JP2012244909A - 組み換え蛋白質の製造方法及び蛋白質の導入方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】植物を用いる、回収が簡便な組み換え蛋白質の製造方法の提供。また、活性が安定して持続する組み換え蛋白質の提供。また、簡便な蛋白質導入方法の提供。
【解決手段】RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列を有する組み換え蛋白質を植物に産生させ、植物体外へ放出させる工程と、当該植物から放出された前記組み換え蛋白質を回収する工程を含む組み換え蛋白質の製造方法。
【選択図】図4

Description

本発明は、組み換え蛋白質の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、植物に組み替え蛋白質を産生させ、植物体外へ放出させ、放出された当該組み替え蛋白質を回収する組み換え蛋白質の製造方法に関する。また、本発明は、蛋白質の導入方法に関する。
組み換え蛋白質の生産は、例えば、微生物、昆虫細胞、動物細胞、植物細胞等により行うことができる。組み換え蛋白質の生産につき、経済性・安全性の観点等から植物による組み換え蛋白質の生産が検討されてきている。例えば、下記非特許文献1に示すマグニフィケーション法や下記非特許文献2に示すCPMV−HTシステムが知られている。その他、rhizosecretion(植物の分泌系を利用してapoplast分画に分泌させる)技術、phyllosecretion(植物の溢液現象guttationという葉から分液する能力を利用する)技術、CLPE(組み換え蛋白のN末端にKDEL等の分泌用のアミノ酸残基を付加する)技術などが知られている。
Giritch A, Marillonnet S, Engler C, van Eldik G, Botterman J,Klimyuk V and Gleba Y (2006) Rapid high-yield expression of full-size IgGantibodies in plants coinfected with noncompeting viral vectors. Proc Natl AcadSci U S A 103:14701-14706. Sainsbury F and Lomonossoff GP (2008) Extremely high-level and rapidtransient protein production in plants without the use of viral replication.Plant Physiol 148:1212-1218.
従来から検討されてきた技術では、植物体からの組み換え蛋白質の抽出・精製が必要であった。これらの作業工程は煩雑であり、かつ、組み換え蛋白質の収率を低下させる原因となっていた。植物の抽出操作では、例えば植物細胞・組織等の物理的・化学的破壊が行われる。この破壊により植物体が生産した組み換え蛋白質は変性・分解・吸着等さまざまな要因の影響を受け、結果として回収効率は低くなる。
以上の事情に鑑み、本願発明者は、組み換え蛋白質の簡便な取得につき鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
まず第1に、RGD配列を利用することが有効であることを見出した。植物が産生するRGD配列を有する組み換え蛋白質は、所望の性質や活性を有する状態で植物外に放出される。細胞膜等の膜組織で構成される特定の小胞・画分等に含まれた形で植物外に放出されることがないので、抽出などの操作を省くことが可能である。
第2に、例えば植物を水耕栽培する場合、RGD配列を有する組み換え蛋白質を培地に放出させることが可能である。水耕栽培の培地には他の植物成分がほとんど含まれないことから、当該組み換え蛋白質の精製・回収が極めて容易に行える。よって、アセトン沈殿等の周知の方法により、効率よく組み換え蛋白質を回収できる。
以上の知見を見出した上、更に研究を重ねて、下記知見をも本願発明者は見出した。
まず、本発明によれば、糖鎖付加がされたRGD配列を有する組み換え蛋白質を得ることができる。糖鎖付加により当該組み換え蛋白質の安定性が著しく向上すると考えられる。
次に、植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質は他の植物に取り込まれることを見出した。即ち、得られた当該組み換え蛋白質は細胞や個体への蛋白質導入に用いることができる。RGD配列を有する蛋白質は動物細胞に取り込まれることやインテグリンに結合することが知られている。よって、植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質は、植物細胞のみならず動物細胞への蛋白質導入が可能であることや、細胞内のシグナル伝達に影響を与えることが可能であると推測される。近年、誘導多能性幹細胞の作製が可能となったが、導入される遺伝子にがん遺伝子が含まれており、発がん性の問題が指摘されている。遺伝子導入による問題を回避するために蛋白質等の遺伝子産物を利用することが検討されているが、本発明により得られる組み換え蛋白質はそのような手法に対しても有用であると推測される。
よって、植物を用い、回収が簡便な組み換え蛋白質の製造方法を提供することを本発明が解決すべき課題とする。また、活性等が安定して持続する組み換え蛋白質の製造方法を提供することを本発明が解決すべき課題とする。また、簡便な蛋白質導入方法を提供することを本発明が解決すべき課題とする。
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、
RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列を有する組み換え蛋白質を植物に産生させ、植物体外へ放出させる工程と、当該植物から放出された前記組み換え蛋白質を回収する工程を含む組み換え蛋白質の製造方法である。
RGD配列とは、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸配列である。本発明におけるRGD配列は植物に産生させた組み換え蛋白質を植物対外へ放出させる機能を果たすRGD配列を指す。本発明の蛋白質の導入方法では、対象物への組み換え蛋白質の取り込みに当該RGD配列が必要であると考えられる。
本発明においてRGD配列を有するとは、植物に産生させる蛋白質が本来的にRGD配列を有している形態のほか、蛋白質にRGD配列を付加した形態を含む。好ましくは、蛋白質にRGD配列を付加した形態である。当該付加した形態の蛋白質は、例えば、蛋白質をコードする遺伝子とRGD配列をコードする遺伝子とを同一の蛋白質読み取り枠になり一連の蛋白質分子を産生させるように接続して蛋白質を産生させることで、得ることができる。
本発明において、産生された組み換え蛋白質の植物体外への放出は、細胞膜等の膜組織で構成される特定の小胞・画分等に含まれない形で植物外に放出されることを意味する。例えば、分泌、トランスポーターによる放出を含む概念である。
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、
前記RGD配列を有する組み換え蛋白質を、当該組み換え蛋白質を産生させる植物を培養した培地から回収する第1発明に記載の組み換え蛋白質の製造方法である。
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、
前記RGD配列を有する組み換え蛋白質がカルス又は植物の根から放出される第1発明又は第2発明に記載の組み換え蛋白質の製造方法である。
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、
植物を培養し当該植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質が存在する培地に、当該組み換え蛋白質を導入する対象物を暴露する工程を含む蛋白質の導入方法である。
(第1発明〜第3発明)
上記第1発明により、植物を用いる、回収が簡便な組み換え蛋白質の製造方法が提供される。RGD配列を有する組み換え蛋白質は、特定の小胞・画分等に含まれた形で植物外に放出されることがなく、回収が簡便であり、抽出操作などを省くことが可能である。当該組み換え蛋白質の収率も上昇する。
また、所望の性質や活性を有する状態でRGD配列を有する組み換え蛋白質は植物外に放出される。植物から放出されるRGD配列を有する組み換え蛋白質は糖鎖修飾がなされたものでありえる。即ち、安定性の高い(活性を一定期間維持可能である)組み換え蛋白質が得られる。
本発明により、植物を培養する培地にRGD配列を有する組み換え蛋白質を放出させることが可能となる。よって、植物の培養期間を調整することで培地中の当該組み換え蛋白質の濃度を調整することが可能である。
また、培地からの回収という簡便な作業でRGD配列を有する組み換え蛋白質を得ることができる。例えば、植物を水耕栽培する場合、培養水には他の植物成分がほとんど含まれない(回収における夾雑物が少ない。)。よって、アセトン沈殿等の周知の方法により、効率よく植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質を回収できる。培地がゲルや濾紙等の場合でも効率よく植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質を回収できる。
植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質が存在する培地に、当該組み換え蛋白質を導入すべき対象物を存在させることで、当該対象物への組み換え蛋白質の導入が可能となる。
(第4発明)
上記第4発明により、簡便な蛋白質の導入方法が提供される。RGD配列を有する蛋白質は動物細胞に取り込まれることやインテグリンに結合することが知られている。よって、植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質は、植物細胞のみならず動物細胞、微生物等への蛋白質導入が可能であることや、細胞内のシグナル伝達等に影響を与えることが可能であると推測される。
また、RGD配列を有する組み換え蛋白質を導入する対象物が培地に暴露される期間等を調節することにより、蛋白質導入のタイミング・導入量が調節できると推測される。導入される当該組み換え蛋白質の性質によっては、一過性の導入とすることが可能である。
矢印方向(左から右)に向かって遺伝子の読み取りが行われる。(a)RGD(−)、RGD(+)及びmRGD遺伝子の構成の概念図を示す。(b)HA−RGD(−)及びHA−RGD(+)遺伝子の構成の概念図を示す。 (a)RGD(+)遺伝子産物である蛋白質が「Normal」で示す植物組織に取り込まれて、当該植物組織が白化することを示す。(b)RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子を導入したトマトカルスの培養実験とその結果を示す。(c)RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子の各培養実験について、植物組織抽出物、葉緑体抽出物の電気泳動結果を示す。 ドットブロットイムノアッセイの結果を示す。 (a)28日間培養後の植物組織を示す。(b)実験条件とディスクブロッティングの結果を示す。 実施例4で得られたRGD(+)遺伝子産物である蛋白質が糖蛋白質であることを示す実験結果である。 (a)組み換え蛋白質が植物で産生されていることを示す。(b)HA−RGD(+)遺伝子の産物である蛋白質が植物外に放出されることを示す。
以下に、本発明を実施するための形態を、最良の形態を含めて説明する。
〔組み換え蛋白質の製造方法〕
本発明の組み換え蛋白質は、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列を有し、産生させた植物から放出されるものである。植物からの放出後に所望の性質や活性を一定期間維持することが可能である。RGD配列の作用による組み換え蛋白質の植物からの放出について、植物における当該組み換え蛋白質の放出部位は特に限定されないが、好ましくは、カルス、根、茎、球根であり、より好ましくはカルス又は根であり、特に好ましくは根である。
植物に組み換え蛋白質を産生させるので、本発明の組み換え蛋白質は糖蛋白質とすることができる。糖蛋白質として組み換え蛋白質を産生した後、グリコシダーゼ等により糖鎖を除去することが可能である。また、室温で活性を維持する組み換え蛋白質を産生させることができる。
組み換え蛋白質におけるRGD配列の付加位置は、植物からの放出後、組み換え蛋白質の所望の性質や活性が維持される限り特に限定されない。例えば、RGD配列の位置は、組み換え蛋白質のN末端又はその付近、C末端又はその付近とすることができる。ベクター等核酸分子を用いて植物に遺伝子導入する場合、同一の蛋白質読み取り枠になり一連の蛋白質分子となるようにRGD配列をコードするDNA配列と蛋白質をコードするDNA配列を接続することが好ましい。本発明においては、RGD配列を本来有している蛋白質を植物に産生させたい場合は、当該蛋白質を産生させるように植物を形質転換させてもよい。このような場合も本発明の組み換え蛋白質の製造に該当する。
本発明の組み換え蛋白質の設計において、RGD配列のみでなく、RGD配列を含む配列を採用しても良い。例えば、HIV−Tat、フィブロネクチン等を採用しても良い。
本発明の製造方法により産生された組み換え蛋白質はRGD配列を除去することが、例えば、種々のペプチダーゼや血液凝固因子の第VIII因子等により可能である。RGD配列を除去する場合は、RGD配列の位置は、組み換え蛋白質のN末端又はその付近、C末端又はその付近であることが好ましい。上記ペプチダーゼなどによる認識および切断部位を持つアミノ酸配列を、RGD配列と目的とする蛋白質分子との間に挿入する必要がある。
本発明の組み換え蛋白質の分子量は特に限定されないが、100kDa以下であることが好ましく、5〜80kDaであることがより好ましく、10〜60kDaであることが更に好ましい。本発明の組み換え蛋白質には免疫グロブリンのみでなく、その軽鎖や重鎖も含まれるので、いわゆる「抗体薬」などの産生と精製にも本発明は有用である。
本発明の組み換え蛋白質として好ましいものは、ペプチドホルモン、サイトカイン、血液凝固因子、ケモカイン、抗体、抗体の軽鎖、抗体の重鎖等である。本発明の組み換え蛋白質の製造方法を利用して、例えばワクチン等を製造することも可能である。この場合、組み換え蛋白質を精製した後、薬学的に許容される種々のリポソーム、細菌やウイルス粒子などを利用した微細粒子、その他のナノ粒子等の担体に本発明の組み換え蛋白質を溶解、混合、分散、封入、等すればよい。
本発明の組み換え蛋白質と薬学的に許容される担体等を用いて組成物とすることができる。ここで、薬学的に許容される担体とは、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質含み、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などを含む。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
着色剤の好適な例としては、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラなど)などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
また、組成物は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。
本発明に用いることができる植物として、例えば、双子葉植物、単子葉植物、裸子植物、シダ、藻類がある。双子葉植物として、トマト、ナス、タバコ、豆類、樫、楓、薔薇、ミント、カボチャ、ヒナギク、クルミ等を例示できる。単子葉植物として、ユリ、芝、トウモロコシ、オーツ麦、小麦および大麦を含む穀類、ラン、タマネギを例示できる。本発明に用いる植物は、双子葉植物が好ましく、ナス科又はトマト科植物がより好ましく、トマトであることが更に好ましく、トマト品種Improved Popeを用いることが特に好ましい。
本発明に用いる植物は、カルス、植物細胞、植物組織、植物器官、植物体等のいずれの単位を使用しても良い。好ましくはカルス、植物体、葉、根、球根であり、より好ましくはカルス、根又は植物体である。産生させたい本発明の組み換え蛋白質を本来産生しない植物を用いる場合、遺伝子を導入した組み換え植物を使用してよい。
植物に本発明の組み換え蛋白質を産生させるにあたり、植物への遺伝子導入方法は特に限定されない。例えば、ウィルスベクターによる導入、パーティクルガン法、細菌であるAgrobacteriumを用いる方法等周知の方法を利用して組み換え植物を用意することができる。好ましくは、カルスの状態で遺伝子導入する。
本発明の組み換え蛋白質を産生させる植物の培養方法は特に限定されない。カルスを維持する状態で培養しても良いし、カルスから特定の組織や器官、個体を誘導するように培養しても良いし、周知の植物培養方法を採用しても良い。また、これらを組み合わせても良い。好ましくは、寒天、アガロース等のゲル状培地での培養、水耕栽培、土壌栽培である。さらに、植物からの分泌液の中に組み換え蛋白を産生させる方法もある。培地中に植物は1又は複数存在してよい。複数存在する場合、植物同士の距離は適宜選択すればよい。
よって、植物を培養する培地は特に限定されない。組み換え蛋白質を培地に放出させる場合、液体培地やゲル状培地が好ましい。
植物から放出された本発明の組み換え蛋白質の回収方法は特に限定されない。植物からの当該組み換え蛋白質の放出の形態にあわせ、適宜選択することが可能である。植物を水耕栽培する場合、植物を培養した培地から当該組み替え蛋白質を回収可能であるので、アセトン沈殿、遠心分離、フィルターやカラムを用いたゲル濾過、アフィニティーカラムやフィルターおよびナノ粒子を利用した選択的精製法等の所望の方法を適宜採用することができる。一方、植物から放出された当該組み替え蛋白質が培地中で適切な濃度となっていれば上記処理が不要となる場合がある。
〔蛋白質の導入方法〕
本発明の蛋白質の導入方法は、植物を培養し当該植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質が存在する培地に、組み換え蛋白質を導入する対象物を暴露する。
本発明の蛋白質の導入方法において、組み換え蛋白質、当該組み換え蛋白質の植物対外への放出、植物、植物の培養に関しては上述の「組み換え蛋白質の製造方法」における記載内容と同様である。
本発明における組み換え蛋白質を導入する対象物は、RGD配列を有する蛋白質を取り込み可能であれば特に限定されない。即ち、動物、植物、微生物等を制限なく含み、細胞、組織、器官、個体等の別も限定されない。
本発明の組み換え蛋白質を導入する対象物として、例えば、皮膚に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞等)、血管に関与する細胞(血管内皮細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞等)、筋肉に関与する細胞(筋肉細胞等)、脂肪に関与する細胞(脂肪細胞等)、神経に関与する細胞(神経細胞等)、肝臓に関与する細胞(肝細胞等)、膵臓に関与する細胞(膵ラ島細胞等)、腎臓に関与する細胞(腎上皮細胞、近位尿細管上皮細胞及びメサンギウム細胞等)、肺・気管支に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞等)、目に関与する細胞(視細胞、角膜上皮細胞及び角膜内皮細胞等)、前立腺に関与する細胞(上皮細胞、間質細胞及び平滑筋細胞等)、骨に関与する細胞(骨芽細胞、骨細胞及び破骨細胞等)、軟骨に関与する細胞(軟骨芽細胞及び軟骨細胞等)、歯に関与する細胞(歯根膜細胞及び骨芽細胞等)、血液に関与する細胞(白血球及び赤血球等)、及び幹細胞{例えば、骨髄未分化間葉系幹細胞、骨格筋幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞(oval cell、small hepatocyte等)、脂肪組織幹細胞、胚性幹(ES)細胞、誘導多能性幹(iPS)細胞、表皮幹細胞、腸管幹細胞、精子幹細胞、胚生殖幹(EG)細胞、膵臓幹細胞(膵管上皮幹細胞等)、白血球系幹細胞、リンパ球系幹細胞、角膜系幹細胞、前駆細胞(脂肪前駆細胞、血管内皮前駆細胞、軟骨前駆細胞、リンパ球系前駆細胞、NK前駆細胞等)等}等が挙げられる。また、昆虫細胞として、カイコ細胞(BmN細胞及びBoMo細胞等)、クワコ細胞、サクサン細胞、シンジュサン細胞、ヨトウガ細胞(Sf9細胞及びSf21細胞等)、クワゴマダラヒトリ細胞、ハマキムシ細胞、ショウジョウバエ細胞、センチニクバエ細胞、ヒトスジシマカ細胞、アゲハチョウ細胞、ワモンゴキブリ細胞及びイラクサキンウワバ細胞(Tn−5細胞、HIGH
FIVE細胞及びMG1細胞等)等が挙げられる。また、植物は、細胞やカルスなどのほか、表皮組織、柔組織、師管・師部繊維等の師部組織、道管・仮道管・木部繊維等の木部組織、茎、塊茎、葉、根、塊根、穂木、蕾、花、花弁、雌ずい、雄ずい、葯、花粉、子房、果実、さや、さく果、種子、繊維、胚珠等が挙げられる。
本発明の蛋白質の導入方法は、医療行為、特にヒトを治療する実施態様を除くことが可能である。
本発明の蛋白質の導入方法において、培地は、植物の培養に適した培地であってもよく、蛋白質を導入する対象物に適した培地であっても良い。蛋白質の導入効率、蛋白質を導入する対象物の管理等の観点から適宜選択すればよい。
上記した対象物を培地に暴露するとは、浸漬、接触、塗布、培養、食用、内服投与、外用、注射、等を含む概念であり、蛋白質を導入する対象物が組み換え蛋白質にさらされる方法であれば限定されない。本発明の組み換え蛋白質は植物からの放出後に所望の性質や活性を一定期間維持することが可能である。よって、蛋白質を導入する対象物を培地に暴露する際、植物が当該培地中に存在しなくてもよい場合がある。この場合、植物を除いた後に、培地を適宜濃縮/希釈することが可能であるし、添加物を加える等してもよい。また、植物を除いた後の培地に存在する本発明の組み換え蛋白質を精製し、蛋白質を導入する対象物に適した培地に当該組み換え蛋白質を溶解・混合等させてから、対象物を暴露しても良い。本発明の蛋白質の導入方法の好ましい態様は、組み換え蛋白質を放出する植物と、放出された組み換え蛋白質を導入する対象物とが同じ培地に共存する態様である。この態様において組み換え蛋白質を放出する植物と対象物との間隔は特に限定されず、当該植物や対象物のサイズ、植物の組み換え蛋白質放出能力等を考慮して適宜選択すればよい。当該両者が接近していることが好ましい。より具体的に例を挙げると、植物としてカルス/カルスから成育した植物組織を用い、対象物として細胞/組織を用いる場合、両者の間隔が10cm以下であることが好ましく、4cm以下であることが更に好ましく、2cm以下であることが特に好ましい。また、他の好ましい態様としては、本発明の組み換え蛋白質が存在する培地を食物として摂取する態様もしくは生体外より生体内に投与する態様が挙げられる。組み替え蛋白質の対象物への暴露において、上述の薬学的に許容される担体を参照することができる。
本発明の蛋白質の導入方法によれば、本発明の組み換え蛋白質を導入する対象物は遺伝子の組み換えを受けないという利点がある。また、培地中の組み換え蛋白質の濃度・対象物の暴露期間を調節することにより、当該対象物への当該組み換え蛋白質の導入量・導入期間が調整可能である。例えば、あるタイミングでのみ導入される必要がある蛋白質であれば、蛋白質を導入する対象物の培地への暴露時期を調節(導入が不要になれば培地から除く等)すればよい。更に、導入される蛋白質の性質によっては、一過性の導入とすることが可能である。
以下、本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
〔トマトカルスの作製〕
トマト(Improved Pope種)の種子より植物を発芽させ、成長させた後、葉を用いて以下の実験を行なった。
無菌化したナイフにより細切(約5mm四方)した葉組織をMS培地で7〜10日間成育させた。1.0ppmのzeatinを含むMS培地でさらに7日間培養してカルス組織を誘導した。以下の実施例においては、遺伝子導入をしたカルスを用いることがあるし、遺伝子導入しないカルスを対照等として用いる場合もある。
〔遺伝子ベクターの作製と遺伝子導入〕
ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV−1)のTat遺伝子の配列(当該遺伝子の産物はRGDアミノ酸配列を含む。)を植物のコドン使用頻度に合わせて最適化し、当該最適化したTat遺伝子配列が上流側となるようにして、これをグルクロニダーゼA(以下、gusAとも称する。)遺伝子と同一の蛋白質読み取り枠になり一連の蛋白質分子を産生させるように接続(以下、当該接続した遺伝子を「RGD(+)」とも称する。)し、pBI121と呼ばれる植物で遺伝子発現をさせることのできる既知のプラスミッドDNAに挿入した。pBI121プラスミッドはインビトロゲンより購入した。DNAの組み換え実験で用いた制限酵素やリガーゼはロッシュおよび東洋紡の製品を使用した。電気泳動装置はバイオラド社の製品を用いた。また、DNA合成は北海道システムサイエンス社に委託した。
一方、同様の手法によりgusA遺伝子のみを持つ(Tat遺伝子の配列を持たない。)ものも調製した(以下、プラスミドDNAに挿入された当該遺伝子を「RGD(−)」とも称する。)。また、Tat−gusA融合蛋白質のTat部分のRGD配列を全てAlaに置換したもの(以下、AAA配列とも称する。)とする遺伝子も調製した(以下、プラスミドDNAに挿入された当該遺伝子を「mRGD」とも称する。)。なお、このmRGD遺伝子産物である蛋白質はTatの二つの連続するArgを保持しているので、葉緑体への局在は妨げない。
また、RGD配列が植物細胞からの蛋白質の放出に関与することを証明する別の実験系では、A型インフルエンザウイルス(H1N1 2009)のHA1(21−32アミノ酸)とHA2抗原(362−400)領域のコンセンサス配列を使用した。当該HA抗原のコンセンサス配列については、過去に報告された合計408種のインフルエンザウイルス分離株のアミノ酸配列情報をGenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ genbank/)のソフトウエアを用いてアラインメントを作り、共通配列を抽出して上記コンセンサス配列を得た。このアミノ酸配列に対応するDNA配列を公開されている植物コドン表(例えば、http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/ showcodon.cgi?species=4081)に合わせて合成した(以下、当該合成した遺伝子をHA遺伝子とも称する。)。HA遺伝子のすぐ下流に蛋白質読み取り枠を一致させてRGD配列遺伝子を組み込んだ遺伝子(以下、「HA−RGD(+)」とも称する。)と、RGD配列を持たないHA遺伝子のみ(以下、「HA−RGD(−)」とも称する。)を、それぞれ上記と同様にpBI121プラスミッドに挿入した。
以上の手順により調製したRGD(+)、RGD(−)、mRGD、HA−RGD(+)、HA−RGD(−)の概念図を図1に示す。
これらのプラスミッドに挿入した遺伝子は、遺伝子銃(パーティクルガン法)を用いて作製したトマトカルスに導入した。導入の条件は、「Cueno ME, Hibi Y, Imai K, Laurena AC and Okamoto T (2010) Impaired
plant growth and development caused by human immunodeficiency virus type 1 Tat.
Transgenic Res 19:903-913.」に記載の導入条件を採用した。
(実施例1)
一過性の蛋白質発現の最適化を検討した。この場合の「最適化」とは、Tat−gusA融合蛋白質が正常なトマトカルス(遺伝子導入をしていないカルス)組織に入り込むための培養条件のことである。
上記RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子を導入したトマトカルスを正常トマトカルスから2または4cm離して1.0ppmのzeatinを含むMS寒天培地上に配置して室温で培養を続けた。培養実験は各3連行った。
上述のCueno(2010)論文で報告されているように、Tat蛋白質が植物組織内にあると「白化(chlorosis)」現象が起こるので、植物に白化現象が生じたことを指標としてTat蛋白質の作用の発現とみなすことができた。
各培養結果を図2(a)及び図2(b)に示す。図2(a)はRGD(+)の培養実験系について、正常トマトカルスから成育した植物組織の変化を示す。2cm位置については培養1週間後及び2週間後の状態を、4cm位置については培養1週間後、2週間後及び3週間後の状態を示す。図2(b)については、培養の観察写真(Actual)と概念図(Schematic)を示す。図2(b)各パネルにおいては、中央がRGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子を導入したトマトカルス/当該トマトカルスから成育した植物組織であり、点線で示す箇所が中央から2cmの位置であり、中央から左右にもっとも離れた弧の対で示す箇所が4cmの位置である。図2(a)と図2(b)は別連の実験である。
図2(a)では、指示マーク部位で植物組織の白化が確認された。即ち、2cm位置では培養後2週間で正常トマトカルスから成育した植物組織(Normal)で白化が確認された。4cm位置では、培養後3週間で正常トマトカルスから成育した植物組織で白化が確認された。
図2(b)では、RGD(+)の培養実験系のみ、培養2週間後に、2cm位置及び4cm位置の正常トマトカルスから成育した植物組織で白化が確認された(「Schmatic」において、当該位置を黒塗りに変化させた。)。
以上のように、RGD(+)遺伝子産物が徐々に正常トマトカルスから成育した植物組織に取り込まれることが見出された。そして、Tat−gusA融合蛋白質が正常なトマトカルスから成育した組織に入り込むための最適期間は2週間であった。
次に、RGD(+)、RGD(−)、又はmRGDの各遺伝子の産物である蛋白質の挙動を検討した。植物組織の抽出物又は植物組織に含まれる葉緑体の抽出物中に、RGD(+)、RGD(−)、又はmRGDの各遺伝子の産物である蛋白質が含まれるかを確認した。
植物組織の抽出は、テルモサイエンティフィック社のP−PER植物蛋白抽出キットを用いて、製品説明書に記載の方法で行った。葉緑体の抽出は、シグマ社のChloroplast Isolation Kitを用いてPercollによる密度勾配遠心法の手順で行った。抽出対象は、各遺伝子についての培養実験につき培養2週間後のものとした。
得られた各抽出物に含まれる蛋白質分子につきウエスタンブロット法で解析した結果を図2(c)に示す。図2(c)上段は植物組織の抽出物の解析結果を示し、図2(c)下段は葉緑体の抽出物の解析結果を示す。図2(a)で白化を起こした正常トマトカルスから成育した植物組織では葉緑体に指標蛋白質として用いたGus蛋白質が検出されていることから、RGD配列の有無が当該植物組織の白化に必須であり、RGD配列が働いて、Tat蛋白質が葉緑体に取り込まれることが白化を引き起こしていると推察される。以下、実験結果と考察を述べる。
RGD(−)の実験系(図2(c)左列)では、RGD(−)遺伝子導入トマトカルスから成育した植物体でのみRGD(−)遺伝子産物の蛋白質が確認された。
RGD(+)の実験系(図2(c)中央列)では、RGD(+)遺伝子導入トマトカルスから成育した植物体及びその葉緑体、2cm位置の正常トマトカルスから成育した植物組織及びその葉緑体、4cm位置の正常トマトカルスから成育した植物組織及びその葉緑体、いずれにおいてもTat−gusA融合蛋白質が確認された。
mRGDの実験系(図2(c)右列)では、mRGD遺伝子導入トマトカルスから成育した植物体及びその葉緑体でのみmRGD遺伝子産物の蛋白質が確認された。
以上の結果から、組み換え植物で産生されたRGD(+)遺伝子産物が培地を介して離れている正常トマトカルスから成育した植物組織に徐々に取り込まれることがわかった。一方、RGD(−)及びmRGD遺伝子産物は植物外に放出されないことがわかった。
正常トマトカルスから成育した植物組織に含まれる葉緑体内からTat−gusA融合蛋白質が検出されたことから、RGD配列を有する蛋白質が結合に用いられるだけでなく、植物細胞壁を通過して取り込まれることが明らかとなった。一方でRGD配列を失ったmRGD遺伝子産物は植物外に放出されなかったことから、組み換え蛋白質の植物外への放出、植物への取り込みにはRGD配列が必要であることが示された。
また、白化の観察において、植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質が室温で2週間活性を維持した。即ち、植物が産生したRGD配列を有する組み換え蛋白質が室温下で安定であることが示された。
(実施例2)
RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子を導入したトマトカルスから成育した植物組織及び正常トマトカルスから成育した植物組織中の各遺伝子産物である蛋白質量を評価した。
上述の実施例1における培養2週間後の、RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子導入トマトカルスから成育した植物組織及びそれぞれの組み換え植物から2cm、4cm位置の正常トマトカルスから成育した植物組織を抽出に用いた。
各植物組織の抽出は、実施例1と同じ方法を用いて行った。
蛋白質量の評価に際し、200倍、400倍、800倍、1600倍の希釈系列を用意した。各抽出物の各希釈倍率の試料をフィルター上にドットブロットし、図2(c)に対応する実験と同様の方法を用いてイムノアッセイを行った。アッセイの結果を図3に示す。「GUS standard」が定量のコントロールである。
蛋白質量の算定の結果、RGD(+)遺伝子導入トマトカルスから成育した植物組織1mg中に0.48mgのTat−gusA融合蛋白質が含まれていた。また、組み換え植物から2cmの位置に2週間静置した正常トマトカルスから成育した植物組織1mg中に0.12mgのTat−gusA融合蛋白質が含まれていた。RGD(−)及びmRGD遺伝子の産物は植物から放出されないので、各実験系の正常トマトカルスから成育した植物組織中からは当該各遺伝子の産物である蛋白質検出されなかった。
よって、RGD配列を有する組み換え蛋白質が植物から放出され、遺伝子導入を受けていない植物中に蓄積されることがわかった。本実施例において使用したpBI121発現ベクターはカリフラワーモザイクウィルス(CaMV)35Sプロモーターの制御下にあるためその下流に挿入した組み換え遺伝子の発現を強力に誘導することができ、同時に挿入したカナマイシン耐性遺伝子の発現のために、プラスミッドの導入された植物細胞だけが選択的に増殖することができ、植物カルスの成長と根・茎・葉等への分化および成長が可能となった。そして、カルスのバイオマスの増加および根・茎・葉等を持つ植物組織への分化が可能であって、いずれの段階においても継続的なRGD配列を有する組み換え蛋白質の産生の維持が可能であった。
Barillari et al. (Proc Natl Acad Sci USA 90: 7941-5, 1993)等の他の文献に示されているように、RGD配列を有する蛋白質は動物細胞にも取り込まれることが知られており、植物が産生したRGD配列を有する組み換え蛋白質は多くの対象物に取り込み可能であると考えられる。
(実施例3)
RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子を導入したトマトカルスをそれぞれオートクレーブ処理により殺菌した5mlの蒸留水を含むペトリ皿(ステリリン社製、プラスチックのペトリ皿:50mmおよび90mm径、高さ12および16mm)に静置させ、14日間培養を継続した。その後、植物組織を別の新しい同様のペトリ皿に移して培養を継続した(図4(b)上段「incubation time」)。
培養実験開始時に、ワットマン社の2.3cm径のDE81濾紙を、遺伝子導入したトマトカルス組織を培養しているペトリ皿に浸し、まず一昼夜培養後、濾紙を回収して各遺伝子の産物である蛋白質の有無を確かめた。その後、新しい濾紙を同じ場所において14日間培養を継続した。この14日間培養は上述の通り異なるペトリ皿で2回行った。図4(b)上段「Disc−Blotting」の▼時点が濾紙の回収時点である。
上記各時点で回収した、培養液を吸着させた濾紙をPVDF膜(ミリポア社製Immobilon)の上に載せて蛋白質分子を転送させた。これらのimmobilon膜はウエスタンブロット法と同様に浸透法で蛋白質分子を転写し、膜表面上のGUS蛋白の有無を特異抗体(Abcam社、beta−glucuronidase(GUS)antibody:#ab58415)を使って検出した(Disc−blot immnoassay)。
実験結果を図4に示す。図4(a)は28日間培養後の植物組織である。指示マークは白化部位を示し、略円形の印は濾紙を静置させた位置と大きさを示す。RGD(+)又はmRGD遺伝子を導入したカルスから成育した植物組織では白化が確認されたが、RGD(−)遺伝子を導入したカルスから成育した植物組織では白化が起こらなかった。
Disc−blot immnoassayの結果を図4(b)下段に示す。RGD(+)遺伝子を導入したカルス/植物組織の培養培地からは、最初の一昼夜、培養14日、及び培養28日のいずれの時点においてもTat−gusA融合蛋白質が検出された(図4(b)下段左欄)。一方、RGD(−)、又はmRGD遺伝子を導入したカルス/植物組織の各培養培地からは遺伝子産物のである蛋白質は検出されなかった。
以上の結果より、RGD(+)遺伝子を導入したカルス/植物組織は継続的にRGD配列を有する組み換え蛋白質を植物外(培養培地)に放出することが示された。また、培養培地に植物から放出された組み換え蛋白質が蓄積していくことが明らかとなった。
さらに、後述の実施例4に示すとおり、アセトン沈殿などの簡便な方法で植物から放出された組み換え蛋白質が回収可能であった。
(実施例4)
室温で安定である、RGD(+)遺伝子産物である蛋白質の糖鎖修飾についての解析を行った。
RGD(+)、RGD(−)、又はmRGD遺伝子導入したトマトカルスを実施例3と同様に28日間培養した各ペトリ皿の水から植物組織を取り除き、体積比で4倍の冷アセトンを加えて沈殿させ、沈殿を最大限に起こさせるために−20℃で一晩静置した。この溶液を4℃、12,000RPMの条件で遠心し、沈殿を1mlの80%アセトンで2回洗浄し、5分間風乾した。このようにして得た蛋白質の沈殿物をPBSに溶解し、通常のウエスタンブロット法による実験に供した。
ここで用いた免疫ブロットを糖蛋白質検出キット(Sigma社Glycoprotein Detection Kit)を用いて、製品説明書に記載の方法により解析し、発現させた蛋白分子の糖鎖修飾の有無を調べた。
さらに、糖鎖修飾の有無を見るために、前記RGD(+)遺伝子組み換え植物組織が分泌してペトリ皿の水中に放出したRGD(+)遺伝子産物である蛋白質を、グリコペプチダーゼF(宝バイオ社製)を用いて製品説明書に記載の方法で酵素処理した。
実験結果を図5に示す。図5(a)(図5左列)に示すように、40kDaの位置にRGD(+)遺伝子産物である糖蛋白質が確認された。RGD(−)、mRGD遺伝子遺伝子産物は植物外に放出されないので本実施例では検出されなかった。本実施例においてはアセトン沈殿のみを行い、他の溶解試薬等は使用しなかった。よって、RGD(+)遺伝子導入カルスから成育した植物組織から放出された組み換え蛋白質を容易に回収することができた。
図5(b)(図5右列)にはグリコペプチダーゼFを用いた試験の結果を示す。グリコペプチダーゼFで処理したTat−gusA融合蛋白質は糖鎖が外された。
RGD(+)遺伝子導入カルスから成育した植物組織は糖蛋白質である組み換え蛋白質を植物外に放出することがわかった。また、糖鎖修飾は、組み換え蛋白質の生物活性の維持・安定性に寄与していると推測される。
(実施例5)
HA−RGD(−)またはHA−RGD(+)を発現させた植物組織より各遺伝子の産物である蛋白質をP−PER植物蛋白抽出キットを用いて抽出した。抽出は上述の実施例2と同様の操作とした。
インフルエンザHA抗原に特異的な単クローン抗体InfA−15(Hifumi E., Fujimoto, N., Ishida, K., Kawawaki, H., and Uda, T. J.
Biosci. Bioeng. 10(: 598-608, 2010)を用いて通常のウエスタンブロット法で植物抽出液中のHA蛋白質を検出した。
各遺伝子導入カルスから成育した植物組織からの培地への組み換え蛋白質の放出は、培地に静置した濾紙を用いて上述の実施例3と同様の操作により確認した。
実験結果を図6に示す。HA−RGD(−)またはHA−RGD(+)遺伝子をトマトカルスに導入して成育・分化させた植物組織は、遺伝子導入をしないで同様に成育・分化させた植物組織と比較して生理学的差異が認められなかった(図6(a)上段。図6において、「RGD(−)」は遺伝子導入しないトマトカルス(対照:Normal)を示す。また、図6(a)中で略円形の印は濾紙を静置させた位置と大きさを示す。)。
ウエスタンブロット試験の結果、HA−RGD(−)またはHA−RGD(+)遺伝子を導入した植物組織は各遺伝子の産物である蛋白質を産生した(図6(a)下段)。
HA−RGD(+)遺伝子を導入したカルス/植物組織の培養培地からは、最初の一昼夜、培養14日、及び培養28日のいずれの時点においてもHA−RGD(+)遺伝子産物である蛋白質が検出された(図6(b)下段右列)。一方、RGD配列を持たないHA−RGD(−)遺伝子を導入したカルス/植物組織の培養培地からは、HA−RGD(−)遺伝子産物である蛋白質が検出されなかった(図6(b)下段中央列)。
よって、HA遺伝子を用いた場合であっても、HA−RGD(+)遺伝子を導入したカルス/植物組織は継続的にRGD配列を有する組み換え蛋白質を植物外(培養培地)に放出することが示された。また、培養培地に植物から放出された組み換え蛋白質が蓄積していくことが明らかとなった。
gusA及びHA遺伝子を用いて、RGD配列を有する組み換え蛋白質が植物で産生され、植物外に放出されることが示された。よって、他の遺伝子の産物であってもRGD配列を組み込むことで植物外に放出させることが可能であると考えられる。RGD配列の位置も適宜選択可能であると考えられる。
本発明によって、植物を用い、回収が簡便な組み換え蛋白質の製造方法が提供される。また、活性等が安定して持続する組み換え蛋白質の製造方法が提供される。また、簡便な蛋白質導入方法が提供される。

Claims (4)

  1. RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列を有する組み換え蛋白質を植物に産生させ、植物体外へ放出させる工程と、当該植物から放出された前記組み換え蛋白質を回収する工程を含むことを特徴とする組み換え蛋白質の製造方法。
  2. 前記RGD配列を有する組み換え蛋白質を、当該組み換え蛋白質を産生させる植物を培養した培地から回収することを特徴とする請求項1に記載の組み換え蛋白質の製造方法。
  3. 前記RGD配列を有する組み換え蛋白質がカルス又は植物の根から放出されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の組み換え蛋白質の製造方法。
  4. 植物を培養し当該植物から放出されたRGD配列を有する組み換え蛋白質が存在する培地に、当該組み換え蛋白質を導入する対象物を暴露する工程を含むことを特徴とする蛋白質の導入方法(ヒトを治療する方法を除く。)。
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