JP2013251454A - 半導体積層体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】膜内組成のバラつきが少なく、且つ粒子サイズ大きく成長した緻密なCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体を比較的低い温度で製造することができる半導体層製造方法を提供する。
【解決手段】基材及び基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体を製造する本発明の方法は下記の工程を含む:(a)CuInS系微粒子分散体を、基材上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜を形成する工程、(b)分散体膜を乾燥及び予備焼結して、予備焼結CuInS系膜を形成する工程、(c)予備焼結CuInS系膜にセレン含有雰囲気を接触させて、予備焼結CuInSe系膜を生成する工程、並びに(d)予備焼結CuInSe系膜に光を照射して、CuInSe系半導体膜を形成する工程。
【選択図】図1

Description

本発明は、基材及びこの基材上に積層されているカルコパイライト系半導体膜を有する半導体積層体の製造方法に関する。特に、本発明は、基材及びこの基材上に積層されているCuInSe(二セレン化インジウム銅)系半導体膜を有する半導体積層体の製造方法であって、CuInS(二硫化インジウム銅)系微粒子を原料として用いる半導体膜の製造方法に関する。また、本発明は、このような本発明の方法によって製造することができる半導体積層体に関する。
近年、薄膜太陽電池の高効率化を目指した研究が多く行われている。これに関して、広いバンドギャップと太陽光領域での強い吸収を特徴とするI−III−VI族化合物半導体、すなわちCuInSe等のカルコパイライト系化合物を用いることが研究されている。また、このような化合物半導体をナノスケールの微粒子として用いて、その粒径の精密制御によってバンドギャップを制御すること(特許文献1〜3)、及び微粒子状の化合物半導体を用いて半導体光電変換膜を製造すること(特許文献4)も提案されている。
なお、粒子状の化合物半導体、特にカルコパイライト系微粒子の製造については、カルコパイライト系化合物を構成する元素の単体及び/又はその元素を含有する化合物を、極性溶媒に溶解させて、原料溶液を得、この原料溶液を加熱して、高温中においてカルコパイライト系微粒子を合成することが提案されている(特許文献1、及び非特許文献1)。またこのような高温の極性溶媒中におけるカルコパイライト系微粒子の製造に関しては、原料溶液を高温及び高圧にする方法(いわゆるソルボサーマル法)(非特許文献1)、及び超臨界状態を利用する方法(特許文献5)も知られている。
このようなカルコパイライト系微粒子を原料として用いてカルコパイライト系半導体膜を製造する場合には一般に、カルコパイライト系微粒子分散体を基材に適用して、この粒子を含有する分散体膜を形成し、この分散体膜を乾燥して予備焼結粒子膜を得、そしてこの予備焼結粒子膜を加熱することによって、カルコパイライト系微粒子を焼結させることが考慮されている(特許文献5)。
なお、カルコパイライト系化合物としては、CuInSe(二セレン化インジウム銅)を用いることが、半導体特性に関して好ましいが、CuInSe系微粒子の合成においては、毒性のあるセレン化合物、特に水素化セレン(HSe)の取り扱いが必要になることがあり、また粒子の小径化も難しかった。
したがって、このようなカルコパイライト系微粒子の焼結による半導体積層体の製造に関して、未焼結CuInS(二硫化インジウム銅)系膜を得、そしてこの未焼結CuInS系膜をセレン含有雰囲気において加熱することによって、未焼結CuInS系膜中の硫黄(S)をセレン(Se)で置換しつつ焼結を行って、CuInSe系半導体層を形成することが提案されている(非特許文献2)。
この非特許文献2では、CuInS系材料の硫黄(S)をセレン(Se)で置換してCuInSeにする場合、結晶格子の体積が約14.6%増加するので、この方法によれば、密なCuInSe系半導体膜、すなわち高い連続性を有するCuInSe系半導体膜を得ることができるとしている。
特開2008−192542号公報 特開2009−57446号公報 特表2007−537886号公報 国際公開第2007/065096号 特開2011−11956号公報
Shikui Han, Mingguang Kong, Ying Guo and Mingtai Wang, "Synthesis of copper indium sulfide nanoparticles by solvothermal method", Materials Letters, Volume 63, Issues 13−14, 31 May 2009, Pages 1192−1194 Qijie Guo, Grayson M. Ford, Hugh W. Hillhouse and Rakesh Agrawal, "Sulfide Nanocrystal Inks for Dense Cu(In1−xGax)(S1−ySey)2 Absorber Films and Their Photovoltaic Performance", Nano LetterS2009, 9 (8), pp 3060−3065
上記の特許文献5及び非特許文献2に記載のように、カルコパイライト系微粒子を原料として用いてカルコパイライト系半導体膜を製造する場合には一般に、加熱によってカルコパイライト系微粒子を焼結させることが考慮されている。
しかしながら、このような加熱による焼結では、積層体全体を焼結温度まで加熱することによって、基材の劣化、及び基材表面、特に基材表面の電極とカルコパイライト系微粒子との間での反応の進行等の問題があった。
したがって、本発明では、CuInSe系半導体膜を有する半導体積層体の製造方法であって、従来の方法の問題点を解消できる方法、及びこのような方法によって製造される半導体積層体を提供する。
本件発明者らは、基材上に積層されている予備焼結CuInS系膜を得、そしてこの予備焼結CuInS系膜中の硫黄(S)をセレン(Se)で置換して、予備焼結CuInSe系膜を得、そしてその後で、予備焼結CuInSe系膜に光を照射することによって、上記の課題を解決して、半導体積層体を製造できることを見出して、下記の本発明を完成するに至った。
〈1〉下記の工程を含む、基材及び上記基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体の製造方法:
(a)分散媒、及び上記分散媒中に分散しているCuInS系微粒子を含有するCuInS系微粒子分散体を、基材上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜を形成する工程、
(b)上記分散体膜を乾燥及び予備焼結して、予備焼結CuInS系膜を形成する工程、
(c)上記予備焼結CuInS系膜にセレン含有雰囲気を接触させて、上記予備焼結CuInS系膜を構成するCuInS系微粒子の少なくとも一部の硫黄をセレンで置換し、それによって予備焼結CuInSe系膜を生成する工程、並びに
(d)上記予備焼結CuInSe系膜に光を照射して、上記予備焼結CuInSe系膜中のCuInSe系微粒子を焼結させ、それによってCuInSe系半導体膜を形成する工程。
〈2〉工程(a)〜(d)にわたって、上記基材の温度が490℃以下である、上記〈1〉項に記載の方法。
〈3〉工程(b)の予備焼結を250℃以上の温度で行う、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の方法。
〈4〉上記予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、20nm以下であり、かつ
上記CuInSe系半導体膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、30nm以上である、
上記〈1〉〜〈3〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈5〉上記基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、
上記CuInSe系半導体膜が、上記モリブデン層上に積層されており、かつ
上記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInSe系材料の最大ピークの強度が、モリブデンの最大ピークの強度の0.40倍以上(CuInSe/Mo)である、
上記〈1〉〜〈4〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈6〉上記基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、
上記CuInSe系半導体膜が、上記モリブデン層上に積層されており、かつ
上記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、モリブデンの最大ピーク及びCuInSe系材料の最大ピークが観察され、かつモリブデンとCuInSe系半導体との反応によって生じうるMoSe系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.10倍以下(MoSe/CuInSe)である、
上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈7〉上記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInS系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.20倍以下(CuInS/CuInSe)である、上記〈1〉〜〈6〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈8〉基材、及び上記基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体であって、下記の(a)〜(g)の特徴を有する、半導体積層体:
(a)上記基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、
(b)上記CuInSe系半導体膜が、上記モリブデン層上に積層されており、
(c)上記CuInSe系半導体膜が、CuInSe系微粒子の焼結体であり、
(d)上記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInSe系材料の最大ピークの強度が、モリブデンの最大ピークの強度の0.40倍以上(CuInSe/Mo)であり、
(e)上記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、モリブデンの最大ピーク及びCuInSe系材料の最大ピークが観察され、かつモリブデンとCuInSe系半導体との反応によって生じうるMoSe系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.10倍以下(MoSe/CuInSe)であり、
(f)上記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInS系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.20倍以下(CuInS/CuInSe)であり、かつ
(g)上記CuInSe系半導体膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、30nm以上である。
〈9〉500℃以上の温度での熱処理を受けていない、上記〈8〉項に記載の半導体積層体。
〈10〉上記〈8〉又は〈9〉項に記載の半導体積層体、上記モリブデン層と反対側の面で上記CuInSe系半導体膜と接している透明電極層を有し、かつ上記CuInSe系半導体膜を活性層として用いる、太陽電池。
半導体層を製造する本発明の方法によれば、連続性が高いCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体を、比較的低い温度で製造することができる。このような低温での半導体積層体の製造は、半導体膜と基材との反応を抑制することによって、良好な半導体特性を有する半導体積層体の製造を可能にし、かつ/又は有機基材のような比較的耐熱性が低い基材の使用を可能にする。また、このような本発明の方法によって得られる半導体積層体は、半導体膜の結晶性が高く、かつ半導体膜の組成の均一性が高いことによって、良好な半導体特性を有し、それによって太陽電池の活性層として用いたときに良好な特性を提供することができる。
また、半導体層を製造する本発明の方法によれば、5nm以下程度までの小径化が容易で、かつ安価に製造できるCuInS微粒子を出発材料として、良好な膜質を有するCuInSe系半導体膜を得ることができる。
図1は、CuInSe系半導体膜を有する半導体積層体を製造する本発明の方法を説明するための図である。 図2は、CuInSe系半導体膜を有する半導体積層体を製造する従来の方法を説明するための図である。 図3は、実施例1で得られた予備焼結CuInSe系膜を有する積層体についてのXRD(X線回折分析)結果を示す図である。 図4は、実施例1で得られたCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体についての(a)XRD結果及び(b)断面SEM写真を示す図である。 図5は、比較例1で得られたCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体についてのXRD結果を示す図である。 図6は、比較例2で得られたCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体についてのXRD結果を示す図である。 図7は、本発明の太陽電池の例を示す図である。
以下、本発明の詳細について説明する。
《半導体積層体の製造方法》
基材及び基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体を製造する本発明の方法は、下記の工程(a)〜(d)を含む:
(a)分散媒、及び分散媒中に分散しているCuInS系微粒子を含有するCuInS系微粒子分散体を、基材上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜を形成する工程、
(b)分散体膜を乾燥及び予備焼結して、予備焼結CuInS系膜を形成する工程、
(c)予備焼結CuInS系膜にセレン含有雰囲気を接触させて、予備焼結CuInS系膜を構成するCuInS系微粒子の少なくとも一部の硫黄(S)をセレン(Se)で置換し、それによって予備焼結CuInSe系膜を生成する工程、並びに
(d)随意の加熱、特に基材の加熱を伴って、予備焼結CuInSe系膜に光を照射して、予備焼結CuInSe系膜中のCuInSe系微粒子を焼結させ、それによってCuInSe系半導体膜を形成する工程。
このような本発明の方法では、工程(c)のセレン化による予備焼結CuInSe系膜の生成と、工程(d)の予備焼結CuInSe系膜の焼結とを別個に行い、かつ工程(d)の焼結を、光照射によって行うことによって、工程(a)〜(d)にわたって、基材の温度を比較的低い温度、例えば500℃以下の温度に維持しつつ、良好な半導体特性を有するCuInSe系半導体膜を得ることができる。
いかなる原理によっても限定的に解釈されるべきものではないが、これは、工程(c)におけるCuInSからCuInSeへの転移の際の格子膨張によって、得られる予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系微粒子間の接触が改良されており、かつ場合によっては、膨脹によって生じる圧縮応力を膜内に維持することができ、それによって工程(d)において光照射による焼結を行ったときに、CuInSe系微粒子間の焼結が促進されることによると考えられる。
以下では、図1及び図2を参照しつつ、本発明の方法と非特許文献2に記載されている従来の方法とを比較することによって、本発明の方法を説明している。
非特許文献2に記載のように、従来、CuInSe系半導体膜を有する半導体積層体の製造では、分散媒1及びCuInS系微粒子2を含有するCuInS系微粒子分散体を、基材22上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜21を形成し(図2(a))、この分散体膜21を乾燥して、未焼結CuInS系膜23を得(図2(b))、そしてこの未焼結CuInS系膜23をセレン含有雰囲気(Se)雰囲気において加熱17することによって、未焼結CuInS系膜23中の硫黄(S)をセレン(Se)で置換してCuInSe系微粒子2’を生成しつつ、焼結を行って(図2(d))、CuInSe系半導体膜5を形成すること(図2(e))が提案されている。
非特許文献2では、CuInS系材料の硫黄(S)をセレン(Se)で置換してCuInSeにする場合、結晶格子の体積が約14.6%増加するので、焼結の際の粒子間の接触が促進され、それによって密なCuInSe系半導体膜、すなわち連続性が高い高品質のCuInSe系半導体膜を得ることができるとしている。
しかしながら、この方法では、セレン(Se)による硫黄(S)の置換及び焼結のために、比較的高い温度で長時間にわたって、積層体を加熱する必要がある。このような加熱による焼結では、上記記載のように、積層体全体を焼結温度まで加熱することによって、基材の劣化、及び基材表面、特に基材表面の電極とカルコパイライト系微粒子との間の反応の進行等の問題があった。
具体的には、このようなセレンによる置換及び焼結のために必要な温度は、焼結する微粒子の粒子径等にも依存するが、均一な品質のCuInSe系半導体膜を得るためには、一般に500℃又はそれ以上の温度が必要であった。これに関して、非特許文献2では、500℃の温度では均一な焼結が達成できたものの、450℃の温度では独自の二層構造のCuInSe系半導体膜が形成されたことを報告している。
これに対して、本発明の方法では、分散媒1及びCuInS系微粒子2を含有するCuInS系微粒子分散体を、基材22上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜21を形成し(図1(a))、分散体膜21を乾燥及び予備焼結して、予備焼結CuInS系膜23を形成し(図1(b))、予備焼結CuInS系膜23にセレン含有雰囲気(Se)を接触させて、予備焼結CuInS系膜23を構成するCuInS系微粒子2の少なくとも一部の硫黄をセレンで置換し、それによってCuInSe系微粒子2’からなる予備焼結CuInSe系膜23’を生成し(図1(c))、そして基材22を随意に加熱しつつ、予備焼結CuInSe系膜23’に光を照射して、予備焼結CuInSe系膜23’中のCuInSe系微粒子2’を焼結させ(図1(d))、それによってCuInSe系半導体膜5を形成している(図1(e))。
〈工程(a)〉
本発明の方法の工程(a)では、分散媒、及び分散媒中に分散しているCuInS系微粒子を含有するCuInS系微粒子分散体を、基材上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜を形成する。
(分散媒)
分散媒は、本発明の目的及び効果を損なわない限り制限されるものではなく、したがって例えばCuInS系微粒子と反応せず、かつCuInS系微粒子を凝集させない有機溶媒を用いることができる。具体的にはこの分散媒は、非水系溶媒、例えばアルコール、アルカン、アルケン、アルキン、ケトン、エーテル、エステル、芳香族化合物、又は含窒素環化合物、特にイソプロピルアルコール(IPA)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等であってよい。また、アルコールとしては、エチレングリコールのようなグリコール(2価アルコール)を用いることもできる。なお、分散媒は、CuInS系微粒子の酸化を抑制するために、脱水溶媒であることが好ましい。
(CuInS系微粒子)
CuInS(二硫化インジウム銅)系微粒子は、本発明の目的及び効果を損なわない限り制限されるものではなく、例えばインジウム(In)の一部がガリウム(Ga)によって置換されていてもよい。CuInS系微粒子は例えば、特許文献5で示されるような方法で製造することができる。
また、CuInS系微粒子は好ましくは、平均一次粒子径が、100nm以下である。したがってCuInS系微粒子の平均一次粒子径は例えば、1nm以上、又は5nm以上であって、100nm以下、50nm以下、30nm以下、又は10nm以下であってよい。平均一次粒子径が比較的小さいことは、工程(c)においてCuInS系微粒子の硫黄をセレンで置換して得られるCuInSe系微粒子の粒子径を小さく維持するために好ましく、CuInSe系微粒子の粒子径が小さいことは、光による焼結を行うために好ましい。
なお、CuInS系微粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって、撮影した画像を元に相当円粒子径(Heywood法)を計測し、集合数100以上からなる粒子群を解析することで、数平均平均一次粒子径として求めることができる。
(表面修飾剤)
CuInS系微粒子は好ましくは、表面修飾剤(又は界面活性剤)によって被覆されている。このような表面修飾剤は一般に、CuInS系微粒子の分散を維持するために用いられている。表面修飾剤は、例えば溶媒の種類に応じて選択され、一般的に、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミン等を分子構造に有する有機化合物、特にアルキルアミン、アルケニルアミンが挙げられる。具体的な表面修飾剤としては、オクタデシルアミン、オレイルアミン、亜リン酸トリフェニル(triphenylphosphite)等が挙げられる。
(基材)
本発明の方法で用いられる基材は、本発明の目的及び効果を損なわない限り制限されるものではない。このような基材としては一般に、ガラス基材又はシリコン基材のような無機基材を考慮することができる。しかしながら、本発明の方法では、比較的低温において、基材上でCuInSe系半導体膜を形成することができるので、耐熱性が比較的低い基材、例えばポリマー材料を有する基材を用いることもできる。
(塗布)
CuInS系微粒子分散体の塗布は、CuInS系微粒子分散体を所望の厚さ及び均一性で塗布できる方法であれば特に限定されず、例えば流涎法、スプレー法、インクジェット法、スピンコーティング法等によって行うことができる。
〈工程(b)〉
本発明の方法の工程(b)では、CuInS系微粒子分散体膜を乾燥及び予備焼結して、予備焼結CuInS系膜を形成する。
この乾燥及び予備焼結は、CuInS系微粒子分散体膜から分散媒を実質的に除去し、かつCuInS系微粒子が少なくとも部分的に固定された予備焼結CuInS系膜を提供することができる方法であれば、特に限定されない。また、この予備焼結は、基材の露出がない程度に行うことが好ましい。したがって、この乾燥及び予備焼結は例えば、CuInS系微粒子分散体膜を有する基材を、ホットプレート上に配置して行うことができる。
乾燥及び予備焼結の温度及び時間は例えば、基材を変形、劣化等させず、またCuInS系微粒子が少なくとも部分的に固定されるように選択することができる。したがって乾燥及び予備焼結の温度は例えば、50℃以上、100℃以上、150℃以上、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であって、500℃未満、450以下、400℃以下、370℃以下、350℃以下、330℃以下、又は300℃以下にすることができる。
乾燥及び予備焼結の際の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが、CuInS系微粒子自体又はCuInS系微粒子分散体膜と接している電極が酸化されないようにするために好ましい。ただし、処理温度が比較的低く、かつ/又は処理時間が比較的短い場合、大気中の処理でも可能である。
なお、工程(b)における乾燥は、工程(a)における分散体の塗布と一体の工程として行うこともできる。例えば、所定温度まで加熱した基材上に、CuInS系微粒子分散体を噴霧することによって、塗布及び乾燥を同時に行うことができる。
〈工程(c)〉
本発明の方法の工程(c)では、予備焼結CuInS系膜にセレン含有雰囲気を接触させて、予備焼結CuInS系膜を構成するCuInS系微粒子の少なくとも一部の硫黄をセレンで置換し、それによって予備焼結CuInSe系膜を生成する。
この工程で用いるセレン含有雰囲気としては、セレン蒸気又はセレン化水素を含有する雰囲気が好ましい。
ただし、液体の有機セレン化合物に不活性ガスをバブリングさせてセレン含有雰囲気を提供することが、取り扱いの容易さに関して好ましい。このような有機セレン化合物としては、ジアルキルセレン、ジメチルセレン、ジエチルセレン、メチルエチルセレンを挙げることができる。また、バブリングのための不活性ガスとしては、高純度窒素、高純度アルゴンを挙げることができる。
また、このセレン含有雰囲気は、金属セレン又は無機セレン化合物を気化させて供給することができる。
セレン化のための温度及び時間は例えば、基材を変形、劣化等させず、また使用するセレン含有雰囲気に依存して、CuInS系微粒子の少なくとも一部の硫黄をセレンで置換できるように選択することができる。例えばセレン化のための温度は、50℃以上、100℃以上、150℃以上、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であって、500℃未満、450以下、400℃以下、370℃以下、350℃以下、330℃以下、又は300℃以下にすることができる。
(予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズ)
セレン化のための温度が充分に低い場合、得られる予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズを小さく維持することができる。このように、予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが比較的小さいことは、工程(d)における光による焼結を促進するために好ましい。
これに関して、本発明では好ましくは、予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズは、20nm以下、15nm以下、又は10nm以下である。ここで、この結晶サイズは、予備焼結CuInSe系膜をXRD(X線回折分析)で観察することによって、CuInSe系材料の最大ピーク(112面)の半値幅から、Scherrerの式によって求めることができる。
(セレン(Se)化の程度)
予備焼結CuInSe系膜及び/又はCuInSe系半導体膜においてCuInS系材料が残留している程度は、予備焼結CuInSe系膜及び/又はCuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInS系材料の最大ピーク(112面)の強度と、CuInSe系材料の最大ピーク(112面)の強度との比(CuInS/CuInSe)によって判断することができる。この比が小さいことは、比較的多くの硫黄(S)がセレン(Se)によって置換されて、CuInSe系材料が生成していることを意味している。
これに関して、本発明では好ましくは、CuInS系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.20倍以下、0.10倍以下、0.05倍以下、0.02倍以下、又は0.01倍以下(CuInS/CuInSe)であり、例えばCuInS系材料の最大ピークが実質的に観察されない。
なお、CuInS系材料の最大ピークが実質的に観察されない場合であっても、観察されるCuInSe系材料の最大ピーク(112面)が、データベース上のCuInSe系材料の最大ピーク(112面)よりも高角度側にシフトしていることが観察されることがある。これは、CuInS系材料の硫黄(S)が部分的置換されたCuIn(SSe1−x結晶(0<x<1)が、CuInSe系材料として存在していることを意味しており、そのシフトが小さいことが、比較的多く硫黄(S)がセレン(Se)によって置換されていることを意味している。なお、このシフトの程度(硫黄残留の程度)は、セレン化条件の最適化によって制御することができる。
〈工程(d)〉
本発明の方法の工程(d)では、随意の加熱、特に基材の加熱を伴って、予備焼結CuInSe系膜に光を照射して、予備焼結CuInSe系膜中のCuInSe系微粒子を焼結させ、それによってCuInSe系半導体膜を形成する。
この焼結は例えば、得られるCuInSe系半導体膜の結晶サイズが例えば、30nm以上、40nm以上、又は50nm以上になる程度に行うことができる。ここで、この結晶サイズは、CuInSe系半導体膜をXRDで観察することによって、CuInSe系材料の最大ピークの半値幅から、Scherrerの式によって求めることができる。
なお、光照射を連続的に行えない場合には、複数回の光照射の間に予備焼結CuInSe系膜の温度が低下し、それによって充分な焼結を行えないことが考えられるので、加熱を伴って光照射を行うことが好ましい。ただし、連続的な光照射が可能である場合には、加熱の温度を低くして又は加熱を伴わないで、焼結を行うことも可能であると考えられる。
(加熱)
随意の加熱は、光照射と併用できる任意の手段で行うことができ、例えば基材をホットプレート上に配置すること、基材に赤外線、マイクロ波を照射すること等によって行うことができる。また、この加熱は例えば、500℃未満、480℃以下、460℃以下、440℃以下、420℃以下、又は400℃以下の温度で行うことができる。
(照射される光)
照射される光としては、予備焼結CuInSe系膜中のCuInSe系微粒子の焼結を達成できれば任意の光を用いることができ、例えばレーザー光、特に波長が600nm以下、500nm以下又は400nm以下であって、300nm以上のレーザーを用いて行うことができる。また、焼結は、キセノンフラッシュランプのような放出された光の波長範囲がCuInSe系結晶の吸収範囲ほぼカバーしているフラッシュランプを用いて行うこともできる。
パルス状の光を用いて行う光照射を場合、パルス状の光の照射回数は例えば、1回以上、2回以上、5回以上、又は10回以上であって、100回以下、80回以下、又は50回以下にすることができる。また、パルス状の光の照射エネルギーは例えば、15mJ/(cm・shot)以上、50mJ/(cm・shot)以上、100mJ/(cm・shot)以上、150mJ/(cm・shot)以上、又は200mJ/(cm・shot)以上であって、500mJ/(cm・shot)以下、300mJ/(cm・shot)以下、又は250mJ/(cm・shot)以下にすることができる。さらに、パルス状の光の照射時間は、例えば200ナノ秒/shot以下、100ナノ秒/shot以下、50ナノ秒/shot以下にすることができる。
ここで、光の照射回数が少なすぎる場合には、所望の焼結を達成するために必要とされる1回のパルス当たりのエネルギーが大きくなり、したがってCuInSe系半導体膜が破損する恐れがある。また、光の照射回数が少なすぎる場合には、必要とされる処理時間が過度に長くなる恐れがある。
上記のようにパルス状の光の照射回数、照射エネルギー、及び照射時間を選択することは、特に基材がポリマー材料を有する場合に、熱によるポリマー材料の劣化を抑制しつつ、CuInSe系微粒子の焼結を達成するために好ましいことがある。
また、フラッシュランプを用いて光照射を行う場合、光照射を複数回にわたって行うことができ、特に複数回にわたる光照射において、照射エネルギーを大きくしていくことができる。このように、始めに比較的小さい照射エネルギーを用い、その後で比較的大きい照射エネルギーを用いることは、光を照射される膜の破損を防ぎ、かつCuInSe系結晶を確実に成長させるために好ましいことがある。
(照射雰囲気)
CuInSe系微粒子を焼結するための光照射は、非酸化性雰囲気、例えば水素、希ガス、窒素、及びそれらの組合せからなる雰囲気において行うことが、CuInSe系微粒子の酸化を防ぐために好ましい。ここで、希ガスとしては、特にアルゴン、ヘリウム、及びネオンを挙げることができる。なお、雰囲気が水素を含有することは、予備焼結CuInSe系膜のCuInSe系微粒子の酸化を抑制するために好ましい。また、非酸化性雰囲気とするために、雰囲気の酸素含有率は、1体積%以下、0.5体積%以下、0.1体積%以下、又は0.01体積%以下とすることができる。
(電極とCuInSe系材料との反応の程度)
基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、かつCuInSe系半導体膜がモリブデン層上に積層されている場合、予備焼結CuInSe系膜及び/又はCuInSe系半導体膜のCuInSe系材料が、モリブデン層と反応している程度は、予備焼結CuInSe系膜及び/又はCuInSe系半導体膜をXRD(X線回折分析)で観察したときに、モリブデンとCuInSe系材料との反応によって生じうるMoSe系材料の最大ピークの強度とCuInSe系材料の最大ピークの強度との比(MoSe/CuInSe)によって判断することができる。この比が小さいことは、MoとCuInSe系材料との間の好ましくない反応が抑制されていることを意味している。また、このような反応の抑制は、基材とCuInSe系材料とが高温の熱処理を受けていないことを示唆している。
これに関して、本発明では好ましくは、MoSe系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.10倍以下、0.05倍以下、0.02倍以下、又は0.01倍以下(MoSe/CuInSe)であり、例えばMoSe系材料の最大ピークが実質的に観察されない。
(CuInSe系半導体膜の連続性)
基材の表面に電極としてのモリブデン層、例えば400〜800nmの厚さのモリブデン層が被覆されており、かつCuInSe系半導体膜、例えば1〜2μmの厚さのCuInSe系半導体膜がモリブデン層上に積層されている場合、CuInSe系半導体膜の連続性は、CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInSe系材料の最大ピークの強度と、モリブデンの最大ピークの強度との比(CuInSe/Mo)によって評価することができる。この比の値が小さいことは、膜の連続性が低いことを意味しており、反対に、この比の値が大きいことは膜の連続性が高いこと、すなわち膜質が良好であることを意味している。
これに関して、本発明では好ましくは、CuInSe系材料の最大ピークの強度が、モリブデンの最大ピークの強度の0.40倍以上、0.50倍以上、0.60倍以上(CuInSe/Mo)である。
《半導体積層体》
本発明の半導体積層体は、基材、及び基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体であって、(a)基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、(b)CuInSe系半導体膜がモリブデン層上に積層されており、(c)CuInSe系半導体膜が、CuInSe系微粒子の焼結体であり、(d)CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInSe系材料の最大ピークの強度が、モリブデンの最大ピークの強度の0.40倍以上(CuInSe/Mo)であり、(e)CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、モリブデンの最大ピーク及びCuInSe系材料の最大ピークが観察され、かつモリブデンとCuInSe系半導体との反応によって生じうるMoSe系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.10倍以下(MoSe/CuInSe)であり、(f)CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInS系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.20倍以下(CuInS/CuInSe)であり、かつ(g)CuInSe系半導体膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、30nm以上である。
すなわち、このような本発明の半導体積層体は、CuInSe系半導体膜が、下地のモリブデン電極層上に積層されており(特徴(a)及び(b))、かつCuInSe系微粒子の焼結体であるにも関わらず(特徴(c))、CuInSe系半導体膜の連続性が高く(特徴(d))、CuInSe系半導体膜と下地のモリブデン電極層との反応が抑制されており(特徴(e))、CuInS系材料に対するCuInSe系材料の割合が大きく(特徴(f))、かつCuInSe系材料の結晶が充分に発達している(特徴(g))。
また、随意に、本発明の半導体積層体は、500℃以上、480℃以上、460℃以上、440℃以上、420℃以上、又は400℃以上の温度での熱処理をうけていない。
《太陽電池》
本発明の太陽電池は、本発明の半導体積層体、及びモリブデン層と反対側の面でCuInSe系半導体膜と接している透明電極層を有し、かつCuInSe系半導体膜を活性層として用いる。
この太陽電池は例えば、図7で示されるようなものである。この図7で示されている太陽電池では、ガラス等の基材(Sub)、電極としてのモリブデン層(Mo)、活性層としてのCuInSe系半導体膜(CIS)、透明電極層(ITO)、反射防止層(Anti)が順次、積層されており、また反射防止層(Anti)を通して透明電極層(ITO)に達するアルミニウム等の金属のグリット電極(Al)を有している。この太陽電池では、透明電極層(ITO)の側から太陽光等の光照射(Sun)を受けることによって、電極(+、−)間に光起電力を生じることができる。
〈実施例1〉
(CuInS系微粒子分散体の調製)
CuInS系微粒子(0.9<Cu/In<1.0(電子線マイクロアナライザ(EPMA)測定)、結晶サイズ3.9nm(XRD測定))を、10質量%の濃度で溶媒に加えて、超音波照射よりCuInS系微粒子分散体を得た。ここで、この溶媒は、トルエンとテトラデカンの混合溶媒(体積比1:2)であり、また5質量%のオレイルアミンを表面修飾剤として含有していた。
(予備焼結CuInS系膜の調製)
モリブデン(Mo、厚さ600nm)膜付きのシリコン基材(10mm×10mm)に、流延法よってCuInS系微粒子分散体を塗布し、室温で自然乾燥した後で、電気炉において、150℃で10分間にわたって、そしてアルゴン(Ar)雰囲気において、250℃で30分間にわたって、そして350℃で30分間にわたって予備焼結し、アルゴン雰囲気において80℃以下に温度を下げてから、サンプルを取出して、予備焼結CuInS系膜を得た。
(セレン(Se)化)
予備焼結CuInS系膜を電気炉内にセットし、雰囲気を高純度窒素で置換し、350℃まで加熱し、そしてジエチルセレンを35μmol/分で供給しつつ450℃まで加熱し、この温度を60分間にわたって維持した後で、350℃まで温度を低下させ、そして再び周囲雰囲気を高純度窒素で置換しつつ80℃まで冷却することによって、予備焼結CuInS系膜の硫黄をセレン(Se)で置換して、予備焼結CuInSe系膜を得た。なお、ジエチルセレンは、マスフロコントローラーより流量を制御した高純度窒素(6N)を用いて、ジエチレンセレン液体(Se(CHCH、トリケミカル研究社製)をバブリングすることによって供給した。
得られた予備焼結CuInSe系膜を有する積層体についてのXRD(X線回折分析)結果を、図3に示す。
図3のXRD結果からは、CuInS系材料の最大ピーク(112面)が実質的に観察されず、したがってCuInS系材料の最大ピークの強度とCuInSe系材料の最大ピークの強度との比(CuInS/CuInSe)が0になっていること、すなわちCuInS系材料が実質的に存在しないことが分かった。
ただし、図3のXRD結果では、CuInSe系材料の最大ピーク(112面)が、データベースのCuInSe系材料の最大ピーク(112面)よりも高角度側にシフトしていることが観察された。これは、CuInS系材料の硫黄(S)が部分的置換されたCuIn(SSe1−x結晶(0<x<1)がCuInSe系材料として存在していることを意味している。
また、図3のXRD結果からは、得られたCuInSe系材料の結晶サイズが約9.3nmであること、及びCuInSe系材料の最大ピーク(112面)の強度とモリブデン(Mo)の最大ピーク(110面)の強度との比(CuInSe/Mo)が、0.16であることが分かった。
(焼結)
下記の条件で、基材の加熱を伴って、高純度アルゴン雰囲気において予備焼結CuInSe系膜をフラッシュランプ(USHIO製SUS367)によって光照射して、CuInSe系半導体膜を得た。
(1)加熱(ホットプレート)
基材を450℃の温度に加熱。
(2)光照射(フラッシュランプ)
750V × 0.99ms × 2
→800V × 0.7ms × 6
→900V × 0.7ms × 2
得られたCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体についての評価結果を、図4に示す。ここで、図4(a)は、XRD(X線回折分析)結果であり、図4(b)は、断面のFE−SEM(走査電子顕微鏡)写真を示す図である。
図4のXRD結果からは、CuInS系材料の最大ピークが実質的に観察されず、したがってCuInS系材料の最大ピークの強度とCuInSe系材料の最大ピークの強度との比(CuInS/CuInSe)が0になっていること、すなわちCuInS結晶構造が実質的に存在しないことが分かった。
また、図4(a)のXRD結果からは、得られたCuInSe系半導体膜中のCuInSe系材料の結晶サイズが約51.1nmであること、及びCuInSe系材料の最大ピーク(112面)の強度とMoの最大ピーク(110面)の強度との比(CuInSe/Mo)が、0.62であることが分かった。
これは、この実施例での処理の最高温度が450℃の比較的低温であったにもかかわらず、予備焼結CuInSe系膜中のCuInSe系微粒子が基材のMo層近傍まで完全に焼結されて、粒子サイズが大きく成長した緻密なCuInSe系半導体膜が形成されたことを意味している。これは、図4(b)の断面SEM写真によっても確認することができる。
また、図4のXRD結果からは、32°付近のピークの不存在で示されるように、CuInSe半導体膜の半導体特性を損なうMoSeが生成していないが分かった。すなわち、MoSe系材料の最大ピークが実質的に存在しておらず、MoSe系材料の最大ピークの強度とCuInSe系材料の最大ピークの強度との比(MoSe/CuInSe)は、約0であった。
〈比較例1〉
(CuInS系微粒子分散体の調製)
CuInS系微粒子(0.9<Cu/In<1.0(電子線マイクロアナライザ(EPMA)測定)、結晶サイズ5nm以下(XRD測定))を、10質量%の濃度で溶媒に加えて、CuInS系微粒子分散体を得た。ここで、この溶媒は、トルエンであり、また5質量%のオレイルアミンを表面修飾剤として含有していた。
(予備焼結CuInS系膜の調製)
モリブデン(Mo、600nm)膜付きのシリコン基材(10mm×10mm)に、流延法よってCuInS系微粒子分散体を塗布し、室温で自然乾燥した後で、150℃で20分間にわたって予備焼結して、予備焼結CuInS系膜を得た。
(セレン(Se)化及び焼結)
この予備焼結CuInS系膜の周囲雰囲気を高純度窒素で置換し、350℃まで加熱し、そしてジエチルセレンを70μmol/分で供給しつつ400℃まで加熱し、この温度を60分間にわたって維持し、ジエチルセレンを35μmol/分で供給しつつ550℃まで加熱し、この温度を60分間にわたって維持した後で、350℃まで温度を低下させ、そして再び周囲雰囲気を高純度窒素で置換しつつ80℃まで冷却することによって、セレン化及び焼結を行ってCuInSe系半導体膜を得た。
得られたCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体についてのXRD(X線回折分析)結果を図5に示す。
図5のXRD結果からは、得られたCuInSe系半導体膜中のCuInSe系粒子の結晶サイズが約16.7nmであり、CuInSe/Moが0.2以下であることが分かった。
すなわち、図5のXRD結果からは、この比較例1では、セレン雰囲気におけるジエチルセレン濃度を実施例1の2倍にし、かつ加熱温度を実施例1の450℃から100℃高めて550℃にして焼結を行ったにもかかわらず、CuInSe系粒子の結晶子成長が充分に進行しなかったことが分かった。
また、図5のXRD結果からは、32°付近の大きいピークで示されるように、基材上のモリブデン(Mo)電極とCuInSe系半導体膜との反応によって、CuInSe半導体膜の半導体特性を損なうMoSeが有意の量で生成したことが分かった。このMoSeのピークは、27°付近のCuInSeの最大ピークよりも大きかった。すなわち、MoSe系材料の最大ピークの強度とCuInSe系材料の最大ピークの強度との比(MoSe/CuInSe)は、1以上であった。
〈比較例2〉
セレン化及び焼結以外は比較例1と同様にして、CuInSe系半導体膜を得た。
具体的には、この比較例2では、予備焼結CuInS系膜の周囲雰囲気を高純度窒素で置換し、400℃まで加熱し、この温度を60分間にわたって維持し、ジエチルセレンを35μmol/分で供給しつつ550℃まで加熱し、この温度を60分間にわたって維持した後で、350℃まで温度を低下させ、そして再び周囲雰囲気を高純度窒素で置換しつつ80℃まで冷却することによって、セレン化及び焼結を行って、CuInSe系半導体膜を得た。
得られたCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体についてのXRD(X線回折分析)結果を図6に示す。
図6のXRD結果からは、得られたCuInSe系半導体膜中のCuInSe系粒子の結晶サイズが約18.7nmであり、CuInSe系材料の最大ピークの強度とモリブデンの最大ピークの強度との比(CuInSe/Mo)が0.2以下であることが分かった。
すなわち、図6のXRD結果からは、この比較例2では、加熱温度を実施例1の450℃から100℃高めて550℃にして焼結を行ったにもかかわらず、CuInSe系粒子の結晶子成長が充分に進行しなかったことが分かった。
また、図6のXRD結果からは、32°付近の大きいピークで示されるように、基材上のモリブデン(Mo)電極とCuInSe系半導体膜との反応によって、CuInSe半導体膜の半導体特性を損なうMoSeが有意の量で生成したことが分かった。このMoSeのピークは、27°付近のCuInSeの最大ピークよりも大きかった。すなわち、MoSe系材料の最大ピークの強度とCuInSe系材料の最大ピークの強度との比(MoSe/CuInSe)は、1以上であった。
なお、セレン化及び焼結において、比較例1では400℃での加熱の際にジエチルセレンを70μmol/分で用いたのに対して、この比較例2では400℃での加熱の際にジエチルセレンを用いなかったが、MoSeの生成は実質的に抑制されていなかった。
1 分散媒
2 CuInS系微粒子
2’ CuInSe系微粒子
5 CuInSe系半導体膜
15 光
21 CuInS系微粒子分散体膜
22 基材
23 予備焼結(未焼成)CuInS系膜
23’ 予備焼結CuInSe系膜

Claims (10)

  1. 下記の工程を含む、基材及び前記基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体の製造方法:
    (a)分散媒、及び前記分散媒中に分散しているCuInS系微粒子を含有するCuInS系微粒子分散体を、基材上に塗布して、CuInS系微粒子分散体膜を形成する工程、
    (b)前記分散体膜を乾燥及び予備焼結して、予備焼結CuInS系膜を形成する工程、
    (c)前記予備焼結CuInS系膜にセレン含有雰囲気を接触させて、前記予備焼結CuInS系膜を構成するCuInS系微粒子の少なくとも一部の硫黄をセレンで置換し、それによって予備焼結CuInSe系膜を生成する工程、並びに
    (d)前記予備焼結CuInSe系膜に光を照射して、前記予備焼結CuInSe系膜中のCuInSe系微粒子を焼結させ、それによってCuInSe系半導体膜を形成する工程。
  2. 工程(a)〜(d)にわたって、前記基材の温度が490℃以下である、請求項1に記載の方法。
  3. 工程(b)の予備焼結を250℃以上の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記予備焼結CuInSe系膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、20nm以下であり、かつ
    前記CuInSe系半導体膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、30nm以上である、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、
    前記CuInSe系半導体膜が、前記モリブデン層上に積層されており、かつ
    前記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInSe系材料の最大ピークの強度が、モリブデンの最大ピークの強度の0.40倍以上(CuInSe/Mo)である、
    請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、
    前記CuInSe系半導体膜が、前記モリブデン層上に積層されており、かつ
    前記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、モリブデンの最大ピーク及びCuInSe系材料の最大ピークが観察され、かつモリブデンとCuInSe系半導体との反応によって生じうるMoSe系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.10倍以下(MoSe/CuInSe)である、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInS系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.20倍以下(CuInS/CuInSe)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 基材、及び前記基材上に積層されているCuInSe系半導体膜を有する半導体積層体であって、下記の(a)〜(g)の特徴を有する、半導体積層体:
    (a)前記基材の表面に電極としてのモリブデン層が被覆されており、
    (b)前記CuInSe系半導体膜が、前記モリブデン層上に積層されており、
    (c)前記CuInSe系半導体膜が、CuInSe系微粒子の焼結体であり、
    (d)前記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInSe系材料の最大ピークの強度が、モリブデンの最大ピークの強度の0.40倍以上(CuInSe/Mo)であり、
    (e)前記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、モリブデンの最大ピーク及びCuInSe系材料の最大ピークが観察され、かつモリブデンとCuInSe系半導体との反応によって生じうるMoSe系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.10倍以下(MoSe/CuInSe)であり、
    (f)前記CuInSe系半導体膜をXRDで観察したときに、CuInS系材料の最大ピークの強度が、CuInSe系材料の最大ピークの強度の0.20倍以下(CuInS/CuInSe)であり、かつ
    (g)前記CuInSe系半導体膜におけるCuInSe系材料の結晶サイズが、30nm以上である。
  9. 500℃以上の温度での熱処理を受けていない、請求項8に記載の半導体積層体。
  10. 請求項8又は9に記載の半導体積層体、前記モリブデン層と反対側の面で前記CuInSe系半導体膜と接している透明電極層を有し、かつ前記CuInSe系半導体膜を活性層として用いる、太陽電池。
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