JP2013075819A - 窒化物結晶の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】原料の無駄を抑えながら、歩留まり良く品質が良い窒化物結晶を製造する方法を提供すること。
【解決手段】反応容器内に、原料、種結晶、鉱化剤、および、窒素を含有する溶媒を配置し、反応容器内の温度および圧力を溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して種結晶の表面に窒化物結晶を成長させる際に、原料を溶解するための原料溶解領域(9)と窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域(6)とを含む反応容器(20)を採用し、種結晶(7)を結晶成長領域に配置し、結晶成長領域内側の表面積(A)と種結晶の表面積の総和(B)とが(B)/(A)=0.1〜7の関係を満たすようにする。
【選択図】図1

Description

本発明は、窒化物結晶の製造方法、特に種結晶と反応容器内壁との関係に着目した窒化物結晶の製造方法に関する。
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニアなどの溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。
アモノサーマル法による窒化ガリウム結晶成長は、結晶の成長過程において反応容器の内壁に多結晶の窒化ガリウムが析出しやすく、原料の使用効率が悪いという問題があった。
また、このような窒化ガリウムの製造方法では、複数の種結晶(シード)を配置して、1回で多数の結晶を成長させる方法が検討されている。下記特許文献1および2には、複数の種結晶を配置して窒化ガリウムを成長させることが開示されている。
特表2008−521737号公報 特表2010−50762号公報
しかしながら、これらの文献に記載される方法にしたがって複数の種結晶を配置しても、原料を効率良く利用して品質が良好な窒化物結晶を製造することは容易ではなかった。このため、本発明者らは、原料の無駄を抑えながら、歩留まり良く品質が良い窒化物結晶を製造する方法を提供することを目的として鋭意検討を重ねた。
本発明者らが検討を進めた結果、原料を溶解するための原料溶解領域と前記窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域とを含む反応容器を用いるときに、前記結晶成長領域中に配置する種結晶の表面積と前記結晶成長領域内壁の表面積との比を制御することによって、原料の利用効率を高めて品質が良い窒化物結晶を製造しうることを見出し、以下の本発明を提供するに至った。
[1] 反応容器内に、原料、種結晶、鉱化剤および、窒素を含有する溶媒を配置し、前記反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記種結晶の表面に窒化物結晶を成長させる工程を含む窒化物結晶の製造方法であって、前記反応容器は、前記原料を溶解するための原料溶解領域と前記窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域とを含み、且つ、少なくとも前記種結晶は前記結晶成長領域に配置され、前記結晶成長領域内側の表面積(A)と前記種結晶の表面積の総和(B)とが、(B)/(A)=0.1〜7の関係を満たす窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記結晶成長領域に複数の前記種結晶を配置した[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記反応容器内に、前記鉱化剤としてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択される1以上のハロゲン元素を含有する鉱化剤を配置した[1]または[2]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記反応容器内に、前記鉱化剤として塩素、臭素およびヨウ素から選択される1以上のハロゲン元素とフッ素とを含有する鉱化剤を配置した[1]または[2]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記種結晶の主面の形状が多角形である[1]〜[4]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記種結晶の主面の形状が、四角形または六角形である[5]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記種結晶の厚さが1000μm以下である[1]〜[6]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 複数の前記種結晶が2〜70mmの間隔で並べて配置された[2]〜[7]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[9] 複数の前記種結晶が平行または垂直方向に並べて配置された[2]〜[8]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[10] 複数の前記種結晶が交互に並べて配置された[2]〜[9]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[11] 前記原料溶解領域の温度と前記結晶成長領域の温度との差(ΔT)を5〜10
0℃として、前記種結晶の表面に窒化物結晶を成長させる[1]〜[10]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[12] 前記窒化物結晶が周期表第13族金属窒化物結晶である[1]〜[11]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
[13] 前記窒化物結晶の成長速度が50〜1000μm/dayである[1]〜[12]のいずれか一つに記載の窒化物結晶の製造方法。
本発明の窒化物結晶の製造方法によれば、原料利用効率に優れた窒化物結晶の製造方法を提供することができる。なお、本発明において原料の「利用効率」とは、結晶成長の工程で溶解した原料のうち、種結晶上に析出する結晶の比率を意味する。
本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。 本発明で用いることができる別の結晶製造装置の模式図である。 種結晶の形状を示す模式図である。 種結晶の配置を説明するための上面図である。 種結晶の他の配置を説明するための上面図である。 複数の種結晶が配置された具体例を示す上面図である。 実施例および比較例の反応容器内における種結晶の配置を示す上面図である。
以下において、本発明の窒化物結晶の製造方法、およびそれに用いる結晶製造装置や部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
まず、六方晶系の結晶構造の軸と面との関係について説明する。本明細書において下地基板、種結晶またはIII族窒化物結晶の「主面」とは、当該下地基板、シードまたはIII族窒化物結晶における最も広い面であって、通常は結晶成長を行うべき面を指す。本明細書において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。例えば、(0001)面とその反対面である(000−1)面を指す。III−V族結晶では、C面はIII族面又はV族面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面又はN面に相当する。また、本明細書において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(1−100)面や、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。さらに、本明細書において「A面」とは、{2−1−10}面、{−12−10}面、{−1−120}面、{−2110}面、{1−210}面、{11−20}面として包括的に表される非極性面である。具体的には(11−20)面や、(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、を意味する。本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。
[窒化物結晶の製造方法]
本発明の窒化物結晶の製造方法は、反応容器内に、原料、種結晶、鉱化剤および、窒素を含有する溶媒を配置し、前記反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記種結晶の表面に窒化物結晶を成長させる工程を含む窒化物結晶の製造方法であって、前記反応容器は、前記原料を溶解するための原料溶解領域と前記窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域とを含み、且つ、少なくとも前記種結晶は前記結晶成長領域に配置され、前記結晶成長領域内側の表面積(A)と前記種結晶の表面積の総和(B)とが、(B)/(A)=0.1〜7の関係を満たすものである。
前記窒化物の製造方法によれば、反応容器内における結晶成長領域内側(内壁)の表面積と、前記結晶成長領域内に配置される種結晶の表面積の総和との比を特定の範囲とすることで、超臨界状態および/または亜臨界状態で種結晶表面に窒化物結晶を成長させる工程において、前記結晶成長領域の内壁や種結晶を固定する部材等の枠に窒化物の多結晶等が析出されるのを抑制することができ、原料の使用効率を向上させることができる。
また、原料の使用効率の向上に加え、前記結晶成長領域内に配置される種結晶の表面積の総和との比を特定の範囲とすることで、種結晶表面に成長する窒化物結晶の品質を向上させることができる。このため、本発明の窒化物結晶の製造方法は、結晶性に優れた窒化物単結晶の製造方法としても好適に用いることができる。
更に、前記結晶成長領域内に配置される種結晶の表面積の総和との比を特定の範囲とすることで種結晶表面以外に結晶が析出するのを抑制できることから、結晶析出面を種結晶表面に集中させることができるため、種結晶表面に成長する結晶の成長速度を安定して高めることができ、得られる結晶の成長速度のコントロールにも寄与する。
前記結晶成長領域内側の表面積(A)と前記種結晶の表面積の総和(B)とは、(B)/(A)=0.1〜7を満たすように設定される。(B)/(A)は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。また、7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
前記結晶成長領域内側の表面積および種結晶の表面積の算出方法については後述する。
(反応容器)
前記製造方法は、反応容器中で実施される。前記反応容器は、前記原料を溶解するための原料溶解領域と前記窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域とを含む。前記原料溶解領域と前記結晶成長領域とは、超臨界状態および/または亜臨界状態とされた前記溶媒が移動可能なように連通されている。特に限定はないが、アモノサーマル法を利用する観点からは、前記反応容器内において、前記原料溶解領域が前記結晶成長領域の鉛直方向下側に配置されていることが好ましい。前記原料溶解領域および前記結晶成長領域の配置位置は、用いる鉱化剤の種類と設定温度で適宜調整することができる。前記原料溶解領域と前記結晶成長領域との境界には、容器内の対流を制限する部材(例えばバッフル板)等で仕切られていてもよい。
前記結晶成長領域は、多段構成とすることができ、種結晶を段毎に設置するように構成することもできる。また、支持枠やワイヤーを利用することによって、単数または複数の種結晶を結晶成長領域内に設置することができる。前記支持枠やワイヤーとしては、例えば、後述する反応容器と同じ材料から適宜選択することが可能であるが、白金を好ましく用いることができる。
前記反応容器は、窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択されるのが好ましい。前記反応容器は、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないオートクレーブであってもよい。
前記反応容器は、耐圧性と耐食性とを有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して反応容器内に設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
反応容器の耐食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐食性を利用して、貴金属により反応容器の内表面をライニングまたはコーティングしてもよい。また、反応容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、およびこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐食性を有するPtを用いることが好ましい。
次に図1および2を用いて前記反応容器について説明する。図1は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。図2は、本発明で用いることができる別の結晶製造装置の模式図である。
図1における結晶成長装置においては、オートクレーブ1中(オートクレーブ2内面の内側)に反応容器として装填されるカプセル20中で結晶成長が行われる。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6とから構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6には種結晶7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6との間には、2つの領域を区画するバッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2〜60%であるものが好ましく、3〜40%であるものがより好ましい。バッフル板5の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板5の表面は、Ni、Ta、W、Mo、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることが好ましく、W、Mo、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。
図1に示される結晶製造装置では、オートクレーブの内壁2とカプセル20との間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、前記窒化物結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
前記窒化物結晶の製造方法に用いることができる別の結晶製造装置の具体例を図2に示す。図2に示される結晶製造装置では、カプセルを使用せず、オートクレーブ内を反応容器として結晶成長が行われる。オートクレーブ1中は図1の結晶製造装置のカプセル20中と同様に、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6とから構成されている。その他の部材の設置も、図1の結晶製造装置と同様に上述の通りとすることができる。
オートクレーブにより耐食性を持たせるためにオートクレーブ内面2にライニング3を使用してライニング内面4を形成することもできる。ライニング内面4を形成するする材料として、Pt、Ir、W、Mo、Ag、Pd、Rh、Cu、AuおよびCのうち少なくとも一種類以上の金属または元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金または化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、CuおよびCのうち少なくとも一種類以上の金属または元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金または化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
前記結晶成長領域内側の表面積(A)の算出方法について説明する。前記結晶表面領域内側とは、反応容器内において結晶表面領域を形成する部位の内面で覆われた領域を意味する。例えば、図1における結晶製造装置においては、カプセル内面21の結晶成長領域6に該当する部位と、バッフル板5の結晶成長領域6側の表面とで覆われた領域が該当する。図2における結晶製造装置においては、ライニング内面4の結晶成長領域6に該当する部位と、バッフル板5の結晶領域6側の表面とで覆われた領域が該当する。
例えば、反応容器が円筒状の場合には、反応容器の内径(カプセルを用いる場合にはその内径、反応容器内面をライニングする場合にはライニング内面の内径)と、結晶成長領域の高さと、から円柱の表面積を算出することで結晶成長領域内側の表面積(A)を求めることができる。
前記結晶領域内側の表面積としては、本発明の効果を損なわない範囲で、反応容器全体の大きさや反応容器内に設置する部材、種結晶などの大きさにあわせて適宜調整すればよい。
(種結晶)
前記種結晶としては、前記製造方法によって成長させる窒化物の結晶を用いることが望ましい。但し、必ずしも同一の窒化物でなくてもよい。成長させる窒化物と異なる種類の窒化物を種結晶として用いる場合には、目的の窒化物と一致し、もしくは適合した結晶系、格子定数、結晶格子のサイズパラメータを有する種結晶であるか、またはヘテロエピタキシー(すなわち若干の原子の結晶学的位置の一致)を保証するよう配位した単結晶材料片もしくは多結晶材料片から構成されている種結晶を用いる必要がある。窒化物以外の結晶を種結晶として使用する場合は、種結晶としては、六方晶系の結晶構造を有するものが好ましい。種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)を成長させる場合、GaNの単結晶や多結晶の他、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物単結晶、酸化亜鉛(ZnO)の単結晶、炭化ケイ素(SiC)の単結晶、サファイア(Al23)等が挙げられる。
種結晶は、溶媒への溶解度および鉱化剤との反応性を考慮して決定することができる。例えば、GaNの種結晶としては、MOCVD法やHVPE法でサファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、金属GaからNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、LPE法を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、本発明法を含むアモノサーマル法に基づき作製された単結晶およびそれらを切断した結晶などを用いることができる。
前記種結晶の主面は特に制限されない。ここでいう主面とは、結晶を構成する面のうち最大面積を有する面を意味する。本発明では、例えばC面を主面とする種結晶、M面を主面とする種結晶、A面を主面とする種結晶、半極性面を主面とする種結晶を用いることができる。これらの主面は劈開して形成してもよい。例えば、劈開して形成したM面を有する種結晶を用いれば、未研磨のM面を有する種結晶や精密研磨したM面を有する種結晶を用いて結晶成長させた場合に比べて、高品質の窒化物結晶を速い成長速度で製造することができる。
種結晶の品質としては、C面を主面とする種結晶の場合、(0002)面反射におけるX線回折半値幅が150arcsec以下とすることが好ましく、100arcsec以下とすることがさらに好ましく、50arcsec以下とすることがとくに好ましい。M面を主面とする種結晶の場合、(10−10)面反射におけるX線回折半値幅が150arcsec以下とすることが好ましく、100arcsec以下とすることがさらに好ましく、50arcsec以下とすることがとくに好ましい。主面に存在する貫通転位密度は1×107/cm2以下が好ましく、1×105/cm2以下がさらに好ましく、1×103/cm2以下がとくに好ましい。
前記種結晶の形状は特に制限はないが、円板状、棒状、または、角板状のものを用いることができる。前記種結晶の形状は、複数の種結晶を配置する場合の空間利用率を高める観点からは、角板状が好ましい。前記種結晶の主面の形状は、円板状の場合には正円または楕円、棒状の場合には円柱、四角柱、六角柱、角板状の場合には四角形のみならず、三角形や六角形等の多角形の板状とすることができる。種結晶の主面の形状も複数の種結晶を配置する場合の空間利用率を高める観点からは、多角板状が好ましく、四角形または六角形が更に好ましい。
例えば図3において種結晶7Aは主面の形状が円形の円板状の種結晶を示す。図3における種結晶7Bは主面の形状が四角形の板状の種結晶を示す。図3における種結晶7Cは主面の形状が六角形の板状の種結晶を示す。図3は、種結晶の形状を示す模式図である。
一枚の種結晶の一方の主面の表面積としては、結晶生産性およびデバイス製造工程における生産性の観点から、1cm2以上が好ましく、4cm2以上が更に好ましく、8cm2以上が特に好ましい。また、800cm2以下が好ましく、400cm2以下が更に好ましく、200cm2以下が特に好ましい。
種結晶の厚さとしては、薄すぎると加工工程やハンドリング工程で種結晶を破損しやすくなる。あるいは反応容器中で種結晶が成長開始前に溶解し消失してしまうリスクが高くなる。いっぽう、厚すぎると種結晶1枚あたりの製造コストが高くなるため、100μm以上が好ましく、150μm以上が更に好ましく、200μm以上が特に好ましく、また、1000μm以下が好ましく、800μm以下が更に好ましく、600μm以下が特に好ましい。
前記種結晶は、複数用いることができる。複数の種結晶を用いた場合、各種結晶の間隔や配置は、反応容器内の超臨界溶媒の流れなどに影響を与える。例えば、各種結晶をランダムに配置した場合には、超臨界溶媒の流れが乱れ、窒化物結晶の成長量や成長速度が種結晶毎に異なったり、品質の低下や、種結晶同士の接着等の不具合を生じる場合がある。
以上の観点から、複数の前記種結晶を配置する場合、隣り合う種結晶どうしの最短距離は2mm以上にすることが好ましく、3mm以上にすることが更に好ましく、5mm以上にすることが特に好ましく、また、70mm以下にすることが好ましく、60mm以下にすることが更に好ましく、50mm以下にすることが特に好ましい。
前記種結晶の配置は、超臨界溶媒の流れの観点から、複数の前記種結晶が平行または垂直方向に並べて配置されることが好ましい。「種結晶が平行または垂直方向に並べて配置」とは、図4のAに示すように種結晶7の主面同士が平行に配置された状態や、Bに示すように種結晶7の主面同士が垂直に配置された状態を意味する。図4は、種結晶の配置を説明するための上面図である。
また、複数の前記種結晶は、超臨界溶媒の流れの観点から、交互に配置されてもよい。「種結晶が交互に並べて配置」とは、図5に示すように主面同士が平行に配置された種結晶7が交互に並んでいる状態を意味する。図5は、種結晶の他の配置を説明するための上面図である。
複数の種結晶は、水平方向に配置する他、鉛直方向に並べて配置する態様であってもよい。
単数または複数の種結晶を用いる場合、その表面積の合計(B)は、生産コストの観点から、50cm2以上が好ましく、100cm2以上が更に好ましく、200cm2以上が特に好ましい。
複数の種結晶を用いる場合、その数は、前記表面積(B)と種結晶の形状および一つあたりの大きさとの関係によって変動するが、コスト低減のために1バッチで多数の結晶を生産したい場合等は、5以上が好ましく、10以上が更に好ましく、20以上が特に好ましい。
図6を用いて、複数の種結晶が配置された状態について説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。図6は、複数の種結晶が配置された具体例を示す上面図である。図6には、種結晶が1つ配置された状態、種結晶が7つ配置された状態、種結晶が13配置された状態、および、種結晶が20配置された状態が示されている。
尚、複数の種結晶を用いる場合、複数の種結晶の形状、材質は異なるものを用いてもよいが、同一のもの用いることが好ましい。
(鉱化剤)
前記窒化物結晶の製造方法には、鉱化剤を用いる。鉱化剤は、本発明の効果を損なわないものであれば適宜選定して用いることができるが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選択される1以上のハロゲン元素を含有する鉱化剤を用いることが好ましく、塩素、臭素およびヨウ素から選択される1以上のハロゲン元素とフッ素とを含有する鉱化剤を用いることがより好ましい。
前記鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせは、塩素とフッ素、臭素とフッ素、ヨウ素とフッ素といった2元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とフッ素、塩素とヨウ素とフッ素、臭素とヨウ素とフッ素といった3元素の組み合わせであってもよいし、塩素と臭素とヨウ素とフッ素といった4元素の組み合わせであってもよい。好ましいのは、塩素とフッ素を少なくとも含む組み合わせと、臭素とフッ素を少なくとも含む組み合わせと、ヨウ素とフッ素を少なくとも含む組み合わせである。本発明で用いる鉱化剤に含まれるハロゲン元素の組み合わせと濃度比(モル濃度比)は、成長させようとしている窒化物結晶の種類や形状やサイズ、種結晶の種類や形状やサイズ、使用する反応装置、採用する温度条件や圧力条件などにより、適宜決定することができる。
ハロゲン元素を含む鉱化剤の例としては、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素、アンモニウムヘキサハロシリケート、およびヒドロカルビルアンモニウムフルオリドや、ハロゲン化テトラメチルアンモニウム、ハロゲン化テトラエチルアンモニウム、ハロゲン化ベンジルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化ジプロピルアンモニウム、およびハロゲン化イソプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム塩、フッ化アルキルナトリウムのようなハロゲン化アルキル金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化金属等が例示される。このうち、好ましくはハロゲン元素を含む鉱化剤であるハロゲン化アルカリ、アルカリ土類金属のハロゲン化物、金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化水素であり、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ、ハロゲン化アンモニウム、周期表第13族金属のハロゲン化物であり、特に好ましくはハロゲン化アンモニウム、ハロゲン化ガリウムである。
本発明では、ハロゲン元素を含有する鉱化剤とともに、ハロゲン元素を含まない鉱化剤を用いることも可能であり、例えばNaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミドと組み合わせて用いることもできる。ハロゲン化アンモニウムなどのハロゲン元素含有鉱化剤とアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、ハロゲン元素含有鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、ハロゲン元素含有鉱化剤100質量部に対して、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を50〜0.01質量部とすることが好ましく、20〜0.1質量部とすることがより好ましく、5〜0.2質量部とすることがさらに好ましい。アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を添加することによって、c軸方向の結晶成長速度に対するm軸の結晶成長速度の比(m軸/c軸)を一段と大きくすることも可能である。
前記製造方法で成長させる窒化物結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用する。本発明で用いる鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
なお、種結晶表面に結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアなどの溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアなどの溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎるため制御が困難になるなどの傾向がある。
(溶媒)
本発明では、溶媒として窒素を含有する溶媒を用いる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒を挙げることができ、具体的には、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
本発明で用いる溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
(原料)
本発明では、種結晶上に成長させようとしている窒化物結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えば、周期表第13族金属の窒化物結晶を成長させようとする場合は、周期表第13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料および/またはガリウムであり、より好ましくは窒化ガリウムおよび/またはガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
本発明において原料として用いる多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属またはその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性または吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
(製造工程)
前記窒化物結晶の製造方法を実施する際には、まず、反応容器内に、種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、および鉱化剤を入れて封止する。これらの材料を反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内への種結晶の装填は、通常は、原料および鉱化剤を充填する際に同時または充填後に装填する。種結晶は、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
図1に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内に種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、および鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20を耐圧性容器(オートクレーブ)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧容器を密閉する。
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/または亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度および反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、およびフリー容積の存在によって多少異なる。
反応容器内の温度範囲は、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。前記窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶成長領域の温度よりも高いことが好ましい。温度差(ΔtT)は、
5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、および種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
反応容器内での窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、および/または外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
なお、前記窒化物結晶の製造方法にしたがって窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
(窒化物結晶)
前記窒化物結晶の製造方法により製造される窒化物結晶は、例えば周期表第13族窒化物結晶が好ましく、中でも窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などがより好ましく、窒化ガリウムがさらに好ましい。前記窒化物結晶の製造方法によれば、窒化物単結晶を製造することができる。
前記窒化物結晶の製造方法を実施する際に用いる種結晶の形状を適宜選択することにより、所望の形状を有する窒化物結晶を得ることができる。例えば、C面を有する種結晶を用いて結晶成長を行うことにより、大口径のC面を有する窒化ガリウム結晶が生産効率よく得られる。具体的には、C面の面積が好ましくは1cm2以上、より好ましくは5cm2以上、さらに好ましくは10cm2以上の窒化ガリウム結晶を得ることができる。C面のうちGa面の成長速度の下限値は10μm/day以上が好ましく、20μm/day以上がより好ましく、30μm/day以上がさらに好ましい。Ga面の成長速度の上限値は100μm/day以下が好ましく、90μm/day以下がより好ましく、80μm/day以下がさらに好ましい。C面のうちN面の成長速度の下限値は100μm/day以上が好ましく、200μm/day以上がより好ましく、300μm/day以上がさらに好ましい。N面の成長速度の上限値は1000μm/day以下が好ましく、800μm/day以下がより好ましく、600μm/day以下がさらに好ましい。別の例として、M面を有する種結晶を用いて結晶成長を行うことにより、m軸方向に厚みを有する窒化物結晶が一段と高い生産効率で得られる。具体的には、m軸方向の厚みが好ましくは100μm以上、より好ましくは500μm以上、さらに好ましくは1mm以上、特に好ましくは5mm以上の窒化ガリウム結晶を得ることができる。M面の成長速度の下限値は50μm/day以上が好ましく、100μm/day以上がより好ましく、120μm/day以上がさらに好ましく、150μm/day以上がよりさらに好ましい。M面の成長速度の上限値は700μm/day以下が好ましく、600μm/day以下がより好ましく、500μm/day以下がさらに好ましい。
前記窒化物結晶の製造方法により製造した窒化物結晶は、そのまま使用してもよいし、加工してから使用してもよい。
(ウエハ)
前記窒化物結晶を所望の方向に切り出すことにより、任意の結晶方位を有するウエハ(半導体基板)を得ることができる。これによって、C面などの極性面や、M面などの非極性面、(10−11)、(20−21)などの半極性面を有するウエハを得ることができる。特に、前記窒化物結晶の製造方法によって大口径のC面を有する窒化物結晶を製造した場合は、c軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径のC面ウエハを得ることができる。また、前記窒化物結晶の製造方法によって厚くて大口径のM面を有する窒化物結晶を製造した場合は、m軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径のM面ウエハを得ることができる。また、前記窒化物結晶の製造方法によって大口径の半極性面を有する窒化物結晶を製造した場合は、半極性面に平行に切り出すことにより、大口径の半極性面ウエハを得ることができる。これらのウエハも、均一で高品質であるという特徴を有する。このようにして得られたウエハを基板として所望のエピタキシャル成長を行うことにより、さらにエピタキシャルウエハを得ることができる。
(デバイス)
前記窒化物結晶やウエハは、デバイス、即ち発光素子や電子デバイスなどの用途に好適に用いられる。前記窒化物結晶やウエハが用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、前記窒化物結晶やウエハが用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(IGBT)がある。前記窒化物結晶やウエハは、均一で高品質であるという特徴を有することから、前記のいずれの用途にも適している。中でも、均一性が高いことが特に要求される電子デバイス用途に適している。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下に記載する実施例、参考例および比較例では、図2に示す反応装置を用いて窒化物結晶を成長させることを試みた。
<実施例1>
厚み1mmのPtでラインニングされた、内径60mmのオートクレーブを反応容器として用い、原料として多結晶GaN粒子2kgを秤量し、オートクレーブの下部領域(図2における原料溶解領域9)内に設置する。次に鉱化剤として充填NH3量に対してCl濃度が6mol%となるよう秤量しオートクレーブ1内に投入する。
さらにオートクレーブ1下部の原料溶解領域6と上部の結晶成長領域9との間に、白金製バッフル板5を設置する。このとき、バッフル板5上部の結晶成長領域6の内表面積は約780cm2である。また、種結晶として四角形でありC面、M面を主面とする20mm□の両面研磨を施したGaNウェハーをそれぞれ半数ずつ、白金ワイヤーにより、白金製種結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域6に設置する。なお、種結晶は各段に8枚ずつ図7に示すとおり互いに平行または垂直になるよう、合計6段吊るした。このとき種結晶の表面積は合計384cm2である。
続いて、オートクレーブ1の蓋を閉じて、オートクレーブ1内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、NH3(溶媒)をオートクレーブ内に充填する。
次いで、オートクレーブ1を複数段に分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納し、オートクレーブ1内の結晶成長領域6の平均温度が約585℃、原料溶解領域の平均温度が約640℃になるまで昇温した後、その温度にて10日間保持する。オートクレーブ内の圧力は約210MPaである。
その後、オートクレーブの外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブ1に付属したバルブ10を開放して、オートクレーブ内のNH3を取り除く。
その後、オートクレーブ1の蓋を開け、育成した結晶を取り出したところ、オートクレーブ1の結晶成長領域6の内壁、あるいは白金製種結晶支持枠にGaN多結晶の付着が若干見られる。また、結晶表面には自発核により成長した結晶粒はほとんど見られず、透明な結晶が得られる。さらに、成長厚みと成長日数より計算される結晶成長速度は、すべての結晶でc軸方向が約300μm/day、m軸方向が約50μm/dayである。
<実施例2>
厚み1mmのPtでラインニングされた、内径220mmのオートクレーブ1を反応容器として用い、原料として多結晶GaN粒子50kgを秤量し、オートクレーブ1の下部領域(図2における原料溶解領域9)内に設置する。次に鉱化剤として充填NH3量に対してFとIとの合計濃度が3mol%となるよう秤量しオートクレーブ1内に投入する。
さらに下部の原料溶解領域9と上部の結晶成長領域6との間に、白金製バッフル板5を設置する。このときバッフル5上部の結晶成長領域6の内表面積は約15,500cm2である。また、種結晶として円形でありC面、M面を主面とする直径2インチの両面研磨を施したGaNウェハーをそれぞれ半数ずつ、白金ワイヤーにより、白金製種結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置する。なお、種結晶は各段に20枚ずつ図7に示すとおり互いに平行または垂直になるよう、合計36段吊るす。このとき種結晶の表面積は合計28,800cm2である。
続いて、オートクレーブ1の蓋を閉じて、オートクレーブ1内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、NH3(溶媒)をオートクレーブ1内に充填する。
次いで、オートクレーブ1を複数段に分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納し、オートクレーブ1内の結晶成長領域6の平均温度が約600℃、原料溶解領域9の平均温度が約635℃になるまで昇温した後、その温度にて40日間保持する。オートクレーブ1内の圧力は約215MPaである。
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで自然冷却し、オートクレーブ1に付属したバルブ10を開放して、オートクレーブ内のNH3を取り除く。
その後、オートクレーブ1の蓋を開け、育成した結晶を取り出すと、オートクレーブ1の結晶成長領域6の内壁、あるいは白金製種結晶支持枠には僅かなGaN多結晶の付着が見られる。また、結晶表面には自発核によって成長した結晶粒はほとんど見られず、透明な結晶が得られる。さらに、成長厚みと成長日数とから計算される結晶成長速度は、すべての結晶でc軸方向が約300μm/day、m軸方向が約50μm/dayである。
<比較例1>
図7に示すように20mm□の板状の種結晶を各段に1枚ずつ、合計6段吊るした以外は[実施例1]と同じ工程で結晶成長を行う。このとき種結晶の表面積は合計48cm2である。
結晶育成後オートクレーブ1の蓋を開け、育成した結晶を取り出したところ、オートクレーブ1の結晶成長領域6の内壁、あるいは白金製種結晶支持枠にはGaN多結晶が多量に付着している。また、結晶表面にも自発核により成長した結晶粒が無数に見られ、内部が濁った結晶が得られる。さらに、成長厚みと成長日数とから計算される結晶成長速度は、c軸方向が約100〜400μm/day、m軸方向が10〜70μm/dayと大きなばらつきがあり、生産性が低下する。
<実施例3>
直径2インチの円形板状の種結晶を各段に12枚ずつ図7に示すとおり無造作に、合計30段吊るした以外は[実施例2]と同じ工程で結晶成長を行う。このとき種結晶の表面積は合計14,400cm2となる。
結晶育成後オートクレーブ1の蓋を開け、育成した結晶を取り出すと、オートクレーブ1の結晶成長領域6の内壁、あるいは白金製種結晶支持枠にはGaN多結晶の付着が見られる。また、結晶表面にも自発核により成長する結晶粒が一部に見られ、いくつかの結晶はお互い接触したり合体したりしている。さらに、成長厚みと成長日数とから計算される結晶成長速度は、c軸方向が約100〜250μm/day、m軸方向が10〜30μm/dayとばらつきがある。
<比較例2>
2インチ□の板状の種結晶を各段に65枚ずつ平行、垂直に、合計36段吊るし[実施例2]と同じ工程で10日間の結晶成長を行なう。このとき種結晶の表面積は合計120,700cm2となる。
結晶育成後オートクレーブ1の蓋を開け、育成した結晶を取り出すと、オートクレーブ1の結晶成長領域6の内壁、あるいは白金製種結晶支持枠にはGaN多結晶の付着は見られない。いっぽうで、種結晶上への結晶成長は成長速度が遅く、成長速度のバラツキが大きい。成長厚みと成長日数とから計算される結晶成長速度は、c軸方向が約50〜150μm/day、m軸方向が5〜30μm/dayと大きなばらつきがある。さらに、一部にはマクロな結晶欠陥が観察される。種結晶の表面積が大きすぎるため、過飽和状態の溶媒の供給量が不足したものと推測される。
<実施例4>
50mm×80mmの略四角形のC面を主面とする板状の種結晶3枚を、互いの主面が平行になるように鉛直方向に並べて配置し、鉱化剤として充填NH3に対してヨウ素とフッ素の合計が2.5mol%となるようにし、結晶成長領域の平均温度が約600℃、原料溶解領域の平均温度が620℃となるように昇温して、25日間保持した以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。このとき種結晶の表面積は合計240cm2であった。よって、種結晶の表面積(B)/結晶成長領域の表面積(A)の比は0.31であった。
育成した結晶を取り出したところ、オートクレーブ1の結晶成長領域6の内壁、あるいは白金製種結晶支持枠にGaN多結晶の付着が若干見られた。また、結晶表面には自発核により成長した結晶粒はほとんど見られず、透明な結晶が得られた。さらに、成長厚みと成長日数より計算される結晶成長速度は、すべての結晶でc軸方向が約350〜400μm/dayであり、大きなばらつきは見られなかった。
1 オートクレーブ
2 オートクレーブ内面
3 ライニング
4 ライニング内面
5 バッフル板
6 結晶成長領域
7 種結晶
8 原料
9 原料溶解領域
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメーター
20 カプセル
21 カプセル内面

Claims (12)

  1. 反応容器内に、原料、種結晶、鉱化剤、および、窒素を含有する溶媒を配置し、前記反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記種結晶の表面に窒化物結晶を成長させる工程を含む窒化物結晶の製造方法であって、
    前記反応容器は、前記原料を溶解するための原料溶解領域と前記窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域とを含み、且つ、少なくとも前記種結晶は前記結晶成長領域に配置され、
    前記結晶成長領域内側の表面積(A)と前記種結晶の表面積の総和(B)とが、(B)/(A)=0.1〜7の関係を満たすことを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
  2. 前記結晶成長領域に複数の前記種結晶を配置した、請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
  3. 前記反応容器内に、前記鉱化剤として塩素、臭素およびヨウ素から選択される1以上のハロゲン元素とフッ素とを含有する鉱化剤を配置した、請求項1または2に記載の窒化物結晶の製造方法。
  4. 前記種結晶の主面の形状が多角形である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  5. 前記種結晶の主面の形状が、四角形または六角形である、請求項4に記載の窒化物結晶の製造方法。
  6. 前記結晶の厚さが1000μm以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  7. 複数の前記種結晶が2〜70mmの間隔で並べて配置された、請求項2〜6のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  8. 複数の前記種結晶が平行または垂直方向に並べて配置された、請求項2〜7のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  9. 複数の前記種結晶が交互に並べて配置された、請求項2〜8のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  10. 前記原料溶解領域の温度と前記結晶成長領域の温度との差を5〜100℃として、前記種結晶の表面に窒化物結晶を成長させる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  11. 前記窒化物結晶が周期表第13族金属窒化物結晶である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
  12. 前記窒化物結晶の成長速度が50〜1000μm/dayである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
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