JP2014095105A - 排気系部品の窒化処理方法 - Google Patents
排気系部品の窒化処理方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2014095105A JP2014095105A JP2012245592A JP2012245592A JP2014095105A JP 2014095105 A JP2014095105 A JP 2014095105A JP 2012245592 A JP2012245592 A JP 2012245592A JP 2012245592 A JP2012245592 A JP 2012245592A JP 2014095105 A JP2014095105 A JP 2014095105A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- nitriding
- gas
- exhaust
- temperature
- contact portion
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Landscapes
- Solid-Phase Diffusion Into Metallic Material Surfaces (AREA)
- Heat Treatment Of Articles (AREA)
Abstract
【課題】窒化ガスの無駄な分解と最表面での化合物層の形成とを抑制し、窒化ガスの消費量を抑えつつ、最表面に高耐食性と所要層厚を有する耐食層を形成可能な排気系部品の窒化処理方法を実現する。
【解決手段】排気接触部を有する排気系部品を窒化ガスを用いて窒化させる排気系部品の窒化処理方法であって、排気系部品Wの少なくとも排気接触部をオーステナイト系ステンレス鋼で形成しておき、窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限するとともに、窒化ガスを加熱しつつ排気接触部に接触させて通常の窒化温度より高くかつ850℃未満の高温に加熱して、排気接触部に窒化された耐食層を形成する。
【選択図】図1
【解決手段】排気接触部を有する排気系部品を窒化ガスを用いて窒化させる排気系部品の窒化処理方法であって、排気系部品Wの少なくとも排気接触部をオーステナイト系ステンレス鋼で形成しておき、窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限するとともに、窒化ガスを加熱しつつ排気接触部に接触させて通常の窒化温度より高くかつ850℃未満の高温に加熱して、排気接触部に窒化された耐食層を形成する。
【選択図】図1
Description
本発明は、排気系部品の窒化処理方法に関し、特に、内燃機関の排気に接触する排気系部品の窒化処理方法に関する。
車両等に搭載される内燃機関においては、排気成分を含む水蒸気が凝縮したりその水分が蒸発したりして酸性度の高い凝縮水となり、凝縮水の溜まり易い部分の排気系部品に腐食が生じ易い状態となる場合が多い。
そこで、そのような排気系部品の腐食防止のために、耐食性(耐腐食性)の高いステンレス鋼を素材として使用し、そのステンレス鋼製の排気系部品の表面硬化等のために窒化処理するといったことが行われている。
従来のそのような排気系部品の窒化処理方法として、例えばオーステナイト系ステンレス鋼粉末の焼結体を700〜1000℃(摂氏度)、10〜50体積%(パーセント)のアンモニアガス雰囲気中で窒化し、オーステナイトマトリックス中に微細なクロム窒化物を分散させることで、潤滑油補給できない高温環境での軸受面の耐摩耗性を向上させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、オーステナイト系ステンレスの加工性および耐食性を高めるべく、1050℃〜1200℃かつアンモニア濃度2%〜10%の雰囲気中で窒化するものがある(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、上述のような従来の窒化方法では、窒化処理温度が非常に高温であるため、窒化ガスにおけるアンモニアガスの熱分解が激しくなって窒化が困難になるか、窒化力(窒化ガス濃度)を極限まで下げないと窒化鉄を主体とする化合物層ができてしまうかであった。そのため、アンモニアガスの消費量が比較的多くなっても、窒化層の表層部分に耐食性の高い耐食層を十分な層厚に形成することができないという問題があった。
また、上述のような従来の窒化方法では、高温環境下で窒素をステンレス鋼中に十分に固溶および拡散させたとしても、その後の冷却中に窒素固溶度を低下させるような変態や結晶組織変化が生じるため、例えば窒化クロム等が析出してその周囲のクロム含有率を低下させてしまい、窒化層の耐食性が低下し易くなることが懸念されていた。
さらに、窒化処理部分の最表面に化合物層が形成されると、その下部に窒素が固溶・拡散した比較的耐食性の高い窒化層が形成されたとしても、耐食環境下で最表面の化合物が溶出し、排気系の後部品(下流側のバルブ等)の表面に堆積したり付着したりして、目詰まりの原因となることが懸念されるという問題があった。
そこで、本発明は、窒化ガスの無駄な分解と最表面での化合物層の形成とを抑制し、窒化ガスの消費量を抑えつつ、排気接触部の最表面に高い耐食性と所要の層厚を有する窒化された耐食層を形成することのできる排気系部品の窒化処理方法を実現することを目的とする。
本発明に係る排気系部品の窒化処理方法は、上記目的達成のため、(1)内燃機関の排出ガスに接触する排気接触部を有する排気系部品を窒化ガスを用いて窒化させる排気系部品の窒化処理方法であって、前記排気系部品の少なくとも前記排気接触部をオーステナイト系ステンレス鋼で形成しておき、前記窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積パーセント未満に制限するとともに、前記窒化ガスを加熱しつつ前記排気接触部に接触させて通常の窒化温度より高くかつ摂氏850度未満の高温に加熱して、前記排気接触部に窒化された耐食層を形成することを特徴とする。
本発明では、高温域で熱分解し易くなるアンモニアガスの窒化ガス中における含有率が十分に低い値に設定されて、窒化処理温度が通常より高温でもアンモニアガスの分解が許容範囲内に抑制される。したがって、アンモニアガスの熱分解が激しくなって窒化が困難になるということがなく、化合物層の生成も有効に抑制されることになる。しかも、排気接触部がオーステナイト系テンレス鋼で形成されているので、窒素の固溶および拡散後の冷却中に窒素固溶度を低下させるような変態や結晶組織変化が生じ難い。よって、窒化ガスの無駄な分解と最表面での化合物層の形成とを抑制し、排気接触部の最表面に高耐食性に窒化された耐食層を所要の層厚で低コストに形成することができる。なお、ここで、通常の窒化処理温度とは、オーステナイト系ステンレス鋼への窒素固溶量が一定値を超えて大きくなる温度域であってオーステナイト系ステンレス鋼への窒化処理温度として通常使用される温度域内の温度をいう。
本発明の排気系部品の窒化処理方法においては、(2)前記窒化ガスにおける前記アンモニアガスの含有率と、前記窒化ガスに接触し加熱される前記排気接触部の加熱温度とを、それぞれ前記排気接触部の最表面における化合物層の生成の阻止に有効な低含有率範囲内および高温度範囲内に設定するものであるのがよい。
この構成により、アンモニアガスの含有率と、前記窒化ガスに接触し加熱される前記排気接触部の加熱温度とが、それぞれ予め設定された化合物層の生成の阻止に有効な範囲内で選定されることになり、これらの耐食層の最表面における化合物層の生成がより有効に阻止されるとともに、アンモニアガスの含有率および窒化処理温度の設定や制御が容易化されることになる。
本発明の排気系部品の窒化処理方法においては、(3)前記排気系部品のうち少なくとも前記排気接触部の温度を前記通常の窒化温度より高くかつ摂氏850度未満の特定温度まで昇温させ、前記特定温度に上昇した前記排気接触部の温度を予め設定された均熱保持時間だけ保持させた後、前記排気系部品のうち少なくとも前記排気接触部を徐冷することを特徴とする。
この場合、最表面における化合物層の生成を的確に阻止したり耐食層の耐食性を向上させたりするよう、特定温度への昇温時間や均熱保持時間等を調整できる。
本発明の排気系部品の窒化処理方法においては、(4)前記排気系部品を窒化炉内に収納して、少なくとも前記排気接触部を前記窒化炉内に露出させておき、前記窒化ガスを前記窒化炉内に予め設定した流量で供給するとともに、前記窒化炉内を前記通常の窒化温度より高くかつ摂氏850度未満の前記高温になるように加熱して前記排気接触部を窒化させてもよい。
この場合、窒化炉内の温度に応じて窒化処理中の窒化ガスの供給条件を制御することができ、安定した窒化処理を行うことができる。
本発明によれば、窒化ガスの無駄な分解と最表面での化合物層の形成とを抑制し、最表面に高い耐食性と所要の層厚を有する窒化された耐食層を形成することのできる排気系部品の窒化処理方法を実現することができる。
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(一実施形態)
図1ないし図5は、本発明の一実施形態に係る排気系部品の窒化処理方法を説明する図であり、図1にその窒化処理システムの概略構成を示している。
図1ないし図5は、本発明の一実施形態に係る排気系部品の窒化処理方法を説明する図であり、図1にその窒化処理システムの概略構成を示している。
本実施形態は、本発明を自動車に搭載される内燃機関の排気系にあって広面積の排気接触面を有する排気系部品、例えば排出ガスを冷却するEGRクーラの排気接触部の窒化処理方法に適用するものである。なお、排気系部品が排出ガスに接触する他の部品でもよいことはいうまでもない。
まず、本実施形態の窒化処理システムの構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態の窒化処理システム11は、窒化ガス供給装置12、窒化炉13およびパージ装置14を含んで構成されている。また、窒化処理システム11には、図示しない前処理ガス供給装置と、残留ガス処理装置とが併設されている。
窒化ガス供給装置12は、アンモニア(NH3)ガスが圧縮して充填された第1ガスボンベ21と、窒素(N2)ガスが圧縮して充填された第2ガスボンベ22とを併有している。また、窒化ガス供給装置12は、第1ガスボンベ21からのアンモニアガスと第2ガスボンベ22からの窒素ガスとを混合した窒化ガスを窒化炉13内に供給する供給制御ユニット23と、窒化炉13内に露出する雰囲気センサ24と、を有している。
第1ガスボンベ21は、供給制御ユニット23側に所要の供給圧および流量の範囲内でアンモニアガスを連続供給できるようになっており、第2ガスボンベ22は、供給制御ユニット23側に所要の供給圧および流量の範囲内で窒素ガスを連続供給できるようになっている。
供給制御ユニット23は、詳細を図示しないが、複数の制御バルブとそれら制御バルブの開度を可変制御する制御機構とによって構成されている。雰囲気センサ24は、例えば窒化炉13内における水素ガス濃度を検出する水素センサを含んで構成されている。
また、供給制御ユニット23は、予め設定された窒化処理条件に従って、雰囲気センサ24の検出情報を基にアンモニア(NH3)ガスと窒素(N2)ガスの混合比率を変化させることで、窒化炉13内の窒化ガスにおけるアンモニア(NH3)ガスの含有率や窒化ポテンシャルPNを可変制御できるようになっている。
ここにいう窒化ポテンシャルPNは、例えば窒化ガス中のアンモニアガス(NH3)の濃度に対応する分圧P(NH3)と窒化ガス中の水素ガス(H2)の濃度に対応する分圧P(H2)とに基づいて、次式〔1〕で算出される。同式中のkは、定数である。
具体的には、供給制御ユニット23は、窒化炉13内の窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積パーセント(以下、体積%と記す)未満に制限しつつ、予め設定された窒化処理条件に従って、アンモニアガス濃度を増加させて窒化ポテンシャルPNを上げたり、アンモニアガス濃度を減少させて窒化ポテンシャルPNを下げたりできるようになっている。
具体的には、供給制御ユニット23は、窒化炉13内の窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積パーセント(以下、体積%と記す)未満に制限しつつ、予め設定された窒化処理条件に従って、アンモニアガス濃度を増加させて窒化ポテンシャルPNを上げたり、アンモニアガス濃度を減少させて窒化ポテンシャルPNを下げたりできるようになっている。
窒化ガス供給装置12と共に窒化炉13の上流側に設けられる前処理ガス供給装置は、ワークWへの窒化ガスの供給に先立ってあるいは供給時に、オーステナイト系ステンレス鋼からなるワークWの表面の不動態皮膜を除去し活性化するための前処理ガス、例えば硫化水素ガス(H2Sガス)のような硫黄系ガスを窒化炉13内に供給できるように構成されている。
なお、本実施形態では硫黄系ガスとするが、他のガスでもよい。また、本実施形態では不動態皮膜を除去するために前処理ガスによる化学的除去処理を行うが、前処理液による化学的除去処理を行うこともできるし、あるいは、物理的除去処理を行うことも考えられる。さらに、不動態皮膜の除去処理および窒化炉13内でのガス窒化処理は、いずれもワークWの窒化処理対象部分以外をマスキングすることで、窒化処理対象部分にのみ施すことができ、ワークWの内部にのみその処理を施すこともできる。
窒化炉13は、例えば窒化処理室31、窒化ガス導入口32、加熱装置33、攪拌装置34、支持装置35およびガス排出口36を有している。
この窒化炉13内の窒化処理室31は、図示しない断熱層によって炉外空間から断熱されているとともに、ワークWを出し入れ可能になっている。また、窒化ガス導入口32は、窒化ガス供給装置12から窒化ガスが供給されるとき、その窒化ガスを窒化処理室31の内部に導入することができるようになっている。
加熱装置33は、窒化処理室31の内部を加熱するヒータ33aと、窒化処理室31の内部の温度を検出する温度センサ33bと、加熱温度を予め設定された加熱条件および温度センサ33bの検出温度に基づいてヒータ33aの出力を可変制御する加熱制御ユニット33cとを有している。ヒータ33aは、例えば窒化炉13の内壁面の広範囲に及ぶ内壁部分に埋設されており、窒化処理室31の内部、特にワークWの配置領域となる空間部分を均等に加熱するようになっている。また、温度センサ33bは、窒化処理室31の内部、特にワークWの窒化処理部分の近傍の窒化ガス温度を検出するようになっている。
この加熱装置33は、窒化炉13の内部を加熱しつつ加熱した窒化ガスをワークWの排気接触部に接触させ、ワークWの排気接触部およびその近傍の窒化ガスをオーステナイト系ステンレス鋼に対する通常の窒化温度(例えば、590℃程度)より高くかつ850℃未満となる高温域内の温度に加熱することができるようになっている。
攪拌装置34は、窒化処理室31の内部の窒化ガスを攪拌するファン等で構成されているが、窒化ガス導入口32から窒化処理室31内に入る窒化ガスを分散させるガス分散板等によって構成されてもよい。
支持装置35は、窒化処理室31内でワークWを窒化処理可能に支持するものであり、少なくとも1つのワークWを多点で支持する台状、枠状、籠状または鉤状といった任意の形状を採り得る。また、支持装置35は、ワークWを所定方向に移動させる搬送機能を併有するものであってもよい。
ガス排出口36は、パージ装置14が作動するとき、窒化処理室31内のガス(残留ガスやワーク搬入時に入った空気等)をパージ装置14側に排出することができるようになっている。
パージ装置14は、窒化炉13の下流側(排気側)に配置されており、ワークWの搬入時に窒化処理室31内に入った空気や、窒化処理室31内での窒化処理後の残留ガスを排気する真空ポンプ等によって構成されている。窒化処理室31内から排気された残留ガス等は、このパージ装置14より下流側の残留ガス処理装置に送られる。そして、その残留ガス処理装置内で公知の方法により無害化処理されるようになっている。
ワークWは、オーステナイト系ステンレス鋼からなる板金や偏平パイプ等の素材で構成されたEGRクーラ40(図4参照)の未完成品またはその排気接触部となるガス管部分である。
図4に示すように、EGRクーラ40は、例えばJIS規格でSUS316Lと規定されるステンレス鋼素材から箱状に作製されたケース41を有しており、このケース41の内部に図外の水冷式の内燃機関の排出ガスに接触する複数の偏平な熱交換パイプ42(排気接触部)が設けられている。そして、ケース41内の複数の偏平な熱交換パイプ42の内外に、前記内燃機関からの排出ガスが通るガス通路43と、その内燃機関の冷却水が通る冷却水通路44とが互いに仕切られた状態で形成されている。
具体的には、EGRクーラ40には、内燃機関の排出ガスの通過方向(図4中の黒矢印A1方向)におけるケース41の両端側に、複数の支持板46A,46Bを介して複数の熱交換パイプ42に連結された前後のガス導入管45Aおよびガス排出管45Bが設けられている。そして、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a(内周側および外周側のうちいずれか一方側の周壁面部分、排気接触部)とガス導入管45Aおよびガス排出管45Bの内壁面部分45e,45fとによって、ガス通路43が形成されている。また、複数の熱交換パイプ42はそれぞれの両端部で支持板46A,46Bによってケース41に支持されており、これらケース41、複数の熱交換パイプ42の外周壁面部42bおよび支持板46A,46Bによって、冷却水通路44が形成されている。
以下、ワークWについても、EGRクーラ40の各部名称を用いながら、本実施形態の窒化処理について説明する。
図4中の部分拡大図に示すように、ガス通路43を形成する熱交換パイプ42の内周壁面部分42aには、窒化された耐食層Lcrが形成されている。
耐食層Lcrは、フェライトを含まないオーステナイト系ステンレス鋼の母材層Lmの上層側に位置する熱交換パイプ42の内周壁面部分42aの最表面付近で、粒界にクロム窒化物(CrN)を析出させることなく均一なオーステナイト組織中に窒素を十分に固溶させた状態の窒化層である。すなわち、この耐食層Lcrは、耐食性に寄与するクロム(Cr)やニッケル(Ni)の含有率が十分に高くなっており、フェライトを含まないものとなっている。
特に、本実施形態では、母材がSUS316Lであり、低炭素含有率であってモリブデン(Mo)を含有するので、それによっても耐食層Lcrの耐食性が高められ得るようになっている。ただし、材質がSUS316Lに限られないのは勿論である。
耐食層Lcrは、熱交換パイプ42の内周壁面部分42aだけでなく、他の排気接触部であるガス導入管45Aおよびガス排出管45Bの内壁面部分45e,45fにも、ケース41の内部の同様な耐食層として、形成されている。
次に、本実施形態に係る排気系部品の窒化処理方法の一実施形態について、すなわち、熱交換パイプ42の内周壁面部分42aやガス導入管45Aおよびガス排出管45Bの内壁面部分45e,45fに耐食層Lcrを形成する方法について、説明する。
図2に示すように、本実施形態の排気系部品の窒化処理方法は、準備工程と、前処理およびガス導入工程と、昇温工程と、均熱保持工程と、冷却工程とを含むガス窒化法となっている。
準備工程では、まず、少なくとも排気接触部をオーステナイト系ステンレス鋼、例えばSUS316Lで形成した複数のワークWを準備する。すなわち、EGRクーラ40または熱交換パイプ42の窒化処理前品である複数のワークWは、少なくとも熱交換パイプ42の内周壁面部分42aをオーステナイト系ステンレス鋼で形成したものである。次に、各ワークWのガス通路以外の部分をカバー(例えば、軟鋼板製のカバー)によってマスキングした状態で、各ワークWを窒化炉13内に搬入する(ステップS1)。
次いで、ワークWの搬入時に窒化炉13の窒化処理室31(その直前のパージ室でもよい)内に入った空気をパージするとともに、窒化炉13の窒化処理室31内に前記前処理ガスを導入し、ワークWの排気処理部の最表面における不動態膜を除去する前処理を実行する。このとき、例えば前処理ガスである硫化水素ガスを熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の表面の酸化クロム(CrOx)を主体する酸化物(不動態皮膜)と反応させることで、その酸化物を硫化物に変化させる形で不動態皮膜を除去することができる。勿論、このような前処理に限定されるものではない。
次いで、この前処理ガスの導入後に、アンモニア(NH3)ガスおよび窒素ガス(N2)が混合された窒化ガスを窒化炉13の窒化処理室31内に導入する(ステップS2)。なお、前処理ガスの導入途中から窒化ガスを窒化処理室31内に導入してもよい。また、前処理後に不動態膜が再度生成されるのを抑制するために、窒化ガス導入後に適量の前処理ガスを補充したり継続供給したりしてもよい。
窒化ガスを窒化処理室31内に導入すると、熱交換パイプ42の内周壁面部分42aやガス導入管45Aおよびガス排出管45Bの内壁面部分45e,45fといった排気接触部(以下、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等という)に接触するように、アンモニアガスを主成分とする窒化ガス雰囲気が形成される。
このとき、供給制御ユニット23により、予め設定された窒化処理条件と雰囲気センサ24の検出情報とを基に、アンモニア(NH3)ガスと窒素(N2)ガスの混合比率を調節し、窒化処理室31内の窒化ガス雰囲気におけるアンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限する。
一方、この間、例えば窒化炉13内への窒化ガスの導入と並行して、加熱装置33により、窒化炉13の内部を加熱し始め、窒化処理室31内の温度(温度センサ33bの検出温度)を上昇させる。そして、窒化処理室31内に窒化ガス雰囲気が形成される段階からあるいは窒化ガス雰囲気の形成後に、図3(b)に示す昇温期間P1におけるように、単位時間当たりの温度上昇勾配を略一定として窒化炉13の内部を加熱し、ワークWの排気接触部に接触する窒化ガスとワークWとを昇温させる(ステップS3)。具体的には、窒化ガスとこれに接触するワークWの排気接触部の温度を、前記通常の窒化温度より高くかつ850℃未満の高温域に含まれる特定温度Tm[℃]、例えば830℃に昇温させる。
したがって、昇温期間P1においては、窒化処理室31内の窒化ガスが、アンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限されつつ好適な窒化ポテンシャルPNとなるアンモニアガス濃度に調節され、かつ、ワークWの排気接触部の近傍において特定温度Tmまで昇温することになる。
ワークWの温度が予め設定された均熱保持温度Tmに接近する状態になると、加熱装置33による加熱条件を緩和して、ワークWのうち少なくとも熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の排気接触部の全域を特定温度Tmに維持し、ワークWを均熱保持する均熱保持工程に移行する(ステップS4)。
ここでの均熱保持温度である特定温度Tmは、オーステナイト系ステンレス鋼に対する窒素の窒素固溶量が一定値を超える通常の窒化処理温度(例えば、590℃程度)以上に高い温度であるが、アンモニアガスの含有率が10体積%未満に制限された窒化ガスの熱分解を窒化処理可能な範囲内に抑え得る850℃未満の温度域内に含まれている。また、特定温度Tmは、オーステナイト系ステンレス鋼の固溶化熱処理温度(例えば1000℃以上)より十分に低い温度であり、ワークWの熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等を形成するオーステナイト系ステンレス鋼のオーステナイト組織を安定して維持できる温度域に含まれている。窒化ガス中の窒素ガスは、特定温度Tmでほとんど分解しない。
この均熱保持工程でワークWの温度を均熱保持温度Tmに保持する保持時間Hpは、例えば30分である。なお、図3(b)中において、保持時間Hpに対応する保持期間P2の時間長さは、昇温期間P1や冷却期間P3より長くなっているが、これに限定されるものではなく、期間P1〜P3のそれぞれの時間設定は、任意である。
前記好適な窒化ポテンシャルPNとそれに対応するアンモニアガスの含有率は、それぞれ変化させることができるが、均熱保持期間P2においてはそれぞれの最適値に近付けるように制御される。すなわち、均熱保持期間P2における窒化ガス中のアンモニアガスの含有率(アンモニアガスと窒素ガスの混合比率)と、窒化ガスおよびこれに接触し加熱されるワークWの排気接触部の加熱温度とは、それぞれ排気接触部の最表面における化合物層の生成の阻止に有効な低含有率範囲内および高温度範囲内に設定される。
ここでの低含有率範囲とは、10体積%未満の含有率範囲のうち、化合物層の生成の阻止に有効な含有率範囲として実験結果等に基づき設定された範囲である。また、高温度範囲とは、オーステナイト系ステンレス鋼に対する通常の窒化処理温度より高温であってアンモニアガスの過剰な熱分解が生じる850℃以上の範囲を除く温度範囲のうち、化合物層の生成の阻止に有効な範囲として実験結果等に基づき設定された温度範囲である。
均熱保持期間P2においては、また、窒化ポテンシャルPNを好適な値に制御するために、窒化ガスのアンモニアガスと窒素ガスを窒化ポテンシャルPNの調節に要する混合比率で供給するとともに、ワークWに接触した後のガスをパージ装置14側に排出させるように、窒化処理システム11の窒化ガス供給装置12、窒化炉13およびパージ装置14を制御することができる。
このような制御状態において、アンモニアガスの温度が、均熱保持温度Tmより低温であるもののアンモニアの分解が始まる所定温度を超えると、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の表面の近傍に存在する窒化ガス雰囲気のうちアンモニアガスが分解し、この水素により、ワークWの排気接触部の表面上に生成されていた硫化物が活性な金属に還元される。そして、そのような状態下で、アンモニアの分解により生じた発生期(分解遊離直後)の窒素が、均熱保持されたワークWの排気接触部の表層部分に容易に吸着され、原始径の小さい窒素がオーステナイト組織中に容易に侵入し、特定温度Tmの高温下で好適な拡散速度で拡散する(図3(a)参照)。
このとき、窒化ガス雰囲気は通常の窒化処理温度より高温であり、その窒化ガス雰囲気中のアンモニアガスの単位量当りでは分解が進行し易い状態となっているが、窒化ガス雰囲気中のアンモニアガスの含有率が10体積%未満に制限されているので、アンモニアガスの過剰な分解によってワークWの排気接触部の最表面に化合物層が形成されることが有効に抑制される。しかも、ワークWの排気接触部の最表面部分は、アンモニアガスの分解による水素の発生量に応じて活性な金属に還元されるとともに、そこに分解遊離直後の窒素が容易に侵入することになるので、排気接触部の表層部分に侵入した窒素の抜け出しやクロム窒化物の析出も生じ難い。
したがって、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の表面、すなわち、オーステナイト系ステンレス鋼の母材層Lmの上層側の表層部(図3(a)中に(Lcr)で示す)の最表面付近において、クロム窒化物を析出させることなくオーステナイト組織中に窒素が十分に固溶した状態で窒化処理が進行し、予め設定された均熱保持時間(例えば、30分程度)だけ窒化された層が、最終的に耐食層Lcrとなる。
次いで、予め設定された均熱保持時間が経過すると、ワークWの加熱が停止されるか、加熱量が低減されて、ワークWの冷却が開始される。すなわち、冷却工程に移行する(ステップS5)。
この冷却工程中において、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の表面温度は自然放熱により徐々に低下し、窒化ガス温度が徐々に熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の表面温度に近付き、冷却完了時には、両者が略同一温度になって、一連の窒化処理が終了する。
この冷却工程においては、ワークWの排気接触部がオーステナイト系テンレス鋼で形成されているので、窒素の固溶および拡散後の冷却中、排気接触部の表層部分に窒素固溶度を低下させるような変態や結晶組織変化は生じ難い。
冷却が終了すると、ワークW内の残留ガスがパージ装置14を介して残留ガス処理装置に導入され、そこで公知の方法により無害化処理される。
このように、本実施形態では、窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限するとともに、窒化ガスを加熱しつつワークWの排気接触部に接触させて通常の窒化温度より高くかつ850℃未満の高温に加熱し、ワークWの排気接触部の表層部分に窒化された耐食層Lcrを形成する。
次に、本実施形態の作用について説明する。
上述のような本実施形態の排気系部品の窒化処理方法においては、窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限するとともに、窒化ガスを通常の窒化処理温度より高温の特定温度Tmに加熱することから、ワークWの排気接触部の最表面近傍におけるアンモニアガスの過剰な分解が有効に抑制される。すなわち、通常の窒化処理温度であって、窒化ガスのアンモニアガスの含有率が10体積%より少ない場合であれば、窒化ガス中の窒素量が不十分で、ステンレス材の表層部分の窒化処理が不十分となってしまうが、窒化ガスによる窒化処理温度が高温の特定温度Tmであることから、アンモニアガスの所要の分解量が得られる。
したがって、ワークWの排気接触部の最表面における化合物層の生成を有効に抑制しながら、拡散層の表層側の部分に耐食性に優れた耐食層Lcrを所要の層厚、例えば10μm以上の層厚に形成することができる。また、窒化処理に要するアンモニアガスの消費量も抑えることができるので、窒化処理コストを低減させることもできる。
しかも、ワークWは少なくともその排気接触部がオーステナイト系テンレス鋼で形成されているので、排気接触部への窒素の固溶および拡散後の冷却中に、窒素固溶度を低下させるような変態や結晶組織の変化が生じ難い。すなわち、ワークWの素材を例えばフェライト系ステンレス鋼とした場合、均熱保持工程でオーステナイト相となった排気接触部の表層部分において、冷却工程中に窒素固溶度の低い結晶組織への変態が生じ、窒化クロム等が分散状態で析出することでその周囲のクロム含有率を低下させてしまい、耐食性が低下し易くなることが懸念される。本実施形態では、そのようなことがない。
よって、窒化ガスの無駄な分解と最表面での化合物層の形成とを抑制しつつ、排気接触部の最表面に高耐食性に窒化された耐食層Lcrを所要の層厚で低コストに形成することができることになる。
特に、本実施形態の排気系部品の窒化処理方法においては、窒化ガス中におけるアンモニアガスの含有率と、ワークWの排気接触部の加熱温度とが、排気接触部の最表面における化合物層の生成の阻止に有効な低含有率範囲内および高温度範囲内に設定されている。したがって、排気接触部の最表面における化合物層の生成がより有効に阻止されるとともに、窒化処理の制御も容易化されることになる。
また、本実施形態では、ワークWの排気接触部の温度を特定温度Tm[℃]まで昇温させ、特定温度に上昇した排気接触部の温度を予め設定された均熱保持時間Hp[min]だけ保持させた後に、ワークWの排気接触部を徐冷する。したがって、ワークWの排気接触部の最表面における化合物層の生成を的確に阻止したり耐食層Lcrの耐食性を向上させたりするよう、特定温度Tmへの昇温時間や均熱保持時間Hp等を調整することも可能である。
さらに、本実施形態では、ワークWの排気系部品を窒化炉13内に収納して、少なくともワークWの排気接触部を窒化炉13内に露出させておき、窒化ガスを窒化炉13内に予め設定した流量で供給するとともに、窒化炉13内を通常の窒化温度より高くかつ850℃未満の高温になるように加熱して排気接触部を窒化させる。したがって、窒化炉13内の温度に応じて窒化処理中の窒化ガスの供給条件を制御することができ、安定した窒化処理を行うことができる。
このように、本実施形態の排気系部品の窒化処理方法においては、窒化ガスの無駄な分解とワークWの排気接触部の最表面における化合物層の形成とを抑制して、その排気接触部の最表面に高い耐食性と所要の層厚を有する耐食層Lcrを形成することができる。
このようにして窒化処理がなされたワークWは、EGRクーラ40となり、このEGRクーラ40が車両走行駆動用の内燃機関の排気系に装備される。
この状態においては、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等といった排気接触部の最表面に化合物層が形成されることなく耐食性の高い窒化層Lcrが形成されているので、耐食環境下で最表面の化合物が溶出して下流側のバルブ等の表面に堆積したり付着したりすることがなく、目詰まり等の原因となることがない。
(実施例1)
均熱保持工程における最適な窒化ポテンシャルを0.007に設定し、窒化処理室31内に入るアンモニア(NH3)ガスの流量を0.4[m3/h]、窒素(N2)ガスの流量を13[m3/h]として、アンモニアガスの含有率が3.0体積%となるようにし、かつ、窒化処理室31から排出されるガスにおける残留アンモニア濃度が0.05[%]となるように、窒化処理システム11の窒化ガス供給装置12、窒化炉13およびパージ装置14を制御しつつワークWの実施例1の窒化処理を行った。
均熱保持工程における最適な窒化ポテンシャルを0.007に設定し、窒化処理室31内に入るアンモニア(NH3)ガスの流量を0.4[m3/h]、窒素(N2)ガスの流量を13[m3/h]として、アンモニアガスの含有率が3.0体積%となるようにし、かつ、窒化処理室31から排出されるガスにおける残留アンモニア濃度が0.05[%]となるように、窒化処理システム11の窒化ガス供給装置12、窒化炉13およびパージ装置14を制御しつつワークWの実施例1の窒化処理を行った。
その結果、図5および図8(a)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に、化合物層を形成することなく、高耐食性に窒化された耐食層Lbを10μm以上の層厚で形成することができた。また、両図から明らかなように、耐食層Lbにもこれを含む拡散層Ldにも、粒界窒化物や窒化クロムの分散状態での析出等はみられない。この窒化処理後のワークWの排気接触部の耐食性は、従来の耐食性要求レベルを満足するものであった。よって、ここでの耐食層Lbは、前述の耐食層Lcrとなり得るものである。
(比較例1)
アンモニアガスの含有率のみを実施例1と相違させるように、通常のガス窒化処理と同程度の20体積%とし、他の条件を実施例1と同じにして、ワークWの比較例1の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率のみを実施例1と相違させるように、通常のガス窒化処理と同程度の20体積%とし、他の条件を実施例1と同じにして、ワークWの比較例1の窒化処理を行った。
その結果、図6および図8(e)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に化合物層Laが厚く形成されるとともに、窒化層Lnを構成するその排気接触部の最表面から拡散層Ldの深層に及ぶ広範囲に、窒化クロム等の粒界窒化物が形成され、その近傍のクロム(Cr)が減少した状態となった。この場合、粒界腐食を生じ易い窒化層となり、耐食層Lcrにはなり得ない。
(比較例2)
アンモニアガスの含有率を通常のガス窒化処理と同程度の20体積%、窒化処理温度を通常程度の590℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例2の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を通常のガス窒化処理と同程度の20体積%、窒化処理温度を通常程度の590℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例2の窒化処理を行った。
その結果、図7(a)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に化合物層Laが厚く形成され、その下層に拡散層Ldが形成される窒化層Lnとなった。また、その拡散層Ldの表層部分に耐食性の良好な耐食層Lbが形成された。この場合、窒化鉄を主体とする複合窒化物の化合物層Laは、図7(b)に示すように、酸性度の高い凝縮水等によって溶出し易い。したがって、下流側の排気形部品の目詰まり等の原因となることが懸念される。
(比較例3)
アンモニアガスの含有率を通常のガス窒化処理より十分に下げた10体積%とする一方で、窒化処理温度を通常の窒化処理域の上限である600℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例3の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を通常のガス窒化処理より十分に下げた10体積%とする一方で、窒化処理温度を通常の窒化処理域の上限である600℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例3の窒化処理を行った。
その結果、図7(c)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に化合物層Laが厚く形成されるとともに、その下層に拡散層Ldが形成された。そして、その拡散層Ldの表層部分に耐食性の良好な耐食層Lbが形成された。この場合、窒化鉄や窒化クロムを含む化合物層Laが形成されるのを抑制できず、窒素の拡散速度が遅い等の理由から耐食層Lbも層厚が小さく、耐食層Lcrにはなり得ない。
(実施例2)
アンモニアガスの含有率を5体積%、窒化処理温度を実施例1と同様の830℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの実施例2の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を5体積%、窒化処理温度を実施例1と同様の830℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの実施例2の窒化処理を行った。
その結果、図8(b)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に、化合物層を形成することなく、高耐食性に窒化された耐食層Lbを10μm以上の層厚で形成することができた。また、同図中の耐食層Lbにもこれを含む拡散層Ldにも、粒界窒化物や窒化クロムの分散状態での析出等はみられない。よって、この耐食層Lbは、前述の耐食層Lcrとなり得るものである。
(実施例3)
アンモニアガスの含有率を10体積%、窒化処理温度を実施例1、2と同様の830℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの実施例3の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を10体積%、窒化処理温度を実施例1、2と同様の830℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの実施例3の窒化処理を行った。
その結果、図8(c)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に、化合物層を形成することなく、高耐食性に窒化された耐食層Lbを10μm以上の層厚で形成することができた。また、同図中の耐食層Lbにもこれを含む拡散層Ldにも、粒界窒化物や窒化クロムの分散状態での析出等はみられない。よって、この耐食層Lbは、前述の耐食層Lcrとなり得るものである。
(比較例4)
アンモニアガスの含有率を15体積%、窒化処理温度を実施例1−3と同様の830℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例4の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を15体積%、窒化処理温度を実施例1−3と同様の830℃とし、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例4の窒化処理を行った。
その結果、図8(d)に示すように、ワークWの排気接触部の最表面に化合物層Laが形成されるとともに、その下層に拡散層Ldが形成された。この場合、窒化鉄や窒化クロムを含む化合物層Laが形成されるのを抑制できず、耐食層Lbも層厚が小さく、耐食層Lcrにはなり得ない。
(比較例5)
アンモニアガスの含有率を5体積%とし、窒化処理温度を実施例1−3と相違する850℃として、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例5の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を5体積%とし、窒化処理温度を実施例1−3と相違する850℃として、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例5の窒化処理を行った。
その結果、窒化炉13内におけるアンモニアガスの熱分解が激しくなって窒化が困難になり、図9(a)に示すように、ワークWの排気接触部の表層部分に有効な窒化層を形成することができなかった。
(比較例6)
アンモニアガスの含有率を10体積%とし、窒化処理温度を実施例1−3と相違する850℃として、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例6の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を10体積%とし、窒化処理温度を実施例1−3と相違する850℃として、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例6の窒化処理を行った。
その結果、窒化炉13内におけるアンモニアガスの熱分解が激しくなって窒化が困難になり、図9(b)に示すように、ワークWの排気接触部の表層部分に有効な窒化層を形成することができなかった。
(比較例7)
アンモニアガスの含有率を15体積%とし、窒化処理温度を実施例1−3と相違する850℃として、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例7の窒化処理を行った。
アンモニアガスの含有率を15体積%とし、窒化処理温度を実施例1−3と相違する850℃として、前述の窒化システムを用いてワークWの比較例7の窒化処理を行った。
その結果、窒化炉13内におけるアンモニアガスの熱分解が激しくなって窒化が困難になり、図9(c)に示すように、ワークWの排気接触部の表層部分に有効な窒化層を形成することができなかった。
これら実施例1−3および比較例1−7の窒化処理の結果から明らかなように、熱交換パイプ42の内周壁面部分42a等の排気接触部を有する排気系部品を窒化ガスを用いて窒化処理する際には、排気系部品のワークWの少なくとも排気接触部をオーステナイト系ステンレス鋼で形成しておき、次のように窒化処理することが望ましい。すなわち、窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積%未満に制限するとともに、窒化ガスを加熱しつつ排気接触部に接触させて通常の窒化温度590℃程度より高くかつ850℃未満の高温に加熱することで、排気接触部に高い耐食性と十分な層厚を有する耐食層Lcrを形成できることがわかる。
(他の実施形態)
図10は、本発明の他の実施形態に係る排気系部品の窒化処理方法を実施するその排気系部品の断面構成を示している。なお、本実施形態では、ワークWの外表面部に窒化処理を施すようになっている点で、前述の一実施形態とは相違するが、他の構成は前述の一実施形態と略同様である。したがって、一実施形態と同様の構成については、図1−図4に示された対応する構成要素の符号を用い、主に一実施形態との相違点について以下に説明する。
図10は、本発明の他の実施形態に係る排気系部品の窒化処理方法を実施するその排気系部品の断面構成を示している。なお、本実施形態では、ワークWの外表面部に窒化処理を施すようになっている点で、前述の一実施形態とは相違するが、他の構成は前述の一実施形態と略同様である。したがって、一実施形態と同様の構成については、図1−図4に示された対応する構成要素の符号を用い、主に一実施形態との相違点について以下に説明する。
本実施形態における排気系部品は、図10に示すEGRクーラ80の一部、例えばケース21の内部に配置された複数の熱交換パイプ82(排気接触部)となっており、それら熱交換パイプ82の外周壁面部分82bが図外の内燃機関の排出ガスに接触する排気接触部82e,82fとなっている。そして、それらの熱交換パイプ82の外周壁面部分82bに、耐食層Lcrが形成されている。
本実施形態において、ワークWは、EGRクーラ80の主要部品である複数の熱交換パイプ82の窒化処理前品となる。
本実施形態では、ワークWの外周壁部に窒化処理を施すので、不動態皮膜を除去するための前処理ガスをワークWの内部に侵入させないよう、ワークWを両端側内周部で閉塞する。それ以外の窒化処理の手順は、前述の一実施形態と同様である。
本実施形態においても、前述の一実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、上述の各実施形態の窒化処理方法においては、アンモニアガスおよび窒素ガスを混合したガス窒化を用いてガス窒化するものとしたが、本発明は、窒化処理可能な他のガス、例えばアンモニアガスのみで窒化層を形成する場合や、他のガス(例えば、水素(H2)ガス、二酸化炭素(CO2)あるいは空気等)を更に混合して窒化層を形成する場合にも適用可能である。
また、本実施の形態の排気系部品においては、排気系部品をEGRクーラやその主要部品に適用するものとしたが、本発明に係る排気系部品は、これに限られず、例えば、排気マニホールドや排気管、EGRバルブ等のように、排気接触部を有する他の排気系部品にも適用可能である。
さらに、上述の各実施形態では、温度センサ33bを有する加熱装置33を構成していたが、温度センサは均熱保持温度に達するとOFFからONに、またはその逆に切り替わるスイッチやサーモスタットで構成されてもよい。
以上のように、本発明は、窒化ガスの無駄な分解と最表面での化合物層の形成とを抑制し、最表面に高い耐食性と所要の層厚を有する窒化された耐食層を形成可能な排気系部品の窒化処理方法を実現できるという効果を奏するものである。このような本発明は、内燃機関の排出ガスに接触する排気接触部を有する排気系部品の窒化処理方法全般に有用である。
11…窒化処理システム、12…窒化ガス供給装置、13…窒化炉、14…パージ装置、21…第1ガスボンベ(アンモニアガス供給部)、22…第2ガスボンベ(窒素ガス供給部)、23…供給制御ユニット、24…雰囲気センサ(水素センサ)、31…窒化処理室、32…窒化ガス導入口、33…加熱装置、33a…ヒータ、33b…温度センサ(窒化処理温度検知部)、33c…加熱制御ユニット、34…攪拌装置、35…支持装置、36…ガス排出口、40、80…EGRクーラ(排気系部品)、41…ケース、42,82…熱交換パイプ(排気系部品)、42a…内周壁面部分(排気接触部)、42b…外周壁面部、43…ガス通路、45A…ガス導入管、45B…ガス排出管、45e,45f…内壁面部分(排気接触部)、46A,46B…支持板、82e,82f…排気接触部、La…化合物層(表面窒化物、複合窒化物)、Lb…耐食層(拡散層の表層部分)、Lcr…耐食層(高耐食性と所要層厚を有する耐食層)、Ld…拡散層、Lm…母材層、Ln…窒化層、P1…昇温期間、P2…均熱保持期間、P3…冷却期間、W…ワーク(排気系部品)
Claims (4)
- 内燃機関の排出ガスに接触する排気接触部を有する排気系部品を窒化ガスを用いて窒化させる排気系部品の窒化処理方法であって、
前記排気系部品の少なくとも前記排気接触部をオーステナイト系ステンレス鋼で形成しておき、
前記窒化ガスにおけるアンモニアガスの含有率を10体積パーセント未満に制限するとともに、前記窒化ガスを加熱しつつ前記排気接触部に接触させて通常の窒化温度より高くかつ摂氏850度未満の高温に加熱して、前記排気接触部に窒化された耐食層を形成することを特徴とする排気系部品の窒化処理方法。 - 前記窒化ガスにおける前記アンモニアガスの含有率と、前記窒化ガスに接触し加熱される前記排気接触部の加熱温度とを、それぞれ前記排気接触部の最表面における化合物層の生成の阻止に有効な低含有率範囲内および高温度範囲内に設定することを特徴とする請求項1に記載の排気系部品の窒化処理方法。
- 前記排気系部品のうち少なくとも前記排気接触部の温度を前記通常の窒化温度より高くかつ摂氏850度未満の特定温度まで昇温させ、
前記特定温度に上昇した前記排気接触部の温度を予め設定された均熱保持時間だけ保持させた後、
前記排気系部品のうち少なくとも前記排気接触部を徐冷することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排気系部品の窒化処理方法。 - 前記排気系部品を窒化炉内に収納して、少なくとも前記排気接触部を前記窒化炉内に露出させておき、
前記窒化ガスを前記窒化炉内に予め設定した流量で供給するとともに、
前記窒化炉内を前記通常の窒化温度より高くかつ摂氏850度未満の前記高温になるように加熱して前記排気接触部を窒化させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1の請求項に記載の排気系部品の窒化処理方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2012245592A JP2014095105A (ja) | 2012-11-07 | 2012-11-07 | 排気系部品の窒化処理方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2012245592A JP2014095105A (ja) | 2012-11-07 | 2012-11-07 | 排気系部品の窒化処理方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2014095105A true JP2014095105A (ja) | 2014-05-22 |
Family
ID=50938427
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2012245592A Pending JP2014095105A (ja) | 2012-11-07 | 2012-11-07 | 排気系部品の窒化処理方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2014095105A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US20160226226A1 (en) * | 2015-01-30 | 2016-08-04 | Borgwarner Ludwigsburg Gmbh | Corona ignition device |
US9506389B2 (en) | 2015-03-05 | 2016-11-29 | Caterpillar Inc. | System and method for nitriding components of aftertreatment system |
-
2012
- 2012-11-07 JP JP2012245592A patent/JP2014095105A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US20160226226A1 (en) * | 2015-01-30 | 2016-08-04 | Borgwarner Ludwigsburg Gmbh | Corona ignition device |
US9506389B2 (en) | 2015-03-05 | 2016-11-29 | Caterpillar Inc. | System and method for nitriding components of aftertreatment system |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US9738963B2 (en) | Method for manufacturing ferritic stainless steel product | |
US5205873A (en) | Process for the low pressure carburization of metal alloy parts | |
JP5883727B2 (ja) | ガス窒化及びガス軟窒化方法 | |
US20120118435A1 (en) | Method and Apparatus for Nitriding Metal Articles | |
US8414710B2 (en) | Method for surface treatment of metal material | |
JP3839615B2 (ja) | 真空浸炭方法 | |
Maldzinski et al. | ZeroFlow gas nitriding of steels | |
JP2014095105A (ja) | 排気系部品の窒化処理方法 | |
WO2019131602A1 (ja) | 窒化鋼部材並びに窒化鋼部材の製造方法及び製造装置 | |
US10619950B2 (en) | Stainless steel and method of manufacturing the same | |
US9399811B2 (en) | Method for carbonitriding at least one component in a treatment chamber | |
He et al. | The Carburizing Behavior of High‐Temperature Short‐Time Carburizing Gear Steel: Effect of Nb Microalloying | |
KR100432956B1 (ko) | 금속침탄방법 | |
JP3450426B2 (ja) | ガス浸硫窒化処理方法 | |
WO2022107753A1 (ja) | 金属部材の処理方法及び処理装置 | |
WO2020090999A1 (ja) | 窒化鋼部材並びに窒化鋼部材の製造方法及び製造装置 | |
JP2009299122A (ja) | 浸窒焼入れ方法、浸窒焼入れ用ヒーター、および浸窒焼入れ装置 | |
JP2017197822A (ja) | 表面硬化処理方法および表面硬化処理装置 | |
JP5758278B2 (ja) | 窒化処理方法 | |
JP2014051727A (ja) | 排気系部品の窒化処理方法および排気系部品 | |
JP3310797B2 (ja) | ガス軟窒化法 | |
CN103628021A (zh) | 滴注式铁素体气体氮碳共渗工艺 | |
JP2005232518A (ja) | エンジンバルブの表面硬化処理法 | |
FR2847591A1 (fr) | Procede de cementation de pieces en acier pour travail a chaud par carburation en depression | |
JPS6033188B2 (ja) | 金属熱処理設備 |