V)である。
培地として、具体的には、血清または血清代替物質を含む、下記表1または表2に示す組成で示される培地を例示できる。表1に示す組成と表2に示す組成の違いは、前者組成がインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含むのに対し、後者組成がこれら物質を含まないことである。培地へのインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンの添加の有無は、当該培地のiPS細胞を死滅させる効果、および肝細胞の維持増殖効果にはほとんど影響しない。
本発明に係る方法において、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群を血清または血清代替物質を含む上記表1または表2の組成の培地で培養する期間は、少なくとも3日以上であることが好ましい。かかる培地で3日以上培養することにより、当該細胞群に含まれる未分化のiPS細胞は死滅する。一方、14日以上培養すると肝細胞の形態が変化する。培養期間は、3日〜14日であることがより好ましく、3日〜7日程度であることがさらに好ましく、3日程度であることがさらにより好ましい。培養は、通常の培養条件、例えば95% 空気、5% CO2の雰囲気下にて、35〜40℃、好ましくは37℃で行うことができる。培地交換を、好ましくは1〜2日、より好ましくは2日に一度行うことが適当である。
iPS細胞は、ヒト線維芽細胞などの体細胞から遺伝子組換え技術により誘導される多能性幹細胞である。多能性幹細胞とは、所定の培養条件下において長期に自己複製能を有し、所定の分化誘導条件下において多種の細胞への多分化能を有する幹細胞をいう。
iPS細胞は、哺乳動物、例えばヒトやマウスの体細胞から製造されたものであれば、いずれの種に由来するものであってもよいが、移植などの再生医療に使用する場合は、再生医療の対象となる種由来の体細胞から製造されたものが好ましく、該対象自体から採取された体細胞から製造されたものがより好ましい。
iPS細胞は通常用いられる方法のいずれの方法で調製してもよい(非特許文献1など)。また、iPS細胞は、未分化の状態のまま維持培養する公知の方法を用いて継代培養することができる(特許文献3、非特許文献6)。
肝細胞は、本明細書において、肝前駆細胞(hepatic progenitor cell)や成熟肝細胞など、肝細胞への分化が決定された全ての分化段階の細胞を含む意味として使用される。成熟肝細胞は、成熟肝実質細胞ともいい、多種多様な肝特異的機能、例えばコレステロール合成能、アミノ酸輸送活性、G-6-P脱水素酵素活性などの機能を発現する最終分化細胞であるが、一方、肝再生現象でよく知られるように活発な増殖能力を有する。肝前駆細胞は、胎生期にみられる活発に増殖し、肝細胞と胆管上皮に分化する能力を有する細胞とする報告(非特許文献7)と、肝臓が再生する過程で生じる小型で円形の細胞(oval cell)(非特許文献8)があり、増殖能、肝細胞と胆管上皮細胞に分化する能力を有する。肝前駆細胞は成熟した肝細胞よりも増殖能が高く、胆管上皮も形成するので肝臓に移植した場合、速やかに既存の肝構築を形成し、肝細胞のみを移植するよりも効果的に失われた肝臓を再現することが期待できる(非特許文献8)。かかる理由により、iPS細胞から分化誘導した肝細胞は、iPS細胞から分化誘導した肝前駆細胞であることが好ましい。
iPS細胞から肝細胞を分化誘導する方法は、公知の方法をいずれも使用することができる。例えば、肝細胞への分化を促進する増殖因子および/または転写因子をそれぞれヒトiPS細胞の培養に添加し、導入する方法などが報告されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。このような既報に記載の方法を利用して、iPS細胞から肝細胞を分化誘導することができる。
例えば、ヒトiPS細胞に転写因子FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαの各遺伝子を3日毎にトランスフェクションし、増殖促進剤の組合せとしてオンコスタチンM、上皮成長因子、レチノイン酸、デキサメタゾン、インシュリンおよびトランスフェリンを含む培地中で分化誘導を行うことにより、トランスフェクション後8日目にヒト肝前駆細胞を得ることができる(非特許文献4)。FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαは、胎児肝または成人肝の細胞においては発現し、多能性幹細胞においては発現していない転写因子である。FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαは、それぞれヒトFORKHEADボックスA2遺伝子、ヒトGATA4結合タンパク質4遺伝子、HHEXすなわちヒト造血系で発現するホメオボックス(hematopoietically expressed homeobox)遺伝子、およびヒトCCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ遺伝子をいう。これら遺伝子の塩基配列および該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、本発明の属する技術分野においてよく知られている。トランスフェクションは、公知の遺伝子工学的手法を用いて実施できる。具体的なトランスフェクションの方法、使用する培地、および培養条件などは、既報(非特許文献4)の記載を参考にして決定できる。
iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群を、血清または血清代替物質を含む上記表1または表2の組成の培地で培養することにより、未分化のiPS細胞は死滅するが、肝細胞は肝細胞の培養に最適の培地での培養と同等の生存性を示す。そのため、iPS細胞から肝細胞を製造して移植する際に、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群をかかる培地で培養することにより、ヒトiPS細胞を死滅させて、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を得ることができる。
本明細書において「実質的に肝細胞からなる」とは、肝細胞と未分化のiPS細胞との比(肝細胞:未分化のiPS細胞)が100:1以下、好ましくは1,000:1以下、さらに好ましくは10,000:1以下であることをいう。
本発明に係る方法により実質的に肝細胞からなる細胞培養物が得られたことは、インドシアニングリーン(ICG)が肝細胞に特異的に取り込まれることを利用した方法(非特許文献9など)や、肝細胞に特異的な遺伝子の発現を検出する方法などにより確認することができる。例えば、iPS細胞から肝前駆細胞や肝細胞への分化誘導の確認は、分化誘導細胞での、未熟な肝細胞のマーカーであるαフェトプロテイン(AFP)の産生亢進、幹細胞や前駆細胞など未熟な細胞の増殖・分化を制御し肝細胞への分化を示唆するデルタ様1(Delta like-1;DLK-1)の発現亢進、および/または、胆管上皮のマーカーであるγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-glutamyl transpeptidase;γ-GTP)の発現の亢進、並びに、肝細胞としての薬物代謝の反映するICGの取り込みを指標として行うことができる(非特許文献3、非特許文献10)。しかし、これら方法に限定されず、公知の方法をいずれも使用できる。
本発明に係る方法により得られた細胞培養物にiPS細胞が含まれないことは、該細胞培養物中の細胞が、iPS細胞の指標を保持していないことを測定することにより確認することができる。iPS細胞の未分化能の最も正確な指標として、細胞の形態、アルカリホスファターゼ染色陽性、およびNANOGの発現保持が含まれる。すなわち、細胞培養物中の細胞のアルカリホスファターゼ染色が陰性である場合、および/または、NANOGの発現低下が検出された場合、該細胞培養物中にはiPS細胞が含まれていないと判定することができる。しかし、これら方法に限定されず、公知の方法をいずれも使用できる。
前記、分化誘導された肝細胞や未分化のiPS細胞のマーカーは、細胞内の対象タンパク質のmRNAを逆転写後、ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCT)またはリアルタイム−ポリメラーゼ連鎖反応などの公知の遺伝子工学的手法によって測定するか、さらに、被検タンパク質に対する抗体を用いる酵素免疫測定法(ELISA法)や免疫染色法によっても確認できるが、これら方法に限定されず、公知の方法をいずれも使用することができる。
本発明の方法により得られる細胞培養物には、肝細胞以外の細胞が実質的に含まれておらず、肝細胞を分離する工程を付加する必要がない。従って、本発明に係る方法で得られた実質的に肝細胞からなる細胞培養物はそのまま肝組織の再生に用いることが可能である。該細胞培養物を対象に投与することにより、該対象の肝組織が再生し、その結果肝組織の機能が再生される。従って、本発明に係る方法で得られた細胞培養物は、例えば、劇症肝炎、部分肝切除術後、または肝硬変の自然経過中に生じる肝不全などの肝疾患の移植治療を含む再生医療に用いることができる。本明細書において「投与する」という用語は、血中注射するなどの意味のほか、肝臓組織に細胞培養物を直接移植する細胞移植などの意味を含む。
本発明の方法により得られる実質的に肝細胞からなる細胞培養物は、劇症肝炎、部分肝切除術後、または肝硬変の自然経過中に生じる肝不全などの肝疾患の治療のための医薬として用いることができる。本発明の方法により得られる細胞培養物を有効成分として含有する医薬は、薬理学的に許容される生理食塩水、添加剤、または培地などを含んでもよいが、異種血清やウィルスなどの不純物の混入のないものが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
ヒトiPS細胞(201B7、理研細胞バンク)およびヒト初代培養肝細胞の培養を、各細胞の維持培地から肝細胞選択培地(以下HSMと略称する)に変更して行い、各細胞の変化を検討した。
本実施例では、HSMとして、上記表1または表2に示す組成の培地であり、且つノックアウト商標 セラム リプレースメント(以下、KSRと略称する;Life Technologies社製)を最終濃度10 %(V/V)となるように含む培地を使用した。KSRは、ES細胞培養に必要な血清代替物質として使用されている試薬であり、ヒトにとっての異種タンパク質を含まないことが確認されている。KSRは、透析をしたものおよび透析をしないもの(D(+)、D(-))についてその影響を検討した。また、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンの添加の有無(I(+)、I(-))の影響も検討した。
(1)ヒトiPS細胞をHSMで培養し、細胞の変化を検討した。
ヒトiPS細胞は、マトリゲルコーティングした培養皿で、培地にReproFF(株式会社リプロセル製)を使用して37℃、5% CO2にて培養した。培養したヒトiPS細胞をアキュターゼ(Accutase;Innovative Cell Technologies社製)を用いて回収し、マトリゲルコーティングした6孔プレートに播種した。マトリゲルコーティングは成長因子低減BDマトリゲル商標(Growth factor reduced BD MatrigelTM;Becton, Dickinson and Company製)をDMEM-F12培地(シグマ社製)で30倍希釈して0.5 mlを分注後、室温で3時間インキュベーションすることにより行った。播種時には培地ReproFFにY27632(和光純薬社製)を10 Mの濃度で添加したが、培地の交換時には添加しなかった。80% コンフルエントに到達後、培地をHSMに変更してさらに培養した。
iPS細胞の変化を光学顕微鏡(CKX41N-31PHP、オリンパス社製)にて観察した。光学顕微鏡にて観察を行った結果を図1-Aに示す。また、図1-Aにおいて400倍の視野で写真を撮影して細胞数を計測した。400倍の視野では1視野あたりの面積は5.62×10-4 cm2であり、6孔プレート1孔あたりの面積は9.4 cm2なので、1視野あたりの細胞数を次式により6孔プレート1孔あたりの細胞数に換算した:6孔プレート1孔あたりの細胞数=1視野あたりの細胞数×9.4/(5.62×10-4)。細胞数の計測は5視野について行い、平均値を算出した(図1-B)。
iPS細胞は、培地をHSMに変更1日後に細胞数が減少し始め、3 日後には全て消失した(図1-Aおよび図1-B)。この結果は、KSRの透析の有無や、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンの添加の有無には影響されなかった。この結果から、上記表1に示す組成の培地であってKSRを含む培地、または上記表1に示す組成のうちインスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンを含まない以外は同一の組成の培地であって、KSRを含む培地で培養することによってもヒトiPS細胞は死滅することが明らかになった。
(2)ヒトiPS細胞をHSMで培養し、その形態の変化をヘマトキシリン エオジン(hematoxylin eosin)染色により検討した。
ヒトiPS細胞を、マトリゲルコーティングした4孔チャンバースライド(BD Falcon社製)に播種した。培地はReproFFを用い、80% コンフルエントに到達後、培地をHSMに変更してさらに培養した。培地をHSMに変更1日後、定法に従いヘマトキシリン エオジン染色を行い、光学顕微鏡(AX80、オリンパス社製)にて観察した。培地変更2日以降では細胞数が極度に減少して解析が困難になるため培地変更1日後を解析日として選択した。
培地をHSMに変更して培養することにより、iPS細胞の培養において形成されるコロニーの縮小が観察された(図2のパネルA、パネルB、パネルC、およびパネルD)。この結果は、KSRの透析の有無や、インスリン、デキサメタゾン、およびアプロチニンの添加の有無には影響されなかった。また、いずれの条件でも核の凝縮(図2のパネルF、矢印)および断片化(図2のパネルF、矢頭)がみられた。一方、培地を変更せずにReproFFで培養した群では、コロニーの縮小はみられなかった(図2のパネルE)。
上記結果から、培地をHSMに変更した群では、iPS細胞がアポトーシス(apoptosis)に陥っている可能性が示唆された。
(3)ヒトiPS細胞をHSMで培養し、該細胞がアポトーシスを起こしているか否かを解析した。
ヒトiPS細胞を、マトリゲルコーティングした4孔チャンバースライド(BD Falcon社製)に播種した。培地はReproFFを用い、80% コンフルエントに到達後、培地をHSMに変更してさらに培養した。培地をHSMに変更1日後、アポトーシス インサイチュ ディテクション キット(Apoptosis in situ detection kit、和光純薬社製)を用い、手順書に従い染色し、細胞のアポトーシスの有無を解析した。このキットはターミナル デオキシヌクレオチジル トランスフェラーゼ媒介性dUTP ニック エンド ラベリング(terminal deoxynucleotidyl Transferase(TdT)-mediated dUTP nick end labeling(TUNEL))法に基づいている。
培地をHSMに変更して培養した群ではTUNEL陽性細胞がみられた(図3のパネルA、パネルB、パネルC、パネルD、およびパネルF(矢頭))。一方、培地を変更せずにReproFFで培養した群ではTUNEL陽性細胞はみられなかった(図3のパネルE)。
上記結果から、iPS細胞はHSMによる培養でアポトーシス(apoptosis)を起こすことが示唆された。
(4)HSMで培養後のヒトiPS細胞が未分化状態であるか解析した。
ヒトiPS細胞は、上記同様にマトリゲルコーティングした6孔プレートに播種した。80% コンフルエントに到達後に培地をHSMに変更し、1日後白血球アルカリホスファターゼ キット(Leukocyte Alkaline Phosphatase Kit、Sigma-Aldrich社製)を用い、手順書に従って染色を行い、光学顕微鏡(CKX41N-31PHP、オリンパス社製)にて観察した。
ヒトiPS細胞は、いずれの条件による培養後も、白血球アルカリホスファターゼ陽性であった(図4)。このことは、HSMで培養するとヒトiPS細胞は未分化な状態のままであることを示唆する。
(5)ヒトiPS細胞とヒト初代培養肝細胞(Clontech社)とを、HSMで培養し、細胞の変化を比較検討した。HSMは、上記表1に示す組成のうちインスリン、デキサメタゾンおよびアプロチニンを含まない以外は同一の組成(上記表2の組成)からなり、且つ透析したKSRを最終濃度10%(V/V)となるように含むHSM(HSM D(+)I(-))を用いた。
ヒト初代培養肝細胞はClontech社の手順書に従って培養した。すなわthin gel法によりマトリゲルコーティングした24孔プレート(CellBIND、 Corning社製)に1 cm2あたり2x105個の肝細胞を播種した。thin gel法によるマトリゲルコーティングは、Growth factor reduced BD matrigel phenol red free(ベクトンディッキンソン社製)を1 cm2あたり50μl分注し、37℃で30分間インキュベーションすることにより行った。維持培養は、Clontech社の専用の肝細胞培養培地(hepatocyte culture medium、以下HCMと略称する)を用いて行った。
ヒトiPS細胞は、上記(1)同様に24孔プレートに播種して維持培養を行った。
ヒト初代培養肝細胞およびヒトiPS細胞は、いずれも培養1日後に培地をHSMに変更し、光学顕微鏡(CKX41N-31PHP、オリンパス社製)にて観察した。具体的には、400倍の視野で写真を撮影して細胞数を計測した。400倍の視野では1視野あたりの面積は5.62×10-4 cm2であり、24孔プレート1孔あたりの面積は2 cm2なので、1視野あたりの細胞数を次式により24孔プレート1孔あたりの細胞数に換算した:24孔プレート1孔あたりの細胞数=1視野あたりの細胞数×2(5.62×10-4)。細胞数の計測は5視野について行い、平均値を算出した。
ヒトiPS細胞はHSMによる培養で細胞数が減少したが、一方、ヒト初代培養肝細胞はHSMで培養した群とHCMで培養した群で差異はみられなかった(図5-Aおよび図5-B)。
ヒトiPS細胞とヒト胎児肝およびヒト成人肝とで、ガラクトキナーゼ1(galaktokinase 1、 GALK1)、ガラクトキナーゼ2(GALK2)、オルニチン トランスカルバミラーゼ(ornithine transcarbamylase、OTC)の発現を比較した。
ヒトiPS細胞よりIsogen(Nippon Gene社製, Tokyo, Japan)を用いてRNAを抽出した。オリゴdT(Oligo dT)をプライマーとしてスーパースクリプトIII(SuperScript III;Life Technologies社製, Grand Island, NY)を用いて総RNA(Total RNA)5 gより第一鎖cDNA(first-strand cDNA)を合成した。ヒト胎児肝およびヒト成人肝のRNAはClontech社より購入した。
リアルタイム定量PCR(Real-time quantitative PCR)は、ファスト SYBR登録商標 グリーン マスター ミックス(Fast SYBR(R) Green Master Mix:Life Technologies社製)を用いてミニオプチコン商標 リアルタイムPCR ディテクション システム(MiniOpticonTM real-time PCR detection system:Bio-Rad社製, Hercules, CA)により行い、解析した。リアルタイム定量PCRは、デナチュレーション(denaturation)を5秒およびアニーリング−エクステンション(annealing-extension)を5秒で1サイクルとして、40サイクルで行った。リボソームタンパク質L19(RPL19)を内部標準(internal control)として測定した。
PCRに用いたプライマーセットの塩基配列および該プライマーセットを用いて得られるPCR産物の予想サイズを以下に示す。
(a)RPL19増幅用プライマー:
5'-CGAATGCCAGAGAAGGTCAC(配列番号1)および5'-CCATGAGAATCCGCTTGTTT(配列番号2)((GeneBank Accession Number: BC000530, PCR産物の予想サイズ:157 bp)
(b)GALK1増幅用プライマー:
5'-TGCTGTGCCTGGGGTTTATG(配列番号3)および5'-GCTGCTTGAGAGAGGTAGAAGGTG(配列番号4)(GeneBank Accession Number: NM_000154, PCR産物の予想サイズ:153 bp)
(c)GALK2増幅用プライマー:
5'-TCACGACTTACTGGAGCAGGATG(配列番号5)および5'-CAAAACCAAAGCCCCACCTC(配列番号6)(GeneBank Accession Number: NM_002044, PCR産物の予想サイズ:177 bp)
(d)OTC増幅用プライマー:
5'- GGACATTTTTACACTGCTTGCCC(配列番号7)および 5'-TCCACTTTCTGTTTTCTGCCTCTG(配列番号8)(GeneBank Accession Number: BC107153, PCR産物の予想サイズ:105 bp)
OTC、GALK1、およびGALK2の発現量は、ヒトiPS細胞ではヒト胎児肝およびヒト成人肝に比べると著明に低かった(図6)。
上記の結果から、iPS細胞はOTC、GALK1、およびGALK2の発現量が低いので、グルコースおよびアルギニンを含まないHSMで培養することにより死滅したと考えることができる。すなわち、HSMで培養するとiPS細胞は未分化なままなのでアポトーシスを起こして死滅すると考えられる。一方、胎児肝および成人肝はいずれもOTC、GALK1、およびGALK2を発現しているので、HSMによる培養でも生存することができたと考えることができる。
本発明により、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、実質的に肝細胞からなる細胞培養物を分別して得ることができる。本発明の方法により得られる実質的に肝細胞からなる細胞培養物は、移植後に発癌する可能性のあるヒトiPS細胞が排除されているため、そのまま個体に投与することにより肝組織の再生に用いることができ、再生医療での利用が容易になる。
配列番号1:リボソームタンパク質L19遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号2:リボソームタンパク質L19遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号3:ガラクトキナーゼ1遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号4:ガラクトキナーゼ1遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号5:ガラクトキナーゼ2遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号6:ガラクトキナーゼ2遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号7:オルニチン トランスカルバミラーゼ遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号8:オルニチン トランスカルバミラーゼ遺伝子の増幅用プライマーとして設計されたオリゴヌクレオチド。

Claims (7)

  1. 人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:以下、iPS細胞と略称する)から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法であって、該細胞群を、血清または血清代替物質を含む下記表1または表2の組成の培地で培養する工程を含む方法。
  2. 血清または血清代替物質がノックアウト商標 セラム リプレースメント(knockoutTM serum replacement;以下、KSRと略称する)である請求項1に記載の方法。
  3. KSRが、最終濃度10%(V/V)となるように添加されたKSRである請求項2に記載の方法に関する。
  4. 培養する工程が、少なくとも3日間培養する工程である請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
  5. iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群が、iPS細胞から分化誘導した肝前駆細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群である請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
  6. iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群が、ヒトiPS細胞に転写因子FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαの各遺伝子を3日毎にトランスフェクションし、増殖促進剤の組合せとしてオンコスタチンM、上皮成長因子、レチノイン酸、デキサメタゾン、インシュリンおよびトランスフェリンを含む培地中で分化誘導を行うことにより得られたヒト肝前駆細胞とヒトiPS細胞とを含む細胞群である請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
  7. 人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:以下、iPS細胞と略称する)から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法であって、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群が、ヒトiPS細胞に転写因子FOXA2、GATA4、HEXおよびC/EBPαの各遺伝子を3日毎にトランスフェクションし、増殖促進剤の組合せとしてオンコスタチンM、上皮成長因子、レチノイン酸、デキサメタゾン、インシュリンおよびトランスフェリンを含む培地中で分化誘導を行い、トランスフェクション後8日目に得られたヒト肝前駆細胞と、ヒトiPS細胞とを含む細胞群を、最終濃度10%(V/V)となるように添加されたノックアウト商標 セラム リプレースメントを含む下記表1または表2の組成の培地で少なくとも3日間培養する工程を含む方法。
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