以下に、図面を参照して本発明の倒立振子型車両の実施形態を説明する。以下の説明では、倒立振子型車両に着座した搭乗者を基準として各方向を定める。
倒立振子型車両1は、車体骨格をなす車体フレーム10に、車輪を構成する走行ユニット50と、走行ユニット50を駆動する左側駆動ユニット90及び右側駆動ユニット130と、左側駆動ユニット90及び右側駆動ユニット130を制御する電装ユニット300と、電装ユニット300に電力を供給するバッテリパック250と、搭乗者が着座するためのシートユニット170とが支持されたものである。
(車体フレーム)
車体フレーム10は、図4に示されているように、折曲した複数のパイプ材を溶接することによって形成されている。パイプ材は、鋼やアルミニウムからなる円形パイプであってよい。車体フレーム10は、走行ユニットを支持する走行ユニット支持部12と、走行ユニット支持部12の上部に接続され、駆動ユニットを支持する駆動ユニット支持部14と、走行ユニット支持部12の後部に接続され、バッテリパック250を支持するバッテリ支持部16とを有している。
車体フレーム10は、上下方向に延在し、上下両端が開口したパイプ材であるセンターポスト(昇降装置支持部)44を有している。センターポスト44は、走行ユニット支持部12の上部に接続されている。センターポスト44の下端には、左右方向に貫通すると共に、下端面に連続した一対のU字形スリットが形成され、このスリットにはパイプ材を環状の鞍形に折曲して形成された走行ユニット支持部12の後端部が受容され、溶接されている。走行ユニット支持部12は、左右方向に延在する前後一対の前縁部12A及び後縁部12Bと、前縁部及び後縁部の左端同士又は右端同士に連続し、中央部が幅方向外側に張り出すと共に下方へと延出した略U字状の左右一対の側部12Cとを有し、後縁部12Bにおいてセンターポスト44に接合されている。後縁部12Bとセンターポスト44との接合部には、左右一対の略三角形状のガセット46が接合され、補強がなされている。
左右の側部12Cのそれぞれの下部には、下方へと延出した左右のステップ支持パイプ36の上端が結合されている。左右のステップ支持パイプ36の前側には、それぞれ前方に延出すると共に面が左右を向いたステップ取付板38が結合されている。左右ステップ取付板38の車幅方向における外面には、搭乗者の足裏を支持するためのステップ40が突設されている。
左右の側部12Cのそれぞれの下部には、下方へと延出し、面が左右を向く板状の車軸支持板20が接合されている。車軸支持板20は、前縁がステップ支持パイプ36の後部に結合されている。左右の車軸支持板20には、左右方向に貫通すると共に、下方開放の軸受凹部20Aが形成されている。
駆動ユニット支持部14は、センターポスト44を含む複数のパイプをかご形に配設したものであり、走行ユニット支持部12の真上に設けられている。駆動ユニット支持部14は、走行ユニット支持部12の前縁部12Aの右端部から上方かつ後方に斜めに延在した後、屈曲して上方へと延在し、その後屈曲して後方へと延在し、更に下方かつ右方へと湾曲しつつ延びてセンターポスト44の上下方向における中間部の外面に接合した第1パイプ14Aと、走行ユニット支持部12の前縁部の左端部から上方かつ後方に斜めに延在した後、屈曲して上方へと延在し、その後屈曲して後方へと延在して遊端を形成する第2パイプ14Bとを有している。第1パイプ14A及び第2パイプ14Bの後方かつ上方へと傾斜して延びる下端部には、それぞれ前後方向に延在して後端が走行ユニット支持部12の後縁部12Bに接合された一対の第3パイプ14Cの前端が接合されている。第1パイプ14Aの上方へと延在する部分の中間部には、後方へと延びた後、屈曲して下方へと延びて後端が右側の第3パイプ14Cに接合された第4パイプ14Dの前端が接合している。第2パイプ14Bの上方へと延在する部分の中間部には、後方へと延びた後、屈曲して後方かつ上方へと延び、更に屈曲して右方へと延びてセンターポスト44の中間部の外面に接合した第5パイプ14Eの前端が接合している。第1パイプ14Aの上部において前後に延在する部分と、第2パイプ14Bの上端部とは、左右方向に水平に延在する第6パイプ14Fによって互いに接合されている。第4パイプ14Dの前後に延在する部分と、第5パイプ14Eの前後に延在する部分とは、左右方向に水平に延在する第7パイプ14Gによって互いに接合されている。また、第1パイプ14A及び第2パイプ14Bの上方へと延在する部分同士は、左右方向に延在する接続板14Hによって互いに接合されている。センターポスト44の中間部(または上部)に駆動ユニット支持部14の一部(第1パイプ14A、第5パイプ14E)を接続することにより、後述する昇降可能なシート200を安定して支持することができる。なお、センターポスト44の中間部(または上部)にバッテリ支持部16の一部を接続した構成によっても同様の効果が得られる。
駆動ユニット支持部14は、第7パイプ14Gを境界として、第7パイプ14Gの上方に配置された略立方体状の上側かご部14Iと、第7パイプ14Gの下方に配置された下側かご部14Jとを有する上下2段のかご形をしている。上側かご部14Iの、第2パイプ14Bの上半部と第5パイプ14Eによって画成された上側かご部14Iの左側部を形成する枠(左側枠状部)には、板状ガセットである左側駆動ユニット取付板22が結合されている。下側かご部14Jの、第1パイプ14Aの下半部、右側の第3パイプ14C及び第4パイプ14Dによって画成された下側かご部14Jの右側部を形成する枠(右側枠状部)には、板状ガセットである右側駆動ユニット取付板24が結合されている。左側駆動ユニット取付板22と右側駆動ユニット取付板24とは、車体幅方向に外側に上下段違いにあって互いに平行である。
バッテリ支持部16は、平面視で前方に開口したコ字形をなすように配設されたパイプからなり、左右の端部において走行ユニット支持部12の左右側部12Cのそれぞれの後部に接合されている。バッテリ支持部16のコ字形の内側には平板状の棚板17が架設されている。バッテリ支持部16及び棚板17は、走行ユニット支持部12に対して後方に張り出した棚形をなす。走行ユニット支持部12の左右側部12Cのそれぞれの後部には、U字形(半円形)に形成された補強パイプ30の両端が接合されている。換言すると、走行ユニット支持部12の左右側部12Cのそれぞれの後部には、U字形の補強パイプ30が突設されている。左右の補強パイプ30の上部と、バッテリ支持部16の左右両側の下部とは、左右一対の直線状のブレースパイプ32によって接合されている。ブレースパイプ32は筋交いとしてバッテリ支持部16を補強する。
走行ユニット支持部12、駆動ユニット支持部14及びバッテリ支持部16を含む車体フレーム10は、図1に仮想線により示されている合成樹脂製のアウタシェル18によって被覆される。
(走行ユニット)
走行ユニット50は、走行ユニット支持部12の左右の側部12Cの間に配置されている。走行ユニット50は、図1〜図3、図6、図7に示されているように、車幅方向(左右方向)に水平に延在する中空車軸54と、中空車軸54の外周に互いに独立して回転可能に支持された左右の駆動ディスク58と、中空車軸54によって挿通されると共に、左右の駆動ディスク58間に配置された環状の主輪52と、左右の駆動ディスク58にボルト59によって締結されたコグベルト用の左右の従動プーリ60とを有する。左右の駆動ディスク58と左右の従動プーリ60とは、全て中空車軸54の中心軸線を共通軸線として同一軸線上にある。図8に示されているように、駆動ディスク58の車幅方向における外面の中央には、円柱状のプーリ取付軸部58Cが突設されており、従動プーリ60には、軸心貫通孔60Aが形成されている。従動プーリ60は、軸心貫通孔60Aにプーリ取付軸部58Cが挿入された状態で、ボルト59によって駆動ディスク58の車幅方向の外側面に固定されている。
主輪52は、倒立振子制御に基づき駆動される駆動輪であり、図7に示されているように、金属製の円環部材62と、円環部材62の外周に取り付けられた複数個の従動ローラ(フリーローラ)64とにより構成され、従動ローラ64において接地する。従動ローラ64は、円環部材62の外周に回転可能に装着された円筒状の金属製基部64Aと、金属製基部64Aの外周に加硫接着された円筒状のゴム製外周部64Bとにより構成されている。従動ローラ64は、円環部材62の環方向(円周方向)に複数個設けられ、各々自身の配置位置における円環部材62の接線を回転中心として個々に回転(自転)可能になっている。つまり、主輪52は、独立して自転可能な複数個の従動ローラ64を、円環をなすように組み合わせてなる。厳密には、複数個の従動ローラ64は、自身の個数に応じた角数の多角形をなすように組み合わせて主輪52をなす。
左右の駆動ディスク58は、円環部材62の中心半径より小さい外径の円盤形をなし、その外周部は、略円錐台形をなす円錐外周部58Dとなっている。円錐外周部58Dには、周方向に等間隔をおいて複数の金属製の駆動ローラ66が回転可能に支持されている。左側の駆動ディスク58の駆動ローラ66と右側の駆動ディスク58の駆動ローラ66とは、左右対称形をなすように配置され、各駆動ローラ66の回転中心は駆動ディスク58の回転中心に対してねじれの関係となるように配置されている。これにより、左右の駆動ローラ66は、左右対称形をなし、はすば歯車の歯すじに似た傾斜配置となっている。
中空車軸54は左右の駆動ディスク58を、それぞれ2つの対をなすボール軸受(ラジアルボール軸受)56を介して互いに独立して回転可能に支持している。ボール軸受56は、中空車軸54の外周に、中空車軸54の軸線方向に離間して配置されている。図8に示されているように、左右の駆動ディスク58は軸心貫通孔58Aを有する。軸心貫通孔58Aの軸線方向両側の開口端には、段違いに拡径された拡径部58Bが形成されている。中空車軸54の外周には、カラー部材57が嵌められ、2つのボール軸受56は、カラー部材57をインナレースにおいて挟むように中空車軸54に嵌められ、アウタレースが拡径部58Bに嵌合する。2つのボール軸受56は、アウタレースの端面が拡径部58Bの端部に形成された位置決め段部58Dに突き当たり、インナレースの端面がカラー部材57に突き当たることにより、軸線方向の位置決めをされて互いに軸線方向に離間して配置される。なお、カラー部材57の軸長と、各駆動ディスク58の軸心貫通孔58Aの軸線方向両側に対をなして形成されている位置決め段部58D間の軸線方向の離間寸法とは同一である。
中空車軸54の外周には、軸線方向に所定の間隔をおいて、端部側がそれぞれ縮径されることによって形成された位置決め段差部54Aが一対形成されている。左右の駆動ディスク58は、2つのボール軸受56のうちの軸線方向内側のボール軸受56のインナレースの端面が位置決め段差部54Aに突き当たることにより、互いの軸線方向間隔が設定される。
中空車軸54の左右端部近傍に形成された雄ねじ部54Bにはナット68が螺合する。ナット68の締め付けによってナット68の内径側に形成されている円環状側突部68Aが2つのうちの軸線方向外側のボール軸受56のインナレースの端面を押圧する。これにより、2つのボール軸受56のインナレース及びカラー部材57は、位置決め段差部54Aとナット68とによって挟持され、中空車軸54に対して駆動ディスク58の軸線方向の位置決めがなされる。これにより、駆動ディスク58は少ない摩擦抵抗の支持構造で回転可能に支持されることになる。
ナット68の外径(フランジ外径)は、ボール軸受56のアウタレースの外径より大きく形成されている。つまり、ナット68の外径は駆動ディスク58の軸心貫通孔58Aの内径より大きい外径に形成されている。これにより、ボール軸受56の配置部がナット68により隠蔽されてラビリンスシールが形成され、ボール軸受56内に塵埃が入り難くなる。
また、従動プーリ60の軸心貫通孔60Aは、ナット68の外径より大きく形成されている。つまり、軸心貫通孔60Aはナット68が軸線方向に通過可能な内径になっている。これにより、ナット68が中空車軸に螺合した状態で、従動プーリ60を駆動ディスク58に対して着脱することができる。
以上のように中空車軸54に組み付けられた左右の駆動ディスク58は、図2、図6に示されているように、左右の駆動ローラ66による円環状ローラ列群によって主輪52を左右両側より挟むようにして略同一軸線上(同心)に支持する。これにより、主輪52は左右の駆動ディスク58間に支持され、脱離不能となる。
より詳細には、駆動ディスク58の駆動ローラ66の外周面は主輪52の従動ローラ64のゴム製外周部64Bの外周面に押し付けられるように接触している。駆動ローラ66と従動ローラ64との接触位置は、左右の駆動ディスク58において左右対称となり、従動ローラ64の外周面のうち円環部材62の径方向位置より径方向内方(回転中心側)に位置する外周面と同部位の駆動ローラ66の外周面とになっている。これは、左右の駆動ディスク58の駆動ローラ66間の軸線方向の最小離間寸法が、従動ローラ64の外径寸法より小さいことを意味する。
左右の駆動ディスク58の駆動ローラ66が左右両側から従動ローラ64を挟むことにより、主輪52は左右の駆動ディスク58の間に無軸状態で支持され、左右の駆動ディスク58と共に自身の中心を回転軸として回転(公転)可能となっている。
以上のようにして、左右の駆動ディスク58、左右の従動プーリ60、中空車軸54及び主輪52による走行ユニット50としての組立体(サブアッシィ)が構成される。
このサブアッシィでは、左右の駆動ディスク58の軸線方向離間寸法は、中空車軸54の外周に形成された左右2個の位置決め段差部54Aの軸線方向離間寸法によって一義的に適正値に設定される。これにより、駆動ディスク58の駆動ローラ66と主輪52の従動ローラ64とのフリクションの設定精度が向上し、その管理の容易になる。
走行ユニット50は、走行ユニット支持部12の左右の側部12C間に配置され、中空車軸54の両端において、車軸支持板20の軸受凹部20Aに支持される。中空車軸54の左右両端には、段部を形成して縮径された小径軸端部54Cが形成されている。左右の小径軸端部54Cは、段部が車軸支持板20に当接するように、軸受凹部20Aに挿入されている。左右の小径軸端部54Cの軸受凹部20Aを通過した端部側には、カラー部材69が嵌め込まれている。中空車軸54の中心貫通孔55には、一端から座金70を通過して頭付きボルト72が挿入されている。頭付きボルト72の先端部は、中心貫通孔55の他端側から突出し、座金70を通過した後、ナット74と螺合している。頭付きボルト72の頭部及びナット74は、座金70を介してカラー部材69を押圧する。これにより、車軸支持板20は、小径軸端部54Cの段部とカラー部材69及び座金70を介した頭付きボルト72又はナット74との間に挟持されている。
サブアッシィとして構成された走行ユニット50の走行ユニット支持部12に対する組み付けは、まず、走行ユニット50を走行ユニット支持部12の左右の側部12C間に配置し、中空車軸54の両端に形成されている小径軸端部54Cの外周を、左右の側部12Cの各々に固定された車軸支持板20の下方開放の軸受凹部20A(図4参照)に下側(開放側)から嵌め込む。
つぎに、中空車軸54の一方の小径軸端部54Cが車軸支持板20と係合する部分より軸線方向外側の小径軸端部54Cの外周にカラー部材69を嵌め込み、中空車軸54の一方の軸端よりカラー部材69の端面との間に座金70を挟んだ状態で中空車軸54の中心貫通孔55に支持軸をなす頭付きボルト72を挿入する。頭付きボルト72は中心貫通孔55を貫通させてその先端を中心貫通孔55より外方に突出させる。
つぎに、中空車軸54の他方の小径軸端部54Cが車軸支持板20と係合する部分より軸線方向外側の小径軸端部54Cの外周にもう一つのカラー部材69を嵌め込み、このカラー部材69の端面との間にもう一つの座金70を挟んで中心貫通孔55より外方に突出している頭付きボルト72の先端ねじ部72Aにナット74を締め付ける。これにより、走行ユニット50の走行ユニット支持部12に対する組み付けが完了する。
走行ユニット50は、本実施形態のように尾輪アーム78を介して中空車軸54に支持された尾輪ユニット80を含んでいてもよい。尾輪アーム78は、後端部が略直線状に延在する一方、先端部が二股に分岐した二股部78Aとなっている。尾輪アーム78は、二股部78Aの間に、走行ユニット50の左右の駆動ディスク58、左右の従動プーリ60及び主輪52を配置するように、二股部78Aにおいて中空車軸54の左右の小径軸端部54Cに装着されているカラー部材69にボール軸受(ラジアルボール軸受)76を介して枢支されている。これにより、尾輪アーム78は、左右の駆動ディスク58、左右の従動プーリ60及び主輪52と干渉することなく、主輪52の後方に延在することができる。
補強パイプ30には、後倒限界ストッパ34が取り付けられている。後倒限界ストッパ34は、尾輪アーム78の上面に突き当たることにより、中空車軸54を中心とした尾輪アーム78の上方への回動(車両を右方から見た状態(図1参照)において尾輪アームの反時計回り方向への回動)を規制する。換言すると、車体フレーム10の後方への最大転倒角(最大後傾角)を設定する。
ステップ支持パイプ36には、前倒限界ストッパ42が取り付けられている。前倒限界ストッパ42は、尾輪アーム78の下面に突き当たることにより、中空車軸54を中心とした尾輪アーム78の下方への回動(車両を右方から見た状態(図1参照)において尾輪アームの時計回り方向への回動)を規制する。換言すると、車体フレーム10の前方への最大転倒角(最大前傾角)を設定する。
尾輪アーム78の後端には尾輪ユニット80が支持されている。尾輪ユニット80は、尾輪アーム78に対して支持された尾輪82と、尾輪82を回転駆動する電動モータ84と、これらを被覆するアウタシェル85とを有する。尾輪アーム78は、中空車軸54の軸線回りに回転自在であり、尾輪ユニット80は、自重によって尾輪82を接地させている。
尾輪82は、尾輪アーム78に対して回転可能に支持された円環部材と、円環部材に外周に自転可能に取り付けられたフリーローラとにより構成されたオムニホイールであってよく、円環部材を電動モータ84により、フリーローラが接地した状態において車体前後方向に延在する中心軸線回り、つまり平面視で中空車軸54の軸線(主輪52の回転中心軸線)に対して直交する中心軸線回りに回転駆動される。
(駆動ユニット)
左側駆動ユニット90は、図1、図3に示されているように、上側かご部14I内に配置されている。左側駆動ユニット90は、図6〜図7、図9に示されているように、電動モータ92と、電動モータ92の左方に配置され、電動モータ92の出力軸(モータ出力軸)94に連結された減速機96と、減速機96の左方に配置され、減速機96の出力軸(減速機出力軸)98に連結されたコグベルト用の駆動プーリ100とにより構成されている。
減速機96は、平行2軸の歯車式のものであり、図10に示されているように、電動モータ92の出力軸側に直結された密閉構造の湿式の歯車箱102を有す。減速機96は歯車箱102内に、モータ出力軸94の先端部と、ボール軸受104と106とによりモータ出力軸94と同一軸線上に回転可能に配置された減速機出力軸98と、ボール軸受108と110とにより減速機出力軸98と平行な軸線上に回転可能に配置された中間軸112と、モータ出力軸94の先端部に固定された小歯車114と、中間軸112に固定されて小歯車114と噛合する大歯車116と、中間軸112に固定された小歯車118と、減速機出力軸98に固定されて小歯車118と噛合する大歯車120とを有する。
減速機96は、その中間軸112の配置部が電動モータ92の外形より径方向外方に突出しており、この突出部分102Aは電動モータ92の中心軸線の位置より斜め上後方側に位置している。
減速機出力軸98の先端部分は、歯車箱102の電動モータ92の側とは反対側(左側)に突出しており、この先端部分に駆動プーリ100が固定されている。換言すると、電動モータ92と減速機出力軸98との間に減速機96が配置されている。
歯車箱102の左壁には複数のねじ孔(図示省略)が形成されており、図4に示されているように、左側駆動ユニット取付板22には複数(図示例では3箇所)のボルト貫通孔22Aが形成されており、ボルト貫通孔22Aを貫通した取付ボルト26がねじ孔に螺合することによって、減速機96、すなわち左側駆動ユニット90が左側駆動ユニット取付板22に固定される。なお、左側駆動ユニット90は、減速機96を先頭にして左側駆動ユニット取付板22がなく開放されている右側から上側かご部14I内に入れ込むことができる。
減速機出力軸98は左側駆動ユニット取付板22に形成されている切欠部22B(図4参照)を通過して外側に突出しており、この外側突出端の左側駆動ユニット取付板22の外側面に極く近い位置に駆動プーリ100が取り付けられている。駆動プーリ100と左側の従動プーリ60には無端のコグベルト122が掛け渡されている。コグベルト122を掛け渡される駆動プーリ100は減速機出力軸98と共に左側駆動ユニット取付板22の側にあるので、駆動プーリ100を含む左側の動力伝達部が左側駆動ユニット取付板22より強固に支持されることになる。左側駆動ユニット取付板22は、左側駆動ユニット90の車体フレーム10に対する取付板である同時に、ガセットとして上側かご部14Iの剛性を高め、左側の動力伝達部の支持剛性を高める作用もする。
なお、左側駆動ユニット取付板22の切欠部22Bは減速機出力軸98に固定された状態の駆動プーリ100を車幅方向に通過できる大きさになっているので、減速機出力軸98に駆動プーリ100が固定された左側駆動ユニット90を上側かご部14Iに組み付けることができる。
ボルト貫通孔22Aは、上下方向に長い長孔になっており、この長孔の範囲内で左側駆動ユニット90の左側駆動ユニット取付板22に対する上下方向の固定位置を変更することができる。この左側駆動ユニット90の上下方向における固定位置を変更することによってコグベルト122に与える初期テンションを変更することができ、初期テンションの調整手段をなす。つまり、ボルト貫通孔22Aは当該ボルト貫通孔22Aを貫通する取付ボルト26と協働して左側駆動ユニット90の上下方向移動のガイド部をなし、左側駆動ユニット90の上下方向の固定位置の変更によってコグベルト122に与えるテンションが変更される。
第6パイプ14Fには、図4、図9に示されているように、第6パイプ14Fを上下に貫通する調節ボルト124が取り付けられている。調節ボルト124は歯車箱102の上壁に形成されたねじ孔(図示省略)に螺合している。
取付ボルト26を弛めた状態で、調節ボルト124のねじ孔に対するねじ込み量を変更することにより、左側駆動ユニット90全体が上側かご部14I(第6パイプ14F)に対して上下に移動する。この左側駆動ユニット90の上下移動によってコグベルト122に与えるテンションを調節することができる。調節ボルト124をロックナット126で第6パイプ14Fに締結することによって、コグベルト122のテンション変動を抑制することができる。
下側かご部14J内には、図1、図3に示されているように、右側駆動ユニット130が配置されている。右側駆動ユニット130は、左側駆動ユニット90を左右反転したものと同等のものであり、図6〜図7、図9に示されているように、電動モータ132と、電動モータ132の出力軸(図示省略)側(右側)に取り付けられた減速機136と、減速機136の後述の出力軸(減速機出力軸)138に取り付けられたコグベルト用の駆動プーリ140とにより構成されている。
減速機136は、平行2軸の歯車式のものであり、電動モータ132の出力軸側に直結された密閉構造の湿式の歯車箱142を有する。歯車箱142の内部構造は、左右反転の配置であること以外は、減速比を含めて減速機96と同等であるので、その詳細な説明は省略する。減速機136は、その中間軸(図示省略)の配置部が電動モータ132の外形より径方向外方に突出しており、この突出部分142Aは電動モータ132の中心軸線の位置より車体前方側に位置している。
減速機出力軸138の先端部分は、歯車箱142の電動モータ132の側とは反対側(右側)に突出しており、この先端部分に駆動プーリ140が固定されている。換言すると、電動モータ132と減速機出力軸138との間に減速機136が配置されている。
歯車箱142の右壁には複数のねじ孔(図示省略)が形成されており、図4に示されているように、右側駆動ユニット取付板24には複数(図示例では3箇所)のボルト貫通孔24Aが形成されており、ボルト貫通孔24Aを貫通した取付ボルト28がねじ孔に螺合することによって、減速機136、すなわち右側駆動ユニット130が左側駆動ユニット取付板22に固定される。なお、右側駆動ユニット130は、減速機136を先頭にして右側駆動ユニット取付板24がなく開放されている左側から下側かご部14J内に入れ込むことができる。
減速機出力軸138は、右側駆動ユニット取付板24に形成されている切欠部24B(図4参照)を通過して外側に突出しており、この外側突出端の右側駆動ユニット取付板24の外側面に極く近い位置に駆動プーリ140が取り付けられている。駆動プーリ140と右側の従動プーリ60には無端のコグベルト144が掛け渡されている。コグベルト144を掛け渡される駆動プーリ140は減速機出力軸138と共に右側駆動ユニット取付板24の側にあるので、駆動プーリ140を含む右側の動力伝達部が右側駆動ユニット取付板24より強固に支持されることになる。右側駆動ユニット取付板24は、右側駆動ユニット130の車体フレーム10に対する取付板である同時に、ガセットとして下部かご部14Jの剛性を高め、右側の動力伝達部の支持剛性を高める作用もする。
ボルト貫通孔24Aは上下方向に長い長孔になっており、この長孔の範囲内で右側駆動ユニット130の右側駆動ユニット取付板24に対する上下方向における固定位置を変更することができる。この右側駆動ユニット130の上下方向における固定位置を変更することによってコグベルト144に与えるテンションを変更することができる。つまり、ボルト貫通孔24Aは当該ボルト貫通孔24Aを貫通する取付ボルト28と協働して右側駆動ユニット130の上下方向移動のガイド部をなし、右側駆動ユニット130の上下方向の固定位置の変更によってコグベルト144に与えるテンションが変更される。
第7パイプ14Gには、図4、図9に示されているように、第7パイプ14Gを上下に貫通する調節ボルト146が取り付けられている。調節ボルト146は歯車箱142の上壁に形成されたねじ孔(図示省略)に螺合している。
取付ボルト28を弛めた状態で、調節ボルト146のねじ孔に対するねじ込み量を変更することにより、右側駆動ユニット130が下側かご部14J(第7パイプ14G)に対して上下に移動する。この右側駆動ユニット130の上下移動によってコグベルト144に与えるテンションを調節することができる。調節ボルト146をロックナット148で第7パイプ14Gに締結することによって、コグベルト144のテンション変動を抑制することができる。
調節ボルト124、146は、左側駆動ユニット90、右側駆動ユニット130を上部より吊り下げ、コグベルト122、144にテンションが発生する方向に対向する位置で左側駆動ユニット90、右側駆動ユニット130を支持しているから、テンション調整時の左側駆動ユニット90、右側駆動ユニット130の位置決めが容易になる。
なお、上段にある左側駆動ユニット90が最降下位置に位置しても、左側駆動ユニット90の底部と下段の調節ボルト146の頭部との間に、調節ボルト146を回転させる工具T、治具が進入できる空間149が確保される設定になっている。図示の実施例のように、上側かご部14Iの下部フレーム(第4パイプ14D、第5パイプ14E)が下部かご部14Jの上部フレームをなし、第4パイプ14Dと第5パイプ14Eとの間に橋渡しされた第7パイプ14Gに調節ボルト146が取り付けられている場合には、左側駆動ユニット取付板22が取り付けられていない側(右側)から調節ボルト146の頭部にアクセスすることになる。これにより、コグベルト122に邪魔されることなく調節ボルト146の操作によってコグベルト144のテンションを調整することができる。なお、上段の調節ボルト124にも、左側駆動ユニット取付板22が取り付けられていない側(右側)からアクセスすることにより、コグベルト122、144のテンション調整を同じ側から行うことができる。
左右の従動プーリ60は互いに同一歯数であり、左右の駆動プーリ100、140は、従動プーリ60より歯数が少なく互いに同一歯数である。従動プーリ60と駆動プーリ100、140との歯数違いにより、左右で同一の減速比による2次減速が行われる。コグベルト144の長さは左右で異なるが、従動プーリ60と駆動プーリ100、140との減速比は、ベルト長さに関係なく歯数比により決まるので、従動プーリ60と駆動プーリ100、140とを左右で共通とすることができる。
このようにして、左側駆動ユニット90と右側駆動ユニット130とは、互いに左右反転で、上下2段にオフセットして配置され、その大部分が平面視で重なり合っている。上段にある左側駆動ユニット90の電動モータ92は車幅方向(左右方向)の車体中心線C(図6参照)に対して減速機96の配置側とは反対の右側に偏倚して設けられ、下段にある右側駆動ユニット130の電動モータ132は車幅方向(左右方向)の車体中心線C(図6参照)に対して減速機136の配置側とは反対の左側に偏倚して設けられている。
この配置により、下段にある右側駆動ユニット130の減速機136の真上に上段にある左側駆動ユニット90の電動モータ92があり、下段の右側駆動ユニット130の電動モータ132の真上に上段の左側駆動ユニット90の減速機96がある。
本実施例の倒立振子型車両1では、上述したように左側駆動ユニット90と右側駆動ユニット130とが、主輪52の上方位置に、上下2段にオフセットして配置され、平面視で大部分が互いに重合していることにより、電動モータ92と132とが同じ高さ位置に車体幅方向に並べて配置される場合に比して、同一の車体幅において左側駆動ユニット90と右側駆動ユニット130の個々の車幅方向の配置スペースを大きく取ることができる。
これにより、車体幅を大きくすることなく電動モータ92、132の大型化(大トルク化)や、減速機96、136の付加が可能になる。減速機96、136が設置されることにより、駆動ディスク58の駆動トルク、ついては主輪52の駆動トルクを増大することができる。しかも、減速機96、136は、電動モータ92、132の出力軸(94)と減速機96、136の出力軸98、138とが同一軸線配置の平行2軸のものであるから、コンパクトな構造で電動モータ92、132との小嵩のユニット化が可能になる。また、車格を変更することなく駆動トルクが異なるモデルに対応した出力トルクの左側駆動ユニット90、右側駆動ユニット130を適宜配設することができる。
また、左側駆動ユニット90と右側駆動ユニット130とが上下2段に配置されることにより、倒立振子型車両1の重心位置を上方に位置させることができ、倒立振子型車両1の倒立振子制御が容易になる。
左側駆動ユニット90と右側駆動ユニット130とは、上下2段で左右反転配置であるから、左右の重量バランスがよくなり、しかも、熱源となる電動モータ92と132とが車幅方向に離れた配置になり、熱源部同士の近接配置による熱害を回避できる。また、電動モータ92と132とが各々左側駆動ユニット取付板22、右側駆動ユニット取付板24がない開放された側にあるので、冷却性の面でも有利になり、電動モータ92、132に対する電力用ハーネス(図示省略)の配牽、接続がし易くなる。
左側駆動ユニット90の減速機96の突出部分102Aは電動モータ92の中心軸線の位置より斜め上後方側に位置しているのに対して、右側駆動ユニット130の減速機136の突出部分142Aは電動モータ132の中心軸線の位置より前方に位置しているので、つまり、上段と下段とで、減速機96、136の突出部分102A、142Aの突出方向が異なっているので、スペースの有効活用と、車体前後の重量バランスの調整を行うことができる。
上段の減速機96の突出部分102Aが電動モータ92の中心軸線の位置より斜め上後方側に位置していると、倒立振子型車両1の重心位置が更に上方に位置することになり、倒立振子型車両1の倒立振子制御が容易になる。右側駆動ユニット130の減速機136の突出部分142Aが電動モータ132の中心軸線の位置より前方に位置していることは、右側駆動ユニット130の減速機出力軸138の回転中心が左側駆動ユニット90の減速機出力軸98の回転中心より車体後方側に偏倚した位置にあることに符号してスペースの有効活用のもとに省スペースに寄与する。
左側駆動ユニット90および右側駆動ユニット130は、各々、電動モータ92、132と減速機96、136との組立体であるから、潤滑オイルによる湿室である減速機96、136の歯車箱102、142を、乾式であるコグベルト系(駆動プーリ100、140、コグベルト122、144、左右の従動プーリ60)とは別に、左側駆動ユニット90および右側駆動ユニット130の側に集約できる。これにより、左側駆動ユニット90、右側駆動ユニット130やコグベルト系による駆動系のメンテナンス性がよくなる。
また、中空車軸54に組み付けられた左右の駆動ディスク58と左右の従動プーリ60と、左右の駆動ディスク58間に組み付けられた主輪52とによるサブアッシィ、つまり、走行ユニットをボルト72とナット74とによって車軸支持板20に取り付け、各々駆動プーリ100、140を組み付けられている左側駆動ユニット90、右側駆動ユニット130を駆動ユニット支持部14に取り付け、駆動プーリ100、140と左右の従動プーリ60とにコグベルト122、144を巻き掛けるだけで、走行・駆動系の組み付けが簡単にできる。
図9に示されているように、左側駆動ユニット90の減速機出力軸98の回転中心は、中空車軸54の中心を通る鉛直線P上にあるが、右側駆動ユニット130の減速機出力軸138の回転中心は側面視で、減速機出力軸98の回転中心より車体後方側に偏倚した位置にある。
(シートユニット)
図5に示されているように、センターポスト44の内部の上半部には樹脂製の円筒形ブッシュ47が嵌め入れられている。ブッシュ47は、上端に径方向外向きに延出した環状のフランジ部47Aを有し、フランジ部47Aがセンターポスト44の上端面とセンターポスト44に固定された抜け止め部材49との間に挟まれることによって軸線方向に移動不能にセンターポスト44に支持されている。
センターポスト44には、シートを昇降自在に支持するための支柱となる伸縮可能な伸縮支柱180が挿入されている。つまり、伸縮支柱180は、車体前後方向において駆動ユニット90,130とバッテリパック250との間に配置される。これにより、伸縮支柱180を用いてシート高さを調節する場合に、車体のスペースを有効に利用してその大型化を回避しつつ、比較的重量の大きい駆動ユニット90,130、バッテリパック250を伸縮支柱180(シート200)の前後にバランス良く配置して、車体の良好な重心バランスを維持することができる。伸縮支柱180は、ロック付きガススプリング(シリンダ式の昇降装置)により構成され、ピストンロッド182を下側にしてセンターポスト44内に挿入され、ピストンロッド182の先端部をセンターポスト44の底部にナット45によって固定されている。伸縮支柱180のシリンダチューブ184は、ブッシュ47に摺動可能に嵌合し、車体フレーム10に対して上下移動可能である。
シリンダチューブ184の上端はセンターポスト44より上方に突出している。シリンダチューブ184の上端にはシート(サドル)200のシートフレーム202に固定されている。シート200は、パイプ材を折曲して略四角枠状に形成された前述のシートフレーム202と、シートフレーム202に固定された板状のベース部材201と、ベース部材201の上部に取り付けられたクッション性を有するシート本体206と、ベース部材201の下部に取り付けられたシート底部カバー204と、シート底部カバー204の左右両側に取り付けられたサイドガード部材207とにより構成されている。シート底部カバー204の一側部には伸縮支柱180のロック解除を行うシート昇降レバー(操作レバー)198(図2参照)が配置されている。
両サイドガード部材207は、比較的硬質の材料(ここでは、ゴム)からなり、シート200の幅方向(左右方向)においてそれぞれ最も外側に位置するように設けられる。これにより、乗り心地等を考慮してシート本体206を比較的軟質の材料(ここでは、ポリウレタン)で構成しても、搭乗者は、搭乗時に必要に応じて左右のサイドガード部材207を把持することにより、安定した乗車姿勢をとることができる。また、図2に示すように、車体各部は、左右のサイドガード部材207の外縁と左右のステップ40との外縁をそれぞれ結ぶ仮想線L1の内側に位置するように設けられている。つまり、シート200およびステップ40は、左右方向においてアウタシェル18よりも広幅に設けられており、これにより、車体を左右に倒した状態においても、サイドガード部材207およびステップ40のみが床面等に接するため、車体各部の傷等の発生を防止することができる。
上述のシート支持構造では、シート200は、車体の最上部に位置するように伸縮支柱180に取り付けられる。駆動ユニット90,130やバッテリユニットの一部は、図1にも示すようにシート200の下側に配置される。これにより、車体をよりコンパクト化しつつ、車体の良好な重心バランスを維持することができる。伸縮支柱180のシート昇降レバー198が操作されると、伸縮支柱180のロックが解除され、シリンダチューブ184が伸縮支柱180の内部ガス圧によって上昇する。これにより、シート昇降レバー198の操作によってシート本体206の高さを、搭乗者の体格、好みに応じて自由に調節することができる。
(シート昇降機構)
つぎに、図11〜図15を参照して伸縮支柱180を用いたシート200の昇降機構の詳細について説明する。図11及び図12に示すように、シートフレーム202は、ベース部材201の下面に複数のボルトにより締結された上下方向に開口する環状のメインフレーム211と、このメインフレーム211を車体前後方向に横切るようにして互いに略平行に延在する一対のサブフレーム212とを有している。メインフレーム211の後部は、伸縮支柱180のシリンダチューブ184の後側周面に位置する第1の接続基部213(図5参照)に接続されている。
両サブフレーム212の後端は、相互に内側に湾曲して連結されることによりU字状の連結部214を形成しており、この連結部214は、シリンダチューブ184の前側周面に位置する第2の接続基部215(図5参照)に接続されている。第2の接続基部215は、メインフレーム211が接続される第1の接続基部213よりも下方に位置している。また、両サブフレーム212の前端は、メインフレーム211の前部の内周面にそれぞれ接続されている。
シート昇降レバー198は、図13に示すように、クランク形状を有するレバーアーム(第1アーム)221と、このレバーアーム221と係合する操作アーム(第2アーム)222とを有する。レバーアーム221では、末端に操作片(操作部)220が設けられた右端側の直状部221aへの操作入力に応じて左端側のレバー部221bが揺動する。操作アーム222は、レバー部221bの揺動に伴って回動することにより伸縮支柱180のロック解除ボタン(昇降調節ボタン)181を押下する。
レバーアーム221の直状部221aは、左右方向に延在し、図11に示すように、シートフレーム202の下方においてメインフレーム211と一方のサブフレーム212との間に渡された取付板223に対してU字状の支持部を有する取付金具224によって回動可能に取り付けられている。レバー部221bは、直状部221aの左端から後方に湾曲し、更に、その先端は左右方向に延在して操作アーム222の前側上部に係合する。
操作アーム222は、図13に示すように、シリンダチューブ184の上部が貫通する開口部230aが形成された平板状の本体部230と、この本体部230の左右縁および前縁において上方に突設された周壁部231とを有している。周壁部231の右前部は切欠かれており、これによりレバー部221bは本体部230の上面に当接可能となっている。レバー部221bは、周壁部231の前側によって係止され、本体部230の上面からの脱落が防止されている。
周壁部231の左右後部には、左右方向に延在する回動軸232が挿通されている。回動軸232は、メインフレーム211の後部から上方に突設された一対の支持片233によって支持されている。回動軸232は、伸縮支柱180よりも車体後方側に位置し、操作アーム222におけるレバー部221bとの係合部222a(本体部230の前側上部)は、伸縮支柱180よりも車体前方側に位置する(図5参照)。このような構成により、シート本体206の下側の限られたスペースにおいて、レバー比(すなわち、回動軸232からレバー部221bとの係合部222aまでの距離と回動軸232からロック解除ボタン181との当接部までの距離との比)をより大きく確保することができ、搭乗者はより小さな力でロック解除ボタン181を押下することが可能となる。また、操作アーム222は、一対のサブフレーム212の間のスペースに配置されると共に、そのスペースにおいて回動動作する。つまり、シートフレーム202により、シート200下方のシート昇降レバー198の配置スペースにおける強度を確保し、移動体の移動時に生じ得るレバー動作に対する外乱の影響を排除することができる。
また、操作アーム222には、本体部230の開口部230aの上方を左右方向に横切るように押下ロッド234が設けられている。押下ロッド234の下面は上方に付勢されたロック解除ボタン181に対して常に当接した状態にある。押下ロッド234の両端には、略鉛直方向に延在する脚部234aが形成されており、両脚部234aは、それぞれ周壁部231の左右外周面に固定されている。
シート200の高さを調節する際には、搭乗者は操作片220の前端を上方に持ち上げる(図13中の矢印A参照)ことにより、レバーアーム221を回動させることができる。このとき、レバーアーム221のレバー部221bが下方に揺動して操作アーム222の前側を下方に押圧し、これにより、操作アーム222が下方に回動する。その結果、図14に示すように、下方に移動した押下ロッド234によりロック解除ボタン181が押下され、ロックが解除された伸縮支柱180のシリンダチューブ184が上昇する。搭乗者は、シート200が所望の高さまで上昇した際に操作片220の操作を解除することにより、ロック解除ボタン181の押下を解除して伸縮支柱180を再びロック状態とすることができる。なお、シート200の位置を下げる際には、搭乗者は、操作片220の前端を上方に持ち上げた状態でシート200上面を下方に押圧し、所望の高さにて操作片220の操作を解除すればよい。また、レバーアーム221の反対方向(操作アーム222を押圧しない方向)への回動は、レバー部221bに当接する回動規制ピン235によって規制される。
シート昇降レバー198は、操作片220および操作片220が取り付けられたレバーアーム221の右端側の一部を除いて、シート200内に収容される。シート昇降レバー198をシート200内に組み込む際には、図15に示すように、操作片220を除く各構成部材をシート内に取り付けた後、レバーアーム221の右端をシート底部カバー204に形成された開口部(スリット)236から延出させた状態でシート200を組み立てる。そして、最終的にシート200全体を組み立てた状態で、レバーアーム221の右端に操作片220を嵌め込み、袋ナット237により固定することができるため、組立性が良好である。
シート昇降レバー198は、開口部236から突出した操作片220およびレバーアーム221の一部を含め、平面視においてシート200の下側に重なるように設けられている。また、シート昇降レバー198において少なくとも最も外側に位置する操作片220は、シート200の下方のアウタシェル18よりも外側に位置するように設けられている。これにより、搭乗者が車体(アウタシェル)を両足で挟み込む体勢で乗車するコンパクトな構成において、伸縮支柱180のシート昇降レバー198にアクセス容易でありながらそのシート昇降レバー198に対する意図しない接触を防止することができる。
(バッテリパックの支持構造)
図1及び図3に示されているように、棚板17上には、バッテリパック250を支持するためのバッテリケース251が支持されている。バッテリケース251は、矩形状の底板253と、底板253の前側及び左右両側に立設された前側壁254及び左右一対の側壁255とを有している。左右一対の側壁255は、前側壁254よりも上方に延出しており、バッテリケース251は、前側上部から上部、後部全域へと連続した開口257を有する箱形に形成されている。左右の側壁255は、上下方向における中間部において後縁が前側へと凹んで、開口257を拡張している。これにより、バッテリケース251に支持されるバッテリパック250は、側面後部側の上下方向における中間部が露出するようになっている。
センターポスト44には、後方へと延出するブラケット258が結合されており、バッテリケース251の前側壁254の前面は、ブラケット258に結合されている。アウタシェル18は、バッテリケース251の開口257を外部に露出させるように、その縁部が開口257の縁部に沿って配置されている。
バッテリパック250は、縦長の略直方体に形成されている。バッテリケース251の底板253の上面には、係止凸部262が突設されており、バッテリパック250の底面には、係止凸部262が突入可能な受容孔263が凹設されている。バッテリパック250は、受容孔263に係止凸部262が突入することによって、底板253に対して面に沿った方向へのスライド移動が規制される一方、係止凸部262を回転中心として後方への傾倒が可能になっている。すなわち、受容孔263と係止凸部262との係合によって、バッテリパック250は、前面が前側壁254に沿うように配置された装着位置と、前面が前側壁254に対して後傾した着脱位置との間で回動可能となっている。装着位置では、バッテリパック250及びバッテリケース251にそれぞれ形成された端子(図示しない)が互いに接触し、バッテリパック250からの給電が可能になる。
図1及び図16に示されているように、前側壁254の上縁部には、バッテリケース251の上壁をなすリッド260が、回転可能に支持されている。リッド260は、前側壁254の上部に形成された開口を閉塞する前板265と、前板265の上縁に角度を有して接続され、左右の側壁255の上端間に形成された開口を閉塞する上板266と、上板266の後縁に角度を有して接続された後板267とを有し、断面が略コ字形となっている。
リッド260は、前板265の裏面(後面)に突設された左右一対のアーム268を有する。前側壁25の後面上部には、左右方向に延在する軸269が支持されている。リッド260は、アーム268において軸269に枢支されることによって、左右方向に延在する軸線回りに回動可能に前側壁254の上縁部に支持されている。リッド260は、バッテリケース251の上部を覆う閉位置と、右方から見て反時計回りに回転し、前側(シート200側)に回動した開位置との間で回動可能となっている。リッド260と前側壁25の間には、軸269に支持された捻りコイルばね(図示しない)が介装されており、リッド260は捻りコイルばねによって開位置へと付勢されている。なお、リッド260は、伸縮支柱180が伸張してシート200がリッド260と干渉しない上方位置に配置された状態でのみ回動可能となっている。伸縮支柱180が収縮してシート200が下方位置(着座位置)にある場合には、シート200の後端面がリッド260の前板265に当接し、リッド260の閉位置から開位置への回動が規制されている。リッド260は、閉位置において、アウタシェル18と協働して倒立振子型車両1の外面を滑らかに形成する。
バッテリパック250の上面には、1つのラッチ孔270と、ラッチ孔270の左右に配置された左右一対の受容孔271とが形成されている。一方、リッド260の上板266の裏面には、1つのラッチ273と、ラッチ273の左右に配置された左右一対の突片274とが突設されている。バッテリパック250を装着位置に配置し、リッド260を閉位置に配置することによって、左右一対の突片274が左右一対の受容孔271にそれぞれ突入し、ラッチ273がラッチ孔270に突入する。ラッチ273及びラッチ孔270は、公知のプッシュ・プッシュ機構に形成されており、ラッチ273をラッチ孔270に一度押し込むことによってラッチ273がラッチ孔270に係止され、ラッチ273がラッチ孔270に係止された状態からラッチ273をラッチ孔270に再度押し込むことによってラッチ孔270によるラッチ273の係止が解除されるようになっている。ラッチ273及びラッチ孔270、突片274及び受容孔271がそれぞれ係合することによって、リッド260は閉位置に保持され、バッテリパック250は装着位置に保持される。
バッテリパック250をバッテリケース251に装着する場合には、最初に伸縮支柱180を伸張させてシート200を上方位置に配置する。これにより、リッド260が開位置に回動可能になるため、リッド260を開位置に配置する。次に、バッテリパック250をバッテリケース251の後方から、その下端部が前側となるように傾斜しつつ接近させ、バッテリケース251の係止凸部262をバッテリパック250の受容孔に突入させ、バッテリパック250を着脱位置に配置する。次に、バッテリパック250をバッテリケース251に対して係止凸部262を中心として回動させ、装着位置に配置する。次にリッド260を閉位置へと回動し、ラッチ273及びラッチ孔270、突片274及び受容孔271をそれぞれ係合させる。これにより、バッテリパック250はバッテリケース251に装着される。続いて、伸縮支柱180を収縮させてシート200を下方位置に配置してリッド260の回転を規制する。これにより、リッド260が下方へと押し込まれ、ラッチ273及びラッチ孔270の係合が解除されても、リッド260が回動できないため、バッテリパック250は、バッテリケース251とリッド260との間に支持された状態に維持される。バッテリパック250をバッテリケース251から取り外す際には、伸縮支柱180を伸張させてシート200を上方位置に配置し、リッド260の開位置への回動を可能する。
(電装ユニット)
図1に示されているように、電装ユニット300は、左右の駆動ユニット90、130を制御するための主輪制御用パワードライブユニット301(以下、主輪PDUという)と、尾輪ユニット80を制御するための尾輪制御用パワードライブユニット302(以下、尾輪PDUという)と、バッテリパックから供給される直流電圧を所定の直流電圧に降圧するDC−DCコンバータ304(以下、コンバータという)と、各種センサとの信号のやり取りをするためのI/Oインターフェースユニット305(以下、I/Oユニットという)と、電源の入切を操作するためのスイッチユニット306と、車体フレーム10(倒立振子型車両1)の所定の軸線(例えば、鉛直線)に対する傾斜角及び角速度を検出するジャイロセンサ308とを有している。I/Oユニット305には、シートユニット170に組み込まれた着座センサ307、ジャイロセンサ308及びスイッチユニット306からの信号が入力している。
図1に示されているように、車体フレーム10は、側面視において、走行ユニット支持部12の前縁部12Aが最も前方に配置されている。駆動ユニット支持部14の前端は、前縁部12Aから上方へと向うにつれて後方に傾斜した第1パイプ14A及び第2パイプ14Bによって形成されているため、前縁部12Aよりも後方に偏倚している。走行ユニット支持部12の下方に配置された走行ユニット50の主輪52の外周における前端は、前縁部12Aよりも前方に突出している。これらの車体フレーム10及び走行ユニット50を内包するために、アウタシェル18の前面部は、駆動ユニット支持部14の前側上端から主輪52の外周前端へと滑らかに延びる曲面に形成されている。これにより、車体フレーム10の前側には、アウタシェル18の前面部との間に空間315が形成されている。空間315は、詳細には、駆動ユニット支持部14の第1パイプ14A及び第2パイプ14Bの前側から走行ユニット支持部12の前側にかけて形成されている。電装ユニット300は、空間315内に配置されている。
主輪PDU301及び尾輪PDU302は、CPUやメモリ等からなるマイクロコンピュータと、電動モータ84、92、132に供給する電流又は電圧を制御するためのスイッチング回路とを有している。主輪PDU301及び尾輪PDU302には、I/Oユニット305を介して着座センサ307、ジャイロセンサ308及びスイッチユニット306から信号が入力される。主輪PDU301は、予め設定された倒立振子制御則に基づいて、着座センサ307及びジャイロセンサ308からの信号に応じて、電動モータ92、130を制御する。尾輪PDU302は、予め設定された旋回制御則に基づいて、着座センサ307及びジャイロセンサ308からの信号に応じて、電動モータ84を制御する。
図1及び図3に示されているように、主輪PDU301と尾輪PDU302とは、長方形の第1基板320の同一面に支持されている。第1基板320の長手方向における一側に主輪PDU301が支持され、他側に尾輪PDU302が支持されている。また、第1基板320の主輪PDU301が配置された側の端部には、ファン321が設けられている。本実施形態では、ファン321は、矩形状の枠体と枠体内に回転可能に支持された回転翼とを有する公知の軸流ファンである。ファン321は、回転軸線が第1基板320の長手方向と平行になるように第1基板320に配置されている。主輪PDU301は、尾輪PDU302よりも大きく、第1基板320からの厚みが大きくなっている。
図4に示されているように、走行ユニット支持部12の前縁部12A及び左右一対の側部12Cの前端部分には、ブラケット322が架設されている。ブラケット322は、後方に向うつれて上方に進む傾斜面を有し、その前端は前縁部12Aよりも前方に延出している。また、駆動ユニット支持部14の第1パイプ14A及び第2パイプ14Bの下端部のそれぞれには、前方かつ互いに近接する方向に突出した締結片323が結合されている。第1基板320は、ブラケット322及び締結片323の前側にねじやボルト等によって締結されている。第1基板320は、前側に尾輪PDU302、後側に主輪PDU301が配置されるように、前後に延在して配置され、後方に向うにつれて上方に進むように傾斜して配置されている。第1基板320は、その前端部がブラケット322の前端部よりも後方に変位して配置されている。ブラケット322の前端部は、第1基板320及び第1基板320に支持された尾輪PDU302よりも前方に延出している。
図1及び図3に示されているように、コンバータ304、I/Oユニット305及びスイッチユニット306は、長方形の第2基板325の同一面に支持されている。第2基板325の長手方向における一側にコンバータ304が支持され、他側にI/Oユニット305及びスイッチユニット306が並んで支持されている。コンバータ304は、I/Oユニット305よりも大きく、第2基板325からの厚みが大きくなっている。駆動ユニット支持部14の第1パイプ14A及び第2パイプ14Bの上下に延在する部分の中間部には、互いに近接する方向に突出した締結片326が結合されている。第2基板325は、締結片326及び接続板14Hの前側にねじやボルト等によって締結されている。第2基板325は、面が前後を向き、上下に延在して配置され、前面の下方にコンバータ304、前面の上右側にI/Oユニット305、前面の上左側にスイッチユニット306が配置されている。
スイッチユニット306は、前方へと延出し、アウタシェル18の前面部に形成された開口を通過して外方に露出するスイッチボタン328を有している。スイッチボタン328の押圧操作面である外面は、アウタシェル18の外面と同様に斜め上方を向き、スイッチのオン・オフ状態に投じて発光する表示装置329を有している。表示装置329は、例えばLEDであってよい。なお、他の実施形態では、表示装置329が倒立振子型車両の状態(例えば、故障の有無やバッテリ残量)を点灯間隔や発光色によって表示するようにしてもよい。
図1及び図2に示されているように、第1基板320の前面側には、尾輪PDU302、主輪PDU301及びファン321を覆うように、第1カバー335が結合されている。第1カバー335は、前端部に前開口336を有し、後端部にファン321の周囲を画成する後開口(図示しない)を有している。換言すると、主輪PDU301及び尾輪PDU302は、第1基板320及び第1カバー335によって画成された空間内に配置され、画成された空間は、前開口336及びファン321を通して、空気の導通が可能になっている。アウタシェル18は、第1カバー335の前開口336の前方に位置する部分に、外部と内部を連通する通気孔を有していることが好ましい。
第2基板325の前面側には、コンバータ304及びI/Oユニット305を覆うように、第2カバー338が結合されている。第2カバー338は、下端部が第1カバー335の後端部外面に結合すると共に、ファン321を介して第1カバー335の内部に導通しており、上端部に上開口339を有している。換言すると、コンバータ304及びI/Oユニット305は、第2基板325及び第2カバー338によって画成された空間内に配置され、画成された空間は、ファン321及び上開口339を通して、空気の導通が可能になっている。なお、スイッチユニット306のスイッチボタン328は、第2カバー338を貫通してアウタシェル18の前面部へと突出している。
以上の構成により、ファン321が回転すると、アウタシェル18内の下部の空気が第1カバー335の前開口336から吸入され、第1カバー335内、ファン321、第2カバー338内を順に通過して第2カバー338の上開口339から排出される。空気は、第1カバー335及び第2カバー338内を通過する際に、尾輪PDU302、主輪PDU301、コンバータ304、I/Oユニット305及びスイッチユニット306と熱交換し、冷却する。第1カバー335及び第2カバー338によって画成される通路は、傾斜しつつ上下方向に延在しており、下端側に配置され前開口336から空気を吸入して上端側に配置された上開口339から空気を排出するため、第1カバー335及び第2カバー338内で熱交換によって昇温される空気が流れ易くなっている。
第2カバー338の上開口339から排出された空気は、アウタシェル18内をその上壁内面に沿って後方へと導かれ、アウタシェル18の後面部上端に形成された排気口342(図16参照)より、アウタシェル18の外部に排出される。このため、第1カバー335内及び第2カバー338内を通過した高温空気が搭乗者に当ることがない。なお、アウタシェル18に、上開口339と排気口342とを連通する通気管を設けてもよい。
ジャイロセンサ308は、左右一対の第3パイプ14Cの前端部間に架設されたブラケット345(図4参照)に支持され、図1に示されているように、第1パイプ14A及び第2パイプ14Bの両下端部間に配置されている。詳細には、前後方向において第1基板320と右側駆動ユニット130との間に配置され、上下方向において第2基板325と主輪52との間に配置されている。
以上のように構成された電装ユニット300では、第1カバー335の前縁が電装ユニット300内において最も前側に配置されるが、図1に示されているように、第1カバー335の前縁は、走行ユニット50の前縁をなす主輪52の前縁(詳細には最も前側に配置された従動ローラ64の前縁)を通る鉛直線L2(接線)よりも後側に配置されている。また、尾輪PDU302、主輪PDU301、コンバータ304、I/Oユニット305、スイッチユニット306、第1カバー335及び第2カバー338は、シート200の前縁(詳細には、シート本体206の前縁)と、ブラケット322の前縁とを通る仮想線L3よりも後方に配置されている。このように構成することによって、倒立振子型車両1の前側部分に比較的大きな物体が衝突する場合には、物体はシート200の前縁またはブラケット322の前縁に衝突するため、電装ユニット300への衝突が避けられる。
本実施形態では、主輪52を含む走行ユニット50の上方に、主輪52よりも前後方向に幅が狭い左右の駆動ユニット90、130を支持する車体フレーム10を設け、車体フレーム10の前上縁から主輪52の前縁までを滑らかに覆うアウタシェル18を設けたことによって形成されたデッドスペースとなる空間315に電装ユニット300を設けたため、倒立振子型車両1全体のコンパクト化が図れる。また、アウタシェル18の前側面にスイッチユニット306のスイッチボタン328を設けると共に、表示装置329を設けたため、シート200に着座した搭乗者による表示装置の確認、スイッチボタン328の操作が容易である。また、搭乗者以外がスイッチボタン328の操作をし難くすることができる。
つぎに、図17を参照して搭乗者が搭乗するための倒立振子型車両の構成および動作について説明する。搭乗者は、搭乗(すなわち、シート200に着座)する際には、図1に示したような自立状態(すなわち、起動後)の倒立振子型車両1に対し、車両の後方からアクセスしやすい位置に設けられた搭乗ボタン241(図17参照)を操作することにより、倒立振子制御を一旦停止させる。これにより、図17に示すように、車両(より詳細には、車体フレーム10およびその上部に支持される駆動ユニット等)は、中空車軸54(図2参照)を中心として自重により後方に回動し、その後、車体フレーム10に設けられた後倒限界ストッパ34が尾輪アーム78の上面に当接した位置で静止して後傾状態となる。このとき、車体フレーム10と共にシート200も図1に示す運転位置から後方に回動して図17に示す下方の搭乗開始位置(後方待機位置)に移動する。これにより、シート200の座面位置が低くなるため、搭乗者は、車体後方からでも容易に着座することが可能となる。着座した搭乗者は、再び搭乗ボタン241を操作することにより、倒立振子制御を開始させることができる。この倒立振子制御の開始は、搭乗ボタン241の操作によらず、着座センサ307が着座を検出して所定時間が経過したときに実行される構成でもよい。
ここで、シート本体206は、図1に示したように、側面視において略水平方向に延在する座面の前縁から中央部までを含む座面主部206aと、この座面主部206aの後縁から後方斜め上方に傾斜した座面後部206bとを有している。このように、シート200は、傾斜した座面後部206bを有することにより、搭乗者の臀部を安定的に支持可能である一方、搭乗者がシート200に着座する際には、図17に示したように座面後部206bが水平付近まで傾くため、後方待機位置において車体後方から搭乗者をより容易に乗車させることができる。また、シート本体206の下側を支持するベース部材201においては、図12に示したように、シート本体206の座面と同様に、主部201aが略平坦に形成される一方で、後部201bが後方斜め上方に傾斜している。これにより、搭乗者の荷重によるシート本体206の変形を許容しつつ、座面にかかる荷重を良好に分散させることができる。
なお、シート200が後傾状態となった場合に、図18の変形例に示すように、側面視において座面後部206bが水平方向またはそれ以下となるように座面角度を設定する(ここでは、座面後部206bを水平方向に対して所定の角度θだけ後方斜め下方に傾斜させる)とよい。ことにより、搭乗者の着座のしやすさが一層向上する。
(倒立振子型車両の姿勢及び走行制御)
倒立振子型車両1の走行動作について説明する。主輪PDU272は、ジャイロセンサ308により計測される車体フレーム10の前後左右の傾斜角及び角速度の変化よりシート本体206に着座した搭乗者を含む倒立振子型車両1全体の重心位置を随時演算する。
主輪PDU272は、搭乗者を含む倒立振子型車両1全体の重心がニュートラル位置(例えば、伸縮支柱180の中心直上位置)にある時には、倒立振子制御則に従った制御処理に基づいて左右の駆動ユニット90、130の電動モータ92、132を駆動し、車体を直立姿勢に維持する。
このとき、尾輪PDU274は、旋回制御則に従った制御処理に基づいて尾輪ユニット80の電動モータ84を停止状態に維持し、尾輪82は回転しない。
搭乗者を含む倒立振子型車両1全体の重心がニュートラル位置より前側に移動すると、主輪PDU272が倒立振子制御則に従った制御処理のもとに、左右の駆動ユニット90、130の電動モータ92、132をそれぞれ正転方向に同一速度で駆動する。電動モータ92、132の駆動によって、左右の駆動ディスク58が同一速度で前転し、主輪52が自身の輪中心を回転軸として正転、つまり、前進方向に公転する。このとき、左右の駆動ディスク58に回転速度差が生じないため、駆動ディスク58の駆動ローラ66及び主輪52の従動ローラ64が自転せず、倒立振子型車両1は真っ直ぐに前進する。
搭乗者を含む倒立振子型車両1全体の重心がニュートラル位置より後側に移動すると、主輪PDU272が倒立振子制御則に従った制御処理のもとに、左右の駆動ユニット90、130の電動モータ92、132をそれぞれ逆転方向に同一速度で駆動する。電動モータ92、132の駆動によって、左右の駆動ディスク58が同一速度で逆転し、主輪52が自身の輪中心を回転軸として逆転、つまり、後進方向に公転する。このとき、左右の駆動ディスク58に回転速度差が生じないため、駆動ディスク58の駆動ローラ66及び主輪52の従動ローラ64が自転せず、倒立振子型車両1は真っ直ぐに後進する。
前進時及び後進時には、尾輪PDU274は、旋回制御則に従った制御処理のもとに、尾輪ユニット80の電動モータ84の停止状態が維持され、尾輪82は公転しない。しかしながら、倒立振子型車両1の前進に伴って尾輪82のフリーローラが自転する。
搭乗者を含む倒立振子型車両1全体の重心がニュートラル位置より左側あるいは右側に移動すると、主輪PDU272が、倒立振子制御則に従った制御処理のもとに、左右の駆動ユニット90、130の電動モータ92、132を、互いに異なった回転方向及び又は回転速度に駆動する。電動モータ92、132の駆動によって、左右の駆動ディスク58間に回転速度差が生じ、左右の駆動ディスク58の回転力による円周(接線)方向の力に対し、この力に直交する向きの分力が左右の駆動ローラ66と主輪52の従動ローラ64との接触面に作用する。この分力によって従動ローラ64が自身の中心軸線回りに回転(自転)することになる。
従動ローラ64の回転は、左右の駆動ディスク58の回転速度差によって定まる。例えば、左右の駆動ディスク58を互いに同一速度で逆向きに回転させると、主輪52は全く公転せず、従動ローラ64の自転だけが生じる。これにより、主輪52には左右方向の走行力が加わることになり、倒立振子型車両1は、左右方向に移動(真横移動)する。また、左右の駆動ディスク58を同一方向に相違した速度で回転させると、主輪52の公転と共に従動ローラ64の自転が生じる。これにより、倒立振子型車両1は、斜め前方や斜め後方に移動する。
このとき、尾輪PDU274は、旋回制御則に従った制御処理のもとに、尾輪ユニット80の電動モータ84を駆動し、真横移動速度と同等の回転速度で尾輪82を回転(公転)させてもよい。主輪52の従動ローラ64の回転による移動量と、尾輪82の回転による移動量とに差が生じる場合には、倒立振子型車両は旋回する。
以上、本発明を、その好適形態実施例について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、主輪52は、複数個の従動ローラ64が個別に自転可能に円環状をなすように組み合わせられていればよく、このような組み合わせによる従動ローラ64の支持は、円環部材62に限られることはなく、外周部に従動ローラ64の支持部を複数個有する円盤状部材によって行われてもよい。また、尾輪82は、オムニホイールに限られることなく、通常のゴムタイヤによる主輪であってもよい。左側駆動ユニット90の減速機96の突出部分102Aは、右側駆動ユニット130の減速機136の突出部分142Aの突出方向とは逆に、電動モータ92の中心軸線の位置より車体後方側に突出していてもよい。左側駆動ユニット取付板22、右側駆動ユニット取付板24は、切欠部22B、24Bに代えて減速機出力軸98、138が貫通可能な開口(貫通孔)であってもよい。
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。減速機は、必須でなく省略されてもよく、図19に示されているように、左右の駆動プーリ100、140が左右の電動モータ92、132によって直動されてもよい。また、尾輪ユニット80も省略されてもよい。