JP2013128440A - ムスク様香気を有する大環状ラクトンの製造方法 - Google Patents

ムスク様香気を有する大環状ラクトンの製造方法 Download PDF

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陽紀 池上
Shin Yoneshige
新 米重
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Abstract

【課題】消費者の天然志向に応えかつ環境負荷の低いムスク様香気を有する大環状ラクトンの製造法を提供すること。
【解決手段】微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させてω−ヒドロキシ酸を得る工程、及び得られたω−ヒドロキシ酸を分子内環化する工程を含む大環状ラクトンの製造方法を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、天然の植物又は微生物由来の原料から生化学的手法を用いてムスク化合物を製造する方法に関する。詳細には、脂肪酸を、例えばメヤロジマ属に属する真菌で処理し、得られたω−ヒドロキシ酸を、例えばリパーゼで分子内環化することにより、ムスク香気を有する大環状ラクトンを製造する方法に関する。特に、天然の植物由来の脂肪酸を用いることにより、天然由来原料のみから生化学的手法を用いてムスク香気を有する大環状ラクトンを得ることができる。
近年、フレーバー・フレグランス業界では、天然志向が進んでおり、以前に増して天然の素材が望まれている。例えば、欧州ではCOSMOSをはじめとする認証団体が組織され、天然素材の認証が進んでおり、多くの化合物が天然として認証されている。しかしながら、フレーバー・フレグランスを調香するには、多くの特徴を持った化合物が必要であるが、必ずしも全ての香調において天然素材は入手可能ではない。特に、ムスク系化合物は、フレグランスにおいて重要香気として広く使用されるだけでなく、フレーバーにおいてもパッションフルーツの香調に貢献するなど、重要な香調となるが、これまでムスク香を持った天然素材はほとんど存在しなかった。例えば、エチレンブラシレートは、合成ムスクとして広く使用されているが、この原料であるブラシル酸は、主に石油原料を用いており(特許文献1及び非特許文献1等)、ISO9235の定義からは天然素材とはならない(ISO 9235 1997参照)。さらに、エチレンブラシレート等の大環状ジエステル類は天然ではその存在が見出されておらず、昨今の天然志向では天然に存在する香気化合物が特に望まれている。例えば、ペンタデカノリドやアンブレットリドなどの大環状ラクトンは植物中に存在する天然ムスク系化合物であり、これら大環状ラクトンは消費者の天然志向に応えるのみならず、蓄積性及び生分解性の観点からも消費者のニーズは高まってきている。しかし、これらの天然素材は植物中に微量に存在するのみであるため非常に高価であるため、実際上市されているものは化学合成されたものがほとんどであるが、これらはCOSMOSやISO 9235の定義からは天然素材のカテゴリーには入らない。
かかる状況から純粋な生化学的手法のみを用いて天然に存在する大環状ラクトン系のムスク化合物を製造する方法の提供が望まれている。天然の定義は、認証団体によって異なるが、多くの場合は、微生物又は植物のみで実施できる事が望まれている。
なお、生体触媒を用いて高級脂肪酸のω位(ω位、ω-1位、ω-2位、ω-3位)をヒドロキシル化することにより(ω、ω-1、ω-2、ω-3)ヒドロキシ脂肪酸を得る方法(特許文献1)、及び生体触媒を用いてヒドロキシ脂肪酸を環化する方法(特許文献2及び特許文献3等)は知られていたが、天然原料より生化学的手法のみを利用してムスク香化合物を得る手法に関しては報告はない。
特開2010−163366号公報 特公平7−10234号公報 特開平1−104187号公報
バイオサイエンスとインダストリー、Vol.51, 1993, pp.967-971 J. Am. Chem. Soc., Vol.110, 1988, pp.1999-2001
本発明の目的は、消費者の天然志向に応えかつ環境負荷の低いムスク様香気を有する大環状ラクトンの製造法を提供することである。
本発明者らは上記目的を達成すべく種々鋭意検討した結果、メヤロジマ属(Meyerozyma)に属する微生物の菌体又はその処理物を用いることによって、天然由来脂肪酸から生化学的手法のみを利用してムスク香化合物を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させてω‐ヒドロキシ脂肪酸を得る工程、及び得られたω‐ヒドロキシ脂肪酸を分子内環化する工程を含む、大環状ラクトンの製造方法を提供する。
本発明は、又、生化学的手法のみを用いて製造されたオキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン又はオキサシクロノナデカ‐7,10,13‐トリエン‐2‐オンである大環状ラクトンを提供する。
本発明は、又、前記大環状ラクトンを含有することを特徴とする香料組成物を提供する。
本発明は、又、前記大環状ラクトンを含有する香粧品、口腔用組成物、飲食品を提供する。
本発明は、又、脂肪酸又はそのエステルをω‐ヒドロキシ酸に変換する能力を有するメヤロジマ属に属する微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させる工程を含む、ω‐ヒドロキシ脂肪酸の製造方法を提供する。
本発明により、微生物変換や酵素反応等の生化学的手法を用いて、天然由来原料からムスク様香気を有する大環状ラクトンを合成することができる。本発明により提供される大環状ラクトンは優れたムスク様香気を有するもので、香料としての性質に優れ、これらを有効成分とする香料組成物は、各種化粧品類、保健衛生材料、医薬、飲食品等の広い分野に用いることができ、各種商品の価値を高める効果を有する。
実施例4の生成物についてのガスクロマトグラフィを示す。 実施例4の生成物についてのMSスペクトルを示す。
本発明の大環状ラクトンの製造方法は、微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させてω−ヒドロキシ酸を得る工程、及び得られたω−ヒドロキシ酸を分子内環化する工程を含む。
脂肪酸としては、好ましくは炭素数10〜22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸などが挙げられる。好ましい脂肪酸の例としては、カプリン酸(炭素数10:ヤシ油由来)、ラウリン酸(炭素数12:ヤシ油由来)、ミリスチン酸(炭素数14:ヤシ油由来)、パルミチン酸(炭素数16:ヤシ油・乳脂肪由来)、ステアリン酸(炭素数18;カカオ脂・乳脂肪由来)、アラキジン酸(炭素数20:落花生油由来)、ベヘン酸(炭素数22:落花生油由来)などの飽和脂肪酸;ミリストレイン酸(炭素数14:バター・鯨油由来)、パルミトレイン酸(炭素数16:タラ肝油・イワシ油由来)、オレイン酸(炭素数18:オリーブ油由来)、バクセン酸(炭素数18:牛脂・羊脂・バター由来)、リノール酸(炭素数18:トウモロコシ油・ダイズ油由来)、α−リノレイン酸(炭素数18:アマニ油由来)、γ−リノレイン酸(炭素数18:ルリジサ油・ツキミソウ油由来)、ピノレン酸(炭素数18:松の実油由来)、α−エレオステアリン酸(炭素数18:桐等の乾性油由来)、ステアリドン酸(炭素数18:イワシ油・ニシン油由来)、ガドレイン酸(炭素数20:タラ肝油由来)、エイコセン酸(炭素数20:ホホバ種子油由来)、エイコサジエン酸(炭素数20:動物油脂由来)、エイコサトリエン酸(炭素数20:松の実油由来)、アラキドン酸(炭素数20:動物内臓脂肪由来)、エイコテトラエン酸(炭素数20:動物脂肪由来)、エイコサペンタエン酸(炭素数20:タラ肝油由来)、エルカ酸(炭素数22:ナタネ油・カラシ油由来)、ドコサジエン酸(炭素数22:動植物油脂由来)、アドレン酸(炭素数22:動植物油脂由来)、オズボンド酸(炭素数22:動植物油脂由来)、イワシ酸(炭素数22:イワシ油・ニシン油由来)、ドコサヘキサエン酸(炭素数22:魚油由来)などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。
脂肪酸は、より好ましくは式CH3‐R‐COOH(式中、Rは二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表される脂肪酸である。さらに好ましくは、脂肪酸は、式CH3‐R‐COOH(式中、Rは二重結合を含む炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表される脂肪酸である。また、脂肪酸は、好ましくは植物又は微生物由来であり、上記式中、Rは二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20でかつ偶数の鎖状炭化水素基を示す。また、脂肪酸は、より好ましくは植物又は微生物由来であり、上記式中、Rは二重結合を含む炭素数8〜20でかつ偶数の鎖状炭化水素基を示す。
より好ましい脂肪酸としては、ミリストレイン酸(炭素数14:バター・鯨油由来)、パルミトレイン酸(炭素数16:タラ肝油・イワシ油由来)、オレイン酸(炭素数18:オリーブ油由来)、バクセン酸(炭素数18:牛脂・羊脂・バター由来)、リノール酸(炭素数18:トウモロコシ油・ダイズ油由来)、α−リノレイン酸(炭素数18:アマニ油由来)、γ−リノレイン酸(炭素数18:ルリジサ油・ツキミソウ油由来)、ピノレン酸(炭素数18:松の実油由来)、α−エレオステアリン酸(炭素数18:桐等の乾性油由来)、ステアリドン酸(炭素数18:イワシ油・ニシン油由来)、ガドレイン酸(炭素数20:タラ肝油由来)、エイコセン酸(炭素数20:ホホバ種子油由来)、エイコサジエン酸(炭素数20:動物油脂由来)、エイコサトリエン酸(炭素数20:松の実油由来)、アラキドン酸(炭素数20:動物内臓脂肪由来)、エイコテトラエン酸(炭素数20:動物脂肪由来)、エイコサペンタエン酸(炭素数20:タラ肝油由来)などが挙げられる。さらにより好ましい脂肪酸はパルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレイン酸、γ-リノレイン酸である。
微生物としては、脂肪酸又はそのエステルをω−ヒドロキシ酸に変換する能力を有する微生物であればいずれも使用可能である。例えば、いくつかの微生物の菌株は、アルカン又は脂肪酸を炭素源として培養した際の副生成物としてω-ヒドロキシ酸を経由してα,ω-ジカルボン酸を排出することが知られている。これらの微生物は自然界にも広く分布しており、自然界からも分離取得可能であるが、例えば油田地帯の汚染土壌等より分離されるようなアルカン資化能を有する酵母等を利用することができる。ただし、ω-ヒドロキシ酸はα,ω-ジカルボン酸の生成過程で生じる中間代謝物であり、通常は生成したω-ヒドロキシ酸は酸化されα,ω-ジカルボン酸へと変換される。そのため、使用する微生物種としては上記したような微生物種にX線照射、紫外線照射や変異剤による変異原処理等を行うことによって得られる変異株がより好ましい。例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンのような変異剤で処置して変異させた、いわゆる変異株も有利に利用することができる。なお、微生物としては、菌体そのものを使用してもよく、また菌体の処理物として使用してもよい。ここで、菌体の処理物とは、菌体の培養物、凍結乾燥物、摩砕物、粗酵素又は精製酵素などの抽出物、固定化菌体などの菌体に種々の処理を施したものを意味する。
酵母の菌株としてはメヤロジマ属の酵母が挙げられ、好ましくはメヤロジマ属FERM BP−11328菌株である。該菌株はアルカン資化能を有するメヤロジマ属酵母の変異株であり、産業技術総合研究所に寄託されている。
微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させてω−ヒドロキシ酸を得る工程は、基本的には、微生物の菌体又はその処理物を水性溶媒中で脂肪酸又はそのエステルに作用させてω−ヒドロキシ酸へ変換する方法であれば、特に限定されない。水性溶媒としては、水、緩衝液、培養液等が挙げられるがこれに限定されるものではない。本発明のω−ヒドロキシ酸への変換を行う具体的な方法としては、微生物の菌体の培養物に脂肪酸又はそのエステルを添加する方法、脂肪酸又はそのエステルを含有する培地で微生物を培養する方法、微生物の固定化菌体に脂肪酸又はそのエステルを接触させる方法、微生物の菌体の摩砕物に脂肪酸又はそのエステルを接触させる方法などが挙げられる。例えば、微生物の菌体の培養物に脂肪酸又はそのエステルを添加する方法は以下のようにして実施することができる。
培養培地としては、メヤロジマ属の微生物を培養可能なものであるならば何ら限定されるものではないが、炭素源のほかに、使用菌株が資化可能な窒素源、さらには無機塩類、その他の栄養素を培地へ添加することが好ましい。炭素源としては、資化性糖類又は炭素化物、例えばグルコース、シュクロース、ソルビトール、酢酸、直鎖炭化水素などが挙げられる。また、窒素源としては、例えば硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウムのような無機態窒素源、酵素抽出物、ペプトン、コーンスチープリカー、アミノ酸のような有機態窒素化合物などが挙げられる。また、無機塩類としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、硫酸マンガンなどが挙げられる。また、その他の栄養源として、ビオチンなどが挙げられる。培養方法としては、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養等が挙げられる。培養温度は、通常は15〜45℃であり、好ましくは25℃〜35℃であり、特に好ましくは27℃である。培養培地のpHは、好ましくは4〜9であり、特に好ましくは6〜7.5である。培養日数は変換に必要な細胞数に至るまでの期間が必要とされ、通常は1〜3日前後であるが、特にこれに限定されるものではない。また、使用菌株又はその培養物若しくは生育菌株と培地成分とが十分に接触するように、例えば撹拌又は振盪などの手法を適用して好気的に行うが好ましい。例えば、振盪培養においては、具体的には100〜200rpmで実施するのが適当である。
本発明のω−ヒドロキシ酸への変換は、上記のような増殖させたメヤロジマ属の微生物の培養物に変換の基質となる脂肪酸又はそのエステルを添加し、さらなる培養を行うことによって達成することができる。添加する脂肪酸又はそのエステルは、添加濃度0.05〜5w/v%が好ましく、例えば、メヤロジマ属菌を含む培養物100mlに対して、基質である脂肪酸又はそのエステルを1.0g以上添加することができる。さらに界面活性剤の使用によりその添加量を増やすことも可能である。脂肪酸又はそのエステルは固形又は適当な溶剤に溶かした形状で添加することができる。上記変換反応は、バッチ式でも、セミバッチ式でも、あるいは連続式でもよい。ω−ヒドロキシ酸への変換の際の温度は、通常は15〜45℃であり、好ましくは25〜35℃である。ω−ヒドロキシ酸への変換の際の培地のpHは、好ましくは4〜9であり、より好ましくは6.5〜7.5である。ω−ヒドロキシ酸への変換は基質である脂肪酸の添加とともに開始される。その反応時間は、約24時間以上が好ましく、約168時間以内で培養ならびに反応は完了する。このようにして培養もしくは変換反応を行うことにより、ω−ヒドロキシ酸の実質量が培地中に生成蓄積される。これらω−ヒドロキシ酸を、一般の有機化合物の分離・精製において公知の方法、例えば濾過、抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の手段、或いはこれらの組み合わせによって、分離・精製することができる。
なお、式CH3‐R‐COOH(式中、Rは二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表される脂肪酸に、微生物の菌体又はその処理物を作用させた場合、式HOC‐R‐COOH(式中、Rは二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表されるω−ヒドロキシ酸が得られる。同様に、式CH3‐R‐COOH(式中Rは炭素数が偶数であり、二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表される脂肪酸に、微生物の菌体又はその処理物を作用させた場合、式HOC‐R‐COOH(式中Rは炭素数が偶数であり、二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表されるω−ヒドロキシ酸が得られる。
このようにして得られたω−ヒドロキシ酸を分子内環化することにより、大環状ラクトンが得られる。
ω−ヒドロキシ酸を分子内環化する工程としては、酵素を用いてω−ヒドロキシ酸と反応させることなどが挙げられる。酵素としては、分子内環化反応が進行するものであれば特に制限されるものではない。使用することができる酵素の代表的な例としては、リパーゼ、プロテアーゼ及びエステラーゼなどが挙げられる。酵素は反応混合物に溶解させず、固体物質に付着(担持ないし固定化する)させてもよい。酵素の担体としては、珪藻土、多糖類(例えば、キトサン、アルギン酸塩又はカラゲナン)、チタニア、シリカ、アルミナ、ポリアクリレート、ポリメタクリレート及びイオン交換樹脂などが挙げられる。ここで、酵素は、担体に、吸着させてもよく、共有結合で結合させてもよく、又はイオン的に結合させてもよく、あるいは架橋化酵素結晶(CLECS)の形態としてもよい。酵素は、また、予め担体に固定化せずに使用してもよく、攪拌した反応混合物に懸濁させてもよい。固定化酵素の比活性は、約0.1IU/g固定化酵素〜約2000IU/g固定化酵素であることが好ましく、約10IU/g固定化酵素〜約500IU/g固定化酵素であることがより好ましい。
好ましい酵素としては、アスペルギルス属(Aspergillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、桿菌属(Bacillus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、キャンディダ属(Candida)、フザリウム属(Fusarium)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ヒューミコラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、ピチア属(Pichia)、ペニシリウム属(Penicillium)、リゾムコール属(Rhizomucor)、クモノスカビ属(Rhizopus)又はサームス属(Thermus)の有機体由来の細菌性及び真菌性酵素触媒である。これらの細菌性及び真菌性酵素触媒の中でも、アルトロバクター属(Arthrobacter sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、こうじ菌(Aspergillus oryzae)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、リケニホルミス菌(Bacillus licheniformis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブルコルデリア・プランタリー(Burkholderia plantarii)、キャンディダ・アンタルチカ(Candida antartica)、キャンディダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)、キャンディダ・リポリティカ(Candidia lipolytica)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・ルゴサ(Candida rugosa)、クロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、ゲオトリクム・カンディドゥム(Geotrichum candidum)、ヒューミコラ・ラヌギノザ(Humicola lanuginosa)、ムコール属(Mucor sp.)、ムコール・ジャポニクス(Mucor japonicus)、ムコール・ジャワニクム(Mucor javanicum)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ピチア・ミソ(Pichia miso)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾープス属(Rhizopus sp.)、リゾープス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾープス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾープス・アルヒズス(Rhizopus arrhizus)、リゾープス・デレマール(Rhizopus delemar)、リゾープス・ニべウス(Rhizopus niveus)、ペニシリウム・アシラーゼ(Penicillium acylase)、ペニシリウム・ロクエフォルティ(Penicillium roqueforti)、サームス・アクアティクス(Thermus aquaticus)、サームス・フラヴス(Thermus flavus)、サームス・テルモフィルス(Thermus thermophilus)、クロモバクテリウム・ヴィスコスム(Chromobacterium viscosum)、バークホルデリア・セバシア(Burkholderia cepacia)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・バークホルデリア(Pseudomonas burkholderia)、シュードモナス・セバシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)またはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来のものが好ましい。より好ましくは、キャンディダ属に属する菌由来又は緑膿菌由来のものである。特に、リパーゼとしては、キャンディダ・アンタルチカ リパーゼB(Candida antartica lipase B)「CALB」などや、バークホルデリア・セバシア(Burkholderia cepacia)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)又はキャンディダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のものなどが挙げられる。適切な商業的に入手可能なキャンディダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来の触媒の例としては、ノボザイム(Novozym)(登録商標)435(製品番号#L4777、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、ミズーリ州(MO))及びキラザイム(CHIRAZYME)L−2、c−fC2、lyo(ID番号#2207257、バイオキャタリティックス(BioCatalytics)、パサディナ(Pasadena)、カリフォルニア州(CA))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましいバークホルデリア・セバシア(Burkholderia cepacia)由来のリパーゼは、PS−C「アマノ(Amano)」I及びPS−D「アマノ(Amano)」Iであり、米国、イリノイ州、ロンバードのアマノ・エンザイム(Amano Enzyme,USA(Lombard,IL))から入手可能である。好ましいシュードモナス属(Pseudomonas sp.)由来のリパーゼは、ICR−107、ICR−108およびICR−113であり、バイオキャタリティック(BioCatalytics)から入手可能である。
用語「由来の」とは、酵素がその特定の生物から単離できるか、又は他の方法で取得できることを意味する。酵素は、全細胞又は透過化した細胞の一部として使用してよく、また、部分的に精製してもよく、全体を精製してもよい。
酵素を用いてω−ヒドロキシ酸を分子内環化する分子内環化反応は、基本的にはω−ヒドロキシ酸を適当な溶媒下で酵素を作用させ、大環状ラクトンへ変換する方法であれば、特に限定されない。上記溶媒としては、酵素反応に対し溶媒として安定な挙動を示すものであれば、酵素反応の溶媒として用いられる各種の溶媒を使用することができる。そのような溶媒として、イソオクタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の石油由来の炭化水素類;リモネン、ピネン等の天然由来の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水等が挙げられるが、これらに限定されない。
ω−ヒドロキシ酸を分子内環化し、大環状ラクトンへの変換を行う具体的な方法としては、例えばリパーゼを上記溶媒に添加した溶液にω−ヒドロキシ酸を添加する方法などがある。
本発明における分子内環化反応は、酵素が所望の反応に対して触媒活性を示す温度で実施される。温度の上限は、通常、酵素が活性な触媒でなくなる温度である。これは、反応媒体中で酵素が変性する温度であることが多い。この上限温度は使用する酵素及び使用するプロセス内容物、特に予め選択した溶媒によって変化するが、通常、この温度は約0℃〜約130℃の範囲(後者は、耐熱微生物から単離された酵素のような高温用の特別な酵素を使用する場合である)である。温度が高くなるほど反応が速くなることが多く、また各種プロセス内容物の溶解度が増すことが通常であるから、一般により高い温度(但し、酵素が活性を停止する温度未満)であることが好ましい。本発明の一実施形態では、好ましい温度範囲は約40〜約100℃の範囲であり、より好ましい温度範囲は約60〜約80℃の範囲である。
本発明における分子内環化反応は、上記のような酵素に変換の基質となるω−ヒドロキシ酸を添加し、例えば振盪攪拌を行うことによって達成することができる。添加する基質であるω−ヒドロキシ酸は、添加濃度0.01mM〜100mMが好ましく、例えば酵素を含む溶液100mlに対して、基質であるω−ヒドロキシ酸を0.001mmol以上添加することができる。基質は固形又は適当な溶剤に溶かした形状で添加することができる。その添加全量は、一段階又は二段階以上の多段階、もしくは連続的に加えてもよい。本発明における分子内環化反応は、バッチ式でも、セミバッチ式でも、あるいは連続式でもよい。
得られた大環状ラクトンは、一般の有機化合物の分離・精製において公知の方法、例えば濾過、抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の手段、或いはこれらの組み合わせによって、分離・精製することができる。
なお、式HOC‐R‐COOH(式中、Rは二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表されるω−ヒドロキシ酸を分子内環化した場合、下記式で表される大環状ラクトンが得られる。
Figure 2013128440
同様に、式HOC‐R‐COOH(式中、Rは炭素数が偶数であり、二重結合が存在していてもよい炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表されるω−ヒドロキシ酸を分子内環化した場合、下記式で表される大環状ラクトンが得られる。
Figure 2013128440
本発明の方法により得られた大環状ラクトンはムスク様香気を有する。中でも、下記式で表されるオキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン又はオキサシクロノナデカ‐7,10,13‐トリエン‐2‐オンは、高級感のあるパウダリー感を有した優れたムスク香気及び匂い強度を有している。
・オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン
Figure 2013128440
・オキサシクロノナデカ‐7,10,13‐トリエン‐2‐オン
Figure 2013128440
これら大環状ラクトンは、嗜好性が高く、香気付与効果に優れており、非常に有用な香料素材である。これらの化合物は、その1種又は2種以上を対象物に配合することにより、拡散性及び保留性が強く、配合対象物に新鮮で嗜好性の高い香気の付与あるいは配合対象物の香気の改良を行なうことができる。また、優れた香気付与組成物あるいは香気改良補強組成物等の香料組成物を提供することができる。
なお、本発明の香料組成物中の大環状ラクトンの配合量は、特に限定されないが、一緒に調合する香料やその他の成分の種類、その使用態様や使用目的など種々の条件により異なるものであるが、目的とする効果が達成できる範囲内であればどのような量でもよく、例えば香粧品用の香料組成物では、一般に香料組成物の全質量中の含有量が0.001〜50質量%、特に0.01〜20質量%であることが好ましい。また、飲食品用の香料組成物では、一般に香料組成物の全質量中の含有量が0.0001〜50質量%であることが好ましく、0.001〜30質量%であることがより好ましい。
また、本発明の香料組成物には、通常使用される調合香料を配合することができる。ここで、通常使用される香料成分は、広い範囲の香料が使用され、例えばArctander S.,”Perfume and Flavor Chemicals”,published by the author,Montclair, N.J.(U.S.A.),1969年や、周知慣用技術集(香料)第I部,平成11年1月29日,特許庁発行に記載されているような広範な種類の香料成分のなかから目的の香料組成物を構成するのに適した香料成分を適宜選択すればよい。これら香料成分の代表的なものとしては、例えばα−ピネン、リモネン、cis−3−ヘキセノール、フェニルエチルアルコール、スチラリルアセテート、オイゲノール、ジヒドロジャスモン酸メチル、ローズオキサイド、リナロール、ベンズアルデヒド、ムスコン、ムスクT(登録商標;高砂香料工業株式会社)、テサロン(登録商標;高砂香料工業株式会社)、オレンジオイル、カプシカムオレオレジン、バニラエキストラクト、酢酸イソアミル、酪酸エチル、2−メチル酪酸エチル、カプロン酸エチル、カプロン酸アリル、γ−デカラクトン、バニリンなどが挙げられる。
本発明の香料組成物は、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている他の香料保留剤の1種又は2種以上を含有していてもよい。その場合の他の香料保留剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライド、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、3−l−メントキシ−2−メチルプロパン−1,2−ジオール、p−メンタン−3,8−ジオールなどが挙げられる。これらの香料保留剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の香料組成物により香気を付与することのできる製品としては、例えば飲食品、香粧品、日用・雑貨品、口腔用組成物及び医薬品を挙げることができる。
飲食品の具体例としては、これにより何ら限定されるものではないが、例えば果汁飲料類、果実酒類、乳飲料類、炭酸飲料、清涼飲料、ドリンク剤類の如き飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類の如き冷菓類;ゼリー、プリンなどのデザート類;ケーキ、クッキー、チョコレート、チューインガムなどの洋菓子類;饅頭、羊羹、ウイロウなどの和菓子類;ジャム類;キャンディー類;パン類;緑茶、ウーロン茶、紅茶、柿の葉茶、カミツレ茶、クマザサ茶、桑茶、ドクダミ茶、プアール茶、マテ茶、ルイボス茶、ギムネマ茶、グアバ茶、コーヒー、ココアの如き茶飲料又は嗜好飲料類;和風スープ、洋風スープ、中華スープの如きスープ類;風味調味料;各種インスタント飲料又は食品類;各種スナック食品類;口腔用品などが挙げられる。
香粧品又は日用・雑貨品としては、これにより何ら限定されるものではないが、例えばフレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、洗剤、柔軟仕上げ剤、洗浄剤、台所用洗剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、たばこ、その他の雑貨類などが挙げられる。
より具体的には、以下のものがあげられる。
・フレグランス製品としては、香水、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロンなど;
・基礎化粧品としては、洗顔クリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、マッサージクリーム、乳液、化粧水、美容液、パック、メイク落としなど;
・仕上げ化粧品としては、ファンデーション、粉おしろい、固形おしろい、タルカムパウダー、口紅、リップクリーム、頬紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドウ、眉墨、アイパック、ネイルエナメル、エナメルリムバーなど;
・頭髪化粧品としては、ポマード、ブリランチン、セットローション、ヘアーステック、ヘアーソリッド、ヘアーオイル、ヘアートリートメント、ヘアークリーム、ヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、バンドリン、養毛剤、染毛剤など;
・日焼け化粧品としては、サンタン製品、サンスクリーン製品など;
・薬用化粧品としては、制汗剤、アフターシェービングローション及びジェル、パーマネントウェーブ剤、薬用石鹸、薬用シャンプー、薬用皮膚化粧料など;
・ヘアケア製品としては、シャンプー、リンス、リンスインシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアパックなど;
・石鹸としては、化粧石鹸、浴用石鹸、香水石鹸、透明石鹸、合成石鹸など;
・身体洗浄剤としては、ボディソープ、ボディシャンプー、ハンドソープなど;
・浴用剤としては、入浴剤(バスソルト、バスタブレット、バスリキッド等)、フォームバス(バブルバス等)、バスオイル(バスパフューム、バスカプセル等)、ミルクバス、バスジェリー、バスキューブなど;
・洗剤としては、衣料用重質洗剤、衣料用軽質洗剤、液体洗剤、洗濯石鹸、コンパクト洗剤、粉石鹸など;
・柔軟仕上げ剤としては、ソフナー、ファーニチアケアーなど;
・洗浄剤としては、クレンザー、ハウスクリーナー、トイレ洗浄剤、浴室用洗浄剤、ガラスクリーナー、カビ取り剤、排水管用洗浄剤など;
・台所用洗剤としては、台所用石鹸、台所用合成石鹸、食器用洗剤など;
・漂白剤としては、酸化型漂白剤(塩素系漂白剤、酸素系漂白剤等)、還元型漂白剤(硫黄系漂白剤等)、光学的漂白剤など;
・エアゾール剤としては、スプレータイプ、パウダースプレーなど;
・消臭・芳香剤としては、固形状タイプ、ゲル状タイプ、リキッドタイプなど;
・雑貨としては、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなど。
また、口腔用組成物としては、例えば歯磨剤、口腔洗浄料、マウスウオッシュ、トローチ、チューインガム類などが挙げられる。医薬品類としては、例えばパップ剤、軟膏剤の如き皮膚外用剤、内服剤などが挙げられる。
本発明の香料組成物を上記したような各種の製品の香気の付与に用いる場合は、これら香気を付与する製品の種類や製品の最終形態(例えば、液体状、固体状、粉末状、ゲル状、ミスト状、エアゾール状などの製品形態)に応じて、直接製品に添加又は付与してもよいし;例えば、アルコールや、プロピレングリコール及びグリセリンなどの多価アルコールに溶解して液体状にして添加又は付与してもよいし;アラビアガム、トラガントガムなどの天然ガム、界面活性剤(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤など)を用いて可溶化或いは乳化分散させた可溶化状或いは分散状にして添加又は付与してもよいし;アラビアガム等の天然ガム、ゼラチン、デキストリンなどの賦形剤を用いて被膜形成した粉末状で添加又は付与してもよいし;カプセル化剤で処理してマイクロカプセルにして添加又は付与してもよい。さらに、サイクロデキストリンなどの包接剤に包接して、組成物を安定化すると共に徐放性にして用いてもよい。
香気付けを行う際の製品への香料組成物の添加量又は付与量は、製品の種類や形態、製品に求められる香気付け効果や作用などに応じて調整することができる。例えば、本発明の香料組成物の添加量又は付与量は、一般的には製品の質量に対して、約1×10-7〜0.1質量%程度であることが好ましく、1×10-6〜0.01質量%であることがより好ましい。
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。なお、物性値などの測定においては、次の機器を用いた。
NMR測定装置:Instrument DRX500(BRUKER BIOSPIN K.K:ブルガーバイオスピン社製)
ガスクロマトグラフィー:GC−2010(島津製作所社製)
ガスクロマトグラフィー分析条件(実施例1、2のガスクロマトグラフィー分析条件は全て以下に示す条件で行なった)
分離カラム:InertCap5(30m×0.25mm)(GLサイエンス社製)
温度条件:200−10℃/分−350℃
ガスクロマトグラフ質量分析装置:GC6890A、MS5973N(Agilent社製)
嗅ぎガスクロマトフラフィー分析条件(実施例4の嗅ぎガスクロマトグラフィー分析条件は以下に示す条件で行なった)
分離カラム:BC−WAX(50m×0.25mm)(GLサイエンス社製)
温度条件:70―4℃/分−218℃
ガスクロマトグラフ質量分析条件(実施例3、4のガスクロマトグラフ質量分析条件は全て以下に示す条件で行なった)
分離カラム:BCWAX(50m×0.25mm)(GLサイエンス社製)
温度条件:70−4.5℃/分−220℃(37分)
ガスクロマトグラフ飛行型質量分析装置:JMS−T100GCV(日本電子社製)
ガスクロマトグラフ飛行型質量分析条件(実施例3、4のガスクロマトグラフ飛行型質量分析条件は全て以下に示す条件で行なった)
分離カラム:Rxi−5ms(30m×0.25mm)(RESTEK社製)
温度条件:50℃(1分)−4℃/分−230℃−8℃/分−294℃
(実施例1:酵母培養物を用いたオレイン酸から18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸への変換反応)
(1)微生物の前培養
500ml坂口フラスコに下記処方からなる液体培地を100ml入れ、121℃で15分間殺菌した。冷却後、メヤロジマ属の酵母(FERM BP−11328)を植菌し、27℃にて120rpmで回転振盪培養を24時間行った。
Figure 2013128440
(2)18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸の製造
培養24時間後、微生物が飽和したことを確認した後、培養物中に、無菌的に天然植物由来のオレイン酸(advanced biotech社)を1.0g添加して、さらに回転振盪培養を7日間続けた。培養終了後、得られた培養物を100mlの酢酸エチルにて2回抽出処理した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した後、減圧下エバポレーターにて酢酸エチルを除去して18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸含有画分を得た。得られた18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸含有画分はシリカゲルカラムクロマトグラフィーを利用することで精製した。
(実施例2:18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸からオキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンへの変換反応)
(1)オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンの製造
実施例1で調製された18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸を利用して、リパーゼ(Novozym435;Novozymes社)による酵素反応により大環状ラクトンを製造した。
具体的には、下記の処方からなる溶液50mlを100mlのナスフラスコに入れ、実施例1で得られた18−ヒドロキシオクタ−9―デセン酸を10mMとなるように添加し、60℃にて160rpm回転振盪攪拌を48時間行った。
Figure 2013128440
(2)オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンの回収
反応終了後、反応液をろ過することでリパーゼを除き、オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オン含有画分を得た。さらに、オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オン含有画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、目的とするムスク香気を有するオキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンを得ることができた。
オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オン
1H NMR(500MHz, CDCl3)δ5.37-5.26(2H,m),4.11(2H,t,J=5.53),2.31(2H,t,J=6.83), 2.08-2.00(4H ,m),1.66-1.60(4H ,m), 1.42-1.26(18H,m)
13C NMR(126MHz, CDCl3)δ174.4,130.3,130.2,64.3,35.0,29.4,29.3,29.3,29.2,29.1,29.0,28.8,28.8,27.7,27.1,26.2,26.1,25.3;
(3)オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンの香気質の評価
回収した大環状ラクトンであるオキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンの香質評価を7名の専門パネラーにより行った。
精製したオキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンの香気を確認したところ優雅で甘く、かつ透明感、ファッティ感を有するムスク香を確認することができた。このように、オキサシクロノナデカ‐10‐エン‐2‐オンは、優れたムスク様香気を有していた。
(実施例3:酵母培養物を用いたα−リノレン酸から18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸への変換反応)
(1)微生物の前培養
500ml坂口フラスコに下記処方からなる液体培地を100ml入れ、121℃で15分間殺菌した。冷却後、メヤロジマ属の酵母(FERM BP−11328)を植菌し、27℃にて120rpmで回転振盪培養を24時間行った。
Figure 2013128440
(2)18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸の製造
培養24時間後、微生物が飽和したことを確認した後、培養物中に、無菌的に天然植物由来のα−リノレン酸を1.0g添加して、さらに回転振盪培養を7日間続けた。培養終了後、得られた培養物を100mlの酢酸エチルにて2回抽出処理した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した後、減圧下エバポレーターにて酢酸エチルを除去して18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸含有画分を得た。得られた18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸含有画分はシリカゲルカラムクロマトグラフィーを利用することで精製した。
(実施例4:18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸からオキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンへの変換反応)
(1)オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンの製造
実施例3で調製された18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸を利用して、リパーゼ(Novozym435;Novozymes社)による酵素反応により大環状ラクトンを製造した。
具体的には、下記の処方からなる溶液50mlを100mlのナスフラスコに入れ、実施例1で得られた18−ヒドロキシオクタデカ−9、12、15−トリエン酸を10mMとなるように添加し、60℃にて160rpm回転振盪攪拌を48時間行った。
Figure 2013128440
(2)オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンの回収
反応終了後、反応液をろ過することでリパーゼを除き、オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン含有画分を得た。さらに、オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン含有画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、目的とするムスク香気を有するオキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンを得ることができた。得られた化合物のガスクロマトフラフィを図1、MSスペクトルを図2に示す。
オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン
HRMS(FI+)calcd C18282(M+),276.2089;found,276.2089
(3)オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンの香気質の評価
回収した大環状ラクトンであるオキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンの香質評価を7名の専門パネラーにより行った。
嗅ぎガスクロマトグラフィーを用いて回収したオキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンの香気を確認したところ、フルーティ、マイルドさを有するムスク様香気を確認することができた。このように、オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オンは、優れたムスク様香気を有していた。
(実施例5:香料組成物の調製)
本発明の大環状ラクトン(実施例2及び4で合成した大環状ラクトン)を用い、下記処方のフローラルタイプのフレグランス用香料組成物を調整し、7名の専門パネラーによる評価を行った。その結果、本発明化合物を含有したすべての香料組成物において嗜好性の高いパウダリームスク様香気が付与でき、香気にまとまりと優しさを帯びた香料が得られた。
Figure 2013128440
1)ヘリオブーケ(登録商標):2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシ−フェニル)−プロパノール:origine、高砂香料工業社製
2)コバノール(登録商標):4(3)−(4−ヒドロキシ−4−メチルペンチル)−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド:origine、高砂香料工業社製
3)リナクソール(登録商標):2,6−ジメチル−2−オクタノールと3,7−ジメチル−3−オクタノールの混合物:origine、高砂香料工業社製
4)オルビトン(登録商標):7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチル−ナフタレン:origine、高砂香料工業社製
5)サンタレックスT(登録商標):3−(5,5,6−トリメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−イル)シクロヘキサノール:origine、高砂香料工業社製
(実施例6:香料組成物の調製)
本発明の大環状ラクトン(実施例2及び4で合成した大環状ラクトン)を使用し、以下の処方により香料組成物を調製した。
Figure 2013128440
1)MUSK T(登録商標):エチレンブラシレート、高砂香料工業社製
2)HINDINOL(登録商標):2−メチル−4−[(1R)−2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル]−(2E)−ブテン−1−オール、高砂香料工業社製
(実施例7:液体入浴剤の調製)
以下の処方により液体入浴剤を調製した。
Figure 2013128440
(実施例8:シャンプーの調製)
以下の処方によりシャンプーを調製した。
Figure 2013128440
1)ポイズC−60H:塩化−o−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、花王社製
2)エマール20C:ポリオキシエチレンラウリエーテル硫酸ナトリウム(3E.O)(25%)、花王社製
3)ビューライトA−5000:スルフォコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド2ナトリウム(5E.O)、三洋化成工業社製
4)SWANOL AM−101:2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(40%)、日光ケミカルズ社製
5)アミゾールCDE:やし油脂肪酸ジエタノールアミド、川研ファインケミカル社製

Claims (14)

  1. 微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させてω‐ヒドロキシ脂肪酸を得る工程、及び得られたω‐ヒドロキシ脂肪酸を分子内環化する工程を含む、大環状ラクトンの製造方法。
  2. 微生物が、脂肪酸又はそのエステルをω‐ヒドロキシ酸に変換する能力を有するメヤロジマ属に属する菌株である、請求項1記載の製造方法。
  3. メヤロジマ属に属する菌株がメヤロジマ属FERM BP‐11328菌株である、請求項2記載の製造方法。
  4. 脂肪酸が式CH3‐R‐COOH(式中、Rは二重結合を含む炭素数8〜20の鎖状炭化水素基を示す。)で表される、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
  5. 脂肪酸又はそのエステルが植物又は微生物由来である、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
  6. 脂肪酸がオレイン酸、α‐リノレイン酸又はγ‐リノレイン酸である、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
  7. ω‐ヒドロキシ酸を分子内環化する工程が酵素を用いてω‐ヒドロキシ酸を分子内環化させることを含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
  8. 酵素がキャンディダ属又はシュードモナス属に属する菌由来である、請求項7記載の製造方法。
  9. 酵素がキャンディダ・アンタルチカ由来の酵素触媒である、請求項7記載の製造方法。
  10. オキサシクロノナデカ‐10,13,16‐トリエン‐2‐オン又はオキサシクロノナデカ‐7,10,13‐トリエン‐2‐オンである大環状ラクトン。
  11. 請求項10に記載の大環状ラクトンを含有する香料組成物。
  12. 請求項10に記載の大環状ラクトンを含有する香粧品、口腔用組成物、飲食品。
  13. 脂肪酸又はそのエステルをω‐ヒドロキシ酸に変換する能力を有するメヤロジマ属に属する微生物の菌体又はその処理物を脂肪酸又はそのエステルに作用させる工程を含む、ω‐ヒドロキシ脂肪酸の製造方法。
  14. メヤロジマ属に属する菌株がメヤロジマ属FERM BP‐11328菌株である、請求項13記載の製造方法。
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