JP2013076629A - α2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】生体試料に含まれるα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを、効率的に識別しうる方法を提供する。
【解決手段】担体に捕捉した糖鎖試料におけるシアロ糖鎖に対して、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)試薬を用いてメチルエステル化処理を行い、その後、糖鎖を遊離する。次いで、酸性条件下で、遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する。こうして得られた標識糖鎖を、高速液体クロマトグラフィーや質量分析に供することにより、効率的に、α2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別する。
【選択図】図2
【解決手段】担体に捕捉した糖鎖試料におけるシアロ糖鎖に対して、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)試薬を用いてメチルエステル化処理を行い、その後、糖鎖を遊離する。次いで、酸性条件下で、遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する。こうして得られた標識糖鎖を、高速液体クロマトグラフィーや質量分析に供することにより、効率的に、α2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別する。
【選択図】図2
Description
本発明は、生体試料に含まれるα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別する方法に関する。
糖鎖は疾患により構造が変化することが知られていることから、新たな診断マーカーとして注目されている。例えば、シアロ糖鎖を有するタンパク質は、癌(例えば、乳癌、前立腺癌)などの疾患と関連する新たな診断マーカー開発の標的として注目されている(非特許文献1、2)。
診断マーカーの探索を目的として糖鎖を鋭敏に検出する方法としては、糖鎖の質量分析を行う方法、および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により糖鎖を分離した後に、分離した糖鎖の質量分析を行う方法が有力な手段となっている。しかしながら、シアロ糖鎖におけるシアル酸は不安定で分解し易いため、安定化のための化学修飾を行った後に、分析することが行われている。
シアル酸を化学修飾する方法としては、例えば、安息香酸無水物を用いてベンゾイル化する方法(非特許文献3)、塩化アンモニウムを用いてアミド化する方法(非特許文献1)、メタノールを用いてメチル化する方法(非特許文献4)が報告されている。そして、これら報告においては、シアル酸の修飾により、α2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別できたことが記載されている。
ところで、シアル酸を定量的に化学修飾するには、反応系内に過剰量の試薬の添加を要するため、試薬除去の工程が必要となる。そして、過剰試薬の除去を簡便に行うために、担体に糖鎖を固定化した後に化学修飾する方法が利用されている。
担体に糖鎖を固定化した後にシアル酸を化学修飾する方法としては、例えば、ヒドラジドビーズに糖鎖を固定化した後、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)試薬で糖鎖のシアル酸をメチルエステル化する方法が知られている(非特許文献5)。この方法においては、ヒドラジドビーズに固定化された糖鎖を外した後、aoWR試薬で標識し、MALDI-TOF MSによる質量分析を行っている。
しかしながら、MTT試薬を用いたメチルエステル化はα2,3−シアル酸とα2,6−シアル酸の両方を修飾してしまうため、この方法では、その後の質量分析において質量数の違いが見られず、位置異性体であるこれらシアロ糖鎖を識別できない。
Alley WR Jr, Novotny MV. Proteome Res. 2010 Jun 4;9(6):3062-72.
Tajiri M. et al., Glycobiology. 2008;18(1):2-8.
Chen P. et al., Anal Chem. 1999 Nov 1;71(21):4969-73.
Wheeler SF. et al., Rapid Commun Mass Spectrom. 2009 Jan;23(2):303-12.
Miura Y. et al., Chemistry. 2007;13(17):4797-804.
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体試料に含まれるα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを、効率的に識別しうる方法を提供することにある。
本発明者らは、同質量の異性体であるα2,3−シアル酸とα2,6−シアル酸を質量分析で簡便に識別することを目的に、いずれか一方を異なる質量数を持つように修飾する方法につき鋭意検討を行った。具体的には、本発明者らは、ヒドラジド基を有する担体に捕捉されたα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖に対して、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)試薬を用いてメチルエステル化処理を行い、その後、酸性条件下でメチルエステルの加水分解を行うと同時に当該糖鎖の還元末端をアミノ基を有する化合物で標識した。その結果、偶然にも、この酸性条件下での処理の過程で、メチルエステル化されたα2,6−シアル酸は加水分解せず、一方、メチルエステル化されたα2,3−シアル酸は加水分解されて脱メチル化することを見出した。この脱メチル化によりα2,3−シアル酸の質量数が変化することから、本発明者らは、こうして得られたα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖を高速液体クロマトグラフィーや質量分析に供することにより、また高速液体クロマトグラフィーの後に質量分析に供することにより、効率的に、α2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
(1)生体試料に含まれるα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別する方法であって、
(a)生体試料から糖鎖を遊離する工程、
(b)遊離させた糖鎖のアルデヒド基を、その表面にヒドラジド基を有する固相担体に接触させ、ヒドラゾン結合により、糖鎖を担体に捕捉する工程、
(c)捕捉した糖鎖のシアル酸に対し、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)を用いてメチルエステル化処理を行う工程、
(d)メチルエステル化処理を行った糖鎖を再遊離する工程、
(e)酸性条件下で、再遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、再遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する工程、
(f)標識した糖鎖を高速液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析に供し、メチルエステル化されたα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖とを検出する工程、
を含む方法。
(a)生体試料から糖鎖を遊離する工程、
(b)遊離させた糖鎖のアルデヒド基を、その表面にヒドラジド基を有する固相担体に接触させ、ヒドラゾン結合により、糖鎖を担体に捕捉する工程、
(c)捕捉した糖鎖のシアル酸に対し、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)を用いてメチルエステル化処理を行う工程、
(d)メチルエステル化処理を行った糖鎖を再遊離する工程、
(e)酸性条件下で、再遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、再遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する工程、
(f)標識した糖鎖を高速液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析に供し、メチルエステル化されたα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖とを検出する工程、
を含む方法。
本発明により、生体試料に含まれるα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを、効率的に識別することが可能となった。これにより、α2,6−シアロ糖鎖やα2,3−シアロ糖鎖の定量による癌などの疾患の診断や、新たな糖鎖バイオマーカー開発を目指したシアロ糖鎖の比較定量解析が可能となった。
(生体試料から糖鎖を遊離する工程)
本発明において糖鎖の遊離に用いる生体試料としては、例えば全血、血清、血漿、尿、唾液、細胞、組織、ウイルス、植物組織などが挙げられる。また、本発明においては、精製された、あるいは未精製の糖タンパク質を用いることができる。試料は脱脂、脱塩、タンパク質分画、熱変性などの方法により前処理されていてもよい。
本発明において糖鎖の遊離に用いる生体試料としては、例えば全血、血清、血漿、尿、唾液、細胞、組織、ウイルス、植物組織などが挙げられる。また、本発明においては、精製された、あるいは未精製の糖タンパク質を用いることができる。試料は脱脂、脱塩、タンパク質分画、熱変性などの方法により前処理されていてもよい。
糖鎖遊離手段を用いて上記生体試料に含まれる糖鎖を含む分子(例えば、糖タンパク質)から糖鎖を遊離させる。糖鎖を遊離させる手段としては、N−グリコシダーゼあるいはO−グリコシダーゼを用いたグリコシダーゼ処理、ヒドラジン分解、アルカリ処理によるβ脱離などの方法を用いることができる。N型糖鎖の分析を行う場合は、N−グリコシダーゼを用いる方法が好ましい。グリコシダーゼ処理に先立って、トリプシンやキモトリプシンなどを用いてプロテアーゼ処理を行ってもよい。
(遊離した糖鎖を担体に捕捉する工程)
本発明においては、次いで、遊離させた糖鎖のアルデヒド基を、その表面にヒドラジド基を有する固相担体に接触させ、ヒドラゾン結合により、糖鎖を担体に捕捉する。
本発明においては、次いで、遊離させた糖鎖のアルデヒド基を、その表面にヒドラジド基を有する固相担体に接触させ、ヒドラゾン結合により、糖鎖を担体に捕捉する。
糖鎖は生体内物質のなかで唯一、アルデヒド基をもつ物質である。すなわち、糖鎖は水溶液などの状態で環状のヘミアセタール型と、非環状型のアルデヒド型とが平衡で存在する。タンパク質や核酸、脂質など糖鎖以外の生体内物質にはアルデヒド基が含まれていない。このことから、アルデヒド基と特異的に反応して安定な結合を形成するヒドラジド基を有する捕捉担体を利用すれば、糖鎖のみを選択的に捕捉することが可能である。
糖鎖を捕捉するための担体としては、ポリマー粒子を用いることが好ましい。ポリマー粒子は、少なくとも表面の一部にヒドラジドを有した固体あるいはゲル粒子であることが好ましい。ポリマー粒子が固体粒子あるいはゲル粒子であれば、ポリマー粒子に糖鎖を捕捉させたのち、遠心分離やろ過などの手段によって容易に回収することができる。また、ポリマー粒子をカラムに充填して用いることも可能である。カラムに充填して用いる方法は、特に連続操作化の観点から重要となる。反応容器としてフィルタープレート(例えば、Millipore社製のMultiScreen Solvinert Filter Plate)を用いることにより、複数のサンプルを同時に処理することが可能となり、例えばゲルろ過に代表されるカラム操作による従来の精製手段と比較して、糖鎖精製のスループットが大幅に向上される。
ポリマー粒子の形状は特に限定しないが、球状またはそれに類する形状が好ましい。ポリマー粒子が球状の場合、平均粒径は好ましくは0.05〜1000μmであり、より好ましくは0.05〜200μmであり、さらに好ましくは0.1〜200μmであり、最も好ましくは0.1〜100μmである。平均粒径が下限値未満では、ポリマー粒子をカラムに充填して用いる際、通液性が悪くなるために大きな圧力を加える必要がある。また、ポリマー粒子を遠心分離やろ過で回収することも困難となる。平均粒径が上限値を超えると、ポリマー粒子と試料溶液の接触面積が少なくなり、糖鎖捕捉の効率が低下する。本発明においては、ヒドラジド基含有ポリマー粒子である「BlotGlyco(R)」(住友ベークライト株式会社製、#BS-45603)を好適に用いることができる。
糖鎖を特異的に捕捉するポリマー粒子によって糖鎖を捕捉する際の反応系のpHは、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。pH調整のためには、各種緩衝液を用いることができる。糖鎖捕捉時の温度は、好ましくは4〜90℃、より好ましくは4〜70℃、さらに好ましくは30〜80℃であり、最も好ましくは40〜80℃である。反応時間は適宜設定することができる。ポリマー粒子をカラムに充填して試料溶液を通過させてもよい。
ポリマー粒子を用いた場合、担体表面には糖鎖以外の莢雑物が非特異的に吸着しているため、これらを洗浄除去する必要がある。洗浄液としては、水、緩衝液、界面活性剤を含む水または緩衝液、有機溶剤などを適宜組み合わせて用いることが好ましい。特に好ましい形態は、界面活性剤を含む水または緩衝液で十分に洗浄したのち、有機溶剤で洗浄し、最後に水で洗浄する方法である。これらの洗浄により、非特異的吸着物がポリマー粒子表面から除去される。
担体上の余剰官能基は、例えば、無水酢酸などを利用して、キャッピングすることができる。
(捕捉した糖鎖のシアル酸に対しメチルエステル化処理を行う工程)
本発明においては、次いで、担体に捕捉した糖鎖のシアル酸に対し、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)を用いてメチルエステル化処理を行う。メチルエステル化処理は、BlotGlycoキット(住友ベークライト株式会社製)の説明書に記載の方法で行うことができる。
本発明においては、次いで、担体に捕捉した糖鎖のシアル酸に対し、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)を用いてメチルエステル化処理を行う。メチルエステル化処理は、BlotGlycoキット(住友ベークライト株式会社製)の説明書に記載の方法で行うことができる。
(捕捉した糖鎖を再遊離する工程)
本発明においては、次いで、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離し、精製された糖鎖試料を得る。ヒドラジド基とアルデヒド基との反応によって生じるヒドラゾン結合は、酸処理によって容易に切断されるため、糖鎖を捕捉したのち、糖鎖を担体から簡単に切り離すことができる。この工程では、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離するために、酸と有機溶媒の混合溶媒あるいは酸と水と有機溶媒の混合溶媒にて酸処理を行うことが好ましい。酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の含有率は好ましくは0.1%〜90%、より好ましくは0.1%〜80%、さらに好ましくは0.1%〜50%である。水の代わりに水性緩衝液を含有しても良い。緩衝液の濃度は好ましくは0.1mM〜1M、より好ましくは0.1mM〜500mM、さらに好ましくは1mM〜100mMである。反応溶液のpHは好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。使用する酸は例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が好ましく、より好ましくは酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、さらに好ましくは酢酸、トリフルオロ酢酸である。反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは40〜90℃である。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜3時間である。反応は、糖鎖を遊離させる反応を効率よく行う観点から、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。
本発明においては、次いで、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離し、精製された糖鎖試料を得る。ヒドラジド基とアルデヒド基との反応によって生じるヒドラゾン結合は、酸処理によって容易に切断されるため、糖鎖を捕捉したのち、糖鎖を担体から簡単に切り離すことができる。この工程では、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離するために、酸と有機溶媒の混合溶媒あるいは酸と水と有機溶媒の混合溶媒にて酸処理を行うことが好ましい。酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の含有率は好ましくは0.1%〜90%、より好ましくは0.1%〜80%、さらに好ましくは0.1%〜50%である。水の代わりに水性緩衝液を含有しても良い。緩衝液の濃度は好ましくは0.1mM〜1M、より好ましくは0.1mM〜500mM、さらに好ましくは1mM〜100mMである。反応溶液のpHは好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。使用する酸は例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が好ましく、より好ましくは酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、さらに好ましくは酢酸、トリフルオロ酢酸である。反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは40〜90℃である。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜3時間である。反応は、糖鎖を遊離させる反応を効率よく行う観点から、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。
(再遊離した糖鎖を標識する工程)
本発明においては、次いで、酸性条件下で、再遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、再遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する。
本発明においては、次いで、酸性条件下で、再遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、再遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する。
反応系においてpHは、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜5である。反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは40〜90℃である。アミノ化合物の濃度は、1mM〜10Mであるのが好ましく、還元剤の濃度は、1mM〜10Mであるのが好ましい。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜3時間である。
ここで、アミノ基を有する化合物は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有することが好ましく、例えば下記の群から選ばれる少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
2−Aminopyridine(PA)、2−Aminobenzamide(2AB)、8−Aminopyrene−1、3,6−trisulfonate、8−Aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate、7−amino−1,3−naphtalenedisulfonic acid、2−Amino9(10H)−acridone、5−Aminofluorescein、Dansylethylenediamine、7−Amino−4−methylcoumarine、2−Aminobenzoic acid、3−Aminobenzoic acid、7−Amino−1−naphthol、3−(Acetylamino)−6−aminoacridine、2−Amino−6−cyanoethylpyridine、Ethyl p−aminobenzoate、p−Aminobenzonitrile、及び7−aminonaphthalene−1,3−disulfonic acid。
特に、アミノ化合物が2−aminobenzamideの場合、反応温度に関しては4〜90℃、好ましくは30〜90℃で、さらに好ましくは40〜80℃である。アミノ化合物の濃度は1mM〜10M、好ましくは10mM〜10Mで、さらに好ましくは100mM〜1Mである。還元剤の濃度は、1mM〜10M、好ましくは10mM〜10M、さらに好ましくは100mM〜2Mである。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、さらに好ましくは1時間〜3時間である。
また、還元剤は例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、ピリジンボランなどが使用可能であるが、シアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用するのが反応性の面から考えて好ましい。
この工程後、得られる溶液は標識された糖鎖と過剰量加えた未反応アミノ化合物、還元剤が存在するため、これら余剰試薬を除去する工程を行うのが好ましい。シリカカラムによる除去、ゲル濾過による除去、イオン交換樹脂による除去、いずれの方法を用いても良いが、シアル酸の離脱を防ぐために使用する溶媒は中性であるのが好ましい。
(標識した糖鎖を高速液体クロマトグラフィーに供する工程)
本発明においては、次いで、標識した糖鎖を高速液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析に供し、メチルエステル化されたα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖とを検出する。
本発明においては、次いで、標識した糖鎖を高速液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析に供し、メチルエステル化されたα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖とを検出する。
メチルエステル化されているα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖は、高速液体クロマトグラフィーにおいて異なるピークとして検出され、これによりα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖を識別することができる。また、ピーク面積を指標に定量することができる。
また、メチルエステル化されているα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖は、異なる質量数を有するため、質量分析において、異なる質量電荷比(m/z値)のピークとして検出することができる。
さらに、高速液体クロマトグラフィーにおいてピークとして検出されたメチルエステル化されたα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖とを質量分析に供することができる(LC−MS)。
質量分析においては、質量電荷比やピーク強度(ピーク高さ、ピーク面積など任意の指標)から、糖鎖の定量や糖鎖の構造分析を行うことができる。糖鎖の分析においては、各種データベース(例えば、GlycoMod、Glycosuiteなど)を利用することができる。上記質量分析によりピークとして検出された分子を、さらに質量分析に供することにより、より詳細な解析を行うこともできる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
α2,6−シアル酸を有する糖鎖A(下記の式(A)、5nmol)、α2,3−シアル酸を有する糖鎖B(下記の式(B)、5nmol)を、BlotGlycoキット(住友ベークライト株式会社製)のゲルに結合させた。
各シアロ糖鎖が固定化されたゲルに、MTTをDMSOに溶解した0.5MのMTT溶液100μlを添加し、1時間60℃で反応させメチルエステル化を行った。反応後、BlotGlycoキットの洗浄方法に従って過剰試薬を除去した。
次に、メチルエステル化の加水分解が生じやすい酸性条件にさらした。具体的には、各メチルエステル化されたシアロ糖鎖が固定化されたゲルを、BlotGlycoキットの説明書に記載の条件に従い、ゲルに固定化させた糖鎖を遊離させ、遊離した糖鎖をPA標識した。得られた糖鎖AとBを逆相HPLCにて分析した。逆相HPLCの条件を表1に示す。
なお、表1のA液及びB液は、それぞれ移動相を構成する液体であり、これらA液とB液とを混合して移動相の極性を調整するようになっている。また、表1において、「B:a%(T1分)→B:b%(T2分)」という記載は、B溶液の濃度を、(T2−T1)分間で、a%からb%まで変化させたことを意味する。ただし、T1,T2,a,bはそれぞれ実数を表わす。また、表1において%は体積を基準とした百分率を表わす。
α2,6−シアル酸を有する糖鎖Aにおいては図1の上段に示すように、ピーク1がみられ、ピーク1のLC−MSスペクトルよりm/z値726.3、748.3のシグナル(図2の左)が検出された。これらの質量電荷比(m/z)の値は、糖鎖Aがメチルエステル化されプロトンが付加した質量数(726.3)と糖鎖Aがメチルエステル化されNaイオンが付加した質量数(748.3)にほぼ一致することから、メチルエステル化されたシアロ糖鎖が得られたことが判明した。
α2,3−シアル酸を有する糖鎖Bにおいては図1の下段に示すように、ピーク2がみられ、ピーク2のLC−MSスペクトルよりm/z値712.3のシグナル(図2の右)が検出された。これらの質量電荷比(m/z)の値は、糖鎖Bがメチルエステル化されたのちメチルエステルが加水分解されたものにプロトンが付加した質量数(712.30)にほぼ一致することから、脱メチル化されたシアロ糖鎖が得られたことが判明した。
本発明によれば、α2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖を効率的に識別することが可能となるため、本発明は、例えば、α2,6−シアロ糖鎖やα2,3−シアロ糖鎖の定量による癌などの疾患の診断や、シアロ糖鎖を標的とした新たなバイオマーカーの開発に有用である。従って、本発明は、例えば、医療分野において大きく貢献しうるものである。
Claims (1)
- 生体試料に含まれるα2,6−シアロ糖鎖とα2,3−シアロ糖鎖とを識別する方法であって、
(a)生体試料から糖鎖を遊離する工程、
(b)遊離させた糖鎖のアルデヒド基を、その表面にヒドラジド基を有する固相担体に接触させ、ヒドラゾン結合により、糖鎖を担体に捕捉する工程、
(c)捕捉した糖鎖のシアル酸に対し、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン(MTT)を用いてメチルエステル化処理を行う工程、
(d)メチルエステル化処理を行った糖鎖を再遊離する工程、
(e)酸性条件下で、再遊離した糖鎖におけるメチルエステル化されたα2,3−シアロ糖鎖を脱メチル化すると供に、再遊離した糖鎖にアミノ基を有する化合物を作用させて還元的アミノ化反応を行い、アミノ基を有する化合物で当該糖鎖を標識する工程、
(f)標識した糖鎖を高速液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析に供し、メチルエステル化されたα2,6−シアロ糖鎖と脱メチル化されたα2,3−シアロ糖鎖とを検出する工程、
を含む方法。
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