JP2014054230A - 植物組織からのカルス及び培養細胞の誘導方法並びに形質転換細胞の作出方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】植物の組織片を培地で培養し、当該組織片からカルスを誘導するステップと、前記誘導されたカルスを有する組織片を新鮮な培地に移植するステップとを有し、前記にて増殖能力を獲得したカルスを組織片から分離することを特徴とする。
【選択図】 図1
Description
カルス培養には、地域的あるいは季節的な制約を受けることなく一定の環境下で安定した細胞増殖や分化を得ることができるという利点があり、植物体よりも生長速度が速く、目的の植物種の増殖効率が高い。
また、細胞増殖方法として液体懸濁培養方法があり、懸濁培養では、培養液中の成分と細胞が迅速に接触し、同調的な細胞分裂が期待できる。
さらに、細胞増殖が速いという利点があり、植物ホルモンや阻害剤などの影響を評価したりするなどの生長特性解析や、複雑な生理学的研究、分子生物学的研究を行うことに適している。
また、形質転換等により代謝を調節し、特定の二次代謝産物を高度に蓄積させることも可能であることから、組換え細胞を大量培養することによって、有用物質の安定生産を行うことが可能となる。
タケの種類は多く、少なくとも88属1162種が確認されている。
その中でも代表的なものは、日本固有のマダケ属マダケ(Phyllostachysbambusoides Seib. Et Zucc)やハチク(P. nigra Munro var. Henonis.)、食用として中国から入ってきたモウソウチク(P. pubescens Mazel ex Houz.)がある。
一般的な樹木は10〜100年で成木となるのに対し、数年で成熟する高い生長能力、特徴的な代謝能力を有しているタケは有用な植物であると考えられる。
近年、タケは未利用のバイオマス資源として注目されており、他の樹木と比較し、いくつかの利点が挙げられる。
まず、1点目として生長が早いことが挙げられる。
タケノコが出る時期には一晩で1m以上も伸長することもあり、2ヶ月程度の生長期間に10m以上も生長できる高い生長能力を有している。
2点目に、成熟が早いことが挙げられる。
一般的な樹木は、植栽後の若い時期は生長が速いが、その後は生長速度が低減していき、少なくとも10年生以上にならなければ利用価値は無く、例えば、広葉樹林をバイオマス原料生産目的で伐採する場合には、30年生前後が良いとされている。
それに対し、タケは短期間に生長を終え、1年目は含水量が多く組織や材質は完熟していないが、2年目以降、5年目以内には利用が可能となる。
3点目として、再植栽が不要であることが挙げられる。タケは無性繁殖であるため、毎年播種する必要はなく、生長量に見合った伐採を行うことで、常に一定のバイオマス原料を確保することができる。
本発明者はこれまでに、タケ植物の組織からカルスの誘導、液体懸濁培養方法について提案している(非特許文献1〜3)。
本発明は、さらに安定したカルスの誘導方法及び増殖方法を検討したものである。
これにより、得られたカルスを植物ホルモンを添加した固定培地にて増殖、又は、植物ホルモンを添加した液体培地にて懸濁培養し増殖することができる。
また、得られた誘導細胞に目的遺伝子を導入し、発現させることもできる。
ここで、本発明に用いることができる植物としては、従来から検討されているタバコ、シロイヌナズナ、イネ等の草本植物やポプラ等の木本植物等の各種植物の組織片を対象にすることができる。
その中でも上記にて説明したイネ科タケ亜科に属するタケ又はササは成長が早く、新規遺伝子の導入及び発現系に優れる。
その中でもタケノコ組織や竹枝の節を用いるのが好ましい。
これにより、増殖可能な優れた培養細胞が得られ、新規遺伝子を導入し発現させることもできるので普遍的なバイオリソースとなり得る。
イネ科タケ亜科に属するタケ、ササ植物の組織より培養細胞を誘導する方法。
材料として20−30cmのハチクタケノコ、すなわち「若筍」を採取し、皮をはいだ後に滅菌処理を行った。
一例として「中性洗剤を滴下した流水中で30分間洗浄した。
その後70%エタノールで20分間、次いで2% NaClO(Tween 20 滴下)で60分間浸漬処理した。
最後に滅菌水で3回すすいだ。」
基本培地にはMS培地(Murashige Skoog,1962)と無機塩類濃度のみを1/2に改変した1/2MS培地の二種類を用いた。
図9にMS培地の組織表示を示す。
培地には、植物ホルモンとしてオーキシンである2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D)、4-amino-3,5,6-trichloropyridine-2- carboxylic acid (Picloram)、2,4,5-trichlorophenoxyacetic acid (2,4,5-T)、サイトカイニンである6−ベンジルアデニン(BA)0、1、3、10、30μMを添加し、pHを0.2Nおよび1NのHClまたはNaOHで5.7に調整した。
調整済み培地にGellan gumを0.3%(3g/L)加え、オートクレーブにて121℃で20分間滅菌処理をした。
その後、クリーンベンチ内でシャーレに20mlずつ分注した。
滅菌した筍は、メスを用いて滅菌シャーレ上で約1−3cmに切り出し、ピンセットを用いて2から4つずつシャーレに植え付けた(各条件10個)。
また、移植の際には、適宜褐色化した筍片を切除しながら分割し、新鮮培地に植えつけた。
25℃、特に望ましくは暗所で培養を行い、カルスの誘導を促した。
約2−4週間後、図1の表に示すように切断面周辺からカルスが誘導され始めた。
すべての筍片と1次増殖したカルスをおよそ4週間毎に上記新鮮な培地に移植を繰り返すと、図1の表の2次カルス誘導の欄に示すように2−6か月後には2次的に増殖するカルスを誘導できるものとできないものがあった。
図1の表,2次カルス誘導にて良好。
分離増殖可能とは筍片から分離したカルスに増殖能力が有効に有していたことを意味する。
MS培地と1/2MS培地では大きな差が認められなかったが、添加した植物ホルモンにより差があった。
植物ホルモンとしては(2,4−D)と(Picloram)がよく、その濃度は1〜10μMがよく、好ましくは3〜10μMであった。
そこで、次にMS培地と1/2MS培地を用いて各種タケ又はササにおけるタケノコの組織片を用いて実施例1と同様の培養実験を行った。
その結果を図2の表に示す。
これにより、各種のタケ、ササにおいて同様の結果が得られ、本発明に係るカルス誘導方法は汎用性があることが認められた。
材料として、温室内において鉢植え栽培しているハチク当年生の竹稈(直径:約2mm)より腋芽を一つ含むように切り出した1−2cmの節を培養に供した。
一例として「中性洗剤を数滴滴下した蒸留水により採取した節を10分間洗浄し、次いで70%エタノールに5分間浸漬した後、Tween 20 を数滴加えた2%次亜塩素酸ナトリウム溶液に5分間浸漬して滅菌処理を行った。」その後クリーンベンチ内にて、0.1%PPM入り滅菌水で10分間すすぎ、滅菌後の節はクリーンベンチ内で培地、特に望ましくは液体培地1/2MS培地(ホルモン無添加)に植えつけた。
このものを25℃、暗所、または光量子80−100μmol・m−2・s−1 、16時間日長条件おいて培養を行い、シュートの伸長を促した。
図3に培養2週目のシュートの様子を示す。
この節組織を用いて実施例1に従って、Picloram10μMを添加したMS改変培地(KH2PO4を680mg/L)にて培養を行ったところ、多くのタケ・ササにおいて、特に良好にシュート伸長した節培養組織から良好に増殖するカルスを得ることができた。
その結果を図4の表に示す。
図4の表に示すように節を用いた場合にシュートの伸長を促した後にカルス誘導したことにより分離増殖可能なカルスが得られた。
基本培地にはMS培地または無機塩類濃度のみを1/2に改変した1/2MS培地を用いた。
培地には、植物ホルモンとしてオーキシンである2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D)、4-amino-3,5,6-trichloropyridine-2- carboxylic acid (Picloram)、2,4,5-trichlorophenoxyacetic acid (2,4,5-T)を0、3、5、10μMを添加し、pHを0.2Nおよび1NのHClまたはNaOHで5.7に調整した。
調整済み培地にGellan gumを0.3%(3g/L)加え、オートクレーブにて121℃で20分間滅菌処理をした。
その後、クリーンベンチ内でシャーレに20mlずつ分注した。
各固体培地に約50mgのハチクカルスを3個ずつ2枚のシャーレに植え付け、培養14、28日目にカルスの重量を測定し、増殖の評価を行った。
その結果を図5のグラフに示し、21日目のカルスの状況を図6の写真に示す。
図5において、Aは植物ホルモン(2,4−D)、Bは(Picloram)、Cは(2,4,5−T)を添加したものであり、Dは植物ホルモンを添加しなかった結果である(n=6)。
3つの棒グラフのうち、左側のホワイトはホルモンの濃度が3μM,中央のグレーが5μM,右側の黒が10μMである。
また、培地は1/2MS培地である。
図6の写真のうち、Aは3μMの(2,4−D),Bは10μMのPicloram,Cは10μMの(2,4,5−T),Dは無添加のものを示す。
また、バーの長さは1cmを示す。
この結果、ハチクカルスの増殖にはオーキシンの添加が有効であり、最も効果が大きかったのは、Picloram 10μMである。
次いでこのホルモン条件にて基本培地の改変を行った。
増殖制御因子としてKH2PO4濃度に着目し、このものを85、170、340、680mg/lに改変した1/2MS(通常は85mg/l)およびMS培地を調整(通常は170mg/l)、約50 mgのH4カルスを3個ずつ2枚のシャーレに植え付け、同様に増殖の評価を行った。
その結果を図7のグラフに示す。
aは1/2MS,KH2PO4 85mg/l,3μM(2,4−D)、bは1/2MSベースの10μM(Picloram)でKH2PO4 170mg/l、cはbにおいてKH2PO4 340mg/l、dはbにおいてKH2PO4 680mg/lである。
また、e,f,gはMSベースに10μM(Picloram)を添加し、KH2PO4を順に170,340,680mg/lに改変したものである。
これにより、MSのKH2PO4濃度を680mg/lと通常の4倍まで高めることでハチクカルスは旺盛に増殖することが分かった。
この条件は液体懸濁培養にも有効であり、その結果を図8のグラフに示す。
図8のグラフ中、□印は1/2MS,植物ホルモン3μM(2,4−D)、●印はMSのKH2PO4 680mg/l改変,植物ホルモン10μM(Picloram)の結果である。
従来の1/2MS培地と比較してSCV(sedimented cell volume)細胞沈降量あたりで培養液の80%と2倍程度の増殖性が認められた。
この条件は、他のタケ・ササカルス、すなわちマダケ(Phyllostachys bambusoides)、ホウライチク(Bambusa multiplex)、ホウライコマチ(Bambusa glaucescens f. Horaikomachi)、キョチク(Dendrocalamus giganteus)、ブランデシー(Dendrocalamus brandisii)、チシマザサ(Sasa kurilensis)でも有効であることを確認できた。
(導入遺伝子の確認)
パーティクルガン法はDNAコーティングした金粒子等を植物細胞に撃ち込むことで細胞内に遺伝子を導入する方法で、全ての植物種に用いることができる。
金粒子が直接核の中に撃ち込まれるか、もしくは、核の極めて近くに撃ち込まれた場合に、金粒子の表面から遊離したDNAがゲノムDNAに組み込まれる。
ゲノムDNAに組み込まれなかった場合においても、核内で導入遺伝子から一時的に転写が起こるため、導入遺伝子の発現効率を調べることが可能である。
GUS遺伝子の一過的発現を指標とした遺伝子導入条件の検討を行った。
1/2MS,3μMの(2,4−D)固体培地で21日間培養した増殖性が高いカルスを材料としたとき、GUSが発現した細胞は1シャーレあたり4個だったのに対し、MS,KH2PO4濃度680mg/l,10μMの(Picloram)固体培地で培養したカルスでは1シャーレあたり28個であった。
次に、MS,KH2PO4濃度680mg/l,10μMの(Picloram)液体培地で11、13日間培養した懸濁細胞を材料とし、遺伝子導入距離を6、9cmに設定し、遺伝子導入を行った。
その結果、遺伝子導入距離は6cmの方が遺伝子導入効率は高く、平均222個、最大339個の細胞でGUSの発現が確認され、9cmでは平均38個であった(図10)。
GUS遺伝子による一過性遺伝子発現の実験から、カルス、懸濁細胞共に6cmの遺伝子導入距離が適していることが明らかとなり、上記培地で培養した細胞において遺伝子導入効率が高い結果となった。
これは、MS,KH2PO4濃度680mg/l,10μMの(Picloram)培地で培養した細胞は分裂頻度が高く、細胞壁の構造が薄く変化し、遺伝子導入に適した細胞であったと考えられる。
また、分裂頻度が高いことにより、効率的に形質転換細胞の増殖が起こることが予想された。
(蛍光タンパク質遺伝子発現の顕微鏡解析)
AcGFP1、mCherryを導入した細胞を蛍光実体顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行い、それぞれ、AcGFP1の緑色蛍光mCherryの赤色蛍光が確認できたので、安定的な遺伝子発現が確認された。
また、R4−mCherryを導入した細胞においても赤色蛍光が確認された。
供試材料の適用範囲をみるために、マダケM4細胞、無菌的に培養しているハチクのシュート、暗条件での培養にて白化させたモウハイチクのシュートを材料とし、ハチク懸濁細胞と同様の方法を用いて遺伝子の導入を行った。
その結果、マダケM4 細胞において一過性の発現を確認した。
また、ハチクのシュート、モウハイチクの白化シュートにおいても一過性の発現を確認することができた。
このことから、今回の遺伝子導入条件はハチク懸濁細胞だけでなく、他のタケ細胞や組織に適用が可能であることが示唆された。
(PCRによる遺伝子導入および発現解析)
増殖量、蛍光強度がそれぞれ違うAcGFP1およびmCherry導入ハチク細胞株をランダムに4株選抜し、材料とした。
ゲノムPCRの結果、それぞれの株で、446bpに設計したAcGFP1プライマー、459bpに設計したmCherryプライマーおよび713bpに設計したHygプライマーに対してそれぞれAcGFP1領域、mCherry領域、HPT領域の増幅産物を確認することができた(図11,12)。
また、R4−mCherry導入ハチク細胞株においてランダムに8株を選抜し、ゲノムPCRの材料とした。
mALS遺伝子の導入確認はPCRにて目的の領域を増幅後、MfeIで処理することにより行った。
制限酵素処理後に、全ての株において190bpの断片が確認された(図13A)。
mCherry領域の増幅産物も全ての株において確認することができた(図13B)。
RT−PCRの結果、逆転写の際に用いたtotal RNAにはDNAがコンタミしていないことが確認され、すべての株において、AcGFP1 領域、mCherry領域、HPT領域の増幅産物を確認することができた(図14,15)。
このことから、全ての細胞株において導入遺伝子の転写が安定的に行われていることが明らかとなった。
Claims (4)
- 植物の組織片を培地で培養し、当該組織片からカルスを誘導するステップと、
前記誘導されたカルスを有する組織片を新鮮な培地に移植するステップとを有し、
前記にて増殖能力を獲得したカルスを組織片から分離することを特徴とするカルスの誘導方法。 - 請求項1記載の誘導方法にて得られたカルスを植物ホルモンを添加した固定培地にて増殖、又は、植物ホルモンを添加した液体培地にて懸濁培養し増殖することを特徴とする誘導細胞の増殖方法。
- 請求項2にて得られた誘導細胞に目的遺伝子を導入及び発現させることを特徴とする形質転換細胞の作出方法。
- 前記組織片は、イネ科タケ亜科に属するタケ又はササであることを特徴とする請求項1記載のカルスの誘導方法。
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