JP2012215637A - 眼鏡レンズの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】装用者の好みに応じた外観を有するスラブオフ加工済レンズを製造するための手段を提供する。
【解決手段】眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行うことを含み、前記スラブオフ加工を、前記表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域(図1右図の斜線部)を被膜により被覆した状態で行い、かつ、前記被膜として、切除領域と未切除領域との境界線の所望の視認性に基づき決定した厚さを有する被膜を形成することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
【選択図】図1
【解決手段】眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行うことを含み、前記スラブオフ加工を、前記表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域(図1右図の斜線部)を被膜により被覆した状態で行い、かつ、前記被膜として、切除領域と未切除領域との境界線の所望の視認性に基づき決定した厚さを有する被膜を形成することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
【選択図】図1
Description
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関するものであり、詳しくは、プリズム作用の調整がなされ装用感が改善された眼鏡レンズの製造方法に関するものである。
多焦点眼鏡レンズには、遠方視のための遠用屈折力を有する遠用部と近方視のための近用屈折力を有する近用部が存在する。また、多焦点眼鏡レンズの中で屈折力が上部から下部へ向かって連続的に変化する累進面を有する累進屈折力レンズは、上記遠用部と近用部の間に屈折力が連続的に変化する中間部を有する。
一般に、眼鏡レンズの処方の中には、上記の遠用部屈折力や近用部屈折力といった焦点作用に関係した屈折力の他に、視線の方向を変化させる作用を有するプリズム屈折力が存在する。多焦点眼鏡レンズを製造する場合は遠用部のプリズム屈折力を決めると、近用部のプリズム屈折力は累進面の形状や遠用部屈折力および加入屈折力によって定まり、また同様の理由から、近用部のプリズム屈折力を決めると遠用部のプリズム屈折力が決まってしまう。したがって遠用部および近用部のプリズム屈折力をそれぞれ自由に選択することは困難である。
しかし、ほとんどの眼鏡装用者は左右同じ視力ではない。したがって、遠用部または近用部の一方で左右レンズのプリズム量を一致させると他方では左右のレンズのプリズム量に違いが生じることになる。これをプリズム誤差といい、左右の度数に大きな差がある、いわゆる不同視の装用者用の眼鏡レンズではプリズム誤差が極めて大きくなってしまい眼精疲労や頭痛の原因となり、プリズム誤差による左右の眼に入射される光のずれが人間の脳が有像できる限界を超えてしまうと二重像を生じて複視という症状を起こしてしまう。
しかし、ほとんどの眼鏡装用者は左右同じ視力ではない。したがって、遠用部または近用部の一方で左右レンズのプリズム量を一致させると他方では左右のレンズのプリズム量に違いが生じることになる。これをプリズム誤差といい、左右の度数に大きな差がある、いわゆる不同視の装用者用の眼鏡レンズではプリズム誤差が極めて大きくなってしまい眼精疲労や頭痛の原因となり、プリズム誤差による左右の眼に入射される光のずれが人間の脳が有像できる限界を超えてしまうと二重像を生じて複視という症状を起こしてしまう。
上記現象の発生を抑制する手段として、従来よりスラブオフ加工が知られている。スラブオフ加工とは、レンズのプリズム作用を調整するためにレンズ表面の一部を切除する加工であり、切除することでプリズム量を低減することができる。このようなスラブオフ加工が施された眼鏡レンズでは、切除加工が施された領域が未加工領域よりも低くなり段差が生じるため、特許文献1に記載されているように、通常両領域の境界線(以下、「スラブオフライン」と呼ぶ。)の存在が目視で確認されることとなる。
以下、図2に基づき、一般的なスラブオフ加工の工程について説明する。
図2は、バイフォーカルレンズ(セミフィニッシュドレンズ)の光学面にスラブオフ加工を行う工程の説明図である。図2(a)に示す被加工レンズは、台玉レンズに小玉レンズが埋め込まれたバイフォーカルレンズであって、小玉レンズによって近用部が形成されている。このような構成のバイフォーカルレンズでは、近方視する場合、台玉レンズの光学中心よりも8〜10mm程度下方の領域を使用することとなり、レンズ度数の強弱によって近用部にプリズムが発生する。左右レンズの度数差が1.00D以下であればプリズムも1△以内であり両眼視時に装用感を損なうことはないが、1.5D以上も差がつくとプリズムによる左右のアンバランスが顕著となる。この場合、少なくとも左右どちらかのレンズの一部を切除すること(スラブオフ加工)で左右レンズのプリズム作用を調整し両眼視時の装用感を改善することができる。具体的には、図2(b)に示すように被加工面の形状を転写した面形状を有するダミーレンズを被加工面に貼り合わせる。次いで、図2(c)に示すように、切除すべき領域(スラブオフ加工領域)をダミーレンズごと研削等の機械加工により除去する。図2ではセミフィニッシュドレンズを加工する例を示しているが、セミフィニッシュドレンズの非光学面(図2では凹面)に光学面を創成する機械加工(研削または切削、およびその後の研磨加工)は、通常スラブオフ加工後に残ったダミーレンズを除去する前に行われる。こうして光学面が創成されたレンズは図2(d)に示す状態となり、この状態のレンズからダミーレンズを除去することでスラブオフ加工がなされた眼鏡レンズ(図2(e))が得られる。前記した切除加工が施された領域と未切除領域との境界線は、ダミーレンズを一部残すことで未加工領域を設ける加工法では、ダミーレンズの存在に起因して必然的に生じるものである。
図2は、バイフォーカルレンズ(セミフィニッシュドレンズ)の光学面にスラブオフ加工を行う工程の説明図である。図2(a)に示す被加工レンズは、台玉レンズに小玉レンズが埋め込まれたバイフォーカルレンズであって、小玉レンズによって近用部が形成されている。このような構成のバイフォーカルレンズでは、近方視する場合、台玉レンズの光学中心よりも8〜10mm程度下方の領域を使用することとなり、レンズ度数の強弱によって近用部にプリズムが発生する。左右レンズの度数差が1.00D以下であればプリズムも1△以内であり両眼視時に装用感を損なうことはないが、1.5D以上も差がつくとプリズムによる左右のアンバランスが顕著となる。この場合、少なくとも左右どちらかのレンズの一部を切除すること(スラブオフ加工)で左右レンズのプリズム作用を調整し両眼視時の装用感を改善することができる。具体的には、図2(b)に示すように被加工面の形状を転写した面形状を有するダミーレンズを被加工面に貼り合わせる。次いで、図2(c)に示すように、切除すべき領域(スラブオフ加工領域)をダミーレンズごと研削等の機械加工により除去する。図2ではセミフィニッシュドレンズを加工する例を示しているが、セミフィニッシュドレンズの非光学面(図2では凹面)に光学面を創成する機械加工(研削または切削、およびその後の研磨加工)は、通常スラブオフ加工後に残ったダミーレンズを除去する前に行われる。こうして光学面が創成されたレンズは図2(d)に示す状態となり、この状態のレンズからダミーレンズを除去することでスラブオフ加工がなされた眼鏡レンズ(図2(e))が得られる。前記した切除加工が施された領域と未切除領域との境界線は、ダミーレンズを一部残すことで未加工領域を設ける加工法では、ダミーレンズの存在に起因して必然的に生じるものである。
スラブオフラインの視認性は、切除領域と未切除領域との高低差(段差量)に依存し、段差量が大きいほどスラブオフラインは明確に視認され、段差量が小さいほどスラブオフラインの視認性は低下する。段差量が極めて小さくなればスラブオフラインは目視で容易に視認されなくなりスラブオフ加工が施された眼鏡レンズであることは外観上判別困難となる。
特許文献1では、スラブオフラインは近用部と遠用部の境目が目立たない点を利点とする累進屈折力レンズでは望ましくないとされているが、装用者によってはスラブオフラインが鮮明に視認できることを好むこともある。なぜなら、スラブオフラインが鮮明に視認できればスラブオフ加工された領域を容易に判別できるため、スラブオフラインを目印として視線を動かすことで、レンズ面内で良好な装用感が得られる領域を直ちに選択することができるためである。一方で、特許文献1に記載されているように外観上の観点からスラブオフラインが明確に視認されないことが好まれる場合もある。即ち、スラブオフ加工により生じるスラブオフラインの視認性は、装用者の好みに応じて選択できることが望ましい。しかし従来のスラブオフ加工では、前述のようにダミーレンズの存在により段差が形成されるため所望量の段差を付与することは困難であり、装用者の好みに応じた視認性を示すスラブオフラインを形成することは難しい。
特許文献1では、スラブオフラインは近用部と遠用部の境目が目立たない点を利点とする累進屈折力レンズでは望ましくないとされているが、装用者によってはスラブオフラインが鮮明に視認できることを好むこともある。なぜなら、スラブオフラインが鮮明に視認できればスラブオフ加工された領域を容易に判別できるため、スラブオフラインを目印として視線を動かすことで、レンズ面内で良好な装用感が得られる領域を直ちに選択することができるためである。一方で、特許文献1に記載されているように外観上の観点からスラブオフラインが明確に視認されないことが好まれる場合もある。即ち、スラブオフ加工により生じるスラブオフラインの視認性は、装用者の好みに応じて選択できることが望ましい。しかし従来のスラブオフ加工では、前述のようにダミーレンズの存在により段差が形成されるため所望量の段差を付与することは困難であり、装用者の好みに応じた視認性を示すスラブオフラインを形成することは難しい。
そこで本発明の目的は、装用者の好みに応じた外観を有するスラブオフ加工済レンズを製造するための手段を提供することにある。
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ダミーレンズによらず樹脂コーティングやマスキングテープ等の被膜により未切除領域を覆い、切除領域を未被覆としてスラブオフ加工を行うと、厚い被膜を設けるほど段差量が多くなり、薄い被膜を設けるほど段差量が少なくなることを見出した。即ち、上記被膜の厚さによって切除領域と未切除領域との段差量を制御することができ、これにより装用者の好みに応じた外観(スラブオフラインの視認性)を有する眼鏡レンズを得ることができることが、本発明者らにより新たに見出された。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行うことを含み、
前記スラブオフ加工を、前記表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域を被膜により被覆した状態で行い、かつ、
前記被膜として、切除領域と未切除領域との境界線の所望の視認性に基づき決定した厚さを有する被膜を形成すること、
を特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
[2]前記被膜を、未切除とすべき領域上に光硬化性組成物を塗布し、該組成物を光照射により硬化させることで形成する[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[3]前記被膜として、前記所望の視認性に基づき決定した枚数のマスキングテープを未切除とすべき領域上に積層する[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[1]眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行うことを含み、
前記スラブオフ加工を、前記表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域を被膜により被覆した状態で行い、かつ、
前記被膜として、切除領域と未切除領域との境界線の所望の視認性に基づき決定した厚さを有する被膜を形成すること、
を特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
[2]前記被膜を、未切除とすべき領域上に光硬化性組成物を塗布し、該組成物を光照射により硬化させることで形成する[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[3]前記被膜として、前記所望の視認性に基づき決定した枚数のマスキングテープを未切除とすべき領域上に積層する[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
本発明によれば、装用者の好みに応じた外観(段差量)を有するスラブオフ加工済眼鏡レンズを提供することができる。
本発明は、眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行うことを含む眼鏡レンズの製造方法に関する。本発明の眼鏡レンズの製造方法は、前記スラブオフ加工を、前記表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域を被膜により被覆した状態で行い、かつ、前記被膜として、切除領域と未切除領域との境界線の所望の視認性に基づき決定した厚さを有する被膜を形成する。
前述のように、スラブオフ加工により切除領域と未切除領域と間に生じる段差量(高低差)は、装用者の好みに応じて選択できることが望ましいが、レンズ表面全面をダミーレンズによって覆い、ダミーレンズを一部残すことで未加工領域を形成する従来の方法では、切除領域と未切除領域との境界に所望量の段差を付与することは困難である。
これに対し本発明の眼鏡レンズの製造方法では、プリズム作用調整のため切除すべき領域を未被覆とし、残りの領域を被膜により被覆した状態でスラブオフ加工を施す。ここで形成する被膜の厚さにより段差量を制御することができるため、スラブオフラインが明確に視認されることを好む装用者に使用される眼鏡レンズについては、厚い被膜を形成することでスラブオフラインの視認性を高めることができ、スラブオフラインが外観上視認されないことを好む装用者に使用される眼鏡レンズについては、薄い被膜を形成することでスラブオフラインの視認性を低下させることができる。こうして本発明によれば、スラブオフ加工によりプリズム作用が調整され良好な装用感を有するとともに、装用者の好みに応じた外観(スラブオフラインの視認性)を有する眼鏡レンズを提供することができる。
以下、本発明の眼鏡レンズの製造方法について、更に詳細に説明する。
これに対し本発明の眼鏡レンズの製造方法では、プリズム作用調整のため切除すべき領域を未被覆とし、残りの領域を被膜により被覆した状態でスラブオフ加工を施す。ここで形成する被膜の厚さにより段差量を制御することができるため、スラブオフラインが明確に視認されることを好む装用者に使用される眼鏡レンズについては、厚い被膜を形成することでスラブオフラインの視認性を高めることができ、スラブオフラインが外観上視認されないことを好む装用者に使用される眼鏡レンズについては、薄い被膜を形成することでスラブオフラインの視認性を低下させることができる。こうして本発明によれば、スラブオフ加工によりプリズム作用が調整され良好な装用感を有するとともに、装用者の好みに応じた外観(スラブオフラインの視認性)を有する眼鏡レンズを提供することができる。
以下、本発明の眼鏡レンズの製造方法について、更に詳細に説明する。
本発明においてスラブオフ加工が施される眼鏡レンズは、両面光学面であるフィニッシュドレンズであっても、一方の面が光学面であり他方の面が非光学面であって受注を受けた後にユーザーのニーズに応じて所望の光学特性を有する光学面が創成されるセミフィニッシュドレンズであってもよい。また、スラブオフ加工が施される表面の形状は、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。前記した累進屈折力レンズとは、遠用部および近用部を有し、かつ遠用部から近用部にかけて屈折力が累進的に変化する累進面を有するレンズである。累進屈折力レンズには、凸面に累進面を配置した凸面(外面)累進屈折力レンズ、凹面に累進面を配置した凹面(内面)累進屈折力レンズがある。凸面累進屈折力レンズは、凸面に累進面を有し、凸面の光学面表面形状により累進屈折力を形成している。凹面屈折力レンズも凹凸の違いを除けば同様である。従来のスラブオフ加工では、球面レンズに対応する面形状を有するダミーレンズを作製することは容易であるが、上記累進屈折力レンズのように累進要素を含む自由曲面を有する複雑な面形状に対応するダミーレンズを作製することは困難である。また、仮に作製できたとしてもレンズ処方に応じた様々な面形状に対応するダミーレンズをそれぞれ用意する必要があり、これがスラブオフ加工レンズの価格増の原因となっていた。
これに対し本発明では、ダミーレンズによらずスラブオフ加工を行う。後述するように被膜は光硬化型樹脂やマスキングテープ等により形成することができるため、複雑な面形状の表面に対応させることは容易である。したがって本発明によれば累進要素を含む自由曲面に対してスラブオフ加工を容易に行うことができる。また、バイフォーカルレンズの中でプラスチック製のバイフォーカルレンズは凸面側(物体側)に小玉を突出させることで近用部と遠用部を持たせているため、凸面側の面形状に対応するダミーレンズを作製することは難しく、したがって従来は凹面側にスラブオフ加工せざるを得なかった。これに対し本発明によれば、突出部を有する凸面に対して被膜を形成することでスラブオフ加工を容易に行うことができる。このように、様々な面形状のレンズ表面に対してスラブオフ加工を行いプリズム作用を調整できる点も、本発明の利点の1つである。スラブオフ加工を施す眼鏡レンズの素材は、特に限定されるものではなく、プラスチック、無機ガラス等の通常眼鏡レンズの素材として使用される各種材料を挙げることができる。
これに対し本発明では、ダミーレンズによらずスラブオフ加工を行う。後述するように被膜は光硬化型樹脂やマスキングテープ等により形成することができるため、複雑な面形状の表面に対応させることは容易である。したがって本発明によれば累進要素を含む自由曲面に対してスラブオフ加工を容易に行うことができる。また、バイフォーカルレンズの中でプラスチック製のバイフォーカルレンズは凸面側(物体側)に小玉を突出させることで近用部と遠用部を持たせているため、凸面側の面形状に対応するダミーレンズを作製することは難しく、したがって従来は凹面側にスラブオフ加工せざるを得なかった。これに対し本発明によれば、突出部を有する凸面に対して被膜を形成することでスラブオフ加工を容易に行うことができる。このように、様々な面形状のレンズ表面に対してスラブオフ加工を行いプリズム作用を調整できる点も、本発明の利点の1つである。スラブオフ加工を施す眼鏡レンズの素材は、特に限定されるものではなく、プラスチック、無機ガラス等の通常眼鏡レンズの素材として使用される各種材料を挙げることができる。
図1左図は、物体側が凸面、眼球側が凹面の累進屈折力レンズ(フィニッシュドレンズ)の断面図であり、光学中心の下方に近用部が配置されている。図1右図は上記凹面の平面図である。この凹面において、近用部より上の領域(実線より上の領域)を機械加工により所定量切除することで遠方視の縦方向のプリズム差を低減することができる。この場合、図1右図の斜線部が未切除領域とすべき領域となるため、本発明では当該領域を被膜により被覆する。被膜は、無機材料や金属材料を蒸着、スパッタ等の公知の成膜法によって堆積させることにより形成してもよく、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法等の公知の塗布法によって被膜形成用塗布液を塗布することにより形成してもよい。例えば、未被覆とすべき領域をマスキングテープで保護した状態でレンズ全面に被膜形成処理を施し、該処理後にマスキングテープを除去することで、所望領域に被膜を形成することができる。被膜形成の容易性の観点からは、塗布法を用いることが好ましい。塗布液としては、熱硬化性成分または光硬化性成分を含む組成物(硬化性組成物)を用いることができ、塗布後に所定の硬化処理(加熱または光照射)を行うことでレンズ表面の所望の位置に硬化被膜を形成することができる。短時間での硬化処理が可能である点で、紫外線硬化性組成物等の光硬化性組成物を用いることが好ましい。このような硬化性組成物は、公知の方法で調製可能であり、また一般に眼鏡レンズのハードコート用塗料として市販されているものを何ら制限なく用いることができる。または、マスキングテープを被膜として用いることも可能である。マスキングテープとしては、支持体フィルムの一方または両方の面に接着層または粘着層を有する市販の保護テープ等を使用することができる。
前述の通り、上記被膜の厚さが厚いほど、切除領域と未切除領域(被覆領域)との段差量が多くなりスラブオフラインの視認性が高まる。これは被膜が厚くなるほど被膜表面と未被覆領域との高低差がつき、この高低差が切除加工に使用する加工治具(例えば切削治具)が未被覆領域と被覆領域の境界部分をなだらかに切除することの妨げとなるからと考えられる。その結果、未被覆領域と被覆領域との境界に大きな段差が形成され、スラブオフラインが明確に視認されるようになる。したがって、スラブオフ加工によりプリズム作用の調整がなされた領域をスラブオフラインによって容易に判別することを嗜好する装用者用の眼鏡レンズに対しては、厚い被膜を形成してスラブオフ加工を行えばよい。他方、外観を重視するためスラブオフラインが目視により視認されることを好まない装用者のための眼鏡レンズについては、薄い被膜を形成し段差量を低減することでスラブオフラインの視認性を低下させればよい。このように本発明では、装用者の嗜好、即ちプリズム作用調整のために切除する領域と未切除領域との境界線(スラブオフライン)の所望の視認性に応じて、未切除領域に形成する被膜の厚さを決定する。なお、後述するようにスラブオフラインの視認性はスラブオフ加工後の表面形状と相関する。したがって、眼鏡の受注を受けた後に所望の視認性を示すスラブオフラインを有するスラブオフ加工済レンズを迅速に供給するために、スラブオフ加工後の表面形状と被膜の膜厚、およびスラブオフラインの視認性の対応関係に関するデータベースを作成しておき、このデータベースに基づき未切除領域に形成する被膜の厚さを決定することも好ましい対応である。被膜の厚さは、成膜条件や塗布条件によって制御することができる。また、上記のマスキングテープを用いる態様では、総厚が所望の厚さとなるよう必要に応じて複数枚のマスキングテープを積層してもよい。
上記被膜を形成した後に未被覆領域を切除するための機械加工は、通常のスラブオフ加工と同様に、研削加工、切削加工等により行うことができる。ここで機械加工に使用する治具は、被膜に接触してもかまわない。被膜によって保護されているため、被膜下の領域は未切除領域となる。一般的なスラブオフ加工では、カーブジェネレーターにより被切除領域を球面研削または研削する。その後、機械加工面を鏡面研磨することで、プリズム作用の調整がなされた光学面を有する眼鏡レンズを得ることができる。研磨加工はスラブオフ加工が施された切除領域の機械加工による粗さを解消するための工程であるため、少なくとも切除領域に対して行われる。ただし、研磨治具は切除領域以外の部分に接触してもかまわない。上記研磨加工は、被膜をつけた状態で行ってもよく、被膜を除去した後に行ってもよい。また、被膜またはダミーレンズをつけた状態での研磨を行った後、被膜またはダミーレンズを除去して表面全体に研磨を行うことも可能である。被膜の除去は、溶剤による拭き取り等の公知の方法で行うことができる。また、マスキングテープを被膜として用いた場合には、レンズ上からテープを剥離すればよい。その後、セミフィニッシュドレンズについては、スラブオフ加工後に他方の面(非光学面)を光学面に創成するための加工を行うことで、両面が光学面に仕上げられた眼鏡レンズを得ることができる。この場合の被膜の除去は、上記光学面の創成前に行ってもよく、創成後に行ってもよい。
以上説明した本発明によれば、所望の外観(スラブオフラインの視認性)に応じた膜厚の被膜を形成することで、プリズム作用の調整がなされ優れた装用感を有するとともに、装用者の嗜好に応じた外観を有する眼鏡レンズを提供することができる。
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
[実施例1]
物体側が凸面、眼球側が凹面の累進屈折力レンズ(フィニッシュドレンズ)の凹面に以下の手順でスラブオフ加工を施した。
上記凹面の光学中心から3mm下方の領域の全面に、図1右図に示すように市販の保護テープ(厚さ10μm)を粘着層を介して貼り付けた後、3次元NC制御を行うカーブジェネレータによって切削加工を施した。これにより保護テープによって被覆されていない遠用部側の領域が球面切削された。保護テープを貼り付けた状態で切削加工に引き続き鏡面研磨加工を行った後、保護テープを剥離した。これにより遠方視の縦方向のプリズム差が低減された眼鏡レンズが得られた。
物体側が凸面、眼球側が凹面の累進屈折力レンズ(フィニッシュドレンズ)の凹面に以下の手順でスラブオフ加工を施した。
上記凹面の光学中心から3mm下方の領域の全面に、図1右図に示すように市販の保護テープ(厚さ10μm)を粘着層を介して貼り付けた後、3次元NC制御を行うカーブジェネレータによって切削加工を施した。これにより保護テープによって被覆されていない遠用部側の領域が球面切削された。保護テープを貼り付けた状態で切削加工に引き続き鏡面研磨加工を行った後、保護テープを剥離した。これにより遠方視の縦方向のプリズム差が低減された眼鏡レンズが得られた。
[実施例2]
2枚の保護テープを積層して総厚20μmの被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行った。
2枚の保護テープを積層して総厚20μmの被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行った。
[実施例3]
3枚の保護テープを積層して総厚30μmの被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行った。
3枚の保護テープを積層して総厚30μmの被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行った。
実施例1〜3で得られた眼鏡レンズをそれぞれ蛍光灯下で装用したところ、実施例1の眼鏡レンズでは、装用時に他者からスラブオフラインの存在が確認できないほどスラブオフラインの視認性はきわめて低かった。これに対して実施例2で得られた眼鏡レンズでは、装用時に他者がスラブオフラインの存在を確認することはできなかったが、装用者にはスラブオフラインの存在が確認される程度までスラブオフラインの視認性が高まった。実施例3で得られた眼鏡レンズについては、装用者、他者ともにスラブオフラインの存在が確認された。
[実施例4]
上記実施例1の結果から、厚さ10μmの被膜を形成することできわめて視認性の低いスラブオフラインが形成されることが確認された。そこで、スラブオフラインが視認されないことを嗜好する装用者用に、以下の方法で被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行いスラブオフ加工済眼鏡レンズを得た。
眼鏡レンズの凹面の光学中心から3mm下方の領域を除く領域に、実施例1で使用した保護テープを貼り付けた後、上記凹面全面にスピンコート法により硬化後の厚さが10μm程度となる塗布量で市販のアクリル系UV硬化型樹脂を塗布した後、UV硬化処理を施し硬化膜を形成した。その後、マスキングテープを該テープ上に形成された硬化膜とともに除去した。これにより、光学中心から3mm下方の領域を厚さ約10μmの硬化膜により被覆することができた。
上記実施例1の結果から、厚さ10μmの被膜を形成することできわめて視認性の低いスラブオフラインが形成されることが確認された。そこで、スラブオフラインが視認されないことを嗜好する装用者用に、以下の方法で被膜を形成した点を除き実施例1と同様の操作を行いスラブオフ加工済眼鏡レンズを得た。
眼鏡レンズの凹面の光学中心から3mm下方の領域を除く領域に、実施例1で使用した保護テープを貼り付けた後、上記凹面全面にスピンコート法により硬化後の厚さが10μm程度となる塗布量で市販のアクリル系UV硬化型樹脂を塗布した後、UV硬化処理を施し硬化膜を形成した。その後、マスキングテープを該テープ上に形成された硬化膜とともに除去した。これにより、光学中心から3mm下方の領域を厚さ約10μmの硬化膜により被覆することができた。
実施例4で得られた眼鏡レンズを実施例1と同様に蛍光灯下で装用したところ、実施例1と同様にスラブオフラインの視認性は極めて低かった。
以上の結果から、スラブオフ加工時に未切除領域上に形成する被膜の膜厚により、スラブオフラインの視認性を制御できることが示された。
実施例1〜3の眼鏡レンズについて、スラブオフ加工を施した凹面全面の表面形状を触針式(プローブを用いる非接触式)の表面形状計測機(パナソニック社製商品名UA−3P)を使用して計測した。なお、ここでは上記表面形状計測機を使用したが、原子間力顕微鏡等の手法を用いて表面形状を計測することもできる。実施例1、2については、得られた計測データに基づいてスラブオフ加工を施した面を一次微分可能な関数で近似することができたが、実施例3では曲線近似となり直線近似することはできなかった。
以上の結果から、スラブオフラインを含む領域が一次微分可能な表面形状を有する眼鏡レンズは、スラブオフラインが容易に視認されないレンズであることが示された。また、実施例1について得られた一次微分値(勾配)は0.4以下、実施例2について得られた一次微分値(勾配)は0.4超0.7未満であったことから、下記水準を、スラブオフラインの視認性の指標とすることも可能であることが確認された。例えば、下記水準と被膜の厚さとの相関関係をデータベース化することにより、所望の視認性でスラブオフラインが確認される(または確認されない)眼鏡レンズを迅速に供給することが可能となる。
[水準1]触針式(プローブを用いる非接触式)の表面形状計測機を使用して計測された表面形状測定値の一次微分値(勾配)が0.4以下:スラブオフラインが自身にも他者にも視認されない。
[水準2]上記形状測定値の一次微分値(勾配)が0.4超0.7未満:スラブオフラインが他者には視認されないが、自身はスラブオフラインの存在を確認可能。
[水準3]上記形状測定値の一次微分値(勾配)が0.7以上:水準2よりもスラブオフラインの視認性が高い。
[水準4]上記形状測定値が一次微分不可:スラブオフラインが自身にも他者にも容易に視認される。
以上の結果から、スラブオフラインを含む領域が一次微分可能な表面形状を有する眼鏡レンズは、スラブオフラインが容易に視認されないレンズであることが示された。また、実施例1について得られた一次微分値(勾配)は0.4以下、実施例2について得られた一次微分値(勾配)は0.4超0.7未満であったことから、下記水準を、スラブオフラインの視認性の指標とすることも可能であることが確認された。例えば、下記水準と被膜の厚さとの相関関係をデータベース化することにより、所望の視認性でスラブオフラインが確認される(または確認されない)眼鏡レンズを迅速に供給することが可能となる。
[水準1]触針式(プローブを用いる非接触式)の表面形状計測機を使用して計測された表面形状測定値の一次微分値(勾配)が0.4以下:スラブオフラインが自身にも他者にも視認されない。
[水準2]上記形状測定値の一次微分値(勾配)が0.4超0.7未満:スラブオフラインが他者には視認されないが、自身はスラブオフラインの存在を確認可能。
[水準3]上記形状測定値の一次微分値(勾配)が0.7以上:水準2よりもスラブオフラインの視認性が高い。
[水準4]上記形状測定値が一次微分不可:スラブオフラインが自身にも他者にも容易に視認される。
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。
Claims (3)
- 眼鏡レンズの少なくとも一方の表面の一部を機械加工により切除しプリズム作用を調整するスラブオフ加工を行うことを含み、
前記スラブオフ加工を、前記表面において、切除すべき領域を未被覆とし、未切除とすべき領域を被膜により被覆した状態で行い、かつ、
前記被膜として、切除領域と未切除領域との境界線の所望の視認性に基づき決定した厚さを有する被膜を形成すること、
を特徴とする眼鏡レンズの製造方法。 - 前記被膜を、未切除とすべき領域上に光硬化性組成物を塗布し、該組成物を光照射により硬化させることで形成する請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
- 前記被膜として、前記所望の視認性に基づき決定した枚数のマスキングテープを未切除とすべき領域上に積層する請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2011079404A JP2012215637A (ja) | 2011-03-31 | 2011-03-31 | 眼鏡レンズの製造方法 |
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