<多層構造体>
以下に、図を参照しながら、本発明の多層構造体を詳細に説明する。図1は、本発明の多層構造体の一例の断面図である。
本発明の多層構造体1は、図1に示されるように、バリア層2と、エラストマー層3とを、合計で7層以上備え、前記エラストマー層3のJIS-A硬度が、80以下であることを特徴とする。
高いガスバリア性を有する前記バリア層と、高い靱性を有する前記エラストマー層とを、合計で7層以上積層することで、多層構造体の良好なガスバリア性を確保するとともに、エラストマー層の靱性作用によって、高い耐クラック性を得ることができる。そして、前記エラストマー層のJIS-A硬度を80以下とすることで、多層構造体全体の柔軟性を確保し、インナーライナー等に使用した際、ゴムの変形に伴い該多層構造体が変形した場合であっても、変形に対する追従が可能となる結果、優れた耐疲労性を実現できる。
ここで、前記エラストマー層のJIS-A硬度を80以下としたのは、JIS-A硬度が80を超える場合、前記多層構造体の柔軟性を十分に確保することができず、所望の耐疲労性を得ることができないからである。また、前記エラストマー層のJIS-A硬度は、75以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましい。
また、前記エラストマー層のJIS-A硬度の下限は、20である。JIS-A硬度が20を下回ると、前記エラストマー層の形成が困難になるためである。
なお、前記JIS-A硬度とは、ゴムの硬さを測定する規格であり、JIS K6301-1975に規定されたスプリング式硬さ計を用いて、被測定物の表面に圧子を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定し、数値化したものである。
また、前記エラストマー層のJIS-A硬度の適正化を図ることによって、前記多層構造体の弾性率は、20℃、100%歪み時において40Mpa以下となることが好ましい。20℃、100%歪み時における前記弾性率が40Mpaを超えると、前記多層構造体の柔軟性が十分でなく、変形に追従することができず、耐疲労性が悪化するおそれがあるからである。
なお、前記バリア層2及び前記エラストマー層3は、図1に示すように、交互に積層されることが好ましい。前記バリア層2と、前記エラストマー層3とを交互に積層することで、より優れた耐クラック性を得ることができるからである。
前記バリア性バリア層2の合計層数については、7層以上であれば特に限定はされないが、さらに高いガスバリア性を実現する点から、11層以上であることが好ましく、15層以上であることがさらに好ましい。なお、前記バリア性バリア層2の合計層数の上限については、特に限定されないが、多層構造体1を軽量化する点からは、3000層以下であることが好ましい。
本発明の多層構造体において、図1に示すように、前記エラストマー層3の厚さU1、U2、U3・・・Un及び前記バリア層2の厚さV1、V2、V3・・・Vnは、いずれも0.001〜40μmの範囲であることが好ましい。それぞれの厚さU、Vを上記範囲とすることで、靱性化による耐クラック性の向上が図れるとともに、多層構造体を構成する層の数を増やすことができるため、全体の厚さは同じであるが層数の少ない多層構造体と比べて、多層構造体のガスバリア性及び耐クラック性を向上できる。
また、より高い耐クラック性を実現する点から、前記バリア層2の一層あたりの厚さVは、より薄くすることが好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
例えば、従来バリア層に用いる材料の一例としてポリスチレンが挙げられるが、ポリスチレンは脆性な材料として知られており、このポリスチレンからなる層は、室温において1.5%程度の伸びにより破断してしまうおそれがある。しかしながら、「Polymer,1993,vol.34(10),2148−2154」では、延性な材料からなる層とポリスチレンからなる層とを積層させ、さらにポリスチレンからなる層の厚さをいずれも1μm以下とすることで、ポリスチレンからなる層が脆性から延性へ改質されることが報告されている。即ち、ポリスチレンのような脆性な材料からなる層であっても、該層の厚みを非常に薄くすることで、靭性に改質できると考えられる。本発明者らはこのような考え方に着目し、優れたガスバリア性及び耐クラック性の両立を達成できる多層構造体を見出した。
また、図1に示すように、本発明の多層構造体1全体の厚さTは、0.1〜1000μmの範囲が好ましく、0.5〜750μmの範囲がさらに好ましく、1〜500μmの範囲が一層好ましい。多層構造体の厚さが前記範囲内であれば、空気入りタイヤ用インナーライナーとして好適であり、またバリア層及びエラストマー層の一層の平均厚さを限定することとも相まって、ガスバリア性、耐クラック性等をさらに向上させることができる。
また、本発明の多層構造体を構成する前記バリア層及び前記エラストマー層は、活性エネルギー線の照射により架橋されてなることが好ましい。活性エネルギー線の照射によって多層構造体1を架橋することで、積層される各層2、3間の親和性が向上し高い接着性を発現することができる。その結果、多層構造体の層間接着性、延いてはガスバリア性及び耐クラック性を格段に向上させることができる。なお、前記活性エネルギー線は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、具体例としては紫外線、γ線、電子線等が挙げられ、これらの中でも、層間接着性の向上効果の観点から、電子線が好ましい。活性エネルギー線として電子線を照射する場合、電子線源としては、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、又は直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を使用でき、加速電圧は通常100〜500kVで、照射線量は通常5〜600kGyの範囲である。また、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、波長190〜380nmの紫外線を含むものを照射するのがよい。紫外線源としては、特に制限はなく、例えば高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯等が用いられる。
(バリア層)
本発明による多層構造体を構成するバリア層は、該多層構造体の空気バリア性を実現し、タイヤの内圧を保持するため、ガスバリア性樹脂を含む層である。
前記バリア層は、多層構造体の高い空気バリア性を確保する点から、20℃、65%RHにおける酸素透過度が10.0 cc・mm/m2・day・atm以下であることが好ましく、5.0 cc・mm/m2・day・atm以下であることがさらに好ましく、1.0 cc・mm/m2・day・atm 以下であることが一層好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過度が10.0 cc・mm/m2・day・atmを超えると、タイヤの内圧保持性を高めるために、前記バリア層を厚くせざるを得ず、インナーライナーの重量を十分に低減できなくなる。
また、前記ガスバリア性樹脂については、所望の空気バリア性を確保できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ウレタン系重合体、オレフィン系重合体又はジエン系重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、前記ガスバリア性樹脂については、OH、S、Cl又はFの極性基を有する樹脂のうちの少なくとも1種であることが好ましい。前記ガスバリア性樹脂がこれらの極性基を有することで、凝集エネルギー密度が高まる結果、ガスバリア性をさらに向上できるからである。
さらにまた、前記極性基を有する樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体又は変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン、塩化ビニル、アイオノマーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。かかる樹脂は、空気透過量が低く、ガスバリア性に優れるためである。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレン含有量が25〜50モル%であることが好ましく、30〜48モル%であることがさらに好ましく、35〜45モル%であることが一層好ましい。エチレン含有量が25モル%未満では、耐クラック性、耐疲労性及び溶融成形性が悪化することがあり、一方、50モル%を超えると、ガスバリア性を十分に確保できないことがある。また、該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ケン化度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが一層好ましい。ケン化度が90%未満では、ガスバリア性及び成形時の熱安定性が不十分となることがある。さらに、該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがさらに好ましい。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、エチレン含有量が3〜70モル%であることが好ましく、10〜60モル%であることがさらに好ましく、20〜55モル%であることが一層好ましく、25〜50モル%であることが特に好ましい。エチレン含有量が3モル%未満では、インナーライナーの耐水性、耐熱水性、高湿度下でのガスバリア性及び溶融成形性が低下するおそれがあり、一方、70モル%を超えると、インナーライナーのガスバリア性が低下するおそれがある。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、インナーライナーのガスバリア性、耐湿性及び層間接着性を向上させる観点から、ケン化度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが一層好ましく、99%以上であることが特に好ましい。一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は、99.99%以下が好ましい。EVOHのケン化度が80%未満では、インナーライナーの溶融成形性、ガスバリア性、耐着色性及び耐湿性が低下するおそれがある。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ガスバリア性、耐クラック性及び耐疲労性を得る観点から、メルトフローレート(MFR)が190℃、21.18N荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがさらに好ましい。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、1,2−グリコール結合構造単位の含有量G(モル%)が下記式:
G ≦ 1.58−0.0244×E
[式中、Gは1,2−グリコール結合構造単位の含有量(モル%)であり、EはEVOH中のエチレン単位含有量(モル%)であり、但し、E ≦64である]の関係を満たし、且つ、固有粘度が0.05〜0.2L/gの範囲であることが好ましい。このようなEVOHを用いることで、得られるインナーライナーは、ガスバリア性の湿度依存性が小さくなり、良好な透明性及び光沢を有し、他の樹脂からなる層への積層も容易になる。なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量は、「S.Aniyaら,Analytical Science Vol.1,91(1985)」に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定されることができる。
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位及びビニルアルコール単位の他に、他の繰り返し単位(以下、構造単位ともいう)、例えばこれらの単位から誘導した繰り返し単位を1種又は複数種有する重合体である。なお、変性EVOHの好適なエチレン含有量、ケン化度、メルトフローレート(MFR)、1,2−グリコール結合構造単位の含有量及び固有粘度は、上述のEVOHと同様である。
前記変性EVOHは、例えば下記に示す構造単位(I)及び(II)から選ばれる少なくとも一種の構造単位を有することが好ましく、該構造単位を全構造単位に対して0.5〜30モル%の割合で含有することがさらに好ましい。かかる変性EVOHであれば、樹脂又は樹脂組成物の柔軟性及び加工特性、並びにインナーライナーの層間接着性、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。
上記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。また、R
1、R
2及びR
3のうちの一対が結合していてもよい(但し、R
1、R
2及びR
3のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。一方、上記式(II)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。また、R
4とR
5又はR
6とR
7は結合していてもよい(但し、R
4とR
5又はR
6とR
7が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。
前記変性EVOHにおいて、上記構造単位(I)及び/又は(II)の全構造単位に対する含有量の下限は、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方、前記変性EVOHにおいて、上記構造単位(I)及び/又は(II)の全構造単位に対する含有量の上限は、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。前記構造単位(I)及び/又は(II)を前記特定した割合で含有することで、樹脂又は樹脂組成物の柔軟性及び加工特性、並びにインナーライナーの層間接着性、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。
上記構造単位(I)及び(II)において、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
上記構造単位(I)において、前記R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。かかるR1、R2及びR3であれば、インナーライナーの延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる。
EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンとビニルエステルとの共重合において、さらに構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させる方法等が挙げられる。該構造単位(I)に誘導される単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等のヒドロキシ基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。それらの中でも、共重合反応性、及び得られるインナーライナーのガスバリア性の観点から、プロピレン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。具体的には、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンがさらに好ましく、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが特に好ましい。なお、エステルを有するアルケンを用いる場合は、ケン化反応の際に、前記構造単位(I)に誘導される。
上記構造単位(II)において、R4及びR5は共に水素原子であることが好ましい。特に、R4及びR5が共に水素原子であり、前記R6及びR7のうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基で、他方が水素原子であることがより好ましい。構造単位(II)中の脂肪族炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基が好ましい。また、インナーライナーのガスバリア性を特に重視する観点から、R6及びR7のうちの一方がメチル基又はエチル基で、他方が水素原子であることが好ましい。さらに、前記R6及びR7のうちの一方が(CH2)hOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数である)で、他方が水素原子であることも好ましい。この(CH2)hOHで表される置換基においては、hが1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
また、EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させる方法等が挙げられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で表される化合物が好適に挙げられる。
上記式(III)〜(IX)中、R
8、R
9、R
10、R
11及びR
12は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基等)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基等)又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基等)を表す。なお、R
8及びR
9又はR
11及びR
12は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、i、j、k、p及びqは、1〜8の整数を表す。
上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、6−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−ブトキシヘプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−エトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシオクタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ペンタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、ヘプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテン等が挙げられる。
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
前記一価エポキシ化合物の中では、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ及びEVOHに対する反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数は、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は、これらの式で表される化合物のうち式(III)又は(IV)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHに対する反応性及び得られるインナーライナーのガスバリア性の観点から、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、これらの中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
本発明において、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、例えば、エチレンとビニルエステルとを重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得、該エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化することにより得られる。また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、上述のとおり、(1)エチレンとビニルエステルとの重合において、さらに構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させたり、(2)ケン化反応によって得られたEVOHに対して一価エポキシ化合物を反応させることにより得られる。ここで、エチレン−ビニルアルコール共重合体及び変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
前記重合に用いることができるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の脂肪酸ビニル等が挙げられる。
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造する場合、エチレン及びビニルエステルの他に、これら単量体と共重合し得る単量体を好ましくは少量で用いることがある。この共重合し得る単量体としては、上述の構造単位(I)に誘導される単量体に加えて、他のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物、塩、モノアルキルエステル若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、ビニルシラン化合物を単量体として用いることもでき、共重合体中に導入されるビニルシラン化合物の量は、0.0002モル%以上で且つ0.2モル%以下であることが好ましい。ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。これらビニルシラン化合物の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
重合に使用できる溶媒は、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。それらの中でも、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
重合に使用できる開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。
重合温度は、通常20〜90℃程度であり、好ましくは40〜70℃である。重合時間は、通常2〜15時間程度であり、好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して通常10〜90%程度であり、好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85質量%程度であり、好ましくは20〜70質量%である。
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、得られる共重合体溶液に必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去し、その後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔の下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法等が採用される。
次に、前記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、該溶液中に存在する共重合体をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。前記アルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。また、ケン化の条件は、例えば回分式の場合、共重合体溶液中のアルカリ触媒の濃度が10〜50質量%程度、反応温度が30〜65℃程度、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル程度、ケン化時間が1〜6時間程度であることが好ましい。
ケン化反応後の(変性)EVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後の(変性)EVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
前記ナイロンの具体的な種類について、例えば、ナイロン6、ナイロン6−66、ナイロンMXD6、芳香族ポリアミド等が挙げられる。
前記ポリビニルアルコール樹脂(PVA)は、合成樹脂の一種であり、親水性が非常に強く、温水に可溶という特徴を有する。前記インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、ケン化度が95mol%以下であることが好ましく、90mol%以下であることがさらに好ましい。
本発明において、前記ポリビニルアルコール樹脂は、例えば、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。
また、前記バリア層の切断時伸び(EB)は、100%以下であることが好ましい。100%を超えると、高いガスバリア性を確保できないおそれがあるからである。ここで、前記切断時伸び(EB)とは、20℃、65%RHの条件下で、ISO 527に準拠して、厚み1mmのサンプルを、JIS3号のダンベルで引張速度500mm/minで測定した時の切断時伸びのことをいう。
(エラストマー層)
本発明の多層構造体を構成するエラストマー層は、多層構造体に耐クラック性や耐クラック性を付与するための層であり、例えば、熱可塑性エラストマーからなる層又は該熱可塑性エラストマーがマトリクスとして存在する熱可塑性エラストマー組成物からなる層などが挙げられる。なお、マトリクスとは、連続相を意味する。上述のバリア層は、ガスバリア性が高く、タイヤの内圧保持性を改良する効果が大きいものの、タイヤ中のゴムに比べ弾性率が大幅に高いため、屈曲時の変形で破断したり、クラックが生じるおそれがある。そのため、エラストマー層を前記バリア層とともに積層するによって、高い多層構造体の内圧保持性及び耐クラック性を確保することができる。
また、前記エラストマー層のJIS-A硬度は、80以下である。上述したように、前記多層構造体全体の柔軟性を確保し、所望の耐疲労性を得るためである。
前記エラストマー層のJIS-A硬度を80以下にする方法としては、特に限定はしない。例えば、前記エラストマー層を構成する樹脂について、柔軟性の高い成分(ソフトセグメント)と、柔軟性の低い成分(ハードセグメント)との含有割合を調整することによって、JIS-A硬度が80以下のエラストマー層を得ることができる。
また、前記エラストマー層の切断時伸び(EB)は、100%を超えることが好ましい。前記破断時伸び(EB)が100%未満の場合、前記エラストマー層の柔軟性が十分でなく、所望の耐疲労性を得ることができないおそれがあるからである。ここで、前記切断時伸び(EB)とは、20℃、65%RHの条件下で、ISO 527に準拠して、厚み1mmのサンプルを、JIS3号のダンベルで引張速度500mm/minで測定した時の切断時伸びのことをいう。
さらに、前記エラストマー層は、20℃及び65%RHでの空気透過度が、10.0cc・mm/m2・day・atm以下であるのが好ましい。10.0cc・mm/m2・day・atmを超えると、前記バリア層にクラックが生じた際、急激な内圧低下を防ぐことができないおそれがあるからである。なお、空気透過度は、JIS K7126−1:2006(等圧法)に準拠して測定される。
前記エラストマー層に含まれるエラストマー成分については、特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。なお、これらの熱可塑性エラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と、ゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックがゴム弾性を付与する。該ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、分子中のソフトセグメントの配列様式により分けることができ、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられ、さらにはポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体や、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体等も含まれる。これらの中でも、機械的強度、耐熱安定性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、柔軟性、加工性等のバランスの面から、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が好適である。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ハードセグメントとしてポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンブロックを、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレン−ジエン共重合体等のゴムブロックを備える熱可塑性エラストマー等が含まれる。なお、かかる熱可塑性エラストマーには、ブレンド型とインプラント化型がある。また、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン等を挙げることもできる。
前記ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエン系TPE及びトランス1,4−ポリイソプレン系TPE、水添共役ジエン系TPE、エポキシ化天然ゴム等を挙げることができる。なお、1,2−ポリブタジエン系TPEは、分子中に1,2−結合を90%以上含むポリブタジエンであって、ハードセグメントとして結晶性のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、ソフトセグメントとして無定形1,2−ポリブタジエンとからなる。また、トランス1,4−ポリイソプレン系TPEは、分子中に98%以上のトランス1,4構造を有するポリイソプレンであって、ハードセグメントとしての結晶性トランス1,4セグメントと、ソフトセグメントとしての非結晶性トランス1,4セグメントからなる。
前記ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)は、一般に、以下に示す3種類に大別される。
・タイプ1:高分子量ポリ塩化ビニル(PVC)/可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)ブレンド型TPVC
ハードセグメントに高分子量のPVCを用いて、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いてなる熱可塑性エラストマーである。なお、ハードセグメントに高分子量のPVCを用いることで、微結晶部分にて架橋点の働きを持たせている。
・タイプ2:部分架橋PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
ハードセグメントに部分架橋又は分岐構造を導入したPVCを、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いてなる熱可塑性エラストマーである。
・タイプ3:PVC/エラストマーアロイ型TPVC
ハードセグメントにPVCを、ソフトセグメントに部分架橋ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム又はポリウレタン系TPE、ポリエステル系TPE等のTPEを用いてなる熱可塑性エラストマーである。
前記塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、水性懸濁液又は四塩化炭素のような溶媒中でポリエチレンを塩素ガスと反応させて得られる軟質樹脂であり、ハードセグメントには結晶性ポリエチレンブロックが、ソフトセグメントには塩素化ポリエチレン(CPE)ブロックが用いられる。なお、CPEブロックには、ポリエチレン及び塩素化ポリエチレンの両成分がマルチブロック又はランダム構造の混合物として混在している。
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。TPEEは、分子構造の違いによって次のようなタイプに分けることができ、ポリエステル・ポリエーテル型TPEEとポリエステル・ポリエステル型TPEEが主流を占めている。
(1)ポリエステル・ポリエーテル型TPEE
一般には、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとしてポリエーテルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(2)ポリエステル・ポリエステル型TPEE
ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(3)液晶性TPEE
ハードセグメントとして剛直な液晶分子を、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するポリアミド成分は、ナイロン6,66,610,11,12等から選択され、ナイロン6、ナイロン12が主体を占めている。ソフトセグメントの構成物質には、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール等の長鎖ポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールの代表例には、ジオールポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールの代表例には、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4アジペート)グリコール等が挙げられる。
前記フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてフッ素樹脂を、ソフトセグメントとしてフッ素ゴムからなるABA型ブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するフッ素樹脂には、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が用いられ、ソフトセグメントを構成するフッ素ゴムには、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等が用いられる。より具体的には、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、ホスファゼン系フッ素ゴムや、フルオロポリエーテル、フルオロニトロソゴム、パーフルオロトリアジンを含むもの等が挙げられる。なお、フッ素樹脂系TPEは、他のTPEと同じようにミクロ相分離して、ハードセグメントが架橋点を形成している。
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、(1)ハードセグメントとして短鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンと、(2)ソフトセグメントとして長鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンとからなる直鎖状のマルチブロックコポリマーである。ここで、ポリウレタンとは、イソシアネート(−NCO)とアルコール(−OH)との重付加反応(ウレタン化反応)で得られるウレタン結合(−NHCOO−)を有する化合物の総称である。本発明の多層構造体においては、エラストマー層を形成するエラストマーがTPUであれば、該エラストマー層を積層することで、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。また、かかるインナーライナーでは、エラストマー層とバリア層との層間接着性を向上できるため、耐クラック性等の耐久性が高く、インナーライナーを変形させて使用しても、ガスバリア性及び延伸性を維持することができる。
前記TPUは、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤等から構成される。該高分子ポリオールは、複数のヒドロキシ基を有する物質であり、重縮合、付加重合(例えば開環重合)、重付加等によって得られる。高分子ポリオールとしては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はこれらの共縮合物(例えばポリエステル−エーテル−ポリオール)等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールが特に好ましい。なお、これらの高分子ポリオールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、前記ポリエステルポリオールは、例えば、常法に従い、ジカルボン酸、そのエステル、その無水物等のエステルを形成し得る化合物と低分子ポリオールとを直接エステル化反応若しくはエステル交換反応によって縮合させるか、又はラクトンを開環重合することにより製造されることができる。
前記ポリエステルポリオールの生成に使用できるジカルボン酸としては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されるジカルボン酸が挙げられる。該ジカルボン酸として、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸等の炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、炭素数が6〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、アゼライン酸又はセバシン酸が特に好ましい。これらジカルボン酸は、ヒドロキシ基とより反応し易いカルボニル基を有しており、バリア層との層間接着性を大幅に向上させることができる。
前記ポリエステルポリオールの生成に使用できる低分子ポリオールとしては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用される低分子ポリオールが挙げられる。該低分子ポリオールとして、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノール等の脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等が挙げられる。これらの低分子ポリオールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール等の側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましい。かかる脂肪族ジオールを用いて得たポリエステルポリオールは、ヒドロキシ基との反応が起こり易く、バリア層との層間接着性を大幅に向上させることができる。さらに、前記低分子ポリオールと共に、少量の3官能以上の低分子ポリオールを併用することができる。3官能以上の低分子ポリオールとしては、例えばトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。
前記ポリエステルポリオールの生成に使用できるラクトンとしては、例えばε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等を挙げることができる。
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコール等が挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、ポリテトラメチレングリコールが好ましい。
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール等の炭素数2〜12の脂肪族ジオール又はこれらの混合物を炭酸ジフェニル又はホスゲン等の作用により縮重合して得られる化合物が好適に挙げられる。
前記高分子ポリオールは、数平均分子量の下限が、500であるのが好ましく、600であるのがより好ましく、700であるのがさらに好ましい。一方、高分子ポリオールの数平均分子量の上限は、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量が前記下限より小さいと、有機ポリイソシアネートとの相溶性が高過ぎ、得られるTPUの弾性が乏しくなるため、得られるインナーライナーの延伸性等の力学的特性や熱成形性が低下するおそれがある。一方、高分子ポリオールの数平均分子量が前記上限を超えると、有機ポリイソシアネートとの相溶性が低下して、重合過程での混合が困難になり、その結果、ゲル状物の塊の発生等により安定したTPUが得られなくなるおそれがある。なお、高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS−K−1577に準拠して測定し、ヒドロキシ基価に基づいて算出した数平均分子量である。
前記有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、TPUの製造に一般的に使用される公知の有機ジイソシアネートが使用できる。該有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート等を挙げることができる。これらの中でも、得られるインナーライナーの強度及び耐クラック性が向上できる観点から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらの有機ポリイソシアネートは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記鎖伸長剤としては、特に限定されず、TPUの製造に一般的に使用される公知の鎖伸長剤が使用でき、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好適に使用される。鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、得られるインナーライナーの延伸性及び熱成形性がさらに向上できる観点から、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。これらの鎖伸長剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
前記TPUの製造方法としては、前記高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用する製造方法が挙げられ、プレポリマー法及びワンショット法のいずれを用いてもよい。特には、実質的に溶媒の不存在下にて溶融重合を行うことが好ましく、多軸スクリュー型押出機を用いた連続溶融重合を行うことがさらに好ましい。
前記TPUは、高分子ポリオールと鎖伸長剤との合計質量に対する有機ポリイソシアネートの質量の比[イソシアネート/(高分子ポリオール+鎖伸長剤)]が、1.02以下であることが好ましい。該比が1.02を超えると、成形時の長期運転安定性が悪化するおそれがある。
(多層構造体の製造方法)
本発明の多層構造体の製造方法としては、上述のバリア層とエラストマー層とが良好に積層・接着可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着等の公知の方法が挙げられる。その中でも、本発明の多層構造体の製造方法としては、複数の樹脂組成物を準備し、これら組成物を用いた多層共押出法によりバリア層を備える多層構造体を製造する方法が好ましい。生産性が高く、層間接着性に優れるためである。
前記多層共押出法においては、前記バリア層を形成する樹脂又は樹脂組成物が、加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着することで、本発明の多層構造体が形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサー等を用いることができる。
また、本発明の多層構造体は、その両面又は片面に、該積層体を支持するための支持層が積層されてもよい。前記支持層としては、特に限定されず、例えば支持層として通常使用される合成樹脂層等が使用できる。なお、支持層のバリア層又はエラストマー層への積層方法としては、特に限定されず、例えば、接着剤による接着方法や押出ラミネート法等が挙げられる。
<空気入りタイヤ用インナーライナー>
次に、図面を参照しながら、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナー及び本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上述の多層構造体を用いることを特徴とする。
<空気入りタイヤ>
本発明の空気入りタイヤは、該インナーライナーを備えることを特徴とする。インナーライナー12に上述した多層構造体を適用し、常法により製造することができる。
なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤを構成するゴムと、前記インナーライナー12との張り合わせは、接着剤を用いて行うことができる。
図2は、本発明の空気入りタイヤの一例の部分断面図である。図2に示すタイヤは、一対のビード部7及び一対のサイドウォール部8と、両サイドウォール部8に連なるトレッド部9とを有し、前記一対のビード部7間にトロイド状に延在して、これら各部7,8,9を補強するカーカス10と、該カーカス10のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト11とを備え、さらに、該カーカス10の内側のタイヤ内面にはインナーライナー12が配置されている。
図示例のタイヤにおいて、カーカス10は、前記ビード部7内に夫々埋設した一対のビードコア13間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア13の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明のタイヤにおいて、カーカス10のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
また、図示例のタイヤにおいて、ベルト11は、2枚のベルト層からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト11を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト11を構成する。さらに、図示例のタイヤは、前記ベルト11のタイヤ半径方向外側でベルト11の全体を覆うように配置されたベルト補強層14を備えるが、本発明のタイヤは、ベルト補強層14を有していなくてもよいし、他の構造のベルト補強層を備えることもできる。ここで、ベルト補強層14は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
(エラストマー層)
熱可塑性ポリウレタン(TPU)である(株)クラレ製の「クラミロン U9195」、「クラミロン U9185」、「クラミロン U9190」、「クラミロン U9180」、「クラミロン U8175」、「クラミロン U8170」又は「クラミロン U8165」を、エラストマー層として用いた。
(バリア層)
(株)クラレ製の「エバール F101B」を、エチレン−ビニルアルコール共重合体のバリア層として用いた。
(実施例及び比較例のサンプル1〜7)
その後、各バリア層の材料と、エラストマー層の材料とを使用し、表1に示す層数及び厚さで積層された多層構造体が形成されるように、バリア層1を用いる場合は、210℃バリア層2を用いる場合は、220℃の溶融物を共押出機からフィードブロックへ供給し、フィードブロックから溶融物を押し出し、多層構造体を作製した。
このようにして得られた多層構造体を、表面温度25℃に保たれ静電印加したキャスティングドラム上で急冷固化した。急冷固化して得られたキャストフィルムを離型紙上に圧着し巻取りを行った。なお、溶融物を合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約4分となるように流路形状及び総吐出量を設定した。
上記のようにして得られたキャストフィルムに関して、DIGITAL MICROSCOPE VHX−900(KEYENCE製)又は電子顕微鏡VE−8800(KEYENCE製)による断面観察を行い、各層の平均厚さ及び多層構造体の厚さを求めた。結果を表1に示す。
次いで、このキャストフィルムに対し、電子線加速機[日新ハイボルテージ(株)製、キュアトロンEB200−100]を用い、サンプルごとに、加速電圧200kVにて表1に示す照射線量の電子線を照射して、架橋された多層フィルム(多層構造体)を得た。
次に、上記のようにして作製した多層フィルムのサンプルについて、ガスバリア性、耐疲労性及び内圧保持性について下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
(1)ガスバリア性
上記フィルムを、20℃、65%RHで5日間調湿した。得られた調湿済みのフィルムを2枚使用して、モダンコントロール社製MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、65%RHの条件下でJIS K7126(等圧法)に準拠して、空気透過度を測定し、その平均値を求めた。ガスバリア性については、サンプル1の空気透過度を100としたときの指数によって評価を行い、数値が小さいほど空気透過度が小さく良好な結果であることを示す。
(2)耐疲労性(低温ドラム走行試験後のクラックの数)
上記フィルムに、厚さが500μmであるゴム組成物層である補助層を貼付けEBを照射後、接着剤(小笠原ENR接着剤)を塗布し、補助層としての内面に貼り付けて、インナーライナーを作製した。作製したインナーライナーを用いて、図3に示すように、サイズ:195/65R15の乗用車用空気入りタイヤを常法に従って作製した。
作製した空気入りタイヤを、常温(20℃)で、空気圧140kPaで80km/hの速度に相当する回転数のドラム上に荷重6kNで押し付け、20,000kmを走行した。走行後のタイヤショルダー部10cm×10cm当たりのフィルム表面のクラックの数を、耐疲労性の指標として計測した。
(3)内圧保持性
上記のように作製したタイヤを、−30℃の雰囲気の中、空気圧140kPaで、80km/hの速度に相当する回転ドラム上に加重6kNで押し付けて10,000km走行させた。そして、走行させたタイヤ(試験タイヤ)を6JJ×15のリムに装着した後、内圧を240kPaとし、3ヶ月間放置した。3ヶ月後の内圧を測定し、下記式:
内圧保持性=((240−b)/(240−a))×100
[式中、aは試験タイヤの3ヶ月後の内圧(kPa)、bは比較例1の試験タイヤの3ヶ月後の内圧(kPa)である]を用いて内圧保持性を評価した。サンプル2の値を100として他の値を指数化した。指数値が大きい程、内圧保持性に優れる。
表1の結果から、実施例の多層構造体(多層フィルム)は、比較例の多層構造体と同様に、ガスバリア性及び耐クラック性を高いレベルで両立できることがわかる。そして、実施例の多層構造体は、比較例の多層構造体に比べて、クラックの数が少なく、耐疲労性について高い効果を示すことがわかる。