JP2012233650A - 製鋼スラグの燐分離方法および製鋼スラグの燐分離装置 - Google Patents

製鋼スラグの燐分離方法および製鋼スラグの燐分離装置 Download PDF

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Abstract

【課題】CaO等を主成分とする製鋼スラグから高い分離性で燐を分離することができる、製鋼スラグの燐分離方法および製鋼スラグの燐分離装置を提供する。
【解決手段】製鋼スラグを酸化させる第1工程と、その製鋼スラグを粉砕する第2工程と、粉砕された製鋼スラグを、所定のpHを有する液体に浸漬させる第3工程と、その後、液体中の固体成分と液体成分とを分離する第4工程とを有する。第1工程は、製鋼スラグに含まれる酸化鉄をFeおよび/またはFeに変化させることにより、FeOの濃度が1質量%以下となるよう、製鋼スラグを酸化させる。酸化前の製鋼スラグは、トリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P;濃度C3P)と、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO;濃度C2S)とを成分とする固溶体相を有している。固溶体相は、C3P/(C2S+C3P)が、0.25以上0.95以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、製鋼スラグの燐分離方法および製鋼スラグの燐分離装置に関する。
高炉溶銑には燐が0.1%程度含まれているため、製鋼プロセスではこれを除去する必要がある。一般には、転炉で脱炭精錬を行う時に同時にスラグへ燐を移行させるが、我が国では、脱炭精錬に先立って酸化脱燐精錬を行う溶銑予備処理法も広く用いられている。また、電気炉では、スクラップを溶解して溶鋼とする場合には脱燐の必要はないが、スクラップとともに銑鉄を溶解する場合には、転炉と同じように脱燐精錬を行う。その結果、これらの行程で発生する製鋼スラグには燐が含まれる。なお、製鋼スラグとは、燐酸を3質量%以上含む、転炉、溶銑予備処理、電気炉で生成するスラグである。
このような製鋼スラグは、溶鋼1トン当たり約50kg程度発生するが、主に、路盤材や土木工事原料として用いられている。しかし、その膨大な発生量に対して需要量は充分では無く、また建設廃材などの競合材料も多いため、今後は、使用されずに製鉄所内に堆積される量が増加すると予想されている。製鋼スラグの主要な構成酸化物は、CaO、SiO、FeO、MgO、Pであり、その中で、Pの含有量を低下させることができれば、再び脱燐精錬に利用することができる。そのため、製鋼スラグからPを除去する方法や、製鋼スラグから肥料原料である燐酸を分離回収する試みが多数提案されている。
製鋼スラグ中の燐は、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO)とトリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P)の固溶体として存在している比率が高いため、この固溶体を、その他の部分と分離する方法が各種考えられている。例えば、固溶体とその他の部分の密度が異なることを利用して、スラグを5℃/分以下の除冷または温度保定することにより、上下2層に分離させる方法や(例えば、特許文献1参照)、固溶体とその他の部分との磁着力の差を利用して、粉砕後に磁力により選別する方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
一方、スラグの水溶性を利用した方法も提案されており、例えば、Na等のアルカリ金属を主成分とするスラグを水に溶解させ、残渣を除去した後に、水溶液中に含有される燐化合物を燐酸カルシウムのようなアルカリ土類金属化合物として沈殿させる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
特開昭53−54196号公報 特開2006−130482号公報 特開昭52−122577号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、燐の分離性が低く、下層においてもPが1%以上含まれるという課題があった。また、特許文献2では、分離の可能性が示されているのみで、実際の分離性が示されてなく、原理的に直径が10μm程度の固溶体相とその他の相とを粉砕で分離することは不可能であるという課題があった。特許文献3に記載の方法では、Na等のアルカリ金属を主成分とするスラグが対象であり、一般的に用いられているCaO等を主成分とする製鋼スラグでは用いることができないという課題があった。
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、CaO等を主成分とする製鋼スラグから高い分離性で燐を分離することができる、製鋼スラグの燐分離方法および製鋼スラグの燐分離装置を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法は、製鋼スラグを酸化させる第1工程と、前記第1工程で酸化された前記製鋼スラグを粉砕する第2工程と、前記第2工程で粉砕された前記製鋼スラグを、所定のpHを有する液体に浸漬させる第3工程と、前記第3工程の後、前記液体中の固体成分と液体成分とを分離する第4工程とを有することを特徴とする。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法では、第1工程で製鋼スラグを酸化させることにより、第2工程で粉砕された製鋼スラグを、第3工程で所定のpHを有する液体に浸漬したときに、製鋼スラグから液体中に燐を溶出しやすくすることができる。第4工程で、燐が溶出した液体成分を固体成分と分離することにより、製鋼スラグから燐を分離することができる。第1工程での酸化処理、第3工程での液体のpHや浸漬時間等を適切に制御することにより、燐の溶出率および分離性を高めることができる。このように、本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法は、CaO等を主成分とする製鋼スラグから、高い分離性で燐を分離することができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法によれば、第3工程で燐を溶出させることにより、第4工程で分離される固体成分のPの含有量を低下させることができるため、その固体成分から成る製鋼スラグを再び脱燐精錬に利用することができる。また、第4工程で分離される液体成分に含まれる燐を、肥料用の燐酸源として利用することもできる。なお、第1工程での酸化方法は、いかなる方法でもよく、例えば、製鋼スラグに空気を吹き込むといった既存の方法であってもよい。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法で、前記第1工程は、前記製鋼スラグに含まれる酸化鉄をFeおよび/またはFeに変化させることにより、FeOの濃度が1質量%以下となるよう、前記製鋼スラグを酸化させることが好ましい。この場合、第3工程で製鋼スラグを所定のpHを有する液体に浸漬したときに、液体中に溶出する燐の溶出率を高めることができ、燐の分離性をより高めることができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法で、前記第1工程で酸化される前の前記製鋼スラグは、鉱物相としてCaO、SiO、Pを主成分とする固溶体相を有し、前記固溶体相は、トリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P)の濃度C3Pと、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO)の濃度C2Sとの関係C3P/(C2S+C3P)が、0.25以上0.95以下であることが好ましい。この場合、第3工程で製鋼スラグを所定のpHを有する液体に浸漬したとき、固溶体相から液体中に溶出する燐の量を増やすことができる。このため、燐の分離性をより高めることができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法で、前記液体はpHが6.5以上8.5以下であることが好ましい。この場合、第3工程で製鋼スラグを液体に浸漬したとき、固溶体相の燐を溶出させつつ、他の成分の溶出を抑えることができる。このため、固溶体相に含まれている燐を、選択的に効率よく分離することができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法は、前記第3工程で、前記製鋼スラグを前記液体に浸漬したとき、前記液体中のカルシウム(Ca)の濃度(mg/L)と燐(P)の濃度(mg/L)との積が、2500以上4500以下になるよう、前記液体のpHおよび浸漬時間を制御することが好ましい。この場合、第3工程で製鋼スラグを液体に浸漬したとき、燐を含む化合物が液体中に析出したり、燐を含む化合物が析出して液体中の燐の濃度が低下したりするのを防ぐことができる。このため、燐の溶出率の低下を防いで、燐を効率よく分離することができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法は、前記第4工程で分離された前記液体成分のpHを変化させて、燐を含む化合物を析出させる第5工程と、前記第5工程で析出した前記化合物を分離した後の残留液体を、前記液体と同じpHにした後、前記残留液体に前記第4工程で分離された前記固体成分を浸漬させる第6工程と、前記第6工程の後、前記残留液体中の固体成分と液体成分とを分離する第7工程とを有していてもよい。この場合、第5工程で燐を含む化合物を析出させることにより、液体成分から燐を分離することができる。また、第6工程で、残留液体を再利用して固体成分からさらに燐を溶出させることができる。第7工程で、残留液体中に溶出した燐を分離することができる。このため、燐の分離性をさらに高めることができる。なお、第5工程で析出する燐を含む化合物は、例えば、ヒドロキシアパタイト[HAp:Ca10−x(HPO(PO6−x(OH)2−x]である。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法は、前記第5工程で、変化後の前記液体成分のpHは、8.5より大きいことが好ましい。この場合、燐を含む化合物を効率よく析出させることができ、燐を分離する効率を高めることができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法は、前記第4工程から前記第7工程までを複数回繰り返してもよい。この場合、繰り返すたびに、燐の分離性を高めていくことができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置は、第1水槽と第1送水管と第2水槽と第2送水管とを有し、前記第1水槽は、所定のpHを有する液体が収納され、酸化して粉砕された製鋼スラグを前記液体に浸漬可能に設けられ、前記第1送水管は前記第1水槽と前記第2水槽とを連結しており、前記製鋼スラグが浸漬された前記液体中の液体成分を前記第1水槽から前記第2水槽に送水可能に設けられ、前記第2水槽は、前記第1送水管から送水される前記液体成分を収納し、前記液体成分から燐を含む化合物を析出させるよう前記液体成分のpHを変化可能に設けられ、前記第2送水管は前記第1水槽と前記第2水槽とを連結しており、前記第2水槽で前記化合物を析出した後の残留液体を前記第2水槽から排出し、前記液体と同じpHにした後、前記第1水槽に送水可能に設けられていることを特徴とする。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置は、本発明に係る製鋼スラグの燐分離方法を好適に実施することができる。本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置は、第1水槽で、酸化して粉砕された製鋼スラグを所定のpHを有する液体に浸漬することにより、液体中に燐を溶出させることができる。第1送水管により、燐が溶出した液体成分を第2水槽に送水し、第2水槽で燐を含む化合物を析出させることにより、液体成分から燐を分離することができる。これにより、製鋼スラグから燐を分離することができる。
さらに、第2送水管により、化合物を析出した後の残留液体を、第1水槽でのpHに戻した後、第1水槽に送水し、第1水槽でその残留液体に固体成分を浸漬することにより、固体成分からさらに燐を溶出させることができる。こうして、燐の分離性をさらに高めることができる。本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置は、第1水槽での液体のpHや浸漬時間、第2水槽での液体成分のpH等を適切に制御することにより、燐の溶出率および分離性を高めることができる。このように、本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置は、CaO等を主成分とする製鋼スラグから、高い分離性で燐を分離することができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置で、前記第1水槽に収納された前記液体は、pHが6.5以上8.5以下であり、前記第2水槽は、前記液体成分のpHを8.5より大きいpHに変化可能に構成されていることが好ましい。この場合、第1水槽で製鋼スラグを液体に浸漬したとき、製鋼スラグに含まれるCaO、SiO、Pを主成分とする固溶体相から燐を溶出させつつ、他の成分の溶出を抑えることができる。また、第2水槽で燐を含む化合物を効率よく析出させることができる。このため、固溶体相に含まれている燐を、選択的に効率よく分離することができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置で、前記第1水槽は、前記製鋼スラグを前記液体に浸漬したとき、前記液体中のカルシウム(Ca)の濃度(mg/L)と燐(P)の濃度(mg/L)との積が、2500以上4500以下になるよう、前記液体のpHおよび浸漬時間を制御可能であることが好ましい。この場合、第1水槽で製鋼スラグを液体に浸漬したとき、第2水槽で析出させる前に、燐を含む化合物が液体中に析出したり、燐を含む化合物が析出して液体中の燐の濃度が低下したりするのを防ぐことができる。このため、第1水槽での燐の溶出率の低下を防いで、第2水槽で効率よく燐を分離することができる。
本発明に係る製鋼スラグの燐分離装置は、前記残留液体を、前記第1水槽、前記第1送水管、前記第2水槽および前記第2送水管の間で循環可能に構成されていてもよい。この場合、循環させるたびに、燐の分離性を高めていくことができる。
本発明によれば、CaO等を主成分とする製鋼スラグから高い分離性で燐を分離することができる、製鋼スラグの燐分離方法および製鋼スラグの燐分離装置を提供することができる。
本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法の、製鋼スラグ中の固溶体の組成と燐の溶出率との関係を示すグラフである。 本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法の、(a)製鋼スラグの走査型電子顕微鏡写真、(b)一部を拡大した走査型電子顕微鏡写真、(c)走査型電子顕微鏡写真から得られた製鋼スラグの組成を示すテーブルである。 本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法の、製鋼スラグを浸漬する液体のpHと燐の溶出率との関係を示すグラフである。 本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法の、製鋼スラグ中の固溶体をpH7.0の液体(水)に浸漬させたときの、Ca、SiおよびPの溶出率の時間変化を示すグラフである。 本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法の、ヒドロキシアパタイトの析出が起こったときのCa濃度およびP濃度の関係を示すグラフである。 本発明の実施の形態の製鋼スラグの燐分離装置を示す斜視図である。
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明は、製鋼スラグ中で燐が主に含まれる、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO)とトリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P)とを成分とする固溶体相と、その他の部分から成るマトリックス相とで、水に対する溶解度が大きく異なる条件を見出したことに基づくものである。
図1乃至図5は、本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法を示している。
本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法は、製鋼スラグを酸化させる第1工程と、第1工程で酸化された製鋼スラグを粉砕する第2工程と、第2工程で粉砕された製鋼スラグを、所定のpHを有する液体に浸漬させる第3工程と、第3工程の後、液体中の固体成分と液体成分とを分離する第4工程とを有している。
第1工程で酸化される前の製鋼スラグは、鉱物相として、CaO、SiO、Pを主成分とし、トリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P)と、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO)とを成分とする固溶体相を有している。
本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法では、第1工程で製鋼スラグを酸化させることにより、第2工程で粉砕された製鋼スラグを、第3工程で所定のpHを有する液体に浸漬したときに、製鋼スラグから液体中に燐を溶出しやすくすることができる。第4工程で、燐が溶出した液体成分を固体成分と分離することにより、製鋼スラグから燐を分離することができる。第1工程での酸化処理、第3工程での液体のpHや浸漬時間等を適切に制御することにより、燐の溶出率および分離性を高めることができる。このように、本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法は、CaO等を主成分とする製鋼スラグから、高い分離性で燐を分離することができる。
本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法によれば、第3工程で燐を溶出させることにより、第4工程で分離される固体成分のPの含有量を低下させることができるため、その固体成分から成る製鋼スラグを再び脱燐精錬に利用することができる。また、第4工程で分離される液体成分に含まれる燐を、肥料用の燐酸源として利用することもできる。
次に、高い燐の溶出率および分離性を得るため、第1工程での酸化処理、製鋼スラグの固溶体相の組成、第3工程での液体のpHや浸漬時間等の条件について検討を行う。
[燐の溶出率と酸化処理についての検討]
まず、製鋼スラグ中のCaO−SiO−Pからなる固溶体と同じ組成になるよう試薬を混合して焼成し、CaO−SiO−Pからなる固溶体を作製した。さらに、この固溶体を57μm以下に粉砕した試料(以下、「固溶体試料」と称する)を作製した。また、製鋼スラグ中の固溶体以外のマトリックス相と類似した組成に試薬を混合して溶解し、急冷した後に57μm以下に粉砕した試料(以下、「マトリックス試料」と称する)を作製した。ここで、固溶体試料は、ダイカルシウム・シリケートとトリカルシウム・フォスフェイトとの質量比が7:3であり、マトリックス試料の組成は、CaO;34%、SiO;33%、FeO;28%、P;5%である。
また、試薬をCaO;44%、SiO;21%、Fe;29%、P;6%の組成に混合し、1873Kで溶解させた後、1673Kで10分間保持してから急冷させ、その後、57μm以下に粉砕した試料(以下、「スラグ試料1」と称する)と、試薬をCaO;45%、SiO;24%、FeO;23%、P;8%の組成に混合し、1873Kで溶解させた後、1673Kで10分間保持してから急冷させ、その後、57μm以下に粉砕した試料(以下、「スラグ試料2」と称する)とを作製した。
pHを7.0に制御した常温の水0.4Lに対して、固溶体試料を1g、マトリックス試料を1g、スラグ試料1を1g、または、スラグ試料2を1g添加し、撹拌羽根で混合しつつ水中へ溶出した燐(P)のイオン濃度をそれぞれ測定した。30分浸漬後の測定結果を、表1に示す。ここで、溶出率とは、浸漬試料中の燐の質量に対する水中に溶出した燐の質量の割合である。
表1より明らかに、固溶体試料の燐の溶出率は、マトリックス試料の燐の溶出率の10倍であることが確認された。また、表1より明らかに、スラグ試料1での燐の溶出率は固溶体と同じ程度であるが、スラグ試料2では燐はほとんど溶出しないことが確認された。この結果から、製鋼スラグに含まれる酸化鉄がFeOのとき、燐の溶出が阻害されることがわかる。
このことから、第1工程で、FeOの濃度が1質量%以下となるよう、製鋼スラグを酸化させて、製鋼スラグに含まれる酸化鉄をFeおよび/またはFeに変化させることが好ましいといえる。これにより、第3工程で製鋼スラグを所定のpHを有する液体に浸漬したときに、液体中に溶出する燐の溶出率を高めることができ、燐の分離性をより高めることができる。
[製鋼スラグの固溶体相の組成についての検討]
製鋼スラグ中の固溶体成分のトリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P)の濃度C3Pと、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO)の濃度C2Sとを、様々に変えたときの燐の溶出率について実験を行い、その結果を図1に示す。浸漬した液体(水)のpHは、7.0である。
図1に示すようにトリカルシウム・フォスフェイトの割合が高くなるに従って、燐の溶出率が増加し、その後、低下することがわかる。表1に示すマトリックス試料の燐の溶出率と充分に差を出し、固溶体相に含まれる燐の溶出率を高めるためには、図1に示すように、固溶体相のC3P/(C2S+C3P)は0.25以上0.95以下であることが必要である。これにより、燐の分離性をより高めることができる。
ここで、スラグ試料1の断面を走査型電子顕微鏡で観察した組織図を、図2に示す。固溶体相の組成は、このようなスラグ断面に見られる固溶体相をX線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で分析して得られる。ダイカルシウム・シリケートの濃度C2Sは、分析で得られたSiOの濃度(%SiO)(質量パーセント)から、172×(%SiO)/60で計算され、トリカルシウム・フォスフェイトの濃度C3Pは、分析で得られたPの濃度(%P)(質量パーセント)から、310×(%P)/142で計算される。
[浸漬する液体のpHについての検討]
固溶体相の組成が、C2S:C3P=7:3、すなわち、C3P/(C2S+C3P)=0.3の固溶体試料、およびマトリックス試料について、固溶体試料を浸漬する液体(水)のpHと燐の溶出率との関係を調べ、その結果を図3に示す。図3に示すように、pHが低いときには、両試料とも燐の溶出率が高く、pHが高いときには、両試料とも燐が溶出しなくなることが確認された。
マトリックス相の場合、燐の溶出率が高くなると他の成分の溶出率も高くなるため、他の成分の溶出を抑えるためには、マトリックス相からの燐の溶出率を抑えながら、選択的に固溶体相から燐を溶出させる必要がある。このため、図3の結果から、pHが6.5以上8.5以下であることが必要である。
[液体への浸漬時間についての検討]
固溶体相の組成が、C2S:C3P=7:3、すなわち、C3P/(C2S+C3P)=0.3の固溶体試料を、pH7.0の液体(水)に浸漬させたときの、Ca、SiおよびPの溶出率の時間変化を調べ、その結果を図4に示す。図4に示すように、CaやSiは、浸漬時間の経過とともに単調に増加するのに対して、Pは30分付近でピークとなることが確認された。これは、残渣の分析によると、液体中にヒドロキシアパタイト[HAp:Ca10−x(HPO(PO6−x(OH)2−x]が析出したためであることが確認された。
ヒドロキシアパタイトの液体に対する溶解度は、液体中のCaとPの濃度で決まることが分かっている。製鋼スラグにはCaOが多く含まれているため、Pを液体中に効果的に溶出させるためには、液体中のCa濃度を上げ過ぎないことが重要であるといえる。
ヒドロキシアパタイトの溶解度は、CaとPの活量と、溶解度との積で計算できるが、実験結果を解析すると、化学的溶解度よりも過飽和な値で析出が起こっていることが確認された。ヒドロキシアパタイトの析出が起こったときのCa濃度およびP濃度を調べ、図5に示す。図5に示すように、Ca濃度(mg/L)とP濃度(mg/L)との関係を、(P濃度)=M×(Ca濃度)−1.0で表わしたときのM(Ca濃度とP濃度との積)を4500以下に制御すれば、ヒドロキシアパタイトの析出は起こるものの、液体中のP濃度が大きく低下することはないことが確認された。
また、Mの下限値は、ヒドロキシアパタイトの溶解度という観点からは規定されないが、Mが2500よりも小さい値に制御すると、溶解するPが少ないため、固溶体を除去する効率が低く現実的ではない。このため、Mを2500以上4500以下に制御することが好ましいといえる。これにより、第3工程で製鋼スラグを液体に浸漬したとき、燐を含む化合物が液体中に析出したり、燐を含む化合物が析出して液体中の燐の濃度が低下したりするのを防ぐことができる。このため、燐の溶出率の低下を防いで、燐を効率よく分離することができる。
図6は、本発明の実施の形態の製鋼スラグの燐分離装置および本発明の第2の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法を示している。
図6に示すように、製鋼スラグの燐分離装置10は、第1水槽11と第2水槽12と第1送水管13と第2送水管14とを有している。
第1送水管13は、第1水槽11と第2水槽12とを連結しており、第1水槽11から第2水槽12に向かって送水可能になっている。
第2送水管14は、第1水槽11と第2水槽12とを連結しており、第2水槽12から第1水槽11に向かって送水可能になっている。
製鋼スラグの燐分離装置10は、本発明の第2の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法を好適に実施可能である。本発明の第2の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法は、まず、第1水槽11にて、本発明の第1の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法の第1工程から第3工程を実施する。すなわち、第1水槽11に所定のpHを有する液体を入れ、酸化して粉砕された製鋼スラグ1をその液体に浸漬させる。このとき、液体中に燐を含むヒドロキシアパタイトが析出しないよう、液体のpHを6.5以上8.5以下にして、ヒドロキシアパタイトの溶解度を超えない範囲にCaとPの濃度を抑制する。
浸漬後、第4工程で、第1水槽11の液体成分を、第1送水管13を通して第1水槽11から第2水槽12に送水し、第1水槽11の固体成分と液体成分とを分離する。第5工程で、送水された第2水槽12の液体成分のpHを8.5以上に変化させ、燐を含むヒドロキシアパタイト2を析出させる。これにより、液体成分から燐を分離することができるとともに、残留液体のCaとPの濃度を低下させることができる。
第6工程で、ヒドロキシアパタイト2を析出した後の第2水槽12の残留液体を、第2送水管14により第2水槽12から排出する。これにより、析出したヒドロキシアパタイト2と残留液体とを分離することができる。分離したヒドロキシアパタイト2を回収して、燐酸肥料の原料とすることができる。次に、第2水槽12から排出した残留液体を、第2送水管14で6.5以上8.5以下のpHに戻した後、第1水槽11に送水する。第1水槽11に送水された残留液体に、第4工程で分離された固体成分を浸漬させる。これにより、残留液体を再利用して、固体成分からさらに燐を溶出させることができる。
浸漬後、第7工程で、第1水槽11の液体成分を、第1送水管13を通して第1水槽11から第2水槽12に送水し、残留液体中の固体成分と液体成分とを分離する。これにより、残留液体中に溶出した燐を分離することができる。分離された固体成分は燐の含有率が低下しているため、これを回収して再び脱燐精錬に利用することができる。
このように、本発明の第2の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法は、残留液体を、第1水槽11、第1送水管13、第2水槽12および第2送水管14の間で循環させることにより、燐の分離性を高めることができる。また、残留液体を何度も循環させて、第4工程から第7工程までを繰り返すことにより、燐の分離性をさらに高めていくことができる。
なお、本発明の第1および第2の実施の形態の製鋼スラグの燐分離方法を効果的に実施するには、製鋼スラグにおける、固溶体相とマトリックス相との間のPの分配比(固溶体中のP濃度/マトリックス相中のP濃度)を高めることが好ましい。分配比の支配要因は既に研究されており、CaO/SiOが2.0〜5.0、Feが10〜30%で、MnO、MgO、Alが10%以下の組成であることが好ましい。精錬後の製鋼スラグの組成が、この組成に含まれない場合には、第1工程で酸化処理をするにあたって、この組成になるように生石灰や焼結鉱、鉄鉱石を添加することが好ましい。
試薬をCaO;44%、SiO;21%、Fe;29%、P;6%の組成に混合し、1873Kで溶解させた後、1673Kで10分間保持してから急冷させて、スラグ試料を作製した。EPMA(電子線マイクロアナライザ;Electron Probe Micro Analyser)観察により、スラグ試料の固溶体組成は、C3P/(C2S+C3P)=0.3であり、マトリックス相の組成は、CaO;28%、SiO;15%、Fe;55%、P;0.5%であった。
このスラグ試料を、57μm以下に粉砕し(第2工程)、粉砕後の試料1gを、pH=7.0の水(0.4L)に25分間浸漬した(第3工程)。このときのCa濃度は350mg/L、P濃度は11mg/Lであり、(P濃度)=M×(Ca濃度)−1.0で表わしたときのMは、3850となった。また、Pの溶出率は、16%であった。次いで、浸漬した液体を濾過し、その液体成分だけを取り出した(第4工程)。
その液体成分をpH=9.0へと変化させ、25分保持した。この時点で、液体成分のP濃度は検出限界以下であった。その後、液体成分を濾過し、残渣を分析したところ、その残渣はヒドロキシアパタイトであった(第5工程)。濾過後の残留液体をpH=7.0に調整し、そこに第4工程で濾過したときの残渣(固体成分)を25分間浸漬した(第6工程)。この時のCa濃度は288mg/L、P濃度は9mg/Lであり、(P濃度)=M×(Ca濃度)−1.0で表わしたときのMは、2600となった。また、Pの溶出率は、1回目に溶出した量との合計で、31%であった。
1 製鋼スラグ
2 ヒドロキシアパタイト
10 製鋼スラグの燐分離装置
11 第1水槽
12 第2水槽
13 第1送水管
14 第2送水管

Claims (12)

  1. 製鋼スラグを酸化させる第1工程と、
    前記第1工程で酸化された前記製鋼スラグを粉砕する第2工程と、
    前記第2工程で粉砕された前記製鋼スラグを、所定のpHを有する液体に浸漬させる第3工程と、
    前記第3工程の後、前記液体中の固体成分と液体成分とを分離する第4工程とを
    有することを特徴とする製鋼スラグの燐分離方法。
  2. 前記第1工程は、前記製鋼スラグに含まれる酸化鉄をFeおよび/またはFeに変化させることにより、FeOの濃度が1質量%以下となるよう、前記製鋼スラグを酸化させることを特徴とする請求項1記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  3. 前記第1工程で酸化される前の前記製鋼スラグは、鉱物相としてCaO、SiO、Pを主成分とする固溶体相を有し、前記固溶体相は、トリカルシウム・フォスフェイト(3CaO・P)の濃度C3Pと、ダイカルシウム・シリケート(2CaO・SiO)の濃度C2Sとの関係C3P/(C2S+C3P)が、0.25以上0.95以下であることを特徴とする請求項1または2記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  4. 前記液体はpHが6.5以上8.5以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  5. 前記第3工程で、前記製鋼スラグを前記液体に浸漬したとき、前記液体中のカルシウム(Ca)の濃度(mg/L)と燐(P)の濃度(mg/L)との積が、2500以上4500以下になるよう、前記液体のpHおよび浸漬時間を制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  6. 前記第4工程で分離された前記液体成分のpHを変化させて、燐を含む化合物を析出させる第5工程と、
    前記第5工程で析出した前記化合物を分離した後の残留液体を、前記液体と同じpHにした後、前記残留液体に前記第4工程で分離された前記固体成分を浸漬させる第6工程と、
    前記第6工程の後、前記残留液体中の固体成分と液体成分とを分離する第7工程とを
    有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  7. 前記第5工程で、変化後の前記液体成分のpHは、8.5より大きいことを特徴とする請求項6記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  8. 前記第4工程から前記第7工程までを複数回繰り返すことを特徴とする請求項6または7記載の製鋼スラグの燐分離方法。
  9. 第1水槽と第1送水管と第2水槽と第2送水管とを有し、
    前記第1水槽は、所定のpHを有する液体が収納され、酸化して粉砕された製鋼スラグを前記液体に浸漬可能に設けられ、
    前記第1送水管は前記第1水槽と前記第2水槽とを連結しており、前記製鋼スラグが浸漬された前記液体中の液体成分を前記第1水槽から前記第2水槽に送水可能に設けられ、
    前記第2水槽は、前記第1送水管から送水される前記液体成分を収納し、前記液体成分から燐を含む化合物を析出させるよう前記液体成分のpHを変化可能に設けられ、
    前記第2送水管は前記第1水槽と前記第2水槽とを連結しており、前記第2水槽で前記化合物を析出した後の残留液体を前記第2水槽から排出し、前記液体と同じpHにした後、前記第1水槽に送水可能に設けられていることを
    特徴とする製鋼スラグの燐分離装置。
  10. 前記第1水槽に収納された前記液体は、pHが6.5以上8.5以下であり、
    前記第2水槽は、前記液体成分のpHを8.5より大きいpHに変化可能に構成されていることを
    特徴とする請求項9記載の製鋼スラグの燐分離装置。
  11. 前記第1水槽は、前記製鋼スラグを前記液体に浸漬したとき、前記液体中のカルシウム(Ca)の濃度(mg/L)と燐(P)の濃度(mg/L)との積が、2500以上4500以下になるよう、前記液体のpHおよび浸漬時間を制御可能であることを特徴とする請求項9または10記載の製鋼スラグの燐分離装置。
  12. 前記残留液体を、前記第1水槽、前記第1送水管、前記第2水槽および前記第2送水管の間で循環可能に構成されていることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の製鋼スラグの燐分離装置。

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