JP2013014808A - 銅合金製スパッタリングターゲット - Google Patents

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Abstract

【課題】Cu−Ca系合金を用いたスパッタリングターゲットとして、スパッタリング時における異常放電の発生を抑制し得るようにしたターゲットを提供する。
【解決手段】Caを0.5〜10.0原子%含有し、残部が実質的にCuよりなるCu−Ca系の銅合金からなり、かつCu−Ca系合金において不可避的に晶出するCu−Ca系晶出物の平均粒径を、10〜50μmの範囲内に規制する。さらに、Cu−Ca系晶出物の最大径を、100μm以下に規制する。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば薄膜トランジスタのゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの配線膜としての銅合金膜を、ガラス、アモルファスSi、またはシリカなどからなる基板上にスパッタリングにより形成するにあたって、そのスパッタリング時のターゲットとして使用される銅合金製スパッタリングターゲットに関するものであり、特に、Cu−Ca系合金(Ca含有銅合金)からなるスパッタリングターゲットに関するものである。
周知のように、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイは、ガラスなどの基板上に薄膜トランジスタ(以下“TFT”と記す)を形成した構造とされている。一方、最近の薄型テレビの大型化、精細化の要請により、この種のTFTを用いたディスプレイパネル(TFTパネル)としても、大型、高精細のものが求められるようになっている。
従来、大型、高精細のTFTパネルのゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの配線膜としては、アルミニウム(Al)系材料からなる配線膜を使用することが多かったが、最近では、配線膜の低抵抗化のため、Alよりも導電率が高い銅(Cu)系材料を使用することが進められている。
ところでTFTパネルの配線膜に使用するための銅系材料としては、種々の銅合金が提案されているが、最近では、例えば特許文献1、特許文献2に示すように、Cu−Ca合金が注目を浴びている。Cu−Ca合金からなる配線膜は、比抵抗がAl系材料より低いばかりでなく、基板であるガラスなどとの密着性が優れている。なおこの種のCu−Ca合金によってTFTパネルの配線膜を形成する場合、スパッタリングを適用するのが通常であるが、その場合、Cu−Ca合金からなるスパッタリングターゲットが用いられている。
特開2009−215613号公報 特開2010−103331号公報
本発明者等が、前述のようなCu−Ca合金からなるターゲットを用いてのスパッタリングの実験を進めたところ、純銅あるいは純アルミからなるターゲットとは異なる、特有の問題があることが判明した。すなわちCu−Ca合金からなるターゲットを用いてスパッタリングを行なった場合、異常放電(アーキング)が頻発することがあり、そのため均一な配線膜を形成し得ない事態が生じてしまいやすいことが判明した。ここで異常放電とは、正常なスパッタリング時と比較して極端に高い電流が突然急激に流れて、異常に大きな放電が急激に発生してしまう現象であり、このような異常放電が発生すれば、パーティクルの発生原因となったり、堆積膜の膜厚が不均一となってしまうおそれがある。したがってスパッタリング時の異常放電はできるだけ回避することが望まれる。
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、Cu−Ca合金など、Cuに対する合金元素として主としてCaを添加したCu−Ca系合金を用いたスパッタリングターゲットとして、スパッタリング時における異常放電の頻発を抑制し得るようにしたターゲットを提供することを課題としている。
前述のようにCu−Ca系合金からなるターゲットを用いてスパッタリングを行なうにあたり、異常放電が頻発することがある原因について、本発明者等が、さらに調査、研究を進めたところ、ターゲットであるCu−Ca系合金のCuマトリックス(Cuのα相)中に晶出している粗大な晶出物に起因していることが判明した。
すなわち、Cu−Ca系合金においては、CaはCuマトリックス中にほとんど固溶することができず、そのため、溶解鋳造時には、CaはそのほとんどがCuCaで代表されるCu−Ca系晶出物として鋳塊中に晶出してしまう。この晶出物の大きさは、鋳造時の凝固速度の影響を受け、凝固速度が遅いほど晶出物は大きくなるのが通常である。そのため、鋳造時の凝固速度を適切に制御しなければ、粗大な晶出物が多数晶出した鋳塊組織となってしまう。このように鋳塊中に晶出した粗大な晶出物は、鋳造後の熱間圧延や冷間圧延では、若干分断されることはあっても、Cuマトリックス中に固溶することはないため、最終的に得られる製品のターゲットにおいても、依然として粗大な晶出物が残ってしまう。
一方、スパッタリングは、Arなどのスパッタリングガスのイオンによってターゲット表面から原子が叩き出されて、その原子が対象基材に堆積することによって進行し、その過程においては、ターゲットの表面は徐々に後退していく。ここで、Cu−Ca系合金からなるターゲットを用いてスパッタリングを行なった場合、マトリックスのCuマトリックス部分とCu−Ca系晶出物部分とでは、導電率が異なるため、原子の叩き出される速度が相違してしまい、そのためターゲット表面の後退速度も、Cuマトリックス部分とCu−Ca系晶出物部分とで異なるのが通常である。そのため、Cu−Ca系晶出物が粗大であれば、上述の表面後退速度の差によって、ターゲット表面に大きな凹凸が生じてしまう。そしてこのようにしてスパッタリング進行中にターゲット表面に大きな凹凸が生じれば、その凹凸の突起部分に電流集中が生じて、異常放電を招きやすくなることが判明した。
ところで本発明者等は、半連続鋳造法または完全連続鋳造法を適用すれば、Cu−Ca系合金におけるCu−Ca系晶出物の粒径を微細化できることを見出し、さらに、Cu−Ca系合金からなるターゲットを用いてスパッタリングを行った場合において、ターゲット材のCu−Ca系晶出物の粒径が、異常放電の発生頻度に及ぼす影響を詳細に調査、検討した結果、Cu−Ca系晶出物の平均粒径を、10〜50μmの範囲内に規制することによって、異常放電の発生を確実かつ安定して抑制し得ることを見出して本発明をなすに至った。また、Cu−Ca系晶出物について、平均粒径を規制すると同時に、最大粒径を100μm以下に規制することによって、より確実に異常放電の発生を抑制し得ることを見出した。
したがって本発明の基本的な形態(第1の形態)による銅合金製スパッタリングターゲットは、半連続鋳造法もしくは完全連続鋳造法により鋳造した鋳塊の圧延材からなるスパッタリングターゲットであって、Caを0.5〜10.0原子%含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる銅合金からなり、かつCu−Ca系晶出物の平均粒径が、10〜50μmの範囲内にあることを特徴としている。
このような本発明の基本的な形態によれば、ターゲット材であるCuーCa系の銅合金の鋳造時に不可避的に晶出するCu−Ca系晶出物を、ターゲット材中の晶出物の平均粒径として10〜50μmの範囲内に規制することにより、そのターゲットを用いてのスパッタリング時に異常放電が頻発することを抑制することができる。またこのターゲット材は、半連続鋳造法または完全連続鋳造法を適用して鋳造しているため、鋳造時の凝固速度を上げることが可能となり、その結果、Cu−Ca系晶出物を微細に晶出させることができるとともに、高い生産性で製造することができる。
また本発明の第2の形態による銅合金製スパッタリングターゲットは、前記第1の形態による銅合金製スパッタリングターゲットにおいて、Cu−Ca系晶出物の最大粒径が100μm以下であることを特徴とするものである。
このような第2の形態による銅合金製スパッタリングターゲットにおいては、Cu−Ca系晶出物の平均粒径を規制するばかりでなく、最大粒径を100μm以下に規制することによって、より確実かつ安定してスパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができる。
さらに本発明の第3の形態による銅合金製スパッタリングターゲットは、前記第1の形態、第2の形態のうちのいずれかの形態による銅合金製スパッタリングターゲットにおいて、前記銅合金におけるCa含有量が、0.5〜6.0原子%の範囲内にあることを特徴とするものである。
このようにCa含有量が0.5〜6.0原子%の範囲内にあるターゲット材は、その製造のための鋳造方法として、完全連続鋳造法を適用して、より高い生産性で製造することができる。
また本発明の第4の形態による銅合金製スパッタリングターゲットは、前記第1〜第3の形態のうちのいずれかの形態による銅合金製スパッタリングターゲットにおいて、前記銅合金が、さらにMg0.1〜5.0原子%、Mn0.1〜5.0原子%、Al0.1〜5.0原子%、P0.001〜0.1原子%のうちから選ばれた1種以上を、合計で10.0原子%以下含有することを特徴とするものである。
このような第4の形態による銅合金製スパッタリングターゲットにおいては、そのターゲットを用いてスパッタリングにより基板上に形成される配線膜の密着性などの性能を、より一層向上させることができる。
本発明の銅合金製スパッタリングターゲットによれば、それを用いて基板上にスパッタリングを行なってCu−Ca系合金からなる配線膜を形成するにあたり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができ、その結果、異常放電に起因するパーティクルの発生や配線膜の膜厚の不均一化を未然に防止して、比抵抗が低くかつ基板に対する密着性も安定して優れた配線膜を形成することが可能となる。
本発明のターゲットの製造過程において、ターゲット材であるCu−Ca系合金の鋳造に完全連続鋳造法を適用した場合の連続鋳造の概要を示す略解図である。 本発明によるターゲットの製造過程において、ターゲット材であるCu−Ca系合金の鋳造に完全連続鋳造法を適用するための好ましい鋳型を、その垂直断面位置で示す模式図である。 本発明の実施例における、晶出物の粒径測定のためのサンプル採取位置を示すCu−Ca系合金熱間圧延板の略解図である。
以下、本発明の銅合金製スパッタリングターゲットについてより詳細に説明する。
本発明のスパッタリングターゲットは、その成分組成として、基本的には、Caを0.5〜10.0原子%含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる銅合金からなるものであり、さらに必要に応じて、Mg0.1〜5.0原子%、Mn0.1〜5.0原子%、Al0.1〜5.0原子%、P0.001〜0.1原子%のうちから選ばれた1種以上を、合計で10.0原子%以下含有するものである。
そこで先ずこれらの本発明銅合金の成分組成の限定理由について説明する。
Ca 0.5〜10.0原子%:
Caは、本発明で対象としているCu−Ca系の銅合金において基本的な合金元素であり、TFT配線のためにスパッタリングターゲットとしてCu−Ca系の銅合金を用いて得られるCu−Ca系の銅合金膜は、配線層として比抵抗が低いという特性を示すばかりでなく、ガラスやSi、シリカなどからなる基板に対する密着性が優れており、さらにはスパッタリング条件などによっては高価なMoやTiなどからなる下地層を不要として低コスト化を図ることが可能であり、またTFT作成過程で一般に適用されている各種熱処理によって配線膜の密着性が低下してしまうことを防止できる。そこで本発明では、このようなCu−Ca系の銅合金膜を基板上にスパッタリングによって形成する際のスパッタリングターゲットとして、Caを含有するCu−Ca系合金を用いている。ここで、ターゲット材のCu−Ca系合金として、Caが0.5原子%未満では、スパッタリングにより基板上に形成されるCu−Ca系合金膜のCa含有量が過少となって、上述のような効果が得られなくなる。一方ターゲット材のCu−Ca系合金として、Caが10.0原子%を越えれば、連続鋳造(後述する完全連続鋳造と半連続鋳造とを含む)における鋳造性が悪くなる。具体的には、凝固直後の初期凝固殻の強度が低くなって、初期凝固殻に割れが発生し、鋳造が困難となったりするおそれがある。また、Caが10.0原子%を越えれば、熱間圧延性も低下し、さらには鋳塊組織が不均一となってしまうおそれもある。そこで本発明のスパッタリングターゲットのCu−Ca系合金のCa含有量は、0.5〜10.0原子%の範囲内とした。
ここで、一般に銅合金の連続鋳造法としては、溶解原料の溶解はバッチ式の溶解炉で行なって、鋳造のみを連続的にある長さだけ行なう半連続鋳造法と、溶解原料の溶解をも連続的に行い、鋳造を原理的には無制限の長さで連続的に行なう完全連続鋳造法とがあり、前者の半連続鋳造法の場合には、Ca含有量が10.0原子%程度までの銅合金であれば特に支障なく鋳造可能であるが、後者の完全連続鋳造法の場合は、Caが6.0原子%を超えれば、溶解鋳造時におけるCa添加用材料の多量の連続添加によって鋳造時の溶湯温度が低下し、鋳造が困難となるおそれがあり、そこで完全連続鋳造法を適用する場合は、Caは6.0原子%以下とすることが望ましく、さらに4.0原子%以下とすることが、より好ましい。なお、一般にCa含有量が多くなれば、晶出するCu−Ca系晶出物の平均粒径、最大粒径も大きくなる傾向を示すが、量産的規模での完全連続鋳造もしくは半連続鋳造を適用した場合、Caが10.0原子%以下であれば、後に改めて説明するように、鋳造時の凝固速度を適切に制御することによって、晶出するCu−Ca系晶出物の平均粒径、最大粒径を、本発明で規定する所定の大きさ以下に調整することができる。
本発明のターゲット材は、基本的には上述のような0.5〜10.0原子%のCaを含有するCu−Ca合金について、Caの含有により生成されるCu−Ca系晶出物の粗大なものに起因する問題点を解決しようとするものであるから、粗大なCu−Ca系晶出物が生成される可能性があるスパッタリングターゲット用のCu−Ca系合金にはすべて適用可能である。したがって、Caとともにスパッタリングターゲット材に添加可能な合金元素を、必要に応じて添加してもよい。その代表的な元素としては、Mg、Mn、Al、Pがあり、これらについては、Mg0.1〜5.0原子%、Mn0.1〜5.0原子%、Al0.1〜5.0原子%、P0.001〜0.1原子%のうちから選ばれた1種以上を、合計で10.0原子%以下含有することが許容される。そこでこれらの必要に応じて添加される選択的添加元素について説明する。
Mg:
Cu−Ca合金にMgを添加した合金からなるターゲットを用いてスパッタリングして、TFT配線膜を形成した場合、Mgは、配線膜の基板に対するバリヤ性を向上させるとともに、基板に対する密着性を向上させるために寄与する。Mg添加量が0.1原子%未満では、その効果が充分に得られず、5.0原子%を越えれば、配線膜の比抵抗が大きくなってTFT配線膜として不適当となる。したがってMgを添加する場合のMg添加量は、0.1〜5.0原子%の範囲内とした。
Mn:
Cu−Ca合金にMnを添加した合金からなるターゲットを用いてスパッタリングして、TFT配線膜を形成した場合、Mnは、Caとの共存により、配線膜の基板に対する密着性、化学的安定性を向上させる。Mn添加量が0.1原子%未満では、これらの効果が充分に得られず、5.0原子%を越えれば、配線膜の比抵抗が大きくなってTFT配線膜として不適当となる。したがってMnを添加する場合のMn添加量は、0.1〜5.0原子%の範囲内とした。
Al:
Cu−Ca合金にAlを添加した合金からなるターゲットを用いてスパッタリングして、TFT配線膜を形成した場合、Alは、Caとの共存により、配線膜の基板に対する密着性、化学的安定性を向上させる。Al添加量が0.1原子%未満では、これらの効果が充分に得られず、5.0原子%を越えれば、配線膜の比抵抗が大きくなってTFT配線膜として不適当となる。したがってAlを添加する場合のAl添加量は、0.1〜5.0原子%の範囲内とした。
P:
Pは、TFT配線膜の比抵抗や密着性などを損なうことなく鋳造性を向上させることが可能な添加元素である。P添加量が0.001原子%未満では、その効果が充分に得られず、一方0.1原子%を越えてPを添加しても、それ以上の鋳造性の向上効果は認められず、比抵抗値が上昇してしまう。そこでPを添加する場合のP添加量は、0.001〜0.1原子%の範囲内とした。
なおこれらのMg、Mn、Al、Pの添加量の下限値は、あくまでこれらの元素を積極的に添加する場合の下限値を意味し、それぞれの下限値未満の微量を不純物として含有することが許容されることはもちろんである。
なおまた、上記のMg、Mn、Al、Pの1種以上の合計含有量は、10.0原子%以下の範囲内とする。これらの合計含有量が10.0原子%を越えれば、配線膜の比抵抗が過大となって、TFT配線膜として不適切となる。
以上の各元素の残部は、基本的にはCuおよび不可避的不純物とすればよい。ここで不可避的不純物としては、例えばFe, Si,Ag,S,O,C,H等があるが、これらの不可避不純物は、総量で0.3原子%以下であることが望ましい。また、Co,Cr,Be,Hg,B,Zrなどは、総量で0.3原子%まで含まれていても本発明の特性に影響を与えず、しがってこれらも総量で0.3原子%以下含有することが許容される。
本発明では、上述のような成分組成の合金からなるターゲットとして、そのCuマトリックス中に分散しているCu−Ca系晶出物についての粒径条件が重要である。すなわち、既に述べたように、Cu−Ca系晶出物の平均粒径、さらには最大粒径を適切に規制することによって、そのターゲットを用いてスパッタリングを行なった場合の異常放電の発生を、確実かつ安定して抑制することができる。
ここで、Cu−Ca系合金における晶出物とは、基本的にはCuCaであるが、ターゲット材におけるCa以外の添加元素としてMg、Mn、Al、Pが含まれている場合には、これらとの3元系以上の多元化合物の形態となることもあり、またこれらの元素がそのまま晶出物中に含まれていることもあり、これらを総称してCu−Ca系晶出物と称している。すなわち本発明では、要はCuCaを主体とする晶出物を、Cu−Ca系晶出物と称している。
このようなCu−Ca系晶出物の平均粒径が50μmを越えれば、全体的に粗大な晶出物が多くなって、スパッタリング時に異常放電が生じやすくなってしまう。一方Cu−Ca系晶出物の平均粒径が50μm以下であれば、スパッタリング時の異常放電を抑える効果が得られる。なお平均粒径を40μm以下に規制すれば、より一層異常放電の発生を確実に抑制することが可能となる。一方Cu−Ca系晶出物の平均粒径を10μm未満に調整することは、鋳造時の冷却速度との関係から、量産的規模での通常の完全連続鋳造もしくは半連続鋳造では困難であり、したがって平均粒径を10μm未満に規制しようとすれば、特殊な鋳造方案、冷却方案が必要となって、著しいコスト上昇を招いてしまう。そこでこの発明では、Cu−Ca系晶出物の平均粒径を10μm〜50μmの範囲内と規定した。
また、Cu−Ca系晶出物の粒径と異常放電の発生との関係については、平均粒径のみならず、最大粒径もかなりの影響を与える。すなわち、平均粒径が50μm以下であっても、最大粒径として100μmを超える粗大な晶出物が存在すれば、スパッタリング時に異常放電が生じやすくなることもある。そこで、平均粒径を10μmから50μmの範囲内に調整すると同時に、最大粒径が100μmを越えないように調整することが望ましい。
なおここで、Cu−Ca系晶出物の粒径とは、断面における晶出物の面積を、同一の面積の円に置き換えた場合の円の径、すなわちいわゆる円相当径(円換算径)を意味する。また平均粒径が10μm〜50μmの範囲内とは、圧延材(熱間圧延材もしくは冷間圧延材)からなるターゲット材における、圧延面と平行な断面、圧延面に直交しかつ圧延方向と平行な断面、および圧延面に直交しかつ圧延方向に直交する断面、以上3断面の任意の箇所について、500μm×700μmの視野で測定したときの、視野内の平均の粒径を、さらに前記3断面で平均したときの粒径が、前記範囲内にあることを意味する。また最大粒径が100μm以下の条件についても、前記同様に、ターゲット材における圧延面と平行な断面、圧延面に直交しかつ圧延方向と平行な断面、および圧延面に直交しかつ圧延方向に直交する断面、以上3断面の任意の箇所について、500μm×700μmの視野で測定したときのその視野内の最大の粒径を意味する。
なお、ターゲット用圧延材について晶出物の粒径を測定するに当たっては、後述する実施例で示すように、圧延幅方向の中央でかつ板厚方向の中央に相当する部位から測定用サンプルを採取し、前記3断面に対応する3方向から粒径を測定し、それらの3方向の前記視野での平均粒径、最大粒径が本発明で規定する範囲内となっていれば、ターゲット材全体として、本発明で規定する平均粒径、最大粒径を満たしている、とみなすことができる。
また、実際の晶出物の粒径の測定にあたっては、観察した視野内を画像処理して、Cuマトリックス領域と晶出物粒子の部分とを2値化し、平均粒径と最大粒径とを求めればよい。
次に本発明のスパッタリングターゲットを製造する方法について説明する。
既に述べたように、鋳造時に晶出したCu−Ca系晶出物は、鋳造後の熱間圧延や熱処理によっては固溶せず、熱間圧延や冷間圧延で分断されることはあっても、そのまま製品に残る。したがって製品であるターゲットにおいて、前述のような平均粒径条件、さらには最大粒径条件を満たすもの、すなわち粗大な晶出物が存在せず、微細な晶出物だけが分散した組織のターゲット材を得るためには、鋳造段階において粗大な晶出物が晶出されないように鋳造することが望まれる。一般に、凝固速度が大きいほど晶出物の粒径が小さくなる傾向を示すから、本発明のターゲットを製造する場合も、凝固速度(鋳造時の冷却速度)をできるだけ高くすることが望まれる。ターゲット材を量産的規模で製造する場合には、半連続鋳造法もしくは完全連続鋳造法を適用することが望まれ、特に生産性の面からは完全連続鋳造法を適用することが好ましい。そこで、次に完全連続鋳造法によって本発明のターゲット材を鋳造するための具体的方法の一例を、図1を参照して説明し、さらにその場合に安定して凝固速度を高めるための方策について説明する。
図1において、電気銅などの高純度の銅原料が溶解炉1において溶解される。溶解炉1における溶湯(溶銅)の表面は、カーボンでシールされ、溶解炉1内の雰囲気は不活性ガスや還元性ガスとされている。溶解炉1で溶解された溶銅3は、不活性ガスや還元性ガスでシールされた樋5を経てタンディッシュ7に連続的に導かれる。タンディッシュ7には、Caなどの合金元素を添加するための添加手段9が付設されており、目標とする成分組成となるように、Caなどの合金元素が連続的に添加される。タンディッシュ7内おいて成分調整された銅合金(Cu−Ca系合金)の溶湯は、注湯ノズル11から、連続鋳造用鋳型13内に連続的に注湯される。連続鋳造用鋳型13で凝固した鋳塊15は、図示しないピンチロールなどの引き抜き手段により連続的に引き抜かれる。
このような連続鋳造において、鋳塊の凝固速度を高めて、Cu−Ca系析出物として粗大なものが晶出しないようにするためには、鋳型の冷却能力を高めること、例えば鋳型の冷却水量を大きくしたりすることはもちろん重要であるが、単純に鋳型全体として冷却能力を高めただけでは、実際に鋳造される鋳塊における凝固速度を均一に高めて、粗大晶出物の生成を確実に抑制することは困難であることが、本発明者等の実験により判明している。すなわち、鋳型内での凝固開始直後には、凝固収縮により鋳塊表面(凝固殻表面)が鋳型内面から離れてしまう現象(いわゆる型離れ)が生じてしまうことがあり、このような型離れの大きさ(鋳型内面と鋳塊表面との間の隙間の大きさ)が大きくなれば、その部分で鋳塊表面からの抜熱が不充分となって、凝固速度が小さくなってしまうことがある。そして鋳型の形状(鋳造すべき鋳塊の断面形状)や冷却方案によっては、このような型離れが著しく大きくなってしまうことがある。
また連続鋳造においては、鋳型のテーパー(垂直面に対する鋳型内面の傾き角度)も型離れに影響を与える。すなわち、鋳型内での凝固が進行して、下方に引き抜かれるに従い、短辺側、長辺側を問わず、鋳塊の凝固収縮によって鋳型内の下方にいくほど鋳塊の外寸法は小さくなり、そのため鋳型にテーパーがなければ、鋳型内の下部では大きな型離れが生じてしまい、これも凝固速度の低下を招く原因となる。そこで、図2に示しているように、鋳型13の内面13Aに所定の角度θでテーパーを付与しておくことによって、このような問題を回避できる。ただし、テーパー角θを大きくしすぎれば、鋳塊表面と鋳型内面との間の摩擦が大きくなって、鋳塊の引き抜きが困難となってしまうおそれがあるから、適切にテーパー角を設定することが望まれる。
以上のような鋳造段階では、Caを0.5〜10.0原子%含有する本発明の銅合金では、CaがほとんどCuマトリックス中に固溶しないため、Caはほぼその全量がCuCaで代表されるCu−Ca系晶出物として晶出する。ここで、前述のように鋳型の適切な冷却方案、適切な鋳型形状を適用することによって、凝固速度を均一に大きくし、これによって、粗大な晶出物が生じることを防止して、微細な晶出物が分散した鋳塊を得ることができる。
このようにして得られた鋳塊に対しては、必要に応じて均質化処理を行ってから、熱間圧延を施して、所定の板厚のターゲット材とする。均質化処理および熱間圧延の条件は特に限定されるものではなく、従来の銅合金ターゲット材と同様であればよいが、均質化処理は、例えば750〜900℃において1〜4時間の加熱とすればよく、また熱間圧延は、開始温度750〜900℃、終了温度500〜600℃で、圧延率70〜95%とすればよい。ここで、均質化処理、熱間圧延の過程では、鋳塊中のCu−Ca系晶出物はCuマトリックス中に固溶せず、ほぼ全量が、熱間圧延板中に残る。もちろん熱間圧延の過程で晶出物が分断されることはあるが、鋳塊中における晶出物が粗大であれば、その後の圧延によって分断されても、依然としてかなりの大径の晶出物がターゲット材中に残存してしまう。しかるに本発明では、既に述べたように鋳造段階で均一に凝固速度を大きくして、微細な晶出物のみが分散した鋳塊を得ておくことにより、熱間圧延後のターゲット材として、晶出物の平均粒径が10〜50μmの範囲内にあり、さらに好ましくは晶出物の最大粒径が100μm以下の組織を得ることができる。
以上のようにして得られたCu−Ca系合金からなる圧延材を、適宜機械加工などにより所定の形状、所定の寸法に加工することによって、最終的にスパッタリングターゲットを得ることができる。
以下、本発明の実施例を、比較例とともに示す。なお以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成、プロセス、条件が本発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
図1に示す完全連続鋳造装置を用い、純度:99.99質量%の電気銅を溶解し、添加手段9によってCaを溶銅に添加することによって、表1のNo.1〜No.14に示す成分組成のCu−Ca系合金を鋳造した。鋳塊は、長方形断面を有するケーク状鋳塊とし、その断面寸法は、260mm×640mmとした。また鋳造にあたっては、本発明例のNo.1〜No.10では、鋳型としてカーボン製のものを用い、冷却水量を2,500リットル/分とした。また、鋳型のテーパーは、長辺側0.4°、短辺側0.4°とした。引抜速度は、約9cm/minとした。
一方、比較例のNo.11〜No.14では、鋳型のテーパーを小さくしたり、冷却水量を少なくすることにより、凝固速度を低下させて鋳造した。その他の条件は本発明例と同じとした。より具体的には、
No.11の場合は、冷却水量を本発明例の鋳造条件に対して約2分の1とした。
No.12の場合は、テーパーを本発明例の鋳造条件に対して約2分の1とした。
No.13の場合は、冷却水とテーパーをそれぞれ本発明例の鋳造条件に対して約2分の1とした。
No.14の場合は、冷却水とテーパーをそれぞれ本発明例の鋳造条件に対して約3分の2とした。
鋳造された連続鋳造鋳塊は、長さ950mmに分断して、バッチ式加熱炉により800℃で2時間加熱してから、800℃で熱間圧延を開始し、板厚22mmまで圧延して水冷した。熱間圧延終了温度は550℃とした。
得られた各圧延板から切り出した板材の表面を旋盤加工して、外径200mm×厚さ10mmの寸法を有する銅合金スパッタリングターゲットを作製した。
また、バッチ式の鋳造法を適用した従来例として、純度:99.99質量%の無酸素銅を用意し、この無酸素銅をArガス雰囲気中、高純度グラファイトモールド内で高周波溶解し、得られた溶湯にCaを添加し溶解して、表1のNo.15に示される成分組成を有する溶湯となるように成分調整し、得られた溶湯を冷却されたカーボン鋳型に鋳造し、さらに熱間圧延したのち最終的に歪取り焼鈍し、得られた圧延体の表面を旋盤加工して外径:200mm、厚さ:10mmの寸法を有する銅合金スパッタリングターゲットを作製した。
以上の過程において、各熱間圧延板から、晶出物観察用のサンプルを採取した。サンプルは、図3に示すように熱間圧延板20の先端、中間、後端の3箇所において、圧延幅方向の中央でかつ肉厚方向の中央に相当する部位から採取し、圧延面と平行な断面、圧延面に直交しかつ圧延方向と平行な断面、および圧延面に直交しかつ圧延方向に直交する断面の3断面に対応する3方向19A、19B、19Cから晶出物の分布状態を観察し、晶出物の平均粒径および最大粒径を、キーエンス製デジタルマイクロスコープVHX-1000にて画像処理することにより求めた。具体的な晶出物の平均粒径および最大粒径の測定方法は次の通りである。
<測定方法>
1)上述のサンプルを研磨・エッチングして組織観察可能な状態に仕上げる。
2)サンプルの代表的な組織を決定する(視野500μm×700μm)。
3)晶出物が白、素地が黒となるように輝度の閾値を決定して二値化画像とする。このときの晶出物の輝度は、サンプルのエッチング度合いなどによっても異なるため、実際の金属組織と2値化組織がほぼ一致する閾値を目視で決定する。
4)上記視野内で晶出物(白)と認められる個々のエリアのピクセル数(あらかじめ設定された小さな四角いマス目のようなもので、検定済みのスケールを観察してキャリブレーションしてある)をカウントし、個々の晶出物の面積を求める。
5)上記1)〜4)で個々の晶出物の面積が求められるので、最大晶出物の面積が分かる。また、これら晶出物の面積をすべて合計し、検出された晶出物の個数で割ることによって、1個あたりの平均面積とする。
6)さらに、上述の面積を有する晶出物を円に換算して最大晶出物粒径および平均晶出物粒径とする。
このようにして求めたNo.1〜No.15の各合金のサンプルについての晶出物の平均粒径および最大粒径を、表1中に示す。
一方、前述のようにして得られたNo.1〜No.15の各合金からなるスパッタリングターゲットを、無酸素銅製バッキングプレートに重ね合わせてはんだ付けすることにより、バッキングプレート付きターゲットとした。
本発明ターゲット、比較ターゲット、および従来ターゲットをスパッタ装置に取り付けて、次のような条件で連続スパッタを行なった。なおスパッタは、異なる雰囲気でのスパッタを想定して、2種類の雰囲気(Arガス雰囲気と、Ar−O混合ガス雰囲気)で実施した。
電源:直流方式
スパッタ出力:600W
到達真空度:4×10−5 Pa
雰囲気ガス組成:Arガス、Ar:90容量%と酸素:10容量%の混合ガスの2種類
(Arガス:配線膜としてのスパッタ。混合ガス:酸素含有膜としてのスパッタ)
スパッタ圧:0.2Pa
スパッタ時間:8時間
この連続スパッタの間には、電源に付属するアーキングカウンターを用いて、総異常放電回数をカウントした。その結果を表1に示す。
Figure 2013014808
表1において、No.1〜No.10は、晶出物の平均粒径が10〜50μmの範囲内にある本発明例であり、そのうちNo.1〜No.9は、晶出物の最大粒径も100μm以下の例であり、またNo.10は、最大粒径が100μmを越えた例である。一方No.11〜No.14は、晶出物の平均粒径が50μmを越えた比較例であり、そのうちNo.11〜No.13は、晶出物の最大粒径も100μmを越えた例であり、No.14は、最大粒径は100μm以下の例である。さらにNo.15は、バッチ式の鋳造方法を適用して製造された従来例であり、この場合は、晶出物の平均粒径が50μmを大幅に越えると同時に晶出物の最大粒径も100μmを越えている。
表1から明らかなように、晶出物の平均粒径が10〜50μmの範囲内にあるNo.1〜No.10の本発明例は、いずれも異常放電回数が6回以下と少なく、そのうちでも、晶出物の最大粒径も100μm以下のNo.1〜No.9の本発明例では、異常放電回数が5回以下と、著しく少ないことが確認された。
一方、晶出物の平均粒径が50μmを越え、しかも晶出物の最大粒径も100μmを越えたNo.11〜No.13の比較例、およびNo.15の従来例では、異常放電回数がいずれも16回以上と、異常放電が頻発してしまった。また晶出物の平均粒径が50μmを越え、最大粒径は100μm以下のNo.14の比較例では、No.11〜No.13の比較例よりは若干異常放電回数が少なくなる傾向が認められたが、No.1〜No.10の本発明例より劣っていることが確認された。
1 溶解炉
3 溶銅
7 タンディッシュ
13 鋳型
15 鋳塊

Claims (4)

  1. 半連続鋳造法もしくは完全連続鋳造法により鋳造した鋳塊の圧延材からなる銅合金製スパッタリングターゲットであって、Caを0.5〜10.0原子%含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる銅合金からなり、かつCu−Ca系晶出物の平均粒径が、10〜50μmの範囲内にあることを特徴とする銅合金製スパッタリングターゲット。
  2. 請求項1に記載の銅合金製スパッタリングターゲットにおいて、
    Cu−Ca系晶出物の最大径が100μm以下であることを特徴とする銅合金製スパッタリングターゲット。
  3. 請求項1、請求項2のうちのいずれかの請求項に記載の銅合金製スパッタリングターゲットにおいて、前記銅合金におけるCa含有量が、0.5〜6.0原子%の範囲内にあることを特徴とする銅合金製スパッタリングターゲット。
  4. 請求項1〜請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の銅合金製スパッタリングターゲットにおいて、前記銅合金が、さらにMg0.1〜5.0原子%、Mn0.1〜5.0原子%、Al0.1〜5.0原子%、P0.001〜0.1原子%のうちから選ばれた1種以上を、合計で10.0原子%以下含有することを特徴とする銅合金製スパッタリングターゲット。
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