以下に添付図面を参照して、本願のリチウム二次電池用負極材料製造方法及びリチウム二次電池の実施例を詳細に説明する。以下では、まず、本願の開示するリチウム二次電池用負極材料製造方法により製造したリチウム二次電池用負極材料を作用極に用いたコイン型テストセル(test cell)について説明した後、次に、リチウム二次電池用負極材料を負極に用いたコイン型のリチウム二次電池を例に挙げて説明する。なお、本願のリチウム二次電池用負極材料製造方法及びリチウム二次電池は、以下の実施例により限定されるものではない。
実施例1に係るリチウム二次電池1の構成について説明する。図1は、実施例1に係るリチウム二次電池の構成の一例を示す電池断面図である。図1においては、本願のリチウム二次電池用負極材料製造方法により製造したリチウム二次電池用負極材料を作用極に含有させたテスト用のコイン型電池(コインセル:Coin Cell)の断面図を示している。また、図1に示すコイン型電池としては、例えば、2320サイズの円形電池である。なお、2320サイズとは、直径20mm、厚さ2、3mmを意味している。
図1に示すように、実施例1に係るリチウム二次電池1は、対極ケース2と、作用極ケース3と、セパレータ4と、ガスケット5と、非水電解液6と、金属リチウムシート7と、作用極ペレット8とを有する。
対極ケース2は、リチウム二次電池1の対極側の外部端子であり、後述する金属リチウムシート7が固定される。作用極ケース3は、リチウム二次電池1の作用極側の外部端子であり、後述する作用極ペレット8が固定される。セパレータ4は、対極と作用極とを離間させる。セパレータ4としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル(ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド)、セルロース(カルボキシメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の高分子からなる微多孔フィルムである。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等からなる微多孔フィルムを使用することが好ましい。なお、このような微多孔フィルムは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を重ね合わせた多層フィルムを用いてもよい。ガスケット5は、対極ケース2と作用極ケース3とに充填された非水電解液6の漏出を防止する。
非水電解液6は、対極ケース2と作用極ケース3とに充填される電気伝導性を有する溶液である。具体的には、非水電解液6は、非水溶媒と電解質とを含む溶液である。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル1,3−ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等である。特に、電圧を安定に保つことから、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。なお、このような非水溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
電解質としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLi等のリチウム塩である。特に、溶媒に溶け易く高い解離度を示すため、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Li及びLiBF4を用いることが好ましい。なお、このような電解質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
金属リチウムシート7は、金属リチウムがシート状に圧延されたものであり、非水電解液6に含まれるリチウムイオンに対して酸化還元反応を行う。
作用極ペレット8は、本発明に係るリチウム二次電池用負極材料製造方法により製造された負極材料を含有した作用極ペレットである。具体的には、作用極ペレット8は、非水電解液中のリチウムイオンの挿入及び脱離に係る経路であるトンネルを備える三次元骨格構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物とカーボンとを混合させることで、結晶内のリチウムイオンを脱離させたラムスデライト型チタン酸リチウム(以下、ラムスデライト型酸化チタンと記す場合もある)を用いて製造された作用極である。
ここで、作用極ペレット8に含まれるラムスデライト型酸化チタンの合成について説明する。作用極ペレット8に含まれるラムスデライト型酸化チタンの合成においては、まず、チタン酸化物とリチウム化合物を種々の方法で反応させることにより、非トンネル構造のチタン酸リチウム酸化物を合成する。具体的には、非トンネル構造のチタン酸リチウムは、固相反応法、ゾルゲル法、沈殿法などの手法を用いて、チタン酸化物とリチウム化合物の混合前駆体を調製し、600−800℃で熱処理を行うことにより合成される。
そして、上記した方法により合成された非トンネル構造のチタン酸リチウムを用いて3次元トンネル結晶構造を有するラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物を合成する。具体的には、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物は、非トンネル構造のチタン酸リチウム酸化物を、900−1250℃の高温の熱処理を行うことで合成される。
次に、上記した方法により合成されたラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物にカーボンを混合することにより、ラムスデライト型チタン酸リチウムからリチウムを脱離させたラムスデライト型酸化チタンを合成する。具体的には、まず、ボールミール(ball mill)、或いは、らいかい法により、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物の粒子を微細化させる。そして、微細化させたラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物を適当なサイズのふるいを掛けることにより、粒子サイズを均一化させる。例えば、100μm 以下のサイズのふるいに掛けることにより、チタン酸リチウム酸化物活物質の粒子サイズを100μm 以下に均一化させる。
そして、粒子サイズを均一化させたチタン酸リチウム酸化物活物質に、酸化物よりも大きい粒子サイズのカーボン粒子を、攪拌または混合機を用いて、少なくとも10分間混合する。その後、カーボン粒子を取り除くためにふるいに掛けられ、得られた粒子がラムスデライト型酸化チタンである。
作用極ペレット8は、上記した方法により製造されたラムスデライト型酸化チタンと、導電性物質と、結着剤とを用いて作製された物質である。導電性物質としては、ラムスデライト型酸化チタンに対して不活性な物質で、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類である。ここで、カーボンの粒子径は、ラムスデライト型チタン酸化物粒子と電池ケースとの間の導電性を十分確保するために適した粒子径であれば特に限定されない。なお、一般的に、ラムスデライト型チタン酸化物粒子表面全体でカーボン粒子と接触することが導電性パスの確保の観点からは好ましいことから、カーボン粒子のサイズは、ラムスデライト型酸化チタンの粒子サイズよりも小さい値を有しているものが望ましい。
また、結着剤としては、例えば、PTFE(Polytetrafluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride:ポリフッ化ビニリデン)などである。
実施例1に係るリチウム二次電池1は、上述した各部を用いて以下のように形成される。具体的には、まず、上記した方法により製造されたラムスデライト型酸化チタンと、導電性物質であるアセチレンブラックと、バインダーであるPTFEとを、らいかい機で粉砕・混合した後、ロールプレスにより0.5mmの厚さになるまでシート状に圧延する。そして、得られたシートを直径15mmの円型状に打ち抜き、一晩の真空乾燥を行うことにより、作用極ペレット8を作製した。なお、作用極の組成は、重量比で、酸化物:アセチレンブラック:PTFE=70:25:5である。
次に、テストセルの作用極ケース3の内側に直径15mmのチタンメッシュを溶接し、そのメッシュ上に作用極ペレット8を軽く圧着し、さらに作用極ペレット8上を直径17mmのチタンメッシュで覆い、チタンメッシュを作用極ケース3に溶接した後に、さらに圧着することにより、ラムスデライト型酸化チタンを含有するペレットを作用極ケース3に固定した。
一方、対極ケース2には、内側にニッケルメッシュを溶接し、その上に直径17mmの金属リチウムシート7を圧着し、対極ケース2の外縁部にガスケット5をセットした。次に、作用極ペレット8を固定した作用極ケース3に、非水電解液6である1mol/LのLiPF6/EC+DMCを2mL程度注ぎ、ポリエチレン製セパレータ4を浸漬した後に、ガスケット5をセットした対極ケース2を作用極ケース3の上から覆い、全体をかしめることによりテストセルを作製した。なお、ECとDMCはそれぞれエチレンカーボネート及びジメチルカーボネートを示す。
以上、実施例1に係るリチウム二次電池1の構成について説明した。以下、作用極ペレット8に含有されるラムスデライト型酸化チタンの合成に係る各種条件を検討した例(例1〜例5)について順に説明し、本発明に係るリチウム二次電池用負極材料製造方法によって製造されたリチウム二次電池用負極材料が、電池の劣化を抑制することを明らかにする。具体的には、ラムスデライト型チタン酸リチウムとカーボンとを混合する際の、「カーボンの種類(例1)」、「雰囲気(例2)」、「粒子サイズ(例3)」、「処理時間(例4)」及び「カーボンの量(例5)」について検討した結果について順に説明する。
まず、(例1)について説明する。(例1)では、カーボンと混合させるラムスデライト型チタン酸リチウムを二段階固相反応により合成した。具体的には、以下に示す式(1)及び式(2)により3次元トンネル構造を有するラムスデライト型チタン酸リチウム「Li2Ti2O4」を合成した。
ラムスデライト型チタン酸リチウム「Li2Ti2O4」の合成においては、まず、式(1)に示すように、炭酸リチウム「Li2CO3」と、酸化チタン「TiO2」とを混合し、700℃で5時間、熱処理を行った。この反応により、式(1)に示すように、トンネル構造を有さない非トンネル構造のチタン酸リチウム「Li2TiO3」が生成される。
そして、式(2)に示すように、生成された非トンネル構造のチタン酸リチウム「Li2TiO3」と、酸化チタン「TiO2」と、金属チタン「Ti」とを混合し、1200℃で10時間、熱処理を行った。この反応により、式(2)
に示すように、トンネル構造を有するラムスデライト型チタン酸リチウム「Li2Ti2O4」が生成される。なお、式(1)及び式(2)で示される反応は、酸素を含まない不活性な窒素ガス中で行った。
(例1)においては、上記した方法により合成したラムスデライト型チタン酸リチウム「Li2Ti2O4」の粉末サイズを均一化させるために、ボールミール又はらいかいによりラムスデライト型チタン酸リチウムが微細化し、ふるいを掛けて、直径1μm以下のラムスデライト型チタン酸リチウムを得た。
ここで、(例1)においては、得られたラムスデライト型チタン酸リチウムの粉末を数種のカーボンとそれぞれ混合させて、還元処理を行った。具体的には、(例1)においては、得られたラムスデライト型チタン酸リチウムと、チタン酸リチウム粉末のサイズと異なった粒子サイズを有するカーボンとの混合及び撹拌を行った。(例1)にて用いられたカーボンとしては、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、グラファイト、活性炭を、それぞれ1時間の混合を行い、還元処理を行った。その後、適切なサイズのふるいに掛けて、混合したカーボン類とラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物の分離を行った。
ここで、上記した方法により合成されたラムスデライト型チタン酸リチウムについて、図2を用いて説明する。図2は、実施例1に係る還元処理前後のラムスデライト型チタン酸リチウムのXRDパターンを示す図である。図2においては、縦軸がピーク強度「Intensity(a.u.)」を示し、横軸が回折角「2θ(deg)」を示す。また、図2においては、図2の(a)にカーボン還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウムのXRDパターンを示し、図2の(b)及び(c)にカーボン還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウムのXRDパターンを示す。また、図2の横軸上に配置されたピーク「PDF#53−0261」は、「Li1Ti2O4」の標準パターンを示す。また、図2の横軸上に配置されたピーク「PDF#82−1123」は、リチウムイオンを含まないラムスデライト型酸化チタンである「TiO2」の標準パターンを示す。なお、(a.u.)は任意単位を意味している。また、2θ(回折角)とは、結晶にX線を照射した際に生じた回折の角度を意味している。
図2の(a)に示すように、還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウムのパターンは、「PDF#53−0261」のパターンと一致している。すなわち、還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウムは、「Li1Ti2O4」という化学式で表されるラムスデライト型チタン酸リチウムであることが確認された。
また、図2の(b)に示すように、カーボン還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウムのXRDパターンは、図2の(a)とは一致せず、「PDF#82−1123」のパターンと一致している。すなわち、カーボン還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウムは、還元処理によりリチウムイオンが抽出され、リチウムイオンが脱離したラムスデライト型チタン酸リチウム(ラムスデライト型酸化チタン)であることが確認された。なお、カーボンの種類や処理時間などを変化させた場合にも、同様のパターンが得られることが確認された。
次に、上記の方法により作製されたラムスデライト型酸化チタン(リチウムイオンが脱離されたラムスデライト型チタン酸リチウム)を作用極に用いたリチウム二次電池1(テストセル)の充放電試験の結果について説明する。なお、充放電試験は、「電流密度:1mA/cm2」、「電圧範囲:0.5−3.5V」で行われた。
まず、ラムスデライト型チタン酸リチウムとカーボンとを混合することでリチウムイオンを脱離させた場合の充放電試験の結果について、図3及び図4を用いて説明する。図
3は、実施例1に係る還元処理前後のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたテストセルの放電曲線を示す図である。図3においては、還元前のラムスデライト型チタン酸リチウム(ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物)試料と、カーボン還元処理(0.25wt%の5μmサイズの活性炭を利用し、乾燥空気雰囲気中で60分)を行ったラムスデライト型チタン酸リチウム(ラムスデライト型酸化チタン)試料とを用いたテストセルの1回目及び3回目の放電曲線を示す。また、図3においては、縦軸は電圧(V)を示し、横軸は充放電容量(mAh/g)を示す。
図3に示すように、還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウム試料を用いたテストセルでは、1回目の放電曲線と3回目の放電曲線とがほぼ同一の曲線を示す。一方、還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウム試料を用いたテストセルでは、3回目の放電曲線が1回目の放電曲線よりも下がった曲線を示す。従って、還元処理を行うことにより不可逆容量が減少していることが示され、還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウム試料が、サイクル特性を向上させる、すなわち、電池の劣化を抑制させるための負極材料として利用可能であることは明らかである。
還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウム試料を用いたテストセルの不可逆容量の原因としては、ペレット作製において、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物粉末と導電剤であるアセチレンブラックが混合された時に、酸化物表面の一部で酸化物内のリチウムとカーボンとが反応したためと考えられる。
これは、図1(c)のXRDパターンでも示されているように、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物のメインピークは、リチウムが含まれてない酸化チタンでは大きくシフトしている。この様に、ペレット作製時にラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物からリチウムが抽出され、一部のリチウムがアセチレンブラックへ吸着し、リチウム化合物が生成されると不可逆容量の原因になると考えられる。
また、還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウム試料を用いたテストセルにおいては、図3の矢印に示すように、低電圧領域(〜0.7V)で電気化学反応のピークが確認された。このようなピークは1サイクル目しか見られず、次サイクル(2サイクル以上)では消失したため、このピークはリチウムとアセチレンブラックカーボンの混合した不純物化合物の反応と考えられる。
一方、還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウム試料を用いたテストセルにおいては、図3の矢印に示すようなピークは確認されなかった。すなわち、還元処理を行うことにより不純物と考えられるリチウムとアセチレンブラックカーボンとの化合物の生成も抑制され、不可逆容量を減少させることが明らかになった。
図4は、実施例1に係る還元処理前後のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたテストセルのサイクル特性を示す図である。図4においては、上記した還元処理前後のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたテストセルについて、それぞれ50サイクルの充放電を行った結果を示す。
図4に示すように、還元処理前後のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたテストセルそれぞれにおいて、安定したサイクル特性を示す。すなわち、ラムスデライト型チタン酸リチウムは、この様な安定したサイクル特性を一般的な特性として有していることが明らかになった。さらに、還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたテストセルでは、図4に示すように、還元処理前のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたテストセルと比較して、5サイクル目までの不可逆容量が小さく、より安定したサイクル特性を有していることが明らかになった。
次に、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物と混合させたカーボンの種類ごとの充放電試験の結果について説明する。図5は、実施例1に係るラムスデライト型チタン酸リチウムに混合するカーボンの種類に関する試験結果を示す図である。図5においては、カーボンの種類を変えた例ごとに、カーボン還元処理条件、分析によるLi/Ti比、処理後のカーボン量(wt%)、XRDによる(110)の2θ、不可逆容量(mAh/g)、1st放電容量(mAh/g)を対応付けて示す。なお、図5に示す「例1・5」とは、(例1)及び(例5)において比較対象となっていることを示す。また、図5に示す「例1・2・3・4・5」とは、(例1)、(例2)、(例3)、(例4)及び(例5)において比較対象となっていることを示す。なお、図5に示す全ての例において、図3と同様の放電曲線が得られている。
ここで、図5に示す「カーボン還元処理条件」の「カーボン種類」とは、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物と混合させたカーボンの種類を意味する。また、「雰囲気」とは、混合処理時の雰囲気を意味する。また、「カーボンサイズ(μm)」とは、混合させたカーボンのサイズを意味する。また、「サイズ(倍)」とは、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物粒子と、カーボン粒子とのうち、いずれか小さい方のサイズを基準とした他方のサイズの比を意味する。例えば、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物のサイズを1μmとすると、カーボンサイズが0.1μmの場合および10μmの場合のいずれも本欄の値は10となる。このような値を採用した理由は、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物とカーボンとを混合または分離する際の効率の指標とすることができるためである。また、図5に示す「カーボン混合量(wt%)」とは、混合後の物質100gに含まれるカーボンのg数を意味する。また、「処理時間(分)」とは、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物とカーボンとを混合して熱処理する際の時間を意味する。
(例1)では、「カーボン還元処理条件」の「カーボン種類」を変えて試験が行われた。(例1)に用いられた「カーボン種類」は、図5に示すように、「AB(アセチレンブラック)」、「KB(ケッチェンブラック)」、「グラファイト」、「カーボン」及び「活性炭」である。なお、図5の「カーボン種類」に示す「−」は、カーボンとの混合処理が行われていないことを意味する。
図5に示すように、カーボンとの混合処理が行われていない場合には(例1・5)、不可逆容量(mAh/g)が「101」であるのに対して、カーボンとの混合処理を行った場合には、不可逆容量が「6」〜「78」であった。すなわち、使用するカーボンの種類により不可逆容量の減少量は異なるが、カーボンとの混合処理を行うことで不可逆容量が減少することが明らかになった。特に、活性炭を用いた場合には(例1・2・3・4・5)、不可逆容量が「6」であり、最も効果的であることが明らかになった。
このような結果について、さらに調査するために、ICP・AES(Inductively Coupled Plasma・Atomic Emission Spectrometry)法及び不活性ガス融解‐赤外線吸収法により組織分析を行った。その結果、図5の「処理後のカーボン量(wt%)」に示すように、AK(アセチレンブラック)、KB(ケッチェンブラック)及びグラファイトを用いた場合に、それぞれ「0.08」、「0.1」及び「0.08」のカーボンが残っていることが明らかになった。これは、カーボン還元処理条件のカーボン混合量(wt%)に示す「0.25」の約30%に相当する。これらの結果は、AK(アセチレンブラック)、KB(ケッチェンブラック)及びグラファイトのサイズがラムスデライト型チタン酸リチウム活物質粉末より数倍小さいため、ある程度のカーボン量が活物質粉末に吸着し、ふるいの段階で分別しきれないことを示す。
一方、大きいサイズのカーボンを用いる場合には、「処理後のカーボン量(wt%)」が「0」であった。すなわち、大きいサイズのカーボンを用いると、物理的に簡単に分別でき、活物質粉末にカーボン量が残らないことが明らかになった。しかし、この様な大きいなサイズ差を用いたため、カーボン混合量(wt%)が同様な量であっても、カーボンと活物質粉末の混合が均一にならずに、リチウムイオンがラムスデライト型チタン酸リチウム結晶内から脱離しにくいことが明らかになった。
以上、(例1)の結果から、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物に混合させるカーボンとしては、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物からより多量のリチウムイオンを脱離させ、処理後に残存量が最小となる活性炭が最も適していることが明らかになった。
次に、(例2)について説明する。(例2)では、例1と同様にラムスデライト型チタン酸リチウムを合成し、還元処理としては、例1の異なるカーボン種類の中で、最も効果的であった活性炭を利用し、処理雰囲気の影響を調べた。具体的には、(例2)では、Arガス、窒素ガス、酸素、乾燥空気(露点−50℃以下)、高湿空気(RH50%及びRH80%)のそれぞれの雰囲気下で、例1の活性炭と雰囲気以外は同じ条件で還元処理を実施した。
XRD測定により、(例1)の活性炭と同様の結果が得られることが確認された。また、ラムスデライト型チタン酸リチウムでは、結晶内のリチウムイオン量が異なる場合、メインピークがシフトされることを確認できるはずであるが、基本的な構造は同一であるため、ピークシフトの確認は困難である。そのため、ICP・AES法により組成分析を行った。
次に、(例1)と同様に、処理した粉末を用いて、それぞれペレットを作製し、テストセルにより充放電試験を行った。処理により脱離したリチウムイオン量とコインテストの評価結果を、図6に示す。図6は、実施例1に係るラムスデライト型チタン酸リチウムにカーボンを混合する際の処理雰囲気に関する試験結果を示す図である。図6においては、処理雰囲気を変えた例ごとに、カーボン還元処理条件、分析によるLi/Ti比、処理後のカーボン量(wt%)、XRDによる(110)の2θ、不可逆容量(mAh/g)、1st放電容量(mAh/g)を対応付けて示す。
図6に示すように、高湿空気「RH(relative humidity):50%」及び「RH:80%」雰囲気で処理した場合では、ICP・AES法の結果、「分析によるLi/Ti比」がそれぞれ「0.97」及び「0.98」であった。すなわち、「RH:50%」及び「RH:80%」雰囲気で処理した場合では、リチウム量の減少は確認されなかった。さらに、これらの試料の電気化学特性においては、図6に示すように、不可逆容量が「98」及び「99」と著しく大きい。これは、水分の存在によりラムスデライト型チタン酸リチウムそのものが劣化するためであると考えられる。
この現象を調べるために、乾燥雰囲気中において、同様の処理条件で、粉末状態のラムスデライト型チタン酸リチウムを試験した。その結果、乾燥雰囲気中で混合下場合には、「分析によるLi/Ti比」が「0.05」、不可逆容量が「6」と、性能の低下は確認されなかった。すなわち、本実施例における粉末ラムスデライト型チタン酸リチウムは水分と反応すると考えられる。従って、処理雰囲気としては、水分が含まれてない雰囲気が望ましいことが明らかになった。
また、不活性ガスであるArガス、窒素ガス雰囲気で処理した場合では、乾燥雰囲気と同様に、それぞれ「分析によるLi/Ti比:0.05」、「分析によるLi/Ti比:0.06」であり、リチウムイオンの脱離が効率よく行われた。また、Arガス、窒素ガス雰囲気で処理した場合では、乾燥雰囲気と同様に、それぞれ「不可逆容量:6」、「不可逆容量:7」であり、サイクル特性を向上させることが明らかになった。
一方、酸素雰囲気で処理した場合では、「分析によるLi/Ti比」が「0.09」、「不可逆容量」が「19」と、若干の性能の低下が確認された。これは、酸素雰囲気内の酸素に、ラムスデライト型チタン酸リチウム粉末またはカーボンが一部反応し易いためであると考えられた。
次に、(例3)について説明する。(例3)では、活性炭を利用し、乾燥雰囲気(露点:−50℃以下)中で還元処理を行う場合の、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物及び活性炭のサイズの影響を検討した。活性炭のサイズはラムスデライト型チタン酸リチウム粉末(粒子サイズ:1μmに対して)より、小さい場合又は大きい場合について検討した。サイズ倍率は、小倍率及び大倍率で示す。ここで、小倍率は(酸化物のサイズ/カーボンのサイズ)を意味し、大倍率は(カーボンのサイズ/酸化物のサイズ)を意味する。小倍率と大倍率はそれぞれ、2、3、5、10倍で、実施した。
次に、(例1)と同様に、処理した粉末を用いて、それぞれペレットを作製し、テストセルにより充放電試験を行った。処理により脱離したリチウムイオン量とコインテストの評価結果を、図7に示す。図7は、実施例1に係るラムスデライト型チタン酸リチウム及びカーボンのサイズに関する試験結果を示す図である。図7においては、カーボンの粒子サイズを変えた例ごとに、カーボン還元処理条件、分析によるLi/Ti比、処理後のカーボン量(wt%)、XRDによる(110)の2θ、不可逆容量(mAh/g)、1st放電容量(mAh/g)を対応付けて示す。
図7に示すように、活性炭のサイズ(μm)が「0.1」、「0.2」、「0.3」及び「0.5」である小倍率の場合では、ICP・AES法の結果、「分析によるLi/Ti比」が「0.41」〜「0.47」であった。すなわち、小倍率の場合では、リチウムイオンが半分程度しか脱離されていなかった。また、小倍率の場合では、不可逆容量が「31」〜「38」であった。また、不活性ガス融解-赤外線吸収法により、粉末中のカーボン量を調べた結果、ふるい掛けによる分離を行った粉末中にカーボン量がモル比として20%確認された。これは、表面積の大きいカーボンがラムスデライト型チタン酸リチウム粉末に吸着し、例2のように、リチウムとカーボンの反応により、リチウム化合物が生成されるため、不可逆容量の原因になると考えられた。
一方、活性炭サイズ(μm)が「2」、「3」、「5」、「10」及び「15」である大倍率の場合では、「分析によるLi/Ti比」が「0.05」〜「0.06」であり、ラムスデライト型チタン酸リチウム粉末に吸着した活性炭は分離できたと考えられる。また、「2」、「3」、「5」、「10」及び「15」である大倍率の場合では、不可逆容量が、それぞれ「19」、「9」、「6」、「5」及び「6」であった。すなわち、サイズ倍率が大きい、特に、サイズ倍率が3倍より大きい場合が、より効果的であることが分った。これは、サイズ倍率が小さいときは、カーボンの分離が難しいためと考えられる。
次に、(例4)について説明する。(例4)では、処理時間の影響を検討した。ラムスデライト型チタン酸リチウム粉末は、(例1)と同様な方法により合成した。還元処理としては、活性炭(サイズは5倍大きい)を用いて、乾燥空気雰囲気中で実施した。ここで、(例4)では、処理時間として5分〜300分の範囲で行った。図8は、実施例1に係るラムスデライト型チタン酸リチウムとカーボンとの処理時間に関する試験結果を示す図である。図8においては、処理時間を変えた例ごとに、カーボン還元処理条件、分析によるLi/Ti比、処理後のカーボン量(wt%)、XRDによる(110)の2θ、不可逆容量(mAh/g)、1st放電容量(mAh/g)を対応付けて示す。
図8に示すように、処理が「5分」及び「15分」の場合には、「分析によるLi/Ti比」がそれぞれ「0.47」及び「0.43」であり、結晶内のリチウムイオン残存量が多いことが明らかになった。これは、リチウムイオンが均一に抽出できないためであると考えられる。このように、ラムスデライト型チタン酸リチウム結晶内にリチウムイオンがまだ多量に残存している場合には、例1や例3にも説明したように、ペレット作製時にアセチレンブラックなどのカーボンの混合時に、不純物である炭酸リチウムが生成するため、不可逆容量が大きくなる事象が見られる。しかし、(例1)と比較すると、結晶内のリチウムイオン残存量がほぼ同一であるにも関わらず、不可逆容量が若干小さいことが確認された。これは、還元処理により、最初に粉末表面付近のリチウムイオンが抽出され、徐々に結晶内部のリチウムイオンが徐々に抽出されるためであると考えられる。
また、処理時間が「90分」より長時間の場合は、顕著な変化は確認されず、ある程度の処理時間でリチウムイオンの脱離反応が終了した場合、処理を続行しても、副反応は起こらず、電極性能にも影響を与えないことが明らかになった。
次に、(例5)について説明する。(例5)では、ラムスデライト型チタン酸リチウム粉末とカーボンの接触性を向上させることによって、効率的にリチウムイオンの脱離を行うことを目的として、最適な活性炭量の検討を行った。具体的には、(例5)では、カーボンと活物質であるラムスデライト型チタン酸リチウム粉末の混合割合の影響を調べた。ここで、ラムスデライト型チタン酸リチウム粉末は、(例1)と同様な方法により合成し、還元処理として、活性炭(サイズは5倍の大きさ)を用いて、乾燥雰囲気、処理時間は60分により実施した。さらに、処理した粉末を(例1)と同様な方法により、ペレットとテストセルの作製を行い、評価を行った。カーボンの混合比率は重量比で、0%、0.01%から0.95%までを行った。
図9は、実施例1に係るラムスデライト型チタン酸リチウムと混合させる活性炭の量に関する試験結果を示す図である。図9においては、混合させる活性炭の量を変えた例ごとに、カーボン還元処理条件、分析によるLi/Ti比、処理後のカーボン量(wt%)、XRDによる(110)の2θ、不可逆容量(mAh/g)、1st放電容量(mAh/g)を対応付けて示す。
図9に示すように、カーボン混合量(wt%)が「0.01」、「0.025」、「0.05」の場合には、「分析によるLi/Ti比」がそれぞれ「0.8」、「0.2」、「0.2」であった。すなわち、活性炭の混合量が少ない場合には、リチウムイオンの脱離が部分的にしか起こらないため、均一な反応が起こりにくく、リチウムイオンの結晶内の残存量が多かった。そのため、不可逆容量もそれぞれ「43」、「21」、「21」を示し、大きくなることが明らかになった。
逆に、カーボン混合量(wt%)が「0.95」の場合には、「分析によるLi/Ti比」が「0.1」であった。すなわち、活性炭の混合量が多い場合には、結晶内のリチウムイオン残存量が若干増加する傾向にあった。これは、活性炭が十分に分離できなかったためと考えられる。従って、活性炭とラムスデライト型チタン酸リチウムの混合比率には最適値が存在し、それは0.1−0.75(wt%)の範囲であると考えられる。
[実施例1の効果]
上述したように、実施例1によれば、リチウム二次電池1の負極に用いられるリチウム二次電池用負極材料を製造するリチウム二次電池用負極材料製造方法において、非水電解液6中のリチウムイオンの挿入及び脱離に係る経路であるトンネルを備える三次元骨格構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物とカーボンとを混合させることで、当該リチウム含有遷移金属酸化物の結晶内のリチウムイオンを脱離させる。そして、リチウムイオンが脱離されたリチウム含有遷移金属酸化物と、導電性物質と、結着剤とを用いてリチウム二次電池用負極材料を合成する。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、液体を用いることなくリチウムイオンを脱離させることができ、電池の劣化を抑止することを可能にする。
また、実施例1によれば、カーボンとして、粒状活性炭を用いる。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、ラムスデライト型チタン酸リチウム酸化物からより多量のリチウムイオンを脱離させ、処理後に残存量を最小とすることができ、より効果的に電池の劣化を抑止することを可能にする。
また、実施例1によれば、ラムスデライト型チタン酸リチウムとカーボンとの混合を、20℃から30℃の間の温度で、不活性ガス中又は露点が−50℃以下の乾燥空気雰囲気中で行う。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、水分が含まれてない雰囲気中で還元処理を行わせることができ、より効率的にリチウムイオンを脱離させることを可能にする。
また、実施例1によれば、還元処理を1時間以上行う。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、ラムスデライト型チタン酸リチウムの結晶中のリチウムイオンを均一に抽出させることができ、より効果的にリチウムイオンを脱離させることを可能にする。
また、実施例1によれば、ラムスデライト型チタン酸リチウムの粒子サイズと比較して、粒子直径が3倍以上大きい活性炭が用いられる。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、ふるい掛けによる粉末中のカーボンの分離を容易に行うことを可能にする。
また、実施例1によれば、リチウム含有遷移金属酸化物と粒状活性炭とを混合する際の重量比は、リチウム含有遷移金属酸化物/前記粒状活性炭が0.1から0.75の範囲である。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、均一な還元反応を行わせることができ、より効果的なリチウムイオンの脱離を行わせることを可能にする。
また、実施例1によれば、リチウム含有遷移金属酸化物とカーボンとを混合した後、20℃から30℃の間の温度で、30分以上の分離処理を行う。従って、実施例1に係るリチウム二次電池1では、不要なカーボン粒子を取り除くことができ、より効果的なラムスデライト型酸化チタンを合成することを可能にする。
上述した実施例1では、リチウム二次電池用負極材料を作用極とし、対極に金属リチウムを用いたコイン型リチウム二次電池(テスト用コインセル)について説明した。実施例2では、従来のリチウム二次電池で一般的に用いられるコバルト酸リチウム「LiCoO2」を正極に用いたコイン型リチウム二次電池について説明する。
具体的には、実施例2では、実施例1で作製したラムスデライド型チタン酸リチウムについて、還元処理(使用カーボン種:活性炭、混合比率:0.25wt%、サイズ:5倍の大きさ、処理時間:60分、雰囲気:乾燥空気)を行った粉末(TiO2)を負極に、市販のコバルト酸リチウム(LCO)を正極に用いて、2320サイズのコインセル型リチウム二次電池を作製した。同様に、実施例2においては、比較例として、負極に公知の材料である市販試薬のスピネル型チタン酸リチウムと正極にコバルト酸リチウムに用いて2320サイズのコインセル型リチウム二次電池を作製した。
図10は、実施例2に係るリチウム二次電池10の構成の一例を示す図である。図10においては、本願のリチウム二次電池用負極材料製造方法により製造したリチウム二次電池用負極材料を負極に含有させたコイン型リチウム二次電池の断面図を示している。図10に示すように、実施例2に係るリチウム二次電池10は、負極ケース12と、正極ケース13と、セパレータ14と、ガスケット15と、非水電解液16と、正極材料ペレット17と、負極材料ペレット18とを有する。
負極ケース12は、リチウム二次電池10の外部負極端子であり、後述する負極材料ペレット18が固定される。正極ケース13は、リチウム二次電池10の外部正極端子であり、後述する正極材料ペレット17が固定される。セパレータ14は、正極と負極とを離間させる。なお、セパレータ14としては、実施例1にて説明した各材料を用いることが可能である。ガスケット15は、負極ケース12と正極ケース13とに充填された非水電解液16の漏出を防止する。
非水電解液16は、正極ケース13と負極ケース12とに充填される電気伝導性を有する溶液である。具体的には、非水電解液16は、非水溶媒と電解質とを含む溶液である。なお、非水溶媒及び電解質は、実施例1にて説明した各材料を用いることが可能である。
正極材料ペレット17は、非水電解液16に含まれるリチウムイオンに対して酸化還元反応を行う。具体的には、正極材料ペレット17は、酸化還元反応を生じさせる正極活物質と、導電性物質と、結着剤とを用いて作成された物質である。実施例2においては、正極材料ペレット17にコバルト酸リチウムを用いる場合について説明するが、実施例はこれに限定されるものではない。例えば、非水電解液中のリチウムイオンの挿入及び脱離に係る経路を有する正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiFeVO4、LixTiS2、LixV2O5、V2MoO8、MoO2等がある。なお、これらの正極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
導電性物質としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類である。結着剤としては、例えば、PTFE(Polytetrafluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride:ポリフッ化ビニリデン)などである。
負極材料ペレット18は、非水電解液16に含まれるリチウムイオンに対する酸化還元反応を生じさせる。実施例2においては、実施例1で作製したラムスデライド型チタン酸リチウムについて、還元処理(使用カーボン種:活性炭、混合比率:0.25wt%、サイズ:5倍の大きさ、処理時間:60分、雰囲気:乾燥空気)を行った粉末(TiO2)を負極材料に用いる場合について説明するが、実施例はこれに限定されるものではない。すなわち、実施例1において説明した効果的な還元処理を施したものであれば、どのようなものが用いられてもよい。
そして、実施例2に係るリチウム二次電池10は、上述した各部を用いて以下のように形成される。具体的には、まず、実施例1に示した方法により還元処理(使用カーボン種:活性炭、混合比率:0.25wt%、サイズ:5倍の大きさ、処理時間:60分、雰囲気:乾燥空気)を行ったラムスデライド型チタン酸リチウム粉末(TiO2)を含む負極材料ペレット18を作製した。電池の負極ケース12の内側にニッケルメッシュを溶接し、その上に上記の負極材料ペレット18をのせ、さらに負極材料ペレット18を直径17mmのニッケルメッシュで覆い、ニッケルメッシュを負極ケース12に溶接した後に圧着することにより、負極材料ペレット18を負極ケース12に固定した。次いで、負極ケース12の外縁部にガスケット15をセットした。
一方、コバルト酸リチウムとアセチレンブラックとPTFEを重量比で、正極材料:カーボン:バインダー=70:25:5となるように、らいかい機で混合した後、ロールプレスにより0.5mmの厚みになるまでシート状に圧延した。得られたシートを直径15mmの円盤状に打ち抜き、真空乾燥を行い、コバルト酸リチウムを含む正極材料ペレット17を作製した。次に、コインセルの正極ケース13の内側に直径15mmのチタンメッシュを溶接し、その上に上記の正極材料ペレット17をのせ、さらに正極材料ペレット17の上を直径17mmのチタンメッシュで覆い、チタンメッシュを正極ケース13に溶接した後に圧着することにより、正極材料ペレット17を正極ケース13に固定した。正極材料ペレット17を固定した正極ケース13に非水電解液16として1mol/L LiPF6/EC+DMCを2mL程度注ぎ、セパレータ14をのせた上で、ガスケット15をセットした負極ケース12を上からかぶせ、全体をかしめることによりコインセル型リチウム二次電池10を作製した。
以上、実施例2に係るリチウム二次電池10の構成について説明した。以下、作製したコインセル型リチウム二次電池について、実施例1と同一の条件で100サイクルの充放電試験を行った結果について説明する。図11は、実施例2に係るリチウム二次電池10のサイクル特性を示す図である。図11においては、負極材料ペレット18に還元処理後のラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10と、負極材料ペレット18に市販品のスピネル型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池(比較例)とを100サイクルの放電試験を行った結果を示す。
図11に示すように、ラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10は、市販品のスピネル型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池と比較して、高い放電容量を維持し続けることが示された。すなわち、ラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10は、市販品のスピネル型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池と比較して、より安定したサイクル特性を有することが明らかになった。
図12は、実施例2に係るリチウム二次電池10の放電試験の詳細な結果を示す図である。図12においては、ラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10と、市販品のスピネル型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池とを100サイクルの放電試験を実施した際の1回目と100回目の結果と、放電容量維持率(%)を示す。なお、図12に示す放電容量維持率は、1回目の放電容量に対する100回目の放電容量の割合を示す。
図12に示すように、ラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10は、100サイクル後においても「94%」という高い放電容量維持率を示した。すなわち、ラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10は、スピネル型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池と比較して、最も少ない不可逆容量が達成されることが明らかになった。さらに、ラムスデライト型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池10は、100サイクル後においても、スピネル型チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池よりも約35mAh/gほど大きい放電容量を示すことが明らかになった。
このように、還元処理を行ったラムスデライド型チタン酸リチウムを材料に用いた負極は、従来のスピネル型チタン酸リチウム系負極材料よりも、放電容量が向上し、本来の理論容量と近い値が得られ、さらにサイクル特性に優れた大容量リチウム二次電池が実現可能な負極材料であることが確認された。
[実施例2の効果]
上述したように、実施例2によれば、リチウム二次電池10は、非水電解液中のリチウムイオンの挿入及び脱離に係る経路であるトンネルを備える三次元骨格構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物とカーボンとを混合させることで、結晶内のリチウムイオンを脱離させたラムスデライト型チタン酸リチウムを負極材料として用いられる。従って、実施例2に係るリチウム二次電池10は、電池の劣化を抑制させることを可能にする。