JP2013101811A - 非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法並びに非水電解質二次電池 - Google Patents

非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法並びに非水電解質二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 電池容量及び電位が高い非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法並びに非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】 非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素化合物に硫黄(S)及びフッ素(F)を導入してなる硫黄フッ素導入化合物からなる。硫黄フッ素導入化合物は、炭素化合物を硫黄で変性させて硫黄変性体とした後に、該硫黄変性体の中の硫黄の少なくとも一部を残しつつフッ素を導入してなることが好ましい。炭素化合物は、ポリアクリロニトリル、ピッチ類、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種からなることが好ましい。硫黄変性体にフッ素を導入するに当たっては、硫黄変性体に、無水フッ化水素又はフッ素ガスを接触させるとよい。
【選択図】 なし

Description

本発明は、炭素化合物を原料とする非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法並びに非水電解質二次電池に関する。
非水電解質二次電池の一種であるリチウム二次電池、リチウムイオン二次電池は、充放電容量の大きな電池であり、主として携帯電子機器用の電池として用いられている。また、リチウムイオン二次電池は、電気自動車用の電池としても期待されている。
リチウムイオン二次電池の正極活物質として、硫黄を用いる技術が知られている。硫黄を正極活物質として用いることで、リチウムイオン二次電池の充放電容量を大きくできる。
しかし、正極活物質として単体硫黄を用いたリチウムイオン二次電池では、放電時に硫黄とリチウムとの化合物が生成する。この硫黄とリチウムとの化合物は、リチウムイオン二次電池の非水系電解液(例えば、エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等)に可溶である。このため、正極活物質として硫黄を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返すと、硫黄の電解液への溶出により次第に劣化し、電池容量が低下する問題がある。以下、充放電の繰り返しに伴って充放電容量が低下するリチウムイオン二次電池の特性を「サイクル特性」と呼ぶ。この充放電容量低下の小さいリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池であり、この充放電容量低下の大きなリチウムイオン二次電池はサイクル特性に劣るリチウムイオン二次電池である。
そこで、従来、単体硫黄で炭素化合物を変性させた硫黄変性化合物を、正極活物質として用いることが提案されている(特許文献1)。しかし、硫黄変性化合物は、電池容量の大きい硫黄を含むため電池容量は大きいが、電位が低い。そこで、発明者は鋭意探求し、電位の高い正極活物質を開発することとした。
開発段階において、炭素化合物に種々の元素を導入することで、炭素化合物の電位を上げることができないかを検討した。特許文献2〜6に記載されているように、導入元素としてはフッ素が考えられ、フッ素化炭素を電極活物質として用いることが提案されている。また、特許文献7には、フッ化水素存在下で電解分解により炭素質材料をフッ素化する方法が示されている。フッ素は、電気親和力の強い元素であるため、フッ素が導入された炭素材料は、電位が高くなると考えられる。
しかし、フッ素化した炭素化合物は、電池容量が低く、電位が高くなっても、正極活物質材料として充分な性能を有しているとはいえない。
WO2010/044437号公報 特開昭63−024555号公報 特開2002−289195号公報 特開2004−265677号公報 特表2010−521782号公報 特表2009−512133号公報 特開昭59−078913号公報
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、電池容量及び電位が高い非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法並びに非水電解質二次電池を提供しようとするものである。
(1)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素化合物に硫黄(S)及びフッ素(F)を導入してなる硫黄フッ素導入化合物からなることを特徴とする。
正極活物質に硫黄を含めることにより充放電容量が高くなる。また、フッ素は電子親和力が高いため、フッ素を正極活物質に含めることにより、正極活物質の電位を高くすることができる。また、硫黄やフッ素は、炭素化合物に導入されている。このため、炭素化合物に硫黄やフッ素が結合ないし付着したりして、電解液への溶出が抑制される。このため、電池のサイクル特性を高めることができる。
以上のように、炭素化合物に硫黄とフッ素とを導入してなる硫黄フッ素導入化合物は、正極活物質の電気容量を高め、且つ電位を高くし、エネルギー密度を向上させることができる。
(2)上記非水電解質二次電池用正極活物質において、前記硫黄フッ素導入化合物は、前記炭素化合物を硫黄で変性させて硫黄変性体とした後に、該硫黄変性体の中の硫黄変性部分の少なくとも一部を残しつつフッ素を導入してなることが好ましい。
フッ素は、電子親和力が強いため、硫黄変性体にフッ素を導入することで、硫黄変性体の電位を高くすることができ、エネルギー密度を向上させることができ、また出力電圧を向上させることができる。また、硫黄フッ素導入化合物には、硫黄の一部が残っている。このため、硫黄自身の特性である高い電池容量を発揮することができる。
また、炭素化合物を硫黄で変性させた後に、硫黄変性部分を残しつつフッ素を導入することで、硫黄変性部分の化学構造の一部を維持しつつ、フッ素化することができる。ゆえに、硫黄フッ素導入化合物は、特許文献1に開示された硫黄変性化合物の中の化学構造の少なくとも一部を維持させることができ、高い電池容量を発揮させることができ、しかも、フッ素化により特許文献1よりも電位を高くすることができる。
(3)上記非水電解質二次電池用正極活物質において、前記炭素化合物は、ポリアクリロニトリル、ピッチ類、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種からなることが好ましい。
これらの炭素化合物は、硫黄を安定に捕捉するため、電解液への溶出を効果的に抑えサイクル特性を向上させることができる。
(4)上記非水電解質二次電池用正極活物質において、前記炭素化合物は、植物性原料から生成されることが好ましい。
植物性原料も硫黄を安定に捕捉できるため、サイクル特性を向上させることができる。また、植物性原料は安価に入手できるため、製造コストを低く抑えることができる。
(5)本発明の非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質と、負極活物質と、電解液とを備える。このため、電池容量及び出力電圧を高くすることができる。
(6)上記非水電解質二次電池用正極活物質を製造する方法は、前記炭素化合物を硫黄で変性させてなる硫黄変性体に、フッ化剤を接触させることにより該硫黄変性体の中の硫黄で変性された硫黄変性部分の少なくとも一部を残しながら該硫黄変性体にフッ素を導入して前記硫黄フッ素導入化合物を得ることを特徴とする。
上記の非水電解質二次電池用正極活物質は、硫黄とフッ素とを含む硫黄フッ素導入化合物からなるため、容量が高く、且つ電位の高い。このため、上記の非水電解質二次電池用正極活物質を用いることにより非水電解質二次電池の電池容量とエネルギー密度を高くすることができる。
(7)上記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法において、前記フッ化剤は、無水フッ化水素、及びフッ素ガスの少なくとも1種からなることが好ましい。
この場合には、フッ素剤を硫黄変性体に接触させるだけで、硫黄変性体の硫黄変性部分の少なくとも一部を残しつつフッ素で変性させることができる。このため、正極活物質の製造を簡素にすることができる。
(8)上記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法において、前記硫黄変性体は、炭素化合物と硫黄とを混合して混合原料とする混合工程と、該混合原料を加熱する熱処理工程を行うことで得ることが好ましい。
この場合には、炭素化合物を硫黄で変性させることができる。
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造方法並びに非水電解質二次電池によれば、正極活物質として、炭素化合物に硫黄及びフッ素を導入してなる硫黄フッ素導入化合物を用いている。このため、電池容量及び電位を高めることができる。
硫黄変性ポリアクリロニトリルをX線回折した結果を表すグラフである。 硫黄変性ポリアクリロニトリルをラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。 実施例の硫黄変性ポリアクリロニトリルの製造方法で用いた反応装置を模式的に表す説明図である。
(非水電解質二次電池用正極活物質)
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、炭素化合物に硫黄及びフッ素を導入してなる硫黄フッ素導入化合物からなる。硫黄フッ素導入化合物は、炭素化合物を硫黄で変性させて硫黄変性体とした後に、該硫黄変性体の中の硫黄変性部分の少なくとも一部を残しつつフッ素で変性させてなることが好ましい。
炭素化合物は、植物性原料から生成されるものを用いることができる。植物性原料としては、例えば、コーヒー豆、茶葉、サトウキビ類、トウモロコシ類、果実類、穀類、藁類、糠及び籾殻類から選択される少なくとも1種であるとよい。
炭素化合物として、〔1〕ポリアクリロニトリル、〔2〕ピッチ類、〔3〕3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種を用いたものが好ましく用いられる。これらの炭素化合物を硫黄で変性させた後にフッ素で変性させてなる硫黄フッ素導入化合物は、たとえば、上記した何れかの炭素化合物に由来する炭素骨格と、この炭素骨格と結合した硫黄(S)及びフッ素(F)で構成される。
以下、炭素化合物を硫黄で変性させてなる硫黄変性体、及び硫黄変性体にフッ素を導入してなる硫黄フッ素導入化合物について説明する。
A.硫黄変性体
硫黄変性体は、炭素化合物を硫黄で変性させたものである。ここで、変性とは、炭素化合物に硫黄が化学的に結合ないし配位していること、もしくは炭素化合物に硫黄が結合して炭素化合物の構造に変化を及ぼすことをいう。
炭素化合物としてポリアクリロニトリルを用いた硫黄変性体を硫黄変性PANと呼ぶ。炭素化合物としてピッチ類を用いた硫黄変性体を硫黄変性ピッチと呼ぶ。炭素化合物として3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素を用いた硫黄変性体を硫黄変性PAHと呼ぶ。
〔1〕硫黄変性PAN
硫黄変性PANは、上記の特許文献1に開示されたものと同様のものである。硫黄変性PAN用の材料としてのポリアクリロニトリル(PAN)は、粉末状であるのが好ましく、質量平均分子量が1×104〜3×105程度であるのが好ましい。また、PANの粒径は、電子顕微鏡によって観察した際に、0.5〜50μm程度であるのが好ましく、1〜10μm程度であるのがより好ましい。PANの分子量および粒径がこれらの範囲内であれば、PANと硫黄との接触面積を大きくでき、PANと硫黄とを信頼性高く反応させ得る。このため、電解液への硫黄の溶出をより信頼性高く抑制できる。
非水電解質二次電池の正極活物質として硫黄変性PANを用いることで、硫黄が本来有する高容量を維持でき、かつ、硫黄の電解液への溶出が抑制されるため、サイクル特性が大きく向上する。これは、硫黄変性PAN中で硫黄が単体として存在するのでなくPANと結合した安定な状態で存在するためだと考えられる。特許文献1に開示されている正極活物質の製造方法において、硫黄はPANとともに加熱処理されている。PANを加熱すると、PANが3次元的に架橋して縮合環(主として六員環)を形成しつつ閉環すると考えられる。このため硫黄は、閉環の進行したPANと結合した状態で硫黄変性PAN中に存在していると考えられる。PANと硫黄とが結合することで、硫黄の電解液への溶出を抑制でき、サイクル特性を向上させ得る。
硫黄変性PANに用いられる硫黄は、PANと同様に、粉末状であるのが好ましい。硫黄の粒径については特に限定しないが、篩いを用いて分級した際に、篩目開き40μmの篩を通過せず、かつ、150μmの篩を通過する大きさの範囲内にあるものが好ましく、篩目開き40μmの篩を通過せず、かつ、100μmの篩を通過する大きさの範囲内にあるものがより好ましい。
硫黄変性PANに用いるPAN粉末と硫黄粉末との配合比については特に限定しないが、質量比で、1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:0.5〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのがさらに好ましい。
硫黄変性PANは、以下の方法で製造できる。
PAN粉末と硫黄粉末とを混合した混合原料を加熱する(熱処理工程)。混合原料は、乳鉢やボールミル等の一般的な混合装置で混合すれば良い。混合原料としては、硫黄とPANとを単に混合したものを用いても良いが、例えば、混合原料をペレット状に成形して用いても良い。混合原料は、PANおよび硫黄のみで構成しても良いし、正極活物質に配合可能な一般的な材料(導電助剤等)を配合しても良い。これは、後述する他の正極活物質に関しても同様である。
熱処理工程において混合原料を加熱することで、混合原料に含まれる硫黄とPANとが結合する。熱処理工程は、密閉系でおこなっても良いし開放系でおこなっても良いが、硫黄蒸気の散逸を抑制するためには、密閉系で行うのが好ましい。また、熱処理工程を如何なる雰囲気で行うかについては特に問わないが、PANと硫黄との結合を妨げない雰囲気(例えば、水素を含有しない雰囲気、非酸化性雰囲気)下で行うのが好ましい。例えば、雰囲気中に水素が存在すると、反応系中の硫黄が水素と反応して硫化水素となるため、反応系中の硫黄が失われる場合がある。また、非酸化性雰囲気下で熱処理することで、PANの閉環反応と同時に、蒸気状態の硫黄がPANと反応して、硫黄によって変性されたPANが得られると考えられる。ここでいう非酸化性雰囲気とは、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度とした減圧状態、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気、硫黄ガス雰囲気等を含む。
密閉状態の非酸化性雰囲気とするための具体的な方法については特に限定はなく、例えば、硫黄蒸気が散逸しない程度の密閉性が保たれる容器中に混合原料を入れて、容器内を減圧または不活性ガス雰囲気にして加熱すれば良い。その他、混合原料を硫黄蒸気と反応し難い材料(例えばアルミニウムラミネートフィルム等)で真空包装した状態で加熱しても良い。この場合、発生した硫黄蒸気によって包装材料が破損しないように、例えば、水を入れたオートクレーブ等の耐圧容器中に、包装された原料を入れて加熱し、発生した水蒸気で包装材の外部から加圧することが好ましい。この方法によれば、包装材料の外部から水蒸気によって加圧されるので、硫黄蒸気によって包装材料が膨れて破損することが防止される。
熱処理工程における混合原料の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すれば良く、特に限定しない。上述した好ましい加熱温度は、硫黄とPANとの結合が進行し、かつ、伝導材が変質しないような温度であれば良い。具体的には、加熱温度は、250以上500℃以下とすることが好ましく、250以上400℃以下とすることがより好ましく、250以上300℃以下とすることがさらに好ましい。
熱処理工程においては、硫黄を還流するのが好ましい。この場合、混合原料の一部が気体となり、一部が液体となるように混合原料を加熱すれば良い。換言すると、混合原料の温度は、硫黄が気化する温度以上の温度であれば良い。ここで言う気化とは、硫黄が液体または固体から気体に相変化することを指し、沸騰、蒸発、昇華の何れによっても良い。参考までに、α硫黄(斜方硫黄、常温付近で最も安定な構造である)の融点は112.8℃、β硫黄(単斜硫黄)の融点は119.6℃、γ硫黄(単斜硫黄)の融点は106.8℃である。硫黄の沸点は444.7℃である。ところで、硫黄の蒸気圧は高いため、混合原料の温度が150℃以上になると、硫黄の蒸気の発生が目視でも確認できる。したがって、混合原料の温度が150℃以上であれば硫黄の還流は可能である。なお、熱処理工程において硫黄を還流する場合には、既知構造の還流装置を用いて硫黄を還流すれば良い。
混合原料中の硫黄の配合量が過大である場合にも、熱処理工程においてPANに充分な量の硫黄を取り込むことができる。このため、PANに対して硫黄を過大に配合する場合には、熱処理工程後の被処理体から単体硫黄を除去することで、上述した単体硫黄による悪影響を抑制できる。詳しくは、混合原料中のPANと硫黄との配合比を、質量比で1:2〜1:10とする場合、熱処理工程後の被処理体を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する(単体硫黄除去工程)ことで、PANに充分な量の硫黄を取り込みつつ、残存する単体硫黄による悪影響を抑制できる。熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施さない場合には、この被処理体をそのまま硫黄変性PANとして用いれば良い。また、熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施す場合には、単体硫黄除去工程後の被処理体を硫黄変性PANとして用いれば良い。単体硫黄除去工程の時間は特に限定しないが、1〜6時間程度であるのが好ましい。
硫黄変性PANは、元素分析の結果、炭素、窒素、及び硫黄を含み、更に、少量の酸素及び水素を含む場合もある。また、図1に示すように、硫黄変性PANをCuKα線によりX線回折した結果、回折角(2θ)20〜30°の範囲では、25°付近にピーク位置を有するブロードなピークのみが確認された。参考までに、X線回折は、粉末X線回折装置(MAC Science社製、型番:M06XCE)により、CuKα線を用いてX線回折測定を行った。測定条件は、電圧:40kV、電流:100mA、スキャン速度:4°/分、サンプリング:0.02°、積算回数:1回、測定範囲:回折角(2θ)10°〜60°であった。
さらに硫黄変性PANを、室温から900℃まで20℃/分の昇温速度で加熱した際の熱重量分析による質量減は400℃時点で10%以下である。これに対して、硫黄粉末とPAN粉末の混合物を同様の条件で加熱すると120℃付近から質量減少が認められ、200℃以上になると急激に硫黄の消失に基づく大きな質量減が認められる。
すなわち、硫黄変性PANにおいて、硫黄は単体としては存在せず、閉環の進行したPANと結合した状態で存在していると考えられる。
硫黄変性PANのラマンスペクトルの一例を図2に示す。図2に示すラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1331cm-1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm-1〜1800cm-1の範囲で1548cm-1、939cm-1、479cm-1、381cm-1、317cm-1付近にピークが存在する。上記したラマンシフトのピークは、PANに対する単体硫黄の比率を変更した場合にも同様の位置に観測される。このためこれらのピークは硫黄変性PANを特徴づけるものである。上記した各ピークは、上記したピーク位置を中心としては、ほぼ±8cm-1の範囲内に存在する。なお、本明細書において、「主ピーク」とは、ラマンスペクトルで現れた全てのピークのなかでピーク高さが最大となるピークを指す。
参考までに、上記したラマンシフトは、日本分光社製 RMP−320(励起波長λ=532nm、グレーチング:1800gr/mm、分解能:3cm-1)で測定したものである。なお、ラマンスペクトルのピークは、入射光の波長や分解能の違いなどにより、数が変化したり、ピークトップの位置がずれたりすることがある。したがって正極活物質として硫黄変性PANを用いた本発明の正極のラマンスペクトルを測定すると、上記のピークと同じピーク、または、上記のピークとは数やピークトップの位置が僅かに異なるピークが確認される。
〔2〕硫黄変性ピッチ
炭素化合物としてピッチ類を用いた正極活物質は、ピッチ類由来の炭素骨格と、その炭素骨格と結合した硫黄(S)と、からなる。ピッチ類としては、石炭ピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、アスファルト、コールタール、コールタールピッチ、縮合多環芳香族炭化水素化合物の重縮合で得られる有機合成ピッチ、ヘテロ原子含有縮合多環芳香族炭化水素化合物の重縮合で得られる有機合成ピッチからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
ピッチ類の一種であるコールタールは、石炭を高温乾留(石炭乾留)して得られる黒い粘稠な油状液体である。コールタールを精製・熱処理(重合)することで、石炭ピッチを得ることができる。
アスファルトは、黒褐色ないし黒色の固体あるいは半固体の可塑性物質である。アスファルトは、石油(原油)を減圧蒸留したときに釜残として得られるものと、天然に存在するものとに大別される。アスファルトはトルエン、二硫化炭素等に可溶である。アスファルトを精製・熱処理(重合)することで、石油ピッチを得ることができる。
ピッチは、通常、無定形であり光学的に等方性である(等方性ピッチ)。等方性ピッチを不活性雰囲気中で熱処理することで、光学的に異方性のピッチ(異方性ピッチ、メソフェーズピッチ)を得ることができる。ピッチは、ベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶剤に部分的に可溶である。
ピッチ類は様々な化合物の混合物であり、上述したように縮合多環芳香族を含む。ピッチ類に含まれる縮合多環芳香族は、単一種であっても良いし、複数種であっても良い。例えば、ピッチ類の一種である石炭ピッチの主成分は、縮合多環芳香族である。この縮合多環芳香族は、環の中に、炭素と水素以外にも、窒素や硫黄を含み得る。このため、石炭ピッチの主成分は、炭素と水素のみから成る縮合多環芳香族炭化水素と縮合環に窒素や硫黄等を含む複素芳香族化合物との混合物と考えられる。
ピッチ類由来の炭素骨格と、その炭素骨格と結合した硫黄(S)と、からなる正極活物質(硫黄変性ピッチ)は、上述した硫黄変性PANと同様の方法で製造できる。硫黄変性ピッチを製造する場合、熱処理工程において、ピッチ類の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とが液体となるように構成する。換言すると、熱処理工程において、ピッチ類の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とは、液状で接触する。このため、熱処理工程におけるピッチ類と硫黄との接触面積を充分に大きくでき、硫黄を充分に含みかつ硫黄の脱離が抑制された硫黄変性ピッチを得ることができる。なお、熱処理工程において硫黄を還流する場合には、ピッチ類と硫黄との接触頻度を高めることができ、硫黄をより含有しかつ硫黄の脱離がさらに抑制された硫黄変性ピッチを得ることができる。
なお、得られた硫黄変性ピッチにおいて、硫黄とピッチ類とがどのように結合しているか、は定かではないが、ピッチ類のグラフェン層間に硫黄が取り込まれているか、或いは、縮合多環芳香族の環に含まれる水素が硫黄に置換されて、C−S結合となっていると推測される。
熱処理工程における温度は、ピッチ類の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部が液体となる温度であれば良い。なお、ピッチ類に関しては、全体が液体となる温度であるのが好ましい。また、硫黄に関しては、全体が液体となる温度であるのが好ましく、一部が気体となり残りが液体となる温度(すなわち、還流できる温度)であるのがより好ましい。熱処理工程における温度は、200℃以上であるのが好ましく、300℃以上であるのがより好ましく、350℃以上であるのがさらに好ましい。参考までに、石炭ピッチの軟化点は200〜350℃程度である。このため、ピッチ類として石炭ピッチを用いる場合には、熱処理工程を350℃以上で行うのが好ましい。また、350℃以上であれば、石炭ピッチ以外のピッチ類を用いる場合にも、ピッチ類の少なくとも一部が軟化(液体化)する。
ところで、熱処理工程における温度が過剰に高いと、ピッチ類が変性(黒鉛化)する場合がある。この場合、ピッチ類に硫黄を充分に取り込めなくなる。このため、熱処理工程における温度は、ピッチ類の変性温度よりも低い温度であることが好ましい。熱処理工程における温度が600℃以下であれば、ピッチ類の変性を抑制できる。熱処理工程における温度は600℃以下であるのがより好ましく、500℃以下であるのがさらに好ましい。さらに、上述したピッチ類の軟化を考慮すると、熱処理工程における温度は200℃以上600℃以下であるのが好ましく、300℃以上500℃以下であるのがより好ましく、350℃以上500℃以下であるのがさらに好ましい。
熱処理工程において硫黄を還流する場合、混合原料の一部が気体となり、一部が液体となるように混合原料を加熱すれば良い。換言すると、混合原料の温度は、硫黄が気化する温度以上の温度であれば良い。ここで言う気化とは、硫黄が液体又は固体から気体に相変化することを指し、沸騰、蒸発、昇華の何れによっても良い。
熱処理工程は、硫黄変性PANを製造する場合と同様に、非酸化性雰囲気下で行うのが好ましい。
ピッチ類及び硫黄の形状、粒径等は特に問わない。熱処理工程においてピッチ類と硫黄とを液体状で接触させるため、例えばピッチ類の粒径が不均一であったり大きかったりする場合にも、ピッチ類と硫黄とが充分接触するためである。また、混合原料中のピッチ類と硫黄とは、均一に分散しているのが好ましいが、不均一であっても良い。混合原料は、ピッチ類及び硫黄のみで構成しても良いし、正極活物質に配合可能な一般的な材料(導電助剤等)を配合しても良い。
熱処理工程における加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すれば良く、特に限定しない。上述した好ましい温度で加熱する場合には、10分〜10時間程度加熱するのが好ましく、30分〜6時間加熱するのがより好ましい。
混合原料中のピッチ類と硫黄との配合比にも好ましい範囲が存在する。ピッチ類に対する硫黄の配合量が過小であると、ピッチ類に充分量の硫黄を取り込めず、ピッチ類に対する硫黄の配合量が過大であると、硫黄変性ピッチ中に遊離の硫黄(単体硫黄)が多く残存して、非水電解質二次電池内の特に電解液を汚染するためである。混合原料中のピッチ類と硫黄との配合比は、質量比で1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:1〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのが特に好ましい。
なお、ピッチ類に対する硫黄の配合量が過大である場合にも、熱処理工程においてピッチ類に充分な量の硫黄を取り込むことができる。このため、ピッチ類に対して硫黄を過大に配合する場合には、上述した硫黄変性PANの製造方法と同様に、熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施せば良い。
上記製造方法により得られる硫黄変性ピッチをラマンスペクトル分析すると、ラマンシフトの1557cm-1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm-1〜1800cm-1の範囲内で1371cm-1、1049cm-1、994cm-1、842cm-1、612cm-1、412cm-1、354cm-1、314cm-1付近にそれぞれピークが存在する。なお、硫黄変性ピッチのラマンスペクトルは、前述した硫黄変性PANのラマンスペクトルとは異なる。
硫黄変性ピッチは、硫黄変性PANを第二正極活物質としてさらに含むことが望ましい。この第二正極活物質をさらに含むことで、非水電解質二次電池に用いた時にサイクル特性がさらに向上する。その理由は明らかではないが、PANと硫黄との結合力が大きいために硫黄が固定化されるためと考えられている。
この第二正極活物質をさらに含む硫黄変性ピッチを製造するには、硫黄変性ピッチと第二正極活物質(すなわち硫黄変性PAN)とを物理的に混合することもできる。しかし安定性が懸念される場合があるため、安定性を高めるためには、ピッチ類と、PAN粉末と、硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、この混合原料を加熱する熱処理工程と、を行うことが望ましい。PAN粉末としては、質量平均分子量が10000〜300000程度の範囲内にあるものが好ましい。また、PANの粒径については、電子顕微鏡によって観察した際に、0.5〜50μm程度の範囲内にあるものが好ましく、1〜10μm程度の範囲内にあるものがより好ましい。
硫黄変性ピッチを元素分析した結果、炭素、窒素、及び硫黄が検出された。また、場合によっては、少量の酸素及び水素が検出された。したがって、硫黄変性ピッチは、C、S以外に、窒素、酸素、硫黄化合物等の少なくとも一種を不純物として含有する。
〔3〕硫黄変性PAH
硫黄変性PAHは、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素(Polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH)の少なくとも一種に由来する炭素骨格を持つ。PAHは、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素の総称であり、四員環、五員環、六員環、そして七員環からなるものがあるが、このうち、本発明では、ベンゼン環の構造である六員環が直鎖に3環以上連なった構造をもつアセン類、及び、3環以上の六員環が直鎖でなく折れ曲がった構造をもつ化合物などのうち少なくとも一種と硫黄とを用いることが好ましい。
複数の芳香環が辺を共有しながら直鎖状に連なった多環芳香族炭化水素であるアセン類としては、2環のナフタレン、3環のアントラセン、4環のテトラセン、5環のペンタセン、6環のヘキサセン、7環のヘプタセン、8環のオクタセン、9環のノナセン、及び10環以上の芳香環が連なったものがあり、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。中でも安定性が高い3環〜6環のものが望ましい。
また、3環以上の六員環が直鎖でなく折れ曲がった構造をもつ多環芳香族炭化水素としては、フェナントレン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、ピセン、ペリレン、トリフェニレン、コロネン、及びこれらより多くの環以上の芳香環が連なったものがあり、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
硫黄変性PAHは、硫黄変性ピッチと同様の方法で製造できる。
熱処理工程では、多環芳香族炭化水素と硫黄とを反応させる。この反応は、多環芳香族炭化水素の量に対して硫黄の量を過大として反応させ、硫黄を高濃度で含む正極活物質とすることが望ましい。この熱処理工程の温度は、多環芳香族炭化水素の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とが液体となる条件で行うことが望ましい。このようにすることで、多環芳香族炭化水素と硫黄との接触面積を充分に大きくでき、硫黄を充分に含みかつ硫黄の脱離が抑制された硫黄変性PAHを得ることができる。
混合原料中の多環芳香族炭化水素と硫黄との配合比にも好ましい範囲が存在する。多環芳香族炭化水素に対する硫黄の配合量が過小であると多環芳香族炭化水素に充分量の硫黄を取り込めず、多環芳香族炭化水素に対する硫黄の配合量が過大であると、硫黄変性PAH中に遊離の硫黄(単体硫黄)が多く残存して、非水電解質二次電池内の特に電解液を汚染するためである。混合原料中の多環芳香族炭化水素と硫黄との配合比は、質量比で多環芳香族炭化水素:硫黄が1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:1〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのが特に好ましい。
なお、多環芳香族炭化水素に対する硫黄の配合量を過大とすれば、熱処理工程において多環芳香族炭化水素に充分な量の硫黄を容易に取り込むことができる。そして多環芳香族炭化水素に対して硫黄を必要以上の量で配合したとしても、熱処理工程後の被処理体から過剰の単体硫黄を除去する単体硫黄除去工程を行うことで、上述した単体硫黄による悪影響を抑制できる。詳しくは、混合原料中の多環芳香族炭化水素と硫黄との配合比を、質量比で1:2〜1:10とする場合、熱処理工程後の被処理体を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する(単体硫黄除去工程)ことで、多環芳香族炭化水素に充分な量の硫黄を取り込みつつ、残存する単体硫黄による悪影響を抑制できる。熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施さない場合には、この被処理体をそのまま硫黄変性PAHとして用いれば良い。また、熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施す場合には、単体硫黄除去工程後の被処理体を硫黄変性PAHとして用いれば良い。
硫黄変性PAHは、例えば、出発物質である多環芳香族炭化水素としてペンタセンを選択した場合には、ヘキサチアペンタセン類似の構造となっていると考えられるが、その構造は明らかではない。また、多環芳香族炭化水素としてアントラセンを用いた硫黄正極活物質は、FT−IRスペクトルにおいて、1056cm-1付近と、840cm-1付近と、にそれぞれピークが存在し、アントラセンのFT−IRスペクトルとは全く異なっているので、FT−IRスペクトルで同定することが可能である。
硫黄変性PAHを元素分析すると、硫黄(S)と炭素(C)とが大部分を占め、少量の酸素及び水素が検出される。硫黄(S)と炭素(C)の組成比は、原子比(S/C)で1/5以上の範囲で含まれていることが望ましい。この範囲より硫黄が少ないと、非水電解質二次電池用正極活物質に用いた時に充放電特性が低下する場合がある。
硫黄変性PAHは、前述したポリイソプレンを用いた場合と同様に、第二正極活物質(硫黄変性PAN)をさらに含むことが望ましい。その混合量、製造方法などは、硫黄変性ポリイソプレンの場合と同様である。
B.硫黄フッ素導入化合物
硫黄フッ素導入化合物は、硫黄変性体の中の硫黄変性部分の少なくとも一部を残しつつフッ素を導入したものである。ここで、硫黄変性部分は、硫黄が炭素化合物に変性した部分をいう。硫黄変性部分は、例えば、硫黄の導入により炭素化合物に硫黄が化学的に結合したり配位したりした部分であったり、硫黄の導入により炭素化合物の化学構造が変化した部分であったりする。
「フッ素を導入する」とは、硫黄変性体にフッ素を結合又は配位させたりすることである。硫黄変性体の化学的又は立体的な構造に変化がある場合も無い場合もある。
硫黄フッ素導入化合物は、炭素化合物を基本構造とし、硫黄の他にフッ素も構成元素としている。硫黄フッ素導入化合物は、硫黄を含むことで電池容量が高められ、また、電子親和力の高いフッ素を含むことで電位が高められる。ゆえに、かかる硫黄フッ素導入化合物からなる正極活物質は、電池容量及び電位が高く、且つ、サイクル特性に優れる。
硫黄変性体にフッ素を導入するに当たっては、例えば、硫黄変性体にフッ化剤を接触させる。この場合、フッ化剤の中のフッ素が、硫黄変性体の硫黄変性部分の硫黄と置換して、炭素に結合すると考えられる。
硫黄フッ素導入化合物には、フッ素が均一に導入されていてもよいが、一部分にフッ素が導入されていてもよい。例えば、硫黄フッ素導入化合物が粒子状を呈している場合、粒子の全体に均一にフッ素が導入されていてもよいし、粒子表面にフッ素が偏在していてもよい。
硫黄フッ素導入化合物中のフッ素(F)と炭素(C)との組成比は、原子比(F/C)で1/100以上150/100以下であることが好ましい。フッ素の組成比が少なすぎると、硫黄フッ素導入化合物の電位が高くならず、フッ素の組成比が多すぎると、相対的に硫黄フッ素導入化合物中の硫黄の含有量が減り、電池容量が低下するおそれがある。
硫黄フッ素導入化合物中の硫黄(S)と炭素(C)との組成比は、原子比(S/C)で1/100以上150/100以下であることが好ましい。硫黄の組成比が少なすぎると、硫黄フッ素導入化合物の電池容量が低くなり、硫黄の組成比が多すぎると、相対的に硫黄フッ素導入化合物中のフッ素の含有量が少なくなり、正極活物質の電位の上昇が期待できないおそれがある。
硫黄変性体にフッ素を導入させるフッ化剤としては、無水フッ化水素(HF)、又はフッ素ガス(F2)を用いることが好ましい。
フッ化剤としてフッ素ガスを用いる場合には、例えば、フッ素ガス中に硫黄変性体を配置する。フッ素ガスと硫黄変性体との反応では、硫黄変性体の中の硫黄の一部をフッ素に置換させればよいため、過激な環境下での反応は避けた方がよい。例えば、硫黄変性体とフッ素ガスとの反応は、−40℃以上室温(25℃程度)以下の温度で行うと良い。反応温度が低すぎると、反応が生じにくく、反応温度が高すぎると硫黄変性体の中の硫黄の全てがフッ素で置換されてしまうおそれがある。
生成された硫黄フッ素導入化合物は、非水電解質二次電池用正極活物質として用いられる。
(非水電解質二次電池用正極)
本発明の非水電解質二次電池における正極は、は、一般的な非水電解質二次電池用正極と同様の構造にできる。例えば、正極活物質、導電助剤、バインダ、及び溶媒を混合した正極材料を、集電体に塗布することによって正極を製作できる。
導電助剤としては、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、炭素粉末、カーボンブラック正極活物質として上述した硫黄フッ素導入化合物を含有する。正極は、正極活物質以外(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、アルミニウムやチタンなどの正極電位において安定な金属の微粉末等が例示される。
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示される。
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアルデヒド、アルコール、水等が例示される。これら導電助剤、バインダおよび溶媒は、それぞれ複数種を混合して用いても良い。これらの材料の配合量は特に問わないが、例えば、正極活物質100質量部に対して、導電助剤20〜100質量部程度、バインダ10〜20質量部程度を配合するのが好ましい。また、その他の方法として、上記の正極活物質と上述した導電助剤およびバインダとの混合物を乳鉢やプレス機などで混練しかつフィルム状にし、フィルム状の混合物をプレス機等で集電体に圧着することで、非水電解質二次電池用正極を製造することもできる。
集電体としては、非水電解質二次電池用正極に一般に用いられるものを使用すれば良い。例えば集電体としては、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボンペーパー(不織布/織布)等が例示される。このうち黒鉛化度の高いカーボンからなるカーボンペーパー集電体は、水素を含まず、硫黄やフッ素との反応性が低いために、正極活物質用の集電体として好適である。黒鉛化度の高い炭素繊維の原料としては、カーボン繊維の材料となる各種のピッチ(すなわち、石油、石炭、コールタールなどの副生成物)やPAN繊維等を用いることができる。
本発明の非水電解質二次電池は、正極に伝導材を含むのが好ましい。伝導材とは、自身が高い電気伝導性を示すか、あるいは、正極のイオン伝導性を大きく向上させ得る材料を指す。正極に伝導材を含むことで、正極全体の電気伝導度および/またはイオン伝導性を向上させることができ、非水電解質二次電池の放電レート特性を向上させ得る。伝導材の材料(伝導材材料)としては、硫化物の状態で上記の機能を示すものを用いるのが好ましい。正極活物質の原料たる硫黄によって硫化されても、伝導材の機能を損なわないためである。
伝導材材料としては、第4周期金属、第5周期金属、第6周期金属および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属、またはその硫化物を用いることができる。なお、本明細書でいう第4周期金属、第5周期金属および第6周期金属とは、周期律表によるものである。例えば第4周期金属とは、周期律表における第4周期元素に含まれる金属を指す。伝導材材料としては、硫化物の状態で自身が高い電気伝導性を示すか、あるいは、正極のイオン伝導性を大きく向上させ得るものが好ましく、例えば、Ti、Fe、La、Ce、Pr、Nd、Sm、V、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Pbからなる群から選ばれる少なくとも一種、またはその硫化物であるのが好ましい。なお伝導材は、正極中においては、上記金属とその硫化物との両方からなるか、或いは、上記金属の硫化物のみからなる。これらの伝導材材料は硫化物を多く含むのが好ましく、硫化物のみからなるのがより好ましい。上記金属を硫化物の状態で正極に配合することで、伝導材と、硫黄を含む正極活物質とがなじみ易くなり、伝導材と正極活物質とが略均一に分散するためである。また、伝導材材料として硫化物を用いることで、伝導材における上記金属と硫黄との比率を所望する範囲に容易に制御できる利点もある。
詳しくは、電気伝導度及び/又はイオン伝導性(より具体的には、リチウムイオン伝導性、ナトリウムイオン伝導性)の高い伝導材としては、TiS2、FeS2、Me23(式中、MeはTi、La、Ce、Pr、Nd、Smから選ばれる一種である)、MeS(式中、MeはTi、La、Ce、Pr、Nd、Smから選ばれる一種である)、Me34(式中、MeはTi、La、Ce、Pr、Nd、Smから選ばれる一種である)、Mexy(式中、MeはTi、Fe、V、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Pbから選ばれる一種であり、x、yは任意の整数である)が挙げられる。この場合、伝導材材料としてはTi、Fe、La、Ce、Pr、Nd、Sm、V、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ta、W、Pbから選ばれる少なくとも一種を、そのまま、又は、上記の伝導材のような硫化物の状態で用いれば良い。これらの伝導材材料を用いることで、正極全体の電気伝導度及び/又はイオン伝導性を向上させることができ、非水電解質二次電池の放電レート特性を向上させ得る。なお、原料コストや調達のし易さ、資源量を鑑みると、TiSz(式中、zは0.1〜2である)を用いるのがより好ましく、TiS2を用いるのが特に好ましい。
上記正極活物質と伝導材との配合比は、質量比で、10:0.5〜10:5であるのが好ましく、10:1〜10:3であるのがより好ましい。伝導材の配合量が過大であれば、正極全体に対する正極活物質の量が過小になるためである。伝導材を正極活物質中に略均一に分散させるためには、伝導材は粉末状であるのが好ましい。伝導材は、電子顕微鏡などを用いて測定した粒径が0.1〜100μmであるのが好ましく、0.1〜50μmであるのがより好ましく、0.1〜20μmであるのがさらに好ましい。
なお、正極活物質と伝導材との混合を同定するには、以下のようにX線回折分析により行うことができる。
ASTMカードによるLa23の主な回折ピーク位置は、24.7、25.1、26.9、33.5、37.2、42.8°等である。TiS2の主な回折ピーク位置は、15.5、34.2、44.1、53.9°等である。Tiの主な回折ピーク位置は、35.1、38.4、40.2、53.0°等である。MoS2の主な回折ピーク位置は、14.4、32.7、33.5、35.9、39.6、44.2、49.8、56.0、58.4°等である。Feの主な回折ピーク位置は、44.7、65.0、82.3°等である。PANを用いた正極活物質では、回折角(2θ)が20〜30°の範囲で、25°付近にブロードな単一ピークが認められる。これに対して、伝導材を配合した正極活物質−伝導材複合体では、伝導材に由来するピークが現れる。例えば伝導材材料としてLa23を用いた場合、24.7、25.1、33.5、37.2°付近にLa23のピークが現れる。このピークにより、伝導材材料としてLa23を用いたこと(すなわち正極が伝導材としてLa23を含むこと)を確認できる。また、伝導材材料としてTiS2を用いた場合には、殆どピークが確認できなかった。伝導材材料としてTiを用いた場合には、35.1、38.4、40.2、53.0°付近にTiのピークが現れる。このピークにより、伝導材材料としてTiを用いたことを確認できる。上記したように伝導材材料としてTiS2を用いた場合には、X線回折ではその存在を確認できないが、他の分析方法、例えばICP元素分析や蛍光X線分析などの方法を用いればTiを検出できるため、X線回折でピークが確認されない場合にもTiS2の添加を推測できる。また伝導材材料としてMoS2を用いた場合、14.4、32.7、33.5、35.9、39.6、44.2、49.8、56.0、58.4°付近にMoS2のピークが現れる。このピークにより、伝導材材料としてMoS2を用いたこと(すなわち正極が伝導材としてMoS2を含むこと)を確認できる。伝導材材料としてFeを用いた場合には、28.5、33.0、37.1、40.8、47.4、56.3、59.0°付近にFeS2のピークが現れる。このピークにより、伝導材材料としてFeを用いたこと(すなわち正極が伝導材としてFeS、FeS2、Fe23の少なくとも一種を含むこと)を確認できる。
(非水電解質二次電池)
以下、上述の正極活物質を正極に用いた非水電解質二次電池の構成について説明する。正極に関しては、上述したとおりである。
〔負極〕
本発明の非水電解質二次電池用における負極活物質としては、金属リチウムまたは金属ナトリウムを用いることができる。金属リチウムを負極活物質に用いる場合、本発明の非水電解質二次電池はリチウム二次電池である。金属ナトリウムを負極活物質に用いる場合、本発明の非水電解質二次電池はナトリウム二次電池(所謂ナトリウム硫黄電池)である。
負極用の集電体としては、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボンペーパー(不織布/織布)等が例示される。
〔電解質〕
非水電解質二次電池に用いる電解質としては、有機溶媒に電解質であるアルカリ金属塩を溶解させたものを用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル等の非水系溶媒から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。電解質としては、負極活物質としてリチウムを用いる場合には、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiI、LiClO4等を用いることができる。負極活物質としてナトリウムを用いる場合には、NaPF6、NaBF4、NaClO4、NaAsF6、NaSbF6、NaCF3SO3、NaN(SO2CF32、低級脂肪酸ナトリウム塩、NaAlCl4等から選ばれる一種又は複数種を用いることができる。なかでもLiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、NaPF6、NaBF4、NaAsF6、NaSbF6、NaCF3SO3、NaN(SO2CF32等は、フッ素(F)を含むために好ましく用いられる。電解質の濃度は、0.5mol/L〜1.7mol/L程度であれば良い。なお、電解質は液状に限定されず、固体状(例えば高分子ゲル状)であっても良い。
〔その他〕
非水電解質二次電池は、上述した負極、正極、電解質以外にも、セパレータ等の部材を備えても良い。セパレータは、正極と負極との間に介在し、正極と負極との間のイオンの移動を許容するとともに、正極と負極との内部短絡を防止する。非水電解質二次電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、PAN、アラミド、ポリイミド、セルロース、ガラス等を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。非水電解質二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状にできる。
以下、本発明の非水電解質二次電池を具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1の非水電解質二次電池はリチウム二次電池である。実施例1の非水電解質二次電池は以下のように作製した。
〔1〕混合原料
硫黄粉末として、篩いを用いて分級した際に粒径50μm以下となるものを準備した。PAN粉末として、電子顕微鏡で確認した場合に粒径が0.2μm〜2μmの範囲にあるものを準備した。硫黄粉末5質量部と、PAN粉末1質量部とを乳鉢で混合・粉砕して、混合原料を得た。
〔2〕装置
図3に示すように、反応装置1は、反応容器2、蓋3、熱電対4、アルミナ保護管40、2つのアルミナ管(ガス導入管5、ガス排出管6)、アルゴンガス配管50、アルゴンガスを収容したガスタンク51、トラップ配管60、水酸化ナトリウム水溶液61を収容したトラップ槽62、電気炉7、電気炉に接続されている温度コントローラ70を持つ。
反応容器2としては、有底筒状をなすガラス管(石英ガラス製)を用いた。後述する熱処理工程において、反応容器2には混合原料9を収容した。反応容器2の開口部は、3つの貫通孔を持つガラス製の蓋3で閉じた。貫通孔の1つには、熱電対4を収容したアルミナ保護管40(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の他の1つには、ガス導入管5(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の残りの1つには、ガス排出管6(アルミナSSA−S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。なお、反応容器2は、外径60mm、内径50mm、長さ300mmであった。アルミナ保護管40は、外径4mm、内径2mm、長さ250mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6は、外径6mm、内径4mm、長さ150mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、蓋3の外部(反応容器2内)に露出した。この露出した部分の長さは3mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、後述する熱処理工程においてほぼ100℃以下となる。このため、熱処理工程において生じる硫黄蒸気は、ガス導入管5およびガス排出管6から流出せず、反応容器2に戻される(還流する)。
アルミナ保護管40に入れた熱電対4の先端は、間接的に反応容器2中の混合原料9の温度を測定した。熱電対4で測定した温度は、電気炉7の温度コントローラ70にフィードバックした。
ガス導入管5にはアルゴンガス配管50を接続した。アルゴンガス配管50はアルゴンガスを収容したガスタンク51に接続した。ガス排出管6にはトラップ配管60の一端を接続した。トラップ配管60の他端は、トラップ槽62中の水酸化ナトリウム水溶液61に挿入した。なお、トラップ配管60およびトラップ槽62は、後述する熱処理工程で生じる硫化水素ガスのトラップである。
〔3〕熱処理工程
混合原料9を収容した反応容器2を、電気炉7(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)に収容した。このとき、ガス導入管5を介して反応容器2の内部にアルゴンを導入した。このときのアルゴンガスの流速は100ml/分であった。アルゴンガスの導入開始10分後に、アルゴンガスの導入を継続しつつ反応容器2中の混合原料9の加熱を開始した。このときの昇温速度は5℃/分であった。混合原料9が100℃になった時点で、混合原料9の加熱を継続しつつアルゴンガスの導入を停止した。混合原料9が約200℃になるとガスが発生した。混合原料9が360℃になった時点で加熱を停止した。加熱停止後、混合原料9の温度は400℃にまで上昇し、その後低下した。したがって、この熱処理工程において、混合原料9は400℃にまで加熱された。その後、混合原料9を自然冷却し、混合原料9が室温(約25℃)にまで冷却された時点で反応容器2から生成物(すなわち、熱処理工程後の被処理体)を取り出した。なお、このときの加熱時間は400℃で約10分であり、硫黄は還流された。
〔4〕単体硫黄除去工程
熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄(遊離の硫黄)を除去するために、以下の工程をおこなった。
熱処理工程後の被処理体を乳鉢で粉砕した。粉砕物2gをガラスチューブオーブンに入れ、真空吸引しつつ200℃で3時間加熱した。このときの昇温温度は10℃/分であった。この工程により、熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄が蒸発・除去され、単体硫黄を含まない(または、ほぼ含まない)硫黄変性PANを得た。
硫黄変性PANについて元素分析を行ったところ、硫黄及び炭素等の存在が確認された。硫黄変性PANについてラマンスペクトルを測定したところ、ラマンシフトの1331cm-1付近などに、硫黄変性PAN特有のピークが認められた。
〔5〕フッ化工程
無水フッ化水素の中に硫黄変性PANを−30℃の条件の下で0.2時間浸けて、フッ素を導入した。
生成したフッ化変性炭素材料について元素分析を行ったところ、フッ素、硫黄、炭素の存在が認められた。また、ラマンスペクトルについて測定したところ、ラマンシフトの1331cm-1付近などに、硫黄変性PAN特有のピークが認められた。このことから、フッ素導入後にも、硫黄変性PANの変性部分が残っていることがわかる。
<リチウム二次電池の製作>
〔1〕正極
単体硫黄除去工程で得られた正極活物質60質量部と、ケッチェンブラック(KB)20質量部と、ポリイミド(PI)20質量部と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、を混合してスラリーを作製した。
一方、カーボンペーパー(「TGP−H−030」東レ社製)を直径φ13mmに打ち抜いた集電体を用意し、上記スラリーを充填した後に200℃で2時間、減圧下で乾燥して正極を作製した。
〔2〕負極
負極には、金属リチウムを厚さ約0.5mm、直径φ13mmに成形した円盤状のリチウム箔を用いた。
〔3〕電解液
電解液としては、プロピレンカーボネートに、LiPF6を溶解した非水電解質を用いた。電解液中のLiPF6の濃度は、1.0mol/Lであった。
〔4〕電池
上記〔1〕、〔2〕、〔3〕で得た正極、負極および電解液を用いて、コイン電池を製作した。詳しくは、ドライルーム内で、厚さ25μmのポリプロピレン微孔質膜からなるセパレータ(「Celgard2400」Celgard社製)と、厚さ500μmのガラス不織布フィルタと、を正極と負極との間に挟装して、電極体電池とした。この電極体電池を、ステンレス容器からなる電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースには〔3〕で得られた電解液を注入した。電池ケースをカシメ機で密閉して、実施例1の非水電解質二次電池を得た。
実施例1の非水電解質二次電池について作動が確認された。
(実施例2)
実施例2の非水電解質二次電池は、正極活物質として、フッ素化変性PANに代えて、フッ素化変性アントラセンを用いた点が相違する。以下、フッ素化変性アントラセンの製造方法について説明する。
まず、混合工程において、アントラセン粉末に平均粒径50μmの硫黄粉末を混合し、混合原料を調製した。混合原料中におけるアントラセンと硫黄との配合比率は、重量比で硫黄5質量部に対してアントラセンが1質量部となるようにした。
熱処理工程において、上記の混合原料を、実施例1と同様の反応装置を用いて、同条件で、硫黄を還流させながら熱処理を施した。
単体硫黄除去工程において、熱処理工程後の被処理体を乳鉢で粉砕した。粉砕物2gをガラスチューブオーブンに入れ、真空吸引しつつ200℃で3時間加熱した。このときの昇温温度は10℃/分であった。この工程により、熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄が蒸発・除去され、単体硫黄を含まない(または、ほぼ含まない)硫黄変性アントラセンを得た。
フッ化工程において、無水フッ化水素をフッ化剤として用い、硫黄変性アントラセンについて上記実施例1と同様にフッ素を導入した。これにより、フッ素化変性アントラセンを得た。
得られたフッ素化変性アントラセンについて元素分析を行ったところ、フッ素、硫黄及び炭素などの存在が確認された。また、FT−IRスペクトルを測定したところ、1056cm−1付近と、840cm−1付近と、にそれぞれピークが存在し、アントラセンのFT−IRスペクトルとは全く異なっていた。このことから、フッ素導入後にも、硫黄変性アントラセンの変性部分が残っていることがわかる。
上記のフッ素化変性アントラセンを正極活物質として用い、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。作製した非水電解質二次電池の作動は確認された。
1:反応装置 2:反応容器 3:蓋 4:熱電対
5:ガス導入管 6:ガス排出管 7:電気炉

Claims (8)

  1. 炭素化合物に硫黄(S)及びフッ素(F)を導入してなる硫黄フッ素導入化合物からなることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
  2. 前記硫黄フッ素導入化合物は、前記炭素化合物を硫黄で変性させて硫黄変性体とした後に、該硫黄変性体の中の硫黄で変性された硫黄変性部分の少なくとも一部を残しつつフッ素を導入してなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
  3. 前記炭素化合物は、ポリアクリロニトリル、ピッチ類、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種からなる請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
  4. 前記炭素化合物は、植物性原料から生成される請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質と、負極活物質と、電解液とを備えることを特徴とする非水電解質二次電池。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を製造する方法であって、
    前記炭素化合物を硫黄で変性させてなる硫黄変性体に、フッ化剤を接触させることにより該硫黄変性体の中の硫黄で変性された硫黄変性部分の少なくとも一部を残しながら該硫黄変性体にフッ素を導入して前記硫黄フッ素導入化合物を得ることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  7. 前記フッ化剤は、無水フッ化水素、及びフッ素ガスの少なくとも1種からなる請求項6記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  8. 前記硫黄変性体は、炭素化合物と硫黄とを混合して混合原料とする混合工程と、該混合原料を加熱する熱処理工程を行うことで得る請求項6又は7に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
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