JP2012509908A - ニューレグリン及び心臓幹細胞 - Google Patents

ニューレグリン及び心臓幹細胞 Download PDF

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Abstract

本発明は、インビトロ及びインビボで、哺乳動物細胞、特に胚性幹細胞における心筋形成を誘導する組成物及び方法に関する。
【選択図】なし

Description

(1. 発明の分野)
本発明は、インビトロ及びインビボで哺乳動物細胞、特に胚性幹細胞の心筋形成を誘導するためのニューレグリンの使用に関する。
(2.本発明の背景)
心(心室)肥大は、心仕事量に対するストレス又は需要の増加に応答しての重要な適応生理反応である。肥大のための刺激後に発生する初期の細胞変化の1つは、個々の細胞のサイズの比例増加を伴うミトコンドリアの合成及び筋原線維質量の増加(壁肥厚化)であるが、細胞数の増加はない(又は最小限である)。
心室がストレスにさらされた場合において、初期応答は、筋節長の増大である。この後に、全筋質量の増加が続く。過負荷が激しい場合、心筋収縮性は抑制される。その最も軽度の形態において、この抑制は、負荷がなくなった心筋を短縮する速度の減少によって、又は等尺性収縮の間の力の発生速度の減少によって、顕在化される。心筋収縮性が更に抑制されるにつれて、負荷がなくなった心筋を短縮させる速度のより広範囲な減少が発生し、そこにおいて等尺性の力の発生の低下及び短縮化を伴う。この点において、循環の補償は心拡張及び筋質量の増加によってさらに提供でき、これは壁応力を正常レベルに維持する傾向がある。収縮性が更に減少するにつれて、心拍出及び仕事の抑制及び/又は安静時の心室拡張終期容積及び圧力の増加に反映される明白なうっ血心不全が続発する。
肥大から心不全への移行は、細胞組織のいくつかの変化によって特徴づけられる。例えば、通常の肥大性細胞は大型であり、増加し、かつよく組織化された収縮単位、及び強い細胞細胞接着を伴う。対照的に、大型でかつタンパク質の蓄積も有する病理学的に肥大性の細胞は、収縮性タンパク質の脱組織化(筋節構造の乱れ)及び劣った細胞-細胞接着(筋線維の乱れ)を示す。それゆえ、病理学的肥大において、サイズの増加及び収縮性タンパク質の蓄積は、筋節構造の脱組織化された会合、及び頑強な細胞間相互作用の欠如に関連する。
心不全は約5,000,000人のアメリカ人が罹患し、毎年550,000人超の新規患者が該状態と診断される。心不全のための現在の薬剤療法は主に、血管を拡大させ、血圧を下げ、心臓の作業負荷を減少させる血管拡張剤であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤に向けられる。死亡率割合の減少は顕著であるが、ACE阻害薬を用いての死亡率の実際の減少は平均で3%〜4%のみであり、いくつかの潜在的副作用がある。
また、ACE阻害剤は、他の薬剤、例えば心臓の収縮力を増加させるジギタリス、並びに/又は腎臓が血流からより多くのナトリウム及び水を取り除くようにさせることにより心臓の作業負荷の緩和を補助する利尿剤と組み合わせても投与される。しかしながら、少なくとも一つの研究は、クラスII-III心不全患者のプラセボと比較して、ジギタリスの使用に関連する生存の違いを示さなかった。加えて、利尿剤は、心不全のいくつかの症状を改善できるが、これは唯一の治療として適切でない。
さらなる制限は、心不全を予防又は治療するための他の選択肢に関連する。例えば、心臓移植は薬剤治療よりも明らかにより高価でかつ侵襲的であり、これはドナー心臓の入手可能性によって更に制限される。両室ペースメーカなどの機械装置の使用は、同様に侵襲的かつ高価である。それゆえ、現在の療法における不備により与えられる新規な療法の必要があった。
有望な新規療法の一つには、心不全に罹患し、又は心不全を発症する危険のある患者へのニューレグリン(以下「NRG」という。)の投与を含む。NRGには、構造的に関連した成長因子及び分化因子のファミリーを含み、これにはNRG1、NRG2、NRG3及びNRG4並びにこれらのアイソフォームを含む。例えば、15を超えるNRG1の異なるアイソフォームが確認されており、それらに必須の上皮成長因子(EGF)様ドメインの配列における差異に基づいてα-及びβ-型として公知の2つの大きな群に分けられる。
NRGは、EGF受容体ファミリーと結合し、該ファミリーにはEGFR、ErbB2、ErbB3及びErbB4を含み、そのそれぞれは、細胞増殖、分化及び生存などの複数の細胞機能において重要な役割を果たす。これらはタンパク質チロシンキナーゼ受容体であり、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質チロシンキナーゼドメインから構成されている。NRGがErbB3又はErbB4の細胞外ドメインと結合した後、これはErbB3、ErbB4及びErbB2間のヘテロダイマー形成、又はErbB4自身間のホモダイマー形成を導く構造変化を誘発し、これは細胞膜内部での該受容体のC末端ドメインのリン酸化を結果的に生じる。リン酸化された細胞内ドメインはそれから細胞内の追加的シグナルタンパク質を結合し、対応する下流のAKT又はERKシグナル伝達経路を活性化させ、細胞増殖、細胞分化、細胞アポトーシス、細胞移動若しくは細胞接着の刺激又は抑制などの一連の細胞反応を誘発する。これらの受容体のうち、主にErbB2及びErbB4が心臓で発現している。
大きさが50〜64アミノ酸のNRG1のEGF様ドメインは、これらの受容体に結合し、活性化させるのに十分であることが示されている。以前の研究は、ニューレグリン-1β(NRG-1β)が高親和性でErbB3及びErbB4に直接結合できることを示した。オーファン受容体(ErbB2)は、ErbB3又はErbB4とヘテロダイマーを形成でき、これはErbB3又はErbB4ホモダイマーより高い親和性を有する。神経発生における研究は、交感神経系の形成が完全なNRG-1β、ErbB2及びErbB3シグナル伝達系を必要とすることを示した。NRG-1β又はErbB2又はErbB4の標的化破壊は、心発生欠損により胚性致死をもたらした。最近の研究も、心血管発生並びに成人の正常な心機能の維持におけるNRG-1β、ErbB2及びErbB4の役割を強調した。NRG-1βは、成体心筋細胞(cardiomyocyte)の筋節組織を強化することを示した。組換えNRG-1βのEGF様ドメインの短期投与は、心不全の3つの異なった動物モデルにおける心筋性能の悪化に対し、顕著な改善又は保護を与える。さらに重要なことに、NRG-1βは、心不全に罹患した動物の生存を著しく延長させる。これらの効果は、NRG-1βを、様々な通常の疾患による心不全のための広範なスペクトル療法又はリード化合物として有望にさせる。
多能性(pluripotent)胚性幹(ES)細胞は、機能的な心筋細胞の無制限な供給源であり得る。当該心筋細胞は、心疾患におけるES細胞の医療適用を促進する見込みがあり、心筋細胞分化及び心臓の発生の分子機構を探索するための重要なツールを提供する。いくつかの最近の研究は、心臓の主要な3つの細胞型、すなわち心筋細胞、平滑筋細胞及び内皮細胞の全てに分化する可能性を有する心臓先駆細胞(progenitor cell)についての証拠を提供した。例えば、Bohelerらの文献, Circ. Res., 91 : 189-201 (2002). Kattmanらの文献, 2006, Dev Cell, 11 :723-732, 2006; Morettiらの文献, 2006, Cell, 127: 1151-1165; Wuらの文献, Cell, 127:1137-1150; Garryらの文献, 2006, Cell, 127:1101-1104, 2006を参照されたい。しかしながら、これまで、ES細胞の心筋細胞へのインビトロ分化は、十分に定義されておらず、非効率的で、かつ比較的非選択的なプロセスを含む。
従って、当該技術分野は、ES細胞の分化を心筋細胞へと誘導し、方向付ける組成物及び方法の必要性を認識している。ES細胞のインビボ及びインビトロ分化を心筋系列の細胞へと誘導し得る小分子の具体的必要性がある。本発明は、これら及び他の必要性を満たす。
(3. 図面の簡単な説明)
ビヒクル又はニューレグリンで処理した損傷した心臓の断面を比較する。図1a及び図1bは、ビヒクルで処理した損傷(infracted)した心臓の断面を示し、図1c及び図1dはニューレグリンで処理した損傷した心臓の断面を示す。
(4. 本発明の要旨)
本発明は、ES細胞の分化を心筋系列の細胞へと誘導し、方向付けるためのニューレグリンの使用を提供する。
任意のニューレグリン(例えば、NRG-1、NRG-2、NRG-3及びNRG-4並びにこれらのアイソフォーム)タンパク質、ペプチド又は断片は、本発明に使用することができる。ある種の実施態様において、ニューレグリンは、NRG-1によりコードされるEGF様ドメインを含む。いくつかの実施態様において、ニューレグリンは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
別の実施態様において、本発明は、心筋形成を誘導する方法を提供する。ある種の実施態様において、哺乳動物細胞をニューレグリンと接触させ、そこにおいて該哺乳動物細胞は心筋系列の細胞へと分化する。該接触工程は、インビボ又はインビトロであり得る。心筋形成を誘導するその能力に鑑み、ニューレグリンは、ある種の実施態様において、心不全、心筋症及び不整脈などの心筋障害を治療するために、及び例えば心発作から生じる心筋組織損傷を治療するために、有用である。
本発明は、哺乳動物細胞をニューレグリンと接触させることによって心筋障害を治療する方法であって、該哺乳動物細胞が心筋系列の細胞へと分化する、前記方法を提供する。哺乳動物細胞は、心筋形成に有利な他の化合物又はタンパク質と更に接触させることができる。哺乳動物細胞をインビトロでニューレグリンと接触させる場合、該分化細胞を治療可能な障害を有する対象に投与し、これにより該障害を治療できる。いくつかの実施態様において、哺乳動物細胞は、固体支持体(例えば、三次元マトリクス又は平坦面)に接着させ、又は心筋層の損傷部位に注入される。
いくつかの実施態様において、哺乳動物細胞は、インビボでニューレグリンと接触させる。哺乳動物細胞をインビボでニューレグリンと接触させる場合、該接触工程は、限定なく、当業者に公知の任意の経路を介することができ、該経路には、哺乳動物へのニューレグリンの経口投与、静脈内投与、皮下投与又は腹腔内投与を含む。
哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化は、当該技術分野において公知の任意の技術により検出できる。いくつかの実施態様において、哺乳動物細胞の心筋芽細胞への分化は、心筋形成マーカー遺伝子、例えば、心房性ナトリウム利尿因子(「ANF」)の発現を検出することにより検出される。他の実施態様において、哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化は、心臓筋細胞(cardiac muscle cell)特異的転写因子(例えば、MEF2又はNkx2.5又はホメオドメイン転写因子HOP)の発現を検出することにより検出される。他の実施態様において、哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化は、心筋特異的遺伝子(例えば、ミオシン軽鎖2V又はeHAND)の発現を検出することにより検出される。さらに他の実施態様において、哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化は、GATA-4などの心臓特異的遺伝子の発現を検出することにより、又は筋節ミオシン重鎖(MHC)などの心筋収縮性に関与する遺伝子の発現により検出される。更なる実施態様において、分化は、当業者に周知の標準的技術を使用して心筋の拍動を観察することにより検出できる。
いくつかの実施態様において、哺乳動物細胞は、幹細胞(例えば、胚性幹細胞又は胚性癌腫細胞)である。いくつかの実施態様において、幹細胞は、マウス(例えば、ネズミ未分化R1胚性幹細胞又はマウス癌腫P19細胞)から、又は霊長類(例えば、ヒト)から単離される。
(5. 発明の詳細な説明)
(5.1定義)
他に定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属している技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において参照される全ての特許、出願、公開された出願及び他の刊行物は、引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。この節に記載される定義が、引用により本明細書に組み込まれる特許、出願、公開された出願及び他の刊行物に記載される定義と反対又はそうでなければ矛盾する場合、この節に記載される定義は、引用により本明細書に組み込まれる定義を超えて優先する。
本明細書で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が他に明示しない限り、「少なくとも1の」又は「1以上」を意味する。
用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、及びより好ましくは5%(又は1%以下)以内を意味する。
本明細書で使用する「投与する」又は「投与」は、体外に存在する物質(例えば、ニューレグリン)を患者へと、例えば粘膜送達、皮内送達、静脈内送達、筋肉内送達、及び/又は本明細書に記された、もしくは当該技術分野において公知の物理的送達の任意の他の方法により注入し、又はそうでなければ物理的に送達する行為に関する。疾患又はその症状が治療される場合、物質の投与は、典型的には、該疾患又はその症状の発症後になされる。疾患又はその症状が予防される場合、物質の投与は、典型的には、該疾患又はその症状の発症前になされる。
本明細書で使用する「有効量」は、疾患を治療するために対象に投与された場合に、該疾患の当該治療を有効にするのに十分なニューレグリン又はニューレグリンを含む組成物の量を意味する。有効量は、とりわけ、使用されるニューレグリン、疾患及びその重篤度、並びに当該治療対象の年齢、体重などにより変化し得る。いくつかの実施態様において、有効量は、肺毛細管楔入圧を低減するのに十分なニューレグリンの量を意味する。
本明細書で使用するように、本発明において使用する「ニューレグリン」又は「NRG」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4又はそれらの組み合わせを結合し、及び活性化できるタンパク質又はペプチドをいい、全てのニューレグリンアイソフォーム、ニューレグリン EGFドメイン単体、ニューレグリン EGF様ドメイン、ニューレグリン変異体若しくは誘導体を含むポリペプチド、及び任意の種類のニューレグリン様遺伝子産物を含むがこれらに限定されず、これらも以下に詳細に説明するように上記受容体を活性化させる。好ましい実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー又はErbB2/ErbB3ヘテロダイマーに結合し、活性化させる。ニューレグリンには、NRG-1、NRG-2、NRG-3及びNRG-4タンパク質、ペプチド、断片、及びニューレグリンの活性を模倣する化合物も含む。本発明に使用されるニューレグリンは、上記ErbB受容体を活性化させ、その生体反応を調節すること、例えば、乳癌細胞分化及び乳タンパク質分泌を促進することができ;神経堤細胞のシュワン細胞への分化を誘導でき;骨格筋細胞におけるアセチルコリン受容体合成を刺激でき;及び/又は、心筋細胞分化、生存及びDNA合成を向上させることができる。ニューレグリンには、それらの生物活性を実質的には変えない保存的アミノ酸置換を有するそれらの異型も含む。アミノ酸の適切な保存的置換は、当業者に公知であり、結果として生じる分子の生物活性を変えることなく一般になすことができる。当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域における1個のアミノ酸置換が生物活性を実質的に変えないことを認識するであろう(例えば、Watsonらの文献「遺伝子の分子生物学(Molecular Biology of the Gene)」, 第4版, 1987, The Benjamin/Cummings Pub. co., p.224を参照されたい。)。
ニューレグリンタンパク質は、ニューレグリンタンパク質及びペプチドを包含する。ニューレグリン核酸は、ニューレグリン核酸及びニューレグリンオリゴヌクレオチドを包含する。
本明細書で使用される「上皮成長因子様ドメイン」又は「EGF様ドメイン」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4又はそれらの組み合わせに結合して活性化させるニューレグリン遺伝子によってコードされるポリペプチドモチーフをいい、以下に記載されるEGF受容体結合ドメインに構造的相同性を有する:WO 00/64400, Holmesらの文献, Science, 256:1205-1210 (1992); 米国特許第5,530,109号及び第5,716,930号; Hijaziらの文献, Int. J. Oncol., 13:1061 -1067 (1998); Changらの文献, Nature, 387:509-512 (1997); Carrawayらの文献, Nature, 387:512-516 (1997); Higashiyamaらの文献, J. Biochem., 122:675-680 (1997);及びWO 97/09425。当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。ある種の実施態様において、EGF様ドメインは、ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー又はErbB2/ErbB3ヘテロダイマーに結合して活性化させる。ある種の実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-1の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-1のアミノ酸残基177-226、177-237又は177-240に対応するアミノ酸配列を含む。ある種の実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-2の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含む。ある種の実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-3の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含む。ある種の実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-4の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含む。ある種の実施態様において、EGF様ドメインは、米国特許第5,834,229号に記載される
Figure 2012509908
のアミノ酸配列を含む。
本明細書で使用される「タンパク質」は、文脈が他に明示しない限り、「ポリペプチド」又は「ペプチド」と同義である。
本明細書で使用する用語「対象」及び「患者」は、互換的に使用される。本明細書で使用するように、対象は、好ましくは哺乳動物、例えば非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、その他)又は霊長類(例えば、サル及びヒト)、最も好ましくはヒトである。
本明細書で使用される「治療する」、「治療」及び「治療すること」とは、状態、障害又は疾患の症状が寛解されるか又はそうでなければ有益に変えられる任意の様式をいう。当該効果は、疾患若しくはその症状を完全に若しくは部分的に予防する観点から予防的であり得、並びに/又は疾患及び/若しくは該疾患に起因し得る副作用に対する部分的若しくは完全な治癒の観点から治療的であり得る。また、治療は、本明細書において組成物の任意の医薬的使用を包含する。
本明細書で使用される「活性単位」又は「1U」は、50%の最大反応を誘導し得る規格品の量を意味する。換言すれば、所与の活性薬剤の活性単位を決定するためには、EC50を測定しなければならない。例えば、製品のバッチのEC50が0.067μg/mlである場合、1単位であり得る。更に、その製品1μgが使用される場合、14.93U(1/0.067)が使用される。EC50は、当該技術分野において公知の任意の方法により決定でき、下記実施例において発明者により利用された方法を含む。活性単位のこの決定は、遺伝子工学製品及び臨床使用薬剤の品質管理に重要であり、別個の医薬及び/又は異なるロット番号からの製品を均質な基準により定量化することを可能にする。
ある種の実施態様において、ニューレグリンの単位は、キナーゼ受容体活性化酵素結合免疫吸着検定法(KIRA-ELISA)によるニューレグリンの活性測定により決定され、これはWO03/099300及びSadickらの文献, 1996, Analytical Biochemistry, 235:207-14において詳細に記載されており、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。簡潔いうと、該アッセイは、接着乳癌細胞株(MCF-7)におけるニューレグリン誘導性ErbB2の活性化及びリン酸化を測定する。膜タンパク質はトリトンX-100溶解を経て可溶化され、該受容体は、ErbB2特異抗体(例えば、H4)で被覆されたELISAウェルにおいて、ErbB3又はErbB4に対する交叉反応なく捕捉される。受容体リン酸化の程度はその後、抗ホスホチロシンELISAにより定量化される。
本明細書で使用する「心筋形成」とは、先駆細胞又は前駆細胞(precursor cell)の心臓筋細胞(すなわち、心筋細胞)への分化及び心筋組織の増殖をいう。先駆細胞又は前駆細胞は、例えば、胚性幹細胞などの多能性幹細胞であり得る。先駆細胞又は前駆細胞は、心筋系列への前委任(pre-committed)細胞(例えば、前心筋細胞)、又は前委任細胞でない細胞(例えば、多能性(multipotent)成体幹細胞)であり得る。
本明細書で使用する「幹細胞」とは、複数の細胞型へと分化し得る任意の自己複製多能性細胞(pluripotent cell)若しくは多能性細胞(multipotent cell)又は先駆細胞若しくは前駆細胞をいう。本発明の方法の使用に適している幹細胞には、心筋系列(例えば、心筋細胞)の細胞に分化し得る幹細胞を含む。本発明の方法における使用のための適切な幹細胞には、例えば、胚性幹細胞(「ESC」)及び胚性癌腫(「EC」)細胞を含む。多能性胚性幹細胞は、神経細胞、筋細胞、血液細胞、その他を含む全ての型の組織に分化できる。例えば、Spradlingらの文献, 2001 , Nature 414:98- 104を参照されたい。
本明細書で使用する「分化する」又は「分化」とは、どの前駆細胞又は先駆細胞(すなわち、幹細胞)が特定の細胞型(例えば、心筋細胞)へと分化するプロセスをいう。分化した細胞は、その具体的細胞型に関して独特の又は特有のいくつかの特徴により、同定できる。例えば、分化した細胞は、遺伝子発現及びタンパク質発現のそれらのパターンにより同定できる。典型的には、心筋系列の細胞は、例えば、筋節ミオシン重鎖、ミオシン軽鎖2V、eHAND及びANF遺伝子などの遺伝子を発現する。例えば、Smallらの文献, Cell, 110:725-735 (2002); Shinらの文献, Cell, 110:725-35 (2002)を参照されたい。また、典型的には、心筋系列細胞により発現されるのは、MEF2、Nkx2.5又はホメオドメイン転写因子HOPなどの心臓筋細胞特異的転写因子である。例えば、Edmondsonらの文献, Development, 1251-1263 (1994); Linらの文献, Science, 276: 1404-1407 (1997)を参照されたい。心筋細胞分化に関与するさらなる転写因子には、例えばGATA4(Grepinらの文献, Development, 124:2387-95 (1997)を参照されたい。)を含む。当業者は、他の心筋特異的遺伝子を利用して、分化をモニタし、測定できることを認識するであろう。
「心筋細胞マーカー遺伝子」は、心筋細胞の発生により独自に発現されるか、又は他の細胞型によっては極めてまれにしか発現しない遺伝子であり、当該マーカー遺伝子は、細胞が心筋細胞であるかどうかの決定に有用である。心筋細胞マーカー遺伝子の例は、ANF、心筋細胞において主に合成され、いくつかの心筋形成転写要因の下流標的であるポリペプチドホルモンである。
心筋形成を誘導することに関連して本明細書で使用される「固体支持体」とは、幹細胞を培養できる三次元マトリクス又は平坦面をいう。固体支持体は、天然存在型物質(すなわち、タンパク質に基づく)又は合成物質に由来し得る。例えば、天然存在型物質に基づくマトリクスは、例えば、Clokieらの文献, J. Craniofac. Surg. 13(1): 111-21 (2002)、及びIsakssonの文献, Swed. Dent. J. Suppl., 84: 1-46 (1992)に記載される自己由来骨断片又は市販の骨物質から構成され得る。適切な合成マトリクスは、例えば、米国特許番号5,041,138、5,512,474及び6,425,222に記載されている。例えば、生分解性人工ポリマー、例えばポリグリコール酸、ポリオルトエステル又はポリ無水物を固体支持体に使用できる。また、炭酸カルシウム、アラゴナイト及び多孔性セラミック(例えば、高密度ハイドロキシアパタイトセラミック)は、固体支持体における使用に適している。ポリプロピレン、ポリエチレングリコール及びポリスチレンなどのポリマーを固体支持体に使用することもできる。三次元マトリクスである固体支持体上で培養されて分化した細胞は、典型的には、マトリクスの全表面上、例えば内部及び外部で増殖する。平坦な固体支持体上で培養されて分化した細胞は、典型的には、単層で増殖する。
本明細書で使用される「培養する」とは、細胞が増殖及び/又は分化でき、かつ老化を回避できる条件下で細胞を維持することをいう。例えば、本発明において、培養胚性幹細胞は複製し、心筋細胞系列の細胞へと分化できる。細胞は、適当な成長因子、すなわち、心筋細胞の発生を促進又は増強するタンパク質を含む成長因子カクテルを含む増殖培地で培養できる。
(5.2心筋形成を誘導するためのニューレグリンの使用)
本発明は、哺乳動物細胞において心筋形成を誘導する方法を提供する。ある種の実施態様において、本発明の方法は、哺乳動物細胞をニューレグリンと接触させる工程であって、該哺乳動物細胞が心筋系列の細胞へと分化する工程を含む。哺乳動物細胞は、インビボで又はインビトロで、ニューレグリン又はその組成物と接触させることができる。例えば、ニューレグリンは、手術の間に、静脈内投与で、又は直接投与によって、損傷した心筋又は機能不全の心筋に直接投与できる。
(5.2.1心筋形成のインビボ誘導)
ニューレグリンは、インビボで心筋形成を誘導するために使用することができる。ニューレグリンは、哺乳動物細胞の心筋系列の細胞への分化を誘導するのに有効な量で、対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与できる。心筋形成を誘導するその能力に鑑み、ニューレグリンは、急性心疾患の損傷心筋の修復に、及び心筋症などの障害を治療するために有用であると考えられている。いくつかの実施態様において、ニューレグリンを使用して、心筋組織の発生を研究するための心筋細胞を生成することができる。別の実施態様において、ニューレグリンは、損傷し、又は弱った心筋組織の修復又は増大を必要とする対象の治療の間、使用できる。別の実施態様において、ニューレグリンは、損傷していない、又は弱っていない心筋組織の増大又は強化を要求する対象を治療するために使用することができる。当該対象には、例えば、心臓病又は心臓障害の危険がある対象を含み得る。
当業者は、ニューレグリンを単体で使用でき、又は心筋形成を誘導する他の化合物及び治療法と組み合わせて使用できることを認めるであろう。例えば、ニューレグリンは、心筋組織の発生を強化する、精製若しくは合成された成長因子、及びその他薬剤、又はこれらの組み合わせと共に投与できる。
ニューレグリンの有効量は、例えば、その実体、性質、及び該組成物の投与に伴う任意の有害な副作用の範囲;ニューレグリンのEC50;及び、様々な濃度でのニューレグリンの副作用;により決定できる。典型的には、投与されるニューレグリンの量は、約0.001〜約20mg/ kg体重、より典型的には約0.05〜約15mg/kg体重、さらにより典型的には約0.01〜約10mg/kg体重の範囲である。
ニューレグリンは、例えば、静脈内点滴、経口、腹膜内、又は皮下により投与できる。静脈内投与は、投与の好ましい方法である。ニューレグリンの製剤は、単位用量又は複用量密封容器(例えばアンプル及びバイアル)であり得る。
ニューレグリンは、典型的には、個人又は対象への投与前に、医薬として許容し得る担体と共に製剤化できる。医薬として許容し得る担体は、部分的には、投与される具体的組成物、並びに組成物を投与するために使用される具体的方法により、決定される。したがって、本発明の医薬組成物に係る広範な適切な製剤が存在する(例えば、レミントンの薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、第17版、1989を参照されたい。)。
ニューレグリンは、例えば、静脈内点滴、経口、腹膜内、又は皮下などの他の投与経路に適している製剤であってよい。当該製剤には、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び意図された受取人の血液と等張な製剤を与える溶質を含み得る水性及び非水性の等張無菌注射溶液、並びに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を含み得る水性及び非水溶性の無菌懸濁剤を含み得る。注射溶液及び懸濁液は、無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製できる。
対象に投与される用量は、本発明の文脈において、時間とともに患者に有益な治療反応をもたらすのに十分であるべきである。例えば、ニューレグリンが心筋症を治療又は予防するために投与される場合、患者に投与される用量は、リズミカルに収縮する心筋の能力の衰弱を予防し、遅延し、又は逆転させるのに十分であるべきである。用量は、利用される具体的組成物の有効性、及び患者の状態、並びに治療される患者の体重又は体表面積により決定される。用量のサイズも、その実体、性質、及び具体的患者における具体的組成物の投与に伴う任意の有害な副作用の範囲により決定される。
(5.2.2心筋形成のインビトロ誘導)
ニューレグリンは、インビトロで心筋形成を誘導するために都合よく使用できる。ある種の実施態様において、哺乳動物細胞をニューレグリンと接触させ、そこにおいて該哺乳動物細胞は心筋系列の細胞へと分化する。
心筋系列の細胞へと分化する細胞は、任意の適切な哺乳動物に由来し得る。例えば、細胞は、例えば、マウス、ラット、モルモット及びウサギなどの齧歯動物;例えば、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ及びヤギなどの非齧歯哺乳動物;例えば、チンパンジ及びヒトなどの霊長類;から得ることができる。分化する細胞は、初代細胞でよく、又は培養で維持された細胞でもよい。細胞を培養で維持する場合、細胞は典型的には継代12〜15回の培養でニューレグリンと接触させる。本発明の方法における使用のための細胞の初代培養を確立するための技術及び方法は当業者に知られている(例えば、Humasonの文献, 「動物組織の技法(ANIMAL TISSUE TECHNIQUES)」, 第4版., W. H. Freeman and Company (1979)、及びRicciardelliらの文献, In vitro Cell Dev. Biol., 25: 1016 (1989)を参照されたい。)。
NRGに接触される幹細胞は、ヒトの幹細胞、例えば、ヒトの間充織幹細胞(MSC)であり得る。MSCは、多能性間充織幹細胞を骨髄又は他のMSC供給源における他の細胞から単離することによって、得ることができる。骨髄細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨又は他の骨髄腔から得ることができる。ヒトの間充織幹細胞の他の供給源には、胚性卵黄嚢、胎盤、臍帯、胎児及び青年期の皮膚、血液、脂肪組織、及び筋サテライト細胞を含む。典型的には、間充織幹細胞を含む組織試料からの細胞は、(1)分化なく間充織幹細胞増殖を刺激し、(2)基体表面への間充織幹細胞のみの選択的接着を可能にする成長因子を含む増殖培地で培養される。適切な時間で細胞を培養した後、非接着物質は基体表面から除去され、このようにして間充織幹細胞の増殖集団を提供する。従って、均一なMSC集団は、接着性髄又は骨膜細胞の陽性選択によって得られ、これらは造血細胞又は分化した間充織細胞に関連する標識を有しない。
好ましくは、ニューレグリンに接触された哺乳動物細胞は、幹細胞、特に胚性幹細胞(ESC)である。ヒト及び動物のESCの単離のための方法は周知技術である。例えば、Brook F Aの文献, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94:5709-12 (1997); Groundsらの文献, J. Histochem. and Cytochem., 50:589-610 (2002); Reubinoffの文献, Nat. Biotech., 18:399-404 (2000)を参照されたい。哺乳動物胚性幹細胞は、例えば、マウスR1細胞及びヒト胚性幹細胞を含む。
哺乳動物細胞(例えば、ESC)は、単体で、組み合わせで、単一混合物との併用若しくは順次のいずれかで、又は他の成長因子の存在下で、ニューレグリンと接触させることができる。当業者は、ニューレグリン及び成長因子の量が具体的な細胞型の分化を誘導を促進するために調整され得ることを認めるであろう。
細胞は、細胞培養の分野におけるルーチン技術に従って培養できる。適切な細胞培養法及び条件は、公知の方法論を使用して、当業者により決定できる(例えば、Freshneyらの文献, 「動物細胞の培養(CULTURE OF ANIMAL CELLS)」 (第3版、 1994)を参照されたい。)。一般に、細胞培養環境には、細胞増殖、細胞密度及び細胞収縮のための基質、気相、培地及び温度のような因子の考慮を含む。
細胞のインキュベーションは、通常、細胞増殖に最適であることが公知の条件下で実施される。当該条件には、例えば、およそ37℃の温度及びおよそ5%のCO2を含む湿潤雰囲気を含み得る。培養の継続は、所望の結果に応じて、大幅に変更できる。一般に、インキュベーションは、好ましくは、細胞が安定に発現するまで続けられる。増殖は、3Hチミジン取込み又はBrdU標識を使用して都合よく測定される。
プラスチックディッシュ、フラスコ又はローラー瓶は、本発明の方法に従って細胞を培養するのに使用できる。適切な培養容器には、例えば、マルチウェルプレート、ペトリディッシュ、組織培養試験管、フラスコ、ローラー瓶などを含む。
細胞は、細胞型に基づいて経験的に測定される最適密度に増殖し得る。細胞は、典型的には、12〜15回継代され、15回の継代後で廃棄される。
培養細胞は、通常、温度の局所の変動を考慮しながら、適切な温度、例えば、当該細胞が得られる動物の体温を与えるインキュベータ内で増殖させる。通常、37℃は、細胞培養に好ましい温度である。大部分のインキュベータは、ほぼ大気条件に湿潤化される。
気相の重要な構成要素は、酸素及び二酸化炭素である。典型的には、大気酸素圧が、細胞培養に使用される。培養容器は、通常、インキュベータ雰囲気に置かれ、ガス透過性キャップを使用することにより、又は培養容器の封着を抑えることにより、ガス交換を許容する。二酸化炭素は、細胞培地の緩衝剤と共にpH安定化に役割を担い、典型的にはインキュベータに1〜10%の濃度で存在する。好ましいCO2濃度は、典型的には、5%である。
限定細胞培地は、包装され、予め混合された粉末、又は予め滅菌された溶液として利用可能である。一般的に使用する培地の例には、MEM-α、DME、RPMI 1640、DMEM、イスコブ(Iscove)完全培地、又はマッコイ(McCoy)培地を含む(例えば、GibcoBRL/ライフテクノロジーカタログ及びリファレンスガイド;シグマカタログを参照されたい。)。典型的には、MEM-α又はDMEMが、本発明の方法に使用される。限定細胞培養培地には大抵、5〜20%の血清、典型的には熱非働化血清、例えば、ヒト、ウマ、仔ウシ及びウシ胎児血清が補充される。典型的には、10%ウシ胎児血清が、本発明の方法に使用される。培地は、通常、好ましくは約7.2〜約7.4 のpHで細胞を維持するように緩衝される。培地への他の補充物には、典型的には、例えば、抗生物質、アミノ酸、及び糖、並びに成長因子を含む。
(5.2.3心筋形成の検出)
インビボで又はインビトロでのニューレグリンの投与後における心筋形成の誘導は、以下を含むがこれらに限定されない多くの異なる方法により検出できる:心筋細胞特異的タンパク質の発現の検出、心臓筋細胞特異的転写因子の発現の検出、心臓筋機能に必須なタンパク質の発現の検出、及び心臓筋細胞の拍動の検出。
(5.2.4分化心筋細胞の投与)
分化した心筋細胞は、当業者に公知の任意の手段により、対象に投与できる。本発明の一実施態様において、完全な固体支持体(例えば、三次元マトリクス又は平坦面)上の分化した心筋細胞は、例えば外科移植を介して対象に投与できる。あるいは、分化した心筋細胞は、対象への例えば静脈内投与、皮下投与又は腹腔内投与前に、マトリクスからはがす、すなわちプロテアーゼで処理できる。
いくつかの実施態様において、胚性幹細胞は、抽出された後に、心筋系列の細胞への増殖及び分化のためにマトリクスと接触させる。細胞は、治療される対象から抽出でき、すなわち自己由来(これにより、移植の免疫に基づく拒絶を回避する)であり得、又は、第2の対象、すなわち異種由来であり得る。いずれの場合においても、細胞の投与は、適切な免疫抑制性治療と組み合わせることができる。
本発明の方法に従って分化した心筋細胞は、当該技術分野において公知の任意の手段により、対象に投与できる。投与の適切な手段には、例えば、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、及び外科移植を含む。心筋細胞は、例えば心臓の手術の間、直接心筋に注入でき、又は局所的に適用できる。
細胞は、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び意図された受取人の血液と等張な製剤を与える溶質を含み得る水性及び非水性の等張無菌注射溶液、並びに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を含み得る水性及び非水溶性の無菌懸濁剤などの投与に適した製剤であり得る。注射溶液及び懸濁液は、無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製できる。
外科移植について、分化した細胞は、典型的には、完全な固体支持体、例えば三次元マトリクス又は平坦面上に残される。マトリクス又は平坦面は、対象の適当な部位に外科的に移植できる。例えば、心筋組織の部分の交換を必要としている患者は、外科的に移植された完全な固体支持体上の分化した細胞を有し得る。
衰弱若しくは機能不全の心筋細胞の状態の治療又は予防に投与される細胞の有効量を決定することにおいて、医師は、細胞毒性、移植反応、疾患の進行、及び抗細胞抗体の産生を評価する。投与について、本発明の方法に従って分化された心筋細胞は、患者の体重及び全体健康状態に適用する場合の様々な濃度での心筋細胞の副作用を考慮して、心臓筋細胞を対象に提供するのに有効な量で投与できる。投与は、単一用量若しくは分割用量を介して達成できる。
(5.3 ニューレグリン)
任意のニューレグリン(例えば、NRG-1、NRG-2、NRG-3及びNRG-4及びこれらのアイソフォーム)タンパク質、ペプチド又は断片を本発明に使用できる。
ニューレグリン又はNRGとは、ErbB2、ErbB3、ErbB4又はそれらの組み合わせを結合し、及び活性化できるタンパク質又はペプチドをいい、全てのニューレグリンアイソフォーム、ニューレグリン EGFドメイン単体、ニューレグリン EGF様ドメイン、ニューレグリン変異体若しくは誘導体を含むポリペプチド、及び任意の種類のニューレグリン様遺伝子産物を含むがこれらに限定されず、これらも以下に詳細に説明するように上記受容体を活性化させる。好ましい実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー又はErbB2/ErbB3ヘテロダイマーに結合し、活性化させる。本発明に使用されるニューレグリンは、上記ErbB受容体を活性化させ、その生体反応を調節すること、例えば、乳癌細胞分化及び乳タンパク質分泌を促進することができ;神経堤細胞のシュワン細胞への分化を誘導でき;骨格筋細胞におけるアセチルコリン受容体合成を刺激でき;及び/又は、心筋細胞分化、生存及びDNA合成を向上させることができる。受容体結合活性を測定するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。例えば、ErbB-2及びErbB-4受容体を用いてトランスフェクションした細胞を使用できる。受容体発現細胞を過剰量の放射標識ニューレグリンとインキュベートした後、該細胞をペレット化し、結合していない非放射標識ニューレグリンを含む溶液を除去した後、非標識ニューレグリン溶液を添加して放射標識ニューレグリンと競合させる。EC50は、当該技術分野において公知の方法で測定される。EC50は、受容体複合体から50%の結合放射標識リガンドを競合して外し得るリガンドの濃度である。EC50値がより高いほど、受容体結合親和性はより低い。
本発明に使用されるニューレグリンには、当該技術分野において公知の任意のニューレグリン及びそのアイソフォームを含み、ニューレグリン-1(「NRG-1」)、ニューレグリン-1(「NRG-2」)、ニューレグリン-1(「NRG-3」)、及びニューレグリン-4(「NRG-43」)の全てのアイソフォームを含むがこれらに限定されるものではない。NRG-1は、例えば、以下に記載されている:米国特許番号5,530,109、5,716,930及び7,037,888;Lemkeの文献, Mol. Cell. Neurosci. 1996, 7:247-262; Peles及びYardenの文献, 1993, BioEssays 15:815-824, 1993; Pelesらの文献, 1992, Cell 69, 205-216; Wenらの文献, 1992, Cell 69, 559-572, 1992, Holmesらの文献, 1992, Science 256: 1205-1210, Fallsらの文献, 1993, Cell 72:801 -815, Marchionniらの文献, 1993, Nature 362:312-8。当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。NRG-2は、例えば以下に記載されている:Changらの文献, 1997, Nature 387:509-512; Carrawayらの文献, 1997, Nature 387:512-516; Higashiyamaらの文献, 1997, J. Biochem. 122:675-680, Busfieldらの文献, 1997, Mol. Cell. Biol. 17:4007-4014及び国際公開公報WO 97/09425号。当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。NRG-3は、例えばHijaziらの文献, 1998, Int. J. Oncol. 13: 1061 -1067に記載され、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。NRG-4は、例えばHarariらの文献, 1999 Oncogene. 18:2681-89に記載され、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。
本発明に使用されるニューレグリンには、天然存在型ニューレグリンに存在しない1以上のアミノ酸置換、欠失及び/又は付加を含むニューレグリン変異体又は誘導体を含む。好ましくは、置換され、欠失され、又は付加されるアミノ酸の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10アミノ酸である。一実施態様において、当該誘導体は、該ペプチドのアミノ末端又はカルボキシ末端での1以上のアミノ酸欠失、置換又は付加を含む。別の実施態様において、当該誘導体は、該ペプチド長内の任意の残基での1以上のアミノ酸欠失、置換又は付加を含む。例示的なニューレグリン異型はWO2007/06254に記載されており、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。
ある種の実施態様において、アミノ酸置換は、保存的又は非保存的アミノ酸置換であり得る。保存的アミノ酸置換は、極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は関与するアミノ酸残基の両親媒性特性の類似性に基づいてなされる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンを含み;極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンを含み;正荷電(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン及びヒスチジンを含み;及び、負荷電(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。加えて、グリシン及びプロリンは、鎖配向に影響し得る残基である。非保存的置換には、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、それらの生物活性を実質的には変えない保存的アミノ酸置換を有するニューレグリン誘導体である。アミノ酸の適切な保存的置換は、当業者に公知であり、結果として生じる分子の生物活性を変えることなく一般的になされ得る。当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域における1個のアミノ酸置換が生物活性を実質的に変えないことを認識するであろう(例えば、Watsonらの文献「遺伝子の分子生物学(Molecular Biology of the Gene)」, 第4版, 1987, The Benjamin/Cummings Pub. co., p.224を参照されたい。)。
ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンには、非古典的アミノ酸又は化学アミノ酸類似体でのアミノ酸置換を有するニューレグリン変異体又は誘導体を含む。非古典的アミノ酸には、以下のものを含むがこれらに限定されない:一般的アミノ酸のD-異性体、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、γ-Abu、ε-Ahx、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えばβ-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸、Nα-メチルアミノ酸、及び通常のアミノ酸類似体。
本発明に使用されるニューレグリンには、ErbB2/ErbB4又はErbB2/ErbB3ヘテロダイマープロテインキナーゼを結合し、活性化し得るようなニューレグリンホモログ、すなわち、ニューレグリン又はニューレグリンの相互作用ドメインの1つにアミノ酸配列相同性及び/又は構造類似性を示すポリペプチドを含む。典型的には、未変性タンパク質のタンパク質ホモログは、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、85%、86%、87%、88%又は89%、さらにより好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%又は94%、及び最も好ましくは95%、96%、97%、98%又は99%未変性タンパク質に同一であるアミノ酸配列を有し得る。
この文脈でのパーセント相同性は、配列を整列配置し、必要に応じてギャップを導入し、最大パーセント配列相同性を達成した後の、当該ペプチドの対応するアミノ酸残基に同一である(すなわち、当該配置の所与の位置でのアミノ酸残基が同じ残基である)、又は類似している(すなわち、上記のように、当該配置の所与の位置でのアミノ酸置換が保存的置換である)候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージを意味する。ある種の実施態様において、ニューレグリンホモログは、天然存在型ニューレグリン配列との当該パーセント配列同一性又はパーセント配列類似性により、特徴づけられる。配列同一性及び類似性のパーセンテージを含む配列相同性は、当該技術分野に周知の配列整列配置技術、好ましくは本発明の目的のために設計されたコンピュータアルゴリズムを使用し、前記コンピュータアルゴリズム又はそれを含むソフトウェアパッケージのデフォルトパラメータを使用して、決定される。
コンピュータアルゴリズム及び当該アルゴリズムを組み込んでいるソフトウェアパッケージの非限定的な例には、以下のものを含む。BLASTファミリーのプログラムは、2つの配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの好ましい非限定的な例を例証する(例えば、Karlin及びAltschulの文献, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268 (Karlin及びAltschulの文献により修正された, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873- 5877), Altschulらの文献, 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410, (NBLAST及びXBLASTを記載), Altschulらの文献, 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (Gapped BLAST及びPSI- Blastを記載)を参照されたい。)。別の好ましい例は、Myers及びMillerのアルゴリズムであり(1988 CABIOS 4: 11-17)、これは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれ、GCG配列整列ソフトウェアパッケージの一部として利用できる。ウィスコンシン配列解析パッケージの一部として利用できるFASTAプログラム(Pearson W.R.及びLipman D.J.の文献, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 85:2444-2448, 1988)も好ましい。さらなる例には、2つの配列間の類似性が最高の1つの領域を見つけ出すSmith及びWatermanの「局所相同」アルゴリズム(Advances in Applied Mathematics, 2:482-489, 1981)を使用し、かつ比較されている当該2つの配列が長さにおいて異なる所で好ましい、BESTFIT;及び、Needleman及びWunschのアルゴリズム(J. Mol. Biol. 48:443-354, 1970)による「最大の類似性」を見つけ出すことにより2つの配列を整列配置し、かつ当該2つの配列がほぼ同じ長さであり、配列が該全ての長さに渡って予測される所で好ましい、GAP;を含む。
ホモログの例は、動物、植物、酵母、細菌などを含む他の種のオルソログタンパク質であり得る。ホモログは、例えば、未変性タンパク質における突然変異誘起により選択されることもできる。例えば、ホモログは、タンパク質-タンパク相互作用を検出するためのアッセイと組み合わせて、部位特異的突然変異誘起により同定できる。追加的な方法、例えば、タンパク質アフィニティークロマトグラフィ、親和性ブロッティング、インビトロ結合実験などは、本発明を知っている当業者に明らかであろう。
2つの異なる核酸又はポリペプチド配列を比較する目的のために、1つの配列(試験配列)は、本明細書で開示される別の配列(参照配列)「に(具体的)パーセント同一」であると記載できる。この点に関し、試験配列の長さが参照配列の長さの90%未満の場合、パーセント同一性は、Myers 及びMillerの文献、Bull Math. Biol, 51 :5-37 (1989)並びにMyers及びMillerの文献, Comput. Appl. Biosci., 4(1):11-17 (1988)のアルゴリズムにより決定される。具体的には、同一性は、ALIGNプログラムにより決定される。デフォルトパラメータを使用できる。
試験配列の長さが参照配列の長さの少なくとも90%である場合、パーセント同一性は、Karlin及びAltschulの文献, Proc. Natl. Acad. ScL USA, 90:5873-77 (1993)(これは様々なBLASTプログラムに組み込まれている。)により決定される。具体的には、パーセント同一性は、「BLAST 2 Sequences」ツールにより決定される。Tatusova及びMaddenの文献, FEMS Microbiol. Lett., 174(2):247-250 (1999)を参照されたい。ペアワイズDNA-DNA比較のために、BLASTN 2.1.2プログラムが、デフォルトパラメータ(マッチ: 1 ; ミスマッチ: -2; オープンギャップ: 5ペナルティ;エクステンションギャップ: 2ペナルティ;ギャップx_ドロップオフ: 50;エクスペクト: 10;及び、文字サイズ: 11、フィルタ使用)を用いて使用される。ペアワイズタンパク質-タンパク質配列比較のために、BLASTP 2.1.2プログラムは、デフォルトパラメータ(マトリクス: BLOSUM62;ギャップオープン: 11 ;ギャップエクステンション: 1 ; x_ドロップオフ: 15;エクスペクト: 10.0;及び、文字サイズ: 3、フィルタ使用)を使用して利用される。
本発明に使用されるニューレグリンには、ニューレグリン EGFドメイン単体、ニューレグリンの活性を模倣するニューレグリン EGFドメイン又はニューレグリン様遺伝子産物を含むポリペプチドを含み、これはErbB2、ErbB3、ErbB4若しくはそれらの組み合わせを結合して活性化させる。本明細書で使用される「上皮成長因子様ドメイン」又は「EGF様ドメイン」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4又はそれらの組み合わせに結合して活性化させるニューレグリン遺伝子によりコードされるポリペプチドモチーフをいい、以下に記載されるEGF受容体結合ドメインに構造的相同性を有する:WO 00/64400, Holmesらの文献, Science, 256:1205-1210 (1992); 米国特許第5,530,109号及び第5,716,930号; Hijaziらの文献, Int. J. Oncol., 13:1061 -1067 (1998); Changらの文献, Nature, 387:509-512 (1997); Carrawayらの文献, Nature, 387:512-516 (1997); Higashiyamaらの文献, J. Biochem., 122:675-680 (1997);及びWO 97/09425。当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。
ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、NRG-1によりコードされるEGF様ドメインを含む。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-1の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-1のアミノ酸残基177-226、177-237又は177-240に対応するアミノ酸配列を含む。
好ましい実施態様において、本発明に使用するニューレグリンは、
Figure 2012509908
のアミノ酸配列を含み、これはヒトNRG-1のアミノ酸177〜237に対応する。該断片をコードするヒトの核酸配列は、以下の通りである。
Figure 2012509908
ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、NRG-2によりコードされるEGF様ドメインを含む。ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、NRG-3によりコードされるEGF様ドメインを含む。ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、NRG-4によりコードされるEGF様ドメインを含む。ある種の実施態様において、本発明に使用されるニューレグリンは、米国特許第5,834,229号に記載される
Figure 2012509908
のアミノ酸配列を含む。
本発明の方法における投与のためのニューレグリンは、当業者にとって明らかな任意のニューレグリン製剤又は組成物であり得る。例示的な医薬製剤及び組成物は、例えば米国特許第7,226,907号、米国特許第5,367,060号、WO 94/026298、WO 03/099300に記載され、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。
ニューレグリンは、後述するように、当業者に明らかな任意の方法によって調製でき、製剤化でき、対象に投与できる。
(5.3.1 ニューレグリンの調製)
ニューレグリンは、当業者に明らかな任意の技術に従って調製できる。ニューレグリンの調製の例示的技術は、例えば、米国特許第7,226,907号、米国特許第5,367,060号、WO 94/026298、WO 03/099300に記載され、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。ある種の実施態様において、ニューレグリンは、例えば液相又は固相ペプチド合成により、合成的に調製できる。Merrifieldの文献, 1963, J. Am. Chem. Soc. 85:2149; Fieldsらの文献, 1990, Int J Pept Protein Res. 35:161-214; Fieldsらの文献, 1991 , Pept Res. 4:95-101を参照されたく、当該内容は引用によりその全てが本明細書に組み込まれる。
更なる実施態様において、ニューレグリンは、天然供給源、組換え供給源又は商業的供給源から得ることができる。いくつかの実施態様において、ニューレグリンは、プロコリパーゼを組換え的に発現させ、プロコリパーゼを切断してニューレグリンを産生し、それからニューレグリンを精製することにより、得ることができる。
本発明に使用されるニューレグリンは、高性能液体クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィなどの任意の公知技術により精製できる。特定のニューレグリンを精製するために使用される実際の条件は、当業者に明らかであろう。
(6. 実施例)
(6.1 実施例1:心臓の再生におけるニューレグリンの効果)
(実験方法)
1. マウス左心室冠状動脈結紮及び超音波心臓検査
体重200±20gのウィスター雄ラット(Shanghai Animal Center of Chinese Academy of Science)は、100mg/kgのケタミン(薬剤/体重)を腹腔内注入することにより、麻酔した。頸部及び胸部を脱毛し、清潔にした。前部中央頸部に切傷をつけ、気管を露出させた。18Gカテーテルオーバーニードルを、気管の3番目と5番目の軟骨の間の気管に嵌入した。針を引き出した後、プラスチックカニューレを1〜2cm気管に押し出し、齧歯動物ベンチレータ(SAR-830/Pベンチレータ-吸入流速、1ml/100g/呼吸;呼吸速度、60呼吸/分)を固定し連結した。別の切傷を、左前面胸部につけた。皮膚を鈍的切開して4及び5本目の肋骨を露出させ、4本目の肋骨を湾曲モスキート鉗子で切った。ベンチレータ(上記の通り)をカニューレに連結し、電源をつけ、心臓は肺及び心臓の状態を調べるために露出した。心臓を切開により外面化した後、心膜を裂いて、左心房及び肺動脈錐体を同定した。当該間の左心室冠動脈前下行枝を6/0の医学縫合できつく結紮した後、心臓を胸郭に置き換える。胸郭壁を縫合した。ベンチレータは、肺を十分に満たすようブロックした。胸筋及び皮膚は、胸腔内空気を穏やかに搾り出した後に縫合した。ベンチレータは、継続的自発呼吸が再開するまで、マウスから外した。
ラットの心機能はそれから、結紮後14日目の超音波心臓検査(Philips Sonos 7500 S4 probe)により検査した。30〜50パーセントの駆出分画(以下「EF」)値を有するラットを分離し、分類した(群につき15匹のラット)。
(結果)
当該ラットは、必要なビヒクル又はNRGの量を決定するために、左心室冠状動脈結紮後15日目に秤量した。ビヒクル群のラットは、静脈注射で0.4ml/100g(量/体重)のビヒクル(10mM Na2HPO4-NaH2PO4、150mM NaCl、0.2% HSA(ヒト血清アルブミン)、5% マンニトール、pH 6.0)を受け、ニューレグリン群のラットは、静脈注射で0.4ml/100g(量/体重)のニューレグリン(1.625μg/ml、これは約24.26U/mlである)を受けた。ビヒクル又はニューレグリンは、5日間にわたって1日1回注入し、2日間止め、その後さらに5日間注入した。その後、全てのラットの心機能を、超音波心臓検査(Philips Sonos 7500 S4 probe)で再び調べた。
さらに2日後、ラットを3〜5mlの10% KClの静脈注射で屠殺し、それから心臓を摘出して洗浄した後、10% ホルマリンで15〜20分間固定した。それから心臓を秤量し、更に切片化し(Leica, BM2135)、ヘマトキシリン-エオシンで染色した後、撮像した(1.5×)。
図1の染色された心臓切片の画像に示すように、図1c又は1d(ニューレグリンで処理した梗塞心臓)の梗塞面積は、図1a又は1b(ビヒクルで処理した梗塞心臓)の梗塞面積よりかなり小さい。ニューレグリン(12.30±4.6)で処理した損傷した心臓についての梗塞面積(100%×梗塞面積/総面積)の平均パーセンテージも、ビヒクル(17.87±4.7)で処理した損傷した心臓についての梗塞面積よりも小さい。これは、ニューレグリンが損傷した心臓の脈管形成及び組織再生を誘導することを実証する。
本発明の範囲は、本実施例の説明によっては制限されない。本発明の修飾及び変更は、本発明の範囲及び趣旨を逸脱しない範囲で、当業者に明らかであろう。それゆえ、本発明の範囲が、例証として示された具体的実施例によってというよりむしろ、添付の請求の範囲により定義されることは、明らかであろう。

Claims (26)

  1. 心筋形成を誘導する方法であって、哺乳動物細胞をニューレグリンと接触させることを含み、これにより該哺乳動物細胞が心筋系列の細胞へと分化する、前記方法。
  2. 前記ニューレグリンが、ニューレグリン 1、ニューレグリン 2、ニューレグリン 3又はニューレグリン 4である、請求項1記載の方法。
  3. 前記ニューレグリンが、EGF様ドメインを含む、請求項1記載の方法。
  4. 前記ニューレグリンが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1記載の方法。
  5. 前記ニューレグリンが、医薬として許容し得る担体にある、請求項1記載の方法。
  6. 前記哺乳動物細胞が、哺乳動物にある、請求項1記載の方法。
  7. 前記接触工程が、前記哺乳動物へのニューレグリンの静脈内投与による、請求項6記載の方法。
  8. 哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化を検出することを更に含む、請求項1記載の方法。
  9. 前記哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化が、心筋細胞マーカー遺伝子の発現を検出することにより検出される、請求項8記載の方法。
  10. 前記哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化が、心臓筋細胞特異的転写因子の発現を検出することにより検出される、請求項8記載の方法。
  11. 前記哺乳動物細胞の心筋系列細胞への分化が、心臓特異的遺伝子の発現を検出することにより検出される、請求項8記載の方法。
  12. 前記哺乳動物細胞が、胚性幹細胞である、請求項1記載の方法。
  13. 前記哺乳動物細胞が、霊長類胚性幹細胞である、請求項1記載の方法。
  14. 前記哺乳動物細胞が、ヒト胚性幹細胞である、請求項1記載の方法。
  15. 前記哺乳動物細胞が、心筋形成促進タンパク質と更に接触される、請求項1記載の方法。
  16. 前記心筋形成促進タンパク質が、心筋形成に関与する成長因子である、請求項15記載の方法。
  17. 前記哺乳動物細胞が、固体支持体に接着している、請求項1記載の方法。
  18. 前記固体支持体が、三次元マトリクスである、請求項17記載の方法。
  19. 心筋障害を治療する方法であって、哺乳動物細胞をニューレグリンと接触させ、これにより前記哺乳動物細胞が心筋系列の細胞へと分化する、前記方法。
  20. 前記ニューレグリンが、ニューレグリン 1、ニューレグリン 2、ニューレグリン 3又はニューレグリン 4である、請求項19記載の方法。
  21. 前記ニューレグリンが、EGF様ドメインを含む、請求項19記載の方法。
  22. 前記ニューレグリンが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項19記載の方法。
  23. 前記心筋障害が、損傷心筋に関連する、請求項19記載の方法。
  24. 前記心筋障害が、心不全である、請求項23記載の方法。
  25. 心筋系列細胞の障害を有する個人への投与を更に含み、これにより該障害を治療する、請求項19記載の方法。
  26. 前記投与が、外科移植による、請求項25記載の方法。
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