<積層発電体の実施形態1>
以下、本発明の実施の形態にかかる積層発電体について説明する。図1(a)に示すように、積層発電体10は、複数の振動発電体1が積層されて構成される。振動発電体1同士の間には支持部材2が設けられる。振動発電体1同士は支持部材2を介して接合されることが好ましい。振動発電体1と支持部材2との接合方法としては、接着接合、粘着接合、吸着接合などを利用することができるが、特に限定されるものではない。支持部材2は、振動発電体1同士の間のみではなく、最上面および最下面にも設けられる。なお、特に示した場合を除き、図1等においては、振動発電体の詳細な構造およびリード線等については図示を省略する。
支持部材2は、振動発電体1の略全面に設けられて接合される。振動発電体1の表裏に設けられる支持部材2は、弾性体であることが望ましい。支持部材2を構成する弾性体としては、特に限定されないが、例えば、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、天然ゴムなどのゴムを使用することができる。
図2(a)に示すように、振動発電体1は、主にエレクトレット誘電体3、電極5a、5b、接合部7等から構成される。エレクトレット誘電体3の両面には、エレクトレット誘電体3と対向するように、それぞれ電極5a、5bが配置される。また、エレクトレット誘電体3と電極5bとの間には接合部7が設けられる。接合部7は、エレクトレット誘電体3と電極5bとを接合するためのものである。すなわち、エレクトレット誘電体3と電極5bとは、接合部7を介して接合され、互いの間には、接合部7の厚さに応じた隙間(エアギャップ)が形成される。接合部7の材質は特に限定されないが、例えば絶縁性の接着剤で構成される。
電極5aとエレクトレット誘電体3とは、略全面にわたって接合されている。電極5aとエレクトレット誘電体3とは、例えば熱融着や接着で接合される。但し、接着剤を用いる場合には、接着剤層をできるだけ薄くすることが望ましい。例えば、電極5a、5b間の距離やエレクトレット誘電体3の厚さに対し、十分薄くすることが望ましい。
電極5a、5bは、導体層6と樹脂層8とが積層された二層構造である。このような電極5a、5bは、樹脂シートと金属箔とを接着剤や熱溶着等によって接合したものであってもよく、樹脂シートの表面に金属蒸着や金属めっきを施したものであってもよい。いずれにせよ、シート(フィルム)状の樹脂上に導体層を形成すればよい。
なお、導体層6を構成する導体としては、アルミニウム、錫、銅あるいはこれらの合金など適宜選択することができる。
また、樹脂層8を構成する樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド系の樹脂(例えばカプトン(登録商標))、フッ素系の樹脂(例えばフルオロエチレンプロピレンやポリテトラフルオロエチレン)などのプラスチック材料や、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴム、天然ゴムなどのゴム材料を用いることもできる。
二層構造の電極5a、5bは、周囲との電気絶縁を確保し、防水性や防湿性を向上させることができる点で望ましい。また、電極5bにおいては、さらに、外力等に対する電極の追従性を向上させることができる点で望ましい。例えば、薄い導体のみでは、外力によって変形した後、元の形状への復元力が小さい。しかし、導体のみで剛性を高めようとすると、導体部の厚みを厚くする必要があるため重量増の問題がある。また、これにより、電極の動きが鈍くなる恐れがある。
これに対し、本実施形態では、樹脂層8を設けることで、重量増による問題を抑制するとともに、外力に対する電極5bの追従性、すなわち剛性を高めることができる。なお、導体層6のみでも、例えば別途絶縁部材を介在させるなどの手段によって電気絶縁性等を確保できれば、導体層6のみで電極5a、5bを形成しても良い。
エレクトレット誘電体3の材質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニルなどの樹脂を用いることができる。また、使用条件に応じて、例えば高温特性に優れるポリイミド系の樹脂(例えばカプトン(登録商標))やフッ素系の樹脂(例えばフルオロエチレンプロピレンやポリテトラフルオロエチレン)を用いることができる。また、ゴム材料として、例えばニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴムなどを用いることができる。
振動発電体1におけるエレクトレット誘電体3と電極5a、5bとは、いずれも可撓性を有する。例えば、エレクトレット誘電体3は、上述した樹脂等で構成される。したがって、振動発電体1は、全体として可撓性を有し、様々な形態の設置場所に適した変形が可能である。
図3(a)に示すように、エレクトレット誘電体3の両面は、互いに逆の極性の電荷で帯電している。なお、帯電させたエレクトレット誘電体3は、表裏面(表面と裏面)で電位差(表面電位差)がある状態であればよいので、エレクトレット誘電体3の片面にのみ、いずれか一方の極性の電荷が帯電していてもよい。また、エレクトレット誘電体3の両面に、いずれか一方の極性の電荷が帯電していても両面で電位差があればよい。このようなエレクトレット誘電体3は、例えば絶縁性を有する樹脂シートや樹脂フィルム等の表面に、コロナ放電によって帯電処理を施すことで形成することができる。
エレクトレット誘電体3の表面と裏面との電位差の設定は、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長(または接合部7の厚み)に依存する。すなわち、当該電位差は、当該エアギャップでの空気放電による電位差低下が少なくなるように設定されることが望ましい。
なお、図3(b)に示すように、多孔質材からなるエレクトレット誘電体3aを用いることもできる。内部に微細な空孔4が存在する多孔質材の両面に電圧を印加すると、空孔4内において容易にコロナ放電が生じる。このコロナ放電によって空孔壁面および空孔壁面近傍にも帯電したエレクトレット誘電体3aを容易に製造できる。なお、エレクトレット誘電体3aの空孔壁面および空孔壁面近傍の帯電状態は、図3(b)に示すように、電圧印加方向(この場合にはエレクトレット誘電体3aの厚さ方向)に正電荷と負電荷に帯電した領域が形成される状態になっていると考えられる。また、エレクトレット誘電体3aの内部に空孔4が存在すると、エレクトレット誘電体3a全体として変形が容易となる。したがって、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3aとのギャップ長だけでなく、エレクトレット誘電体3a自体をもより小さな外力で容易に変形させることができる。このため、電極5bとエレクトレット誘電体3aとの間のギャップ長だけでなく、エレクトレット誘電体3aの厚さも変化し易くなる。したがって、電極5a、5b間の距離が変化し易くなるとともに、その変化量も大きくなるため、双方の電極に静電誘導される電荷量も多くなり、発電効率が向上する。
多孔質性のエレクトレット誘電体3aの材質としては、絶縁体であって、エレクトレット誘電体3と同様の材料を多孔質化した多孔質プラスチックまたは多孔質ゴムや、シート状繊維体を用いることができる。なお、多孔質プラスチックには、発泡プラスチックも含まれる。また、多孔質ゴムには、発泡ゴムも含まれる。シート状繊維体としては、不織布やフェルトを用いることができる。中でも不織布は空気清浄機やマスク等においてエレクトレットフィルターとして利用されており、良好なエレクトレットの特性を有する。なお、以下の説明では、空孔4のないエレクトレット誘電体3を用いた例について示す。
図2(a)に示すように、接合部7以外の部位において、エレクトレット誘電体3と電極5bとの間には非接合部9が形成される。すなわち、非接合部9においては、エレクトレット誘電体3と電極5bの少なくとも一方が変形することで、互いの距離が容易に変化する。例えば、電極5bの変形によって、電極5bを、エレクトレット誘電体3の表面と接触させることもできる。
次に、振動発電体1の発電機構について説明する。図4は図2(a)のA部拡大図である。図4(a)に示すように、例えば定常状態(外力が付与されていない状態。以下同様。)では、電極5bとエレクトレット誘電体3との間には、非接合部9において接合部7の厚みに応じたエアギャップ長Bが形成される。この状態から、図4(b)に示すように、外力Cが振動発電体1の厚さ方向に付与されると、電極5b(およびエレクトレット誘電体3)が変形する。この際、エアギャップ長Bが短くなる方向へ変化し、電極5bとエレクトレット誘電体3とが接触部11で接触する場合もある。
すなわち、接触部11に対応する位置においては、電極5bとエレクトレット誘電体3の厚さ方向の距離(エアギャップ長B)が0になるまで変化できる。この距離変化に応じて、電極5a、5bにそれぞれ電荷が静電誘導されて発電する。なお、図4(b)の状態から図4(a)の状態に戻る際にも、同様に距離変化に応じた静電誘導による発電が行われる。なお、電極5bとエレクトレット誘電体3との距離変化に伴う発電出力電圧は、電極5bとエレクトレット誘電体3とが変形によって接触する直前および剥離した直後に最も高くなる。
このように、振動発電体1では、電極5bとエレクトレット誘電体3とを相対的に厚さ方向に変形させて、そのエアギャップ長Bを変化させることで効率よく発電を行うことができる。
ここで、接合部7の材質にもよるが、外力による非接合部9のエアギャップ長Bの変化と比較して、接合部7における電極5bとエレクトレット誘電体3との距離の変化は小さい。このように、接合部7の部位では、電極5bとエレクトレット誘電体3との距離が変化しにくいため、発電には寄与しにくい。したがって、振動発電体1に占める接合部7の総面積をできるだけ小さくすることが望ましい。また、非接合部9においてエアギャップ長Bを保持することができる程度に接合部7を互いに所定の間隔をあけて配置することが望ましい。
なお、接合部7は、エレクトレット誘電体3の表面において、例えば、ドット状、ストライプ状、格子状などの形状(形態)にて、所定の間隔をあけて配置される。接合部7がドット状の場合には、接合部7の平面視における形状は、円形、楕円形、正方形、長方形など任意の形状で形成すればよい。この際、接合部7の振動発電体1に占める面積をできるだけ小さくし、非接合部9が占める面積をできるだけ大きくすることが望ましい。
なお、接合部7は、接着剤に代えて、電極5bとエレクトレット誘電体3とを部分的に直接熱融着により接合してもよい。この場合、接合部以外の部位が、非接合部9となる。この場合であっても、非接合部9では、電極5bとエレクトレット誘電体3との間に、微小な隙間が形成される。なお、非接合部9において、電極5bとエレクトレット誘電体3とが部分的に接触していても良い。また、接合部7には、接着剤に代えて、他の部材を介して電極5bとエレクトレット誘電体3と接合しても良い。
図1(a)に示すように、本発明の積層発電体10では、複数の振動発電体1が、振動発電体1同士の間に配置された支持部材2を介して接合されて積層される。支持部材2は、振動発電体1の略全面を覆っている。振動発電体1と支持部材2との接合方法に関しては、接着接合、粘着接合、吸着接合、融着接合などを利用することができるが、特に限定されるものではない。したがって、図1(b)に示すように、積層発電体10の厚さ方向に外力Pが付与されると、支持部材2および振動発電体1が変形する。なお、図1(b)において、積層発電体10は、剛性の高い物体上に取り付けられている状態を示す。
この際、振動発電体1の間に、弾性体である支持部材2を振動発電体1の略全面に介在させることで、支持部材2が緩やかな形状で凹み、支持部材2の変形によって、外力Pは、積層発電体10の内部(内層側)にも加わる。
図5は、図1(b)のI部拡大図である。積層発電体10に外力P(押圧)が付与されると、各層の振動発電体1における接合部7の部位で支持部材2が大きく潰れる。この際、接合部7の位置で支持部材2の厚みが減少し、接合部7の周囲では支持部材2が相対的に膨出した形状になる。この結果、各層の振動発電体1の非接合部9は、支持部材2によって潰される。このため、上記のような支持部材2の変形によって、積層発電体10を構成する各層の振動発電体1の非接合部9を、電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長が短くなる方向に効率よく変形させることができ、積層発電体10の発電出力を向上させることができる。
一方、外力Pが除荷されると、積層発電体10は、図1(a)の定常状態に戻る。この際にも、図4に示したように、それぞれの振動発電体1の非接合部9において、電極5bとエレクトレット誘電体3との距離を変化させることができる。すなわち、外力Pの除荷後には、支持部材2の形状は元の定常状態に戻るため、振動発電体1の非接合部9における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長も元の定常状態に戻る。この際、支持部材2と振動発電体1とが接合されていた方が、弾性体である支持部材2の復元力を利用して振動発電体1を元の形状(元のエアギャップ長)に復元することができるため好ましい。このように、外力Pの除荷後にも、各層の振動発電体1の非接合部9における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長が元の状態に戻る過程で、エアギャップ長を長くなる方向に効率よく変化させることができ、積層発電体10の発電出力を向上させることができる。
なお、積層発電体10において、図2(a)、図2(b)に示したような振動発電体1、1aを、支持部材2を介さずに、直接積層した場合には、次のような不都合が予想される。すなわち、積層された振動発電体1の接合部7が積層方向に整列するように各層の振動発電体1が配置されると、積層方向に略整列した接合部7で外力が支持されてしまうために、各層の振動発電体1の非接合部9に外力が伝わり難い。したがって電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長が変化し難くなり、積層発電体10の発電出力が低下する恐れがある。前述したように、図1に示す本実施形態の積層発電体10では、振動発電体1の間に弾性体である支持部材2を介在させているため、前述したように、この問題を回避できる。すなわち、振動発電体1同士を直接積層させた場合と比較して、弾性体である支持部材2を介在させた場合には、各層の振動発電体1は(内側にある振動発電体1まで)、積層発電体10に付与される外力Pによって大きく変形(特にエアギャップ長の変化)されるため、積層発電体10の発電出力を向上させることができる。
なお、振動発電体1が外力により変形し、電極5bとエレクトレット誘電体3とが接触および剥離を繰り返すと、その際に、例えば電極5bとエレクトレット誘電体3との間で、空気放電が生じることによって、エレクトレット誘電体3の表面と裏面との電位差が低下することが考えられる。したがって、使用するにつれて発電が行われなくなるのではないかという懸念もあった。しかし、発明者らは、このような接触と剥離とが繰り返えされても、“エレクトレット誘電体3の表面と裏面との電位差が低下して直ちに発電が行われなくなる現象”は生じないことを見出した。したがって、前述したように高い発電出力電圧を得る観点からは、電極5bとエレクトレット誘電体3とが接触、剥離を繰り返すように積層発電体10を構成する振動発電体1を変形させることが望ましい。
なお、本発明の積層発電体10では、図2(b)に示すように、エレクトレット誘電体3と、電極5a、5bの両方の間に接合部7が設けられた振動発電体1aを用いることもできる。振動発電体1aは、振動発電体1と略同様の構成であるが、電極5aとエレクトレット誘電体3との間にも、部分的な接合部7と非接合部9とが設けられる。
ここで、図2(a)に示す振動発電体1は、一方の電極5aがエレクトレット誘電体3と全面にわたって接合されているため、電極5bとエレクトレット誘電体3との距離変化でのみ発電が行われる。しかし、図2(b)に示すように、電極5a、5bの両方とエレクトレット誘電体3との間に非接合部9、9(エアギャップ)を形成し、両方のエアギャップの距離変化により発電を行う振動発電体1aにおいては、エレクトレット誘電体3と電極5aとの間のエアギャップと、エレクトレット誘電体3と電極5bとの間のエアギャップの両方の距離変化の方向(減少する方向あるいは増加する方向)とタイミング(位相)が一致しないと、電極5a、5b間に生じる発電出力電圧が互いに打ち消しあってしまう恐れがある。
したがって、図2(b)の振動発電体1aの全体で効率良く発電を行うためには、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3との距離変化の方向(減少する方向あるいは増加する方向)とタイミング(位相)を振動発電体1aの各部で一致させることが望ましい。例えば、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3とが接触および剥離を繰り返す場合には、この接触および剥離のタイミングを振動発電体1aの各部で一致させることが望ましい。
また、振動発電体1aのエレクトレット誘電体3の表裏で電極5a、5bとエレクトレット誘電体3との距離変化の方向とタイミングを一致させるために、エレクトレット誘電体3の表裏における接合部7の平面配置を一致させることが望ましい。
これに対し、図2(a)の振動発電体1では、電極5bとエレクトレット誘電体3との距離変化のみによって発電されるため、図2(b)の振動発電体1aのように電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との双方の距離変化の方向とタイミング(位相)を一致させる必要がない。また、接合部7の厚み分だけ、全厚を薄くすることができる。このように、構造を簡易にできることによるコスト減や、薄肉化が可能である点などを考慮すれば、発電量は若干下がるものの、振動発電体1を用いることが望ましい。なお、以下の説明では、振動発電体1を用いた例について説明するが、振動発電体1aを用いることもできる。
以上説明したように、積層発電体10を構成する振動発電体1は、接合部7によって、電極5bとエレクトレット誘電体3との間に、所定のエアギャップ長を保持しているため、外力による電極5bとエレクトレット誘電体3の変形代(電極5bとエレクトレット誘電体3との距離が変化するような厚み方向の変形代)を確保することができる。また、接合部7の厚みおよび支持部材2の厚みを適正化することで、積層発電体10への外力または振動の付与に対して各層の振動発電体1の電極5bとエレクトレット誘電体3との接触および剥離を繰り返させることもできる。このため、高い発電出力を得ることができる。
また、積層発電体10は、複数の振動発電体1同士が弾性体である支持部材2を介して接合された形で積層されて構成される。したがって、積層発電体10に外力が付与された際に、弾性体である支持部材2の存在によって内部の層の振動発電体1にも力を伝え、各層の振動発電体1の非接合部9におけるエアギャップ長を効率よく変化させることができる。このため、高い発電出力を得ることができる。また、積層発電体10が局所的に外力を受けた際に、弾性体である支持部材2の存在によって各振動発電体1に加わる衝撃を緩和し、振動発電体1の破損を抑制することができる。
<積層発電体の実施形態2>
次に、他の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、積層発電体10と同様の機能を奏する構成については図1等と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図6に示す積層発電体10aは、積層発電体10と略同様の構成であるが、支持部材2の縁部が振動発電体1よりも外周部にはみ出しており、振動発電体1の外周部で隣接の支持部材2同士がシール部14で接着剤等によって接合される。すなわち、各振動発電体1は、支持部材2によって被覆され、シール部14によってシールされる。したがって、各層の振動発電体1が、外部に露出することがない。
この場合、支持部材2としては、防水性または防湿性の高い弾性体である材料を選択する。このようにすることで、積層発電体10aを防水処理または防湿処理することができる。すなわち、各振動発電体1の電極5bとエレクトレット誘電体3との隙間に水分が浸入することを防止することができ、したがって電極5a、5bが水分の存在によって腐食することを防止することができ、エレクトレット誘電体3の表裏面の電位差が水分の存在によって低下することを防止することができる。なお、各振動発電体1を防水または防湿することができれば、防水方法または防湿方法は図示した例には限られず、各振動発電体1に対して水分が浸入することを防止するシール部14は、どのような形態でも良い。
<積層発電体の実施形態3>
図7(a)に示す積層発電体10bは、積層発電体10の外側(図7中では上下)に積層発電体10を挟むように2枚の剛性板13を設けたものである。なお、剛性板13と最外部の振動発電体1との間にも支持部材2が設けられることが望ましい。この積層発電体10bでは、図7(b)に示すように、外力Pが付与されると、剛性板13によって、積層発電体10bの全体に略均一に力が付与される。このため、積層発電体10bを構成する各支持部材2が略均一に潰される。なお、剛性板13としては、金属板や硬質樹脂製の板、石板、木板などを使用することができるが、特に限定されるものではない。
図8は、図7(b)のD部拡大図である。積層発電体10bでは、弾性体である支持部材2が振動発電体1の略全面に設けられる。積層発電体10bに外力P(押圧)が付与されると、各層の振動発電体1における接合部7の部位で支持部材2が大きく潰れる。この際、接合部7の位置で支持部材2の厚みが減少し、接合部7の周囲では支持部材2が相対的に膨出した形状になる。この結果、各層の振動発電体1の非接合部9は、支持部材2によって潰される。このため、積層発電体10bを構成する各層の振動発電体1の非接合部9を、上記のような支持部材2の変形によって、電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長が短くなる方向に効率良く変化させることができ、積層発電体10bの発電出力を向上することができる。
一方、外力除荷後には、積層発電体10bは図7(a)の定常状態に戻る。この際、支持部材2も元の定常状態の形状に戻るため、各層の振動発電体1の非接合部9における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長も元の定常状態に戻る。この際、支持部材2と振動発電体1とが接合されていた方が、弾性体である支持部材2の復元力を利用して振動発電体1を元の形状(元のエアギャップ長)に復元することができるため好ましい。このように、外力Pの除荷後にも、各層の振動発電体1の非接合部9における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長が元の状態に戻る過程で、エアギャップ長が長くなる方向に効率よく変化させることができ、積層発電体10bの発電出力を向上させることができる。
このように、一対の剛性板13で振動発電体1と支持部材2との積層体を挟み込むことで、外力を振動発電体1の略全面に均一に付与することができる。また、支持部材2を介在させることで、各層の振動発電体1の非接合部9におけるエアギャップ長を効率よく変化させる効果が得られるとともに、振動発電体1に加わる衝撃を緩和させる効果や、繰り返しの外力に対して、振動発電体1同士の接触面での摩擦等による摩耗や破損等を抑制することもできる。
<積層発電体の実施形態4>
図9(a)に示す積層発電体10cは、各層の振動発電体1同士の間に介在される支持部材2が、振動発電体1の全面には配置されずに、振動発電体1の平面方向に間隔を空けて部分的に配置される。すなわち、支持部材2が配置されない振動発電体1同士の間には隙間(空間)が形成される。また、各層の振動発電体1は支持部材2を介して接合される。
支持部材2としては、前述した弾性部材であっても良いが、比較的硬質な金属系材料、プラスチック系材料、ゴム系材料などを適用することもできる。
図9(b)に示すように、積層発電体10cの厚み方向に外力(主に振動)が加わると(図中矢印E方向)、振動発電体1に接合される平面方向に隣接した支持部材2同士の間に位置する振動発電体1が、振動発電体1に作用する慣性力等によって支持部材2を支点とした撓み変形を繰り返す(図中矢印F方向)。この際、各層の振動発電体1の撓み変形によって、非接合部9における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長が変化するため(図4参照)、積層発電体10cの発電出力を得ることができる。
このように、積層発電体10cは、支持部材2を平面方向に間隔を空けて介在させることによって振動発電体1同士の間に隙間(空間)を設けることで、各層の振動発電体1の撓み変形を生じやすくした構造を有する。この際、積層発電体10cの各層の振動発電体1を接合する支持部材2は、積層方向に整列するように全ての層で平面位置が略一致するように配置されることが好ましい。このように支持部材2が積層方向に略整列配置すると、積層発電体10cに付与される外力(主に振動)による動きは支持部材2によって積層方向に効率よく伝達される。この際、積層発電体10cに付与された外力(主に振動)による動きが支持部材2を介して積層方向に伝搬する際に、振動発電体1の支持部材2が接合されない部位には慣性力が作用する。すなわち、各層の振動発電体1を接合する支持部材2が支点および力の作用点として作用し、振動発電体1の支持部材2間の部位が慣性力を受けて撓み変形を繰り返すようになる。この結果、積層発電体10cの各層の振動発電体1に対して繰り返し撓み変形を生じさせることができるため、発電効率を向上させることができる。
なお、図示した例では、振動発電体1の周囲端部が支持部材2によって支持されているが、本発明はこれに限られない。すなわち、振動発電体1の周囲端部の支持部材2を無くして、周囲端部の振動発電体1が、最外位置の支持部材2よりも外方に突出するようにしても良い。例えば、振動発電体1の剛性が比較的高い場合には、振動発電体1の周囲端部を支持部材2で支持する必要はなく、振動発電体1の周囲端部を自由端とすることで、外力(主に振動)が加わった際に、最外位置の支持部材2を支点にして振動発電体1の周囲端部を撓み変形させることができる。したがって、積層発電体10cの発電に寄与させることができる。
なお、積層発電体10cの外部から微小な振動が付与される場合には、支持部材2が弾性部材であると、その振動を支持部材2が吸収し、積層発電体10cの振動が付与された部位に対して内層側の振動発電体1へ振動が伝達しにくくなる。したがって、積層発電体10cが比較的大きな変位の振動を繰り返し受ける場合には、支持部材2を弾性部材としてもよいが、微小な振動を受ける場合には、支持部材2としては、ある程度剛性のある部材である方が望ましい。このようにすることで、全ての層の振動発電体1をより確実に振動(繰り返し撓み変形)させることができる。
このように、支持部材2を点在(間隔を空けて配置)させて、支持部材2を支点にして、振動発電体1の一部を図9(b)に示すように上下に撓ませることで、振動発電体1における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長を変化させて、発電出力を得ることができる。
<積層発電体の実施形態5>
図10(a)に示す積層発電体10dは、積層発電体10cに対して、それぞれの振動発電体1同士の間に形成された隙間(空間)に慣性部材15が配置される。なお、慣性部材15が積層発電体10dから飛び出すことがないように、例えば、積層発電体10dにおいては、少なくとも外周側の支持部材2を全周に渡って設けることによって、慣性部材15がそれぞれの振動発電体1間に封入される。ここで、積層発電体10dにおける慣性部材15の封入方法は、特に限定されるものではなく、例えば、積層発電体10dの外周端部に別途シール部材を設けたり、シール加工をしたりすることで実現してもよい。
慣性部材15は、粉体または粒体であり、振動発電体1同士の間の隙間(空間)において振動発電体1とは独立して移動可能である。慣性部材15としては、例えば金属粒子や樹脂粒子、砂粒などを用いることができ、その質量や粒子の形状などは適宜設定される。
図10(b)に示すように、積層発電体10dの厚み方向に外力(主に振動)が加わると(図中矢印G方向)、積層発電体10c(積層発電体の実施形態4)で説明したように、外力(主に振動)が積層方向に伝達しやすい支持部材2の動きによって、支持部材2で接合されない振動発電体1の部位、および振動発電体1間に存在する慣性部材15に慣性力が作用する。このため、その部位の振動発電体1で繰り返し撓み変形(振動)が生じるとともに、振動発電体1間の慣性部材15が振動発電体1とは独立して跳ね上がり、上下動を繰り返す(図中矢印H)。この際、慣性部材15が、上下の振動発電体1と衝突する。したがって、慣性部材15によって、振動発電体1に対して外力を付与することができる。
このようにすることで、前述した振動発電体1自体の繰り返し撓み変形と(図9(b))と、慣性部材15の衝突による振動発電体1の部分的な変形により、振動発電体1における電極5bとエレクトレット誘電体3との間のエアギャップ長を変化させて、積層発電体10dの発電出力を向上させることができる。
<発電システムの実施形態1>
次に、前述した本発明の積層発電体を用いた発電装置の構成について説明する。なお、以下の例では、振動発電体1を用いた積層発電体10を適用した例を示すが、他の積層発電体を用いてもよい。なお、以下で説明する図において、支持部材2および振動発電体1の詳細な構造については図示を省略する。
図11に示すように、発電システム20は、積層発電体10を構成する複数の振動発電体1のそれぞれについて、同一の方向に外力を受けた際に、正極性となる電極同士および負極性となる電極同士が、それぞれ電気的に接続される。このようにして構成された電気回路は、一つの整流回路17に接続される。整流回路17は、例えば4つのダイオードを組み合わせた全波整流回路を用いるのが好ましいが、1つのダイオードによる半波整流回路を用いることもできる。ダイオードとしては、順方向の抵抗が小さく、逆方向の抵抗が大きく、かつ、時間応答速度が速く、ロスの少ないものが望ましい。整流回路17は、振動発電体1からの出力電圧である交流電圧を直流電圧に変換する。
整流回路17は、蓄電回路19と接続される。蓄電回路19は、コンデンサや充電可能なバッテリーなどの蓄電部とスイッチなどから構成される。蓄電回路19は整流回路17で整流された出力電圧を蓄電する。なお、コンデンサあるいはバッテリーは、充電状態での漏れ電流が小さく、充電ロスの小さなものが望ましい。
ここで、それぞれの振動発電体1の電極に誘起される電荷の極性は、外力または振動によって与えられた振動発電体の変形状態や変形方向(圧縮方向や伸長方向)で決まる。したがって、振動発電体1の発電出力電圧は交流電圧となる。この際、積層発電体10に与えられる外力または振動に対して、それぞれの振動発電体1の発電出力の極性と位相とが概ね一致する場合には、発電システム20のように、各振動発電体1の電極同士を発電出力の極性を揃えて並列に接続することができる。
このようにすることで、各振動発電体1が極性を合わせるようにして並列に接続された回路に1つの整流回路17を接続することができる。したがって、整流回路17の数を減らして、発電システム20の構成を簡略化できるとともに、整流損失を低減させることができる。
<発電システムの実施形態2>
次に、他の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、発電システム20と同様の機能を奏する構成については図11と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図12に示す発電システム20aは、積層発電体10を構成する複数の振動発電体1に対して、それぞれ整流回路17が接続される。また、それぞれの整流回路17の出力電圧の極性が揃うように、各整流回路17同士が接続される。さらに、各整流回路17が接続された回路に、蓄電回路19が接続される。
前述したように、積層発電体10に与えられる外力等に対して、それぞれの振動発電体1の発電出力の極性と位相とが概ね一致する場合には、発電システム20のように、各振動発電体1の電極同士を発電出力の極性を揃えて並列に接続することができる。しかし、積層発電体10に与えられる外力等に対して、各振動発電体1の発電出力の極性や位相が一致しない場合に発電システム20のような回路を構成すると、各振動発電体1の発電出力が互いに打ち消し合い、積層発電体全体の発電出力を著しく低下させる。
このような場合には、発電システム20aのように、各振動発電体1に対してそれぞれ整流回路17を接続して直流電圧に変換し、直流電圧変換後の極性を合わせるように各整流回路17を並列に接続することで、上述したような発電出力の打ち消し合いを防止することができる。
<発電システムの実施形態3>
図13(a)に示す発電システム20bは、第1の蓄電回路である蓄電回路19aと、第2の蓄電回路である蓄電回路19bとを用い、蓄電回路19a、19bの間に直流電圧コンバータ21が接続される。
蓄電回路19aは、整流回路17で直流となった直流電圧を蓄電する。直流電圧コンバータ21は、蓄電回路19aに蓄電された直流電圧を、所定の直流電圧に変換する。このようにして所定の電圧となった直流電圧を、蓄電回路19bで蓄電する。
通常、積層発電体10によって発電された発電出力は、他の外部回路を駆動するために用いられる。したがって、外部回路を駆動するために必要な電圧に変換する必要がある。発電システム20bでは、外部回路を駆動する電圧に変換した後、蓄電回路19bに蓄電されるため、蓄電回路19bによって外部回路を駆動することができる。
なお、このような回路としては、図13(b)に示した発電システム20cのように、それぞれの振動発電体1に整流回路17を接続したものにも適用可能である。この場合には、各整流回路17の出力電圧の極性を揃えるように並列に接続して、蓄電回路19aに接続すればよい。
<本発明の積層発電体の用途等>
本発明の積層発電体は、フレキシブル性や自在加工性に優れ、大面積化も容易な振動発電体を用いて簡便な構造と機械機構によって効率の高い発電を行うことができるため、利用形態に合わせて様々な用途に適用することができる。本発明の積層発電体は、例えば、道路面の下や橋梁、高速道路等に設置される防音壁、鉄道のレールや枕木部などの車両等が通行することで振動する対象物等へ設置することができる。この際、得られた電力によって、振動対象物の周囲の状態(温度、湿度、明るさ、振動加速度、歪、変位、風速、車両の通行速度や重量など)を感知し、計測するセンサを駆動させることができる。また、センサで得られた情報を有線または無線によって送信する情報収集システムや監視システムの電源として使用することができる。
また、得られる電力が大きい場合には、道路等の照明や信号機の補助電源や、スマートグリッド構想での分散電源の一つとして使用することもできる。また、道路等において、車両や人が通行した際の振動によって発電させ、これによって車両や人が通過したという情報と周囲の明るさを感知させてもよい。この場合、周囲が暗い場合にのみ、貯蔵していた電力を利用して車両や人の前方の照明や、案内板、誘導灯等を点灯させることもできる。
また、本発明の積層発電体は、それ自体が振動等の外力変化を検知するセンサとして用いることもできる。例えば、敷地や通路などに積層発電体を設置し、不審人物が侵入した際の振動で発電させ、不審人物侵入情報を送信するセキュリティシステムに使用することもできる。
また、本発明は、車両や航空機、人、動物などのそれ自体が振動する移動体に適用することもできる。例えば、自動車の車体やサスペンション、タイヤ(タイヤのゴム内部あるいはゴム内面、ホイール部など)などに積層発電体を設置し、発電した電力で、各種センサを駆動させることもできる。また、得られる電力が大きい場合には、自動車の二次電池への補助充電用の電源としても使用できる。同様に、鉄道車両の車体、車両内部、車輪、ダンパー部、サスペンションなどに適用し、各種センサを駆動させて車両各部の健全性を監視するシステム用の電源、車内照明、非常灯、広告用表示パネル等の(補助)電源として使用することもできる。
また、車両等の座席に積層発電体を設置し、人が着座した際または着座中の振動によって発電させ、人の着座を検知し、運転席や操縦席に情報を知らせるシステムのセンサおよび電源として使用することもできる。
また、ビルや工場、住宅等の建築構造物あるいは建築構造物に内包される構造物に積層発電体を適用することもできる。例えば、上述の建築構造物は、地面の振動、風の影響、内部の人の移動、内部に設置された機械装置(例えば、モータなどの回転機や工場内の生産設備、エレベータやエスカレータなどの昇降機、空調ファンなど)が作動する際の振動等を受けて、それ自体が振動する。したがって、このような振動を受けやすい部位に積層発電体を設置して発電させ、非常用電源や各種センサや通信用電源等の駆動電源として使用することもできる。
また、上述の建築構造物の免震構造に積層発電体を適用することもできる。免震構造は、一般的に剛性を有する硬質板とゴム層とが交互に積層した免震ゴム積層体で構成される。そのため、例えば、免震ゴム積層体における硬質板とゴム層との間に本発明の積層発電体を構成する振動発電体を介在させて新たな積層発電体を構成することで、免震効果と発電効果の双方を得ることができる。この場合、積層発電体に用いられる支持部材2としては、例えば免震積層体を構成するゴム部材を用いることができる。また、免震ゴム積層体に本発明の積層発電体を積層することによっても、免震効果と発電効果の双方を得ることができる。
また、本発明の積層発電体を、パソコンや携帯電話、リモコンなどの携帯用電子機器や、タッチパネルやキーボード、プッシュボタンなどの入力装置にも適用することができる。例えば、パソコンや携帯電話などの携帯用電子機器の筐体に積層発電体を設置し、それらの機器の運搬時や使用時の振動によって発電させ、二次電池への補助充電用電源等に用いることもできる。また、入力装置の振動によって発電させ、入力情報を親局等に送信するシステムの電源としても使用することができる。
また、例えば、屋外の常時強風が得られる場所や空調ダクト内、排気ダクト内、トンネル内などの風が得られる場所や、自転車、バイク、自動車、鉄道車両などによる風が得られる場所や、電柱、信号機、道路標識、ガードレールなどの風が得られる場所へ、本発明の積層発電体を適用することもできる。この場合には、積層発電体に直接風を当てることによって積層発電体に外力、振動を作用させて発電させてもよいし、積層発電体の設置対象物が風を受けて振動し、その際の設置対象物の振動を積層発電体に付与する構造として発電を得てもよい。そこで得られた積層発電体からの電力によって、周囲の状態を感知、計測するセンサを駆動させることができる。また、センサで得られた情報を送信する情報収集システムや監視システムの電源として使用することができる。また、道路上、道路脇、トンネル内や工事現場などに位置表示や注意喚起等を含む情報伝達の目的で設置される発光標識の電源として用いることもできる。
また、例えば、河川、工業用水、農業用水、下水、水道水などの水流のある場所や、排水管内、配水管内などに本発明の積層発電体を設置することもできる。この場合には、積層発電体に直接水流を当てることによって積層発電体に外力、振動を作用させて発電させてもよいし、積層発電体の設置対象物が水流を受けて振動し、その際の設置対象物の振動を積層発電体に付与する構造として発電を得てもよい。そこで得られた積層発電体からの電力によって、水や配管の温度、流量、配管の振動加速度、水流周囲の温度、湿度、明るさ、風速などの気象情報などを感知、計測するセンサを駆動させることができる。また、センサで得られた情報を送信する情報収集システムや監視システムの電源として使用することができる。
また、例えば、防波堤や海岸、岸壁、ブイ、船舶等の波力を受ける場所や、潮力や海流が大きな海底部や海中部などに本発明の積層発電体を適用することもできる。この場合には、積層発電体に直接波力を作用させることによって積層発電体に外力、振動を付与して発電してもよいし、積層発電体の設置対象物が波力を受けて振動し、その際の設置対象物の振動を積層発電体に付与する構造として発電を得てもよい。そこで得られた積層発電体からの電力によって、海水温、海流の流速や方向、波高さ、海上や海岸周辺の温度、湿度、明るさ、風速などの気象情報などを感知、計測するセンサを駆動させることができる。また、センサで得られた情報を送信する情報収集システムや監視システムの電源として使用することができる。さらに、養殖場などで利用する電源や、ブイや灯台などに搭載される発光標識等の電源として適用することもできる。
また、野営活動や、停電時等の電力を得にくい環境や状態に対する非常用電源としても適用することができる。
(実施例)
図7(a)の積層発電体の発電量について評価した。用いる振動発電体1としては、図2(a)に示す構造のものを用いた。振動発電体1のサイズは、300mm×300mm×0.4mmとした。また、電極には、厚さ12μmのアルミニウム箔からなる導体層6を、厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムからなる樹脂層8に熱溶着によって接合したものを用いた。エレクトレット誘電体3としては、ポリプロピレン(PP)フィルム全体を、コロナ放電によって略均一に帯電処理を行ったものを用いた。なお、エレクトレット誘電体3の両表面間の電位差は約200Vであった。
電極5a、5bとエレクトレット誘電体3は、絶縁性の接着剤により接合した。一方の電極5aのアルミニウム箔側(導体層)とエレクトレット誘電体3とは、全面で接着した。他方の電極5bのアルミニウム箔側(導体層)とエレクトレット誘電体3とは、接着剤(接合部7)を縦横に等間隔でマスクパターンを用いてドット状に配列塗布することによって、部分的に接着した。電極5bとエレクトレット誘電体3との間の接着剤で接着されていない部位は、非接合部9となる。なお、接着剤(接合部7)は、直径約1mmで、厚みは100μmとし、約10mm間隔で配置した。
支持部材2としては、大きさが約300mm×300mm×約2mmのシリコーンゴムシートを用いた。剛性板13としては、大きさが約300mm×300mm×約10mmのベークライト(登録商標)板を用いた。ここで、支持部材2および剛性板13の大きさ(面積)は、振動発電体1と略同じである。振動発電体1を5枚用いて、振動発電体1同士の間に支持部材2を介在させて積層し、剛性板と振動発電体との間にも支持部材2を介在させて積層発電体10bを製作した(振動発電体1は5層積層)。また、振動発電体1と支持部材2とは、支持部材2として用いたシリコーンゴムが有する吸着性を利用して接合した。
(比較例)
支持部材2を設けない以外は、実施例1と同様の構成とした。
振動発電体の電極とエレクトレット誘電体との間に形成されるエアギャップ長は、電極やエレクトレット誘電体の撓みなどの影響によって均一ではない。また、振動発電体全体にわたってエアギャップ長の分布を知ることは困難である。しかし、平均的なエアギャップ長は、振動発電体の電極間に形成される静電容量を測定することで評価することができる。そこで、積層発電体を構成する5層の振動発電体を上から順に、振動発電体A〜Eとし、体重約60kgの人が積層発電体に載る前(荷重付与前)、載った時(荷重付与時)及び降りた時(荷重除去後)のそれぞれの状態に対して積層発電体を構成する各振動発電体の静電容量を測定し、これにより各状態での振動発電体A〜Eの平均エアギャップ長とそれらの状態変化によるエアギャップ長の変化量を評価した。結果を表1に示す。
実施例、比較例ともに、人が載る前(荷重付与前)の各振動発電体の平均エアギャップ長は、約40μmであった。この状態から、積層発電体に人が載ると(荷重付与時)、各振動発電体の平均エアギャップ長は、実施例では約4μmであったのに対し、比較例では約33μmであった。また、再び人が降りた状態(荷重除去後)の各振動発電体の平均エアギャップ長は、実施例、比較例ともに、荷重付与前と同等となった。
このように、支持部材を有する実施例では、荷重の付与と除去の際に、平均エアギャップ長が大きく変化するのに対し、比較例では、その変化が小さいものとなった。このように、振動発電体同士の間に支持部材を介在させることで、平均エアギャップ長の変化量が大きくなった。
次に、実際に、図12に示した構成の発電システムを構築して積層発電体の発電出力を評価した。実施例、比較例ともに、各層の振動発電体A〜Eのそれぞれに4つのダイオードからなる全波整流回路を接続し、それらを極性を揃えて並列に接続した回路に、10μFのコンデンサからなる蓄電回路に接続した。体重約60kgの人が、1秒に1回の割合で積層発電体への昇降を繰り返し、コンデンサに充電される充電電圧の時間変化から、それぞれの発電出力を評価した。その結果、実施例の発電出力に対して、比較例の発電出力は10%以下となった。このように、支持部材を介在させて振動発電体を積層することで、発電出力を著しく向上させることができた。
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、前述した各実施形態で示したそれぞれの積層発電体は、複数の振動発電体を積層したものであったが、本発明はこれに限られない。例えば、図14(a)に示すように、1枚の振動発電体1を交互に折り畳んで積層発電体12を構成することもできる。積層発電体12は、折り返された各層の振動発電体1の間と最外部の振動発電体1の外表面に、支持部材2が略全面に設けられ、支持部材2と各層の振動発電体1が接合される。図14(a)の実施形態は、図1(a)の実施形態の変形例と言える。
また、図14(b)に示した積層発電体12aのように、芯材16の外周を覆うように支持部材2を設け、前記支持部材2の外周に1枚の振動発電体1を複数周巻付けることで振動発電体1を積層してもよい。この場合にも、複数周巻き付けて積層される振動発電体1の層間に支持部材2を略全面に介在させることで積層発電体12aを構成することができる。なお、芯材16は、振動体であってもよく、または、他の外力が付与される部位であってもよい。このような図14(b)の実施形態も、図1(a)の実施形態の変形例と言える。このように、1枚の振動発電体1を複数層に積層した積層発電体12、12aによっても、前述した他の積層発電体と同様の効果を得ることができる。なお、積層発電体12、12aにおいて、支持部材2は、振動発電体1の全面に設けられても良く、図9等の実施形態に示したように、振動発電体1の一部に設けられても良い。また、積層発電体12、12aの積層数(折り畳み回数や、巻付け回数)は、図示した例に限られず、適宜設計することができる。