本発明は、魚卵を孵出させて仔魚を育成し、稚魚として浮上させる浮上槽に関する。
サケ、マス類等の増殖事業において、魚卵を孵出させ、仔魚を育成し、稚魚として浮上するまでの管理が、浮上槽によって行われている。
浮上槽は、孵出するまで発眼卵が裁置される受卵盆、孵出した仔魚が育成されるネットリング等の育成床材を有している。発眼卵が孵出すると、仔魚は受卵盆に設けられた開口部を通過して、受卵盆の下側に設けられたネットリングの中に移動する。仔魚はネットリングの中で安静に保たれ、さいのうから栄養(内部栄養)を摂取して成長する。成長が進んで外部栄養を自ら摂取しようとする稚魚にまで成長すると、稚魚はネットリングの外側に移動して浮上する。
良好な稚魚に成長させるために、仔魚に対しては刺激を与えず安静に維持することで、内部栄養が消費され過ぎないようにすることが重要である。また、仔魚は湧昇流の流れに逆らって姿勢を保ち酸素供給を受けながらネットリングで過ごす。そのため、湧昇流に偏流があると水が留まってしまう領域が発生し、その領域には十分な酸素が供給されなくなってしまう。この酸素の濃度の偏りが仔魚の成長に悪影響を与えることがあり、様々な改良が試みられている(例えば、特許文献1、2)。
実開平2−14958号公報
実用新案登録第3150213号公報
しかしながら、従来の改良においては必ずしも偏流を抑制することが十分でなかった。例えば、水槽内の水が排水側に流れやすく偏流を生じさせていた。その結果、排水側とは反対側(水が導入される側)において酸素濃度の高い水が供給されにくくなり、酸素濃度の偏りが発生する。そのため、仔魚の育成に悪影響があるとともに、発眼卵に対しても悪影響を与えていた。
また、水槽内部を仕切って複数の区画に分割することにより、複数の魚種を同時に育成したり、同じ魚種でも複数の発育段階の育成を一つの浮上槽で同時に実現したりしようとすることも試みられているものの、複数の区画に分けることは、さらなる偏流を起こす要因となり、これまで実現できていなかった。
本発明は、浮上槽において水槽内を複数に区画しても偏流を抑制することを目的とする。
本発明の一実施形態によると、魚卵が載置され開口部を有する受卵盆、および前記受卵盆より下側に下網が設置される水槽と、前記水槽の水面となる高さよりも上部に設けられ、水が導入される導入口と、前記水槽を少なくとも前記導入口側および前記導入口と反対側の区画に分割する仕切板と、前記導入口に導入した水を前記下網の下部に誘導し、前記下網を通して前記水槽の内部に流入させる誘導部と、前記水槽に流入した水を、少なくとも前記水槽の上部の前記導入口側および前記導入口の反対側に流出させて排水口に導く排水路とを備えることを特徴とする浮上槽が提供される。
また、別の好ましい態様において、前記排水路は、前記水槽の上部の周囲から前記水を流出させてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記水槽は上方から見た場合に交差する仕切板によって4区画に分割されていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記仕切板は、少なくとも前記受卵盆と前記下網との間において、開口部を備えていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記仕切板の開口部は長穴形状であり、前記仕切板の開口部の長手方向が上下に沿った方向になるように、前記水槽に前記仕切板が設置されてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記受卵盆の開口部は長穴形状であり、前記受卵盆の開口部の長手方向が前記導入口側から前記導入口の反対側に沿った方向になるように、前記水槽に前記受卵盆が設置されてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記水槽の側面から内部へ光を導入する窓と、前記窓からの光の導入を遮蔽する遮光部とをさらに備えていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記窓は、前記水槽の前記受卵盆より上側および下側に光を導入し、前記遮光部は、前記受卵盆より上側の少なくとも一部に光を導入した状態で、前記受卵盆より下側への光を遮蔽できるようにしてもよい。
本発明によれば、浮上槽において水槽内を区画しても偏流を抑制することができる。
本発明の一実施形態に係る浮上槽1の外観を示す図である。
本発明の一実施形態に係る浮上槽1を上方から見た図である。
図2に示すIII−III方向に見た断面の模式図である。
本発明の一実施形態に係る浮上槽1の側板35Lに設けられた観察窓30Lおよび遮光引戸31を説明する図である。
本発明の一実施形態に係る水槽10の内部構成を説明する図である。
本発明の一実施形態に係る受卵盆60の構造を説明する図である。
本発明の一実施形態に係る仕切板71、72の構造を説明する図である。
本発明の実施例1、2および比較例について、水流テストの結果を示す図である。
本発明の実施例1について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。
本発明の実施例2について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。
本発明の比較例について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係る浮上槽について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
<実施形態>
本発明の一実施形態に係る浮上槽1について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず、浮上槽1の外観の構成について説明する。
[外観構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る浮上槽1の外観を示す図である。浮上槽1は、水槽10、導入口20および排水桶40を有する。水槽10内において、サケ、マス等の発眼卵を孵出させて、仔魚を稚魚になるまで育成する。なお、浮上槽1は、水が通過する部分の大部分が硬質ポリ塩化ビニルなどのプラスチックにより形成される。プラスチック以外で形成されているものとしては、例えば、後述する下網70(図3参照)がある。
水槽10は、仕切板71、72により4区画に分割されている。仕切板71、72は、水槽10の他の区画の水が流れ込まない高さに設計されている。水槽10の各区画には、受卵盆60が設置されている。受卵盆60は、サケ、マス等の発眼卵が載置される。受卵盆60には、発眼卵が通過せず、仔魚が通過できる程度の大きさの複数の開口部60H(図6参照)が形成されている。受卵盆60は、稚魚が浮上するときには取り外される。
導入口20は、水槽10へ導入する水が供給される部分であり、水槽10の水面となる高さよりも上部に設けられている。導入口20に供給された水は、水槽10の下部に誘導され、水槽10の内部に流入する。水槽内部に流入した水は、水槽10の周囲に設けられた排水網45F、45B、45L、45Rを通過して排水桶40に流出し、排水口50から排出される。ここで、排水網45F、45B、45L、45Rは、導入口20側から見て、手前側、奥側、左側、右側にある排水網をいい、特に区別しない場合には単に排水網45という。排水網45は、支持板46により支持されている。
排水桶40は、水槽10の周囲に設けられ、水槽10から周囲に流出させる排水網45とともに、水槽10の水を排水口50に導く排水路を構成する。排水口50は、図示しない排水パイプが接続され、その排水パイプを通して浮上槽1の外部に排水するための流路である。このとき、排水口50は、浮上した稚魚を浮上槽1の外部(例えば、池)に放流するときにも用いられる。排水口50から放流することにより、稚魚を玉網などですくわずに自然に近い状態に放流することができる。なお、一方の排水口50を栓で塞ぐなどして用いてもよい。
浮上槽1の側面を構成する側板(導入口20側から見て、手前側、奥側、左側、右側の側板を側板35F、35B、35L、35Rという)のうち、側板35L、35Rには、水槽10の内部を側面から観察するための観察窓30L、30Rが設けられている。観察窓30L、30Rは、アクリル板など光を透過する材料で形成されている。観察窓30Lの周囲にはレール32が設けられ、観察窓30Lへの光の導入を遮蔽するための遮光引戸31L(図1において省略、図4参照)を設置可能になっている。
水槽10の側面は、側板35B、35L、35R、35Pで構成される。側面35Fは、側板35B、35L、35R、35Pとともに、水槽10の下部および導入口20側に形成された誘導部80(図3参照)の側面を構成する。詳細については後述する。
また、浮上槽1の下部には、浮上槽1の全体を支える4つの調整足90が設けられている。調整足90は長さ調節が可能であり、浮上槽1の傾きを調整することができる。通常に使用するときには浮上槽1が水平になるようにして、水槽10の水が一方向に偏って排水桶40に流出しないように各調整足90の長さが調整されている。
[内部構造]
続いて、浮上槽1について、内部構造を含めてさらに説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る浮上槽1を上方から見た図である。図3は、図2に示すIII−III方向に見た断面の模式図である。水槽10の底部には、下網70が設けられている。下網70は、魚卵、仔魚および稚魚を通過させず、かつ水を通過させる程度の大きさの開口部を有し、この例では、ステンレスで形成された網である。
導入口20に水が供給されると、整流板25に設けられた開口部を通過し、側板35Fと側板35Pとの間を水が流れて底板35Cに受け止められ、水槽10の下網70の下部に誘導される。誘導部80は、導入口20に供給された水を水槽10の下部に誘導する流路である。底板35Cには誘導部80内の水抜きができるように排水穴68Hを有する。水抜きをしないときには、排水孔68Hは排水栓68で塞がれている。
誘導部80に設けられた整流板25は、開口部が複数設けられている。この例では、開口部は円形であり、所定のピッチで並んでいる。導入口20に供給された水は、整流板25に当たって開口部を通過する。これにより、供給された水に気泡が含まれている場合であっても、整流板25の開口部より大きい気泡が通過できないため、大部分の気泡が除去される。また、整流板25により流速が抑えられるため、整流板25を通過した気泡があっても水槽10の下部にまではほとんど到達しないようにすることができる。気泡が水槽10の下部に到達してしまうと、下網70の下面に泡が溜って水流の妨げとなる場合があるが、整流板25が存在することにより泡が溜まってしまうことを抑制することができる。さらに、導入口20に供給された水は、整流板25により導入口20近傍だけに集中せず、周囲に分散して水槽10の下部に流れる。
水槽10は、上方から見た場合に仕切板71、72により4区画に分割されている。また、水槽10は、側方から見た場合に受卵盆60により上下に区画されている。上下の区画については、受卵盆60の開口部60Hが水の流路となっている。また、仕切板71、72の受卵盆60より下側部分にも、受卵盆60と同様な形状の開口部(図2においては開口部72H)が設けられ、下側にある隣接区画の水の流路となっている。なお、仕切板71、72の受卵盆60より上側部分にも開口部が設けられていてもよい。また、仕切板71、72のいずれか一方、または双方に開口部が設けられていなくてもよい。
水槽10の下側の各区画には、仔魚が稚魚になるまで安静に育成されるためのネットリング65が敷き詰められている。この例ではネットリング65は5層に積まれており、各層でネットリング65の長手方向の向きが、仕切板72に沿った方向、仕切板71に沿った方向の順に交互に入れ替わるように積み上げられている。なお、上述した仕切板71、72の開口部が存在する場合には、仔魚への影響を少なくするため、積み上げられたネットリング65は、この開口部の下側までの高さになるようにすることが望ましい。
排水桶40は、水槽10の周囲に設けられ、排水口50側、および導入口20側に堰板41、42が設置できるようになっている。通常の排水に排水桶40および排水口50が用いられている場合には、堰板41、42が取り付けられた状態であっても、取り外された状態であってもよい。一方、2箇所の排水口50を稚魚の放流に用いる場合に、堰板41、42を取り付けることで、水槽10の左右の区画(導入口20から見た左側の区画と右側の区画)の稚魚を、それぞれ別の池に放流することもできる。また、2箇所の排水口50の一方を稚魚の放流に用い、他方を排水に用いることもできる。
また、排水桶40が水槽10の導入口20側にも設けられ、排水網45Fを通して水槽10から水を流出させることができるようになっている。水槽10の周囲に排水桶40がなく、導入口20と反対側(排水口50側)だけに存在する場合、水槽10の下部から流入した水が排水口50側に引っ張られて、水槽10の導入口20側の区画において水が滞留してしまう問題が生じる。
一方、本発明の実施形態に係る浮上槽1のように、導入口20側において排水網45Fを通して水槽10の水が流出できる構成であるため、水槽10における水の偏流が起きにくい。さらに、排水網45L、45Rを通して水槽10の水が流出できる構成であることにより、さらに水の偏流を抑制することができる。したがって、水槽10の下部から導入された水は、安定した湧昇流として水槽10の全体に行き渡り、一部領域において酸素濃度が少なくなることを抑制することができる。
図3に示すように、浮上槽1には、蓋95が設けられている。蓋95は、浮上槽1の上面全体を覆い、観察窓30L、30R以外からの水槽10内への光の導入を遮蔽する。稚魚として浮上してくる段階までは水槽10内を暗くしておくことが望ましいため、通常、浮上槽1は、蓋95により水槽10を遮光した状態で使用される。このとき、浮上槽1は、観察窓30L、30Rを遮光引戸31で覆うことにより水槽10を遮光する。仔魚が稚魚にまで育成されると、光を当てて稚魚を刺激して浮上を促すが、蓋95および受卵盆60を取り外すだけでなく、遮光引戸31を取り外して観察窓30L、30Rから水槽10の内部に側面から光を導入することで、効率的に稚魚を刺激することができる。
[観察窓]
図4は、本発明の一実施形態に係る浮上槽1の側板35Lに設けられた観察窓30Lおよび遮光引戸31を説明する図である。図4(a)は、図1の浮上槽1を導入口20の左側から見た図である。観察窓30Lは、受卵盆60およびネットリング65を含む水槽10の内部を観察し、また、光を導入するために設けられた窓である。
遮光引戸31は、図4(b)に示すように、レール32に沿ってスライドして、観察窓30Lを塞ぎ、水槽10の内部に光が導入されるのを遮蔽することができる遮光部である。この観察窓30L、30Rは、稚魚の浮上を促すだけでなく、発眼卵が孵出したかどうか、仔魚の育成具合などを確認するためにも用いることができる。
一方で、仔魚は安静に保たれるのがよいため、できるだけ短い時間で確認することが望ましい。そのため、図4(c)に示すように、レール32aに上下に配置された2枚の遮光引戸31a1、31a2をスライドさせることにより、受卵盆60より下側の区画を暗くしたまま仔魚に光が当たりにくくして、上側の区画を観察することができるようにしてもよい。この例では、遮光引戸31a1をスライドすると、受卵盆60より上側の一部に光が導入されるため、受卵盆60を通さないとネットリング65には光が到達しない。そのため、仔魚にほとんど光を当てずに受卵盆60に残った発眼卵の確認等が可能となる。以上、観察窓30Lについて説明したが、観察窓30Rも観察窓30Lと同様である。
[水槽内の構成]
続いて、水槽10の内部の構成について、より詳細に説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る水槽10の内部構成を説明する図である。図5においては、観察窓は省略されている。以下の図6、図7についても同様である。水槽10の底に下網70が設けられ、その下側には誘導部80が設けられている。各区画の下網70は、側板35B、35L、35R、35Pと仕切板71、72とによって周囲が支持されている。下網70の上には、各区画のネットリング65が積み上げられている。各区画の受卵盆60は、側板35B、35L、35R、35Pと仕切板71、72とによって周囲が支持されている。受卵盆60の破線で囲まれた部分を図6に示す。
図6は、本発明の一実施形態に係る受卵盆60の構造を説明する図である。受卵盆60は、外周に沿って形成された封止部61を有する。封止部61は、軟質塩化ビニル製であり、仕切板71、72と密着することにより、仕切板71、72の表面と受卵盆60の表面とが連続的に接続されるようにする。これにより、受卵盆60に載置される発眼卵に無理な力がかからないようにすることができる。
また、受卵盆60の開口部60Hは、小判型の長穴形状である。例えば、長穴形状の幅Wは5.0mm、長さLは20.0mm、幅方向繰り返し寸法Hは7.0mm、長さ方向繰り返し寸法Pは26.0mmに配置されている。この開口部60Hは、サケ、マスの魚卵を載置したときに下側の区画に落下するのを防止し、かつ孵出した仔魚が下側の区画に移動するのに適した配置である。この配置は、孵出させる魚種に応じて適宜設計すればよい。
また、開口部60Hの長手方向は、いずれの方向を向いていてもよいが、水流の安定化のため、仕切板71に沿った方向(導入口20側から排水口50側に沿った方向)に向いていることが望ましい。なお、排水網45の開口部、仕切板71、72の開口部を、受卵盆60の開口部60Hと同じものとすれば、材料を共通化できるため製造コストを低減することができる。この場合、仕切板71、72の開口部の長手方向についても、いずれの方向を向いていてもよいが、湧昇流への影響を少なくするために上下方向に沿っていることが望ましい。排水網45の開口部についても、いずれの方向を向いていてもよい。
図7は、本発明の一実施形態に係る仕切板71、72の構造を説明する図である。仕切板72は、中央上部にスリット72Sを有するとともに、受卵盆60を支持するための突出部72U、および下網70を支持するための突出部72Dを有する。仕切り板72は、水槽10の側板に形成された凹部35Sに沿って嵌めこまれることにより、水槽10に取り付けられる。なお、側板には、受卵盆60を支持するための突出部35U、および下網70を支持するための突出部35Dが形成されている。
仕切板71は、中央下部にスリット71Sを有するとともに、受卵盆60を支持するための突出部71U、および下網70を支持するための突出部71Dを有する。仕切り板71は、水槽10の側板に形成された凹部35Sに沿って嵌めこまれ、仕切板72のスリット72Sと、スリット71Sとを噛み合わせることにより、水槽10に取り付けられる。
[実施例]
続いて、本発明の一実施形態に係る浮上槽1について、偏流の程度を確認するための水流テストを行った結果を説明する。実施形態において説明した浮上槽1と同等の実施例1、排水網45L、45Rからは水が流出しないようにして、排水網45F、45Bのみから水が流出するようにした実施例2、および排水網45F、45L、45Rからは水が流出しないようにして、排水網45Bのみから水が流出する従来の構成に近い比較例について、水流テストを行った。
この水流テストは、水槽10(上方からみた寸法1000mm×1000mm、深さ590mm、なお、水槽10の下網70から底板35Cまでは100mm)に水を張り、導入口20から1分当たり50リットルの色水を供給した。色水が水槽10に拡散していく様子を観察し、区画10FR、10FL、10BR、10BLのそれぞれについて、排水桶40に色水が流出するまでの時間を計測した。水槽10の区画10FR、10FL、10BR、10BLについては、それぞれ図8に示す位置である。なお、比較例においては、区画10FR、10FLから排水桶40に流出することはできないため、色水の拡散の様子の観察のみとした。
図8は、本発明の実施例1、2および比較例について、水流テストの結果を示す図である。図8(a)は実施例1、図8(b)は実施例2、図8(c)は比較例の水流テストの結果であり、各区画に示す時間は導入口20に色水を供給してから、色水が排水桶40に流出するまでの時間である。
図9は、本発明の実施例1について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。図10は、本発明の実施例2について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。図11は、本発明の比較例について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。それぞれ、(1)から順に時間が経過して色水が拡散する様子を示す図である。図9、図10、図11における「導入口」の記載は、写真における導入口20の位置を示している。
まず、比較例について説明する。排水口50側の区画10BR、10BLにおいて、3分35秒という結果であり、色水の拡散が良好に行われていることがわかる。一方、排水桶40に直接流出できない区画10FR、10FLにおいて、仕切板71、72に開口部があって他の区画と水の行き来が可能であったとしても、10分経過後において一部領域(破線斜線部分)で色水の拡散がみられず、その後の拡散も非常に緩やかであった。そのため、水槽10において偏流が発生し、一部領域、特に区画10FR、10FLにおいて酸素濃度が低下して、発眼卵の孵出、仔魚の育成に悪影響を与えることになる。
実施例1では、いずれの区画においても3分40秒から3分55秒であり、色水の拡散が良好に行われ、偏流の少ない湧昇流が得られていることがわかる。また、実施例2においても、排水口50側の区画10BR、10BLにおいて、色水の拡散に6分から6分5秒と時間がかかっているものの、導入口20側の区画10FR、10FLにおいて、3分50秒で色水の拡散が見られており、比較例に比べて改善されている。
このように、本発明の浮上槽1においては、水槽10内を複数に区画しても、少なくとも水槽10の導入口20側および排水口50側(導入口20と反対側)に、水槽10の水を流出させる排水路を設けることで、全区画において偏流を抑制することができる。また、水槽10の周囲全体に排水路を設けることで、さらに偏流を抑制することができる。
[変形例1]
上述した実施形態においては、水槽10は、4区画に分割されていたが、導入口20側と排水口50側(導入口20と反対側)との2区画に分割されていてもよい。なお、3区画に分割されていてもよいし、さらに多くの区画に分割されていてもよいが、いずれの区画においても、水槽10の周囲に面している必要があり、排水路への流出ができる必要がある。
[変形例2]
上述した実施形態においては、水槽10の周囲に排水路が設けられていたが、実施例2で説明したように、少なくとも水槽10の導入口20側と排水口50側(導入口20と反対側)において排水路が設けられていればよい。
[変形例3]
上述した実施形態における底板35Cに水の流れの妨げとなる突起物などの抵抗物が設けられていてもよい。この配置間隔、形状を導入口20からの距離に応じて変化させることにより、偏流をより抑制するようにしてもよい。例えば、半円柱の抵抗物を配置する場合について説明する。この場合、半円柱の曲面部分が上方を向き、かつ長手方向が仕切板72に沿った方向になるように、抵抗物を配置する。抵抗物は導入口20からの距離によらず等間隔に配置される一方、円柱の直径が導入口20から遠いほど大きくなるようになっていてもよい。
1…浮上槽、10…水槽、20…導入口、25…整流板、30…観察窓、31…遮光引戸、32…レール、35F,35B,35L,35R,35P…側面、35C…底板、40…排水桶、41,42…堰板、45…排水網、50…排水口、60…受卵盆、65…ネットリング、68…排水栓、68H…排水穴、71,72…仕切板、80…誘導部、90…調整足、95…蓋
本発明は、魚卵を孵出させて仔魚を育成し、稚魚として浮上させる浮上槽に関する。
サケ、マス類等の増殖事業において、魚卵を孵出させ、仔魚を育成し、稚魚として浮上するまでの管理が、浮上槽によって行われている。
浮上槽は、孵出するまで発眼卵が裁置される受卵盆、孵出した仔魚が育成されるネットリング等の育成床材を有している。発眼卵が孵出すると、仔魚は受卵盆に設けられた開口部を通過して、受卵盆の下側に設けられたネットリングの中に移動する。仔魚はネットリングの中で安静に保たれ、さいのうから栄養(内部栄養)を摂取して成長する。成長が進んで外部栄養を自ら摂取しようとする稚魚にまで成長すると、稚魚はネットリングの外側に移動して浮上する。
良好な稚魚に成長させるために、仔魚に対しては刺激を与えず安静に維持することで、内部栄養が消費され過ぎないようにすることが重要である。また、仔魚は湧昇流の流れに逆らって姿勢を保ち酸素供給を受けながらネットリングで過ごす。そのため、湧昇流に偏流があると水が留まってしまう領域が発生し、その領域には十分な酸素が供給されなくなってしまう。この酸素の濃度の偏りが仔魚の成長に悪影響を与えることがあり、様々な改良が試みられている(例えば、特許文献1、2)。
実開平2−14958号公報
実用新案登録第3150213号公報
しかしながら、従来の改良においては必ずしも偏流を抑制することが十分でなかった。例えば、水槽内の水が排水側に流れやすく偏流を生じさせていた。その結果、排水側とは反対側(水が導入される側)において酸素濃度の高い水が供給されにくくなり、酸素濃度の偏りが発生する。そのため、仔魚の育成に悪影響があるとともに、発眼卵に対しても悪影響を与えていた。
また、水槽内部を仕切って複数の区画に分割することにより、複数の魚種を同時に育成したり、同じ魚種でも複数の発育段階の育成を一つの浮上槽で同時に実現したりしようとすることも試みられているものの、複数の区画に分けることは、さらなる偏流を起こす要因となり、これまで実現できていなかった。
本発明は、浮上槽において水槽内を複数に区画しても偏流を抑制することを目的とする。
本発明の一実施形態によると、魚卵が載置され開口部を有する受卵盆、および前記受卵盆より下側に下網が設置される水槽と、前記水槽の水面となる高さよりも上部に設けられ、水が導入される導入口と、前記水槽を少なくとも前記導入口側および前記導入口と反対側の区画に分割する仕切板と、前記導入口に導入した水を前記下網の下部に誘導し、前記下網を通して前記水槽の内部に流入させる誘導部と、前記水槽の外側に設けられ、排水口が備えられた排水樋を有し、前記水槽に流入した水を、少なくとも前記水槽の上部の前記導入口側および前記導入口の反対側の前記排水樋に流出させて前記排水口に導く排水路とを備えることを特徴とする浮上槽が提供される。
また、別の好ましい態様において、前記排水路は、前記排水樋に前記水槽の上部の周囲から前記水を流出させてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記水槽は上方から見た場合に交差する仕切板によって4区画に分割されていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記仕切板は、少なくとも前記受卵盆と前記下網との間において、開口部を備えていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記仕切板の開口部は長穴形状であり、前記仕切板の開口部の長手方向が上下に沿った方向になるように、前記水槽に前記仕切板が設置されてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記受卵盆の開口部は長穴形状であり、前記受卵盆の開口部の長手方向が前記導入口側から前記導入口の反対側に沿った方向になるように、前記水槽に前記受卵盆が設置されてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記水槽の側面から内部へ光を導入する窓と、前記窓からの光の導入を遮蔽する遮光部とをさらに備えていてもよい。
また、別の好ましい態様において、前記窓は、前記水槽の前記受卵盆より上側および下側に光を導入し、前記遮光部は、前記受卵盆より上側の少なくとも一部に光を導入した状態で、前記受卵盆より下側への光を遮蔽できるようにしてもよい。
本発明によれば、浮上槽において水槽内を区画しても偏流を抑制することができる。
本発明の一実施形態に係る浮上槽1の外観を示す図である。
本発明の一実施形態に係る浮上槽1を上方から見た図である。
図2に示すIII−III方向に見た断面の模式図である。
本発明の一実施形態に係る浮上槽1の側板35Lに設けられた観察窓30Lおよび遮光引戸31を説明する図である。
本発明の一実施形態に係る水槽10の内部構成を説明する図である。
本発明の一実施形態に係る受卵盆60の構造を説明する図である。
本発明の一実施形態に係る仕切板71、72の構造を説明する図である。
本発明の実施例1、2および比較例について、水流テストの結果を示す図である。
本発明の実施例1について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。
本発明の実施例2について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。
本発明の比較例について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係る浮上槽について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
<実施形態>
本発明の一実施形態に係る浮上槽1について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず、浮上槽1の外観の構成について説明する。
[外観構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る浮上槽1の外観を示す図である。浮上槽1は、水槽10、導入口20および排水樋40を有する。水槽10内において、サケ、マス等の発眼卵を孵出させて、仔魚を稚魚になるまで育成する。なお、浮上槽1は、水が通過する部分の大部分が硬質ポリ塩化ビニルなどのプラスチックにより形成される。プラスチック以外で形成されているものとしては、例えば、後述する下網70(図3参照)がある。
水槽10は、仕切板71、72により4区画に分割されている。仕切板71、72は、水槽10の他の区画の水が流れ込まない高さに設計されている。水槽10の各区画には、受卵盆60が設置されている。受卵盆60は、サケ、マス等の発眼卵が載置される。受卵盆60には、発眼卵が通過せず、仔魚が通過できる程度の大きさの複数の開口部60H(図6参照)が形成されている。受卵盆60は、稚魚が浮上するときには取り外される。
導入口20は、水槽10へ導入する水が供給される部分であり、水槽10の水面となる高さよりも上部に設けられている。導入口20に供給された水は、水槽10の下部に誘導され、水槽10の内部に流入する。水槽内部に流入した水は、水槽10の周囲に設けられた排水網45F、45B、45L、45Rを通過して排水樋40に流出し、排水口50から排出される。ここで、排水網45F、45B、45L、45Rは、導入口20側から見て、手前側、奥側、左側、右側にある排水網をいい、特に区別しない場合には単に排水網45という。排水網45は、支持板46により支持されている。
排水樋40は、水槽10の周囲に設けられ、水槽10から周囲に流出させる排水網45とともに、水槽10の水を排水口50に導く排水路を構成する。排水口50は、図示しない排水パイプが接続され、その排水パイプを通して浮上槽1の外部に排水するための流路である。このとき、排水口50は、浮上した稚魚を浮上槽1の外部(例えば、池)に放流するときにも用いられる。排水口50から放流することにより、稚魚を玉網などですくわずに自然に近い状態に放流することができる。なお、一方の排水口50を栓で塞ぐなどして用いてもよい。
浮上槽1の側面を構成する側板(導入口20側から見て、手前側、奥側、左側、右側の側板を側板35F、35B、35L、35Rという)のうち、側板35L、35Rには、水槽10の内部を側面から観察するための観察窓30L、30Rが設けられている。観察窓30L、30Rは、アクリル板など光を透過する材料で形成されている。観察窓30Lの周囲にはレール32が設けられ、観察窓30Lへの光の導入を遮蔽するための遮光引戸31L(図1において省略、図4参照)を設置可能になっている。
水槽10の側面は、側板35B、35L、35R、35Pで構成される。側面35Fは、側板35B、35L、35R、35Pとともに、水槽10の下部および導入口20側に形成された誘導部80(図3参照)の側面を構成する。詳細については後述する。
また、浮上槽1の下部には、浮上槽1の全体を支える4つの調整足90が設けられている。調整足90は長さ調節が可能であり、浮上槽1の傾きを調整することができる。通常に使用するときには浮上槽1が水平になるようにして、水槽10の水が一方向に偏って排水樋40に流出しないように各調整足90の長さが調整されている。
[内部構造]
続いて、浮上槽1について、内部構造を含めてさらに説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る浮上槽1を上方から見た図である。図3は、図2に示すIII−III方向に見た断面の模式図である。水槽10の底部には、下網70が設けられている。下網70は、魚卵、仔魚および稚魚を通過させず、かつ水を通過させる程度の大きさの開口部を有し、この例では、ステンレスで形成された網である。
導入口20に水が供給されると、整流板25に設けられた開口部を通過し、側板35Fと側板35Pとの間を水が流れて底板35Cに受け止められ、水槽10の下網70の下部に誘導される。誘導部80は、導入口20に供給された水を水槽10の下部に誘導する流路である。底板35Cには誘導部80内の水抜きができるように排水穴68Hを有する。水抜きをしないときには、排水孔68Hは排水栓68で塞がれている。
誘導部80に設けられた整流板25は、開口部が複数設けられている。この例では、開口部は円形であり、所定のピッチで並んでいる。導入口20に供給された水は、整流板25に当たって開口部を通過する。これにより、供給された水に気泡が含まれている場合であっても、整流板25の開口部より大きい気泡が通過できないため、大部分の気泡が除去される。また、整流板25により流速が抑えられるため、整流板25を通過した気泡があっても水槽10の下部にまではほとんど到達しないようにすることができる。気泡が水槽10の下部に到達してしまうと、下網70の下面に泡が溜って水流の妨げとなる場合があるが、整流板25が存在することにより泡が溜まってしまうことを抑制することができる。さらに、導入口20に供給された水は、整流板25により導入口20近傍だけに集中せず、周囲に分散して水槽10の下部に流れる。
水槽10は、上方から見た場合に仕切板71、72により4区画に分割されている。また、水槽10は、側方から見た場合に受卵盆60により上下に区画されている。上下の区画については、受卵盆60の開口部60Hが水の流路となっている。また、仕切板71、72の受卵盆60より下側部分にも、受卵盆60と同様な形状の開口部(図2においては開口部72H)が設けられ、下側にある隣接区画の水の流路となっている。なお、仕切板71、72の受卵盆60より上側部分にも開口部が設けられていてもよい。また、仕切板71、72のいずれか一方、または双方に開口部が設けられていなくてもよい。
水槽10の下側の各区画には、仔魚が稚魚になるまで安静に育成されるためのネットリング65が敷き詰められている。この例ではネットリング65は5層に積まれており、各層でネットリング65の長手方向の向きが、仕切板72に沿った方向、仕切板71に沿った方向の順に交互に入れ替わるように積み上げられている。なお、上述した仕切板71、72の開口部が存在する場合には、仔魚への影響を少なくするため、積み上げられたネットリング65は、この開口部の下側までの高さになるようにすることが望ましい。
排水樋40は、水槽10の周囲に設けられ、排水口50側、および導入口20側に堰板41、42が設置できるようになっている。通常の排水に排水樋40および排水口50が用いられている場合には、堰板41、42が取り付けられた状態であっても、取り外された状態であってもよい。一方、2箇所の排水口50を稚魚の放流に用いる場合に、堰板41、42を取り付けることで、水槽10の左右の区画(導入口20から見た左側の区画と右側の区画)の稚魚を、それぞれ別の池に放流することもできる。また、2箇所の排水口50の一方を稚魚の放流に用い、他方を排水に用いることもできる。
また、排水樋40が水槽10の導入口20側にも設けられ、排水網45Fを通して水槽10から水を流出させることができるようになっている。水槽10の周囲に排水樋40がなく、導入口20と反対側(排水口50側)だけに存在する場合、水槽10の下部から流入した水が排水口50側に引っ張られて、水槽10の導入口20側の区画において水が滞留してしまう問題が生じる。
一方、本発明の実施形態に係る浮上槽1のように、導入口20側において排水網45Fを通して水槽10の水が流出できる構成であるため、水槽10における水の偏流が起きにくい。さらに、排水網45L、45Rを通して水槽10の水が流出できる構成であることにより、さらに水の偏流を抑制することができる。したがって、水槽10の下部から導入された水は、安定した湧昇流として水槽10の全体に行き渡り、一部領域において酸素濃度が少なくなることを抑制することができる。
図3に示すように、浮上槽1には、蓋95が設けられている。蓋95は、浮上槽1の上面全体を覆い、観察窓30L、30R以外からの水槽10内への光の導入を遮蔽する。稚魚として浮上してくる段階までは水槽10内を暗くしておくことが望ましいため、通常、浮上槽1は、蓋95により水槽10を遮光した状態で使用される。このとき、浮上槽1は、観察窓30L、30Rを遮光引戸31で覆うことにより水槽10を遮光する。仔魚が稚魚にまで育成されると、光を当てて稚魚を刺激して浮上を促すが、蓋95および受卵盆60を取り外すだけでなく、遮光引戸31を取り外して観察窓30L、30Rから水槽10の内部に側面から光を導入することで、効率的に稚魚を刺激することができる。
[観察窓]
図4は、本発明の一実施形態に係る浮上槽1の側板35Lに設けられた観察窓30Lおよび遮光引戸31を説明する図である。図4(a)は、図1の浮上槽1を導入口20の左側から見た図である。観察窓30Lは、受卵盆60およびネットリング65を含む水槽10の内部を観察し、また、光を導入するために設けられた窓である。
遮光引戸31は、図4(b)に示すように、レール32に沿ってスライドして、観察窓30Lを塞ぎ、水槽10の内部に光が導入されるのを遮蔽することができる遮光部である。この観察窓30L、30Rは、稚魚の浮上を促すだけでなく、発眼卵が孵出したかどうか、仔魚の育成具合などを確認するためにも用いることができる。
一方で、仔魚は安静に保たれるのがよいため、できるだけ短い時間で確認することが望ましい。そのため、図4(c)に示すように、レール32aに上下に配置された2枚の遮光引戸31a1、31a2をスライドさせることにより、受卵盆60より下側の区画を暗くしたまま仔魚に光が当たりにくくして、上側の区画を観察することができるようにしてもよい。この例では、遮光引戸31a1をスライドすると、受卵盆60より上側の一部に光が導入されるため、受卵盆60を通さないとネットリング65には光が到達しない。そのため、仔魚にほとんど光を当てずに受卵盆60に残った発眼卵の確認等が可能となる。以上、観察窓30Lについて説明したが、観察窓30Rも観察窓30Lと同様である。
[水槽内の構成]
続いて、水槽10の内部の構成について、より詳細に説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る水槽10の内部構成を説明する図である。図5においては、観察窓は省略されている。以下の図6、図7についても同様である。水槽10の底に下網70が設けられ、その下側には誘導部80が設けられている。各区画の下網70は、側板35B、35L、35R、35Pと仕切板71、72とによって周囲が支持されている。下網70の上には、各区画のネットリング65が積み上げられている。各区画の受卵盆60は、側板35B、35L、35R、35Pと仕切板71、72とによって周囲が支持されている。受卵盆60の破線で囲まれた部分を図6に示す。
図6は、本発明の一実施形態に係る受卵盆60の構造を説明する図である。受卵盆60は、外周に沿って形成された封止部61を有する。封止部61は、軟質塩化ビニル製であり、仕切板71、72と密着することにより、仕切板71、72の表面と受卵盆60の表面とが連続的に接続されるようにする。これにより、受卵盆60に載置される発眼卵に無理な力がかからないようにすることができる。
また、受卵盆60の開口部60Hは、小判型の長穴形状である。例えば、長穴形状の幅Wは5.0mm、長さLは20.0mm、幅方向繰り返し寸法Hは7.0mm、長さ方向繰り返し寸法Pは26.0mmに配置されている。この開口部60Hは、サケ、マスの魚卵を載置したときに下側の区画に落下するのを防止し、かつ孵出した仔魚が下側の区画に移動するのに適した配置である。この配置は、孵出させる魚種に応じて適宜設計すればよい。
また、開口部60Hの長手方向は、いずれの方向を向いていてもよいが、水流の安定化のため、仕切板71に沿った方向(導入口20側から排水口50側に沿った方向)に向いていることが望ましい。なお、排水網45の開口部、仕切板71、72の開口部を、受卵盆60の開口部60Hと同じものとすれば、材料を共通化できるため製造コストを低減することができる。この場合、仕切板71、72の開口部の長手方向についても、いずれの方向を向いていてもよいが、湧昇流への影響を少なくするために上下方向に沿っていることが望ましい。排水網45の開口部についても、いずれの方向を向いていてもよい。
図7は、本発明の一実施形態に係る仕切板71、72の構造を説明する図である。仕切板72は、中央上部にスリット72Sを有するとともに、受卵盆60を支持するための突出部72U、および下網70を支持するための突出部72Dを有する。仕切り板72は、水槽10の側板に形成された凹部35Sに沿って嵌めこまれることにより、水槽10に取り付けられる。なお、側板には、受卵盆60を支持するための突出部35U、および下網70を支持するための突出部35Dが形成されている。
仕切板71は、中央下部にスリット71Sを有するとともに、受卵盆60を支持するための突出部71U、および下網70を支持するための突出部71Dを有する。仕切り板71は、水槽10の側板に形成された凹部35Sに沿って嵌めこまれ、仕切板72のスリット72Sと、スリット71Sとを噛み合わせることにより、水槽10に取り付けられる。
[実施例]
続いて、本発明の一実施形態に係る浮上槽1について、偏流の程度を確認するための水流テストを行った結果を説明する。実施形態において説明した浮上槽1と同等の実施例1、排水網45L、45Rからは水が流出しないようにして、排水網45F、45Bのみから水が流出するようにした実施例2、および排水網45F、45L、45Rからは水が流出しないようにして、排水網45Bのみから水が流出する従来の構成に近い比較例について、水流テストを行った。
この水流テストは、水槽10(上方からみた寸法1000mm×1000mm、深さ590mm、なお、水槽10の下網70から底板35Cまでは100mm)に水を張り、導入口20から1分当たり50リットルの色水を供給した。色水が水槽10に拡散していく様子を観察し、区画10FR、10FL、10BR、10BLのそれぞれについて、排水樋40に色水が流出するまでの時間を計測した。水槽10の区画10FR、10FL、10BR、10BLについては、それぞれ図8に示す位置である。なお、比較例においては、区画10FR、10FLから排水樋40に流出することはできないため、色水の拡散の様子の観察のみとした。
図8は、本発明の実施例1、2および比較例について、水流テストの結果を示す図である。図8(a)は実施例1、図8(b)は実施例2、図8(c)は比較例の水流テストの結果であり、各区画に示す時間は導入口20に色水を供給してから、色水が排水樋40に流出するまでの時間である。
図9は、本発明の実施例1について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。図10は、本発明の実施例2について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。図11は、本発明の比較例について、水流テストによる色水の時間変化を示す図である。それぞれ、(1)から順に時間が経過して色水が拡散する様子を示す図である。図9、図10、図11における「導入口」の記載は、写真における導入口20の位置を示している。
まず、比較例について説明する。排水口50側の区画10BR、10BLにおいて、3分35秒という結果であり、色水の拡散が良好に行われていることがわかる。一方、排水樋40に直接流出できない区画10FR、10FLにおいて、仕切板71、72に開口部があって他の区画と水の行き来が可能であったとしても、10分経過後において一部領域(破線斜線部分)で色水の拡散がみられず、その後の拡散も非常に緩やかであった。そのため、水槽10において偏流が発生し、一部領域、特に区画10FR、10FLにおいて酸素濃度が低下して、発眼卵の孵出、仔魚の育成に悪影響を与えることになる。
実施例1では、いずれの区画においても3分40秒から3分55秒であり、色水の拡散が良好に行われ、偏流の少ない湧昇流が得られていることがわかる。また、実施例2においても、排水口50側の区画10BR、10BLにおいて、色水の拡散に6分から6分5秒と時間がかかっているものの、導入口20側の区画10FR、10FLにおいて、3分50秒で色水の拡散が見られており、比較例に比べて改善されている。
このように、本発明の浮上槽1においては、水槽10内を複数に区画しても、少なくとも水槽10の導入口20側および排水口50側(導入口20と反対側)に、水槽10の水を流出させる排水路を設けることで、全区画において偏流を抑制することができる。また、水槽10の周囲全体に排水路を設けることで、さらに偏流を抑制することができる。
[変形例1]
上述した実施形態においては、水槽10は、4区画に分割されていたが、導入口20側と排水口50側(導入口20と反対側)との2区画に分割されていてもよい。なお、3区画に分割されていてもよいし、さらに多くの区画に分割されていてもよいが、いずれの区画においても、水槽10の周囲に面している必要があり、排水路への流出ができる必要がある。
[変形例2]
上述した実施形態においては、水槽10の周囲に排水路が設けられていたが、実施例2で説明したように、少なくとも水槽10の導入口20側と排水口50側(導入口20と反対側)において排水路が設けられていればよい。
[変形例3]
上述した実施形態における底板35Cに水の流れの妨げとなる突起物などの抵抗物が設けられていてもよい。この配置間隔、形状を導入口20からの距離に応じて変化させることにより、偏流をより抑制するようにしてもよい。例えば、半円柱の抵抗物を配置する場合について説明する。この場合、半円柱の曲面部分が上方を向き、かつ長手方向が仕切板72に沿った方向になるように、抵抗物を配置する。抵抗物は導入口20からの距離によらず等間隔に配置される一方、円柱の直径が導入口20から遠いほど大きくなるようになっていてもよい。
1…浮上槽、10…水槽、20…導入口、25…整流板、30…観察窓、31…遮光引戸、32…レール、35F,35B,35L,35R,35P…側面、35C…底板、40…排水樋、41,42…堰板、45…排水網、50…排水口、60…受卵盆、65…ネットリング、68…排水栓、68H…排水穴、71,72…仕切板、80…誘導部、90…調整足、95…蓋