JP2013181519A - 内燃機関の制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】最適なタイミングでパイロット噴射を行って確実に自己着火する。
【解決手段】内燃機関(1)は、少なくともパイロット噴射及び主噴射として段階的に燃料を噴射可能な噴射手段(17)と、気筒(11)内の圧力を取得する圧力取得手段(19)とを備える。この内燃機関の制御装置(30)は、筒内圧力に基づいて、気筒で発生する熱量をクランク角度毎に取得すると共に、クランク角度毎の熱量のうち、低温酸化反応に対応する熱量の合計を反応熱量として取得する熱量取得手段(32)と、反応熱量が所定範囲内であるか否かを判定する熱量判定手段(31)と、反応熱量が所定範囲内であると判定された場合、低温酸化反応に対応する熱量の増加率に基づいて、低温酸化反応開始時期を学習する学習手段(33)とを備える。
【選択図】図5

Description

本発明は、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関における燃料噴射を制御する内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
この種の装置として、パイロット噴射の噴射開始時期を、筒内ガス温度が所定温度以上となる時期に設定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1によれば、所定温度とは、燃料の熱分解が最初に発生する、低温酸化反応開始温度付近の温度である。
また、PCCI(Premixed Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)燃焼に係わる自己着火開始時期(言い換えれば、高温酸化反応開始時期)を推定するために、冷炎(即ち、低温酸化反応)の発熱量を推定するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2によれば、PCCI燃焼用燃料量、同燃料の性状(セタン価CN)、吸気酸素濃度、及び冷炎開始時期における筒内ガス密度に基づいて、冷炎の発熱量が推定される。
更には、主噴射による燃料の予混合気で冷炎反応が開始するのに対応して副噴射し、該副噴射による燃料の気化潜熱によって予混合気の温度を低下させるものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
特開2002−047976号公報 特開2005−273513号公報 特開2004−003439号公報
しかしながら、上述した特許文献1に記載の装置では、低温酸化反応開始温度は、燃料の差異や、燃料噴射機構の劣化程度に応じた噴霧状況により変化するため、仮に学習なしに低温酸化反応開始温度付近に設定された温度でパイロット噴射を行うと、自己着火せずに失火に至り兼ねないといった技術的問題点がある。
また、仮に予混合気を燃焼させるのであれば、筒内温度のみによって低温酸化反応の開始時期を概ね予測し得る。しかしながら、燃料を直接筒内に噴射する直噴型エンジンでは、燃料の蒸発性及び酸素との混合状況により筒内温度が上昇する態様が異なるため、筒内温度のみによって低温酸化反応の開始時期を予測してしまうと、無視し得ないレベルの誤差が生じ兼ねないといった技術的問題点がある。具体的には、例えば燃料が少量噴射され、筒内温度が殆ど上昇しないとしても、低温酸化反応は既に開始している又は終了している場合が起こり得る。
本発明は、例えば上記問題点に鑑みなされたものであり、最適なタイミングでパイロット噴射を行って確実に自己着火し得る内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、少なくともパイロット噴射及びメイン噴射として、段階的に燃料を噴射する噴射手段と、気筒内の圧力を取得する圧力取得手段とを備える内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、前記取得された圧力に基づいて、前記気筒で発生する熱量をクランク角度毎に取得すると共に、該取得した前記クランク角度毎の前記熱量のうち、低温酸化反応に対応する前記熱量の合計を反応熱量として取得する熱量取得手段と、前記取得された前記反応熱量が所定範囲内であるか否かを判定する熱量判定手段と、前記熱量判定手段により前記反応熱量が前記所定範囲内であると判定された場合、前記低温酸化反応に対応する前記熱量の増加率に基づいて、低温酸化反応開始時期を学習する学習手段とを備える。
本発明に係る内燃機関は、例えば複数の気筒を有するディーゼルエンジンであり、各気筒において一燃焼における燃料の噴射として、本来の燃料噴射たるメイン噴射より他に、メイン噴射に先立つパイロット噴射による噴射を行うエンジンである。ここで、「パイロット噴射」とは、典型的には、自己着火前に燃料及び空気の混合を推進するための予備的噴射である。また、「メイン噴射」とは、典型的には、複数段の噴射のうち、最大の噴射量で自己着火、燃焼へと導く主体的噴射である。本発明に係る燃料噴射手段は、例えばディーゼルエンジンにおけるインジェクタ等であり、少なくとも、上述したパイロット噴射及びメイン噴射を行う。本発明に係る圧力取得手段は、例えば圧力センサ等であり、気筒内の圧力(即ち、筒内圧力)を直接的又は間接的に検出、測定或いは算出する。
本発明に係る熱量取得手段は、筒内圧力に基づいて、気筒で発生する熱量をクランク角度毎に取得する。ここで、「クランク角度毎」とは、典型的には上死点と下死点との間で変位するクランク角度に対応付けることを意味する。また、熱量を「取得する」とは、筒内圧力をパラメータとする関数を用いて計算或いは換算する他、予め設定された換算表或いは換算テーブルを用いて取得することを意味する。
また、本発明に係る熱量取得手段は、低温酸化反応に対応する反応熱量を取得する。ここで、「反応熱量」とは、クランク角度毎の熱量のうち、低温酸化反応に対応する熱量を合計した値を示す。また、「低温酸化反応」とは、典型的には、圧縮行程において、筒内温度が比較的低温である場合に発生する、燃料の熱分解を意味する。これに対し、「高温酸化反応」とは、典型的には、圧縮行程における低温酸化反応の終了から、燃焼・膨張行程の初頭までの期間において、筒内温度が比較的高温である場合に発生する、燃料の熱分解を意味する。
本発明に係る熱量判定手段は、低温酸化反応に対応する反応熱量が所定範囲内にあるか否かを判定する。ここで、「所定範囲」とは、正常な低温酸化反応により発生されると推定される熱量の最小値から最大値までの範囲であって、正常な低温酸化反応が実際に発生したか否かを判定するための反応熱量の閾値を示す。また、ここに「正常な」低温酸化反応とは、例えばクランク角度及び筒内温度等に係る所定条件下で発生する低温酸化反応を意味する。このような「所定範囲」は、例えば、燃料の噴射量の関数として、以下に説明する学習動作の中で、可変に設定すればよい。或いは、このような所定範囲は、例えば、低温酸化反応が発生した際の筒内圧力や筒内温度等を求めることで、予め設定すればよい。
反応熱量がこうした所定範囲内にある(即ち、正常な低温酸化反応が発生した)と判定された場合、現行のサイクルにおける低温酸化反応の開始時期を学習可能である。一方、反応熱量が所定範囲内にない(即ち、正常な低温酸化反応が発生しなかった)と判定された場合、現行のサイクルにおける低温酸化反応の開始時期の学習は行われない。
本発明に係る学習手段は、熱量判定手段により反応熱量が所定範囲内にあると判定された場合、低温酸化反応に対応する熱量の増加率に基づいて、低温酸化反応の開始時期(即ち、低温酸化反応開始時期)を学習する。ここで、「低温酸化反応に対応する熱量」とは、端的には、低温酸化反応に対応するクランク角度毎の熱量であって、具体的には、低温酸化反応に対応するクランク角度の範囲において、変移する熱量を示す。
こうした熱量の「増加率」とは、熱量が増加した時の、熱量の増加の割合であって、こうした増加率に基づいて「低温酸化反応開始時期を学習する」とは、例えば、増加率の最大値、最小値又は平均値等に応じて或いは対応して、低温酸化反応開始時期を表すクランク角度や筒内温度等の値を取得し、取得した値を燃料噴射制御の指標として用いるといった一連の動作を繰り返し行っていくことを意味する。即ち、ここでの「学習する」とは、このような取得する動作及び用いる動作を繰り返すことで、より適切な低温酸化反応開始時期を更新しながら求めていくことを意味する。
本発明の内燃機関の制御装置によれば、その動作時には、例えば、熱量取得手段により、筒内圧力に基づいて、低温酸化反応に対応する反応熱量が取得される。すると、熱量判定手段により、取得された反応熱量が所定範囲内にあるか否かが判定され、反応熱量が所定範囲内にあると判定された場合、学習手段により、低温酸化反応に対応する熱量の増加率に基づいて、低温酸化反応開始時期が学習される。
本発明によれば、学習した低温酸化反応開始時期を指標として、パイロット噴射を最適なタイミングで行うと共に、確実に自己着火することが可能である。具体的には、例えば、予混合気をパイロット噴射する場合、低温酸化反応開始時期より前にパイロット噴射することで、スモークを低減することが可能である。また、自己着火を促進するべく、低温酸化反応開始時期より後にパイロット噴射することで、燃焼を安定させると共に、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を低減することが可能になる。このようにして、パイロット噴射の効能を最大限に大きくすることが可能である。
更には、学習した低温酸化反応開始時期は、燃料の蒸発性及び酸素との混合状況(即ち、混合化)の指標ともなる。このため、学習した低温酸化反応開始時期を、その基準値と比較することで、燃料の蒸発性及び混合化を判断或いは評価することが可能である。尚、高温酸化反応が所定温度以上で発生するのに対し、低温酸化反応は、燃料の蒸発性及び混合化が進んでいることが発生の条件である。
本発明の内燃機関の制御装置の一の態様では、前記学習手段は、前記増加率が最大になる時点の前記クランク角度を取得することで、前記低温酸化反応開始時期を学習する。
この態様によれば、低温酸化反応開始時期を示す値として、熱量の増加率が最大になる時点のクランク角度を取得する。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記熱量判定手段により前記反応熱量が前記所定範囲内でないと判定された場合、前記パイロット噴射における噴射量の増量及び噴射時期の進角のうち少なくとも一方が行われるように前記噴射手段を制御する制御手段を更に備える。
本発明に係る制御手段は、例えば、反応熱量が所定範囲の最下値を下回る場合、次回のサイクルのパイロット噴射における噴射量を増量するように噴射手段を制御することで、予混合化を推進する。これに併せて、次回のサイクルのパイロット噴射における噴射時期を進角するように噴射手段を制御することで、燃料の蒸発性を高めてもよい。
一方、反応熱量が所定範囲の最上値を上回る場合、低温酸化反応がない、又は低温酸化反応と高温酸化反応とが合体している場合がある。このため、次回のパイロット噴射における噴射時期が進角するように噴射手段を制御することで、低温酸化反応の発生を推進する、又は低温酸化反応を早めて低温酸化反応と高温酸化反応とを切り離す。
この態様によれば、熱量判定手段により反応熱量が所定範囲内でないと判定された場合、制御手段により噴射手段が制御され、パイロット噴射における噴射量の増量及び噴射時期の進角の少なくとも一方が行われることで、正常な低温酸化反応を発生させることが可能である。これにより、低温酸化反応の発生を推進し、低温酸化反応開始時期の学習の機会を増やすことが可能である。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記所定範囲は、一サイクルに噴射される前記燃料の合計噴射量、及び前記燃料の低位発熱量のうち少なくとも一方に基づいて設定される。
この態様によれば、例えば、合計噴射量と低位発熱量とを乗じて、一サイクルに発生する熱量を推定し、推定された一サイクルの熱量のうち、低温酸化反応に対応すると推定される熱量の範囲が、所定範囲として設定される。こうして所定範囲を設定することで、一定条件下で低温酸化反応開始時期を学習することができ、学習した低温酸化反応開始時期を指標とする制御にブレが生じない。
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、少なくとも前記パイロット噴射の際の、前記気筒内の温度を取得する温度取得手段と、前記取得された前記パイロット噴射の際の前記温度が所定温度より低いか否かを判定する温度判定手段とを更に備え、前記熱量取得手段は、前記温度判定手段により前記温度が前記所定温度より低い場合、前記反応熱量を取得する。
本発明に係る温度取得手段は、例えば温度センサであって、少なくともパイロット噴射の際の、気筒内の温度(即ち、筒内温度)を直接的又は間接的に検出、測定或いは算出する。ここで、「パイロット噴射の際」とは、パイロット噴射が行われる時点の他、該時点の直前又は直後等の、パイロット噴射に係る期間のうちの少なくとも一時点を意味する。また、「筒内温度」とは、具体的には、気筒内のガス温度を示す。本発明に係る温度判定手段は、筒内温度が所定温度より低いか否かを判定する。ここで、「所定温度」とは、例えば研究、実験或いはシミュレーション等の結果により予め設定される温度であって、パイロット噴射に相前後して発生する正常な低温酸化反応の開始時期が、適切か否かを判定するための筒内温度の閾値である。筒内温度がこうした所定温度より低い(即ち、低温酸化反応開始時期が適切である)と判定された場合、パイロット噴射の際の筒内温度が、低温酸化反応開始時期の学習に適合していると考えられるから、本発明に係る熱量取得手段により反応熱量が取得される。
一方、筒内温度が所定温度より高い(即ち、低温酸化反応の開始時期が適切でない)と判定された場合、パイロット噴射の際の筒内温度が、低温酸化反応開始時期の学習に適合していないと考えられるから、熱量取得手段により反応熱量が取得されることはない。
この態様によれば、熱量取得手段が反応熱量を取得するより前に、パイロット噴射の際の筒内温度が、低温酸化反応開始時期の学習に適合するか否かを判定する。これにより、パイロット噴射の際の筒内温度が学習に適合しない場合、現行のサイクルでは学習を行わないように学習に係る動作を見送るので、学習を無駄なく行うことが可能である。
前記増加率が最大になる時点の前記クランク角を取得する態様では、前記学習手段は、前記増加率が最大になる時点の前記温度を取得することで、前記低温酸化反応開始時期を学習してもよい。
この態様によれば、低温酸化反応開始時期を示す値として、クランク角度のみならず、熱量の増加率が最大になる時点の筒内温度を取得することで、低温酸化反応開始時期を指標とする制御の精度を高めることが可能である。
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
実施形態に係るエンジンシステムの構成を示すブロック図である。 図1のエンジンにおける、低温及び高温酸化反応に対応するクランク角度と筒内圧力及び熱発生率との関係を示すグラフである。 図1のエンジンにおける、低温及び高温酸化反応に対応するクランク角度と筒内温度及びモル数との関係を示すグラフである。 図1のエンジンにおける、低温酸化反応に対応するクランク角度と各反応の熱発生率との関係を示すグラフである。 実施形態に係る低温酸化反応開始時期の学習処理を示すフローチャートである。
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態>
<実施形態の構成>
初めに、図1を参照し、実施形態に係るエンジンシステム100の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム100の構成を概念的に表すブロック図である。
図1において、エンジンシステム100は、シリンダ11、ピストン12、吸気通路13、吸気弁14、排気通路15、排気弁16、インジェクタ17、筒内温度センサ18、及び筒内圧力センサ19を備えるエンジン1と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)30とから構成される。
エンジン1は、本発明に係る「内燃機関」の一例であって、燃料としての軽油をシリンダ11内に直接噴射する直噴型ディーゼルエンジンである。尚、エンジン1は、シリンダ11が図1において紙面と垂直な方向にN本並列してなる直列N気筒ディーゼルエンジンであるが、個々のシリンダ11の構成は相互に等しいため、ここでは一のシリンダ11についてのみ説明することとする。
エンジン1のサイクルについて、ピストン12が下降すると、外部からの空気が吸気通路13を通過し、吸気弁14を介してシリンダ11内に吸入される。続いて、ピストン12が上昇すると、シリンダ(即ち、本発明に係る「気筒」の一例)11内において、吸入された空気が圧縮され、高圧且つ高温になった空気中に、インジェクタ(即ち、本発明に係る「噴射手段」の一例)17を介して燃料が噴射される。すると、燃料と空気との混合気が自己着火し燃焼が生じる。この燃焼による爆発力に応じて、ピストン12は押し下げられる。この後、ピストン12が再度上昇すると、シリンダ11内に残留する排気が排気弁16を介して排気通路15に導かれる。エンジン1は、こうしたピストン12の上下運動を、コネクティングロッド23を介してクランクシャフト20の回転運動に変換することで、動力を出力可能に構成されている。
エンジン1の一サイクルにおいて供給すべき燃料は、車速及びアクセル開度に基づく運転条件に応じて、パイロット噴射、メイン噴射、及びアフタ噴射を適宜組み合わせた複数の噴射により、インジェクタ17を介してシリンダ11内に段階的に噴射される。
筒内温度センサ18は、本発明に係る「温度特取得手段」の一例であって、シリンダ11内の空気又は混合気の温度(以後、単に「筒内温度」と称する)を検出可能に構成されている。筒内温度センサ18は、ECU30と電気的に接続されており、検出された温度は、ECU30によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
筒内圧力センサ19は、本発明に係る「圧力取得手段」の一例であって、シリンダ11内の圧力(以後、単に「筒内圧力」と称する)を検出可能に構成されている。筒内圧力センサ19は、ECU30と電気的に接続されており、検出された圧力は、ECU30によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
クランクシャフト20の近傍には、クランクポジションセンサ24が設置されている。クランクポジションセンサ24は、クランク主軸21の回転位置を検出可能に構成されている。クランクポジションセンサ24は、ECU30と電気的に接続されており、検出されたクランク角度は、ECU30によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
ECU30は、本発明に係る「内燃機関の制御装置」の一例として、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びバッファメモリ等を備える電子制御ユニットであり、エンジン1の各部の動作を制御可能に構成されている。
ECU30は、学習可能判定部31、熱量算出部32、学習部33、及び噴射制御部3を含んでおり、これら各部に係る動作は、全てECU30によって実行されるように構成されている。但し、これら各部の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各部は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等の各種コンピュータシステムとして構成されていてもよい。
学習可能判定部31は、本発明に係る「温度判定手段」の一例であって、パイロット噴射が行われる時点の筒内温度が、700ケルビン(K)(即ち、本発明に係る「所定温度」の一例)以下であるか否かを判定するように構成されている。本実施形態では、筒内温度が700K以下であると判定された場合、パイロット噴射時点の筒内温度が後述する低温酸化反応開始時期の学習に適合していると考えられる。一方、筒内温度が700Kより高いと判定された場合、パイロット噴射時点の筒内温度が低温酸化反応開始時期の学習に適合していないと考えられる。尚、パイロット噴射時点の筒内温度が700Kより高い場合、低温酸化反応の最中であったり、低温酸化反応が発生せずに高温酸化反応から開始してしまう場合がある。
熱量算出部32は、本発明に係る「熱量取得手段」の一例であって、筒内圧力に基づいて、シリンダ11における熱発生率(或いは熱発生速度)をクランク角度毎に算出可能に構成されている。具体的には、筒内圧力をパラメータとする関数を用いて、クランク角度毎の熱発生率dQ/dθが算出される。
また、熱量算出部32は、低温酸化反応に対応するクランク角度毎の熱発生率を積分して、低温酸化反応に対応する熱量の合計(即ち、本発明に係る「反応熱量」の一例)を算出するように構成されている。本実施形態では、低温酸化反応に対応する熱量はいずれも、筒内温度が900K以下である場合に発生したものであって、筒内温度が1000K以上である場合には、高温酸化反応が発生している。
再び学習可能判定部31は、本発明に係る「熱量判定手段」の一例でもあって、低温酸化反応に対応する熱量の合計(以後、単に「低温酸化反応熱量」と称する)が、投入熱量の10から50パーセント(%)の範囲(即ち、本発明に係る「所定範囲」の一例)内であるか否かを判定可能に構成されている。投入熱量とは、一サイクルに発生すると推定される熱量であって、インジェクタ17が一サイクルに噴射する噴射量の合計と、燃料の低位発熱量とを乗じることで算出される。本実施形態では、詳しくは後述するが、こうした投入熱量の10から50%未満の範囲が、低温酸化反応熱量の閾値として予め設定されている。本実施形態では、低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50%未満の範囲内であると判定された場合、正常な低温酸化反応が発生したから、現行のサイクルにおける低温酸化反応開始時期を学習可能であると考えられる。一方、低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50%の範囲内でないと判定された場合、正常な低温酸化反応が発生しなかったから、現行のサイクルにおける低温酸化反応開始時期の学習は不可能であると考えられる。尚、低温酸化反応熱量が投入熱量の10%未満である場合、ノイズの発生により正常な低温酸化反応が発生しない場合があり、低温酸化反応熱量が投入熱量の50%を上回る場合、低温酸化反応がない拡散燃焼が発生している、又は高温酸化反応が既に発生している場合がある。
次に、図2から図4を参照し、低温及び高温酸化反応について説明する。ここに、図2は、低温及び高温酸化反応に対応するクランク角度と筒内圧力及び熱発生率との関係を示すグラフであり、図3は、低温及び高温酸化反応に対応するクランク角度と筒内温度及びモル数との関係を示すグラフであり、図4は、低温酸化反応に対応するクランク角度と各反応の熱発生率との関係を示すグラフである。
図2において、横軸にクランク角度がとられ、縦軸に筒内圧力及び熱発生率がとられている。図2に示すように、圧縮行程では、クランク角度が零度(圧縮上死点)に向けて上昇するに連れて、筒内圧力は徐々に上昇する。クランク角度が零度に達し、燃料噴射が行われると、自己着火し燃焼が生じる。燃焼・膨張行程では、その爆発力によりクランク角度が下降するに連れて、筒内圧力は下降する。クランク角度が−15から−12度(deg)までの間に、熱発生率が一時的に零から180ジュール毎度(J/deg)付近に達する。これは、低温酸化反応の発生を示す。他方、クランク角度が−5から+3degまでの間に、熱発生率が一時的に零から300J/deg付近に達する。これは、高温酸化反応の発生を示す。
図3において、横軸にクランク角度がとられ、縦軸に筒内温度及びモル数がとられている。図3に示すように、圧縮行程では、クランク角度が上昇するに連れて、筒内温度は徐々に上昇するが、低温酸化反応に対応するクランク角度(−15から−12deg)では、筒内温度が800から900Kまで一気に上昇する。高温酸化反応に対応するクランク角度(−5から+3deg)では、筒内温度が1000から1700Kまで一気に上昇する。燃焼・膨張行程では、クランク角度が下降するに連れて、筒内温度は徐々に下降する。
低温酸化反応に対応するクランク角度では、特に、HO及びC15OOにおけるモル数が上昇する。他方、高温酸化反応に対応するクランク角度では、排気ガスを構成するCO及びCO、並びにOHにおけるモル数が上昇する。
図4において、横軸にクランク角がとられ、縦軸に熱発生率がとられており、低温酸化反応に対応するクランク角度(−15から−12deg)で発生する反応(即ち、低温酸化反応)が示されている。反応の一部は、熱発生率が高いものから順番に、下記式(1)から式(4)により示される。
15+O=C15 (1)
HCO+O=CO+HO (2)
HO+HO=H+O (3)
16+OH=C15+HO (4)
図4に示すように、低温酸化反応として、C15とOとが反応することで、C15が生成される(式(1)の反応)。また、HCOとOとが反応することで、COとHOとが生成される(式(2)の反応)。また、C16とOHとが反応することで、C15とHOとが生成される(式(4)の反応)。低温酸化反応開始時期を特定する反応は、下記式(5)により示される。式(5)の反応は、上記式(1)の反応と一致する。
R+O=ROO (5)
ここで、低温酸化反応開始時期を特定できる、C15OOが生成される時点の熱量は、投入熱量の10%以上であることが、低温酸化反応に係る実験の結果により予め特定されている。また、高温酸化反応を特定できる、OHが生成される時点の熱量は、投入熱量の50%を上回ることが、高温酸化反応に係る実験の結果により予め特定されている。これにより、低温酸化反応熱量の閾値は、投入熱量の10から50%未満の範囲に設定されている。
再び図1において、学習部33は、本発明に係る「学習手段」の一例であって、学習可能判定部31により、低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50パーセントの範囲内である(即ち、正常な低温酸化反応が発生した)と判定された場合、低温酸化反応に対応する熱発生率の増加率に基づいて、低温酸化反応開始時期を学習するように構成されている。具体的には、低温酸化反応開始時期を示す値として、低温酸化反応に対応する熱発生率の増加率が最大になる時点のクランク角度が取得される。
再び図4において、低温酸化反応開始時期を特定できる、C15OOが生成される反応における、熱発生率の増加率が二点鎖線で示されている。熱発生率の増加率は、熱量算出部32により算出される熱発生率を微分することで算出される。この増加率が最大値(図4における点R_max)になる時のクランク角度が、低温酸化反応開始時期を示す。図4によれば、増加率が最大値R_maxになる時のクランク角度は−14deg付近である。このクランク角度が取得されることで、低温酸化反応開始時期が学習される。
本実施形態では、低温酸化反応開始時期を示す値として、クランク角度に加えて、低温酸化反応に対応する熱発生率の増加率が最大になる時点の筒内温度が取得される。低温酸化反応開始時期を示す筒内温度Tは、式(6)に示される理想気体の状態方程式を用いて算出される。ここで、「P」は筒内圧力、「V」はシリンダ11内の容積、「n」はシリンダ内ガス(空気又は混合気)の物質量(即ち、モル数)、及び「R」はガス定数を示しており、これら各々は、低温酸化反応に対応する熱発生率の増加率が最大になる時点の値である。
PV=nRT (6)
再び図1において、噴射制御部34は、学習可能判定部31により、低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50パーセントの範囲内でない(即ち、正常な低温酸化反応が発生しなかった)と判定された場合、次回のパイロット噴射において、噴射量を増量すると共に噴射時期を進角するように構成されている。これは、噴射量の増量により、予混合化を推進させ、噴射時期の進角により、燃料の蒸発性を高めることで、正常な低温酸化反応を発生させるための制御である。
<実施形態の動作>
次に、図5を参照し、本実施形態に係る低温酸化反応開始時期の学習処理について説明する。ここに、図5は、低温酸化反応開始時期学習処理を示すフローチャートである。
図5において、先ず、学習可能判定部31により、筒内温度センサ18によるパイロット噴射時の筒内温度が、700K以下であるか否かが判定される(ステップS101)。この判定の結果、筒内温度が700Kより高いと判定された場合(ステップS101:No)、パイロット噴射時の筒内温度が低温酸化反応開始時期の学習に適合していないとして、一連の処理が終了される。
一方、ステップS101の判定の結果、パイロット噴射時の筒内温度が700K以下であると判定された場合(ステップS101:Yes)、熱量算出部32により、筒内圧力センサ19による筒内圧力に基づいてクランク角度毎の熱発生率が算出され、低温酸化反応に対応するクランク角度毎の熱発生率から低温酸化反応熱量が算出される(ステップS102)。続いて、学習可能判定部31により、熱量算出部32による低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50%未満の範囲内であるか否かが判定される(ステップS103)。この判定の結果、低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50%未満の範囲内でないと判定された場合(ステップS103:No)、正常な低温酸化反応が発生しなかったとして、噴射制御部34により、次回のパイロット噴射において、噴射量が増加されると共に噴射時期が進角される(ステップS104)。これにより、低温酸化反応の発生を推進し、正常な低温酸化反応を発生させる。
一方、ステップS103の判定の結果、低温酸化反応熱量が投入熱量の10から50%未満の範囲内であると判定された場合(ステップS103:Yes)、学習部33により、低温酸化反応に対応する熱発生率の増加率が算出され、該増加率が最大になる時のクランク角度が算出される(ステップS105)。更に、学習部33により、式(6)を用いて該増加率が最大になる時の筒内温度が算出される(ステップS106)。これにより、低温酸化反応開始時期が学習され、一連の処理が終了される。
上述した低温酸化反応学習処理によれば、学習した低温酸化反応開始時期(即ち、クランク角度及び筒内温度)を指標として、パイロット噴射を最適なタイミングで行うと共に、確実に自己着火することが可能である。
また、パイロット噴射における噴射量の増量及び噴射時期の進角が行われることで、正常な低温酸化反応を発生させることが可能である。これにより、低温酸化反応の発生を推進し、低温酸化反応開始時期の学習の機会を増やすことが可能である。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
1…エンジン、11…気筒、17…燃料噴射機構、19…筒内圧力センサ、30…ECU、31…学習時期判定部、32…熱量算出部、33…開始時期学習部、100…エンジンシステム

Claims (6)

  1. 少なくともパイロット噴射及びメイン噴射として、段階的に燃料を噴射する噴射手段と、気筒内の圧力を取得する圧力取得手段とを備える内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、
    前記取得された圧力に基づいて、前記気筒で発生する熱量をクランク角度毎に取得すると共に、該取得した前記クランク角度毎の前記熱量のうち、低温酸化反応に対応する前記熱量の合計を反応熱量として取得する熱量取得手段と、
    前記取得された前記反応熱量が所定範囲内であるか否かを判定する熱量判定手段と、
    前記熱量判定手段により前記反応熱量が前記所定範囲内であると判定された場合、前記低温酸化反応に対応する前記熱量の増加率に基づいて、低温酸化反応開始時期を学習する学習手段と
    を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
  2. 前記学習手段は、前記増加率が最大になる時点の前記クランク角度を取得することで、前記低温酸化反応開始時期を学習する
    ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  3. 前記熱量判定手段により前記反応熱量が前記所定範囲内でないと判定された場合、前記パイロット噴射における噴射量の増量及び噴射時期の進角のうち少なくとも一方が行われるように前記噴射手段を制御する制御手段
    を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
  4. 前記所定範囲は、一サイクルに噴射される前記燃料の合計噴射量、及び前記燃料の低位発熱量のうち少なくとも一方に基づいて設定される
    ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
  5. 少なくとも前記パイロット噴射の際の、前記気筒内の温度を取得する温度取得手段と、
    前記取得された前記パイロット噴射の際の前記温度が所定温度より低いか否かを判定する温度判定手段と
    を更に備え、
    前記熱量取得手段は、前記温度判定手段により前記温度が前記所定温度より低い場合、前記反応熱量を取得する
    ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
  6. 前記学習手段は、前記増加率が最大になる時点の前記温度を取得することで、前記低温酸化反応開始時期を学習する
    ことを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
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