JP2014054209A - α,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 液化澱粉に、澱粉枝切酵素及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼとともに、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を作用させ、次いで、グルコアミラーゼを作用させてα,α−トレハロース含有糖液を得る工程、前記糖液から、α,α−トレハロース二含水結晶を晶析させる工程、及び、晶析したα,α−トレハロース二含水結晶を遠心分離により採取し、これを熟成、乾燥する工程を含むα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法であって、α,α−トレハロース含有糖液を得る工程において、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素、及び、パエニバチルス属微生物由来シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼを用いることによりカラムクロマトグラフィーによる分画工程を経ることなく、前記糖液中のα,α−トレハロース含量を無水物換算で86.0%超とすることを特徴とする、無水物換算でα,α−トレハロースを98.0質量%以上含有するα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】 なし
Description
本明細書において以下の用語は以下の意味を有している。
本明細書でいう「対澱粉収率」とは、原料澱粉の無水物換算での単位質量当たりの得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の無水物換算での質量の割合を百分率(%)で表したものである。なお、本明細書では、澱粉を原料とし、これに酵素を作用させてトレハロースを生成させ、生成したトレハロースを晶析、採取、熟成、乾燥するという一連の一貫した工程で、トレハロース二含水結晶含有粉末を製造することを前提としているので、本明細書でいう「対澱粉収率」とは、澱粉に酵素を作用させて得られるトレハロース含有糖液から最初に晶析する、いわゆる一番晶から製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末の対澱粉収率を意味しており、晶析した結晶を採取した後に残った糖液や、マスキットから分離された蜜などを糖液に戻して再度晶析させる、いわゆる二番晶以降から製造されるトレハロース二含水結晶含有粉末を含めたものではない。因みに、種晶を添加して晶析させる場合、対澱粉収率の算出において種晶の量は、本明細書を通じて、得られるトレハロース二含水結晶含有粉末の量に含まれる。
本明細書において「CGTase活性」は以下のように定義される。すなわち、0.3%(w/v)可溶性澱粉、20mM酢酸緩衝液(pH5.5)、1mM塩化カルシウムを含む基質水溶液5mlに対し、適宜希釈した酵素液0.2mlを加え、基質溶液を40℃に保ちつつ、反応0分目及び反応10分目に基質溶液を0.5mlずつサンプリングし、直ちに0.02N硫酸溶液15mlに加えて反応を停止させた後、各硫酸溶液に0.1Nヨウ素溶液を0.2mlずつ加えて呈色させ、10分後、吸光光度計により波長660nmにおける吸光度をそれぞれ測定し、下記式[1]により澱粉分解活性として算出する。CGTase活性1単位は、斯かる測定条件で、溶液中の澱粉15mgのヨウ素呈色を完全に消失させる酵素量と定義する。
本明細書でいう「制御冷却法」とは、「制御された冷却」によって結晶を晶析させる方法をいい、晶析工程として設定した作業時間を「τ」、晶析開始時の液温を「T0」、晶析終了時の目標とする液温を「Tf」、時間「t」における液温を「T」とすると、時間tにおける液温Tが原則として下記式[2]で表される冷却方法をいう。
本明細書でいう「擬似制御冷却法」とは、文字どおり上記した制御冷却法に擬似した冷却法であり、液温Tを時間tに対して厳密に上記式[2]にしたがって変化させるのではなく、晶析に用いるトレハロース含有溶液におけるトレハロース純度、濃度、過飽和度、種晶の量などにもよるけれども、作業時間t=τ/2の時点(晶析工程の中間点)で結晶核がおおむね出揃うことが望ましいことから、t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T0−Tm)が、総温度変化量(T0−Tf)の5%以上50%未満、望ましくは、10%以上30%未満の範囲を維持するように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させる冷却法を意味する。t=τ/2の時点における液温Tの変化量(T0−Tm)が、総温度変化量(T0−Tf)の5%以上50%未満であるように液温Tを時間tに対して連続的又は段階的に低下させる場合には、液温が高い晶析の初期においては液温Tが時間tに対して緩やかに低下し、液温がある程度低下した晶析の後期においては液温Tが時間tに対して急速に低下することになり、結果として、上述した制御冷却法には及ばない場合があるものの、微結晶が少ない粒径が揃った結晶を含むマスキットが得られるという、制御冷却法とほぼ同様の利点が得られる。
本明細書でいう「トレハロース二含水結晶についての結晶化度」とは、下記式[3]によって定義される数値を意味する。
一般に、結晶含有粉末における1個の粉末粒子は複数の単結晶、すなわち、複数の結晶子により構成されると考えられている。結晶含有粉末における結晶子の大きさ(結晶子径)は結晶含有粉末の特性に反映されると考えられる。本明細書でいう「トレハロース二含水結晶についての平均結晶子径」(以下、単に「平均結晶子径」という。)とは、トレハロース二含水結晶含有粉末を粉末X線回折分析に供し、得られた粉末X線回折パターンにおいて検出される回折ピークの内、5個の回折ピーク、すなわち、結晶子の不均一歪に起因する回折ピーク幅への影響が少ないとされる比較的低角の領域で、他の回折ピークとよく分離した、回折角(2θ)13.7°(ミラー指数(hkl):101)、17.5°(ミラー指数:220)、21.1°(ミラー指数:221)、23.9°(ミラー指数:231)及び25.9°(ミラー指数:150)の回折ピーク(図1の符号a乃至eを参照)を選択し、それぞれの半値幅と回折角とを用い、標準品としてケイ素(米国国立標準技術研究所(NIST)、X線回折用標準試料(『Si640d』)を用いた場合の測定値に基づき補正した後、下記式[4]に示す「シェラー(Scherrer)の式」によりそれぞれ算出された結晶子径の平均値を意味する。
本明細書でいう「粉末全体の還元力」とは、D−グルコースを標準物質として用い、斯界において汎用されるソモジ−ネルソン法及びアンスロン硫酸法によりそれぞれD−グルコース換算に基づく還元糖量及び全糖量を求め、粉末に含まれる全糖量に対する還元糖量の百分率(%)を、下記式[5]を用いて計算することにより求めることができる。
本明細書において、粉末の粒度分布は以下のようにして決定する。すなわち、日本工業規格(JIS Z 8801−1)に準拠する、目開きが425、300、212、150、106、75及び53μmの金属製網ふるい(株式会社飯田製作所製)を正確に秤量した後、この順序で重ね合わせてロータップふるい振盪機(株式会社田中化学機械製造所製、商品名『R−1』)へ装着し、次いで、秤取した一定量の試料を最上段のふるい(目開き425μm)上に載置し、ふるいを重ね合わせた状態で15分間振盪した後、各ふるいを再度正確に秤量し、その質量から試料を載置する前の質量を減じることによって、各ふるいによって捕集された粉末の質量を求める。その後、ふるい上に載置した試料の質量に対する、各ふるいによって捕集された各粒度を有する粉末の質量の百分率(%)を計算し、粒度分布として表す。
本発明の製造方法は、基本的に以下の(1)乃至(6)の工程を含んでいる:
(1)液化澱粉溶液に、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を、澱粉枝切酵素とパエニバチルス属微生物由来CGTaseとともに作用させてトレハロースを生成させるトレハロース生成工程;
(2)トレハロース生成工程により得られたトレハロースを含有する反応液にグルコアミラーゼを作用させるグルコアミラーゼ処理工程;
(3)トレハロースを含有する反応液を濾過、脱色、脱塩、濃縮する精製濃縮工程;
(4)トレハロースを含有する濃縮液にトレハロース二含水結晶の種晶を含有せしめ、トレハロース二含水結晶を晶析する工程;
(5)晶析工程において得られたマスキットから遠心分離によりトレハロース二含水結晶を採取する工程;
(6)採取したトレハロース二含水結晶を熟成、乾燥し、必要に応じて粉砕する工程。
当該工程は、原料である液化澱粉に、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素と、同じくスルフォロブス属微生物由来のトレハロース遊離酵素を、澱粉枝切り酵素とパエニバチルス属微生物由来のCGTaseとともに作用させてトレハロースを生成させる工程である。
(a)Gly−Ser−X1−Ala−Ser−Asp;
(b)Lys−Thr−Ser−Ala−Val−Asn−Asn;
(c)Lys−Met−Pro−Ser−Phe−Ser−Lys;
(d)Val−Asn−Ser−Asn−X2−Tyr;
(但し、X1はAla又はSerを、X2はAla又はThrをそれぞれ意味する。)
上記部分アミノ酸配列は、パエニバチルス属微生物由来CGTaseに特有の特徴的なアミノ酸配列である。
この工程は、(1)のトレハロース生成工程で得られた反応液に、さらにグルコアミラーゼ剤を作用させ、無水物換算でのトレハロース含量を高める工程である。すなわち、トレハロース生成工程により得られる反応液には、トレハロースとともに、D−グルコース、マルトース、グルコース重合度3以上のマルトオリゴ糖、α−グルコシルトレハロース、及びα−マルトシルトレハロースなどの糖質が含まれているので、この反応液にグルコアミラーゼを作用させることにより、マルトースとグルコース重合度3以上のマルトオリゴ糖をD−グルコースにまで分解するとともに、α−グルコシルトレハロースやα−マルトシルトレハロースなどのα−グリコシルトレハロースをD−グルコースとトレハロースにまで分解することによって、反応液中のトレハロース純度、つまりは無水物換算でのトレハロース含量を高めることができる。
この工程は、グルコアミラーゼ処理を終えて無水物換算でのトレハロース含量が高められたトレハロース含有糖液に、常法により、濾過、遠心分離などを施して不溶物を除去し、活性炭で脱色し、カチオン交換樹脂(H+型)、アニオン交換樹脂(OH−型)にて脱塩するとともに、晶析に適した濃度まで濃縮する工程である。反応液中の無水物換算でのトレハロース含量は、(2)のグルコアミラーゼ処理工程によって既に86.0%以上にまで高められているので、(3)の精製濃縮工程においては、カラムクロマトグラフィーによる分画工程などのトレハロース含量をさらに高める工程は不要である。
この工程は、上記(1)乃至(3)の工程を経て得られたトレハロース含有糖液から、トレハロース二含水結晶の種晶の存在下、トレハロース二含水結晶を晶析させる工程である。すなわち、無水物換算でのトレハロース含量が所定のレベルにまで高められた糖液を、通常、トレハロースについての過飽和度を1.05乃至1.50の範囲になるように調節した後、言い換えれば、トレハロース濃度を約60乃至85%、液温を約40乃至80℃に調節した後、助晶缶に移し、次いで、トレハロース二含水結晶の種晶を助晶缶中の濃縮糖液体積に対して、通常、0.1乃至5%(w/v)、詳細には、0.5乃至2%(w/v)含有せしめ、緩やかに撹拌しつつ、3乃至48時間かけて液温を5乃至60℃まで自然冷却することによりトレハロース二含水結晶の晶析を促す。なお、助晶缶内等に既にトレハロース二含水結晶の種晶が存在する場合には、トレハロース二含水結晶の種晶は特段添加する必要はない。作業効率の点で、濃縮液からのトレハロース二含水結晶の晶析は、通常、種晶の存在下で行われる。
この工程は、(4)の晶析工程で得られたマスキットから、常法の分蜜方式に従い、トレハロース二含水結晶を遠心分離により採取する工程である。採取されたトレハロース二含水結晶は、表面に付着している非晶質の蜜を除去するため、少量の精製水をスプレー(シャワー)して洗浄される。なお、結晶の洗浄に用いる精製水の量は、通常、遠心分離前のマスキットの重量に対して、3%以上、10%までとするのが好ましい。すなわち、洗浄に用いられる精製水の量が3%未満では、洗浄が十分に行われず、非晶質の蜜が残り、所期のトレハロース純度が得られない恐れがある。一方、洗浄に用いられる精製水の量が10%を超えると、洗浄によって溶解、除去されるトレハロース二含水結晶の量が増し、対澱粉収率が低下する恐れがある。
この工程は、採取されたトレハロース二含水結晶を、所定の温度及び湿度雰囲気中に一定時間保持し、結晶を熟成させるとともに熱風乾燥して、トレハロース二含水結晶含有粉末を得る工程である。熟成及び乾燥工程における結晶の品温や雰囲気の相対湿度、並びに保持時間は、所期の粉末が得られる限り、特段の制限はないが、熟成、乾燥工程において、結晶はその品温が20乃至55℃、雰囲気の相対湿度は60乃至90%に保たれるのが好ましく、熟成、乾燥時間は約5乃至24時間とするのが好ましい。熟成、乾燥工程を経た粉末は、次いで、室温まで自然放冷される。また、室温程度の清浄な空気を吹き付けて室温程度の品温にまで強制冷却することも有利に実施できる。得られた結晶粉末はそのまま、若しくは、必要に応じて粉砕して製品とされる。
液化澱粉に、スルフォロブス属微生物由来の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と、同じくスルフォロブス属微生物由来の組換え型トレハロース遊離酵素を、澱粉枝切酵素及びCGTaseとともに作用させ、次いで、グルコアミラーゼを作用させる酵素反応によってトレハロースを生成させる酵素反応系において、使用するCGTaseの由来が、酵素反応で得られる糖液中のトレハロース含量にどのような影響を及ぼすかを調べるべく、以下の実験を行った。
特許文献7(特開平8−84586号公報)の実施例A−2(b)に記載された方法により、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子を含む組換えDNA、pST36を保持する組換え大腸菌ST36を培養し、同明細書実験例1の方法により組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素を精製して1ml当たり約210単位含む精製酵素液約3,800mlを得た。また、特許文献8(特開平8−336388公報)の実施例A−2(b)に記載された方法により、スルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株由来のトレハロース遊離酵素遺伝子を含む組換えDNA、pSU19を保持する組換え大腸菌SU19を培養し、同明細書実験例1の方法により組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素を精製して1ml当たり約2,900単位含む精製酵素液約2,050mlを得た。なお、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素の活性は上記特許文献5(特開平8−66188号公報)及び6(特開平8−66187号公報)に開示された方法に準じて測定した。
各種微生物由来のCGTaseとして、以下のCGTaseを用いた。すなわち、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来のCGTaseとしては、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株(FERM BP−11273)由来のCGTase(株式会社林原製)を、バチルス・マセランス(Bacillus macerans)由来のCGTaseとしては、市販のCGTase(商品名『コンチザイム』、天野エンザイム株式会社販売)を、サーモアナエロバクテリウム・サーモスルフリゲネス(Thermoanaerobacterium thermosulfurigenes)由来のCGTaseとしては、市販のCGTase(商品名『トルザイム』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を用いた。
トウモロコシ澱粉を濃度30%となるように水に懸濁し、この懸濁液に炭酸カルシウムを0.1%加えた。当該懸濁液のpHを6.0に調整した後、澱粉固形物当たり0.2%の耐熱性α−アミラーゼ剤(商品名『ターマミル60L』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を加え、95℃で15分間反応させて澱粉を糊化・液化した。得られた液化澱粉溶液を120℃で30分間オートクレーブした後、57℃に冷却し、pH5.5に調整した後、同温度で維持しつつ、澱粉固形物1グラム当たり、10単位の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素、40単位の組換え型トレハロース遊離酵素、1,500単位のイソアミラーゼ剤(株式会社林原製)、及び、実験1−2に記載したCGTase又は実験1−2で調製したCGTaseのいずれかを15単位加え、48時間反応させた。得られた反応物を97℃で30分間加熱してそれぞれ酵素を失活させた後、pH4.5に調整し、澱粉固形物1グラム当たり10単位のグルコアミラーゼ剤(商品名『グルコチーム#20000』、ナガセケムテックス株式会社製)を加えて24時間反応させた。斯くして得た反応液を95℃で10分間加熱して酵素を失活させ、以下に記す反応液中のトレハロース含量の測定に供した。なお、CGTaseを添加しない以外は同一条件で酵素反応を行って得た反応液を対照とした。
実験1−3で得た反応液をそれぞれ表1に示す反応液1乃至8とし、トレハロース含量を以下のようにして求めた。すなわち、反応液1乃至8をそれぞれ精製水により1%溶液とし、0.45μmメンブランフィルターにより濾過した後、下記条件によるHPLC分析に供し、示差屈折計によるクロマトグラムに出現したピークの面積から反応液のトレハロース含量を計算し、無水物換算した。結果を表1に示す。なお、表1に示す反応液中のトレハロース含量は、各CGTaseについて同一の条件でトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を5回繰り返した場合にも、若干のばらつきの範囲内で再現性よく得られる値である。
・分析条件
HPLC装置:『LC−10AD』(株式会社島津製作所製)
デガッサー:『DGU−12AM』(株式会社島津製作所製)
カラム:『MCI GEL CK04SS』(三菱化学株式会社製)
サンプル注入量:20μl
溶離液:精製水
流 速:0.4ml/分
温 度:85℃
示差屈折計:『RID−10A』(株式会社島津製作所製)
データ処理装置:『クロマトパックC−R7A』(株式会社島津製作所製)
<被験試料1乃至8>
実験1で得たトレハロース含量が異なる反応液1乃至8のそれぞれを、活性炭を用いる脱色処理及びイオン交換樹脂を用いる脱塩処理により精製し、固形物濃度約60%まで濃縮して、反応液1乃至8のそれぞれに対応して、トレハロース含有糖液1乃至8(トレハロースを無水物換算で77.1乃至86.8%含有)を得た。
被験試料9として、食品級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハ』、ロット番号:9I131、株式会社林原販売)を用いた。
<トレハロース純度>
被験試料1乃至9のトレハロース純度は、実験1−3と同じHPLC法にて求めた。結果は表2に示した。
上記で調製した被験試料1乃至8の対澱粉収率は、各被験試料の調製に用いた酵素反応液の質量と原料澱粉の仕込み時の濃度(30%)とから原料澱粉の無水物換算での質量を算出し、この値で得られた被験試料1乃至8の無水物換算での質量を除した後、100を乗じることでパーセント表示した。結果は表2に併せて示した。
被験試料1乃至9の各々について、それぞれの粉末の固結性を調べる目的で、以下の実験を行った。すなわち、被験試料1乃至9を1グラムずつ秤取し、それぞれ別個に内底部が半球状の14ml容蓋つきポリプロピレン製円筒チューブ(ベクトン・ディッキンソン社販売、商品名『ファルコンチューブ2059』、直径1.7cm、高さ10cm)の内部に充填し、チューブを試験管立てに直立させた状態で50℃のインキュベーター(アドバンテック東洋株式会社販売、商品名『CI−410』)の内部に収容し、24時間にわたって静置した後、チューブをインキュベーター外に取り出し、チューブから蓋を外し、チューブを緩慢に転倒させることにより、被験試料を黒色プラスチック製平板上に取り出し、取り出された被験試料の状態を肉眼観察した。
本実験では、実験2−1で調製されたトレハロース含有糖液1乃至8からトレハロース二含水結晶を晶析させるに際し、擬似制御冷却法を適用してトレハロース二含水結晶含有粉末を調製した場合の、粉末のトレハロース純度、対澱粉収率、及び固結性に及ぼす影響を検討した。
実験2−1で調製した無水物換算でのトレハロース含量が異なるトレハロース含有糖液1乃至8のそれぞれを、減圧下で固形物濃度約85%にまで濃縮し、助晶缶にとり、糖液の容量に対して約1%(w/v)のトレハロース二含水結晶を種晶として加えて攪拌しつつ、60℃から20℃まで約10時間かけて擬似制御冷却することにより助晶した以外は、実験2におけると同様にして、トレハロース二含水結晶を晶析させたマスキットを調製した。なお、擬似制御冷却は、全10時間の冷却時間を4時間、3時間、3時間の3つの区間に分け、最初の区間では4時間かけて液温を60℃から55℃まで、次の区間では3時間かけて55℃から50℃まで、さらに、最後の区間では3時間かけて液温を50℃から20℃まで、いずれも液温が時間に対して略直線状に低下するように冷却することによって行った。得られたマスキットから、常法により、バスケット型遠心分離機によりトレハロース二含水結晶を採取し、採取したトレハロース二含水結晶をマスキット重量に対し8%の脱イオン水を用いて洗浄し、40℃で8時間、熟成、乾燥させた後、25℃の清浄な空気を30分間吹き付けて強制冷却し、粉砕することにより、トレハロース二含水結晶含有粉末とした。トレハロース含有糖液1乃至8のそれぞれから擬似制御冷却によって得られたトレハロース二含水結晶含有粉末をそれぞれ被験試料1c乃至8cとした。
<トレハロース純度>
被験試料1c乃至8cのトレハロース純度は、実験1−3と同じHPLC法にて求めた。結果は表3に示した。
被験試料1c乃至8cの対澱粉収率は、実験2−2と同じ方法により算出した。結果は表3に併せて示した。
実験3において、トレハロース含量が86%超と比較的高い糖液から擬似制御冷却法を適用して調製したトレハロース二含水結晶含有粉末被験試料5c乃至8cは、それ以外の被験試料と比べトレハロース純度において大差ないにもかかわらず、固結し難いという優れた粉末特性を有していた。その理由を解明する目的で、本実験では実験2で得た被験試料1乃至8、及び、実験3で得た被験試料1c乃至8cについて、粉末のトレハロース二含水結晶についての結晶化度と平均結晶子径を測定した。また、対照として、被験試料9についても同様に調べた。
<標準試料A>
被験試料Aとして、実質的にトレハロース二含水結晶からなる標準試料を、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、純度99.9%以上)を再結晶させることによって調製した。すなわち、上記試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末1,840gを1,000gの精製水に加熱・溶解し、溶解した溶液を20℃の恒温チャンバーに入れて一晩放置して再結晶させた。再結晶により晶出したトレハロース二含水結晶を常法によりバスケット型遠心分離機を用いて回収して、40℃で8時間乾燥してトレハロース二含水結晶約950gを得た。これを被験試料Aとした。被験試料Aのトレハロース純度を実験1記載のHPLC法で測定したところ、100%であった。
被験試料Bとして、実質的に無定形部分からなる標準試料を、以下の手順で調製した。すなわち、被験試料Aを適量の精製水に溶解し、3日間かけて凍結乾燥した後、40℃以下で1晩真空乾燥して、実質的に無定形部分からなる粉末を得た。これを被験試料Bとした。被験試料Bのトレハロース純度を実験1記載のHPLC法で測定したところ、100%であった。なお、被験試料Bの水分含量をカールフィッシャー法により測定したところ、2.0%であった。
<結晶化度>
被験試料A及びB、被験試料1乃至9、被験試料1c乃至8cにおけるトレハロース二含水結晶についての結晶化度を以下のようにして求めた。すなわち、市販の反射光方式による粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社製、商品名『X’Pert PRO MPD』)を用い、Cu対陰極から放射される特性X線であるCuKα線(X線管電流40mA、X線管電圧45kV、波長1.5405オングストローム)による粉末X線回折プロフィルに基づき、同粉末X線回折装置に搭載された専用の解析コンピューターソフトウェアを用い、被験試料A及びB、被験試料1乃至9、及び被験試料1c乃至8cの各々につきハーマンス法による結晶化度の解析値を求めた。ハーマンス法による結晶化度の解析に先立ち、各粉末X線回折パターンにおけるピーク同士の重なり、回折強度、散乱強度などを勘案しながら、最適と判断されるベースラインが得られるように、ソフトウェアに設定された粒状度及びベンディングファクターをそれぞれ適切なレベルに合わせた。なお、ハーマンス法については、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A. Weidinger)、「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」(Journal of Applied Physics)、第19巻、491〜506頁(1948年)、及び、ピー・エイチ・ハーマンス(P.H.Harmans)とエー・ワイジンガー(A. Weidinger)、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス」(Journal of Polymer Science)、第4巻、135〜144頁(1949年)に詳述されている。
本実験では、被験試料A及びBがそれぞれ、解析値H100及びH0を決定するための試料として適切なものであることをさらに裏付ける目的で、これら標準試料をシンクロトロン放射光(以下、「放射光」と言う。)をX線源に用い、微弱な回折や散乱のシグナルを検出することができる透過光方式の粉末X線回折に供した。なお、測定条件は次のとおりであった。
粉末X線回折装置:高速粉末X線回折装置(神津精機社販売、
型番『PDS−16』)、デバイシェラモード、
カメラ長:497.2mm
X線源 :偏向電磁石からの放射光(兵庫県ビームライン(BL08B2))
測定波長:1.2394Å(10.00keV)
測定強度:109フォトン/秒
測定角 :3乃至38°
露光時間:600秒間
画像撮影:イメージングプレート(富士フイルム社製、商品名『イメージ
ングプレート BAS−2040』
画像読取装置:イメージアナライザー(富士フイルム社製、『バイオイメー
ジアナライザーBAS−2500』)
粉末X線回折パターンにおける各回折ピークの半値幅及び回折角(2θ)から、結晶子径を算出することができる。本発明者らは、複数の回折ピークから算出される結晶子径の平均値(平均結晶子径)が、結晶含有粉末の物性を規定するパラメータとなり得ると考え、トレハロース二含水結晶含有粉末の被験試料について平均結晶子径を求めた。
被験試料1乃至9及び被験試料1c乃至8cの粉末としての性質をさらに明らかにすることを目的とし、保存性試験及び水への溶解性試験を行った。
実験2−2、実験3−2等において行われた固結性試験が、トレハロース二含水結晶含有粉末の実際の保存時における固結性を評価する試験として妥当なものであることを確認すべく、実験4−1の方法で得た被験試料A及びB、実験2で得た被験試料1乃至9、及び、実験3で得た被験試料1c乃至8cについて、市場に流通する製品としてのトレハロース二含水結晶含有粉末が実際に保存される状態、環境、期間などを想定した保存性試験を行った。
各被験試料を各0.25g秤量し、それぞれ内底部が半球状の14ml容蓋付きポリプロピレン製円筒チューブ(ベクトン・ディッキンソン社販売、商品名「ファルコンチューブ2059」に入れた。各被験試料を入れたチューブに、脱イオン水を5ml加え、50℃の恒温水槽で、30分間加温した後、2回転倒させ、さらに50℃で15分保持し、その時の溶解性を調べた。目視により、粉末が完全に溶解したと見なされる場合を溶解性「良」、不溶物の残存が確認される場合を溶解性「不良」と判定した。結果を併せて表5に示した。
トレハロースの製造により好適なCGTaseを特徴づける目的で、酵素反応液中のトレハロース含量を高める効果に優れる前記パエニバチルス属微生物由来CGTase、すなわち、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株にそれぞれ由来するCGTaseのアミノ酸配列(配列表における配列番号1、2及び3)と、酵素反応液中のトレハロース含量を高める効果がパエニバチルス属微生物由来CGTaseに比べると弱い前記ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株、とバチルス・マゼランス、サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネスにそれぞれ由来するCGTaseのアミノ酸配列(配列表における配列番号4、5及び6)を比較した。なお、アミノ酸配列の比較に用いた配列表における配列番号1乃至3で示されるアミノ酸配列はいずれも、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株、パエニバチルス・パブリ NBRC13638株、及び、パエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株のそれぞれのCGTase遺伝子を出願人が独自にクローニングし決定した塩基配列にコードされるアミノ酸配列を用いた。また、配列表における配列番号4及び5で示されるアミノ酸配列は、出願人が独自に決定し本願と同じ出願人による特開昭61−135581号公報に開示されたジオバチルス・ステアロサーモフィラス(旧分類ではバチルス・ステアロサーモフィラス) Tc−91株由来、及び、バチルス・マゼランス由来CGTaseのアミノ酸配列である。因みに、配列表における配列番号5で示されるアミノ酸配列は、実験1で用いたバチルス・マゼランス由来CGTase(商品名『コンチザイム』、天野エンザイム株式会社販売)のものではないものの、同じバチルス・マゼランス由来CGTaseのアミノ酸であることから代用した。また、サーモアナエロバクター・サーモスルフリゲネス由来CGTaseのアミノ酸配列としては、遺伝子データベース『GenBank』にアクセッションNo.35484として登録されているものを用いた。
(a)Gly−Ser−X1−Ala−Ser−Asp;
(b)Lys−Thr−Ser−Ala−Val−Asn−Asn;
(c)Lys−Met−Pro−Ser−Phe−Ser−Lys;
(d)Val−Asn−Ser−Asn−X2−Tyr;
(但し、X1はAla又はSerを、X2はAla又はThrをそれぞれ意味する。)
トウモロコシ澱粉を30%になるように水中に懸濁し、この懸濁液に終濃度0.1%となるように炭酸カルシウムを添加し、pH6.0に調整した。これに耐熱性α−アミラーゼ(商品名『ターマミル60L』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を澱粉質量当たり0.2%加えて98乃至100℃、15分間反応させ、澱粉を糊化・液化した。得られた液化澱粉溶液を125℃で15分間オートクレーブした後、57℃に冷却し、これに実験1−1の方法で調製した組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と組換え型トレハロース遊離酵素の部分精製標品を、澱粉1グラム当たりそれぞれ5単位及び20単位になるよう加え、さらに、澱粉1グラム当たり1,500単位のイソアミラーゼ(株式会社林原製)及び15単位の実験1−2の方法で調製したパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15959株由来のCGTaseを加え、さらに、約50時間反応させた。次いで、この反応液を97℃で60分間加熱して酵素を失活させた後、pH4.5に調整し、これにグルコアミラーゼ剤(商品名『グルコチーム#20000』、ナガセケムテックス株式会社販売)を澱粉1グラム当り10単位加えて24時間反応させたところ、トレハロース純度、すなわち無水物換算でのトレハロース含量が86.4%の反応液が得られた。斯くして得た反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H+型)及びアニオン交換樹脂(OH−型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約85%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として2%加えて55℃とし、穏やかに撹拌しつつ24時間かけて15℃まで自然冷却し、トレハロース二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を10分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.1%、D−グルコースを0.6%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.09%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.12%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約40%で得た。
澱粉1グラム当たりそれぞれ10単位及び40単位の組換え型α−グリコシルトレハロース生成酵素と組換え型トレハロース遊離酵素を用いて反応時間を40時間とし、CGTaseとして実験1−2の方法で得たパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来CGTaseを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を行うことにより、トレハロース純度、すなわち無水物換算でのトレハロース含量が86.2%の反応液を得た。得られた反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H+型)及びアニオン交換樹脂(OH−型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約85%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて60℃とし、次いで、このトレハロース含有溶液を、穏やかに撹拌しつつ60℃から50℃まで12時間、50℃から40℃まで6時間、さらに40℃から15℃まで6時間かけて冷却する擬似制御冷却法にて計24時間で15℃まで冷却することにより、トレハロースの二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を20分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.4%、D−グルコースを0.08%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.05%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.07%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約43%で得た。
CGTaseとして、実験1−2の方法で調製したパエニバチルス・パブリ NBRC13638株由来のCGTaseを用いた以外は実施例1におけると同様にしてトレハロース生成反応を行ったところ、グルコアミラーゼ処理後の反応液における無水物換算でのトレハロース含量は86.1%であった。斯くして得た反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H+型)及びアニオン交換樹脂(OH−型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約85%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて60℃とし、穏やかに撹拌しつつ60℃から45℃まで15時間、45℃から20℃まで9時間かけて冷却する2段階の擬似制御冷却法にて24時間かけて冷却し、トレハロース二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を10分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.3%、D−グルコースを0.3%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.07%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.12%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約43%で得た。
原料澱粉としてタピオカ澱粉を用い、CGTaseとして実験1−2の方法で得たパエニバチルス・アミロリティカス NBRC15957株由来CGTaseを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を行うことにより、トレハロース純度、すなわち無水物換算でのトレハロース含量が86.2%の反応液を得た。得られた反応液を加熱し酵素を失活させ、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H+型)及びアニオン交換樹脂(OH−型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約86%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて60℃とし、次いで、このトレハロース含有溶液を、穏やかに撹拌しつつ60℃から50℃まで8時間、50℃から35℃まで8時間、35℃から15℃まで8時間かけて冷却する3段階の擬似制御冷却法にて計24時間で15℃まで冷却することにより、トレハロースの二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を20分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを99.2%、D−グルコースを0.07%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.04%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.06%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約42%で得た。
実施例2において用いたパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来のCGTaseに替えて、同株由来のCGTase遺伝子を大腸菌を宿主として発現させて得た組換え型(野生型)CGTaseと、当該CGTase遺伝子に常法により部位特異的変異を導入し、コードされるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の1残基が他のアミノ酸残基に置換した変異体CGTase2種を調製し、トレハロース二含水結晶含有粉末の製造に用いた。
本発明者らがパエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株からクローニングし保有している同株由来のCGTase遺伝子(配列表における配列番号7で示される塩基配列)を用い、そのコードするアミノ酸配列を変えることなく変異させて制限酵素部位などを導入又は欠失させた後、それを発現用プラスミドベクター「pRSET−A」(インビトロジェン社製)に組換え、天然型(野生型)CGTaseをコードする遺伝子を含む発現用組換えDNAを作成した。得られた組換えDNA「pRSET−iPI」を用いて常法により大腸菌BL21(DE3)(ストラタジーン社製)を形質転換し、同組換えDNAを保持する形質転換体「BL21−RSET−iPI」を取得した。次いで、当該形質転換体をアンピシリンNa塩100μl/mlを含むT培地(培地1L当り、バクト−トリプトン12g、バクト−イーストエキストラクト24g、グリセロール5ml、17mM リン酸一カリウム、72mM リン酸二カリウムを含有)を用いて37℃で24時間好気的に培養した。培養液を遠心分離して得た菌体を超音波破砕器(商品名『Ultra Sonic Homogenizer UH−600』、エムエステー株式会社製)を用いて破砕処理し、遠心分離により得た破砕液上清についてCGTase活性(澱粉分解活性)を測定し、培養液1ml当たりに換算したところ、約12.8単位/mlの酵素活性が得られた。破砕液上清を常法に従い硫安塩析、透析することにより組換え型CGTaseの粗酵素液を得た後、DEAE−トヨパール 650Sゲル(東ソー株式会社製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及びブチル−トヨパール 650Mゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水カラムクロマトグラフィーに供して精製し、組換え型CGTaseの部分精製標品とした。
上記パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来の天然型(野生型)CGTase遺伝子に、常法により部位特異的変異を導入し、得られた変異CGTase遺伝子を大腸菌で発現させることにより、1アミノ酸置換変異体CGTaseを2種調製した。なお、当該CGTaseにアミノ酸置換を導入するに際しては、パエニバチルス・イリノイセンシス NBRC15379株由来CGTaseのアミノ酸配列である配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列の、133番目のアスパラギン酸残基から138番目のヒスチジン残基(Asp133〜His138)、223番目のグリシン残基から231番目のヒスチジン残基(Gly223〜His231)、255番目のグルタミン酸残基から258番目のロイシン残基(Glu255〜Leu258)、321番目のフェニルアラニン残基から326番目のアスパラギン酸残基(Phe321〜Asp326)、すなわち、α−アミラーゼファミリーに分類される酵素群に共通して保存されている4つの保存領域と、259番目のグリシン残基から264番目のアスパラギン酸残基(Gly269〜Asp264)、331番目のリジン残基から337番目のアスパラギン残基(Lys331〜Asn337)、375番目のリジン残基から381番目のリジン残基(Lys375〜Lys381)、567番目のバリン残基から572番目のチロシン残基(Val567〜Tyr572)、すなわち、パエニバチルス属微生物由来CGTaseに特有の前述した(a)乃至(d)の部分アミノ酸配列へのアミノ酸置換変異は避け、これら以外の箇所から変異箇所を選択することとした。
上記で得た組換え型(野生型)CGTase、変異体CGTaseとしてのG178R(配列表における配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するCGTase)、又は、Y454H(配列表における配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するCGTase)を用いた以外は実施例2と同様の方法によりトレハロース二含水結晶含有粉末を製造した。それぞれのCGTaseを用いて得られた反応液中のトレハロース含量、得られたトレハロース二含水結晶含有粉末における糖組成、対澱粉収率、トレハロース二含水結晶についての結晶化度、平均結晶子径、粉末全体の還元力、粒度分布を測定するとともに、粉末を実験2−2、実験3−2等と同じ方法による固結性試験及び実験5と同じ方法による水への溶解性試験に供した。結果を表6にまとめた。
トレハロース二含水結晶の晶析工程において、汎用の晶析システム用プログラム恒温循環装置を用い、温度制御した熱媒体を助晶缶のジャッケットに流して、温度を60℃から20℃へ、前記式[2]に近似させた20段階の冷却プロファイルにて24時間かけて冷却する制御冷却法を適用することにより、トレハロース二含水結晶を晶析させた以外は、実施例2と同様の方法によりトレハロース二含水結晶含有粉末を製造し、無水物換算でトレハロースを99.5%、D−グルコースを0.05%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.03%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.05%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を対澱粉収率約44%で得た。
CGTaseとして、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス Tc−91株由来のCGTase酵素剤(株式会社林原製)を用いた以外は実施例1におけると同様にしてトレハロース生成反応及びグルコアミラーゼ処理を行ったところ、グルコアミラーゼ処理後の反応液における無水物換算でのトレハロース含量は82.2%であった。この反応液を、常法により活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H+型)及びアニオン交換樹脂(OH−型)にて脱塩し、減圧濃縮し、固形物濃度約84%の濃縮液とした。これを助晶缶にとり、試薬級のトレハロース二含水結晶含有粉末(商品名『トレハロース 999』、コード番号:TH224、トレハロース純度99.9%以上、株式会社林原販売)を種晶として1%加えて55℃とした。次いで、このトレハロース含有溶液を、穏やかに撹拌しつつ55℃から15℃まで20時間かけて自然冷却することにより、トレハロースの二含水結晶を晶析させた。バスケット型遠心分離機で結晶を回収し、結晶をマスキット重量に対し約5%の精製水でスプレーし洗浄した後、50℃で2時間、熟成、乾燥し、20℃の空気を20分間吹き付けて冷却し、粉砕して、無水物換算でトレハロースを98.3%、D−グルコースを0.9%、4−O−α−グルコシルトレハロースを0.08%、及び、6−O−α−グルコシルトレハロースを0.12%含有するトレハロース二含水結晶含有粉末を得たものの、その対澱粉収率は約31%であった。
本発明者らがスルフォロブス・アシドカルダリウス ATCC33909株からクローニングし保有している天然型(野生型)α−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子に、常法により部位特異的変異を導入し、得られた変異α−グリコシルトレハロース生成酵素遺伝子を大腸菌で発現させることにより、1アミノ酸置換α−グリコシルトレハロース生成酵素変異体を4種調製した。
a:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)13.7°(ミラー指数(hkl):101)の回折ピーク
b:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)17.5°(ミラー指数:220)の回折ピーク
c:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)21.1°(ミラー指数:221)の回折ピーク
d:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)23.9°(ミラー指数:231)の回折ピーク
e:結晶子径の算出に用いる回折角(2θ)25.9°(ミラー指数:150)の回折ピーク
図5において、
a:制御冷却曲線
b:直線冷却
c:自然冷却曲線
Claims (6)
- 液化澱粉に、澱粉枝切酵素及びシクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼとともに、α−グリコシルトレハロース生成酵素とトレハロース遊離酵素を作用させ、次いで、グルコアミラーゼを作用させてα,α−トレハロース含有糖液を得る工程、前記糖液から、α,α−トレハロース二含水結晶を晶析させる工程、及び、晶析したα,α−トレハロース二含水結晶を遠心分離により採取し、これを熟成、乾燥する工程を含むα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法であって、α,α−トレハロース含有糖液を得る工程において、スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素、及び、パエニバチルス属微生物由来シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼを用いることによりカラムクロマトグラフィーによる分画工程を経ることなく、前記糖液中のα,α−トレハロース含量を無水物換算で86.0%超とすることを特徴とする、無水物換算でα,α−トレハロースを98.0質量%以上含有するα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
- 前記スルフォロブス属微生物が、スルフォロブス・アシドカルダリウス又はスルフォロブス・ソルファタリカスである請求項1記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
- 前記スルフォロブス属微生物由来のα−グリコシルトレハロース生成酵素及びトレハロース遊離酵素が、組換え型酵素又は変異体酵素である請求項1又は2記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
- 前記パエニバチルス属微生物由来シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼが、組換え型酵素又は変異体酵素である請求項1乃至3のいずれかに記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
- 前記α,α−トレハロース二含水結晶を晶析させる工程が、制御冷却法又は擬似制御冷却法によって行われる請求項1乃至4のいずれかに記載のα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末の製造方法。
- 請求項5記載の製造方法によって得られる、無水物換算でα,α−トレハロースを99.0質量%以上99.5質量%以下含有し、粉末X線回折プロフィルに基づき算出されるα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末についての結晶化度が90.0%以上95.0%以下であるα,α−トレハロース二含水結晶含有粉末。
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