以下に、本発明に係るエンジン始動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
[実施例]
本発明に係るエンジン始動制御装置の実施例を図1から図25に基づいて説明する。
先ず、このエンジン始動制御装置の適用対象となるハイブリッド車両について説明する。このエンジン始動制御装置は、動力源となるエンジン並びに第1及び第2のモータ/ジェネレータ(MG1,MG2)と、エンジンの出力軸に連結される第1回転要素、第1モータ/ジェネレータの回転軸に連結される第2回転要素並びに第2モータ/ジェネレータの回転軸及び駆動輪に連結される第3回転要素を少なくとも有する差動機構と、エンジンの出力軸と第1回転要素の回転軸との間に配置され、その出力軸の正転を許容するが、その出力軸の逆転を許容しないワンウェイクラッチ(OWC)と、を備えたハイブリッド車両を適用対象とする。そのハイブリッド車両の一例を図1に基づき説明する。
図1の符号1は、本実施例のハイブリッド車両を示す。このハイブリッド車両1は、エンジン10並びに第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30を備える。そのエンジン10は、出力軸(クランクシャフト)11から機械的な動力(エンジントルク)を出力する内燃機関や外燃機関等の動力源である。このエンジン10は、その動作がエンジン用の電子制御装置(以下、「エンジンECU」と云う。)101によって制御される。また、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30は、力行駆動により動力源として動作する一方、回生駆動により発電機として動作させることもできる。これら第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30は、その動作がモータ/ジェネレータ用の電子制御装置(以下、「MGECU」と云う。)102によりインバータ81を介して制御される。
また、このハイブリッド車両1には、動力分割装置40とブレーキ装置50とが設けられている。その動力分割装置40は、遊星歯車機構からなる第1差動機構41と第2差動機構42とを備える。その第1及び第2の差動機構41,42は、夫々に互いに係合しあう複数の回転要素を有する。また、ブレーキ装置50は、第2差動機構42における或る1つの回転要素の回転を停止させることができるものである。
第1差動機構41は、サンギヤS1、リングギヤR1、サンギヤS1とリングギヤR1とに噛合する複数のピニオンギヤP1並びに当該各ピニオンギヤP1を自転且つ公転自在に保持する第1及び第2のキャリアC11,C12を備える。この例示では、第1キャリアC11の回転軸43にエンジン10の出力軸11がワンウェイクラッチ15を介して連結されているので、その第1キャリアC11が上述した第1回転要素となる。また、この例示では、第1モータ/ジェネレータ20の回転軸21がサンギヤS1に直接又は回転軸(図示略)を介して連結されているので、そのサンギヤS1が上述した第2回転要素となる。また、この例示では、第2モータ/ジェネレータ30の回転軸31が減速装置60、第2差動機構42のキャリアC2の回転軸44及び当該キャリアC2を介してリングギヤR1に連結されているので、そのリングギヤR1が上述した第3回転要素となる。
このハイブリッド車両1においては、そのリングギヤR1が後述する第2差動機構42のキャリアC2や回転軸44を介して差動機構付きの最終減速機70に連結されており、夫々の動力源の動力が駆動輪WL,WRに伝達される。
ここで、ワンウェイクラッチ15は、エンジン10の出力軸11の正方向の回転(正転)を許容するが、これとは逆方向の回転(逆転)を許容しない。尚、正方向とは、エンジン10がエンジントルクを出力しているときの出力軸11の回転方向のことを云う。
また、減速装置60は、例えば高速段と低速段との間で切り替えが為される2段変速式のリダクション機構である。この減速装置60は、図示しないが、第1サンギヤと、この第1サンギヤに対して同心上で且つ軸線方向にずらして配置された第1サンギヤよりも大径の第2サンギヤと、その第1サンギヤに対して同心上に配置されたリングギヤと、その第1サンギヤに噛合する複数のショートピニオンギヤと、その第2サンギヤ及びショートピニオンギヤに噛合すると共にリングギヤにも噛合する複数のロングピニオンギヤと、その各ショートピニオンギヤ及び各ロングピニオンギヤを自転且つ公転自在に保持するキャリアと、を有し、その第1サンギヤと第2サンギヤとリングギヤとキャリアとが回転要素になって差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。この減速装置60には、更に、第2モータ/ジェネレータ30の回転軸31に対する第1サンギヤの相対回転を許可又は規制する第1ブレーキと、リングギヤの回転を許可又は規制する第2ブレーキと、が設けられている。この減速装置60においては、その第1及び第2のブレーキの動作を制御することによって高速段と低速段との間で変速段切り替えを行う。この減速装置60は、その動作が変速用の電子制御装置(以下、「変速ECU」と云う。)103によって制御される。
第2差動機構42は、サンギヤS2、リングギヤR2、サンギヤS2とリングギヤR2とに噛合する複数のピニオンギヤP2並びに当該各ピニオンギヤP2を自転且つ公転自在に保持するキャリアC2を備える。この例示では、そのリングギヤR2に第1差動機構41の第2キャリアC12が接続され、これらが一体になって回転することができる。また、そのキャリアC2は、第1差動機構41のリングギヤR1に接続され、このリングギヤR1と一体になって回転することができる。更に、そのサンギヤS2には、ブレーキ装置50が接続される。
そのブレーキ装置50は、係合動作と解放動作が変速ECU103によって制御される。このブレーキ装置50は、第2差動機構42のサンギヤS2と一体になって回転する回転部材51と、ケーシングCAの内壁に固定された保持部材52と、その回転部材51と保持部材52とを係合又は解放させるブレーキ作動部53と、を備える。そのブレーキ作動部53は、例えば電磁コイルを備えたコイルユニットである。サンギヤS2は、このブレーキ装置50が解放状態のときに回転可能になり、ブレーキ装置50が係合状態のときに回転できなくなる。
このブレーキ装置50は、動力分割装置40における変速モードの切り替えを行う為に利用される。このブレーキ装置50は、係合状態にすることで変速モードを固定変速比モードに切り替え、解放状態にすることで変速モードを無段変速比モードに切り替えることができる。
このハイブリッド車両1においては、エンジンECU101、MGECU102及び変速ECU103を統括制御する統合ECU(以下、「HVECU」という。)104が設けられており、これらによってエンジン始動制御装置が構成される。
このハイブリッド車両1では、エンジン10の出力のみで走行するエンジン走行モード、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30の内の少なくとも一方の出力で走行可能なEV走行モード、エンジン10の出力と第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30の内の少なくとも一方の出力とで走行するハイブリッド走行モードが用意されている。そして、このハイブリッド車両1では、EV走行モードでの走行中に例えば運転者のアクセル操作によって駆動トルクの増大要求が為された場合、停止中のエンジン10を始動させ、エンジン走行モード又はハイブリッド走行モードに移行させる。
従来、本実施例のハイブリッド車両1と同様の構成からなるものにおいては、そのエンジン始動の際に、第1モータ/ジェネレータ20の出力を用いてエンジン回転数をクランキング回転数まで上昇させる。ここでは、エンジン10の始動に要するエンジン回転数、例えば点火等が可能なエンジン回転数のことをクランキング回転数と云う。その際、例えば第2モータ/ジェネレータ30の出力トルク(以下、「MG2出力トルク」と云う。)Tmg2だけでEV走行(以下、「MG2EV走行」と云う。)しているのであれば、このMG2EV走行中の駆動トルクTdrは、第1モータ/ジェネレータ20の出力トルク(以下、「MG1出力トルク」と云う。)Tmg1がエンジン回転数の持ち上げの為に使われたとしても変わらない。以下、「駆動トルクTdr」とは、走行抵抗(空気抵抗や転がり抵抗等)に抗して発生させる車両走行の為に必要なトルクのことであって、第1差動機構41のリングギヤR1の回転トルクに換算したもののことを云う。
尚、エンジン10を始動させる為には、その出力軸11、つまり第1キャリアC11に対して始動トルクTengstartを加える必要がある。その始動トルクTengstartとは、出力軸11及び第1キャリアC11を正転させる為に必要な回転トルクのことであり、その出力軸11及び第1キャリアC11に掛かっているエンジン10の始動抵抗トルク(エンジン10のポンプ損失や摩擦等による回転抵抗)Tengstartcに抗するものである。このハイブリッド車両1においては、MG2EV走行中にエンジン10を始動させる場合、MG1出力トルクTmg1を用いて始動トルクTengstartを第1キャリアC11に発生させる。
ここで、MG1出力トルクTmg1とMG2出力トルクTmg2の双方でEV走行(以下、「MG1&2EV走行」と云う。)している場合には、そのMG1出力トルクTmg1とMG2出力トルクTmg2とに応じた駆動トルクTdrがリングギヤR1に発生している(Tdr=Tmg1r+Tmg2r)。
「Tmg1r」は、MG1出力トルクTmg1によってリングギヤR1に作用する回転トルク(以下、「MG1駆動トルク」と云う。)である。また、「Tmg2r」は、MG2出力トルクTmg2によってリングギヤR1に作用する回転トルク(以下、「MG2駆動トルク」と云う。)である。MG1&2EV走行中のMG1駆動トルクTmg1rとMG2駆動トルクTmg2rは、各々下記の式1,2で算出できる。式中の「ρ」は、サンギヤS1の歯数Zs1をリングギヤR1の歯数Zr1で除算したものである(ρ=Zs1/Zr1)。また、「Gmg2」は、第2モータ/ジェネレータ30とリングギヤR1との間のギヤ比である。
Tmg1r=Tmg1×1/ρ … (1)
Tmg2r=Tmg2×Gmg2 … (2)
このMG1&2EV走行中の共線図を図2に示す。その共線図は、左からサンギヤ軸(MG1軸)、キャリア軸(エンジン軸)、リングギヤ軸(MG2軸&出力軸)の順に配置された3軸からなる。
このハイブリッド車両1においては、MG1&2EV走行中にもエンジン10の始動要求が為されることがある。
その始動要求は、例えば、MG1出力トルクTmg1とMG2出力トルクTmg2とを夫々に最大値(図3に示す最大MG1出力トルクTmg1maxと最大MG2出力トルクTmg2max)まで出力しても、リングギヤR1における最大MG1駆動トルクTmg1rmaxと最大MG2駆動トルクTmg2rmaxとの加算値が運転者のアクセル操作による駆動トルクの増大要求(リングギヤR1における要求駆動トルクTreq)を満たさない場合に行われる。尚、便宜上、その図3では第1モータ/ジェネレータ20と第2モータ/ジェネレータ30とを出力特性が同じものとして示しているが、夫々の出力特性は、図3に示すように互いに同じであってもよく、互いに異なるものであってもよい。
また、MG1&2EV走行中のエンジン始動要求は、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30に対するバッテリの出力が運転者の要求駆動トルクTreqを満たすことができない場合にも行われる。例えば、バッテリには、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30に対して或る大きさでの出力が時間で制限されているものもあり、その出力可能時間内でなければ、その大きさの出力を続けて行えない。これが為、その出力可能時間の制約によって、バッテリから第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30への出力が低下してしまうことがあるので、その際には、運転者の要求駆動トルクTreqに対して、MG1駆動トルクTmg1rやMG2駆動トルクTmg2rが不足してしまう可能性がある。従って、そのときには、その不足分を補うべく、車両側からエンジン10の始動要求が指令される。また、バッテリのSOC量の低下が起きたときにも、車両側からエンジン10の始動要求が指令される。
しかしながら、このMG1&2EV走行状態からのエンジン始動時においては、図4に示すようにMG1出力トルクTmg1をエンジン回転数の持ち上げの為に一部でも使用した場合、これまで出力されていたMG1駆動トルクTmg1rをリングギヤR1に作用させることができなくなる。そして、そのリングギヤR1においては、そのエンジン回転数の持ち上げに使われたMG1駆動トルクTmg1r、更に、エンジン10の始動抵抗トルクTengstartcの反力トルク(以下、「始動抵抗反力トルク」と云う。)Tengstartrの分だけ駆動トルクTdrが減少する。これにより、従来のMG1&2EV走行状態からのエンジン始動時には、MG1&2EV走行中よりも駆動トルクTdrが減少してしまう。その駆動トルクTdrの減少は、エンジン始動完了までの一時的なものである。しかし、喩え一時的ではあっても、従来は、例えば運転者がアクセル操作で加速要求を行っているにも拘わらず、その運転者に対して減速度を感じさせてしまい、違和感を覚えさせる虞がある。
そこで、従来は3軸からなる図2等の共線図でエンジン始動制御をしていたが、本実施例においては、図5に示すように、サンギヤ軸とキャリア軸との間に新要素たるブレーキ要素の軸(以下、「ブレーキ軸」と云う。)を配置し、その4軸からなる共線図でエンジン始動制御を行う。
そのブレーキ要素とは、第1差動機構41における各回転要素S1,R1,P1,C11,C12の内の少なくとも1つの回転を制御(停止、回転数の増減、回転方向の逆転等)することが可能なものであり、その回転要素の回転制御を自らの係合制御によって行うことで、図6に示すように、第1回転要素たる第1キャリアC11の正転方向への回転を増速させるものである。
ハイブリッド車両1においては、そのブレーキ要素の係合制御によって第1キャリアC11が正転方向に増速することで、エンジン回転数が持ち上がり、クランキング回転数まで上昇してエンジン10を始動させることができる。そして、このハイブリッド車両1では、エンジン10の始動完了後、従来と同じようにしてエンジン10を用いた走行を行う(図7)。
本実施例のハイブリッド車両1においては、前述したブレーキ装置50をブレーキ要素として用いる。そのブレーキ装置50を係合制御した際には、第2差動機構42のサンギヤS2の回転が止まるので、この第2差動機構42を介して第1差動機構41の各回転要素S1,R1,P1,C11,C12の回転を制御し、その内の1つである第1キャリアC11を正転方向に増速させることができるからである。
以下に、共線図上の各軸(主にリングギヤ軸)におけるトルクについて観てみる。
ブレーキ要素が解放状態のときには、前述したように、MG1&2EV走行中のリングギヤR1にMG1駆動トルクTmg1r(=Tmg1×1/ρ)とMG2駆動トルクTmg2r(Tmg2×Gmg2)とが作用している(図8)。尚、ここでは、サンギヤ軸とブレーキ軸との間、ブレーキ軸とキャリア軸との間、キャリア軸とリングギヤ軸との間の比率をA:B:Cとする。従って、MG1&2EV走行中のMG1駆動トルクTmg1rについては、式1の変形式(下記の式3)となる。
Tmg1r=Tmg1×(A+B)/C … (3)
エンジン始動制御装置は、このMG1&2EV走行中にエンジン始動要求があった場合、解放状態のブレーキ要素を係合制御して、ブレーキ部材間(例えば上記の回転部材51と保持部材52との間)の相対速度が0の完全係合となるようにブレーキトルクTbを発生させる。これにより、共線図上においては、キャリア軸支点のEV走行からブレーキ軸支点のEV走行に移り変わっていく(図9)。その際、リングギヤR1では、ブレーキ軸支点になることで、MG2駆動トルクTmg2rに変化は無いが、MG1駆動トルクTmg1rが下記の式4の如く変化する。
Tmg1r=Tmg1×A/(B+C) … (4)
このように、MG1&2EV走行中のMG1駆動トルクTmg1rは、ブレーキ要素の係合前後で変わる。例えば、上記の比率A:B:Cを2:1:1:と仮定した場合、ブレーキ要素の係合制御前のMG1&2EV走行中においては、MG1駆動トルクTmg1rが式3から「Tmg1r=3*Tmg1」になる。一方、係合制御後のMG1&2EV走行中においては、MG1駆動トルクTmg1rが式4から「Tmg1r=Tmg1」になる。つまり、この具体例の場合には、ブレーキ要素の係合制御によって、MG1駆動トルクTmg1rが係合制御前の1/3に減ってしまう。
従って、エンジン始動制御装置には、MG1&2EV走行中にエンジン10を始動させる場合、ブレーキ要素の係合制御と共に、その係合前後でMG1駆動トルクTmg1rが変化しないようにMG1出力トルクTmg1を制御させる。その具体例においては、MG1出力トルクTmg1をブレーキ要素の係合制御前の3倍にする。これにより、ブレーキ要素の係合前後の駆動トルクTdrの変化を無くすことができる。
しかしながら、第1キャリアC11には、前述したようにエンジン10の始動抵抗トルクTengstartcが作用している。そして、停止中のエンジン10のエンジン回転数を持ち上げる為には、その始動抵抗トルクTengstartcを相殺する必要がある。このハイブリッド車両1においては、その始動抵抗トルクTengstartcを、第1モータ/ジェネレータ20又は第2モータ/ジェネレータ30に受け持たせている。
例えば、図10は、第1モータ/ジェネレータ20とブレーキ要素とに始動抵抗トルクTengstartcを受け持たせた例である。この場合、サンギヤS1には、その始動抵抗トルクTengstartcの受け持ち分として始動抵抗反力トルクTengstarts(下記の式5)が作用している。また、ブレーキ要素には、その始動抵抗トルクTengstartcの受け持ち分として始動抵抗反力トルクTengstartb(下記の式6)が作用している。
Tengstarts=Tengstartc×B/A … (5)
Tengstartb=Tengstartc×(A+B)/A … (6)
始動抵抗トルクTengstartcは、サンギヤS1における始動抵抗反力トルクTengstarts分を第1モータ/ジェネレータ20に出力させ、且つ、始動抵抗反力トルクTengstartb分をブレーキ要素に出力させることで相殺される。
従って、ブレーキ要素の係合制御中又は係合制御後には、サンギヤS1におけるMG1出力トルクTmg1について、下記の式7の如く、係合制御前のMG1出力トルクTmg1(=Tmg1ev)に対して始動抵抗反力トルクTengstartsの分だけ増加させる。
Tmg1=Tmg1ev+Tengstarts … (7)
ここで、このブレーキ要素を完全係合させるには、その始動抵抗反力トルクTengstartb分に加えて、MG1出力トルクTmg1に応じてブレーキ要素に作用する反力トルクTmg1b分をブレーキトルクTbとして出力させる必要がある(下記の式8)。その反力トルクTmg1bは、下記の式9で表される。
Tb=Tmg1b+Tengstartb … (8)
Tmg1b=Tmg1×(A+B+C)/(B+C) … (9)
また、図11は、第2モータ/ジェネレータ30とブレーキ要素とに始動抵抗トルクTengstartcを受け持たせた例である。この場合、リングギヤR1には、その始動抵抗トルクTengstartcの受け持ち分として始動抵抗反力トルクTengstartr(下記の式10)が作用している。また、ブレーキ要素には、その始動抵抗トルクTengstartcの受け持ち分として始動抵抗反力トルクTengstartb(下記の式11)が作用している。
Tengstartr=Tengstartc×B/(B+C) … (10)
Tengstartb=Tengstartc×C/(B+C) … (11)
この始動抵抗トルクTengstartcは、リングギヤR1における始動抵抗反力トルクTengstartr分を第2モータ/ジェネレータ30に出力させ、且つ、始動抵抗反力トルクTengstartb分をブレーキ要素に出力させることで相殺される。
従って、ブレーキ要素の係合制御中又は係合制御後には、リングギヤR1におけるMG2駆動トルクTmg2rについて、下記の式12の如く、係合制御前のMG2駆動トルクTmg2r(=Tmg2rev)に対して始動抵抗反力トルクTengstartrの分だけ増加させる。
Tmg2r=Tmg2rev+Tengstartr
=Tmg2×Gmg2+Tengstartr … (12)
ここで、この場合でも、ブレーキ要素を完全係合させるには、上記式8で示したように、その始動抵抗反力トルクTengstartb分に加えて、MG1出力トルクTmg1に応じた反力トルクTmg1b分をブレーキトルクTbとして出力させる必要がある。
ここでは、始動抵抗トルクTengstartcを第2モータ/ジェネレータ30とブレーキ要素に受け持たせるものとして例示する。従って、エンジン始動制御装置は、MG1&2EV走行中にエンジン10を始動させる場合、ブレーキ要素の係合制御と共に、ブレーキ要素の係合前後でMG1駆動トルクTmg1rが変化しないようにMG1出力トルクTmg1を増加させる(図12)。そのMG1出力トルクTmg1は、上記の式4に基づいて、「Tmg1r*(B+C)/A」となる。この係合制御の際、エンジン始動制御装置は、上記式8で示したブレーキトルクTbを出力させる。
ここで、MG2駆動トルクTmg2rは、ブレーキ要素の係合制御前と比較して、始動抵抗反力トルクTengstartrの分だけ増加させている。しかしながら、その始動抵抗反力トルクTengstartrは、前述したように、ブレーキ要素の始動抵抗反力トルクTengstartb分と共に、始動抵抗トルクTengstartcを相殺する。これが為、駆動輪側に伝達されるMG2駆動トルクTmg2rは、その大きさがブレーキ要素の係合制御前と同じである。故に、このエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素の係合前後で駆動輪側への駆動トルクを変化させないので、その係合制御前の車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を係合制御中及び係合制御後も保ちつつ、MG1&2EV走行中にエンジン10を始動させることができる。従って、このエンジン始動制御装置に依れば、運転者は、そのエンジン始動時に減速度を感じないので、自らの加速要求に反する違和感を覚えない。
更に、このエンジン始動制御装置は、ブレーキ装置50をブレーキ要素として用いることで、従来と比較してコストの増加や動力分割装置40の体格の増大を招くことなく、そして、駆動トルクTdrを低下させずに、MG1&2EV走行状態からエンジン10を始動させることができる。
また、本実施例においては従来から存在している構成(ブレーキ装置50や第2差動機構42)を利用してMG1&2EV走行中のエンジン始動を行ったが、そのエンジン始動に用いるブレーキ要素としては、第1差動機構41における各回転要素S1,R1,P1,C11,C12の内の少なくとも1つの回転を制御し、これにより第1回転要素たるサンギヤS1の正転方向への回転を増速させるエンジン始動専用のものを新たに設けてもよい。
[変形例1]
ところで、本実施例のハイブリッド車両1においては、そのブレーキ要素の係合制御を行っても、エンジン10の始動に必要なクランキング回転数までエンジン回転数を上昇させることができない場合がある。例えば、高速走行時には、図13に示すように、係合前後でブレーキ要素の回転差が大きいので、ブレーキ要素を完全係合させることで、エンジン回転数をクランキング回転数まで持ち上げることができる。しかしながら、図14に示すように、低速走行時には、係合前後のブレーキ要素の回転差が少ないので、ブレーキ要素を完全係合させたとしても、エンジン回転数をクランキング回転数まで持ち上げることができない可能性がある。
そこで、この変形例のエンジン始動制御装置は、MG1&2EV走行中にエンジン始動要求があったならば、先ず上述したブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を実施し、図14に示すようにエンジン回転数がクランキング回転数に達しなかった場合、ブレーキ要素を解放制御して、従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を行う(図15)。
これにより、このエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素の係合制御でエンジン回転数をクランキング回転数まで持ち上げることができない低車速時においても、エンジン10を始動させることができる。そして、この場合には、1段階目でブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を行っているので、2段階目の従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を行う際に、出力中のMG1出力トルクTmg1からエンジン回転数の上昇の為に割り当てられるトルク値を従来よりも低く抑えることができる。従って、この変形例のエンジン始動制御装置に依れば、ブレーキ要素の係合制御を経ずに、最初からMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を行った場合と比して、駆動トルクTdr、つまり車両駆動トルク(車輪駆動トルク)の減少を最小限に止めることができる。故に、このエンジン始動制御装置は、運転者の違和感を極力を抑えつつ、MG1&2EV走行中にエンジン10を始動させることができる。
[変形例2]
前述した変形例1では、ブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を行い、その結果如何で従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を実行する。このような2段階のエンジン始動制御を必要とする状況は、前述したように低車速時であり、予め車速から判断可能である。
そこで、この変形例のエンジン始動制御装置には、車速V(車速センサ91で検出)が所定車速V0を超えている場合、MG1&2EV走行中で且つエンジン始動要求があったならば、前述した実施例のようにブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御でエンジン10を始動させる。一方、車速Vが所定車速V0以下の場合には、MG1&2EV走行を実行させずに、MG2EV走行を行わせる。そして、エンジン始動制御装置には、そのMG2EV走行中にエンジン始動要求があったならば、従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を実行させる。その所定車速V0とは、ブレーキ要素の係合制御でエンジン回転数をクランキング回転数まで持ち上げることができない車速の内の最高車速、又はこの最高車速を車速検出誤差等に基づき補正した補正車速のことである。
これにより、このエンジン始動制御装置は、車速Vが所定車速V0を超えている場合、MG1&2EV走行中にエンジン10を始動させても、前述した実施例と同じように駆動トルクTdrが変化しない。従って、このエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素の係合制御前の車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を係合制御中及び係合制御後も保ちつつ、MG1&2EV走行中にエンジン10を始動させることができる。一方、このエンジン始動制御装置は、車速Vが所定車速V0以下の場合、MG1&2EV走行ではなくMG2EV走行になっているので、エンジン10を始動させる際にMG1出力トルクTmg1を使ったとしても、駆動トルクTdrに何ら影響を与えない。従って、このエンジン始動制御装置は、車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を変化させることなく、エンジン10を始動させることができる。つまり、このエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素の係合制御でエンジン回転数をクランキング回転数まで持ち上げることができない低車速時でも、車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を変化させずにエンジン10を始動させることができる。このように、このエンジン始動制御装置に依れば、車速に拘わらず車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を変化させずにエンジン10を始動させることができ、運転者に違和感を与えない。
[変形例3]
前述した実施例並びに変形例1及び2のエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素を係合させることでMG1&2EV走行中のエンジン始動を行う。これが為、そのブレーキ要素では、ブレーキトルクTbを発生させている。この変形例は、そのブレーキトルクTbを減少させることで、ブレーキ要素への負荷を軽減し、このブレーキ要素の耐久性を向上させるものである。
ここで、MG1&2EV走行の実施要件は、次の2つの形態に大別される。
先ず、MG2出力トルクTmg2のみで運転者の駆動トルクの増大要求(リングギヤR1における要求駆動トルクTreq)に応じたEV走行が可能であるが、敢えてMG1出力トルクTmg1とMG2出力トルクTmg2を併用して車両をMG1&2EV走行させる場合である。或る車速での第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30は、回転数が異なるだけでなく、動作点の高効率領域も異なる。これが為、EV走行は、MG2出力トルクTmg2のみで行う方が高効率であることもあれば、MG2出力トルクTmg2のみで行うよりも、MG1出力トルクTmg1を併用して行う方が高効率になることもあるからである。また、MG2EV走行を行っていると、第2モータ/ジェネレータ30が高温になり、MG2出力トルクTmg2の出力低下や第2モータ/ジェネレータ30の耐久性の低下を招く虞がある。このような状況下では、MG1出力トルクTmg1を併用してMG1&2EV走行を行うことで、第2モータ/ジェネレータ30の高温化を防ぐことができるからである。
この場合に該当するのか否かは、リングギヤR1における運転者の要求駆動トルクTreqと第2モータ/ジェネレータ30で出力可能なトルクとを比較させることで明らかにできる。その第2モータ/ジェネレータ30で出力可能なトルクとは、最大MG2出力トルクTmg2maxによるリングギヤR1での最大MG2駆動トルクTmg2rmaxからリングギヤR1における始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値である。要求駆動トルクTreqがその減算値以下の場合には、EV走行を行うのであれば、MG2EV走行又はMG1&2EV走行の内、高効率の方を選択する。
このようにして行われているMG1&2EV走行の最中にエンジン始動要求があった場合には、本来MG2駆動トルクTmg2rだけで要求駆動トルクTreqを満たすことができるので、MG1&2EV走行からMG2EV走行に切り替えさせた後、従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を実行させる。
また、MG1&2EV走行の実施要件としては、最大MG2駆動トルクTmg2rmaxがリングギヤR1における運転者の要求駆動トルクTreqに対して不足しており、MG1出力トルクTmg1によるMG1駆動トルクTmg1rも加えなければ、その要求駆動トルクTreqを発生させることができない場合も該当する。この場合に該当するのか否かは、その要求駆動トルクTreqと第2モータ/ジェネレータ30で出力可能なトルクとの比較結果、そして、その要求駆動トルクTreqと第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30で出力可能なトルクとの比較結果から明らかにできる。その第2モータ/ジェネレータ30で出力可能なトルクとは、上記と同様に、最大MG2駆動トルクTmg2rmaxからリングギヤR1における始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値である。また、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30で出力可能なトルクとは、最大MG1駆動トルクTmg1rmaxと最大MG2駆動トルクTmg2rmaxとの加算値からリングギヤR1における始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値である。要求駆動トルクTreqが最大MG2駆動トルクTmg2rmaxから始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値よりも大きく、且つ、その要求駆動トルクTreqが最大MG1駆動トルクTmg1rmaxと最大MG2駆動トルクTmg2rmaxとの加算値から始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値以下の場合には、EV走行を行うのであれば、MG1&2EV走行を実施する。
このようにして行われているMG1&2EV走行の最中にエンジン始動要求があった場合、MG2駆動トルクTmg2rだけで要求駆動トルクTreqを満たすことができないので、エンジン始動制御装置には、MG2出力トルクTmg2を最大値(最大MG2出力トルクTmg2max)までの範囲内で増加させ、要求駆動トルクTreqとMG2駆動トルクTmg2rとの差分をMG1駆動トルクTmg1rで補わせる。ここでは、MG2出力トルクTmg2を最大MG2出力トルクTmg2maxまで増加させ、要求駆動トルクTreqと最大MG2駆動トルクTmg2rmaxとの差分をMG1駆動トルクTmg1rで補わせる。そして、このエンジン始動制御装置には、その後、ブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を実行させる。このエンジン始動制御の際、始動抵抗トルクTengstartcは、第1モータ/ジェネレータ20とブレーキ要素とに受け持たせる。従って、MG1出力トルクTmg1は、サンギヤS1における始動抵抗反力トルクTengstarts分だけ増加させる。また、ブレーキトルクTbについても、始動抵抗反力トルクTengstartb分だけ増加させる。
以下、図16のフローチャートを用いて説明する。
先ず、エンジン始動制御装置は、図8に示す如きMG1&2EV走行中に(ステップST5)、運転者の要求駆動トルクTreqと、最大MG1駆動トルクTmg1rmax及び最大MG2駆動トルクTmg2rmaxの加算値から始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値と、を比較し、要求駆動トルクTreqがその減算値よりも大きいのか否かを判定する(ステップST10)。
要求駆動トルクTreqがその減算値以下の場合、エンジン始動制御装置は、第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30に対するバッテリの出力が運転者の要求駆動トルクTreqを満たすものであるのか否かを判定する(ステップST15)。このステップST15の判定は、前述したバッテリの出力可能時間やSOC量の制約について考慮したものである。
このステップST15で肯定判定された場合には、バッテリの制約を受けることなく第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30で運転者の要求駆動トルクTreqを発生させることができる。これが為、この場合、エンジン始動制御装置は、ステップST5に戻り、MG1&2EV走行を継続させる。これに対して、ステップST15で否定判定された場合には、バッテリの制約によって第1及び第2のモータ/ジェネレータ20,30で運転者の要求駆動トルクTreqを発生させることができない。
ステップST10で要求駆動トルクTreqが減算値よりも大きくなっている場合又はステップST15で否定判定された場合、エンジン始動制御装置は、エンジン10の始動が必要と判断し(ステップST20)、現状の駆動トルクTdrと最大MG2駆動トルクTmg2rmaxから始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値とを比較して、現状の駆動トルクTdrがその減算値以下になっているのか否かを判定する(ステップST25)。
このステップST25の判定は、MG1&2EV走行の実施要件が前述した何れに該当しているのか否かを判断する為のものである。このステップST25で肯定判定された場合には(Tdr≦Tmg2rmax−Tengstartr)、MG2出力トルクTmg2だけで現状の駆動トルクTdrを満足させるEV走行を行えるが、高効率化によるバッテリの電力消費量の抑制効果を得るべく、敢えてMG1&2EV走行を行っている状態であることを表している。これに対して、ステップST25で否定判定された場合には(Tdr>Tmg2rmax−Tengstartr)、MG2出力トルクTmg2だけで現状の駆動トルクTdrを満足させるEV走行を行えないので、不足分を補うべくMG1&2EV走行を行っている状態であることを表している。
エンジン始動制御装置は、ステップST25で肯定判定された場合、図17に示すように現状の駆動トルクTdrをMG2駆動トルクTmg2rで発生させ、図18に示すように従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を実行する(ステップST30)。その際、始動抵抗トルクTengstartcは、第2モータ/ジェネレータ30に受け持たせる。従って、第2モータ/ジェネレータ30には、始動抵抗反力トルクTengstartrの分だけMG2駆動トルクTmg2rが増加するように、MG2出力トルクTmg2を出力させる。
一方、ステップST25で否定判定された場合、エンジン始動制御装置は、図19に示すように、第2モータ/ジェネレータ30に最大MG2出力トルクTmg2maxを出力させることで、最大MG2駆動トルクTmg2rmaxを発生させると共に、現状の駆動トルクTdrに対する不足分(Tdr−Tmg2rmax)をMG1出力トルクTmg1によるMG1駆動トルクTmg1rで発生させる(ステップST35)。そして、このエンジン始動制御装置は、図20に示すように、ブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を実行する(ステップST40)。その際、始動抵抗トルクTengstartcは、第2モータ/ジェネレータ30が既に最大MG2出力トルクTmg2maxを出力しているので、第1モータ/ジェネレータ20とブレーキ要素とに受け持たせる。従って、第1モータ/ジェネレータ20には、始動抵抗反力トルクTengstarts分だけMG1出力トルクTmg1を増加させる。また、ブレーキ要素においては、始動抵抗反力トルクTengstartb分だけブレーキトルクTbを増加させる。そのブレーキトルクTbは、前述した式8で示すように、その始動抵抗反力トルクTengstartbとMG1出力トルクTmg1に応じた反力トルクTmg1bの和を出力させる。
エンジン始動制御装置は、このようにしてエンジン始動制御を行う。そして、その始動完了後、ハイブリッド車両1は、エンジントルクを用いて走行する(ステップST45)。
以上示したように、この変形例では、MG1&2EV走行中にエンジン始動要求があった場合、現状の駆動トルクTdrをMG2出力トルクTmg2だけで負担できるのであれば、MG1&2EV走行からMG2出力トルクTmg2によるEV走行に切り替え、その駆動トルクTdrについての負担が無くなった第1モータ/ジェネレータ20で従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を行う。これが為、このときのエンジン始動制御装置は、車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を変化させずにエンジン10を始動させることができる。
更に、この変形例では、MG1&2EV走行中にエンジン始動要求があった場合、現状の駆動トルクTdrをMG2出力トルクTmg2だけで負担できないのであれば、そのMG2出力トルクTmg2を最大MG2出力トルクTmg2maxまで増加させると共に、現状の駆動トルクTdrに対する不足分をMG1出力トルクTmg1で発生させる。そして、この変形例では、ブレーキ要素の係合制御によってエンジン始動制御を行う。これが為、このときにも、エンジン始動制御装置は、車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を変化させずにエンジン10を始動させることができる。つまり、この変形例のエンジン始動制御装置は、MG1&2EV走行中にエンジン始動要求があった場合、そのMG1&2EV走行の実施要件が如何様なものであったとしても、車両駆動トルク(車輪駆動トルク)を変化させずにエンジン10を始動させることができるので、運転者に違和感を与えない。
また更に、この変形例では、MG1出力トルクTmg1を減少させると共にMG2出力トルクTmg2を増加させた状態のMG1&2EV走行に切り替えた後で、ブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を行う。これが為、この変形例のエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素に出力させるブレーキトルクTbを前述した実施例と比して減少させることができる。
例えば、前述したA:B:Cを2:1:1とする。また、図8のMG1&2EV走行状態において、Tmg1(Tmg1ev)=50Nm、Tmg2r=200Nm、Tmg2rmax=300Nmとする。この場合には、MG1駆動トルクTmg1rが上記式3に基づいて150Nmになり、MG1出力トルクTmg1とMG2出力トルクTmg2によってリングギヤR1に駆動トルクTdr=350Nmが作用している。
前述した実施例のエンジン始動制御装置は、その図8のMG1&2EV走行状態からブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を行っている。このエンジン始動制御の際のMG1出力トルクTmg1は、MG1駆動トルクTmg1r(=150Nm)がブレーキ要素の係合制御前と同じ大きさになるように、図12に示す式4の変形式「Tmg1r*(B+C)/A」に当て嵌めて150Nmになる。また、このときには、始動抵抗トルクTengstartc(=100Nm)を第2モータ/ジェネレータ30とブレーキ要素とで夫々50Nmずつ受け持つ。従って、MG2駆動トルクTmg2rは、元の200Nmにその始動抵抗反力トルクTengstartr(=50Nm)を加えた250Nmになる。また、ブレーキトルクTbは、その始動抵抗反力トルクTengstartb(=50Nm)と上記式9より算出した反力トルクTmg1b(=300Nm)の和である350Nmとなる。
一方、この変形例のエンジン始動制御装置は、図8のMG1&2EV走行状態から最大MG2駆動トルクTmg2rmax(=300Nm)まで増加させると共に、駆動トルクTdr(=350Nm)の不足分の50NmをMG1駆動トルクTmg1rで負担する。そのMG1駆動トルクTmg1r(=50Nm)を発生させる為には、式3に基づいてMG1出力トルクTmg1を約17Nm出力させればよいことが判る。この変形例のエンジン始動制御装置は、この図19のMG1&2EV走行状態からブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を行う。ここでは、ブレーキ要素の係合に伴いブレーキ軸支点になるので、式4に基づいてMG1出力トルクTmg1を50Nm出力させることで、MG1駆動トルクTmg1r(=50Nm)を発生させる。このエンジン始動制御の際、第2モータ/ジェネレータ30が最大MG2出力トルクTmg2maxを出力しているので、始動抵抗トルクTengstartc(=100Nm)は、第1モータ/ジェネレータ20とブレーキ要素とで受け持つことになる。サンギヤS1における始動抵抗反力トルクTengstartsは、式5に基づいて50Nmになる。一方、ブレーキ要素の始動抵抗反力トルクTengstartbは、式6に基づいて150Nmになる。従って、MG1出力トルクTmg1は、元の50Nmにその始動抵抗反力トルクTengstarts(=50Nm)分を加えた100Nmになる。また、ブレーキトルクTbは、その始動抵抗反力トルクTengstartb(=150Nm)と上記式9より算出した反力トルクTmg1b(=100Nm)の和である250Nmとなる。
このように、この変形例のエンジン始動制御装置は、前述した実施例よりもブレーキトルクTbを減少させることできる。従って、この変形例のエンジン始動制御装置は、ブレーキ要素への負荷が軽減され、このブレーキ要素の耐久性を向上させることができる。
ところで、この変形例は、前述した変形例1及び2のエンジン始動制御装置に適用してもよい。そして、その変形例1及び2のエンジン始動制御装置においても、この変形例と同様の効果を得ることができる。
例えば、変形例1のエンジン始動制御装置に適用した場合には、1段階目のブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を実施する前に、図16のフローチャートによる上記の演算処理を実行し、ステップST25の判定結果に応じたエンジン始動制御を行う。そして、このエンジン始動制御装置は、そのステップST25で否定判定されたときに、第2モータ/ジェネレータ30を最大限利用して駆動トルクTdrを発生させると共に、その駆動トルクTdrに対する不足分をMG1出力トルクTmg1で発生させ、その後、1段階目のブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を実施する。このエンジン始動制御装置は、そのエンジン始動制御でクランキング回転数まで達しなければ、従来のMG1出力トルクTmg1によるエンジン始動制御を行う。
また、変形例2のエンジン始動制御装置は、車速Vが所定車速V0を超えている場合に、ブレーキ要素の係合制御によるエンジン始動制御を行う。これが為、変形例2のエンジン始動制御装置に本変形例を適用した場合には、車速Vが所定車速V0を超えていれば、図16のフローチャートによる上記の演算処理を実行し、ステップST25の判定結果に応じたエンジン始動制御を行えばよい。
一方、変形例2のエンジン始動制御装置に本変形例を適用した場合には、車速Vが所定車速V0以下のときにも図16のフローチャートによる上記の演算処理を実行し、ステップST25の判定結果に応じたエンジン始動制御を行ってもよい。例えば、これについて、図21のフローチャートに示す。尚、この図21のフローチャートの説明においては、前述した図16のフローチャートと共通する部分の説明を概ね省略する。
エンジン始動制御装置は、図8に示す如きMG1&2EV走行中に(ステップST5)、車速Vが所定車速V0以下で、且つ、運転者の要求駆動トルクTreqが最大MG2駆動トルクTmg2rmaxから始動抵抗反力トルクTengstartrを減算した値よりも大きくなっているのか否かを判定する(ステップST7)。つまり、このステップST7の判定は、MG1&2EV走行中の車速Vが所定車速V0以下のときにエンジン始動要求が為されたのか否かを観るものである。
このステップST7で否定判定された場合には、前述したステップST10に進む。これ以降の演算処理は、図16のフローチャートと同じである。一方、このステップST7で肯定判定された場合、エンジン始動制御装置は、エンジン10の始動が必要なのでステップST20に進む。そして、この場合には、車速Vが所定車速V0以下であるが、ステップST25の判定結果に応じたエンジン始動制御が実行される。
[変形例4]
前述した実施例並びに変形例1−3のエンジン始動制御装置は、図1に示す動力分割装置40とブレーキ装置50とを備えたハイブリッド車両1を例に挙げて説明した。これに加えて、これらの各エンジン始動制御装置は、以下に示すラビニヨ型の差動機構からなる動力分割装置を備えたハイブリッド車両にも適用可能であり、各々で説明したものと同様の効果を得ることができる。
例えば、図22には、ラビニヨ型の差動機構を有する動力分割装置140と、ブレーキ装置150と、を備えたものを例示している。
その差動機構は、第1サンギヤS1、第2サンギヤS2、リングギヤR、第1サンギヤS1とリングギヤRとに噛合する複数のロングピニオンギヤPL、第2サンギヤS2とロングピニオンギヤPLと噛合する複数のショートピニオンギヤPS並びに各ロングピニオンギヤPLと各ショートピニオンギヤPSとを自転且つ公転自在に保持するキャリアCを備える。この例示では、そのリングギヤRにエンジン10の出力軸11を連結する。また、ここでは、第1モータ/ジェネレータ20を第1サンギヤS1に連結し、第2モータ/ジェネレータ30を第2サンギヤS2に連結する。更に、その第2サンギヤS2は、動力分割装置140の出力軸144、つまり駆動輪側にも連結されている。
この差動機構においては、リングギヤR、第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2が各々第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素になる。
ブレーキ装置150は、差動機構のキャリアCと一体になって回転する回転部材151と、ケーシングCAの内壁に固定された保持部材152と、を備える。このブレーキ装置150には、その回転部材151と保持部材152とを係合又は解放させるブレーキ作動部が設けられている。そのブレーキ作動部は、例えば電磁コイルを備えたコイルユニットである。
このハイブリッド車両における共線図は、図23に示す通りである。差動機構においては、ブレーキ要素としてのブレーキ装置150を係合制御することで、リングギヤRを正転方向に増速させることができる。従って、このハイブリッド車両においては、前述した実施例並びに変形例1−3のエンジン始動制御装置の内の何れかを適用することで、同様の効果を得ることができる。
また、図24には、ラビニヨ型の差動機構を有する動力分割装置240と、ブレーキ装置250と、を備えたものを例示している。
その差動機構は、第1サンギヤS1、第2サンギヤS2、リングギヤR、第1サンギヤS1とリングギヤRとに噛合する複数のロングピニオンギヤPL、第2サンギヤS2とロングピニオンギヤPLと噛合する複数のショートピニオンギヤPS並びに各ロングピニオンギヤPLと各ショートピニオンギヤPSとを自転且つ公転自在に保持するキャリアCを備える。この例示では、そのキャリアCにエンジン10の出力軸11を連結する。また、ここでは、第1モータ/ジェネレータ20を第2サンギヤS2に連結し、第2モータ/ジェネレータ30を第1サンギヤS1に連結する。更に、その第1サンギヤS1は、動力分割装置240の出力軸244、つまり駆動輪側にも連結されている。
この差動機構においては、キャリアC、第2サンギヤS2及び第1サンギヤS1が各々第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素になる。
ブレーキ装置250は、差動機構のリングギヤRと一体になって回転する回転部材251と、ケーシングCAの内壁に固定された保持部材252と、を備える。このブレーキ装置250には、その回転部材251と保持部材252とを係合又は解放させるブレーキ作動部が設けられている。そのブレーキ作動部は、例えば電磁コイルを備えたコイルユニットである。
このハイブリッド車両における共線図は、図25に示す通りである。差動機構においては、ブレーキ要素としてのブレーキ装置250を係合制御することで、キャリアCを正転方向に増速させることができる。従って、このハイブリッド車両においては、前述した実施例並びに変形例1−3のエンジン始動制御装置の内の何れかを適用することで、同様の効果を得ることができる。