JP2014095142A - 高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および高強度溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および高強度溶融亜鉛めっき鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】Si、Mnを含有する高強度鋼板を母材鋼鈑として用い、めっき外観、耐食性、高加工時の耐めっき剥離性および加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】内部酸化が十分に起こらない一方で表面濃化が起こる、比較的低い温度域で雰囲気中の露点を制御し、さらに限定温度域で雰囲気中の露点を制御する。具体的には、加熱炉内温度が500℃以上A℃以下(A:520≦A≦600)の温度域での、雰囲気中の露点が−40℃以下になるように制御し、加熱炉内温度がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700)の温度域での、雰囲気中の露点が−10℃以上になるように制御する。
【選択図】なし

Description

本発明は、SiおよびMnを含有する高強度鋼板を母材鋼板として用い、外観、耐食性、高加工時の耐めっき剥離性および加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
近年、自動車、家電、建材等の分野において、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が広範に使用されている。また、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しかつ高強度化する要望が高まっている。そのために高強度鋼板の自動車への適用が促進されている。
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱間圧延や冷間圧延した薄鋼板を母材鋼板として用い、鋼板を連続式溶融亜鉛めっきライン(以下、CGLと称す)にて再結晶焼鈍および溶融亜鉛めっき処理して製造される。合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合は、溶融亜鉛めっき処理の後、さらに合金化処理を行い製造される。
ここで、CGLの焼鈍炉の加熱炉タイプとしては、DFF型(直火型)、NOF型(無酸化型)、オールラジアントチューブ型等がある。近年では、操業のし易さや、ピックアップが発生しにくい等により低コストで高品質なめっき鋼板を製造できるなどの理由からオールラジアントチューブ型の加熱炉を備えるCGLの建設が増加している。しかしながら、DFF型(直火型)、NOF型(無酸化型)と異なり、オールラジアントチューブ型の加熱炉を用いる場合には、焼鈍直前に酸化工程を有さないため、Si、Mn等の易酸化性元素を含有する鋼板の場合、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき性を確保しにくい。
Si、Mnを多量に含む高強度鋼板を母材鋼板として用いた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法として、特許文献1には、母材鋼板を再結晶温度〜900℃で焼鈍した後めっきする技術が開示されている。特許文献2には、母材鋼板を750〜900℃で焼鈍した後めっきする技術が開示されている。特許文献3には、母材鋼板を800〜850℃で焼鈍した後めっきする技術が開示されている。しかしながら、Si、Mnを多量に含む鋼板の場合、750℃を超える高い温度で焼鈍すると、鋼板中のSi、Mnが選択的に酸化し、鋼板表面に酸化物を形成する。この酸化物は、めっき密着性を劣化させ、不めっき等の欠陥を発生させる可能性がある。
さらに、特許文献4および特許文献5には、還元炉における加熱温度を水蒸気分圧で表される式で規定し露点を上げることで、地鉄表層部を内部酸化させる技術が開示されている。しかしながら、露点を制御するエリアが炉内全体を前提としたものであるから、露点の制御が困難であるため、安定操業が困難である。また、不安定な露点制御のもとでの合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造すると、母材鋼板に形成される内部酸化物の分布状態にバラツキが認められたり、鋼板の長手方向や幅方向でめっき濡れ性や合金化ムラなどの欠陥が発生するおそれがある。
また、特許文献6には、酸化性ガスであるHOやOだけでなく、CO濃度も同時に規定することで、めっき処理される直前の地鉄表層部を内部酸化させ外部酸化を抑制してめっき外観を改善する技術が開示されている。しかしながら、特許文献6では、多量な内部酸化物の存在により加工時に割れが発生しやすくなり、耐めっき剥離性、耐食性が劣化しやすくなる。さらに、COは炉内を汚染したり、鋼板表面への浸炭等により機械特性を劣化させたりする場合がある。
さらに、最近では、高強度溶融亜鉛めっき鋼板、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を高加工される箇所に適用する場合があり、この場合、加工時の耐めっき剥離性を高めることが特に求められる。具体的にはめっき鋼板に90°超えの曲げ加工を行い、より鋭角に曲げた場合や、めっき鋼板に衝撃が加わり鋼板が加工を受けた場合の、加工部のめっき剥離の抑制が要求される。
このような特性を満たすためには、母材鋼板中に多量のSiを添加して所望の鋼板組織にするだけでなく、高加工時に割れなどの起点になる可能性があるめっき層直下の地鉄表層部の組織、構造を制御することが求められる。しかしながら、従来技術ではそのような制御は困難であるため、焼鈍炉にオールラジアントチューブ型の加熱炉を備えるCGLで、高強度鋼板を母材鋼板として、高加工時の耐めっき剥離性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することはできなかった。
特開2009−287114号公報 特開2008−24980号公報 特開2010−150660号公報 特開2004−323970号公報 特開2004−315960号公報 特開2006−233333号公報
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Si、Mnを含有する高強度鋼板を母材鋼板として用い、めっき外観、耐食性、高加工時の耐めっき剥離性および加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
従来は、単に焼鈍炉内の水蒸気分圧を上昇させることで露点を上げて過剰に母材鋼板の内部を酸化させていたため、上述したように、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の加工時に割れが発生しやすくなり、耐めっき剥離性が劣化していた。また、内部酸化と同時に母材鋼板中の易酸化性元素の表面拡散及び表面酸化(以降、表面濃化と称す)も起こる。このため、内部酸化が十分に起こるまでの比較的低温域においては表面濃化を抑制しきれず、不めっき等の表面欠陥を完全に防止するには至っていなかった。そこで、本発明者らは、従来の考えにとらわれない新たな方法で課題を解決する方法を検討した。その結果、内部酸化が十分に起こらない一方で表面濃化が起こる、比較的低い温度域で雰囲気中の露点を制御し、さらに所定の温度域で雰囲気中の露点を制御することで、選択的な表面酸化を抑制でき、表面濃化を抑制できることを知見した。具体的には、加熱過程における加熱帯温度:500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)の温度域において、雰囲気中の露点を−40℃以下に制御し、かつ、加熱帯温度:A℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)の限定温度域において、雰囲気中の露点を−10℃以上となるように制御して溶融亜鉛めっき処理を行う。このような処理を行うことによって、選択的な表面拡散を抑制し、表面濃化を抑制することができ、めっき外観および高加工時の耐めっき剥離性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られることになる。なお、めっき外観に優れるとは、不めっきや合金化ムラが認められない外観を有することを言う。
そして、以上の方法により得られる高強度溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき層直下の地鉄表層部において、地鉄表層部の表面から100μm以内の地鉄表層部にFe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Sn、Sb、Ta、W、Vのうちから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物が合計で、片面あたり0.010〜0.10g/m形成されている。また、上記高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層直下(地鉄表層部の表面)から10μmまでの領域において、粒界から1μm以内の地鉄粒内にMnを含有する酸化物が析出している組織、構造を有する。これによって地鉄表層部における曲げ加工時の応力緩和や割れ防止が実現でき、めっき外観および高加工時の耐めっき剥離性に優れることになる。本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]鋼板の表面に、亜鉛めっき層を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、前記鋼板は、質量%で、C:0.03〜0.35%、Si:0.01〜0.50%、Mn:3.6〜8.0%、Al:0.001〜1.000%、P≦0.10%、S≦0.010%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板に連続式溶融亜鉛めっき設備において焼鈍を施すに際し、
前記焼鈍の加熱過程における加熱帯の温度域が500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)での雰囲気中の露点を−40℃以下とし、前記加熱帯の温度域がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)での雰囲気中の露点を−10℃以上とし、
前記焼鈍における焼鈍炉内での鋼板最高到達温度の温度域を600℃以上700℃以下とし、前記鋼板最高到達温度の温度域における鋼板通過時間を30秒以上10分以内とし、
片面あたりのめっき付着量が20〜120g/mになるように溶融亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記鋼板は、成分組成として、質量%で、さらに、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.050%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sn:0.001〜0.20%、Sb:0.001〜0.20%、Ta:0.001〜0.10%、W:0.001〜0.10%、V:0.001〜0.10%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする[1]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3] 溶融亜鉛めっき処理後、さらに、450℃以上600℃以下の温度に鋼板を加熱して合金化処理を施し、亜鉛めっき層のFe含有量を8〜14質量%の範囲にすることを特徴とする[1]又は[2]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4][1]〜[3]記載のいずれか1項に製造方法により製造され、亜鉛めっき層直下の、地鉄表面から100μm以内の地鉄表層部に生成したFe、Si、Mn、Al、P、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Sn、Sb、Ta、W、Vのうちから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物を合計で、片面あたり0.010〜0.10g/m2有し、更に、めっき層直下の前記地鉄表層部表面から10μm以内の領域において、粒界から1μm以内の粒内にMnを含む酸化物が存在していることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
また、本発明において、高強度溶融亜鉛めっき鋼板は引張強度TSが590MPa以上である。また、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき処理後合金化処理を施さないめっき鋼板(以下、GIと称することもある)、合金化処理を施すめっき鋼板(以下、GAと称することもある)のいずれも含むものである。
本発明によれば、めっき外観、耐食性、高加工時の耐めっき剥離性および加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
以下、本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量、めっき層成分組成の各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であり、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
先ず、本発明で最も重要な要件である、めっき層直下の下鉄表層部の構造を決定する、焼鈍工程における焼鈍雰囲気条件について説明する。
焼鈍炉前段の加熱帯で、鋼板を所定温度まで特定の条件で加熱する加熱過程を行い、焼鈍炉内での鋼板最高到達温度を特定の範囲に制御し、鋼板最高到達温度の温度域における鋼板通過時間を特定の範囲に制御する。なお、焼鈍炉後段の均熱帯での条件は特に限定されない。
本発明の加熱過程では、加熱帯温度が500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)の温度域での、雰囲気中の露点が−40℃以下になるように制御し、加熱帯温度がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)の温度域での、雰囲気中の露点が−10℃以上になるように制御する。
加熱過程における、加熱帯温度と露点とを上記のように制御することで、地鉄表層部の表面(めっき層直下の母材鋼板の表面)から10μm以内の内部に易酸化性元素(Si、Mnなど)の酸化物(以下、内部酸化と称する)を適量に存在させることができる。その結果、焼鈍後の母材鋼板と溶融亜鉛めっきとの濡れ性を劣化させる原因となる地鉄表層部での表面濃化を抑制することが可能となる。
500℃以上A℃以下の温度域での雰囲気中の露点を−40℃以下に制御する理由は以下の通りである。露点を−40℃以下に制御することで、鋼板の表面の酸素ポテンシャルが低下し、地鉄表層部における表面濃化を抑制することが可能となる。露点の下限は特には設けないが、−80℃未満では上記効果が飽和し、生産コストが増大するため、−80℃以上が望ましい。より好ましい露点の範囲は−60〜−45℃である。
500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)とする理由は以下の通りである。500℃未満の温度域では、低温のため表面拡散する易酸化性元素の量が少ない。また、地鉄表層部において、表面濃化がもともと少ない温度域であり、溶融亜鉛と鋼板との濡れ性が阻害されることがない。よって500℃未満の温度域では、雰囲気中の露点を−40℃以下に制御する必要はないから、露点を−40℃以下に制御しなければならない温度域の下限は500℃とする。また、上記温度域の上限をA℃とした理由は、後述するように、A℃を超える温度域では、雰囲気中の露点を−10℃以上に制御して、易酸化性元素を地鉄表層部の内部で内部酸化させて、表面濃化が殆ど起こらないようにさせるからである。
A℃超えB℃以下の温度域における雰囲気中の露点を−10℃以上に制御する理由は以下の通りである。露点を上昇させることにより、HOの分解から生じる酸素ポテンシャルを上昇し、地鉄表層部での内部酸化を促進することが可能である。−10℃を下回る温度域では、内部酸化の形成量が少ない。また、露点の上限については特に定めないが、80℃を超えてくるとFeの酸化量が多くなり、加熱炉やロールの劣化が懸念されるため、80℃以下が望ましい。より好ましい露点の範囲は−10〜0℃である。
上記温度域の温度Aを520≦A<600とする理由は以下の通りである。520℃よりも低い温度域では、雰囲気中の露点を−10℃以上に制御しても、地鉄表層部に内部酸化が殆ど形成されず、520℃以上で内部酸化が起こり始める。このため、地鉄表層部内に、所定量の内部酸化を形成させるために、温度Aを520℃以上に設定する必要がある。また、雰囲気中の露点を制御せずに加熱帯の温度が600℃を超える温度まで昇温させた場合、表面濃化が多くなるため、酸素の内方拡散が阻害され、地鉄表層部で内部酸化が起こりにくくなる。従って、少なくとも600℃以下の温度域から−10℃以上の露点に制御しなければならない。以上から、Aの許容範囲は520≦A<600であり、上述した理由により、この範囲内においてAはなるべく低い値であることが望ましい。好ましいAの範囲は520≦A≦590である。
550≦B≦700とする理由は、表面濃化を抑制するメカニズムから、以下の通り説明することができる。地鉄表層部内で内部酸化を適量形成することにより、地鉄表層部表面から10μm以内の内部に、易酸化性元素(Si、Mnなど)の固溶量を減少させた領域(以下、欠乏層と称する)を形成させ、鋼中からの易酸化性元素の表面拡散を抑制する。この内部酸化を形成し、表面濃化を抑制するために十分な欠乏層を形成させるためには、550≦B≦700とする必要がある。550℃を下回った場合、十分に内部酸化が形成されない。また、700℃を超えると内部酸化の形成量が過剰となり、加工時に割れが発生しやすくなり、耐めっき剥離性が劣化する。
本発明では、焼鈍炉内での鋼板最高到達温度を600℃以上700℃以下に制御し、鋼板最高到達温度の温度域における鋼板通過時間を30秒以上10分以下に制御する。なお、鋼板最高到達温度の温度域は加熱帯及び均熱帯の少なくとも一方に設ければよいが、本発明においては均熱帯に設けることが好ましい。
鋼板最高到達温度を600℃以上700℃以下とした理由は以下の通りである。600℃未満では焼鈍後の鋼板が良好な材質にならない。一方、700℃を上回る温度域では、地鉄表層部で表面濃化が顕著となり、不めっき発生、耐食性の劣化、耐めっき剥離性の劣化等が顕著になる。さらに焼鈍後の母材鋼板の材質の観点から、700℃を上回る温度域では、強度と延性のバランスをとる効果が飽和する。
鋼板温度が600℃以上700℃以下の温度域における鋼板通過時間を30秒以上10分以下とした理由は以下の通りである。30秒を下回れば目標とするTS、Elが得られない。一方、10分を上回れば、強度と延性のバランスをとる効果が飽和する。
次いで、本発明の対象とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の母材鋼板を構成する成分について説明する。
C:0.03〜0.35%
Cは、鋼組織としてマルテンサイトなどを形成させることで鋼板の加工性を向上させる。そのためにはCの含有量を0.03%以上とする必要がある。一方、Cの含有量が0.35%を超えると溶接性が劣化する。したがって、Cの含有量は0.03%以上0.35%以下とする。
Si:0.01〜0.50%
Siは、母材鋼板を強化して良好な材質を得るのに有効な元素ではあるが、易酸化性元素であるため、めっき性には不利であり、極力添加することは避けるべき元素である。しかしながら、0.01%程度は不可避的に鋼板中に含まれ、その含有量をこれ以下に低減するためにはコストが上昇してしまうため、0.01%を下限とする。一方、Siの含有量が0.50%を超えると高加工時の耐めっき剥離性の改善が困難になる。したがって、Siの含有量は0.01%以上0.50%以下とする。好ましいSiの含有量は0.02%以上0.03%以下である。
Mn:3.6〜8.0%
Mnは母材鋼板の高強度化に有効な元素である。機械特性や強度を確保するためは、母材鋼板にMnを3.6%以上含有させることが必要である。一方、8.0%を超えると溶接性やめっき密着性の確保、強度と延性のバランスの確保が困難になる。したがって、Mnの含有量は3.6%以上8.0%以下とする。
Al:0.001〜1.000%
Alは溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、その含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。つまり、溶鋼の脱酸の効果は0.001%以上で得られる。一方、1.000%を超えると生産コストが大幅に上昇する。したがって、Alの含有量は0.001%以上1.000%以下とする。好ましいAlの含有量は0.02%以上0.05%以下である。
P≦0.10%
Pは不可避的に含有される元素のひとつである。Pの含有量を0.005%未満にするためには、コストの増大が懸念されるので、Pの含有量は0.005%以上が望ましい。一方、0.10%を超えてPを含有すると溶接性が劣化し、さらに、表面品質が劣化する。また、非合金化処理時にはめっき密着性が劣化し、合金化処理時には合金化処理温度を上昇しないと所望の合金化度とすることができない。また所望の合金化度とするために合金化処理温度を上昇させると延性が劣化し、同時に合金化めっき皮膜の密着性が劣化する。このため、所望の合金化度と、良好な延性を両立させることができない。したがって、Pの含有量は0.10%以下とし、下限としては0.005%以上が望ましい。好ましいPの含有量は0.01%以上0.100%以下である。
S≦0.010%
Sは不可避的に含有される元素のひとつである。Sの含有量の下限は規定しないが、一般的には鋼板中に0.001%含まれる場合が多い。また、Sが多量に含有されると溶接性が劣化するため0.010%以下とする。
なお、表面品質改善や強度と延性のバランスを制御するため、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.050%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sn:0.001〜0.20%、Sb:0.001〜0.20%、Ta:0.001〜0.10%、W:0.001〜0.10%、V:0.001〜0.10%の中から選ばれる1種以上の元素を必要に応じて添加してもよい。これらの元素を添加する場合における適正添加量の限定理由は以下の通りである。
B:0.001〜0.005%
Bの含有量が0.001%以上では焼き入れ促進効果が得られやすい。一方、Bの含有量が0.005%以下ではめっき密着性を高めやすい。よって、母材鋼板がBを含有する場合、Bの含有量を0.001%以上0.005%以下とすることが好ましい。より好ましいBの含有量は0.001%以上0.003%以下である。
Nb:0.005〜0.050%
Nbの含有量が0.005%以上では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られやすい。一方、Nbの含有量が0.050%以下であればNbを含むことにより生産コストが大幅に増加することもほとんどない。よって、Nbを含有する場合、Nbの含有量を0.005%以上0.050%以下とすることが好ましい。
Ti:0.005〜0.050%
Tiの含有量が0.005%以上では強度調整の効果が得られやすい。一方、Tiの含有量が0.050%以下ではめっき密着性の劣化を招きにくい。よって、母材鋼板がTiを含有する場合、Tiの含有量を0.005%以上0.050%以下とすることが好ましい。より好ましいTiの含有量は0.020%以上0.050%以下である。
Cr:0.001〜1.000%
Crの含有量が0.001%以上では焼き入れ性効果が得られやすい。一方、Crの含有量が1.000%以下ではCrが表面濃化しにくいため、めっき密着性や溶接性が劣化しにくい。よって、母材鋼板がCrを含有する場合、Crの含有量を0.001%以上1.000%以下とすることが好ましい。
Mo:0.05〜1.00%
Moの含有量が0.05%以上では強度調整の効果やNb、またはNiやCuとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られやすい。一方、Moの含有量が1.00%以下であればMoを含むことにより生産コストが大幅に上昇することがほとんどない。よって、母材鋼板がMoを含有する場合、Moの含有量を0.05%以上1.00%以下とすることが好ましい。
Cu:0.05〜1.00%
Cuの含有量が0.05%以上では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られやすい。一方、Cuの含有量が1.00%以下であればCuを含むことにより生産コストが大幅に上昇することがほとんどない。よって、母材鋼板がCuを含有する場合、Cuの含有量を0.05%以上1.00%以下とすることが好ましい。
Ni:0.05〜1.00%
Niの含有量が0.05%以上では残留γ相形成促進効果やCuとMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られやすい。一方、Niの含有量が1.00%以下であればNiを含むことにより生産コストが大幅に上昇することがほとんどない。よって、母材鋼板がNiを含有する場合、Niの含有量を0.05%以上1.00%以下とすることが好ましい。
Sn:0.001〜0.20%、Sb:0.001〜0.20%
SnやSbは鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。このような窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質を改善する。窒化や酸化を抑制する観点から、Sn、Sbを含有する場合は、いずれかの含有量を0.001%以上とすることが好ましい。また、いずれかの含有量が0.20%を超えると靭性の劣化を招くので、0.20%以下とすることが好ましい。
Ta:0.001〜0.10%
Taは、CやNと炭化物や炭窒化物を形成することで高強度化に寄与し、さらに高降伏比(YR)化に寄与する。さらに、Taは熱延鋼板組織を微細化する作用を有し、この作用により、冷延、焼鈍後のフェライト粒が微細化される。この微細化によって、粒界面積の増大に伴う粒界へのC偏析量が増大し、高焼付き硬化量(BH量)を得ることができる。このような観点から、Taを0.001%以上含有することができる。一方、0.10%を超える過剰のTaの含有は、原料コストの増加を招くだけでなく、焼鈍後の冷却過程におけるマルテンサイトの形成を妨げる可能性がある。また、熱延板中に析出したTaCは、冷間圧延時の変形抵抗を高くし、安定した実機製造を困難にする場合がある。したがって、Taを含有する場合は、0.10%以下とすることが好ましい。
W:0.001〜0.10%
WをSi、Mnと複合添加することにより、Γ相の生成を抑制し、めっき密着性を向上させる効果がある。このような作用はW:0.001%以上含有して認められる。一方、0.10%を超えてWを含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できず、経済的に不利となる。以上より、Wを含有する場合、0.001%以上0.10%以下が好ましい。
V:0.001〜0.10%
Vは炭窒化物を形成し、鋼を析出効果により高強度化する作用を有する元素であり、必要に応じて添加できる。このような作用は、Vを0.001%以上含有して認められる。一方、0.10%を超えてVを含有する場合、過度に高強度化し、延性が劣化してしまう。以上より、Vを含有する場合、0.001%以上0.10%以下が好ましい。
上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。上記記載の元素以外の元素を含有しても、本発明には何ら悪影響を及ぼすものではなく、その上限は0.10%とする。
次に、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法とその限定理由について説明する。本発明の製造方法の概要は以下の通りである。上記化学成分を有するスラブを熱間圧延する熱間圧延工程を行った後、冷間圧延する冷間圧延工程を有し、次いで、連続式溶融亜鉛めっき設備において、鋼板を焼鈍する焼鈍工程および溶融亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき処理工程を行う。
なお、この時、本発明においては、焼鈍工程において、加熱過程における加熱帯の温度域が500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)での雰囲気中の露点を−40℃以下とし、加熱帯の温度域がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)での雰囲気中の露点を−10℃以上とし、焼鈍炉内での鋼板最高到達温度の温度域を600℃以上700℃以下とし、鋼板最高到達温度の温度域における鋼板通過時間を30秒以上10分以内とすることを特徴とする。各工程の詳細は以下の通りである。
熱間圧延工程
熱間圧延を行う際の条件は特に限定されず、一般的な方法で熱間圧延の条件を設定して、スラブを熱間圧延すればよい。
酸洗処理工程
熱延鋼板の表面を酸洗処理する酸洗処理工程を行うことが好ましい。酸洗処理では、熱延鋼板の表面に生成した黒皮スケールを除去する。なお、酸洗処理の条件は特に限定されない。
冷間圧延工程
冷間圧延は、40%以上80%以下の圧下率で行うことが好ましい。圧下率が40%以上であれば再結晶温度が低温化しにくいため、機械特性が劣化しにくい。一方、圧下率が80%以下であれば、高強度鋼板を用いることが原因となる圧延コストの上昇を抑えられやすいだけでなく、後述する焼鈍時の表面濃化が抑えられやすいため、めっきに関する特性(めっき外観、耐めっき剥離性)が劣化しにくい。
焼鈍工程
上述の通り、焼鈍炉では、焼鈍炉前段の加熱帯で鋼板を所定温度まで加熱する加熱過程を行う。また、焼鈍炉前段の加熱帯及び後段の均熱帯の少なくとも一方で所定温度、所定時間の条件で母材鋼板を保持する。
上述したように、本発明の加熱過程では、加熱帯温度が500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)の温度域において、雰囲気中の露点が−40℃以下になるように制御し、加熱帯温度がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)の温度域において、雰囲気中の露点が−10℃以上になるように制御する。また、本発明では、焼鈍炉内での鋼板最高到達温度を600℃以上700℃以下に制御し、この温度域における鋼板通過時間を30秒以上10分以下に制御する。
上述したように、これは本発明において、最も重要な要件である。このように焼鈍工程において露点、すなわち雰囲気中酸素分圧を制御することで、酸素ポテンシャルを低くしたり、酸素ポテンシャルを高めたりすることができる。加熱の前段で酸素ポテンシャルを低く制御することで、地鉄表層部における表面濃化を抑制することが可能となる。また、加熱の後段で酸素ポテンシャルを高く制御することで、SiやMn等がめっき直前に予め内部酸化して、地鉄表層部におけるSi、Mnの活量が低下する。そして、これらの元素の外部酸化が抑制され、結果的にめっき性及び耐めっき剥離性が改善することになる。
上記で露点を制御する領域以外の焼鈍炉雰囲気の露点は特に限定されないが、−40℃超〜−10℃の範囲にあることが好ましい。
なお、焼鈍工程の際の水素濃度が1vol%以上であれば、還元による活性化効果が得られやすく、耐めっき剥離性が劣化しにくい。上限は特に規定しないが、50vol%超になると生産コストが上昇し、かつ効果も飽和する。よって、水素濃度は1vol%以上50vol%以下が好ましい。なお、焼鈍炉内の気体成分は、水素以外には窒素ガスと不可避不純物気体からなる。本件発明効果を損ねるものでなければ他の気体成分を含有してもよい。
また、同一焼鈍条件で比較した場合、Si、Mnの表面濃化量は、鋼板中のSi、Mnの含有量に比例して大きくなる。また、同一鋼種の場合、比較的高い酸素ポテンシャル雰囲気では、鋼板中のSi、Mnが内部酸化に移行するため、雰囲気中酸素ポテンシャルの増加に伴い、表面濃化量も少なくなる。そのため、鋼板中のSi、Mnの含有量が多い場合、露点を上昇させることにより、雰囲気中酸素ポテンシャルを増加させる必要がある。
溶融亜鉛めっき処理
溶融亜鉛めっき処理は、連続溶融亜鉛めっきラインを使用し、焼鈍後の母材鋼板を溶融亜鉛めっき浴に連続浸漬し、溶融亜鉛めっきする処理である。溶融亜鉛めっき処理条件は特に限定されず、一般的な方法で処理条件を決定すればよい。
合金化処理
溶融亜鉛めっき処理に引き続いて、必要に応じて合金化処理を行う。合金化処理を行うときは、溶融亜鉛めっき処理をしたのち、さらに、鋼板を加熱して合金化処理を施し、めっき層のFe含有量を8〜14%にするのが好ましい。8%以上であれば合金化ムラが発生しにくく、フレーキング性が劣化しにくい。一方、14%以下であれば耐めっき剥離性が劣化しにくい。好ましい上記Fe含有量は9〜12%である。なお、合金化処理の際の加熱温度は特に限定されないが400〜650℃が好ましく、より好ましくは460〜600℃である。
以上により、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板の表面に、片面あたりのめっき付着量が20〜120g/mの亜鉛めっき層を有する。20g/m以上であれば耐食性を確保できる。一方、120g/m以下であれば耐めっき剥離性が劣化しにくい。好ましいめっき付着量は20〜110g/mである。そして、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき層直下の地鉄表層部が以下の構造を有する。
亜鉛めっき層の直下の、地鉄表層部の表面から100μm以内の地鉄表層部には、Fe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Sn、Sb、Ta、W、Vのうちから選ばれる1種以上の酸化物が合計で片面あたり0.010〜0.10g/m形成される。また、めっき層直下の、地鉄表層部の表面から10μmまでの領域の地鉄表層部には、粒界から1μm以内の粒内にMnを含有する酸化物が存在する。以下、これらについて説明する。
Si及び多量のMnを含む鋼板を用いて製造した高強度溶融亜鉛めっき鋼板において、高加工時の耐めっき剥離性を満足させるためには、高加工時の割れなどの起点になる可能性があるめっき層直下の地鉄表層部の組織、構造をより高度に制御する必要がある。
そこで、本発明では、めっき性を確保するために上記焼鈍工程において、低温域では酸素ポテンシャルを低下させ外部酸化及び内部酸化を抑制し、高温域では酸素ポテンシャルを高め、内部酸化を適量生成させ外部酸化を抑制する。酸素ポテンシャルをこのように調整するために、露点制御を上述のように行った。その結果、易酸化性元素であるSiやMn等がめっき直前に予め内部酸化するので、地鉄表層部におけるSi、Mnの活量が低下する。そして、これらの元素の外部酸化が抑制され、結果的にめっき性及び耐めっき剥離性が改善する。この改善効果が得られるとき、亜鉛めっき層の直下の、地鉄表層部の表面から100μm以内の地鉄表層部に、Fe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Sn、Sb、Ta、W、Vのうちから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物が合計で片面あたり0.01g/m以上存在する。一方、0.10g/mを超えて存在させてもこの効果は飽和するため、上限は0.10g/mとする。好ましくは酸化物が合計で片面あたり0.010〜0.080g/m形成される。
また、内部酸化が粒界にのみ存在し、粒内に存在しない場合、鋼板中の易酸化性元素の粒界拡散は抑制できるが、粒内拡散は十分に抑制できない場合がある。そこで、本発明では、上述したように、焼鈍の際の加熱過程における、加熱帯温度の温度域が500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)のときの雰囲気中の露点を−40℃以下になるように制御し、加熱帯温度の温度域がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)のときの雰囲気中の露点を−10℃以上になるように制御する。この制御により、粒界のみならず粒内でも内部酸化させることができる。具体的には、めっき層直下の地鉄表層部の表面から10μmまでの領域において、粒界から1μm以内の粒内にMnを含む酸化物を存在させることができる。粒内に酸化物が存在することで、酸化物近傍の粒内の固溶Si、Mnの量が減少する。その結果、Si、Mnの粒内拡散による表面への濃化を抑制することができる。
なお、本発明の製造方法で得られる高強度溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層直下の地鉄表層部の構造は、上記の通りである。地鉄表層部の表面から100μm以内の上記構造、地鉄表層部の表面から10μmまでの領域における上記構造を有するものであれば、地鉄表層部の厚みは特に限定されない。また、めっき層直下の地鉄表層部の表面から100μmを超えた領域で上記酸化物が成長していても問題はない。また、めっき層直下の、地鉄表層部から10μmを超えた領域おいて、粒界から1μm以上の粒内に結晶性Si、Mn系複合酸化物を存在させても問題はない。
また、上記に加え、本発明では、耐めっき剥離性を向上させるために、Si、Mn系複合酸化物が成長する地鉄表層部の地鉄組織は軟質で加工性に富むフェライト相が好ましい。
以下、本発明を、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
表1に示す化学成分を有するスラブを熱間圧延してなる熱延鋼板を酸洗処理し、熱延鋼板の表面の黒皮スケール除去した後、表2、3に示す条件にて冷間圧延し、厚さ1.0mmの鋼板を得た。
Figure 2014095142
次いで、上記で得た鋼板を、焼鈍炉にオールラジアントチューブ型の加熱炉を備えるCGLに装入した。CGLでは、表2、3に示す通り、加熱帯の所定の温度域の雰囲気中の露点を制御して通板し、加熱帯で加熱し、均熱帯で均熱保持することで、鋼板を焼鈍したのち、460℃のAl含有Zn浴にて鋼板表面に溶融亜鉛めっき処理を施した。上記で露点を制御した領域以外の焼鈍炉雰囲気の露点は−35℃とした。
なお、焼鈍炉雰囲気中の気体成分は窒素と水素と不可避不純物気体とからなる。また、雰囲気中の露点を−10℃以上とする制御については、窒素中に設置した水タンクを加熱することで加湿した窒素ガスが流れる配管を予め別途設置し、加湿した窒素ガス中に水素ガスを導入して混合し、これを炉内に導入する方法で行った。また、雰囲気中の露点を−40℃以下とする制御については、雰囲気中の水分を吸収除去する方法で行った。また、焼鈍炉雰囲気中の水素濃度は10vol%を基本とした。
また、表2、3のめっき種GAでは0.14%Al含有Zn浴を用い、GIでは0.18%Al含有Zn浴を用いた。めっき付着量はガスワイピングにより所定の付着量(20〜110g/m、片面あたり付着量)に調節し、めっき種がGAの例については、溶融亜鉛めっき処理の後に合金化処理を施した。
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板(GAおよびGI)に対して、外観性(めっき外観)、高加工時の耐めっき剥離性、加工性を調査した。また、めっき層直下の100μmまので地鉄表層部に存在する酸化物の量(内部酸化量)、および、めっき層直下10μmまでの地鉄表層部に存在するSi、Mnを含む酸化物の形態と成長箇所、粒界から1μm以内の位置におけるめっき層直下の粒内析出物を測定した。測定方法および評価基準を下記に示す。
<外観性>
外観性は目視で評価し、不めっきや合金化ムラなどの外観不良が無い場合は外観良好(記号○)、ある場合は外観不良(記号×)と判定した。
<耐めっき剥離性>
高加工時の耐めっき剥離性とは、めっき種がGAの場合、高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、90°を超えて鋭角に曲げたときの曲げ加工部のめっき剥離が抑制できることを指す。耐めっき剥離性の評価は、120°曲げした加工部にセロハンテープを押し付けて剥離物をセロハンテープに転移させ、セロハンテープ上の剥離物量をZnカウント数として蛍光X線法で求める方法で行った。なお、測定条件は、マスク径が30mm、蛍光X線の加速電圧が50kV、加速電流が50mA、測定時間が20秒とした。下記の基準に照らして、ランク1、2のものを耐めっき剥離性が良好(記号○)、3以上のものを耐めっき剥離性が不良(記号×)と評価した。
蛍光X線Znカウント数 ランク
500未満:1(良)
500以上1000未満:2
1000以上2000未満:3
2000以上3000未満:4
3000以上:5(劣)
めっき種がGIの場合、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の衝撃試験時の耐めっき剥離性が要求される。評価は、ボールインパクト試験を行い、加工部をテープ剥離し、めっき層の剥離有無を目視判定する方法で行った。ボールインパクト条件は、ボール質量1000g、落下高さ100cmとした。
○:めっき層の剥離無し
×:めっき層が剥離
<耐食性>
寸法70mm×150mmの高強度溶融亜鉛めっき鋼板について、JIS Z 2371(2000年)に基づく塩水噴霧試験を3日間行い、腐食生成物をクロム酸(濃度200g/L、80℃)を用いて1分間洗浄除去し、片面あたりの試験前後のめっき腐食減量(g/m・日)を重量法にて測定し、下記基準で評価した。
○(良好):20g/m・日未満
×(不良):20g/m・日以上
<加工性>
加工性は、JIS5号片を作成し引っ張り強度(引っ張り強度は本明細書において「TS」と表す場合があり、単位はMPaである)と伸び(伸びは本明細書において「El」を表す場合があり、単位は%である)を測定し、TS×El≧24000のものを良好、TS×El<24000のものを不良とした。
<めっき層直下100μmまでの領域における内部酸化量>
Fe、Si、Mn、Al、P、さらには、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Sn、Sb、Ta、W、Vのうちから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物の合計量である内部酸化量は、「インパルス炉溶融−赤外線吸収法」により測定した。ただし、素材(すなわち焼鈍を施す前の高強度鋼板)に含まれる酸素量を差し引く必要がある。本発明では、焼鈍後の鋼板の両面の表層部を100μm以上研磨して鋼板中の酸素濃度を測定し、その測定値を素材に含まれる酸素量OHとし、また、焼鈍後の鋼板の板厚方向全体での鋼板中の酸素濃度を測定して、その測定値を内部酸化後の酸素量OIとした。このようにして得られた鋼板の内部酸化後の酸素量OIと、素材に含まれる酸素量OHとを用いて、OIとOHの差(=OI−OH)を算出し、さらに片面単位面積(すなわち1m)当たりの量に換算した値(g/m)を内部酸化量とした。
<めっき層直下の地鉄表層部表面から10μmまでの領域の地鉄表層部に存在するSi、Mnを含む酸化物の有無、粒界から1μm以内の位置におけるMnを含む酸化物の有無>
めっき層を溶解除去後、その断面をSEMで観察し、粒内析出物の電子線回折で非晶質、結晶性の別を調査し、同じくEDX、EELSで組成を決定した。粒内析出物が結晶性で、Si、Mnが主成分である場合にSi、Mnを含む酸化物であると判定した。視野倍率は5000〜20000倍で、各々5箇所調査した。5箇所の内、1箇所以上にSi、Mnを含む酸化物が観察された場合、粒内にSi、Mnを含む酸化物が析出していると判断した。内部酸化の成長箇所がフェライトであるか否かは、断面SEMで第2相の有無を調査し、第2相が認められないときはフェライトと判定した。また、めっき層直下から10μmまでの領域において、粒界から1μm以内の粒内のSi、Mnを含む酸化物は、断面を抽出レプリカ法で析出酸化物を抽出し上記の同様の手法で決定した。
以上により得られた結果を製造条件と併せて表2、3に示す。
Figure 2014095142
Figure 2014095142
表2、3から明らかなように、本発明法で製造されたGI、GA(本発明例)は、Si、Mn等の易酸化性元素を多量に含有する高強度鋼板であるにもかかわらず加工性および高加工時の耐めっき剥離性に優れ、めっき外観も良好である。一方、比較例では、めっき外観、加工性、高加工時の耐めっき剥離性のいずれか一つ以上が劣る。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき外観、加工性および高加工時の耐めっき剥離性に優れ、自動車の車体そのものを軽量化かつ高強度化するための表面処理鋼板として利用することができる。また、自動車以外にも、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板として、家電、建材の分野等、広範な分野で適用できる。

Claims (4)

  1. 鋼板の表面に、亜鉛めっき層を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、
    前記鋼板は、質量%で、C:0.03〜0.35%、Si:0.01〜0.50%、Mn:3.6〜8.0%、Al:0.001〜1.000%、P≦0.10%、S≦0.010%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    鋼板に連続式溶融亜鉛めっき設備において焼鈍を施すに際し、前記焼鈍の加熱過程における温度域が500℃以上A℃以下(A:520≦A<600を満たす任意の値)での雰囲気中の露点を−40℃以下とし、前記加熱過程における温度域がA℃超えB℃以下(B:550≦B≦700を満たす任意の値)での雰囲気中の露点を−10℃以上とし、
    前記焼鈍における鋼板最高到達温度の温度域を600℃以上700℃以下とし、前記鋼板最高到達温度の温度域における鋼板通過時間を30秒以上10分以内とし、
    片面あたりのめっき付着量が20〜120g/mになるように溶融亜鉛めっき処理を行うことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  2. 前記鋼板は、成分組成として、質量%で、さらに、B:0.001〜0.005%、Nb:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.050%、Cr:0.001〜1.000%、Mo:0.05〜1.00%、Cu:0.05〜1.00%、Ni:0.05〜1.00%、Sn:0.001〜0.20%、Sb:0.001〜0.20%、Ta:0.001〜0.10%、W:0.001〜0.10%、V:0.001〜0.10%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  3. 溶融亜鉛めっき処理後、さらに、450℃以上600℃以下の温度に鋼板を加熱して合金化処理を施し、亜鉛めっき層のFe含有量を8〜14質量%の範囲にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 請求項1〜3記載のいずれか1項に製造方法により製造され、
    亜鉛めっき層直下の、地鉄表面から100μm以内の地鉄表層部に生成したFe、Si、Mn、Al、P、B、Nb、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni、Sn、Sb、Ta、W、Vのうちから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物を合計で、片面あたり0.010〜0.10g/m2有し、
    更に、めっき層直下の前記地鉄表層部表面から10μm以内の領域において、粒界から1μm以内の粒内にMnを含む酸化物が存在していることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
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