発明の背景
本発明は、モノクローナル抗体のドメインに関する。更に詳細には、本発明は、小型ベクター、およびファージライブラリーの製造のためのそれらの使用に関し、それぞれのファージは、結合パートナーを結合するその能力についてスクリーニングを行う結合タンパク質をその表面に発現する。
ファージディスプレイ法は、タンパク質の相互作用を検討するのに用いられる手法である。この手法は、ファージの表面で目的とする結合タンパク質を発現させ、結合パートナーと複合体を形成するその能力について前記結合タンパク質を選択することに基づいている。この方法の原理は、ファージゲノムの遺伝子組換え、すなわち目的とする結合タンパク質をコードする配列を前記のファージゲノムに挿入することに依存している。配列挿入は、ファージのコートタンパク質複合体を形成するタンパク質をコードする遺伝子に隣接して配置される。前記コートは、極めて一般的に用いられる、例えば、pIIIおよびpVIIIタンパク質のような様々なタンパク質から構成されている。これらのタンパク質をコードする遺伝子に隣接して目的とする配列を挿入することにより、目的とする結合タンパク質をファージのコートタンパク質に融合させることができる。次いで、ファージ組換体を細菌に感染させ、そのゲノムが複製される。組換えファージゲノムの発現により、スクリーニングを行う結合タンパク質を表面に発現するファージが産生する。スクリーニングの段階中に、結合パートナーとよばれる異なるタンパク質または分子を、目的とする前記タンパク質と接触させる。複合体がファージ表面の結合タンパク質と結合パートナーとの間に形成されると、複合体を精製した後、目的とする結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を組換えファージゲノムから決定することができる。
ファージディスプレイの原理は、1985年[Smith,G.P., 1985, Science 228, 1315−1317]から始まり、この手法は、ヘルパーファージおよびファージミドベクターとを組合せた抗体断片の選択に応用されている[McCafferty,J.et al., 1990, Nature 348, 552−554],[Barbas,C.F.et al., 1991, 88, 7978−7982],[Breitling,F.et al., 1991, Gene 104, 147−153],[Burton,D.R.et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 88, 10134−10137], [Clackson,T.etal., 1991, Nature 352, 624−628], [Hoogenboom,H.R.et al., 1991, Nucleic Acids Res. 19, 4133−4137]。ファージディスプレイ法は、ファージディスプレイベクターとも呼ばれるファージミドベクターと、目的とする結合タンパク質をその表面上で発現させるファージライブラリーを生成するためのヘルパーファージとの使用を組み合わせている。ファージディスプレイベクターは、目的とする結合タンパク質をコードする配列と、ファージ配列、特に目的とする結合タンパク質と融合させるコートタンパク質をコードする配列とを含んでなる。ファージディスプレイベクターは、ファージゲノムの複製または宿主細胞におけるベクターの保持のための様々な機能的配列からも構成されている。ファージディスプレイベクターは、総てのファージゲノムを含まないが、これは、この方法が、表面に結合タンパク質を発現させるファージを産生するためのヘルパーファージの使用と組み合わされているからである。ヘルパーファージは、ファージディスプレイベクターに含まれていない完全ファージゲノムからタンパク質を補足することによって、ファージディスプレイベクター上でファージゲノムを複製およびパッケージングすることができる。
ここで、バクテリオファージM13ゲノムの全体を含んでなる古典的ファージベクターとは対照的に、ファージミドベクターとも呼ばれるファージディスプレイベクターは、geneIIIの断片とM13遺伝子間領域を含むM13ゲノムの小部分のみを含んでなることを思い起こさねばならない。
例えば、このようなファージベクターは、古典的には大きなベクター(一般的には6000塩基対を上回る)であり、特許出願WO92/06204号に記載のベクターM13IX30、M13IX11、M13IX34、M13IX13またはM13IX60、または特許出願US6,057,098号明細書に記載の多価ディスプレイライブラリーを生成する方法に用いられるベクター668−4のような任意の誘導ファージベクターからなることができる。
最初のファージミドベクターpCANTAB[Abraham, R.et al.,1995, J. Immunol. Methods 183, 119−125]、[Tanaka, A.S. et al., 1995,Biochem. Biophys. Res. Commun.214, 389−395]、pHEN[Hoogenboom, H.R.et al., 1991, Nucleic Acids Res. 19, 4133−4137]、[WO 92/01047]、pCOMB[Barbas, C.F. et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 88, 7978−7982]、[Burton, D.R.et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 88, 10134−10137]は、利用可能な分子生物学的ツールを用いてその時点で利用可能なクローニングおよび発現ベクターから構築した。この時以来、ファージミドベクターには最適化はほとんど用いられておらず、まれな例はpKM19[Pavoni, E.et al., 2007, Gene 391, 120−129]であり、その構築には、最適化プロモーターとバクテリオファージM13のgeneIII産物のC末端ドメインの使用の利点が考慮されている[Barbas, C.F.et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 88, 7978−7982]。
本発明は、クローニングカセット、ファージディスプレイカセットおよび細菌カセットを含んでなるファージディスプレイベクター、およびファージのライブラリーを生成するためのその使用に関し、ライブラリーのそれぞれのメンバーは、その表面上で結合タンパク質を発現させる。下記の説明で明らかになるように、3個のカセットのそれぞれは最適化されて、結合タンパク質のファージディスプレイに好適な機能的ベクターを生成する。
今日まで、この手法が堅牢であると思われていても、目的とするタンパク質の発現レベルに関して不十分な点がある。今日まで用いられてきたこの手法のもう一つの不都合な点は、選択された結合タンパク質の検出および精製である。
本発明は、これらの問題点を解決しようとするものであり、初めての新規かつ自明でない最適化ファージディスプレイベクターについて記載するものである。
第一の態様では、本発明は、クローニングカセットと、ファージディスプレイカセットと、細菌カセットとを少なくとも含んでなり、前記クローニングカセットが、少なくとも抗体の定常ドメインのドメイン内ループに対応するポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる、最小化ファージディスプレイベクターに関する。
本明細書では、疑念を避けるため、「カセット」は、特異的な生物学的および/または生化学的活性を有する特異的核酸配列を含んでなるDNA断片と考えるべきである。「カセット」、「遺伝子カセット」または「DNAカセット」という表現は、互換的に用いることができ、同じ意味を有する。
クローニングカセットは、遺伝子のクローニングにおいて活性を有するカセットと考えるべきである。クローニングカセットは、クローニングを行う目的とする1または数個の遺伝子の調節および発現に必要な核酸配列を含む。クローニングカセットは、プロモーターをコードする核酸配列と、終止コドンと、目的とする(複数の)遺伝子の導入に有用なクローニング部位とを少なくとも含んでなり、これらの成分のそれぞれは、互いに作動可能に連結(operably linked)している。
「作動可能に連結した」または「作動可能に挿入した」という用語は、コード配列の発現に必要な調節配列がコード配列に関して適当な位置の核酸分子に置かれ、コード配列を発現させることができるようになっていることを意味する。一例として、プロモーターがコード配列の転写または発現を制御することができるときには、そのプロモーターはコード配列と作動可能に連結している。
ファージディスプレイカセットは、ファージディスプレイ法、更に正確には目的とする(複数の)タンパク質を表面上で発現させるファージライブラリーの産生を目的とするファージディスプレイ法で活性を有するカセットと考えるべきである。ファージディスプレイカセットは、a) 複製ベクターによって担持されたssDNAとしてのファージ源を含んでなる複製ベクターを複製することができ、かつ、b) 機能的ファージゲノムの相補性を有する組換えファージを産生するため、ファージの複製源をコードする核酸配列を少なくとも含んでなる。
細菌カセットは、細菌宿主細胞にベクターの増加および保持に必要な(複数の)配列を含むカセットと考えるべきである。従って、細菌カセットは、主として、複製源と選択マーカーとをコードする核酸配列を少なくとも含んでなる。
それらのカセットの組成に関しては、下記で更に詳細に説明する。
しかしながら、当業者に明らかな任意の修飾も本発明に包含されるものと考えるべきであることを理解しなければならない。
「核酸」という用語は、デソキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよび一本鎖または二本鎖形態でのそれらのポリマー(「ポリヌクレオチド」)を表す。特に制限しなければ、この用語は、参照核酸と同様の結合特性を有しておりかつ天然に存在するヌクレオチドと同様に代謝される天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。他に指示がない限り、特定の核酸配列は、保存的に修飾されたその変異体(例えば、縮退コドン置換(degenerate codon substitution))および相補性配列並びに明確に指示された配列も暗黙裡に包含する。具体的には、縮退コドン置換は、1個以上の選択された(または総ての)コドンの3番目の位置が混合塩基(mixed−base)および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって実現することができる。
「核酸」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」または「ヌクレオチド分子」という用語は、遺伝子、遺伝子によってコードされるcDNA、DNAおよびRNAと互換的に用いられることもある。従って、本発明によるクローニングカセットは、抗体の定常ドメインのドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる。本発明の好ましい態様では、前記核酸配列は、クローニング部位に隣接するクローニングカセットに挿入される。この好ましい挿入局在化により、(完全長の)定常ドメインの挿入の場合には、scFv抗体断片と定常ドメインから構成される一本鎖抗体を獲得することができる。定常ドメインの存在により、目的とするタンパク質、すなわち一本鎖抗体の機能的発現を向上させることができることが示された。定常ドメインは、ファージディスプレイベクターに挿入された核酸配列から産生される結合タンパク質の検出および精製を向上させることもできる。
「抗体」、「抗体類(antibodies)」または「免疫グロブリン」という用語は、最も広義に互換的に用いられ、モノクローナル抗体(例えば、完全長または完全なモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体または多重特異性抗体(例えば、所望な生物活性を示す限り、二重特異性抗体)が挙げられる。
更に詳細には、このような分子は、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖とを含んでなる糖タンパク質からなっている。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(またはドメイン)(本明細書では、HCVRまたはVHと略する)と重鎖定常領域とから構成されている。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインから構成されている。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書では、LCVRまたはVLと略する)と、軽鎖定常領域とから構成されている。軽鎖定常領域は、1個のドメイン、CLを含んでなる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる一層保存されている領域が散在している相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に更に細分することができる。それぞれのVHおよびVLは、下記の順序でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置されている3個のCDRと4個のFRから構成されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。これらの抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)と古典的補体系の第一成分(Clq)などの宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を介在することがある。
それらは、本明細書で更に詳細に説明されるように、ある種の抗体断片を包含し、それらは、起源または免疫グロブリンの種類(すなわち、IgG、IgE、IgM、IgAなど)には無関係に、所望な結合特異性および親和性を示すこともある。
一般的には、特にマウス起源のモノクローナル抗体またはそれらの機能的断片を調製するには、詳細にはマニュアル「抗体(Antibodies)」(Harlow and Lane, 抗体:実験室便覧(Antibodies: A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory NY, pp. 726, 1988)に記載されている手法、またはKohlerおよびMilsteinによって報告されたハイブリドーマからの調製の手法(Nature, 256:495−497, 1975)を参照することができる。
当業者であれば、重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として分類され、それらには幾つかのサブクラス(例えば、ガンマ1−ガンマ4)があることを理解されるであろう。抗体の「クラス」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgGまたはIgEとして決定するのは、この鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1などは、詳細に特性決定されており、機能的特殊化を付与することが知られている。
軽鎖は、カッパまたはラムダ(κ、λ)として分類される。
軽および重鎖は、両方とも構造的および機能的相同性の領域に分割される。「定常」および「可変」という用語は、機能的に用いられる。これに関して、軽(VL)および重(VH)鎖部分の可変ドメインは、抗原認識および特異性を決定することを理解されるであろう。逆に、軽鎖(CL)および重鎖(CH1、CH2もしくはCH3、またはIgMおよびIgEの場合にはCH4)の定常ドメインは、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合などの重要な生物学的特性を付与する。慣例により、定常領域ドメインのナンバリングは、抗体の抗原結合部位またはアミノ末端からより遠位になると、増加する。
抗体の「定常ドメイン」という表現は、抗原のエピトープを認識することができるあらゆる多様な配列を含む抗体の可変領域と比較して、一方の抗体から同一アイソタイプおよびアロタイプの別の抗体への変異性が全くない抗体領域と理解される。
これらの定常ドメイン、すなわちCL、CH1、CH2、CH3およびCH4のそれぞれに、ジスルフィド結合は約60アミノ酸のループを形成している。本明細書において、前記ループはドメイン内ループと呼ばれる。
ヒトIgG CH1の好ましい場合には、28種類の考え得るガンマ重鎖であって、それぞれが97アミノ酸(配列番号104〜131)のポリペプチドからなる定常ドメインCH1を有するものが存在する。これらの28種類のドメインのそれぞれは、26位にシステイン残基と82位にもう一つのシステイン残基を示し、ジスルフィド橋を形成し、結果としてこれら2個のシステイン間にジスルフィド結合を形成することによって、ドメイン内ループを形成する。
本発明の特定態様では、クローニングカセットは、抗体の重鎖定常ドメインのドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる。
更に詳細には、重鎖に対する好ましいドメイン内ループは、26位のシステインと82位のシステインとの間に含まれるポリペプチドから構成されるCH1ドメイン内ループである。
更に好ましい態様では、クローニングカセットは、抗体の重鎖の定常ドメインに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる。
更に好ましい態様では、抗体の重鎖定常ドメインは、抗体のCH1重鎖定常ドメインである。
当業者には、本発明によって用いられる別の重鎖定常ドメインのドメイン内ループを画定することは明らかであろう。
本発明のもう一つの態様では、クローニングカセットは、抗体の軽鎖定常ドメインのドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる。
ヒトには、5種類のカッパ鎖があり、それらのそれぞれは、それぞれ27および87位における2個のシステイン残基を有する107アミノ酸のポリペプチドに対応し、ドメイン内ループ(配列番号90〜94)を形成する。
更に詳細には、カッパ軽鎖に対する好ましいドメイン内ループは、27位のシステイン87位のシステインの間に含まれるポリペプチドから構成されるドメイン内ループである。
ヒトのラムダ鎖に対しては、9個の異なる形態があり、それらのそれぞれが、それぞれ27および86位における2個のシステイン残基を有する105アミノ酸のポリペプチドに対応し、ドメイン内ループ(配列番号95〜103)を形成する。
更に詳細には、ラムダ軽鎖に対する好ましいドメイン内ループは、27位のシステインと86位のシステインの間に含まれるポリペプチドから構成されるドメイン内ループである。
もう一つの態様では、クローニングカセットは、少なくとも抗体の軽鎖定常ドメインに対応するポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる。
本発明の好ましい態様では、クローニングカセットの定常ドメインは、軽鎖カッパ定常ドメインである。
本発明で用いられるカッパ定常ドメインの源は、優先的にはヒトである。
本発明の最も好ましい態様では、前記クローニングカセットの前記定常ドメインは、C末端システインが欠失した軽鎖カッパ定常ドメインである。
前記のカッパ定常ドメインは、ファージの表面で発現する一本鎖抗体の二量体化を防止するためのC末端システインを欠いており、このような二量体化はカッパ定常ドメイン間で起こり得るものである。実際に、抗体の重および軽鎖の定常ドメインは、軽鎖のC末端システインと重鎖定常ドメインにおける非対(non−paired)システインの間にジスルフィド結合を形成することによって集合する。本発明は、ファージの表面に結合タンパク質を提供する。定常ドメインのC末端システインを除去しないことにより、一本鎖抗体の二量体化の可能性と親和力の効果による非典型的結合(non representative binding)を生じる。
C末端システインの除去は、前記二量体化を防止するのに必要であり、従って、一本鎖抗体の二量体化によるgIII融合タンパク質のミスフォールディングまたは凝集の防止に応用される。
本発明のもう一つの好ましい態様では、クローニングカセットの定常ドメインは、軽鎖ラムダ定常ドメインである。
本発明で用いられるラムダ定常ドメインの源は、優先的にはヒトである。
本発明の最も好ましい態様では、前記クローニングカセットの前記定常ドメインは、104位のシステインが欠失している軽鎖ラムダ定常ドメインである(配列番号95〜103)。もう一つの態様では、C末端残基104および105(システイン−セリン)を欠失することができる(配列番号95〜103)。
今日までに、ファージディスプレイによる提示および選択のための一本鎖定常ドメインに融合した一本鎖Fvの発現は、報告されていない。
本発明のもう一つの特に革新的な態様は、ベクターのサイズである。
大腸菌の形質転換効率は、極めて多様性に富むライブラリーを生成するための制限段階であり、ベクターサイズは形質転換効率に反比例する[Siguret, V. et al., 1994, Biotechniques16, 422−426]。現在報告されているファージディスプレイベクターは、結合パートナー可変ドメインの非存在下において3390塩基対を上回りかつ典型的には4500bpを上回るサイズを示し、ベクターサイズが増加すると、形質転換効率は減少して、得られるライブラリーのサイズが減少するか、または高い多様性を達成するには形質転換を繰り返すことが必要となる。
定常ドメインを全く含まない現在報告されているファージディスプレイベクターのサイズを、下記に示す。
pCANTAB 5E 4522bp
pHEN1 4523bp
pHEN2 4616bp
他の用いられるM13ファージベクターのサイズも、以下に示す(例えば、WO92/06204号を参照)。
M13IX30 7445bp
M13IX11 7317bp
M13IX34 7729bp
M13IX13 7557bp
M13IX60 8118bp
ファージディスプレイベクターのサイズは、形質転換効率に反比例する。
本発明のもう一つの目的は、宿主細胞の形質転換効率を最適にすることである。この技術的問題は、総ての必要な生物活性を保持したまま本発明のベクターのサイズを減少させることによって解決される。本発明のもう一つの特に創意に富む態様は、前記3種類のカセット中および間における非機能的ヌクレオチドを除去することにより、ファージディスプレイベクターのサイズを最小にしかつ形質転換効率を最適にすることに基づいている。この段階において、前記最小化ファージディスプレイベクターの活性が保存されることは予想されないので、ファージディスプレイベクターのサイズの減少が当業者には明らかではなかったことを理解しなければならない(実施例7参照)。この点の実例として、ここではファージディスプレイベクターが、この手法の誕生以来、すなわち80年代以来存在しており、前記ファージディスプレイベクターのサイズの減少に関する先行技術がないということが挙げられる。
ベクターにおける非機能的ヌクレオチドの欠失により、一層小さなベクターのライブラリーを生成することができ、宿主細胞に対するストレスを小さくする。このベクターは、また宿主細胞で一層容易に保持される。
これらの欠失により、抗体の定常ドメインのドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列のサイズを含む3300塩基対未満の新規なファージディスプレイベクターを生じ、これは上記のように本発明の特徴である。これは、定常ドメインまたはこのような定常ドメインのドメイン内ループ(4500塩基対を上回る)をコードするこのような核酸配列を含まない従来技術のベクターで観察される通常のサイズよりかなり小さなものである。比較を容易にするため、抗体の定常ドメインのドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列が全くない本発明によるファージディスプレイベクターのサイズは、3000塩基対未満であると考えることができる。
一例として、ベクターpPL12およびpPL14は3246塩基対(抗体のドメイン内ループに対応するポリペプチドをコードする核酸配列のない2928塩基対に対応する)であり、pPL22は3109塩基対(抗体のドメイン内ループに対応するポリペプチドをコードする核酸配列のない2751塩基対)であると言うことができる。3158塩基対を含んでなるベクターpPL31を挙げることもできる。下記の実施例において明確に説明されるこれら4種類のベクターは、本発明によるベクターの非制限的例であることを理解しなければならない。
これら4種類のベクターpPL12、pPL14、pPL22およびpPL31の配列は、それぞれ配列番号1、5、7および148の配列で表される。
今日まで、抗体の定常ドメインのドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなり、かつ、3300塩基対を上回らない最小化ベクターの使用は、記載も示唆もされていない。
疑念を払拭するため、「最小化ベクター」という表現は、サイズが3300塩基対以下のベクターと理解しなければならない。
本発明のファージディスプレイベクターは、スクリーニングを行う結合タンパク質を表面に発現させるファージのライブラリーを生じるために用いられる。
「結合タンパク質」は、別のタンパク質または分子と特異的または全般的親和性を有するペプチド鎖である。タンパク質同士は、結合が可能なときには、接触して複合体を形成する。ファージ表面で発現する本発明の結合タンパク質は、好ましくは、抗体、抗体の断片または誘導体、タンパク質またはペプチドであることができる。
ファージディスプレイ法は、従って、本発明の好ましい態様で、抗原のような新規なターゲット分子を結合する特異抗体を決定するためのスクリーニング法として用いることができる。この手法は、特異抗体を生じるための動物免疫化段階を行わずに前記抗体または抗体断片の選択という利点を提示する。目的とする結合タンパク質を発現させるファージは、細菌細胞で直接生じる。
ファージディスプレイベクターのクローニング部位に挿入された核酸配列は、抗体の可変鎖をコードする配列に対応し、scFv、一本鎖Fvとも呼ばれる抗体の断片を形成し、これは以下において説明する。
本発明による抗体の「機能的断片」とは、可変断片(Fv)、scFv(一本鎖に対してsc)、抗原結合性断片(Fab)、F(ab’)2、Fab’、scFv−Fc断片もしくはジアボディー(diabodies)、または半減期がポリ(アルキレン)グリコール、例えば、ポリ(エチレン)グリコール(「PEG化」)(Fv−PEG、scFv−PEG、Fab−PEG、F(ab’)2−PEGまたはFab’−PEGと呼ばれるペジル化断片)(「ポリ(エチレン)グリコールに対しての「PEG」)の付加のような化学修飾によって増加し、かつとりわけ由来する抗体の部分的活性さえも一般的に発揮することができる任意の断片、のような抗体断片を示そうとするものである。
好ましくは、前記機能的断片は、それらの断片が由来する抗体の重または軽可変鎖の部分配列から構成されまたは部分配列を含んでなり、前記部分配列は、それが由来する抗体と同じ結合特異性、および十分な親和性、好ましくは少なくともそれが由来する抗体の親和性の1/100、更に好ましくは少なくとも1/10を保持するのに十分である。このような機能的断片は、それが由来する抗体の配列の最小限度でも5アミノ酸、好ましくは10、15、25、50および100連続アミノ酸を含む。
好ましくは、これらの機能的断片は、Fv、scFv、scFv−Fc型の断片またはジアボディーであり、これらは一般的には、それらが由来する抗体と同じ結合特異性を有する。もう一つの方法では、本発明に含まれる抗体断片は、当業者に周知の遺伝子組換え技術によって、あるいはApplied Biosystems社によって供給されるような自動ペプチド合成装置などによるペプチド合成または遺伝子合成によって得ることもできる。
「一本鎖可変断片」(scFv)は、前記定義の抗体断片であり、ペプチド結合によって互いに結合している抗体の重および軽鎖の可変領域から構成されている。これらの断片は、天然状態では存在しないが、人工的に構築されている。一本鎖可変断片における重−軽または軽−重可変領域の順序は、結合パートナーの認識や組換えタンパク質の発現に有意な効果を示さないので、可変領域の順序は互換的と考えることができる。可変領域間にシス型(cis)で導入される結合ペプチドは、可変領域を天然抗体に似た三次元配置に配向する働きをする。結合ペプチドの選択は、多くの過程で生じるscFvに影響し、ペプチドの長さは、単量体性または多量体性scFv化合物の形成に影響する。短めの結合ペプチドでは、二量体、三量体または四量体のような多量体性scFvが形成されやすく、12を上回るアミノ酸での長めの結合ペプチドでは、単量体が形成されやすい。結合ペプチドは、理想的には、発現したscFvの折り畳みや結合を制限しないアミノ酸残基からなり、アミノ酸組成は、極性で非イオン化性の小アミノ酸が有利である。
「一本鎖抗体」は、抗体のscFv断片と定常ドメインから構成される結合分子と定義される。従って、一本鎖抗体は、抗原と相互作用する重または軽鎖からの結合ドメインを含む1本の重鎖および1本の軽鎖の可変領域を示す。
本発明による抗体の「誘導体」とは、タンパク質スキャフォールドと、結合能力を保持する目的で元の抗体から選択されるCDRの少なくとも1個とを含んでなる結合タンパク質を意味する。このような化合物は、当業者には周知であり、下記の明細書で更に詳細に説明する。
更に詳細には、本発明による抗体、またはその機能的断片もしくは誘導体の1つは、前記誘導体が、元の抗体のパラトープを保存するように少なくとも1個のCDRがグラフトしているスキャフォールドを含んでなる結合タンパク質からなることを特徴とする。
本発明に記載の6個のCDR配列の1または数個の配列を、タンパク質スキャフォールド上に提示することができる。この場合には、タンパク質スキャフォールドは、グラフトした(複数の)CDRの適当な折り畳みを有するタンパク質主鎖を再生することによって、抗原結合パラトープを保持することができる。
当業者であれば、元の抗体から選択される少なくとも1個のCDRをグラフトさせることができるタンパク質スキャフォールドを選択する方法を知っている。更に詳細には、選択を行うには、このようなスキャフォールドが下記のような幾つかの特徴を示すことが知られている(Skerra A., J. Mol. Recogn., 13, 2000, 167−187):
系統発生的に保存され、
周知の三次元分子構成を有する確固とした構造(例えば、結晶学またはNMR)、
サイズが小さく、
翻訳後修飾が全くないかまたは極低い程度であり、
産生、発現および精製が容易である。
このようなタンパク質スキャフォールドは、フィブロネクチンおよび優先的には10番目のフィブロネクチンIII型ドメイン(FNfn10)、リポカリン、アンチカリン(Skerra A., J. Biotechnol., 2001, 74(4):257−75)、ブドウ球菌タンパク質のドメインBのタンパク質Z誘導体、チオレドキシンA、または「アンキリン反復」(Kohl et al., PNAS, 2003, vol.100, No.4, 1700−1705)、「アルマジロ反復」、「ロイシン・リッチ反復」もしくは「テトラトリコペプチド反復」などの反復ドメインを有する任意のタンパク質からなる群から選択される構造であるが、制限はない。
毒素(例えば、サソリ、昆虫、植物または軟体動物毒素など)またはニューロン性一酸化窒素シンターゼのタンパク質阻害剤(PIN)からのスキャフォールド誘導体の更なる選択も、考慮すべきである。
このようなハイブリッド構築物の非制限的例として、抗−CD4抗体、すなわち13B8.2抗体のCDR−H1(重鎖)のPINの露出したループの1つへの挿入を示すことができる。得られた結合タンパク質の結合特性は、元の抗体と同様のままである(Bes et al., BBRC 343, 2006, 334−344)。抗−リゾチームVHH抗体のCDR−H3(重鎖)のネオカルチノスタチンのループへのグラフトを、挙げることもできる(Nicaise et al., 2004)。
上記のように、このようなタンパク質スキャフォールドは、元の抗体由来の1〜6個のCDRを含んでなることができる。好ましい態様では、制限なしではあるが、当該技術に熟練した者であれば、特に抗体特異性に関係していることが知られている重鎖由来の少なくとも1個のCDRを選択できるだろう。目的とする(複数の)CDRの選択は、既知の方法で当業者に明らかになるであろう(BES et al., FEBS letters 508, 2001, 67−74)。
証拠として、これらの例は制限的なものではなく、既知または報告されている任意の他のスキャフォールドが本明細書に含まれなければならない。
もう一つの態様によれば、本発明によるベクターのクローニングカセットは、プロモーターをコードする核酸配列と、シグナルペプチドをコードする核酸配列とを少なくとも含んでなる。
プロモーターは、メッセンジャーRNAにおける遺伝子配列の転写を開始させることができる核酸配列であり、このような転写は、RNAポリメラーゼの前記プロモーターへの結合によって開始される。
前記プロモーターをコードする配列は、非制限的例として、Lac、Tac、Trp、Tet、T7、SP6からなる群から選択することができる。
好ましい態様では、本発明の前記クローニングカセットのプロモーターは、Lacプロモーターである。
「シグナルペプチド」は、目的とする結合タンパク質が細胞で発現した後に、局在化に関するペプチド鎖である。ペプチドシグナル配列は、ベクター上の前記目的とする結合タンパク質をコードする配列に隣接して配置される。一本鎖DNA組成物中のファージディスプレイベクターを含むファージキャプシド集合体に目的とする結合タンパク質を正確に組込むには、ペプチドシグナルによる宿主生物のペリプラズム間隙(periplasimic space)に目的とする結合タンパク質をターゲッティングする必要がある。目的とする結合タンパク質の構造は、一本鎖抗体の場合にはジスルフィド結合の形成が必要である。ペリプラズム間隙は酸化的環境であるが、前記一本鎖抗体の構造的折り畳みを行うことができる。
前記シグナルペプチドをコードする配列は、非制限的例として、pelB、geneIII、phoA、malE、dsbAをコードする配列からなる群から選択することができる。
好ましい態様では、前記クローニングカセットのシグナルペプチドは、pelBシグナルペプチドである。
もう一つの態様では、本発明によるベクターのクローニングカセットは、更にクローニング部位をコードする核酸配列を含んでなる。
本明細書で用いられる「クローニング部位」という用語は、適合する突出または平滑末端を含む核酸配列のライゲーションによる制限エンドヌクレアーゼ仲介クローニングのための制限部位、相同および伸長「オーバーラップPCRスティッチング(overlap PCR stitching)」によるインサートDNAのPCRによるクローニングのためのプライミング部位として働く核酸配列の領域、または組換え−交換反応、またはターゲット核酸配列のトランスポゾン介在挿入のためのモザイク末端並びに当該技術分野でよく知られている他の手法によるターゲット核酸配列のリコンビナーゼによる挿入のための組換え部位を含む核酸配列を表す。
好ましい態様では、本発明によるクローニング部位は、少なくとも2つの制限部位を含んでなる。
非制限的例として、配列番号2の配列のクローニングカセットを好ましいクローニングカセットとして挙げることができる。
本発明によって産生しかつ下記に定義されるファージは、その表面に抗体の軽鎖および重鎖、結合ペプチドおよび定常ドメインを含んでなる結合タンパク質を提示する。2個の制限部位は、ベクターに軽および重鎖をコードする配列を挿入することが必要なことがある。
定常ドメイン抗体のドメイン内ループに対応する少なくとも1個のポリペプチドを用いる可変軽および重鎖から構成される一本鎖抗体の形成は、可変軽および重鎖間の結合ペプチドによって導かれる結合によって実現される。
前記結合ペプチドの配列を、ベクターに挿入することができる。それは、本発明で非制限的に例示されているpPL12、pPL14、pPL22およびpPL31ベクターのようなベクターに既に含まれていることもあり、特異的挿入には、追加の制限部位が必要となることがある。
ファージディスプレイカセットは、M13geneIIIタンパク質をコードする核酸配列の総てまたは一部を含んでなることができる。しかしながら、M13geneVII、VIIIまたはIXタンパク質をコードする核酸配列を用いることもできる。
M13geneIIIタンパク質は、M13ファージ由来のタンパク質であり、ファージのキャプシドを形成する複合体の一部である。geneIIIタンパク質は、分泌されるファージの最末端に配置され、キャプシド中のその量は1個のタンパク質に限定されず、数個から5個までのgeneIIIタンパク質を挙げることができる。結合タンパク質をコードする核酸配列は、ベクター上のM13geneIIIタンパク質をコードする核酸配列に隣接して配置される。翻訳後、結合タンパク質は、このようにしてgeneIIIタンパク質に融合する。ファージディスプレイベクター由来の融合タンパク質の発現レベルを調節することによって、ファージゲノム相補性によって提供される野生型pIIIと比較して融合タンパク質のコピー数を調節することができる。理想的には、少数の融合タンパク質をそれぞれのファージキャプシドに組込み、提示される結合分子のアビディティー(avidity)を防止する。
好ましい態様では、ベクターは、ファージディスプレイカセットが、少なくとも配列番号132または133に対応するM13geneIIIタンパク質のC末端ドメインを含んでなる核酸配列を含んでなることを特徴とする。
本発明のもう一つの態様は、M13geneIIIタンパク質のC末端配列のみの使用である。この核酸配列は、ファージに付着してコートタンパク質複合体を形成するタンパク質の一部をコードする。
M13geneIIIタンパク質をコードするC末端配列は、M13geneIIIタンパク質の野生型の核酸配列(配列番号133)を提示する。しかしながら、この核酸配列は、本発明において単一ヌクレオチド突然変異(A328G)に対応する野生型配列(S110G)由来の単一アミノ酸の突然変異により最適化することができる。前記C末端M13geneIIIタンパク質の配列は、大腸菌での発現のためのGeneartによって最適化され、配列番号132に対応している。
最も好ましい態様では、ファージディスプレイカセットは、少なくとも配列番号132に対応するM13geneIIIタンパク質のC末端ドメインを含んでなる最適化した核酸配列を含んでなる。
本発明のもう一つの態様では、本発明によるファージディスプレイカセットは、終止コドンをコードする核酸配列、ファージの複製源をコードする核酸配列、およびカプセル化またはパッケージング配列をコードする核酸配列を含んでなる。
終止コドンは、3個のヌクレオチドから構成される短い配列であり、mRNA翻訳の終了に関与する。任意のアミノ酸をコードしない3個のヌクレオチドの組み合わせが、mRNAのタンパク質へのリボソーム翻訳を終了する。
本発明の終止コドンの配列は、抗体の定常ドメインのドメイン内ループに対応するポリペプチドをコードする核酸配列と、M13geneIIIタンパク質をコードする核酸配列との間に配置されるべきである。終止コドンの機能は、その翻訳(interpretation)が選択される細胞株によって異なるので、本発明のファージディスプレイベクターによって形質転換される宿主株によって変化する。
サプレッサー株の場合には、終止コドンはその株によってアミノ酸として認識される。従って、翻訳は中断されず、翻訳産物は、geneIIIタンパク質とファージ表面上で発現させた結合分子との融合体である。
非サプレッサー株の場合には、終止コドンを認識して、翻訳を停止する。従って、翻訳産物は結合分子である。非サプレッサー株は、結合パートナーと複合体形成の目的で一本鎖抗体をスクリーニングし検出した後に結合分子のみを産生するのに用いることができる。それは、geneIIIタンパク質に結合することなしにファージの表面上に提示される一本鎖抗体の構造の分析に用いることもできる。
3個の終止コドンが報告されており、3種類のヌクレオチド、すなわちアンバー終止コドン(TAG)、オーカー終止コドン(TAA)およびオパール終止コドン(TGA)から構成されている。
好ましい態様では、本発明のファージディスプレイカセットの終止コドンはアンバー終止コドンである。
ファージディスプレイカセットにおける「複製源」は、ファージの複製源であり、完全なファージゲノムの相補性により、ファージ源の配列および一本鎖DNAとしてベクター上に支持されている目的とする結合タンパク質をコードする配列の複製を開始して、後で組換えファージでカプセル化することができるものである。
従って、ファージの複製源は、一本鎖DNA形態としてのベクターの複製を促進した後、ファージ粒子中にカプセル化することができる。一本鎖ベクターDNAは、完全なファージゲノム相補性により、バクテリオファージキャプシドにカプセル化される。
本発明のファージの複製源の核酸配列は、好ましくは、529位のヌクレオチドA(配列番号3)による単一ヌクレオチド、すなわちヌクレオチドG(配列番号6)の突然変異を含むM13ファージの非野生型配列であることができる。前記突然変異により、更に多くのファージ粒子が産生される。
「パッケージングシグナル」は、目的とする結合タンパク質をコードする配列およびファージ源の配列の保護および機能的キャプシドへのパッケージングの調節に関与するファージヌクレオチド配列である。目的とする結合タンパク質をコードする核酸配列を含むファージのゲノムをパッケージするためには、パッケージングシグナルが本発明のファージディスプレイベクターに含まれていることが必要である。相補性に用いられるファージゲノムは、パッケージングシグナルにおいて弱められ、本発明のベクターが優先的にパッケージングされる。
本発明のパッケージングシグナルの核酸配列は、M13ファージの野生型配列であることができるが、好ましくは、単一ヌクレオチドの突然変異、すなわち784位のヌクレオチドA(配列番号3)によるヌクレオチドG(配列番号6)の突然変異を含む。前記突然変異は、M13野生型パッケージングシグナルを有する突然変異よりも優れた可溶性の組換えファージおよび目的とするタンパク質を付与する。
非制限的例としては、配列番号3、6および149の配列のファージディスプレイカセットからなる群から選択されるファージディスプレイカセットを挙げることができる。
本発明のもう一つの態様では、ファージディスプレイベクターの前記細菌カセットは、プロモーターをコードする核酸配列と、正の選択マーカーをコードする核酸配列と複製源をコードする核酸配列とを少なくとも含んでなる。
本発明による細菌カセットは、プロモーターをコードする核酸配列を含んでなる。前記プロモーターは、正の選択可能マーカーをコードする遺伝子の転写に関与する。
好ましい態様では、細菌カセットのプロモーターは、β−ラクタマーゼプロモーターであることができる。
「正の選択マーカー」は、ベクターに導入され、前記ベクターにより形質転換した細菌を選択し、培養において保持するための核酸である。このような核酸配列は、阻害性RNAのような、遺伝子または任意の代替調節配列であることができる。
好ましい態様では、前記正の選択マーカーは、アンピシリンまたはクロラムフェニコール耐性遺伝子であることができる。
形質転換の正の効果を示す宿主細胞、すなわち、ベクターが導入されて、そのままになっている細胞は、抗生物質を含む培地では、選択マーカー遺伝子によって宿主に前記抗生物質耐性が付与されるため、生存し増殖することができるようになる。
本発明によるベクターは、必要ならば、転写ターミネーターをコードする核酸配列を更に含んでなることができる。
「転写ターミネーター」は、mRNAへの遺伝子、本明細書では正の選択マーカーをコードする遺伝子のRNAポリメラーゼ転写を終了するヌクレオチド配列である。抗体の可変領域、抗体の定常ドメインまたは定常ドメインのドメイン内ループと、M13geneIIIタンパク質とをコードする核酸配列の転写は、クローニングカセットのプロモーターの制御下にある必要がある。従って、選択マーカーの転写は、細菌カセットプロモーターの制御下にあるので、停止される必要がある。
転写ターミネーターの核酸配列は、優先的に選択可能マーカーをコードする遺伝子に隣接したファージディスプレイベクターに配置される。
もう一つの態様では、本発明の細菌カセットは、複製源を含んでなる核酸配列を含んでなる。この複製源は、形質転換の後、細菌宿主でベクターを複製することができる。
非制限的例としては、配列番号4、8および150の配列の細菌カセットからなる群から選択される細菌カセットを挙げることができる。
もう一つの好ましい態様によれば、本発明は、本明細書ではpPL12と呼ばれ、配列番号1の核酸配列を含んでなる最小化ファージディスプレイベクターを説明する。
もう一つの好ましい態様によれば、本発明は、本明細書ではpPL14と呼ばれ、配列番号5の核酸配列を含んでなる最小化ファージディスプレイベクターを説明する。
もう一つの好ましい態様によれば、本発明は、本明細書ではpPL22と呼ばれ、配列番号7の核酸配列を含んでなる最小化ファージディスプレイベクターを説明する。
もう一つの好ましい態様によれば、本発明は、本明細書ではpPL31と呼ばれ、配列番号148の核酸配列を含んでなる最小化ファージディスプレイベクターを説明する。
本発明のもう一つの態様は、本発明による最小化ファージディスプレイベクターのライブラリーを工学処理する方法であって、
a)本発明の最小化ファージディスプレイベクターに結合タンパク質をコードする核酸配列を挿入し、
b)宿主細胞を前記最小化ファージディスプレイベクターで形質転換する
段階を含んでなることを特徴とする、前記方法である。
「ファージディスプレイベクターのライブラリー」は本発明によるベクターの集合、または前記ベクターを含む宿主細胞であって、前記ベクターのそれぞれは、ベクター毎に異なる結合タンパク質をコードする配列を含んでなる。
「宿主細胞」は、発現ベクター上に配置されている目的とする遺伝子の発現に用いられる生物である。前記ベクターは、それ自身で複製することができるが、複製、転写および翻訳のような種々の生物学的反応のための宿主の生物学的材料を必要とする。従って、宿主細胞は、本発明のファージディスプレイベクターがファージゲノム相補性によって結合分子をその表面に発現させるファージのライブラリーを複製および産生する細胞である。
本発明のファージディスプレイベクターのライブラリーを工学処理する前記方法の段階a)は、制限消化、相同組換えまたはLigation independent cloning法のような当該技術分野で知られている手法で行うことができる。
前記方法の段階b)は、非制限的例として、化学または熱ショック形質転換によって、または好ましい態様では、電気穿孔によって行うことができる。
本発明のもう一つの態様は、上記のようにファージの前記ライブラリーの工学処理の方法から得た最小化ファージディスプレイベクターから構成されるライブラリーである。
好ましい態様では、段階b)の宿主細胞は、大腸菌株TG1、XL1−Blue、XL1−Blue MRF’、K12 ER2738細胞からなる群から選択することができる。
本発明の好ましい実現では、宿主細胞は大腸菌TG1である。
本発明のもう一つの態様は、最小化ファージのライブラリーの産生方法であって、前記方法は、前記ベクターのライブラリーを工学処理する2段階と、バクテリオファージタンパク質I〜XIの相補性によるファージ−結合タンパク質複合体の複製、カプセル化および分泌の追加段階c)とを含んでなる。
「ファージのライブラリー」は、ファージの集合であって、それぞれがその表面にファージ毎に異なる結合タンパク質を発現させるものである。従って、ファージのライブラリーは、目的とする結合タンパク質を、結合パートナーを用いてスクリーニングすることに使用できる。ファージ、その表面で発現した結合タンパク質および前記結合パートナーの間で複合体を形成することによって、どのファージが目的とする結合タンパク質を発現させるかについて決定することができるようになる。複合体を選択した後、ベクター上の配列を分析して、目的とする結合タンパク質をコードする正確な配列を得る。
段階c)の相補性は、M13KO7、R408、VCSM13のような複製およびパッケージングに無能なヘルパーファージの添加によって、またはファージミドベクターの複製および分泌を補足するのに必要なファージタンパク質を発現させることができる宿主細胞の段階b)の形質転換によって達成することができる。
本発明のもう一つの態様は、上記のようにファージの前記ライブラリーの産生方法から得られるファージから構成されるライブラリーである。
本発明の更にもう一つの態様は、上記のようにファージのライブラリーの産生方法から得られるファージであって、目的とする結合タンパク質をその表面上に発現させる、前記ファージである。
本発明は、結合パートナーに特異的な目的とする結合タンパク質のスクリーニングの方法に関するものであって、
a)結合パートナーを本発明によるファージのライブラリーと接触させ、
b)目的とする結合タンパク質および結合パートナーによって形成された複合体を選択し、
c)前記の目的とする結合タンパク質をコードする配列をベクターから抽出し、および
d)目的とする結合タンパク質を産生する
段階を含んでなる、方法にも関する。
結合パートナーは、抗体が選択的に結合することができる合成または天然の分子またはタンパク質である。結合パートナーは、ポリペプチド、多糖類、炭水化物、核酸、脂質、ハプテン、または他の天然に存在するまたは合成化合物であってもよい。
前記の結合タンパク質をスクリーニングする方法の段階a)は、前記結合タンパク質を表面上で発現させるファージのライブラリーに結合パートナーを接触させることによって行うことができる。結合パートナーは、細胞の表面で自然に発現させることができるか、または固定されるもしくは溶液中にいることができる。
結合タンパク質と結合パートナーによって形成される複合体の選択の段階b)は、非制限的例として、pH、温度、溶媒、塩濃度、関連する結合パートナーに対する交差反応性および低濃度の利用可能な結合パートナーへの結合によって決定される親和性などの選択基準を用いて行うことができる。所望な条件で結合パートナーに結合タンパク質を保持しない結合複合体は除かれる。
選択した結合タンパク質をコードする配列の抽出の段階c)は、非制限的例として、宿主細胞の選択したファージ−結合タンパク質複合体による再感染、細胞増殖および選択した結合タンパク質をコードするベクターDNAの回収によって行うことができる。
選択した結合タンパク質の産生の段階d)は、非制限的例として、ベクターの非サプレッサー細菌宿主細胞への形質転換によって行うことができる。アンバー終止コドンTAGは、このようにして終止コドンとして認識され、結合タンパク質は、可溶性残基として発現する。もう一つの態様では、結合タンパク質の代替発現系への選択的クローニングによって達成することができる。
本発明は、ベクターのライブラリーを生成するための本発明の最小化ファージディスプレイベクターの使用であって、好ましくは、
a)結合タンパク質をコードする核酸配列を本発明の最小化ファージディスプレイベクターに挿入し、
b)宿主細胞を前記ファージディスプレイベクターで形質転換する
段階を含んでなる、使用も包含する。
本発明は、ファージのライブラリーを生成するための本発明の最小化ファージディスプレイベクターの使用であって、好ましくは、
a)結合タンパク質をコードする核酸配列を本発明の最小化ファージディスプレイベクターに挿入し、
b)宿主細胞を前記ファージディスプレイベクターで形質転換し、および
c)バクテリオファージタンパク質I〜XIの相補性によるファージ−結合タンパク質複合体の複製、カプセル化および分泌の段階
の段階を含んでなる、使用も包含する。
本発明は、結合パートナーに特異的な結合タンパク質のスクリーニングのための最小化ファージディスプレイベクターの使用を扱うものであって、好ましくは、
a)前記結合パートナーを本発明によるファージのライブラリーと接触させ、
b)結合タンパク質と結合パートナーとによって形成した複合体を選択し、
c)前記結合タンパク質をコードする核酸配列を最小化ファージディスプレイベクターから抽出し、および
d)結合タンパク質を産生する
段階を含んでなる、使用である。
本発明は、また本発明の最小化ファージディスプレイベクターと、特異的プライマーと、サプレッサー細胞株とを少なくとも含むキットを含んでなる。
「サプレッサー細胞株」とは、終止コドンを認識しアミノ酸をその代わりに挿入するトランスファーRNAを含んでなる細菌株を表すことを目的とする。
このようなサプレッサー細胞株の非制限的で好ましい例としては、サプレッサー細胞株TG1、XL1−blue、ER2738、ER2267およびHB101を挙げることができる。
本発明の最も好ましい態様では、キットの特異的プライマーは、配列番号9〜85の核酸プライマーからなる群から選択される。
本発明の他の特徴および利点は、実施例および凡例が下記に示されている図の説明において更に明らかになる。
明らかなドメイン内ループを有する免疫グロブリン構造。
それぞれ27および87位に、明らかに、2つのシステイン残基を有するヒトカッパ軽鎖の定常ドメインアミノ酸配列。
それぞれ27および86位に、明らかに、2つのシステイン残基を有するヒトラムダ軽鎖の定常ドメインのアミノ酸配列。
それぞれ26および82位に、明らかに2つのシステイン残基を有するガンマ重鎖のヒト定常ドメインCH1のアミノ酸配列。
pPL12ベクター。
pPL14ベクター。
pPL22ベクター。
大腸菌株TOP10の形質転換効率(cfu/ml)。
大腸菌株TOP10の形質転換効率(cfu/μgDNA)。
pPL12およびpCANTABの間の一本鎖抗体ファージ産生に対するIPTG誘導の効果。
産生されたファージ/mlとベクターサイズとの関係。
ベクターpPL12およびpPL14を用いて形質転換し、ヘルパーファージM13KO7に感染させた大腸菌株TG1からのファージ産生の比較。
pPL20ベクター。
pPL31ベクター。
例1:ベクター構築
ベクターpPL12(図5)の構築は、関連する制限酵素を用いる核酸の制限消化後の合成DNAとPCR産物との集合、および消化産物のライゲーションによって行った。
Lacプロモーター、pelBシグナルペプチド、クローニング部位、連結ペプチド、ヒトカッパ2定常ドメイン、6ヒスチジンタグおよびアンバー終止コドンを含んでなるクローニングカセットは、Geneart AG(レーゲンスブルク,ドイツ)によって合成された。Hind III制限部位を、ベクター構築を促進するため5’末端に包含した。クローニングカセットを、バクテリオファージM13geneIIIタンパク質のC末端ドメインと融合して合成し、コドン配列を大腸菌宿主での発現のためにGeneart AGにより最適化した。EcoR I制限部位を、合成中に終止コドンに続いてバクテリオファージM13geneIIIタンパク質のC末端ドメインの3’末端に導入した。合成したDNA断片は、1032bp断片からなり、末端にHind IIIおよびEcoR I制限部位を有した。この断片のHind IIIおよびEcoR Iによる制限消化により、1026bpの生成物を得た。
ファージディスプレイカセットの残りの部分を、オリゴヌクレオチドプライマーM13oriPSApaIおよびM13oriPSEcoRIを用いてファージディスプレイベクターpCANTAB5E(Amersham lifesciences)からPCRによって増幅した。
M13oriPSApaI:
5’−GGGCCCACGCGCCCTGTAGCGGCGCATTAAG−3’ (配列番号86)
M13oriPSEcoRI:
5’−GAATTCCCGAAATCGGCAAAATCCCT−3’ (配列番号87)
生成するPCR産物は、末端にEcoR IおよびApa I制限部位を有する393bp断片であった。この断片をEcoR IおよびApa Iにより制限消化を行い、391bpの産物を得た。
細菌カセットを、オリゴヌクレオチドプライマーBlaProApaIおよびpUCOriHindIIIを用いてクローニングベクターpUC19からPCRによって増幅した。
BlaProApaI: 5’−GGGCCCACTTTTCGGGGAAATGTGC−3’ (配列番号88)
pUCOriHindIII: 5’−AAGCTTATCAGGGGATAACGCAGG−3’ (配列番号89)
生成するPCR産物は、末端にApa IおよびHind III制限部位を有する1835bp断片であった。この断片をApa IおよびHind IIIにより制限消化を行い、1829bpの産物を得た。
3個のDNA断片1026bp、391bpおよび1829bpを互いに連結し、適合性突出末端によって配向を確かめ、クローニングカセット(配列番号2)、ファージディスプレイカセット(配列番号3)および細菌カセット(配列番号4)を含んでなる3246bpのベクターpPL12を生成した。
ライゲーション産物を、熱ショック形質転換によって大腸菌細胞に形質転換した。生成する正の形質転換体(アンピシリンの存在に耐性)を選択し、プラスミド配列を標準的DNAシークエンシング法によって確かめた。
ベクターpPL14を、オリゴヌクレオチドプライマーM13ori1QcSおよびM13ori1QcAS、並びにM13ori2QcSおよびM13ori2QcASを用いてベクターpPL12の部位特定突然変異誘発によって生成した。プライマーカップルM13ori1QcSおよびM13ori1QcASは、A>G突然変異を導入して、ファージディスプレイカセット(配列番号6)の784bp位におけるM13パッケージングシグナルにM13野生型配列を再生する。プライマーカップルM13ori2QcSおよびM13ori2QcASは、A>G突然変異を導入して、ファージディスプレイカセット(配列番号6)の529bp位におけるM13複製源にM13野生型配列を再生する。
M13ori1QcS CTTGCCAGCGCCCTAGCGCCCGCTCC (配列番号139)
M13ori1QcAS CTAGGGCGCTGGCAAGTGTAGC (配列番号140)
M13ori2QcS CAACACTCAACCCTATCTCG (配列番号141)
M13ori2QcAS AGGGTTGAGTGTTGTTCC (配列番号142)
位置特定突然変異誘発は、ベクターpPL12 50ngを、それぞれ10μMの濃度の第一のM13ori1QcSおよびM13ori1QcASと、それぞれ10mMのdNTP混合物2μl、Pfu ultra(Stratagene)用10x濃縮反応緩衝液5μlとインキュベーションすることによって行い、反応はH2Oで50μlにした。反応混合物を94°Cで30秒間変性した後、12サイクルの増幅を94°Cで30秒間に続いて55°Cで30秒間および98°Cで3分間行った。反応後、親プラスミドを制限エンドヌクレアーゼDpn Iで処理することによって除去した。消化産物を、熱ショック形質転換によって大腸菌細胞に形質転換した。生成する正の形質転換体(アンピシリンの存在に耐性)を選択し、プラスミド配列を標準的DNAシークエンシング法によって確かめた。同じ手続きを、正のクローンについてプライマーカップルM13ori2QcSおよびM13ori2QcASを用いて行い、第二の突然変異を導入した。生成する正の形質転換体(アンピシリンの存在に耐性)を選択し、プラスミド配列を標準的DNAシークエンシング法によって確かめ、ベクターpPL14を得た。
ベクターpPL22を、細菌カセットにおいて余分なヌクレオチド配列を除外した産物を生成するプライマーを用いてpPL14のPCR増幅によって生成した。プライマーpPL12SenseApaIおよびpPL12ApaIASを用いるPCR増幅は、制限エンドヌクレアーゼApa Iで処理すると、再連結(religate)してファージディスプレイカセットと細菌カセットの間に53bpを欠いている産物を生成するPCR産物を生じた。ライゲーション産物を、熱ショック形質転換によって大腸菌細胞に形質転換した。生成する正の形質転換体を選択し、プラスミド配列を標準的DNAシークエンシング法によって確かめた。この材料を、プライマーSeq1sおよびpPL12HindIIIASを用いるPCR増幅の鋳型として用い、生成するPCR産物を制限エンドヌクレアーゼHind IIIで処理し、再連結した。生成する再連結産物は、細菌カセットとクローニングカセットの間に84bpを欠いていた。ライゲーション産物を、熱ショック形質転換によって大腸菌細胞に形質転換した。生成する正の形質転換体を選択し、プラスミド配列を標準的DNAシークエンシング法によって確かめ、pPL12または14に134bp未満の細菌カセット(配列番号4)を含む新規な細菌カセット(配列番号8)を含んでなる3109bpのベクターpPL22(配列番号7)を生成した。
pPL12SenseApaI
GCATGGGCCCTTCAAATATGTATCCGCTCA(配列番号143)
pPL12ApaIAS
GCGCACATTTCCCCGAAAAG(配列番号144)
Seq1s
TTTGCTGGCCTTTTGCTCAC(配列番号145)
pPL12HindIIIAS
GCATAAGCTTTTTCCATAGGCTCCGCCCCCCTGAC(配列番号146)
例2:ライブラリー生成
結合分子のライブラリーは、下記の方法で生成させることができる。
RNAを、適当な宿主、理想的にはヒトリンパ球から抽出する。次いで、所望な結合パートナーをコードするmRNAを、所望な結合分子の画定した定常領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてcDNAに再転写する。
次いで、所望な結合分子の可変領域を、前記可変領域の5’および3’末端に相補的なセンスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドのパネルを用いるPCRによって増幅する。センスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドは、前記の増幅した可変ドメインの次のクローニングのための特異的制限部位を組込む。適当な制限酵素を用いて増幅した可変ドメインを制限消化した後、生成するDNA断片を本発明のベクターに連結した後、適合する制限酵素で制限消化することができる。生成した適合性制限部位突出末端により、結合分子の本発明のベクターへの特定クローニングが促進される。本発明のベクターと少なくとも1個の結合分子である生成するライゲーション産物を、次に適当な細菌宿主に形質転換する。
RNA抽出は、好ましくは単離したBリンパ球で行われるが、同様に単離した単核細胞またはヒト血液から得た細胞の赤血球以外の全細胞個体群(total non red blood cell population)で行うこともできる。1000000個の単離した単核細胞の使用に続いてRNeasy miniprep(QIAGEN GmbH)により全RNAを抽出することにより、ライブラリーの生成に十分なRNAが生成される。
全RNAの単離後、cDNA合成をSuperscript III 逆転写酵素を用いて行うが、他の逆転写酵素を用いることもできる。単離した全RNA2μgを、第一のstrand cDNA合成プライマー(配列番号9、10および11)2pmolおよびそれぞれ10mMの濃度のdNTP1μlと混合し、反応容積を13μlとした。
HuCg 5’−TTGACCAGGCAGCCCAGG−3’ (配列番号9)
HuCk 5’−GGAAGATGAAGACAGATGG−3’ (配列番号10)
HuCl 5’−ACGGTGCTCCCTTCATGC−3’ (配列番号11)
生成する混合物を65°Cに5分間加熱した後、氷冷してオリゴヌクレオチドをRNA鋳型にアニーリングする。冷却後、5xFirst−Strand Buffer(250mM Tris−HCl(pH8.3、室温)、375mM KCl、15mM MgCl2)4μl、0.1M DTT 1μl、RNaseOUT(商標)1μl、SuperScript(商標)III RT(200単位/μl)1μlを加え、反応を55°Cで1時間インキュベーションする。反応混合物を70°Cで15分間インキュベーションすることによってSuperScript(商標)酵素を熱不活性化した後、生成するcDNAを、ライブラリー生成プライマーのパネルを用いる結合分子のPCRによる増幅の鋳型として直接用いることができる。センスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドは、単純な対としてまたは所望な結合分子のセンスまたはアンチセンス配向のいずれか一方または両方を表すプールとして用いられる。免疫グロブリンガンマ鎖可変ドメインの増幅のため、1個または複数のセンスオリゴヌクレオチド(配列番号12〜38)を、1個以上のアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号39〜45)と組み合わせて用いる。PCR増幅は、Phire(商標)HotStartDNAポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて行われるが、他のDNAポリメラーゼをその代わりに用いることもできる。増幅は、1μlのdNTS(それぞれ10mM)、最終濃度がそれぞれ0.5μMのセンスオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、最終濃度がそれぞれ0.5μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、10μl 5xPhire(商標)Reaction緩衝液、0.5〜1μl cDNA合成産物および1μl Phire(商標)HotStartDNAポリメラーゼの混合物を調製することによって行われる。増幅は、Applied Biosystems 9700サーマルサイクラーで、初期変性98°Cx30秒間に続いて98°Cx5秒間、60°Cx5秒間および72°Cx20秒間を30サイクル、72°Cで1分間の最終伸長段階のサイクリング条件で行い、反応を4°Cに保持した後、−20°Cで保管しまたは利用する。免疫グロブリンカッパまたはラムダ鎖可変ドメインの増幅は、同様に、センスオリゴヌクレオチドをそれぞれ1個以上の選択配列番号46〜58または63〜80およびアンチセンスオリゴヌクレオチドをそれぞれ配列番号59〜62または81〜85で置換して行われる。
その後の制限消化を改良するため、プロテイナーゼK(20mg/ml)1μlをPCR反応に加え、37°Cで30分間インキュベーションした後、70°Cで15分間熱不活性化することができる。この段階では、増幅したDNAの末端に付着したままになって制限消化を妨げることがあるポリメラーゼが効果的に除去される。
増幅後、可変ドメインを制限酵素の組み合わせで処理し、本発明のベクターへの特異的クローニングを促進する。カッパおよびラムダ可変ドメインおよび本発明のベクターの調製物を、制限エンドヌクレアーゼSal IおよびMlu Iで消化する。制限消化したDNAを、ゲル電気泳動によって望ましくないDNA断片から精製し、Nucleospin Extract II(Machery Nagel)により所望なDNA断片を単離する。次いで、生成する精製DNAを連結して、本発明のベクターにおけるカッパまたはラムダ可変ドメインを生成する。次いで、生成するライゲーション産物を、熱ショック形質転換によってコンピテント大腸菌TOP10細胞(Invitrogen)に形質転換する。熱ショックの後、細胞を100μg/mlアンピシリンを含む選択寒天プレートに播種し、組換えベクターを含む細胞だけが生き残るようにする。形質転換細胞は免疫グロブリンカッパまたはラムダ可変ドメインライブラリーを表し、クローニングした可変ドメインに先行する本発明のベクターに終止コドンが存在すると、タンパク質発現を防止し、ベクターが保持される。
形質転換細胞を選択寒天プレートから回収し、カッパまたはラムダ可変ドメインライブラリーDNAを標準的プラスミド精製手法によって回収する。
本発明のベクターに存在する免疫グロブリンガンマ鎖可変ドメインおよびカッパまたはラムダ軽鎖可変ドメインライブラリーを、このオリゴヌクレオチドで増幅したラムダ可変ドメインをコードする生殖細胞系にNco I制限部位の存在が同定されているためSfi IおよびMfe Iで制限消化されるHuVL9(配列番号71)で生成したラムダ可変ドメインライブラリーを除き、制限エンドヌクレアーゼNco IおよびMfe Iで制限消化する。制限消化したDNAを、ゲル電気泳動により望ましくないDNA断片から精製し、Nucleospin Extract II(Machery Nagel)により所望なDNA断片を単離する。次いで、生成する精製DNAを連結して、本発明のベクターにおけるガンマまたはカッパまたはラムダ可変ドメインのライブラリーを生成する。次いで、生成するライゲーション産物を、電気穿孔によってコンピテント大腸菌XL1−Blue、XL1−Blue MFR’またはTG1スーパーコンピテントセル(Stratagene)に形質転換し、形質転換体の最大数を確保し、これが次に生成ライブラリーに存在する様々な結合分子を指示する。多重ライゲーションおよび形質転換を行って、生成する結合分子ライブラリーの多様性を増加させることができる。
生成する形質転換体は、M13KO7(New England Biolabs)のようなヘルパーファージの添加によって結合分子のライブラリーを提示するファージ粒子を生成させることができ、または20%グリセロール(v/v)およびグルコースを添加して最終濃度を5%(v/v)とすることによって−80°Cで保管することができる。
例3:最適化ファージディスプレイベクターの形質転換効率の改良
細菌宿主形質転換効率に対するベクターサイズの減少効果を検討するため、大腸菌TOP10熱ショックコンピテントセルの試験形質転換を行った。同数の細胞を、0.5〜10fmolesのベクターDNAコピーの範囲で形質転換した。同じDNA濃度の形質転換では、形質転換されるより小さなベクターが有意に多数のコピーを生成するので、特定数の形質転換したベクター分子を形質転換効率のより正確な表現と考えた。本発明者らのこの考え方は、本発明に記載のベクターに著しく役立つものである。
細胞を、氷上で0.5、1、2または10fmolesのpPL12またはpCANTABのいずれかと共に30分間インキュベーションした。42°Cの熱ショックを、正確に45秒間加えた。次いで、細胞を更に2分間氷上で冷却した。その後、細胞を回収培地でインキュベーションした後、選択寒天プレートで培養した。37°Cで一晩インキュベーションした後、コロニー数を評価した。
熱ショックによる大腸菌TOP10細胞の形質転換効率は、pPL12 10fmolesの形質転換が、形質転換細胞1ml当たりでは、pCANTABの4.5倍を上回る形質転換体を生じることを示した(図8)。
形質転換したDNA1μg当たりの形質転換効率は一般的表現であり、それ自体が比較のために測定された。ベクターpPL12またはpCANTABのDNA 1μg当たりの形質転換効率は、DNA濃度が0.5〜10fmolesで増加するにつれて減少する。DNA 1μg当たりの最高形質転換効率は、最低DNA濃度(0.5fmoles)で達成され、この条件では、pPL12は、pCANTABの4.5倍を上回るコロニー形成単位(cfu)を得た(図9)。
例4:ファージ粒子への結合ドメイン融合の調節
ファージ粒子に融合した結合ドメインのバックグラウンド発現の程度を決定するため、癌遺伝子cMETに対する抗体の重および軽鎖可変ドメインをpPL12およびpCANTABのクローニングカセットでシス型にクローニングした。生成する融合タンパク質は、pPL12ではM13プロテイン3のC末端ドメインに融合したscFv−Fcであり、pCANTABの場合にはバクテリオファージM13コンプリート・プロテイン(complete protein)3に融合したscFvであった。
関連するベクターを含む大腸菌TG1細胞を、中間対数期まで選択増殖培地でインキュベーションし(OD600nm 0.6)、この時点でヘルパーファージM13KO7を20:1の感染多重度で培養物に加えた。lacプロモーターを、0、10または100nMの濃度の擬似アロラクトースであるイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することによって誘導した。30°Cで一晩インキュベーションした後、産生したファージを沈澱によって精製し、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)で回収した。次いで、得られたファージを、飽和ポリエチレン96ウェルプレートに固定した固定化cMET分子に0.7μg/mlの濃度でタイトレーションした。十分に洗浄した後、プロテイン3の全部(pCANTAB)または部分(pPL12)に融合した機能的結合ドメインを介して保持されているファージを、ファージコートタンパク質のプロテイン8に特異的な抗体であって、比色検出を促進するため西洋ワサビペルオキシダーゼ標識した抗体によって検出した。
IPTGの非存在下では、pPL12は、pCANTABによって発現したクローンの3.5分の1の結合シグナルを示し(図10)、pCANTABによって抑制されない発現のレベルが高くなることを示している。結合ドメイン−プロテイン3融合体の10または100nMのIPTGによる誘導は、2つの発現ベクターからの適合する結合シグナルを生じ、pPL12ベクターからの一層緊密に制御されているが高誘導性なタンパク質発現を示している。ベース発現が低くなれば、ライブラリー個体群において一層毒性の高いクローンの保持が促進されるので、好ましい。
例5:ベクターサイズに関するファージ産生
感染した大腸菌宿主細胞からのファージの産生に対するベクターサイズの効果を、共に3246bpのベクターpPL12およびpPL14、4522bpのpCANTABならびに4728bpのpPL2の比較によって評価した。ベクターpPL12およびpPL14は、ファージディスプレイカセットの2個のヌクレオチド位置だけが異なっており、pPL2は完全長のM13プロテイン3ならびに野生型M13源または複製およびパッケージングシグナルを含むが、抗体の定常ドメインを欠いている。
それぞれのベクターで形質転換した大腸菌TG1細胞を、選択増殖培地で中間対数期まで増殖させ(OD600nm 0.6)、ヘルパーファージM13KO7を20:1の感染多重度で感染させた。一晩増殖した後、産生したファージを沈澱によって増殖培地から回収し、次いでタイトレーションを行い、中間対数期の大腸菌TG1細胞に感染させた。感染細胞を選択増殖培地に播種し、コロニー形成単位(ファージに感染し、選択的増殖マーカーを発現する細胞)を計数した。ベクターサイズが増加すると、得られたコロニー形成単位の数が増加し、ファージ産生レベルが低くなることが観察された(図11)。
いずれも3246bpを含んでなる試験した最小ベクターpPL12およびpPL14は、サイズが4522bpであり5.75x1012のコロニー形成単位を産生したpCANTABと比較して、9x1012を産生した。産生したコロニー形成単位の差は、ベクターサイズの差にかなり匹敵し、pCANTABは、ファージ産生が1.5分の1であるpPL12の1.4倍も多い。
例6:ファージディスプレイカセットでの野生型または突然変異体残基の評価
pPL12のファージディスプレイカセットの複製およびパッケージングシグナルのM13源における突然変異体または野生型残基の影響を、ファージディスプレイカセットに野生型残基を含むこと以外、pPL12と同一のベクターpPL14と比較することにより評価した。
ベクターpPL12およびpPL14で形質転換した大腸菌TG1細胞を、選択増殖培地で中間対数期(OD600nm 0.6)まで増殖させ、ヘルパーファージM13KO7を20:1の感染多重度で感染させた。一晩増殖した後、産生したファージを沈澱によって増殖培地から回収し、次いでタイトレーションを行い、中間対数期の大腸菌TG1細胞を感染させた。感染細胞を、ベクターを含む細胞を選択するための抗生物質アンピシリン(100μg/ml)、またはパッケージングしたヘルパーファージM13KO7に感染した細胞を選択するためのカナマイシン(25μg/ml)のいずれかを含む選択増殖培地で培養した。アンピシリン耐性を有するファージに感染することによって産生したコロニー形成単位の数を計数し(棒グラフ)、産生したヘルパーファージのコンタミネーションの割合をこの値の割合(三角)として表した(図12)。
ベクターpPL12は、pPL14の2倍以上のファージ粒子を産生し、ヘルパーファージのコンタミネーション数の半分を含んでいた(pPL14の1.4%に対して0.7%)。pPL12ファージディスプレイカセットのM13源およびパッケージングシグナルにおける非野生型ヌクレオチドは、pPL14に対する差のみであり、ファージ産生の増加およびヘルパーファージゲノムのカプセル化の減少を説明している。
例7:減少サイズベクターの限界
ベクターpPL12のサイズを更に減少させるため、細菌カセットの要素をPCRによって増幅し、選択マーカー遺伝子blaRおよび複製の細菌源に隣接する非コードヌクレオチド領域を除去した。選択マーカー遺伝子blaRおよびその構成プロモーター領域を、プライマーblaRHindIII(配列番号134)およびblarRBamHI(配列番号135)を用いてpPL12から増幅し、制限エンドヌクレアーゼHindIIIおよびBamHIで制限消化の後、933bp断片を得た。複製pMB1の細菌源を、プライマーpMB1BamHI(配列番号136)およびpMBApaI(配列番号137)を用いてpPL12から増幅し、制限エンドヌクレアーゼBam HIおよびApa Iによる制限消化の後、595bp断片を得た。制限エンドヌクレアーゼHind IIIおよびApa IによるpPL12の制限消化により、クローニングおよびファージディスプレイカセットを含む1417bpの断片を得た。933bp、595bpの2つのDNA断片のライゲーションにより、1528bpの新規な細菌カセット(配列番号138)を得た。
新規な細菌カセットとpPL12からの1417bp断片のライゲーションにより、2945bpのベクターpPL20(配列番号147、図13)を得た。複製の細菌源および選択マーカー遺伝子blaRに加える制限部位を、選択マーカーblaRの構成的発現が挿入された結合パートナーのポリシストロン性の読み(polycistronic read)を引き起こさないように選択した。ライゲーション産物を、熱ショック形質転換によって大腸菌細胞に形質転換した。多数の場合について行った生成構築物の多数の形質転換では、ライゲーションおよび形質転換により繰り返し数百の正のクローンを生じたベクターpPL12、pPL14およびpPL22とは対照的に形質転換体が得られなかった。
変異体pPL20の形質転換体を得ることができなかったことは、限界が、抹消されることがあるベクターの非コード領域に存在することを示している。pPL20とpPL22の差は、pPL22の複製の細菌源と選択マーカー遺伝子blaRの間の170bpの領域であり、これは、pPL20では制限エンドヌクレアーゼBam HIについての6bpの認識部位によって置換された。
例8:代替の正の選択マーカー
遺伝子クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(catR)についてのオープンリーディングフレームは、β−ラクタマーゼ遺伝子より201bpだけ短い。従って、ベクターpPL12のサイズは、β−ラクタマーゼをコードする遺伝子を、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子で置換することによって減少させることができる。
catR遺伝子を、プライマーfwCATpPL30FspIおよびrevCATpPL30AhdIを用いてベクターpBeloBAC11(New England Biolabs)からPCRによって増幅した。Fsp I制限部位を、プライマーfwCATpPL30FspI(配列番号151)に導入し、Ahd I部位をプライマーrevCATpPL30AhdI(配列番号152)に導入した。ベクターpPL12を、制限酵素Ssp IおよびAhd Iで消化した。Fsp IおよびSsp Iは平滑末端カッターであり、PCR産物を特異的にクローニングすることができた。配列を、catR ORFのシークエンシングによって明らかにした。catR遺伝子に含まれるNco I部位を、プライマーFwpPL30NcoICATdel(配列番号153)およびRevpPL30NcoICATdel(配列番号154)を用いる部位特異的突然変異誘発によるサイレント突然変異の導入によって除去した。
生成するベクターpPL31(配列番号148)を、抗体断片の発現について試験した。pPL31からの発現レベルは、pPL12から検出されたものに匹敵した。
例9:人工的制限部位の生成
人工的制限部位を、ベクターpPL31の構築中に導入した。前記制限部位は、ベクターのセンスおよびアンチセンス鎖の両方に対するニッキング酵素Nt.BbvCIの2個の認識部位を導入することによって生成した。Nt.BbvCI部位を、プライマーFwNbBbvCI17Nkan(配列番号155)およびRevNbBbvCI17Nkan(配列番号156)を用いる関連性のないDNA断片のPCR増幅によってベクターに導入した。PCR産物を、ファージディスプレイカセットのEco RI部位にクローニングした。Nt.BbvCIによる開裂および生成するベクターの再連結により、Nt.BbvCI部位を含むDNA配列CCTCAGCGTTCAGAGTTATGGCTGAG(配列番号157)を生じた。ベクターを酵素Nt.BbvCIと共にインキュベーションし、17bpの一本鎖DNAオーバーハングを有する反対のDNA鎖に2個のニックを生じる。人工的制限部位は、シークエンシングによって明らかにした。
新規な人工的制限部位は、次の単離クローンの操作のためのベクターの高度に特異的な開裂および再閉鎖を容易にする。