JP6162920B2 - ランフラットタイヤ - Google Patents
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Description
即ち、本発明のランフラットタイヤは、サイド部に三日月状のサイド補強ゴムを備えたランフラットタイヤであって、ガスバリア性樹脂を含むバリア層とエラストマーを含む弾性体層とを含む積層体からなるインナーライナーを備え、前記積層体のヤング率が、前記サイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率の3倍〜200倍であり、前記積層体は、前記バリア層を10層以上有し、前記バリア層と前記弾性体層との合計層数は、21〜48層であり、前記積層体は、前記バリア層を10層以上有し、前記バリア層が、一層の平均厚さ0.001μm〜0.8μmの層であり、前記弾性体層が、一層の平均厚さ0.001μm〜0.8μmの層であり、前記バリア層と前記弾性体層とが交互に積層されている、ことを特徴とする。
また、前記ガスバリア性樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ナイロン及びアイオノマーからなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。
また、前記積層体の最大厚みは、38.4μm以下であることが好ましい。
本発明のランフラットタイヤは、少なくとも、インナーライナーと、サイド補強ゴムとを備え、さらに必要に応じてその他の部材を備える。
図1に示すように、ランフラットタイヤ100は、例えば、一対のビード部2、ビード部2からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイド部3間にまたがって延び、トレッド部4の各部にわたってトロイド状に延びるカーカス5を配設する。カーカス5は、2枚のカーカスプライからなり、当該カーカスプライはビードコア11をタイヤ内側から外側へ折り返される。
前記インナーライナーは、積層体により構成される。
図2に示すように、インナーライナーは、例えば、ガスバリア性樹脂を含むバリア層23,25と、エラストマーを含む弾性体層22,24,26とを交互に積層してなる5層構造の積層体21からなり(補助層(ゴム状弾性体層)を含まず)、ランフラットタイヤ27に接着されている。ここで、図2のインナーライナーにおける積層体は、バリア層と弾性体層とが交互に積層された5層構造であるが、本発明におけるインナーライナーは、これに限定されるものではない。
前記積層体は、少なくとも、バリア層と弾性体層とを含み、さらに必要に応じてその他の層を含む。
前記積層体のヤング率としては、後述するサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率の3倍〜200倍である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記サイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率の3倍〜100倍が好ましい。
前記積層体のヤング率が、前記サイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率の3倍未満であると、ランフラットタイヤの耐久性を従来のランフラットタイヤと同等に維持することができず、また、200倍超であると、隣接部材(サイド補強ゴム)との接着性が低くなるため、ランフラット走行時に接着剥離が発生し、接着剥離部を起点としたクラック進展が発生し、ランフラット耐久性が低下してしまう。一方、前記積層体のヤング率が、前記好ましい範囲内であると、ランフラットタイヤの耐久性及び隣接部材(サイド補強ゴム)との接着性の点で有利である。
前記積層体の20℃−65%RH条件下で、JIS−K7126:2006(等圧法)に記載の方法に準じて測定した酸素透過係数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃、65%RHにおける酸素透過度が1000cc/m2・day・atm以下であることが好ましく、500cc/m2・day・atm以下であることがさらに好ましく、300cc/m2・day・atm以下であることが一層好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過度が1000cc/m2・day・atmを超えると、タイヤの内圧保持性を高めるために、前記バリア層を厚くせざるを得ず、インナーライナーの重量を十分に低減できなくなる。
前記積層体の層構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バリア層を2層以上有することが好ましく、前記バリア層を10層以上有することがより好ましい。
前記バリア層が2層以上であると、きず(クラック)が入ってバリア層の一部の機能が失われた場合であっても、機能が失われていないバリア層によりインナーライナーの耐空気透過性が低減する(タイヤの内圧が低下する)ことを防止することができる。
前記合計層数を5層以上とすることにより、ピンホール、割れなどの欠陥が連続して発生することを抑制できる結果、積層体の全層の破断を防ぐことができ、高いガスバリア性、耐屈曲性(耐クラック性)等の特性を有している。
(1)A,B,A,B・・・A,B(つまり、(AB)n)
(2)A,B,A,B・・・・・A(つまり、(AB)nA)
(3)B,A,B,A・・・・・B(つまり、(BA)nB)
(4)A,A,B,B・・・A,A,B,B(つまり、(AABB)n)
等の積層順を採用することができる。また、その他の層(C層)を有する場合、例えば、
(5)A,B,C・・・A,B,C(つまり、(A,B,C)n)
等の積層順を採用することができる。
さらに、前記バリア層(A層)及び前記弾性体層(B層)の積層順としては、上記(3)のように、前記積層体の両最外層が前記弾性体層(B層)であることが好ましい。前記積層体の両最外層が前記弾性体層(B層)であると、タイヤとの接着性の点で、有利である。
前記積層体の最大厚みが700μm超であると、ランフラットタイヤの軽量化を図ることができないことがあり、前記積層体の最大厚みが好ましい範囲内であると、ランフラットタイヤのインナーライナー等への適用性を維持しつつ、ガスバリア性、耐屈曲性、耐クラック性、耐久性、延伸性などをさらに向上させることができる点で有利である。
前記バリア層は、インナーライナー(積層体)の空気バリア性を実現し、タイヤの内圧を保持するため、ガスバリア性樹脂を含む層である。前記バリア層を構成する樹脂組成物がガスバリア性樹脂を含むことで、ガスバリア性に優れるインナーライナー(積層体)を得ることができる。
これらの中でも、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(変性EVOH)、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂が、ガスバリア性の点で好ましく、さらに、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(変性EVOH)が、ガスバリア性に加えて、溶融成形性の点で特に好ましい。また、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(変性EVOH)は、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)にエポキシ化合物等を反応させて得られる化合物であり、通常のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)に比べて弾性率が低い。このため、バリア層の弾性率を低下させ、耐クラック性等の耐久性を向上させることもできる。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有し、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化することにより得られる。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、エチレン含有量(EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレンの数の割合)が3〜70モル%であることが好ましく、10〜60モル%であることが更に好ましく、20〜55モル%であることが一層好ましく、25〜50モル%であることが特に好ましい。エチレン含有量が3モル%未満では、インナーライナーの耐水性、耐熱水性、高湿度下でのガスバリア性及び溶融成形性が低下するおそれがあり、一方、70モル%を超えると、インナーライナーのガスバリア性が低下するおそれがある。
G ≦ 1.58−0.0244×E
[式中、Gは1,2−グリコール結合構造単位の含有量(モル%)であり、EはEVOH中のエチレン単位含有量(モル%)であり、但し、E≦64である]の関係を満たし、且つ、固有粘度が0.05〜0.2L/gの範囲であることが好ましい。このようなエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いることで、得られるインナーライナー(積層体)は、ガスバリア性の湿度依存性が小さくなり、良好な透明性及び光沢を有し、他の樹脂からなる層への積層も容易になる。なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量は、「S.Aniyaら,Analytical Science Vol.1,91(1985)」に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定されることができる。
上記式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。また、R1、R2及びR3のうちの一対が結合していてもよい(但し、R1、R2及びR3のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。一方、上記式(II)中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。また、R4とR5又はR6とR7は結合していてもよい(但し、R4とR5又はR6とR7が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。
前記ポリアミド樹脂(PA)は、酸とアミンが反応してできるアミド結合を持つ高分子化合物の総称であり、機械特性が良く、引張り、圧縮、曲げ、衝撃に強いという特徴を有する。前記インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、前記ポリアミド樹脂(PA)は、メルトフローレートJIS K 7210 1999(230℃ 21.18N)において100g/10分間であることが好ましく、30g/10分間であることが更に好ましい。
前記ポリアミド樹脂は、ラクタムの開環重合、又はアミノカルボン酸若しくはジアミンとカルボン酸との重縮合等によって得ることができる。
前記ポリエステル樹脂とは、エステル結合を有するポリマーであり、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。前記積層体のガスバリア性樹脂として用いられるポリエステル樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリグリコール酸(PGA)、芳香族系液晶ポリエステル、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのポリエステル樹脂の中でも、ガスバリア性の高さの点から、ポリグリコール酸(PGA)及び全芳香族系液晶ポリエステルが好ましい。
前記ポリグリコール酸(PGA)は、−O−CH2−CO−で表される構造単位(GA)を有する単独重合体又は共重合体である。前記ポリグリコール酸(PGA)における前記構造単位(GA)の含有割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましく、また、100質量%以下が好ましい。構造単位(GA)の含有割合が60質量%未満であると、ガスバリア性が十分に発揮されない場合がある。
全芳香族系液晶ポリエステルは、モノマーである多価カルボン酸とポリオールとが共に芳香族系の化合物である液晶性のポリエステルである。この全芳香族系液晶ポリエステルは、通常のポリエステルと同様、公知の方法で重合して得ることができる。
前記ポリビニルアルコール樹脂(PVA)は、合成樹脂の一種であり、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。
バリア層を形成する樹脂組成物に、実施態様に応じ、リン酸化合物、カルボン酸及びホウ素化合物から選ばれる1種又は複数種の化合物を含有させるとよい。かかるリン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をバリア層の樹脂組成物中に含有することによって、当該多層構造体の各種性能を向上させることができる。
インナーライナー(積層体)を構成する弾性体層は、エラストマーを含む層であり、エラストマーを含む層であれば、その他の構成については特に限定されるものではない。例えば、エラストマーからなる層又は該エラストマーがマトリクスとして存在するエラストマー組成物からなる層などが挙げられる。なお、マトリクスとは、連続相を意味する。
前記弾性体層を構成する樹脂組成物がエラストマーを含むことで、前記積層体の延性を高め、耐屈曲性を向上させることができる。さらに、所定厚さのバリア層と共にこのエラストマーを含む樹脂組成物からなる弾性体層を積層させることで、バリア層の樹脂組成物の延性が低い場合でも、バリア層の延性を高めることができる。
エラストマーとは、常温付近で弾性を有する樹脂をいい、具体的には、室温(20℃)の条件下で、2倍に伸ばし、その状態で1分間保持した後、1分間以内に元の長さの1.5倍未満に収縮する性質を有する樹脂をいう。また、エラストマーは、構造的には、通常、重合体鎖中にハードセグメントとソフトセグメントとを有する重合体である。
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と、ゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックがゴム弾性を付与する。
該ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、分子中のソフトセグメントの配列様式により分けることができ、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられ、更にはポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体や、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体等も含まれる。なお、これらのポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸変性等の変性物であってもよい。
これらの中でも、機械的強度、耐熱安定性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、柔軟性、加工性等のバランスの面から、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が好適である。
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ハードセグメントとしてポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンブロックを、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレン−ジエン共重合体等のゴムブロックを備える熱可塑性エラストマー等が含まれる。なお、かかる熱可塑性エラストマーには、ブレンド型とインプラント化型がある。また、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン等を挙げることもできる。
前記ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエン系TPE及びトランス1,4−ポリイソプレン系TPE、水添共役ジエン系TPE、エポキシ化天然ゴム等を挙げることができる。なお、1,2−ポリブタジエン系TPEは、分子中に1,2−結合を90%以上含むポリブタジエンであって、ハードセグメントとして結晶性のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、ソフトセグメントとして無定形1,2−ポリブタジエンとからなる。また、トランス1,4−ポリイソプレン系TPEは、分子中に98%以上のトランス1,4構造を有するポリイソプレンであって、ハードセグメントとしての結晶性トランス1,4セグメントと、ソフトセグメントとしての非結晶性トランス1,4セグメントからなる。
前記ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)は、一般に、以下に示す3種類に大別される。なお、このTPVCも、無水マレイン酸変性PVC等の変性物を用いてもよい。
・タイプ1:高分子量ポリ塩化ビニル(PVC)/可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)ブレンド型TPVC
ハードセグメントに高分子量のPVCを用いて、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いてなる熱可塑性エラストマーである。なお、ハードセグメントに高分子量のPVCを用いることで、微結晶部分にて架橋点の働きを持たせている。
・タイプ2:部分架橋PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
ハードセグメントに部分架橋又は分岐構造を導入したPVCを、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いてなる熱可塑性エラストマーである。
・タイプ3:PVC/エラストマーアロイ型TPVC
ハードセグメントにPVCを、ソフトセグメントに部分架橋ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム又はポリウレタン系TPE、ポリエステル系TPE等のTPEを用いてなる熱可塑性エラストマーである。
前記塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、水性懸濁液又は四塩化炭素のような溶媒中でポリエチレンを塩素ガスと反応させて得られる軟質樹脂であり、ハードセグメントには結晶性ポリエチレンブロックが、ソフトセグメントには塩素化ポリエチレン(CPE)ブロックが用いられる。なお、CPEブロックには、ポリエチレン及び塩素化ポリエチレンの両成分がマルチブロック又はランダム構造の混合物として混在している。
ポリ塩素化ポリエチレン(CPE)は、原料ポリエチレンの種類、塩素化度、製造条件などによって、塩素含有量、ブロック性、残存結晶化度などの分子特性がかわり、その結果、樹脂からゴムまでの広範囲によって加硫ゴムと同じような性質の製品も可能であり、無水マレイン酸変性などによる変性物とすることもできる。
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。TPEEは、分子構造の違いによって次のようなタイプに分けることができ、ポリエステル・ポリエーテル型TPEEとポリエステル・ポリエステル型TPEEが主流を占めている。
(1)ポリエステル・ポリエーテル型TPEE
一般には、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとしてポリエーテルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(2)ポリエステル・ポリエステル型TPEE
ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(3)液晶性TPEE
ハードセグメントとして剛直な液晶分子を、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するポリアミド成分は、ナイロン6,66,610,11,12等から選択され、ナイロン6、ナイロン12が主体を占めている。ソフトセグメントの構成物質には、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール等の長鎖ポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールの代表例には、ジオールポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールの代表例には、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4アジペート)グリコール等が挙げられる。
前記フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてフッ素樹脂を、ソフトセグメントとしてフッ素ゴムからなるABA型ブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するフッ素樹脂には、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が用いられ、ソフトセグメントを構成するフッ素ゴムには、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等が用いられる。より具体的には、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、ホスファゼン系フッ素ゴムや、フルオロポリエーテル、フルオロニトロソゴム、パーフルオロトリアジンを含むもの等が挙げられる。なお、フッ素樹脂系TPEは、他のTPEと同じようにミクロ相分離して、ハードセグメントが架橋点を形成している。
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、(1)ハードセグメントとして短鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンと、(2)ソフトセグメントとして長鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンとからなる直鎖状のマルチブロックコポリマーである。ここで、ポリウレタンとは、イソシアネート(−NCO)とアルコール(−OH)との重付加反応(ウレタン化反応)で得られるウレタン結合(−NHCOO−)を有する化合物の総称である。本発明のインナーライナーにおいては、弾性体層を形成するエラストマーがTPUであれば、該弾性体層を積層することで、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。また、かかるインナーライナーでは、弾性体層とバリア層との層間接着性を向上できるため、耐クラック性等の耐久性が高く、インナーライナーを変形させて使用しても、ガスバリア性及び延伸性を維持することができる。
前記積層体の製造方法としては、後述するサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率の3倍〜200倍のヤング率の積層体を製造可能な方法である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着等の公知の方法が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物と、熱可塑性エラストマーを含むエラストマー組成物とを準備し、これら組成物を用いた多層共押出法によりバリア層及びエラストマー層を有する積層体を製造する方法が、高い生産性、層間接着性に優れる観点から好ましい。
前記サイド補強ゴムの形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記積層体のヤング率の絶対値が、5MPa未満であると、補強効果が小さくランフラット耐久性が低下することがあり、30MPaを超えると、通常走行時の乗り心地性が悪化することがある。一方、前記積層体のヤング率の絶対値が、前記より好ましい範囲内であると、通常走行時の乗り心地とランフラット耐久性の両立の点で有利である。
前記インナーライナーとタイヤ内面(サイド補強ゴム)との接着方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(1)前記インナーライナーと前記タイヤ内面(サイド補強ゴム)との間に接着剤層を設けて、前記インナーライナーを前記タイヤ内面(サイド補強ゴム)に接着する方法、(2)前記インナーライナーを未加硫タイヤ内面(サイド補強ゴム)に配設し、インナーライナーと未加硫タイヤとを加硫することによって接着する方法、などが挙げられる。
なお、前記(2)の接着方法における加硫条件としては、通常使用される条件であれば特に限定されず、例えば、120℃以上、好ましくは125℃〜200℃、より好ましくは130℃〜180℃の温度で実施される。
また、前記(2)の接着方法において、前記インナーライナーにエネルギー線を照射してフィルムマトリクスを架橋することが好ましい。前記インナーライナーを電子線で架橋しておかないと、後の加硫工程においてインナーライナーが著しく変形して均一な層を保持することができなくなり、得られるインナーライナーが所定の機能を発揮しなくなるおそれがある。
<積層体1の作製>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製EVOH E−105]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層押出装置を用いて、下記押出成形条件で3層(TPU層/EVOH層/TPU層、厚さ:20μm/20μm/20μm)からなる積層体1を作製した。作製した積層体1の総厚みは、60μmであった。
各樹脂の押出機仕様:熱可塑性ポリウレタン(TPU):25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
<積層体2の作製>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製EVOH E−105]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種5層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で5層(TPU層/EVOH層/TPU層/EVOH層/TPU層、厚さ:20μm/20μm/20μm/20μm/20μm)からなる積層体2を作製した。作製した積層体2の総厚みは、100μmであった。
各樹脂の押出機仕様:熱可塑性ポリウレタン(TPU):25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種5層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
<積層体3の作製>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製EVOH E−105]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、EVOH層が10層及びTPU層が11層の積層体が形成されるように、21層フィードブロックにて、共押出機に210℃の溶融状態として供給し、共押出を行い合流させることによって、多層の積層体とした。合流するEVOHとTPUの溶融物は、フィードブロック内にて各層流路を表面側から中央側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させることにより、押出された積層体の各層の厚みが均一(0.8μm)になるように押出された。また、隣接するEVOH層とTPU層の層厚さはほぼ同じになるようにスリット形状を設計した。このようにして得られた計21層からなる積層体からなる積層体を、表面温度25℃に保たれ静電印加したキャスティングドラム上で急冷固化した。急冷固化して得られたキャストフィルムを離型紙上に圧着し巻取りを行った。なお、EVOH及びTPUの溶融物が合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約4分間となるように流路形状及び総吐出量を設定した。作製した積層体3の総厚みは、16.8μmであった。
<積層体4の作製>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製EVOH E−105]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層押出装置を用いて、下記押出成形条件で3層(EVOH層/TPU層/EVOH層、厚さ:29μm/2μm/29μm)からなる積層体1を作製した。作製した積層体1の総厚みは、60μmであった。
各樹脂の押出機仕様:熱可塑性ポリウレタン(TPU):25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
<積層体5の作製>
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)[(株)クラレ製EVOH E−105]と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層押出装置を用いて、下記押出成形条件で3層(EVOH層/TPU層/EVOH層、厚さ:1μm/98μm/1μm)からなる積層体1を作製した。作製した積層体1の総厚みは、100μmであった。
各樹脂の押出機仕様:熱可塑性ポリウレタン(TPU):25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
<ブチルゴムシートの作製>
下記の配合のゴム組成物を調製し、厚み1000μmのブチルゴムシートを作製した。
−ゴム組成物−
天然ゴム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30質量部
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244]・・70質量部
GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55]・・・・・・・・・60質量部
SUNPAR2280[日本サン石油(株)製]・・・・・・・・・・・・・・7質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1質量部
加硫促進剤[ノクセラーDM、大内新興化学工業(株)製]・・・・・・・1.3質量部
酸化亜鉛[白水化学工業(株)製]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3質量部
硫黄[軽井沢精錬所製]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.5質量部
上記フィルム(積層体1〜5及びブチルゴムシート)を用いて、幅15mmの短冊状の試験片を作製し、チャック間隔50mm、引張速度50mm/分の条件で、23℃、50%RHにおけるS−Sカーブ(応力−歪み曲線)を測定し、S−Sカーブの初期傾きから求めた。測定結果を表1に示す。
製造例1で作製した積層体1をインナーライナーとして用いて、図1に示す構造のランフラットタイヤ(225/55R17)を常法に従って作製した。
作製した参考例1のランフラットタイヤのサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率は、下記の測定方法によって測定した結果、8MPaであった。
さらに、作製したランフラットタイヤを用いて、転がり抵抗及びタイヤ重量を評価した。評価方法を下記に示す。
上記ランフラットタイヤのサイド補強ゴムを用いて、厚み2mm幅15mmの短冊状の試験片を作製し、チャック間隔50mm、引張速度50mm/分の条件で、23℃、50%RHにおけるS−Sカーブ(応力−歪み曲線)を測定し、S−Sカーブの初期傾きから求めた。測定結果を表1に示す。
作製した参考例1のランフラットタイヤ(225/55R17)をJATMA標準サイズのリムに取り付けてタイヤ車輪とし、このタイヤ車輪に空気圧:230kPaを封入してから38℃の室温中に24時間放置後、バルブのコアを抜き内圧を大気圧として、荷重5.19kN(530kg)、速度89km/h、室温38℃の条件でドラム走行テストを行った。この際の故障発生までの走行距離を測定し、後述する比較例3のランフラットタイヤの故障発生までの走行距離を100として指数表示した。指数値が大きい程、故障発生までの走行距離が長く、ランフラット耐久性に優れることを示す。評価結果を表1に示す。
作製した参考例1の空気入りタイヤに空気圧:250kPa(相対圧)を適用し、室温24℃±4℃の環境下で3ヶ月放置し、内圧低下量を測定した。後述する比較例3の空気入りタイヤの内圧低下量を100として指数表示して評価した。評価結果を表1に示す。
作製した参考例1のランフラットタイヤの重量を測定した。後述する比較例3のランフラットタイヤのタイヤ重量を100として指数表示して評価した。評価結果を表1に示す。
参考例1において、製造例1で作製した積層体1をインナーライナーとして用いる代わりに、製造例2で作製した積層体2をインナーライナーとして用いたこと以外は、参考例1と同様にして、参考例2のランフラットタイヤを作製し、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
作製した参考例2のランフラットタイヤのサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率は、下記の測定方法によって測定した結果、8MPaであった。
参考例1において、製造例1で作製した積層体1をインナーライナーとして用いる代わりに、製造例3で作製した積層体3をインナーライナーとして用いたこと以外は、参考例1と同様にして、実施例3のランフラットタイヤを作製し、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
作製した実施例3のランフラットタイヤのサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率は、下記の測定方法によって測定した結果、8MPaであった。
参考例1において、製造例1で作製した積層体1をインナーライナーとして用いる代わりに、製造例4で作製した積層体4をインナーライナーとして用いたこと以外は、参考例1と同様にして、比較例1のランフラットタイヤを作製し、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
作製した比較例1のランフラットタイヤのサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率は、下記の測定方法によって測定した結果、8MPaであった。
参考例1において、製造例1で作製した積層体1をインナーライナーとして用いる代わりに、製造例5で作製した積層体5をインナーライナーとして用いたこと以外は、参考例1と同様にして、比較例2のランフラットタイヤを作製し、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
作製した比較例2のランフラットタイヤのサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率は、下記の測定方法によって測定した結果、8MPaであった。
参考例1において、製造例1で作製した積層体1をインナーライナーとして用いる代わりに、製造例6で作製したブチルゴムシートをインナーライナーとして用いたこと以外は、参考例1と同様にして、比較例3のランフラットタイヤを作製し、同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
作製した比較例3のランフラットタイヤのサイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率は、下記の測定方法によって測定した結果、8MPaであった。
3 サイド部
4 トレッド部
5 カーカス
6 クラウン部
8 ベルト層
9 トレッドゴム
10 サイド補強ゴム
11 ビードコア
12 サイドゴム
21 インナーライナー(積層体)
22 弾性体層
23 バリア層
24 弾性体層
25 バリア層
26 弾性体層
27 ランフラットタイヤ
42 インナーライナー
100 ランフラットタイヤ
Claims (4)
- サイド部に三日月状のサイド補強ゴムを備えたランフラットタイヤであって、
ガスバリア性樹脂を含むバリア層とエラストマーを含む弾性体層とを含む積層体からなるインナーライナーを備え、
前記積層体のヤング率が、前記サイド部におけるサイド補強ゴムのヤング率の3倍〜200倍であり、
前記積層体は、前記バリア層を10層以上有し、
前記バリア層と前記弾性体層との合計層数は、21〜48層であり、
前記バリア層が、一層の平均厚さ0.001μm〜0.8μmの層であり、前記弾性体層が、一層の平均厚さ0.001μm〜0.8μmの層であり、
前記バリア層と前記弾性体層とが交互に積層されている、
ことを特徴とするランフラットタイヤ。 - 前記積層体の両最外層が、前記弾性体層であることを特徴とする請求項1に記載のランフラットタイヤ。
- 前記ガスバリア性樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ナイロン、及びアイオノマーからなる群から選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のランフラットタイヤ。
- 前記積層体の最大厚みは、38.4μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のランフラットタイヤ。
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