JP2014079223A - エストロゲン活性を評価する方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】評価方法は、培養容器10を用いて細胞を培養してスフェロイド形状の細胞(スフェロイド9)を複数形成させる第1工程と、スフェロイド形状の細胞それぞれに対して、検査する化学物質を含む第1溶液、エストロゲン活性を有することが知られている化学物質を含む第2溶液、及び、第1溶液から前記検査する化学物質を除いた第3溶液のうちのいずれかを作用させる第2工程と、第1乃至第3溶液を作用させた各スフェロイド形状の細胞に対して、UDP−グルクロン酸転移酵素活性測定溶液を作用させて、各スフェロイド形状の細胞のUGT活性を測定する第3工程と、測定結果に基づいて、第1溶液に含む化学物質がエストロゲン類似活性を有するか否かを判定する第4工程と、を含む。
【選択図】図5A
Description
特許文献1は、エストロゲン存在下で発現量が増大することが確認された遺伝子及び/またはESTを指標とする点で非特許文献1の技術よりに優れるが、検査したい化合物1つに対して1つのマイクロアレイを作製する必要がある。このため、多数の化合物を検査する場合、多大な費用がかかる。
従来の技術では、評価結果の信頼性を向上させようとすると、手続は煩雑になるとともにコストがかかるという問題があった。
このように、正確性と簡便性を兼ね備えるエストロゲン類似活性の評価方法が見出されていなかった。
・細胞を培養してスフェロイド形状の細胞を複数形成させる第1工程。
・前記スフェロイド形状の細胞それぞれに対して、第1乃至第3溶液のいずれかを作用させる第2工程。第1溶液は、検査する化学物質(被験化学物質)を含む。第2溶液は、エストロゲン活性を有することが知られている化学物質を含む。第3溶液はエストロゲン活性を持たないことが知られている化学物質を含む。言い換えると第3溶液は、前記第1溶液から前記検査する化学物質を除いた溶液である。
・前記第1乃至第3溶液のうちのいずれかを作用させた各スフェロイド形状の細胞に対して、UDP−グルクロン酸転移酵素活性測定溶液を作用させて、各スフェロイド形状の細胞のUGT活性を測定する第3工程。
・測定結果に基づいて、第1溶液が含む化学物質のエストロゲン類似活性を判定する工程。具体的には、(1)前記第1溶液を作用させた前記スフェロイド形状の細胞のUGT活性が、前記第2溶液を作用させた前記スフェロイド形状の細胞のUGT活性と同等あるいはそれ以上に高い場合、前記第1溶液に含まれる化学物質は前記第2溶液に含まれる化学物質と等しいあるいはそれ以上のエストロゲン類似活性を有すると判定する。(2)前記第1溶液を作用させた細胞のUGT活性が、前記第3溶液の活性よりも高く、前記第2溶液の活性よりも低い場合、前記第1溶液に含まれる化学物質はゼロから前記第2溶液の活性値の間のエストロゲン類似活性を有すると判定する。(3)前記第1溶液を作用させた細胞のUGT活性が、前記第3溶液の活性と同等あるいはそれよりも低い場合、前記第1溶液に含まれる化学物質はエストロゲン類似活性をもたないと判定する。
これにより、正確性と簡便性とを備えるエストロゲン類似活性の評価方法を提供することができる。
用語「スフェロイド」は、細胞が多数凝集して細胞塊を形成し、3次元状態になったものである。
用語「ウェルプレート」は、多数のくぼみ(穴またはウェル)のついた平板からなる実験・検査器具であり、各ウェルを試験管あるいはシャーレとして利用するものをいう。ウェルの数には例えば、6、24、96、384などがあり、それ以上の数のものもある。ウェルの底は平らなもの、丸いもののほか、細長いマイクロチューブを多数組み合わせた形式のもの(ディープウェルプレート)もある。
加えて、「A、B、・・・、C、及びこれらの組合せ」という記載の「これらの組合せ」は、その前に記載のA、B、・・・、Cのうちの二つ以上の任意の数の組合せであることを意味する。言い換えると、「A、B、・・・、C、及びこれらの組合せ」は、A、B、・・・、Cのうちのいずれか一つと、これらの任意の数の組合せとのうちの一方、ということもできる。
即ち、検査したい化学物質を細胞に作用させたときのUGT活性の向上を調べることで、遺伝子発現量を指標とする従来技術よりも正確に、その化学物質がエストロゲン類似活性を有するものであるかどうか評価することができる。そのため、検査する化学物質を細胞に作用させる工程が必要であり、この工程の手法を見出した。
第1工程は、細胞を培養してスフェロイド形状の細胞を形成する培養処理である。以降の説明において、「スフェロイド形状の細胞」を「スフェロイド」と称することもある。
第2工程は、培養したスフェロイド形状の細胞へ、化学物質を含む溶液を作用させる作用処理である。
第3工程は、第1乃至第3溶液のいずれかを作用させた各スフェロイド形状の細胞に対して、UDP−グルクロン酸転移酵素活性測定溶液を作用させて、各スフェロイド形状の細胞のUGT活性を測定する測定処理である。
第4工程は、測定結果に基づいて、被験物質がエストロゲン類似活性を有するか否かを判定する判定処理である。
* 培養容器の概略
図1は、本発明の一実施形態で用いる培養プレートの全体を示す図である。図2Aは、図1に示す培養プレートのII−II線断面図であり、図2Bに、他の態様の断面図を示す。培養プレート1は、複数のウェル21を備える。複数のウェル21は、仕切り部22によって、隣り合うウェル21と隔てられる。複数のウェル21それぞれには、培養容器10が形成されている。
図3に、本発明の実施形態で用いる培養容器の構成例を示す。図4は、図3に示す培養容器のIV−IV線断面図である。
培養容器10は、培養空間11と、壁12と、底部13とを有する。
培養空間11は、壁12と底部13とで仕切られた領域であり、細胞を培養する三次元の空間領域(培養領域)となる。培養空間11は、単に「空間」、または「マイクロ空間」とも称する。
壁12は、培養空間11を仕切る隔壁であり、培養容器10に凹凸パターンを形成する凸部ともいえる。培養空間11が仕切り部22に隣接する場合、壁12は、図2Aに示すように、仕切り部22の壁面の一部分と同じになってもよいし、図2Bに示すように、仕切り部22の壁面に隣接して壁12が配置されてもよい。
底部13は、培養容器10の基板として機能するとともに、培養空間11が配置される側の表面は、培養領域(培養表面)の一部となる。底部13は、培養プレート1に形成された各ウェル21の底部と同じ領域であり、各ウェル21の底部が用いられる。底部13は、培養空間11の底を形成する。底部13のうち、培養空間11を形成する面の一部分であり、かつ、培養領域となる底部の表面を、「底部培養面14」とも称する。
相当直径Dは、培養空間11に内接する内接円の直径をいう。より詳しくは、相当直径Dは、培養空間11の底部13と平行する面の形状(正面の形状)、言い換えると、培養空間11の高さHの方向と垂直になる面の形状の内接円の直径をいう。培養空間11の正面の形状が、高さHに応じて異なる場合、株化肝細胞を培養する空間領域の最大値を相当直径の相当直径とする。
高さHは、培養空間11の底(底部培養面14)から壁12の上面までの長さであり、培養空間11の深さでもあるともいえる。また、底部培養面14が平面の場合、高さHは、壁12の高さと同じである。
壁12の幅Wは、壁12の厚さであるとともに、隣接する培養空間11間を隔てる距離であるともいえる。
* 培養空間の大きさ、形状等
培養空間11の相当直径Dについて、細胞が増殖するに従いスフェロイドの直径が大きくなることを考慮する必要がある。そこで重要なことは、スフェロイドが隣り合う培養空間11の細胞と接触しないような培養空間11を確保することである。このため、培養空間11の相当直径Dは、所望するスフェロイドの直径の1〜5倍の範囲が好ましく、1.2〜4倍の範囲がより好ましい。
例えば、直径100μmの株化肝細胞のスフェロイドを形成させるために、所望するスフェロイドの直径の1〜5倍の範囲、即ち、相当直径Dが100〜500μmの範囲で、高さHを相当直径Dで割った値が0.3〜2の範囲の培養空間11が規則的に配置されている底部13を有する培養容器10を用いる。
一方、一実施形態では、後述するように細胞接着性を抑制しているため、アミノ酸や酸素などの供給が可能、かつ、スフェロイドが脱離しない最適な高さHを設計する必要がある。好ましい範囲のスフェロイドを形成させるために好ましい高さH、相当直径Dを検討した結果、細胞増殖によりスフェロイドが過剰に大きくなることを防ぐためには、相当直径Dが100μm〜200μmの範囲、高さHが50μm〜100μmの範囲が好ましい。培養空間11の底までアミノ酸等の栄養分を十分に供給するため、かつ老廃物の蓄積を防ぐために、培養空間11の高さHは、培地交換や試験溶液交換時にスフェロイドが剥離しない限り低い方が好ましい。具体的には、培養空間11の高さHを相当直径Dで割った値が0.3〜2の範囲が好ましく、0.5〜1の範囲がより好ましいことを見いだした。
図1に示す培養プレート1で培養する場合、ウェル21毎に培養条件の設定、培地の交換等を実施することになる。そのため、各ウェル21に複数の培養空間11を形成するため、各ウェル21において、同条件で複数のスフェロイドを培養することが可能になる。加えて、ウェルプレートを用いてスフェロイドを培養することができるため、従来の細胞培養で用いる装置等を利用することが可能になる。
スフェロイド9の直径DSPを値dsp(dspは正の数値)とすると、培養空間11の相当直径Dは、値dspから値dspの5倍の範囲(dsp≦D≦5dsp)が好ましい範囲となる。また、培養空間11の高さHは、値dspの0.3倍から値dspの25倍(5×5)の範囲(0.3dsp≦H≦25dsp)が好ましい範囲となる。
「半値幅の範囲」とは、1試験領域にあるスフェロイドの総個数NTうち、直径の大きさと存在する個数との対応を取ったときに、存在する個数が最大となる直径D1の個数N1に対して、個数N1の半分の個数(N1/2)となる複数の直径のうち、最小の直径D2から最大の直径D3までの範囲に存在するスフェロイドの個数N2をいう。
スフェロイドの大きさを一様にするために、上述した総個数NTに対して個数N2が70%以上であることが好ましく、総個数NTに対する個数N2の割合が高くなることがより好ましい。
培養空間11の側面の形状は、図4に示す形状に限定されるものではなく、例えば、図7A〜7Cに示すような形状であってもよい。
加えて、培養容器10の底部13を構成するポリマーの全光線透過率が、85%以上99%未満であることが好ましい。全光線透過率(total luminous transmittance)は、日本工業規格(JIS K7375)により測定する。全光線透過率を高くすることにより、底部13の上に培養されたスフェロイドの観察性を確保することができる。
次に、細胞を培養する培養表面、すなわち、培養空間11を囲む壁12及び底部培養面14の特性、特に親水化処理について説明する。培養表面は、各培養空間11内に培地を入れるため、また、コーティング溶液を用いる場合には、その溶液が培養空間11内に入り込まなければ表面を覆うことができない。このため、水接触角を45度以下にすることが好ましい。より好ましくは0度〜20度の範囲である。また、水接触角の値は、培養空間11と壁12の凹凸パターンが形成されていない平板を、培養容器10と同条件で作製して測定した値を前提とする。
また、水接触角を45度以下にすることで、細胞接着性を抑制する物質をコートしてより接着性を抑制することにより、効率よくスフェロイドを形成させることができる。例えば、プラズマ処理を施し、水接触角を45度以下にした後、リン脂質・高分子複合体やポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)をコートしてもよい。
一実施形態の評価方法は、操作性の観点から、複数のウェルを備える培養プレートを用いることが好ましい。特に、培養処理(第1工程)と、作用処理(第2工程)とを同一のウェル内で行うことが好ましい。さらに加えて、測定処理(第3工程)を培養処理及び作用処理と同一のウェル内で行うことがより好ましい。そのため、一実施形態では、例えば、図1に示す培養プレート1の複数のウェル21を用い、複数のウェル21のうち、一つのウェル21内で培養処理から測定処理までの各工程を実施する場合を説明する。言い換えると、一つのウェル内で培養から測定までの処理において、処理の途中で細胞を別のウェル21に移動させることはない。培養プレート1が有するウェル21の数は、検査したい化学物質の種類等に応じて選択する。
培養処理では、上述した培養容器10によって形成される培養空間11を用いて、ウェルプレート内で細胞を培養してスフェロイドを複数形成させる。言い換えると、ウェルプレート内で細胞を三次元的に培養し、所望の大きさの複数のスフェロイドを形成する。
一実施形態の評価方法では、培養する細胞として、エストロゲンレセプターを有するヒトがん細胞由来の株化細胞および初代細胞を用いる。株化細胞の例として、乳がん由来のMCF−7細胞やT−47D細胞、子宮がん由来のRL−95−2細胞、腺管がん由来のZR−75−1細胞などを用いることができる。エストロゲンレセプターの発現有無はATCC(American Type Culture Collection)などの細胞資源バンクが提供する細胞のデータシートによって確認することができる。
細胞を培養する際は、温度37℃、気相の二酸化炭素濃度5vol%に維持することが好ましい。
上述した細胞容器を用いることにより、細胞が本来有する接着性を利用して、スフェロイドと呼ばれる凝集塊を形成させる。スフェロイドを形成させることによって、UGT活性を向上させることができる。
検査する化学物質を細胞に作用させる際には、スフェロイドの相当直径が50μm以上200μm未満、より好ましくは60μm以上150μm以下であるものを用いる。このような直径が好ましい理由は、上述の培養容器で説明した通りである。
培養容器10を形成する凹凸パターン(凹凸構造)により形成される複数の培養空間11の相当直径を、複数の培養空間の深さで割った値が1以上2未満であることが好ましい。
加えて、培養容器10を形成する凹凸パターンにより形成される複数の培養空間11の深さが1〜1000μmの範囲であることが好ましい。さらに加えて、一つの培養空間の一端から、一つの培養空間に隣接する培養空間の一端までである、凹凸パターンの凸形状及び凹形状の組合せのピッチが1〜1000μmの範囲であることが好ましい。
培養容器10は、高さHを相当直径Dで割った値が0.5〜2の範囲であって、相当直径Dが100μm〜1000μmの範囲の培養空間11が、少なくとも2個以上配置されていることが好ましい。加えて、培養空間11を隔てる壁12の幅Wは2μmから50μmの範囲であることが好ましい。このような培養容器10を用いることで、簡単にかつ均一な直径のスフェロイドを得ることができる。
作用処理では、培養したスフェロイドに評価したい化学物質を作用させる。
スフェロイドは、評価したい化学物質を作用させる前の、少なくとも24時間以上、より好ましくは24時間以上120時間未満、培地または緩衝液で培養されたものを用いる。
評価したい化学物質に加え、当該化学物質を評価するために必要となる他の化学物質をスフェロイドに作用させる。例えば、検査する化学物質を含む第1溶液、エストロゲン活性を有することが知られている化学物質を含む第2溶液、及び、エストロゲン活性を持たないことが知られている化学物質を含む第3溶液を用いる。第3溶液は、例えば、化学物質を含まず、DMSO(Dimethyl Sulfoxide)などの溶媒のみを含む溶液を用意する。
第2溶液として、異なるエストロゲン活性を有する2つ以上の化学物質溶液を用意することが好ましい。これにより、第1溶液のエストロゲン類似活性をより詳細に評価することができる。例えば、3種類の第2溶液A〜Cを用いる場合には、第2溶液Aとしてエストラジオール、第2溶液Bとしてエストロン、第2溶液Cとしてエストリオールを含む溶液を用意する。この場合、それぞれの化学物質のエストロゲン活性は相対的に第2溶液Aが100、第2溶液Bが50、第2溶液Cが10であり、第3溶液がゼロと表現することができる。これらの溶液をスフェロイドに作用させたときのUGT活性と、第1溶液を作用させたときのUGT活性を比較する。これにより、第1溶液に含まれる評価する化学物質がゼロから100の間でどの程度のエストロゲン活性を有するのかを評価することができる。
なお、化学物質のエストロゲン活性値は独立行政法人国立環境研究所から「化学物質のエストロゲン活性データ」(http://www.nies.go.jp/archiv-edc/estrogen/index.html)として公開されている。
スフェロイドを形成した細胞に対して、第1乃至第3溶液のいずれかを、1時間以上72時間以下、より好ましくは1時間以上24時間以下、作用させる。スフェロイドを形成した細胞へ第1乃至第3溶液のいずれかを作用させる時間を「化学物質作用時間」と称する。化学物質作用時間は、化学物質の活性が上昇するまでに要する時間を考慮すると、1時間以上であることが好ましい。加えて、化学物質作用時間が長時間になると、細胞が死に至ることが懸念されるため、24時間以下であることが好ましい。
測定処理では、上述した化学物質作用時間終了後、スフェロイドを形成した細胞に作用させた第1乃至第3溶液を取り除き、スフェロイドを形成した細胞をバッファー液で洗浄する。その後、速やかにUGT代謝基質およびUDPグルクロン酸を含むUGT活性測定溶液を少なくとも1時間、より好ましくは1時間以上2時間以下、各細胞に作用させる。スフェロイドを形成した細胞へUGT活性測定溶液を作用させる時間を「測定溶液作用時間」と称する。測定溶液作用時間は、UGT活性測定溶液が細胞に作用するまでにかかる時間と、UGT活性測定溶液が細胞に悪影響を及ぼす時間とを考慮して決定する。
UGT代謝基質は、UGTによってグルクロン酸抱合を受ける物質であり、抱合体が発光を示すもの、あるいは抱合体の吸収波長または励起/蛍光波長があらかじめ知られているものを用いる。例えば4-Methylumbelliferone、p-Nitrophenol、7-hydroxy-4-(trifluoromethyl)coumarin(7-HFC)、Estradiolなどを用いることができる。
マイクロプレートリーダーを用いる場合は、測定溶液作用時間内にUGTの代謝反応を停止させた後、UGT活性測定溶液に含まれるUGT代謝基質のグルクロン酸抱合体由来の発光または吸光または蛍光を測定する。この際、同一のマイクロプレート内に測定対象であるグルクロン酸抱合体の希釈系列を設けることで、得られた発光強度または吸光度または蛍光強度からグルクロン酸抱合体の産生量を算出することができる。
マイクロプレートリーダーを用いて吸光を測定する場合は、底面が透明なプレートを用いて細胞を培養しなければならない。あるいは細胞の培養からUGT活性測定を作用させる処理までを底面が不透明なプレートで実施し、UGT活性測定溶液を回収して速やかに底面が透明なプレートに移し変えて吸光度を測定してもよい。
マイクロプレートリーダーを用いて蛍光を測定する場合は、側面が黒色不透明で底面が透明なプレートを用いて細胞を培養することが望ましい。あるいは細胞の培養からUGT活性測定を作用させる処理までを底面が不透明なプレートで実施し、UGT活性測定溶液を回収して速やかに底面が透明かつ側面が黒色不透明なプレートに移し変えて蛍光強度を測定してもよい。
判定処理では、具体的には次のように判定する。UGT活性は、言い換えると、グルクロン酸抱合体産生量である。
(1)第1溶液を作用させたスフェロイド形状の細胞のUGT活性が、第2溶液を作用させたスフェロイド形状の細胞のUGT活性と同等あるいはそれ以上に高い場合、第1溶液に含まれる化学物質は第2溶液に含まれる化学物質と等しいあるいはそれ以上のエストロゲン類似活性を有すると判定する。例えば、第2溶液のエストロゲン活性値を[B−Activity]として、第1溶液に含まれる化学物質のエストロゲン類似活性は[B−Activity]以上と評価される。
(2)第1溶液を作用させた細胞のUGT活性が、第3溶液の活性よりも高く、第2溶液の活性よりも低い場合、第1溶液に含まれる化学物質はゼロから第2溶液の活性値の間のエストロゲン類似活性を有すると判定する。第1溶液に含まれる化学物質のエストロゲン類似活性はゼロから[B−Activity]の間であると評価される。
(3)第1溶液を作用させた細胞のUGT活性が、第3溶液の活性と同等あるいはそれよりも低い場合、第1溶液に含まれる化学物質はエストロゲン類似活性をもたないと判定する。
マイクロ空間が形成された3次元(3D)の培養プレートを用いる場合(実施例1)と、培養領域(培養底面)が平坦な2次元(2D)の平板プレートを用いる場合(比較例1)とにおいて、グルクロン酸抱合酵素活性の測定をおこなった。さらに実施例1と比較例1で培養した細胞に対してエストロゲンを作用させ、UGT活性上昇の濃度依存性を検証した(実施例2)。
1.試験条件
(Step1−1)細胞の準備(培養処理)
培養する細胞はヒト乳がん由来細胞MCF−7を使用した。
培養容器は、図8に示す24個のウェル21aを有する培養プレート(24ウェル培養プレート)1a(3D)を使用した。各ウェル21aの底部培養面には、凹凸パターン(微細パターン)によって培養容器10aが形成されている。各培養容器10aは、相当直径Dが200μm、高さHが100μmで形成される培養空間11aを有する。また、壁12aの幅Wは10μmである。
細胞間接着を促進し立体的な組織構造を作製するために、底部培養面を0.05vol%MPCポリマーでコートした。
培地はグルコース濃度0.35vol%のRPMI培地を用いた。細胞播種密度が1×105個/cm2となるように、各ウェルに細胞懸濁液を導入し、37℃、5vol%CO2環境下で3日間培養した。
比較例1の培養容器は市販の細胞培養グレード品であって、培養面が平坦な平板プレート(2D)を使用した。平板プレートを用いる以外は実施例1と同じ条件で実施した。
実施例、比較例ともに次の条件で試験を実施した。
細胞を培養後、培地(上澄み)を取り除いた後、7-hydroxy-4-(trifluoromethyl)coumarin(7-HFC)を10μmol/L含む培地を添加した。さらに20mmol/LのUDPGA(ウリジン二リン酸グルクロン酸)をそれぞれ添加し37℃、5vol%CO2環境下で1時間インキュベートした。
ウェル内の培地をマイクロピペットで回収し、0.45μm孔径のメンブレンフィルターによって精製した。精製したものをHPLC装置に導入した。カラムはInertsil ODS-SP(5μm 4.6mm i.d. × 150 mm)を使用し、移動相は20mmol/L KH2PO4(pH3.5)/アセトニトリル/メタノール(68:26:6,v/v/v)とした。波長328nmにて励起を行い、波長410nmの蛍光を検出した。
図9に培養後の細胞の形態写真を、図10に活性測定結果を示した。
図10の活性測定結果から立体的に細胞を培養(3D)することで、グルクロン酸抱合酵素活性が飛躍的に向上することが明らかになった。
1.試験条件
(Step2−1)細胞の準備(培養処理)
実施例1のStep1−1と同様の操作方法で培養細胞を準備した。比較対象も同様に市販の平板プレート(2D)を用いた。
(Step2−2)作用処理
化学物質添加群はエストロゲン活性を有する化学物質17β−エストラジオール)を250、500、1000nmol/L含む培地に、非添加群は17β‐エストラジオールの溶媒であるDMSOを含む培地に交換して、37度4時間インキュベートした。
(Step2−3)(測定処理:UST活性測定溶液の作用)
上澄みを取り除いた後、7-hydroxy-4-(trifluoromethyl)coumarin(7-HFC)を10μmol/L含む培地を添加し、さらに20mmol/LのUDPGA(ウリジン二リン酸グルクロン酸)をそれぞれ添加し37℃、5vol%CO2環境下で1時間インキュベートした。
(Step2−4)(測定処理:活性測定)
実施例1のStep1−3と同様の方法で分析を行った。
平板プレートで培養した細胞にDMSOを含む培地を作用させたときのUGT活性値を1として、立体培養した細胞と平板培養した細胞に各濃度の17β‐エストラジオールを作用させたときのUGT活性値を図11に示した。図11の測定結果から立体的に細胞を培養することで17β‐エストラジオールの濃度依存的にUGT活性値が上昇することが明らかになった。一方、比較対象の平板プレートの活性値は17β‐エストラジオールの濃度依存的なUGT活性の上昇傾向が小さく、差が明らかではなかった。
8 細胞
9 スフェロイド
10、10a 培養容器
11、11a 培養空間
12 壁
13 底部
14 底部培養面
21、21a ウェル
22 仕切り部
Claims (13)
- 被験物質が細胞に対してエストロゲン活性を有するものであるか評価する評価方法であって、
培養容器に形成される複数の培養空間内で、細胞を培養してスフェロイド形状の細胞を複数形成させる第1工程と、
前記スフェロイド形状の細胞それぞれに対して、検査する化学物質を含む第1溶液、エストロゲン活性を有することが知られている化学物質を含む第2溶液、及び、前記第1溶液から前記検査する化学物質を除いた第3溶液のうちのいずれかを作用させる第2工程と、
前記第1乃至第3溶液のうちのいずれかを作用させた各スフェロイド形状の細胞に対して、UDP−グルクロン酸転移酵素活性測定溶液を作用させて、各スフェロイド形状の細胞のUGT活性を測定する第3工程と、
前記第1溶液を作用させた前記スフェロイド形状の細胞のUGT活性が、前記第2溶液を作用させた前記スフェロイド形状の細胞のUGT活性と同等あるいはそれ以上に高い場合、前記第1溶液に含まれる化学物質は前記第2溶液に含まれる化学物質と等しいあるいはそれ以上のエストロゲン類似活性を有すると判定し、前記第1溶液を作用させた細胞のUGT活性が、前記第3溶液の活性よりも高く、前記第2溶液の活性よりも低い場合、前記第1溶液に含まれる化学物質はゼロから前記第2溶液の活性値の間のエストロゲン類似活性を有すると判定し、前記第1溶液を作用させた細胞のUGT活性が、前記第3溶液の活性と同等あるいはそれよりも低い場合、前記第1溶液に含まれる化学物質はエストロゲン類似活性をもたないと判定する第4工程と、
を含むことを特徴とする評価方法。 - 前記培養する細胞がエストロゲン受容体を有することを特徴とする請求項1記載の評価方法。
- 前記培養容器が、複数のウェルを有する培養プレートの各ウェル内に、微細な凹凸構造により前記複数の培養空間を有するように形成され、前記複数の培養空間内でスフェロイド形状の細胞を形成することを特徴とする請求項1または2記載の評価方法。
- 前記第2工程では、前記第2溶液として、エストロゲン活性値が異なる2つ以上の化学物質を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記第2工程では、前記第1乃至第3溶液を1時間以上72時間以下、前記スフェロイド形状の細胞に作用させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記第3工程では、前記UGT活性を測定する試薬が、少なくとも1つ以上のUGT1A種および/または少なくとも1つ以上のUGT2B種によってグルクロン酸抱合を受ける基質を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記第3工程では、前記UGT活性を測定する試薬がウリジン二リン酸グルクロン酸を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記第3工程では、前記UGT活性を測定する試薬を1時間以上2時間以下、細胞に作用させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記第3工程では、UGT代謝反応によるグルクロン酸抱合体に由来する発光強度または蛍光強度または吸光度を用いて、前記UGT活性を算出することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記第1及び第2工程、または前記第1乃至第3工程を同一のマイクロウェルプレートを用いて実施することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の評価方法。
- 前記凹凸構造により形成される前記複数の培養空間の相当直径を、前記複数の培養空間の深さで割った値が1以上2未満であることを特徴とする請求項3記載の評価方法。
- 前記凹凸構造により形成される前記複数の培養空間の深さが1〜1000μmの範囲であり、一つの培養空間の一端から、前記一つの培養空間に隣接する培養空間の一端までである、凸形状及び凹形状の組合せのピッチが1〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項3記載の評価方法。
- 前記培養容器がポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、シリコン樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アクリル・スチレン系共重合樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性エラストマー、及びこれらの組合せからなる群から選択される樹脂成形品であることを特徴とする請求項3記載の評価方法。
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