JP2013238299A - 歯車、歯車装置および歯車成形工具 - Google Patents

歯車、歯車装置および歯車成形工具 Download PDF

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Abstract

【課題】大型化やねじれ角増大等に依らずに高強度化と高かみ合い率化を両立させ得る歯車を提供する。
【解決手段】本発明の歯車は、歯先の角部に設けられた歯先丸み(t)および/または歯元の隅部に設けられた歯元丸み(r)を有する歯部(H)からなり、少なくとも歯元丸みは、歯面の直交面上に現れる丸み断面形状が歯筋方向に沿って非線形的に変化して形成された非線形曲面からなることを特徴とする。この丸み断面形状は、例えば、歯筋方向に沿って曲率半径(Rr、Rt)が二次関数的に変化した円弧状からなると好ましい。歯元丸みをそのような丸み断面形状が連なってできる非線形曲面で構成することにより、歯元の最弱断面位置における応力を低減しつつ、高いかみ合い率を確保できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、高強度化と高かみ合い率化を両立させ得る歯車と、その歯車を用いた歯車装置およびその歯車の製造に適した歯車成形工具に関する。
回転軸間の動力伝達等のために種々の歯車が用いられる。いずれの歯車でも、信頼性確保のために十分な強度(特に折損強度)を有することが必要となる。また、歯車による動力伝達時に生じる振動や騒音を抑制するために、噛合する歯車対間のかみ合い率も大きいことが望まれる。
一般的に、歯車の強度確保は、モジュールを大きくしたり転位係数を調整(正転位化)して歯元歯厚を大きくすることによりなされる。また歯車のかみ合い率の確保は、モジュールを小さくしたり(歯数を増大させたり)ねじれ角を増大させて、有効に噛み合う範囲(有効歯丈)を大きくすることによりなされる。
このような従来の一般的な方策によると、歯車の強度確保とかみ合い率の確保は背反し易く、両者を高次元で両立させることが困難であった。このため、例えば、騒音等を低減するためにかみ合い率の確保を優先した場合、歯車の強度確保は歯幅を増大させて歯元に作用する応力を低減させることにより行われていた。勿論、このような歯幅の増大は歯車の大型化、重量増加、コスト増加等を招き、当然好ましいものではない。
特開平10−196733号公報 特開2002−295642号公報 特開2009−236144号公報 特開2012−82893号公報
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、高強度化と高かみ合い率化を両立させ得る歯車と、その歯車を用いた歯車装置およびその歯車の製造に適した歯車成形工具を提供することを目的とする。
なお、本発明の歯車等に関連する記載が上記の特許文献にある。しかし、いずれの特許文献も、一つの歯車に関して高強度化と高かみ合い率化を両立させ得る提案はしていない。具体的には次の通りである。
特許文献1は、フライホイールの外周に設けられるリングギアを構成する歯部の頂部面取り量を、歯幅方向(歯筋方向)の中央部より、スタータの駆動ピニオンが突入してくる端面側(正面側)で大きくすることを提案している。
特許文献1は、駆動ピニオンがリングギアに突入する際の衝撃緩和を目的としているに過ぎず、本発明のような高強度化と高かみ合い率化の両立を全く意図していない。このことは、特許文献1が歯元形状について言及しておらず、歯先形状(頂部面取り量)を正面側から反対面側へ線形的(一次関数的)に変化させることしか述べていないことからもわかる。
特許文献2は、歯元丸みの曲率半径を小径端部から大径端部へ向けて漸次増大させて高強度化を図った傘歯車を提案している。特許文献2は、歯厚が小径端部から大径端部に沿って増大することに併せて、歯元丸みの曲率半径を小径端部から大径端部に沿って線形的(一次関数的)に変化させることを述べているに過ぎずない。そして特許文献2は、かみ合い率について何ら言及していない。従って特許文献2も、歯車の高強度化と高かみ合い率化の両立を意図したものではない。
特許文献3は、まがりば傘歯車の歯先円弧部の曲率半径を小径端部から大径端部へ向けて徐々に大きくすると共に、それに応じて噛合する相手歯車の歯元円弧部の曲率半径も徐々に大きくすることを提案している。
この場合も、曲率半径が小径端部から大径端部に沿って線形的(一次関数的)に変化しているに過ぎず、特許文献3も歯車の高強度化と高かみ合い率化を両立させる提案はしていない。なお、特許文献3は、歯先円弧部が相手歯車の歯面に当接した際に弾性変形し、歯面との接触面積が大きくなることにより、両者間で生じる歯打ち音等を小さくできる旨を述べている。しかし、このようなことは、通常の金属歯車では考えられないから、特許文献3は射出成形等により得られた低剛性な樹脂歯車に特化したものと思われる。
特許文献4は、噛合する歯車対の圧力角を歯幅方向へ変化させることにより、かみ合い率と歯元強度を向上させたインボリュート歯車対を提案している。もっとも特許文献4は、歯先形状または歯元形状については何ら言及していない。
本発明者は、このような状況下で上述した課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、少なくとも歯元丸みの形状を歯筋方向(歯幅方向)に非線形的に変化させることを思いつき、これにより高強度化と高かみ合い率化を両立させ得る歯車が得られることを見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《歯車》
(1)本発明の歯車は、歯先の角部(歯面と歯先面が接続される部分)に設けられた歯先丸みおよび/または歯元の隅部(歯面と歯底面が接続される部分)に設けられた歯元丸みを有する歯部からなる歯車であって、少なくとも前記歯元丸みは、歯面の直交面上に現れる丸み断面形状が歯筋方向に沿って非線形的に変化して形成された非線形曲面からなることを特徴とする。
(2)本発明によれば、歯車の種類や特性に応じて、歯元丸みの断面形状を歯筋方向に沿って非線形的に変化させることにより、高強度化と高かみ合い率化を両立させた歯車が得られる。
例えば、歯部の歯筋方向の中間部(これを適宜「歯筋中間部」という。)にある歯面で歯当たりが強く、その歯元に相対的に大きな応力が作用する場合、その歯元の丸み断面形状を歯部の歯筋方向の端部(これを適宜「歯筋両端部」という。)よりも大きくする。これにより相対的に大きな応力が作用する部分の歯元歯厚が大きくなる。この結果、その部分に作用する応力(または応力集中係数)が減少して、歯元の一部に曲げ応力等が過度に集中することがなくなり、全体として歯車の耐荷重が向上し、歯車の高強度化が図られる。
この場合、相対的に作用する応力が小さくなる歯筋両端部の歯元で、丸み断面形状が歯筋中間部よりも小さくなり、噛合する歯車間の有効な噛合範囲(有効歯丈)が歯筋中間部よりも拡張される。この結果、歯筋両端部におけるかみ合い長さが長くなり、かみ合い率が増大する。こうして本発明の歯車によれば、高強度化と高かみ合い率化の両立が図られ得る。
また本発明によれば、モジュールの増大や転位係数の調整によることなく、折損し易い歯元部分の歯厚を増大させることができると共に、歯幅やねじれ角を増大させることなく、好適なかみ合い率を確保できる。すなわち本発明の歯車によれば、歯車の大型化、重量増大、コスト増加等を抑制しつつ、十分な強度とかみ合い率の確保が可能となる。
(3)ところで、本発明に係る歯元丸みの形態は、歯筋方向(または歯幅方向)に変化しており、従来の歯車のように歯元丸みの断面形状が一定ではないし、その変化は歯筋方向に関して線形的(一次関数的)でもない。例えば、本発明に係る丸み断面形状が円弧状である場合、その曲率半径は歯部の一端から他端の間で、一定でもなければ、一次関数的(線形的)な変化もしておらず、歯筋方向の変位に対する曲率半径の増分が一定ではない。このような歯元丸みの形態変化を、本明細書では「歯面の直交面上に現れる丸み断面形状が歯筋方向に沿って非線形的に変化」という。
勿論、本発明に係る歯元丸みは、その丸み断面形状が円弧状である場合には限らず、丸み断面形状がそれ以外の種々の曲線状(直線状を含む)となっていてもよい。なお、特に断らない限り、本明細書では円弧状も含めて曲線状という。
ここで、丸み断面形状が歯筋方向に相似形である場合は、任意に抽出した一つの丸み断面形状を基準にして、各丸み断面形状の相似比の変化割合(増減)が歯筋方向に一定でないときを、丸み断面形状が歯筋方向に非線形的に変化しているという。
この場合には、当然、丸み断面形状が円弧状であるときも含まれる。このとき、曲率半径の増減が歯筋方向の変位に対して一定でないことを、丸み断面形状が歯筋方向に非線形的に変化しているという。なお、丸み断面形状が歯筋方向に非線形的に変化している場合には、丸み断面形状が歯筋方向に非相似的に変化しているときも含まれる。このときは、そもそも、歯筋方向の変化割合を特定の指標に基づいて評価できないからである。
いずれにしても、そのような丸み断面形状が歯筋方向に連なることにより本発明に係る非線形曲面が構成され、この非線形曲面により歯元丸み(さらには歯先丸み)が形成される。
《歯車装置》
本発明は、上述した歯車としてのみならず、その歯車と噛合する相手歯車を含む歯車装置として把握できる。すなわち本発明は、上述した歯車からなる第一歯車と、該第一歯車に噛合する相手歯車である第二歯車とを少なくとも備える歯車装置としても把握できる。
この際、第二歯車の歯先丸みは、第一歯車の歯元丸みと干渉しないように、第一歯車の歯元丸みを形成する第一非線形曲面に沿った第二非線形曲面からなると好適である。噛合する相手歯車の歯先丸みも非線形曲面とすることにより、高強度化を図りつつ、かみ合い率をより高めることが可能となる。
なお、ここでいう「第一」または「第二」は便宜的な呼称に過ぎず、上述した歯車に関する説明は第一歯車のみならず第二歯車にも該当する。そして噛合する各歯車が、本発明に係る歯元丸みと歯先丸みの両方を備えると好ましいことはいうまでもない。
《歯車成形工具》
本発明は、単に歯車としてのみならず、その製造方法やその際に用いる歯車成形工具としても把握できる。本発明の歯車は、その製造方法を問わないが、例えば、転造や鍛造などのように素材を塑性加工することにより効率的に製造され得る。その際、本発明に係る歯部に沿った形状を有する成形歯部からなる歯車成形工具を用いると、歯部の創成が容易となる。
《その他》
(1)本明細書でいう歯元歯厚は、図5(A)に示す最弱断面位置での歯厚を示し、歯面と歯元丸みの接続付近における歯元の円弧間の長さとする。便宜的には、歯元歯厚を歯面と歯元丸みの接続位置における厚さとしてもよい。
(2)本発明に係る歯部は一般的なインボリュート歯形の他、そのインボリュート歯形を改良した改良(修正)歯形(例えば、特開平9−53702号公報、特開2012−82893号公報等に記載された歯形)、サイクロイド歯形、トロコイド歯形等のいずれでもよい。
(3)本明細書でいう「高強度化」とは、基本的な諸元(種類、歯形、モジュール、歯数、歯幅、歯車全体としてのかみ合い率、材質、熱処理等)が同一な歯車同士を比較して、歯部が折損するまでの耐荷重が相対的に大きいことを意味する。歯車の形状および材質が同一なら、最弱となり得る歯元の特定部分に作用する応力またはその部分の応力集中係数(α)が小さいことを意味する。
本明細書でいう「高かみ合い率化」とは、基本的な諸元(種類、歯形、モジュール、歯数、歯幅、耐荷重等)が同一な歯車同士を比較して、歯車全体としてのかみ合い率が相対的に大きいことを意味する。
もっとも、高強度化と高かみ合い率化は相関しており、本発明の歯車では高強度化を図った際にかみ合い率の低下が抑制されるか、逆に高かみ合い率化を図った際に強度(耐荷重)の低下が抑制されれば、十分である。
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
本発明の一実施例に係る歯部を示す図であり、同図(A)はその要部斜視図であり、同図(B)はその歯元に作用する歯筋方向の応力分布図であり、同図(C)はその歯部のI−I断面図であり、同図(D)はその歯部のII−II断面図であり、同図(E)その歯部のIII−III断面図である。 その歯部の歯丈を示す図であり、同図(A)は歯筋方向の断面図であり、同図(B)はその歯部の歯面直交断面図である。 従来の歯車に係る歯部の歯丈を示す図であり、同図(A)は歯筋方向の断面図であり、同図(B)はその歯部の歯面直交断面図である。 歯筋方向の応力分布に及ぼす歯元丸みの曲率半径の影響を示すグラフである。 歯元丸みの最大曲率半径の影響を示す図であり、同図(A)はそれを算出するために用いた歯部の模式断面図であり、同図(B)はその最大曲率半径と応力集中係数比の関係を示すグラフであり、同図(C)はその最大曲率半径とかみ合い率比の関係を示すグラフである。 歯元丸みと歯先丸みの曲率半径の変化例を示す図であり、同図(A)は平歯車の歯筋中間部で歯当たりが強い場合であり、同図(B)は平歯車の歯筋両端部で歯当たりが強い場合であり、同図(C)ははすば歯車の歯筋中間部で歯当たりが強い場合であり、同図(D)ははすば歯車の歯筋中間部と歯筋両端部における歯当たりの差が比較的小さい場合である。 本発明の一実施例であるピニオン工具により転写成形される様子を示す写真である。 そのピニオン工具の成形歯部により転写成形される様子を示す断面図であり、同図(A)および同図(C)は歯筋両端部における様子を示す断面図であり、同図(B)は歯筋中間部における様子を示す断面図である。
本明細書で説明する内容は、本発明の歯車のみならず、その歯車を用いた歯車装置やその歯車の製造に用いられる歯車成形工具にも該当し得る。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の内容を上述した本発明の構成要素に付加し得る。その際、歯車の製造に関する内容は、プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《歯車》
(1)非線形曲面
本発明の歯車を構成する歯部は、歯面の直交面上に現れる丸み断面形状が歯筋方向に沿って非線形的に変化する非線形曲面からなる歯元または歯先を有する。この丸み断面形状は、前述したように、歯元に作用する応力に対応して変化していると好ましい。例えば、歯幅内で歯元に応力が高くなる部分ほど歯厚(歯元歯厚)が大きくなるようにし、比較的応力が低い部分ほど歯元歯厚が小さくなるようにすると好ましい。
これにより歯部の耐荷重が大きくなると共に十分なかみ合い率の確保が可能となる。この場合、丸み断面形状が非線形的に変化している限り、具体的な変化の仕方は問わない。例えば、歯筋方向の端部(歯筋端部)より歯筋方向の中間部(歯筋中間部)で歯部に作用する応力が集中し易い場合、丸み断面形状が歯筋端部より歯筋中間部で歯元歯厚が大きくなるように変化しているとよい。
もっとも歯部の成形性を考慮すると、丸み断面形状は円弧状であり、その曲率半径(R)が歯筋方向に沿って多次関数的(特に二次関数的)に変化していると好ましい。そして、その関数が歯筋方向に沿って歯元に作用する応力分布に近似した関数であると好ましい。
その曲率半径がとる具体的な最大値(Rmax)や最小値(Rmin)などは歯車の仕様によるが、概して、その最小値(Rmin)に対する最大値(Rmax)の比である曲率半径比(Rmax/Rmin)は1.25〜8さらには2〜8であると好適である。曲率半径が過小では高強度化が望めず、曲率半径が過大では高かみ合い率化が望めない。そして曲率半径比が過小である(1に近い)と、丸み断面形状を変化させる効果が乏しく、曲率半径比が過大であるとかみ合い率が低下して好ましくない。
(2)種類
本発明の歯車は、その種類を問わず、例えば、平歯車、はすば歯車、かさ歯車、まがりばかさ歯車、ハイポイドギヤ(フェースギヤ等)、内歯車(プラネタリーギアのリングギア等)などのいずれでもよい。また本発明に係る歯部は、適宜、クラウニングやエンドレリーフ(レリービング)等を施したものでもよい。
《製造方法》
本発明の歯車の製造方法は問わない。もっとも、従来からある各種のホブやカッターによる歯切りでは、歯筋方向に断面形状が一定の歯元や歯先が形成され易く、本発明の歯車を製造することは困難である。勿論、数値制御工作機(NC旋盤やマシニングセンタ等)を用いれば、一品毎に切削加工して本発明の歯車を得ることは可能であるが、それでは量産性に欠ける。
そこで、前述した本発明の歯車成形工具を用いた転写成形加工により、本発明の歯車を製造すると好適である。この転写成形は、転造が代表的であるが、放電加工などで製造した内歯型やラジアル鍛造型(歯車成形工具)を用いた鍛造などによっても行える。これらの塑性加工は、素材の材質に応じて冷間または熱間で行うとよい。なお、歯車成形工具の成形歯部は、その種類や成形方法にも寄るが、基本的に所望する本発明に係る歯部の形状を反転させた形状とすればよい。
《歯車装置》
本発明の歯車装置は、その用途を問わないが、例えば、自動車用変速装置や、モータなどの減速装置、一般機械用の減速機に用いられると好ましい。
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《歯車》
(1)歯部
本発明の一実施例に係る歯部Hの斜視図を図1(A)に示した。この歯部Hは、インボリュート歯形からなる歯面fと、その先端側にある歯先t、その底部側にある歯元rからなる。歯部Hの歯面直交断面上で観れば、歯先tは歯面fの両インボリュート曲線と歯先円の交点付近に形成され、歯元rは歯面fの両インボリュート曲線と歯底円の交点付近に形成されることになる。
(2)歯元および歯先
噛合する歯車対間で動力伝達を行った際に、歯部Hの歯元rに作用する応力分布を歯車解析ソフトを用いてシミュレーション(FEM計算)した一例を図1(B)に示した。この応力分布の算出位置は最弱断面位置(図5(A)に示す歯元部分)とした。また、算出した応力は曲げ応力とした。
図1(B)に基づき、歯元rに作用する応力が最大となる歯部Hの位置(歯筋中間部/II−II断面)と、その歯部Hの両端部(歯筋両端部/I−I断面とIII−III断面)との断面を図1(C)〜(E)に示した。これらの図からわかるように、歯元rの歯筋方向に沿って非線形的に作用する応力分布に応じて、歯部Hの歯元rに設ける丸みの大きさ(曲率半径Rr)も歯筋方向に沿って非線形的に変化させている。具体的にいうと次の通りである。
I−I、II−IIおよびIII−IIIの各位置に作用する歯元応力をそれぞれσ1、σ2、σ3とする。それら各位置における歯形の断面形状のうち、歯元丸みを構成する円弧部分(丸み断面形状)の曲率半径をそれぞれRr1、Rr2およびRr3とする。同様に、各位置における歯形の断面形状のうち、歯先丸みを構成する円弧部分(丸み断面形状)の曲率半径をそれぞれRt1、Rt2およびRt3とする。
上述したように歯元rにおける応力状態がσ2>σ3>σ1であるとき、歯元rの曲率半径はRr2>Rr3>Rr1とする。これにより歯元rに作用する応力に応じて丸み断面形状が歯筋方向に沿って非線形的に変化した非線形曲面からなる歯元丸みが形成される。この結果、従来の歯車に対してサイズアップやスラスト荷重の発生原因となるねじれ角の増大等を行わずに、大きな応力が作用する歯元r部への応力集中が緩和されたり、その部位での歯厚が効果的に拡張され、歯部Hの折損強度、ひいては歯車の伝達荷重の増大が図られる。
また本実施例の歯部Hには、相手歯車との噛み合いを考慮して、歯先tにも歯元rと同様な歯先丸みを設けた。そして、歯先丸みの曲率半径は、同一断面上でも歯元丸みの曲率半径と大きさが同一ではないが、歯筋方向の変化傾向は歯元丸の曲率半径と同様とし、歯先tの曲率半径はRt2>Rt3>Rt1とした。このような曲率半径の円弧状断面が歯筋方向に連なることにより、歯元丸みと同傾向の非線形曲面からなる歯先丸みが形成される。なお、噛合する歯車間の歯先と歯元が干渉しないように、いずれの丸み断面形状においても、各曲率半径はRri≧Rti(i=1、2、3)とした。
(3)有効歯丈の影響
上述したように丸み断面形状が非線形的に変化する歯部Hについて、歯面におけるその歯筋方向に沿った有効かみあい範囲と歯元r、歯先tとの関係を図2(A)に示した。また、任意に抽出した歯面fの直交面上に現れる歯部Hの断面図とそれに噛合する相手歯車のまがり歯の断面図を図2(B)に併記した。さらに参考として、丸み断面形状を歯筋方向に一定とした従来の歯部H’についても、同様な断面図を図3(A)および図3(B)に示した。
本実施例に係る歯部Hでは、歯元rに作用する応力が最大となる位置(II−II)で有効歯丈が減少しているが、その応力が低い位置(I−I、III−III)では逆に有効歯丈が増加している。そして全体として観ると、歯部Hの歯面fが有効にかみあう範囲は、従来の歯車の場合(図3参照)よりも増加している。このように丸み断面形状を非線形的に変化させることにより、応力が大きくなる部分で、かみ合いに寄与しない歯元丸み範囲および歯先丸み範囲が多少広がるが、全体として観れば、有効かみ合い範囲が拡大されており、従来の歯車に対して少なくとも同等以上のかみ合い率が確保される。
《歯元丸みの影響》
(1)上述した歯部Hの丸み断面形状の曲率半径Rrを種々変更した際に、歯元rに現れる歯筋方向の応力分布を図4に示した。図4から明らかなように、曲率半径Rrを非線形的に変化させたときの歯元rに生じる応力分布は、曲率半径Rrが小さくて一定のときの応力分布(Rr=Rr'で一定)と曲率半径Rrが大きくて一定のときの応力分布(Rr=Rr''で一定)の中間的な分布となる。つまり、曲率半径Rrを非線形的に変化させることにより、歯元応力の平滑化を図れることがわかる。ちなみに、歯元応力が全体的に大きな場合(曲率半径Rrが小さくて一定の場合)はかみ合い率が大きく、逆に歯元応力が全体的に小さい場合(曲率半径Rrが大きくて一定の場合)はかみ合い率が小さい。このことから、曲率半径Rrを非線形的に変化させたときのかみ合い率も、それらの中間値となり、歯元応力の低減とかみ合い率の低下抑制を両立し得ることがわかる。
(2)図5(A)に示すような断面形状の円筒平歯車の歯部について、歯元丸みの曲率半径Rrと歯元応力σrの関係を、各圧力角θ毎に調べ、この結果を応力集中係数比αを用いて図5(B)に示した。なお、応力集中係数比αはRr=0.25(mm)のときの歯元応力σr(α=1)に対する各位置における歯元応力σrの割合である。なお、歯元応力σrは、図5(A)に示す最弱断面位置における歯元応力である。この最弱断面位置は歯面荷重Pの作用線が歯中心線に交わる点oを通る放物線と歯元丸みの接する位置である。近似的には図中に示すo−qの中点pを通る歯元丸みRrの接線と接する位置で特定される。h、sは各部の寸法(mm)を示し、図5(B)、図5(C)はそれら範囲における代表例を示した(詳細は仙波正荘:歯車3巻(1996)P669〜691、株式会社日刊工業新聞社等を参照)。
同様にして、歯筋方向に丸み断面形状のRrを一定とした場合と変化させた場合とについてかみ合い率εの変化を調べた。この結果を、かみ合い率比εrを用いて図5(C)に示した。なお、かみ合い率比εrはRr=0.25(mm)のときのかみ合い率ε(εr=1)に対する各位置におけるかみ合い率εの割合である。
図5(B)から明らかなように、いずれの圧力角θにおいても、Rrが大きくなるほどαは小さくなるが、特にRrが1〜2.5mmさらには1.25〜2mmのときにαは顕著に低下し、最弱断面位置における歯元応力が大幅に低減されることがわかる。なお、αの低下はθが小さいほど顕著であった。
また図5(C)から明らかなように、歯元の丸み断面形状を変化させた場合、Rrを大きくしてもεrの低下は抑制され、十分なかみ合い率εが確保されることがわかる。逆に、歯元の丸み断面形状を一定とした場合、Rrを大きくするとεrが急減し、歯元丸みの曲率半径Rrの拡張による高強度化と高かみ合い率化は両立しないことがわかる。
以上のことから本発明によれば、従来の歯車では両立困難と考えられていた歯車の高強度化と高かみ合い率化の両立が、歯車のサイズアップやねじれ角増大等を行わずに可能となることが示された。
《歯元丸みと歯先丸みの形態例》
図6(A)〜(D)に、歯元丸みの曲率半径Rrと歯先丸みの曲率半径Rtを、歯筋方向に非線形的に種々変化させた場合を例示した。
図6(A)には、クラウニングを設けた平歯車の歯部の中央付近(歯筋中間部)で歯当たりが強い場合を想定してRrおよびRtを歯筋方向に非線形的に変化させた例を示した。この場合、RrおよびRtは上に凸な放物線的(二次関数的)に変化しており、歯幅Bの中央付近となる頂点位置でRrおよびRtが最大となり、歯幅Bの両端付近でRrおよびRtが最小となっている。
逆に図6(B)には、平歯車の歯部の端部(歯筋端部)付近で歯当たりが強い場合を想定してRrおよびRtを歯筋方向に非線形的に変化させた例を示した。この場合、RrおよびRtは下に凸な放物線的(二次関数的)に変化しており、歯幅Bの1/2となる頂点位置(0.5B)でRrおよびRtが最小となり、歯幅Bの両端付近でRrおよびRtが最大となっている。
図6(A)や図6(B)のとき、RrやRtの具体的な数値は、歯車の仕様(歯部のサイズ、クラウニングの形状、伝達荷重等)によっても異なるが、概ねRrの最小値(Rmin)は0.25〜0.5mm、Rrの最大値(Rmax)は1〜2.5mmとし、曲率半径比(Rmax/Rmin)は2〜8とすると好ましい。同様のことはRtについても該当する。
図6(C)には、はすば歯車の歯筋中間部で歯当たりが強い場合を想定してRrおよびRtを歯筋方向に非線形的に変化させた例を示した。この場合、RrおよびRtは上に凸な放物線的(二次関数的)に変化しており、歯幅Bの中間域にある頂点位置(0.1B〜0.5B)でRrおよびRtが最大となり、歯幅Bのいずれかの端部付近でRrおよびRtが最小となっている。
この場合も、RrやRtの具体的な数値は、歯車の仕様によっても異なるが、概ねRrの最小値(Rmin)は左端または右端に現れ、その一方側では0.5〜2mm、他方側では0.25〜0.5mm、Rrの最大値(Rmax)は1〜2.5mmとし、曲率半径比(Rmax/Rmin)は1.25〜10とすると好ましい。同様のことはRtについても該当する。なお、場合によっては片側半分をRmin≒Rmaxとしてもよい。
図6(D)には、はすば歯車の歯筋中間部の歯当たりが少し強いが、歯筋両端部の歯当たりと大差ない場合を想定してRrおよびRtを歯筋方向に非線形的に変化させた例を示した。この場合、RrおよびRtは上に凸な放物線的(二次関数的)に変化しているが、その変化は緩やかであり(つまり二次変数の係数が小さく)、歯幅Bの中間域にある頂点位置(0.1B〜0.5B)におけるRrおよびRtの最大値(Rmax)と、歯幅Bのいずれかの端部付近におけるRrおよびRtの最小値(Rmin)との差が小さい。
この場合も、RrやRtの具体的な数値は、歯車の仕様によっても異なるが、概ねRrの最小値(Rmin)は1〜2mm、Rrの最大値(Rmax)は1.5〜2.5mmとし、曲率半径比(Rmax/Rmin)は1.25〜2.5とすると好ましい。同様のことはRtについても該当する。
《歯車の成形》
(1)円錐環状をしたブランクMに本発明の歯車成形工具に係る実施例であるピニオン工具Pを用いて、上述したまがり歯H(歯部)からなるフェイスギア(ハイポイドギヤ)を転造成形する様子を図7に示した。
ピニオン工具Pは、基本的にまがり歯Hの形状を反転させた成形歯部が円筒外周面上に配置されてなる。フェイスギアの成形は、ブランクMとピニオン工具Pを直交する回転軸上にそれぞれ配置し、ピニオン工具Pの外周面にある成形歯部をブランクMの円錐面に押圧しつつ、両者を相対回転させることによりなされる。この際、ブランクMの円錐面をピニオン工具Pの回転軸方向へ漸近させることにより、上述したまがり歯Hを備えたフェイスギアが完成する。なお、図7には、試作用の粘土製ブランクMを用いた場合を示したが、実際には鋼鉄等の金属製のブランクMが用いられる。この際の成形は、型工具への負荷により冷間加工よりも熱間加工を選択する。
図1(A)に示すようなまがり歯Hを形成する際に用いるピニオン工具Pの成形歯部の形態を、図8(A)〜(C)に示した。図8(A)および図8(C)はまがり歯Hの両端部(図1(A)のI−I位置とIII−III位置)に対応しており、図8(B)はまがり歯Hの中央部(図1(A)のII−II位置)に対応している。まがり歯Hは、非対称な歯面fa1、fa2、fa3とfb1、fb2、fb3とからなり、ピニオン工具Pの成形歯部もそれに対応して非対称な成形歯面を備えてなる。また成形歯部の歯先丸みを構成する丸み断面形状は円弧状となっており、その曲率半径は各位置においてそれぞれ、Rra1、Rra2、Rra3とRrb1、Rrb2、Rrb3となっている。これらと同形状の丸み断面形状をもつ窪みがブランクMに成形され、この窪みがフェイスギアの歯元丸みおよび歯底面となる。
(2)上記のピニオン工具Pを用い、円筒状(または円柱状)をしたブランクの円筒外周面に対して回転成形すれば、円筒歯車が得られる。勿論、ピニオン工具Pの成形歯部は、まがり歯に限らず、はす歯でもすぐ歯でもよい。
このように転写成形可能な歯車成形工具を用いることにより、本発明のような複雑な歯部からなる歯車も容易に製造可能となる。
H 歯部(まがり歯)
t 歯先
r 歯元
f 歯面
Rt 歯先丸みの曲率半径
Rr 歯元丸みの曲率半径

Claims (8)

  1. 歯先の角部に設けられた歯先丸みおよび/または歯元の隅部に設けられた歯元丸みを有する歯部からなる歯車であって、
    少なくとも前記歯元丸みは、歯面の直交面上に現れる丸み断面形状が歯筋方向に沿って非線形的に変化して形成された非線形曲面からなることを特徴とする歯車。
  2. 前記丸み断面形状は、前記歯面に作用する応力に対応して変化している請求項1に記載の歯車。
  3. 前記歯部は、前記歯筋方向の端部より該歯筋方向の中間部で歯元歯厚が大きい請求項1または2に記載の歯車。
  4. 前記丸み断面形状は、前記歯筋方向に沿って曲率半径(R)が二次関数的に変化した円弧状からなる請求項1〜3のいずれかに記載の歯車。
  5. 前記曲率半径の最小値(Rmin)に対する該曲率半径の最大値(Rmax)の比である曲率半径比(Rmax/Rmin)は1.25〜10である請求項4に記載の歯車。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の歯車からなる第一歯車と、
    該第一歯車に噛合する相手歯車である第二歯車と、
    を少なくとも備えることを特徴とする歯車装置。
  7. 前記第二歯車の歯先丸みは、前記第一歯車の歯元丸みを形成する第一非線形曲面に沿った第二非線形曲面からなる請求項6に記載の歯車装置。
  8. 素材を塑性加工して、
    請求項1〜5のいずれかに記載の歯車を成形できることを特徴とする歯車成形工具。
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