JP2014108073A - 組み換えヒト膵臓リパーゼの調製方法 - Google Patents

組み換えヒト膵臓リパーゼの調製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】天然ブタ膵リパーゼに近い比活性をもつ組換えヒト膵臓リパーゼ(recHPL)を大量に調製する方法を提供すること。
【解決手段】(a)HPL cDNAに、Strep−tagIIをC末側に付加した発現プラスミドを構築する工程;(b)構築した発現プラスミドを大腸菌に導入した後に培養して、大腸菌内にHPLを発現させる工程;(c)前記大腸菌を破砕した大腸菌溶解物から、ストレプタクチンを担持したセファロースを用いてHPLをワンステップで精製する工程;及び(d)精製したHPLを、Ca2+添加し尿素濃度を段階的に低下させるグリセロール段階透析法を用いて活性化するリフォールディング工程;の各工程を順次備えるrecHPLの調製方法とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、組換えヒト膵臓リパーゼ(recHPL)の調製方法、より詳しくは、C末側にStrep−tagIIを付加して精製したHPLを、段階透析法を利用してリフォールディングするrecHPLの調製方法に関する。
ヒト膵リパーゼ(E.C.3.1.1.3.)は、膵腺房細胞で合成され膵液中に分泌される分子量約4万8千の糖タンパク質である。膵リパーゼはトリグリセリドのα位脂肪酸エステルを加水分解し、ジグリセリド成分と遊離の脂肪酸へ分解する。
ヒト膵リパーゼの大量発現法としては、昆虫細胞sf6を用いて発現させる方法(例えば、非特許文献1参照)、チャイニーズハムスター由来細胞V79を用いて発現させる方法(例えば、非特許文献2参照)、酵母を用いて発現させる方法(例えば、非特許文献3参照)が知られている。しかし、これらの方法はいずれもコストが非常にかかる上、発現に6〜10日間を要する。また、いずれの方法においても、リパーゼにヒト型ではない糖鎖が修飾される場合があるため、ヒトがこれらリパーゼを摂取するとアレルギーが引き起こされたり、生体内での安定性が変わる可能性があり、安全性に乏しいと言える。このため、より短期間で発現でき、かつ糖鎖の修飾が起こらない、大腸菌を用いた大量発現方法の開発が求められている。
他方、大腸菌を用いてリパーゼを発現させる方法としては、ジオバチルス属の耐熱性T1リパーゼをGSTタグを組み込んだ融合タンパクとして発現させる方法(例えば、特許文献1参照)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の成熟リパーゼ(SAL3)を、N末端側にHisタグを組み込んだ融合タンパクとして発現させる方法(例えば、非特許文献4参照)、Candida antarctica由来のリパーゼを、N末端側にFLAGタグ、あるいはC末端側にHisタグを組み込んだ融合タンパクとしてそれぞれ発現させる方法(例えば、非特許文献5参照)、Ralstonia sp.M1由来のリパーゼを、Hisタグを組み込んだ融合タンパクとして発現させる方法(例えば、非特許文献6参照)が知られている。また、デンプン結合性タンパク質(SBP)タグを使用する、大腸菌で発現した組換えリパーゼの精製方法(例えば、特許文献2参照)も知られている。これらタグ付きリパーゼにはいずれも酵素活性がみられているが、大量発現系の確立には至っておらず、また、微生物由来のリパーゼとは構造の異なるヒト型リパーゼを大腸菌で発現させる方法については一切考慮されていない。
特開2006−042820号公報 特開2010−263892号公報
Thirstrup, K. et al., FEBS Lett. 19;327(1): p79-84, 1993 Canalias, F. et al., Clin. Chem. 40(7 Pt 1): p1251-7, 1994 Yang, Y. et al., Protein Expr. Purif. 13(1): p36-40, 1998 Horchani, H. et al., J. Mol. Catal. B. Enzym., 61: p194-201, 2009 Blank, K. et al., J. Biotechnol., 125(4): p474-483, 2006 Quyen, D. T. et al., Protein Expr. Purif. 39(1): p97-106, 2005
本発明の課題は、高活性をもつHPLの安価かつ大量調製を可能にするため方法を提供することにある。
HPLを大腸菌で発現させる報告はまだ無く、昆虫細胞や哺乳類細胞での発現例が報告されていた。大腸菌を用いてのHPLの大量調製を可能にするため、われわれはヒト膵リパーゼのcDNAをクローニングし、HPLをHis−tag標識体として大腸菌で発現させ、その精製を試みた。しかし他のタンパク質には有効な、Ni2+やCo2+を含むキレートカラム法では、His−tag標識膵リパーゼは精製できなかった。リパーゼタンパク質の疎水性領域がHis−tag標識膵リパーゼの精製を妨害しているのではないかと考え、親水性タンパク質であるグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)をN末端側に融合したHPLを発現させた。その結果、グルタチオンカラムを用いて該タンパク質を精製に成功し、1Lの培養液から約1mgのGST−recHPLが得られた。しかし、GST−recHPLはリフォールディングを行っても、脂質分解活性が発現しなかった。そこでさらに標識タグを検討した結果、Strep−tagIIによる標識法により、1Lの培養液から18mgの精製recHPLを得ることに成功し、検討した中で最も収率の高い精製を達成できた。さらにリフォールディング条件を検討し、天然物の約半分の比活性を持つrecHPLを得た。本発明は、以上の知見に基づき完成するに至ったものである
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)以下の(a)〜(d)の工程を備えることを特徴とする組換えヒト膵臓リパーゼ(recHPL)の調製方法。
(a)HPL cDNAに、Strep−tagIIをC末側に付加した発現プラスミドを構築する工程;
(b)構築した発現プラスミドを大腸菌に導入した後に培養して、大腸菌内にHPLを発現させる工程;
(c)前記大腸菌を破砕した大腸菌溶解物から、ストレプタクチンを担持した吸着体を用いてHPLをワンステップで精製する工程;
(d)精製したHPLを、尿素濃度を段階的に低下させるグリセロール添加段階透析法を用いて活性化するリフォールディング工程;
(2)ストレプタクチンを担持した吸着体が、ストレプタクチンを担持したセファロースであることを特徴とする上記(1)記載のrecHPLの調製方法。
(3)グリセロール添加段階透析法が、グリセロールに加えてCa2+を添加する段階透析法であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のrecHPLの調製方法。
(4)尿素濃度を8Mから0Mに段階的に低下させることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
(5)10%グリセロールを用いることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
(6)2.5〜5mM Ca2+を用いることを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
(7)グリセロール添加段階透析法が、酸化剤/還元剤としてシスチン/システインを用いる段階透析法であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
本発明によると、天然ブタ膵リパーゼに近い比活性をもつrecHPLを大量に調製することができる。また、昆虫細胞や酵母を用いてHPLを発現させるには、6〜10日間を要する。これに対し大腸菌を用いた本発明では、発現に要する時間は1日、段階透析法によるリフォールディングに2日の、計3日間でHPLの発現が可能である。
プラスミドpET−22b(+)−recHPL(制限酵素認識配列あり)のベクターマップである。 recHPL−Hisが溶解している大腸菌画分を、ウエスタンブロット法を用いて染色した結果を示す図である。 可溶化したrecHPL−Hisをアフィニティカラムを用いて精製した際に得られた溶出曲線をグラフにしたものである。 可溶化したrecHPL−Hisと、図3のグラフのピークの画分3つを濃縮したものとに対し、銀染色を行った結果を示す図である。 プラスミドpGEX−6P−1−HPLのベクターマップである。 可溶化したGST−recHPLをアフィニティカラムを用いて精製した際に得られた溶出曲線をグラフにしたものである。 可溶化したGST−recHPLと、図6で示されたピーク画分とに対し、銀染色及びウエスタンブロット法を行った結果を示す図である。 天然ブタリパーゼ(PPL)、GST−recHPL及びrecHPL−Strep−tagIIに対し、pH−stat法を用いて酵素活性を調べた結果を示す図である。 プラスミドpASK−IBA 3Plus−HPLのベクターマップである。 粗精製したrecHPL−Strep−tagIIを、SDS−PAGE法及びウエスタンブロット法を用いて染色した結果を示す図である。 可溶化したrecHPL−Strep−tagIIを、アフィニティカラムを用いて精製した際に得られた溶出曲線をグラフにしたものである。 可溶化したGST−recHPLと、図11で示されたピーク画分とに対し、SDS−PAGE法及びウエスタンブロット法を行った結果を示す図である。 カルシムイオン濃度の違いによる、recHPL−Strep−tagIIの酵素活性の差異を示した図である。 各添加剤存在下での、recHPL−Strep−tagIIの酵素活性を示した図である。 recHPL−Strep−tagIIをHPLCにかけた際の、溶出画分のクロマトグラフである。 図15のピークの画分2つに対し、pH−stat法を用いて酵素活性を調べた結果を示す図である。 CDスペクトルによるrecHPL−Strep−tagIIの二次構造解析を示した図である。
本発明のrecHPLの調製方法としては、(a)HPL cDNAに、Strep−tagIIをC末側に付加した発現プラスミドを構築する工程;(b)構築した発現プラスミドを大腸菌に導入した後に培養して、大腸菌内にHPLを発現させる工程;(c)前記大腸菌を破砕した大腸菌溶解物から、ストレプタクチンを担持した吸着体を用いてHPLをワンステップで精製する工程;及び(d)精製したHPLを、尿素濃度を段階的に低下させるグリセロール添加段階透析法を用いて活性化するリフォールディング工程;の各工程を備える方法であれば特に制限されず、上記大腸菌としては、一般的にタンパク質の発現に用いられる菌株であれば特に制限されず、例えば、HST08、HST04、HST02、JM109、DH5α、HB101、CJ236、BMH71−18、MV1184、TH2、HST16CR、BL21(DE3)、Origami(DE3)などを挙げることができる。
上記工程(a)におけるHPL cDNAは、公知のヒトRNA塩基配列もしくはヒトcDNA塩基配列、市販のヒトcDNAテンプレート等を鋳型として用いることにより得ることができる。RNAを鋳型として用いてHPL cDNAを得る場合には、cDNA配列に特異的なプライマーを用いる方法や、6塩基から8塩基程度からなるランダムプライマーを用いてcDNA合成を開始させる等の方法が挙げられる。また、cDNAを鋳型として用いてHPL cDNAを得る場合には、PCR法を用い、該塩基配列がコードする遺伝子を増幅すればよい。
上記工程(a)において、HPL cDNAに8残基のアミノ酸(Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys;配列番号1)からなるStrep−tagIIをC末側に付加した発現プラスミドを構築する方法としては、pET Systems(Novagen社製)、pGEM−T Easy Vector Systems(Promega社製)等の一般的な大腸菌用発現プラスミドに、HPL cDNA配列及び上記8残基のアミノ酸を発現させる塩基配列を組み込むことで構築することもできるが、ストレプトアビジンを遺伝子工学的に改変したストレプタクチン(Strep-Tactin)に結合するStrep−tagIIを融合させた組換え体タンパク質を大腸菌内で発現させるための市販のベクター、例えば、pASK−IBA3Plus(IBA社製)を用いることもできる。
Strep−tagIIをC末側に付加したHPLのアミノ酸配列を配列番号2に、塩基配列を配列番号3に示す。
上記工程(b)において、構築した発現プラスミドの大腸菌への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。
上記工程(b)における発現プラスミドを導入した大腸菌の培養条件としては、大腸菌を培養する培地、培養時間などの培養条件も、それぞれの大腸菌の生育に適したものであれば特に制限されず、例えば、上記培地としては、LB培地、SOB培地、SOC培地等を挙げることができる。培養温度は4〜37℃、好ましくは25〜37℃が挙げられる。培養pHはpH6.5〜7.4、好ましくはpH7.2が挙げられる。培養期間は、培養液のOD550値が0.4〜1を満たすことができればよい。また、HPLの発現を誘導するために、用いたプラスミドに対応する発現誘導物質を適宜添加することが好ましい。発現誘導物質の例としては、イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)、無水テトラサイクリン(AHT)等が挙げられ、添加濃度は特に制限されない。
上記工程(C)において、大腸菌を破砕して大腸菌溶解物を調製する方法としては、培養終了後、大腸菌を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機などの適当な手段により大腸菌を破砕し、無細胞抽出液を得た後、該無細胞抽出液を遠心分離することにより上清を得る方法を例示することができる。このようにして得られた大腸菌溶解物は、ストレプタクチンを担持した吸着体が充填されたカラムやバッチに送通され、Strep−tagIIをC末側に付加したHPLが吸着され、デスチオビオチンを含む溶離液を用いることにより、HPLをワンステップで精製することができる。ここで、HPLをワンステップで精製するとは、前記大腸菌溶解物を、1種類のストレプタクチンを担持した吸着体に1度だけ適用することによって、充分な純度及び濃度のHPL溶解液が得られるということを意味する。
上記ストレプタクチンを担持した吸着体としては、一般的なアフィニティクロマトグラフィーに用いられる吸着体(担体)であればよく、具体的には、アガロース糖鎖を架橋したアガロース系担体、デキストラン糖鎖を架橋したデキストラン系担体、アクリルアミドを架橋したアクリルアミド系担体等を例示することができる。いずれの担体においても、担体濃度、粒子径の大きさ、架橋された担体の割合がHPLの分子量に見合った条件であれば特に制限されず、例えば、アガロース系担体としてはセファロース、スーパーロース等、デキストラン系担体としてはセファデックス、スーパーデックス等、アクリルアミド系担体としてはセファクリル等を挙げることができるが、取り扱いの簡便性からセファロースが好ましく、また、ストレプタクチンセファロースは市販品を用いることができる。
上記工程(d)における「グリセロール添加段階透析法」に用いる透析膜としては、HPLの分子量に適したものであれば特に指定されない。膜の材質としては、再生セルロース(セロファン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール、テフロン、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリスルホン、ポリアミドなどを挙げることができるが、再生セルロースが好ましい。透析装置は、公知の手法に基づいた装置を用いることができる。
上記工程(d)における「グリセロール添加段階透析法」とは、段階透析に用いる透析溶液にグリセロールを添加し、透析を行う方法をいう。透析溶液に添加するグリセロールの濃度は、5〜20%、好ましくは10%を挙げることができる。
上記工程(d)における「グリセロール添加段階透析法」においては、尿素濃度を10〜5M、好ましくは8Mから0Mに段階的に低下させることが好ましい。この、尿素濃度が異なる各段階ごとの透析時間は、透析装置の規模に適したものであれば特に限定されない。
上記工程(d)、すなわち、精製したHPLを、尿素濃度を段階的に低下させるグリセロール添加段階透析法を用いて活性化するリフォールディング工程においては、透析液のCa2+濃度は制限されないが、Ca2+を添加することが好ましく、添加するCa2+濃度は0〜10mM、好ましくは2.5〜10mM、さらに好ましくは2.5〜5.0mM、中でも2.5mMを挙げることができる。Ca2+を添加するために用いる化合物としては塩化カルシウム2水和物、酢酸カルシウムなどを挙げることができる。
上記工程(d)において、精製したHPLをグリセロール添加段階透析法を用いて活性化する際、酸化剤/還元剤としては、シスチン/システインや、酸化型グルタチオン/還元型グルタチオンを添加することが好ましいが、価格が安価であることから、シスチン/システインが望ましい。例えば、シスチン/システインの添加濃度としては、シスチンの濃度は0.1〜1mM、システインの濃度は1〜0.1mMを挙げることができるが、0.1mMシスチン/1mMシステインが好ましい。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[HPLのクローニング]
(1)HPL cDNAのPCR法による増幅
効率良くHPL cDNAを増幅するため、まずは制限酵素認識配列がないDNAを合成し、次に制限酵素認識配列を付加することとし、HPLの塩基配列(配列番号4)に基づいて、プライマー1(配列番号5)、プライマー2(配列番号6)、プライマー3(配列番号7)、プライマー4(配列番号8)を作製した。
ヒト膵臓cDNAテンプレート(Clontech社製)を鋳型とし、プライマー1及びプライマー2を用い、PCR法により配列番号4の塩基配列がコードする遺伝子を増幅した。PCR反応はPTC-200 Peltier Thermal Cycler(MJ Research社製)を用い、95℃で1分、55℃で1分、72℃で1分を30サイクル行った。得られたDNA断片は、アガロースゲル電気泳動法を用いて精製した。
(2)インサートcDNAの作成
得られたHPL cDNAを増幅するため、ライゲーション効率の良いTOPO TAクローニングを行った。まず、Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen社製)を用い、HPL cDNAの3’末にアデニンを付加した。得られた生成物とpGEM−T easy(Promega社製)をライゲーションし、プラスミド(pGEM−Teasy−HPL)を得た。得られたプラスミドを大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に形質転換させ、大量培養を行った後に、アルカリ法、エタノール沈殿法を行い、プラスミドを精製した。
得られたプラスミド(pGEM−Teasy−HPL)をテンプレートとして用い、プライマー3と4でPCRを行うことで、制限酵素認識配列がついたHPL cDNAインサートを合成した。PCR反応はPTC-200 Peltier Thermal Cycler(MJ Research社製)を用い、95℃で1分、55℃で1分、72℃で1分を30サイクル行った。得られたインサートをアガロースゲル電気泳動法にて精製した後、もう一度TOPO TAクローニングを行い、インサートを大量に調製した。
(3)制限酵素処理とライゲーション
制限酵素認識配列をつけたpGEM−Teasy−HPLを制限酵素BamHI(タカラバイオ社製)及びNdeI(タカラバイオ社製)で切断し、インサートを得た。pET22b(+)プラスミド(Novagen社製)も同様にBamHIとNdeIを用いて切断し、ベクターを作成した。得られたインサートとプラスミドをライゲーションし、プラスミド(pET−22b(+)−HPL)を得た。得られたプラスミドを大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に形質転換させ、大量培養を行った後に、QIAGEN Plasmid Midi Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミドを抽出、精製した。
得られたpET−22b(+)−HPLは、オートシークエンサー(3100-Avant Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列を確認した。
[recHPL−Hisの作製]
(1)Hisタグを付けたrecHPL発現ベクターの調製
リパーゼはN末ドメインに活性部位があり、N末端側にHisタグ(6つのヒスチジンから成る)をつけると活性が下がることが知られている(Di Lorenzo, M., et al., Appl Environ Microbiol, 71: p8974-7, 2005)。pET22b(+)はインサートのC末端側にHisタグが付加されるように設計されているが、終止コドンが存在するとヒスチジンが発現されない。そのため、部位特異的変異を行い、HPL cDNAの終止コドンをセリンに変えた。
プライマー5(配列番号9)、プライマー6(配列番号10)を作製し、QuikChange TMSite-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社製)を用い、付属の説明書に従ってpET−22b(+)−HPL(制限酵素認識配列あり)に変異を起こした。PCR反応はPTC-200 Peltier Thermal Cycler(MJ Research社製)を用い、95℃で30秒、55℃で1分、68℃で7分を12サイクル行った。
得られたPCR産物を用いて、大腸菌DH5αを形質転換した。得られた大腸菌の大量培養を行った後、アルカリ法を行い、プラスミド(pET−22b(+)−recHPL(制限酵素認識配列あり))を精製した。得られたプラスミドは、オートシークエンサー(3100-Avant Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いて塩基配列確認を確認した。作製したベクターマップを図1に示す。
(2)recHPL−Hisの発現
得られたpET−22b(+)−recHPLを、大腸菌Origami(DE3)に導入し、目的タンパク質の発現を行った。
pET−22b(+)−recHPLを、大腸菌Origami(DE3)(Novagen社製)に導入した。得られた大腸菌をLBプレートに捲き、37℃で一晩培養後、コロニーを採り、LB液体培地に植え、さらに培養した。OD550=0.4〜1に達するまで培養した後、イソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)(和光純薬製)を加えてさらに培養した。培地を遠心しペレットを回収した後、洗浄バッファー(50mMTBS、2mMベンズアミジン、0.25mMフッ化フェニルメチルスルホニル、pH8.0)で洗浄し、遠心した。得られたペレットを洗浄バッファーに溶解し、超音波破砕機(SONI FIER250、BRANSON社製)を用いて超音波破砕を行った。得られたライセートを再び遠心し、ペレットを回収した。
得られたペレット内にはrecHPL−Hisが封入体として存在しているため、可溶化を行った。
大量培養し回収した大腸菌に超音波破砕を行い、得られたペレットに、0.5%(v/v)Triton X−100/洗浄バッファーを加えて可溶化し、遠心で上清を除去した。得られたペレットを洗浄バッファーで洗浄し、尿酸バッファー(8M尿酸、50mMリン酸バッファー、300mM塩化ナトリウム、2mMベンズアミド、0.25mMフッ化フェニルメチルスルホニル、pH8.0)を加え可溶化後、遠心してrecHPL−Hisが溶解している上清を得た。
得られたrecHPL−His溶解画分を、SDS−PAGE法及びウエスタンブロット法を用いてPVDF膜に転写し、抗ヒトリパーゼ抗体IgGs(THE BINDING SITE LTD社製)を用いて染色し、recHPL−Hisの発現を確認した。(図2)
図2において、「+H」はrecHPL−His、「−H」は上記方法と同様にしてタグの付いていないrecHPLを、それぞれ発現させた大腸菌の抽出物を示している。また、「O」は、形質転換を行っていない大腸菌の抽出物を示している。抗ヒトリパーゼ抗体により、recHPL−His及びrecHPLが、形質転換を行った大腸菌それぞれに発現していることが示された。
(3)recHPL−Hisの精製
可溶化したrecHPL−Hisは、尿素またはジチオトレイトール(DTT)を用いてリフォールディングした(Role of arginine in protein refolding, solubilization, and purification. Biotechnol Prog, 20(5): p1301-1308, 2004)。
可溶化したrecHPL−His溶液に、DTT(終濃度10mM)を加え、37℃、30分間反応させ、ジスルフィド結合を切断した。その後、塩酸グアニジンまたは尿素濃度を段階的に希釈しながら4℃で透析することにより、recHPL−Hisのリフォールディングを行った。尿素を用いる場合には、尿素濃度を8M、4M、2M、1M、0.5M、0Mと、段階的に希釈した。また、尿素濃度が1M及び0.5Mの際には、リフォールディング促進剤として、400mM L-アルギニン塩酸塩及び、酸化剤/還元剤として0.1mMシスチン/1mMシステインを加えた。尿素濃度が0Mである最後の透析は、3回行った。
リフォールディングしたrecHPL−HisにTALON Metal Affinity Resin(Clontech社製)を加え、バッチ法により吸着させた。溶出液には、イミダゾール濃度が1、5、10、50、100mMであるイミダゾール溶液(45mMリン酸バッファー、270mM塩化ナトリウム、8M尿素)を用い、段階溶出した。各画分の一部(100又は200μL)をマイクロプレート(96穴UVstarプレート、Greiner bio one社製)に分取し、マイクロプレートリーダー(Model 680、Bio-Rad社製)を用い、各溶出画分の280nmにおける吸光度を測定した。
得られた溶出画分の吸光度をグラフにしたものが図3である。図3は、縦軸が吸光度、横軸がフラクションナンバーを示している。ここで得られた3つのピークに該たる画分を透析し、イミダゾールを除いた。その後濃縮し、SDS−PAGE法及び銀染色を行ったのが図4である。
図3における「peak1〜3」の溶出画分の銀染色を行ったのが、図4の「peak1〜3」である。図4を見ると、図3のピーク3部分の溶出画分より、recHPL−His相当分子量のバンドが検出されている。しかし、メジャーバンドが他にも多く見られており、均一性、recHPL−Hisの収率共に、満足な結果を得ることは出来なかった。
[GST−recHPLの作製]
(1)GSTタグを付けたrecHPL発現ベクターの調製
pET−22b(+)−HPLを鋳型とし、プライマー7(配列番号11)、プライマー8(配列番号12)を用いてPCRを行った。反応にはサーマルサイクラー(ZYMOREACTORII、ATTO社製)を用い、94℃で15秒、65℃で30秒、68℃で1分を25サイクル行った。得られたPCR産物は、アガロースゲル電気泳動法を用いて精製した後、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いて精製した。
精製したPCR産物を、TArget CloneTM-Plus-(TOYOBO社製)を用いたTAクローニング法により、サブクローニングした。得られた生成物と上記キット中のpTA2(TOYOBO社製)をライゲーションし、プラスミド(pTA2−HPL)を得た。得られたプラスミドを大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に形質転換させ、大量培養を行った後に、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN社製)を用いプラスミドpTA2−HPLを抽出、精製した。
pTA2−HPLを制限酵素BamHI(タカラバイオ社製)及びNdeI(タカラバイオ社製)で切断し、インサートを得た。pGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)も同様にBamHIとNdeIを用いて切断し、ベクターを作成した。得られたインサートとベクターをライゲーションし、プラスミド(pGEX−6P−1−HPL)を得た。
得られたpGEX−6P−1−HPLは、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いたPCRにより増幅した後、BigDye XTerminator精製キット(Applied Biosystems社製)を用いて精製し、DNAシーケンサーABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)で解析し、塩基配列を調べた。さらに、得られた結果を遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX(ゼネッティックス社製)で分析した。作製したベクターマップを図5に示す。
(2)GST−recHPLの発現
得られたpGEX−6P−1−HPLを、大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に導入し、目的タンパク質の発現を行った。大腸菌への導入、タンパクの発現及び回収は、recHPL−Hisと同様に行った。
得られたペレット内にはGST−recHPLが封入体として存在しているため、可溶化を行った。可溶化剤にはTriton X−100を用いた。これは、Triton X−100を用いた可溶化では、タンパク質の高次構造を保ったまま可溶化することが可能であり、リフォールディングを行う必要がなくなるためである。
大量培養し回収した大腸菌に超音波破砕を行い、得られたペレットに、可溶化バッファー(1%Triton X−100、10mM TBS(pH7.5))を加え可溶化後、遠心してGST−recHPLが溶解している上清を得た。
得られたGST−recHPL溶解画分を、SDS−PAGE法及びウエスタンブロット法を用いてPVDF膜に転写し、ウサギ抗GST抗体(発明者が作製)及び抗ヒトリパーゼ抗体IgGs(THE BINDING SITE LTD社製)を用いて染色し、GST−recHPLの発現を確認した。
(3)GST−recHPLの精製
可溶化したGST−recHPLにGSHセファロースを加え、バッチ法により吸着させた。溶出液には還元型GSH溶液(10mM還元型GSH、50mM Tris−HCl(pH 8.0))を用い、溶出した。紫外可視分光光度計Ubest-55(日本分光社製)を用い、各溶出画分の280nmにおける吸光度を測定し、吸光度の高かった溶出画分を精製水に対して透析した。
得られた溶出画分の吸光度をグラフにしたものが図6である。図6は、縦軸が吸光度、横軸がフラクションナンバーを示している。得られたGST−recHPL精製画分は、銀染色法及びウエスタンブロット法を用いて、精製を確認した。(図7)
図6より、GST−recHPLが含まれるとみられる溶出画分のピークはごく低く、GST−recHPLの収量が低いことが示された。また、図7において、「抽」は可溶化したGST−recHPL画分、「溶出」は図6におけるピークの画分をそれぞれ、銀染色、抗ヒトリパーゼ抗体IgGsによる染色、及び抗GST抗体による染色を行った結果を示している。いずれの染色方法においてもGST−recHPL相当分子量のバンドが検出されたが、溶出画分の各バンドはいずれも薄く、GST−recHPLの収率では満足な結果を得ることは出来なかった。
(4)GST−recHPLの酵素活性
recHPLの活性測定は、自動電位差滴定装置AT-510(京都電子工業社製)を用い、pH−stat法により測定した。
基質にはトリブチリン(和光純薬工業社製)を用いた。トリブチリンをエマルジョン溶液(1mM Tris−HCl(pH7.5)、4mMタウロデオキシコール酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、5mM塩化カルシウム)にて希釈し、終濃度を0.11Mとした。この溶液を攪拌しているところに、予め37℃で15分間インキュベートしておいた酵素溶液(0.13mg/mL recHPL、1mg/mL コリパーゼ1μL含エマルジョン溶液)を加えた。37℃の下、pH7.53±0.03を維持するように、0.01M水酸化ナトリウム溶液を用いて滴定した。酵素溶液を加えた5分後から15分後までの10分間における水酸化ナトリウム滴定速度、すなわち脂肪酸遊離速度を求め、1U=単位時間当たりの遊離脂肪酸量(μmol/min)として、リパーゼの比活性を求めた。
脂肪酸遊離速度(μmol/min)=水酸化ナトリウム濃度(μM)×水酸化ナトリウム滴定速度(L/min)
比活性(U/mg)=脂肪酸遊離速度(μmol/min)÷リパーゼ量(mg)
pH−stat法により酵素活性を調べた際の、水酸化ナトリウム溶液の滴定量を示したのが図8である。図8において、縦軸はpH(左軸)及び水酸化ナトリウム溶液の滴下量(右軸)、横軸は経過時間を示している。グラフ上方のpH以外のデータは、各リパーゼ存在下での水酸化ナトリウム溶液の滴下量を示している。対照として用いたブタ膵臓リパーゼ(PPL)の測定結果を見ると、pHが一定に保たれているにもかかわらず水酸化ナトリウム溶液の滴定量は一定の割合で増加しており、これは、PPLに酵素活性があることを示している。これに対し、GST−recHPLでは、酵素溶液を加えた5分後から15分後までの10分間において水酸化ナトリウム溶液の滴定は起こっておらず、これは、GST−recHPLには酵素活性が見られなかったことを示している。
[recHPL−Strep−tagIIの作製]
(1)Strep−tagIIタグを付けたrecHPL発現ベクターの調製
pGEX−6P−1−HPLを鋳型とし、プライマー9(配列番号13)、プライマー10(配列番号14)を用いてPCRを行った。反応にはサーマルサイクラー(ZYMOREACTORII、ATTO社製)を用い、94℃で2分、98℃で10秒、68℃で6分を30サイクル行った。得られたPCR産物にDpn I(BIO-RAD社製)を加えて反応させ、pGEX−6P−1−HPLを分解した。
得られたDpn I消化物をLigation high Ver2(TOYOBO社製)を用いてライゲーションして環状プラスミド(EcoRIサイトを導入するため、pGEX−6P−1−HPLの93番目のT→Aに変異させたベクター)を得た。得られたプラスミドを大腸菌JM109(タカラバイオ社製)に形質転換させ、大量培養を行った後に精製し、塩基配列分析を行った。
得られた上記環状プラスミドをテンプレートとして用い、プライマー11(配列番号15)とプライマー12(配列番号16)でPCRを行うことで、両端にEcoRIサイトを付加したHPL cDNAインサートを合成した。PCRにはIBA Primer D'Signer1.1(IBA社製)を用い、KODポリメラーゼに対してTOYOBO社推奨のプロトコルに従って行った。得られたPCR産物は、EcoRIで制限酵素消化した後、アガロースゲル電気泳動を用いて精製し、インサートを得た。pASK−IBA3Plus(IBA社製)は、EcoRIで制限酵素消化した後、アガロースゲル電気泳動を用いて精製し、ベクターを得た。得られたインサートとプラスミドをライゲーションし、プラスミド(pASK−IBA 3Plus−HPL)を得た。作製したベクターマップを図9に示す。
(2)recHPL−Strep−tagIIの発現
得られたpASK−IBA 3Plus−HPLを、大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に導入し、pASK−IBA 3Plus−HPLを大量発現させた。大腸菌への導入、プラスミドの発現及び回収は、pTA2−HPLと同様に行った。
得られたpASK−IBA 3Plus−HPLを大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に導入し、目的タンパク質recHPL−Strep−tagIIの発現誘導を行った。大腸菌への導入、タンパクの発現及び回収はpGEX−6P−1−HPLでの発現誘導時と同様に行ったが、タンパク質の発現誘導には無水テトラサイクリン(AHT)を用いた。
得られたペレット内にはrecHPL−Strep−tagIIが封入体として存在しているため、可溶化を行った。大量培養し回収した大腸菌に超音波破砕を行い、得られたペレットを、まず0.5%Triton X−100に懸濁し、振盪後遠心することを繰り返し、膜タンパク質を除去した。次に、洗浄後のペレットに可溶化バッファー(8M尿素、100mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM塩化ナトリウム、1mM EDTA(pH8.0)、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル)を加え、4℃で振盪後遠心し、recHPL−Strep−tagIIが可溶化した上清を得た。
得られた上清は、0.4M L−アルギニンバッファーを用いて透析を行い、尿素を除いた。この上清を、SDS−PAGE法、及びウエスタンブロット法を用いてPVDF膜に転写した。膜は、抗Strep−tagII抗体(IBA社製)及び抗ヒトリパーゼ抗体IgGs(THE BINDING SITE LTD社製)を用いて染色し、recHPL−Strep−tagIIの発現を確認した。(図10)
図10において、「+」と「−」はそれぞれ、AHTの添加の有無を示している。CBB染色、抗Strep−tagII抗体、抗ヒトリパーゼ抗体IgGsのいずれの染色においても、AHTの添加によりrecHPL−Strep−tagIIの発現が誘導されていることが示された。
(3)recHPL−Strep−tagIIの精製
可溶化したrecHPL−Strep−tagIIにストレプタクチンセファロース(IBA社製)を加え、振とう吸着を行った。溶出液にはデスチオビオチン溶液(2.5mMデスチオビオチン、0.4M L−アルギニン)を用い、溶出した。吸光度の測定にはマイクロプレートリーダー(Model 680、Bio-Rad社製)を用い、各溶出画分の280nmにおける吸光度を測定し、吸光度の高かった溶出画分を回収した。
得られた溶出画分の吸光度をグラフにしたものが図11である。図11は、縦軸が吸光度、横軸が溶出体積を示している。得られたrecHPL−Strep−tagII精製画分に対し、SDS−PAGE及びウエスタンブロット法を行い、精製を確認した。(図12)
図11より、デスチオビオチン溶液により、recHPL−Strep−tagIIが含まれるとみられる画分が溶出されていることが示された。
また、図12において、「抽」は可溶化したrecHPL−Strep−tagII画分、「溶出」は図11におけるピークの画分をそれぞれ、CBB染色、抗ヒトリパーゼ抗体IgGsによる染色、及び抗Strep−tagII抗体による染色を行った結果を示している。いずれの染色方法においても抗Strep−tagII抗体相当分子量のバンドが検出され、recHPL−Strep−tagIIが精製されたことが示された。
(4)recHPL−Strep−tagIIのリフォールディング条件の検討
得られたrecHPL−Strep−tagII精製画分を0.1mg/mLに希釈し、8M尿素溶液となるように調製した。DTTを終濃度が10mMになるように加え、37℃で振とうすることで変性させ、ジスルフィド結合を切断した。
リフォールディングは透析によって、段階的に尿素を取り除く段階透析法で行った。透析は、尿素を含むリフォールディング溶液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM塩化ナトリウム)に対して行い、尿素濃度を6M、4M、2M、1M、0.5M、0Mと段階的に下げて行った。それぞれの段階における透析時間は3時間とした。尿素濃度が1M、0.5Mの際には0.1mMシスチン/1mMシステインを加え、ジスルフィド結合の形成を促進した。
リフォールディング条件の検討として、まず、カルシウムイオン(Ca2+)の影響を検討した。尿素濃度が6Mから0Mのリフォールディング溶液すべてに対し、Ca2+が0mM、2.5mM、5.0mMとなるよう塩化カルシウム2水和物(和光純薬社製)を添加した。対照として、マグネシウムイオン(Mg2+)濃度が2.5mMとなるよう塩化マグネシウム6水和物(和光純薬社製)を添加したリフォールディング溶液、またはL−アルギニン濃度が0.4Mとなるよう添加したリフォールディング溶液を用いた。透析後、得られたrecHPL−Strep−tagIIの比活性を測定した。比活性は、GST−recHPLと同様、自動電位差滴定装置AT-510(京都電子工業社製)を用いたpH−stat法により測定した。この結果を図13に示す。
図13において、縦軸は比活性(kU/mg)を表している。図13より、Ca2+濃度が5.0mMの時最も高い比活性が得られたが、2.5mMの時との差異はあまりなかった。また、Ca2+濃度が5.0mM以上の条件も検討したが、5.0mM時と同様の比活性しか得られなかった。
次に、透析の際、リフォールディングを促進させる添加物として知られている、PEG3400、グリシン、L−アルギニン、スクロース、グリセロール、グリセロールとCa2+をそれぞれ添加し、得られたrecHPL−Strep−tagIIに対して比活性の測定を行った。
添加物は、尿素濃度が6Mから0Mのリフォールディング溶液すべてに添加した。添加物の添加濃度はそれぞれ、0.5%PEG3400、1Mグリシン、0.4M L−アルギニン、0.75Mスクロース、10%グリセロール、10%グリセロールかつ2.5mM Ca2+、とした。透析後、得られたrecHPL−Strep−tagIIの比活性を測定した。比活性は、前述の同様、Ca2+濃度の検討と同様、pH−stat法により測定した。この結果を図14に示す。
図14において、縦軸はリフォールディング溶液に何も添加しなかった際の酵素活性を1とした相対酵素活性を表している。これより、段階透析法の添加剤としては10%グリセロールかつ2.5mM Ca2+を用いるのが最適であることが示された。
(5)recHPL−Strep−tagIIの酵素活性
最適条件でリフォールディングを行ったrecHPL−Strep−tagIIの酵素活性を測定した。測定には前述の方法と同様に、自動電位差滴定装置AT-510(京都電子工業社製)を用い、pH−stat法により測定した。
pH−stat法により酵素活性を調べた際の、水酸化ナトリウム溶液の滴定量を示したのが図8である。図8において、縦軸はpH(左軸)及び水酸化ナトリウム溶液の滴下量(右軸)、横軸は経過時間を示している。グラフ上方のpH以外のデータは、各リパーゼ存在下での水酸化ナトリウム溶液の滴下量を示している。recHPL−Strep−tagIIでは、pHが一定に保たれているにもかかわらず水酸化ナトリウム溶液の滴定量は一定の割合で増加しており、これは、recHPL−Strep−tagIIにPPLと同様に酵素活性があることを示している。
(6)HPLCを用いたrecHPL−Strep−tagIIの分離
最適条件でリフォールディングを行い活性化させたrecHPL−Strep−tagIIを、サンプルとして用い、HPLC法による再精製を試みた。対照として、活性化させたrecHPL−Strep−tagIIを100℃で5分間ボイルした、変性処理recHPL−Strep−tagIIを用いた。
カラムは、Protein KW 802.5とProtein KW 804(共にshodex社製)を連結させ使用した。バッファーは、10mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM塩化ナトリウムを用いた。カラム温度37℃、流速1mL/minで平衡化を行った後に分析を行った。検出は、280nmにおける吸光度の測定により行った。得られたピークに対し、それぞれ酵素活性を測定した。測定には前述の方法と同様に、自動電位差滴定装置AT-510(京都電子工業社製)を用い、pH−stat法により測定した。
図15は、HPLC法により得られた溶出画分のクロマトグラムである。縦軸が吸光度、横軸が溶出時間を示している。得られた2つのピークに対し、酵素活性を調べたのが図16である。図16において、縦軸はpH(左軸)及び水酸化ナトリウム滴下量(右軸)、横軸は経過時間を示している。図内のクロマトグラムのうち、「活性recHPL」は、最適条件でリフォールディングを行い活性化させたrecHPL−Strep−tagIIをカラムに0.92mg/mLの濃度で流した時のもの、「活性recHPL(2)」は、最適条件でリフォールディングを行い活性化させたrecHPL−Strep−tagIIをカラムに0.18mg/mLの濃度で流した時のもの、「変性recHPL」は、変性処理recHPL−Strep−tagIIをカラムに流した時のものである。
図16において、ピーク1の画分では、pHが一定に保たれているにもかかわらず水酸化ナトリウム溶液の滴定量は一定の割合で増加しており、これは、ピーク1に含まれるrecHPL−Strep−tagIIに酵素活性があることを示している。これに対し、ピーク2では水酸化ナトリウム溶液の滴定は起こっておらず、これは、ピーク2に含まれるrecHPL−Strep−tagIIには酵素活性が見られないことを示している。すなわち、段階透析法を用い最適条件でリフォールディングを行い活性化させたrecHPL−Strep−tagIIのうち、それらの約半量にしか酵素活性がないこと、ならびにそれらはHPLC法により分離可能であることが示された。
(7)CDスペクトルによるrecHPL−Strep−tagIIの二次構造解析
HPLC法を用いて精製を行った活性化recHPL−Strep−tagIIの二次構造を解析した。
解析には、光路長0.2mmの2つ口石英セルを用い、円二色性分散計J-820(Jasco)(日本分光社製)で測定を行った。10mM Tris−HCl(pH7.5)をバッファーとして使用した。測定条件は、タンパク濃度0.5mg/mL、スキャン範囲190−250nm、走査速度10nm/min、積算回数4で行った。
得られたスペクトルを図17に示す。対照として、酵素活性を持つPPLのスペクトルデータ(B.A. van Kuiken et al.,Biochimica. et Biophysics. Acta 1214, p148-160, 1994)を付記した。両者のスペクトラムはほぼ一致した。
[各HPLにおける収量及び酵素活性の比較]
recHPL−His、GST−recHPL、recHPL−Strep−tagIIの収量と比活性を比較した(表1)。比活性の測定には、GST−recHPLはアフィニティカラムにより精製した画分、recHPL−Strep−tagIIは段階透析法を用い最適条件でリフォールディングを行い活性化させた画分をそれぞれ用いた。
recHPL−His、GST−recHPL、recHPL−Strep−tagII及びnative PPL(1)(Elastin Products Company, Inc.社製、品番:LC298 (HIGH PURITY)、ロット番号:123)の比活性は、前述の方法と同様、自動電位差滴定装置AT-510(京都電子工業社製)を用い、基質にトリブチリン(和光純薬工業社製)を用いたpH−stat法により測定した。対照として、native PPL(2)(Kaambre, T. et al., Biochim. Biophys. Acta., 1431, p97-106, 1999)、native PPL(3)(Bourbon-Freie A. et al., J. Biol. Chem., 284(21), p14157-14164, 2009)、native HPL(Carriere F, et al., Gastroenterology 119, p949, 2000)、昆虫細胞を用いて発現させたHPL(Lowe, M. E., Biochim. Biophys. Acta 1302, p177-183, 1996)、酵母を用いて発現させたHPL(Yang Y, et al., Protein Exp. Purif., 113, p36-40, 1998)のデータも掲載した。これら引用データにおける比活性はすべて、基質にトリブチリンを用い、pH−stat法で測定している。
本発明において作製したrecHPL−Hisは、発現には成功したが精製物として得ることはできなかった。GST−recHPLは、収量は低いものの精製には成功したが、酵素活性を持つGST−recHPLを得ることはできなかった。これに対し、recHPL−Strep−tagIIは、他の発現法を上回る収率を示した。また、recHPL−Strep−tagIIの比活性は、天然リパーゼや他の発現法で得られたヒトリパーゼに若干劣るが、これは、今回の測定に用いたrecHPL−Strep−tagIIがHPLC法を用いた再精製を行っていない活性化画分だからであるといえる。
これより、本発明にて発現させたrecHPL−Strep−tagIIは、品質面において他の発現法に遜色のないことが示された。
本発明によると、HPLが既存の方法に比べて迅速、安価、かつ簡便に生産できる上、生産されるHPLは既存の方法で生産されたものよりも安全性が高いといえる。これより、食品業界、革加工業界、製薬業界において有用である。

Claims (7)

  1. 以下の(a)〜(d)の工程を備えることを特徴とする組換えヒト膵臓リパーゼ(recHPL)の調製方法。
    (a)HPL cDNAに、Strep−tagIIをC末側に付加した発現プラスミドを構築する工程;
    (b)構築した発現プラスミドを大腸菌に導入した後に培養して、大腸菌内にHPLを発現させる工程;
    (c)前記大腸菌を破砕した大腸菌溶解物から、ストレプタクチンを担持した吸着体を用いてHPLをワンステップで精製する工程;
    (d)精製したHPLを、尿素濃度を段階的に低下させるグリセロール添加段階透析法を用いて活性化するリフォールディング工程;
  2. ストレプタクチンを担持した吸着体が、ストレプタクチンを担持したセファロースであることを特徴とする請求項1記載のrecHPLの調製方法。
  3. グリセロール添加段階透析法が、グリセロールに加えてCa2+を添加する段階透析法であることを特徴とする請求項1又は2記載のrecHPLの調製方法。
  4. 尿素濃度を8Mから0Mに段階的に低下させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
  5. 10%グリセロールを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
  6. 2.5〜5mM Ca2+を用いることを特徴とする請求項3〜5のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
  7. グリセロール添加段階透析法が、酸化剤/還元剤としてシスチン/システインを用いる段階透析法であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のrecHPLの調製方法。
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