以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。
図1A、図1B、図2、及び図3を参照して、本発明のスパッタリング装置(以下、「成膜装置」という)の全体構成について説明する。図1Aは、本発明の実施形態にかかる成膜装置1の概略図である。成膜装置1は、真空容器2と、排気ポート8を通じて真空容器2内を排気するターボ分子ポンプ48とドライポンプ49とを有する真空排気装置と、真空容器2内へ不活性ガスを導入することのできる不活性ガス導入系15と、反応性ガスを導入することのできる反応性ガス導入系17と、を備えている。
排気ポート8は、例えば矩形断面の導管であり、真空容器2とターボ分子ポンプ48との間を繋いでいる。排気ポート8とターボ分子ポンプ48の間には、メンテナンスを行うときに、成膜装置1とターボ分子ポンプ48との間を遮断するためのメインバルブ47が設けられている。
不活性ガス導入系15には、不活性ガスを供給するための不活性ガス供給装置(ガスボンベ)16が接続されている。不活性ガス導入系15は、不活性ガスを導入するための配管と、不活性ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラー、ガスの供給を遮断したり開始したりするためのバルブ類と、そして必要に応じて減圧弁やフィルターなどから構成されており、図示しない制御装置により指定されるガス流量を安定して流すことができる構成となっている。不活性ガスは、不活性ガス供給装置16から供給され不活性ガス導入系15で流量制御されたのち、後述のターゲット4の近傍に導入されるようになっている。
反応性ガス導入系17には反応性ガスを供給するための反応性ガス供給装置18が接続されている。反応性ガス導入系17は、反応性ガスを導入するための配管と、不活性ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラー、ガスの流れを遮断したり開始したりするためのバルブ類と、そして必要に応じて減圧弁やフィルターなどから構成されており、図示しない制御装置により指定されるガス流量を安定に流すことができる構成となっている。
反応性ガスは、反応性ガス供給装置18から供給され反応性ガス導入系17で流量制御されたのち、後述の基板10を保持する基板ホルダー7の近傍に導入されるようになっている。不活性ガスと反応性ガスとは、真空容器2に導入されたのち、後述のようにスパッタ粒子を発生させ、あるいは膜を形成するために使用されたのち、排気ポート8を通過してターボ分子ポンプ48とドライポンプ49とによって排気される。
真空容器2内には、被スパッタ面が露出しているターゲット4を、バックプレート5によって保持するターゲットホルダー6と、ターゲット4から放出されたスパッタ粒子が到達する所定の位置に基板10を保持する基板ホルダー7と、が設けられている。また、真空容器2には、真空容器2の圧力を測定するための圧力計41が設けられている。真空容器2の内面は電気的に接地されている。ターゲットホルダー6と基板ホルダー7との間の真空容器2の内面には電気的に接地された筒状のシールド40が設けられている。シールド40はスパッタ粒子が真空容器2の内面に直接付着するのを防止し、交換可能な構造を持つ。
スパッタ面から見たターゲット4の背後には、マグネトロンスパッタリングを実現するためのマグネット13が配設されている。マグネット13は、マグネットホルダー3に保持され、図示しないマグネットホルダー回転機構により回転可能となっている。ターゲットのエロージョンを均一にするため、放電中には、このマグネットホルダー3は回転している。
ターゲット4は、基板10に対して斜め上方に配置された位置(オフセット位置)に設置されている。すなわち、ターゲット4のスパッタ面の中心点は、基板10の中心点の法線に対して所定の寸法ずれた位置にある。ターゲットホルダー6には、スパッタ放電用電力を印加する電源12が接続されている。図1Aに示す成膜装置1は、DC電源を備えているが、これに限定されるものではなく、例えば、RF電源を備えていてもよい。RF電源を用いた場合には電源12とターゲットホルダー6との間に整合器が設置される。
ターゲットホルダー6は、絶縁体34により真空容器2から絶縁されており、またCu等の金属製であるのでDC又はRFの電力が印加された場合には電極となる。なお、ターゲットホルダー6は、図示しない水路を内部に持ち、図示しない水配管から供給される冷却水により冷却可能に構成されている。ターゲット4は、基板へ成膜したい材料成分から構成される。膜の純度に関係するため、高純度のものが望ましい。ターゲット4とターゲットホルダー6の間に設置されているバックプレート5は、Cu等の金属から出来ており、ターゲット4を保持している。あるいは、バックプレート5を用いずにターゲット4を直接ターゲットホルダー6に固定しても良い。この場合、ターゲットの形状が複雑になる問題がある一方、バックプレートとターゲットを接着する必要がないため、信頼性が向上する利点がある。
ターゲットホルダー6の近傍には、ターゲットシャッター14がターゲットホルダー6を覆うように設置されている。ターゲットシャッター14は、基板ホルダー7とターゲットホルダー6との間を遮蔽する閉状態、または基板ホルダー7とターゲットホルダー6との間を開放する開状態にするための遮蔽部材(第3の遮蔽部材)として機能する。また、ターゲットシャッター14には、ターゲットシャッター駆動機構33が設けられている。
基板ホルダー7の基板設置面側で、かつ基板10の外縁側(外周部)には、リング形状を有する第2の遮蔽部材(以下、「基板周辺カバーリング21」ともいう)が設けられている。基板周辺カバーリング21は、基板10の成膜面以外の場所へスパッタ粒子が付着することを防止する。ここで、成膜面以外の場所は、基板周辺カバーリング21によって覆われる基板ホルダー7の部分のほかに、基板10の側面や裏面が含まれる。基板ホルダー7には、基板ホルダー7を上下動したり、所定の速度で回転したりするための基板ホルダー駆動機構31が設けられている。基板ホルダー駆動機構31は、基板ホルダー7を、閉状態の基板シャッター19(第1の遮蔽部材)に向けて上昇させ、あるいは基板シャッター19(第1の遮蔽部材)に対して降下させるために、基板ホルダー7を上下動させることが可能である。
基板10の近傍で、基板ホルダー7とターゲットホルダー6との間には、基板シャッター19が配置されている。基板シャッター19は、基板シャッター支持部材20により基板10の表面を覆うように支持されている。基板シャッター駆動機構32が基板シャッター支持部材20を回転させることによりターゲット4と基板10との間に基板シャッター19が挿入される(閉状態)。このときターゲット4と基板10との間は遮蔽される。また、同様に基板シャッター駆動機構32の動作によりターゲットホルダー6(ターゲット4)と基板ホルダー7(基板10)との間から基板シャッター19が退避すると、ターゲットホルダー6(ターゲット4)と基板ホルダー7(基板10)との間は開放される(開状態)。このように、基板シャッター駆動機構32は、基板ホルダー7とターゲットホルダー6との間を遮蔽する閉状態、または基板ホルダー7とターゲットホルダー6との間を開放する開状態にするために、基板シャッター19を開閉駆動する。
基板シャッター19は排気ポート8の中に退避可能に構成されている。図1Aに示すように基板シャッター19の退避場所が高真空排気用のターボ分子ポンプ48までの排気経路の導管に収納されるようにすれば、装置の装置面積を小さく出来て好適である。
基板シャッター19はステンレスやアルミニウム合金により構成させている。また、耐熱性が求められる場合はチタンあるいはチタン合金で構成されることもある。基板シャッター19の表面は、サンドブラスト等によりブラスト加工され表面に微小な凸凹が設けられている。よって基板シャッター19に付着した膜が剥離しにくくなり、剥離により発生するパーティクルを低減させることができる。なお、ブラスト加工の他に、金属溶射処理等で金属薄膜を基板シャッター19の表面に作成しても良い。この場合、溶射処理はブラスト加工のみよりも高価だが、基板シャッター19を取り外して付着した膜を取り除くとき、薬液等により溶射膜ごとスパッタ付着膜を溶解すれば良いため、シャッターに物理的なダメージを与えないという利点がある。また、柔軟なAl膜がスパッタ膜との間で付着力を高めるので、スパッタ膜の自己の応力によって剥離することを防止する効果もある。
次に、図2及び図3を参照して、基板周辺カバーリング21及び基板シャッター19の形状を説明する。図3は、基板シャッター19に対向した基板周辺カバーリング21の概略を示す図である。基板周辺カバーリング21には、基板シャッター19の方向に伸びたリング形状を有する突起部が形成されている。このように、基板周辺カバーリング21はリング状であり、そして基板周辺カバーリング21の基板シャッター19に対向した面には、同心円状の突起部(突起21a、21b)が設けられている。
図2は、基板周辺カバーリング21に対向した基板シャッター19の概略を示す図である。基板シャッター19には、基板周辺カバーリング21の方向に伸びたリング形状を有する突起部が形成されている。基板周辺カバーリング21に対向した基板シャッター19の面には突起部(突起19a)が設けられている。なお、突起21a、突起19a、突起21bの順に、その円周は大きく形成されている。
基板ホルダー駆動機構31により基板ホルダーが上昇した位置で、突起19aと突起21a、21bとが、非接触の状態で嵌り合う。あるいは、基板シャッター駆動機構32により基板シャッター19が降下した位置で、突起19aと突起21a、21bとが、非接触の状態で嵌り合う。この場合、複数の突起21a、21bにより形成される凹部に、他方の突起19aが非接触の状態で嵌り合う。
図1Bは、図1Aで示した成膜装置1を動作させるための主制御部100のブロック図である。主制御部100は、スパッタ放電用電力を印加する電源12、不活性ガス導入系15、反応性ガス導入系17、基板ホルダー駆動機構31、基板シャッター駆動機構32、ターゲットシャッター駆動機構33、圧計41、及びゲートバルブとそれぞれ電気的に接続されており、後述する成膜装置の動作を管理し、制御できるように構成されている。
なお、主制御部100に具備された記憶装置63には、本発明に係るコンディショニング、およびプリスパッタを伴う基板への成膜方法等を実行する制御プログラムが格納されている。例えば、制御プログラムは、マスクROMとして実装される。あるいは、ハードディスクドライブ(HDD)などにより構成される記憶装置63に、外部の記録媒体やネットワークを介して制御プログラムをインストールすることも可能である。
次に、図4A乃至4Cを参照して、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との位置関係を説明する。図4Aは、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21とは接近して、その相対した面の突起部が組み合わさることで、ラビリンスシールが形成された状態(以後、「位置A」と称す。)を示している。なお、ここでいうラビリンスシールとは、非接触シールの一種であり、対向する面に形成されたそれぞれの突起部(21a、21bにより形成される凹部と、19aにより形成される凸部)が嵌りあった状態で、非接触の状態、すなわち、凹部と凸部との間に一定の隙間が形成されたものをいう。ターゲットから弾き出されたスパッタ粒子はスパッタチャンバー内を直進する性質をもつため、凸部と凹部の間の隙間を通過することが出来ない。よって、基板ホルダー7の表面等にスパッタ粒子が付着するのを防止することができる。
図4Aに示す、ラビリンスシールが形成された状態(位置A)において、基板シャッター19の平坦面に対する突起の高さをH1、基板周辺カバーリング21の平坦面に対する突起の高さをH2、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との平坦面の間の距離をD1とする。このとき、ラビリンスシールが形成された状態(位置A)では、D1<H1+H2の関係が満たされる。
位置Aのラビリンスシールが形成された状態では、基板シャッター19の突起19a、基板周辺カバーリング21a、21bの3つの突起が互いに嵌め合った状態になっている。なお、後述するように、この状態で、コンディショニング処理を行うので、基板ホルダー7の表面にスパッタ粒子が付着するのを防止することができる。
図4Bは、基板シャッター19の開閉時に、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21が接触しない最小限度の距離が保たれた状態(以後、「位置B」と称す。)を示している。位置Bにおいて、D1>H1+H2の関係が満たされる。
図4Cは、基板シャッター19と基板ホルダー7との間の距離が最大限度に広がった状態(以後、「位置C」と称す。)を示している。このとき、位置Cの状態にある基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との間に形成される間隙から、基板を基板ホルダー7の基板載置面に搬送することができる。なお、本実施形態では、基板ホルダー7を上下動することにより基板周辺カバーリング21の位置を動かし、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の間隔の調整をおこなっているが、この例に限定されず、例えば、基板シャッター駆動機構32が基板シャッター19を上下動するように構成してもよい。すなわち、基板シャッター駆動機構32は、閉状態の基板シャッター19(第1の遮蔽部材)を、基板周辺カバーリング21(第2の遮蔽部材)が設置された基板ホルダー7に向けて降下させ、または基板ホルダー7に対して上昇させるために、基板シャッター19(第1の遮蔽部材)を上下動させることが可能である。
あるいは、基板シャッター駆動機構32及び基板ホルダー駆動機構31が基板シャッター19と、基板ホルダー7とを、それぞれ上下方向に動かして、位置Cの状態にすることも可能である。
本実施形態では基板シャッター支持部材20は、回転動作により基板シャッター19を開閉しているが、ターゲット4と基板10との間を開閉することができれば、例えば、直線導入機構などを用いて、横方向へ基板シャッター19をスライドさせることも可能である。
(コンディショニング時の動作)
次に、図5A乃至5Fを参照して、コンディショニング時における成膜装置1の動作を説明する。なお、ここでコンディショニング処理とは、基板への成膜に影響しないように、基板シャッター19を閉じた状態で、成膜特性を安定させるために放電を行い、スパッタ粒子をチャンバーの内壁等に付着させる処理をいう。
まず、主制御部100は、基板シャッター駆動機構32に基板シャッター19を閉鎖するように指示する。次に、主制御部100は、ターゲットシャッター駆動機構33にターゲットシャッター14を閉鎖するように指示する。主制御部100の指示により、ターゲットシャッター14と、基板シャッター19と、が閉じた状態になる。この状態で、基板ホルダー7は、待機位置である位置Cに配置しておく。
続いて、主制御部100は、基板ホルダー駆動機構31に上昇動作を実施するように指示することにより、基板ホルダー7は待機位置である位置C(図4C)からラビリンスシールが形成される位置(位置A(図4A))へ上昇移動する(図5A)。
次に、主制御部100は、図5Bに示すように、ターゲットシャッター14を閉じた状態で、ターゲット付近の不活性ガス導入系15から、不活性ガス(Arの他Ne、Kr、Xe)を導入するように、不活性ガス導入系15を制御する制御装置に指示する。この際、図5Bに示すようにターゲット付近へ不活性ガスを導入することで、ターゲット付近の圧力は基板付近と比較して高くなるため、放電し易い状態になっている。この状態で、電源12よりターゲットへ電力を印加することにより、放電を開始する。この際、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との間にはラビリンスシールが形成されているので、基板ホルダー7の基板載置面へスパッタ粒子が付着するのを防止することができる。
次に、主制御部100は、図5Cに示すように、ターゲットシャッター駆動機構33を駆動させ、ターゲットシャッター14を開くように指示する。これにより、チャンバーの内壁へのコンディショニングが開始される。ターゲット4から飛び出したスパッタ粒子がチャンバーの内壁に付着して膜が堆積される。なお、内壁にシールド40が設けられている場合には、シールド40の表面にスパッタ粒子が付着して膜が堆積される。ただし基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との間にはラビリンスシールが形成されているので、基板ホルダー7の基板載置面にスパッタ粒子が廻り込むのを防止することができる。この状態で、チャンバーの内壁又はシールド等の構成部材に膜を形成する、コンディショニングを行う。このようにしてコンディショニングを行うことで、ターゲットシャッター開放時におけるスパッタ粒子と反応性ガスの反応を安定させることができる。なお、反応性スパッタ放電によるコンディショニングを行いたいときは、このとき反応性ガス導入系17から基板付近へ反応性ガスを導入する。
所定時間放電したのち、主制御部100は、電源12に対して電力の印加を停止させることで、放電を停止する(図5D)。このとき、シールド40、ターゲットシャッター14、基板シャッター19、その他のターゲットに面していた面には、堆積膜51が堆積された状態になっている。
次に、図5Eに示すように、主制御部100は、不活性ガス導入系15を制御する制御装置に対して、不活性ガスの供給を停止するように指示する。主制御部100は、反応性ガスを供給しているときは反応性ガスの供給も停止するように反応性ガス導入系17に指示する。その後、主制御部100は、ターゲットシャッター14を閉鎖するようにターゲットシャッター駆動機構33に指示する。
主制御部100は、図5Fに示すように、基板ホルダー7を位置Aから位置Cの状態に移動するように基板ホルダー駆動機構31に指示し、コンディショニングが完了する。
以上の手順により、基板ホルダー7の基板載置面へのスパッタ粒子の廻り込みを防止して、コンディショニングを行うことができる。
なお、成膜以前にターゲットに付着した不純物や酸化物を除去する、ターゲットクリーニング時の動作は、上述したコンディショニング時の動作と同様の手順により実現することができる。
(プリスパッタ動作および基板への成膜)
次に、図6A乃至6Iを参照して、プリスパッタ動作および基板上への成膜を行う場合の成膜装置1の動作を説明する。ここで、プリスパッタとは、基板への成膜に影響しないように、シャッターが閉じた状態で、放電を安定させるために行うスパッタのことをいい、基板それぞれの成膜の前にはすべて、プリスパッタを行う。
まず、主制御部100は、基板シャッター駆動機構32に基板シャッター19を閉鎖する(位置Aの状態にする)ように指示する。次に、主制御部100は、ターゲットシャッター駆動機構33にターゲットシャッター14を閉鎖するように指示する。これにより、ターゲットシャッター14と、基板シャッター19と、が閉じた状態になる(図6A)。この状態で、基板ホルダー7は、待機位置である位置Cに配置しておく。
次に、主制御部100は、図6Bに示すように、チャンバー壁のゲートバルブ42を開放し、このゲートバルブ42から、チャンバー外の基板搬送手段(不図示)によって基板10を搬入するように指示する。そして基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との間から基板10を搬入し、さらにチャンバー外の基板搬送手段と基板ホルダー内のリフト機構(不図示)との共同により、基板ホルダー7の基板載置面へ基板10を載置する。
主制御部100は、図6Cに示すようにゲートバルブ42を閉め、基板ホルダー駆動機構31によって基板ホルダー7を位置C(図4C)から位置B(図4B)の状態に移動させる。位置Bは、ターゲット4と基板10の位置関係が成膜分布等の点から最適であるような点であることが好ましい。
続いて、主制御部100は、図6Dに示すように、基板ホルダー駆動機構31を駆動することにより、基板ホルダー7を回転させる。ターゲット付近に設けられた不活性ガス導入系15から、不活性ガス(Arの他Ne、Kr、Xe)を導入する。主制御部100は、ターゲットへ電源12より電力を印加することにより放電を開始する。このように、基板シャッター19を閉じた状態で、スパッタを開始することにより、基板へスパッタ粒子が付着するのを防止することができる。
放電を安定させる所定時間(3〜15秒間)の放電安定時間のあと、主制御部100は、図6Eに示すように、ターゲットシャッター14を開き、プリスパッタを開始する。なお、このとき放電が開始しないなどの異常が発生した場合には、主制御部100は、放電電圧電流の監視により、それを検知し、成膜シーケンスを停止することができる。問題が無いときには前述の通りターゲットシャッター14が開かれるので、スパッタ粒子がシールドの内壁に付着して膜が堆積される。なお、反応性スパッタによる堆積を行う場合には、反応性ガス導入系17から反応性ガスを導入する。内壁のシールド40のシールド表面にスパッタ粒子が付着して膜が堆積される。
プリスパッタ中における基板ホルダーの位置Bは、ラビリンスシールが形成されない。しかし、その後の基板シャッター19の開放動作を行うとき基板ホルダーを退避する動作が不要であるから、シャッターの開動作を迅速に実行することができる。また、基板ホルダー7の基板載置面には既に基板10が載置されているので、わずかに廻り込むスパッタ粒子は、多くの場合問題とはならない。しかし、半導体素子の特性確保のため、わずかに廻り込むスパッタ粒子が問題となる場合には、プリスパッタの間、基板シャッター19を位置Aとしておくとプリスパッタ中のスパッタ粒子の廻り込みを防ぎ、さらに高品位の膜が成膜できる。
必要な時間だけプリスパッタを行った後、図6Fに示すように主制御部100は、基板シャッター駆動機構32により基板シャッター19を開けて、基板10への成膜を開始する。
所定の時間放電したのち、図6Gに示すように、主制御部100は、電力の印加を止めることで、放電を停止するとともに、不活性ガスの供給を停止する。さらに主制御部100は、反応性ガスを供給しているときは反応性ガスの供給も停止する。主制御部100は、基板シャッター19とターゲットシャッター14を閉鎖する。図6Hに示すように、主制御部100は、基板ホルダー7を位置Bから位置Cの状態に移動させる。
図6Iに示すように、チャンバーのゲートバルブ42を開け、搬入時と逆順序で基板を搬出して、プリスパッタおよび基板への成膜処理を完了する。
以上の手順により、シャッター機構を動作させることにより、基板へのスパッタ粒子の侵入を防ぎ、高品質の成膜を形成することが可能になる。
本実施形態にかかるスパッタリング装置に拠れば、コンディショニング、プリスパッタおよびターゲットクリーニングを目的とする放電を行う際、スパッタ粒子が基板ホルダーの基板載置面に付着するのを防止するスパッタリング装置を提供することが可能になる。
(変形例1)
図7A乃至図7Gを参照して、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21により形成されるラビリンスシールの変形例を説明する。
図7Aは、図1Aに示す装置において基板シャッター19と基板周辺カバーリング21とにより形成されるラビリンスシールの拡大概略図である。このように、基板周辺カバーリングの突起21aと21bの間の位置に対向して設けられた基板シャッターの突起19aにより、基板周辺カバーリング21と基板シャッター19の間にラビリンスシールを形成することができる。基板周辺カバーリング21の突起が2つ(21a、21b)の場合、基板シャッター19の突起19aと、突起21a、21bとの間で、ラビリンスシャッターに形成されるシール空間の屈曲は、破線領域71〜74で示される4箇所になる。
ラビリンスシールの上下方向の間隔(例えば図7AのD2)は、基板ホルダー7の上下動を制御することで変化させることができる。この場合、基板周辺カバーリング21と基板シャッター19は、接触しないように基板ホルダー7の上下動は主制御部100により制御される。基板周辺カバーリング21と基板シャッター19が接触した場合、基板ホルダー7の基板載置場所にはスパッタ粒子の廻りこみは無くなるが、基板周辺カバーリング21と基板シャッター19の接触部でパーティクルが発生し、好ましくない。パーティクルはその後に搬送され処理される処理基板の成膜の膜質を悪化させ、デバイス収率や特性を悪化させるからである。
基板シャッター19を開閉する場合、主制御部100は、基板ホルダー駆動機構31を動作させて、基板周辺カバーリング21の突起(21a、21b)が基板シャッター19の突起(19a)に接触しないような位置(位置B又は位置C)まで基板ホルダー7を下降させる。このような、基板シャッター19の突起と基板周辺カバーリング21の突起とが衝突(接触)しないように主制御部100が行う制御は、以下に説明するラビリンスシールの変形例において同様である。
ラビリンスシールは、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21に設けられた突起と突起又は溝の組合せにより形成される。基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の少なくともどちらかが上下動可能であることが必要である。本実施形態では、基板ホルダー7を上下方向に駆動することによって基板周辺カバーリング21の位置が上下方向に移動可能である。
基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の突起の数は、それぞれ1つ以上あることが必要である。好ましくはどちらかの突起の数が2つ以上であることが、スパッタ粒子の廻り込みを防止する観点から望ましい。図1Aに対応する図7Aは、基板シャッター19の突起が1つで基板周辺カバーリング21の突起が2つある場合を例示している。
図7Bは、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の突起がそれぞれ1つずつの場合を例示している。基板周辺カバーリング21の突起が1つ(21a)の場合、基板シャッター19の突起19aと、突起21aとの間で、ラビリンスシャッターに形成されるシール空間の屈曲は、破線領域75、76で示される2箇所になる。
図7Cは基板シャッター19の突起が2つ(19a、19b)で、基板周辺カバーリング21の突起が1つ(21a)の場合を例示している。図7Dは基板シャッター19の突起が2つ(19a、19b)で、基板周辺カバーリング21の突起が2つ(21a、21b)の場合を例示している。
また、突起が複数ある場合、例えば、図7Eのように突起の高さが異なっても良い。基板シャッター19と基板周辺カバーリング21が接触しない限り、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21との平坦面の距離D1よりも突起の高さH1又はH2が長くても構わない。図7Eは、距離D1よりもH1が大きい一例である。
図7Eでは、基板シャッター19に設けられている突起の高さが異なる例を示しているが、この例に限定されず、基板周辺カバーリング21の突起の高さが異なるように構成することも可能である。
また基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の突起の角やその付け根は全て直角でなくてもよく、加工やメンテナンスの容易性から、例えばラウンド形状でも構わない。
また、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21のどちらかに、基板シャッター19あるいは基板周辺カバーリング21に掘り込まれた溝を設け、さらに他方に突起を設け、それらが相対してラビリンスシールを形成する図7Fのような構成でもよい。
また、基板周辺カバーリング21は成膜中に基板の成膜面以外の部分(基板の端部(外周部))に成膜されないようにするマスク部材(シャドウリング)としての機能を有しても良い。基板の端部(外周部)をスパッタ粒子の付着から守るために、例えば、図7Gのように、基板周辺カバーリング21が基板の端部にオーバーラップする領域を有する。基板を機械的に固定するためにオーバーラップ部が基板に接触する構成をもつことがある。あるいは、機械的な固定が不要な場合、基板周辺カバーリング21は基板10に接触しないようにする構成を持つこともできる。
(変形例2)
上述の実施形態においては、単一ターゲットを用いた例を挙げたが、図8のような複数のターゲットのスパッタ装置を使用してもよい。この場合、一方のターゲットが他方のターゲットからのスパッタ-粒子の付着により汚染するのを防止するため、それぞれのターゲットに対して、複数のターゲットシャッター14を設ける必要がある。こうすることで、ターゲット相互のコンタミネーションを防ぐように動作することができる。
下記の実施例により、本発明にかかる電子デバイスの製造方法を説明する。
(実施例1)
TiN成膜時、定期的にチャンバー壁にTiを成膜することでチャンバー壁のTiNの剥がれを防止する場合に、本発明を適用した場合を説明する。装置は上述の実施形態で説明した装置(図1A)を使用している。ターゲット4は、Tiを用いている。基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の突起は、図7Aに示すものを使用している。本実施例で使用した図7Aの状態は、基板シャッター19の突起の数が1つ、基板周辺カバーリング21の突起の数が2つである。
TiN成膜前のコンディショニング放電(プリスパッタ)は、後述のTiN成膜条件で1200秒、行ったのち、300mm直径のSi基板上にSiO2(1.5nm)/HfSiO(1.5nm)の積層膜が形成されたウェハーを成膜チャンバー1に搬送して基板ホルダー7に載置して、厚み7nmのTiN成膜を行った。
その時のTiN成膜条件は、以下のとおりである。
・不活性ガスとしてArガス20sccm(sccm:standard cc per minuteの略であり、標準状態である0℃1気圧のcm3単位に換算した1分間あたり供給するガス流量の単位)、反応性ガスとしてN2ガス20sccm、圧力0.04Pa、パワー700W、時間240秒である。
ウェハーを搬出し、さらに同様の成膜を300枚行い、ウェハーを搬出して処理を終了した。
次に、コンディショニング処理を行った。本実施例では基板シャッター19の突起の高さH1は10mmのものが1個、基板周辺カバーリング21の高さH2は10mmのものが2個であり、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21の突起を除く平坦部間の距離Dは15mmとした。基板ホルダー7は、前述の図4Aに示す位置Aの状態となるように配置され、Arガス50sccm、圧力0.04Paとし、パワー1000Wで放電開始させたのち、ターゲットシャッター14を開け、基板シャッター19は閉じたまま、2400秒間のコンディショニング放電を行った。
なお、通常、コンディショニング時には基板を基板ホルダー7に置かないが、実験のため本実施例では300mmのSiベア基板を基板ホルダー7の基板載置面に載置して放電を行った。
放電終了後、基板ホルダー7の上に載置しておいた300mmのSiベア基板を取り出し、全反射蛍光X線分析装置 TXRF:total-reflection X-ray fluorescence(株式会社テクノス社製TREX630IIIx)で基板端から26〜34mmの部分の分析を行ったところ、検出されたTiの量は、検出限界以下であった。
(実施例2)
ラビリンスシールのラビリンス経路の形が、実施例1と異なる場合の効果を調べるため、図7Bのように突起の数を変えた基板周辺カバーリング21用い、それ以外は実施例1と同じ装置と条件で実験を行った。本実施例で使用した基板周辺カバーリング21(図7B)は、基板シャッター19の突起の数が1つ、基板周辺カバーリング21の突起の数が1つである。実施例1の場合と同じ条件で実験したところ、検出されたTiの量は2×1010atms/cm2であった。
(比較例1)
比較のため、基板ホルダー7の基板周辺カバーリング21と基板シャッター19に突起がなく、ラビリンスシールがない装置で、それ以外は同じ条件でコンディショニング放電の実験を行った。このときの基板周辺カバーリング21と基板シャッター19の平坦部の距離Dは実施例1、2と同じ距離で実験を行った。この結果、基板の外周部には目視により確認できる程度のTi膜が形成された。形成されたTi膜が厚いため、TXRFでは測定ができなかったので、TEM(Transmission Electron Microscope)により断面を観察することで膜厚を測定したところ、膜厚はおよそ5nm程度であった。なおTi膜5nmの厚みは、Tiの密度を4.5として計算した場合およそ3×1016atms/cm2である。従って、ラビリンスシールのある実施例1や実施例2よりも、ラビリンスシールを持たない本比較例の場合、基板載置面へ廻り込むスパッタ粒子が、非常に多いことが確認された。
実施例1、2と比較例をまとめると、表1のような結果となる。尚、比較例のTi量(*印)は、膜厚からの換算値を示している。
ラビリンスシールがある実施例1と2は、ラビリンスシールのない比較例よりもTiの量が顕著に少なかった。また、実施例1の基板周辺カバーリング21の突起が2つの場合(シール空間の屈曲が4箇所)には、実施例2の突起が1つのみの場合(シール空間の屈曲は2箇所)よりも検出されたTiの量が少なかった。片方の突起が2つの場合すなわちラビリンスシールの空間の屈曲が4つある場合には、突起が1つずつ、すなわちラビリンスシールの空間の屈曲が2つしかない場合より顕著な原子数レベルの廻り込みを防止する効果が得られた。なお、図7C、図7D、図7E、図7Fについても同様に確認をおこなったところ、実施例1と同様そのTi検出量は検出限界以下であった。これら図7C、図7D、図7E、図7Fではラビリンスシールの屈曲は4つ以上である。すなわち、ラビリンスシールの空間の屈曲が4つ以上である場合には、実施例1と同じかそれ以上の効果が得られるものと推測される。
(実施例3)
図9は、本発明の実施形態にかかる成膜装置1を備える真空薄膜形成装置の一例であるフラッシュメモリ用積層膜形成装置(以下、単に「積層膜形成装置」ともいう。)の概略構成を示す図である。図9に示す積層膜形成装置は、真空搬送ロボット912を内部に備えた真空搬送室910を備えている。真空搬送室910には、ロードロック室911、基板加熱室913、第1のPVD(スパッタリング)室914、第2のPVD(スパッタリング)室915、基板冷却室917が、それぞれゲートバルブ920を介して連結されている。
次に、図9に示した積層膜形成装置の動作について説明する。まず、被処理基板を真空搬送室910に搬出入するためのロードロック室911に被処理基板(シリコンウエハ)をセットし、圧力が1×10−4Pa以下に達するまで真空排気する。その後、真空搬送ロボット912を用いて、真空度が1×10−6Pa以下に維持された真空搬送室910内に被処理基板を搬入し、さらに、所望の真空処理室に搬送する。
本実施形態においては、初めに基板加熱室913に被処理基板を搬送して400℃まで加熱し、次に第1のPVD(スパッタリング)室914に搬送して被処理基板上にAl2O3薄膜を15nmの厚さに成膜する。次いで、第2のPVD(スパッタリング)室915に被処理基板を搬送して、その上にTiN膜を20nmの厚さに成膜する。最後に、被処理基板を基板冷却室917内に搬送して、室温になるまで被処理基板を冷却する。全ての処理が終了した後、ロードロック室911に被処理基板を戻し、大気圧になるまで乾燥窒素ガスを導入した後に、ロードロック室911から被処理基板を取り出す。
本実施形態の積層膜形成装置では、真空処理室の真空度は1×10−6Pa以下とした。本実施形態では、Al2O3膜とTiN膜の成膜にマグネトロンスパッタリング法を用いている。
図10は、本発明の実施形態にかかる成膜装置1を用いて、電子デバイスの製造方法に関する電子デバイス製品の処理フローを例示する図である。なお、ここでは成膜装置1に搭載するターゲット4として、Tiを、不活性ガスとしてアルゴンを、反応性ガスとして窒素を使用した場合を例として説明する。
ステップS1において、ターゲットおよびシールド交換後、真空容器2を排気して所定の圧力に制御される。所定の圧力になったところで、ステップS2において、ターゲットシャッター14と基板シャッター19を閉じた状態で、ターゲットクリーニングを開始する。ターゲットクリーニングとは、ターゲットの表面に付着した不純物や酸化物を除去するために行うスパッタリングのことをいう。ターゲットクリーニングにおいては、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21とがラビリンスシールを形成するような基板ホルダーの高さを設定して行う。このように設定することで、基板ホルダーの基板設置面へスパッタ粒子が付着することを防止できる。なお、ターゲットクリーニングを実施するとき、基板ホルダーに基板を設置した状態で実施しても良い。
次に、ステップS3において、図示しない入力装置より主制御部100に入力された成膜開始の指示に従って、主制御部100により成膜動作が開始される。
ステップ3で成膜開始の指示がされると、ステップS4のコンディショニングを行う。コンディショニングとは、成膜特性を安定させるために放電を行い、ターゲットをスパッタリングしてスパッタ粒子をチャンバーの内壁等に付着させる処理のことである。
ここでコンディショニングについて、より詳細に説明する。図11はスパッタ成膜装置1を用いてコンディショニングを行う際の手順を示す図である。具体的には、ステップ番号、各処理における時間(設定時間)、ターゲットシャッターの位置(開、閉)、基板シャッターの位置(開、閉)、ターゲット印加電力、Arガス流量、および窒素ガス流量、を示している。これらの手順は記憶装置63に記憶され、主制御部100により連続的に実行される。
図11を参照して成膜の手順を説明する。まず、ガススパイクを行う(S1101)。この工程により、チャンバー内の圧力を高くし、次のプラズマ着火工程で放電開始をしやすい状態を作る。この条件はターゲットシャッター14および基板シャッター19は閉状態であり、窒素ガス流量は導入せず、アルゴンガス流量は400sccmである。アルゴンガス流量は次のプラズマ着火工程で着火を容易に行うために100sccm以上であることが好ましい。
次に、プラズマ着火工程を行う(S1102)。シャッター位置およびガス条件を保持したままTiターゲットに1000WのDC電力を印加して、プラズマを発生させる(プラズマ着火)。このガス条件を用いることにより、低圧力でおき易いプラズマの発生不良を防止しすることができる。
次に、プリスパッタ(S1103)を行う。プリスパッタではターゲットに印加される電力(ターゲット印加電力)を維持したままガス条件をアルゴン100sccmに変更する。この手順によりプラズマが失われる事無く、放電を維持する事ができる。
次に、コンディショニング1(S1104)を行う。コンディショニング1ではターゲット印加電力、ガス流量条件および基板シャッター19の位置を閉じた状態に維持したままターゲットシャッター14を開く。こうすることで、Tiターゲットからのスパッタ粒子を、シールド内壁を含むチャンバー内壁に付着させることにより、シールド内壁を低応力の膜で覆うことが出来る。よってスパッタ膜がシールドから剥離することを防止できるので、剥離した膜がチャンバー内に飛散してデバイス上に落下し、製品の特性を劣化させることを防止できる。
次に、再度、ガススパイク(S1105)を行う。ガススパイク工程ではターゲットへの電力印加を停止すると共に、アルゴンガス流量を200sccm、窒素ガス流量を10sccmとする。アルゴンガス流量は次のプラズマ着火工程で着火を容易に行うために後述するコンディショニング2工程(S1108)よりも大きな流量、例えば、100sccm以上であることが好ましい。また、後述するコンディショニング2工程(S1108)では窒素ガスを導入した反応性スパッタ法により窒化膜を成膜するので、ガススパイク工程から窒素ガスを導入することで急激なガス流量変化を防ぐ効果もある。
次に、プラズマ着火工程を行う(S1106)。シャッター位置およびガス流量条件を保持したままTiターゲットに750WのDC電力を印加して、プラズマを発生させる(プラズマ着火)。このガス条件を用いることにより、低圧力で生じやすいプラズマの発生不良を防止しすることができる。
次に、プリスパッタ(S1107)を行う。プリスパッタではターゲット印加電力を維持したままガス流量条件をアルゴン10sccm、窒素ガス10sccmに変更する。この手順によりプラズマが失われる事無く、放電を維持する事ができる。
次に、コンディショニング2(S1108)を行う。コンディショニング2ではターゲット印加電力、ガス流量条件および基板シャッター19の位置を閉じた状態に維持したままターゲットシャッター14を開く。こうすることで、Tiターゲットからのスパッタ粒子と反応性ガスである窒素が反応し、シールド内壁を含むチャンバー内壁に窒化膜を付着させることにより、次基板成膜工程に移行するときにチャンバー内ガス状態の急激な変化が抑制できる。チャンバー内ガス状態の急激な変化を抑制することで、次の基板成膜工程における成膜を初期より安定して行うことができるので、そのデバイス製造において製造安定性の向上について大きな改善効果がある。
以上の各手順に要する時間は最適な値に設定されるが、本実施形態では最初のガススパイク(S1101)を0.1秒、プラズマ着火(S1102)を2秒、プリスパッタ(S1103)を5秒、コンディショニング1(S1104)を240秒、2回目のガススパイク(S1105)を5秒、2回目のプラズマ着火(S1106)を2秒、2回目のプリスパッタを5秒、コンディショニング2(S1108)を180秒とした。
なお、再度のガススパイク工程(S1105)、それに続くプラズマ着火工程(S1106)、プリスパッタ工程(S1107)は省略することもできる。省略した場合には、コンディショニング時間を短縮できる点で望ましい。しかし、アルゴンガス放電であるコンディショニング1工程(S1104)に続いて窒素ガスを添加したコンディショニング2工程(S1108)を続けておこなった場合には、放電を続けながらプラズマの性質が大きく変化することになるので、その過渡状態に起因してパーティクルが増加することがある。そのような場合には、放電を一旦停止してガスを入れ替えることを含むこれらの工程(S1105、S1106、S1107)をコンディショニング1工程(S1104)とコンディショニング2工程(S1108)の間に挿入することによって、コンディショニング中のプラズマ特性の急激な変動をさらに抑えることができるので、パーティクルが発生するリスクを小さくすることができる。
なお、反応性スパッタであるコンディショニング2(S1108)は、後述する基板上への成膜条件とおおむね同じ条件であることが望ましい。コンディショニング2(S1108)と製品製造工程における基板上への成膜条件をおおむね同じ条件にすることによって、製品製造工程における基板上への成膜をより安定に再現性良く行うことができる。
説明を図10に戻し、コンディショニング(S4)の後、基板上への成膜処理を含むステップS5を行う。ここで、図10を参照してステップS5を構成する成膜処理のための手順を説明する。
まず、基板搬入が行なわれる(S501)。基板搬入工程(S501)では、ゲートバルブ42が開放され、不図示の基板搬送ロボットと不図示のリフト機構とにより、真空チャンバー2内に基板10が搬入され、基板ホルダー7上の基板載置面に載置される。基板ホルダー7は基板を載置したまま成膜位置へと上方へ移動する。
次に、ガススパイクを行う(S502)。ガススパイク工程(S502)では、ターゲットシャッター14および基板シャッター19は閉状態であり、アルゴンガスを、例えば、200sccm、窒素ガスを10sccm導入する。ここでアルゴンガスの量は後述する成膜工程(S506)で導入されるアルゴンガスの量よりも多いことが放電開始の容易さの観点から望ましい。ガススパイク工程(S502)に要する時間は、次の着火工程(S503)で必要とされる圧力を確保できればよいので、例えば、0.1秒程度である。
次にプラズマ着火を行う(S503)。プラズマ着火工程(S503)では、ターゲットシャッター14および基板シャッター19は閉状態を維持し、アルゴンガスと窒素ガスの流量も、ガススパイク工程(S502)での条件と同じままで、ターゲット4に、例えば750Wの直流(DC)電力を印加し、ターゲットのスパッタ面の近傍に放電プラズマを発生させる。プラズマ着火工程(S503)に要する時間は、プラズマが着火する程度の時間であればよく、例えば、2秒である。
次に、プリスパッタを行う(S504)。プリスパッタ工程(S504)では、ターゲットシャッター14および基板シャッター19は閉状態を維持し、アルゴンガスの流量を例えば10sccmに減少させ、窒素ガスの流量は10sccmとする。このとき、ターゲットへの直流(DC)電力は、例えば750Wであり、放電は維持されている。プリスパッタ工程(S504)に要する時間は、次の短いコンディショニングのための準備が整うだけの時間であればよく、例えば、5秒である。
次に、短いコンディショニングを行う(S505)。短いコンディショニング工程(S505)では、ターゲットシャッター14を開いて開状態とする。基板シャッター19は閉状態を維持し、アルゴンガスの流量を10sccm、窒素ガスの流量を10sccmに維持する。このとき、ターゲットへの直流(DC)電力は、例えば750Wであり、放電は維持されている。この短いコンディショニングでは、シールド内壁等へチタンの窒化膜が成膜され、次工程の基板への成膜工程(S506)で安定な雰囲気で成膜するために効果がある。この効果を大きくするため、次工程の基板上への成膜工程(S506)での放電条件とおおむね同じ条件で成膜が行なわれることが望ましい。なお、短いコンディショニング工程(S505)に要する時間は、先のコンディショニング(S4)により雰囲気が整えられているため、先のコンディショニング1(S1104)、コンディショニング2(S1108)よりも短い時間で良く、例えば、5〜30秒程度で良い。
そして次に、アルゴンガス、窒素ガス、直流電力の条件を、短いコンディショニング工程(S505)の条件と同じに維持して放電を維持し、ターゲットシャッター14を開状態に維持したまま、基板シャッター19を開き、基板への成膜を開始する(S506)。すなわち基板10への成膜条件は、アルゴンガス流量が10sccm、窒素ガス流量が10sccm、ターゲットへ印加する直流電力が750Wである。
ターゲット4への電力を停止して基板上への成膜S506を終了したあと、基板搬出507を行う。基板搬出507では、基板ホルダー7が下方に降下移動し、ゲートバルブ42が開放され、不図示の基板搬送ロボットと不図示のリフト機構とにより、基板10の搬出が行なわれる。
次に、コンディショニング要否判断が主制御部100により判断される(S6)。コンディショニング要否判断工程(S6)において、主制御部100は記憶装置63に記憶された判定条件に基づいてコンディショニングの要否を判断する。コンディショニングが必要と判断した場合には、処理をステップS4に戻し、再びコンディショニングを行う(S4)。一方、ステップS6において、主制御部100によりコンディショニングが不要と判断された場合には、次のS7の終了判断へ進む。ステップS7では終了信号が主制御部100に入力されているかどうか、装置に供給される処理用基板があるかどうかなどをもとに判断し、終了しない判断のときは(S7−NO)、処理をステップS501に戻し、再び基板搬入(S501)から成膜(S506)を経て基板搬出(S507)までを行う。この様にして、製品基板への成膜処理が所定の枚数、例えば、数百膜程度続けられる。
コンディショニング要否判断工程(S6)によりコンディショニング開始すべきであると判定される一例を説明する。連続処理の後、製品待ち時間などの理由により、待機時間が発生することがある。記憶装置63に記憶された判定条件からコンディショニングが必要とされる待機時間が発生した場合、主制御部100はコンディショニングが必要と判断し、再度、ステップS4のコンディショニングを実施する。このコンディショニングにより、シールド内面に付着したTiNなどの高応力な膜のさらに上面を、Tiなどの低応力の膜で覆うことが出来る。TiNが連続的にシールドに付着していくと、TiN膜の応力が高く且つシールドとの密着性が弱いため膜ハガレが発生してパーティクルとなる。このために、膜ハガレを防止することを目的として、Tiスパッタを行う。
Ti膜はシールドや、TiN膜との密着性が高くTiN膜のハガレ防止の効果(壁塗り効果)がある。この場合シールド全体にスパッタするために、基板シャッターを用いて行うのが効果的である。本発明の実施形態にかかるスパッタ成膜装置1によれば、基板シャッター19と基板周辺カバーリング21がラビリンスシールを形成するため、基板ホルダーの基板設置面にスパッタ膜が堆積することなくコンディショニングを行うことが出来る。このコンディショニングの後、再び成膜処理S5(S501〜S507)を行う。
以上のように、コンディショニングを行い、その後、製品処理の手順をターゲット寿命まで繰り返す。その後は、メンテナンスとなり、シールドおよびターゲットを交換した後、初期のターゲットクリーニングから繰り返すことになる。
以上の手順により、シールドに付着した膜の剥離を防止し、さらに基板ホルダーの基板設置面にスパッタ膜を付着させることなく、電子デバイスを製造することが出来る。本実施形態ではターゲット寿命をもってメンテナンスを行う例を示したが、シールド交換のためのメンテナンスにも同様の運用を行う。また、ここでは、待機時間が発生した場合のコンディショニング開始例を説明したが、コンディショニングの開始条件(コンディショニング要否判断の条件)は上記の例に限定されるものではない。
図12はコンディショニングの開始条件(コンディショニング要否判断の条件)を例示的に説明する図である。コンディショニングを開始するための判定条件は、処理された基板の総数、処理されたロットの総数、成膜された総膜厚、ターゲットへ印加された電力量、シールド交換後にそのシールドで成膜するためにターゲットへ印加された電力量、待機時間および処理の対象となる電子デバイスの変更等にともなう成膜条件の変更である。
コンディショニングの開始タイミングは、ロット(製造工程を管理する上で便宜的に設定される基板の束であり、通常は基板25枚を1ロットとする)の処理終了後とすることができる。処理すべきロット(処理ロット)が複数ある場合には、処理ロットの総数が判定条件となり、総ロットの処理終了後をコンディショニングの開始タイミングとすることができる(コンディショニング開始条件1、3、5、7、9、11)。あるいは、ロットの処理途中であっても、ロットに関する条件を除く前述の判定条件のいずれかを満たした場合に、処理中に割り込んでコンディショニングの開始タイミングとすることができる(コンディショニング開始条件2、4、6、8、10、12)。
処理された基板の総数によって判定する方法(1201)は、ロットを構成する基板枚数が変動してもコンディショニング間隔が一定になる利点がある。処理ロットの総和によって判定する方法(1202)は、ロット数で工程管理がなされている場合、コンディショニング時期が予測できる利点がある。
成膜装置が成膜した膜厚によって判定する方法(1203)は、シールドからの膜剥離が膜厚の増加に依存する場合、適切なタイミングでコンディショニングを実施できる利点がある。ターゲットの積算電力によって判定する方法(1204)は、ターゲット表面が成膜処理によって変化する場合、適切なタイミングでコンディショニングを実施できる利点がある。シールドあたりの積算電力で判定する方法(1205)は、シールド交換とターゲット交換の周期がずれる場合であっても、適切なタイミングでコンディショニングを実施できる利点がある。待機時間によって判定する方法(1206)は、待機時間中に成膜室内の残留ガス濃度や温度が変化し、成膜特性が悪化する懸念がある場合、成膜特性を良好な状態で安定させる効果がある。基板への成膜条件(製品製造条件)の変更を判定条件とする方法(1207)は、成膜条件が変更される場合でも安定に基板上への成膜ができる効果がある。成膜条件が変更されるとシールド内壁表面やターゲット表面の状態が変化する。これらの変化はシールド内壁表面やターゲット表面のゲッタリング性能等によるガス組成の変動や電気的性質の変動などに繋がるため、結果として基板への成膜特性のロット内変動の原因となる。基板への成膜条件(製品製造条件)の変更を判定条件とする方法(1207)は、そのような不良を抑制する効果がある。
ロット処理後にコンディショニングを実施する方法は、ロット単位で生産工程を管理している場合には、ロット処理が中断することを防ぐ効果がある(コンディショニング開始条件1、3、5、7、9、11)。ロット処理中にコンディショニングを割りこむ方法は、正確なコンディショニングタイミングで実施できる利点がある(コンディショニング開始条件2、4、6、8、10、12)。成膜条件の変更が判定条件となる場合、ロット処理前にコンディショニングが実施される(コンディショニング開始条件13)。
図13は、本発明の実施形態にかかるスパッタ成膜装置1を用いて図10の処理を実施したとき、基板上に付着したパーティクル個数を一日に1回測定した結果を示す図である。横軸は測定日を示し、縦軸は直径300mmシリコン基板上に観測された0.09μm以上のパーティクル数を表わしている。パーティクル数の計測は、KLAテンコール社製の表面検査装置「SP2」(商品名)を用いて実施した。本データは、16日間という、比較的長期にわたり、基板あたり10個以下という極めて良好なパーティクル数が維持できたことを示している。
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。