以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。図1は、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の全体概要を示した模式図である。また、図2は、車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ装置は、ドライバの踏力に基づいてサービスブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時などに車両の移動を規制するためのEPB2とが備えられている。
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ制御手段に相当するESC(Electronic Stability Control)−ECU8にて実行される。例えば、ESC−ECU8からアクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できるようにしている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来より周知となっているため、ここでは詳細については省略する。
一方、EPB2は、モータ10にてブレーキ機構を制御することで駐車ブレーキ力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB−ECUという)9を有して構成されている。
ブレーキ機構は、本実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系のブレーキ機構は、後輪系のブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいて駐車ブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられているブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下の説明では後輪系のブレーキ機構について説明する。
後輪系のブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
具体的には、ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させることにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させ、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による駐車ブレーキ力を発生させる。
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする駐車ブレーキ力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、その位置に推進軸18が保持され、所望の駐車ブレーキ力を保持できるようになっている。
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液洩れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
このように構成されたブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、駐車ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用のブレーキ機構とすることが可能となる。
また、このようなブレーキ機構では、EPB2を作動させたときに、W/C圧が0でブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧される前の状態、もしくは、サービスブレーキ1が作動されることでW/C圧が発生させられていたとしても推進軸18がピストン19に接する前の状態のときには、推進軸18に掛かる負荷が軽減され、モータ10はほぼ無負荷状態で駆動される。そして、推進軸18がピストン19に接している状態でブレーキパッド11にてブレーキディスク12を押圧するときに、EPB2による駐車ブレーキ力が発生させられることになり、モータ10に負荷が掛かり、その負荷の大きさに応じてモータ10に流されるモータ電流値が変化する。このため、モータ電流値を確認することにより、EPB2による駐車ブレーキ力の発生状態を確認することができるようになっている。
EPB−ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。このEPB−ECU9が本発明の駐車ブレーキ制御手段に相当する。
EPB−ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB−ECU9は、モータ電流値に基づいてロック制御やリリース制御などを実行しており、その制御状態に基づいてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを把握している。そして、EPB−ECU9は、インストルメントパネルに備えられたロック/リリース表示ランプ24に対し、モータ10の駆動状態に応じて、車輪がロック状態となっているか否かを示す信号を出力している。
なお、EPB−ECU9には、車両の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ(以下、前後Gセンサという)25の検出信号が入力されるようにしてある。これにより、EPB−ECU9にて、前後Gセンサ25の検出信号から減速度を演算したり、検出信号に含まれる重力加速度成分に基づき周知の手法によって停車中の路面の傾斜(勾配)を推定したりしている。
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって停車させられた際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて駐車ブレーキ力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に駐車ブレーキ力を解除するという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時にドライバによるブレーキペダル操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、モータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで駐車ブレーキ力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで駐車ブレーキ力を解除して車輪をリリース状態にする。
具体的には、ロック・リリース制御により、駐車ブレーキ力を発生させたり解除したりしている。ロック制御では、モータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の駐車ブレーキ力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の駐車ブレーキ力を発生させる。リリース制御では、モータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている駐車ブレーキ力を解除する。
このようなサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えは、ドライバが操作SW23を押下したときに限らず、他の状況でも行われる。例えば、坂路において車両が下方にずり下がることを防止すべく、サービスブレーキ1の自動加圧機能によってサービスブレーキ力を発生させることで坂路保持制御を行っているような状況において、駐車ブレーキ力に切替えることで、長時間駆動によるアクチュエータ7の加熱を抑制する場合などが挙げられる。このように、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行うときには、ロック制御を実行するためのロック指令信号がESC−ECU8からEPB−ECU9に対して出力される。このロック指令信号に基づいてブレーキホールド(以下、BHという)補助駐車ブレーキ制御を行うことで、駐車ブレーキ力を発生させ、サービスブレーキ力からの切り替えを行っている。
このBH補助駐車ブレーキ制御について、図3〜図10を参照して説明する。図3は、本実施形態の車両用ブレーキ装置におけるEPB−ECU9で実行されるBH補助駐車ブレーキ制御の全体フローチャートである。図4は、BH補助制御処理の詳細を示したフローチャートである。図5は、BH補助ロック1制御処理の詳細を示したフローチャートである。図6および図7は、それぞれ、ロック指令信号が誤っていない通常状態のときと誤っている異常状態のときのタイミングチャートである。図8は、BH補助リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。図9は、BH補助ロック2制御処理の詳細を示したフローチャートである。図10は、ロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートである。
EPB−ECU9は、例えばイグニッションスイッチがオンされている期間中に図3に示す全体フローチャートの各種処理を実行することによって、BH補助制御を実行している。図3に示す各種処理は、所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100でフラグリセットなどの一般的な初期化処理を行ったのち、ステップ105に進み、時間tが経過したか否かを判定する。ここでいう時間tは、制御周期を規定するものである。つまり、初期化処理が終了してからの時間もしくは前回本ステップで肯定判定されたときからの経過時間が時間t経過するまで繰り返し本ステップでの判定が行われるようにすることで、時間t経過するごとにBH補助駐車ブレーキ制御が実行されるようにしている。
続くステップ110では、BH補助制御許可が出ているか否かを判定する。すなわち、ブレーキ液圧に基づくサービスブレーキ力からEPB2による駐車ブレーキ力への切り替えを行える条件を満たしているか否かを判定する。ここでは、例えばEPB2が異常でないこと、具体的にはモータ10への電源供給配線が断線している状況などではないことを条件としている。このような状況はイニシャルチェックなどによって把握できていることから、イニシャルチェック結果を記憶しておくことで、本ステップの判定が行えるようにしてある。ここで否定判定された場合には、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行えないためこれ以降の処理には進まず、肯定判定された場合にのみこれ以降の処理に進む。
そして、ステップ115に進み、ロック指令を示すフラグがオンされているか否かを判定する。ロック指令を示すフラグは、ESC−ECU8からEPB−ECU9にロック指令信号が伝えられるとオンされる。ここでも肯定判定されると、ステップ120において、ロック指令信号が送られる条件を満たしているか否か、つまりロック指令信号が誤りでないか否かの判定を行う。
具体的には、ステップ120では、走行中であるか否かを判定する。例えば車速が発生しているか否かを判定することにより、走行中であるか否かを判定することができる。車速については、例えば、ESC−ECU8が各車輪FL〜RRに備えられた図示しない車輪速度センサの検出信号から得られた車輪速度に基づいて推定車体速度を演算していることから、それをEPB−ECU9に伝えることにより、EPB−ECU9で本判定が行えるようにすることができる。また、車速に限らず、車輪速度に基づいて走行中であるか否かを判定しても良い。
車両が走行中である場合は、ロック指令信号が出力されるような状況ではない。したがって、ステップ120で肯定判定されたときにはステップ125に進む。そして、ステップ125でBH補助ロック制御をオフにして、BH補助ロック制御が実行されないようにする。
一方、ステップ120で否定判定された場合には、ステップ130に進み、BH補助制御処理を実行する。このBH補助制御処理の詳細について、図4に示すBH補助制御処理の詳細を示したフローチャートを参照して説明する。
BH補助制御処理が開始されると、図4のステップ200において、後述するBH補助リリース制御処理の許可(以下、BH補助リリース制御許可という)を示すフラグがオンされているか否かを判定する。BH補助リリース制御許可のフラグは、後述するBH補助ロック1制御処理が完了したときにオンされる。BH補助制御処理が開始された当初には、BH補助リリース制御許可を示すフラグはオフされており、本ステップの判定は否定判定されることになる。
ステップ200で否定判定されるとステップ205に進み、BH補助制御処理中であることを示すBH補助制御中フラグをオンしたのち、ステップ210に進んで1回目のBH補助ロック制御処理としてBH補助ロック1制御処理を実行する。このBH補助ロック1制御処理について、図5に示すBH補助ロック1制御処理のフローチャートを参照して説明する。
BH補助ロック1制御処理が開始されると、図5のステップ300において、電流上昇し始めフラグがオフされているか否かを判定する。電流上昇し始めフラグとは、モータ電流値がモータ10に掛かる負荷が無負荷状態のときの電流値から上昇し始めたときにオンされるフラグである。BH補助ロック1制御処理が開始された当初には、電流上昇し始めフラグはオフされており、本ステップの判定は肯定判定されることになる。
続いて、ステップ305に進み、目標モータ電流値上昇量を設定する。目標モータ電流値上昇量は、サービスブレーキ1により発生させられるW/C圧の目標値と対応するモータ電流値の上昇量、具体的には無負荷電流値からのモータ電流値の上昇量である。モータ電流値の上昇量がこの目標モータ電流値上昇量となるようにすることで、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えの際に過度の駐車ブレーキ力が発生することを抑制する。この目標モータ電流値上昇量は、例えば坂路保持制御におけるサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行う場合には、車両ずり下がりが生じない最低限の駐車ブレーキ力を発生させるために必要なモータ電流値の上昇量以上に設定され、駐車させる場所の路面勾配等によって決まる値である。
ここでは、路面勾配に対応する目標モータ電流値上昇量の値をマップ化しておき、前後Gセンサ25の検出信号に基づいて路面勾配を求めたのち、そのマップから、求めた路面勾配と対応する値を抽出することにより目標モータ電流値上昇量としている。図11は、その一例を示したマップであり、路面勾配と目標モータ電流値上昇量との関係を示している。この図に示すように、路面勾配の大きさに比例して目標モータ電流値上昇量が大きくなるようなマップとすることができる。
この後、ステップ310に進み、ロック駆動時間タイマがMINロック駆動時間よりも大きいか否かを判定する。ロック駆動時間タイマとは、モータロック駆動、つまり車輪をロック状態にすべくモータ10を正回転させた始めたときに、それと同時に時間計測を開始するタイマである(後述するステップ315参照)。MINロック駆動時間とは、BH補助ロック1制御開始時に発生し得る突入電流が収束すると想定される期間以上かつBH補助ロック1制御に掛かると想定される最小時間未満の期間に設定される。図6および図7に示すように、ESC−ECU8からEPB−ECU9にロック指令信号が送られてきたときに上記ステップ120の判定を経てBH補助ロック1制御開始されてモータ10に電流が供給される。このBH補助ロック制御1開始時には突入電流が発生し、目標モータ電流値を超えてしまう。したがって、ロック駆動時間タイマがMINロック駆動時間よりも大きくなるまでは、モータ電流値が所望値に至ったか否かを判定しないようにマスクし、突入電流が目標ロック電流値を超えたとしても所望の駐車ブレーキ力が発生したと誤判定されないようにしている。
このステップ310で肯定判定されるまではステップ315に進み、ロック駆動時間タイマをインクリメントすると共に、モータロック駆動を示すフラグをオンする。これにより、モータ10が正回転、つまり車輪をロック状態にする方向に回転させられる。これに伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12側に移動させられる。
そして、ステップ310で肯定判定されると、ステップ320に進んで電流値微分値が電流値微分閾値を超えているか否かを判定する。電流値微分値は、モータ電流値を時間微分した値である。図6および図7に示すように、無負荷状態のときにはモータ電流値が上昇せずほぼ一定値であることから、電流値微分値はほぼ0になる。電流値微分閾値は、モータ電流値が上昇していることを判定する基準値に設定され、モータ10に負荷が掛かった状態、つまり推進軸18がピストン19に接してブレーキパッド11にてブレーキディスク12を押圧している状態の判定に用いられる。すなわち、電流値微分値が電流値微分閾値を超えていれば、モータ電流値が上昇し始めてモータ10に負荷が掛かっている状態であると判定できる。したがって、本ステップで肯定判定されるまではステップ315に進んで上記処理を繰り返し、肯定判定されればステップ325に進む。そして、ステップ325で電流値上昇し始めフラグをオンしてステップ330に進む。
ステップ330では、モータ電流値が無負荷電流値に対して目標モータ電流値上昇量を加算した値を超えているか否かを判定する。そして、ステップ330で肯定判定されるまではステップ315に進んでモータロック駆動を示すフラグをオンしてモータロック駆動を継続し、肯定判定されるとステップ335に進んで1回目のBH補助ロック制御によって車輪をロック状態にできたときの処理を行う。具体的には、モータロック駆動を示すフラグをオフしてモータロック駆動を停止し、ロック駆動時間タイマを0にリセットする。また、電流値上昇し始めフラグをオフすると共に、BH補助リリース制御許可を示すフラグをオンしてBH補助ロック1制御処理を終了する。
このようにしてBH補助ロック1制御処理が終了すると、一旦、図4に示すBH補助制御処理が終了するが、次の制御周期において、再び図3のステップ100〜120の処理を経てステップ130に進み、BH補助制御処理が実行されることになる。このときには、上記した図5のステップ335でBH補助リリース制御許可を示すフラグがオンされていることから、図4のステップ200で肯定判定され、ステップ215に進む。
そして、ステップ215において、後述するBH補助ロック2制御処理の許可(以下、BH補助ロック2制御許可という)を示すフラグがオンされているか否かを判定する。BH補助ロック2制御許可のフラグは、後述するBH補助リリース制御処理においてモータ10に掛かる負荷が無負荷状態になったときにオンされる。BH補助制御処理が開始された当初には、BH補助ロック2制御許可を示すフラグはオフされており、本ステップの判定は否定判定されることになる。
ステップ215で否定判定されるとステップ220に進み、BH補助リリース制御処理を実行する。このBH補助リリース制御処理について、図8に示すBH補助リリース制御処理のフローチャートを参照して説明する。
BH補助リリース制御処理が開始されると、ステップ400において、正常と判定する範囲MAX時間を設定する。正常と判定する範囲MAX時間とは、無負荷状態になったことが確定した時間(以下、無負荷確定時間)として想定される最大時間を意味しており、ESC−ECU8の出力するW/C圧の指示圧に対応した無負荷確定時間に対してバラツキ分を加味した時間に設定される。W/C圧の指示圧は、発生させられているサービスブレーキ力に対応する値であり、サービスブレーキ力を駐車ブレーキ力に切り替えるときにそのW/C圧の指示圧に対応した駐車ブレーキ力を発生させるようにしている。
ESC−ECU8からEPB−ECU9に伝えられるロック指令やW/C圧の指示圧などの各種情報が正常な場合、EPB2をロック状態にさせた後にリリース状態にさせるときの無負荷状態になるまでに掛かる時間は一意に決まる。例えば、W/C圧に応じてピストン19の押圧力が決まることから、W/C圧の指示圧が大きいほどピストン19の押圧力が大きく、無負荷確定時間が短くなる。このため、ESC−ECU8の出力するW/C圧の指示圧に基づいて正常と判定する範囲MAX時間を設定し、実際に無負荷状態になるまでに掛かった時間と比較することで、ロック指令が誤って出されているか否かを判定できる。
したがって、ここではESC−ECU8が出力するW/C圧の指示圧に基づいて正常と判定する範囲MAX時間を設定している。本実施形態の場合、図12に示すW/C圧の指示圧と無負荷確定時間との関係を示したマップを用いて正常と判定する範囲MAX時間を設定している。例えば、W/C圧の指示圧がP1であったとすると、指示圧P1に対応する無負荷確定時間に対してバラツキ分を見込んだ範囲を正常と判定する範囲として想定し、その最大時間を正常と判定する範囲MAX時間としている。
続いて、ステップ405に進み、略0点確定を示すフラグがオンされているか否かを判定する。略0点とは、モータ電流値が無負荷電流値に至ったところを意味し、そこに至ったことが確定したときに略0点確定を示すフラグがオンされるようになっている。図6および図7に示すようにBH補助リリース制御処理が実行されたのち、突入電流発生後にモータ電流値がモータ10に掛かる負荷に応じた値に戻り、その後徐々に低下して無負荷電流値に至って一定値になる。この無負荷電流値に至ったところが略0点であり、後述するように、略0点に至っているとの判定が略0点確定時間継続して為されたときに略0点に至ったことが確定するようにしている。BH補助リリース制御処理が開始された当初には、略0点確定を示すフラグはオフされており、本ステップの判定は否定判定されることになる。
このため、ステップ410に進み、ロック指令正常判定用カウンタをインクリメントする。ロック指令正常判定用カウンタは、ロック指令信号が正常であるか誤っているかを判定するために用いるカウンタである。具体的には、ロック指令正常判定用カウンタは、BH補助リリース制御処理が開始されたときからカウントをはじめ、略0点に至ったことが確定するまでカウントアップされる。したがって、ロック指令正常判定用カウンタにて、BH補助リリース制御において無負荷状態となるまでの時間(以下、無負荷時間という)を計測することができる。
そして、ステップ410の処理を終えた後、もしくはステップ405で肯定判定されるとステップ415に進み、モータ電流値の前回値である電流値(n−1)と今回値である電流値(n)との差の絶対値がリリース制御終了判定電流値に至っているか否かを判定する。モータ電流値は無負荷電流値に至ると略一定になることから、電流値(n−1)と電流値(n)との差の絶対値が殆ど0になる。
このため、これらの差の絶対値がノイズなどを加味した判定基準値であるリリース制御終了判定値よりも小さくなるまではステップ420に進む。そして、まだ車輪がリリース状態になっていないため、リリース状態を示すフラグをオフすると共に、モータリリース駆動をオンする。これにより、モータ10が逆回転、つまり車輪をリリース状態にする方向に回転させられる。これに伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12から離れる側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12から離れる側に移動させられる。
そして、ステップ415で肯定判定されると、無負荷状態に至った可能性があることからステップ425に進んでリリース制御終了カウンタをインクリメントする。リリース制御終了カウンタは、略0点に至ったと判定されたときにその判定の継続時間を計測するカウンタである。この後、ステップ430に進み、リリース制御終了カウンタが略0点確定時間継続を超えたか否かを判定する。つまり、略0点に至っているとの判定が略0点確定時間継続して為されたときに略0点に至ったことが確定するようにしている。このため、ステップ430で肯定判定されるまではステップ420に進んで上記処理を繰り返し、肯定判定されればステップ435に進んで略0点確定を示すフラグをオンしたのち、ステップ440に進む。
ステップ440では、ロック指令正常判定用カウンタに対して制御周期を掛けた値、つまりBH補助リリース制御処理が開始されたときから略0点に至ったことが確定するまでの経過時間、つまり実際の無負荷確定時間が正常と判定する範囲MAX時間を超えているか否かを判定する。ここで否定判定されれば、無負荷確定時間がESC−ECU8から伝えられたW/C圧の指示圧から想定される時間と比較して適切であると言え、肯定判定されれば長過ぎると言える。
このため、ステップ440で否定判定されたときにはステップ445に進み、後述するBH補助ロック2制御処理を許可すべく、BH補助ロック2制御許可を示すフラグをオンすると共に、ロック指令正常判定用カウンタをリセットし、さらにBH補助制御中フラグをオフする。また、ステップ440で肯定判定されたときにはステップ450に進み、BH補助ロック2制御許可を示すフラグをオンすることなくロック指令正常判定用カウンタのリセットだけを行う。これらの処理により、無負荷確定時間がESC−ECU8から伝えられたW/C圧の指示圧から想定される時間と比較して適切である場合にのみ、後でBH補助ロック2制御処理でのロック動作が行われるようにできる。
その後、ステップ455に進み、リリース制御終了カウンタがBH補助リリース制御処理に掛かると想定されるリリース制御終了時間を超えたか否かを判定する。そして、ステップ450で肯定判定されるまではステップ420に進んで上記処理を繰り返し、肯定判定されるとステップ460に進み、車輪をリリース状態にできたときの処理を行う。具体的には、モータリリース駆動を示すフラグをオフしてモータリリース駆動を停止し、車輪がリリース状態になったことを示すフラグをオンすると共に、リリース制御終了カウンタを0にリセットすることでBH補助リリース制御処理を終了する。
このようにしてBH補助リリース制御処理が終了すると、一旦、図4に示すBH補助制御処理が終了するが、次の制御周期において、再び図3のステップ100〜120の処理を経てステップ130に進み、BH補助制御処理が実行されることになる。このときには、上記した図8のステップ445でBH補助ロック2制御許可を示すフラグがオンされていることから、図4のステップ215で肯定判定され、ステップ225に進む。そして、ステップ225において、BH補助ロック2制御処理を実行する。このBH補助ロック2制御処理について、図9に示すBH補助ロック2制御処理のフローチャートを参照して説明する。ただし、BH補助ロック2制御処理は、上記したBH補助ロック1制御処理とほぼ同じ処理であるため、共通部分については説明を簡略化する。
具体的には、ステップ500〜530において、図5のステップ300〜330と同様の処理を行うことで、目標モータ電流値上昇量を例えば図11に示したマップを用いて設定したのち、突入電流発生後のモータ電流値の上昇し始めを検出することでモータ10に負荷が掛かった状態を検出する。そして、モータ電流値が無負荷電流値に対して目標モータ電流値上昇量を加算した値を超えるまでモータロック駆動を継続し、それを超えるとステップ535に進んで2回目のBH補助ロック制御によって車輪をロック状態にできたときの処理を行う。具体的には、モータロック駆動を示すフラグをオフしてモータロック駆動を停止し、車輪がロック状態になったことを示すフラグをオンすると共に、ロック駆動時間タイマを0にリセットする。また、電流値上昇し始めフラグをオフしてBH補助ロック2制御処理を終了する。
このようにしてBH補助ロック2制御処理が終了すると、一旦、図4に示すステップ230に進み、BH補助制御中フラグをオフしてBH補助制御処理を終了する。そして、図3のステップ135に進み、ロック・リリース表示処理を実行する。このロック・リリース表示処理の詳細について、図10を参照して説明する。
図10に示すように、ステップ600では、ロック状態を示すフラグがオンされているか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ605に進んでロックリリース表示ランプを点灯させてロック状態であることを表示する。また、ステップ600で否定判定されれば、ステップ610に進んでロックリリース表示ランプを消灯することでロック状態ではないことを示す。これにより、ドライバにロック状態であるか否かについて認識させることが可能となる。このようにして、ロック・リリース表示処理が完了し、これに伴ってBH補助駐車ブレーキ制御が完了する。
以上説明したように、ESC−ECU8からEPB−ECU9にロック指令信号が送られてきたときには、BH補助ロック1制御処理を行うことで車輪をロック状態にしたのち、BH補助リリース制御処理を行うことで車輪を一旦リリース状態に戻すようにしている。また、ESC−ECU8が出力するW/C圧の指示圧に基づいて正常と判定する範囲MAX時間を設定し、BH補助リリース制御処理が開始されたときから略0点に至ったことが確定するまでの経過時間が正常と判定する範囲MAX時間を超えているか否かを判定している。
そして、図6に示すように、その経過時間が判定する範囲MAX時間を超えていない場合には、ロック指令信号が正しく出力されたとして、BH補助リリース制御処理の後のBH補助ロック2制御処理が実行されるようにし、車輪を再びロック状態にする。これにより、正常なロック指令信号に基づいて車輪をロック状態にすることができ、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを正常に行うことが可能となる。また、図7に示すように、その経過時間が判定する範囲MAX時間を超えている場合には、W/C圧の指示値が誤っており、ロック指令信号も誤って出されたとして、BH補助リリース制御処理の後のBH補助ロック2制御処理が実行されないようにし、車輪をリリース状態のままにする。これにより、誤ったロック指令信号に基づいて車輪をロック状態にしてしまうことを防止することが可能となる。
このように、ESC−ECU8が出力するW/C圧の指示圧に基づいてロック指令信号が正しく出力されたか否かを判定することができる。そして、誤ったロック指令信号に基づいて車輪をロック状態にしてしまうことを防止することで、EPB2がドライバの意図しない制動力を発生させてしまうことを抑制することが可能となる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、ESC−ECU8からのW/C圧の指示値を利用してロック指令信号が誤って出力されたか否かを判定するようにしたが、これを実施する前に、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行う条件と合致しているか否かを判定し、合致していなければロック指令信号が誤って出力されていると判定しても良い。例えば、上記したように図3で示した走行中であるか否かの判定も切り替えを行う条件の一つであるが、その他、W/C圧が発生していないときなどの条件が挙げられる。これらの条件を満たしていない場合には、BH補助制御処理を実行しないようにすることで、誤ったロック指令信号に基づいて車輪をロック状態にしてしまうことを防止することが可能となる。
また、上記したようにロック指令信号が誤って出力されてきたと判定された場合、ESC−ECU8にその旨を伝えることでサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えが完了していないことを伝えたり、ESC−ECU8側に故障している可能性があることを伝えるようにしても良い。また、図示しない報知装置を介して、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えが完了していないことやESC−ECU8が故障している可能性があることをドライバに伝えるようにしても良い。
また、上記実施形態では、ロック指令信号が誤って出力されたか否かを判定にESC−ECU8からのW/C圧の指示値を利用したが、W/C圧に相当する物理量としてM/C圧を用いたり、W/C圧に応じて押圧されるピストン19の押圧量を用いることもある。これらの物理量も実質的にW/C圧の指示圧に相当する値であり、これらを利用してロック指令信号が誤って出力されたか否かを判定する場合にもW/C圧の指示圧を利用してその判定を行う場合に含まれる。
また、上記各実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPB2を例に挙げたが、他のタイプ、例えばドラムブレーキタイプのものであっても構わない。その場合、摩擦材と被摩擦材は、それぞれブレーキシューとドラムとなる。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU9のうち、ステップ210の処理を実行する部分が第1補助ロック制御手段、ステップ220の処理を実行する部分が補助リリース制御手段、ステップ225の処理を実行する部分が第2補助ロック制御手段、ステップ400の処理を実行する部分が時間設定手段、ステップ440の処理を実行する部分がロック指令信号異常判定手段に相当する。