JP2013144769A - 自己修復性材料、自己修復性材料の使用方法及びゲル材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】液晶材料と、前記液晶材料中に含まれ、該液晶材料が等方相に転移したときゾル状態を発現させ、該液晶材料が液晶相に転移したときゲル状態を発現させる微粒子と、前記液晶材料中に含まれ、光照射に基づく光異性化をもって、該液晶材料の相構造を液晶相と等方相との間で切替える光応答性材料と、が含有されている、ことを特徴とする自己修復性材料。
【選択図】図8
Description
(損傷)を自己修復する自己修復性材料が存在する。このような自己修復性材料としては、特許文献1に示すように、光硬化性樹脂等における重合反応を利用する材料や、非特許文献1に示すように、光照射によって生成したフリーラジカルの再結合反応を利用する材料や、非特許文献2に示すように、光照射による共有結合の組み換え反応を利用した材料などがある。
これらをコーティング剤等として用いれば、仮に商品表面が損傷したとしても、損傷個所が自己修復して補修作業が不要となるばかりでなく、熱に弱いプラスチック製品への適用も可能となる。
このゲル材料によれば、外力を付与することによりゾルとなり、外力の付与を取り除くことによりゲルに復元することになる。このため、このゲル材料においては、力学的にゾル-ゲル転移の制御が可能である。
また、非特許文献1,2においては、同一個所において自己修復が再度可能であっても、流動性の無い材料中で化学結合の組み換えが行われて、分子運動が制限されることになり、光照射を比較的長時間に亘って行わざるを得ない。
第2の目的は、上記自己修復性材料を用いた自己修復性材料の使用方法を提供することにある。
第3の目的は、ゲル状態の崩壊状態からゲル状態に高速に復元し得るゲル材料を提供することにある。
液晶材料と、
前記液晶材料中に含まれ、該液晶材料が等方相に転移したときゾル状態を発現させ、該液晶材料が液晶相に転移したときゲル状態を発現させる微粒子と、
前記液晶材料中に含まれ、光照射に基づく光異性化をもって、該液晶材料の相構造を液晶相と等方相との間で切替える光応答性材料と、
が含有されている、
ことを特徴とする自己修復性材料とした構成とされている。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2〜8に記載の通りとなる。
自己修復性材料を用いて部材表面を構成している自己修復性材料の使用方法において、
前記自己修復性材料として、液晶材料と、該液晶材料中に含まれ、該液晶材料が等方相に転移したときゾル状態を発現させ、該液晶材料が液晶相に転移したときゲル状態を発現させる微粒子と、前記液晶材料中に含まれ、光照射に基づく光異性化をもって、該液晶材料の相構造を液晶相と等方相との間で切替える光応答性材料と、が含有されているものを用意し、
前記自己修復性材料をゲル化することにより前記部材表面を構成する一方、
前記部材表面が損傷したときに、先ず、その損傷した部分に対する光照射に基づく前記光応答性材料の光異性化により、前記液晶材料を等方相に転移させて、該損傷した部分をゾル化し、
その後、前記ゾル化した部分に対する光照射に基づく前記光応答性材料の光異性化により、前記液晶材料の等方相を液晶相に移行させて、前記ゾル化した部分をゲル化する構成とされている。この請求項9の好ましい態様としては、請求項10、11の記載の通りとなる。
液晶材料中に、該液晶材料を等方相から液晶相に移行させるに伴いゲル状態とするための微粒子が含有され、
前記微粒子が、前記液晶材料がゲル状態にあるときに、液晶相ドメイン間に存在する等方相領域に凝縮されている、
ことを特徴とするゲル材料とした構成としてある。この請求項12の好ましい態様としては、請求項13以下の記載のとおりとなる。
一方、上記部材表面が損傷したときには、その損傷した部分を、光照射による光応答性材料の光異性化に基づき液晶材料を等方相に転移させることにより、その損傷した部分をゾル化することができ、そのゾル化に基づく流動性により損傷した部分を、自ずと補修できる。この後、そのゾル化した部分を、光照射による光応答性材料の光異性化に基づき液晶材料を液晶相に転移させて、その液晶相への転移現象と微粒子との相互作用(ネットワーク構造の構築)を利用することにより、ゾル化した部分をゲル化することができ、元のゲル状態に修復できる。このように、当該自己修復性材料を用いれば、部材表面を構成できる一方、その部材表面が損傷したとしても、その損傷した部分の修復に際して、当該自己修復性材料のゾル-ゲルの可逆的な形態変化を利用できることになり、同一個所の再自己修復を可能とすることができる。
また、光照射が光応答性材料の光異性化に用いられ、自己修復に、高速な分子形状の変化によって誘起される分子ドミノ効果に基づく液晶材料の相構造転移とそれによるゾル-ゲル転移を利用できることになり、光照射時間を、光照射を化学結合の組み換えに用いる態様の場合に比して、短縮することができる。
ここで、微粒子の濃度が液晶材料及び光応答性材料の混合物に対して5wt%以上としているのは、「5wt%」未満では、部材表面を構成するための所望のゲル状態を得ることができないからである。
ここで、光応答性材料が「0.1mol%」以上としているのは、「0.1mol%」未満では照射光に基づく光応答性材料の光異性化効果を十分に得ることができないからである。
また、第1の照射光として紫外光を用い、第2の照射光として可視光を用いることから、光応答性材料(濃度も含む)との関係を考慮しつつ、照射紫外光の強度については、日常環境における紫外光の強度及び室内環境における紫外光の強度よりもできるだけ大きくし、照射可視光の強度については、日常環境における可視光の強度及び室内環境における可視光の強度にできるだけ近づけるように調整することができる。このため、日常環境、室内環境中で使用する通常の使用態様の下で、その日常環境、室内環境における紫外光により自己修復性材料が不用意にゾル化することを防ぎつつ(ゲル状態に維持)、その日常環境、室内環境における可視光により自己修復性材料の安定化(ゲルの安定化)を維持できる。
また、損傷した部分に対する光照射に紫外光を用い、ゾル化した部分に対する光照射に可視光を用いることから、光応答性材料(濃度も含む)との関係を考慮しつつ、照射紫外光の強度については、日常環境における紫外光の強度及び室内環境における紫外光の強度よりもできるだけ大きくし、照射可視光の強度については、日常環境における可視光の強度及び室内環境における可視光の強度にできるだけ近づけるように調整することができる。このため、日常環境、室内環境中で使用する通常の使用態様の下で、その日常環境、室内環境における紫外光により自己修復性材料が不用意にゾル化することを防ぎつつ(ゲル状態に維持)、その日常環境、室内環境における可視光により自己修復性材料の安定化(ゲルの安定化)を維持できる。
ここで、微粒子の濃度が液晶材料に対して5wt%以上としているのは、「5wt%」未満では、上記所望のゲル状態を得ることができないからである。
特に、当該ゲル材料を塗料として用いれば、顔料を溶解させる溶媒を不要とすることができ、省資源且つ環境に優しい塗料を提供できる。すなわち、通常の塗料が,顔料を適当な溶媒に溶解させて塗布した後に,溶媒を蒸発させて顔料の薄膜を作製するのに対して、微粒子/液晶複合系において、顔料を液晶に溶解した場合は液晶が溶媒となるが,液晶性を示す顔料であれば溶媒を全く不要とすることができ、「ゾル状態で塗布して,ゲル状態で固める」ことにより薄膜を作製できる。
1.本実施形態に係る自己修復性材料は、液晶材料、微粒子及び光応答性材料の混合物からなる。この場合、この自己修復性材料を使用するに先立ち、液晶材料中に微粒子及び光応答性材料を分散させるべく、加熱下で、液晶材料、微粒子及び光応答性材料を混合することが好ましい。
(i)液晶材料(分散媒)中に微粒子(分散質)を分散された材料(液晶コロイド材料)において、微粒子濃度がある一定以上の濃度条件下では、微粒子が液晶中でネットワーク構造を構築し、高粘度のゲル状態(液晶コロイドゲル)を発現する。このゲル状態の発現は、等方相S1において均一に分散していた微粒子P(図1参照)が、液晶材料が等方相S1から液晶相S2へと相転移するときに、液晶の配向弾性に基づき、液晶相S2領域から排出されて等方相S1領域に凝集し、ネットワーク構造Nを構築することに基づいている(図2、図3参照)。図2の矢印は、等方相S1が縮小されていく一方、液晶相S2が拡張されていく過程を示している。
その一方、分散媒である液晶材料が液晶相から等方相へと相転移すると、上記図1〜図3の順とは逆に、微粒子によって構築されたネットワーク構造が崩壊して低粘度のゾル状態が発現する。
このように、微粒子は、液晶材料の相構造に応じて、当該自己修復性材料のゾル-ゲル状態を可逆的に変化させる役割を有する。
(iii)微粒子の直径については、液晶材料中に分散できる大きさであれば、特に制限は無い。ネットワーク構造の構築に微粒子の直径は影響を与えないからである。しかし、微粒子の直径は0.1〜10μm(より好ましくは0.2〜5μm)とすることが好ましい。0.1μm以上であれば、密度の面(緻密性等)から好ましいネットワーク構造を構築できる一方、10μmを超えると、粗なネットワーク構造となる傾向があるからである。
(iv)微粒子の表面については、液晶分子が表面に対して垂直に配向するように、化学物質(フッ素系界面活性剤、長鎖アルキルカチオン、レシチン、ポリイミド、シランカップリング剤)の修飾もしくは物理的(マイクログルーブ構造)に処理されていることが好ましい。
上記光応答性材料の第2の形態としては、液晶材料を液晶相に導く形態(液晶の配向や物性に影響を与えない形状)が用いられており、本実施形態においては、棒状の分子形状とされるトランス体が用いられている。
これにより、光応答性材料がシス体に光異性化された場合には、液晶材料が液晶相のときには、その液晶相が不安定化して相構造が等方相に転移し、光応答性材料がトランス体に光異性化された場合には、液晶材料が等方相のときには、その等方相は液晶相に転移することになる(液晶材料の相構造の制御)。
この結果、液晶材料中に微粒子が含有されている状態の下では、光応答性材料の光異性化の選択により、当該自己修復性材料をゾル状態にも、ゲル状態にも可逆的且つ選択的に転移させることができる。
なお、光応答性材料が液晶相を発現する性質を有する場合には、一般的な液晶材料に代えて、その液晶相を発現する光応答性材料のみを用いてもよい。例えば、分子両端の少なくとも一方がアルキル基、アルコキシ基で置換され、もう一方がアルキル基、アルコキシ基、シアノ基などで置換されたアゾベンゼン化合物等である。
(iv)光応答性材料の濃度は、その濃度に応じて、十分な光異性化効果を得るのに必要な紫外光、可視光の照射強度を変化させることができる。具体的には、光応答性材料の濃度を0.1〜10mol%の範囲で変化させることにより、十分な光異性化効果を得るのに必要な紫外光および可視光の照射強度を、0.2〜20mW/cm2の範囲で連続的且つ良好に調整することが可能である。
アゾベンゼン構造としては(化3)で表される構造。
スピロピラン構造としては(化4)又は(化5)で表される構造。
フルギド構造としては(化6)で表される構造。
ジアリールエテン構造としては(化7)で表される構造。
サリチリデンアニリン構造としては(化8)で表される構造。
アントラセン構造としては(化9)で表される構造。
ノルボルナジエン構造としては(化10)で表される構造。
シンナモイル構造としては(化11)で表される構造。
ニトロン誘導体構造としては(化12)で表される構造。
ベンズアルドキシム構造として(化13)で表される構造。
スチルベン構造として(化14)で表される構造。
レチナール構造として(化15)で表される構造。
光異性化反応により、光応答性材料の分子形状が大きく変化し、液晶材料を効率よく等方相へと相転移させるからである。
2nmのものがより好ましい。254〜1064nmは市販されている一般的な光源で使用できる波長であり、365〜632nmはより汎用性の高い光源(水銀ランプ、アルゴンイオンレーザー、ヘリウム‐ネオンレーザー)で使用できる波長だからである。
本実施形態においては、第1の照射光として、紫外光が用いられ、第2の照射光として、可視光が用いられている。このような照射光を特に用いているのは、紫外光によりトランス体をシス体に光異性化させ、可視光によりシス体を効率よくトランス体に光異性化させるためである。
上記第1、第2の照射光の強度については、光応答性材料、その濃度に応じて適宜選択される。その中でも、0.2mW/cm2以上が好ましい。0.2mW/cm2未満では液晶材料を相転移させるのに十分な光異性化反応を誘起できないからである。一方、第1、第2の照射光の強度の上限については、それが液晶材料、光応答性材料等を著しく劣化、分解等させない限り、特に制限はない。しかし、実際上の準備等の観点から、0.2〜20mW/cm2(より好ましくは1〜10mW/cm2)が好ましい。
特に、第1の照射光として紫外光を用い、第2の照射光として可視光を用いる場合には、前述の光応答性材料(具体的には濃度)との関係を考慮しつつ、照射紫外光の強度を、日常環境における紫外光の強度(紫外光領域(波長=280〜400nm)における光強度の総和は約2mW/cm2)及び室内環境における紫外光の強度(紫外光領域(波長=275〜380nm)における強度の総和は7.3mW/cm2)よりもできるだけ大きくし、照射可視光の強度を、日常環境における可視光の強度(可視光領域の強度の総和は、数十mW/cm2)及び室内環境における可視光の強度(可視光領域の光強度の総和は、数mW/cm2)にできるだけ近づけるようにすることが好ましい。日常環境、室内環境中で使用する通常の使用態様の下で、その日常環境、室内環境における紫外光により自己修復性材料が不用意にゾル化することを防ぎつつ(ゲル状態に維持)、その日常環境、室内環境における可視光により自己修復性材料の安定化(ゲルの安定化)を維持するためである。これにより、自己修復性材料の安定した使用態様を確保できる。
このため、一例として、光応答性材料の濃度を1mol%程度に調整し、十分な光異性化効果を得るのに必要な紫外光および可視光の照射強度を、およそ2mW/cm2とすることが行われる。この場合には、光照射に基づく液晶の相転移温度(動作温度)は、室温よりもやや高めの温度となるが、光応答性材料の濃度を大きくすれば、光照射時に液晶の相転移温度が大きく下がる傾向があり、これを利用して、動作温度を、低い側に広げて室温以下の十分低い温度にもできる。
(1)塗料、コーティング剤等の被覆材料に自己修復性材料を用いる場合には、被覆材料中に当該自己修復性材料が含有され(色素、顔料等を除き、当該自己修復性材料自体を主成分として又は単独として被覆材料を構成する場合を含む)、その被覆材料中においては、液状を確保すべく(良好な塗布性を確保すべく)、液晶材料の相構造が、光応答性材料の光異性化の状態に基づき、等方相(光応答性材料はシス体)とされている。
この被覆材料を商品表面等に塗布することにより被膜が形成されると、その被膜に対して可視光等が照射される。これにより、前述の液晶材料が液晶相に転移し、これに伴い、微粒子がネットワーク構造を構築することになり、自己修復性材料はゲル化する。このゲル化した自己修復性材料が商品を保護する。
(1)ゲル化した自己修復性材料の表面が損傷したときには、先ず、その損傷した部分に対して第1の照射光としての紫外光を照射する。第1の照射光に基づき光応答性材料をシス体に光異性化することにより液晶材料を等方相に転移させ、これに基づき自己修復性材料をゾル化するためである。これにより、損傷した部分は、ゾル化した自己修復性材料の流動性に基づき修復される。
このとき、紫外光は、32℃下5mW/cm2の強度をもって、5秒程度、照射される。
このとき、可視光は、32℃下5mW/cm2の強度をもって、5秒程度、照射される。
(1)試験材料である液晶コロイド
(i)試験材料である液晶コロイド(液晶材料中に何等かの材料が含有されているもの)における液晶材料、光応答性材料、微粒子に、それぞれ4-ペンチル-4’-シアノビフェニル(化17)、4-ブチル-4’-メトキシアゾベンゼン(化18)、架橋型ポリスチレン微粒子(粒径:3μm)を用いた。
表1、図4には、液晶材料に対する微粒子濃度の影響力(ゲル化)についての評価結果
を示す。
したがって、表1、図4に示す評価結果から、微粒子の濃度は、液晶と光応答性材料の混合物に対して5wt%以上であることが好ましい。ただ、微粒子の添加剤としての役割等から、5〜30wt%(さらに好ましくは20〜30wt%)とするのがより好ましい。
図5は、液晶コロイドゲル(試験材料がゲル化したもの)に加えられている光応答性材料の光化学反応による液晶材料の相構造変調について検討した結果を示す。
初期状態を、液晶材料が液晶相を示す温度とし、その状態の下で、液晶コロイドゲル(図5中、上図)に第1の照射光としての紫外光(波長=365nm、強度=5mW/cm2)を照射すると、光応答性材料である4-ブチル-4’-メトキシアゾベンゼンがトランス体からシス体へと光異性化し、生成したシス体が液晶相を不安定化することによって照射領域内の相構造が等方相へと転移した(図5中、中央図)。照射光を第2の照射光である可視光(波長=435nm、強度=5mW/cm2)に変えると、シス体の4-ブチル-4’-メトキシアゾベンゼンがトランス体へと光異性化することによって等方相は液晶相へと転移し(図5中、下図)、光によって液晶材料の相構造を変調できることが確認できた。
図6は、液晶相構造の光変調に伴う液晶コロイドゲルのゾル-ゲル転移について検討した結果を示す。
初期状態においてゲル(高粘度)状態にある試験材料に紫外光照射(波長=365nm、強度=5mW/cm2)を5秒間行うと、液晶材料の相構造が液晶相から等方相へと変化することによって微粒子により構築されていた3次元ネットワーク構造が崩壊してゾル(低粘度)状態へと転移した。照射光を可視光(波長=435nm、強度=5mW/cm2)に変えて5秒間の照射を行うと、等方相から液晶相へと相転移が誘起され、微粒子による3次元ネットワーク構造が再構築されることによってゲル(高粘度)状態が復活した。
図7は、液晶コロイドゲルにおける損傷の自己修復挙動について検討した結果を示す。
初期状態(光修復前)において、光応答液晶コロイドゲルの表面に微小な損傷(長さ約1cm、幅約0.5mm、深さ約3mm)を与えておく(図7中、上図)。そして、損傷領域に5秒間の紫外光照射(波長=365nm、強度=5mW/cm2)を行うと、液晶コロイドゲルの光によるゲル(高粘度)-ゾル(低粘度)転移(ゾル化)が誘起され、損傷部位が修復された(図7中、中央図)。光修復直後において、光照射領域はゾル(低粘度)状態であるが、5秒間の可視光照射(波長=435nm、強度=5mW/cm2)を行うと、ゲル(高粘度)状態が復活し、自己修復プロセスが完了した(図7中、下図)。
損傷領域(図8中、上図参照)に紫外光を照射すると、照射領域において液晶相構造の光変調に伴い微粒子が構築するネットワーク構造が崩壊する。これに伴い、液晶コロイドゲルのゾル(低粘度)状態への転移(ゾル化)が誘起され、損傷部位にゾル(低粘度)状態の液晶コロイドゲルが流れ込むことによって損傷が修復される(図8中、上図および中央図)。このままでは光修復部位はゾル(低粘度)状態であるが、この後、そのゾル状態部分に可視光を照射すると、ゲル(高粘度)状態が復活し、損傷修復が完了する(図8中、下図)。
(i)微粒子(液晶材料と光応答性材料の混合物に対して28.3wt%):架橋型ポリスチレン微粒子(粒径:3マイクロメートル)
(ii)光応答性材料(液晶材料に対して1mol%):4-ブチル-4’-メトキシアゾベンゼン
(iii)液晶材料:4-ペンチル-4’-シアノビフェニル
上記組成で調製した自己修復性材料を、分散媒である液晶材料が等方相を示す温度(例えば100℃)に加熱して均一な微粒子分散系とした後、液晶材料が液晶相を示す温度(例えば25℃)まで毎分1〜10℃の間の速度で冷却し、これを動的粘弾性評価に供した。
動的粘弾性評価は歪み制御型レオメーター(ARES-G2、TAインスツルメント社)においてパラレルプレート(直径:25mm)を用い、プレートとステージのギャップは0.75mmに調節して行った。
図9〜図12は、上記自己修復性材料(液晶コロイドゲル)の動的粘弾性についての評価結果を示す。
図9は、貯蔵弾性率(G’、●)と損失弾性率(G”、▲)の周波数依存性を示している。この場合、歪み=0.1%、温度=25℃とされる。
これによれば、自己修復性材料は、測定を行った周波数範囲(0.01〜10Hz)においては、常に貯蔵弾性率が損失弾性率よりも大きな値を示し、自己修復性材料が固体的な性質を有していることを確認できる。
図10は、貯蔵弾性率(G’、●)と損失弾性率(G”、▲)の歪み依存性を示している。この場合、周波数=1Hz、温度=25℃とされる。
これによれば、歪みの値が8%以下では貯蔵弾性率が損失弾性率よりも大きな値を示し、自己修復性材料が固体的な性質を有しているが、8%以上では損失弾性率が貯蔵弾性率よりも大きくなり、自己修復性材料が液体的な性質を有するゾル状態となっていることがわかる。この結果から、自己修復性材料の降伏歪みは約8%であると言える。
図11は、貯蔵弾性率(G’、●)と損失弾性率(G”、▲)の温度依存性を示している。この場合、加熱速度=0.5℃/min、歪み=0.1%、周波数=1Hzとされる。
これによれば、加熱過程において自己修復性材料の温度が35℃以上になると貯蔵弾性率と損失弾性率が共に急激に減少している。この温度は、分散媒である液晶がネマチック相から等方相へと相転移する温度に一致しており、自己修復性材料中に形成された微粒子によるネットワーク構造は分散媒である液晶が等方相に転移すると崩壊し、自己修復性材料がゲル状態からゾル状態へと転移していることを示している。これより、自己修復性材料の固体的性質は分散媒である液晶がネマチック相を示すときにのみ発現することがわかる。
図12は、紫外光照射時の貯蔵弾性率(G’、●)と損失弾性率(G”、▲)の時間変化を示している。この場合、照射光=紫外光(波長=365nm、強度=2.2mW/cm2)、歪み=1%、周波数=1Hz、温度=32℃とされる。
これによれば、貯蔵弾性率と損失弾性率は共に紫外光を照射すると直ちに減少している。この変化は、光応答性材料である4-ブチル-4’-メトキシアゾベンゼンが紫外光(波長=365nm、強度=5mW/cm2)の照射によりトランス体からシス体へと光異性化し、生成したシス体が分散媒である液晶材料の液晶相を不安定化し相構造を等方相へと相転移させることにより、自己修復性材料中に形成された微粒子によるネットワーク構造が崩壊し、自己修復性材料がゲル状態からゾル状態へと転移していることを示している。
また、従来は数時間の光照射が必要であった自己修復プロセスが、約10秒の光照射で損傷修復が完了することになり、プロセスを数百〜数千分の1に短縮することができる。
1.本実施形態に係るゲル材料は、液晶材料及び微粒子の混合物からなり、ゲル状態の崩壊状態からゲル状態に高速に復元し得る機能を有する。この場合、このゲル材料を使用するに先立ち、液晶材料中に微粒子を分散させるべく、加熱下で、液晶材料及び微粒子を混合することが好ましい。
この液晶材料の骨格構造としては、前述の自己修復性材料において用いられるものと同様のものを用いることができ、そのうち、液晶相として、ネマチック相、スメクチックA相、コレステリック相、キュービック相、コレステリックブルー相を含むすべての液晶相のうちの少なくともいずれかを発現するものが好ましい。
(i)前述のように、液晶材料(分散媒)中に微粒子(分散質)を分散された材料(液晶コロイド材料)においては、微粒子濃度がある一定以上の濃度条件下では、微粒子が液晶中でネットワーク構造を構築し、高粘度のゲル状態(液晶コロイドゲル)を発現する。このゲル状態の発現に関しては、等方相S1において均一に分散していた微粒子P(図1参照)が、液晶材料が等方相S1から液晶相S2へと相転移するときに、液晶の配向弾性に基づき、液晶相S2領域から排出されて等方相S1領域に凝集し、ネットワーク構造Nを構築することに基づいていることは既に述べた(図2、図3参照)。このようなゲル状態の材料においては、外力を付与すると、その材料は、ゲル状態が崩壊してゾル状態に変化することになり、このとき、分散媒である液晶材料が液晶相から等方相へと相転移し、図1〜図3の順とは逆に、微粒子によって構築されたネットワーク構造は崩壊する。その一方で、上記ゾル状態の材料に対する外力を取り除けば、前述のネットワーク構造を再構築することになり、ゾル状態であった材料はゲル状態に復元する。
この場合、液晶材料がゲル状態にあるときに、微粒子が液晶相ドメイン間に存在する等方相領域に凝縮され、微粒子が液晶相ドメイン間に強く捕捉されていることから、従来のゲル材料(液晶材料における液晶相に強引に微粒子を分散して、液晶相中に元々存在する配向欠陥に微粒子を捕捉させることにより、微粒子の連結構造体を形成する材料(非特許文献3参照))に比して、そのネットワーク構造は連結構造として強い構築力を有することになり、力学的にゲル状態が崩壊しても、ひずみが無くなれば、直ちにネットワーク構造を再構築することになる。このため、従来のゲル材料の場合に比して、ゲル状態の崩壊状態からゲル状態に高速に復元し得る。
(iii)微粒子の直径については、液晶材料中に分散できる大きさであれば、この場合も、特に制限は無い。ネットワーク構造の構築に微粒子の直径は影響を与えないからである。しかし、微粒子の直径は0.1〜10μm(より好ましくは0.2〜5μm(さらにより好ましくは3μm))とすることが好ましい。0.1μm以上であれば、密度の面(緻密性等)から好ましいネットワーク構造を構築できる一方、10μmを超えると、粗なネットワーク構造となる傾向があるからである。
(v)微粒子についてのその他の点については、ゲル状態の崩壊状態からゲル状態に高速に復元し得ることに反しない限り、前述の自己修復性材料において用いられた微粒子の特性を用いることができる。
(1)ゲル材料を塗料として用いる場合には、前述のゲル材料の特性(外力付与の有無に基づきゾル-ゲル状態を可逆的に再現すること、ゲル状態の崩壊状態からゲル状態に高速に復元すること、降伏ひずみの低下を抑制しつつ貯蔵弾性率を高めること等)を有効に利用して塗料として最適なものを提供できる。
特に、当該ゲル材料を塗料として用いれば、顔料を溶解させる溶媒を不要とすることができ、省資源且つ環境に優しい塗料を提供できる。すなわち、通常の塗料が,顔料を適当な溶媒に溶解させて塗布した後に,溶媒を蒸発させて顔料の薄膜を作製するのに対して、微粒子/液晶複合系において、顔料を液晶に溶解した場合は液晶が溶媒となるが,液晶性を示す顔料であれば溶媒を全く不要とすることができ、「ゾル状態で塗布して,ゲル状態で固める」ことにより薄膜を作製できる。
(1)試験ゲル材料及び試験内容
(i)ネマチック相およびスメクチックA相を発現する液晶材料に、8CB(4-オクチル-4’-シアノビフェニル、メルク社製)(化19)を用い、これに高濃度(28.3wt%)の微粒子(架橋型ポリスチレン微粒子(粒径:3マイクロメートル)を混合し、液晶材料が等方相を示す温度(例えば100℃)に加熱して均一な微粒子分散系とした後、液晶材料が液晶相を示す温度(スメクチックA相の場合は25℃、ネマチック相の場合は37℃)まで毎分5℃の間の速度で冷却し、これを動的粘弾性評価および偏光顕微鏡観察に供した。
動的粘弾性評価は歪み制御型レオメーター(ARES-G2、TAインスツルメント社)においてパラレルプレート(直径:25mm)を用い、プレートとステージのギャップは0.75mmに調節して行った。偏光顕微鏡観察はオリンパス社製BX51を用いて行った。
図13〜図15は、微粒子/液晶複合ゲル材料の力学応答ゾル-ゲルに関する評価結果を示し、そのうち、図13はネマチック相における場合を示し、図14はスメクチックA相における場合を示し、図15はコレステリック相における場合を示している。図16は、その図13〜図15との比較を行う比較図である(非特許文献3参照)。これら図13〜図16において、G’は貯蔵弾性率、G”は損失弾性率を示す。
次に、図13において、歪みを100%にすると、貯蔵弾性率と損失弾性率が共に約10秒程度の応答時間で大きく減少し、微粒子/液晶複合材料は液体的性質(G”>G’)を示し、ゾル状態へと転移した。歪みを0.1%に戻すと、微粒子/液晶複合材料は約10秒程度で再びゲル状態(G’>G”)を示した。
これに対して、図16は、比較図として、液晶材料における液晶相(ネマチック相)に強引に微粒子を分散して、液晶相中に元々存在する配向欠陥に微粒子を捕捉させることにより、微粒子の連結構造体を形成したゲル材料の特性を示しており、その図16の内容から、ゾル状態からゲル状態に復元するのに要する時間は、数100秒である。これは、微粒子が連結構造体を構築する力が弱いためであると考えられる。
以上のことから、同じネマチック相においても、本ゲル材料については、約10秒の高速な力学応答ゾル-ゲル転移を確認することができた。
図17〜図19は、微粒子/液晶複合ゲル材料の動的粘弾性についての評価結果を示す。
図17は貯蔵弾性率(G’:●、○)および損失弾性率(G”:■、□)の温度依存性を示しており、これによれば、冷却過程において温度が約41℃になると貯蔵弾性率と損失弾性率が共に急激に増加している。この温度は、液晶材料が等方相からネマチック相へと相転移する温度に一致しており、ネマチック相中に微粒子によるネットワーク構造が形成され、ゾル状態からゲル状態へと転移していることを示している。さらに冷却すると、約35℃において貯蔵弾性率と損失弾性率が不連続に増加している。この温度は、液晶材料がネマチック相からスメクチックA相へと相転移する温度に一致しており、液晶分子が層構造を形成することによって、貯蔵弾性率と損失弾性率が不連続に増加することがわかる。ネマチック相とスメクチックA相における貯蔵弾性率を比較するために、ネマチック相における貯蔵弾性率の温度依存性の挙動から25℃における貯蔵弾性率を概算して、スメクチックA相における貯蔵弾性率と比較すると、貯蔵弾性率はスメクチックA相の方がネマチック相よりも約10倍大きな値を示すことがわかる(図17参照)。
尚、図17における実験は、歪み=0.1%、周波数=1Hz、冷却速度=5℃/minの下で行われた。
尚、図20〜図22において、PとAは、それぞれ試験ゲル材料への入射光および透過光に対する偏光板の向きを示す。
しかも、液晶材料のうちでも、液晶相が分子配列の層構造を有するもの、具体的には、スメクチックA相である場合には、降伏ひずみの低下を抑制しつつ、貯蔵弾性率を高めることができ、高い靱性を維持しつつ、硬さを高めることができる。
P 微粒子
S1 等方相
S2 液晶相
Claims (17)
- 液晶材料と、
前記液晶材料中に含まれ、該液晶材料が等方相に転移したときゾル状態を発現させ、該液晶材料が液晶相に転移したときゲル状態を発現させる微粒子と、
前記液晶材料中に含まれ、光照射に基づく光異性化をもって、該液晶材料の相構造を液晶相と等方相との間で切替える光応答性材料と、
が含有されている、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項1において、
前記微粒子の濃度が、前記液晶材料及び前記光応答性材料の混合物に対して5wt%以上に設定されている、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項2において、
前記光応答性材料が、液晶材料に対して0.1mol%以上とされている、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項1において、
前記光応答性材料が、2種類の異なる第1、第2の照射光に基づく光異性化により第1、第2の形態をそれぞれとるように設定され、
前記第1の形態が、前記液晶材料を等方相に導く形態とされ、
前記第2の形態が、前記液晶材料を液晶相に導く形態とされている、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項4において、
前記液晶材料を等方相に導く形態が、シス体であり、
前記液晶材料を液晶相へ導く形態が、トランス体である、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項4において、
前記第1の照射光が、紫外光であり、
前記第2の照射光が、可視光である、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項1〜6のいずれか1項において、
液状の被覆材料の含有成分として用いられ、
前記液晶材料が、前記被覆材料中において、前記光応答性材料の光異性化の状態に基づき、等方相に導かれている、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 請求項1〜6のいずれか1項において、
被膜の形態として用いられ、
前記液晶材料が、前記被膜としての通常使用時において、前記光応答性材料の光異性化の状態に基づき、液晶相に導かれている、
ことを特徴とする自己修復性材料。 - 自己修復性材料を用いて部材表面を構成している自己修復性材料の使用方法において、
前記自己修復性材料として、液晶材料と、該液晶材料中に含まれ、該液晶材料が等方相に転移したときゾル状態を発現させ、該液晶材料が液晶相に転移したときゲル状態を発現させる微粒子と、前記液晶材料中に含まれ、光照射に基づく光異性化をもって、該液晶材料の相構造を液晶相と等方相との間で切替える光応答性材料と、が含有されているものを用意し、
前記自己修復性材料をゲル化することにより前記部材表面を構成する一方、
前記部材表面が損傷したときに、先ず、その損傷した部分に対する光照射に基づく前記光応答性材料の光異性化により、前記液晶材料を等方相に転移させて、該損傷した部分をゾル化し、
その後、前記ゾル化した部分に対する光照射に基づく前記光応答性材料の光異性化により、前記液晶材料の等方相を液晶相に移行させて、前記ゾル化した部分をゲル化する、
ことを特徴とする自己修復性材料の使用方法。 - 請求項9において、
前記損傷した部分に対する光照射に基づく前記光応答性材料の光異性化が、該光応答性材料をシス体にすることであり、
前記ゾル化した部分に対する光照射に基づく前記光応答性材料の光異性化が、該光応答性材料をトランス体にすることである、
ことを特徴とする自己修復性材料の使用方法。 - 請求項9において、
前記損傷した部分に対する光照射に、紫外光を用い、
前記ゾル化した部分に対する光照射に、可視光を用いる、
ことを特徴とする自己修復性材料の使用方法。 - 液晶材料中に、該液晶材料を等方相から液晶相に移行させるに伴いゲル状態とするための微粒子が含有され、
前記微粒子が、前記液晶材料がゲル状態にあるときに、液晶相ドメイン間に存在する等方相領域に凝縮されている、
ことを特徴とするゲル材料。 - 請求項12において、
前記微粒子の濃度が、前記液晶材料に対して5wt%以上に設定されている、
ことを特徴とするゲル材料。 - 請求項13において、
前記液晶材料の液晶相が、分子配列の層構造を有している、
ことを特徴とするゲル材料。 - 請求項14において、
前記液晶材料の液晶相が、スメクチックA相である、
ことを特徴とするゲル材料。 - 請求項12〜15のいずれか1項において、
塗料に用いられる、
ことを特徴とするゲル材料。 - 請求項12〜15のいずれか1項において、
損傷した部分に外力を加えてゾル化させた後、その外力を取り除くことによりゲル化する自己修復性材料として用いられる、
ことを特徴とするゲル材料。
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