JP2012255269A - 耐震スリット材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】変形復帰性、断熱性、耐火性等における問題点を一挙に解決できる耐震スリットを提供する。
【解決手段】建造物のセメント打設時に壁体相互や壁体と柱体等の間に配設して耐震スリット施工にするのに使用する耐震スリット材13は、セメント(水硬性無機質結合剤)と、合成高分子製の発泡ビーズ(球状体)とを、他の副資材とともに混合してなるスラリー組成物の硬化成形体である。該硬化成形体は、圧縮試験(「独立行政法人都市再生機構」制定の「機材の品質判定基準(平成20年5月版);スリット材の性能試験方法」)の変形復帰性が83%以上を示す。
【選択図】図1

Description

本発明は、耐震スリット材及びその製造方法に関する。耐震スリット材とは、コンクリート建造物におけるコンクリートとコンクリートとの間に部分的又は全面的に埋設して地震発生時の衝撃を緩和するために使用するものである。
上記のような耐震スリット材に関する先行技術文献として、例えば、特許文献1等が存在する。以下、特許文献1の一部を引用する(段落0002〜0004)。
「従来、鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリート等のコンクリート建造物では、地震が作用したときの層間変位に対する力学的な不連続部を形成する目的で、各種の耐震用スリット材が使用されている。すなわち、腰壁、垂れ壁、袖壁等の壁部(非構造壁)と、これに連なる柱部との境界部付近には、垂直スリット材が設置される。また、建造物の上層階の壁部と下層階の梁部との間には、同様に水平スリット材が設置される。これらの耐震用スリット材は、適宜の支持部材を介して境界部分の壁部を貫通もしくは所定の壁厚を残した状態で埋設されることにより、柱部と壁部を構造力学的に分離するものである。そして、地震力に対して設定される骨組の全体降伏機構に非構造壁が影響しないようにしている。
この種の耐震用スリット材は、地震時に緩衝材として作用する必要があるため、例えば指で押して潰れる程度の適度な柔らかさと、地震が終わったときに元の形状に復元可能な適度な弾力性を有することが不可欠である。これに加え、火災時には延焼を防止するための防火隔壁としての機能も求められる。すなわち、火災により高温に曝されたとき、耐震用スリット材が溶融あるいは燃焼などにより消失し、上記境界部分に空隙部が形成されると、他側への延焼の重大な原因になるので、耐震用スリット材には十分な耐火性が要求されている。さらに、火災で加熱されたときに背面側が高温にならないように十分な断熱性能も求められる。
ところで、これらの各性能を単独で満足する適当な素材が存在しなかったことから、近年では発泡ポリエチレン板、発泡ビーズ板などの耐火能力を有さない熱可塑性樹脂からなる発泡合成樹脂板と、各種の耐火材を組み合わせて適用するのが主流になっている。」
さらに、特許文献1段落0006には、従来技術の問題点として、「壁厚方向の一部であってもケイ酸カルシウム板等の弾力性に欠ける耐火材が存在するので、地震の作用によりそれら耐火材が変形したまま元に戻らず(変形復帰性に欠ける。;引用者注記)、その結果、設置場所に隙間が生じやすく、所期の耐火機能を維持できない恐れがあった。さらに、ケイ酸カルシウム板等の無機材料からなる耐火材は、合成樹脂発泡体に比べて断熱性能が劣る欠点があった。」と記載されている。
そして、それらの問題点(課題)を解決するために、特許文献1では、フェノール樹脂発泡体をベースとする耐震スリット材を提案している(特許請求の範囲)。
特開2005−54371号公報
本発明は、上記特許文献1におけるのと同様、従来の変形復帰性、断熱性、耐火性等における問題点を一挙に解決できる新規な構成の耐震スリット材及びその製造方法を提供することを目的とする。
そこで、本発明者らは、セメント(水硬性無機質結合剤)に着目して、鋭意開発に努力をした結果、下記構成とすれば、上記課題を解決できることを知見して、本発明の耐震スリット材に想到した。
セメント(水硬性無機質結合剤)と、合成高分子製の発泡ビーズの集合体(以下「発泡ビーズ粒体」)とを、副資材とともに混合してなるスラリー組成物の硬化成形体であって、該硬化成形体は、圧縮試験(「独立行政法人都市再生機構」制定の「機材の品質判定基準(平成20年5月版);スリット材の性能試験方法」)の変形復帰性が83%以上を示すことを特徴とする。
上記スリット材を形成する硬化成形体は、無数の相互に連通する粒状空隙からなる粒状空隙群を有している。
粒状空隙群は、通常、成型時に形成され、色々な大きさで色々な形状のものが混在している。
前記硬化成形体の粒状空隙群の含有率指標は、後述の試験例の如く、水に完全に沈みこませて測定する吸水率とする。このときの吸水率は、10〜60%が好ましい。吸水率が低いと軽量化の観点から耐震スリット材の施工時の取り扱い性が悪くなる。このため吸水率は、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。一方、吸水率が高いと座屈しやすくなるので変形復帰性が低下するおそれがあるとともに、火災の際、耐震スリット材に亀裂が発生しやすくなり、該亀裂から火炎が噴出するおそれがある。このため吸水率は、55%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましい。
なお、「無機質結合剤」は、本来的にそれ自身耐火性を有して耐火材として使用されるが、特許文献1の従来技術に記載の如く、「耐震スリット材」に要求される「変形復帰性」が確保できないため、無機質結合剤をベースとする組成物で「耐震スリット材」全体を形成することは困難視されていた。
上記構成において、発泡ビーズ粒体として、一置換エチレンモノマー重合体(ビーズ重合体)及び/又は一置換エチレンモノマーをゴム系重合体に対してグラフトさせた重合体からなるものが望ましい。上記一置換エチレンモノマーをスチレン又はプロピレンとするPS系又はPP系重合体からなる発泡ビーズ粒体を用いた耐震スリット材が変形復帰性に優れている。
なお、上記各構成において、発泡ビーズ粒体の粒径が1〜10mm(さらには2〜8mm)であるとともに密度約0.015〜0.035g/cm3(さらには約0.016〜0.027g/cm3)であるものを使用することが望ましい。耐震スリット材製造(成形)時の分散性および断熱性を確保し易く、耐震スリット材の変形復帰性を確保し易い。
また、上記各構成において、発泡ビーズの種類等により若干変動するが、前記セメント100部に対して発泡ビーズ粒体5〜25部(さらには6〜20部、よりさらには8.5〜11.5部)配合することが望ましい。発泡ビーズ粒体の配合量が少ないと、耐震スリット材に変形復帰性、断熱性を得難い。逆に、発泡ビーズ粒体の配合量が多いと、セメント不足で耐震スリット材が脆くなりやすく(繊維状強化材である程度は補完できる。)、また、火災発生時に加熱されてビーズが燃焼乃至融解して耐震スリット材の強度が低下する。
さらに、上記各構成において、スラリー組成物における発泡ビーズ粒体として極性樹脂エマルション、例えば、耐アルカリ性(セメント自体アルカリ性)に優れたアクリル樹脂エマルションで表面処理したものを使用することが望ましい。耐震スリット原料であるスラリー組成物の分散性が良好となり、強度的、変形復帰性等において安定した品質の耐震スリット材を得易くなる。
上記各構成において、スラリー組成物には、副資材として繊維状強化材を含有させることが望ましい。繊維状強化材を含有させることで変形復帰後(地震が終わったとき)にも形状を保てるようになる。すなわち、繊維状強化材を入れると、耐震スリット材が変形復帰する際の破損のおそれを低減できる。
また、本発明に係る耐震スリット材の製造方法は、下記構成となる。
圧縮試験の変形復帰性が83%以上を示す耐震スリット材の製造方法であって、
水硬性無機質結合剤と、合成高分子製の発泡ビーズ群とを、他の副資材および水とともに混合してなるスラリー組成物を硬化させて任意の形状に成形乃至成型して製造することを特徴とする。
耐震スリット材の施工態様の説明用部分斜視図である。 同じく施工後、型枠を外した状態を示す説明用断面図である。 耐火性能の試験に用いた試験装置断面図(A)および試験体平面図(B)である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。配合単位を示す「部」および「%」は特に断らない限り、質量単位とする。
本発明の耐震スリット材は、セメント(水硬性無機質結合剤)と、合成高分子製の発泡ビーズ粒体とを、副資材とともに混合してなるスラリー組成物を硬化させて、圧縮試験(「独立行政法人都市再生機構」制定の「機材の品質判定基準(平成20年5月版);スリット材の性能試験方法」)の変形復帰性が83%(望ましくは、85%、さらに望ましくは88%)以上を示すものである。
この耐震スリット材は、発泡ビーズ粒体として、一置換エチレンモノマーの重合体(ビーズ重合体)及び/又は一置換エチレンモノマーをゴム系重合体に対してグラフトさせた重合体からなるものを使用することが望ましい。
例えば、スチレンやプロピレンの重合体を使用する。スチレンやプロピレンの重合体からなる発泡ビーズ粒体は、他の樹脂に比して軽量であるとともに、断熱性にも優れる。このため、耐震スリット材の軽量化および断熱性を確保し易い。
さらに、分散相を形成する発泡ビーズ粒体をPS系やPP系とすることにより、母相を形成するセメントスラリーとの密着がよいことによって、所要の曲げ強度を確保し易い。
ここで、「セメントスラリー」とは、セメントと水および液状副資材(増粘剤、起泡剤、アクリル樹脂エマルション等)からなる主として母相を形成するスラリー体をいう。また、「スラリー組成物」とは、該セメントスラリーに、さらに、主として分散相を形成する発泡ビーズ粒体その他の固状副資材(中空樹脂微粒体、繊維状強化材等)を含んだ全成分からなるスラリーをいう。
また、この耐震スリット材には、相互に連通する無数の粒状空隙からなる粒状空隙群を含有させることが望ましい。この粒状空隙群を含有させることで、密度を小さくできるとともに、断熱性に優れたものとし易い。
耐震スリット材にこの粒状空隙群を含有させるには、1)スラリー組成物の調製時に起泡剤を含有させる、2)成形直前のスラリー組成物を機械的攪拌して空気を混入させる、の一方又は双方により対応できる。
前記粒状空隙群の粒状空隙の個別大きさは、平均直径(算術平均)において0.02〜5.0mm、さらには0.1〜2.0mm、よりさらには0.3〜1.0mmの各範囲にあることが望ましい。粒状空隙の平均直径がこれらの範囲にあることによって、より断熱性に優れ、しかも、十分な曲げ強度や圧縮強度を有する耐震スリット材を得ることができる。前記粒状空隙の平均直径が小さすぎると、十分な断熱性向上効果を得難い。逆に、前記粒状空隙の平均直径が大きすぎると、耐震スリット材の曲げ強度や圧縮強度が不足して、耐震スリット材が脆くなり易い。
また、前記耐震スリット材の密度は、0.1〜1.0g/cm3、さらには0.15〜0.7g/cm3、よりさらには、0.15〜0.4g/cm3の各範囲あることが望ましい。密度をこの範囲にすることによって、より断熱性に優れ、しかも、十分な曲げ強度や圧縮強度を有する耐震スリット材を調製し易くなる。前記密度が小さいと、耐震スリット材に所要の曲げ強度や圧縮強度を得難くなる(耐震スリット材が脆くなり易い。)。逆に、前記密度が大きいと、断熱性向上効果を得難くなるとともに、所要の変形復帰性も得難くなる。
次に、前記耐震スリット材を形成するスラリー組成物の各成分について述べる。
前記セメント(水硬性無機質結合剤)としては、水と水和反応をして硬化する水硬性物質を使用する。
例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、白色ポルトランドセメント、超微粒子セメント、高ビーライト系セメント、超速硬セメント、アルミナセメント、エコセメント等の各種セメントが挙げられる。また、アルカリ性雰囲気で水硬性を呈するものや、アルカリ性物質と反応して水和物を生成する潜在水硬性物質である、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、珪藻土、シリカダスト、及び籾殻灰等を使用することもできる。
これらのセメントは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
前記発泡ビーズ粒体は、ビーズ状(略球形)の合成樹脂製の発泡ビーズ粒体であれば、特に限定されないが、該発泡ビーズ粒体の残留歪みが32%以下、さらには28%以下、よりさらには20%以下を示すものが望ましい。32%を超えると耐震スリット材の変形復帰性が低下するおそれがある。残留歪みの下限は、0%でもよいが剛性が高すぎるとセメントとのなじみがなくなりセメント部分が座屈することから5%以上が望ましい。
通常、一置換エチレンモノマーの重合体(ビーズ重合体)及び/又は一置換エチレンモノマーをゴム系重合体に対してグラフトさせた重合体を用いる。セメントとの相性が良好で、所要の曲げ強度および変形復帰性を得易いためである。
特に、一置換エチレンモノマーがスチレン又はプロピレンであるポリスチレン(PS)系又はポリプロピレン(PP)系の重合体(発泡ビーズ粒体)を使用することが、望ましい。耐震スリットの変形復帰性を確保し易いためである。
具体的には、発泡PSビーズ(EPS)、発泡PPビーズ(EPP)、さらには、ゴム系重合体にスチレンやプロピレンをグラフトさせた耐衝撃PSビーズ(HIPS)、耐衝撃PPビーズ(HIPP)、等を挙げることができる。
上記一置換エチレンモノマー重合体としては、ポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン(単独重合体)、耐衝撃性ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂の中でも、強度と柔軟性のバランスに優れており、且つ発泡粒子をつぶしても元の形状に戻りやすい等の観点から、ポリオレフィン系樹脂、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂であることが好ましい。
本発明において言う上記ポリオレフィン系樹脂とは、次の(a)〜(e)のいずれかに該当するものである。
(a)エチレン及び、プロピレン、ブテン等のα−オレフィン(以下、これらを併せて単にオレフィンという。)の単独重合体。
(b)2種以上の選択されたオレフィンの共重合体。
(c)オレフィンと他のモノマー成分とからなる共重合体であって、且つオレフィン単位成分比率が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の共重合体。
(d)上記(a)、(b)及び(c)の群から選ばれた2種以上の混合物。
(e)上記(a)、(b)及び(c)の群から選ばれた1種又は2種以上と、上記(a)、(b)及び(c)とは異なる他の合成樹脂成分又は/及び他の合成エラストマー成分との混合樹脂組成物であって、該組成物中のオレフィン成分単位比率が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の混合樹脂組成物。
特に、耐震スリット材に用いる発泡ビーズ粒体の基材樹脂としては、上記ポリオレフィン系樹脂からなるものの中でも、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は強度に優れ、例えばポリエチレン系樹脂からなるものに比べて同じ強度をより軽量で実現できるために好ましい。
本発明において言う上記ポリプロピレン系樹脂とは、次の(f)〜(i)のいずれかに該当するものである。
(f)ポリプロピレン(単独重合体)。
(g)プロピレンと他のモノマー成分とからなる共重合体であって、且つプロピレン単位成分比率が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の共重合体。
(h)上記ポリプロピレン及び(g)の群から選ばれた2種以上の混合物。
(i)上記ポリプロピレン及び(g)の群から選ばれた1種又は2種以上と、上記ポリプロピレン及び(g)とは異なる他の合成樹脂成分又は/及び他の合成エラストマー成分との混合樹脂組成物であって、該組成物中のプロピレン成分単位比率が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の混合樹脂組成物。
本発明において言う上記耐衝撃性ポリスチレン系樹脂とは、次の(j)〜(l)のいずれかに該当するものである。
(j)スチレンとゴム系成分とからなる共重合体であって、且つゴム成分比率が5〜30%とすることが好ましい。5%未満の場合では、変形復帰性を有する耐震スリット材が得られないおそれがある。一方30%を超える場合には使用量に見合う荷重に対する回復性(変形復帰性)の向上が見られないおそれがある。なお、更に好ましくは7〜20%の共重合体。
(k)ポリスチレン及び(j)の群から選ばれた2種以上の混合物。
(l)ポリスチレン及び(j)の群から選ばれた1種又は2種以上と、ポリスチレン、(j)及び(k)とは異なる他の合成樹脂成分又は/及び他の合成エラストマー成分との混合樹脂組成物であって、該組成物中のスチレン成分単位比率が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上の混合樹脂組成物。
前記ゴム系成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマー成分が挙げられる。好ましくは、ブタジエンモノマー成分である。
発泡ビーズ粒体は、平均粒径(JIS標準篩;算術平均):1〜10mm、さらには2〜8mmであって、密度0.015〜0.035g/cm3、さらには密度0.016〜0.027g/cm3であるものを使用することが望ましい。
平均粒径が小さいと、耐震スリット材の製造時に、発泡ビーズがセメントスラリーから受ける圧力で収縮したり、発泡ビーズの比表面積が大きくなり、セメントスラリーが発泡ビーズ表層の気泡内に侵入したりし易くなる。このため、耐震スリット材の変形復帰性および断熱性を確保し難くなる。
逆に、平均粒径が大きいと、セメントスラリー中において発泡ビーズが受ける浮力が大きくなる。このため、発泡ビーズ粒体等を混入してスラリー組成物を調製するに際して、発泡ビーズ粒体を均等に分散させることが困難になる。発泡ビーズ粒体が均等に分散されないと、耐震スリット材の曲げ強度や圧縮強度のばらつきが大きくなってしまう。また発泡ビーズの比表面積が小さくなることで、発泡ビーズとセメント(母相)の密着性が低下し、十分な曲げ強度が得られないおそれがある。
また、密度が小さいと耐震スリット材に所要の変形復帰性及び密度・断熱性を得難く、発泡倍率が大きい(密度が小さい)と耐震スリット材に所要の強さ(圧縮強さ、曲げ強度)を得難くなる。
発泡ビーズは、粒子形状が略球形であることにより、非球形の発泡粒体では得られない下記作用・効果を奏する。
1)スラリー組成物の調製時に、発泡ビーズ粒体を混入させやすくなって、スラリー組成物中に容易に分散させることができ、耐震スリット材の変形復帰性の向上に寄与する(表1の実施例5と比較例1)。
2)発泡ビーズ粒体を分散させたスラリー組成物の流動性がよくなって、耐震スリット材の製造時において、前記スラリー組成物を型に流し込む作業性が向上する。
また、上記発泡ビーズ粒体は、セメントスラリーとの結合性の見地から、結合性合成樹脂の分散液(エマルション、サスペンション、溶液を含む。)で表面処理したものを使用することが望ましい。通常、発泡ビーズ100部に対して結合性合成樹脂(固形分)で10〜40部、さらには15〜25部が望ましい。
上記結合性合成樹脂としては、通常、セメントと混合して用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの結合性合成樹脂を形成する単量体(モノマー)の2以上を共重合させて用いてもよい。
これらの内でアクリル樹脂系エマルションが望ましい。耐アルカリ性、耐水性に優れているとともに、発泡ビーズとの密着性が良好であるためである。
前記起泡剤としては、通常、コンクリート用の化学混和剤(AE剤、AE原水剤と称されるもの)や、塗料用に使用されているポリエチレングリコール系界面活性剤を好適に使用できる。ポリエチレングリコール系のものは、従来、セメント用混和剤としては汎用のものではない。
起泡剤は、発泡ビーズ粒体をセメントスラリー中に分散させ、且つセメントスラリー中に微細気泡を発生させたり、スラリー組成物を機械的に攪拌するときに適度な気泡を取り込み易くしたりするとともに、耐震スリット材(硬化成形体)に粒状空隙群を生成させるために用いるものである。
これらの起泡剤は、耐震スリット材の製造に際して、セメントスラリー中に微細気泡を発生させて、セメントスラリー中への発泡ビーズ粒体の分散性を確保するとともに、前述の粒状空隙群を耐震スリット材(硬化成形体)に粒状空隙群を生成させるために配合(添加)する。セメントスラリー中に空気を混入させることにより、セメントスラリーの見掛け密度が小さくなって、セメントスラリーと発泡ビーズとの密度差が小さくなることにより、発泡ビーズ粒体の分散性を確保すると考えられる。
なお、前記耐震スリット材における起泡剤(界面活性剤)の配合量は、セメント100部に対して、0.1〜5部、さらには、0.3〜3部、よりさらには、0.5〜1.5部であることが望ましい。
配合量がこれらの範囲にあれば、上記の如く、セメントスラリー中に微細気泡が形成されて、セメントスラリー中に発泡ビーズ粒体を分散させ易いとともに、硬化成形体(耐震スリット材)に適度な粒状空隙群を生成させ易い。起泡剤の配合量が少なすぎると、泡立ちが悪く、セメントスラリー中に微細気泡を発生し難くなって、セメントスラリー中に発泡ビーズ粒体を分散させ難くなるとともに、適度な量の粒状空隙群を生成(含有)させ難い。逆に、起泡剤の配合量が多すぎると、セメントスラリー中に形成される気泡が大きくなって、硬化成形体に生成する粒状空隙群の比率(空隙率)が多くなりすぎて耐震スリット材の曲げ強度や圧縮強度が不足し、耐震スリット材が脆くなってしまうおそれがある。
前記スラリー組成物には、他の副資材を、適宜、含ませることができる。例えば、川砂、珪砂、寒水砂、陶磁器粉砕物、ガラス粉砕物、炭酸カルシウム等の無機粉粒体、及び、パーライト、バーミキュライト、シラスバルーン、ガラス発泡体、珪藻土等の軽量無機骨材等の無機充填材、繊維状強化材、中空樹脂微粒体(μmオーダの微小樹脂中空粒子の集合体)である、多孔質樹脂粒子、樹脂粒子等の有機充填材を挙げることができる。
特にこれらの内で、中空樹脂微粒体、繊維状強化材を副資材に含ませることが望ましい。
中空樹脂微粒子は、密度が0.01〜0.5g/cm3、さらには0.02〜0.1g/cm3よりさらには0.03〜0.07g/cm3の範囲から適宜選定することが望ましい。中空樹脂微粒体を用いることで、耐震スリット材の断熱性が向上する。また、中空趣旨粒子の密度を上記範囲から選定することで、耐震スリット材の断熱性がさらに向上する。
上記範囲外では、中空樹脂微粒体は、耐震スリット材の断熱性向上に寄与し難い。
密度が小さい中空樹脂微粒子は、強度が十分ではなく、セメントスラリー等と混練する際に中空樹脂微粒子が粉砕されてしまうためである。逆に、密度が大きい中空樹脂微粒子は、中空樹脂微粒子の中空部分比率が小さくためである。
また、中空樹脂微粒体は、平均粒径(呼び径篩(JIS篩に準じる);算術平均)10〜200μm、さらには15〜150μm、よりさらには20〜90μmの範囲から適宜選定することが望ましい。前記平均粒径の中空樹脂微粒体を用いれば、耐震スリット材中の発泡ビーズ相互の隙間に中空樹脂微粒子が充填されることにより、耐震スリット材の曲げ強度を増大させ易く、十分な断熱性を付与することができる。
中空樹脂微粒体の平均粒径が小さいと、粒径の小さな中空樹脂微粒子は強度的な見地から殻相対肉厚が厚くて密度が相対的に大きくなり、軽量化および断熱性の向上の観点から望ましくない。
逆に、中空樹脂微粒体の平均粒径が大きいと、耐震スリット材中に発泡ビーズ粒体と中空樹脂微粒体とを均一に充填することが困難になる。
なお、前記耐震スリット材における中空樹脂微粒体の配合量は、前記発泡ビーズ粒体に対する倍率が、0.5〜5倍、さらには1.0〜4.0倍、よりさらには2.0〜3.5倍とすることが望ましい(表2〜4参照)。配合量がこの範囲にあるとき、耐震スリット材中の発泡ビーズ粒体の隙間に中空樹脂微粒体を充填して、断熱性を向上させることができる。前記配合量が少ないと、中空樹脂微粒体を混入しても耐震スリット材の断熱性を向上させることができない。逆に、中空樹脂微粒体の配合量が多いと、耐震スリット材中に発泡ビーズ粒体が均等に分散されるのを中空樹脂微粒体が阻害するおそれがあり、耐震スリット材の変形復帰性が低下するおそれがある。
前記繊維状強化材としては、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維等の無機繊維でもよいが、下記極性有機繊維の方が望ましい。無機繊維に比して、断熱性に優れ、また、柔軟性を有するため変形に強い(変形復帰後の破損防止に対する効果が大きい。)。
合成繊維(化学繊維):アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等。
天然繊維:木綿、麻、羊毛、絹、等
上記極性有機繊維のうち、特に、引張り強さ(JIS L 1096)約3.0cN・dtex-1以上、伸び率(JIS L 1096)約20%以上の特性を有する耐アルカリ性の極性有機繊維を用いることが望ましい。
そして、繊維の形態は、繊維長が3〜25mm、かつ、「繊維長/繊維径」が100〜1000であるものが、さらには、繊維長が4〜18mm、かつ、「繊維長/繊維径」が100〜900であるものが、よりさらには、繊維長が5〜12mm、かつ、「繊維長/繊維径」が100〜600であるものが望ましい。繊維長および「繊維長/繊維径」が上記範囲にある繊維を用いることで、繊維の配合量に対しての耐震スリット材の曲げ強度の上昇が大きく、さらには、耐震スリット材の耐衝撃性を効率よく向上させることができる。即ち、繊維状強化材を入れることで変形復帰後における脆性破損を防止できる。
前記繊維長は発泡ビーズ粒体の平均粒径に対して60〜300%、さらには80〜200%、よりさらには100〜150%の各範囲にあることが望ましい。繊維長がこれらの範囲にあるとき、耐震スリット材に外力が加わった場合において、耐震スリット材中の発泡ビーズ粒体の動きを効果的に抑制することができ、耐震スリット材の圧縮強度や曲げ強度と共に変形復帰性を増大させることができる。
前記繊維長が発泡ビーズ粒体の平均粒径に対して60%未満の場合には、繊維長が短すぎて耐震スリット材に外力が加わった場合の発泡スチレンの動きを十分に抑制することができない。逆に300%を超える場合には、繊維長が長すぎて繊維同士が絡み合い易く、添加した繊維が曲げ強度の向上に十分に寄与しないおそれがある。また、繊維同士が絡まった凝集物は、セメントスラリー中の微細気泡の形成を阻害するおそれがある。
なお、前記繊維状強化材の配合量は、前記セメント100部に対して、0.3〜5部、さらには0.5〜4部、よりさらには1〜3部であることが望ましい。配合量がこれらの範囲にあれば、耐震スリット材の曲げ強度とともに変形復帰性を効率よく増大させることができる。前記配合量が少なすぎると、耐震スリット材に繊維強化材を混入したとしても、耐震スリット材の曲げ強度を十分に向上させることができない。逆に、前記配合量が多すぎると、セメントスラリー中に、発泡ビーズ粒体等の副資材(充填材)を混入して混練するに際して、繊維同士が絡まってしまい、繊維同士が長い場合と同様に、添加した繊維状強化材が曲げ強度の向上に十分に寄与し難いとともに、繊維同士が絡まった凝集物は、セメントスラリー中の微小な気泡の形成を阻害するおそれがある。
その他副資材としては、セメント等の水質無機質結合剤の組成物に通常用いられる、結合材となる合成樹脂、増粘剤、吸水防止剤、撥水剤、減水剤、流動化剤、保水剤、硬化遅延剤、硬化促進剤等を適宜用いることができる。
これらの添加剤のうち、前記耐震スリット材には、結合材となる結合性合成樹脂を、前記発泡ビーズ粒体の表面処理に用いたものに加えて使用してもよい。発泡ビーズ粒体等の充填材とセメントスラリーが硬化した結合材部分との密着性が向上し、耐震スリット材の曲げ強度の増大とともに変形復帰性も増大する。
本発明のスラリー組成物の配合処方を、以下にまとめておく(括弧内は望ましい範囲)。
セメント:100部、
発泡ビーズ粒体:5〜25部(望ましくは、6〜20部)
増粘剤(セルロース誘導体):0.1〜5部(望ましくは、0.5〜3部)、
起泡剤(AE剤):
0.1〜5部(望ましくは、0.3〜3部)、
中空樹脂微粒体:2.5〜125部(望ましくは、10〜85部)
;発泡ビーズ粒体1部に対して、0.5〜5部(望ましくは2〜3.5部)
結合性樹脂エマルション(固形分):
0.5〜15部(望ましくは、0.5〜8部)、
繊維状強化材(合成繊維):
0.3〜5部(望ましくは、0.5〜4部)、
水:50〜200部(望ましくは、80〜120部)
本発明の耐震スリット材(硬化成形体)の製造方法は特に限定はされず、慣用のセメントブロックやセメント板の製造方法を使用可能である。
例えば、セメント(水硬性無機質結合剤)、水、POEのスチレン誘導体等を含む混合物に、発泡ビーズ粒体等の充填材を混入して分散させたスラリー組成物を、硬化させて任意の形状に成形又は成型することによって製造することができる。
なお、発泡ビーズ粒体をエマルション処理する場合は、発泡ビーズ粒体を攪拌しながら、エマルションを投入して発泡ビーズ粒体に結合性合成樹脂を付着させ、エマルションが半乾燥状態乃至乾燥状態になるまで攪拌した後、他の成分を投入してスラリー組成物とする。
該スラリー組成物を任意の形状に成形又は成型するには、例えば、スラリー組成物を予め所要形状の型に流し込んで硬化させたり、長尺状や平板状に硬化させたりしたものを任意の形状に切断する慣用の方法で行なう。
また、前記スラリー組成物を硬化させる方法は特に限定されない。例えば、常温環境下で養生して硬化させてもよく、高温養生、蒸気養生等によって硬化させてもよい。
必然的ではないが、こうして調製した上記硬化成形体の両面に面材(被覆シート)を積層することがコンクリートを打設した際、セメントペーストが耐震スリット材に浸み込まず、耐震スリット材としての変形復帰性等の性能を維持する観点から好ましい。面材としては、例えば、フィルム、耐水紙等が挙げられる。
そして、これらの耐震スリット材を使用することにより、従来と同様にして、コンクリート施工に際して耐震スリット構造を形成できる。
図1〜2に示す如く、支持部材(力骨材)11、11に耐震スリット材13を挿入して、柱部および壁部を形成するコンクリート型枠15、15内に捨てセパレータ17、さらには、振れ止め筋19等を介して固定する。そして、コンクリートを型枠15内に打設する。このとき、コンクリートの流入圧により耐震スリットは一時的に圧縮変形される。そして、打設コンクリート21が硬化収縮しても、耐震スリット材13は変形復帰性を有していることにより、打設コンクリート面21a、21aとの間に隙間が発生せず、耐震スリット構造の機能を発揮する。また、耐震スリット材は、その変形復帰性により、地震等で一時的に圧縮変形しても形状が経時的に復元するため、引き続き、耐震スリット構造の機能を維持できる。
以下、本発明の効果を確認するために、比較例とともに行なった実施例について説明する。
<試験体の調製>
下記方法で各比較例および各実施例の断熱スリット材(試験体)を調製した。
なお、EPS・HIPS・EPP発泡ビーズ粒体(球形)は、いずれも平均粒径(篩径算術平均)約5mmΦのものを使用し、EPS非球形粒子は、EPS成形板を破砕して、平均粒径(篩径算術平均):約5mm、平均アスペクト比:約3のものを使用した。また、「中空樹脂微粒体」は、密度0.05g/cm3、平均粒径50μmのものを、「アクリル樹脂」は、繊維長7mm、繊維径20μmのものを使用した。
表2〜4に示す各処方のスラリー組成物を十分に混練した後、100cm×100cm×厚み5cmの型に流し込んで硬化させ、温度20℃、湿度65%の環境下で2週間養生して硬化成形体とした。その後、該硬化成形体を型から取り外したもの(耐震スリット材)を4週間養生して試験体とした。
<発泡ビーズ粒体の試験項目・方法>
上記で使用した各発泡ビーズ粒体について、1)密度および2)圧縮残留歪みについて、下記方法に準じて測定した。それらの結果を表1に示す。
Figure 2012255269
1)発泡ビーズ粒体の密度:
水を入れたメスシリンダー内に重量W(g)の発泡ビーズ群を、金網を使用して沈め、水位の上昇分の目盛りから発泡ビーズ群の体積V(L)を求め、発泡ビーズ群の重量Wを体積Vで除した値(W/V)を[g/cm3]に単位換算した。
2)発泡ビーズ粒体の残留歪み:
コピー用紙を直径100mmの切り取り、株式会社トンボ鉛筆製 液体のりアクアピットを全体に塗布して発泡ビーズを隙間なく敷き詰める。その際、2段に重ならないように1段で敷き詰める。そして、圧縮測定機にコピー用紙1枚を敷いて200mm角の平板状の鉄製板で押付けその点を0点とする。次にコピー用紙に発泡ビーズを敷き詰めたものを測定機にセットして発泡ビーズが前記鉄製板に接触したところをその発泡ビーズの厚さとした。その発泡ビーズの厚さの50%まで試験速度1mm/minで圧縮して直ちに試験速度1mm/minの速度で圧縮力を開放して荷重が0となるところでの歪みを残留歪みとした。
「(圧縮前の発泡ビーズの厚み−圧縮力開放後に荷重が0となったところの厚み)×100/発泡ビーズの厚み=残留歪み(%)」
<試験体の試験項目・方法>
各試験体について、1)吸水率、2)密度、3)変形復帰性、および4)耐火性能について、下記方法に準じて測定した。
1)試験体の吸水率:水に沈める前の硬化成形体の重量(a)を予め測定し、硬化成形体を完全に水面下に沈めて空気の泡が発生しなくなるまで含水させ、直ちに取り出し重量(A)を測定する。その際、予め重量を測定したカップ状容器に含水した硬化成形体を入れて重量を測定すれば、硬化成形体から流れ出る水も測定できる。吸水率は、下計算式を用いて求める。
(含水後の硬化成形体の重量(A)−含水前の硬化成形体の重量(a))×100/含水後の硬化成形体の重量(A)=吸水率(%)
2)密度:1000cm3の体積の耐震スリット材の重量を測定して、その重量と体積とから計算した嵩密度とした。
3)変形復帰性:「独立行政法人都市再生機構」制定の「機材の品質判定基準(平成20年5月版);スリット材の性能試験方法」、評価基準は、「90%以上…○、90%未満83%以上…△、83%未満…×」とした。
4)耐火性能の試験方法:芯材厚さ30mm×長さ200mm×奥行き120mmの耐震スリット51に塩ビ製枠材(図1の図符号11)を取り付けた状態で、コンクリートを打設して壁厚120mmの試験体53を調製した(図3参照)。打設したものと同じコンクリートをサンプリングして試験体と同じ場所に置いて水分が5%以下となるまで養生した。
そして、試験体53をバーナ式加熱炉55(図3(A))に取り付け、ISO834に規定する次の加熱曲線の式に従って加熱を2h実施し、測定及び観察を加熱終了後6時間継続し、合計8時間の耐火性能試験を行った。なお、図例中57は煙道である。
T=345log10(8t+1)+10
但し、T:平均炉内温度(℃) t:試験の経過時間(分)
評価基準は、下記のa)〜e)の条件を全て満たすものを○、それ以外のいずれか一つでも満たさないものを×と評価した。
a)非加熱面側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出がないこと。
b)非加熱面で10秒を超えて継続する発炎がないこと。
c)火炎が通る亀裂等の損傷を生じないこと。
d)裏面最高温度:加熱中の裏面最高温度Tmが次式に適合すること。
Tm(℃) ≦ 180℃ + T0(℃)
e)裏面平均温度:加熱中の裏面平均温度Taが次式に適合すること。
Ta(℃) ≦ 140℃ + T0(℃)
但し、上記d),e)におけるT0(℃):初期温度(加熱開始前の温度)
<試験結果・考察>
上記各試験結果を示す表2〜4から、各実施例の試験体は、充分な変形復帰性(87%以上)を有するとともに、最大で密度0.23g/cm3と小さく充分な断熱性を有することが分かる。これに対して、各比較例は、中空樹脂微粒体が無配合の比較例2(密度0.25g/cm3)を除いて、実施例と同様、密度0.23g/cm3以下であるが、変形復帰性において、最大で82%(比較例6)しか示さないことが分かる。
耐震スリット材の第一要求特性である変形復帰性において、非球形ビーズ(粉砕物)を使用した比較例3の場合、略76%しか示さないのに対し、該非球形ビーズを、それぞれ略球形であるEPSビーズ又はHIPSビーズ(低密度・高密度)で置換した処方の実施例5又は比較例1の場合、略91%および略81%を示し、充分な有意差を有することが確認できた。
実施例5におけるEPSビーズを低密度HIPSビーズで置換した処方の実施例1の場合、略93%を示し、実施例5の91%より更に向上する。
また、比較例1,2,4における高密度HIPSを、低密度HIPSビーズにそれぞれ置換した処方の実施例1,2,4は、格段に変形復帰性が増加することが確認できた。
また、実施例3における表面処理をしない発泡ビーズ粒体を、表面処理をした発泡ビーズ粒体に置換した処方の実施例1の場合は、変形復帰性が増加することが伺える。
また、中空樹脂微粒子を含有させた方が、さらには、結合性樹脂エマルションを含有させた方が、変形復帰性が向上することが伺える(実施例2に対して実施例1、および、実施例3に対して実施例1)。さらに、耐衝撃性向上のために繊維状強化材(アクリル繊維)を配合した場合は、若干変形復帰性が増加することが伺える(実施例4に対して実施例1)。
また、変形復帰試験後、繊維状強化材を配合しなかった実施例4は試験体の一部が崩壊したが、繊維状強化材を配合した他の実施例は形状を保っていた。
さらに、同じHIPSビーズで、低密度:0.0239g/cm3と高密度:0.0285g/cm3が異なる場合、低密度HIPSの方が、高密度HIPSに比して変形復帰性が増加することが伺える(実施例1,2,4に対して比較例1,2,4)。
また、同じ低密度HIPSビーズのセメント100部に対する配合量を変化させた場合、11部前後(実施例7)で変形復帰性が最大値を示し、それ以上増量させても変形復帰性は増加せず却って漸減することが伺える(実施例8〜9)。また、低密度HIPSビーズの配合量が過少(セメント100部に対して5部未満)で該ビーズ粒体に対する中空樹脂微粒体の倍率が過多(5倍超)の比較例5の場合、両要因が相乗して、実施例6〜9に比して変形復帰性に劣ることが伺える。
さらに、低密度HIPSビーズ(密度:0.0239g/cm3)を使用した実施例6〜9において、さらに密度の小さいEPPビーズ(密度:0.0189g/cm3)に置換した実施例10〜13の場合、変形復帰性が更に増加することが伺える。また、上記低密度HIPSの場合と同様、EPPビーズの配合量が過少で該ビーズに対する中空樹脂微粒体の倍率が過多の比較例6の場合、両要因が相乗して、実施例10〜13に比して格段に変形復帰性が劣ることが伺える。
Figure 2012255269
Figure 2012255269
Figure 2012255269
11 支持部材(力骨材)
13 耐震スリット材
15 コンクリート型枠
17 捨てセパレータ
19 振れ止め筋
21 打設コンクリート

Claims (11)

  1. 水硬性無機質結合剤と、合成高分子製の発泡ビーズ群(以下「発泡ビーズ粒体」)とを、他の副資材とともに混合してなるスラリー組成物の硬化成形体であって、圧縮試験(「独立行政法人都市再生機構」制定の「機材の品質判定基準(平成20年5月版);スリット材の性能試験方法」:以下同じ。)の変形復帰性が83%以上を示すことを特徴とする耐震スリット材。
  2. 前記発泡ビーズ粒体が、一置換エチレンモノマー重合体(ビーズ重合体)、一置換エチレンモノマーをゴム系重合体に対してグラフトさせた重合体のいずれかから1種又は2種以上選択されることを特徴とする請求項1記載の耐震スリット材。
  3. 前記発泡ビーズ粒体の重合体の構成単位である一置換エチレンモノマーがスチレン又はプロピレンであることを特徴とする請求項2記載の耐震スリット材。
  4. 前記発泡ビーズ粒体の平均粒径(呼び径篩(JIS篩に準じる。):算術平均)が1〜10mmであるとともに密度0.015〜0.035g/cm3であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の耐震スリット材。
  5. 前記水硬性無機質結合剤100質量部に対して発泡ビーズ粒体が5〜25質量部配合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の耐震スリット材。
  6. 前記発泡ビーズ粒体が、結合性合成樹脂の分散液で表面処理されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の耐震スリット材。
  7. 前記結合性合成樹脂の分散液がアクリル樹脂系エマルションであることを特徴とする請求項6記載の耐震スリット材。
  8. 前記スラリー組成物の副資材が、平均粒子径(JIS呼び径篩:算術平均)が10〜200μmの中空樹脂微粒子の集合体(中空樹脂微粒体)を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一記載の耐震スリット材。
  9. 前記スラリー組成物の副資材が、繊維状強化材を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一記載の耐震スリット材。
  10. 前記硬化成形体が、無数の相互に連通する粒状空隙からなる粒状空隙群を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一記載の耐震スリット材。
  11. 圧縮試験の変形復帰性が83%以上を示す耐震スリット材の製造方法であって、
    水硬性無機質結合剤と、合成高分子製の発泡ビーズ群とを、他の副資材および水とともに混合してなるスラリー組成物を硬化させて任意の形状に成形乃至成型して製造することを特徴とする耐震スリット材の製造方法。
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