JP2012518410A - 癌標的ペプチドおよび癌の治療におけるこれの使用 - Google Patents

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Abstract

癌標的ペプチドおよび癌の治療におけるこれの使用。

Description

関連出願
本願は、2009年2月19日に出願された米国仮特許出願第61/153,725号に対して優先権を主張するものであり、この内容は参考で全体を本明細書中に引用される。
発明の背景
標的ドラッグデリバリーによって、癌の治療の有効性が顕著に改善される。癌細胞を特異的に標的にする薬剤を同定することが、この目的を達成するための鍵となる。
発明の要約
本発明は、QNIYAGVPMISF(配列番号:1)、EATNSHGSRTMG(配列番号:2)、TVSWSTTGRIPL(配列番号:3)、QLEFYTQLAHLI(配列番号:4)、及びSMDPFLFQLLQL(配列番号:5)を含む、数多くのペプチドが、特異的に乳癌細胞を標的とし、これにより乳癌部位に薬剤を容易にデリバリーできるという予想できないような発見に基づくものである。
したがって、本発明の一態様は、配列番号:1〜5のアミノ酸配列の1つを含む乳癌標的ペプチド(breast cancer-targeting peptide)を特徴とする。これらのいずれかのペプチドを、乳癌治療のための抗癌剤と共役できる(conjugate)。一例では、抗乳癌剤は、微粒子(例えば、リポソーム)に封入される。具体的な抗癌剤としては、以下に制限されないが、ドキソルビシン、タモキシフェン、酒石酸ビノレルビン(vinorelbine)、ビンクリスチン、パクリタキセル、ルートテカン(Lurtotecan)、ドセタキセル、アドリアマイシン、エピルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、ゲムシタビン(gemcitabine)、シスプラチン、オキサリプラチン(oxaliplatin)、ビンブラスチン、5−FU、UFUR、アナストロゾール、レトロゾール及びエキセメスタンが挙げられる。
本発明の他の態様は、上記乳癌標的ペプチドの一及び抗癌剤を含む共役体を有効量乳癌を有する被検者(例えば、ヒト乳癌患者)に投与することによるターゲテッドドラッグデリバリー(targeted drug delivery)方法を特徴とする。本明細書中で使用される「有効量」とは、活性剤が、単独でまたは一以上の他の活性剤と組み合わせて、被検者に治療効果を与えるように、固形腫瘍部位に共役体中に含まれる各活性剤をデリバリーするための共役体の量を意味する。有効量は、当業者には認識されるように、投与経路、賦形剤の選択、及び他の活性剤との併用によって異なる。
また、乳癌の治療のためのまたは乳癌を治療するのに使用される薬剤の製造のための上記いずれかの共役体の使用もまた、本発明の範囲に含まれる。
本発明の一以上の実施例の詳細を以下の説明に記載する。本発明の他の特徴または利点は、下記様々な実施形態の詳細な説明から、また、添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
図面の詳細な説明
まず、図面を説明する。
図1は、乳癌異種移植片への、ファージ表面に発現する、癌標的ペプチドの特異的結合活性を示す図である。パネルA:配列番号:1のアミノ酸配列を有するペプチドを表示する、ファージクローンPC34。パネルB:配列番号:2のアミノ酸配列を有するペプチドを表示する、ファージクローンPC65。パネルC:配列番号:3のアミノ酸配列を有するペプチドを表示する、ファージクローンPC73。パネルD:配列番号:4のアミノ酸配列を有するペプチドを表示する、ファージクローンPC83。パネルE:配列番号:5のアミノ酸配列を有するペプチドを表示する、ファージクローンPC90。パネルF:コントロールペプチドを表示する、ファージクローンPC34。 図2は、遊離ドキソルビシン(FD)、リポソームに封入されたドキソルビシン(LD)、及びSP−90共役リポソームに封入されたドキソルビシン(SP90−LD)の抗乳癌活性を示す図である。SP90とは、ファージクローンPC90で表示されるペプチド(配列番号:5)を意味する。パネルA:FD、LD、またはSP90−LDで処置した乳癌を有するマウスでの腫瘍容積。パネルB:FD、LD、またはSP90−LDで処置した乳癌を有するマウスでの白血球(WBC)数。パネルC:FD、LD、またはSP90−LDで処置した乳癌を有するマウスでの体重。パネルD:FD、LD、またはSP90−LDで処置した乳癌を有するマウスでの体重の変化。 図3は、FD、LD、またはSP90−LDで処置した乳癌を有するマウスでの壊死/アポトーシス領域を示す図である。パネルA:アポトーシスおよび壊死領域。パネルB:レクチン陽性領域(腫瘍の血管の存在を示す)。 図4は、腫瘍組織におけるドキソルビシンの分布を示す図である。パネルA:潅流あり。パネルB:潅流なし。
発明の詳細な説明
本発明は、数多くの乳癌標的ペプチド、即ち、配列番号:1〜5のアミノ酸配列の一を含むペプチドに関するものである。本明細書中で使用される「ペプチド」ということばは、ペプチド結合連結(peptide bond linkage)を介した100個以下のアミノ酸モノマーから構成されるポリマーを意味する。本明細書に記載される各乳癌標的ペプチドは、50個以下(例えば、30個)のアミノ酸を有していてもよい。これらのペプチドは、公知の方法、即ち、化学合成または組換技術によって調製できる。
必要であれば、本明細書に記載されるいずれかの乳癌標的ペプチドが、安定性を向上するように化学的に修飾されてもよい。化学的に修飾されたペプチドまたはペプチド類似体としては、本発明の実施に関してインビボまたはインビトロでのその向上した安定性および/または有効性によって特徴付けられたペプチドと機能化学的に等価なものがある。また、上記「ペプチド類似体」ということばは、本明細書に記載されるペプチドのアミノ酸誘導体を意味する。ペプチド類似体は、以下に制限されないが、側鎖の修飾、ペプチド合成中の非天然型のアミノ酸および/またはその誘導体の導入ならびにペプチドまたはその類似体に構造制約を課す架橋剤の使用および他の方法などの方法によって製造できる。側鎖修飾の例としては、アルデヒドと反応させてからNaBHで還元することによる還元的アルキル化;メチルアセトイミデート(methylacetimidate)によるアミド化;無水酢酸によるアセチル化;シアン酸によるアミノ基のカルバミル化;2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアルキル化;およびピリドキサ−5’−ホスフェートによるリジンのピリドキシル化後のNaBHによる還元などのアミノ基の修飾が挙げられる。アルギニン残基のグアニジノ基を、2,3−ブタンジオン、フェニルグリオキサール及びグリオキサールなどの試薬でヘテロ環縮合産物を形成させることにより修飾してもよい。カルボキシル基を、o−アシルイソウレア形成によるカルボジイミド活性化後に続いて誘導体化して、例えば、対応するアミドにすることによって修飾してもよい。スルフヒドリル基を、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;過ギ酸酸化によるシステイン酸形成;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4−クロロマーキュリベンゾエート(4-chloromercuribenzoate)、4−クロロマーキュリフェニルスルホン酸(4-chloromercuriphenylsulfonic acid)、塩化フェニル水銀(phenylmercury chloride)、2−クロロマーキュリック−4−ニトロフェノール(2-chloromercuric-4-nitrophenol)及び他の水銀剤による水銀誘導体の形成;アルカリpHにおけるシアン酸塩によるカルバミル化などの、方法により修飾してもよい。トリプトファン残基を、例えば、N−ブロモスクシンイミドによる酸化または2−ヒドロキシ−5−ニトロベンジルブロマイドもしくはスルフォニルハライドによるインドール環のアルキル化により修飾してもよい。チロシン残基を、テトラニトロメタンでニトロ化して3−ニトロチロシン誘導体を形成させることにより変換させてもよい。ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化またはピロ炭酸ジエチルによるN−カルベトキシル化(N-carbethoxylation)により実施してもよい。ペプチド合成中に非天然型のアミノ酸および誘導体を導入する例としては、以下に制限されないが、ノルロイシン、4−アミノ酪酸、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン酸(4-amino-3-hydroxy-5-phenylpentanoic acid)、6−アミノヘキサン酸、t−ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン酸、2−チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD−異性体の使用が挙げられる。
下記実施例1〜3に示されるように、本明細書中に記載される乳癌標的ペプチドは、インビボおよびインビトロ双方において、乳癌組織/細胞に特に結合する。ゆえに、抗癌剤と共役すると、乳癌標的ペプチドは、抗癌剤を乳癌部位に向かわせることにより、乳癌治療を容易にする。本明細書中に使用される、「共役する」とは、2つの構成要素(ここでは、乳癌標的ペプチドおよび抗癌剤)が、2つの構成要素間の連結の治療上での利点が実現できるような十分な親和性で連結することを意味する。共役は、共有または非共有結合によって、さらには一方の構成要素が他の構成要素に若しくは内に封入されること(entrapment)、またはいずれかの若しくは双方の部分が第三の部分(例えば、ミセル)に若しくは内に封入されること(entrapment)等の、他の連結形態によって、達成されてもよい。
一例では、本明細書に記載される乳癌標的ペプチドの1つは、公知の方法により、抗癌剤に、直接または間接的に、共有結合して、処置用共役体を形成する。上記薬剤は、DNA構築ブロック合成(DNA building block synthesis)を停止する薬剤(例えば、メトトレキサート、フルオロウラシル、ヒドロキシウレア、及びメルカプトプリン)、DNAに直接損傷を与える薬剤(例えば、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びエトポシド)、有糸分裂紡錘体合成または分解に影響を及ぼす薬剤(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、及びパキタキセル(pacitaxel))、または血管形成を破壊する薬剤(例えば、抗VEGF抗体、アンギオスタチン、エンドスタチン、タムスタチン)などの、化学療法剤であってもよい。または、抗乳癌剤(anti-breast cancer drug)は、放射線治療剤(例えば、90Y、125I、188Re、111In DTPA、または131I ヨウ化ナトリウム)であってもよい。
他の例では、乳癌標的ペプチドは、処置用共役体を形成するために、抗乳癌剤(anti-breast cancer drug)を封入する、ベヒクル分子(即ち、微粒子)に連結する。ベヒクル分子としては、ミセル、リポソーム(例えば、カチオン性リポソーム)、ナノ粒子、ミクロスフェア、または生分解性ポリマーが挙げられる。乳癌標的ペプチドは、様々な結合(例えば、ジスルフィド結合、酸に不安定な結合(acid labile linkage)、ペプチドによる結合(peptide-based linkage)、オキシアミノ結合(oxyamino linkage)、またはヒドラジン結合)によって、ベヒクル分子につながれて(tether)もよい。ベヒクル内に封入される抗乳癌剤は、親油性分子と結合してもよく、これにより、画像分子/抗腫瘍剤がベヒクル内部にデリバリーされるのを補助できる。
好ましい例では、乳癌標的ペプチドは、腫瘍部位にデリバリーされる抗癌剤を封入するリポソームに連結する。「リポソーム」ということばは、水相を封入する、一以上の同心円状に配列された脂質二重層(concentrically ordered lipid bilayer)から構成されるベヒクルを意味する。水相は、具体的には、腫瘍部位にデリバリーされる化合物を含む。腫瘍部位に到達すると、リポソームは、特定の部位の腫瘍細胞または腫瘍血管細胞の細胞膜と融合し、これにより化合物を細胞質中に放出する。または、リポソームは、輸送小胞(例えば、エンドソームまたはファゴソーム)の内容物として腫瘍細胞または腫瘍血管細胞によってエンドサイトーシスされる(endocytosed)または取り込まれる(taken in)。輸送小胞中に入ると、リポソームは、分解するまたは小胞の膜と融合して、その内容物を放出する。リポソーム膜は、付近の環境が酸性になると不安定になるような構造であってもよい(例えば、PNAS 84:7851, 1987; Biochemistry 28:908, 1989参照)。リポソームが標的細胞に入ると、リポソームは不安定になって、その封入した内容物を放出する。この不安定化をフソジェネシス(fusogenesis)と称する。ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(dioleoylphosphatidylethanolamine)(DOPE)は、一般的に、このプロセスを促進するのに使用される。
様々なリポソーム調製方法が使用できる。例えば、Szoka et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467 (1980)、米国特許第4,186,183号、米国特許第4,217,344号、米国特許第4,235,871号、米国特許第4,261,975号、米国特許第4,485,054号、米国特許第4,501,728号、米国特許第4,774,085号、米国特許第4,837,028号、米国特許第4,235,871号、米国特許第4,261,975号、米国特許第4,485,054号、米国特許第4,501,728号、米国特許第4,774,085号、米国特許第4,837,028号、米国特許第4,946,787号、PCT公開第WO 91/17424号、Deamer & Bangham, Biochim. Biophys. Acta 443:629-634 (1976); Fraley, et al., PNAS 76:3348-3352 (1979); Hope et al., Biochim. Biophys. Acta 812:55-65 (1985); Mayer et al., Biochim. Biophys. Acta 858:161-168 (1986); Williams et al., PNAS 85:242-246 (1988); Liposomes (Ostro (ed.), 1983, Chapter 1); Hope et al., Chem. Phys. Lip. 40:89 (1986); Gregoriadis, Liposome Technology (1984) and Lasic, Liposomes: from Physics to Applications (1993))を参照。適当な方法としては、例えば、超音波処理、押し出し(extrusion)、高圧/均質化(high pressure/homogenization)、マイクロ流動化(microfluidization)、界面活性剤透析(detergent dialysis)、小リポソームベシクルのカルシウムにより誘導される融合(calcium-induced fusion of small liposome vehicles)、及びエーテル融合法(ether fusion methods)があり、これらはすべて当該分野において既知である。
本明細書に記載される乳癌処置用共役体のいずれかを、製薬上許容できる担体と混合して、薬剤組成物を形成してもよい。「許容できる」とは、担体が組成物の活性成分と適合でき(および好ましくは、活性成分を安定化でき)、治療される患者に有害であってはならないという意味である。適当な担体としては、微結晶セルロース、マンニトール、グルコース、脱脂乳の粉、ポリビニルピロリドン、及びデンプン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
本明細書に記載される共役体を癌治療に使用するにあたって、共役体は、経口により、非経口で、局所的に、経直腸で、経鼻で、口腔で、経膣で、埋め込みレザーバーを介して、または吸入スプレーを介して投与できる。本明細書中で使用される「非経口」ということばは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、及び頭蓋内注射または輸液技術を包含する。
滅菌注射用組成物、例えば、滅菌注射用水性または油性懸濁液は、適当な分散剤若しくは湿潤剤(Tween 80等)または懸濁化剤を用いて当該分野において既知の技術に従って配合できる。滅菌注射用製剤はまた、非毒性の非経口で許容できる希釈剤または溶剤における滅菌注射用溶液または懸濁液、例えば、1,3−ブタンジオールにおける溶液であってもよい。使用できる許容できるベヒクルや溶剤の中には、マンニトール、水、リンガー溶液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌した固定油が、溶剤または懸濁媒体として従来使用される(例えば、合成モノまたはジグリセリド)。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体等の、脂肪酸が注射剤の調製に使用でき、特にポリオキシエチレン化された型の、オリーブ油またはヒマシ油等の、天然の製薬上許容できる油もまた同様にして使用できる。また、これらの油溶液または懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤若しくは分散剤、またはカルボキシメチルセルロースまたは同様の分散剤を含んでもよい。ツィーン(Tween)もしくはスパン(Span)等の、他の一般的に使用される界面活性剤または製薬上許容できる固体、液体、または他の投与形態の製造に一般的に使用される他の同様の乳化剤若しくはバイオアベイラビリティ促進剤もまた、配合目的で使用されうる。
経口投与用の組成物は、以下に制限されないが、カプセル、錠剤、エマルジョンならびに水性懸濁液、分散液および溶液などの経口投与が許容できる投与形態であってもよい。経口で使用される錠剤/カプセルの場合には、一般的に使用される担体としては、ラクトース及びコーンスターチがある。ステアリン酸マグネシウム等の滑剤もまた一般的に添加される。カプセル形態での経口投与では、使用できる希釈剤としては、ラクトースや乾燥コーンスターチがある。水性懸濁液またはエマルジョンを経口投与する場合には、活性成分を乳化剤または懸濁化剤と組み合わせた油相中に懸濁または溶解することができる。必要であれば、特定の甘味剤、風味剤、または着色剤を添加してもよい。鼻エアロゾルまたは吸入用組成物は、製剤処方の分野で既知の技術に従って調製されうる。また、オキサジアゾール化合物を含む組成物を、直腸投与用の坐剤の形態で投与してもよい。
さらなる努力を要せずに、上記記載により本発明を十分利用できると考えられる。したがって、下記実施例は、単に詳細に説明するものであり、何であれ、残りの開示部分を制限するものではないと、解されるべきである。本明細書中に列挙されたすべての公報は、参考で本明細書中に引用される。
実施例1:ファージ粒子表面で発現する癌標的ペプチド(cancer-targeting peptide)の結合性
BT483細胞(乳癌細胞)およびヒト粘膜上皮細胞(正常細胞)を、Lo et al., Mol. Cancer Ther 7:579-589 (2008)およびLee et al., Cancer Res. 64:8002-8008 (2004)に記載される方法に従って、96ウェルプレートに播種した。これらの細胞を、紫外線によって不活性化されるコントロールヘルパーファージ及び以下に列挙される5種の試験ファージのうちの一つ双方と共にインキュベートし、この際、それぞれは、下記に列挙される5種のペプチドの一つを発現する。
数回洗浄して、非結合のファージ粒子を除去した後、細胞をさらに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)共役抗M13モノクローナル抗体(Pharmacia, Uppsala, Sweden)と、次にペルオキシダーゼの基質であるo−フェニレンジアミン二塩酸塩(sigma, MO, USA)とインキュベートした。細胞を再度洗浄し、ELISAリーターで分析して、各ウェルにおける490nmでの光学密度を測定した。OD490値から、試験ファージの乳癌細胞への及び正常細胞への結合活性が示される。全ての5種の試験ファージが、正常細胞に対するより乳癌細胞に対する結合活性が有意に高いことから、5種のペプチドは正常細胞ではなく標的癌細胞をここで発現したことが示される。
また、乳癌細胞への及び正常細胞への5種の試験ファージの結合活性を、以下のようにしてフローサイトメトリーによって測定した。細胞を集めて、50mM EDTAを含むPBSに懸濁した後、5種の試験ファージの一つと共にインキュベートした。洗浄後、細胞を上記抗M13抗体と共に、次にFITC−共役ヤギ抗マウスIgG抗体と共にインキュベートした。細胞を再度洗浄して、フローサイトメーター(Becton Dickinson)によって分析した。このようにして得られた結果から、試験ファージに結合した癌細胞の割合(%)は試験ファージに結合した正常細胞の割合(%)に比べて有意高かったことが示されることから、全ての5種のファージは乳癌細胞に特異的に結合した試験ファージ上で発現したことが示される。
実施例2:癌組織および正常器官への試験ファージのインビボでの結合活性
1×10個のBT483細胞をSCIDマウスの背側の脇腹の皮下に(s.c.)注射して、乳癌異種移植片を誘導した。約300mmの大きさの異種移植片腫瘍を有するマウスに、上記実施例1に記載される5種のファージの一つ(10pfu)またはコントロールファージを静脈内に(i.v.)投与した。灌流後、異種移植片腫瘍及び器官(即ち、脳、心臓、及び肺)を各マウスから除去して、均質化した。Lee et al., Cancer Res. 67:10958-10965 (2007)およびLo et al., Mol. Cancer Ther 7:579-589 (2008)に記載される方法に従って、各組織サンプルに結合したファージを溶出し、ER2738細菌細胞を宿主として用いて回収し、IPTG/X−Gal寒天平板上で力価を測定した(titered)。
図1に示されるように、腫瘍組織由来のファージクローンPC34、PC65、PC73、PC82及びPC90の回収率は、脳、心臓、及び肺等の、正常組織由来の値に比べて非常に高かったことから、全ての5種のファージクローンは、正常器官ではなく腫瘤に存在した(homed to)ことが示される。より詳しくは、腫瘤に存在するファージの濃度は、正常器官に存在するファージの濃度より3.0〜588倍高かった。コントロールファージは、腫瘍異種移植片および正常器官双方を標的にしなかった。
実施例3:ペプチドSMDPFLFQLLQL(配列番号:5)の癌標的活性
ペプチドSMDPFLFQLLQL(配列番号:5)を発現する、ファージクローンPC90のインビボでの癌標的活性を以下のようにして試験した。新鮮な乳癌組織サンプルを、浸潤乳癌(mammary infiltrating ducal carcinoma)を有する20人の患者から得た。各組織サンプルを4μmにスライスし、1%パラホルムアルデヒド中で固定した。次に、スライスした組織サンプルをPC90またはコントロールファージと共にインキュベートした。1%Tween20を含むPBS(PBST0.1)で洗浄した後、サンプルを、室温で1時間、抗M13マウスmAb(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ, USA)と共にインキュベートし、PBST0.1で再度洗浄し、各サンプルの免疫反応性を、Lee et al. (2004)及びLo et alに記載される方法に従って、ビオチンを含まない超感受性ポリマー−HRP検出システム(biotin-free super sensitive polymer-HRP detection system)(Biogenex, San Ramon, CA, USA)を用いて測定した。組織サンプルが結合した、スライドを、ヘマトキシリンで対比染色し、Aquatex(Merck, Dannstadt, Germany)を載せ(mounted)、光学顕微鏡で調べた。陽性に染色した細胞の割合(%)を、Hall et al., J. Pathol. 172:1-4 (1994)に記載される方法に従って測定した。本研究では、コントロールファージではなく、PC90が、組織サンプルの腫瘍細胞を標的としたことが分かった。
PC90の癌標的活性を、ペプチド競合アッセイによって確認し、この際、癌組織サンプルを、(1)合成ペプチド(100ng/ml) SMDPFLFQLLQL(配列番号:5)(SP90)及びPC90(10pfu)または(2)コントロールペプチド(100ng/ml) RLLDTNRPLLPY(配列番号:6; Lee et al., cancer Res. 64:8002-8008, 2004を参照)及びPC90と共にインキュベートした。SP90及びコントロールペプチドを合成し、逆相高速液体クロマトグラフィーによって精製した。95%以上の純度を有する、得られたペプチドを、必要であれば、N末端をFITCまたはビオチンで共役した。
本研究から得られた結果から、コントロールペプチドではなく、SP90が組織サンプルの癌細胞への結合に関してPC90に競合することが示された。
次に、PC90のインビボでの癌標的活性を、上記実施例2に記載された方法に従って、乳癌を有するSCIDマウスで試験した。結果から、PC90粒子は、脳、心臓、及び肺等の、正常組織ではなく、腫瘍異種移植片の癌細胞に結合したことが示された。
SP90を一緒にインキュベートして、PC90の腫瘍組織への結合遮断能を試験した。簡潔にいうと、100μgのSP90または上記したコントロールペプチドを、乳癌異種移植片を有するマウスに、PC90と一緒に注射した。正常器官および腫瘍組織を除去して、ブアン固定液(Bouin’s solution)(Sigma, MO, USA)で固定した。固定後、サンプルをパラフィンブロックに包埋し、切片にスライスし、切片を脱パラフィンし、再水和し、上記実施例1に記載されるマウス抗M13mAbを用いて免疫染色を行った。SP90は、PC90が腫瘍組織に結合するのを有意に阻害した。より詳しくは、100μgのSP90は97%のPC90が腫瘍組織に結合するのを阻害したものの、コントロールペプチドは阻害活性を示さなかった。
要約すると、上記結果から、ペプチドSMDPFLFQLLQL(配列番号:5)は、合成形態であってもまたはファージ表面に発現したものであっても、乳癌細胞を特異的に標的とすることが示される。
実施例4:ドキソルビシンを封入したペプチドSMDPFLFQLLQL共役リポソームによる乳癌の標的治療(targeted treatment)
ペプチドが共役したドキソルビシン封入リポソームの調製
ドキソルビシンを含むペプチド共役リポソーム(peptide-conjugated liposome)を、Lee et al. (2007)、Lo et al、及びLee et al. (2004)に記載されるようにして調製した。簡単にいうと、ペプチドを、1:1.5のモル比で、NHS−PEG−DSPE[N−ヒドロキシスクシンイミド−カルボキシル−ポリエチレングリコール(MW、3400)−由来ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(N-hydroxysuccinimido-carboxyl-polyethylene glycol (MW, 3400)-derived distearoylphosphatidyl ethanolamine)](NOF Corporation, Japan)にカップリングさせた。反応を終了し、TNBS(トリニトロベンゼンスルホネート(Trinitrobenzenesulfonate))(Sigma, MO, USA)を用いて非反応アミノ基を定量することによって確認した。ドキソルビシンを、10μモルのリン脂質当たり1mgの薬剤の割合でリポソームによって封入した。次に、ペプチジル−PEG−DSPE(peptidyl-PEG-DSPE)を、脂質2層の転移温度で一緒にインキュベートした後、ドキソルビシンを封入したリポソームに共役させた。得られたペプチド共役リポソームはそれぞれ、Kirpotin, et al., Biochemstry, 36: 66-75 (1997)に記載される方法によって測定した際に、約500ペプチド分子を含んだ。この方法に従って、SP90共役ドキソルビシン封入リポソーム(SP−LD)及びコントロールペプチド共役ドキソルビシン封入リポソーム(CP−LD)を調製した。
SP−LDによって仲介されるドキソルビシンのインビトロでのエンドサイトーシス
BT483細胞を、37℃で5分間、SP−LDまたはCP−LDと共にインキュベートした。次に、この細胞をPBSで洗浄し、固定し、さらに電子顕微鏡下で調べて、細胞エンドソームにおけるリポソームの内在化を検出した。結果から、SP−LDと共にインキュベートした細胞では、リポソームがこれらのエンドソームの約90%中に内在化していることが分かったが、CP−LDと共にインキュベートした細胞では、これらのエンドソームの約51%のみがリポソーム陽性であったことが示される。これから、SP−LDが乳癌細胞によるリポソームのエンドサイトーシスを仲介したことが示される。
SP−LDによる乳癌の治療
1×10個のBT483細胞をSCIDマウス(4〜6週齢)の背側の脇腹の皮下に(s.c.)注射して、乳癌異種移植片を誘導した。これらのマウスの腫瘍容積は、式:長さ×(幅)×0.52によって測定した。約50〜100mmの大きさの異種移植片腫瘍を有するマウスを任意に4グループに分けて、各グループを、以下のように尾静脈による投与によって処置した。
グループ1:週に1回3週間、3mg/kgのドキソルビシン投与量で、SP90共役ドキソルビシンを含むリポソーム(SP90−LD)で処置、
グループ2:週に1回3週間、3mg/kgのドキソルビシン投与量で、ドキソルビシンを含むリポソーム(LD)で処置、
グループ3:週に1回3週間、3mg/kgのドキソルビシン投与量で、遊離ドキソルビシン(FD)で処置、
グループ4:週に1回3週間、生理食塩水で処置(ブランクコントロール)。
マウスの体重及び腫瘍の大きさを、1週間に2回測定した。腫瘍の容積を上記した式に従って算出した。
図2、パネルAに示されるように、グループ2マウス(LDで処置)の平均腫瘍容積は、グループ1マウス(SP90−LDで処置)に比べて、約2.2倍大きかった(n=6,P<0.01)。グループ3マウス(FDで処置)及びコントロールマウスの平均腫瘍容積は、グループ2マウスに比べて、それぞれ、8.3倍及び15.4倍大きかった(n=6,P<0.005)。
処置マウスの全白血球(WBC)数を、以下のようにして最終処置してから3日目(即ち、17日目)に測定した。血液を各マウスの顎下静脈から抜き、15% EDTA溶液と共に緩やかに混合して、凝固を防止した。次に、血液を、2%酢酸及び1%のゲンチアナ・バイオレット(Sigma-Aldrich, Saint Louis, MO, USA)を含む赤血球溶解バッファーと共に混合し、室温でインキュベートした。WBCの数を血球計を用いて計測した。
S90−LD処置マウスのWBCの全数は4.8×10/mmであり、これはコントロールマウス(5.0×10/mm)およびFD処置マウス(5.6×10/mm)と同等であったが、LD処置マウス(2.6×10/mm)に比べるとかなり高かった。図2、パネルB参照。このデータから、SP90−LDがLDより毒性が低いことが示される。
また、本研究から得られた結果から、グループ1、2、及び4では有意な体重の減少は観察されなかったことから、生理食塩水及びLDと同様、SP90−LDもまた体重の減少を引き起こさなかったことが示される。図2、パネルC及びD参照。
処置マウスの腫瘍組織の組織病理を、以下のようにしてH&E染色によって調べた。凍結し、切片化した、腫瘍組織を、37℃で1時間、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ仲介dUTPニックエンド標識反応混合物(terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick end labeling reaction mixture)(Roche Diagnostics, Switzerland)と共にインキュベートし、壊死/アポトーシス領域を検出した。組織サンプルが付着した、スライドを、DAPI(Vector Laboratories)を含むマウンティング培地(mounting medium)で対比染色した。次に、スライドを蛍光顕微鏡で可視化し、MetaMorph software(Molecular Devices, PA, USA)で分析した。明らかに広まった壊死/アポトーシス領域がSP90−LD処置マウスの全切片にわたって存在したが、LD処置マウスでは、より少ない壊死/アポトーシス領域が見つかった。FDで処置したマウス及びコントロールマウスは、より少ない壊死/アポトーシス領域を示した。図3、パネルA参照。これらの結果から、SP90−LDは、LD及びFDより、腫瘍細胞の壊死/アポトーシスを誘導するのにより有効であることが示される。
また、腫瘍の血管形成に関するSP90−LDの効果を調べた。腫瘍組織を処置マウスから除去し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンで包埋した。腫瘍組織における血管を、ビオチンに共役したLycopersicon esculentum(tomato)レクチン(Vector, CA, USA)、次にストレプトアビジン共役ローダミン(Pierce, IL, USA)で染色することによって検出した。SP90−LD処置マウスでは、腫瘍の血管の数は、LD処置マウスに比べて有意に少なかった。図3、パネルB参照。FDで処置したマウスであるコントロールマウスは、高い腫瘍血管密度を示した。これらの結果から、SP90−LDは、LD及びFDに比べて腫瘍の血管形成を阻害するのにより有効であることが示される。
最後に、処置マウスにおけるドキソルビシンの極在化を調べた。簡単にいうと、乳癌細胞異種移植片(〜300mm)を有するSCIDマウスの3群に、尾静脈を介して2mg/kgの投与量で、SP90−LD、LD、またはFDを注射した。所定の時点で、各群3匹のマウスに麻酔をかけ、剖検した。血液サンプルを、顎下穿刺により集め、これから血漿サンプルを調製した。灌流後、腫瘍異種移植片及び正常器官(即ち、脳、心臓、及び肺)を除去して、均質化した。Mayer et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 280:1406-1414 (1997)を参照。これらの組織サンプルを、λex 485/20nm及びλem 645/40nm(Synergy HT Multi-Detection Microplate Reader, BioTek Instruments, Winooski, VT 05404 USA)での蛍光分光分析によって分析した。このようにして得られたデータを、ドキソルビシンで処置していないマウスから得られたデータに対して正規化した。一連の所定のレベルのドキソルビシンを含むコントロールホモジネートを用いて上記と同様の方法に従って、標準ドキソルビシン曲線を調製した。組織サンプルのドキソルビシンレベル(μg)を、この標準曲線に基づいて測定した。ドキソルビシン組織濃度を、1mlの血漿または1gの組織当たりのドキソルビシンレベルとして表す。
また、546/12nm励起及び590nm発光フィルターセットを備えた100W HBO水銀灯源を有するZeiss Axiovert 200M倒立顕微鏡を用いてその自己蛍光を検出することによって、ドキソルビシンの組織極在化を調べた。組織切片をFLUAR 10x/0.50 NAレンズで観察し、画像をRoper Scientific CoolSnap HQ CCDカメラを用いて撮影した。
図4、パネルA及びBに示される、本研究で得られた結果から、SP90−LD処置マウスでの平均腫瘍内ドキソルビシン濃度は、FD処置マウス、LD処置マウスおよびコントロールペプチドと共役したLD(C−LD)で処置したマウスに比べて、それぞれ、12.0倍、2.2倍、及び2.6倍高かったことが示された。加えて、ドキソルビシは、SP90−LD処置マウスの腫瘍組織では大きな領域で検出されたが、LD、FD、またはC−LDで処置されたマウスでは腫瘍組織では限定された領域でのみ検出された。
要約すると、SP90は、腫瘍組織に標的としたドキソルビシンデリバリーを容易にし、これにより腫瘍細胞の壊死/アポトーシスを引き起こすのに有用であることが分かった。
他の実施形態
本明細書中に開示されるすべての特徴は、いずれの組み合わせで組み合わせてもよい。本明細書中に開示される各特徴は、同じ、等価の、または同様の目的を果たす別の特徴で置換されてもよい。ゆえに、特記しない限り、開示される各特徴は、包括的な一連の等価のまたは同様の特徴の一例でしかない。
上記説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確認でき、本発明の概念および範囲から逸脱することなく、本発明を様々に変更したり修飾したりして、様々な用法や疾患に適用できる。ゆえに、他の実施形態もまた、以下の特許請求の範囲に含まれる。

Claims (11)

  1. QNIYAGVPMISF(配列番号:1)、
    EATNSHGSRTMG(配列番号:2)、
    TVSWSTTGRIPL(配列番号:3)、
    QLEFYTQLAHLI(配列番号:4)、および
    SMDPFLFQLLQL(配列番号:5)
    からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、乳癌標的ペプチド(breast cancer-targeting peptide)。
  2. 配列番号:1、2、3、4、または5のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のペプチド。
  3. 配列番号:5のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
  4. 配列番号:5のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のペプチド。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチドおよび抗癌剤を有する、抗癌剤共役体(anti-cancer conjugate)。
  6. 前記ペプチドが、抗癌剤を封入する微粒子と連結する(associated with)、請求項5に記載の共役体。
  7. 前記微粒子がリポソームである、請求項6に記載の共役体。
  8. 前記抗癌剤が、ドキソルビシン、タモキシフェン、酒石酸ビノレルビン(vinorelbine)、ビンクリスチン、パクリタキセル、ルートテカン(Lurtotecan)、ドセタキセル、アドリアマイシン、エピルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシン、ゲムシタビン(gemcitabine)、シスプラチン、オキサリプラチン(oxaliplatin)、ビンブラスチン、5−FU、UFUR、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンからなる群より選択される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の共役体。
  9. 抗癌剤を乳癌部位にデリバリーするための請求項5〜8のいずれか1項に記載の癌標的共役体の使用。
  10. 乳癌の治療のための薬剤の製造における請求項5〜8のいずれか1項に記載の癌標的共役体の使用。
  11. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチドをコード化するヌクレオチド配列を有する、核酸。
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