JP2013241713A - シルク複合ナノファイバー及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 シルクナノファイバーが有する生分解性機能、細胞付着性機能、ならびに無機層状化合物が有する細胞付着機能を損なうことなく、有益細胞を効率的に付着・増殖させることができるシルク複合ナノファイバー及びその製造方法提供する。
【解決手段】 シルクと無機層状化合物とからなるシルク複合ナノファイバーを製造するにあたり、水不溶化したシルクナノファイバーを無機層状化合物の水溶液に浸漬処理することで
シルクナノファイバーの繊維間隙あるいは繊維交錯点間に機械摩擦に対して強固な無機層状化合物の薄膜を形成する。
【選択図】 図5

Description

本発明は、シルク複合ナノファイバー及びその製造方法に関し、より詳細にはシルクナノファイバーに無機層状化合物が付着するシルク複合ナノファイバー及びその製造方法に関する。
最近の再生医療技術、あるいは再生医療を可能にするための素材は目覚ましく進展している。例えば、生体吸収性の足場材料に細胞を付着・増殖させ生体内に移植するティッシュエンジニアリングは,結合組織を中心とした骨や軟骨などの再生に有効である。細胞足場材表面で増殖した細胞同士をシート状に連結したものを生体内に移植し、あるいは3次元的に組み合わせて組織を再構築させることが可能な「細胞シート工学」の発展が期待されている。具体的には、有機高分子のナノファイバーは、有機材料を先ず溶媒に溶解したものをエレクトロスピニングして製造できる超微細な繊維状新素材を細胞足場材として利用できる可能性を秘めている。
エレクトロスピニングにより、シルク、キトサン、セルロースなどの有機高分子を有機溶媒に溶かしてエレクトロスピニングすることで有機高分子のナノファイバーが作製できる(特許文献1、2)。シルクは生体適合性が良好であるため再生医療の分野におけるシルク研究が行われている。とくにカイコを通して得られるシルクフィブロイン(シルクの略記することもある)はフィルム、ゲル、スポンジ、繊維等、形の異なる素材に加工できる。ナノファイバーの主要な形態的特徴は、繊維径が微細であり、非表面積が極めて大きいことである。
生分解性と生体適合性に優れたシルクから製造できるシルクナノファイバーは、有用な細胞を付着・増殖させるための先端的な細胞足場材料として有望であるため、シルクあるいはそれ以外の有機材料のナノファイバーを用い細胞の増殖、付着を効率的に行う細胞培養の足場材料として有望である。
天然高分子であるシルクタンパク質(シルクと略記することもある)、コラーゲン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸などを溶媒に溶解しエレクトロスピンしてなる天然高分子ナノファイバーは数ナノメートルから数十マイクロメートルの繊維経を持ち、生体適合性機能を活用して人工血管、人工神経などに用いる生体材料として利用できる。生分解性と生体適合性が良好なシルクをベースにし、シルクが持つ生化学特性にシルク以外の物質を複合して細胞工学分野あるいは医療分野で利用できる新素材の開発研究に国内外から関心が寄せられている。
膜状のシルクあるいはシルクナノファイバーに、無機層状アニオン物質であるモンモリロナイト(MMT)を複合したシルク複合膜の表面でヒト間葉系幹細胞(hMSC)を付着する技術が開示されている(非特許文献1、2)。非特許文献1には、絹フィブロイン繊維を加熱した9.3M臭化リチウム水溶液で溶解しセルロース透析膜で十分に透析し、凍結乾燥処理により製造できるシルクフィのヘキサフルオロー2−プロパノール(HFIP)溶液にシリカ粒子を加え、オートクレーブにかけて滅菌式質表面で乾燥固化させて所望するシルク膜を作成し、試料膜表面におけるヒト間葉系幹細胞(hMSC)の足場材として有用なことが開示されている。非特許文献2には、絹フィブロイン繊維を加熱した9.3M臭化リチウム水溶液で溶解しセルロース透析膜で十分に透析してなるシルクフィブロイン水溶液に、MMT(Na+ Nanoclay)を精製してなるMMT水溶液を複合添加し、それをスピンコーター装置にかけてシルクとMMTとからなるシルク複合膜を製造した。シルク複合膜表面におけるヒト間葉系幹細胞(hMSC)の足場材として有用なことが開示されている。
特開2010−150712号公報 特開2010−270426号公報
"Osteoinductive silk-silicacomposite biomaterials for bone generation"Aneta J. Mieszawska, NikolaosFourligas ,Irene Georgakoudi, Nadia M. Ouhib, David L. Belton, Carole C, Perry,David L. Kaplan Biomaterials31(2010)8902-8910. "Clay enriched silk biomaterialsfor bone generation"Aneta J. Mieszawska, Jabier Gallego Llamas. Christopher A.Vaiana, Madhavi P. Kadakia, Rajesh R.Naik, David L. Kaplan, ActaBiomaterialia,2011,7,3036-3041
シルクのヘキサフルオロー2−プロパノール(HFIP)溶液にシリカ粒子を加えて製造したシルク複合膜(非特許文献1)では、シリカ粒子がシルクに物理的に吸着するだけでシリカ粒子とシルク複合ナノファイバーとの相互間の付着は良好ではない。シルク水溶液に、MMT(Na+ Nanoclay)を溶解してなるMMT水溶液を複合添加することで製造できるシルク複合膜(非特許文献2)は、シルク複合膜の比表面積は狭いため、シルク複合膜表面におけるヒト間葉系幹細胞(hMSC)の付着増殖性は良好ではない。
本発明は、ナノファイバーをベースとし、シルク表面への細胞の付着増殖性を増強させる第二物質をシルクナノファイバーに複合させることにより、細胞足場材として好適に利用できるシルク複合ナノファイバー及びその好適な製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、シルクナノファイバー表面に薄膜状の無機層状化合物が付着してなり、シルクと電荷を有する無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質とからなるシルク複合ナノファイバー、シルクナノファイバーの繊維間、繊維交錯点を無機層状イオン化合物薄膜が被覆するシルク複合ナノファイバー及びその製造方法に関するものである。
発明者は、シルクナノファイバーをアルコール水溶液で処理してなる水不溶化シルクナノファイバーを無機層状アニオンあるいは無機層状カチオンの水溶液に浸漬することで、シルクナノファイバーの繊維間隙、繊維間を無機層状化合物の薄膜が被覆することとなり、シルクナノファイバーの立体的な網目構造が構造的に安定となり、かつ所望によりシルク表面がプラスあるいはマイナスに帯電するシルク複合ナノファイバーを効率的に製造する研究に従事し、発明を完成するに至った。
シルクナノファイバーの繊維間、繊維交錯点を無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質の薄膜が被覆するには、予めシルクナノファイバーを水不溶化させておくことが必要不可欠である。
ここで、無機層状アニオン物質((1)物質と略記する)では、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイト(MMTと略記)は良く知られた物質であり、その他、スメクタイト、カネマイト、リン酸ジルコニウムが例示できる。さらに、本願発明では層状チタン酸イオン、層状ニオブ酸イオン、
層状バナジン酸イオン、層状モリブデン酸イオン、層状タングステン酸イオン等のアニオン性シート構造を有するポリアニオンも同様に利用できる。これら無機層状アニオン物質のうち本願発明ではMMTが最も好ましく利用できる。
MMTは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイトに分類される粘土鉱物であり、層状構造を有しており、極めて大きな表面積を持っている。その結晶構造はケイ酸四面体層−アルミナ八面体層−ケイ酸四面体層の3層が積み重なっており、その単位層は厚さ約10Å(1nm)、0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。MMTの表面において層表面の酸素原子や水酸基との水素結合、層間において層間負電荷や層間陽イオンとの静電気的結合などが生じ、特に極性分子を持つ化合物を効果的に吸着能する機能を有する。MMTは骨形成に効果があることが開示され、骨細胞培養基材への応用が検討されている。シルク膜にシリカ粒子を複合し、これらの膜状試料を骨細胞培養基材として応用しようとの研究が進んでいる(非特許文献1)。
無機アニオン物質((1)物質と略記)には、上記記載の無機層状イオン化合物がある。層状でない無機物であるアロフェン、イモゴライトなどのシート状の粘土化合物も含まれるはずであるが、これらシート状の粘土化合物は本願発明では利用できない。それは、層状でない無機物を使用すると相対的に多点結合が起こり難く,ナノシルクの形状を生かした複合体形成が生ずることがないため、外部摩擦を受けると容易に剥離するためである。
一方、無水層状カチオン物質((2)物質と略記)としては、ハイドロタルサイト、層状復水酸化物(鉄、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の水酸化物)が例示できる。
シルクナノファイバーに無機層状化合物が付着してなるシルク複合ナノファイバーは、水不溶化シルクナノファイバーを無機層状化合物の水溶液に浸漬することによって製造することができる。当該発明のシルク複合ナノファイバーは、従来公知のエレクトロスピニングで製造したシルクナノファイバーを水不溶化処理を施した後、0.1〜0.7wt%の無機層状化合物の水溶液に浸漬処理することで効率的に製造できる。
無機層状化合物水溶液濃度と、無機層状化合物水溶液での浸漬時間、無機層状化合物水溶液への浸漬回数から選ばれた少なくとも1種の条件を採用することで水不溶化シルクナノファイバーに付着する無機層状化合物の膜厚を制御することができる。
本発明によれば、細胞足場材として好適に利用できるシルク複合ナノファイバー及びその好適な製造方法を提供することができる。
水不溶化シルクナノファイバーのSEM画像である。 水不溶化シルクナノファイバーのFTIRスペクトルである。 シルクナノファイバー表面をシリカ粒子で被覆するシルク複合ナノファイバーのSEM画像である。 シルクナノファイバーとモンモリロナイトとからなるシルク複合ナノファイバーのSEM画像である。 シルクナノファイバーとモンモリロナイトとからなるシルク複合ナノファイバーのTEM画像である。 シルクナノファイバーとモンモリロナイトとからなるシルク複合ナノファイバーのEDX分析結果を示すグラフである。
本発明に係るシルクと無機層状アニオン物質とが複合した微細な繊維径のシルクナノファイバー、あるいはシルクと無機層状カチオン物質とが複合した微細な繊維径のシルク複合ナノファイバー、あるいはシルクと無機層状アニオン物質及び無機層状カチオン物質とが層状構造となって複合した微細な繊維径のシルク複合ナノファイバーは、次のようにして製造できる。
エレクトロスピニングに用いられるシルクはカイコの繭糸から製造できる。繭糸からフィブロイン繊維を製造するための具体的な方法は次のとおりである。家蚕が営繭した繭をハサミで4等分に切断し、精練処理で繭糸表面を被うセリシンを除去する。すわなち、2.5(w/v)%の炭酸ナトリウム水溶液に切断した繭糸を浸漬して60分間煮沸することで繭糸のセリシンが除去でき絹フィブロイン繊維が製造できる。精練処理後、絹フィブロイン繊維を2日間水道水で洗い、軽く乾燥させる。
その後、絹フィブロイン繊維を9Mの臭化リチウム水溶液に浸漬し55℃〜60℃で加熱して絹フィブロイン繊維を完全に溶解させてなる絹フィブロイン水溶液をセルロース製の透析膜に入れ、水道水と4日間置換して絹フィブロイン水溶液に含まれるリチウムイオン、臭化イオンを除去したのち、純粋な絹フィブロイン水溶液を凍結乾燥することでフィブロインスポンジ(シルクスポンジ)が製造できる
シルクスポンジをTFA(トリフルオロ酢酸)等の有機溶媒に溶解し、それを従来公知のエレクトロスピニング装置により微細径を持つシルクナノファイバーを製造する。シルクナノファイバーは、水に溶解し易く、無機層状化合物の水溶液に浸漬するとシルクナノファイバーは溶解してしまう。したがって、シルクナノファイバーはアルコール水溶液で浸漬処理を行い、あらかじめ水不溶化処理を施しておく必要がある。水不溶化処理を施したシルクナノファイバーを無機層状化合物の水溶液に浸漬することでシルクナノファイバーの繊維間あるいは繊維交錯点間に無機層状化合物の薄膜が接着することによりシルクナノファイバーの形態を安定化させることが可能になり、その結果、細胞を付着させ増殖させるために供される細胞足場材が製造できる。
また、本発明に係るシルクナノファイバーと無機層状化合物とからなり、無機層状化合物の薄膜でシルクナノファイバーを被覆したものとシルク複合ナノファイバーと呼ぶ。当該、シルク複合ナノファイバーは、シルクナノファイバーの繊維交錯点間に無機層状化合物の薄膜が形成されることにより、繊維交錯点が無機層状化合物によって極めて強固に固着し、シルクナノファイバーは3次元的に安定した構造を取り、シルクナノファイバー表面を被覆する無機層状化合物の薄膜は外部摩擦を受けても剥がれないという特徴を有する。その結果、シルクナノファイバーの形態が安定化し細胞足場材として有効に利用できるシルク複合ナノファイバーとなる。
シルクナノファイバーを不溶化するには、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール水溶液に短時間浸漬処理するとよく、浸漬処理後、室温で乾燥する簡単な方法で水不溶性のシルクナノファイバーが製造できる。この目的に使用できるアルコールは、メタノールが最も好ましく利用でき、メタノール水溶液濃度は40-100 %、好ましい濃度は50-95%, 浸漬時間はシルクナノファイバーの用途によっても異なるが、5秒から20分、好ましくは1分から15分でよい。通常、効率的、経済的な理由から10秒から5分が最も好ましい浸漬時間である。
シルクナノファイバー表面に電荷を与えることが可能な本願発明の無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質、すなわち無機層状化合物は、いずれも水に溶解し、無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質の水溶液が容易に調整できる。 水不溶化したシルクナノファイバーを無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質の水溶液に浸漬して引き上げて乾燥することでシルク複合ナノファイバーの繊維間隙および繊維交錯点間を無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質からなりシルクと強固に結合する薄膜で被覆できる。
すなわち、無機層状アニオン物質の水溶液に水不溶化シルクナノファイバーを浸漬し、水洗後、乾燥させることでシルクナノファイバー表面を(1)物質の薄膜で被覆することができ、その結果、ナノファイバーの表面を「マイナス」に帯電させることができる。同様にして、無機層状カチオン物質の水溶液に水不溶化シルクナノファイバーを浸漬し、水洗後、乾燥させることでシルクナノファイバー表面を(2)物質の薄膜で被覆することができ、試料表面を「プラス」に帯電させることができる。このように水不溶化シルクナノファイバーを無機層状化合物の水溶液に浸漬することでシルクナノファイバーの表面の電荷をプラスあるいはマイナスに制御できることができる。シルクナノファイバー表面に無機アニオン物質の薄膜を極めて強固に付着することができ、細胞足場材として効率的に利用できる素材を製造することが可能なことが本願発明の大きな特徴である。
本願発明では、(1)物質あるいは(2)物質の薄膜がシルクナノファイバー繊維間隙及び繊維交錯点間を極めて強固に被覆することができ、構造的に安定なシルクナノファイバーを製造できる。その学術的な理由を(1)物質とシルクナノファイバーとに働く結合力を例にして以下説明する。シルクナノファイバー表面に(1)物質の薄膜を被覆するには、(1)物質の水溶液を有機酸の希釈水溶液でpHを6以下に調整し、望ましくは4以下に調整した(1)物質水溶液に水不溶化したシルクナノファイバーを浸漬し、シルクナノファイバー表面を「プラス」に帯電させておくことでシルクとアニオンである(1)物質とが静電気的かつ効果的に結びつく。同様に、シルクナノファイバーに(2)物質の薄膜を効率よく被覆するには、アンモニア水溶液を用いて(2)物質の水溶液のpHを6以上にするとシルクナノファイバーは「マイナス」に帯電し、(2)物質の薄膜がよく強固にシルクナノファイバー表面を被覆する。
上記のとおり、水不溶化シルクナノファイバーを(1)物質あるいは(2)物質の水溶液に浸漬し、あるいは(1)物質あるいは(2)物質の水溶液のpHを調整した後浸漬し、乾燥することでシルクナノファイバー繊維間隙あるいは繊維交錯点間に水不溶性の(1)物質あるいは(2)物資の皮膜が形成できる。シルクナノファイバーと(1)物質あるいは(2)物質とは化学的に極めて強い力で結合するため、シルクナノファイバーは構造的に安定となり、外部からの強い機械的な作用を与えてもシルクナノファイバー表面から(1)物質あるいは(2)物質の薄膜は剥離することはない。
シルクナノファイバー表面を被覆する(1)物質あるいは(2)物質の薄膜はシルクとの分子相互作用が特異的に強化しており、機械的な外部刺激が加わっても剥離することはない。その理由は、天然蛋白質であるシルクは試料環境のpHにより、プラスあるいはマイナスに帯電する特性を有する両性アミノ酸である。pH4以下の条件下ではシルクはプラスに帯電する無機層状アニオン物質であるMMT薄膜のアニオン部位とシルクとの間に、クーロン力が働き、MMT薄膜はシルクナノファイバー表面に強固に結合するからである。例えば、一つのカチオン部位とアニオン部位とが結合する確率が1/2とし、MMTの薄膜が100 nmと仮定すると合計1万個のイオン部位が存在し、すべてのイオン部位が解離する確率は、1/2を1万回掛け合わせた値となりMMTは物理的な力を作用しても剥離することはない。
シルクナノファイバー表面に形成された無機層状アニオン物質の薄膜は、シルクナノファイバー繊維間隙を単に物理的に被覆・付着するのではなく、上記記載の通りシルクナノファイバーとの間に静電気力(クーロン力)を介して結合しているため、いったん形成した無機層状アニオン物質の薄膜は極めて強固に試料表面を被覆しており、外部摩擦を受けても剥がれることはない。
次本発明を実施例および比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。まず実施例で使用する試料あるいは用語を解説する。
シルク:
利用可能なカイコの絹タンパク質は、家蚕(Bombyx mori)幼虫から得られる家蚕絹糸本体の絹フィブロイン(シルクとも略記する)、又は野蚕に属する柞蚕(Antheraea pernyi)、天蚕(Antheraea yamamai)、タサール蚕(Antheraea militta)、ムガ蚕(Antheraea assama)、エリ蚕、シンジュ蚕等の幼虫から得られる野蚕絹フィブロインである。家蚕としては、農家が飼育する家蚕(Bombyx mori)、家蚕の近縁種のクワコ幼虫由来の絹タンパク質が利用できる。
家蚕絹糸の本体である絹フィブロイン繊維を調製する場合には、カイコが吐糸した家蚕繭糸を炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液で煮沸することでセリシンを除去して調製できる絹フィブロイン繊維が出発物質である。絹フィブロイン繊維を溶解するには、濃厚な中性塩水溶液に絹フィブロイン繊維を溶解し加熱するとよい。この絹フィブロイン水溶液には、絹フィブロインの他に中性塩に基づくイオンが多く含まれるので、セルロース製の透析膜に入れ、水道水で2日〜5日間透析処理を行うと、純粋な絹フィブロイン水溶液が製造できる。この絹フィブロイン水溶液に微量のアルコールを添加して凍結乾燥することで家蚕のシルクスポンジ(シルクスポンジと略記する)が製造できる。
また、柞蚕絹糸又は天蚕絹糸等の野蚕絹糸から絹フィブロイン繊維を調製するには、野蚕繭糸の重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃で1時間処理してセリシンを除去し、かくして調製された野蚕絹フィブロイン繊維を、チオシアン酸リチウム等の溶解性の高い中性塩で溶解することで、野蚕絹フィブロイン水溶液が調製できる。これを家蚕絹糸と同様に透析処理して脱塩することで野蚕絹フィブロイン水溶液が調製できる。この絹フィブロイン水溶液に微量なアルコールを加えて凍結乾燥することで野蚕のシルクスポンジが製造できる。
(実施例1) シルクナノファイバーの製造
シルクナノファイバーは次のようにして製造した。シルクスポンジをトリフルオロ酢酸(TFAと略記する)に室温で3時間かけて溶解したシルク濃度8wt%、10wt%、12wt%のシルクTFA溶液をエレクトロスピニング装置(カトーテック株式会社製)で紡糸することでシルクナノファイバーを製造した。
印加電圧は8kVから12kV、紡糸距離は15cmに紡糸速度は20μL/minに設定した。紡糸距離とは紡糸ノズルと陰極板までの距離である。紡糸速度は紡糸ノズルから噴出する1分間あたりの試料溶液量の噴出速度を意味する。
濃度の異なるシルクTFAをエレクトロスピニングしてなるシルクナノファイバーの平均繊維径、繊維径の標準偏差、ナノファイバーの形態的な特徴を集約した。得られた結果を表1に示す。
表1において、20-8wt%とは、シルクTFAをエレクトロスピニングする際の印加電圧が20kV、シルクTFA濃度が8wt%であることを意味する。
なお、表1のシルクナノファイバーの形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)でシルクTFAをエレクトロスピニングしてなるシルクナノファイバーの形態を観察し、次の基準で評価したものである。
f:微細なシルクナノファイバー。
f+b: 微細なシルクナノファイバーにビーズ形態粒状物質が混在。
b:
微細な粒状のビーズ形態が多く観察される。
表1から次のことが確かめられた。シルクTFA溶液濃度が10wt%から12wt%へと増加すると、印加電圧が20kVではシルクナノファイバーの平均繊維径が214nm、499nmと増加した。電圧30kvでは、試料溶液濃度が8wt%、10wt%、12wt%に増加すると、シルクナノファイバーの平均繊維径が391, 398, 599 nmと増加した。また、試料TFA濃度と標準偏差を評価したところ、試料濃度が8wt%、10wt%、12wt%と高くなり、あるいは印加電圧20kv、30kvと高くなると、標準偏差、つまりシルクナノファイバーの繊維径のばらつきが大きくなった。
こうして、より微細な繊維径を有するシルクナノファイバーを製造するには、試料濃度が10wt%で印加電圧が20kVが最適条件であることが確かめられた。印加電圧が30kVで8wt%のシルクTFAをエレクトロスピニングして製造できるシルクナノファイバーの繊維径は、12wt%nのシルクTFAをエレクトロスピニングして製造できるシルクナノファイバーの繊維径より1.4倍以上も大きな値となった。
なお、シルクスポンジの代わりに野蚕である柞蚕シルクスポンジをTFAに溶解し、エレクトロスピニングしても表1に記載したものと類似した繊維経を有するシルクナノファイバーが製造できた。
(実施例2)水不溶化シルクナノファイバー
濃度10wt%のシルクFTAを印加電圧20kV,紡糸速度20μL/min, 紡糸距離 15cmでエレクトロスピニングして製造したシルクナノファイバーを、次のようにして水不溶化処理を施した。すなわち、まず、試料溶液濃度が10wt%印加電圧が20kvでエレクトロスピニングしてなるシルクナノファイバーを95%メタノール(和光純薬製)に10分間浸漬した後、室温で1昼夜風乾させることで水あるいは蒸留水に浸漬しても溶けない水不溶化シルクナノファイバーが製造できる。このように製造した水不溶化シルクナノファイバーの表面形態を走査電子顕微鏡(SEM)装置で試料表面形態を観察した。得られたSEM画像を図1に示す。
SEM画像から、水不溶化処理の前後でシルクナノファイバーの繊維径およびシルクナノファイバーの形態には差は見られなかった。なお、1分あるいは15分のアルコール浸漬処理であっても上記図1と同様の結果が得られた。
(実施例3)水不溶化シルクナノファイバーのFTIRスペクトル
実施例2で用いた水不溶化処理前のシルクナノファイバーの分子形態を評価するためアルコール処理時間(0, 1,15分)を変えた水不溶化シルクナノファイバーのFTIRスペクトルを測定した。得られたFTIRスペクトルを図2に示す。
アルコール処理前のシルクナノファイバーには分子の構造がランダムコイルに特有のスペクトルが現れた。すなわち、アミドIバンドが1651, 1528 cm-1に現れ、シルクの分子形態がランダムコイル状態であり、シルクナノファイバーが水に溶解するタイプであることがわかる。一方、メタノール水溶液で1分あるいは15分間浸漬処理したシルクナノファイバーのFTIRスペクトルには、アミドIバンドが1623,1516 cm-1に現れる。図2の測定結果によると、シルクナノファイバーをメタノール水溶液で1分あるいは15分浸漬処理するとシルクの分子形態はランダムコイル構造からβシート構造に転移し、水不溶化していることが実証された。このことからシルクナノファイバーをメタノール処理すると処理時間が1分程度のメタノール処理であってもシルクナノファイバーは結晶化して水不溶化することが分かる。
(比較例1)シルクナノファイバーとシリカの複合ナノファイバー
非特許文献1における試料製造方法に準じてシルクナノファイバーにシリカが物理的に付着したシルク複合ナノファイバーを製造した。すなわち、シルクスポンジをTFAに溶解させ、2.5wt%のビーズ状(粒子径10-20nm)の二酸化ケイ素酸(シリカと略記)(Silicon dioxide Lot# MKBF2812V、Sigma-Aldrich Japan株製)をシルクのTFAに均一となるように分散させ、これをエレクトロスピニングしてシルクとシリコンを含むシルクナノファイバーを製造した。かくして、10wt%のシルクTFAに、シルク重量に対して2.5 wt/vol%のナノシリカTFAを室温で混合させ、スタラーで1125rpmの回転数で激しく30分攪拌させ、エレクトロスピニングすることでシルクとナノシリカを含むシルク複合ナノファイバーを製造した。なお、エレクトロスピニング条件は紡糸電圧20kv、紡糸距離15cmであった。得られた複合ナノファイバーのSEM画像を図3に示す。
シルクナノファイバーは実施例2と同様,微細な径となるが、シルクナノファイバーの表面には、サイズが数μmオーダーのビーズ形態のシリカが多数付着する。ここで1μmは1000nm であることに留意されたい。シリカはシルクナノファイバー表面に単に物理的に付着しており、外部からの機械的な作用で剥離し、本願発明の細胞足場材としては有効に利用することはできなかった。
(実施例4)シルクとMMTとからなるシルク複合ナノファイバー
モンモリロナイト(ク二ミネ工業株式会社製、商品名・クニピアF)の一般構造式はMx(Al4-xMgx)Si8O20である。実施例2記載の方法で製造したシルクナノファイバーを95%のメタノール水溶液に5分間浸漬し、メタノール水溶液から取り出し乾燥することで水不溶化シルクナノファイバーを製造した。これを0.5wt%のMMT水溶液に10分間浸漬した後、取り出して乾燥する。こうしてシルクナノファイバー表面をMMTの薄膜が被覆したシルク複合体を製造しそのSEM画像を測定した。得られたSEM画像を図4に示す。
シルク複合ナノファイバーのSEM観察を行ったところ、MMT水溶液に浸漬する前後でシルクナノファイバーの繊維径、形態には変化が見られず、かつMMTは試料ナノファイバー表面を薄膜状態で均一に付着することが確認された。
なお、シルクスポンジの代わりに野蚕である柞蚕シルクスポンジをTFAに溶解し、エレクトロスピニングした後、水不溶化処理を行いMMT水溶液に浸漬しても図4に記載したものと類似した形態と繊維経を有するシルク複合ナノファイバーが製造できた。
(実施例5)シルクナノファイバー繊維間隙をモンモリロナイト薄膜が被覆
実施例2記載の、水不溶化シルクナノファイバーを実施例4の方法でMMT水溶液に浸漬し、軽く乾燥させたシルクナノファイバーにMMTの薄膜がどのような形態で付着しているかシルク複合ナノファイバーを透過型電子顕微鏡(TEM)装置で観察した。得られた画像を図5に示す。
図5のTEM画像によると、シルクナノファイバーの繊維間あるいは繊維間隙をMMTの薄膜が被覆している。MMTの薄膜は数nmオーダーと試算される。この試料を激しく水洗いしてもMMTの薄膜はシルクナノファイバー表面から剥離されて除去することは全く無かった。また、TEM装置で撮影した画像によるとシルクナノファイバー繊維間および繊維交錯点をMMTの薄膜が3次元的に被覆し、ナノファイバーの構造が安定性に寄与するものと示唆された。
(実施例6)EDX分析
エネルギー分散型X線分光法(EDX)は電子線照射により発生する特性X線をエネルギーで分光し検出する装置である。特定X線のエネルギーは元素固有のため、試料を構成する元素の同定が行うことができる。EDX測定の強度変化から組成に関する情報が得られる。
溶液濃度10wt%、紡糸電圧20kvでエレクトロスピニングし、実施例2記載のアルコール処理で水不溶化したシルクナノファイバーを0.5wt%のMMT水溶液に浸漬することで製造できるシルク複合ナノファイバーのEDX分析を行った。得られた結果を図6に示す。
水不溶化シルクナノファイバーを0.5wt%のモンモリロナイト水溶液に浸漬してなるシルクナノファイバー繊維間隙あるいは繊維交錯点にMMTの薄膜を形成させた試料のEDX分析(実施例5に記載)によると、ナノファイバーには、多量のSiに加えて、Al、Mgが新たに検出された。Al,MgはMMT薄膜で被覆しないシルクナノファイバーには全く検出できないため、MMT水溶液処理によりシルクナノファイバー表面をMMT薄膜が被覆していることを実証するものである。
(実施例7)(1)、(2)物質の薄膜の厚さ増加方法
モンモリロナイト水溶液濃度を増加させたり、水不溶化したシルクナノファイバーをMMT水溶液に浸漬する際、浸漬時間が長くなるとシルクナノファイバーのEDX分析によるとシルクナノファイバーの繊維交錯点あるいは繊維間隙を被覆するMMTの薄膜厚が増加することが確かめられた。
(1)物質であるMMT水溶液にアンモニア水あるいは酢酸水溶液を添加し、MMT水溶液のpHを4に調整した後、水不溶化したシルクナノファイバーを濃度0.3、0.5wt%のMMT水溶液に浸漬する。MMTを被覆したシルクナノファイバーを実施例6記載の方法でEDX分析を行ったところ、MMT水溶液の濃度が増加すると水不溶化シルクナノファイバーに含まれるSi、Al、Mgの含量が実施例6の結果よりも増加しており、シルクナノファイバーの繊維間隙、繊維交錯点間を被覆するMMTの薄膜の厚さが増加したことが明らかとなった。
次に、ハイドロタルサイトあるいは層状復水酸化物(鉄、ニッケル)水溶液濃度を0.5wt% から0.7wt%に増加させてハイドロタルサイトあるいは層状復水酸化物(鉄、ニッケル)水溶液にシルクナノファイバーを5分浸漬してシルク複合ナノファイバーを製造した。そのシルク複合ナノファイバーのシルクナノファイバーのTEM観察によると、繊維間隙、繊維交錯点間をハイドロタルサイトあるいは層状復水酸化物(鉄、ニッケル)の薄膜が被覆すること、およびシルク複合ナノファイバーのEDX分析によると、水不溶化シルクナノファイバーに含まれるSi、Al、Mgの含量が実施例6の結果よりも増加しておりハイドロタルサイトあるいは層状復水酸化物(鉄、ニッケル)の薄膜の厚さが制御できることが確認できる。
0.3, 0.5wt%のMMT水溶液に水不溶化シルクナノファイバーを浸漬してなるシルクナノファイバーをSEM装置で観測したところ、シルクナノファイバー繊維間隙および繊維交錯点間にMMT
の薄膜が均一に形成されたが、1.0wt%のMMTの水溶液に浸漬した場合は、シルクナノファイバー表面全体をMMTがミクロンオーダーの厚い膜厚を形成し被覆してしまい細胞足場材としては良好な素材とはならなかった。
同様に、MMT水溶液にアンモニア水あるいは酢酸水溶液を添加してMMT水溶液のpHを6に調整した後、水不溶化したシルクナノファイバーを引き続き、0.3,
0.5wt%のハイドロタルサイトの水溶液に浸漬したところ、シルクナノファイバー繊維間隙および繊維交錯点間にMMTあるいはハイドロタルサイトの薄膜が均一に形成されたが、水不溶化シルクナノファイバーを1.0wt%のハイドロタルサイトの水溶液に浸漬した場合は、シルクナノファイバー表面全体を
ハイドロタルサイトの厚膜が被覆してしまい細胞足場材としては良好な素材とはならなかった。
(実施例8)(1)、(2)物質の薄膜をシルクナノファイバー表面に積層する例
MMT水溶液にアンモニア水あるいは酢酸水溶液を添加してMMT水溶液のpHを4に調整した後、水不溶化したシルクナノファイバーを0.5 wt%
MMTの水溶液に1分間浸漬して、1分間水洗いして乾燥させることで、シルクナノファイバーの繊維間、繊維交錯点間にMMTの薄膜を形成させた後、試料を取り出し、引き続き0.5wt%の(2)物質であるハイドロタルサイトの水溶液に浸漬し、試料を取り出し乾燥させる。かくして製造できるシルク複合ナノファイバーを実施例6で記載したEDX分析すると水不溶化シルクナノファイバーに含まれるSi、Al、Mgの含量が実施例6の結果よりも激増した。シルクナノファイバーの繊維間隙、繊維交錯点間をまず、MMTの薄膜が被覆し、MMTの薄膜上にハイドロラルサイトの薄膜が積み重なるように被覆する。
すなわち、シルクナノファイバー繊維間隙あるいは繊維交錯点間をMMTおよびハイドロタルサイトが薄膜の層状を取りながらシルクナノファイバーの表面を積層する構造をとるようになる。
(実施例9)無機層状アニオンと無機層状カチオンを層状に被覆したナノファイバー
無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質が層状に被覆したシルクナノファイバーは次のようにして製造した。すなわち、実施例2記載の水不溶化シルクナノファイバーを無機層状アニオン物質である層状チタン酸イオンあるいは層状ニオブ酸イオンからなる0.5wt%の水溶液に1分間浸漬した後、1分間水洗いして乾燥させることで、試料表面を「マイナス」に帯電したシルクナノファイバーを製造した。また、無機層状カチオン物質であるハイドロタルサイト、スメクタイト、あるいはカネマイトの0.5wt%水溶液に10分間浸漬した後、1分間水洗いして乾燥させることで試料表面を「マイナス」に帯電したシルクナノファイバーを製造した。
(実施例10)ナノファイバーを用いた細胞培養実験
次のA〜D 4種類の細胞足場材を用いて細胞の付着・増殖実験を行った。
A:実施例1記載の水不溶化シルクナノファイバー。
B:比較例1記載のシルクナノファイバー表面にシリカが物理的に付着した試料。
C:本願発明の「水不溶化シルクナノファイバー」を0.5wt%のモンモリロナイト(MMT)の水溶液に1分間浸漬した後1分間水洗いして製造した、シルクナノファイバーの繊維間隙及び繊維交錯点間にMMT薄膜が形成したシルク複合ナノファイバー。
D:
0.5wt%のMMT水溶液をポリスチレン製基質膜の表面で乾燥固化したMMT薄膜。
上記、4種類のナノファイバーは細胞実験に先だってナノファイバーに含まれる夾雑物を除去するため常温の蒸留水で1時間の浸漬を10回繰り返した後、細胞培養用ディッシュの底面に付着させた。
ナノファイバーにおける細胞の付着・増殖は次のようにして評価した。
マウス頭蓋冠由来骨芽細胞(MC3T3-E1)が上記4種類のナノファイバー表面でどのように付着・増殖するかの細胞培養実験を行った。24時間培養後、上記各試料表面におけるマウス骨芽細胞の培養状態をSEM画像で観察した。細胞足場材表面における細胞の伸展状態、細胞の接着状態は次のようにして評価した。24時間細胞培養の後、細胞足場材表面の細胞を2.5%グルタルアルデヒド水溶液で固定した後、濃度勾配エタノール法(50、60、70、80、90、99% EtOHの順に10分間ずつ浸漬)によりnブタノールで脱水し常法により乾燥試料を作成し、これを走査型電子顕微鏡(SU1510;HITACHI)で観察をした。細胞の伸展状態と細胞が細胞足場材の接着する程度を走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果から目視で観察した。得られた結果を表2に示す。
表2における細胞の伸展状態は次のように評価した。
+++
伸展状態が極めて良好であった。
++ 伸展状態が普通であった。
+ 伸展状態が普通以下であった。
表2における細胞の接着性は次のようにして評価した。
+++
細胞足場材への細胞の接着性が極めて良好であった。
++ 細胞足場材への細胞の接着性が普通であった。
+ 細胞の足場材への細胞の接着性が普通以下であった。
組織培養用ディッシュ(TCD、f90mm:NUNC)
シルクナノファイバー(A)では、24時間培養後において、細胞の付着および伸展が起こり細胞の伸展状態は良好となり、細胞が良好に生存していた。シリカがシルクナノファイバー表面を物理的に被覆するシルク複合ナノファイバー(B)では、24時間培養後において細胞の付着、伸展状態は良好でない。シルク表面をMMT薄膜が被覆するシルク複合ナノファイバー(C)の表面では、24時間培養後において、細胞の付着、伸展状態は最も良好であり、シルクナノファイバー(A)使用時よりも優れていた。MMTからなるナノファイバー(D)表面では、24時間培養後において細胞の付着、伸展状態は普通程度であり、シルクナノファイバー(A)と同等の細胞状態を示した。
以上の結果は下記の通り集約できる。
本願発明のシルク表面をMMT薄膜が被覆するシルク複合ナノファイバー(C)の表面では細胞の付着伸展性が最も良好であり、接着が早く、進展し細胞の生存性も優れていることが確認された。TEM観察によるとシルク複合ナノファイバー(C)の繊維間および繊維間隙にMMTの超薄膜が形成されており、シルクとMMTの生化学的特性を兼ね備えた新しい複合素材であることが実証された。
シルクナノファイバーと無機層状化合物、すなわち無機層状アニオン物質あるいは無機層状アニオン物質とからなるシルク複合ナノファイバーは、生分解性で細胞付着増殖性に優れ、微細な繊維径を有し繊維径のバラツキが少ないシルクと、細胞付着増殖性が良好な無機層状化合物とからなるため生体用のバイオ材料として、あるいはその他、多様な産業分野で利用することができる。シルク複合ナノファイバーは繊維径が極めて微細でありナノファイバーの非表面積が大きいため、細胞の付着や成長が同一材料の膜状試料よりも遙かに優れている。
本願発明によれば、シルクナノファイバーが特徴的に備える生分解性と生体適合性との機能を損なうことなく、かつ無機層状化合物が有する生化学特性との相乗効果を有し、シルクと無機層状化合物と機能の相乗効果を有する複合新素材を製造する方法、細胞足場材として新規なシルク複合ナノファイバーが提供できる。
本願発明では、シルクスポンジを有機溶媒に溶かし、エレクトロスピニングしてなるシルクナノファイバーを水に不溶化する必要があり、そのためには、シルクナノファイバーをまずアルコールで水不溶化処理する。さらに無機層状化合物の水溶液に浸漬することにより、水不溶化シルクナノファイバーの微細繊維間隙あるいは微細繊維交錯点を接着するように無機層状化合物の薄膜を確実に付着固定させることができる。無機層状化合物で表面を付着固定したシルクナノファイバーは水に浸漬してもいったん形成した無機層状化合物の薄膜はシルクナノファイバーの交錯点を架橋しており、外部の機械的な作用を及ぼしても剥離することなく、シルクナノファイバーの寸法安定性向上に寄与する。さらに、シルクナノファイバーの微細繊維間隙あるいは微細繊維交錯点を架橋する無機層状化合物の薄膜の厚さは水不溶化したシルクナノファイバーを浸漬する無機層状化合物の水溶液濃度および無機層状化合物の水溶液に浸漬する時間により制御できる。
水不溶化シルクナノファイバー繊維間隙あるいは繊維交錯点を無機層状カチオン物質の薄膜で被覆・架橋するには、水不溶化した両性物質であるシルクナノファイバーをpH6以上とすることでシルクナノファイバーをマイナスに荷電させることができ、その結果、シルクナノファイバーを無機層状カチオン水溶液に浸漬することで無機層状カチオンとシルクとの間で極めて安定な結合が形成でき、いったん形成された積層膜は、水中でも安定となる。これとは逆に、シルクナノファイバーをpH4以下に調整することでシルクナノファイバーをプラスに荷電させることができ、その結果、シルクナノファイバーを無機層状アニオン水溶液に浸漬することで無機層状アニオンとシルクとの間で極めて安定な結合が形成できる。このようにシルクナノファイバーの表面を被覆する無機層状化合物の電荷を活用することでシルクナノファイバーの表面の電荷を制御できる。
細胞を付着増殖させるための細胞足場材は、一般には疎水性の材料より、親水性の材料に接着しやすい。現在用いられている細胞培養用ディスポーザブルディッシュ表面には疎水性のポリスチレン表面にアニオン性官能基を導入したものを使用しており、細胞が好都合に接着、増殖しやすい。また、細胞表面は全体として負荷電を有しているため、接着性に劣る細胞を培養する場合には、表面が正荷電を有している基材が有用である。これより表面の荷電をプラス、あるいはマイナスに変化させたシルクナノファイバーを培養基材として用いることにより、用いる細胞に対して良好な接着状態を実現することができ、細胞の生存性、分化機能の発現にも有効に働くことになる。
このように、シルク複合ナノファイバーは、生体適合性が優れ、非表面積が非常に大きいため、再生医療工学、創傷材料等のヘルスケア一分野、バイオテクノロジー分野、エネルギー分野、細胞工学分野で有効に利用できる。

Claims (9)

  1. シルクナノファイバーに無機層状化合物が付着してなるシルク複合ナノファイバー。
  2. 無機層状化合物が、無機層状アニオン物質あるいは無機層状カチオン物質であることを特徴とする請求項1記載のシルク複合ナノファイバー。
  3. シルクナノファイバーの繊維間隙あるいは繊維交錯点に無機層状化合物が、付着することを特徴とする請求項1または2記載のシルク複合ナノファイバー。
  4. 水不溶化処理が施されたシルクナノファイバーを、無機層状化合物の水溶液に浸漬することでシルクナノファイバーの繊維間隙あるいは繊維交錯点に無機層状化合物薄膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のシルク複合ナノファイバー。
  5. 無機層状化合物は、モンモリロナイト、スメクタイト、カネマイト、リン酸ジルコニウムから選択される少なくとも一種、あるいは層状チタン酸イオン、層状ニオブ酸イオン、
    層状バナジン酸イオン、層状モリブデン酸イオン、層状タングステン酸イオンから選択される少なくとも一種からなるアニオン性シート構造を有するポリアニオンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のシルク複合ナノファイバー。
  6. 無機層状化合物は、ハイドロタルサイトあるいは層状復水酸化物(鉄、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムの水酸化物)からなる無機層状カチオン物質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のシルク複合ナノファイバー。
  7. シルクナノファイバーに無機層状化合物が付着してなるシルク複合ナノファイバーからなる細胞足場材。
  8. 水不溶化シルクナノファイバーを無機層状化合物の水溶液に浸漬し、シルクナノファイバーに無機層状化合物が付着してなるシルク複合ナノファイバーの製造方法であって、
    無機層状化合物水溶液濃度と、無機層状化合物水溶液での浸漬時間、無機層状化合物水溶液への浸漬回数から選ばれた少なくとも1種の条件を採用することで不溶化シルクナノファイバーに付着する無機層状化合物の膜厚を制御することを特徴とするシルク複合ナノファイバーの製造方法。
  9. エレクトロスピニング法により作成したシルクナノファイバーを水不溶化処理し、0.1〜0.7wt%の無機層状化合物の水溶液に浸漬処理することを特徴とする請求項8記載のシルク複合ナノファイバーの製造方法。
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