以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。図1に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
超音波プローブ1は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
なお、第1の実施形態は、超音波プローブ1が、被検体Pを2次元で走査する1Dアレイプローブであっても、被検体Pを3次元で走査するメカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブであっても適用可能である。
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有する。入力装置3は、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。図1に示す装置本体10は、2次元の反射波信号に基づいて2次元の超音波画像データを生成可能であり、3次元の反射波信号に基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。ただし、第1の実施形態は、装置本体10が、2次元データ専用の装置である場合であっても適用可能である。
装置本体10は、図1に例示するように、送受信部11と、Bモード処理部12と、ドプラ処理部13と、画像生成部14と、画像メモリ15と、内部記憶部16と、制御部17とを有する。
送受信部11は、後述する制御部17の指示に基づいて、超音波プローブ1が行なう超音波送受信を制御する。送受信部11は、パルス発生器、送信遅延部、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延部は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。
すなわち、送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。また、送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、超音波送信の深さ方向における集束点(送信フォーカス)の位置を制御する。なお、第1の実施形態に係る送受信部11は、所定のフォーカスレートで、同一スキャンライン上にて、送信フォーカス点の深度を変えて超音波ビームを複数回送信する多段フォーカス(multi focusing)を実行可能であっても良い。多段フォーカスを行なう場合、送受信部11が有する送信遅延部は、各送信フォーカス点の深度に応じた送信遅延時間を算出してパルサ回路に与える。
なお、送受信部11は、後述する制御部17の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
例えば、第1の実施形態に係る送受信部11は、後述する制御部17から通知された波形の送信超音波が、超音波プローブ1から送信されるように制御する。或いは、例えば、第1の実施形態に係る送受信部11は、後述する制御部17から通知された情報から、送信波形を計算し、計算した波形の送信超音波が、超音波プローブ1から送信されるように制御する。
また、送受信部11は、アンプ回路、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延回路、加算器、直交検波回路等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。受信遅延回路は、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により受信遅延時間が与えられた反射波信号の加算処理を行う。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。そして、直交検波回路は、加算器の出力信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-pahse)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。そして、直交検波回路は、I信号及びQ信号(以下、IQ信号と記載する)を反射波データとして図示しないフレームバッファに格納する。なお、直交検波回路は、加算器の出力信号を、RF(Radio Frequency)信号に変換した上で、図示しないフレームバッファに格納してもよい。
送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
Bモード処理部12及びドプラ処理部13は、送受信部11が反射波信号から生成した反射波データに対して、各種の信号処理を行なう信号処理部である。Bモード処理部12は、送受信部11から反射波データを受信し、対数増幅、包絡線検波処理等を行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。また、ドプラ処理部13は、送受信部11から受信した反射波データから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流や心壁等の組織、造影剤である。Bモード処理部12やドプラ処理部13は、上述したフレームバッファを介して反射波データを取得する。
なお、図1に例示するBモード処理部12及びドプラ処理部13は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。すなわち、Bモード処理部12は、2次元の反射波データから2次元のBモードデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のBモードデータを生成する。また、ドプラ処理部13は、2次元の反射波データから2次元のドプラデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のドプラデータを生成する。
ここで、図1に例示するように、Bモード処理部12は、合成部121とBモードデータ生成部122とを有する。Bモードデータ生成部122は、反射波データに対して、対数増幅、包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。通常のBモード撮影が行なわれている場合、合成部121による処理は実行されず、Bモードデータ生成部122は、送受信部11から受信した反射波データからBモードデータを生成する。
一方、位相変調法(PM:Phase Modulation)や、振幅変調法(AM:Amplitude Modulation)、位相振幅変調法(AMPM)によるハーモニックイメージングが行なわれている場合、Bモードデータ生成部122は、合成部121が出力したデータからBモードデータを生成する。なお、合成部121の処理については、後に詳述する。
画像生成部14は、Bモード処理部12及びドプラ処理部13が生成したデータから超音波画像データを生成する。画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した2次元のドプラデータから移動体情報を表す2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。
ここで、画像生成部14は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部14は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部14は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部14は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部14が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。画像生成部14は、スキャンコンバート処理前の2次元超音波画像データから、表示用の2次元超音波画像データを生成する。
更に、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。画像生成部14は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
更に、画像生成部14は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対して各種レンダリング処理を行なう。画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。
画像メモリ15は、画像生成部14が生成した表示用の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ15は、Bモード処理部12やドプラ処理部13が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ15が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部14を経由して表示用の超音波画像データとなる。また、画像メモリ15は、送受信部11が出力した反射波データを記憶することも可能である。
内部記憶部16は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部16は、必要に応じて、画像メモリ15が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部16が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部装置へ転送することができる。また、内部記憶部16は、外部装置から図示しないインターフェースを経由して転送されたデータを記憶することも可能である。なお、第1の実施形態に係る内部記憶部16に格納される情報については、後に詳述する。
制御部17は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部17は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部16から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部12、ドプラ処理部13及び画像生成部14の処理を制御する。また、制御部17は、画像メモリ15や内部記憶部16が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。ここで、第1の実施形態に係る制御部17は、図1に例示するように、取得部171と調整部172とを有する。取得部171及び調整部172は、後述する差音成分を用いた映像化法が行なわれている場合に、送受信部11を制御するために制御部17に設置される。取得部171及び調整部172については、後に詳述する。
なお、装置本体10に内蔵される送受信部11等は、集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたプログラムである場合もある。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、例えば、組織ハーモニックイメージング(Tissue Harmonic Imaging:THI)法を、パルスインバージョン(Pulse Inversion)法であるPM法により行なう。THI法は、受信信号に含まれる高調波成分(例えば、2次高調波成分)を用いて映像化を行なう方法である。
例えば、送受信部11は、制御部17が設定したスキャンシーケンスにより、中心周波数が「f」である基本波の超音波を、位相を反転させながら各走査線で2回送信させる。一例を挙げると、送受信部11は、1本の走査線で、中心周波数が「f」の超音波を2回送信させる際に、1回目の送信超音波の極性と2回目の送信超音波の極性とを反転させる。これにより、送受信部11は、1本の走査線にて、2つの反射波データを生成する。ここで、1回目の送信「+1」により得られる反射波データを「r(+1)」とし、2回目の送信「−1」により得られる反射波データを「r(−1)」とする。
かかる場合、基本波に由来する基本波成分の極性は、「r(+1)」と「r(−1)」とで反転している。一方、中心周波数が「2f」である2次高調波に由来する2次高調波成分の極性は、「r(+1)」と「r(−1)」と同じである。そこで、合成部121は、「r(+1)」と「r(−1)」とを加算して、合成信号(合成データ)を生成する。この合成信号(合成データ)では、基本波成分が除去され、2次高調波成分が主に残存したハーモニック信号となる。Bモードデータ生成部122は、合成部121が生成した合成データからBモードデータを生成し、画像生成部14は、このBモードデータから超音波画像データ(Bモード画像データ)を生成する。高調波成分の帯域幅は、基本波成分の帯域幅より狭いため、上記の方法で得られるBモード画像データの方位分解能は、通常のBモード画像データより高くなる。
しかし、高調波成分の帯域幅が狭いため、或いは、高調波受信により深部領域における「penetration」が不足するため、上記の方法では、距離分解能は、改善されない場合がある。
そこで、近年、方位分解能及び距離分解能の高いBモード画像データを得るTHI法として、受信信号に含まれる2次高調波成分と差音成分とを用いて映像化を行なう方法が実用化されている。以下、この方法を、差音成分を用いた映像化法と記載する。差音成分を用いた映像化法では、中心周波数の異なる2つの基本波を合成した波形の超音波を、各走査線で位相反転しながら複数回送信し、これらの受信信号を合成する。図2は、差音成分を用いたTHI法を説明するための模式図である。なお、図2の横軸は、周波数(単位:MHz)を示し、図2の縦軸は、信号強度(単位:dB)を示す。
例えば、差音成分を用いた映像化法で用いられる2つの基本波を、中心周波数が「f1」の第1基本波と、中心周波数が「f1」より大きい「f2」の第2基本波とする。送受信部11は、第1基本波の波形と第2基本波の波形とを合成した合成波形の送信超音波を、超音波プローブ1から送信させる。この合成波形は、2次高調波成分と同一の極性を持つ差音成分が発生するように、互いの位相が調整された第1基本波の波形と第2基本波の波形とを合成した波形である。この位相条件は、制御部17により調整される。以下、2次高調波成分と同一の極性を持つ差音成分を発生させるための位相条件を、同一極性位相条件と記載する。
第1基本波と第2基本波との合成波形の送信超音波による受信信号には、図2に模式的に示すように、中心周波数が「f1」である第1基本波に由来する第1基本波成分と、中心周波数が「f2」である第2基本波に由来する第2基本波成分とが含まれる。また、受信信号には、図2に模式的に示すように、中心周波数が「2f1」である2次高調波に由来する2次高調波成分と、中心周波数が「2f2」である2次高調波に由来する2次高調波成分とが含まれる。
そして、中心周波数の異なる2つの基本波を用いた場合、受信信号には、図2に模式的に示すように、第2基本波と第1基本波との差音「f2−f1」に由来する差音成分とが含まれる。なお、図2に模式的に示す「DC」は、受信信号の非線形成分(ハーモニック成分)の中で、「0次」の項に対応する成分である。
ここで、送受信部11は、合成波形の送信超音波を、位相を反転させながら複数回(例えば、2回)送信させる。例えば、送受信部11は、1本の走査線で、合成波形の送信超音波を2回送信させる際に、1回目の送信超音波の極性と2回目の送信超音波の極性とを反転させる。これにより、送受信部11は、1本の走査線にて、2つの反射波データを生成する。ここで、1回目の送信「+1」により得られる反射波データを「R(+1)」とし、2回目の送信「−1」により得られる反射波データを「R(−1)」とする。
かかる場合、第1基本波成分の極性と、第2基本波成分の極性とは、「R(+1)」と「R(−1)」とで反転している。一方、2次高調波「2f1」に由来する2次高調波成分の極性と、2次高調波「2f2」に由来する2次高調波成分の極性と、差音「f2−f1」に由来する差音成分の極性とは、「R(+1)」と「R(−1)」とで同じである。そこで、合成部121は、「R(+1)」と「R(−1)」とを加算して、合成信号(合成データ)を生成する。この合成信号(合成データ)では、基本波成分が除去され、差音成分及び2次高調波成分が主に残存したハーモニック信号となる。
また、合成部121は、2次高調波「2f2」に由来する2次高調波成分及び「DC」を、フィルタ処理により合成信号(合成データ)から除去する。或いは、例えば、制御部17は、2次高調波「2f2」に由来する2次高調波成分の周波数帯域を、超音波プローブ1が受信可能な周波数帯域外となるように設定する。かかる場合、反射波データには、「2f1」に由来する2次高調波成分が含まれないので、合成部121は、「DC」を、フィルタ処理により合成信号(合成データ)から除去する。これにより、合成部121は、「f2−f1」の差音成分と、「2f1」の2次高調波成分とが抽出された合成データ(合成ハーモニック信号)を抽出する。
そして、合成部121が出力した合成データからBモードデータを生成し、画像生成部14は、このBモードデータから超音波画像データ(Bモード画像データ)を生成する。
合成部121が出力した合成データは、低い周波数側の2次高調波成分と差音成分とを含む合成ハーモニック信号となり、従来のTHI法で得られる信号より広帯域なハーモニックエコーとなる。差音成分を用いた映像化法では、この合成ハーモニック信号を用いて映像化を行なうことで、空間分解能(方位分解能及び距離分解能)が高いBモード画像データを得ることができる。
なお、差音成分を用いた映像化法では、「f1」及び「f2」の値は、映像化される周波数帯域に応じて、制御部17により調整される。例えば、「f1=f」として、「2f」を中心とする広帯域な周波数帯域での映像化を行なう場合、「f2」の値は、「f2=3×f」に調整される。また、例えば、「f1=f」として、「2f」より高周波側の周波数を中心とする広帯域な周波数帯域での映像化を行なう場合、「f2」の値は、「3×f」より大きい値、例えば、「f2=3.5×f」に調整される。また、例えば、「f1=f」として、「2f」より低周波側の周波数を中心とする広帯域な周波数帯域での映像化を行なう場合、「f2」の値は、「3×f」より小さい値、例えば、「f2=2.5×f」に調整される。
ここで、差音成分を用いた映像化法により距離分解能の高いBモード画像を得るためには、合成ハーモニック信号の周波数特性が広帯域になるように、中心周波数の異なる2つの基本波それぞれの振幅のレベルを調整する必要がある。超音波プローブ1から送信される超音波は、超音波プローブ1の振動子面から遠くなるほど、また、中心周波数が高いほど減衰する。差音成分を用いた映像化法では、中心周波数の異なる2つの基本波を用いるため、深部からの受信信号の強度は、基本波間で異なる。このため、差音成分を用いた映像化法では、映像化に用いる2つの基本波それぞれの周波数減衰特性に応じて、これら2つの基本波それぞれの振幅のレベルを調整する必要がある。
更に、周波数減衰特性は、被検体Pの撮影部位ごとに異なる。また、周波数減衰特性は、同一の撮影部位であっても、患者間で異なる。また、周波数減衰特性は、同一の被検体Pの撮影部位であっても、撮影時期により異なる場合がある。このように、周波数減衰特性は、撮影部位ごとに異なる。上記のレベル調整は、映像化に用いる2つの基本波それぞれの周波数減衰特性だけでなく、走査対象の周波数減衰特性も考慮する必要がある。
仮に、同一極性位相条件下で、「f1」の第1基本波の振幅と、「f2」の第2基本波の振幅とが「1:1」となる合成波形の送信超音波を、位相を反転しながら送信を2回行なったとする。かかる場合、合成部121が出力する合成ハーモニック信号の周波数特性は、走査対象の周波数減数係数により異なる。これについて、図3を用いて具体的に説明する。図3は、差音成分を用いた従来の映像化法の課題を説明するための図である。
図3の(A)及び(B)の横軸は、周波数(単位:MHz)を示し、図3の(A)及び(B)の縦軸は、信号強度(単位:dB)を示す。また、図3の(A)及び(B)では、合成ハーモニック信号の周波数特性を実線で示している。なお、図3の(A)及び(B)では、合成部121が「R(+1)」から「R(−1)」を減算した場合の減算データの周波数特性を点線で示している。減算データは、差分成分と2次高調波成分とが除去され、第1基本波成分と第2基本波成分とが主に残存したデータとなる。
周波数減衰係数が「−0.5dB/MHz/cm」と低い場合、合成ハーモニック信号は、図3の(A)の実線に例示するように、1MHzから4.5MHzに渡る広帯域な周波数特性となる。かかる場合、画像生成部14は、空間分解能の高い超音波画像データを生成することができる。
一方、周波数減衰係数が「−0.5dB/MHz/cm」より高い場合、合成ハーモニック信号は、図3の(B)の実線に例示するように、4MHz付近の2次高調波成分が低いために、中心周波数が低く、かつ、帯域も狭い周波数特性となる。かかる場合、画像生成部14が生成する超音波画像データの空間分解能は、低下する。
更に、第2基本波の振幅「A(f2)」に対する第1基本波の振幅「A(f1)」の比率「A(f1)/A(f2)」を高くすると、合成ハーモニック信号では、2次高調波成分が増加する。また、第1基本波の振幅に対する第2基本波の振幅の比率「A(f2)/A(f1)」を高くすると、差音成分が増加する。このように、上記のレベル調整は、容易ではなく、差音成分を用いた従来の映像化法では、周波数減衰特性の違いにより画質が低下する場合があった。
そこで、第1の実施形態では、差音成分と2次高調波とを用いて得られる画像の画質を、周波数減衰特性の違いによらず安定化させるために、図1に例示する取得部171及び調整部172は、以下に説明する処理を行なう。
すなわち、取得部171は、撮影部位の周波数減衰特性に関連する関連情報を取得する。そして、調整部172は、第1基本波の振幅と第1基本波の中心周波数より大きい中心周波数の第2基本波の振幅との比率を上記関連情報に応じて変更する。これにより、調整部172は、第1基本波と第2基本波との合成超音波の波形を調整する。
そして、送受信部11は、合成超音波(調整後の波形の送信超音波)を、位相を反転させながら複数回送信させて、複数の反射波データを生成する。そして、合成部121は、複数の反射波データを合成して、第1基本波と第2基本波との差音成分と第1基本波の2次高調波成分とが抽出された合成データを生成する。
具体的には、送受信部11は、各走査線で、合成波形の送信超音波を2回送信させる。この際、送受信部11は、1回目の送信超音波の極性と2回目の送信超音波の極性とを反転させる。これにより、送受信部11は、各走査線にて、2つの反射波データを生成する。そして、合成部121は、2つの反射波データを加算して、合成ハーモニック信号である合成データを生成する。そして、画像生成部14は、合成データを用いて、超音波画像データを生成する。
上記の処理を行なうため、第1の実施形態に係る内部記憶部16には、以下に説明する2つの情報のいずれかが格納される。例えば、内部記憶部16は、第1基本波の振幅と第2基本波の振幅との比率を、周波数減衰係数と関連付けて記憶する。この比率は、帯域幅が最大となる合成データが得られる最適比率であり、最適比率は、周波数減衰係数が異なるファントム等を用いて、予め算出される値である。
或いは、第2情報として、内部記憶部16は、最適比率により第1基本波と第2基本波とを合成した波形(最適波形)を、周波数減衰係数と関連付けて記憶する。このように、第1の実施形態に係る内部記憶部16は、周波数減衰係数に応じた最適比率、又は、周波数減衰係数に応じた最適波形を記憶する。なお、内部記憶部16は、例えば、第1基本波の中心周波数「f1」の値と、第2基本波の中心周波数「f2」の値との組み合わせごとに、最適比率又は最適波形を記憶する。或いは、例えば、中心周波数の値に対して複数の区間を設定しておき、内部記憶部16が、これら区間の組み合わせごとに、同一極性位相条件下で算出された最適比率又は最適波形を記憶する場合であっても良い。
図4は、第1の実施形態に係る内部記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。図4の(A)に示す一例は、映像化される周波数帯域に応じて調整された値の「f1」及び「f2」での、周波数減衰係数に応じた最適比率のテーブルである。また、図4の(B)に示す一例は、映像化される周波数帯域に応じて調整された値の「f1」及び「f2」での、周波数減衰係数に応じた最適波形のテーブルである。
図4の(A)は、第1基本波の振幅を「A1」とし、第2基本波の振幅を「A2」とし、最適比率を「A1/A2」と定義した場合を例示している。かかる場合、例えば、内部記憶部16は、図4の(A)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P≦P1」である場合の最適比率を「R1」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(A)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P1<P≦P2」である場合の最適比率を「R2」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(A)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P2<P≦P3」である場合の最適比率を「R3」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(A)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P3<P≦P4」である場合の最適比率を「R4」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(A)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P4<P≦P5」である場合の最適比率を「R5」と記憶する。最適比率を「A1/A2」と定義した場合、最適比率の値は、周波数減衰係数が高くなるほど、小さくなる。
或いは、例えば、内部記憶部16は、図4の(B)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P≦P1」である場合の最適波形「WF」を、最適比率「R1」に基づく「WF(R1)」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(B)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P1<P≦P2」である場合の最適波形「WF」を、最適比率「R2」に基づく「WF(R2)」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(B)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P2<P≦P3」である場合の最適波形「WF」を、最適比率「R3」に基づく「WF(R3)」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(B)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P3<P≦P4」である場合の最適波形「WF」を、最適比率「R4」に基づく「WF(R4)」と記憶する。また、例えば、内部記憶部16は、図4の(B)に示すように、周波数減衰係数「P」が「P4<P≦P5」である場合の最適波形「WF」を、最適比率「R5」に基づく「WF(R5)」と記憶する。
なお、上記の最適波形「WF」は、詳細には、第1基本波及び第2基本波の中心周波数と、同一極性位相条件と、最適比率とに基づく波形である。最適波形は、最適比率から、第1基本波及び第2基本波の中心周波数と、同一極性位相条件とにより、撮影前に調整部172により自動生成され内部記憶部16に格納される場合であっても良い。
そして、第1の実施形態に係る取得部171は、撮影部位の周波数減衰特性に関連する関連情報として、当該撮影部位の周波数減衰係数を取得する。ここで、第1の実施形態に係る取得部171は、以下に説明する2つの方法により、撮影部位の周波数減衰係数を取得する。
第1方法では、取得部171は、撮影部位の周波数減衰係数の指定を操作者から受け付ける。すなわち、第1方法では、操作者は、被検体Pの撮影部位の周波数減衰係数を、入力装置3を介して入力する。第1方法では、周波数減衰係数が手動で設定される。図5は、第1の実施形態に係る取得部が行なう第1方法の一例を示す図である。例えば、操作者は、入力装置3を介して、周波数減衰係数「P5」を入力する。これにより、取得部171は、図5に示すように、周波数減衰係数「P5」を取得する。
一方、第2方法では、被検体Pの撮影部位の周波数減衰係数が自動的に設定される。すなわち、第2方法では、取得部171は、撮影部位に対して第1基本波及び第2基本波の送信を行ない、得られた各々の反射波データに基づいて、撮影部位の周波数減衰係数を取得する。一例として、取得部171は、被検体Pの撮影前に、撮影部位に対して送信された第1基本波及び第2基本波の反射波データに基づいて、撮影部位の周波数減衰係数を取得する。例えば、取得部171の制御により、送受信部11は、同一極性位相条件下で、「f1」の第1基本波の振幅と「f2」の第2基本波の振幅とが「1:1」となる合成波形の送信超音波を、位相を反転しながら2回送信させる。これにより、送受信部11は、各走査線で、2つの反射波データを生成する。そして、合成部121は、2つの反射波データを減算した減算データを生成する。
この減算データは、上述したように、第1基本波成分と第2基本波成分とが抽出されたデータとなる。従って、取得部171は、減算データの周波数特性を解析することで、第1基本波成分の信号強度と第2基本波成分の信号強度とを取得することができる。すなわち、第2方法では、同一極性位相条件下で2つの基本波の振幅比率を「1:1」とした合成波形を用いたパルスインバージョン法を行ない、2つの基本波成分が抽出された減算データを合成部121に生成させる。
図6は、第1の実施形態に係る取得部が行なう第2方法の一例を示す図である。図6では、深さ方向の異なる2つのサンプル点それぞれの減算データの周波数特性を、実線と点線とで示している。図6に例示する点線の周波数特性に対応するサンプル点は、図6に例示する実線の周波数特性の対応するサンプル点より深部に位置する。図6に例示するように、第1基本波成分「f1」の信号強度は、深部ほど低く、第2基本波成分「f2」の信号強度は、深部ほど低い。一方、図6に例示するように、深さ方向での第1基本波成分「f1」の信号強度の減衰は、深さ方向での第2基本波成分「f2」の信号強度の減衰より小さい。
取得部171は、深さ方向に沿った複数のサンプル点それぞれの減算データの周波数特性から、第1基本波成分「f1」の信号強度の減衰率と、第2基本波成分「f2」の信号強度の減衰率とを収集する。これにより、取得部171は、第1基本波の中心周波数が「f1」であり、第2基本波の中心周波数が「f2」である場合の撮影部位の周波数減衰係数を取得する。
なお、取得部171は、例えば、撮影部位の中心に位置する1本の走査線で、周波数減衰係数取得用の超音波送受信を実行させることにより生成された1つの減算データから、撮影部位の周波数減衰係数を取得する。或いは、取得部171は、例えば、本撮影で撮影部位全体を走査するために用いられる全走査線の一部の複数の走査線で、周波数減衰係数取得用の超音波送受信を実行させて、複数の減算データを生成させる。そして、取得部171は、例えば、複数の減算データそれぞれから各走査線での周波数減衰係数を取得し、取得した複数の周波数減衰係数を平均することで、撮影部位の周波数減衰係数を取得する。或いは、取得部171は、例えば、全走査線で周波数減衰係数取得用の超音波送受信を実行させても良い。
そして、調整部172は、取得部171が取得した周波数減衰係数に対応する比率(最適比率)を、内部記憶部16から特定する。そして、送受信部11は、調整部172が特定した比率(最適比率)により第1基本波と第2基本波とを合成した送信超音波を送信させる。上記の処理は、送受信部11が、周波数、位相、振幅等の情報から送信波形を計算可能である場合に行われる。
例えば、取得部171が取得した周波数減衰係数が「P5」であった場合、調整部172は、図4の(A)に例示する内部記憶部16から、最適比率が「R5」であると特定する。そして、調整部172は、最適比率「R5」を送受信部11に通知する。送受信部11は、第1基本波及び第2基本波の中心周波数と同一極性位相条件と最適比率「R5」とから送信波形を計算し、計算した送信波形(合成波形)の送信超音波を、位相を反転させながら2回送信させる。
或いは、調整部172は、取得部171が取得した周波数減衰係数に対応する波形(最適波形)を、内部記憶部16から特定する。そして、送受信部11は、調整部172が特定した波形(最適波形)の送信超音波を送信させる。上記の処理は、送受信部11が、送信波形を計算不可である場合に行なわれる。
例えば、取得部171が取得した周波数減衰係数が「P5」であった場合、調整部172は、図4の(B)に例示する内部記憶部16から、最適波形が「WF(R5)」であると特定する。そして、調整部172は、最適波形「WF(R5)」を送受信部11に通知する。これにより、送受信部11は、最適波形「WF(R5)」の送信超音波を、位相を反転させながら2回送信させる。
そして、合成部121は、送受信部11が生成した2つの反射波データを加算することで、合成データを生成する。Bモードデータ生成部122は、各走査線の合成データから、1フレーム分のBモードデータを生成し、画像生成部14は、1フレーム分のBモードデータからBモード画像データを生成する。
図7は、第1の実施形態に係る調整部の処理により得られる合成ハーモニック信号の周波数特性の一例を示す図である。図7は、図3の(B)に示す周波数減衰係数を有する撮影部位に対して、上記の処理を行なった場合の、合成ハーモニック信号(合成データ、加算データ)の周波数特性を実線で示している。なお、図7では、減算データの周波数特性を点線で示している。
図7に示すように、合成ハーモニック信号の周波数特性は、図3の(B)に示す合成ハーモニック信号の周波数特性と比較して、広帯域となっている。図7に示す合成ハーモニック信号から生成されたBモードデータを用いることで、画像生成部14は、空間分解能の高いBモード画像データを生成することができる。
次に、図8を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例について説明する。図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。なお、図8では、取得部171が、第2方法、すなわち、周波数減衰係数取得用の超音波送受信を実行させ、調整部172が内部記憶部16から最適波形を特定する場合に行なわれる処理を例示している。
図8に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置の取得部171は、差音成分を用いた映像化法による撮影要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS101)。ここで、撮影要求を受け付けない場合(ステップS101否定)、取得部171は、要求を受け付けるまで待機する。
一方、差音成分を用いた映像化法による撮影要求を受け付けた場合(ステップS101肯定)、取得部171は、周波数減衰係数取得用の超音波送受信を実行させる(ステップS102)。なお、制御部17は、ステップS102の前に、例えば、操作者から設定された映像化周波数帯域に応じて、第1基本波及び第2基本波の中心周波数及び同一極性位相条件を設定する。
そして、取得部171は、減算データの周波数特性を解析することで、撮影部位の周波数減衰係数を取得する(ステップS103)。そして、調整部172は、取得部171により取得された周波数減衰係数に対応する波形を特定する(ステップS104)。調整部172は、特定した波形(特定波形)を送受信部11に通知する。
そして、送受信部11の制御により、超音波プローブ1は、特定波形、すなわち、最適波形の送信超音波による超音波送受信を実行する(ステップS105)。例えば、超音波プローブ1は、特定波形の送信超音波による超音波送受信を、位相を反転させながら2回実行する。これにより、送受信部11は、2つの反射波データを生成する。
そして、合成部121は、合成データを生成する(ステップS106)。Bモードデータ生成部122は、合成データからBモードデータを生成し、画像生成部14は、超音波画像データ(Bモード画像データ)を生成する(ステップS107)。
そして、制御部17の制御により、モニタ2は、超音波画像データを表示し(ステップS108)、処理を終了する。
上述したように、第1の実施形態では、内部記憶部16は、周波数減衰係数の値に応じた最適比率や最適波形を保持する。そして、第1の実施形態では、取得部171は、手動又は自動により、撮影部位の周波数減衰係数を取得する。そして、第1の実施形態では、調整部172は、取得した撮影部位の周波数減衰係数に対応する最適比率又は最適波形を特定して、送受信部11にフィードバックする。送受信部11は、超音波プローブ1から、差音成分と2次高調波成分とが広帯域に抽出可能な超音波の送受信を超音波プローブ1に実行させる。これにより、撮影部位の周波数減衰特性が異なる場合であっても、画像生成部14は、方位分解能及び距離分解能が高い超音波画像データを常に生成することができる。従って、第1の実施形態では、差音成分と2次高調波とを用いて得られる画像の画質を、周波数減衰特性の違いによらず安定化することができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、撮影部位の周波数減衰特性に関連する関連情報として、周波数減衰係数以外の情報を用いる場合について、図9〜図11を用いて説明する。図9〜図11は、第2の実施形態を説明するための図である。
第2の実施形態に係る超音波診断装置は、図1に示す第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様に構成される。しかし、第2の実施形態では、内部記憶部16が記憶する情報と、取得部171及び調整部172が行なう制御処理とが、以下に説明するように、第1の実施形態とは異なる。
第2の実施形態に係る制御部17(取得部171、或いは、調整部172)は、被検体Pの撮影前に、送受信部11に対して以下の処理を実行させる。例えば、調整部172の指示により、送受信部11は、被検体Pの撮影前に、第1基本波と第2基本波とを、互いの振幅の比率が異なる状態で合成した複数の波形それぞれを用いた超音波送受信を、超音波プローブ1に実行させる。
例えば、第2の実施形態に係る内部記憶部16は、複数の比率を記憶する。例えば、内部記憶部16は、「A1/A2」として、10個の比率「R1、R2、・・・、R9、R10」を記憶する。これら比率の値及び数は、任意の値に変更可能である。
調整部172は、被検体Pの撮影前に、内部記憶部16から複数の比率を取得する。ここで、「f1」及び「f2」の値と、同一極性位相条件とは、調整部172が映像化周波数帯域に応じて調整済みである。調整部172は、「f1」及び「f2」の値と、同一極性位相条件と、10個の比率とを送受信部11に通知する。調整部172から通知された情報から、送受信部11は、図9に示すように、10個の合成波形「WF(R1)、WF(R2)、・・・、WF(R9)、WF(R10)」を計算する。或いは、調整部172は、10個の合成波形「WF(R1)、WF(R2)、・・・、WF(R9)、WF(R10)」を計算して、送受信部11に通知する。
送受信部11は、WF(R1)の送信超音波を、位相を反転させながら2回行なう。これにより、送受信部11は、WF(R1)に対応する2つの反射波データを生成し、合成部121は、WF(R1)に対応する合成データ(R1)を生成する。同様の処理により、合成部121は、「WF(R2)に対応する合成データ(R2)〜WF(R10)に対応する合成データ(R10)」を生成する。
このように、合成部121は、複数の波形それぞれに対応する複数の合成データを生成する。そして、取得部171は、複数の合成データそれぞれを周波数解析して、各合成データの帯域幅を、撮影部位の周波数減衰特性に関連する関連情報として取得する。
例えば、取得部171は、合成データにてピーク信号強度を検出し、ピーク信号強度から3dB落ちの信号強度となる周波数の最小値及び最大値を検出する。そして、取得部171は、最大値と最小値との差を、当該合成データの帯域幅(BW)として取得する。
これにより、取得部171は、図10に例示するように、「WF(R1)、WF(R2)、・・・、WF(R9)、WF(R10)」それぞれに対応する「BW(R1)、BW(R2)、・・・、BW(R9)、BW(R10)」を取得する。
そして、調整部172は、複数の合成データそれぞれの帯域幅のうち、帯域幅が最大となる合成データに対応する波形を特定する。例えば、調整部172は、図11に示すように、BW(R6)が最大の帯域幅となることを特定し、BW(R6)に対応する合成波形「WF(R6)」を特定する。
そして、調整部172は、特定した波形を、被検体Pを撮影するための送信超音波の波形として、送受信部11に通知する。なお、送受信部11が波形を計算可能である場合、調整部172は、特定した波形に対応する比率を送受信部11に通知する。
これにより、超音波プローブ1は、送受信部11の制御により、「WF(R6)」の送信超音波を、位相を反転させながら各走査線で2回送信する。そして、第2の実施形態でも、第1の実施形態で説明した同様の処理により、超音波画像データが生成される。
なお、振幅比率ごとの帯域幅を取得するための超音波送受信は、例えば、撮影部位の中心に位置する1本の走査線で実行される場合であっても、本撮影で撮影部位全体を走査するために用いられる全走査線の中で、一部の複数の走査線で実行される場合であっても、全走査線で実行される場合であっても良い。1本の走査線で実行される場合、取得部171は、振幅比率ごとの1つの合成データから、振幅比率ごとの帯域幅を取得する。複数本の走査線で実行される場合、取得部171は、振幅比率ごとの複数の合成データから、振幅比率ごとの平均帯域幅を取得する。かかる場合、調整部172は、平均振幅幅が最大となる波形を特定する。
また、第2の実施形態は、取得部171が、帯域幅と受信中心周波数とから算出される比帯域を関連情報として取得し、調整部172が、比帯域が最大となる波形を特定する場合であっても良い。
次に、図12を用いて、第2の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例について説明する。図12は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図12に例示するように、第2の実施形態に係る超音波診断装置の取得部171は、差音成分を用いた映像化法による撮影要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS201)。ここで、撮影要求を受け付けない場合(ステップS201否定)、取得部171は、要求を受け付けるまで待機する。
一方、差音成分を用いた映像化法による撮影要求を受け付けた場合(ステップS201肯定)、撮影要求を受け付けた旨を取得部171から通知された調整部172は、送受信部11を制御して、複数の波形ごとに、超音波送受信を実行させる(ステップS202)。なお、制御部17は、ステップS202の前に、例えば、操作者から設定された映像化周波数帯域に応じて、第1基本波及び第2基本波の中心周波数及び同一極性位相条件を設定する。
そして、合成部121は、複数の波形ごとに、合成データを生成し(ステップS203)、取得部171は、複数の合成データごとに、周波数解析を行なって、帯域幅を取得する(ステップS204)。
そして、調整部172は、帯域幅が最大となる波形を特定し(ステップS205)、特定した波形(特定波形)を送受信部11に通知する。
そして、送受信部11の制御により、超音波プローブ1は、特定波形の送信超音波による超音波送受信を実行する(ステップS206)。例えば、超音波プローブ1は、特定波形の送信超音波による超音波送受信を、位相を反転させながら2回実行する。これにより、送受信部11は、2つの反射波データを生成する。
そして、合成部121は、合成データを生成する(ステップS207)。Bモードデータ生成部122は、合成データからBモードデータを生成し、画像生成部14は、超音波画像データ(Bモード画像データ)を生成する(ステップS208)。
そして、制御部17の制御により、モニタ2は、超音波画像データを表示し(ステップS209)、処理を終了する。
上述したように、第2の実施形態では、第1基本波と第2基本波とを合成する際の振幅比率を予め複数パターン用意しておき、これら比率を用いた複数パターンの送信波形により、第1基本波の2次高調波成分と差音成分とが抽出された合成ハーモニック信号を複数得る。そして、第2の実施形態では、これらの信号を周波数解析して、最も広い帯域幅が得られる送信波形を特定し、特定した送信波形を送受信部11にフィードバックする。これにより、第2の実施形態でも、撮影部位の周波数減衰特性が異なる場合であっても、画像生成部14は、方位分解能及び距離分解能が高い超音波画像データを常に生成することができる。
なお、上記の第1及び第2の実施形態では、取得部171が、撮影部位全体の周波数減衰特性に関する関連情報を取得する場合について説明した。しかし、上記の第1及び第2の実施形態は、撮影部位を複数の区間に分割し、取得部171が、複数の区間それぞれの関連情報を取得する場合であっても良い。以下、図13及び図14を用いて、第1及び第2の実施形態に係る変形例について説明する。図13及び図14は、第1及び第2の実施形態に係る変形例を説明するための図である。
まず、第1変形例について説明する。第1変形例では、撮影部位は、1つ又は複数の走査線で分割される。例えば、第1変形例では、図13に示すように、複数本の走査線単位で、撮影部位は、6個の区間に分割される。第1の実施形態において、図13に例示する「6個の区間」が設定された場合、操作者は、「6個の区間」それぞれの周波数減衰係数を入力する。
或いは、第1の実施形態において、図13に例示する「6個の区間」が設定された場合、取得部171は、周波数減衰係数取得用の超音波送受信を、「6個の区間」それぞれで実行させる。周波数減衰係数取得用の超音波送受信は、「6個の区間」それぞれの中心に位置する1本の走査線で実行される場合であっても、「6個の区間」それぞれの全走査線の中で複数の走査線で実行される場合であっても、「6個の区間」それぞれの全走査線で実行される場合であっても良い。これにより、取得部171は、「6個の区間」それぞれの周波数減衰係数、又は、平均周波数減衰係数を取得する。
また、第2の実施形態において、図13に例示する「6個の区間」が設定された場合、送受信部11は、振幅比率ごとの帯域幅を取得するための超音波送受信を「6個の区間」それぞれで実行させる。振幅比率ごとの帯域幅を取得するための超音波送受信は、上記と同様に、「6個の区間」それぞれの中心に位置する1本の走査線で実行される場合であっても、「6個の区間」それぞれの全走査線の中で複数の走査線で実行される場合であっても、「6個の区間」それぞれの全走査線で実行される場合であっても良い。これにより、取得部171は、「6個の区間」それぞれの帯域幅、又は、平均帯域幅を特定する。
そして、調整部172は、「6個の区間」それぞれの関連情報に基づいて、「6個の区間」それぞれで超音波波形を調整する。送受信部11は、「6個の区間」それぞれで、該当する超音波波形を有する送信超音波を用いた超音波送受信を実行させる。合成部121は、「6個の区間」それぞれの合成データを生成する。そして、画像生成部14は、「6個の区間」それぞれの合成データを用いて、超音波画像データを生成する。
次に、第2変形例について説明する。第2変形例は、送受信部11が、各走査線で送信フォーカスの深度を所定のフォーカスレートで変更する多段フォーカスを実行可能である場合に適用される。例えば、図14の(A)に示すように、深度が異なる3つの送信フォーカス「F1、F2、F3」が設定された場合、送受信部11は、F1を含む領域を1回目の送受信で走査し、F2を含む領域を2回目の送受信で走査し、F3を含む領域を3回目の送受信で走査する。これにより、画像生成部14は、3つの領域ごとにフォーカスされた3つの超音波画像データを生成し、3つの超音波画像データを合成することで、撮影部位全体の超音波画像データを生成することができる。
そこで、第2変形例では、取得部171は、撮影部位の周波数減衰特性に関連する関連情報として、撮影部位を複数の深度で分割した複数の区間それぞれの関連情報を取得する。そして、調整部172は、複数の区間それぞれの関連情報に基づいて、複数の区間それぞれで超音波波形を調整する。そして、送受信部11は、複数の区間それぞれで、該当する超音波波形を有する送信超音波を用いた超音波送受信を所定のフォーカスレートで実行させる。そして、合成部121は、複数の区間それぞれの合成データを生成し、画像生成部14は、複数の区間それぞれの合成データを用いて、超音波画像データを生成する。
例えば、第2変形例では、図14の(B)に示すように、撮影部位は、深さ方向において、3個の区間に分割される。第1の実施形態において、図14の(B)に例示する「3個の区間」が設定された場合、操作者は、「3個の区間」それぞれの周波数減衰係数を入力する。
或いは、第1の実施形態において、図14の(B)に例示する「3個の区間」が設定された場合、取得部171は、周波数減衰係数取得用の超音波送受信を、多段フォーカスにより、「3個の区間」それぞれで実行させる。周波数減衰係数取得用の超音波送受信は、「3個の区間」それぞれの中心に位置する1本の走査線で実行される場合であっても、「3個の区間」それぞれの全走査線の中で複数の走査線で実行される場合であっても、「3個の区間」それぞれの全走査線で実行される場合であっても良い。これにより、取得部171は、「3個の区間」それぞれの周波数減衰係数、又は、平均周波数減衰係数を取得する。
また、第2の実施形態において、図14の(B)に例示する「3個の区間」が設定された場合、振幅比率ごとの帯域幅を取得するための超音波送受信を、多段フォーカスにより、「3個の区間」それぞれで実行させる。振幅比率ごとの帯域幅を取得するための超音波送受信は、上記と同様に、「3個の区間」それぞれの中心に位置する1本の走査線で実行される場合であっても、「3個の区間」それぞれの全走査線の中で複数の走査線で実行される場合であっても、「3個の区間」それぞれの全走査線で実行される場合であっても良い。これにより、取得部171は、「3個の区間」それぞれの帯域幅、又は、平均帯域幅を特定する。
そして、調整部172は、「3個の区間」それぞれの関連情報に基づいて、「3個の区間」それぞれで超音波波形を調整する。送受信部11は、「3個の区間」それぞれで、該当する超音波波形を有する送信超音波を用いた超音波送受信を所定のフォーカスレートで実行させる。合成部121は、「3個の区間」それぞれの合成データを生成する。そして、画像生成部14は、「3個の区間」それぞれの合成データを用いて、超音波画像データを生成する。
また、多段フォーカスが実行可能である場合、第1変形例と第2変形例とを組み合わせた第3変形例が行なわれても良い。第3変形例では、例えば、図14の(C)に示すように、撮影部位は、複数本の走査線単位で6個の区間に分割され、更に、深さ方向において、3個の区間に分割されることで、「18個の区間」に分割される。第3変形例では、図13及び図14の(B)を用いて説明した処理により、「18個の区間」それぞれで関連情報が取得され、「18個の区間」それぞれで超音波波形が調整される。
第1変形例、第2変形例、又は、第3変形例を行なうことで、差音成分を用いた映像化法で生成される超音波画像データの空間分解能を更に向上させることができる。
なお、第1及び第2の実施形態、並びに、第1変形例〜第3変形例で説明した超音波診断装置が実行する制御方法は、あらかじめ用意された制御プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。この制御プログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、この制御プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上、説明したとおり、第1及び第2の実施形態、並びに、第1変形例〜第3変形例によれば、差音成分と2次高調波とを用いて得られる画像の画質を、周波数減衰特性の違いによらず安定化することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。