本発明は、高水域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水する送水装置及び送水方法に関する。
地震等の天災により発生した「土砂ダム(天然ダム)」や、地球温暖化により溶けはじめた氷河水により発生した「氷河湖」等は、大量の水を土砂等で堰き止めて大きな池や湖を形成している。しかし、堰き止めている土砂等は自然の崩落等により湖を堰止めているだけであるため、堰き止めている土砂等が崩壊し土石流と化す大きな危険を常に有している。こうした危険を回避するために池や湖に溜まった水を排水することで土石流の発生を防ぐ方策が検討されている。この場合、堰き止めた土砂等の上に水を直接流さないで池や湖の水を排水し水位を下げる必要がある。
しかし、土砂ダムや氷河湖等に流入する水量は膨大であるため、現在工事用に使用されている最大級の水中ポンプであっても口径がφ250mm程度であり、何十本も使用しなければ排水が追い付かないという課題がある。しかも、こうした大口径の水中ポンプは、重量が1個当たり250Kg〜300kg程度あるため人力で設置することは不可能であり、そのため重機による搬入か又はヘリコプターで運搬する必要がある。しかし、土砂ダムや氷河湖では、特に地すべりなどにより道路が寸断されていたりして搬入路が確保できないことが多く重機で搬入することが困難な場合も多い。一方、ヘリコプターも同様に、運搬可能な重量に限界があることや、着陸場所が確保できないことが多い。このように現実として、大量な大口径の水中ポンプや発動発電機などの仮設機材や重機を土砂ダムや氷河湖に運ぶのには大変な困難を要するという課題がある。
仮に水中ポンプの設置が完了したとしても、これらを稼動するためには大量の電気が必要であるが、電気はその場で発電できる大型の発動発電機を必要台数搬入してこれに頼らなければならない。また、こうした発動発電機を稼動するためには定期的に大量の燃料(軽油)を搬入して給油し続けなければならないという課題も発生する。
また、こうした大型の水中ポンプの口径に合致する送水パイプとしてはビニール製ホースが考えられる。しかし、ビニール製ホースは、例えば、割れた岩石の突起部やコンクリート構造物の曲がり角部分などに配置されると破損の原因になる。また、設置したビニール製ホースがパンパンにはち切れそうに膨らんで送水作業をしているように見えても、実際には屈折した折に内断面が狭小となったりして、通水量が大幅に落ちることがわかっている。一方で、内断面が円形に固定された硬質円断面ホースを使用すると、屈曲などによる通水断面の狭小現象が極端に少ないことから送水効率は向上するが、例えば、水中ポンプの口径250mm以上といった水中ポンプのサイズとしては比較的大きいものは、硬質の送水パイプとの接続が適合せず、水中ポンプとの接続に困難を要するという課題があった。また、自然災害により発生した土砂ダムなどの排水対策に使用する送水パイプは、口径が500mm〜1000mmの大きな口径の送水パイプが複数必要とされる。これは土砂ダムに流入する水の量が大量であることに起因する。
そこで、本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、国土交通省などが所有する災害対策用の排水ポンプ車等が寄りつける道路条件や地形的な条件が確保できるのであれば、その機能を生かして送水作業が行える送水装置を提供し、寄りつきやすい道路条件が整っていない場合では、ヘリコプターや人力運搬作業により機材を搬入しなければならないため、比較的軽量部材を組み合わせることによって搬入作業、設置作業、搬出作業が容易であって、個々の部品は搬送が容易である組み合わせ式の送水装置を提供し、大口径の送水パイプに注水する際にも何台もの水中ポンプや発動発電機などの大量な機材の搬入作業の必要性を無くし省力化した排水装置を提供する。また、電気を一時的に供給するだけでその後は電気を必要とすることなく稼働させることができるサイホン作用を応用して送水作業を行う装置であり、発電に必要な燃料の搬入作業、補給作業を省略し、消費燃料の削減と併せて、燃料消費に伴う二酸化炭素の排出を大幅に削減することができる送水装置であり、高水域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水装置及び送水方法を提供することを主たる目的とする。
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の送水装置は、高水域にある貯留部の水を前記高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水装置であって、
断面内径形状が容易に変形せず連結可能な硬質な部材、断面内径半径が変更されづらい蛇腹部材又はフレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材のいずれかからなる送水パイプと、
前記送水パイプを満水にするため水を送水する送水器機と、
前記送水器機と連結着脱可能な少なくとも1カ所以上の注水口と、
前記注水口への送水量を調整可能な注水口開閉装置と、
を備えたことを特徴とする。
本発明の送水装置は、高水域にある貯留部と低地域との間に設置されて、サイホン作用によって、水を高水域の貯留部から低地域に送水するためのものである。本発明の送水パイプは、断面内径形状が容易に変形せず連結可能な硬質な部材、断面内径半径が変更されづらい蛇腹部材又はフレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材のいずれかからなる送水パイプ部材を使用することで、硬質で容易に変形しないパイプを使用している。これによって、ビニール製ホースのように、気圧に負けて断面が押しつぶされたり、屈折した折に内断面が狭小となったりすることを防止でき、送水量が減少する可能性を低減することができる。
一旦、満水となった送水パイプは、サイホン作用により、高水域にある貯留部の水を前記高水位域より低所に位置する低地域に対して、大量の水を位置エネルギーにより送水することができる。併せて、送水パイプ内を満水とした後は、電力を必要としないため燃料の搬入も補給作業も行う必要がない。これにより送水装置の設置コストや送水コストの大幅な削減が可能とすることができる。また、多くの作業員が機材のメンテナンスのため災害現場に常駐する必要もなくなるので、安全な場所から監視することで二次災害が防止できることとなる。
本発明の送水装置において、前記送水器機は、前記送水パイプと連結可能であって、かつ前記送水パイプを満水にするのに十分な貯水量を有する貯水タンクを備えているものであってもよい。サイホン作用によって水を連続的に送水するためには、送水パイプ全体が満水状態になる水量を一度に充填しなければ十分なサイホン作用を起こすことができない。しかし、詳細は後述するが、通常の土木工事において使用される口径の水中ポンプを用いてそれ以上の大きさの口径の送水パイプ内を直接満水状態にしながら送水パイプ内の空気を下流側の吐出口から押し出すことは大変困難である。そこで、一旦送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに揚水器機によって貯水した後に、送水パイプの口径以上の注水口を通して一気に送水パイプに水を送ることによって、容易に送水パイプ内の空気を下流側の吐出口に押し出しながら送水パイプ内を水で充填させるものとした。また、貯水タンクに一度に大量の水を送る必要がないので、比較的小さな揚水器機等からなる送水装置を使用することができる。そのため必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。
なお、一旦送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに一旦貯水するための揚水器機としては、例えば人力で運搬可能な重量20kg程度の100Vの発電機と、100Vで稼働する重量20kg程度の口径Φ100mmの水中ポンプを必要数使用して貯水タンクに貯水する等比較的省電力の揚水器機を用いることができる。そのため必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。
さらに、本発明の送水装置は、送水器機が排水ポンプ車、消防車その他水中ポンプ等の給排水能力を備えた車両の揚水器機であってもよい。ポンプ車等の揚水機器を注水口と連結して送水パイプに注水することにより、土砂ダムなど災害が発生した現場へ乗り入れることができる道路条件や地形的条件が満たされている場合は、国や自治体が所有する災害対策車両の排水ポンプ等の大量給排水機能を活かして直接注水口と連結して送水パイプ内へ注水し、サイホン作用を機能させることができる。さらに、注水口に設けられている注水口開閉装置を閉じて、送水器機と着脱自在な注水口から送水器機の連結部を外して、他の送水パイプの注水口に連結することで、同じ送水器機又は貯水タンクを使用して2本目の送水パイプに注水作業を行うことができる。この作業を繰り返すことで、1つの送水器機又は貯水タンクを使用して複数の送水装置にサイホン作用を起こすことができる。
さらに、本発明の送水装置は、放水器機により貯水タンクに水を貯水するものであってもよい。貯水タンクに水を貯水するに際しては、災害対策車両の排水ポンプ車等によって、放水によって貯水するものであってもよい。
また、本発明の送水装置において、前記送水器機は、送水パイプより小口径の給水用ホースと、貯水タンクより小容量の第2タンクとを有する第2送水装置であってもよい。小口径のサイホン装置を採用することで、小口径送水パイプへの注水量が少量で済むため、小口径貯水タンクへの給水は人力によって行うことも可能となる。そのため電力等が全く使用できない場合に有効な手段となる。
また、本発明の送水装置において、前記送水パイプは、前記送水パイプは、複数のパイプ部材と、それぞれのパイプ部材を連結可能な連結部材と、を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、硬質のパイプ部材であっても運搬に容易であり、現場で容易に連結して送水パイプを設置することができる。また、送水パイプは、それぞれ連結可能な複数のパイプ部材からなるため、土砂ダム等の災害現場や氷河湖等が存在する場所のように、車両による搬入が困難な場合であっても、各部材を複数の部材に分割したことによってヘリコプターによる搬入が可能となり、硬質で容易に変形しないパイプを使用することができる。これによって、ビニール製ホースのように、気圧に負けて断面が押しつぶされたり、屈折した折に内断面が狭小となったりすることを防止でき、送水量が減少する可能性を低減することができる。
また、本発明の送水装置において、前記注水口近傍の送水パイプには、高水域側に配置される送水パイプ及び低位地域側に配置される送水パイプのいずれかに水を送水することを切換可能な送水方向切換装置を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、送水する水を高水域側又は低地域側のいずれかに送水を切り替えることができ、最適な方法で送水パイプ内の水を満水にすることができる。
また、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは、組み合わせ可能な複数のタンク部材よりなるものであってもよい。かかる構成を採用することによって、送水パイプを満水にするのに十分な貯水量を有するために大きな貯水タンクが必要な場合であっても、比較的小さな複数のタンク部材を複数組み合わせることによって、大容量の貯水タンクを形成することができる。組み合わせ可能な複数のタンク部材とすることで、土砂ダムや氷河湖等の場所のように、重機やヘリコプターによる搬入が困難な場合においても、人力により運搬することができる。
また、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは、折り畳み可能なフレキシブル素材であってもよい。軽量で運搬が容易なフレキシブルな構造の大型貯水タンクであれば折り畳みが可能で収納が狭い空間で行える。軽量で運搬が容易であればヘリコプターでの搬入も容易になる。これによれば、被災地へ迅速に運搬することが可能となり、設置する際にも大型の貯水タンクとして人力で構築作業を容易にこなすことができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは貯水された水を密閉可能であり、貯水タンク内に圧縮空気又は炭酸等の気泡が発生する気泡発生剤を投入することにより、貯水タンク内の圧力を増加させることによって、送水パイプに水圧のかかった水を送水可能であってもよい。かかる構成を採用することによって、送水パイプ内に水を満水とする時間を短縮することができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは貯水された水を密閉可能であり、前記貯水タンクに圧力又は荷重をかけることによって、送水パイプに水圧のかかった水を送水可能であってもよい。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプには、前記送水パイプ内の空気を排出又は前記送水パイプの外の空気を吸入する少なくとも1以上の空気吸排出用バルブ又はコックを備えていてもよい。送水パイプによって、サイホン作用を起こさせるためには、前述したとおり、送水パイプ内を満水にする必要がある。しかし、最下流部の吐出し部から溜まり始めた水が順次上昇する際に送水パイプ内の空気を排出しなければならない。そこで、空気吸排出用のバルブを設けることによって、水位の上昇に伴なって効果的に空気を排出することができ、送水パイプ内に空気が残ることを防止できる。そのため、容易に送水パイプ内に水を満たすことができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプの高水域側端部には、吸水部に排水を防止する逆止弁を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、貯留部に最初に沈めた際には、水が送水パイプの高水位域側端部から浸水し、より迅速に送水パイプ内に水を溜めることができる一方で、貯水タンクから水が送られ高水位域側端部から水が排水される状況になった場合は、高水位域側端部の端部に設けられた逆止弁付送水パイプの逆止弁が排出する水の水圧により閉じるため、送水パイプ内の水が排出されるのを防止することができる。なお。逆止弁の設置方法としては送水パイプの先端に加工して取り付けても良いし、別部材である逆止弁を送水パイプに接続しても良い。
さらに、本発明の送水装置において、前前記逆止弁は、前記逆止弁付送水パイプの上端部と前記逆止弁の上端部とで回動可能に連結されており、内側からの水圧により前記逆止弁付送水パイプの下端部に形成された回動防止部で係止されて密閉状態とするものであってもよい。かかる構成を採用することで、構造がシンプルでありながら、逆止弁付送水パイプの開口における水の流れが排出する方向に水が流れている場合は、自動的に密閉し、吸引する方向に水が流れている場合は、自動的に開放することができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記回動防止部は、前記逆止弁付送水パイプの下端部であって、かつ送水パイプの上端部の位置より下流側に形成されてなり、前記逆止弁は、斜めに止まった状態で密閉状態とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、逆止弁の下端部を係止するパイプの下端部は上端部の位置より送水方向の下流側に控えた位置となるため、逆止弁が自重により鉛直方向に下がろうとする途中で係止され給水部を密閉することができる。
さらに、本発明の送水装置において、吐出部となる前記送水パイプの低地域側の端部には、開口を開閉する開閉部材を有する開閉部材を備えているものであってもよい。かかる構成を採用することによって、サイホン作用を起こすための作業として送水パイプ内に水を満たす際に、水が低地域側の端部から排出することを防止できるため、容易に送水パイプ内の水を満水にすることができる。また、サイホン作用によって、水を高水域の貯留部から低地域に送水している最中であっても、開閉部材を閉じることによって、容易に水の送水を停止させることができる。この際に、改めて送水パイプ内に水を満たす必要はなく、開閉部材を開放すれば、直ちに送水を継続することができる。開閉部材は開閉弁を回転させて開閉作業をするものでも良く、また開閉バルブ、開閉コックなどであっても良い。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプの低地域側の前記吐出口の下端を送水パイプの直径以上の高さまで上下移動させる吐出口上下移動装置を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、吐出口の高さを送水パイプの直径以上に上げておくことにより、高水域にある貯留部の水面が吐出口の高さ付近まで下がり、水位差が現象することにより水圧が下がった場合であっても、吐出口から空気が送水パイプ内に流入させることを防止できる。そのため、サイホン作用を失う可能性を低減させることができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプには、送水パイプ内を流れる水を制止又は通水させる開閉装置が少なくとも1以上備えられていてもよい。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯留部内に配置される少なくとも1つの前記送水パイプには、浮力部材が備えられていてもよい。かかる構成を採用することによって、貯留部内に配置される送水パイプの位置を水面の高さの変更にかかわらず水面から同じ深さの位置に保持することができるので、吸水部が下がりすぎて、貯水部の底に溜まっている泥や石を吸い込むことを防止する事ができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプは、サイホンの作用を活かして送水する送水量が目的に合う流量であれば、水中ポンプでは最小の口径となるφ50mm以上であってもよい。本発明の送水装置は、送水パイプの口径に比べて揚水機器の送水口径が大きな口径であれば、揚水器機の排水側を送水パイプと連結した注水合流部材に直接連結することができ、揚水器機の口径が送水パイプの口径より小さい場合は、前記注水口合流部材と連結した貯水タンク内に一旦必要水量を貯水してから送水パイプに送水する方法をとるというように、口径によって選択することができる。
本発明の送水方法は、前述に記載の送水装置を使用して、
一方側の逆止弁が形成された送水パイプを高水域にある貯留部に配置し、
他方の開閉弁が形成された送水パイプを低地域に配置するように送水パイプを設置し、
他方の開閉弁が形成された送水パイプの開閉弁は開いた状態にして、前記注水口に連結された送水器機から水を送水パイプ内へ送水し、
送水パイプ内を水で満たし高地域の貯留部の水が前記送水パイプを通じて低地域と一体化した後に、注水合流部材に備えられた注水口開閉装置を閉鎖することで、高地域側の貯留部の水が送水パイプ内へ吸い込まれることにより逆止弁が水圧に押されて開き、サイホン作用により高水位域の水を低地域に移動することを特徴とする。かかる方法を採用することによって、電気等のエネルギーを必要とせず位置エネルギーのみで貯留部の水を低地域に送水することが可能になる。また、土砂ダムなどの現場へ車両などが寄り付くことができる道路条件や地形的条件が満たされている場合は、国土交通省などが所有する災害対策車両の排水ポンプ車の給排水機能を利用して、その排水機能で本送水装置の送水パイプ内へ注水しサイホン作用を起動させることができる。
また、本発明の送水方法において、一方側の逆止弁が形成された送水パイプを高水域にある貯留部に配置し、
他方の開閉弁が形成された送水パイプを低地域に配置するように送水パイプを設置し、
送水器機により注水口から送水パイプ内へ注水し、送水パイプ内を水で満たした後、注水口開閉装置を閉じ、低地域の開閉部材を開くことにより、高地域側の貯留部の水が送水パイプ内へ吸い込まれることにより逆止弁が水圧に押されて開き、高地域の貯留部の水が前記送水パイプを通じてサイホン作用によって、低地域に移動するであってもよい。
なお、前述の道路条件や地形的な条件が整っていない場合は、ヘリコプター又は人力作業による搬入が可能となる各部材を組み立てることにより貯水タンクを現地に設ける方法を取ることができる。
図1は、第1実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図2は、第1実施形態にかかる送水装置100のパイプ部材11の連結構造部を示す側面図及び断面図である。
図3は、第1実施形態にかかる送水装置100の送水方向切換装置19を示す断面図である。
図4は、第1実施形態にかかる送水装置100の逆止弁付送水パイプ20の構成を示す断面図である。
図5は、第1実施形態にかかる送水装置100の開閉部材付送水パイプ30の構成を示す側面図である。
図6は、第1実施形態にかかる送水装置100の吐出口上下移動装置を取り付けた状態と取り付けていない状態をしめす側面図である。
図7は、図1のA部の拡大図である。
図8は、第2実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図9は、第3実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
まず、本発明の送水装置及び送水方法の実施の形態について説明するにあたり、本発明の技術的思想について説明する。本発明の送水装置は、高水域にある貯留部と低地域との間に設置されて、サイホン作用によって、水を高水域の貯留部から低地域に送水するためのものである。しかし、サイホン作用によって水を連続的に送水するためには、送水パイプ全体において満水状態になる水量を一度に充填しなければ十分なサイホン作用を起こすことができない。なぜなら、完全なサイホン作用を発生させるためには、送水パイプ内に水が100%近く充填された満水状態で送水パイプ内の水が移動し続けることが重要だからである。しかし、水中ポンプを用いて送水パイプ内を満水にしようとする場合において、水中ポンプの口径が送水パイプの口径より小さい場合、送水パイプ内を満水状態にするのに必要な地形の形状が以下に限定される。つまり、送水パイプの下流端の吐出部が上流部の貯水池の水位よりも低いこと、送水パイプが下流端より上流に向かうに伴って順次高くなるように設置されていること、が必要である。このような送水パイプの配管が整った状態において、吐出口を遮閉し、送水パイプ内へ水中ポンプで送水を続けて満水状態にする作業を行うと、上流側から送水された水が遮閉された吐出口に到達すると、水は順次上流方向へ送水パイプ管内を満たしながら水面を上げて満水状態の範囲を増加していく。送水パイプ内全体が満水状態になった時点で下流端の開閉弁を開くことによりサイホン作用が働いて、自然エネルギーによる送水作業が稼働することとなる。この現象は、あくまで理想的な地形の箇所に送水パイプを設置した場合でなければ達成することができない。
しかし、地すべりなど自然災害により発生し、土砂ダムを形成した崩落土砂は複雑な凹凸形状で堆積しているため、前述のような下流側から上流側へ向かって順次高くなっているような理想的な形状にはならない。崩土により堆積した土砂の表面形状は非常に起伏に富んだ複雑な形状になっている。送水パイプが起伏に富んだ地形に設置されている場合においては、送水パイプ内を流れる水は送水パイプの起伏の低い部分に溜まってしまう現象が起きる。
送水パイプの起伏が高い部分となっている箇所における送水パイプの内径の底部分は、送水作業を行っている水中ポンプの送水能力の流量だけは越流して下流側に流れることになるが、送水パイプの内径底部分の水が流れている断面以外の空間は空気が溜まってしまうことになる。この空気が送水パイプの幾つかの起伏のそれぞれの頂点に集まって圧縮されることで、送水パイプの内断面を閉塞しサイホンの作用による送水量を著しく減少させる原因となる。
このような現象が起伏に富んだ地形に配置した送水パイプの幾つかの高い箇所でそれぞれ現れることとなり、サイホン作用を起動するために下流側の吐出口を開放しても、送水パイプの断面一杯に送水される作業量は殆ど期待できないこととなる。これらの現象は発明者が長年にわたる実験や災害現場での作業で経験していることであり、この現象を起こさせないサイホン作用は如何にあるべきかを研究してきた。このような経験から効率の良いサイホン作用を起動し稼働させる送水装置と送水方法を発明したものである。
その発明の内容としては、送水パイプに注水する段階で送水パイプの上流側から順次に全断面を満水状態にしながら下流方向へ注水する起動方法である。ただし、例えば直径1000mmの送水パイプを使用して、良好なサイホン作用を起動させる場合は、口径が200mmの水中ポンプを少なくても25台使用して同時に注水作業を行なわなければならない。被災地では電源が途絶えていることを想定して、25台の水中ポンプの全てを同時に稼動させるだけの200Vを発電する発動発電機を必要台数搬入しなければならない。その台数は送電距離や揚水高さにより多少に違いはあるが、安全側をみて125KVAクラスの発動発電機が10台は必要となる。この発電機は、重量が2100kg以上ある。また、口径Φ200mmの水中ポンプは重量が200kg以上あるが、25台必要となるため、これを搬入して設営して起動するには相当の時間と労力を要することとなる。また、人力では移動や据え付けが出来ないため大型の重機が必要となる。災害発生現場に大型の重機を搬入するには道路網の寸断や機材の確保に相当の困難を要し実現不可能である。実際に地すべり災害が起きて土砂ダムが発生してもこの緊急時に大型重機が搬入された例は殆ど実績がない。従って緊急時の作業としては実施しなければならない作業であっても実施されてこなかった。
そこで、本発明は、一旦送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに揚水器機として、例えば人力で運搬可能な重量20kg程度の100Vの発電機と、100Vで稼働する重量20kg程度の口径Φ100mmの水中ポンプを必要数使用して貯水タンクに十分な水量を貯水した後に、一気に送水パイプの口径以上の水を送ることができる。そのため容易に送水パイプ内に水を充填することができる。また、揚水器機で水を揚水する際には、一度に大量の水を送る必要がないので、比較的小さな揚水器機を使用することができる。そのため同時に必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。そして、貯水タンクから送水されて一旦満水となった送水パイプは、サイホン作用により、高水域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に対して、位置エネルギーのみで大量の送水することができるものとしたのである。
上記、本発明の送水装置及び送水方法の実施形態について、図面に基づいて、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではない。
(第1実施形態)
第1実施形態にかかる送水装置100が図1に示されている。図1は、第1実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。第1実施形態にかかる送水装置100は、主として、水を送水する送水パイプ10と、送水パイプ10のそれぞれの端部に取り付けられる逆止弁付送水パイプ20及び開閉部材付送水パイプ30と、送水パイプ10に水を供給する貯水タンク40と、この貯水タンク40に水を揚水する送水器機としての揚水器機50と、貯水タンク40と送水パイプ10の注水口11bをなす注水口合流部材60と、貯水タンク40から送水パイプ10へ送水する水の送水量を調整する注水口開閉装置70と、を備えている。
送水パイプ10は、図2に示すように内径がφ1000mm又はそれ以上の硬質塩化ビニール製の直管からなるパイプ部材11と、これら複数のパイプ部材11を互いに連結可能な連結部材12とを備えている。連結部材12は、外面側に、パイプ部材11の先端部を装着させる内筒部材16と、この内筒部材16と反対側の面において互いに密着させてネジ締結またはボルト締結させる連結孔14aを有するフランジ部14とを備えている。この内筒部材16をパイプ部材11の端部から内部に向けて挿入して、パイプ部材11の外側から部分押え部材15を配置して、部分押え部材15、パイプ部材11及び内筒部材16を固定用ボルト15aが貫通し、内筒部材16に設けられたねじ孔16aに固定用ボルト15aが回転挿入され、内筒部材16の外側からナット15bで固定用ボルト15aを固定することで、部分押え部材15とパイプ部材11と内筒部材16とを固定し一体化することが可能である。こうして連結部材12は、部分押さえ部材15及び内筒部材16によって筒体構造の一方端部がフランジ部14によって塞がれてなり、内筒部材16の内側に送水路が形成される。部分押さえ部材15と内筒部材16との間の隙間及び内筒部材16とパイプ部材11との間には、コーキング剤が介されているため、水漏れが完全に防止される。フランジ部14には、連結孔14aが形成されており、フランジ部14を互いに密着させた状態で連結部材12をボルト締結することで、パイプ部材11を連結することができる。こうして複数のパイプ部材11が連結され、送水パイプ10が形成される。パイプ部材11のうちの1つには、詳細は後述する貯水タンク40と連結される注水口11bを備えている。また、パイプ部材11のうち注水口合流部材60を介して連結される連結部近傍に配置されるパイプ部材11aには、送水パイプ10内と外気との間で空気を吸排出可能な空気吸排出用バルブ又はコック18を備えている。なお、空気吸排出用バルブ又はコック18は水も排出可能である。
また、送水パイプ10のうち、注水口を有するパイプ部材11には、図3に示すように、送水された水を高水域側又は低地域側への送水を切換可能な送水方向切換装置19を備えている。送水方向切換装置は、注水口11bに注水方向切替レバー19bを移動させることによって流出方向切換弁19aの位置を切り替えることができるものである。この流出方向切換弁19aの位置を切り替えることによって、送水方向を切り替えることができる。例えば、流出方向切換弁19aがαの位置に配置されている場合は、水はα’の方向へ送水され、βの位置に配置されている場合は、水はβ’の方向へ送水されることになる。さらに、γの位置に配置されている場合は、流出方向切換弁19aが収納されている状態であり、両側へ水を送水することができる。
逆止弁付送水パイプ20は、高水域にある貯留部90に配置される送水パイプ10の端部に取り付けられるものである。逆止弁付送水パイプ20は、図4に示すように、端部に形成される吸水部23に逆止弁21を備えている。逆止弁21は、吸水部23の内径より若干直径の大きい板状部材からなり、吸水部23の上方端部23aと1カ所で内側に回動可能に連結されている(矢印C参照)。また、吸水部23の内周であって、吸水部23の端部より若干内側に断面V字状の回動防止部22が設けられている。この回動防止部22は、逆止弁21が閉じられた場合に逆止弁21の外周を当接させて、これ以上外側へ逆止弁21が回動しないようにする。この回動防止部22によって、逆止弁21は、回動防止部22より外側に回動することはなく、回動防止部22に当接した状態で吸水部23を封止することができる。また、逆止弁21は、吸水部23の上方端部23aに回動可能に連結されているので、自身の重量により鉛直方向へ回動するため、吸水部23を閉じる方向に付勢される。また、回動防止部22が吸水部23の端部より内側に形成されているので、逆止弁21が吸水部23を封止する際は、上方から下方に向かって逆止弁付送水パイプ20の内側方向に傾いた状態になる。従って、逆止弁21は、水流がない場合に自身の重量によって回動防止部22に当接し封止し易い構造となっている。また、この現象により、当初に送水パイプ10内に水を充填する作業を行う際にも閉じた状態の逆止弁21を送水パイプ10内から水圧でいっそう閉じる作用を働かせることができるので吸水部23からの水漏れが起こりにくい。
開閉部材付送水パイプ30は、低地域側に配置される送水パイプ10の端部に取り付けられるものである。開閉部材付送水パイプ30は、図5に示すように、端部に形成される吐出口33に開閉部材31を備えている。開閉部材付送水パイプ30の端部には、外周から外方へ延出したフランジ34を備えており、開閉部材31は、このフランジ34の大きさとほぼ同様の大きさに形成され、フランジ34の下方端部33aに外側へ回動可能に取り付けられている(矢印D参照)。また、上方端部には、フランジ34及び開閉部材31を閉じた状態で固定することができる固定部材35を備えている。固定部材35は、凹部35aを備えており、矢印Eに示すように、起こすことによってフランジ34及び開閉部材31を挟持でき、倒すことによってフランジ34及び開閉部材31を開放できる。
吐出口上下移動装置80は、図6Aに示すように、吐出口33を吐出口33の直径の高さ以上の高さまで自在に移動可能に形成されている。移動させる機構は特に限定するものではなく、従来から存在する機構を利用することができる。
貯水タンク40は、図7に示すように、送水パイプ10内に水を満たす際に、送水パイプ10内に水を直接供給するためのものである。貯水タンク40は、複数のタンク部材41を組み合わせて大容量のタンクとすることができる。貯水タンク40は、フレキシブルな素材を使用した折り畳み自由で貯水した場合の水圧荷重にも耐えるもの。又は、複数のタンク部材41を組み合わせて大容量のタンクとすることができるもの。例えばコンクリート構造物を構築する際の鋼製メタルフォーム(型枠材料)などであれば、運搬は可能な範囲に分割して行う事が出来る利便性があり、災害箇所の送水パイプの規模にその都度毎に応じて必要な貯水タンクの大きさに組み立てる事が自由にできるなどの特徴を備える。そのため、1つ1つのタンク部材41は、人力で運搬可能な大きさ重さである。そのため運搬が容易であるにもかかわらず、現地では大容量のタンクを提供することができる。
揚水器機50は、図1に示すように、高水域にある貯留部90の水を貯水タンク40に水を汲み入れるためのものである。揚水器機50は、ポンプ(図示しない。)、吸水口及びホース等からなる。ポンプは特に限定するものではく、国土交通省が所有する災害復旧用送水ポンプ車等の従来からある既知のポンプを使用することができる。揚水器機50は、一度に送水パイプ10内の水を満水にするものではなく、一旦大量の水を貯水タンク40に溜めるものであるので、大型ポンプである必要はない。
注水口合流部材60は、貯水タンク40と送水パイプ10との間に配置され、貯水タンク40の水を送水パイプ10へ送るためのパイプである。また、注水口合流部材60には、途中に水の供給、停止及び水量を調整できる注水口開閉装置70が設けられている。
以上のように構成された送水装置100について、図1を参照して設置方法及び使用方法について説明する。まず、一方側の逆止弁付送水パイプ20を高水域にある貯留部90に配置する。そして、他方の開閉部材付送水パイプ30を低地域に配置するように送水パイプ10を設置する。その後、「高水域の逆止弁付送水パイプ20」と、「低地域の開閉部材付送水パイプ30」との間であって、送水パイプ10の全延長の内の最高部より高い位置に「貯水タンク40」を設ける。さらに、貯水タンク40の近傍の送水パイプ10に「貯水タンク40との合流部」を設けて貯水タンク40と着脱可能に連結し一体化する。この際に、この貯水タンク40と送水パイプ10を繋ぐ注水口開閉装置70を備えた「注水口合流部材60」の通水断面は、送水パイプ10の口径と同じか、それ以上の大きさとなっていることが望ましい。また、注水口合流部材60は、貯水タンク40内に溜まった水を、送水パイプ10内へ勢いよく放出する際には、その貯水タンク40に溜まった水圧を利用して放出するため、注水口合流部材60を設ける位置は貯水タンク40の下方が望ましい。
そして、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を閉じた状態で、貯留部90の水を揚水器機50によって貯水タンク40へ貯水し、貯水タンク40内に送水パイプ10の全延長を満水状態にできる以上の水が溜まるまで揚水を続ける。貯水タンク40内に送水パイプ10の全延長のパイプ内を満水状態にすることができる水量以上が溜まったことを確認出来たら揚水作業を停止する。
揚水作業が完了した後、注水口開閉装置70を備えた「注水口合流部材60」のバルブを全開とする。貯水されたことによって水位が上昇し水圧を受けた状態の貯水タンク40内の水は、送水パイプ10を繋ぐ注水口合流部材60を通って送水パイプ10に押し出される。押し出された水は、貯水タンク40より低い方向へ流れる。つまり低地域側にも高水域側にも勢いよく流下する。高水域の逆止弁付送水パイプ20の方向に流れた水は備えられた逆止弁21を水圧により閉めるため流下する水は行き止まりとなって高水域の送水パイプ10内を満水状態とする。満水になると共に高水域の送水パイプ10内を押し出された水は「開く状態」になった空気吸排出用バルブ又はコック18から送水パイプ10の外へ排出される。送水パイプ10内が満水状態になったら空気吸排出用バルブ又はコック18を閉める。貯水タンク40から放出された水は高水域への流れを止めて低水域の方向へのみ流れ続けることになる。
ここからは、送水量の違いにより、送水パイプ10にサイホン作用を起動するための2通りの方法に分かれる。
(1の方法)「注水口合流部材60」の通水断面が送水パイプ10の通水断面と同じか又はそれより大きい場合。
1−1.低地域の開閉部材付送水パイプ30の開閉部材31は開いたままで良い。吐出口33を噴出してくる水は当初は空気と混じって白い水が吐出されてくるが、送水パイプ10内が満水状態になると透明な水に変化するのが確認できるため、これを確認したら「注水口合流部材60」に備えた注水口開閉装置70を閉じて貯水タンク40からの水の放出を停止する。
1−2.貯水タンク40からの放出が止まると、下流側となる低地域の開いた状態の開閉部材付送水パイプ30の吐出口33からは引き続き水が放出されるため、送水パイプ10内の満水状態の水が下流側へ流れる作用が働く。
1−3.この下流側へ流れる作用により、高水域の逆止弁付送水パイプ20に備えられた逆止弁21は送水パイプ10内で下流側へ引かれると同時に、高水域にある貯留部の水が逆止弁21を押して送水パイプ10内に流入する現象が発生しサイホン作用が稼働し始めることとなる。
1−4 サイホン作用を一時停止しようとする場合は、あらかじめ送水パイプ10のどこか1カ所以上に開閉装置を設けておき、これを閉じることで送水パイプ10内を満水状態としたまま水の移動を一時停止することができる。
1−5 サイホン作用を終了しようとする場合は、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を開放した状態で貯水タンク40内の水を全て送水パイプ10内へ放流した後に続き空気を送水パイプ10内へ流入させることでサイホン作用は終了する。
この方法において、貯水タンク40に水を溜める段階で、低地域の開閉部材付送水パイプ30の開閉部材31は閉じた状態とし、注水口合流部材60に備えた注水口開閉装置70を開いた状態にして貯水タンク40に注水をすると、タンク内に流入した水は送水パイプ10の中を流れてその流下量に合った形で送水パイプ10内に水が入ることになる。この流下能力である程度送水パイプ10内を満たしておいて、今度は注水口合流部材60に備えた注水口開閉装置70を閉じた状態にして、再度、貯水タンク40に貯水を行い。前述の作業を行うことで一層容易に送水パイプ10内を満水にする事ができ、サイホンの作用を起こす事ができる。
この際に、貯水タンク40内に圧縮空気又は炭酸等の気泡が発生する気泡発生剤を投入することにより、貯水タンク40内の圧力を増加させることによって、送水パイプ10に水圧のかかった水を送水したり、貯水タンクに荷重をかけることによって、送水パイプ10に水圧のかかった水を送水したりすることによって、迅速に貯水タンク40の水を送水パイプ10に移動させることができる。
(2の方法)「注水口合流部材60」の通水断面が送水パイプ10の通水断面より小さい場合。
2−1「注水口合流部材60」の注水口開閉装置70を開くことによって貯水タンク40の水を送水パイプ10内に送水し、
2−2 送水パイプ10内の通水断面より小さな流量で送水パイプ10内を満水にする場合は、下流側の開閉部材により閉鎖された吐出口より順次上流側へ送水パイプ10内を満たしながら送水パイプ10全体を満水状態にした後に、低地域の開閉部材を開く。
2−3 送水パイプ10内の水が吐出されるのと同時に送水パイプ10内の水が一体となって下流へ移動することになる。この現象に伴い高地域側の貯留部90の水が送水パイプ10内へ吸い込まれることにより逆止弁21が水圧に押されて開く。
2−4 高地域の貯留部90の水が送水パイプ10を通じて低地域と一体化した後に注水口合流部材60の注水口開閉装置70を閉鎖する。この場合、貯水タンク40内に少々の水が残る状態で注水口開閉装置70を閉鎖するのが望ましい。
2−5 その後は送水パイプ10内のサイホン作用によって、高水位域の水を低地域に移動することができる。
2−6 サイホン作用を一時停止使用とする場合は、あらかじめ送水パイプ10のどこか1カ所に開閉装置を設けておき、これを閉じることで送水パイプ10内を満水状態としたまま水の移動を一時停止することができる。
2−7 サイホン作用を終了しようとする場合は、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を開放した状態で貯水タンク40内の水をすべて送水パイプ10内へ放流した後に続き、空気を送水パイプ10内へ流入させることでサイホン作用は終了する。
この際に、吐出口33の直径の高さ以上の高さまで持ち上げることで、吐出口33から空気が侵入することを防ぐことができる。すなわち、吐出口33が低く形成されていると、吸い込み側(上流側)の水位が下がった場合に水位差による水圧が減少するため、吐出口から放水する水にも勢いが減少する。これにより、送水パイプ10の吐出口の通水断面を満たした状態での放水現象から変化し、図6Bに示すように、吐出口33から矢印F’に示すように、空気が送水パイプ10内の状部から流入していき、サイホン作用を失う可能性があるが、吐出口33の直径の高さ以上の高さまで持ち上げることで、図6Aに示す、空気流入限界線G以下に空気が流入することがない。これにより、吸い込み側と吐出し側の水位の高さが一緒になった場合に水の移動が停止してもサイホン作用が再起動する状況は持続される。したがって、吸い込み側(上流側)の水位が上昇すれば自動的にサイホン作用が始まって、送水作業が再開される。
以上のように構成された送水装置100によれば、一旦準備が整いサイホン作用により水を高水位から低地域に排水できるようになれば、その後は電力を必要とすることなく、自然エネルギーによって、貯留部の水を低地域に流し続けることができる。そのため、その後電力を必要としないため燃料の搬入も補給作業も行う必要が無いことも大きな効果として特徴を持つ。これにより送水装置の設置コスト、送水コストや送水作業の維持管理に大幅なコスト削減が可能となった。また、多くの作業員が機材のメンテナンスのため災害現場に常駐する必要もなくなるので、安全な場所から監視することで二次災害が防止できることとなる。
また、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、硬質なパイプを用いているので送水パイプ10が屈曲した位置で潰れたり、送水パイプ10内の水が減った場合に潰れたりすることがなく、送水量が減少する可能性を減らすことができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、送水部材、貯水タンク等の大きな装置は、分解可能であるので、運搬に容易であり、重機やヘリコプター等が侵入不可能な地域であっても、人力で運搬することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、揚水器機50等のポンプから直接に送水パイプ10に水を充填するものではなく、一旦、貯水タンク40に水を貯水した後に送水パイプ10内に水を充填するので、大容量の揚水器機を必要とすることなく、小さな揚水器機50を使用して貯水タンク40に水を溜めて使用することができる。そのため、揚水器機50に必要な電力も大容量の揚水器機を稼働させる電力量より少なくて済み、小さな発電機を使用することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、逆止弁付送水パイプ20を高水位域側の端部に備えているので、注水口合流部材60から流れてきた水を逆止弁送水パイプ内に留めることができ、サイホン作用稼働時においては貯留部90の水を吸引することは可能であるが、一旦吸引した水を逆に排出する可能性を低減することができる。そのため効率よく、水を低地域に排出することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、空気吸排出用バルブ又はコック18を送水パイプ10の一部に備えてあるので、送水パイプ10内の空気を容易に排出することができる。これは、送水パイプ10内に初めて水を充填する時に限らず、使用中に送水パイプ10内に空気が溜まった場合等であっても、貯水タンク40から水を送水しつつ空気吸排出用バルブ又はコック18を開放することによって容易に送水パイプ10内の空気を排出することができる。そのため送水量の減少があった場合でも容易に元の送水量に復帰させることができる。一方で、送水を停止したい場合には、空気吸排出用バルブ又はコック18を開放すれば、空気が吸引され送水パイプ10内の水を排出することができる。また、送水パイプ10の全延長の中で作業員が寄り付き易い箇所で少なくても1カ所以上に送水パイプ10の開閉装置を設け、稼働中に閉めるとサイホンの作用が作動する環境のまま送水作業を停止することができる。開閉装置を開けると再び送水作業が稼働することとなる。
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる送水装置100が図8に示されている。第2実施形態にかかる送水装置は、第1実施形態にかかる送水装置100に対して、貯水タンク40が存在せず、代わりに排水ポンプ車の揚水器機が送水器機として注水口11bに直接着脱可能に連結されている点で異なる。その他の構造を第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
この第2実施形態では、第1実施形態において説明した(1の方法)及び(2の方法)に対し、貯水タンク40に一旦水を満水にする作業が必要とせず。水を揚水器機から直接注水口合流部材60を通して送水パイプ10内に送水する点が異なる。その他の方法は同様である。
(第3実施形態)
第3実施形態にかかる送水装置100が、図9に示されている。第3実施形態にかかる送水装置100は、第1実施形態にかかる装置に対して、貯水タンク40に水を供給する方法が異なる。その他の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
第3実施形態にかかる送水装置100は、貯水タンク40に水を溜める手段として、第2送水装置200を使用している。第2送水装置200は、送水パイプ10より小口径の給水ホース210と、注水タンク40より容量の小さい第2貯水タンク240を有している。第2貯水タンク240は、第2開閉装置270を介して内部の水を給水ホース210へ送水することができる。
こうして作製された第2送水装置240は、貯水タンク40が満水状態となった場合の水位が高水域に貯留部90の水と同じか、それより低くなる位置に設置することで、小口径の第2サイホン装置200を使用して高水域の貯留水を貯水タンク40内に給水することができる。こうして大口径の送水装置100の送水パイプ10内に注水するのに十分な水量を貯水タンク40内に給水することにより、送水装置100を稼働させることができる。
この際に、小口径の第2サイホン送水装置200を始動するために小口径の給水ホース210内に水を注水しなければならないが、小口径の給水ホース210は注水量が少量で済むことから人力でも十分に給水作業を行うことができる。例えば、口径Φ50mm、長さL=30mのパイプ内容積=約60リットルの給水ホース210の場合、5リットルのバケツ約12杯分であるため、バケツリレーによる給水作業でも行うことができる。従って、電気等で駆動する給水装置がなくても送水装置100を稼働させることができる。
なお、大口径の送水装置100に注水する貯水タンク40の設置箇所は、高水域にある貯留部90よりも低い位置に設置してあり、送水パイプ10は高水域にある貯留部90の水位より高い地盤を経由して貯水タンク40から注水を受け入れる注水口が備えられた注水口合流部材60を経由して低位地域に到達するように設置されている。このため、貯水タンク40から注水される水は注水口合流部材60より下流の送水パイプ10内しか満水状態にできないこととなる。この状態でも注水口合流部材60に備えられた注水口開閉装置70を閉じることにより送水パイプ10内の満水状態の水が下流方向へ移動しようとする現象に伴い、注水口合流部材60より上流部の送水パイプ10内の空気が吸引されて伴に下流方向へ移動を始める。この現象に併せて高水域にある貯留部90の水が浸漬けされた送水パイプ10の先端から送水パイプ10内へ吸水され、送水パイプ10内の空気が低地域に設けられた送水パイプ10の吐出口から吐出させることでサイホン作用を始動させることができる。この場合には高水域にある貯留部に浸漬けした送水パイプに逆止弁はなくても構わない。
また、送水パイプが注水口合流部材と接続する位置により、その上流側と下流側の送水パイプの長さが異なる場合が多いこととなる。前述のサイホン作用を始動する際に注水口合流部材より下流側の満水状態にした送水パイプの延長に対して、注水口合流部材より上流側の空気のままの送水パイプの延長の割合(比率)によりサイホン作用による送水が始動しないことが懸念されるが、上流側の空気の入った送水パイプの延長が、注水口合流部材より下流側の満水状態となった送水パイプの延長の1/2以内の延長である比率が望ましいことを幾つかの実験を繰り返した結果として検証している。
なお、本発明は上述した第1実施形態から第3実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
上述した第1実施形態から第3実施形態では、送水パイプ10は、内径が1000mmの硬質ダイポリン管の直管からなるパイプ部材を使用するものとしたが、内径の直径は特に限定するものではないし、その素材も特に限定するものではない。また直管である必要もなく、蛇腹状のパイプ部材でもよい。フレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材であってもよい。つまり、サイホン作用による送水方法であるため大気圧に押し潰されない強度を有し、パイプ及びパイプの接合部が気密及び水密な状態のもので空気や水の出入りを遮断する機能を備えた状態を保てる材質の部材であれば使用する事ができる。
また、上述した第1実施形態では、貯水タンクに水を溜める手段として揚水器機を使用したが、これに限定するものではなく、消防車のように水を吸水して放出する放水によって行っても良い。
また、上述した第1実施形態〜第3実施形態では、内径が1000mmの送水パイプ10を例に使用するものとしたが、通常の河川や砂防工事に使用される小口径の50mmの送水パイプでも同様の機能と効果を期待できる。従来では水中ポンプを使用しないと送水パイプ内を満水状態にすることが不可能と思われていたためサイホン作用も電気と水中ポンプが無いと起こせないと思われていた。本発明の送水装置の仕組みを使用すれば現場でも電気も水中ポンプも使用しないでサイホン作用を起こすことができる。例えば、ドラム缶を貯水タンクとして、それに注水口開閉装置の付いた注水口合流部材60を取り付けたものを使用して、送水パイプは50mmのサクションホースを使用し接続する。本発明と同様に高地域側と低地域側を繋ぐように配置された送水パイプより高い位置にドラム缶を設置する。バケツによる人力作業でドラム缶内に必要量の水を溜める。ドラム缶内の水注水口合流部材を通して送水パイプ内へ注水し送水パイプ内が満水状態になったらサイホン作用の起動が可能となるため、満水状態を確認して注水口合流部材の開閉弁を閉じる。これにより、高水域にある貯留部の水を高水域より低所に位置する低地域に送水させることができるため、水中ポンプや電気を使わなくても送水パイプにサイホン作用を稼働させることができる。
上述した実施の形態で示すように、河川、湖沼、土砂ダムや氷河湖等の貯留部の水を安全に安価に効率よく排水する装置として利用することができる。
10…送水パイプ、11…パイプ部材、11a…パイプ部材、11b…注水口、12…連結部材、14…フランジ部、14a…連結孔、15…部分押さえ部材、15a…固定用ボルト、15b…ナット、16…内筒部材、16a…ねじ孔、18…コック、19…送水方向切換装置、19a…流出方向切換弁、19b…注水方向切替レバー、20…逆止弁付送水パイプ、21…逆止弁、22…回動防止部、23…吸水部、23a…上方端部、30…開閉部材付送水パイプ、31…開閉部材、33…吐出口、33a…下方端部、34…フランジ、35…固定部材、35a…凹部、40…貯水タンク、41…タンク部材、50…揚水器機、60…注水口合流部材、70…注水口開閉装置、80…吐出口上下移動装置、90…貯留部、100…送水装置
本発明は、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水する送水装置及び送水方法に関する。
地震等の天災により発生した「土砂ダム(天然ダム)」や、地球温暖化により溶けはじめた氷河水により発生した「氷河湖」等は、大量の水を土砂等で堰き止めて大きな池や湖を形成している。しかし、堰き止めている土砂等は自然の崩落等により湖を堰止めているだけであるため、堰き止めている土砂等が崩壊し土石流と化す大きな危険を常に有している。こうした危険を回避するために池や湖に溜まった水を排水することで土石流の発生を防ぐ方策が検討されている。この場合、堰き止めた土砂等の上に水を直接流さないで池や湖の水を排水し水位を下げる必要がある。
しかし、土砂ダムや氷河湖等に流入する水量は膨大であるため、現在工事用に使用されている最大級の水中ポンプであっても口径がφ250mm程度であり、何十本も使用しなければ排水が追い付かないという課題がある。しかも、こうした大口径の水中ポンプは、重量が1個当たり250Kg〜300kg程度あるため人力で設置することは不可能であり、そのため重機による搬入か又はヘリコプターで運搬する必要がある。しかし、土砂ダムや氷河湖では、特に地すべりなどにより道路が寸断されていたりして搬入路が確保できないことが多く重機で搬入することが困難な場合も多い。一方、ヘリコプターも同様に、運搬可能な重量に限界があることや、着陸場所が確保できないことが多い。このように現実として、大量な大口径の水中ポンプや発動発電機などの仮設機材や重機を土砂ダムや氷河湖に運ぶのには大変な困難を要するという課題がある。
仮に水中ポンプの設置が完了したとしても、これらを稼動するためには大量の電気が必要であるが、電気はその場で発電できる大型の発動発電機を必要台数搬入してこれに頼らなければならない。また、こうした発動発電機を稼動するためには定期的に大量の燃料(軽油)を搬入して給油し続けなければならないという課題も発生する。
また、こうした大型の水中ポンプの口径に合致する送水パイプとしてはビニール製ホースが考えられる。しかし、ビニール製ホースは、例えば、割れた岩石の突起部やコンクリート構造物の曲がり角部分などに配置されると破損の原因になる。また、設置したビニール製ホースがパンパンにはち切れそうに膨らんで送水作業をしているように見えても、実際には屈折した折に内断面が狭小となったりして、通水量が大幅に落ちることがわかっている。一方で、内断面が円形に固定された硬質円断面ホースを使用すると、屈曲などによる通水断面の狭小現象が極端に少ないことから送水効率は向上するが、例えば、水中ポンプの口径250mm以上といった水中ポンプのサイズとしては比較的大きいものは、硬質の送水パイプとの接続が適合せず、水中ポンプとの接続に困難を要するという課題があった。また、自然災害により発生した土砂ダムなどの排水対策に使用する送水パイプは、口径が500mm〜1000mmの大きな口径の送水パイプが複数必要とされる。これは土砂ダムに流入する水の量が大量であることに起因する。
そこで、本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、国土交通省などが所有する災害対策用の排水ポンプ車等が寄りつける道路条件や地形的な条件が確保できるのであれば、その機能を生かして送水作業が行える送水装置を提供し、寄りつきやすい道路条件が整っていない場合では、ヘリコプターや人力運搬作業により機材を搬入しなければならないため、比較的軽量部材を組み合わせることによって搬入作業、設置作業、搬出作業が容易であって、個々の部品は搬送が容易である組み合わせ式の送水装置を提供し、大口径の送水パイプに注水する際にも何台もの水中ポンプや発動発電機などの大量な機材の搬入作業の必要性を無くし省力化した排水装置を提供する。また、電気を一時的に供給するだけでその後は電気を必要とすることなく稼働させることができるサイホン作用を応用して送水作業を行う装置であり、発電に必要な燃料の搬入作業、補給作業を省略し、消費燃料の削減と併せて、燃料消費に伴う二酸化炭素の排出を大幅に削減することができる送水装置であり、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水装置及び送水方法を提供することを主たる目的とする。
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の送水装置は、高水位域にある貯留部の水を前記高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水装置であって、
断面内径形状が容易に変形せず連結可能な硬質な部材、断面内径半径が変更されづらい蛇腹部材又はフレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材のいずれかからなる送水パイプと、
前記送水パイプと連結着脱可能であって、前記送水パイプを満水にするため水を送水する送水器機と連結着脱可能な少なくとも1カ所以上の注水口と、前記注水口から前記送水パイプへの送水量を調整可能な注水口開閉装置と、を備えた注水口合流部材とを備えたことを特徴とする。
本発明の送水装置は、高水位域にある貯留部と低地域との間に設置されて、サイホン作用によって水を高水位域の貯留部から低地域に送水するためのものである。本発明の送水パイプは、断面内径形状が容易に変形せず連結可能な硬質な部材、断面内径半径が変更されづらい蛇腹部材又はフレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材のいずれかからなる送水パイプ部材を使用することで、硬質で容易に変形しないパイプを使用している。これによって、ビニール製ホースのように、気圧に負けて断面が押しつぶされたり、屈折した折に内断面が狭小となったりすることを防止でき、送水量が減少する可能性を低減することができる。
一旦、満水となった送水パイプは、サイホン作用により、高水位域にある貯留部の水を前記高水位域より低所に位置する低地域に対して、大量の水を位置エネルギーにより送水することができる。併せて、送水パイプ内を満水とした後は、電力を必要としないため燃料の搬入も補給作業も行う必要がない。これにより送水装置の設置コストや送水コストの大幅な削減が可能とすることができる。また、多くの作業員が機材のメンテナンスのため災害現場に常駐する必要もなくなるので、安全な場所から監視することで二次災害が防止できることとなる。
本発明の送水装置において、さらに、前記注水口合流部材の注水口と連結着脱可能であって、前記送水パイプを満水にするのに十分な貯水量を有する貯水タンクとを備えたものであってもよい。サイホン作用によって水を連続的に送水するためには、送水パイプ全体が満水状態になる水量を一度に充填しなければ十分なサイホン作用を起こすことができない。しかし、詳細は後述するが、通常の土木工事において使用される口径の水中ポンプを用いてそれ以上の大きさの口径の送水パイプ内を直接満水状態にしながら送水パイプ内の空気を下流側の吐出口から押し出すことは大変困難である。そこで、送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに揚水器機によって貯水した後に、送水パイプの口径以上の注水口を通して一気に送水パイプに水を送ることによって、容易に送水パイプ内の空気を下流側の吐出口に押し出しながら送水パイプ内を水で充填させるものとした。また、貯水タンクに一度に大量の水を送る必要がないので、比較的小さな揚水器機等からなる送水装置を使用することができる。そのため必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。
なお、送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに貯水するための揚水器機としては、例えば人力で運搬可能な重量20kg程度の100Vの発電機と、100Vで稼働する重量20kg程度の口径Φ100mmの水中ポンプを必要数使用して貯水タンクに貯水する等比較的省電力の揚水器機を用いることができる。そのため必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。
さらに、本発明の送水装置は、送水器機が排水ポンプ車、消防車その他水中ポンプ等の給排水能力を備えた車両の揚水器機であってもよい。土砂ダムなど災害が発生した現場へ乗り入れることができる道路条件や地形的条件が満たされている場合は、国や自治体が所有する災害対策車両の排水ポンプ等の大量給排水機能を活かして直接注水口合流部材の注水口と連結して送水パイプ内へ注水し、サイホン作用を機能させることができる。さらに、注水口に設けられている注水口開閉装置を閉じて、送水器機と着脱自在な注水口から送水器機の連結部を外して、他の送水パイプの注水口に連結することで、同じ送水器機又は貯水タンクを使用して2本目の送水パイプに注水作業を行うことができる。この作業を繰り返すことで、1つの送水器機又は貯水タンクを使用して複数の送水装置にサイホン作用を起こすことができる。
さらに、本発明の送水装置は、放水器機により貯水タンクに水を貯水するものであってもよい。貯水タンクに水を貯水するに際しては、災害対策車両の排水ポンプ車等によって、放水によって貯水するものであってもよい。
また、本発明の送水装置において、前記送水器機は、送水パイプより小口径の給水用ホースと、貯水タンクより小容量の第2タンクとを有する第2送水装置であってもよい。小口径のサイホン装置を採用することで、小口径送水パイプへの注水量が少量で済むため、小口径貯水タンクへの給水は人力によって行うことも可能となる。そのため電力等が全く使用できない場合に有効な手段となる。
また、本発明の送水装置において前記送水パイプは、複数のパイプ部材と、それぞれのパイプ部材を連結可能な連結部材と、を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、硬質のパイプ部材であっても運搬に容易であり、現場で容易に連結して送水パイプを設置することができる。また、送水パイプは、それぞれ連結可能な複数のパイプ部材からなるため、土砂ダム等の災害現場や氷河湖等が存在する場所のように、車両による搬入が困難な場合であっても、各部材を複数の部材に分割したことによってヘリコプターによる搬入が可能となり、硬質で容易に変形しないパイプを使用することができる。これによって、ビニール製ホースのように、気圧に負けて断面が押しつぶされたり、屈折した折に内断面が狭小となったりすることを防止でき、送水量が減少する可能性を低減することができる。
また、本発明の送水装置において、前記注水口近傍の送水パイプには、高水位域側に配置される送水パイプ及び低地域側に配置される送水パイプのいずれかに水を送水することを切換可能な送水方向切換装置を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、送水する水を高水位域側又は低地域側のいずれかに送水を切り替えることができ、最適な方法で送水パイプ内の水を満水にすることができる。
また、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは、組み合わせ可能な複数のタンク部材よりなるものであってもよい。かかる構成を採用することによって、送水パイプを満水にするのに十分な貯水量を有するために大きな貯水タンクが必要な場合であっても、比較的小さな複数のタンク部材を複数組み合わせることによって、大容量の貯水タンクを形成することができる。組み合わせ可能な複数のタンク部材とすることで、土砂ダムや氷河湖等の場所のように、重機やヘリコプターによる搬入が困難な場合においても、人力により運搬することができる。
また、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは、折り畳み可能なフレキシブル素材であってもよい。軽量で運搬が容易なフレキシブルな構造の大型貯水タンクであれば折り畳みが可能で収納が狭い空間で行える。軽量で運搬が容易であればヘリコプターでの搬入も容易になる。これによれば、被災地へ迅速に運搬することが可能となり、設置する際にも大型の貯水タンクとして人力で構築作業を容易にこなすことができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは貯水された水を密閉可能であり、貯水タンク内に圧縮空気又は炭酸等の気泡が発生する気泡発生剤を投入することにより、貯水タンク内の圧力を増加させることによって、送水パイプに水圧のかかった水を送水可能であってもよい。かかる構成を採用することによって、送水パイプ内に水を満水とする時間を短縮することができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは貯水された水を密閉可能であり、前記貯水タンクに圧力又は荷重をかけることによって、送水パイプに水圧のかかった水を送水可能であってもよい。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプには、前記送水パイプ内の空気を排出又は前記送水パイプの外の空気を吸入する少なくとも1以上の空気吸排出用バルブ又はコックを備えていてもよい。送水パイプによって、サイホン作用を起こさせるためには、前述したとおり、送水パイプ内を満水にする必要がある。しかし、最下流部の吐出し部から溜まり始めた水が順次上昇する際に送水パイプ内の空気を排出しなければならない。そこで、空気吸排出用のバルブを設けることによって、水位の上昇に伴なって効果的に空気を排出することができ、送水パイプ内に空気が残ることを防止できる。そのため、容易に送水パイプ内に水を満たすことができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプの高水位域側端部には、吸水部に排水を防止する逆止弁を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、貯留部に最初に沈めた際には、水が送水パイプの高水位域側端部から浸水し、より迅速に送水パイプ内に水を溜めることができる一方で、貯水タンクから水が送られ高水位域側端部から水が排水される状況になった場合は、高水位域側端部の端部に設けられた逆止弁付送水パイプの逆止弁が排出する水の水圧により閉じるため、送水パイプ内の水が排出されるのを防止することができる。なお。逆止弁の設置方法としては送水パイプの先端に加工して取り付けても良いし、別部材である逆止弁を送水パイプに接続しても良い。
さらに、本発明の送水装置において、前記逆止弁は、前記逆止弁付送水パイプの上端部と前記逆止弁の上端部とで回動可能に連結されており、内側からの水圧により前記逆止弁付送水パイプの下端部に形成された回動防止部で係止されて密閉状態とするものであってもよい。かかる構成を採用することで、構造がシンプルでありながら、逆止弁付送水パイプの開口における水の流れが排出する方向に水が流れている場合は、自動的に密閉し、吸引する方向に水が流れている場合は、自動的に開放することができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記回動防止部は、前記逆止弁付送水パイプの下端部であって、かつ送水パイプの上端部の位置より下流側に形成されてなり、前記逆止弁は、斜めに止まった状態で密閉状態とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、逆止弁の下端部を係止するパイプの下端部は上端部の位置より送水方向の下流側に控えた位置となるため、逆止弁が自重により鉛直方向に下がろうとする途中で係止され給水部を密閉することができる。
さらに、本発明の送水装置において、吐出部となる前記送水パイプの低地域側の端部には、開口を開閉する開閉部材を有する開閉部材を備えているものであってもよい。かかる構成を採用することによって、サイホン作用を起こすための作業として送水パイプ内に水を満たす際に、水が低地域側の端部から排出することを防止できるため、容易に送水パイプ内の水を満水にすることができる。また、サイホン作用によって、水を高水位域の貯留部から低地域に送水している最中であっても、開閉部材を閉じることによって、容易に水の送水を停止させることができる。この際に、改めて送水パイプ内に水を満たす必要はなく、開閉部材を開放すれば、直ちに送水を継続することができる。開閉部材は開閉弁を回転させて開閉作業をするものでも良く、また開閉バルブ、開閉コックなどであっても良い。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプの低地域側の前記吐出口の下端を送水パイプの直径以上の高さまで上下移動させる吐出口上下移動装置を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、吐出口の高さを送水パイプの直径以上に上げておくことにより、高水位域にある貯留部の水面が吐出口の高さ付近まで下がり、水位差が現象することにより水圧が下がった場合であっても、吐出口から空気が送水パイプ内に流入させることを防止できる。そのため、サイホン作用を失う可能性を低減させることができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプには、送水パイプ内を流れる水を制止又は通水させる開閉装置が少なくとも1以上備えられていてもよい。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯留部内に配置される前記送水パイプには、少なくとも1つの浮力部材が備えられていてもよい。かかる構成を採用することによって、貯留部内に配置される送水パイプの位置を水面の高さの変更にかかわらず水面から同じ深さの位置に保持することができるので、吸水部が下がりすぎて、貯水部の底に溜まっている泥や石を吸い込むことを防止する事ができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプは、サイホンの作用を活かして送水する送水量が目的に合う流量であれば、水中ポンプでは最小の口径となるφ50mm以上であってもよい。本発明の送水装置は、送水パイプの口径に比べて揚水機器の送水口径がそれ以上の大きな口径であれば、揚水器機の排水側を送水パイプと連結した注水合流部材に直接連結することができ、揚水器機の口径が送水パイプの口径より小さい場合は、前記注水口合流部材と連結した貯水タンク内に一旦必要水量を貯水してから送水パイプに送水する方法をとるというように、揚水器機の口径によって選択することができる。
さらに、本発明の送水装置において、送水パイプを注水口合流部材と連結する位置は、一方の注水口合流部材より下流側の送水パイプの延長比率1に対して、他方の上流側の送水パイプの延長の比率を一方の1/2以内の延長として送水装置を設置する方法をとっても良い。
さらに、本発明の送水装置において、水を注水口合流部材を通して送水パイプ内へ注水し送水パイプ内が満水状態になったら注水口合流部材の開閉弁を閉じ、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水方法をとっても良い。
本発明の送水方法は、前述に記載の送水装置を使用して、
一方側の逆止弁が形成された送水パイプを高水位域にある貯留部に配置し、
他方の開閉弁が形成された送水パイプを低地域に配置するように送水パイプを設置し、
他方の開閉弁が形成された送水パイプの開閉弁は開いた状態にして、前記注水口に連結
された送水器機から水を送水パイプ内へ送水し、
送水パイプ内を水で満たし高地域の貯留部の水が前記送水パイプを通じて低地域と一体化した後に、注水合流部材に備えられた注水口開閉装置を閉鎖することで、高地域側の貯留部の水が送水パイプ内へ吸い込まれることにより逆止弁が水圧に押されて開き、サイホン作用により高水位域の水を低地域に移動することを特徴とする。かかる方法を採用することによって、電気等のエネルギーを必要とせず位置エネルギーのみで貯留部の水を低地域に送水することが可能になる。また、土砂ダムなどの現場へ車両などが寄り付くことができる道路条件や地形的条件が満たされている場合は、国土交通省などが所有する災害対策車両の排水ポンプ車の給排水機能を利用して、その排水機能で本送水装置の送水パイプ内へ注水しサイホン作用を起動させることができる。
また、本発明の送水方法において、一方側の逆止弁が形成された送水パイプを高水位域にある貯留部に配置し、他方の開閉弁が形成された送水パイプを低地域に配置するように送水パイプを設置し、送水器機により注水口から送水パイプ内へ注水し、送水パイプ内を水で満たした後、注水口開閉装置を閉じ、低地域の開閉部材を開くことにより、高地域側の貯留部の水が送水パイプ内へ吸い込まれることにより逆止弁が水圧に押されて開き、高地域の貯留部の水が前記送水パイプを通じてサイホン作用によって、低地域に移動するであってもよい。
なお、前述の道路条件や地形的な条件が整っていない場合は、ヘリコプター又は人力作業による搬入が可能となる各部材を組み立てることにより貯水タンクを現地に設ける方法を取ることができる。
図1は、第1実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図2は、第1実施形態にかかる送水装置100のパイプ部材11の連結構造部を示す側面図及び断面図である。
図3は、第1実施形態にかかる送水装置100の送水方向切換装置19を示す断面図である。
図4は、第1実施形態にかかる送水装置100の逆止弁付送水パイプ20の構成を示す断面図である。
図5は、第1実施形態にかかる送水装置100の開閉部材付送水パイプ30の構成を示す側面図である。
図6は、第1実施形態にかかる送水装置100の吐出口上下移動装置を取り付けた状態と取り付けていない状態をしめす側面図である。
図7は、図1のA部の拡大図である。
図8は、第2実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図9は、第3実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
まず、本発明の送水装置及び送水方法の実施の形態について説明するにあたり、本発明の技術的思想について説明する。本発明の送水装置は、高水位域にある貯留部と低地域との間に設置されて、サイホン作用によって、水を高水位域の貯留部から低地域に送水するためのものである。しかし、サイホン作用によって水を連続的に送水するためには、送水パイプの全体において満水状態になる水量を一度に充填しなければ十分なサイホン作用を起こすことができない。なぜなら、完全なサイホン作用を発生させるためには、送水パイプ内に水が100%近く充填された満水状態で送水パイプ内の水が移動し続けることが重要だからである。しかし、水中ポンプを用いて送水パイプ内を満水にしようとする場合において、水中ポンプの口径が送水パイプの口径より小さい場合、送水パイプ内を満水状態にするのに必要な地形の形状が以下に限定される。つまり、送水パイプの下流端の吐出部が上流部の貯水池の水位よりも低いこと、送水パイプが下流端より上流に向かうに伴って順次高くなるように設置されていること、などが必要である。このような送水パイプの配管が整った状態において、吐出口を遮閉し、送水パイプ内へ水中ポンプで送水を続けて満水状態にする作業を行うと、上流側から送水された水が遮閉された吐出口に到達すると、水は順次上流方向へ送水パイプ管内を満たしながら水面を上げて満水状態の範囲を増加していく。送水パイプ内全体が満水状態になった時点で下流端の開閉弁を開くことによりサイホン作用が働いて、自然エネルギーによる送水作業が稼働することとなる。この現象は、あくまで理想的な地形の箇所に送水パイプを設置した場合でなければ達成することができない。
しかし、地すべりなど自然災害により発生し、土砂ダムを形成した崩落土砂は複雑な凹凸形状で堆積しているため、前述のような下流側から上流側へ向かって順次高くなっているような理想的な形状にはならない。崩土により堆積した土砂の表面形状は非常に起伏に富んだ複雑な形状になっている。送水パイプが起伏に富んだ地形に設置されている場合においては、送水パイプ内を流れる水は送水パイプの起伏の低い部分に溜まってしまう現象が起きる。
送水パイプの起伏が高い部分となっている箇所における送水パイプの内径の底部分は、送水作業を行っている水中ポンプの送水能力の流量だけは越流して下流側に流れることになるが、送水パイプの内径底部分の水が流れている断面以外の空間は空気が溜まってしまうことになる。この空気が送水パイプの幾つかの起伏のそれぞれの頂点に集まって圧縮されることで、送水パイプの内断面を閉塞しサイホンの作用による送水量を著しく減少させる原因となる。
このような現象が起伏に富んだ地形に配置した送水パイプの幾つかの高い箇所でそれぞれ現れることとなり、サイホン作用を起動するために下流側の吐出口を開放しても、送水パイプの断面一杯に送水される作業量は殆ど期待できないこととなる。これらの現象は発明者が長年にわたる実験や災害現場での作業で経験していることであり、この現象を起こさせないサイホン作用は如何にあるべきかを研究してきた。このような経験から効率の良いサイホン作用を起動し稼働させる送水装置と送水方法を発明したものである。
その発明の内容としては、送水パイプに注水する段階で送水パイプの上流側から順次に全断面を満水状態にしながら下流方向へ注水する起動方法である。ただし、例えば直径1000mmの送水パイプを使用して、良好なサイホン作用を起動させる場合は、口径が200mmの水中ポンプを少なくても25台使用して同時に注水作業を行なわなければならない。被災地では電源が途絶えていることを想定して、25台の水中ポンプの全てを同時に稼動させるだけの200Vを発電する発動発電機を必要台数搬入しなければならない。その台数は送電距離や揚水高さにより多少に違いはあるが、安全側をみて125KVAクラスの発動発電機が10台は必要となる。この発電機は、重量が2100kg以上ある。また、口径Φ200mmの水中ポンプは重量が200kg以上あるが、25台必要となるため、これを搬入して設営して起動するには相当の時間と労力を要することとなる。また、人力では移動や据え付けが出来ないため大型の重機が必要となる。災害発生現場に大型の重機を搬入するには道路網の寸断や機材の確保に相当の困難を要し実現不可能である。実際に地すべり災害が起きて土砂ダムが発生してもこの緊急時に大型重機が搬入された例は殆ど実績がない。従って緊急時の作業としては実施しなければならない作業であっても実施されてこなかった。
そこで、本発明は、一旦送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに揚水器機として、例えば人力で運搬可能な重量20kg程度の100Vの発電機と、100Vで稼働する重量20kg程度の口径Φ100mmの水中ポンプを必要数使用して貯水タンクに十分な水量を貯水した後に、一気に送水パイプの口径以上の水を送ることができる。そのため容易に送水パイプ内に水を充填することができる。また、揚水器機で水を揚水する際には、一度に大量の水を送る必要がないので、比較的小さな揚水器機を使用することができる。そのため同時に必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。そして、貯水タンクから送水されて一旦満水となった送水パイプは、サイホン作用により、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に対して、位置エネルギーのみで大量の送水することができるものとしたのである。
上記、本発明の送水装置及び送水方法の実施形態について、図面に基づいて、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではない。
(第1実施形態)
第1実施形態にかかる送水装置100が図1に示されている。図1は、第1実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。第1実施形態にかかる送水装置100は、主として、水を送水する送水パイプ10と、送水パイプ10と連結する注水口11bと、送水パイプ10への送水量を調整可能な注水口開閉装置70とを備えた注水口合流部材60を連結した送水装置100であり、送水パイプ10のそれぞれの端部に取り付けられる逆止弁付送水パイプ20及び開閉部材付送水パイプ30と、送水パイプ10に水を供給する貯水タンク40と、この貯水タンク40に水を揚水する送水器機としての揚水器機50と、を備えている。
送水パイプ10は、図2に示すように内径がφ1000mm又はそれ以上の硬質塩化ビニール製の直管からなるパイプ部材11と、これら複数のパイプ部材11を互いに連結可能な連結部材12とを備えている。連結部材12は、外面側に、パイプ部材11の先端部を装着させる内筒部材16と、この内筒部材16と反対側の面において互いに密着させてネジ締結またはボルト締結させる連結孔14aを有するフランジ部14とを備えている。この内筒部材16をパイプ部材11の端部から内部に向けて挿入して、パイプ部材11の外側から部分押え部材15を配置して、部分押え部材15、パイプ部材11及び内筒部材16を固定用ボルト15aが貫通し、内筒部材16に設けられたねじ孔16aに固定用ボルト15aが回転挿入され、内筒部材16の外側からナット15bで固定用ボルト15aを固定することで、部分押え部材15とパイプ部材11と内筒部材16とを固定し一体化することが可能である。こうして連結部材12は、部分押さえ部材15及び内筒部材16によって筒体構造の一方端部がフランジ部14によって塞がれてなり、内筒部材16の内側に送水路が形成される。部分押さえ部材15と内筒部材16との間の隙間及び内筒部材16とパイプ部材11との間には、コーキング剤が介されているため、水漏れが完全に防止される。フランジ部14には、連結孔14aが形成されており、フランジ部14を互いに密着させた状態で連結部材12をボルト締結することで、パイプ部材11を連結することができる。こうして複数のパイプ部材11が連結され、送水パイプ10が形成される。パイプ部材11のうちの1つには、詳細は後述する貯水タンク40と連結される注水口11bを備えている。また、パイプ部材11のうち注水口合流部材60を介して連結される連結部近傍に配置されるパイプ部材11aには、送水パイプ10内と外気との間で空気を吸排出可能な空気吸排出用バルブ又はコック18を備えている。なお、空気吸排出用バルブ又はコック18は水も排出可能である。
また、送水パイプ10のうち、注水口を有するパイプ部材11には、図3に示すように、送水された水を高水位域側又は低地域側への送水を切換可能な送水方向切換装置19を備えている。送水方向切換装置は、注水口11bに注水方向切替レバー19bを移動させることによって流出方向切換弁19aの位置を切り替えることができるものである。この流出方向切換弁19aの位置を切り替えることによって、送水方向を切り替えることができる。例えば、流出方向切換弁19aがαの位置に配置されている場合は、水はα’の方向へ送水され、βの位置に配置されている場合は、水はβ’の方向へ送水されることになる。さらに、γの位置に配置されている場合は、流出方向切換弁19aが収納されている状態であり、両側へ水を送水することができる。
逆止弁付送水パイプ20は、高水位域にある貯留部90に配置される送水パイプ10の端部に取り付けられるものである。逆止弁付送水パイプ20は、図4に示すように、端部に形成される吸水部23に逆止弁21を備えている。逆止弁21は、吸水部23の内径より若干直径の大きい板状部材からなり、吸水部23の上方端部23aと1カ所で内側に回動可能に連結されている(矢印C参照)。また、吸水部23の内周であって、吸水部23の端部より若干内側に断面V字状の回動防止部22が設けられている。この回動防止部22は、逆止弁21が閉じられた場合に逆止弁21の外周を当接させて、これ以上外側へ逆止弁21が回動しないようにする。この回動防止部22によって、逆止弁21は、回動防止部22より外側に回動することはなく、回動防止部22に当接した状態で吸水部23を封止することができる。また、逆止弁21は、吸水部23の上方端部23aに回動可能に連結されているので、自身の重量により鉛直方向へ回動するため、吸水部23を閉じる方向に付勢される。また、回動防止部22が吸水部23の端部より内側に形成されているので、逆止弁21が吸水部23を封止する際は、上方から下方に向かって逆止弁付送水パイプ20の内側方向に傾いた状態になる。従って、逆止弁21は、水流がない場合に自身の重量によって回動防止部22に当接し封止し易い構造となっている。また、この現象により、当初に送水パイプ10内に水を充填する作業を行う際にも閉じた状態の逆止弁21を送水パイプ10内から水圧でいっそう閉じる作用を働かせることができるので吸水部23からの水漏れが起こりにくい。
開閉部材付送水パイプ30は、低地域側に配置される送水パイプ10の端部に取り付けられるものである。開閉部材付送水パイプ30は、図5に示すように、端部に形成される吐出口33に開閉部材31を備えている。開閉部材付送水パイプ30の端部には、外周から外方へ延出したフランジ34を備えており、開閉部材31は、このフランジ34の大きさとほぼ同様の大きさに形成され、フランジ34の下方端部33aに外側へ回動可能に取り付けられている(矢印D参照)。また、上方端部には、フランジ34及び開閉部材31を閉じた状態で固定することができる固定部材35を備えている。固定部材35は、凹部35aを備えており、矢印Eに示すように、起こすことによってフランジ34及び開閉部材31を挟持でき、倒すことによってフランジ34及び開閉部材31を開放できる。
吐出口上下移動装置80は、図6Aに示すように、吐出口33を吐出口33の直径の高さ以上の高さまで自在に移動可能に形成されている。移動させる機構は特に限定するものではなく、従来から存在する機構を利用することができる。
貯水タンク40は、図7に示すように、送水パイプ10内に水を満たす際に、送水パイプ10内に水を直接供給するためのものである。貯水タンク40は、複数のタンク部材41を組み合わせて大容量のタンクとすることができる。貯水タンク40は、フレキシブルな素材を使用した折り畳み自由で貯水した場合の水圧荷重にも耐えるもの。又は、複数のタンク部材41を組み合わせて大容量のタンクとすることができるもの。例えばコンクリート構造物を構築する際の鋼製メタルフォーム(型枠材料)などであれば、運搬は可能な範囲に分割して行う事が出来る利便性があり、災害箇所の送水パイプの規模にその都度毎に応じて必要な貯水タンクの大きさに組み立てる事が自由にできるなどの特徴を備える。そのため、1つ1つのタンク部材41は、人力で運搬可能な大きさ重さである。そのため運搬が容易であるにもかかわらず、現地では大容量のタンクを提供することができる。
揚水器機50は、図1に示すように、高水位域にある貯留部90の水を貯水タンク40に水を汲み入れるためのものである。揚水器機50は、ポンプ(図示しない。)、吸水口及びホース等からなる。ポンプは特に限定するものではく、国土交通省が所有する災害復旧用送水ポンプ車等の従来からある既知のポンプを使用することができる。揚水器機50は、一度に送水パイプ10内の水を満水にするものではなく、一旦大量の水を貯水タンク40に溜めるものであるので、大型ポンプである必要はない。
注水口合流部材60は、貯水タンク40と送水パイプ10との間に配置され、貯水タンク40の水を送水パイプ10へ送るためのパイプである。また、注水口合流部材60には、貯水タンク40及び送水パイプ10と連結着脱可能な注水口と、途中に水の供給、停止及び水量を調整できる注水口開閉装置70が設けられている。
以上のように構成された送水装置100について、図1を参照して設置方法及び使用方法について説明する。まず、一方側の逆止弁付送水パイプ20を高水位域にある貯留部90に配置する。そして、他方の開閉部材付送水パイプ30を低地域に配置するように送水パイプ10を設置する。その後、「高水位域の逆止弁付送水パイプ20」と、「低地域の開閉部材付送水パイプ30」との間であって、送水パイプ10の全延長の内の最高部より高い位置に「貯水タンク40」を設ける。さらに、貯水タンク40の近傍の送水パイプ10に「貯水タンク40との合流部」を設けて貯水タンク40と着脱可能に連結し一体化する。この際に、この貯水タンク40と送水パイプ10を繋ぐ注水口開閉装置70を備えた「注水口合流部材60」の通水断面は、送水パイプ10の口径と同じか、それ以上の大きさとなっていることが望ましい。また、注水口合流部材60は、貯水タンク40内に溜まった水を、送水パイプ10内へ勢いよく放出する際には、その貯水タンク40に溜まった水圧を利用して放出するため、注水口合流部材60を設ける位置は貯水タンク40の下方が望ましい。
そして、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を閉じた状態で、貯留部90の水を揚水器機50によって貯水タンク40へ貯水し、貯水タンク40内に送水パイプ10の全延長を満水状態にできる以上の水が溜まるまで揚水を続ける。貯水タンク40内に送水パイプ10の全延長のパイプ内を満水状態にすることができる水量以上が溜まったことを確認出来たら揚水作業を停止する。
揚水作業が完了した後、注水口開閉装置70を備えた「注水口合流部材60」のバルブを全開とする。貯水されたことによって水位が上昇し水圧を受けた状態の貯水タンク40内の水は、送水パイプ10を繋ぐ注水口合流部材60を通って送水パイプ10に押し出される。押し出された水は、貯水タンク40より低い方向へ流れる。つまり低地域側にも高水位域側にも勢いよく流下する。高水位域の逆止弁付送水パイプ20の方向に流れた水は備えられた逆止弁21を水圧により閉めるため流下する水は行き止まりとなって高水位域の送水パイプ10内を満水状態とする。満水になると共に高水位域の送水パイプ10内を押し出された水は「開く状態」になった空気吸排出用バルブ又はコック18から送水パイプ10の外へ排出される。送水パイプ10内が満水状態になったら空気吸排出用バルブ又はコック18を閉める。貯水タンク40から放出された水は高水位域への流れを止めて低水域の方向へのみ流れ続けることになる。
ここからは、送水量の違いにより、送水パイプ10にサイホン作用を起動するための2通りの方法に分かれる。
(1の方法)「注水口合流部材60」の通水断面が送水パイプ10の通水断面と同じか又はそれより大きい場合。
1−1.低地域の開閉部材付送水パイプ30の開閉部材31は開いたままで良い。吐出口33を噴出してくる水は当初は空気と混じって白い水が吐出されてくるが、送水パイプ10内が満水状態になると透明な水に変化するのが確認できるため、これを確認したら「注水口合流部材60」に備えた注水口開閉装置70を閉じて貯水タンク40からの水の放出を停止する。
1−2.貯水タンク40からの放出が止まると、下流側となる低地域の開いた状態の開閉部材付送水パイプ30の吐出口33からは引き続き水が放出されるため、送水パイプ10内の満水状態の水が下流側へ流れる作用が働く。
1−3.この下流側へ流れる作用により、高水位域の逆止弁付送水パイプ20に備えられた逆止弁21は送水パイプ10内で下流側へ引かれると同時に、高水位域にある貯留部の水が逆止弁21を押して送水パイプ10内に流入する現象が発生しサイホン作用が稼働し始めることとなる。
1−4 サイホン作用を一時停止しようとする場合は、あらかじめ送水パイプ10のどこか1カ所以上に開閉装置を設けておき、これを閉じることで送水パイプ10内を満水状態としたまま水の移動を一時停止することができる。
1−5 サイホン作用を終了しようとする場合は、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を開放した状態で貯水タンク40内の水を全て送水パイプ10内へ放流した後に続き空気を送水パイプ10内へ流入させることでサイホン作用は終了する。
この方法において、貯水タンク40に水を溜める段階で、低地域の開閉部材付送水パイプ30の開閉部材31は閉じた状態とし、注水口合流部材60に備えた注水口開閉装置70を開いた状態にして貯水タンク40に注水をすると、タンク内に流入した水は送水パイプ10の中を流れてその流下量に合った形で送水パイプ10内に水が入ることになる。この流下能力である程度送水パイプ10内を満たしておいて、今度は注水口合流部材60に備えた注水口開閉装置70を閉じた状態にして、再度、貯水タンク40に貯水を行い。前述の作業を行うことで一層容易に送水パイプ10内を満水にする事ができ、サイホンの作用を起こす事ができる。
この際に、貯水タンク40内に圧縮空気又は炭酸等の気泡が発生する気泡発生剤を投入することにより、貯水タンク40内の圧力を増加させることによって、送水パイプ10に水圧のかかった水を送水したり、貯水タンクに荷重をかけることによって、送水パイプ10に水圧のかかった水を送水したりすることによって、迅速に貯水タンク40の水を送水パイプ10に移動させることができる。
(2の方法)「注水口合流部材60」の通水断面が送水パイプ10の通水断面より小さい場合。
2−1「注水口合流部材60」の注水口開閉装置70を開くことによって貯水タンク40の水を送水パイプ10内に送水し、
2−2 送水パイプ10内の通水断面より小さな流量で送水パイプ10内を満水にする場合は、下流側の開閉部材により閉鎖された吐出口より順次上流側へ送水パイプ10内を満たしながら送水パイプ10全体を満水状態にした後に、低地域の開閉部材を開く。
2−3 送水パイプ10内の水が吐出されるのと同時に送水パイプ10内の水が一体となって下流へ移動することになる。この現象に伴い高地域側の貯留部90の水が送水パイプ10内へ吸い込まれることにより逆止弁21が水圧に押されて開く。
2−4 高地域の貯留部90の水が送水パイプ10を通じて低地域と一体化した後に注水口合流部材60の注水口開閉装置70を閉鎖する。この場合、貯水タンク40内に少々の水が残る状態で注水口開閉装置70を閉鎖するのが望ましい。
2−5 その後は送水パイプ10内のサイホン作用によって、高水位域の水を低地域に移動することができる。
2−6 サイホン作用を一時停止使用とする場合は、あらかじめ送水パイプ10のどこか1カ所に開閉装置を設けておき、これを閉じることで送水パイプ10内を満水状態としたまま水の移動を一時停止することができる。
2−7 サイホン作用を終了しようとする場合は、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を開放した状態で貯水タンク40内の水をすべて送水パイプ10内へ放流した後に続き、空気を送水パイプ10内へ流入させることでサイホン作用は終了する。
この際に、吐出口33の直径の高さ以上の高さまで持ち上げることで、吐出口33から空気が侵入することを防ぐことができる。すなわち、吐出口33が低く形成されていると、吸い込み側(上流側)の水位が下がった場合に水位差による水圧が減少するため、吐出口から放水する水にも勢いが減少する。これにより、送水パイプ10の吐出口の通水断面を満たした状態での放水現象から変化し、図6Bに示すように、吐出口33から矢印F’に示すように、空気が送水パイプ10内の状部から流入していき、サイホン作用を失う可能性があるが、吐出口33の直径の高さ以上の高さまで持ち上げることで、図6Aに示す、空気流入限界線G以下に空気が流入することがない。これにより、吸い込み側と吐出し側の水位の高さが一緒になった場合に水の移動が停止してもサイホン作用が再起動する状況は持続される。したがって、吸い込み側(上流側)の水位が上昇すれば自動的にサイホン作用が始まって、送水作業が再開される。
以上のように構成された送水装置100によれば、一旦準備が整いサイホン作用により水を高水位から低地域に排水できるようになれば、その後は電力を必要とすることなく、自然エネルギーによって、貯留部の水を低地域に流し続けることができる。そのため、その後電力を必要としないため燃料の搬入も補給作業も行う必要が無いことも大きな効果として特徴を持つ。これにより送水装置の設置コスト、送水コストや送水作業の維持管理に大幅なコスト削減が可能となった。また、多くの作業員が機材のメンテナンスのため災害現場に常駐する必要もなくなるので、安全な場所から監視することで二次災害が防止できることとなる。
また、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、硬質なパイプを用いているので送水パイプ10が屈曲した位置で潰れたり、送水パイプ10内の水が減った場合に潰れたりすることがなく、送水量が減少する可能性を減らすことができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、送水部材、貯水タンク等の大きな装置は、分解可能であるので、運搬に容易であり、重機やヘリコプター等が侵入不可能な地域であっても、人力で運搬することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、揚水器機50等のポンプから直接に送水パイプ10に水を充填するものではなく、一旦、貯水タンク40に水を貯水した後に送水パイプ10内に水を充填するので、大容量の揚水器機を必要とすることなく、小さな揚水器機50を使用して貯水タンク40に水を溜めて使用することができる。そのため、揚水器機50に必要な電力も大容量の揚水器機を稼働させる電力量より少なくて済み、小さな発電機を使用することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、逆止弁付送水パイプ20を高水位域側の端部に備えているので、注水口合流部材60から流れてきた水を逆止弁送水パイプ内に留めることができ、サイホン作用稼働時においては貯留部90の水を吸引することは可能であるが、一旦吸引した水を逆に排出する可能性を低減することができる。そのため効率よく、水を低地域に排出することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、空気吸排出用バルブ又はコック18を送水パイプ10の一部に備えてあるので、送水パイプ10内の空気を容易に排出することができる。これは、送水パイプ10内に初めて水を充填する時に限らず、使用中に送水パイプ10内に空気が溜まった場合等であっても、貯水タンク40から水を送水しつつ空気吸排出用バルブ又はコック18を開放することによって容易に送水パイプ10内の空気を排出することができる。そのため送水量の減少があった場合でも容易に元の送水量に復帰させることができる。一方で、送水を停止したい場合には、空気吸排出用バルブ又はコック18を開放すれば、空気が吸引され送水パイプ10内の水を排出することができる。また、送水パイプ10の全延長の中で作業員が寄り付き易い箇所で少なくても1カ所以上に送水パイプ10の開閉装置を設け、稼働中に閉めるとサイホンの作用が作動する環境のまま送水作業を停止することができる。開閉装置を開けると再び送水作業が稼働することとなる。
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる送水装置100が図8に示されている。第2実施形態にかかる送水装置は、第1実施形態にかかる送水装置100に対して、貯水タンク40が存在せず、代わりに排水ポンプ車の揚水器機が送水器機として注水口に直接着脱可能に連結されている点で異なる。その他の構造を第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
この第2実施形態では、第1実施形態において説明した(1の方法)及び(2の方法)に対し、貯水タンク40に一旦水を満水にする作業が必要とせず。水を揚水器機から直接注水口合流部材60を通して送水パイプ10内に送水する点が異なる。その他の方法は同様である。
(第3実施形態)
第3実施形態にかかる送水装置100が、図9に示されている。第3実施形態にかかる送水装置100は、第1実施形態にかかる装置に対して、貯水タンク40に水を供給する方法が異なる。その他の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
第3実施形態にかかる送水装置100は、貯水タンク40に水を溜める手段として、第2送水装置200を使用している。第2送水装置200は、送水パイプ10より小口径の給水ホース210と、注水タンク40より容量の小さい第2貯水タンク240を有している。第2貯水タンク240は、第2開閉装置270を介して内部の水を給水ホース210へ送水することができる。
こうして作製された第2送水装置240は、貯水タンク40が満水状態となった場合の水位が高水位域に貯留部90の水と同じか、それより低くなる位置に設置することで、小口径の第2サイホン装置200を使用して高水位域の貯留水を貯水タンク40内に給水することができる。こうして大口径の送水装置100の送水パイプ10内に注水するのに十分な水量を貯水タンク40内に給水することにより、送水装置100を稼働させることができる。
この際に、小口径の第2サイホン送水装置200を始動するために小口径の給水ホース210内に水を注水しなければならないが、小口径の給水ホース210は注水量が少量で済むことから人力でも十分に給水作業を行うことができる。例えば、口径Φ50mm、長さL=30mのパイプ内容積=約60リットルの給水ホース210の場合、5リットルのバケツ約12杯分であるため、バケツリレーによる給水作業でも行うことができる。従って、電気等で駆動する給水装置がなくても送水装置100を稼働させることができる。
なお、大口径の送水装置100に注水する貯水タンク40の設置箇所は、高水位域にある貯留部90よりも低い位置に設置してあり、送水パイプ10は高水位域にある貯留部90の水位より高い地盤を経由して貯水タンク40から注水を受け入れる注水口が備えられた注水口合流部材60を経由して低位地域に到達するように設置されている。このため、貯水タンク40から注水される水は注水口合流部材60より下流の送水パイプ10内しか満水状態にできないこととなる。この状態でも注水口合流部材60に備えられた注水口開閉装置70を閉じることにより送水パイプ10内の満水状態の水が下流方向へ移動しようとする現象に伴い、注水口合流部材60より上流部の送水パイプ10内の空気が吸引されて伴に下流方向へ移動を始める。この現象に併せて高水位域にある貯留部90の水が浸漬けされた送水パイプ10の先端から送水パイプ10内へ吸水され、送水パイプ10内の空気が低地域に設けられた送水パイプ10の吐出口から吐出させることでサイホン作用を始動させることができる。この場合には高水位域にある貯留部に浸漬けした送水パイプに逆止弁はなくても構わない。
また、送水パイプが注水口合流部材と接続する位置により、その上流側と下流側の送水パイプの長さが異なる場合が多いこととなる。前述のサイホン作用を始動する際に注水口合流部材より下流側の満水状態にした送水パイプの延長に対して、注水口合流部材より上流側の空気のままの送水パイプの延長の割合(比率)によりサイホン作用による送水が始動しないことが懸念されるが、上流側の空気の入った送水パイプの延長が、注水口合流部材より下流側の満水状態となった送水パイプの延長の1/2以内の延長である比率が望ましいことを幾つかの実験を繰り返した結果として検証している。
なお、本発明は上述した第1実施形態から第3実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
上述した第1実施形態から第3実施形態では、送水パイプ10は、内径が1000mmの硬質ダイポリン管の直管からなるパイプ部材を使用するものとしたが、内径の直径は特に限定するものではないし、その素材も特に限定するものではない。また直管である必要もなく、蛇腹状のパイプ部材でもよい。フレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材であってもよい。つまり、サイホン作用による送水方法であるため大気圧に押し潰されない強度を有し、パイプ及びパイプの接合部が気密及び水密な状態のもので空気や水の出入りを遮断する機能を備えた状態を保てる材質の部材であれば使用する事ができる。
また、上述した第1実施形態では、貯水タンクに水を溜める手段として揚水器機を使用したが、これに限定するものではなく、消防車のように水を吸水して放出する放水によって行っても良い。
また、上述した第1実施形態〜第3実施形態では、内径が1000mmの送水パイプ10を例に使用するものとしたが、通常の河川や砂防工事に使用される小口径の50mmの送水パイプでも同様の機能と効果を期待できる。従来では水中ポンプを使用しないと送水パイプ内を満水状態にすることが不可能と思われていたためサイホン作用も電気と水中ポンプが無いと起こせないと思われていた。本発明の送水装置の仕組みを使用すれば現場でも電気も水中ポンプも使用しないでサイホン作用を起こすことができる。例えば、ドラム缶を貯水タンクとして、それに注水口開閉装置の付いた注水口合流部材60を取り付けたものを使用して、送水パイプは50mmのサクションホースを使用し接続する。本発明と同様に高地域側と低地域側を繋ぐように配置された送水パイプより高い位置にドラム缶を設置する。バケツによる人力作業でドラム缶内に必要量の水を溜める。ドラム缶内の水を注水口合流部材を通して送水パイプ内へ注水し送水パイプ内が満水状態になったらサイホン作用の起動が可能となるため、満水状態を確認して注水口合流部材の開閉弁を閉じる。これにより、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させることができるため、水中ポンプや電気を使わなくても送水パイプにサイホン作用を稼働させることができる。
上述した実施の形態で示すように、河川、湖沼、土砂ダムや氷河湖等の貯留部の水を安全に安価に効率よく排水する装置として利用することができる。
10…送水パイプ、11…パイプ部材、11a…パイプ部材、11b…注水口、12…連結部材、14…フランジ部、14a…連結孔、15…部分押さえ部材、15a…固定用ボルト、15b…ナット、16…内筒部材、16a…ねじ孔、18…コック、19…送水方向切換装置、19a…流出方向切換弁、19b…注水方向切替レバー、20…逆止弁付送水パイプ、21…逆止弁、22…回動防止部、23…吸水部、23a…上方端部、30…開閉部材付送水パイプ、31…開閉部材、33…吐出口、33a…下方端部、34…フランジ、35…固定部材、35a…凹部、40…貯水タンク、41…タンク部材、50…揚水器機、60…注水口合流部材、70…注水口開閉装置、80…吐出口上下移動装置、90…貯留部、100…送水装置
本発明は、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水する送水装置及び送水方法に関する。
地震等の天災により発生した「土砂ダム(天然ダム)」や、地球温暖化により溶けはじめた氷河水により発生した「氷河湖」等は、大量の水を土砂等で堰き止めて大きな池や湖を形成している。しかし、堰き止めている土砂等は自然の崩落等により湖を堰止めているだけであるため、堰き止めている土砂等が崩壊し土石流と化す大きな危険を常に有している。こうした危険を回避するために池や湖に溜まった水を排水することで土石流の発生を防ぐ方策が検討されている。この場合、堰き止めた土砂等の上に水を直接流さないで池や湖の水を排水し水位を下げる必要がある。
しかし、土砂ダムや氷河湖等に流入する水量は膨大であるため、現在工事用に使用されている最大級の水中ポンプであっても口径がφ250mm程度であり、何十本も使用しなければ排水が追い付かないという課題がある。しかも、こうした大口径の水中ポンプは、重量が1個当たり250Kg〜300kg程度あるため人力で設置することは不可能であり、そのため重機による搬入か又はヘリコプターで運搬する必要がある。しかし、土砂ダムや氷河湖では、特に地すべりなどにより道路が寸断されていたりして搬入路が確保できないことが多く重機で搬入することが困難な場合も多い。一方、ヘリコプターも同様に、運搬可能な重量に限界があることや、着陸場所が確保できないことが多い。このように現実として、大量な大口径の水中ポンプや発動発電機などの仮設機材や重機を土砂ダムや氷河湖に運ぶのには大変な困難を要するという課題がある。
仮に水中ポンプの設置が完了したとしても、これらを稼動するためには大量の電気が必要であるが、電気はその場で発電できる大型の発動発電機を必要台数搬入してこれに頼らなければならない。また、こうした発動発電機を稼動するためには定期的に大量の燃料(軽油)を搬入して給油し続けなければならないという課題も発生する。
また、こうした大型の水中ポンプの口径に合致する送水パイプとしてはビニール製ホースが考えられる。しかし、ビニール製ホースは、例えば、割れた岩石の突起部やコンクリート構造物の曲がり角部分などに配置されると破損の原因になる。また、設置したビニール製ホースがパンパンにはち切れそうに膨らんで送水作業をしているように見えても、実際には屈折した折に内断面が狭小となったりして、通水量が大幅に落ちることがわかっている。一方で、内断面が円形に固定された硬質円断面ホースを使用すると、屈曲などによる通水断面の狭小現象が極端に少ないことから送水効率は向上するが、例えば、水中ポンプの口径250mm以上といった水中ポンプのサイズとしては比較的大きいものは、硬質の送水パイプとの接続が適合せず、水中ポンプとの接続に困難を要するという課題があった。また、自然災害により発生した土砂ダムなどの排水対策に使用する送水パイプは、口径が500mm〜1000mmの大きな口径の送水パイプが複数必要とされる。これは土砂ダムに流入する水の量が大量であることに起因する。
そこで、本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、国土交通省などが所有する災害対策用の排水ポンプ車等の送水器機が寄りつける道路条件や地形的な条件が確保できるのであれば、その機能を生かして送水作業が行える送水装置を提供し、寄りつきやすい道路条件が整っていない場合では、ヘリコプターや人力運搬作業により機材を搬入しなければならないため、比較的軽量部材を組み合わせることによって搬入作業、設置作業、搬出作業が容易であって、個々の部品は搬送が容易である組み合わせ式の送水装置を提供し、大口径の送水パイプに注水する際にも何台もの水中ポンプや発動発電機などの大量な機材の搬入作業の必要性を無くし省力化した排水装置を提供する。また、電気を一時的に供給するだけでその後は電気を必要とすることなく稼働させることができるサイホン作用を応用して送水作業を行う装置であり、発電に必要な燃料の搬入作業、補給作業を省略し、消費燃料の削減と併せて、燃料消費に伴う二酸化炭素の排出を大幅に削減することができる送水装置であり、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水装置及び送水方法を提供することを主たる目的とする。
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の送水装置は、高水位域にある貯留部の水を前記高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水装置であって、
断面内径形状が容易に変形せず連結可能な硬質な部材、断面内径半径が変更されづらい蛇腹部材又はフレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材のいずれかからなる送水パイプと、
前記送水パイプと連結着脱可能であって、前記送水パイプを満水にするため水を送水する送水器機と連結着脱可能な少なくとも1カ所以上の注水口と、前記注水口から前記送水パイプへの送水量を調整可能な注水口開閉装置と、を備えた注水口合流部材とを備えている。
本発明の送水装置は、高水位域にある貯留部と低地域との間に設置されて、サイホン作用によって水を高水位域の貯留部から低地域に送水するためのものである。本発明の送水パイプは、断面内径形状が容易に変形せず連結可能な硬質な部材、断面内径半径が変更されづらい蛇腹部材又はフレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材のいずれかからなる送水パイプ部材を使用することで、硬質で容易に変形しないパイプを使用している。これによって、ビニール製ホースのように、気圧に負けて断面が押しつぶされたり、屈折した折に内断面が狭小となったりすることを防止でき、送水量が減少する可能性を低減することができる。
一旦、満水となった送水パイプは、サイホン作用により、高水位域にある貯留部の水を前記高水位域より低所に位置する低地域に対して、大量の水を位置エネルギーにより送水することができる。併せて、送水パイプ内を満水とした後は、電力を必要としないため燃料の搬入も補給作業も行う必要がない。これにより送水装置の設置コストや送水コストの大幅な削減が可能とすることができる。また、多くの作業員が機材のメンテナンスのため災害現場に常駐する必要もなくなるので、安全な場所から監視することで二次災害が防止できることとなる。
本発明の送水装置において、さらに、前記注水口合流部材の注水口と連結着脱可能であって、前記送水パイプを満水にするのに十分な貯水量を有する貯水タンクとを備えたものであってもよい。サイホン作用によって水を連続的に送水するためには、送水パイプ全体が満水状態になる水量を一度に充填しなければ十分なサイホン作用を起こすことができない。しかし、詳細は後述するが、通常の土木工事において使用される口径の水中ポンプを用いてそれ以上の大きさの口径の送水パイプ内を直接満水状態にしながら送水パイプ内の空気を下流側の吐出口から押し出すことは大変困難である。そこで、送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに揚水器機によって貯水した後に、送水パイプの口径以上の注水口を通して一気に送水パイプに水を送ることによって、容易に送水パイプ内の空気を下流側の吐出口に押し出しながら送水パイプ内を水で充填させるものとした。また、貯水タンクに一度に大量の水を送る必要がないので、比較的小さな揚水器機等からなる送水装置を使用することができる。そのため必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。
なお、送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに貯水するための揚水器機としては、例えば人力で運搬可能な重量20kg程度の100Vの発電機と、100Vで稼働する重量20kg程度の口径Φ100mmの水中ポンプを必要数使用して貯水タンクに貯水する等比較的省電力の揚水器機を用いることができる。そのため必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。
さらに、本発明の送水装置は、送水器機が排水ポンプ車、消防車その他水中ポンプ等の給排水能力を備えた車両の揚水器機であってもよい。土砂ダムなど災害が発生した現場へ乗り入れることができる道路条件や地形的条件が満たされている場合は、国や自治体が所有する災害対策車両の排水ポンプ等の大量給排水機能を活かして直接注水口合流部材の注水口と連結して送水パイプ内へ注水し、サイホン作用を機能させることができる。さらに、注水口に設けられている注水口開閉装置を閉じて、送水器機と着脱自在な注水口から送水器機の連結部を外して、他の送水パイプの注水口に連結することで、同じ送水器機又は貯水タンクを使用して2本目の送水パイプに注水作業を行うことができる。この作業を繰り返すことで、1つの送水器機又は貯水タンクを使用して複数の送水装置にサイホン作用を起こすことができる。
さらに、本発明の送水装置は、放水器機により貯水タンクに水を貯水するものであってもよい。貯水タンクに水を貯水するに際しては、災害対策車両の排水ポンプ車等によって、放水によって貯水するものであってもよい。
また、本発明の送水装置において、前記送水器機は、送水パイプより小口径の給水用ホースと、貯水タンクより小容量の第2タンクとを有する第2送水装置であってもよい。小口径のサイホン装置を採用することで、小口径送水パイプへの注水量が少量で済むため、小口径貯水タンクへの給水は人力によって行うことも可能となる。そのため電力等が全く使用できない場合に有効な手段となる。
また、本発明の送水装置において前記送水パイプは、複数のパイプ部材と、それぞれのパイプ部材を連結可能な連結部材と、を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、硬質のパイプ部材であっても運搬に容易であり、現場で容易に連結して送水パイプを設置することができる。また、送水パイプは、それぞれ連結可能な複数のパイプ部材からなるため、土砂ダム等の災害現場や氷河湖等が存在する場所のように、車両による搬入が困難な場合であっても、各部材を複数の部材に分割したことによってヘリコプターによる搬入が可能となり、硬質で容易に変形しないパイプを使用することができる。これによって、ビニール製ホースのように、気圧に負けて断面が押しつぶされたり、屈折した折に内断面が狭小となったりすることを防止でき、送水量が減少する可能性を低減することができる。
また、本発明の送水装置において、前記注水口近傍の送水パイプには、高水位域側に配置される送水パイプ及び低地域側に配置される送水パイプのいずれかに水を送水することを切換可能な送水方向切換装置を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、送水する水を高水位域側又は低地域側のいずれかに送水を切り替えることができ、最適な方法で送水パイプ内の水を満水にすることができる。
また、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは、組み合わせ可能な複数のタンク部材よりなるものであってもよい。かかる構成を採用することによって、送水パイプを満水にするのに十分な貯水量を有するために大きな貯水タンクが必要な場合であっても、比較的小さな複数のタンク部材を複数組み合わせることによって、大容量の貯水タンクを形成することができる。組み合わせ可能な複数のタンク部材とすることで、土砂ダムや氷河湖等の場所のように、重機やヘリコプターによる搬入が困難な場合においても、人力により運搬することができる。
また、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは、折り畳み可能なフレキシブル素材であってもよい。軽量で運搬が容易なフレキシブルな構造の大型貯水タンクであれば折り畳みが可能で収納が狭い空間で行える。軽量で運搬が容易であればヘリコプターでの搬入も容易になる。これによれば、被災地へ迅速に運搬することが可能となり、設置する際にも大型の貯水タンクとして人力で構築作業を容易にこなすことができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは貯水された水を密閉可能であり、貯水タンク内に圧縮空気又は炭酸等の気泡が発生する気泡発生剤を投入することにより、貯水タンク内の圧力を増加させることによって、送水パイプに水圧のかかった水を送水可能であってもよい。かかる構成を採用することによって、送水パイプ内に水を満水とする時間を短縮することができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯水タンクは貯水された水を密閉可能であり、前記貯水タンクに圧力又は荷重をかけることによって、送水パイプに水圧のかかった水を送水可能であってもよい。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプには、前記送水パイプ内の空気を排出又は前記送水パイプの外の空気を吸入する少なくとも1以上の空気吸排出用バルブ又はコックを備えていてもよい。送水パイプによって、サイホン作用を起こさせるためには、前述したとおり、送水パイプ内を満水にする必要がある。しかし、最下流部の吐出し部から溜まり始めた水が順次上昇する際に送水パイプ内の空気を排出しなければならない。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプの高水位域側端部には、吸水部に排水を防止する逆止弁を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、貯留部に最初に沈めた際には、水が送水パイプの高水位域側端部から浸水し、より迅速に送水パイプ内に水を溜めることができる一方で、貯水タンクから水が送られ高水位域側端部から水が排水される状況になった場合は、高水位域側端部の端部に設けられた逆止弁付送水パイプの逆止弁が排出する水の水圧により閉じるため、送水パイプ内の水が排出されるのを防止することができる。なお。逆止弁の設置方法としては送水パイプの先端に加工して取り付けても良いし、別部材である逆止弁を送水パイプに接続しても良い。
さらに、本発明の送水装置において、前記逆止弁は、前記逆止弁付送水パイプの上端部と前記逆止弁の上端部とで回動可能に連結されており、内側からの水圧により前記逆止弁付送水パイプの下端部に形成された回動防止部で係止されて密閉状態とするものであってもよい。かかる構成を採用することで、構造がシンプルでありながら、逆止弁付送水パイプの開口における水の流れが排出する方向に水が流れている場合は、自動的に密閉し、吸引する方向に水が流れている場合は、自動的に開放することができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記回動防止部は、前記逆止弁付送水パイプの下端部であって、かつ送水パイプの上端部の位置より下流側に形成されてなり、前記逆止弁は、斜めに止まった状態で密閉状態とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、逆止弁の下端部を係止するパイプの下端部は上端部の位置より送水方向の下流側に控えた位置となるため、逆止弁が自重により鉛直方向に下がろうとする途中で係止され給水部を密閉することができる。
さらに、本発明の送水装置において、吐出部となる前記送水パイプの低地域側の端部には、開口を開閉する開閉部材を備えているものであってもよい。また、サイホン作用によって、水を高水位域の貯留部から低地域に送水している最中であっても、開閉部材を閉じることによって、容易に水の送水を停止させることができる。この際に、改めて送水パイプ内に水を満たす必要はなく、開閉部材を開放すれば、直ちに送水を継続することができる。開閉部材は開閉弁を回転させて開閉作業をするものでも良く、また開閉バルブ、開閉コックなどであっても良い。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプの低地域側の前記吐出口の下端を送水パイプの直径以上の高さまで上下移動させる吐出口上下移動装置を備えていてもよい。かかる構成を採用することによって、吐出口の高さを送水パイプの直径以上に上げておくことにより、高水位域にある貯留部の水面が吐出口の高さ付近まで下がり、水位差が現象することにより水圧が下がった場合であっても、吐出口から空気が送水パイプ内に流入させることを防止できる。そのため、サイホン作用を失う可能性を低減させることができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプには、送水パイプ内を流れる水を制止又は通水させる開閉装置が少なくとも1以上備えられていてもよい。
さらに、本発明の送水装置において、前記貯留部内に配置される前記送水パイプには、少なくとも1つの浮力部材が備えられていてもよい。かかる構成を採用することによって、貯留部内に配置される送水パイプの位置を水面の高さの変更にかかわらず水面から同じ深さの位置に保持することができるので、吸水部が下がりすぎて、貯水部の底に溜まっている泥や石を吸い込むことを防止する事ができる。
さらに、本発明の送水装置において、前記送水パイプは、サイホンの作用を活かして送水する送水量が目的に合う流量であれば、水中ポンプでは最小の口径となるφ50mm以上であってもよい。本発明の送水装置は、送水パイプの口径に比べて揚水機器の送水口径がそれ以上の大きな口径であれば、揚水器機の排水側を送水パイプと連結した注水合流部材に直接連結することができ、揚水器機の口径が送水パイプの口径より小さい場合は、前記注水口合流部材と連結した貯水タンク内に一旦必要水量を貯水してから送水パイプに送水する方法をとるというように、揚水器機の口径によって選択することができる。
さらに、本発明の送水装置において、送水パイプを注水口合流部材と連結する位置は、一方の注水口合流部材より下流側の送水パイプの延長比率1に対して、他方の上流側の送水パイプの延長の比率を一方の1/2以内の延長として送水装置を設置する方法をとっても良い。
さらに、本発明の送水装置において、水を注水口合流部材を通して送水パイプ内へ注水し送水パイプ内が満水状態になったら注水口合流部材の開閉弁を閉じ、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させる送水方法をとっても良い。
本発明の送水方法は、前述に記載の送水装置を使用して、
一方側の逆止弁が形成された送水パイプを高水位域にある貯留部に配置し、
他方の開閉部材が形成された送水パイプを低地域に配置するように送水パイプを設置し、
他方の開閉部材が形成された送水パイプの開閉部材は開いた状態にして、前記注水口に連結された送水器機から水を送水パイプ内へ送水し、
送水パイプ内を水で満たし高水位域の貯留部の水が前記送水パイプを通じて低地域と一体化した後に、注水合流部材に備えられた注水口開閉装置を閉鎖することで、高地域側の貯留部の水が送水パイプ内へ吸い込まれることにより逆止弁が水圧に押されて開き、サイホン作用により高水位域の水を低地域に移動することを特徴とする。かかる方法を採用することによって、電気等のエネルギーを必要とせず位置エネルギーのみで貯留部の水を低地域に送水することが可能になる。また、土砂ダムなどの現場へ車両などが寄り付くことができる道路条件や地形的条件が満たされている場合は、国土交通省などが所有する災害対策車両の排水ポンプ車の給排水機能を利用して、その排水機能で本送水装置の送水パイプ内へ注水しサイホン作用を起動させることができる。
なお、前述の道路条件や地形的な条件が整っていない場合は、ヘリコプター又は人力作業による搬入が可能となる各部材を組み立てることにより貯水タンクを現地に設ける方法を取ることができる。
図1は、第1実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図2は、第1実施形態にかかる送水装置100のパイプ部材11の連結構造部を示す側面図及び断面図である。
図3は、第1実施形態にかかる送水装置100の送水方向切換装置19を示す断面図である。
図4は、第1実施形態にかかる送水装置100の逆止弁付送水パイプ20の構成を示す断面図である。
図5は、第1実施形態にかかる送水装置100の開閉部材付送水パイプ30の構成を示す側面図である。
図6は、第1実施形態にかかる送水装置100の吐出口上下移動装置を取り付けた状態と取り付けていない状態をしめす側面図である。
図7は、図1のA部の拡大図である。
図8は、第2実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図9は、第3実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
まず、本発明の送水装置及び送水方法の実施の形態について説明するにあたり、本発明の技術的思想について説明する。本発明の送水装置は、高水位域にある貯留部と低地域との間に設置されて、サイホン作用によって、水を高水位域の貯留部から低地域に送水するためのものである。しかし、サイホン作用によって水を連続的に送水するためには、送水パイプの全体において満水状態になる水量を一度に充填しなければ十分なサイホン作用を起こすことができない。なぜなら、完全なサイホン作用を発生させるためには、送水パイプ内に水が100%近く充填された満水状態で送水パイプ内の水が移動し続けることが重要だからである。しかし、水中ポンプを用いて送水パイプ内を満水にしようとする場合において、水中ポンプの口径が送水パイプの口径より小さい場合、送水パイプ内を満水状態にするのに必要な地形の形状が以下に限定される。つまり、送水パイプの下流端の吐出部が上流部の貯水池の水位よりも低いこと、送水パイプが下流端より上流に向かうに伴って順次高くなるように設置されていること、などが必要である。このような送水パイプの配管が整った状態において、吐出口を遮閉し、送水パイプ内へ水中ポンプで送水を続けて満水状態にする作業を行うと、上流側から送水された水が遮閉された吐出口に到達すると、水は順次上流方向へ送水パイプ管内を満たしながら水面を上げて満水状態の範囲を増加していく。送水パイプ内全体が満水状態になった時点で下流端の開閉部材を開くことによりサイホン作用が働いて、自然エネルギーによる送水作業が稼働することとなる。この現象は、あくまで理想的な地形の箇所に送水パイプを設置した場合でなければ達成することができない。
しかし、地すべりなど自然災害により発生し、土砂ダムを形成した崩落土砂は複雑な凹凸形状で堆積しているため、前述のような下流側から上流側へ向かって順次高くなっているような理想的な形状にはならない。崩土により堆積した土砂の表面形状は非常に起伏に富んだ複雑な形状になっている。送水パイプが起伏に富んだ地形に設置されている場合においては、送水パイプ内を流れる水は送水パイプの起伏の低い部分に溜まってしまう現象が起きる。
送水パイプの起伏が高い部分となっている箇所における送水パイプの内径の底部分は、送水作業を行っている水中ポンプの送水能力の流量だけは越流して下流側に流れることになるが、送水パイプの内径底部分の水が流れている断面以外の空間は空気が溜まってしまうことになる。この空気が送水パイプの幾つかの起伏のそれぞれの頂点に集まって圧縮されることで、送水パイプの内断面を閉塞しサイホンの作用による送水量を著しく減少させる原因となる。
このような現象が起伏に富んだ地形に配置した送水パイプの幾つかの高い箇所でそれぞれ現れることとなり、サイホン作用を起動するために下流側の吐出口を開放しても、送水パイプの断面一杯に送水される作業量は殆ど期待できないこととなる。これらの現象は発明者が長年にわたる実験や災害現場での作業で経験していることであり、この現象を起こさせないサイホン作用は如何にあるべきかを研究してきた。このような経験から効率の良いサイホン作用を起動し稼働させる送水装置と送水方法を発明したものである。
その発明の内容としては、送水パイプに注水する段階で送水パイプの上流側から順次に全断面を満水状態にしながら下流方向へ注水する起動方法である。ただし、例えば直径1000mmの送水パイプを使用して、良好なサイホン作用を起動させる場合は、口径が200mmの水中ポンプを少なくても25台使用して同時に注水作業を行なわなければならない。被災地では電源が途絶えていることを想定して、25台の水中ポンプの全てを同時に稼動させるだけの200Vを発電する発動発電機を必要台数搬入しなければならない。その台数は送電距離や揚水高さにより多少に違いはあるが、安全側をみて125KVAクラスの発動発電機が10台は必要となる。この発電機は、重量が2100kg以上ある。また、口径Φ200mmの水中ポンプは重量が200kg以上あるが、25台必要となるため、これを搬入して設営して起動するには相当の時間と労力を要することとなる。また、人力では移動や据え付けが出来ないため大型の重機が必要となる。災害発生現場に大型の重機を搬入するには道路網の寸断や機材の確保に相当の困難を要し実現不可能である。実際に地すべり災害が起きて土砂ダムが発生してもこの緊急時に大型重機が搬入された例は殆ど実績がない。従って緊急時の作業としては実施しなければならない作業であっても実施されてこなかった。
そこで、本発明は、一旦送水パイプを充填するのに十分な貯水量を有する貯水タンクに揚水器機として、例えば人力で運搬可能な重量20kg程度の100Vの発電機と、100Vで稼働する重量20kg程度の口径Φ100mmの水中ポンプを必要数使用して貯水タンクに十分な水量を貯水した後に、一気に送水パイプの口径以上の水を送ることができる。そのため容易に送水パイプ内に水を充填することができる。また、揚水器機で水を揚水する際には、一度に大量の水を送る必要がないので、比較的小さな揚水器機を使用することができる。そのため同時に必要とされる電気量も燃料も少なくて済むという効果がある。そして、貯水タンクから送水されて一旦満水となった送水パイプは、サイホン作用に
より、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に対して、位置エネルギーのみで大量の送水することができるものとしたのである。
上記、本発明の送水装置及び送水方法の実施形態について、図面に基づいて、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではない。
(第1実施形態)
第1実施形態にかかる送水装置100が図1に示されている。図1は、第1実施形態にかかる送水装置100の構成の概略を示す側面図である。第1実施形態にかかる送水装置100は、主として、水を送水する送水パイプ10と、送水パイプ10と連結する注水口11bと、送水パイプ10への送水量を調整可能な注水口開閉装置70とを備えた注水口合流部材60を連結した送水装置100であり、送水パイプ10のそれぞれの端部に取り付けられる逆止弁付送水パイプ20及び開閉部材付送水パイプ30と、送水パイプ10に水を供給する貯水タンク40と、この貯水タンク40に水を揚水する送水器機としての揚水器機50と、を備えている。
送水パイプ10は、図2に示すように内径がφ1000mm又はそれ以上の硬質塩化ビニール製の直管からなるパイプ部材11と、これら複数のパイプ部材11を互いに連結可能な連結部材12とを備えている。連結部材12は、外面側に、パイプ部材11の先端部を装着させる内筒部材16と、この内筒部材16と反対側の面において互いに密着させてネジ締結またはボルト締結させる連結孔14aを有するフランジ部14とを備えている。この内筒部材16をパイプ部材11の端部から内部に向けて挿入して、パイプ部材11の外側から部分押え部材15を配置して、部分押え部材15、パイプ部材11及び内筒部材16を固定用ボルト15aが貫通し、内筒部材16に設けられたねじ孔16aに固定用ボルト15aが回転挿入され、内筒部材16の外側からナット15bで固定用ボルト15aを固定することで、部分押え部材15とパイプ部材11と内筒部材16とを固定し一体化することが可能である。こうして連結部材12は、部分押さえ部材15及び内筒部材16によって筒体構造の一方端部がフランジ部14によって塞がれてなり、内筒部材16の内側に送水路が形成される。部分押さえ部材15と内筒部材16との間の隙間及び内筒部材16とパイプ部材11との間には、コーキング剤が介されているため、水漏れが完全に防止される。フランジ部14には、連結孔14aが形成されており、フランジ部14を互いに密着させた状態で連結部材12をボルト締結することで、パイプ部材11を連結することができる。こうして複数のパイプ部材11が連結され、送水パイプ10が形成される。パイプ部材11のうちの1つには、詳細は後述する貯水タンク40と連結される注水口11bを備えている。
また、送水パイプ10のうち、注水口を有するパイプ部材11には、図3に示すように、注水された水を高水位域側又は低地域側への送水を切換可能な送水方向切換装置19を備えている。送水方向切換装置は、注水口11bに注水方向切替レバー19bを移動させることによって流出方向切換弁19aの位置を切り替えることができるものである。この流出方向切換弁19aの位置を切り替えることによって、送水方向を切り替えることができる。例えば、流出方向切換弁19aがαの位置に配置されている場合は、水はα’の方向へ送水され、βの位置に配置されている場合は、水はβ’の方向へ送水されることになる。さらに、γの位置に配置されている場合は、流出方向切換弁19aが収納されている状態であり、両側へ水を送水することができる。
逆止弁付送水パイプ20は、高水位域にある貯留部90に配置される送水パイプ10の端部に取り付けられるものである。逆止弁付送水パイプ20は、図4に示すように、端部に形成される吸水部23に逆止弁21を備えている。逆止弁21は、吸水部23の内径より若干直径の大きい板状部材からなり、吸水部23の上方端部23aと1カ所で内側に回動可能に連結されている(矢印C参照)。また、吸水部23の内周であって、吸水部23の端部より若干内側に断面V字状の回動防止部22が設けられている。この回動防止部22は、逆止弁21が閉じられた場合に逆止弁21の外周を当接させて、これ以上外側へ逆止弁21が回動しないようにする。この回動防止部22によって、逆止弁21は、回動防止部22より外側に回動することはなく、回動防止部22に当接した状態で吸水部23を封止することができる。また、逆止弁21は、吸水部23の上方端部23aに回動可能に連結されているので、自身の重量により鉛直方向へ回動するため、吸水部23を閉じる方向に付勢される。また、回動防止部22が吸水部23の端部より内側に形成されているので、逆止弁21が吸水部23を封止する際は、上方から下方に向かって逆止弁付送水パイプ20の内側方向に傾いた状態になる。従って、逆止弁21は、水流がない場合に自身の重量によって回動防止部22に当接し封止し易い構造となっている。また、この現象により、当初に送水パイプ10内に水を充填する作業を行う際にも閉じた状態の逆止弁21を送水パイプ10内から水圧でいっそう閉じる作用を働かせることができるので吸水部23からの水漏れが起こりにくい。
開閉部材付送水パイプ30は、低地域側に配置される送水パイプ10の端部に取り付けられるものである。開閉部材付送水パイプ30は、図5に示すように、端部に形成される吐出口33に開閉部材31を備えている。開閉部材付送水パイプ30の端部には、外周から外方へ延出したフランジ34を備えており、開閉部材31は、このフランジ34の大きさとほぼ同様の大きさに形成され、フランジ34の下方端部33aに外側へ回動可能に取り付けられている(矢印D参照)。また、上方端部には、フランジ34及び開閉部材31を閉じた状態で固定することができる固定部材35を備えている。固定部材35は、凹部35aを備えており、矢印Eに示すように、起こすことによってフランジ34及び開閉部材31を挟持でき、倒すことによってフランジ34及び開閉部材31を開放できる。
吐出口上下移動装置80は、図6Aに示すように、吐出口33を吐出口33の直径の高さ以上の高さまで自在に移動可能に形成されている。移動させる機構は特に限定するものではなく、従来から存在する機構を利用することができる。
貯水タンク40は、図7に示すように、送水パイプ10内に水を満たす際に、送水パイプ10内に水を直接供給するためのものである。貯水タンク40は、複数のタンク部材41を組み合わせて大容量のタンクとすることができる。貯水タンク40は、フレキシブルな素材を使用した折り畳み自由で貯水した場合の水圧荷重にも耐えるもの。又は、複数のタンク部材41を組み合わせて大容量のタンクとすることができるもの。例えばコンクリート構造物を構築する際の鋼製メタルフォーム(型枠材料)などであれば、運搬は可能な範囲に分割して行う事が出来る利便性があり、災害箇所の送水パイプの規模にその都度毎に応じて必要な貯水タンクの大きさに組み立てる事が自由にできるなどの特徴を備える。そのため、1つ1つのタンク部材41は、人力で運搬可能な大きさ重さである。そのため運搬が容易であるにもかかわらず、現地では大容量のタンクを提供することができる。
揚水器機50は、図1に示すように、高水位域にある貯留部90の水を貯水タンク40に水を汲み入れるためのものである。揚水器機50は、ポンプ(図示しない。)、吸水口及びホース等からなる。ポンプは特に限定するものではく、国土交通省が所有する災害復旧用送水ポンプ車等の従来からある既知のポンプを使用することができる。揚水器機50は、一度に送水パイプ10内の水を満水にするものではなく、一旦大量の水を貯水タンク40に溜めるものであるので、大型ポンプである必要はない。
注水口合流部材60は、貯水タンク40と送水パイプ10との間に配置され、貯水タンク40の水を送水パイプ10へ送るためのパイプである。また、注水口合流部材60には、貯水タンク40及び送水パイプ10と連結着脱可能な注水口と、途中に水の供給、停止及び水量を調整できる注水口開閉装置70が設けられている。
以上のように構成された送水装置100について、図1を参照して設置方法及び使用方法について説明する。まず、一方側の逆止弁付送水パイプ20を高水位域にある貯留部90に配置する。そして、他方の開閉部材付送水パイプ30を低地域に配置するように送水パイプ10を設置する。その後、「高水位域の逆止弁付送水パイプ20」と、「低地域の開閉部材付送水パイプ30」との間であって、送水パイプ10の全延長の内の最高部より高い位置に「貯水タンク40」を設ける。さらに、貯水タンク40の近傍の送水パイプ10に「貯水タンク40との合流部」を設けて貯水タンク40と着脱可能に連結し一体化する。この際に、この貯水タンク40と送水パイプ10を繋ぐ注水口開閉装置70を備えた「注水口合流部材60」の通水断面は、送水パイプ10の口径と同じか、それ以上の大きさとなっていることが望ましい。また、注水口合流部材60は、貯水タンク40内に溜まった水を、送水パイプ10内へ勢いよく放出する際には、その貯水タンク40に溜まった水圧を利用して放出するため、注水口合流部材60を設ける位置は貯水タンク40の下方が望ましい。
そして、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を閉じた状態で、貯留部90の水を揚水器機50によって貯水タンク40へ貯水し、貯水タンク40内に送水パイプ10の全延長を満水状態にできる以上の水が溜まるまで揚水を続ける。貯水タンク40内に送水パイプ10の全延長のパイプ内を満水状態にすることができる水量以上が溜まったことを確認出来たら揚水作業を停止する。
揚水作業が完了した後、注水口開閉装置70を備えた「注水口合流部材60」のバルブを全開とする。貯水されたことによって水位が上昇し水圧を受けた状態の貯水タンク40内の水は、送水パイプ10を繋ぐ注水口合流部材60を通って送水パイプ10に押し出される。押し出された水は、貯水タンク40より低い方向へ流れる。つまり低地域側にも高水位域側にも勢いよく流下する。高水位域の逆止弁付送水パイプ20の方向に流れた水は備えられた逆止弁21を水圧により閉めるため流下する水は行き止まりとなって高水位域の送水パイプ10内を満水状態とする。貯水タンク40から放出された水は高水位域への流れを止めて低地域の方向へのみ流れ続けることになる。
ここからは、送水量の違いにより、送水パイプ10にサイホン作用を起動するための2通りの方法に分かれる。
(1の方法)「注水口合流部材60」の通水断面が送水パイプ10の通水断面と同じか又はそれより大きい場合。
1−1.低地域の開閉部材付送水パイプ30の開閉部材31は開いたままで良い。吐出口33を噴出してくる水は当初は空気と混じって白い水が吐出されてくるが、送水パイプ10内が満水状態になると透明な水に変化するのが確認できるため、これを確認したら「注水口合流部材60」に備えた注水口開閉装置70を閉じて貯水タンク40からの水の放出を停止する。
1−2.貯水タンク40からの放出が止まると、下流側となる低地域の開いた状態の開閉部材付送水パイプ30の吐出口33からは引き続き水が放出されるため、送水パイプ10内の満水状態の水が下流側へ流れる作用が働く。
1−3.この下流側へ流れる作用により、高水位域の逆止弁付送水パイプ20に備えられた逆止弁21は送水パイプ10内で下流側へ引かれると同時に、高水位域にある貯留部の水が逆止弁21を押して送水パイプ10内に流入する現象が発生しサイホン作用が稼働し始めることとなる。
1−4 サイホン作用を一時停止しようとする場合は、あらかじめ送水パイプ10のどこか1カ所以上に開閉装置を設けておき、これを閉じることで送水パイプ10内を満水状態としたまま水の移動を一時停止することができる。
1−5 サイホン作用を終了しようとする場合は、注水口合流部材60の注水口開閉装置70を開放した状態で貯水タンク40内の水を全て送水パイプ10内へ放流した後に続き空気を送水パイプ10内へ流入させることでサイホン作用は終了する。
この際に、貯水タンク40内に圧縮空気又は炭酸等の気泡が発生する気泡発生剤を投入することにより、貯水タンク40内の圧力を増加させることによって、送水パイプ10に水圧のかかった水を送水したり、貯水タンクに荷重をかけることによって、送水パイプ10に水圧のかかった水を送水したりすることによって、迅速に貯水タンク40の水を送水パイプ10に移動させることができる。
この際に、吐出口33の直径の高さ以上の高さまで持ち上げることで、吐出口33から空気が侵入することを防ぐことができる。すなわち、吐出口33が低く形成されていると、吸い込み側(上流側)の水位が下がった場合に水位差による水圧が減少するため、吐出口から放水する水にも勢いが減少する。これにより、送水パイプ10の吐出口の通水断面を満たした状態での放水現象から変化し、図6Bに示すように、吐出口33から矢印F’に示すように、空気が送水パイプ10内の上部から流入していき、サイホン作用を失う可能性があるが、吐出口33の直径の高さ以上の高さまで持ち上げることで、図6Aに示す、空気流入限界線G以下に空気が流入することがない。これにより、吸い込み側と吐出し側の水位の高さが一緒になった場合に水の移動が停止してもサイホン作用が再起動する状況は持続される。したがって、吸い込み側(上流側)の水位が上昇すれば自動的にサイホン作用が始まって、送水作業が再開される。
以上のように構成された送水装置100によれば、一旦準備が整いサイホン作用により水を高水位から低地域に排水できるようになれば、その後は電力を必要とすることなく、自然エネルギーによって、貯留部の水を低地域に流し続けることができる。そのため、その後電力を必要としないため燃料の搬入も補給作業も行う必要が無いことも大きな効果として特徴を持つ。これにより送水装置の設置コスト、送水コストや送水作業の維持管理に大幅なコスト削減が可能となった。また、多くの作業員が機材のメンテナンスのため災害現場に常駐する必要もなくなるので、安全な場所から監視することで二次災害が防止できることとなる。
また、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、硬質なパイプを用いているので送水パイプ10が屈曲した位置で潰れたり、送水パイプ10内の水が減った場合に潰れたりすることがなく、送水量が減少する可能性を減らすことができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、送水部材、貯水タンク等の大きな装置は、分解可能であるので、運搬に容易であり、重機やヘリコプター等が侵入不可能な地域であっても、人力で運搬することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、揚水器機50等のポンプから直接に送水パイプ10に水を充填するものではなく、一旦、貯水タンク40に水を貯水した後に送水パイプ10内に水を充填するので、大容量の揚水器機を必要とすることなく、小さな揚水器機50を使用して貯水タンク40に水を溜めて使用することができる。そのため、揚水器機50に必要な電力も大容量の揚水器機を稼働させる電力量より少なくて済み、小さな発電機を使用することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、逆止弁付送水パイプ20を高水位域側の端部に備えているので、注水口合流部材60から流れてきた水を逆止弁送水パイプ内に留めることができ、サイホン作用稼働時においては貯留部90の水を吸引することは可能であるが、一旦吸引した水を逆に排出する可能性を低減することができる。そのため効率よく、水を低地域に排出することができる。
さらに、第1実施形態にかかる送水装置100によれば、空気吸排出用バルブ又はコック18を送水パイプ10の一部に備えてあるので、送水パイプ10内の空気を容易に排出することができる。これは、使用中に送水パイプ10内に空気が溜まった場合等であっても、貯水タンク40から水を送水しつつ空気吸排出用バルブ又はコック18を開放することによって容易に送水パイプ10内の空気を排出することができる。そのため送水量の減少があった場合でも容易に元の送水量に復帰させることができる。一方で、送水を停止したい場合には、空気吸排出用バルブ又はコック18を開放すれば、空気が吸引され送水パイプ10内の水を排出することができる。また、送水パイプ10の全延長の中で作業員が寄り付き易い箇所で少なくても1カ所以上に送水パイプ10の開閉装置を設け、稼働中に閉めるとサイホンの作用が作動する環境のまま送水作業を停止することができる。開閉装置を開けると再び送水作業が稼働することとなる。
(第2実施形態)
第2実施形態にかかる送水装置100が図8に示されている。第2実施形態にかかる送水装置は、第1実施形態にかかる送水装置100に対して、貯水タンク40が存在せず、代わりに排水ポンプ車の揚水器機が送水器機として注水口に直接着脱可能に連結されている点で異なる。その他の構造を第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
この第2実施形態では、第1実施形態において説明した(1の方法)及び(2の方法)に対し、貯水タンク40に一旦水を満水にする作業が必要とせず。水を揚水器機から直接注水口合流部材60を通して送水パイプ10内に送水する点が異なる。その他の方法は同様である。
(第3実施形態)
第3実施形態にかかる送水装置100が、図9に示されている。第3実施形態にかかる送水装置100は、第1実施形態にかかる装置に対して、貯水タンク40に水を供給する方法が異なる。その他の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
第3実施形態にかかる送水装置100は、貯水タンク40に水を溜める手段として、第2送水装置200を使用している。第2送水装置200は、送水パイプ10より小口径の給水ホース210と、注水タンク40より容量の小さい第2貯水タンク240を有している。第2貯水タンク240は、第2開閉装置270を介して内部の水を給水ホース210へ送水することができる。
こうして作製された第2送水装置240は、貯水タンク40が満水状態となった場合の水位が高水位域に貯留部90の水と同じか、それより低くなる位置に設置することで、小口径の第2サイホン装置200を使用して高水位域の貯留水を貯水タンク40内に給水することができる。こうして大口径の送水装置100の送水パイプ10内に注水するのに十分な水量を貯水タンク40内に給水することにより、送水装置100を稼働させることができる。
この際に、小口径の第2サイホン送水装置200を始動するために小口径の給水ホース210内に水を注水しなければならないが、小口径の給水ホース210は注水量が少量で済むことから人力でも十分に給水作業を行うことができる。例えば、口径Φ50mm、長さL=30mのパイプ内容積=約60リットルの給水ホース210の場合、5リットルのバケツ約12杯分であるため、バケツリレーによる給水作業でも行うことができる。従って、電気等で駆動する給水装置がなくても送水装置100を稼働させることができる。
なお、大口径の送水装置100に注水する貯水タンク40の設置箇所は、高水位域にある貯留部90よりも低い位置に設置してあり、送水パイプ10は高水位域にある貯留部90の水位より高い地盤を経由して貯水タンク40から注水を受け入れる注水口が備えられた注水口合流部材60を経由して低位地域に到達するように設置されている。このため、貯水タンク40から注水される水は注水口合流部材60より下流の送水パイプ10内しか満水状態にできないこととなる。この状態でも注水口合流部材60に備えられた注水口開閉装置70を閉じることにより送水パイプ10内の満水状態の水が下流方向へ移動しようとする現象に伴い、注水口合流部材60より上流部の送水パイプ10内の空気が吸引されて伴に下流方向へ移動を始める。この現象に併せて高水位域にある貯留部90の水が浸漬された送水パイプ10の先端から送水パイプ10内へ吸水され、送水パイプ10内の空気が低地域に設けられた送水パイプ10の吐出口から吐出させることでサイホン作用を始動させることができる。この場合には高水位域にある貯留部に浸漬けした送水パイプに逆止弁はなくても構わない。
また、送水パイプが注水口合流部材と接続する位置により、その上流側と下流側の送水パイプの長さが異なる場合が多いこととなる。前述のサイホン作用を始動する際に注水口合流部材より下流側の満水状態にした送水パイプの延長に対して、注水口合流部材より上流側の空気のままの送水パイプの延長の割合(比率)によりサイホン作用による送水が始動しないことが懸念されるが、上流側の空気の入った送水パイプの延長が、注水口合流部材より下流側の満水状態となった送水パイプの延長の1/2以内の延長である比率が望ましいことを幾つかの実験を繰り返した結果として検証している。
なお、本発明は上述した第1実施形態から第3実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
上述した第1実施形態から第3実施形態では、送水パイプ10は、内径が1000mmの硬質ダイポリン管の直管からなるパイプ部材を使用するものとしたが、内径の直径は特に限定するものではないし、その素材も特に限定するものではない。また直管である必要もなく、蛇腹状のパイプ部材でもよい。フレキシブル素材で形成された筒状部材の中に硬質素材で形成された内空断面形成部材を挿入してなる複合部材であってもよい。つまり、サイホン作用による送水方法であるため大気圧に押し潰されない強度を有し、パイプ及びパイプの接合部が気密及び水密な状態のもので空気や水の出入りを遮断する機能を備えた状態を保てる材質の部材であれば使用する事ができる。
また、上述した第1実施形態では、貯水タンクに水を溜める手段として揚水器機を使用したが、これに限定するものではなく、消防車のように水を吸水して放出する放水によって行っても良い。
また、上述した第1実施形態〜第3実施形態では、内径が1000mmの送水パイプ10を例に使用するものとしたが、通常の河川や砂防工事に使用される小口径の50mmの送水パイプでも同様の機能と効果を期待できる。従来では水中ポンプを使用しないと送水パイプ内を満水状態にすることが不可能と思われていたためサイホン作用も電気と水中ポンプが無いと起こせないと思われていた。本発明の送水装置の仕組みを使用すれば現場でも電気も水中ポンプも使用しないでサイホン作用を起こすことができる。例えば、ドラム缶を貯水タンクとして、それに注水口開閉装置の付いた注水口合流部材60を取り付けたものを使用して、送水パイプは50mmのサクションホースを使用し接続する。本発明と同様に高地域側と低地域側を繋ぐように配置された送水パイプより高い位置にドラム缶を設置する。バケツによる人力作業でドラム缶内に必要量の水を溜める。ドラム缶内の水を注水口合流部材を通して送水パイプ内へ注水し送水パイプ内が満水状態になったらサイホン作用の起動が可能となるため、満水状態を確認して注水口合流部材の開閉弁を閉じる。これにより、高水位域にある貯留部の水を高水位域より低所に位置する低地域に送水させることができるため、水中ポンプや電気を使わなくても送水パイプにサイホン作用を稼働させることができる。
上述した実施の形態で示すように、河川、湖沼、土砂ダムや氷河湖等の貯留部の水を安全に安価に効率よく排水する装置として利用することができる。
10…送水パイプ、11…パイプ部材、11a…パイプ部材、11b…注水口、12…連結部材、14…フランジ部、14a…連結孔、15…部分押さえ部材、15a…固定用ボルト、15b…ナット、16…内筒部材、16a…ねじ孔、18…コック、19…送水方向切換装置、19a…流出方向切換弁、19b…注水方向切替レバー、20…逆止弁付送水パイプ、21…逆止弁、22…回動防止部、23…吸水部、23a…上方端部、30…開閉部材付送水パイプ、31…開閉部材、33…吐出口、33a…下方端部、34…フランジ、35…固定部材、35a…凹部、40…貯水タンク、41…タンク部材、50…揚水器機、60…注水口合流部材、70…注水口開閉装置、80…吐出口上下移動装置、90…貯留部、100…送水装置