石炭には灰分が含まれているが、近年、環境対策という観点で石炭中の灰分を積極的に除去する無灰炭(ハイパーコール)の開発が活発的に進められており、例えば、特許文献1〜3等により、無灰炭の製造方法等の種々の技術が提案されている。無灰炭とは、これら特許公報1〜3に記載されているように、石炭を溶剤で抽出処理し、その溶剤に溶ける成分だけを分離して、その後、溶剤を除去することにより製造された改質炭の一種である。
この無灰炭は、構造的には、縮合芳香環が2乃至3環の比較的低分子量の成分から、縮合芳香環が5、6環程度の高分子量成分まで広い分子量分布を有する。また、灰分は溶剤に溶けないため、無灰炭は実質的に灰分を含まず、加熱下で高い流動性を示し、熱流動性に優れるという特性を有する。石炭の中には粘結炭のように400℃前後で熱可塑性を示すものもあるが、無灰炭は、一般的に原料石炭の品位に関わらず200〜300℃で溶融する(軟化溶融性がある)。
無灰炭のこの特性を活かすという観点で、無灰炭をバインダ(粘結材)として用いて製鉄用コークスを製造するという応用開発が進められており、例えば、特許文献4や特許文献5として提案されている。
製鉄用コークスには、高炉内における通気性を確保するため、強度が高いことが求められている。上記特許文献4や特許文献5に記載されたコークス製造方法では、無灰炭と劣質炭からなる混合炭を無灰炭の軟化温度以上に加熱した原料炭を用いることで、高強度のコークスを製造できることが開示されている。
しかしながら、近年、高炉で使用されるコークス、特に中心装入用コークスには、高強度のみならず、粒径の揃った(すなわち、粒度分布の狭い)ものが要求されるようになってきた。すなわち、粒度分布の広いコークスを高炉の中心部に装入すると、炉内中心部に形成されたコークス・カラムにおいて、大径粒子間に形成された空隙に小径粒子が填まり込んで該空隙を埋めるため、該コークス・カラムの空隙率が低下し、炉中心部の通気性が悪化して、中心流を維持する作用が減殺され、高炉の安定操業を確保できなくなる。さらに、コークス・カラムからコークスが供給されることで維持される炉芯コークス層についても、その空隙率が同様に低下するため、炉芯コークス層の通液性が悪化して、炉底部において溶銑の環状流が発生しやすくなり、炉寿命が短くなる等の問題が生じる。したがって、このようなコークス・カラムおよび炉芯の空隙率低下を防止して炉中心部の通気性および炉芯の通液性を確保するために、できるだけ粒径の揃った、粒度分布の狭いコークスの提供が望まれている。
ここで、製鉄用コークスは、通常、いわゆる原料炭(coking coal)を乾留することにより製造される。原料炭は石炭の中でも特殊なものであるため、資源量は限られ、また比較的高価格でもある。したがって、原料炭に、原料炭よりも品質の劣る、比較的低価格の劣質炭を配合してコークスを製造する技術を確立することは、資源対策としても、また、製造コストを下げるためにも重要な課題である。
劣質炭の一般的性質は下記(1)〜(3)のとおりである。
(1)軟化溶融性および流動性が低いか、あるいは全く存在しない。
(2)膨張性が低いか、あるいは全く存在しない。
(3)上記(1)および(2)の結果として、粘結性が小さく、粒子同士が融着しない。
上記(1)〜(3)の性質は総合して石炭粒子間の接着を阻害するため、配合炭中における劣質炭の割合が高くなると、欠陥の密度が高くなり、十分な強度を有するコークスを得ることが難しくなる。つまり、原料炭は400℃前後で溶融して、粘稠な液体を形成し石炭粒子同士を融着させるとともに、ガスを内包して膨張する。このため、配合炭中における原料炭の割合が十分高いときは、石炭粒子間の隙間が効果的に埋められて、さらに粒子間の接着が促進され、強いコークスが生成する。逆に配合炭中における劣質炭の割合が高くなると、これらの過程が阻害されて十分な強度のコークスが得られなくなる。
ここで、無灰炭は、高い流動性と膨張性を有することに特徴があり、それがコークス生成過程で果たす効能は、大きくはふたつある。ひとつは、流動することによって石炭粒子同士を直接結合させるという接着効果、もうひとつは、溶融した無灰炭自身が膨張して、石炭粒子間の空隙を充填すると同時に他の粒子間を結合させるに足る膨張圧を発生することである。
このような無灰炭の特質を活用することによって、上記劣質炭の(1)〜(3)の欠点を相殺することができる結果として、劣質炭の多量配合を可能とする。
たとえば、非特許文献1では、無灰炭(ハイパーコール)を10質量%添加すると、非微粘結炭を50質量%使用しても従来の原料炭主成分のときと遜色のない強度のコークスが得られると報告されている。
しかしながら、本発明者らが、できるだけ少ない量の劣質炭でコークスを製造するために、最も効果的な無灰炭の製造方法を検討してきた結果、必ずしも無灰炭を多量に配合することがいつも良好な結果に結びつくとは限らず、むしろ最適と考えられる無灰炭の配合量、および最適と考えられる配合炭(コークス炉に装入される原料炭、劣質炭、粘結材などを配合したもの)の性状範囲が存在することがわかった。
すなわち、流動性や膨張性の不足については、そのかなりの程度を無灰炭の添加で補うことができ、所定のコークス強度は実現できるが、コークスの粒度分布は単純に無灰炭の添加量を増すだけでは制御できないことが判明した。上述したように、高炉操業ではコークスの強度だけではなく、粒径分布も重視されるが、無灰炭の配合量が適正でない場合は、強度はまずまず得られるとしても、粒度分布が広がる、とくに小粒径コークスの割合が高くなることが判明した。
高炉操業においては、コークス・カラムの通気性および炉芯コークス層の通液性を確保するために、大粒径のコークスを使用することが望ましいとされているが、高炉操業に無灰炭配合コークスを適用しようとすると、上記のような小粒径コークスの割合が増加することは、コークス・カラムの通気性および炉芯コークス層の通液性を阻害するため問題となる。
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
本発明に係る高炉操業方法に使用する無灰炭配合コークスは、後述するように、改質炭製造工程で得た無灰炭を、配合工程にて他の石炭等と配合して配合炭を作製し、その配合炭を乾留工程にて乾留することで得ることができる。
なお、改質炭製造工程で副産物として副生炭も生成されるので、本明細書では副生炭の製造方法についても併せて説明する。なお、無灰炭および副生炭は、いずれも石炭を改質することにより得られる改質炭である。
まず、本発明に係る高炉操業方法に使用する無灰炭配合コークスの製造方法の各工程について説明する前に、図1に示す改質炭製造工程を模式的に示す工程図に基づき、その改質炭製造工程に用いる改質炭製造装置1の構成について、その一例を簡単に説明する。
図1に示すように、改質炭製造装置1は、溶剤を供給する溶剤供給槽2と、石炭を供給する石炭供給槽3と、それら溶剤供給槽2と石炭供給槽3からの供給物を受けてスラリーを調製した後、調整されたスラリーから溶剤に溶ける石炭成分(溶剤可溶成分)を抽出する抽出槽4と、溶剤に溶ける石炭成分を含む抽出液と溶剤に溶けない石炭成分(残渣)を含む固形分濃縮液とに分離する分離槽5と、分離槽5で分離された抽出液から溶剤を除去して無灰炭を回収する無灰炭回収槽6と、分離槽5で分離された固形分濃縮液から溶剤を除去して副生炭を回収する副生炭回収槽7を備えて構成されている。
なお、無灰炭回収槽6で抽出液から除去された溶剤を、再び溶剤供給槽2に戻して再利用してもよく、同様に、副生炭回収槽7で固形分濃縮液から除去された溶剤も、再び溶剤供給槽2に戻して再利用してもよい。無灰炭回収槽6で回収された無灰炭は、灰分が溶剤に溶解されないため実質的に灰分を含んでおらず、水分はおおむね0.5質量%以下であって、原料石炭よりも高い発熱量を示す。この無灰炭は、各種炭素材料の原料や、製鉄コークスおよび成形炭のバインダー(コークス粘結剤)等として使用することができる。なお、本発明においては、無灰炭については実質的に灰分を含んでいないことを前提としている。灰分の含有量は勿論0質量%であることが望ましいが、溶剤抽出を経て無灰炭を回収する関係上、不可避的に灰分が含有されてしまう。製造における経済性や無灰炭の性能を確保する観点から灰分を0質量%にすることは無用である。したがって、本発明で説明する無灰炭には、不可避的に含有される微量の灰分の含有は許容される。無灰炭に許容される灰分の含有量の上限は3.0質量%、好ましくは2.0質量%、より好ましくは1.0質量%である。
一方、副生炭回収槽7で回収された副生炭は、溶剤に溶解しなかった灰分を含む。この副生炭には灰分が含まれるものの水分は皆無であり、発熱量も十分に有している。したがって、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、各種の燃料用等として利用することも可能である。
以下、前記した構成の改質炭製造装置1を用いて、改質炭製造工程で、無灰炭および副生炭を製造し、ついで、乾留工程で、改質炭製造工程で得られた無灰炭を配合した配合炭を乾留して無灰炭配合コークスを製造する方法について、その一実施形態を以下に説明する。
なお、改質炭製造装置1において、溶剤供給槽2は、溶剤を貯蔵し、この溶剤を抽出槽4へ供給する槽であり、石炭供給槽3は、石炭を貯蔵し、この石炭を抽出槽4へ供給する槽である。また、抽出槽4は、溶剤と石炭とを混合して溶剤に溶ける石炭成分を抽出する槽であり、分離槽5は、抽出後の混合物を抽出液と固形分濃縮液とに分離する槽である。無灰炭回収槽6は、抽出液から溶剤を分離して無灰炭を回収する槽であり、副生炭回収槽7は、固形分濃縮液から溶剤を分離して副生炭を回収する槽である。本発明の無灰炭配合コークスの製造方法は、改質炭製造工程と乾留工程とを含むものである。以下、各工程について説明する。
<改質炭製造工程>
改質炭製造工程は、改質炭製造装置1を用いて、無灰炭および副生炭を製造し、回収する工程である。すなわち、改質炭製造工程は、無灰炭回収工程と副生炭回収工程とからなる。具体的には、まず、石炭供給槽3から供給された石炭と、溶剤供給槽2から供給された溶剤を、抽出槽4で混合して石炭から溶剤に溶ける石炭成分を抽出する。その後、分離槽5で抽出液と固形分濃縮液に分離し、抽出液を無灰炭回収槽6に、固形分濃縮液を副生炭回収槽7に、夫々送る。無灰炭回収槽6に送られた抽出液は、槽内で溶剤が分離され、無灰炭として回収される。一方、副生炭回収槽7に送られた固形分濃縮液は、槽内で溶剤
が分離され、副生炭として回収される。尚、抽出液は、溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液のことであり、固形分濃縮液は、溶剤に溶けない石炭成分(灰分を含む石炭すなわち灰炭、残渣)を含む濃縮液のことである。
改質炭(無灰炭および副生炭)を得る方法は、公知の方法を用いることができ、製造条件や用いられる溶剤種は、石炭の性状や、炭素材料等、使用用途の原料としての設計を鑑みて、適宜選択されるものである。典型的な方法は、石炭に対して大きな溶解力を持つ溶媒、多くの場合、芳香族溶剤(水素供与性あるいは非水素供与性の溶剤)と石炭を混合して、それを加熱し、石炭中の有機成分を抽出する方法である。
しかしながら、より高効率、かつ安価に改質炭を得るためには、例えば、以下に説明する方法により改質炭を製造することができる。その方法では、まず、抽出槽4において、石炭供給槽3から供給された石炭と、溶剤供給槽2から供給された非水素供与性溶剤とを混合した混合物(スラリー)を加熱して、非水素供与性溶剤に溶ける石炭成分を抽出する。次に、分離槽5において、抽出後のスラリーを抽出液と固形分濃縮液に分離する。分離された一方の抽出液は、無灰炭回収槽6において、非水素供与性溶剤が分離されることで無灰炭となり、無灰炭は回収される。また、他方の固形分濃縮液は、副生炭回収槽7において、非水素供与性溶剤が分離されることで副生炭となり、副生炭も回収される。
無灰炭の原料とする石炭(以下、原料石炭ともいう)には、特に制限はなく、抽出率(無灰炭回収率)の高い瀝青炭を用いてもよいし、より安価な劣質炭(亜瀝青炭、褐炭)を用いてもよい。なお、供給前に石炭はできるだけ小さな粒子に粉砕しておくのが好ましく、具体的には、粒径(最大長さ)を1mm以下とするのが好ましい。
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される可溶成分(ここでは石炭成分)の割合(以下、抽出率ともいう)が高く、また、蒸留等の方法で容易に回収可能な溶剤である。非水素供与性溶剤の主な成分としては、2環芳香族であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他の非水素供与性溶剤の成分として、脂肪族側鎖を有するナフタレン類、アントラセン類、フルオレン類、また、これらにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖を有するアルキルベンゼンが含まれる。
この非水素供与性溶剤を用いて加熱抽出することにより、石炭の抽出率を高めることができる。また、非水素供与性溶剤は、極性溶剤とは違い容易に回収することができるため、循環使用しやすい。さらには、高価な水素や触媒等を用いる必要がないため、安価なコストで石炭を可溶化して改質炭を得ることができ、経済性の向上を図ることができる。
溶剤に対する石炭濃度は、原料石炭の種類にもよるが、乾燥炭基準で10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜35質量%の範囲がより好ましい。溶剤に対する石炭濃度が10質量%未満の場合、溶剤の量に対し、溶剤に抽出する石炭成分の割合が少なくなり経済的ではない。一方、石炭濃度は高いほど好ましいが、50質量%を超えると、調製したスラリーの粘度が高くなり、スラリーの移動や抽出液と固形分濃縮液との分離が困難となりやすい。
スラリーの加熱温度は、300〜450℃の範囲とすることが好ましい。スラリーの加熱温度をこの範囲とすることにより、石炭を構成する分子間の結合が緩み、緩和な熱分解が起こり、抽出率が最も高くなる。加熱温度が300℃未満の場合、石炭を構成する分子間の結合を弱めるのに不十分となりやすく、抽出率が向上しにくくなる。一方、加熱温度が450℃を超えると、石炭の熱分解反応が非常に活発になり、生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が向上しにくく、また、石炭の変質が起こりにくくなる。より好ましい加熱温度は、300〜400℃である。
加熱時間(抽出時間)は、溶解平衡に達するまでの時間が基準となるが、それを実現することは経済的に不利となる。加熱時間は、石炭の粒子径、溶剤の種類等の条件によって異なるので一概には言えないが、通常、10〜60分程度とする。加熱時間が10分未満では、石炭成分の抽出が不十分となりやすく、一方、60分を超えても、それ以上抽出が進行しないため、経済的ではない。
非水素供与性溶剤に溶ける石炭成分の抽出は、不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。酸素に接触すると発火する恐れがあるため危険であり、また、水素を用いた場合にはコストが高くなるため好ましくない。用いる不活性ガスとしては、安価な窒素を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaとすることが好ましい。圧力が溶剤の蒸気圧より低い場合には、溶剤が揮発して液相に閉じ込められず抽出できない。溶剤を液相に閉じ込めるためには、溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的でない。
なお、以上の説明では主に経済性の観点から非水素供与性化合物を溶剤として用いる例について述べたが、テトラリンを代表とする水素供与性の化合物(石炭液化油を含む)を溶剤として用いてもよいことは勿論である。水素供与性溶剤を用いた場合、無灰炭の収率が向上する。
このようにして、石炭成分を抽出した後のスラリーを抽出液と固形分濃縮液に分離する。スラリーを抽出液と固形分濃縮液とに分離する方法としては、各種の濾過方法や遠心分離による方法が一般的に知られている。しかしながら、濾過による方法ではフィルタの頻繁な交換が必要となり、また、遠心分離による方法では未溶解石炭成分による閉塞が起こりやすく、これらの方法を工業的に実施するのは困難である。したがって、流体の連続操作が可能であり、低コストで大量の処理にも適している重力沈降法を採用することが好ましい。この方法を採用することにより、重力沈降槽の上部からは、溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液である抽出液(以下、上澄み液ともいう)を、重力沈降槽の下部からは溶剤に溶けない石炭成分(残渣)を含む固形分濃縮液を得ることができる。なお、抽出液と固形分濃縮液は、完全に分離するのが理想的であるが、抽出液の一部に溶剤に溶けない石炭成分が混入したり、固形分濃縮液の一部に抽出液が混入したりしても少量であれば差し支えない。
なお、本発明においては、無灰炭については実質的に灰分を含んでいないことを前提としている。灰分の含有量は勿論0質量%であることが望ましいが、溶剤抽出を経て無灰炭を回収する関係上、不可避的に灰分が含有されてしまう。製造における経済性や無灰炭の性能を確保する観点から灰分を0質量%にすることは無用である。したがって、本発明で説明する無灰炭には、不可避的に含有される微量の灰分の含有は許容される。無灰炭に許容される灰分の含有量の上限は3.0質量%、好ましくは2.0質量%、より好ましくは1.0質量%である。また、無灰炭は、コークスの強度を高くするためにできるだけ小さい粒状であることが好ましく、具体的には径(最大長さ)3mm以下とすることが好ましい。
その後、この上澄み液(抽出液)から、非水素供与性溶剤等の溶剤を分離することにより無灰炭を得る。また、固形分濃縮液から溶剤を分離することにより副生炭を得る。上澄み液や固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができ、上澄み液からは、実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができ、一方、固形分濃縮液からは、灰分を含む副生炭を得ることができる。なお、無灰炭の回収と副生炭の回収は、どちらを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。このようにして改質炭製造装置1で製造された無灰炭は、次の成形工程に供される。
なお、抽出液から回収して得られた無灰炭の形状や粒径分布は、分離方法により変わる。ここで説明する改質炭製造工程が主に対象とするのは、一般的な蒸留法(フラッシュ蒸留等)や蒸発法(スプレードライ法等)などの無灰炭の軟化温度以下の温度で操業する方法である。これらの方法で得られる無灰炭は粒径(最大長さ)が1mm以下の微粒であり、また、製造した直後の無灰炭の水分量は0〜0.5質量%である。
<配合工程>
上記のようにして得られた無灰炭と他の石炭とを配合して、無灰炭の配合量(含有量)が2〜8質量%で、ギーセラー最高流動度logMFが1.8〜3.0となる配合炭を作製する。ここで、配合炭のギーセラー最高流動度logMFは、無灰炭および他の石炭のそれぞれについてJIS M 8801に基づいて測定されたギーセラー最高流動度(logMF)を、無灰炭および他の石炭の配合量で加重平均して求められる値として定義される。
上記配合炭を乾留することで、高強度でかつ粒径の揃ったコークスが得られる。
まず、無灰炭を適正配合量とすることでコークスの粒度分布が改善される(狭くなる)メカニズムは必ずしも明確ではないが以下のように考えられる。
すなわち、一般にコークスの品質バラつきの原因はコークス炉(室炉)の構造に起因する乾留機構そのものにあると考えられている。たとえば、室炉においては、炉壁側から伝熱されるため、炉の中心部は乾留温度が低く、実効的な加熱時間は短くなる。また、室炉の高さ方向に圧力分布が生じる。つまり、室炉の下部では装入炭に大きな荷重がかかるため膨張しにくいが、室炉の上部では自由膨張する。これらのさまざまな要因はコークス品質にバラつきを生じさせる。いっぽう、無灰炭を適正量配合すると、石炭粒子間の間隙中に分散した無灰炭は石炭粒子間の均一な接着と膨張を促進するので、コークスの破壊の起点になりうる、粒子間の接着不良(マクロな亀裂)や、過剰膨張部(粗大な気孔)などの欠陥生成を抑制する役割を果たす。この結果として、室炉内における炉幅や高さ方向の品質バラつき(強度、粒径、気孔率など)が抑制されることとなる。
しかしながら、配合炭中における無灰炭の含有量が高くなりすぎると、乾留して得られたコークスの強度(ドラム強度)はそれほど低下しないものの、粒度分布が広くなる(平均粒径が低下する)傾向が見られる。この理由は以下のように考えられる。すなわち、無灰炭の含有量が高くなりすぎると、無灰炭由来のコークス組織の連続相が大きくなりすぎて、そのコークス組織自体が破壊の起点となる。つまり、無灰炭は通常、溶剤によく溶ける、石炭化度が比較的低い石炭から製造される。それを乾留して生成するコークス(炭素)は一般に石炭化度の高い原料炭由来の炭素よりも結晶の発達が小さいため(すなわち、炭素網面構造の広がりや厚さが小さい)、強度は低く、破壊されやすい。その結果としてコークスに体積破壊が生じて、小粒径粒子が増加し、得られたコークスの粒度分布が広くなり、平均粒径が低下する。ただし、ドラム強度は多分に表面破壊の影響が大きいので、それほど顕著な低下は見られない。
このような現象は、無灰炭の配合量が6質量%を超えると顕著になり、8質量%を超えるとより顕著になる。
無灰炭の配合量が適正範囲内であれば、無灰炭は他の石炭粒子と相互に溶融し固化して強度の高い接着層を形成し、粒径の揃った(大粒径の割合が高く、小粒径の割合が低い)コークスを得ることができる。
いっぽう、無灰炭の配合量が3質量%を下回ると、とくに2質量%を下回ると、無灰炭の添加効果が十分でなく、強度の高いコークスを得ることができない。
したがって、配合炭中における無灰炭の配合量(含有量)は、2〜8質量%、好ましくは3〜6質量%とする。
さらに、本発明では、配合炭の最高流動度logMFを、1.8〜3.0の範囲、好ましくは2.0〜2.6の範囲とする。配合炭の最高流動度logMFが低くなりすぎると石炭粒子間の接着が不十分となり、粒度分布が過度に広くなり、平均粒径は著しく低下する。いっぽう、配合炭の最高流動度logMFが高くなりすぎても、得られるコークスの粒度分布は広くなり、平均粒径は低下する。この理由は明確ではないが、過剰流動により室炉内において石炭充填密度や気孔率の分布に大きな偏りが発生するためではないかと考えられる。乾留時の装入炭(配合炭)の充填密度は、充填時の振動等の調整で適宜設定することができるが、730kg/m3以上が好ましい。特に、最高流動度logMFが2.0未満の場合、充填密度は750kg/m3以上が好ましい。
上記したように、本発明に係る高炉操業方法に用いる無灰炭配合コークスを得るためには、配合炭における、無灰炭の含有量と最高流動度logMFとをいずれも各適正範囲内に調整する必要があるが、その調整は、たとえば、以下のようにして行うことができる。すなわち、まず、無灰炭の最高流動度logMFを測定しておき、ついで、無灰炭と配合する他の石炭として、種々の最高流動度logMFを有する複数の石炭(炭種)から、適当な石炭(炭種)を1または複数選択し、無灰炭および選択した1または複数の石炭(炭種)の配合量を適宜変更することで、容易に調整できる。なお、上記他の石炭の種類は、とくに限定されるものではなく、強粘結炭、準強粘結炭、弱粘結炭、非粘結炭などから任意に選択することができる。
無灰炭と配合する石炭として、それのみではコークス原料とすることが困難な、弱粘結炭や非微粘結炭に分類されるような低品位炭を適用する場合は、コークス原料として一般に使用される強粘結炭や準強粘結炭を併用する。なお、低品位炭とは、一般的に、最高流動度MF値(log(ddpm))2.0以下、平均最大反射率Ro値1.1以下の石炭を指す。本発明では、それぞれの石炭の特性にもよるが、弱粘結炭や非微粘結炭は、無灰炭も含めた配合比で、乾燥炭として最大50質量%程度配合することができる。石炭は、風乾等により乾燥炭としてもよいが、水分を含んだ状態で無灰炭と混合、乾留されてもよい。
また、上記他の石炭は、微細に粉砕された粒状とすることが好ましく、具体的には当該石炭の80質量%以上が径3mm以下の粒状であることが好ましい。本明細書において粒の径とは粒の最大長さを指し、80質量%以上が径3mm以下の粒であるとは、石炭を目の大きさが3mmの篩にかけたとき、80質量%以上が目を通るという意味である。このような石炭は、製造方法において詳細に説明するが、予め粉砕されていてもよく、あるいは無灰炭と混合しながら粉砕されてもよい。なお、例えば、粒径が3mm以下の石炭とは、粉砕後の粉砕炭を目開き3mm以下の篩(金属製網ふるい、規格番号JIS Z 8801−1(2006))でふるった際の篩い下の粉末であることを意味する。
<乾留工程>
乾留工程では、前記配合炭を乾留してコークスを製造する。この乾留での条件は、特に限定されず、コークス炉(室炉)を使用する通常の乾留条件を採用できる。例えば、乾留温度は、950〜1200℃、より好ましくは1000℃〜1050℃、乾留時間は、8〜24h、より好ましくは10〜20hである。
上記の条件で前記配合炭を乾留すると、その昇温過程において、配合炭中に適正量含有される無灰炭が軟化・溶融するとともに膨張して他の石炭粒子を結合した後に固化することで、高強度でかつ粒度分布の狭い(平均粒径の大きい)コークスが得られる。
なお、要求水準を満たすコークスを製造するための配合炭の配合設計の指標として、本発明が規定する、配合炭中の無灰炭の含有量と配合炭の最高流動度logMF以外に、考慮すべきものとして、配合炭のビトリニットの平均反射率Roが挙げられる。配合炭の平均反射率Roは、求めるコークス強度の水準や使用するコークス炉の種類や操業条件、あるいは使用する石炭の銘柄や原産地等により一義的に決定することは困難であるが、概ね0.95〜1.3、好ましくは1.0〜1.2の範囲に収めることが望ましい。なぜならば、配合炭の平均反射率Roが小さすぎる場合には、石炭化度が低すぎるため、乾留過程での膨張・融着が不十分となったり、コークス基質の強度が低下したりするため、高強度のコークスが得られない。一方、配合炭の平均反射率Roが大きすぎる場合には、そのこと自体はコークスの品質上への悪影響はないが、高い石炭化度で流動性を確保しようとすると高価な強粘結炭の割合を高める必要があったり、膨張率や膨張圧が過剰になってコークス炉の損耗が激しくなったりするなどの懸念があるため好ましくない。
参考までに、後記実施例の表2には配合炭の平均反射率Roの数値も併記した。なお、配合炭の平均反射率Roは、無灰炭および他の石炭のそれぞれについてJISM8816に基づいて測定された反射率Roを、無灰炭および他の石炭の配合量で加重平均して求められる値として定義される。
次に、上記のようにして製造したコークスを高炉操業に用いる方法について説明する。
<高炉操業方法>
上記のようにして製造した無灰炭配合コークスは、高強度でかつ粒径が揃っているので、高炉操業において中心装入用コークスとして使用するのに好適である。高炉操業方法としては、公知のコークス中心装入操業方法を採用すればよく、たとえば、図2に示すように、高炉炉頂から、その炉中心部(炉中心軸から0.03R以上0.3R以下までの領域[ここに、Rは炉頂半径である。])にはコークスの一部(高炉に装入する全コークス量の0.2〜10質量%)を装入して高炉内中心部にコークス・カラムを形成させるとともに、その炉周辺部には鉄鉱石と残りのコークスを交互に装入して高炉内周辺部に鉱石層とコークス層を交互に積層させ、高炉下部より熱風、必要に応じて微粉炭を吹き込む方法を挙げることができる。
なお、図2においては、ベル・アーマー方式の高炉でコークス中心装入操業を行うため、中心装入用コークスを炉中心部に装入するための専用のシュートを設けた例を示したが、旋回シュート方式の高炉においては、旋回シュートを用いて中心装入用コークスを炉中心部に装入することができる(図示略)。
このような高炉操業方法において、高炉中心部に装入するコークス(中心装入用コークス)として、高強度でかつ粒径が揃った無灰炭配合コークスを使用することで、高炉内に形成されたコークス・カラムの通気性および炉芯コークス層(以下、単に「炉芯」ともいう。)の通液性がさらに向上し、より安定した高炉操業および高炉寿命のさらなる延長が実現できる。
さらに、高強度でかつ粒径が揃った無灰炭コークスを中心装入用コークスとして用いると、その大粒径化による慣性力増大の作用により炉芯の高さが減少し、その結果、不安定化に陥った炉芯を回復できるとともに、流動域が広くなり、かつ、ピストンフロー領域が炉下部まで拡がるため棚吊りなどの非定常現象を抑える働きも得られ(河合秀樹ら,「中心装入粒子の密度や摩擦特性が高炉内固体粒子流れと炉芯挙動に与える影響の数値解析」,鉄と鋼,社団法人日本鉄鋼協会,2008年,第94巻,第4号,p.107−114参照)、前記中心コークス法の効果をより確実に発揮させることが可能となる。
なお、中心装入用コークスとして、無灰炭配合コークスのみを用いてもよく、無灰炭配合コークスと、無灰炭を配合していない通常のコークスとを混合して用いてもよい。また、高炉の周辺部に装入するコークスに、無灰炭配合コークスを混合して用いてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
<無灰炭>
まず、以下の方法により、無灰炭を製造した。オーストラリア産瀝青炭を原料石炭とし、この原料石炭5kgに対し、4倍量(20kg)の溶剤(1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製))を混合してスラリーを調製した。このスラリーを1.2MPaの窒素で加圧して、内容積30Lのバッチ式オートクレーブ中370℃、1時間の条件で抽出処理した。このスラリーを同一温度、圧力を維持した重力沈降槽内で上澄み液(抽出液)と固形分濃縮液とに分離した。
つぎに、蒸留法により上澄み液から溶剤を分離・回収して残ったものを無灰炭として得た。無灰炭は収量が2.7kg、灰分が0.9質量%であった。また、無灰炭の反射率Roは0.95、ギーセラー最高流動度logMFは4.78(logddpm)であった。
<配合炭>
粒径3mm以下の無灰炭と、粒径3mm以下の下記表1に示す石炭とを、下記表2に示すように、種々の配合比率で配合し、無灰炭の含有量、平均反射率Roおよびギーセラー最高流動度logMFの組み合わせが種々異なる配合炭を調製した。
<コークス>
充填量300kg規模のコークス試験炉を用いて上記配合炭の缶焼き試験を行った。乾留条件は、配合炭の水分量:7.8質量%、かさ密度:730kg/m3(ただし、試料No.18〜20では780kg/m3)、乾留温度:1050℃、乾留時間:16hとした。
<コークス強度>
缶焼き試験で得られたコークスについて、強度評価を行うため、JISK2151に準拠してドラム強度DI150 15を測定した。本実施例では、DI150 15が84.8以上のものを合格とした。なお、後述する方法により粒度分布を測定した後の試料を用いてコークス強度を測定した。
<コークス粒度分布>
また、コークスの粒度分布については、以下の方法により測定した。すなわち、室炉から排出された後にコークカッタで粒度調整された状態を模擬するため、缶焼き試験で得られたコークスを、シャッター試験機で2回の落下衝撃を与えたのち、さらにドラム試験機で30回転の衝撃を与えて粒度調整した後、JISZ8800で規定する篩いを用いて篩い分け法により、粒度調整後のコークスの粒度分布(粒径分布)を求めた。そして、その粒度分布(粒径分布)より、コークスの平均粒径dcとして、篩いの各粒径範囲ごとの算術平均径(代表径)を、その各粒径範囲ごとに篩い分けられたコークスの質量割合で加重平均して求めた。本実施例では、コークスの平均粒径dcが45mm以上のものを合格とした。
試験結果を下記表2に併記して示す。なお、表2において、本発明の規定範囲を外れるもの、合格基準を満たさないものについては、数値に網掛けを施して示す。
表2において、試料No.1の参考例は、基準となる通常コークス(無灰炭の配合なし)に相当するものである。試料No.4〜7,11〜15,19,20のコークスは、本発明の要件を充足する発明例であり、ドラム強度、平均粒径とも合格判定基準を満たし、無灰炭を用いない基準の通常のコークス(No.1)と、ほぼ同等の強度および平均粒径が得られることがわかった。
これに対し、試料No.2,3,8〜10,16〜18のコークスは、本発明の要件を充足しない比較例であり、ドラム強度、平均粒径の少なくとも一方が合格判定基準を満たしていない。
本実施例から明らかなように、発明例である無灰炭配合コークスは、高強度でかつ粒径が揃っているので、高炉操業において中心装入用コークスとして使用するのに好適である。高炉操業方法としては、公知のコークス中心装入操業方法、たとえば前述した図2に示す方法を採用することができる。すなわち、高炉炉頂から、その炉中心部にはコークスの一部としての無灰炭配合コークスを装入して高炉内中心部にコークス・カラムを形成させるとともに、その炉周辺部には鉄鉱石と残りのコークスとしての通常コークスを交互に装入して高炉内周辺部に鉱石層とコークス層を交互に積層させ、高炉下部より熱風、必要に応じて微粉炭を吹き込む方法を用いればよい。
このような高炉操業方法において、高炉中心部に装入するコークス(中心装入用コークス)として、高強度でかつ粒径が揃った無灰炭配合コークスを使用することで、高炉内に形成されたコークス・カラムの通気性および炉芯コークス層の通液性がさらに向上し、より安定した高炉操業および高炉寿命のさらなる延長が実現できる。
さらに、高強度でかつ粒径が揃った無灰炭コークスを中心装入用コークスとして用いると、その大粒径化による慣性力増大の作用により炉芯の高さが減少し、その結果、不安定化に陥った炉芯を回復できるとともに、流動域が広くなり、かつ、ピストンフロー領域が炉下部まで拡がるため棚吊りなどの非定常現象を抑える働きも得られ(河合秀樹ら,「中心装入粒子の密度や摩擦特性が高炉内固体粒子流れと炉芯挙動に与える影響の数値解析」,鉄と鋼,社団法人日本鉄鋼協会,2008年,第94巻,第4号,p.107−114参照)、前記中心コークス法の効果をより確実に発揮させることが可能となる。